(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030412
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】静止誘導機器の鉄心
(51)【国際特許分類】
H01F 27/24 20060101AFI20240229BHJP
H01F 27/245 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
H01F27/24 E
H01F27/245 157
H01F27/24 P
H01F27/24 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133292
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】杉山 直輝
(72)【発明者】
【氏名】霜村 英二
(72)【発明者】
【氏名】増田 剛
(72)【発明者】
【氏名】後藤 博
(57)【要約】 (修正有)
【課題】上部継鉄部の下面部分の温度上昇を抑制する静止誘導機器の鉄心を提供する。
【解決手段】変圧器(静止誘導機器)1において、鉄心2は、コイル3が装着される複数本の脚部4a、4bと、それら脚部を上下においてつなぐ上部継鉄部5及び下部継鉄部4cと、を有する。少なくとも上部継鉄部5は、他の部分とは別体に構成され、コイルの上端よりも上方に位置する接合部6において各脚部と接合される。接合部においては、各脚部の上端部に、継鉄部の延びる方向に見てV字形をなす凹部7が形成されており、上部継鉄部5の下部には、全体に渡って凹部7に嵌合する形態のV字形の凸部8が形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルが装着される複数本の脚部と、それら脚部を上下においてつなぐ上部及び下部の継鉄部とを有する静止誘導機器の鉄心であって、
少なくとも前記上部継鉄部は、他の部分とは別体に構成され、前記コイルの上端よりも上方に位置する接合部において前記各脚部と接合されるように構成されていると共に、
前記接合部においては、前記各脚部の上端部に、前記継鉄部の延びる方向に見てV字形をなす凹部が形成されており、前記上部継鉄部の下部は、全体に渡って前記凹部に嵌合する形態のV字形の凸状に構成されている静止誘導機器の鉄心。
【請求項2】
前記下部継鉄部及び各脚部は、巻鉄心から一体的に構成され、前記上部継鉄部は、積層鉄心から構成される請求項1記載の静止誘導機器の鉄心。
【請求項3】
前記上部継鉄部は、高さ寸法が同一の薄板を、上下にずらせながら前後の厚み方向に積層して構成される請求項2記載の静止誘導機器の鉄心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、コイルが装着される複数本の脚部と、それら脚部を上下においてつなぐ上部及び下部の継鉄部とを有する静止誘導機器の鉄心に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静止誘導機器例えば変圧器やリアクトル等に用いられる鉄心として、帯板状の電磁鋼板を巻き重ねて構成される巻鉄心と称されるものがある。この種の巻鉄心では、環状に構成されたものを例えばU字状に切断して二分割し、コイルを装着した後再び接合して環状にするいわゆるカットコアが知られている(例えば、特許文献1参照)。この場合、一般に、カットコアの接合部は、磁束の乱れを抑えて安定した鉄心特性を維持するために、コイルが配置される脚部の上下方向中間部に配置されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような変圧器にあっては、使用中に渦電流損等により鉄心の温度が上昇する事情があり、温度上昇を抑えることが求められる。この場合、コイルに軸方向に延びるダクトを設け、ダクト内を通して空気を上昇させることにより、鉄心やコイルの冷却性を高めることが行われる。ところが、従来の鉄心では、上部継鉄部の下面の、鉄心の窓部に臨む部分に暖かい空気が滞留し、この部分の温度上昇が避けられない傾向がある。
