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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030402
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240229BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240229BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20240229BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240229BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D113:00
B62D119:00
B62D101:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133272
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】松田 哲
(72)【発明者】
【氏名】並河 勲
(72)【発明者】
【氏名】安樂 厚二
(72)【発明者】
【氏名】飯田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲治
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC05
3D232CC34
3D232DA03
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA63
3D232DA64
3D232DB03
3D232DB11
3D232DD06
3D232DD17
3D232EA01
3D232EC23
3D232EC29
3D232EC37
3D232GG01
(57)【要約】
【課題】転舵モータの出力を増加させるための処理が実行されていることを報知しつつ、運転者によるステアリングホイールの操舵を抑制することができる操舵制御装置を提供する。
【解決手段】操舵制御装置は、ステアリングホイールの操舵状態に応じて、転舵モータに対するトルク指令値T を演算する転舵制御部36と、反力モータに対する操舵反力指令値を演算する反力制御部27とを備えている。転舵制御部36は、転舵力が不足しやすい状況であるとき、トルク指令値T をステアリングホイールの操舵状態に応じた本来の値よりも大きい値に増加させるためのブーストアップ処理を実行する。ブーストアップ処理が実行される期間、反力制御部27は、操舵反力指令値をステアリングホイールの操舵状態に応じた本来の値よりも大きい値に増加させるための処理を実行する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の転舵輪を転舵させる転舵シャフトであって、ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離されるように構成される転舵シャフトと、
前記ステアリングホイールに付与される操舵反力を発生する反力モータと、
前記転舵シャフトに付与されるトルクであって、前記転舵輪を転舵させるための転舵力を発生する転舵モータと、を備える操舵装置を制御対象とする操舵制御装置であって、
前記ステアリングホイールの操舵状態に応じて、前記転舵モータに対する第1の指令値と、前記反力モータに対する第2の指令値とを演算するように構成される制御部を備え、
前記制御部は、
前記転舵力が不足しやすい状況であるとき、前記第1の指令値を前記ステアリングホイールの操舵状態に応じた本来の値よりも大きい値に増加させるための第1の処理と、
前記第1の処理が実行される期間、前記第2の指令値を前記ステアリングホイールの操舵状態に応じた本来の値よりも大きい値に増加させるための第2の処理と、を実行するように構成される操舵制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、車速が極低速域であって、前記ステアリングホイールが操舵されているとき、前記転舵力が不足しやすい状況であると判定するように構成される請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第2の処理として、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じた本来の前記第2の指令値に対して、ゲインを乗算する、または加算値を加算するように構成される請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1の処理の実行時、前記ステアリングホイールの切り込み操舵が行われるときの前記第1の指令値の増加の度合いを、前記ステアリングホイールの切り戻し操舵が行われるときの前記第1の指令値の増加の度合いよりも大きくするように構成される請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1の処理として、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じた本来の前記第1の指令値に対して、ゲインを乗算する、または加算値を加算するように構成される請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1の処理として、前記第1の指令値の変化範囲を制限する制限値に対して、ゲインを乗算する、または加算値を加算することにより、前記第1の指令値の変化範囲を拡大するように構成される請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置が存在する。操舵装置は、ステアリングシャフトに付与される操舵反力の発生源である反力モータ、および転舵輪を転舵させる転舵力の発生源である転舵モータを有している。車両の走行時、操舵装置の制御装置は、反力モータに対する給電制御を通じて操舵反力を発生させるとともに、転舵モータに対する給電制御を通じて転舵輪を転舵させる。
【0003】
ステアバイワイヤ方式の操舵装置においては、路面の摩擦が大きいことなどに起因して、転舵シャフトに過大な軸力が発生することがある。転舵シャフトに発生する軸力の大きさによっては、転舵モータの出力である転舵力が不足するおそれがある。この場合、ステアリングホイールの操舵に対して、転舵輪を十分に転舵させることが困難となるため、運転者が違和感を覚えるおそれがある。
【0004】
そこで、たとえば特許文献1の制御装置は、転舵シャフトに過大な軸力が発生しやすい状況であるとき、転舵モータの出力を増加させる。具体的には、制御装置は、転舵モータに対する指令値を、ステアリングホイールの操舵状態に応じた本来の指令値よりも大きい値に増加させる。このため、転舵モータは、ステアリングホイールの操舵状態に応じて演算される指令値に応じた通常の転舵力よりも大きい転舵力を発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-49969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の制御装置によれば、たしかに転舵力が不足することなく転舵輪を円滑に転舵させることができる。しかし、たとえば、転舵モータの出力を増加させる状態が継続することにより、転舵モータ、あるいは転舵モータに電力を供給するインバータが過熱状態に至るおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し得る操舵制御装置は、車両の転舵輪を転舵させる転舵シャフトであって、ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離されるように構成される転舵シャフトと、前記ステアリングホイールに付与される操舵反力を発生する反力モータと、前記転舵シャフトに付与されるトルクであって、前記転舵輪を転舵させるための転舵力を発生する転舵モータと、を備える操舵装置を制御対象とする。操舵制御装置は、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じて、前記転舵モータに対する第1の指令値と、前記反力モータに対する第2の指令値とを演算するように構成される制御部を備えている。前記制御部は、前記転舵力が不足しやすい状況であるとき、前記第1の指令値を前記ステアリングホイールの操舵状態に応じた本来の値よりも大きい値に増加させるための第1の処理と、前記第1の処理が実行される期間、前記第2の指令値を前記ステアリングホイールの操舵状態に応じた本来の値よりも大きい値に増加させるための第2の処理と、を実行するように構成される。
【0008】
この構成によれば、転舵力が不足する状況に備えて、転舵力が不足しやすい状況下においては、転舵モータに対する第1の指令値をステアリングホイールの操舵状態に応じた本来の値よりも大きい値に増加させるための第1の処理が実行される。このため、第1の処理の実行を通じて、転舵モータは、ステアリングホイールの操舵状態に応じて演算される第1の指令値に応じた通常の転舵力よりも大きい転舵力を発生する。転舵力が不足する状況に備えて転舵モータが発生する転舵力を予め増大させておくことにより、たとえ転舵シャフトに大きな軸力が発生した場合であれ、転舵力が不足することなく転舵輪を円滑に転舵させることができる。
【0009】
