(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030408
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】掘進機と滑材注入方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20240229BHJP
E21D 9/087 20060101ALI20240229BHJP
E21D 9/093 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
E21D9/06 301L
E21D9/087 F
E21D9/093 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133285
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】竹中 計行
(72)【発明者】
【氏名】磯部 将吾
(72)【発明者】
【氏名】田中 ひかり
(72)【発明者】
【氏名】安本 宣興
(72)【発明者】
【氏名】山田 紀之
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 功輔
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AC02
2D054BA07
2D054BB05
2D054FA12
2D054GA06
2D054GA08
2D054GA25
2D054GA32
2D054GA42
2D054GA44
2D054GA62
2D054GA63
2D054GA72
2D054GA87
(57)【要約】
【課題】掘進機の前方から後方に亘るオーバーカット領域の全域に滑材を行き渡らせることができ、掘進機を構成するカッタヘッドとスキンプレートの間の隙間を介して滑材が掘進機の内部のチャンバ内に引き込まれることを防止できる、掘進機と滑材注入方法を提供する。
【解決手段】スキンプレート20とカッタヘッド10とを有し、カッタヘッド10の前面には掘削ビット12が設けられ、前面の外周には外周掘削ビット14が設けられ、外周掘削ビット14によりカッタヘッド10とスキンプレート20の外周面11,21の外側にオーバーカット領域CAを形成する掘進機100であり、外周面11から外側へ延びて、スキンプレート20よりも外側へ張り出して滑材を注入する、第1注入管40の張り出し部41の端部にある第1注入口42が、カッタヘッド10とスキンプレート20の間の隙間70の外側に位置合わせされ、掘進方向後方に配向している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド工法もしくは推進工法において適用され、筒状のスキンプレートと、該スキンプレートの掘進方向前方に回転自在に設けられているカッタヘッドとを有し、該カッタヘッドの前面には掘削ビットが設けられ、該前面の外周には外周掘削ビットが設けられ、該外周掘削ビットにより該カッタヘッドと該スキンプレートの外周面の外側にオーバーカット領域を形成する、掘進機であって、
前記カッタヘッドの前記外周面から外側へ延びて、前記スキンプレートよりも外側へ張り出し、滑材を前記オーバーカット領域に注入する、第1注入管の張り出し部の端部にある第1注入口が、前記カッタヘッドと前記スキンプレートの間の隙間の外側に位置合わせされ、掘進方向後方に配向していることを特徴とする、掘進機。
【請求項2】
前記張り出し部が、該カッタヘッドの外周面に設けられている姿勢保持部材により保持されていることを特徴とする、請求項1に記載の掘進機。
【請求項3】
前記カッタヘッドの前記外周面には、コピーカッタが出入り自在に装着されており、
前記第1注入管の前記張り出し部は、前記コピーカッタよりも掘進方向後方に配設され、かつ、前記カッタヘッドの正面視において該外周掘削ビットよりも外側へ張り出していないことを特徴とする、請求項1又は2に記載の掘進機。
【請求項4】
滑材を前記オーバーカット領域に注入する複数の第2注入管の第2注入口が、前記スキンプレートに開設されている複数の開口にそれぞれ位置合わせされ、該スキンプレートの外周面から外側へ滑材が注入されるようになっていることを特徴とする、請求項2に記載の掘進機。
【請求項5】
前記スキンプレートの前記隙間に対向する外側の隅角部が面取りされ、前記姿勢保持部材の前記隙間に対向する隅角部が面取りされており、
双方の前記面取りが、前記カッタヘッドが撓んだ際に前記スキンプレートと前記姿勢保持部材が干渉するのを防止する干渉防止手段を形成していることを特徴とする、請求項4に記載の掘進機。
【請求項6】
前記カッタヘッドの背面にチャンバを備え、該チャンバには計測器に含まれる加速度計が装着され、
前記スキンプレートの内部に推進ジャッキを備え、該推進ジャッキには前記計測器に含まれる前記加速度計と油圧計とストローク計が装着され、該スキンプレートの内部には前記計測器に含まれる傾斜計がさらに装着されており、
前記掘進機には特定装置が搭載され、複数の前記計測器による計測データが該特定装置に取得され、該掘進機における振動発生位置と発生する振動の定量値が特定されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の掘進機。
【請求項7】
シールド工法もしくは推進工法に適用され、筒状のスキンプレートと、該スキンプレートの掘進方向前方に回転自在に設けられているカッタヘッドとを有し、該カッタヘッドの前面には掘削ビットが設けられ、該前面の外周には外周掘削ビットが設けられ、該外周掘削ビットにより該カッタヘッドと該スキンプレートの外周面の外側にオーバーカット領域を形成する、掘進機を用いて、該掘進機から前記オーバーカット領域に滑材を注入する、滑材注入方法であって、
