(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030467
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】スラスト軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 19/10 20060101AFI20240229BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
F16C19/10
F16C33/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133392
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】古越 秋三
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA53
3J701AA62
3J701BA80
3J701DA09
3J701FA41
3J701GA01
3J701XB03
3J701XB18
3J701XB26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】加締め時のカバーの湾曲を抑制してカバーと軌道盤との間の隙間を正確に設定することができるスラスト軸受を提供する。
【解決手段】第一軌道盤10および第二軌道盤の外周面を覆うように配置されて第一軌道盤10および第二軌道盤を軸方向に保持するカバー40を備え、カバー40は、第一軌道盤10および第二軌道盤の外周面に対向する円筒部41と、円筒部41の軸方向端部の少なくとも一方に、円筒部41に対して全周に亘って屈曲した屈曲部42とを有し、第一軌道盤10および第二軌道盤の少なくとも一方の外周面の角部に面取部12が形成され、面取部12とカバー40の屈曲部42とが対向するスラスト軸受1である。屈曲部42と円筒部41の境界部分に、内周面の全周に亘る周溝44が形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道溝を有する第一軌道盤と、軌道溝を有する第二軌道盤と、前記第一軌道盤の前記軌道溝と前記第二軌道盤の前記軌道溝との間に配置された転動体と、前記第一軌道盤および前記第二軌道盤の外周面または内周面を覆うように配置されて前記第一軌道盤および前記第二軌道盤を軸方向に保持する保持手段とを備え、
前記保持手段は、前記第一軌道盤および前記第二軌道盤の外周面または内周面に対向する円筒部と、前記円筒部の軸方向端部の少なくとも一方に、前記円筒部に対して全周に亘って屈曲した屈曲部とを有し、
前記第一軌道盤および前記第二軌道盤の少なくとも一方の外周面または内周面の角部に面取部が形成され、前記面取部と前記保持手段の前記屈曲部とが対向するスラスト軸受において、
前記屈曲部と前記円筒部の境界部分に、内周面または外周面の全周に亘る周溝が形成されているスラスト軸受。
【請求項2】
前記周溝の深さが、前記保持手段の前記円筒部の厚みの1/2以下である請求項1に記載のスラスト軸受。
【請求項3】
前記周溝の深さが、前記保持手段の前記円筒部の厚みの1/3以下である請求項2に記載のスラスト軸受。
【請求項4】
前記周溝の軸方向一方の内側面と軸方向他方の内側面とが少なくとも一部において接触している請求項1に記載のスラスト軸受。
【請求項5】
軌道溝を有する第一軌道盤と、軌道溝を有する第二軌道盤と、前記第一軌道盤の前記軌道溝と前記第二軌道盤の前記軌道溝との間に配置された転動体と、前記第一軌道盤および前記第二軌道盤の外周面または内周面を覆うように配置されて前記第一軌道盤および前記第二軌道盤を軸方向に保持する保持手段とを備え、
前記保持手段は、前記第一軌道盤および前記第二軌道盤の外周面または内周面に対向する円筒部と、前記円筒部の軸方向端部の少なくとも一方の側に、前記円筒部に対して全周に亘り屈曲した屈曲部とを有し、
前記第一軌道盤および前記第二軌道盤の少なくとも一方の外周面または内周面の角部に面取部が形成され、前記面取部と前記保持手段の前記屈曲部とが対向するスラスト軸受の製造方法において、
前記円筒部および前記屈曲部を断面一様な円筒状に形成し、前記円筒部の終点部分に、内周面または外周面の全周に亘る周溝を形成し、前記周溝で屈曲させて前記屈曲部を加締め成形するスラスト軸受の製造方法。
【請求項6】
前記加締め成形において、前記周溝の軸方向一方の内側面と軸方向他方の内側面とのなく少なくとも一部を互いに接触させる請求項5に記載のスラスト軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラスト軸受に係り、特に、第一軌道盤と第二軌道盤とを結合するカバーの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
スラスト軸受は、第一軌道盤と第二軌道盤との間に転動体を配置し、スラスト荷重を受ける軸受である。第一軌道盤と第二軌道盤の分離防止等を目的として、両軌道盤の外周を覆うようにしてカバーが配置される場合がある(例えば特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-004759号公報