また、第1の処理が実行される期間、反力モータに対する第3の指令値をステアリングホイールの操舵状態に応じた本来の値よりも大きい値に増加させるための第2の処理が実行される。このため、第2の処理の実行を通じて、反力モータはステアリングホイールの操舵状態に応じて演算される第2の指令値に応じた通常の操舵反力よりも大きい操舵反力を発生する。車両の運転者は、ステアリングホイールを介した手応えを感じることにより、第1の処理が実行される状況であること、すなわち転舵力が通常時よりも増加していることを認識することが可能となる。また、通常の操舵反力よりも大きい操舵反力がステアリングホイールに付与されるため、運転者によるステアリングホイールの積極的な操舵が抑制される。このため、転舵モータなどの過熱を抑制することができる。
【0010】
上記の操舵制御装置において、前記制御部は、車速が極低速域であって、前記ステアリングホイールが操舵されているとき、前記転舵力が不足しやすい状況であると判定するように構成されてもよい。
【0011】
車両が極低速域の速度で走行している状態で、ステアリングホイールが操舵されるとき、転舵シャフトに過大な軸力が発生しやすい。このため、制御部を、車速が極低速域の速度であって、ステアリングホイール11が操舵されているとき、転舵力が不足しやすい状況であると判定するように構成することにより、制御部は、適切なタイミングで第1の処理を実行することができる。
【0012】
上記の操舵制御装置において、前記制御部は、前記第2の処理として、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じた本来の前記第2の指令値に対して、ゲインを乗算する、または加算値を加算するように構成されてもよい。
【0013】
この構成によれば、ステアリングホイールの操舵状態に応じた本来の第2の指令値に対して、ゲインを乗算する、または加算値を加算することにより、第2の指令値をステアリングホイールの操舵状態に応じた本来の値よりも大きい値に増加させることができる。
【0014】
上記の操舵制御装置において、前記制御部は、前記第1の処理の実行時、前記ステアリングホイールの切り込み操舵が行われるときの前記第1の指令値の増加の度合いを、前記ステアリングホイールの切り戻し操舵が行われるときの前記第1の指令値の増加の度合いよりも大きくするように構成されてもよい。
【0015】
切り込み操舵が行われる場合に必要とされる転舵力は、切り戻し操舵か行われる場合に必要とされる転舵力よりも大きい。これは、たとえば、切り戻し操舵が行われる場合、セルフアライニングトルクが働くからである。このため、切り込み操舵が行われる場合は、切り戻し操舵が行われる場合よりも、転舵力が不足しやすいといえる。したがって、第1の処理の実行時、ステアリングホイールの切り込み操舵が行われるときの第1の指令値の増加の度合いを、ステアリングホイールの切り戻し操舵が行われるときの第1の指令値の増加の度合いよりも大きくすることが好ましい。
【0016】
上記の操舵制御装置において、前記制御部は、前記第1の処理として、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じた本来の前記第1の指令値に対して、ゲインを乗算する、または加算値を加算するように構成されてもよい。
【0017】
この構成によれば、ステアリングホイールの操舵状態に応じた本来の第1の指令値に対して、ゲインを乗算する、または加算値を加算することにより、第1の指令値をステアリングホイールの操舵状態に応じた本来の値よりも大きい値に増加させることができる。
【0018】
上記の操舵制御装置において、前記制御部は、前記第1の処理として、前記第1の指令値の変化範囲を制限する制限値に対して、ゲインを乗算する、または加算値を加算することにより、前記第1の指令値の変化範囲を拡大するように構成されてもよい。
【0019】
この構成によれば、転舵力が不足しやすい状況であるとき、第1の処理の実行を通じて、転舵モータに対する第1の指令値の変化範囲がその限界値である制限値を超えて拡大される。このため、たとえば過大な軸力の発生に起因して、本来の制限値を超える第1の指令値が演算される場合であれ、この第1の指令値は許容される。転舵モータは、本来の制限値を超える第1の指令値に応じた、より大きい転舵力を発生する。転舵力が不足する状況に備えて第1の指令値の変化範囲を予め拡大させておくことにより、たとえ転舵シャフトに大きな軸力が発生した場合であれ、転舵力が不足することなく転舵輪を円滑に転舵させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の操舵制御装置によれば、転舵モータの出力を増加させるための処理が実行されていることを報知しつつ、運転者によるステアリングホイールの操舵を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1の実施の形態にかかる操舵制御装置が搭載される操舵装置の構成図である。
図2】第1の実施の形態にかかる操舵制御装置のブロック図である。
図3】(a)は第1の実施の形態にかかる転舵制御部の一部分を示すブロック図、(b)は第2の実施の形態にかかる転舵制御部の一部分を示すブロック図である。
図4】(a)は第1の実施の形態にかかる転舵角の経時的変化の一例を示すタイミングチャート、(b)は転舵角速度の経時的変化の一例を示すタイミングチャート、(c)は車速の経時的変化の一例を示すタイミングチャート、(d)はブーストアップ状態の経時的変化の一例を示すタイミングチャートである。
図5】(a)は第3の実施の形態にかかる転舵制御部の一部分を示すブロック図、(b)は第4の実施の形態にかかる転舵制御部の一部分を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1の実施の形態>
以下、操舵制御装置を具体化した第1の実施の形態を説明する。操舵制御装置は、ステアバイワイヤ式の操舵装置に搭載される。
【0023】
<操舵装置10の構成>
まず、操舵装置10の構成について説明する。
図1に示すように、車両の操舵装置10は、車両のステアリングホイール11に操舵反力を付与する反力ユニット20、および車両の転舵輪12を転舵させる転舵ユニット30を有している。操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用するトルクをいう。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0024】
反力ユニット20は、ステアリングホイール11が連結されたステアリングシャフト21、反力モータ22、減速機構23、回転角センサ24、トルクセンサ25、および反力制御部27を有している。
【0025】
反力モータ22は、操舵反力の発生源である。反力モータ22としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。反力モータ22は、減速機構23を介して、ステアリングシャフト21に連結されている。反力モータ22が発生するトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト21に付与される。
【0026】
回転角センサ24は反力モータ22に設けられている。回転角センサ24は反力モータ22の回転角θを検出する。
トルクセンサ25は、ステアリングシャフト21における減速機構23とステアリングホイール11との間の部分に設けられている。トルクセンサ25は、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト21に加わる操舵トルクTを検出する。
【0027】
反力制御部27は、つぎの3つの構成C1,C2,C3のうちいずれか一を含む処理回路を有している。
C1.ソフトウェアであるコンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ。プロセッサは、CPU(central processing unit)およびメモリを含む。
【0028】
C2.各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)などの1つ以上の専用のハードウェア回路。ASICは、CPUおよびメモリを含む。
【0029】
C3.構成C1,C2を組み合わせたハードウェア回路。
メモリは、コンピュータ(ここではCPU)で読み取り可能とされた媒体であって、コンピュータに対する処理あるいは命令を記述したプログラムを記憶している。メモリは、RAM(random access memory)およびROM(read only memory)を含む。CPUは、メモリに記憶されたプログラムを定められた演算周期で実行することによって各種の制御を実行する。
【0030】
反力制御部27は、回転角センサ24を通じて検出される反力モータ22の回転角θに基づきステアリングシャフト21の回転角である操舵角θを演算する。反力制御部27は、モータ中点を基準とする回転数をカウントしている。モータ中点は、ステアリングホイール11の操舵中立位置に対応する反力モータ22の回転角θであって、舵角中点情報として反力制御部27に記憶されている。反力制御部27は、モータ中点を原点として回転角θを積算した角度である積算角を演算し、この演算される積算角に減速機構23の減速比に基づく換算係数を乗算することにより、ステアリングホイール11の操舵角θを演算する。
【0031】