前記カッタヘッドの前記外周面から第1注入管を外側へ張り出させ、該第1注入管の端部にある第1注入口を、前記カッタヘッドと前記スキンプレートの間の隙間の外側に位置合わせして、掘進方向後方に配向させておき、
前記カッタヘッドの回転の際の前記外周掘削ビットにより前記オーバーカット領域を形成しながら、前記第1注入口を介して該オーバーカット領域に滑材を注入することを特徴とする、滑材注入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘進機と滑材注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法や推進工法においては、掘進機を掘進させながら地山を切削し、掘進機の後方においてセグメントトンネルや推進トンネルが施工される。推進工法では、掘進機による掘進に加えて、後方から元押しジャッキや中押しジャッキによるジャッキ推力により複数の推進函が推進されることになる。
シールド工法と推進工法のいずれの工法でも、掘進機の掘進においては、掘進機の外周面と周辺地山との摩擦を低減するべく、掘進機の例えば円筒状のスキンプレートの掘進方向前方にあるカッタヘッドの前面に取り付けられている多数の掘削ビットとは別に、掘進機の前面の外周に、径方向外側へ張り出す外周掘削ビットが取り付けられている。
カッタヘッドの回転による外周掘削ビットの回転掘削により、カッタヘッドとスキンプレートの外周面の外側にオーバーカット領域が形成され、掘進機の内部からオーバーカット領域に対して滑材を注入することにより、掘進機の外周面と地山との摩擦の低減もしくは解消が図られている。
【0003】
ここで、特許文献1には、スキンプレートと掘削孔の内壁面との間におけるスキンプレートの全周に亘って滑材を注入する、掘削機が提案されている。具体的には、円筒状のスキンプレートと、スキンプレートの先端に回転自在に設けられているカッター装置とを有し、カッター装置により地山を掘進するシールド機において、カッター装置の外周部分におけるスキンプレートよりも外方側でかつ後方側に向いている部位に開口部が設けられ、開口部を介してスキンプレートと掘削孔の内壁面との間に後方に向けて滑材が注入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の掘削機(掘進機)によれば、カッター装置の外周部分におけるスキンプレートよりも外方側の後方側に向いた部位にある開口部を介して、スキンプレートと掘削孔の内壁面との間に後方に向けて滑材を注入することにより、スキンプレートと掘削孔の内壁面との間に生じる摩擦力を十分に低減できるとしている。
確かに、掘進機の前方にあるカッタヘッド(ここではカッタ装置)から滑材を注入することにより、例えば、従来の掘進機のようにスキンプレートの途中位置から滑材を注入する場合と比べて、掘進機の前方から後方に亘るオーバーカット領域の全域に滑材を行き渡らせることができて好ましい。
【0006】
しかしながら、カッター装置の外周部分に滑材を注入する開口部を設けた場合、スキンプレートと掘削孔の内壁面との間に注入された滑材は、カッター装置(カッタヘッド)とスキンプレートの間の隙間を介して掘進機の内部のチャンバ内に入り込んでしまう(引き込まれてしまう)恐れがある。
具体的には、取り込んだ土砂を回転しながら撹拌しているチャンバの内部は数気圧程度の高圧雰囲気となっており、スクリューコンベアに撹拌土を搬出する過程でチャンバ内の一部領域が負圧になり得ることから、掘進機の外側に注入された滑材は、カッタヘッドとスキンプレートの間の隙間を介して、チャンバ内の負圧領域に流れ込んでしまう可能性が高くなる。
【0007】
本発明は、掘進機の前方から後方に亘るオーバーカット領域の全域に滑材を行き渡らせることができ、かつ、掘進機を構成するカッタヘッドとスキンプレートの間の隙間を介して滑材が掘進機の内部のチャンバ内に引き込まれることを防止できる、掘進機と滑材注入方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明による掘進機の一態様は、
シールド工法もしくは推進工法において適用され、筒状のスキンプレートと、該スキンプレートの掘進方向前方に回転自在に設けられているカッタヘッドとを有し、該カッタヘッドの前面には掘削ビットが設けられ、該前面の外周には外周掘削ビットが設けられ、該外周掘削ビットにより該カッタヘッドと該スキンプレートの外周面の外側にオーバーカット領域を形成する、掘進機であって、
前記カッタヘッドの前記外周面から外側へ延びて、前記スキンプレートよりも外側へ張り出し、滑材を前記オーバーカット領域に注入する、第1注入管の張り出し部の端部にある第1注入口が、前記カッタヘッドと前記スキンプレートの間の隙間の外側に位置合わせされ、掘進方向後方に配向していることを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、カッタヘッドの外周面から外側へ延びてスキンプレートよりも外側へ張り出し、滑材をオーバーカット領域に注入する第1注入管の張り出し部の端部にある第1注入口が、カッタヘッドとスキンプレートの間の隙間の外側に位置合わせされ、かつ掘進方向後方に配向していることにより、掘進機の前方から後方に亘るオーバーカット領域の全域に滑材を行き渡らせることができ、かつ、掘進機を構成するカッタヘッドとスキンプレートの間の隙間を介して、滑材が掘進機の内部のチャンバ内に引き込まれることを防止できる。