【特許文献2】特開2020-143708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カバーは、その円筒部の端部を折り曲げて軌道盤の角部に設けた面取部と対向する部分を設けることにより、軌道盤同士の分離を防止する形状となっている。しかしながら、円筒部の端部を加締めた時に、カバーが湾曲してしまう可能性があり、この場合、カバーと軌道盤との間の隙間がばらついてしまう。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、加締め時のカバーの湾曲を抑制してカバーと軌道盤との間の隙間を正確に設定することができるスラスト軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、軌道溝を有する第一軌道盤と、軌道溝を有する第二軌道盤と、前記第一軌道盤の前記軌道溝と前記第二軌道盤の前記軌道溝との間に配置された転動体と、前記第一軌道盤および前記第二軌道盤の外周面または内周面を覆うように配置されて前記第一軌道盤および前記第二軌道盤を軸方向に保持する保持手段とを備え、前記保持手段は、前記第一軌道盤および前記第二軌道盤の外周面または内周面に対向する円筒部と、前記円筒部の軸方向端部の少なくとも一方に、前記円筒部に対して全周に亘って屈曲した屈曲部とを有し、前記第一軌道盤および前記第二軌道盤の少なくとも一方の外周面または内周面の角部に面取部が形成され、前記面取部と前記保持手段の前記屈曲部とが対向するスラスト軸受において、前記屈曲部と前記円筒部の境界部分に、内周面または外周面の全周に亘る周溝が形成されているスラスト軸受である。
【0007】
また、本発明は、軌道溝を有する第一軌道盤と、軌道溝を有する第二軌道盤と、前記第一軌道盤の前記軌道溝と前記第二軌道盤の前記軌道溝との間に配置された転動体と、前記第一軌道盤および前記第二軌道盤の外周面または内周面を覆うように配置されて前記第一軌道盤および前記第二軌道盤を軸方向に保持する保持手段とを備え、前記保持手段は、前記第一軌道盤および前記第二軌道盤の外周面または内周面に対向する円筒部と、前記円筒部の軸方向端部の少なくとも一方の側に、前記円筒部に対して全周に亘り屈曲した屈曲部とを有し、前記第一軌道盤および前記第二軌道盤の少なくとも一方の外周面または内周面の角部に面取部が形成され、前記面取部と前記保持手段の前記屈曲部とが対向するスラスト軸受の製造方法において、前記円筒部および前記屈曲部を断面一様な円筒状に形成し、前記円筒部の終点部分に、内周面または外周面の全周に亘る周溝を形成し、前記周溝で屈曲させて前記屈曲部を加締め成形するスラスト軸受の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加締め時の保持手段の湾曲を抑制して保持手段と軌道盤との間の隙間を正確に設定することができるスラスト軸受が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態のスラスト軸受を示す断面図である。
【
図2】実施形態のスラスト軸受の要部を示す拡大断面図である。
【
図3】は第1実施形態におけるカバーの加締め前の状態を示す断面図である。
【
図4】(A)は従来例におけるカバーの加締め前の状態を示す断面図、(B)は加締めた後のカバーを示す断面図である。
【
図5】(A)は第1実施形態の変更例におけるカバーの加締め前の状態を示す断面図、(B)は加締めた後のカバーを示す断面図である。
【
図6】(A)は本発明の第2実施形態のスラスト軸受におけるカバーの加締め前の状態を示す断面図、(B)は加締めた後のカバーを示す断面図である。
【
図7】(A)は第2実施形態の変更例におけるカバーの加締め前の状態を示す断面図、(B)は加締めた後のカバーを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.第1実施形態
図1~
図4を参照して本発明の一実施形態のスラスト軸受を説明する。なお、以下の説明において「軸方向」とはスラスト軸受の中心軸の方向を示し、「径方向」は軸方向と直交する方向を示す。また、「周方向」とは中心軸を中心として回転する方向を示す。さらに、「上」、「下」といった方向を示す用語は
図1における上下方向を示すものとする。
【0011】
図1は実施形態のスラスト軸受1を示す断面図である。スラスト軸受1は、互いに対向して配置された第一軌道盤10と第二軌道盤20とを備えている。第一軌道盤10および第二軌道盤20は環状をなし、それらの互いの対向面には、断面円弧状の軌道溝11,21が全周に亘って形成されている。
【0012】
軌道溝11,21が構成する断面円形の軌道輪には、複数の転動体30が周方向に等間隔に配置されている。転動体30は、球状をなし、図示しない保持器により隣接する転動体30との距離が一定に保持されている。
【0013】
第一軌道盤10の外周面の軸方向上側の角部には、面取部12が全周に亘って形成されている。また、第二軌道盤20の外周面の軸方向上側の角部には、面取部22が全周に亘って形成されている。第一軌道盤10および第二軌道盤20には、それらの外周面を覆うカバー(保持手段)40が取り付けられている。
【0014】
カバー40は略円筒状をなし、第一軌道盤10および第二軌道盤20の外周面に対向する円筒部41と、円筒部41の軸方向上下端部で内側に屈曲した屈曲部42,43とからなっている。軸方向上側の屈曲部42は第一軌道盤10の面取部12と対向し、軸方向下側の屈曲部43は第二軌道盤20の面取部22と対向している。屈曲部42と円筒部41との境界には、周溝44が形成されている。
【0015】
2.スラスト軸受の組立方法
先ず、カバー40の円筒状に形成された部品の軸方向下側の屈曲部43を成形する。この場合、平板から円板状のブランクを打ち抜き、ブランクを、角部に屈曲部43となるテーパ部を有するカップ状に絞り加工する。次いで、テーパ部の内側を打ち抜いて屈曲部43を有するカバー40の部品を成形する。