反力制御部27は、反力モータ22の駆動制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵反力を発生させる反力制御を実行する。反力制御部27は、トルクセンサ25を通じて検出される操舵トルクTに基づき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力および操舵トルクTに基づきステアリングホイール11の目標操舵角を演算する。反力制御部27は、反力モータ22の回転角θに基づき演算される操舵角θと目標操舵角との差を求め、当該差を無くすように反力モータ22に対する給電を制御する。反力制御部27は、回転角センサ24を通じて検出される反力モータ22の回転角θを使用して反力モータ22をベクトル制御する。
【0032】
転舵ユニット30は、転舵シャフト31、転舵モータ32、減速機構33、ピニオンシャフト34、回転角センサ35、および転舵制御部36を有している。
転舵シャフト31は、車幅方向(図1中の左右方向)に沿って延びている。転舵シャフト31の両端には、それぞれタイロッド13,13を介して左右の転舵輪12が連結されている。
【0033】
転舵モータ32は転舵力の発生源である。転舵モータ32としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。転舵モータ32は、減速機構33を介してピニオンシャフト34に連結されている。ピニオンシャフト34のピニオン歯34aは、転舵シャフト31のラック歯31aに噛み合わされている。転舵モータ32が発生するトルクは、転舵力としてピニオンシャフト34を介して転舵シャフト31に付与される。転舵モータ32の回転に応じて、転舵シャフト31は車幅方向(図1中の左右方向)に沿って移動する。転舵シャフト31が移動することにより転舵輪12の転舵角θが変更される。
【0034】
回転角センサ35は転舵モータ32に設けられている。回転角センサ35は転舵モータ32の回転角θを検出する。
転舵制御部36は、反力制御部27と同様に、先の3つの構成C1,C2,C3のうちいずれか一を含む処理回路を有している。
【0035】
転舵制御部36は、転舵モータ32の駆動制御を通じて転舵輪12を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。転舵制御部36は、回転角センサ35を通じて検出される転舵モータ32の回転角θに基づきピニオンシャフト34の回転角であるピニオン角θを演算する。また、転舵制御部36は、反力制御部27により演算される目標操舵角を使用してピニオンシャフト34の目標回転角である目標ピニオン角を演算する。ただし、ピニオンシャフト34の目標回転角は、所定の舵角比を実現する観点に基づき演算される。転舵制御部36は、ピニオンシャフト34の目標ピニオン角と実際のピニオン角θとの差を求め、当該差を無くすように転舵モータ32に対する給電を制御する。転舵制御部36は、回転角センサ35を通じて検出される転舵モータ32の回転角θを使用して転舵モータ32をベクトル制御する。
【0036】
なお、反力制御部27および転舵制御部36は、操舵装置10を制御対象とする操舵制御装置を構成する。
<反力制御部27の構成>
つぎに、反力制御部27の構成について詳細に説明する。
【0037】
図2に示すように、反力制御部27は、操舵角演算部51、操舵反力指令値演算部52、および通電制御部53を有している。
操舵角演算部51は、回転角センサ24を通じて検出される反力モータ22の回転角θに基づきステアリングホイール11の操舵角θを演算する。
【0038】
操舵反力指令値演算部52は、操舵トルクTおよび車速Vに基づき操舵反力指令値Tを演算する。操舵反力指令値演算部52は、操舵トルクTの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値の操舵反力指令値Tを演算する。操舵反力指令値Tは、反力モータ22に対する第2の指令値に相当する。
【0039】
通電制御部53は、操舵反力指令値Tに応じた電力を反力モータ22へ供給する。具体的には、通電制御部53は、操舵反力指令値Tに基づき反力モータ22に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部53は、反力モータ22に対する給電経路に設けられた電流センサ54を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流Iの値を検出する。この電流Iの値は、反力モータ22に供給される実際の電流の値である。そして通電制御部53は、電流指令値と実際の電流Iの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ22に対する給電を制御する。これにより、反力モータ22は操舵反力指令値Tに応じたトルクを発生する。運転者に対して路面反力に応じた適度な手応え感を与えることが可能である。
【0040】
<転舵制御部36の構成>
つぎに、転舵制御部36の構成について詳細に説明する。
図2に示すように、転舵制御部36は、ピニオン角演算部61、目標ピニオン角演算部62、ピニオン角フィードバック制御部63、および通電制御部64を有している。
【0041】
ピニオン角演算部61は、回転角センサ35を通じて検出される転舵モータ32の回転角θに基づきピニオンシャフト34の実際の回転角であるピニオン角θを演算する。転舵モータ32とピニオンシャフト34とは減速機構33を介して連動する。このため、転舵モータ32の回転角θとピニオン角θとの間には相関関係がある。この相関関係を利用して転舵モータ32の回転角θからピニオン角θを求めることができる。また、ピニオンシャフト34は、転舵シャフト31に噛合されている。このため、ピニオン角θと転舵シャフト31の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θは、転舵輪12の転舵角θを反映する値である。
【0042】
目標ピニオン角演算部62は、操舵角演算部51により演算される操舵角θに基づき目標ピニオン角θ を演算する。本実施の形態において、目標ピニオン角演算部62は、目標ピニオン角θ を操舵角θと同じ値に設定する。すなわち、操舵角θと転舵角θとの比である舵角比は「1:1」である。
【0043】
ちなみに、目標ピニオン角演算部62は、目標ピニオン角θ を操舵角θと異なる値に設定するようにしてもよい。すなわち、目標ピニオン角演算部62は、たとえば車速Vなど、車両の走行状態に応じて操舵角θに対する転舵角θの比である舵角比を設定し、この設定される舵角比に応じて目標ピニオン角θ を演算する。目標ピニオン角演算部62は、車速Vが遅くなるほど操舵角θに対する転舵角θがより大きくなるように、また車速Vが速くなるほど操舵角θに対する転舵角θがより小さくなるように、目標ピニオン角θ を演算する。目標ピニオン角演算部62は、車両の走行状態に応じて設定される舵角比を実現するために、操舵角θに対する補正角度を演算し、この演算される補正角度を操舵角θに加算することにより舵角比に応じた目標ピニオン角θ を演算する。
【0044】
ピニオン角フィードバック制御部63は、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θ 、およびピニオン角演算部61により演算される実際のピニオン角θを取り込む。ピニオン角フィードバック制御部63は、実際のピニオン角θを目標ピニオン角θ に追従させるべくピニオン角θのフィードバック制御を通じて、転舵モータ32が発生するトルクに対するトルク指令値T を演算する。トルク指令値T は、転舵モータ32に対する第1の指令値に相当する。
【0045】
通電制御部64は、トルク指令値T に応じた電力を転舵モータ32へ供給する。具体的には、通電制御部64は、トルク指令値T に基づき転舵モータ32に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部64は、転舵モータ32に対する給電経路に設けられた電流センサ65を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流Iの値を検出する。この電流Iの値は、転舵モータ32に供給される実際の電流の値である。そして通電制御部64は、電流指令値と実際の電流Iの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ32に対する給電を制御する。これにより、転舵モータ32はトルク指令値T に応じた角度だけ回転する。
【0046】
ステアバイワイヤ方式の操舵装置10においては、運転者によってステアリングホイール11が操作された場合、転舵モータ32が発生する転舵力と転舵シャフト31に作用する軸力とが力の釣り合いを保ちながら転舵輪12が転舵する。ただし、たとえば路面の摩擦が大きい場合、転舵シャフト31に過大な軸力が発生することにより、転舵モータの出力である転舵力が不足するおそれがある。この場合、転舵輪12を円滑に転舵させることが困難となるおそれがある。
【0047】
そこで、本実施の形態では、転舵シャフト31に過大な軸力が発生した場合であれ、転舵輪12をより円滑に転舵させるために、転舵制御部36としてつぎの構成を採用している。
【0048】
<転舵制御部36の補足説明>
図3(a)に示すように、転舵制御部36は、先のピニオン角演算部61(図示略)、目標ピニオン角演算部62(図示略)、ピニオン角フィードバック制御部63および通電制御部64に加えて、判定部71および調停処理部72を有している。
【0049】
判定部71は、転舵輪12の転舵状態、および車両の走行状態に応じて、区分Fの値をセットする。区分Fは、車両の状態が、転舵シャフト31に過大な軸力が発生しやすい状態であるかどうか、すなわち転舵力が不足しやすい状態であるかどうかを示す情報である。判定部71は、第1の判定処理、第2の判定処理、第3の判定処理、および第4の判定処理を実行する。
【0050】
<DP1.第1の判定処理>
