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特開2024-30472血液浄化療法用の繊維集合体および血液浄化療法用の浄化器
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  • 特開-血液浄化療法用の繊維集合体および血液浄化療法用の浄化器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030472
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】血液浄化療法用の繊維集合体および血液浄化療法用の浄化器
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20240229BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20240229BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20240229BHJP
   A61M 1/36 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
A61M1/16 190
A61M1/16 101
B01J20/20 F
B01D15/00 Z
A61M1/36 165
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133398
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 梨江子
(72)【発明者】
【氏名】小長井 文乃
(72)【発明者】
【氏名】荏原 充宏
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 信
【テーマコード(参考)】
4C077
4D017
4G066
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077BB02
4C077BB03
4C077CC06
4C077GG13
4C077GG14
4C077KK11
4C077NN20
4C077PP09
4C077PP24
4D017AA11
4D017BA04
4D017CA03
4D017CB03
4G066AA05B
4G066AC12C
4G066AC13C
4G066BA03
4G066BA16
4G066BA20
4G066BA35
4G066BA36
4G066CA56
4G066DA12
4G066EA04
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】クレアチニン吸着量をより十分に高めることができる血液浄化療法用の繊維集合体、および当該血液浄化療法用の繊維集合体を用いた血液浄化療法用の浄化器を提供すること。
【解決手段】本発明は、生体適合性を有する親水性の樹脂を含む、繊維状の樹脂組成物と、活性炭と、を有する、血液浄化療法用の繊維集合体に関する。また、本発明は、液体が流通可能な容器と、前記容器の内部に、前記流通する液体と接触可能に収容された前記繊維集合体と、を有する血液浄化療法用の浄化器に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性を有する親水性の樹脂を含む、繊維状の樹脂組成物と、
活性炭と、
を有する、血液浄化療法用の繊維集合体。
【請求項2】
前記生体適合性を有する親水性の樹脂は、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含む、請求項1に記載の血液浄化療法用の繊維集合体。
【請求項3】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体は、オレフィン比が15mol%以上35mol%以下である、請求項2に記載の血液浄化療法用の繊維集合体。
【請求項4】
前記活性炭の含有量は、前記樹脂組成物の全質量に対して1質量%以上45質量%以下である、請求項1または2に記載の血液浄化療法用の繊維集合体。
【請求項5】
前記繊維状の樹脂組成物は、ナノファイバーである、請求項1または2に記載の血液浄化療法用の繊維集合体。
【請求項6】
腎臓病患者の血液浄化または血液浄化により得られる透析廃液の浄化に用いられる、請求項1または2に記載の血液浄化療法用の繊維集合体。
【請求項7】
液体が流通可能な容器と、
前記容器の内部に、前記流通する液体と接触可能に収容された請求項1または2に記載の血液浄化療法用の繊維集合体と、
を有する血液浄化療法用の浄化器。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液浄化療法用の繊維集合体および血液浄化療法用の浄化器に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性腎不全(Chronic Kidney Disease:CKD)などの腎臓病患者は、血液中の老廃物を腎臓により除去する機能が低下しているため、血液浄化療法により血液中の老廃物を除去する必要がある。
【0003】
