(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030380
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20240229BHJP
C22C 19/03 20060101ALN20240229BHJP
B22F 1/00 20220101ALN20240229BHJP
C22C 1/04 20230101ALN20240229BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C22C19/03 D
B22F1/00 M
C22C1/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133232
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 慶明
(72)【発明者】
【氏名】相川 芳和
【テーマコード(参考)】
4K018
4K029
【Fターム(参考)】
4K018AA07
4K018BA04
4K018BB04
4K018BD09
4K018EA11
4K018EA21
4K018EA31
4K018HA08
4K018KA29
4K018KA42
4K018KA63
4K029DC03
4K029DC04
4K029DC09
4K029DC39
(57)【要約】
【課題】その材質がNi又はNi合金であるにもかかわらず放電性に優れており、従ってその材質がNi又はNi合金である薄膜のためのスパッタリングが高効率でなされうる、ターゲット2の提供。
【解決手段】スパッタリングターゲット2の材質は、Ni又はNi合金である。このスパッタリングターゲット2は、複数のポア6が分散したポーラス組織を有する。このスパッタリングターゲット2の断面においてそれぞれのポア6の中に画かれうる最大円の直径は、100μm以下である。このスパッタリングターゲット2の相対密度は、90%以上98%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その材質がNi又はNi合金であるスパッタリングターゲットであって、
複数のポアが分散したポーラス組織を有しており、
上記スパッタリングターゲットの断面においてそれぞれのポアの中に画かれうる最大円の直径が100μm以下であり、
相対密度が90%以上98%以下である、スパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、その材質がNi又はNi合金である薄膜を形成するためのスパッタリングに用いられるターゲットを開示する。
【背景技術】
【0002】
集積回路、磁気ヘッド、磁気記録媒体等の薄膜の形成方法として、スパッタリングが知られている。特に近年は、マグネトロンスパッタリングが、広く行われている。マグネトロンスパッタリングでは、ターゲットの裏側に磁石が配置される。この磁石により、ターゲットの表面から磁界が漏れ出る。この磁界は、プラズマの高密度を達成する。マグネトロンスパッタリングは、効率に優れる。
【0003】
その材質がNi又はNi合金である薄膜が、必要とされている。この薄膜のために、その材質がNi又はNi合金であるターゲットが使用される。このターゲットが用いられたマグネトロンスパッタリングが、特開2016-216829公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Ni及びNi合金の磁性は強く、その透磁率は高い。Ni又はNi合金であるターゲットが用いられたマグネトロンスパッタリングでは、漏れ磁束が不十分となる傾向がある。このターゲットは、放電性に劣る。
【0006】
ターゲットの結晶粒径の制御によって、このターゲットの軟磁気特性が抑制されうる。ターゲットへの残留応力の付与によっても、このターゲットの軟磁気特性が抑制されうる。方向性のある塑性加工、熱処理等の手段により、結晶粒径の制御又は残留応力の付与がなされうる。しかし、これらの手段で得られたターゲットでも、その放電性には改善の余地がある。
【0007】
本出願人の意図するところは、その材質がNi又はNi合金であるにもかかわらず放電性に優れており、従ってその材質がNi又はNi合金である薄膜のためのスパッタリングが高効率でなされうる、ターゲットの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書が開示するスパッタリングターゲットの材質は、Ni又はNi合金である。このスパッタリングターゲットは、複数のポアが分散したポーラス組織を有する。このスパッタリングターゲットの断面においてそれぞれのポアの中に画かれうる最大円の直径は、100μm以下である。このスパッタリングターゲットの相対密度は、90%以上98%以下である。
【発明の効果】
【0009】