判定部71は、第1の判定処理として、つぎの2つの関係式(A1),(A2)の両方が成立するかどうかを判定する。
【0051】
A1.「θ>0」かつ「ω>ωwth
A2.0≦V≦Vth
ただし、「θ」は、転舵輪12の転舵角である。転舵角θは、たとえば、ピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θに基づき演算される。転舵角θの符号は、たとえば、転舵中立位置を基準として、転舵輪12が左に転舵している場合は正、転舵輪12が右に転舵している場合は負である。転舵中立位置は、車両の直進状態に対応する転舵輪12の位置である。「ω」は、転舵角速度である。転舵角速度ωは、たとえば、転舵角θを微分することにより得られる。「ωwth」は、転舵角速度しきい値である。転舵角速度しきい値ωwthは、たとえば、「0」の近傍値に設定される。「V」は、車速センサを通じて検出される車速である。「Vth」は、車速しきい値である。車速しきい値Vthは、極低速(たとえば5km/h)を基準として設定される。これは、車両が停止している状況、あるいは車両が極低速で走行している状況は、ステアリングホイール11の操作に伴い、より大きな軸力が発生しやすい状況といえるからである。
【0052】
判定部71は、関係式(A1)が成立するとき、操舵中立位置を基準として、ステアリングホイール11が左に切り込み操舵されていると判定する。切り込み操舵は、操舵中立位置を基準として、転舵輪12を転舵角θの絶対値が増加する方向へ転舵させようとするステアリングホイール11の操作である。操舵中立位置は、車両の直進状態に対応するステアリングホイール11の位置である。また、判定部71は、関係式(A2)が成立するとき、車両が停止した状態、あるいは車両が極低速で走行している状態であると判定する。判定部71は、2つの関係式(A1),(A2)の両方が成立するとき、区分Fの値を第2のブーストアップ状態Sb2にセットする。
【0053】
<DP2.第2の判定処理>
判定部71は、第2の判定処理として、つぎの2つの関係式(A3),(A4)の両方が成立するかどうかを判定する。
【0054】
A3.「θ<0」かつ「ω<-ωwth
A4.0≦V≦Vth
判定部71は、関係式(A3)が成立するとき、操舵中立位置を基準として、ステアリングホイール11が右に切り込み操舵されていると判定する。また、判定部71は、関係式(A4)が成立するとき、車両が停止した状態、あるいは車両が極低速で走行している状態であると判定する。判定部71は、2つの関係式(A3),(A4)の両方が成立するとき、区分Fの値を第2のブーストアップ状態Sb2にセットする。
【0055】
<DP3.第3の判定処理>
判定部71は、第3の判定処理として、つぎの2つの関係式(A5),(A6)の両方が成立するかどうかを判定する。
【0056】
A5.「θ>0」かつ「ω<ωwth
A6.0≦V≦Vth
判定部71は、関係式(A5)が成立するとき、ステアリングホイール11が左から右に切り戻し操舵されていると判定する。切り戻し操舵は、転舵輪12を操舵中立位置へ戻す方向へ転舵させようとするステアリングホイール11の操作である。また、判定部71は、関係式(A6)が成立するとき、車両が停止した状態、あるいは車両が極低速で走行している状態であると判定する。判定部71は、2つの関係式(A5),(A6)の両方が成立するとき、区分Fの値を第1のブーストアップ状態Sb1にセットする。
【0057】
<DP4.第4の判定処理>
判定部71は、第4の判定処理として、つぎの2つの関係式(A7),(A8)の両方が成立するかどうかを判定する。
【0058】
A7.「θ<0」かつ「ω>-ωwth
A8.0≦V≦Vth
判定部71は、関係式(A7)が成立するとき、ステアリングホイール11が右から左に切り戻し操舵されていると判定する。また、判定部71は、関係式(A8)が成立するとき、車両が停止した状態、あるいは車両が極低速で走行している状態であると判定する。判定部71は、2つの関係式(A7),(A8)の両方が成立するとき、区分Fの値を第1のブーストアップ状態Sb1にセットする。
【0059】
判定部71は、関係式(A1),(A2)、関係式(A3),(A4)、関係式(A5),(A6)、および関係式(A7),(A8)のいずれも成立しないとき、区分Fの値を非ブーストアップ状態Sb0にセットする。
【0060】
調停処理部72は、判定部71によりセットされる区分Fの値に応じて、ブーストアップ処理を実行する。ブーストアップ処理は、ピニオン角フィードバック制御部63により演算されるトルク指令値T を増加させるための処理であって、第1の処理に相当する。調停処理部72は、ブーストアップ処理として、たとえば、つぎの処理を実行する。
【0061】
すなわち、調停処理部72は、次式(1)で表されるように、ピニオン角フィードバック制御部63により演算されるトルク指令値T に対してゲインGenを乗算することにより最終的なトルク指令値T を演算する。
【0062】
(最終)=T ・Gen …(1)
ただし、ゲインGenの値は、転舵シャフト31に発生する軸力と、転舵モータ32が発生する転舵力との力の釣り合いを保つ観点に基づき設定される。ゲインGenの値は、たとえば、走行状況に基づくシミュレーションを通じて設定される。
【0063】
ゲインGenの値は、区分Fの値に応じて異なる。区分Fの値に応じたゲインGenの大小関係は、次式(2)の通りである。
en0<Gen1<Gen2 …(2)
ただし、「Gen0」は、区分Fの値が非ブーストアップ状態Sb0であるときに使用されるゲインGenの値であって、たとえば「1.0」に設定される。「Gen1」は、区分Fの値が第1のブーストアップ状態Sb1であるときに使用されるゲインGenの値であって、たとえば「1.1」に設定される。「Gen2」は、区分Fの値が第2のブーストアップ状態Sb2であるときに使用されるゲインGenの値であって、たとえば「1.2」に設定される。
【0064】
第2のブーストアップ状態Sb2用のゲインGen2が、第1のブーストアップ状態Sb1用のゲインGen1の値よりも大きい値に設定する理由は、たとえば、つぎの通りである。
【0065】
すなわち、切り込み操舵が行われる場合に必要とされる転舵力は、切り戻し操舵か行われる場合に必要とされる転舵力よりも大きい。これは、たとえば、切り戻し操舵が行われる場合、セルフアライニングトルクが働くからである。このため、切り込み操舵が行われる場合は、切り戻し操舵が行われる場合よりも、転舵力が不足しやすいといえる。したがって、第2のブーストアップ状態Sb2用のゲインGen2が、第1のブーストアップ状態Sb1用のゲインGen1の値よりも大きい値に設定される。
【0066】
区分Fの値が非ブーストアップ状態Sb0であるとき、ブーストアップ処理は実行されない。区分Fの値が非ブーストアップ状態Sb0であるとき、最終的なトルク指令値T は、ピニオン角フィードバック制御部63により演算されるトルク指令値T と同じ値になる。すなわち、ピニオン角フィードバック制御部63により演算されるトルク指令値T が最終的なトルク指令値T として使用される。通電制御部64は、最終的なトルク指令値T に応じた電力を転舵モータ32へ供給する。
【0067】
区分Fの値が第1のブーストアップ状態Sb1および第2のブーストアップ状態Sb2であるとき、ブーストアップ処理が実行される。区分Fの値が第1のブーストアップ状態Sb1および第2のブーストアップ状態Sb2であるとき、最終的なトルク指令値T は、ピニオン角フィードバック制御部63により演算されるトルク指令値T よりも大きい値になる。このため、転舵モータ32へ供給される電流量は、ピニオン角フィードバック制御部63により演算されるトルク指令値T に応じた通常の電流量よりも多くなる。したがって、転舵モータ32へ供給される電流量が多くなる分だけ、転舵モータ32が発生する転舵力も増加する。
【0068】
ちなみに、調停処理部72は、次式(3)で表されるように、ピニオン角フィードバック制御部63により演算されるトルク指令値T に加算値Tseを加算することにより、最終的なトルク指令値T を演算するようにしてもよい。
【0069】
(最終)=T +Tse …(3)
ただし、加算値Tseは、転舵シャフト31に発生する軸力と、転舵モータ32が発生する転舵力との力の釣り合いを保つ観点に基づき設定される。加算値Tseは、たとえば、走行状況に基づくシミュレーションを通じて設定される。
【0070】
加算値Tseの値は、区分Fの値に応じて異なる。区分Fの値に応じた加算値Tseの大小関係は、次式(4)の通りである。
se0<Tse1<Tse2 …(4)
ただし、「Tse0」は、区分Fの値が非ブーストアップ状態Sb0であるときに使用される加算値Tseの値であって、たとえば「0」に設定される。「Tse1」は、区分Fの値が第1のブーストアップ状態Sb1であるときに使用される加算値Tseの値であって、「0」よりも大きい絶対値に設定される。「Tse2」は、区分Fの値が第2のブーストアップ状態Sb2であるときに使用される加算値Tseの値であって、「0」よりも大きい絶対値に設定される。
【0071】
このようにしても、転舵力が不足しやすい状況であるとき、すなわち、区分Fの値が第1のブーストアップ状態Sb1および第2のブーストアップ状態Sb2であるとき、ブーストアップ処理が実行される。このため、最終的なトルク指令値T は、ピニオン角フィードバック制御部63により演算されるトルク指令値T よりも大きい値になる。ひいては、転舵モータ32が発生する転舵力を、ピニオン角フィードバック制御部63により演算される通常のトルク指令値T に応じた転舵力よりも大きい力に増加させることができる。