血液浄化療法の一つである血液透析では、透析患者の血液を繊維状のフィルターで濾過して、クレアチニンなどの上記老廃物を血液中から除去する。上記繊維状のフィルターとして、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)などの水に不溶なポリマーからなり、かつゼオライトが付着したナノファイバーを凝集・集積してなる、クレアチニンを吸着可能な血液浄化用膜が特許文献1に記載されている。特許文献1には、上記エチレン-ビニルアルコール共重合体として、エチレン比率が44%のものを使用した具体例が記載されている。
【0004】
また、非特許文献1には、エチレン-ビニルアルコール共重合体の繊維中にゼオライトの微小粒子を取り込ませた、ゼオライト-ポリマー複合体ナノファイバーが記載されている。非特許文献1には、上記エチレン-ビニルアルコール共重合体のエチレン比率を小さくするほど、ゼオライトの単位質量あたりのクレアチニン吸着量が増えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-077476号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Takaiら、”Towards a Rational Design of Zeolite-Polymer Composite Nanofibers for Efficient Adsorption of Creatinine”、Journal of Nanomaterials、2016年、Vol.2016、
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および非特許文献1に記載のように、エチレン-ビニルアルコール共重合体の繊維と、ゼオライトと、を有するナノファイバーを集積することにより、クレアチニンを吸着除去できることが知られている。
【0008】
ところで、透析を受ける患者への負担を軽減するため、透析等による血液浄化時間の短縮化が求められている。そして、非特許文献1に記載のようにクレアチニンを吸着するゼオライトの単位質量あたりのクレアチニン吸着量を増やせば、所定量のクレアチニンを血液から吸着除去するための時間が短くなり、血液浄化時間の短縮化が可能になると期待される。また、近年、ポータブル及びウエアラブル透析など特定の透析施設以外での透析が可能となる血液浄化器の小型化が求められており、このとき、透析に必要な透析液の廃液を再利用できれば大量の透析液を使用することなく装置の小型化が可能となる。そして非特許文献1に記載のようにクレアチニンを吸着するゼオライトの単位質量あたりのクレアチニン吸着量を増やせば、廃液の再使用が可能となり、より少ない透析液での透析が可能となる。しかし、本発明者らの知見によれば、非特許文献1に記載のゼオライト-ポリマー複合体でも、ゼオライトの単位質量あたりのクレアチニン吸着量が十分に高められているとはいえなかった。
【0009】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、クレアチニンなどの尿毒症毒素の吸着量をより十分に高めることができる血液浄化療法用の繊維集合体、および当該血液浄化用の繊維集合体を用いた血液浄化療法用の浄化器を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための本発明の一形態は、下記[1]~[5]の血液浄化療法用の繊維集合体に関する。
[1]生体適合性を有する親水性の樹脂を含む、繊維状の樹脂組成物と、
活性炭と、
を有する、血液浄化療法用の繊維集合体。
[2]前記生体適合性を有する親水性の樹脂は、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含む、[1]に記載の血液浄化療法用の繊維集合体。
[3]前記エチレン-ビニルアルコール共重合体は、オレフィン比が15mol%以上35mol%以下である、[2]に記載の血液浄化療法用の繊維集合体。
[4]前記活性炭の含有量は、前記樹脂組成物の全質量に対して1質量%以上45質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の血液浄化療法用の繊維集合体。
[5]前記繊維状の樹脂組成物は、ナノファイバーである、[1]~[4]のいずれかに記載の血液浄化療法用の繊維集合体。
[6]腎臓病の血液浄化または血液浄化により得られる透析廃液の浄化に用いられる、[1]~[5]のいずれかに記載の血液浄化療法用の繊維集合体。
【0011】
また、上記の課題を解決するための本発明の他の形態は、下記[7]の血液浄化療法用の浄化器に関する。
[7]液体が流通可能な容器と、
前記容器の内部に、前記流通する液体と接触可能に収容された[1]~[6]のいずれかに記載の血液浄化療法用の繊維集合体と、
を有する血液浄化療法用の浄化器。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、クレアチニンなどの尿毒症毒素の吸着量をより十分に高めることができる血液浄化療法用の繊維集合体、および当該血液浄化療法用の繊維集合体を用いた血液浄化療法用の浄化器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の別の実施形態に関する血液浄化療法用の浄化器の例を示す模式図である。
図2図2は、実施例におけるインドキシル硫酸吸着量(試験2)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[血液浄化療法用の繊維集合体]
本発明の一実施形態に関する血液浄化療法用の繊維集合体(以下、単に「繊維集合体」ともいう。)は、生体適合性を有する親水性の樹脂を含む、繊維状の樹脂組成物と、活性炭と、を有する。
