(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030448
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】弦楽器用調音器具
(51)【国際特許分類】
G10D 3/046 20200101AFI20240229BHJP
G10D 1/08 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G10D3/046
G10D1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133364
(22)【出願日】2022-08-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 雑誌「GiGS」2022年8月号(2022年6月27日発行)、ライブ「30th L’ Anniversary LIVE」(東京ドーム 2022年5月21~22日)
(71)【出願人】
【識別番号】596167136
【氏名又は名称】株式会社イー・エス・ピー
(72)【発明者】
【氏名】原田 均
(72)【発明者】
【氏名】松田 貴広
【テーマコード(参考)】
5D002
【Fターム(参考)】
5D002AA05
5D002CC22
(57)【要約】
【課題】 弦の振動を抑制するというよりも、各弦に均等な挟持力を作用し、少しこもった感じの落ち着きのある音で、どのポジションを弾いても適度に弦の振動が残るような効果を奏出し、弦毎に音色の変化を醸し出すことの可能な弦楽器用調音器具を構成する。
【解決手段】 上下で相対するアッパーフレーム1,ボトムフレーム2を備え、各フレーム1,2の相対面10,20を指板面の円弧形に合わせ、アッパー側1は横長方向に亘る凹弧状面に、ボトム側2は横長方向に亘る凸弧状面に形成し、発泡フォーム体3,4を各フレーム1,2の面形状に沿わせて相対貼着し、アッパー側1からボトム側2にねじ込みまたはねじ戻し可能な調整ノブ5,6を両端寄りに備え、調整ノブ3,4のねじ込みまたはねじ戻し度合いにより各発泡フォーム体3,4の間に挿通挟持する各弦による音色を調整するよう構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の弦をブリッジ寄りで上下から挿通挟持し、各弦による音質,音調,余韻等の音色を変化させるに装備する弦楽器用調音器具であって、
複数本の各弦に亘る横長状で各弦の張設方向に向かって有幅の上下で相対するアッパーフレーム,ボトムフレームを備え、アッパーフレーム,ボトムフレームの相対面を指板面の円弧形に合わせ、アッパー側は横長方向に亘る凹弧状面に、ボトム側は横長方向に亘る凸弧状面に各々形成し、発泡フォーム体をアッパーフレーム,ボトムフレームの各弧面形状に沿わせて相対貼着し、アッパー側からロア側にねじ込みまたはねじ戻し可能な調整ノブを各フレームの両端寄りに各々備え、調整ノブのねじ込みまたはねじ戻し度合いにより各発泡フォーム体の間に挿通挟持する各弦による音色を調整するよう構成したことを特徴とする弦楽器用調音器具。
【請求項2】
均等厚みで軟質の発泡フォーム体をアッパー側,ボトム側の各面形状に沿わせて相対貼着したことを特徴とする請求項1に記載の弦楽器用調音器具。
【請求項3】
各調整ノブのねじ軸上に嵌装させて伸長スプリングをアッパーフレーム,ボトムフレームの相対間に備え付けたことを特徴とする請求項1または2に記載の弦楽器用調音器具。
【請求項4】
器具本体の高さを調整可能な設置パッドをボトムフレームの中央より定間隔隔ててボトムフレームの底部に備え、各設置パッドの支軸をボトムフレームに挿通配置すると共に、該支軸の各先端寄りをボトム側の発泡フォーム体で受け止めて備え付けたことを特徴とする請求項1または2に記載の弦楽器用調音器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の弦をブリッジ寄りで上下から挟持し、各弦による音質,音調,余韻等の音色を変化させるに装備する弦楽器用調音器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、弦楽器として電気ベースギターを例示すると、弦の振動時間が長いと演奏する曲目によって次に出る音と重なってしまう場合があり、また、音としても適当に弦振動を減衰することによって引き締まった重みの音色に設定するというような目的から、弦をブリッジ寄りで上下から挟持する弦楽器用ミュート装置が提案されている。