【0072】
<区分Fの値の経時的変化>
つぎに、ステアリングホイール11の操舵状態、および車両の走行状態に応じた、区分Fの値の経時的変化の一例について説明する。
【0073】
図4(a)のグラフに示すように、たとえば、ステアリングホイール11が操舵中立位置を基準として左へ操舵されるとき、転舵角θは正の値となる。転舵中立位置に対応する転舵角θの値は、たとえば「0」である。ステアリングホイール11の操作量の増加に伴い、転舵角θは正の方向に増加し、やがて転舵輪12の物理的な可動範囲の限界位置である正の最大転舵角θweに達する(時刻t1)。このとき、図4(b)に示すように、転舵角速度ωは、正の値であって、たとえば正の転舵角速度しきい値ωwthよりも正の方向に大きな値となる。図4(c)のグラフに示すように、この状態において、車速Vの値が「0」であるとき、先の2つの関係式(A1),(A2)の両方が成立する。したがって、図4(d)に示すように、区分Fの値は、第2のブーストアップ状態Sb2にセットされる。
【0074】
図4(a),(b)のグラフに示すように、転舵角θが正の最大転舵角θweに維持されている期間、転舵角速度ωの値は「0」である。図4(c)のグラフに示すように、この状態において、車速Vの値が「0」であるとき、先の関係式(A1),(A2)、関係式(A3),(A4)、関係式(A5),(A6)、および関係式(A7),(A8)のいずれも成立しない。したがって、図4(d)に示すように、区分Fの値は、非ブーストアップ状態Sb0にセットされる。
【0075】
図4(a)のグラフに示すように、転舵角θが正の最大転舵角θweに維持された状態において、ステアリングホイール11が右へ切り戻し操舵されるとき(時刻t2)、ステアリングホイール11の操舵に伴い、転舵角θは、転舵中立位置に対応する値である「0」へ向けて、徐々に減少し、やがて「0」に達する(時刻t3)。このとき、図4(b)に示すように、転舵角速度ωは、負の値であって、たとえば負の転舵角速度しきい値ωwthよりも負の方向に大きな値となる。すなわち、転舵角速度ωは、正の転舵角速度しきい値ωwthよりも小さい値となる。図4(c)のグラフに示すように、この状態において、車速Vの値が「0」であるとき、先の2つの関係式(A5),(A6)の両方が成立する。したがって、図4(d)に示すように、区分Fの値は、第1のブーストアップ状態Sb1にセットされる。
【0076】
図4(a)のグラフに示すように、ステアリングホイール11が操舵中立位置に達した後、続いてステアリングホイール11が右へ切り込み操舵されるとき、転舵角θは負の値となる。ステアリングホイール11の操作量の増加に伴い、転舵角θは負の方向に増加し、やがて転舵輪12の物理的な可動範囲の限界位置である負の最大転舵角-θweに達する(時刻t4)。このとき、図4(b)に示すように、転舵角速度ωは、負の値であって、負の転舵角速度しきい値ωwthよりも負の方向に大きな値となる。図4(c)のグラフに示すように、この状態において、車速Vの値が「0」であるとき、先の2つの関係式(A3),(A4)の両方が成立する。したがって、図4(d)に示すように、区分Fの値は、第2のブーストアップ状態Sb2にセットされる。
【0077】
図4(a),(b)のグラフに示すように、転舵角θが負の最大転舵角-θweに維持されている期間、転舵角速度ωの値は「0」である。図4(c)のグラフに示すように、この状態において、車速Vの値が「0」であるとき、先の関係式(A1),(A2)、関係式(A3),(A4)、関係式(A5),(A6)、および関係式(A7),(A8)のいずれも成立しない。したがって、図4(d)に示すように、区分Fの値は、非ブーストアップ状態Sb0にセットされる。
【0078】
図4(a)のグラフに示すように、転舵角θが負の最大転舵角-θweに維持された状態において、ステアリングホイール11が左へ切り戻し操舵されるとき(時刻t5)、ステアリングホイール11の操舵に伴い、転舵角θは、転舵中立位置に対応する値である「0」へ向けて、徐々に増加し、やがて「0」に達する(時刻t6)。この期間、図4(b)に示すように、転舵角速度ωは、正の値であって、たとえば負の転舵角速度しきい値-ωwthよりも正の方向に大きな値となる。図4(c)のグラフに示すように、この状態において、車速Vの値が「0」であるとき、先の2つの関係式(A7),(A8)の両方が成立する。したがって、図4(d)に示すように、区分Fの値は、第1のブーストアップ状態Sb1にセットされる。ちなみに、時刻t6のタイミングで車速Vが増加し始める。
【0079】
図4(a)のグラフに示すように、ステアリングホイール11が操舵中立位置に達した後、続いてステアリングホイール11が左へ切り込み操舵されるとき、転舵角θは正の値となる。ステアリングホイール11の操作量の増加に伴い、転舵角θは正の方向に増加し、やがて転舵輪12の物理的な可動範囲の限界位置である正の最大転舵角θweに達する(時刻t7)。この期間内においては、図4(b)に示すように、転舵角速度ωは、正の値であって、正の転舵角速度しきい値ωwthよりも正の方向に大きな値となる。図4(c)のグラフに示すように、たとえば車速Vの値が「0」から増加し始めてから車速しきい値Vthに達するまでの期間(時刻t8)、先の2つの関係式(A1),(A2)の両方が成立する。したがって、図4(d)に示すように、区分Fの値は、第2のブーストアップ状態Sb2にセットされる。また、車速Vの値が車速しきい値Vthを超えた以降、先の関係式(A1),(A2)、関係式(A3),(A4)、関係式(A5),(A6)、および関係式(A7),(A8)のいずれも成立しない。したがって、図4(d)に示すように、区分Fの値は、非ブーストアップ状態Sb0にセットされる。
【0080】
図4(a),(b)のグラフに示すように、転舵角θが正の最大転舵角θweに維持されている期間、転舵角速度ωの値は「0」である。このため、先の関係式(A1),(A2)、関係式(A3),(A4)、関係式(A5),(A6)、および関係式(A7),(A8)のいずれも成立しない。したがって、図4(d)に示すように、区分Fの値は、非ブーストアップ状態Sb0にセットされる。ちなみに、図4(c)のグラフに示すように、転舵角θが正の最大転舵角θweに維持されている期間において、車速Vの値は、たとえば、車速しきい値Vthを超える値から車速しきい値Vthを下回る値に変化している。
【0081】
図4(a)のグラフに示すように、転舵角θが正の最大転舵角θweに維持された状態において、ステアリングホイール11が右へ切り戻し操舵されるとき(時刻t9)、ステアリングホイール11の操舵に伴い、転舵角θは、転舵中立位置に対応する値である「0」へ向けて、徐々に減少し、やがて「0」に達する(時刻t10)。この期間内においては、図4(b)に示すように、転舵角速度ωは、負の値であって、負の転舵角速度しきい値ωwthよりも負の方向に大きな値となる。すなわち、転舵角速度ωは、正の転舵角速度しきい値ωwthよりも小さい値となる。このため、先の2つの関係式(A5),(A6)の両方が成立する。したがって、図4(d)に示すように、区分Fの値は、第1のブーストアップ状態Sb1にセットされる。ちなみに、図4(c)のグラフに示すように、転舵角θが正の最大転舵角θweから転舵中立位置に対応する値である「0」へ向けて減少する期間の途中において、車速Vの値は、車速しきい値Vth未満の値から車速しきい値Vthへ向けて増加している。車速Vの値は、転舵角θが「0」に達するタイミングで、車速しきい値Vthに達する。
【0082】
図4(a)のグラフに示すように、転舵角θが正の最大転舵角θweから減少して「0」に達した以降、ステアリングホイール11が右へ切り込み操舵されるとき(時刻t10)、ステアリングホイール11の操舵に伴い、転舵角θは負の方向に増加し、やがて転舵輪12の物理的な可動範囲の限界位置である負の最大転舵角-θweに達する(時刻t11)。このとき、図4(b)に示すように、転舵角速度ωは、負の値であって、たとえば負の転舵角速度しきい値ωwthよりも負の方向に大きな値となる。ただし、図4(c)のグラフに示すように、たとえば、車速Vの値が車速しきい値Vthを超えている。したがって、先の関係式(A3)は成立するものの、関係式(A4)は成立しない。したがって、図4(d)に示すように、区分Fの値は、非ブーストアップ状態Sb0にセットされる。
【0083】
図4(a),(b)のグラフに示すように、転舵角θが負の最大転舵角-θweに維持されている期間、転舵角速度ωの値は「0」である。また、図4(c)のグラフに示すように、車速Vの値が、たとえば、車速しきい値Vthを超えた状態に維持されている。このため、先の関係式(A1),(A2)、関係式(A3),(A4)、関係式(A5),(A6)、および関係式(A7),(A8)のいずれも成立しない。したがって、図4(d)に示すように、区分Fの値は、非ブーストアップ状態Sb0にセットされる。
【0084】
図4(a)のグラフに示すように、転舵角θが負の最大転舵角-θweに維持された状態において、ステアリングホイール11が左へ切り戻し操舵されるとき(時刻t12)、ステアリングホイール11の操舵に伴い、転舵角θは、転舵中立位置に対応する値である「0」へ向けて、徐々に増加し、やがて「0」に達する(時刻t13)。この期間、図4(b)に示すように、転舵角速度ωは、正の値であって、たとえば負の転舵角速度しきい値-ωwthよりも正の方向に大きな値となる。図4(c)のグラフに示すように、転舵角θが負の最大転舵角-θweから「0」へ変化するまでの期間において、車速Vは、たとえば、車速しきい値Vthを超える値から「0」へ向けて徐々に減少し、転舵角θが「0」に達するタイミングで「0」に至る。このため、車速Vが車速しきい値Vthを超えているとき、先の関係式(A7)は成立するものの、関係式(A8)は成立しない。したがって、図4(d)に示すように、区分Fの値は、非ブーストアップ状態Sb0にセットされる。車速Vが車速しきい値Vth以下の値に減少した以降(時刻t14)、先の関係式(A7),(A8)の両方が成立する。したがって、図4(d)に示すように、区分Fの値は、第1のブーストアップ状態Sb1にセットされる。