【0015】
(生体適合性を有する親水性の樹脂)
上記樹脂は、生体適合性がある、すなわち生体との接触で生じる生体の異物反応を指標に(例えば細胞毒性試験)、安全性が確保される樹脂である。また、上記樹脂は、親水性である、すなわち、液滴法により測定された、水に対する接触角が90°よりも低い樹脂である。生体適合性を有する親水性の樹脂は、血液浄化および透析廃液の浄化などの血液浄化療法に好適に使用することができる。
【0016】
上記生体適合性を有する親水性の樹脂は、水に不溶かつ親水性の樹脂であることが好ましい。このような樹脂は、血液や透析廃液に接触して湿潤したときにも溶解せず繊維集合体の形状を維持し、かつ血液や透析廃液となじみやすいためクレアチニンなどの老廃物の吸着を促進する。
【0017】
上記生体適合性を有する親水性の樹脂の例には、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコールを含む共重合体、アクリロニトリルの単独重合体または共重合体、ビニルピロリドンの共重合体、ポリメチルメタクリレートまたはポリメチルメタクリレートを含む共重合体およびポリヒドロキシエチルメタクリレートなどが含まれる。これらのうち、エチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましい。
【0018】
エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体をケン化して得られる樹脂である。湿潤時の形状維持性を高める観点から、ケン化度は、95モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であり完全にケン化されていることがさらに好ましい。
【0019】
エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン以外のα-オレフィンが共重合されていてもよい。上記エチレン以外のα-オレフィンの例には、プロピレン、3-メチル-1-ブテン、および4-メチル-1-ペンテンなどが含まれる。
【0020】
上記エチレン-ビニルアルコール共重合体は、共重合体の全構成単位の総モル数に対する上記α-オレフィンが占める割合であるオレフィン比が、10mol%以上60mol%以下であることが好ましく、10mol%以上50mol%以下であることがより好ましく、15mol%以上35mol%以下であることがさらに好ましい。オレフィン比が10mol%以上であると、上記エチレン-ビニルアルコール共重合体が血液や透析廃液になじみやすく、老廃物の吸着性がより高まる。オレフィン比が60mol%以下であると、上記エチレン-ビニルアルコール共重合体が血液や透析廃液に溶解しにくくなる。上記エチレン-ビニルアルコール共重合体のオレフィン比は、NMRで測定することができる。
【0021】
なお、本発明者らの知見によると、オレフィン比が小さいほど、活性炭の単位質量あたりのクレアチニン吸着量および活性炭の単位質量あたりのインドキシル硫酸吸着量(いずれも後述)が高まる。
【0022】
上記生体適合性を有する親水性の樹脂は、メルトフローレート(MFR)が0.1g/10min以上100g/10min以下であることが好ましく、0.2g/10min以上50g/10min以下であることがより好ましく、0.5g/10min以上40g/10min以下であることがさらに好ましい。MFRが0.5g/10min以上であると、紡糸が容易であり、より細い繊維による高密度の繊維集合体を形成して、老廃物の吸着性を高めることができる。MFRが40g/10min以下であると、紡糸時に固化しやすく、繊維の形崩れを抑制することができる。なお、上記MFRは、JIS K 7210-1(2014年)に準じて、210℃、荷重2160gの条件で測定した値である。
【0023】
上記生体適合性を有する親水性の樹脂は、重量平均分子量が10000以上400000以下であることが好ましい。重量平均分子量が10000以上であると、上記生体適合性を有する親水性の樹脂が血液や透析廃液に溶解しにくくなる。重量平均分子量が400000以下であると、紡糸が容易である。なお、上記重量平均分子量は、ゲルパミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0024】
繊維集合体は、上記生体適合性を有する親水性の樹脂を含む樹脂組成物により形成した繊維の集合体である。繊維集合体は、上記繊維の不織布であってもよいし、織布であってもよい。また、上記繊維を束ねた繊維束であってもよい。これらのうち、作製が容易であり、活性炭の脱離が生じにくく、かつ老廃物の吸着効率がより高めることから、不織布が好ましい。
【0025】
また、繊維集合体は、上記生体適合性を有する親水性の樹脂以外の、他の樹脂を含む樹脂組成物により形成した繊維を含んでいてもよい。
【0026】
樹脂組成物中の、上記生体適合性を有する親水性の樹脂の割合は、樹脂成分の全質量に対し30質量%以上100質量%以下であることが好ましく、40質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、50質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。また、樹脂組成物が上記エチレン-ビニルアルコール共重合体を含むとき、上記エチレン-ビニルアルコール共重合体の割合は、樹脂成分の全質量に対して60質量%以上100質量%以下であることが好ましく、70質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、80質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