第1注入管はカッタヘッドの内部から延びてカッタヘッドの外周面を介して外部へ張り出し、張り出している張り出し部は例えば斜め後方に延びて、その先端にある第1注入口がカッタヘッドとスキンプレートの間の隙間の外側に位置合わせされる。斜め後方に延びる張り出し部の端部にある第1注入口は、掘進方向後方で斜め外側に配向することになる。
【0010】
ここで、「カッタヘッドの外周面から外側へ延びて」とは、第1注入管が文字通りカッタヘッドの外周面から外側へ張り出す形態の他にも、カッタヘッドの外周面とチャンバに対向する背面との隅角部もしくは隅角部近傍の背面側から張り出す形態も含まれるものとする。
いずれの張り出し形態であっても、カッタヘッドとスキンプレートの間の隙間の外側に第1注入口が位置合わせされることにより、この位置にある第1注入口から例えば高圧にてオーバーカット領域に注入された滑材が、隙間を介してチャンバ内に引き込まれる恐れは無くなる。また、第1注入口が掘進機の前方にあるカッタヘッドの外周に位置していることにより、掘進機の前方位置から後方に造成済みのオーバーカット領域の全域に滑材を注入することができるため、掘進機と地山との間に生じ得る摩擦力を効果的に抑制もしくは解消することが可能になる。
尚、第1注入管は、カッタヘッドの外周面の1箇所に設けられていてもよいし、周方向の複数箇所に設けられてもよいが、第1注入管の閉塞可能性を勘案すると、カッタヘッドの外周面の複数箇所に設けられている形態が好ましい。
【0011】
また、本発明による掘進機の他の態様において、
前記張り出し部が、該カッタヘッドの外周面に設けられている姿勢保持部材により保持されていることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、カッタヘッドの外周面から外側へ張り出す第1注入管の張り出し部が姿勢保持部材にて保持されていることにより、第1注入管の張り出し姿勢を保持することができる。例えば、張り出し部の全域が姿勢保持部材によって包囲される形態では、軸状の第1注入管の張り出し部がその周囲を完全に防護されることから、張り出し部の姿勢変更や破損の可能性を低減できて好ましい。また、第1注入管の張り出し部を保持する姿勢保持部材の幅が、カッタヘッドとスキンプレートの間の隙間の幅を狭くすることに繋がり、このことによって注入された滑材のチャンバ内への引き込まれを効果的に防止することが可能になる。
【0013】
また、本発明による掘進機の他の態様において、
前記カッタヘッドの前記外周面には、コピーカッタが出入り自在に装着されており、
前記第1注入管の前記張り出し部は、前記コピーカッタよりも掘進方向後方に配設され、かつ、前記カッタヘッドの正面視において該外周掘削ビットよりも外側へ張り出していないことを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、カッタヘッドの外周面からコピーカッタが出入りする形態において、第1注入管の張り出し部がコピーカッタよりも掘進方向後方に配設されていることにより、張り出し部とコピーカッタの干渉を抑止できる。さらに、張り出し部がカッタヘッドの正面視において外周掘削ビットよりも外側へ張り出していないことにより、張り出し部の先端にある第1注入口をオーバーカット領域の内部に位置させることができる。コピーカッタは、例えば掘進機の方向制御の際に掘進機を移動させたい方向の地山を掘削し、オーバーカット領域よりも大きな余掘部を形成する際に適用される。尚、この余掘部に対しても滑材が注入されることになる。
【0015】
また、本発明による掘進機の他の態様において、
滑材を前記オーバーカット領域に注入する複数の第2注入管の第2注入口が、前記スキンプレートに開設されている複数の開口にそれぞれ位置合わせされ、該スキンプレートの外周面から外側へ滑材が注入されるようになっていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、複数の第2注入管の第2注入口を介して、スキンプレートの外周面からも滑材を注入することにより、カッタヘッドの回転に応じて回転する第1注入口から滑材を注入する回転注入形態と、非回転のスキンプレートにおける複数の固定位置にある複数の第2注入口(が通じる開口)から滑材を注入する固定注入形態の2種類の注入形態により、オーバーカット領域に対してより一層効率的かつ可及的速やかに滑材を注入することが可能になる。
【0017】
また、本発明による掘進機の他の態様において、
前記スキンプレートの前記隙間に対向する外側の隅角部が面取りされ、前記姿勢保持部材の前記隙間に対向する隅角部が面取りされており、
双方の前記面取りが、前記カッタヘッドが撓んだ際に前記スキンプレートと前記姿勢保持部材が干渉するのを防止する干渉防止手段を形成していることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、スキンプレートにおける隙間に対向する外側の隅角部が面取りされ、姿勢保持部材の隙間に対向する隅角部も同様に面取りされていて、双方の面取りが干渉防止手段を形成していることにより、仮にカッタヘッドの外周側が後方へ撓んだ場合でも、スキンプレートと姿勢保持部材との干渉を防止することができる。
【0019】
また、本発明による掘進機の他の態様は、
前記カッタヘッドの背面にチャンバを備え、該チャンバには計測器に含まれる加速度計が装着され、
前記スキンプレートの内部に推進ジャッキを備え、該推進ジャッキには前記計測器に含まれる前記加速度計と油圧計とストローク計が装着され、該スキンプレートの内部には前記計測器に含まれる傾斜計がさらに装着されており、