【0085】
以上のように、ステアリングホイール11の切り込み操舵が行われる場合であって、車速Vが「0」または車速しきい値Vth以下の値であるとき、区分Fの値は、第2のブーストアップ状態Sb2にセットされる。また、ステアリングホイール11の切り戻し操舵が行われる場合であって、車速Vが「0」または車速しきい値Vth以下の値であるとき、区分Fの値は、第1のブーストアップ状態Sb1にセットされる。また、ステアリングホイール11が保舵される場合、または、車速Vの値が車速しきい値Vthを超える場合、区分Fの値は、非ブーストアップ状態Sb0にセットされる。
【0086】
<運転者に対する報知処理>
ブーストアップ処理の実行を通じて、転舵モータ32の出力を増加させる状態が継続することにより、転舵モータ32、あるいは転舵モータ32に電力を供給するインバータが過熱状態に至るおそれがある。そこで、本実施の形態では、ブーストアップ処理が実行される期間、ブーストアップ処理が実行されていることを運転者に報知するための報知処理を実行する。報知処理は、第2の処理に相当する。具体的には、つぎの通りである。
【0087】
図3(a)に示すように、反力制御部27は、転舵制御部36の判定部71によりセットされる区分Fの値を取り込む。反力制御部27は、転舵制御部36によりブーストアップ処理が実行される状況であるとき、その旨を車両の運転者に報知するための処理である報知処理を実行する。反力制御部27は、区分Fの値が、第1のブーストアップ状態Sb1、または第2のブーストアップ状態Sb2であるとき、転舵制御部36によりブーストアップ処理が実行される状況であることを認識する。
【0088】
反力制御部27は、報知処理として、たとえば操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tを増加させるための処理を実行する。反力制御部27は、たとえば、転舵制御部36の調停処理部72と同様の処理の実行を通じて、操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tを増加させる。
【0089】
すなわち、反力制御部27は、次式(5)で表されるように、操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tに対してゲインGrfを乗算することにより、最終的な操舵反力指令値Tを演算する。
【0090】
(最終)=T・Grf …(5)
ただし、ゲインGrfの値は、ステアリングホイール11を介した手応え感を通じて、運転者にブーストアップ処理が実行される状況であることを報知する観点、および運転者によるステアリングホイール11の操舵を抑制する観点に基づき、「1」よりも大きい値に設定される。このため、最終的な操舵反力指令値Tは、操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tよりも大きい値になる。
【0091】
ちなみに、反力制御部27は、次式(6)で表されるように、操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tに加算値Trfを加算することにより、最終的な操舵反力指令値Tを演算するようにしてもよい。
【0092】
(最終)=T+Trf …(6)
ただし、加算値Tseは、ステアリングホイール11を介して手応え感を通じて、運転者にブーストアップ処理が実行される状況であることを体感的に報知する観点に基づき設定される。最終的な操舵反力指令値Tは、操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tよりも大きい値になる。
【0093】
したがって、ブーストアップ処理が実行される状況であるとき、最終的な操舵反力指令値Tは、操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tよりも大きい値になる。このため、反力モータ22が発生する操舵反力は、操舵反力指令値演算部52により演算される通常の操舵反力指令値Tに応じた操舵反力よりも大きい力に増加する。車両の運転者は、ステアリングホイール11を介した手応えを感じることにより、ブーストアップ処理が実行される状況であることを体感的に認識することが可能である。
【0094】
<第1の実施の形態の効果>
第1の実施の形態は、以下の効果を奏する。
(1-1)転舵力が不足しやすい状況であるとき、トルク指令値T が、ピニオン角フィードバック制御部63により演算される通常のトルク指令値T よりも大きい値に増加される。これにより、転舵モータ32は、ピニオン角フィードバック制御部63により演算される通常のトルク指令値T に応じた転舵力よりも大きい転舵力を発生する。このように、転舵力が不足する状況に備えて転舵モータ32が発生する転舵力を予め増加させておくことにより、たとえ転舵シャフトに実際に大きな軸力が発生した場合であれ、転舵力が不足することなく転舵輪12を円滑に転舵させることができる。
【0095】
(1-2)反力制御部27は、転舵制御部36によりセットされる区分Fの値に基づき、ブーストアップ処理の実行状況を認識する。反力制御部27は、ブーストアップ処理が実行される期間、操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tの値を増加させるための処理を実行する。このため、反力モータ22は、操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tに応じた通常の操舵反力よりも大きい操舵反力を発生する。車両の運転者は、ステアリングホイール11を介した手応えを感じることにより、ブーストアップ処理が実行されていること、すなわち転舵力が通常時よりも増加していることを認識することが可能となる。また、通常の操舵反力よりも大きい操舵反力がステアリングホイール11に付与されるため、運転者によるステアリングホイール11の積極的な操舵が抑制される。したがって、転舵モータ32の過熱、あるいは転舵モータ32に電力を供給するインバータの過熱を抑制することができる。
【0096】
(1-3)車両が極低速域の速度で走行している状態で、ステアリングホイール11が操舵されるとき、転舵シャフト31に過大な軸力が発生しやすい。このため、転舵制御部36を、車速が極低速域であって、ステアリングホイール11が操舵されているとき、転舵力が不足しやすい状況であると判定するように構成することにより、転舵制御部36は、適切なタイミングでブーストアップ処理を実行することができる。
【0097】
(1-4)反力制御部27は、ブーストアップ処理が実行される期間、操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tに対して、ゲインGenを乗算する、または加算値Tseを加算することにより、操舵反力指令値Tの値を簡単に増加させることができる。
【0098】
(1-5)切り込み操舵が行われる場合に必要とされる転舵力は、切り戻し操舵か行われる場合に必要とされる転舵力よりも大きい。すなわち、切り込み操舵が行われる場合は、切り戻し操舵が行われる場合よりも、転舵力が不足しやすいといえる。このため、転舵制御部36は、ブーストアップ処理の実行時、ステアリングホイール11の切り込み操舵が行われるときのトルク指令値T の増加の度合いを、ステアリングホイールの切り戻し操舵が行われるときのトルク指令値T の増加の度合いよりも大きくする。したがって、ステアリングホイール11の切り込み操舵が行われるときであれ、ステアリングホイール11の切り戻し操舵が行われるときであれ、転舵力が不足することなく転舵輪12を円滑に転舵させることができる。
【0099】
(1-6)転舵制御部36は、ブーストアップ処理として、ステアリングホイール11の操舵状態に応じた本来のトルク指令値T に対して、ゲインGrfを乗算する、または加算値Trfを加算することにより、トルク指令値T の値を簡単に増加させることができる。
【0100】
<第2の実施の形態>
つぎに、操舵装置を具体化した第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には、先の図1および図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、通電制御部64に先の調停処理部72と同様の処理機能を持たせている点で第1の実施の形態と異なる。本実施の形態では、転舵制御部36として先の調停処理部72を割愛した構成が採用されている。したがって、第1の実施の形態と同様の部材および構成については、第1の実施の形態と同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0101】
図3(b)に示すように、通電制御部64は、判定部71によってセットされる区分Fの値を取り込む。また、通電制御部64は、ピニオン角フィードバック制御部63により演算されるトルク指令値T を最終的なトルク指令値T として取り込む。
【0102】
通電制御部64は、次式(7)で表されるように、ピニオン角フィードバック制御部63により演算されるトルク指令値T に基づき演算される転舵モータ32に対する電流指令値IにゲインGenを乗算することにより、最終的な電流指令値Iを演算する。