【0016】
第二軌道盤20の軌道溝21に、図示しない保持器に保持した複数の転動体30を載置し、その上から第一軌道盤10を載置する。この組立体を、屈曲部43を成形したカバー40の部品の中に挿入する。カバー40の部品の軸方向上側の端部の内周には、
図3に示すように、その全周に亘って周溝44が形成されている。
【0017】
周溝44は、断面V字状をなし、その深さは、カバー40の円筒部41の厚みの1/2以下とされ、好ましくは円筒部41の厚みの1/3以下とされている。そして、周溝44の上側の部分の外周面にローリング加締めを行って、屈曲部42を成形する。これにより、第一軌道盤10および第二軌道盤20は、カバー40の屈曲部42,43により軸方向に離間できない状態となる。
【0018】
3.効果
上記構成のスラスト軸受1では、カバー40の屈曲部42と円筒部41の境界部分に、内周面の全周に亘る周溝44が形成されているから、周溝44の底部肉厚が薄いため屈曲部42をローリング加締めする際に応力が集中し、周溝44が潰れて周溝44で屈曲するように変形する。そして、断面V字状の周溝44の2つの内側面が互いに密着した段階でローリング加締めが終了する。したがって、
図2に示すように、屈曲部42の断面形状は、直線状またはそれに近似した形状となる。
【0019】
これに対して、
図4(A)に示すように周溝44がない従来のスラスト軸受では、屈曲部42を加締め成形すると、屈曲部42となる部分に均等に応力が作用し、
図4(B)に示すように、屈曲部42の断面形状が湾曲した形状となり、屈曲部42と第一軌道盤10との隙間の寸法にばらつきが生じる。
【0020】
このように、上記第1実施形態のスラスト軸受1にあっては、加締め時の屈曲部42の湾曲を抑制して屈曲部42を直線状またはそれに近似した形状とすることができるので、屈曲部42と第一軌道盤10との間の隙間を正確に設定することができる。
【0021】
特に、上記第1実施形態では、加締め前の周溝44を断面V字状に形成し、周溝44の2つの内側面が加締め後に互いに密着するようにしているから、周溝44の開き角度を設定することにより、屈曲部42と円筒部41とのなす角度を設定することができ、屈曲部42の先端縁と第一軌道盤10の面取部12との隙間を正確に設定することができる。
【0022】
また、上記第1実施形態では、周溝44の深さをカバー40の円筒部41の厚みの1/2以下、好ましくは円筒部41の厚みの1/3以下としているから、カバー40の強度が確保され、第一軌道盤10と第二軌道盤20とを強固に結合することができる。
【0023】
上記第1実施形態では、周溝44の2つの内側面が加締め後に互いに密着するようにしているが、
図5に示すように、周溝54の開き角度を大きく設定して加締め後に周溝54が断面V字状をなすものであっても良い。この場合であっても、周溝44の2つの内側面がそれらの交点付近(周溝44の底部付近)において接触し、さらなる屈曲に要する荷重が増大することで屈曲部42と円筒部41とのなす角度を制御することができ、屈曲部42の先端縁と第一軌道盤10の面取部12との隙間を正確に設定することができる。
【0024】
4.第2実施形態
図6を参照して本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態では、加締め前の周溝64の断面形状を半楕円状としている。このような周溝64では、屈曲部42を加締め成形すると、周溝64の2つの内側面の軸方向縁部同士が加締め後に互いに密着する。したがって、この第2実施形態においても、周溝64の内側面の軸方向縁部同士の間隔を設定することにより、屈曲部42と円筒部41とのなす角度を設定することができ、屈曲部42の先端縁と第一軌道盤10の面取部12との隙間を正確に設定することができる。
【0025】
図7は上記第2実施形態の変更例を示す図である。この変更例では、加締め前の周溝74の断面形状を半円状としている。屈曲部42を加締め成形した後も周溝74が開口している。なお、周溝74の断面形状は半楕円状やU字状であってもよい。
【0026】
5.変更例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下のように種々の変更が可能である。
i)上記実施形態では、カバー40を第一軌道盤10および第二軌道盤20の外周側に設けているが、内周側に設けることができる。その場合には、第一軌道盤10および第二軌道盤20の内周面の軸方向両端部の角部に面取部を形成し、カバーの両端部に面取部に対向する屈曲部を形成する。
【0027】
ii)転動体30は球状のものに限定されず、円柱状や円錐台状のものを用いることができる。
iii)上記実施形態では、第一軌道盤10および第二軌道盤20に断面円弧状の軌道溝11,21を全周に亘って形成しているが、第二軌道盤20に転動体30を支持する球面状の凹部を形成し、それに対向する第一軌道盤10の面を平坦に形成することができる。転動体30が円柱状や円錐台状のものの場合も同様である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、自動車等のサスペンション等に用いられるキングピン用スラスト軸受や、一方の軌道盤が頭部に固定されて締付け時のトルク低減を図ったボルト等あらゆるスラスト軸受に利用可能である。
【符号の説明】
【0029】
1…スラスト軸受、10…第一軌道盤、20…第二軌道盤、11,21…軌道溝、30…転動体、12,22…面取部、40…カバー、41…円筒部、42,43…屈曲部、44、54,64,74…周溝。