前記掘進機には特定装置が搭載され、複数の前記計測器による計測データが該特定装置に取得され、該掘進機における振動発生位置と発生する振動の定量値が特定されることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、掘進機の内部に特定装置が設置され、掘進機の内部の各所に設置されている複数の計測器による計測データが特定装置に取得され、特定装置にて掘進機における振動発生位置と発生する振動の定量値が特定されることにより、様々な振動の発生原因の特定や掘進機における振動発生位置の特定を高い精度で行うことができ、振動原因や振動発生位置に応じた対策を可及的速やかに実行することができる。
ここで、「掘進機に特定装置が搭載される」に関し、文字通り、掘進機に特定装置が搭載される形態の他に、例えば地上にある管理施設等に特定装置が設置され、掘進機の内部にある各種の計測器による計測データが特定装置に送信される、所謂特定システムもここに含まれるものとする。尚、「振動」には、掘進機が任意の周波数で揺れる文字通りの振動の他に、騒音(空気の振動によって発生)も含まれる。掘進機の振動が周辺の地盤に伝播され、地盤を介して地上等の周辺環境に影響を与える場合があり、同様に、掘進機から振動として地盤内に伝搬された騒音が、周辺環境に影響を与え得る。
【0021】
一例として、砂地盤等では、砂の粒子のかみ合わせが緩んで体積膨張することにより掘進機が締付けられる、所謂ジャーミングが生じ得る。このジャーミングが生じた際に、掘進機が摩擦力に抗して掘進しようとする過程で振動が発生し得る。
その他、硬質な礫地盤等では、カッタヘッドによる切削抵抗が大きくなり、カッタヘッドの回転時に振動が発生し得る。各種の計測器による計測データに基づき、特定装置が振動発生位置と振動の定量値を特定して振動原因を特定する。
ここで、「振動の定量値」とは、振動周波数や振動加速度等を含んでいる。
【0022】
特定装置により、トンネルの軸方向(X方向)とトンネルの軸方向に対して水平な軸直角方向(Y方向)、及び鉛直方向(Z方向)のうち、振動周波数とどの方向の振動が卓越しているかが特定された後に、その原因(摩擦切れ、切削振動等)がさらに特定され、原因に応じた対策がさらに自動的に提示されるようになっている。この構成により、高精度に特定された振動原因に応じて、最適な対策を可及的速やかに講じることが可能になる。対策の一例としては、例えば1つの第1注入口と複数の第2注入口の全てから滑材をオーバーカット領域に注入して、摩擦力の低減効果を最大限発揮しながら、さらに掘進機の速度を減速する等の複合的な対策を挙げることができる。
【0023】
また、本発明による滑材注入方法の一態様は、
シールド工法もしくは推進工法に適用され、筒状のスキンプレートと、該スキンプレートの掘進方向前方に回転自在に設けられているカッタヘッドとを有し、該カッタヘッドの前面には掘削ビットが設けられ、該前面の外周には外周掘削ビットが設けられ、該外周掘削ビットにより該カッタヘッドと該スキンプレートの外周面の外側にオーバーカット領域を形成する、掘進機を用いて、該掘進機から前記オーバーカット領域に滑材を注入する、滑材注入方法であって、
前記カッタヘッドの前記外周面から第1注入管を外側へ張り出させ、該第1注入管の端部にある第1注入口を、前記カッタヘッドと前記スキンプレートの間の隙間の外側に位置合わせして、掘進方向後方に配向させておき、
前記カッタヘッドの回転の際の前記外周掘削ビットにより前記オーバーカット領域を形成しながら、前記第1注入口を介して該オーバーカット領域に滑材を注入することを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、カッタヘッドの外周面から外側へ延びてスキンプレートよりも外側へ張り出し、滑材をオーバーカット領域に注入する第1注入管の張り出し部の端部にある第1注入口を、カッタヘッドとスキンプレートの間の隙間の外側に位置合わせし、かつ掘進方向後方(例えば、斜め後方)に配向させることにより、掘進機の前方から後方に亘るオーバーカット領域の全域に滑材を行き渡らせることができ、かつ、掘進機を構成するカッタヘッドとスキンプレートの間の隙間を介して、滑材が掘進機の内部のチャンバ内に引き込まれることを防止できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の掘進機と滑材注入方法によれば、掘進機の前方から後方に亘るオーバーカット領域の全域に滑材を行き渡らせることができ、かつ、掘進機を構成するカッタヘッドとスキンプレートの間の隙間を介して滑材が掘進機の内部のチャンバ内に引き込まれることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態に係る掘進機の一例の縦断面図である。
【
図2】
図1のII方向の矢視図であって、掘進機の正面図である。
【
図3】掘進機の内部における各計測器の設置位置を示す正面図である。
【
図7】特定装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図9】特定装置の表示画面の一例を示す図であって、各計測器の計測データの一例を示す図である。
【
図11】特定装置における表示画面の他の例を示す図であって、対策方法を示す図である。
【
図12】特定装置の記憶部に記憶されている、特定結果に応じた対策フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、実施形態に係る掘進機と滑材注入方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0028】
[実施形態に係る掘進機と滑材注入方法]
図1乃至
図12を参照して、実施形態に係る掘進機と滑材注入方法の一例について説明する。
ここで、