【0103】
(最終)=I・Gen …(7)
ただし、ゲインGenの値は、区分Fの値に応じて異なる。区分Fの値に応じたゲインGenの大小関係は、第1の実施の形態における式(2)の通りである。
【0104】
このようにすれば、転舵力が不足しやすい状況であるとき、最終的な電流指令値Iをピニオン角フィードバック制御部63により演算される通常のトルク指令値T に応じた電流指令値Iよりも大きい値とすることができる。ひいては、転舵モータ32が発生する転舵力を、ピニオン角フィードバック制御部63により演算される通常のトルク指令値T に応じた転舵力よりも大きい力に増加させることができる。
【0105】
ちなみに、通電制御部64に調停処理部72と同様の処理機能を持たせる場合、通電制御部64は、次式(8)で表されるように、ピニオン角フィードバック制御部63により演算されるトルク指令値T に基づき演算される転舵モータ32に対する電流指令値Iに加算値Iseを加算することにより、最終的な電流指令値Iを演算するようにしてもよい。
【0106】
(最終)=I+Ise …(8)
ただし、加算値Iseは、転舵シャフト31に発生する軸力と、転舵モータ32が発生する転舵力との力の釣り合いを保つ観点に基づき設定される。加算値Iseは、たとえば、走行状況に基づくシミュレーションを通じて設定される。
【0107】
加算値Iseの値は、区分Fの値に応じて異なる。区分Fの値に応じた加算値Iseの大小関係は、次式(4)の通りである。
se0<Ise1<Ise2 …(9)
ただし、「Ise0」は、区分Fの値が非ブーストアップ状態Sb0であるときに使用される加算値Iseの値であって、たとえば「0」に設定される。「Ise1」は、区分Fの値が第1のブーストアップ状態Sb1であるときに使用される加算値Tseの値であって、「0」よりも大きい絶対値に設定される。「Ise2」は、区分Fの値が第2のブーストアップ状態Sb2であるときに使用される加算値Tseの値であって、「0」よりも大きい絶対値に設定される。
【0108】
このようにしても、転舵力が不足しやすい状況であるとき、最終的な電流指令値Iをピニオン角フィードバック制御部63により演算されるトルク指令値T に応じた電流指令値Iよりも大きい値とすることができる。ひいては、転舵モータ32が発生する転舵力を、ピニオン角フィードバック制御部63により演算される通常のトルク指令値T に応じた転舵力よりも大きい力に増加させることができる。
【0109】
反力制御部27は、報知処理として、たとえば操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tを増加させるための処理を実行する。反力制御部27は、第1の実施の形態と同様にして、操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tを増加させる。すなわち、反力制御部27は、先の式(5)で表されるように、操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tに対してゲインGrfを乗算することにより、最終的な操舵反力指令値Tを演算する。
【0110】
ちなみに、第1の実施の形態と同様に、反力制御部27は、報知処理として、先の式(6)で表されるように、操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tに加算値Trfを加算することにより、最終的な操舵反力指令値Tを演算するようにしてもよい。
【0111】
<第2の実施の形態の効果>
第2の実施の形態は、以下の効果を奏する。
(2-1)転舵力が不足しやすい状況であるとき、電流指令値Iがピニオン角フィードバック制御部63により演算されるトルク指令値T に応じた通常の電流指令値よりも大きい値に増加される。これにより、転舵モータ32は、ピニオン角フィードバック制御部63により演算される通常のトルク指令値T に応じた転舵力よりも大きい転舵力を発生する。このように、転舵力が不足する状況に備えて転舵モータ32が発生する転舵力を予め増加させておくことにより、実際に大きな軸力が発生した場合であれ、転舵力が不足することなく転舵輪12を円滑に転舵させることができる。
【0112】
(2-2)また、第1の実施の形態の(1-2)~(1-5)欄の効果と同様の効果を得ることができる。
<第3の実施の形態>
つぎに、操舵装置を具体化した第3の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1および図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。このため、第1の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0113】
操舵装置10において、据え切り時に転舵輪が縁石に突き当たる場合など、たとえば転舵輪12を切り増し側あるいは切り戻し側へ向けて転舵することが困難となる状況が想定される。このとき、転舵制御部36は、ステアリングホイール11の操舵角θに転舵輪12の転舵角を追従させようとする。このため、転舵モータ32に対して過大な電流が供給されるおそれがある。そこで、本実施の形態では、転舵制御部36として、つぎの構成を有している。
【0114】
図5(a)に示すように、転舵制御部36は、先のピニオン角演算部61(図示略)、目標ピニオン角演算部62(図示略)、ピニオン角フィードバック制御部63、通電制御部64、判定部71および調停処理部72に加えて、制限値設定部73を有している。
【0115】
制限値設定部73は、ピニオン角フィードバック制御部63により演算されるトルク指令値T の変化範囲を制限するための制限値Tを設定する。制限値Tは、トルク指令値T の変化が許容される許容範囲の限界値でもある。制限値Tは、何らかの原因で過大なトルク指令値T が演算される場合であれ、この過大なトルク指令値T に基づき過大な電流が転舵モータ32へ供給されること、ひいては転舵モータ32が過大なトルクを発生することを抑制する観点に基づき設定される。本実施の形態では、制限値Tは、転舵制御部36の記憶装置に格納された固定値として設定される。制限値Tは、たとえば転舵モータ32が発生することのできる最大のトルクに対応するトルク指令値T の最大値(100%)の80%程度の値に設定される。
【0116】
調停処理部72は、制限値設定部73により設定される制限値Tに基づき、ピニオン角フィードバック制御部63により演算されるトルク指令値T の変化範囲を制限する。トルク指令値T の絶対値が制限値Tを超えるとき、トルク指令値T は制限値Tに制限される。たとえば、トルク指令値T が正の値である場合、トルク指令値T の値が正の制限値Tを超えるとき、トルク指令値T は正の制限値Tに制限される。トルク指令値T が負の値である場合、トルク指令値T が負の制限値Tを超えるとき、トルク指令値T は負の制限値Tに制限される。したがって、許容範囲の限界値を超える過大なトルク指令値T に基づき転舵モータ32が過大なトルクを発生することが抑制される。
【0117】
調停処理部72は、転舵力が不足しやすい状況であるとき、たとえば過大な軸力が発生しやすい状況であるとき、制限値Tの絶対値を増加させる。
調停処理部72は、たとえば次式(10)で表されるように、制限値設定部73により設定される制限値TにゲインGenを乗算することにより、最終的な制限値Tを演算する。
【0118】
(最終)=T・Gen …(10)
ただし、ゲインGenの値は、区分Fの値に応じて異なる。区分Fの値に応じたゲインGenの大小関係は、第1の実施の形態における式(2)の通りである。
【0119】
このようにすれば、転舵力が不足しやすい状況であるとき、最終的な制限値Tを記憶装置に記憶された通常使用される制限値Tよりも大きい値とすることができる。すなわち、トルク指令値T の変化範囲がゲインGenの値に応じて拡大される。
【0120】
ちなみに、調停処理部72は、次式(11)で表されるように、制限値設定部73により設定される制限値Tに加算値Tseを加算することにより、最終的な制限値Tを演算するようにしてもよい。
【0121】
(最終)=T+Tse …(11)
ただし、加算値Tseの値は、区分Fの値に応じて異なる。区分Fの値に応じた加算値Tseの大小関係は、第1の実施の形態における式(4)の通りである。
【0122】
このようにしても、転舵力が不足しやすい状況であるとき、最終的な制限値Tを記憶装置に記憶された通常使用される制限値Tよりも大きい値とすることができる。すなわち、トルク指令値T の変化範囲が加算値Tseの分だけ拡大される。
【0123】
たとえば、操舵装置10に過大な軸力が発生した場合、据え切り時に転舵輪12が縁石に突き当たる場合などと同様に、転舵輪12を転舵することが困難となる。このとき、転舵制御部36は、ステアリングホイール11の操舵角θに転舵輪12の転舵角を追従させようとする。このため、転舵制御部36では、転舵モータ32に対してより大きい電流を供給すべく、記憶装置に記憶された制限値Tを超える、より大きい値のトルク指令値T が演算されるおそれがある。
【0124】
この点、本実施の形態では、過大な軸力が発生した場合、最終的に使用される制限値Tが記憶装置に記憶された制限値Tよりも大きい値に変更されることによって、トルク指令値T の変化範囲が拡大される。これにより、トルク指令値T は、記憶装置に記憶された制限値Tを超えることが可能となる。このため、トルク指令値T が記憶装置に記憶された制限値Tに制限される場合に比べて、転舵モータ32へ供給される電流量はより多くなる。したがって、転舵モータ32へ供給される電流量が多くなる分だけ、転舵モータ32が発生する転舵力は増加する。