このスパッタリングターゲットは、放電性に優れる。このターゲットが使用されたマグネトロンスパッタリングでは、その材質がNi又はNi合金である薄膜が、高効率で製造されうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るスパッタリングターゲットの一部が模式的に示された拡大断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のスパッタリングターゲットの一部がさらに拡大されて示された断面図である。
【
図3】
図3は、
図1のスパッタリングターゲットの一部がさらに拡大されて示された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態が詳細に説明される。
【0012】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットの材質は、Ni又はNi合金である。材質がNiである場合、スパッタリングターゲットが不可避的不純物を含んでもよい。材質がNi合金である場合、このNi合金におけるNiの含有率は50質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましい。Ni合金に含まれる元素として、B、Al、Si、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ta及びWが例示される。以下、Ni及びNi合金を、「Ni系金属」と総称する。
【0013】
このスパッタリングターゲットは、いわゆる粉末冶金によって製造されうる。このスパッタリングターゲットの製造方法では、その材質がNi系金属である粉末が用いられる。この粉末は、多数の粒子からなる。この粉末が、高温下で加圧される。この加圧により、粒子が他の粒子と焼結されて、スパッタリングターゲットが得られる。
【0014】
図1に、このスパッタリングターゲット2の断面が、模式的に示されている。このターゲット2は、マトリックス4中に多数のポア6が分散した組織を有している。換言すれば、このターゲット2は、ポーラス組織を有している。マトリックス4は、粉末に含まれる粒子に由来する。ポア6は、粉末において粒子に囲まれた空間に由来する。
【0015】
ポア6は、真空でありうる。粉末焼結時に発生するガスが充填されたポア6も、存在しうる。いずれも場合も、ポア6自体に磁性はない。このポア6が強磁性体であるNi合金マトリックス4中に微細に分散することにより、磁区が細かく分断されうる。さらにポア6は、Ni合金の結晶粒成長を阻害しうる。このポア6は、ターゲット2の軟磁気特性を抑制する。このポア6を含むターゲット2が使用されたマグネトロンスパッタリングでは、ターゲット2の表面から十分に磁界が漏れ出る。この磁界は、高密度なプラズマを達成する。このマグネトロンスパッタリングは、効率に優れる。
【0016】
ポア6を有するターゲット2の相対密度は、100%未満である。十分なポア6が存在し、従って放電性に優れるとの観点から、ターゲット2の相対密度は98%以下が好ましく、97%以下がより好ましく、96%以下が特に好ましい。相対密度が過小であるターゲット2は、強度に劣る。相対密度が過小であるターゲット2はさらに、スパッタリングのときにアーキング、スプラッツ等の不良を誘発し、薄膜の品質を阻害する。ターゲット2の強度及び薄膜の品質の観点から、この相対密度は90%以上が好ましい。
【0017】
相対密度は、スパッタリングターゲット2の各成分の密度から算出される理論密度に対する、スパッタリングターゲット2の真密度の比率である。真密度は、アルキメデス法によって測定される。
【0018】
図2に、スパッタリングターゲット2の一部が示されている。
図2には、マトリックス4と、1つのポア6aとが示されている。
図2において符号8aは、ポア6aの中に画かれうる最大円を表す。矢印Daは、この最大円8aの直径を表す。
【0019】
図3に、スパッタリングターゲット2の他の部分が示されている。
図3には、マトリックス4と、1つのポア6bとが示されている。
図3において符号8bは、ポア6bの中に画かれうる最大円を表す。矢印Dbは、この最大円8bの直径を表す。
【0020】
ターゲット2から、無作為に断面が選択される。この断面から、無作為に、1辺の長さが0.6mmであって正方形である5つのゾーンが選択される。これらのゾーンが顕微鏡で観察されて、これらのゾーンに含まれる全てのポア6の中から、最大円8の直径Dが最大であるポア6(すなわち最大ポア)が決定される。この最大ポアの直径Dが、本明細書では、最大サイズDmaxと称される。
【0021】
この最大サイズDmaxが100μm以下であることが、好ましい。換言すれば、それぞれのポア6の中に画かれうる最大円8の直径Dが100μm以下であることが、好ましい。最大サイズDmaxが100μm以下であるターゲット2が使用されたスパッタリングでは、アーキング、スプラッツ等の不良が生じにくい。このスパッタリングにより、高品質な薄膜が製造されうる。
【0022】
薄膜の品質の観点から、最大サイズDmaxは50μm以下がより好ましい。換言すれば、それぞれのポア6の中に画かれうる最大円8の直径Dが50μm以下であることが、より好ましい。薄膜の品質の観点から、最大サイズDmaxは30μm以下が特に好ましい。換言すれば、それぞれのポア6の中に画かれうる最大円8の直径Dが30μm以下であることが、特に好ましい。