図1は、実施形態に係る実施形態に係る掘進機の一例の縦断面図である。また、
図2は、
図1のII方向の矢視図であって、掘進機の正面図であり、
図3は、掘進機の内部における各計測器の設置位置を示す正面図である。さらに、
図4は、
図1のIV部の拡大図であり、
図5は、
図1のV部の拡大図であり、
図6は、
図5のVI方向の矢視図である。ここで、図示例の掘進機100は、シールド工法に適用される掘進機を示しているが、実施形態に係る掘進機は推進工法に適用される掘進機であってもよい。
【0029】
掘進機100は、土圧式のシールド掘進機であり、筒状のスキンプレート20(鋼殻)と、スキンプレート20の掘進方向前方において回転自在に設けられているカッタヘッド10とを有する。
【0030】
カッタヘッド10は、その前面に多数の掘削ビット12を備えるとともに、前面の外周には複数の外周掘削ビット14を備えている。さらに、カッタヘッド10の外周面11の複数箇所には、コピーカッタ16が外周面11からX2方向に出入り自在に設けられている。
【0031】
外周掘削ビット14は、カッタヘッド10の外周面11やスキンプレート20の外周面21よりも地山G側へ所定長さだけ張り出している。油圧駆動モータ19によるカッタヘッド10のX1方向への回転の際に複数の外周掘削ビット14が回転することにより、カッタヘッド10の外周面11とスキンプレート20の外周面21の外側にオーバーカット領域CAを形成する。
【0032】
また、コピーカッタ16は、掘進機100の方向制御の際に掘進機100を移動させたい方向の地山Gを掘削し、オーバーカット領域CAよりも大きな余掘部(図示せず)を形成する際に適用される。
【0033】
カッタヘッド10のうち、後方にあるチャンバ25に対向する背面には、複数の撹拌翼18が設けられている。一方、スキンプレート20の前方には、カッタヘッド10の背面とともにチャンバ25を形成するバルクヘッド22が設けられている。バルクヘッド22のうち、前方にあるチャンバ25に対向する前面には、複数の固定翼23が設けられている。複数の固定翼23と、バルクヘッド22の回転によって移動する複数の撹拌翼18は、相互に干渉しない位置で、かつ、チャンバ25内に取り込まれた掘削土を効果的に撹拌できる位置に設けられている。
【0034】
スキンプレート20の掘進方向後方の周方向には、地山G内に設置される複数のセグメントSからなるセグメントリングとの間のテールボイドを閉塞して止水を図るべく、テールブラシ26が設けられている。
【0035】
また、スキンプレート20の内部には、その周方向に複数のシールドジャッキ28が設けられており、各シールドジャッキ28が後方へX3方向に摺動して、後方に設置されているセグメントS(セグメントリング)に反力を取ることにより、掘進機100が掘進方向前方へ掘進するようになっている。バルクヘッド22には、カッタヘッド10を介してチャンバ25に取り込まれた掘削土を、掘進方向後方へX4方向に搬送するスクリューコンベア29がさらに設けられている。
【0036】
図1、
図3及び
図4に示すように、掘進機100の内部の複数箇所には、種々の計測器60が設置されている。
図3は、掘進機100を正面から見た際に、各計測器60の設置位置を示しており、掘進機100の奥行き方向における各計測器60の位置関係は、
図1と
図4に示している。
【0037】
図1と
図3に示すように、バルクヘッド22の正面視における1時の方向、3時の方向、5時の方向、7時の方向、9時の方向、及び11時の方向には、複数の加速度計61が設置され、各方向に位置するシールドジャッキ28の位置には油圧計62とストローク計63がさらに設置されている。
【0038】
また、
図1と
図4に示すように、任意のシールドジャッキ28の近傍位置には、傾斜計64がさらに設置されている。
【0039】
掘進機100では、バルクヘッド22の周辺において奥行き方向の2断面以上に複数の計測器60を設置し、さらには、外周のシールドジャッキ28付近において周方向の4箇所以上の位置に複数の計測器60が設置される。このような複数の計測器60の設置態様により、掘進機100のどの位置でどの程度の大きさ(加速度)の振動が発生しているかを特定することが可能になる。尚、全ての計測器60は、100Hz以上(例えば、200Hz乃至500Hz)のサンプリング周波数で計測データを取得し、全チャンネルを時刻同期させてデータ取得する。
【0040】
加速度計61は、バルクヘッド22とシールドジャッキ28の近傍において、トンネルの軸方向(X方向)とトンネルの軸方向に対して水平な軸直角方向(Y方向)、及び鉛直方向(Z方向)に設置する。尚、トンネルの軸方向(X方向)のみに設置する設置態様であってもよい。
【0041】
スキンプレート20の内部には、架台に対して特定装置50が搭載されている。各計測器60により得られた計測データは、特定装置50に有線もしくは無線により送信されるようになっており、特定装置50は、取得した各計測データに基づいて、掘進機100における振動発生位置と発生する振動の定量値を特定する。この振動には、掘進機100の揺れの他に騒音も含まれる。特定装置50は、特定された振動発生位置と発生する振動の定量値に基づき、振動を抑制もしくは解消するための対策をさらに特定する。ここで、特定装置50による機能構成等に関しては以下で詳説する。
【0042】
このように、各所に設置されている計測器60は、特定装置50にて振動特定を実行するための計測データを取得する計器である。尚、シールドジャッキ28には、固有のストローク計や油圧計等が予め装備されているが、掘進機100では特定装置50にて振動特定するための専用の複数の計測器60を各所に設置する。
【0043】
図1のIV部を拡大した