【0125】
反力制御部27は、報知処理として、たとえば操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tを増加させるための処理を実行する。反力制御部27は、第1の実施の形態と同様にして、操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tを増加させる。すなわち、反力制御部27は、先の式(5)で表されるように、操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tに対してゲインGrfを乗算することにより、最終的な操舵反力指令値Tを演算する。
【0126】
ちなみに、第1の実施の形態と同様に、反力制御部27は、先の式(6)で表されるように、操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tに加算値Trfを加算することにより、最終的な操舵反力指令値Tを演算するようにしてもよい。
【0127】
<第3の実施の形態の効果>
第3の実施の形態は、以下の効果を奏する。
(3-1)転舵力が不足しやすい状況であるとき、ピニオン角フィードバック制御部63により演算されるトルク指令値T の変化範囲が、その限界値である制限値Tを超えて拡大される。このため、たとえば過大な軸力の発生に起因して、制限値設定部73により設定される制限値Tを超えるトルク指令値T が演算される場合であれ、このトルク指令値T は許容される。転舵モータ32は、制限値Tを超えるトルク指令値T に応じた、より大きい転舵力を発生する。このように、過大な軸力が発生する状況に備えてトルク指令値T の変化範囲を予め拡大させておくことにより、転舵シャフト31に実際に大きな軸力が発生した場合であれ、転舵力が不足することなく転舵輪12を円滑に転舵させることができる。
【0128】
(3-2)また、第1の実施の形態の(1-2)~(1-5)欄の効果と同様の効果を得ることができる。
<第4の実施の形態>
つぎに、操舵装置を具体化した第4の実施の形態を説明する。本実施の形態は、通電制御部64に先の調停処理部72と同様の処理機能を持たせている点で先の第3の実施の形態と異なる。本実施の形態では、転舵制御部36として先の調停処理部72を割愛した構成が採用されている。
【0129】
図5(b)に示すように、通電制御部64は、判定部71によってセットされる区分Fの値を取り込む。また、通電制御部64は、ピニオン角フィードバック制御部63により演算されるトルク指令値T を最終的なトルク指令値T として取り込む。
【0130】
制限値設定部73は、通電制御部64において演算される電流指令値Iの変化範囲を制限するための制限値Iを設定する。通電制御部64は制限値設定部73により設定される制限値Iを取り込む。
【0131】
通電制御部64は、転舵力が不足しやすい状況であるとき、たとえば過大な軸力が発生しやすい状況であるとき、制限値Iの絶対値を増加させる。
通電制御部64は、たとえば次式(11)で表されるように、制限値設定部73により設定される制限値TにゲインGenを乗算することにより、最終的な制限値Iを演算する。
【0132】
(最終)=I・Gen …(11)
ただし、ゲインGenの値は、区分Fの値に応じて異なる。区分Fの値に応じたゲインGenの大小関係は、第1の実施の形態における式(2)の通りである。
【0133】
このようにすれば、たとえば過大な軸力が発生しやすい状況であるとき、最終的な制限値Iを記憶装置に記憶された通常使用される制限値Iよりも大きい値とすることができる。すなわち、電流指令値Iの変化範囲がゲインGenの値に応じて拡大される。これにより、電流指令値Iは、記憶装置に記憶された制限値Iを超えることが可能となる。このため、電流指令値Iが記憶装置に記憶された制限値Iに制限される場合に比べて、転舵モータ32へ供給される電流量はより多くなる。したがって、転舵モータ32へ供給される電流量が多くなる分だけ、転舵モータ32が発生する転舵力は増加する。
【0134】
ちなみに、通電制御部64は、次式(12)で表されるように、制限値設定部73により設定される制限値Iに加算値Iseを加算することにより、最終的な制限値Iを演算するようにしてもよい。
【0135】
(最終)=I+Ise …(12)
ただし、加算値Iseの値は、区分Fの値に応じて異なる。区分Fの値に応じた加算値Iseの大小関係は、第1の実施の形態における式(9)の通りである。
【0136】
このようにしても、たとえば過大な軸力が発生しやすい状況であるとき、最終的な制限値Iを記憶装置に記憶された通常使用される制限値Iよりも大きい値とすることができる。すなわち、電流指令値Iの変化範囲が加算値Iseの分だけ拡大される。
【0137】
反力制御部27は、報知処理として、たとえば操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tを増加させるための処理を実行する。反力制御部27は、第1の実施の形態と同様にして、操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tを増加させる。すなわち、反力制御部27は、先の式(5)で表されるように、操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tに対してゲインGrfを乗算することにより、最終的な操舵反力指令値Tを演算する。
【0138】
なお、第1の実施の形態と同様に、反力制御部27は、先の式(6)で表されるように、操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tに加算値Trfを加算することにより、最終的な操舵反力指令値Tを演算するようにしてもよい。
【0139】
<第4の実施の形態の効果>
第4の実施の形態は、以下の効果を奏する。
(4-1)転舵力が不足しやすい状況、たとえば過大な軸力が発生しやすい状況であるとき、通電制御部64により演算される電流指令値Iの変化範囲が、その限界値である制限値Iを超えて拡大される。このため、たとえば過大な軸力の発生に起因して、制限値設定部73により設定される制限値Iを超える電流指令値I が演算される場合であれ、この電流指令値Iは許容される。転舵モータ32は、制限値Iを超える電流指令値Iに応じた、より大きい転舵力を発生する。このように、過大な軸力が発生する状況に備えて電流指令値Iの変化範囲を予め拡大させておくことにより、転舵シャフト31に実際に大きな軸力が発生した場合であれ、転舵力が不足することなく転舵輪12を円滑に転舵させることができる。
【0140】
(4-2)また、第1の実施の形態の(1-2)~(1-5)欄の効果と同様の効果を得ることができる。
<他の実施の形態>
なお、各実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
【0141】
・第1の実施の形態において、転舵制御部36は、ブーストアップ処理の実行時、ステアリングホイール11の切り込み操舵が行われるときのトルク指令値T の増加の度合いを、ステアリングホイールの切り戻し操舵が行われるときのトルク指令値T の増加の度合いと同程度にしてもよい。
【0142】
・各実施の形態において、反力制御部27は、第2の実施の形態の転舵制御部36と同様に、報知処理として、操舵反力指令値演算部52により演算される操舵反力指令値Tに基づき演算される転舵モータ32に対する電流指令値に対して、ゲインを乗算すること、または加算値を加算することにより最終的な電流指令値を演算するようにしてもよい。反力モータ22は、最終的な電流指令値に応じて反力モータ22に対する給電を制御する。これにより、ブーストアップ処理が実行される期間の操舵反力を、ブーストアップ処理が実行されない通常時の操舵反力よりも大きい力に増加させることができる。
【0143】
・各実施の形態において、反力制御部27は、ブーストアップ処理の実行時、ステアリングホイール11の切り込み操舵が行われるときの操舵反力指令値Tの増加の度合いを、ステアリングホイールの切り戻し操舵が行われるときの操舵反力指令値Tの増加の度合いよりも大きくするようにしてもよい。
【0144】
・各実施の形態において、反力制御部27が、ブーストアップ処理の実行要否を、独立して判定するようにしてもよい。
・各実施の形態において、反力制御部27は、ブーストアップ処理が実行される期間、ステアリングホイール11を振動させるように、反力モータ22が発生するトルクを制御してもよい。
【0145】
・各実施の形態において、反力制御部27と転舵制御部36とで単一の制御部を構成してもよい。
・各実施の形態では、車両の操舵装置10として、ステアリングシャフト21と転舵輪12との間の動力伝達が分離されたいわゆるリンクレス構造を採用した例を挙げたが、クラッチによりステアリングシャフト21と転舵輪12との間の動力伝達を分離可能とした構造を採用してもよい。クラッチが切断されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪12との間の動力伝達が切断される。クラッチが接続されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪12との間の動力伝達が連結される。
【符号の説明】
【0146】
10…操舵装置(制御対象)
11…ステアリングホイール
12…転舵輪
22…反力モータ
31…転舵シャフト
32…転舵モータ
27…操舵制御装置を構成する反力制御部(制御部)
36…操舵制御装置を構成する転舵制御部(制御部)
図1
図2
図3
図4
図5