【0005】
尚、上記したように接合部を脚部の中間部に配置したカットコアでは、接合部がコイルで隠されて位置合わせが難しくなる事情もあった。
そこで、上部継鉄部の下面部分の温度上昇を抑制することができる静止誘導機器の鉄心を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の静止誘導機器の鉄心は、コイルが装着される複数本の脚部と、それら脚部を上下においてつなぐ上部及び下部の継鉄部とを有するものであって、少なくとも前記上部継鉄部は、他の部分とは別体に構成され、前記コイルの上端よりも上方に位置する接合部において前記各脚部と接合されるように構成されていると共に、前記接合部においては、前記各脚部の上端部に、前記継鉄部の延びる方向に見てV字形をなす凹部が形成されており、前記上部継鉄部の下部は、全体に渡って前記凹部に嵌合する形態のV字形の凸状に構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態を示すもので、変圧器の構成を概略的に示す分解斜視図
【
図4】参考例を示すもので、変圧器の構成を概略的に示す斜視図
【
図6】第2の実施形態を示すもので、変圧器の構成を概略的に示す分解斜視図
【発明を実施するための形態】
【0008】
(1)第1の実施形態
以下、静止誘導機器としての単相の変圧器に適用した第1の実施形態について、
図1から
図5を参照しながら説明する。尚、以下の説明では、変圧器の鉄心の窓部の開放する方向を前後方向とし、2個のコイルの並び方向を左右方向として説明する。
図1及び
図2は、本実施形態に係る変圧器1の要部の全体構成を概略的に示している。ここで、静止誘導機器としての変圧器1は、本実施形態に係る鉄心2に、円筒状をなす2個のコイル3を装着して構成されている。
【0009】
前記鉄心2は、図で左右に位置して、上下方向に延びる複数本この場合2本の脚部を有している。これと共に、鉄心2は、これら2本の脚部を上部及び下部において夫々つなぐようにして、左右方向に延びる上部継鉄部及び下部継鉄部を有しており、全体としてほぼ矩形枠状をなしている。前記各脚部の外周に、夫々前記コイル3が装着されている。尚、鉄心2における中心の開口部分を窓部2aと称する。本実施形態に係る鉄心2の詳細な構造については後述する。
【0010】
詳しい図示は省略するが、前記コイル3は、内周側に位置する低圧側巻線と、外周側に位置する高圧側巻線とを備えると共に、軸方向即ち図で上下方向に延びる通風用のダクトを有して構成されている。これらコイル3は、前記左右の脚部に夫々装着されている。尚、
図2、
図3では、便宜上、コイル3について、最内周部分のみを示しており、その外周側部分についての図示を省略している。
【0011】
さて、前記鉄心2は、以下のように構成されている。即ち、
図1~
図3に示すように、鉄心2は、下部鉄心構造部4と、上部継鉄部5とを、左右の接合部6、6にて、突合わせ接合して構成されている。前記下部鉄心構造部4は、左右の脚部4a、4bと、下部継鉄部4cとを一体に有した正面から見てほぼU字状をなしている。このとき、脚部4a、4bと下部継鉄部4cとのなすコーナー部は、丸みを帯びた形状とされている。この下部鉄心構造部4の断面形状は、四角形をなし、脚部4a、4bの左右方向の幅寸法W及び下部継鉄部4cの上下方向の幅寸法Wは同等で、前後方向の厚みつまり奥行き寸法Dが前記幅寸法Wよりもやや小さく構成されている。
【0012】
これにて、前記上部継鉄部5は、他の部分である下部鉄心構造部4とは別体に構成され、前記コイル3の上端よりも上方に位置する接合部6において前記各脚部4a、4bと接合されるように構成されている。そして、前記下部鉄心構造部4の各脚部4a、4bの上端部に、前記上部継鉄部5の延びる方向即ち左右方向から見てV字形をなす凹部7が形成されている。これと共に、上部継鉄部5の下面部分は、全体に渡って前記凹部7に対応した側面V字形の凸部8が形成されている。これにて、上部継鉄部5の左右両端部と、各脚部4a、4bの上端部との間に、前記凹部7と凸部8とが嵌合する形態の接合部6が設けられている。