図4に示すように、スキンプレート20には、その周方向に間隔を置いて複数の開口24が設けられており、各開口24に対応する位置には、第2注入管30の第2注入口32が位置合わせされている。掘進機100のスキンプレート20の内部から第2注入口32を介し、開口24を介してオーバーカット領域CAに滑材がY2方向に注入されるようになっている。第2注入管30には不図示の逆止弁が装備されており、その閉塞が防止されるようになっている。スキンプレート20の複数の開口24を介した滑材の注入は、非回転のスキンプレート20における複数の固定位置にある複数の第2注入口32が通じる開口24から滑材を注入する固定注入形態となる。
【0044】
一方、
図1のV部を拡大した
図5とそのVI方向矢視図である
図6に示すように、カッタヘッド10には、その内部から外周面11を経て地山G側(外側)へ延びて、スキンプレート20の外周面21よりも外側へ張り出す第1注入管40が設けられている。
【0045】
第1注入管40の張り出し部41の端部には第1注入口42があり、第1注入口42は、カッタヘッド10とスキンプレート20の間の隙間70の外側に位置合わせされている。また、張り出し部41が斜め後方に延びていることにより、その端部にある第1注入口42も斜め後方(掘進方向斜め後方)に配向している。ここで、第1注入口42は、掘進方向の後方に配向していてもよい。
【0046】
また、張り出し部41は、カッタヘッド10の外周面11から背面にかけて設けられている、姿勢保持部材45によって周囲を防護され、張り出し部41の斜め後方への姿勢を安定的に保持できるようになっている。また、張り出し部41を保持する姿勢保持部材45の幅の分だけ隙間70の幅が狭くなることから、注入された滑材のチャンバ25内への引き込まれを効果的に防止することできる。
【0047】
第1注入管40は、カッタヘッド10の回転に応じて回転しながら第1注入口42から滑材をオーバーカット領域CAに対して斜め後方へY1方向に注入する注入管であり、非回転の複数の第2注入口32による固定注入形態に対して、回転注入形態となる。
【0048】
すなわち、第2注入管30と異なり、1本の第1注入管40がカッタヘッド10の外周面11の一箇所に設置されている場合でも、カッタヘッド10の回転によって、第1注入管40は場所を随時変更しながら第1注入口42を介してオーバーカット領域CAの異なる領域に連続的に滑材を注入できる。そのため、第1注入管40は1本で十分であるが、第1注入管40の閉塞を勘案すると、複数の第1注入管40(予備の第1注入管)が設けられているのがよい。
【0049】
掘進機100によれば、複数の第2注入管30の第2注入口32を介して、スキンプレート20の外周面21から滑材を注入する固定注入形態と、カッタヘッド10の回転に応じて回転する第1注入管40の第1注入口42から滑材を注入する回転注入形態の2種類の注入形態により、オーバーカット領域CAに対して効率的かつ可及的速やかに滑材を注入することが可能になる。
【0050】
図5に示すように、張り出し部41を含む第1注入管40は、コピーカッタ16の後方に設置されることにより、カッタヘッド10の外周面11から出入りするコピーカッタ16と張り出し部41の干渉を防止できる。
【0051】
さらに、カッタヘッド10に装着されている外周掘削ビット14よりも、張り出し部41(の先端の第1注入口42)が地山G側へ張り出していないこと(
図5は縦断面視であるが、カッタヘッド10の正面から見た際の正面視において外側へ張り出していないこと)により、張り出し部41が地山Gと干渉して破損することを抑止できる。
【0052】
また、スキンプレート20のうち、隙間70に対向する外側の隅角部には面取り27が施されており、姿勢保持部材45の端部にも面取り46が施されており、これらの面取り27,46は、カッタヘッド10の端部が後方へY3方向に撓んだ際に姿勢保持部材45とスキンプレート20とが干渉するのを防止する、干渉防止手段を形成している。
【0053】
掘進機100の前方から後方に亘るオーバーカット領域の全域に滑材を行き渡らせるためには、スキンプレート20の途中位置にある第2注入口32から滑材をオーバーカット領域CAに注入するだけでなく、掘進方向前方にあるカッタヘッド10の外周面11等からも滑材を注入するのが望ましい。ここで、掘進機100のチャンバ25の内部は、取り込んだ掘削土を回転しながら撹拌している過程で数気圧程度の高圧雰囲気となっており、スクリューコンベア29を介して撹拌土を搬出する過程でチャンバ25内の一部領域が負圧になり得る。この負圧により、例えばカッタヘッド10の外周面11からオーバーカット領域CAに滑材を注入すると、注入された滑材は、その後方にあるカッタヘッド10とスキンプレート20の間の隙間70を介して、チャンバ25内の負圧領域に流れ込んでしまう恐れがある。
【0054】
この課題に対して、掘進機100では、滑材をオーバーカット領域CAに注入する第1注入管40の張り出し部41の端部にある第1注入口42が、カッタヘッド10とスキンプレート20の間の隙間70の外側に位置合わせされ、かつ掘進方向後方に配向していることにより、第1注入口42から例えば高圧にて注入された滑材を、掘進機100の前方から後方に亘るオーバーカット領域CAの全域に行き渡らせることができる。また、姿勢保持部材45の幅の分だけ隙間70の幅が狭くなることから、隙間70を介して滑材が掘進機100の内部のチャンバ25内に引き込まれることを防止できる。
【0055】
掘進機100の前方位置から後方に造成済みのオーバーカット領域CAの全域に滑材を注入することにより、掘進機100と地山Gとの間に生じ得る摩擦力を効果的に抑制もしくは解消することが可能になる。