【0003】
従来の弦楽器用ミュート装置は、ベースギターの一部品である木製のブリッジ台を基台に、ねじ棒をブリッジ台の左右両端寄り上部に垂直に植設し、ブリッジベースを下方側に位置し、ミュートカバーを上方側に位置させて、ブリッジベース並びにミュートカバーを各両端寄りでねじ棒の軸線上に挿通配置し、ブリッジベースをベース下側でねじ軸に螺合したナットにより、また、ミュートカバーをカバー上側でねじ軸に螺合したナットにより高さ調整可能に構成されている。
【0004】
それに加えて、各弦に夫々対応したブリッジ駒を駒自体に貫通するねじ軸で弦の張設方向に向かって前または後方向に位置調整可能にブリッジベースで支持すると共に、ねじ軸の軸両端をブリッジベースの前後辺より立ち上がるフランジ部で挿通支持させ、フェルト或いはスポンジ状の弦振動の吸収に適した材料からなるダンパーをミュートカバーの下部側に装着することから、ダンパーの弦に対する押圧力をブリッジ駒とで調整し得るよう構成されている(特許文献1)。
【0005】
従来の弦楽用ミュート装置は、各弦を下側から各ブリッジ駒で支持し、ダンパーをねじ軸に螺合したナットで高さ調整し、ダンパーの弦に対する押圧力をブリッジ駒とで調整するものであるから、主に弦の振動を止めるというように作用する。
【0006】
また、弦楽器においては、指板面が幅方向で緩やかな円弧状を呈し、各弦が指板面の円弧形に合わせて張設高さを変えることにより初期の音調を設定するよう組み立てられている。然し、ブリッジ駒,ダンパーが指板面の形状に相応しないと、各弦に均等な押圧力を作用できず、押圧力の強弱が生じてしまう。そのため、少しこもった感じの落ち着きのある音や、どのポジションを弾いても適度な弦の振動が残るような効果を奏出することができない。
【0007】
殊に、ベースギターの一部品である木製のブリッジ台を基台に、ねじ棒がブリッジ台の左右両端寄りで上部に植設されているため、当該ギターの付属装置として限定され、別のベースギターにも適用可能な如き汎用性がなく、ねじ棒がブリッジ台の左右両側上部に垂直に植設されているから、ナットの螺入度合いを適宜変えてダンパーによる押圧力を左右で多少とも微調整するようなことは行えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、弦の振動を抑制するというよりも、主に、各弦に均等な挟持力を作用し、少しこもった感じの落ち着きのある音で、どのポジションを弾いても適度に弦の振動が残るような効果を奏出し、また、弦毎に音色の変化を醸し出すことの可能な弦楽器用調音器具を提供することを目的とする。
【0010】
それに加えて、同種で別の弦楽器にも適用可能な汎用性を持たせ、また、器具本体を指板面に安定よく設置可能で、各弦の挟持度合いを適宜変えて音色の変化を多少でも微調整可能な弦楽器用調音器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の請求項1に係る弦楽器用調音器具は、複数本の各弦に亘る横長状で各弦の張設方向に向かって有幅の上下で相対するアッパーフレーム,ボトムフレームを備え、アッパーフレーム,ボトムフレームの相対面を指板面の円弧形に合わせ、アッパー側は横長方向に亘る凹弧状面に、ボトム側は横長方向に亘る凸弧状面に各々形成し、発泡フォーム体をアッパーフレーム,ボトムフレームの各弧面形状に沿わせて相対貼着し、アッパー側からロア側にねじ込みまたはねじ戻し可能な調整ノブを各フレームの両端寄りに各々備え、調整ノブのねじ込みまたはねじ戻し度合いにより各発泡フォーム体の間に挿通挟持する各弦による音色を調整するよう構成したことを特徴とする。
【0012】
本願の請求項2に係る弦楽器用調音器具は、均一厚みで軟質の発泡フォーム体をアッパー側,ボトム側の各面形状に沿わせて相対貼着したことを特徴とする。
【0013】
本願の請求項3に係る弦楽器用調音器具は、各調整ノブのねじ軸上に嵌装させて伸長スプリングをアッパーフレーム,ボトムフレームの相対間に備え付けたことを特徴とする。
【0014】