【0013】
このとき、本実施形態では、前記上部継鉄部5は、
図3にも示すように、積層鉄心から構成される。この場合、上部継鉄部5は、左右に長い矩形薄板状をなす磁性鋼板をつまり高さ寸法Hが同一の薄板を、前後方向中間部に来るほど下方にずれるように、上下にずらせながら前後の奥行き寸法Dとなるように積層して構成される。従って、上部継鉄部5の下面部分には、2つの傾斜面から側面V字状をなす凸部8が全体に渡って形成されると共に、上部継鉄部5の上面部分には、全体に渡ってその凸部8に応じた側面V字形をなす凹部5aが形成されている。
【0014】
一方、本実施形態では、前記下部鉄心構造部4は、巻鉄心から一体的に構成されるようになっている。この場合、巻鉄心は、例えば、下部鉄心構造部4の前後の奥行き方向Dを幅寸法とした帯状の磁性鋼板を、内周側から外周側に向けて巻回していき、脚部4a、4bの幅寸法Wに応じた厚みまで巻回して環状としたものを、1箇所あるいは2箇所で切断して、切目部分を拡開し、整形することにより得られる。この場合、切断部分において、凹部7を構成するV字状の切込みが形成される。
【0015】
上記構成の変圧器1を得るにあたっては、下部鉄心構造部4及び上部継鉄部5を夫々別々に製作しておき、下部鉄心構造部4の各脚部4a、4bに夫々コイル3を装着し、その後、上部継鉄部5を下部鉄心構造部4に対し接合部6、6において接合する。このとき、接合部6、6は、コイル3の上方に位置するので、コイル3で隠されることなく外観から見えるようになる。これと共に、接合部6、6は、V字形をなす凹部7に凸部8を嵌合させる構成なので、接合部6、6における位置決めを容易かつ確実に行うことができる。
【0016】
次に、上記構成の鉄心2の作用について、
図4及び
図5の参考例も参照しながら述べる。
図4及び
図5は、参考例の変圧器11を示しており、鉄心12は、左右の脚部14a、14b及び下部継鉄部14cを一体に有する下部鉄心構造物14と、上部継鉄部15とを、左右の接合部16、16にて突合わせ接合して構成されている。接合部16、16は、脚部14a、14bの上端面と、上部継鉄部15の左右両端部の下面との水平面同士を突き合わせて構成される。この構成においては、接合部16をコイル3よりも上方に位置させたことにより、位置合わせし易いメリットが得られる。
【0017】
ところで、変圧器1、11にあっては、使用中に渦電流損等により鉄心2、12の温度が上昇する事情があり、温度上昇を抑えることが求められる。この場合、コイル3に軸方向に延びるダクトを設け、ダクト内を通して空気を上昇させることにより、鉄心2、12やコイル3の冷却性を高めることが行われる。しかし、上記参考例の鉄心12では、
図4、
図5に白抜きの矢印で示すように、上部継鉄部15の下面の、鉄心12の窓部12aに臨む部分が水平面となっているため、暖かい空気が上部継鉄部15の下部に滞留し、この部分の冷却性が十分に得られない問題点がある。
【0018】
これに対し、本実施形態の鉄心2では、上部継鉄部5の下面部全体に凸部8が形成されていることにより、窓部2aに臨む部分は、側面から見てV字状の傾斜面となっている。これにより、
図2、
図3に白抜きの矢印で示すように、窓部2a内を上昇する高温の空気は、その傾斜面に沿って上昇し、鉄心2の上方に向けて排出されるといった流れが容易に生ずるようになり、上部継鉄部5の冷却性を高めることができる。
【0019】
従って、本実施形態によれば、暖かい空気が上部継鉄部の下面部付近に滞留するものと異なり、上部継鉄部5の下面部分における温度上昇を抑制することができるという優れた効果を得ることができる。また、V字状の傾斜面の形成は、上部継鉄部5の全体の形状の変更つまり凸部8の形成によって行われるので、例えば窓部2a部分にだけ傾斜面を形成するような場合に比べて、上部継鉄部5の製造も簡単に済む。そして、上記したように、鉄心2の接合部6が、コイル3よりも上方に位置していると共に、接合部6は、V字形をなす凹部7と凸部8とを嵌合させるものであるから、接合部6における位置決めを容易かつ確実に行うことができる。