【0056】
また、実施形態に係る滑材注入方法は、掘進機100を用いた滑材注入方法となる。具体的には、カッタヘッド10の外周面11から第1注入管40を外側へ張り出させ、第1注入管40の端部にある第1注入口42を、カッタヘッド10とスキンプレート20の間の隙間70の外側に位置合わせして、掘進方向後方に配向させておき、カッタヘッド10の回転の際の外周掘削ビット14によりオーバーカット領域CAを形成しながら、第1注入口42を介してオーバーカット領域CAに滑材を注入する。この際、スキンプレート20に設けられている開口24を介して第2注入管30の第2注入口32からもオーバーカット領域CAに滑材を注入する。
【0057】
実施形態に係る滑材注入方法によれば、掘進機100の前方から後方に亘るオーバーカット領域CAの全域に滑材を効率的に行き渡らせることができ、かつ、掘進機100を構成するカッタヘッド10とスキンプレート20の間の隙間70を介して、滑材が掘進機100の内部のチャンバ25内に引き込まれることを防止できる。
【0058】
次に、
図7乃至
図12を参照して、特定装置50による振動特定と対策特定に関して詳説する。ここで、
図7は、特定装置のハードウェア構成の一例を示す図であり、
図8は、特定装置の機能構成の一例を示す図である。
【0059】
図7に示すように、特定装置50は、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)等の情報処理装置(コンピュータ)により構成される。特定装置50を構成するコンピュータは、接続バス56により相互に接続されているCPU(Central Processing Unit)51、主記憶装置52、補助記憶装置53、通信IF54,及び入出力IF(interface)55を備えている。主記憶装置52と補助記憶装置53は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体である。尚、上記の構成要素はそれぞれ個別に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0060】
CPU51は、MPU(Microprocessor)やプロセッサとも呼ばれ、CPU51は、単一のプロセッサであってもよいし、マルチプロセッサであってもよい。CPU51は、コンピュータからなる特定装置50の全体の制御を行う中央演算処理装置である。CPU51は、例えば、補助記憶装置53に記憶されたプログラムを主記憶装置52の作業領域にて実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことにより、所定の目的に合致した機能を提供する。
【0061】
主記憶装置52は、CPU51が実行するコンピュータプログラムや、CPU51が処理するデータ等を記憶する。主記憶装置52は、例えば、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置53は、各種のプログラム及び各種のデータを読み書き自在に記録媒体に格納し、外部記憶装置とも呼ばれる。補助記憶装置53には、例えば、OS(Operating System)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。OSは、例えば、通信IF54を介して接続される外部装置等とのデータの受け渡しを行う通信インターフェースプログラムを含む。外部装置等には、例えば、各種の計測器60、掘進機100が内部に備えるジャイロ等の位置センサ(図示せず)の他、ネットワークに接続する管理棟にある施工管理用のパーソナルコンピュータ(図示せず)等が含まれる。
【0062】
補助記憶装置53は、例えば、主記憶装置52を補助する記憶領域として使用され、CPU51が実行するコンピュータプログラムや、CPU51が処理するデータ等を記憶する。補助記憶装置53は、不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM))を含むシリコンディスク、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)装置、ソリッドステートドライブ装置等である。また、補助記憶装置53として、CDドライブ装置、DVDドライブ装置、BDドライブ装置といった着脱可能な記録媒体の駆動装置が例示され、着脱可能な記録媒体として、CD、DVD、BD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等が例示される。
【0063】
入出力IF55は、特定装置50に接続する機器との間でデータの入出力を行うインターフェイスである。入出力IF55には、例えば、キーボード、タッチパネルやマウス等のポインティングデバイス、マイクロフォン等の入力デバイス等が接続する。特定装置50は、入出力IF55を介して、入力デバイスを操作する操作者からの操作指示等を受け付ける。
【0064】
また、入出力IF55には、例えば、液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELパネル(EL:Electroluminescence)等の表示デバイス、プリンタ、スピーカ等の出力デバイスが接続される。以下の
図9乃至
図12に示すような、計測データ画面や対策画面、対策フロー画面等が表示されるようになっている。
【0065】