本願の請求項4に係る弦楽器用調音器具は、器具本体の高さを調整可能な設置パッドをボトムフレームの中央より定間隔隔ててボトムフレームの底部に備え、各設置パッドの支軸をボトムフレームに挿通配置すると共に、該支軸の各先端寄りをボトムフレームの発泡フォーム体で受け止めて備え付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本願の請求項1に係る弦楽器用調音器具では、アッパーフレーム,ボトムフレームの相対面を指板面の円弧形に合わせ、アッパー側は横長方向に亘る凹弧状面に、ボトム側は横長方向に亘る凸弧状面に各々形成し、発泡フォーム体をアッパーフレーム,ボトムフレームの各面形状に沿わせて相対貼着するため、各弦に均等な挟持力を作用し、少しこもった感じの落ち着きのある音で、どのポジションを弾いても適度に弦振動が残るような効果を奏せる。
【0016】
それに加えて、アッパーフレームからロアフレームにねじ込みまたはねじ戻し可能な調整ノブを各フレームの両端寄りに備え、調整ノブのねじ込みまたはねじ戻し度合いにより、各発泡フォーム体の間に挿通挟持する各弦による音色を変化させることができ、弦毎に音色の変化を醸し出すようにもでき、しかも各調整ノブによるねじ込みまたはねじ戻し度合いを変えることによっても、弦による音色を変化させるようにできる。
【0017】
また、アッパーフレーム,ロアフレームを含む器具本体を調整ノブで楽器本体から着脱できるため、同種で別の弦楽器にも適用可能で汎用性を持たせ得る。
【0018】
本願の請求項2に係る弦楽器用調音器具では、均等厚みで軟質の発泡フォーム体をアッパーフレーム,ボトムフレームの各面形状に沿わせて貼着したことにより、初期設定の音調に応じて軟質の発泡フォーム体による挟持力を微調整することができる。
【0019】
本願の請求項3に係る弦楽器用調音器具では、各調整ノブのねじ軸上に嵌装させて伸長スプリングをアッパーフレーム,ボトムフレームの端部寄り相対間に備え付けたことから、アッパーフレーム,ボトムフレームの相対間をバランスよく保て、調整ノブのねじ戻しに伴っても、アッパーフレーム,ボトムフレームの相対間を安定よく保てる。
【0020】
本願の請求項4に係る弦楽器用調音器具では、器具本体の高さを調整可能な設置パッドをボトムフレームの中央より定間隔隔ててボトムフレームの底部に備え、各設置パッドの支軸をボトムフレームに挿通配置すると共に、支軸の各先端寄りをボトムフレームの発泡フォーム体で受け止めて備え付けたことにより、弦楽器毎に指板面の円弧状が異なっても、その指板面の円弧に合わせて設置パッドで微調整でき、また、楽器本体に対する傷付けも防げる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明に係る弦楽器用調音器具を部品単位に略展開させて示す説明図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る弦楽器用調音器具を示す俯角斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明に係る弦楽器用調音器具を示す平面図である。
【
図5】
図5は、本発明に係る弦楽器用調音器具を装備状態で示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図示実施の形態に係る弦楽器用調音器具は、弦楽器の一例として電気ベースギターG(以下、単に「ベースG」という。)に適用する場合を示す。そのベースGはボディーのブリッジ(図示せず)からネックヘッドのペグ(図示せず)に亘る五本の弦を張設したもので、弦の細い第1弦から弦の太い第5弦がボディー並びにネックの幅方向に並べて張設されている。このネックからボディーに至る指板面は、第1弦から第5弦に亘って緩やかな円弧状を呈するよう形成されている。
【0023】
このベースGに備える弦楽器用調音器具(以下、単に「調音器具」という。)は、
図1で示すようにアッパーフレーム1,ボトムフレーム2を器具本体として組み立てられている。アッパーフレーム1,ボトムフレーム2は、
図2で示すように各弦に亘る横長状で各弦の張設方向に向かって有幅に形成されて上下で相対するよう配置されている。
【0024】
これらフレーム1,2は、アルミ等の金属材料または硬質なプラスチック材料で形成できる。各フレーム1,2の相対面10,20は指板面(図示せず)の円弧形に合わせ、アッパー側1は横長方向に亘る凹弧面状に、ボトム側2は横長方向に亘る凸弧面状に各々形成されている。
【0025】