【0023】
ターゲット2の放電性の観点から、最大サイズDmaxは5μm以上が好ましい。換言すれば、ターゲット2が、最大円8の直径Dが5μm以上である、少なくとも1つのポア6を有することが、好ましい。
【0024】
前述の通り、ターゲット2の材料として、その材質がNi系金属である粉末が用いられる。この粉末は、好ましくは、アトマイズ法によって得られる。ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心アトマイズ法等が、採用される。好ましいアトマイズは、ガスアトマイズ法及びディスクアトマイズ法である。アトマイズによって得られた粉末に、メカニカルミリング等が施されてもよい。粉末が、粉砕法等によって得られてもよい。
【0025】
粉末の平均粒子直径D50は、10μm以上120μm以下が好ましい。平均粒子直径D50が10μm以上である粉末から、放電性に優れたターゲット2が得られうる。この観点から、平均粒子直径D50は15μm以上がより好ましく、20μm以上が特に好ましい。平均粒子直径D50が120μm以下である粉末から、スパッタリング時にアーキング、スプラッツ等の不良が生じにくいターゲット2が得られうる。この観点から、平均粒子直径D50は110μm以下がより好ましく、100μm以下が特に好ましい。平均粒子径D50の大きさは、粉末の焼結性に影響を及ぼし、一般にD50が小さいほど焼結性が高くなるため、相対密度が上がり、ポアの最大円の直径は小さくなる。
【0026】
平均粒子直径D50は、粉末の体積の累積カーブにおいて、累積体積が50%であるときの粒子直径である。平均粒子直径D50は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置によって測定される。
【0027】
前述の通り粉末は、焼結に供される。焼結により、焼結体が得られる。焼結法として、熱間静水圧プレス(HIP)、通電加圧焼結及び熱間押出が例示される。好ましい焼結法は、熱間静水圧プレスである。焼結温度は、450℃以上900℃以下が好ましい。温度が450℃以上である焼結により、スパッタリング時にアーキング、スプラッツ等の不良が生じにくいターゲット2が得られる。この観点から、焼結温度は480℃以上がより好ましく、500℃以上が特に好ましい。温度が900℃以下である焼結により、適度にポア6をふくみ、従って放電性に優れたターゲット2が得られうる。この観点から、焼結温度は850℃以下がより好ましく、800℃以下が特に好ましい。焼結における好ましい圧力は、50MPa以上300MPa以下である。
【0028】
この焼結体がスライス、裁断等されて、ターゲット2が完成する。塑性加工、熱処理等を経て、ターゲット2が得られてもよい。
【0029】
本明細書は、スパッタリングターゲット2の製造方法にも向けられる。この製造方法は、
(1)その材質がNi系金属であり、平均粒子直径D50が10μm以上120μm以下である粉末を準備する工程
及び
(2)上記粉末に、450℃以上900℃以下の温度下で、焼結を施す工程
を含む。
【実施例0030】
以下、実施例に係るスパッタリングターゲットの効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本明細書で開示された範囲が限定的に解釈されるべきではない。
【0031】
[実施例1]
ガスアトマイズ法により、その材質がNiである粉末を得た。この粉末の平均粒子直径D50は、50μmであった。この粉末を、直径が200mmであり、長さが10mmであり、材質が炭素鋼である缶に充填した。この粉末に真空脱気を施したのち、HIPにてビレットを作成した。HIPの条件は、以下の通りである。
焼結温度:600℃
圧力:150MPa
保持時間:5時間
このビレットをスライスし、実施例1のスパッタリングターゲットを得た。
【0032】
[実施例2-7及び比較例1-3]
材質及び焼結温度を下記の表1に示された通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2-7及び比較例1-3のスパッタリングターゲットを得た。
【0033】
[PTFの測定]
ターゲットの裏側に磁石を配置し、ターゲットの表側に検出器を配置して、漏れ磁場の強さ(Pass Through Flux、PTF)を測定した。この強さの、ターゲットがない場合の検出値に対する比率を、算出した。この結果が、下記の表1に示されている。
【0034】
[パーティクルの確認]
各ターゲットを用いてマグネトロンスパッタリングを行った。スパッタリング時にパーティクルが発生したか否かを、目視で観察した。この結果が、下記の表1に示されている。
【0035】
【0036】
表1から明らかな通り、各実施例のスパッタリングターゲットの漏れ磁場は、大きい。しかも、このターゲットを用いたパーティクルでは、高品質な薄膜が得られている。この評価結果から、このスパッタリングターゲットの優位性は明らかである。