通信IF54は、特定装置50が接続するネットワークとのインターフェイスである。通信IF54は、インターネット等の公衆ネットワーク、携帯電話網等の無線ネットワーク、VPN(Virtual Private Network)等の専用ネットワーク、LAN(Local Area Network)等、様々なネットワークを介して、各種の計測器60からの計測データを受信し、この計測データや、計測データに基づいて特定装置50にて特定された、掘進機100における振動発生位置と発生する振動の定量値、特定された対策等に関するデータを管理棟等におけるパーソナルコンピュータに送信する。尚、各計測器60と特定装置50は、有線にてデータ送受信可能に接続されていてもよい。
【0066】
図8に示すように、特定装置50は、CPU51によるプログラムの実行により、少なくとも、取得部102、振動特定部104、対策特定部106、表示部108、及び記憶部110の各種機能を提供する。ここで、上記処理機能の少なくとも一部が、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって提供されてもよく、同様に、上記処理機能の少なくとも一部が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ、画像処理プロセッサ等の専用LSI(large scale integration)やその他のデジタル回路等であってもよい。
【0067】
取得部102には、各種の計測器60により計測された、各位置における加速度(X方向、Y方向、Z方向の加速度)、シールドジャッキ28の油圧量とストローク量、掘進機100の傾斜量等に関する計測データが随時受信され、記憶部110に随時記憶(格納)される。尚、上記するように、全ての計測器60は時刻同期されている。
【0068】
振動特定部104では、各種の計測器60による計測データに基づいて、掘進機100における振動発生位置と、発生する振動の定量値(振動周波数や振動加速度等)を特定する。
【0069】
例えば、シールドジャッキ28のジャッキ推力の変化を計測するための油圧計62は、スキンプレート20の外周近傍において周方向に4断面以上設置し、ストローク計63も油圧計62の近傍に設置し、シールドジャッキ28の挙動を細かく計測することにより、どのシールドジャッキ28がどのような原因で振動を発生させているか、すなわち、振動発生位置と発生原因を特定する。例えば、摩擦切れの場合は、振動が発生すると同時にジャッキストロークが伸びて、油圧が下がる現象が見られる。
【0070】
また、掘進機100の全体の傾きの変化を計測するための傾斜計64は、掘進機100の1カ所以上に設置する。掘進機100の全体の挙動から、振動原因が掘進機100の姿勢によるものか否かが特定される。例えば、掘進機100の傾斜による振動の場合は、振動が発生すると同時に、傾斜計64が上下に動く現象が見られる。
【0071】
表示部108には、
図9乃至
図12に示すような様々な画面が表示される。ここで、
図9は、各計測器の計測データの一例を示す図であり、
図10は、計測データの一例の拡大図であり、
図11は、特定装置における表示画面の他の例を示す図であって、対策方法を示す図である。さらに、
図12は、記憶部110に記憶されている、特定結果に応じた対策フローの一例を示す図である。
【0072】
図9に示すように、表示部108に表示された計測データ画面では、全ての計測器60による計測データの経時変化が一画面上で視認できることが好ましい。
【0073】
図10に示すように、加速度計61による計測データに関しては、どの位置で、どの方向の振動加速度が卓越しているかが分かるように表示し、振動発生時にどの計測器60が同調しているかを確認して振動原因を特定する。例えば、掘削ビット12による掘削時の振動の場合は、振動の発生周期が短く、チャンバ25の振動が他に比べて大きくなり、シールドジャッキ28の加速度計のX方向が伸びない現象が見られる。
【0074】
対策特定部106は、記憶部110に記憶されている、
図12に示すような事象ごとに予め対策が設定されている対策フローに即して、特定された振動事象に対して対策を特定する。対策特定部106にて特定された対策は、
図11に示すように表示部108に表示する。
【0075】
図11に示すように、対策画面では、滑剤の注入位置や、シールドジャッキ速度やカッタヘッド回転速度の制御定量値等を表示する。ここで、
図11に示す対策画面と
図9に示す計測データ画面を一画面上に並べて表示することにより、対策の効果が確認できて好ましい。
【0076】
掘進機100によれば、特定装置50にて発生する振動(騒音を含む)の発生位置と定量値を特定し、振動発生原因を特定するとともに、振動発生原因に応じた対策を速やかに講じることができるため、掘進機100の掘進の際に生じ得る振動が周辺環境へ与える影響を抑制もしくは解消することが可能になる。
【0077】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0078】
10:カッタヘッド
11:外周面
12:掘削ビット
14:外周掘削ビット
16:コピーカッタ
18:撹拌翼
19:油圧駆動モータ
20:スキンプレート(鋼殻)
21:外周面
22:バルクヘッド
23:固定翼
24:開口
25:チャンバ
26:テールブラシ
27:面取り(干渉防止手段)
28:ジャッキ(シールドジャッキ)
29:スクリューコンベア
30:第2注入管
32:第2注入口
40:第1注入管
41:張り出し部
42:第1注入口
45:姿勢保持部材
46:面取り(干渉防止手段)
50:特定装置
60:計測器
61:加速度計(計測器)
62:油圧計(計測器)
63:ストローク計(計測器)
64:傾斜計(計測器)
70:隙間
100:掘進機
102:取得部
104:振動特定部
106:対策特定部
108:表示部
110:記憶部
G:地盤(地山)
CA:オーバーカット領域
S:セグメント