各フレーム1,2の相対面には、発泡フォーム体3,4が各フレーム1,2の各弧面形状に沿わせて両者共に貼着されている。発泡フォーム体3,4はウレタン等の発泡樹脂で形成でき、好ましくは均一厚みで軟質な発泡樹脂によるフォーム体を備え付けるとよい。これら発泡フォーム体3,4は、両面接着テープ(図示せず)等で貼合わせ装着するようにできる。
【0026】
各フレーム1,2の両端寄りには、
図3で示すようなアッパー側1からロア側2にねじ込みまたはねじ戻し可能な調整ノブ5,6が各々備え付けられている。アッパー側1には、調整ノブ5,6のねじ軸を挿通する通し穴11,12が設けられている。ボトム側2には、ねじ軸のねじ部を螺合するねじ穴21,22が設けられている。
【0027】
調整ノブ5,6としてはローレットノブを備えるとよく、また、
図4で示すようにねじ頭の径が各弦の張設方向に向う幅よりも大きいものを備えるとよい。これにより、奏者の指による調整ノブ5,6のねじ込み,ねじ戻しが容易でしかも微調整も行うようにできる。
【0028】
このように構成する調音器具では、
図5で示すように調整ノブ5,6のねじ込みまたはねじ戻し度合いにより、各発泡フォーム体3,4の間に挿通挟持する各弦g1~g5による音色を調整することができる。
【0029】
殊に、アッパーフレーム1,ボトムフレーム2の相対面10,11は指板面の円弧形に合わせ、アッパー側1は横長方向に亘る凹弧状面に、ボトム側2は横長方向に亘る凸弧状面に各々形成し、発泡フォーム体3,4がアッパーフレーム1,ボトムフレーム2の各面形状に沿わせて貼着されているため、各弦に均等な挟持力を作用し、少しこもった感じの落ち着きのある音で、どのポジションを弾いても適度に弦振動が残るような効果を奏するようにできる。
【0030】
それに加えて、均等厚みで軟質の発泡フォーム体3,4を備えれば、軟質の発泡フォーム体3,4による挟持力を強,弱と微調整できる。また、各調整ノブ5,6のねじ込みまたはねじ戻し度合いを変えることによっても、挟持力を微調整することができる。これにより、初期設定の音調に応じて少しこもった感じの落ち着きのある音でも、どのポジションを弾いても適度に残る弦振動でも微妙に調整するようにできる。
【0031】
また、調整ノブ5,6がねじ戻しで着脱可能であるため、アッパーフレーム1,ボトムフレーム2を取り外せば、上述したように装備できるから、アッパーフレーム1,ボトムフレーム2を含む器具本体としては同種で別の弦楽器にも適用可能な汎用性を持たせ得る。
【0032】
各調整ノブ5,6には、ねじ軸上に嵌装させて伸長スプリング7,8がアッパーフレーム1,ボトムフレーム2の両端寄り相対間に備え付けられているため、アッパーフレーム1,ボトムフレーム2の相対間をバランスよく保て、ねじ戻しに伴っても、アッパーフレーム1,ボトムフレーム2の相対間を安定よく保てる。
【0033】
上述した構成に加えて、調音器具には器具本体の高さを調整可能な設置パッド23,24(
図1参照)がボトムフレーム2の中央より定間隔隔ててボトムフレーム2の底部両側に備えられている。
【0034】
これら設置パッド23,24は、支軸23a,24aを円盤状の座金23b,24bで支持させてボトムフレーム2に立てて挿通すると共に、各支軸23a,24aの先端寄り23c,24cをボトムフレーム2の発泡フォーム体4で受け止めて備え付けられている。また、各軸底にはゴム製のラバーマット23d,24dが装着されている。
【0035】
このような設置パッド23,24を備えると、弦楽器毎に指板面の円弧状が異なっても、支軸23a,24aが発泡フォーム体4でズレ動けるから、指板面の円弧に合わせて設置面を微調整するようにできる。また、ゴム製のラバーマット23d,24dを装着することにより、楽器本体に対する傷付けがラバーマット23d,24dで防ぐようにできる。
【0036】
上述した実施の形態は5弦の電気ベースギターを例に説明したが、これに装備する調音器具は寸法的に、横方向約116mm、幅約13mm、各調整ノブ5,6の頭部並びに設置パッド23,24の底部を含む高さ約27mm程度の大きさを有する。これが6弦、7~10弦、12弦、18弦とガットが増えても、寸法を適宜に設計変更すれば、各種のギターを代表例とする弦楽器に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 アッパーフレーム
2 ボトムフレーム
10,20 各フレームの相対面
3,4 発泡フォーム体
5,6 調整ノブ
7,8 伸長スプリング
23,24 設置パッド