なお、各繊維を構成する樹脂組成物は、上記生体適合性を有する親水性の樹脂以外に、可塑剤等の添加物を含んでいてもよい。
【0028】
繊維集合体を構成する各繊維は、繊維径が100nm以上10000nm以下であることが好ましく、100nm以上1000nm以下(ナノファイバー)であることがより好ましい。上記繊維径が100nm以上であると、繊維集合体の強度をより高めることができる。上記繊維径が10000nm以下であると、繊維集合体をより微細な細孔を有するフィルターとすることができ、老廃物の除去効率をより高めることができる。
【0029】
(活性炭)
上記活性炭は、クレアチニンなどの血液や透析廃液中の老廃物を吸着し、血液や透析廃液中から除去する。上記活性炭は、繊維集合体を構成する各繊維に付着し、捕捉されている。
【0030】
活性炭は、クレアチニンおよびインドキシル硫酸などの、血液や透析廃液中の老廃物を吸着する作用を有する。本発明者らの知見によると、上記生体適合性を有する親水性の樹脂を含む繊維状の樹脂組成物と活性炭とを併用すると、活性炭が有する上記吸着作用を良好に維持し、あるいはより高めることができる。これに対し、上記生体適合性を有する親水性の樹脂の繊維とゼオライトとを併用すると、ゼオライトを単体で使用したときと比べてクレアチニンの吸着効率が顕著に低下する。
【0031】
上記活性炭が有するクレアチニンの吸着効率の維持または向上は、繊維集合体中に活性炭が良好に分散するためだと考えられる。つまり、活性炭は、ゼオライトなどと比較して、繊維集合体の材料である上記生体適合性を有する親水性の樹脂の溶液の溶媒との親和性が高く、溶媒中での分散性が高く凝集しにくい。そのため、活性炭は、形成された繊維集合体中でも良好に微分散して、クレアチニンを良好に吸着するものと考えられる。また、活性炭は、ゼオライトなどとは異なり、上記生体適合性を有する親水性の樹脂とは相互作用しにくく、上記生体適合性を有する親水性の樹脂の繊維中に完全に取り込まれにくいため、血液や透析廃液の浄化時にクレアチニンと接触しやすく、これによりクレアチニンを良好に吸着するものと考えられる。
【0032】
なお、活性炭は、繊維の表面または繊維の外部に存在する一方で、その表面が部分的にまたは全体的に、上記樹脂組成物に被覆されていることが好ましい。上記被覆により、繊維集合体からの活性炭の脱落を抑制できるほか、活性炭との接触による血液等の凝固などを抑制することもできる。
【0033】
また、活性炭はインドキシル硫酸などのクレアチニン以外の老廃物も吸着して血液や透析廃液等から除去することができるが、ゼオライトはインドキシル硫酸などを吸着することはできない。そのため、繊維集合体に活性炭を含ませることで、クレアチニンのみならず、その他の老廃物も血液や透析廃液等から吸着除去することが可能となる。このとき、クレアチニンの吸着量について上記説明した理由により、活性炭は、上記クレアチニン以外の老廃物も良好に吸着すると考えられる。
【0034】
なお、本発明者らの知見によれば、上記生体適合性を有する親水性の樹脂を含む繊維状の樹脂組成物と活性炭とを併用した繊維集合体は、活性炭が有する上記インドキシル硫酸などの吸着効率を十分な高程度に維持することができる。
【0035】
上記活性炭が有するインドキシル硫酸などの吸着効率の維持または向上は、クレアチニンの吸着量の向上と同じ理由によるものと考えられる。
【0036】
さらには、活性炭やゼオライトなどの粒子が繊維集合体に含まれると、繊維集合体の強度(特には引張強度)が低下しやすい。しかし、活性炭は、ゼオライトなどの他の粒子と比べて、繊維集合体の強度をさほど大きくは低下させない。
【0037】
活性炭による上記引張強度の維持は、活性炭が、上記生体適合性を有する親水性の樹脂の繊維中に取り込まれにくいためだと考えられる。つまり、ゼオライトのように繊維中に取り込まれやすい物質は、上記生体適合性を有する親水性の樹脂の結晶性を低下させたり、あるいは繊維の形成を阻害したりするため、繊維の強度を低下させやすい。これに対し、活性炭は、繊維中に完全に取り込まれにくいため、上記繊維の強度低下を生じさせにくいと考えられる。
【0038】
繊維集合体は、横1cm×縦3cmの試験片について、引張速度を10mm/minとして縦方向への引張試験を行ったときの破断までの最大応力を、0.5MPa以上5.0MPa以下とすることができ、1.0MPa以上5.0MPa以下とすることが好ましく、1.5MPa以上5.0MPa以下とすることがより好ましい。また、上記試験により得られる応力ひずみ曲線の線形領域の傾きから求められるヤング率を、5MPa以上50MPa以下とすることができ、10MPa以上50MPa以下とすることが好ましく、20MPa以上50MPa以下とすることがより好ましい。
【0039】
ところで、特許文献1および非特許文献1では、エチレン-ビニルアルコール共重合体からのナノファイバーの紡糸を、エレクトロスピニング法(電界紡糸法)により行っている。しかし、本発明者らの知見によると、特許文献1および非特許文献1のようにエチレン-ビニルアルコール共重合体とゼオライトとを含む分散液からエレクトロスピニング法によりナノファイバーを紡糸しようとすると、ナノファイバーを集積するコレクター上の様々な位置にナノファイバーが分散して到達してしまい、ひとまとまりのナノファイバーを得ることが困難だった。これは、表面に極性を有するゼオライトが印加電圧により弾き飛ばされ、噴出部から離れた地点に到達してしまうためだと考えられる。これに対し、表面の極性が低い活性炭を用いることで、コレクター上の一定の位置にナノファイバーを到達させることができ、ナノファイバーの回収効率を高めることもできる。