【0020】
更に、本実施形態では、脚部4a、4b及び下部継鉄部4cを構成する下部鉄心構造部4を、巻鉄心から一体的に構成し、上部継鉄部5を、積層鉄心から構成するようにした。これにより、下部鉄心構造部4を容易に形成することができる。一方、下端部に側面V字形の凸部8を有する上部継鉄部5については、巻鉄心から構成することは、巻回後に切除する部分が比較的大きくなるため適切でなく、積層鉄心から構成することが好ましい。特に本実施形態では、上部継鉄部5を、高さ寸法Hが同一の薄板を、上下にずらせながら前後に厚み方向に積層して構成したので、同等の複数枚の薄板から上部継鉄部5を構成することができ、比較的簡単で安価に製作することが可能となる。
【0021】
(2)第2の実施形態、その他の実施形態
図6及び
図7は、第2の実施形態に係る変圧器21の構成を概略的に示している。静止誘導機器としての変圧器21は、本実施形態に係る鉄心22に、円筒状をなす2個のコイル3を装着して構成されている。前記鉄心22は、上記第1の実施形態と同様の下部鉄心構造部4と、上部継鉄部25とを、左右の接合部26、26にて、突合わせ接合して構成されている。
【0022】
このとき、上部継鉄部25は、左右方向に長いブロック状に構成されると共に、その下面部には、全体に渡って下部鉄心構造部4の凹部7に対応した側面V字形の凸部28が形成されている。この上部継鉄部25はやはり積層鉄心からなり、例えば左右の長さ寸法は等しく、高さ寸法が異なる複数枚の磁性鋼板を、上縁部を水平に揃えて、前後に積層して構成される。その際、上部継鉄部25を構成する磁性鋼板の高さ寸法が、前後方向の両端側で小さく、中央側で最も大きくなるように積層することにより、側面V字形の凸部28が形成される。
【0023】
上記構成の鉄心22においても、上記第1の実施形態の鉄心2と同様に、上部継鉄部25の下面部全体に凸部28が形成されていることにより、窓部22aに臨む部分は、側面から見てV字状の傾斜面となっている。これにより、窓部22a内を上昇する高温の空気は、その傾斜面に沿って上昇し、鉄心22の上方に向けて排出されるといった流れが容易に生ずるようになり、上部継鉄部25の冷却性を高めることができる。従って、この第2の本実施形態においても、上部継鉄部25の下面部分における温度上昇を抑制することができる等の優れた効果を得ることができる。
【0024】
尚、上記実施形態では、下部鉄心構造部4を、奥行き寸法Dを幅寸法とした帯状の磁性鋼板を巻回して、切断して製作するようにした。これに対し、材料の無駄を省くために、V字状の凹部7を有する下部鉄心構造部を、次のように製作することも可能である。即ち、奥行き寸法Dの半分の幅寸法D/2の帯状の磁性鋼板を、幅寸法Wの厚みとなるように環状に巻回し、そのうち1箇所を、凹部7のV字状の傾斜に対応した角度で斜めに切断し、更にその切断物の中間部を直角に切断して2つの単位巻回体を得るようにする。そのようにして得られた4つの単位巻回体を、切断部分の傾斜面が脚部の上端に来るようにして、2つの傾斜面がV字状となるように前後に突き合わせて接合すると共に、下部継鉄部の中央部で直角の切断端部を突き合わせて接合する。これにより、4個の単位巻回体の組合せによって下部鉄心構造部を得ることができる。
【0025】
また、上記各実施形態では、下部継鉄部及び各脚部を構成する下部鉄心構造部を、巻鉄心から一体的に構成し、上部継鉄部を、積層鉄心から構成するようにしたが、下部継鉄部及び各脚部についても積層鉄心から構成することが可能であることは勿論である。上記実施形態では静止誘導機器として単相の変圧器を例示したが、例えば、三層の変圧器にも適用することができ、更にはリアクトル等の鉄心にも適用することができる。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0027】
図面中、1、21は変圧器(静止誘導機器)、2、22は鉄心、2a、22aは窓部、3はコイル、4は下部鉄心構造部、4a、4bは脚部、4cは下部継鉄部、5、25は上部継鉄部、6、26は接合部、7は凹部、8、28は凸部を示す。