【0040】
上記活性炭は、粒度分布における積算値が90%となる粒度(D90)が200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。D90が200μm以下であることで、繊維集合体の作製をより容易とし、かつ老廃物の吸着量をより多くすることができる。
【0041】
また、上記活性炭は、粒度分布における積算値が50%となる粒度(D50)が1μm以上150μm以下であることが好ましく、5μm以上100μm以下であることがより好ましく、10μm以上50μm以下であることがさらに好ましい。D50が1μm以上であることで、繊維集合体からの活性炭の脱離を生じにくくすることができる。D50が150μm以下繊維集合体の作製をより容易とし、かつ老廃物の吸着量をより多くすることができる。
【0042】
活性炭の粒度分布、D90およびD50は、JIS K 1474(2014年)に準じた方法で測定することができる。
【0043】
上記活性炭の含有量は、上記樹脂組成物の全質量に対して1質量%以上45質量%以下であることが好ましく、2質量%以上43質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい。活性炭の含有量を1質量%以上とすることで、老廃物の吸着効率をより高めることができる。活性炭の含有量を45質量%以上とすることで、活性炭による繊維集合体の極端な強度低下を抑制し、実用可能な繊維集合体とすることができる。
【0044】
(製造方法)
繊維集合体は、上記樹脂組成物および活性炭を含む分散液から、公知の方法で紡糸することにより、作製することができる。
【0045】
たとえば、高電圧を印加された上記分散液をノズルから噴出し、アースされたコレクター上に集積する、エレクトロスピニング法により、ナノファイバーの集合体である繊維集合体を作製することができる。エレクトロスピニング法は、ナノサイズの繊維を容易に作製できることから好ましい。
【0046】
上記分散液は、上記生体適合性を有する親水性の樹脂を溶解可能な溶媒中に上記生体適合性を有する親水性の樹脂を投入し、超音波処理して上記生体適合性を有する親水性の樹脂を溶解させ、さらに活性炭を投入し、超音波処理して活性炭を分散させる方法で、調製することができる。上記溶媒の例には、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)およびイソプロパノールと水との混合溶媒などが含まれる。上記生体適合性を有する親水性の樹脂の溶液中の上記生体適合性を有する親水性の樹脂の濃度は、溶液の全質量に対し1質量%以上15質量%以下とすることができる。上記分散液中の活性炭の濃度は、分散液の全質量に対して0.1質量%以上10質量%以下とすることができる。
【0047】
[血液浄化療法用の浄化器]
図1は、本発明の別の実施形態に関する血液浄化療法用の浄化器の例を示す模式図である。
【0048】
浄化器100は、容器110と、容器110の内部に収容された、上述の繊維集合体120と、を有する。
【0049】
容器110は、中空筒状の本体部112と、本体部112の内部に液体(血液や透析廃液)を流入および排出可能な接続部114a、接続部114b、接続部114c、および接続部114dとを有する。接続部114a~接続部114dのうちの使用態様に応じたいずれか2つの接続部にチューブを接続し、一方の接続部から本体部112の内部に血液や透析廃液を流入させ、他方の接続部から上記血液や透析廃液を排出することで、本体部112の内部を液体(血液や透析廃液)が流通可能である。
【0050】
繊維集合体120は、本体部112の内部に収容され、本体部112の両端に固定されている。繊維集合体120の形態は特に限定されず、液体(血液や透析廃液)の流通方向に不織布または織布の繊維集合体120が積層されていてもよいし、1枚または複数枚の不織布または織布の繊維集合体120が筒状に丸められたり折り重ねられたりしていてもよい。あるいは、繊維束状の繊維集合体120の両端が本体部112の両端に固定されていてもよい。
【0051】
外部のポンプを作動して、本体部112の内部に血液や透析廃液を流入させると、流入した血液や透析廃液は繊維集合体120と接触し、かつ繊維集合体120を通過する。その際に、血液や透析廃液中の老廃物が繊維集合体120に吸着し、血液や透析廃液中から除去される。
【0052】
[用途]
上述した繊維集合体および血液浄化療法用の浄化器は、慢性腎臓病、急性腎臓病および敗血症などの各種の腎臓病患者の血液や、血液浄化(透析等)により得られる透析廃液等から老廃物を効率よく除去して、血液や透析廃液を浄化するために用いることができる。
【実施例0053】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
1.繊維集合体の作製
1-1.材料
以下の2種類の生体適合性を有する親水性の樹脂(いずれもエチレン-ビニルアルコール共重合体)を用意した。
・三菱ケミカル株式会社製、ソノアール V2504RB(エチレン比25mol%)
・株式会社クラレ製、エバール E105A(エチレン比44mol%)
【0055】
以下の活性炭を用意した。
・株式会社クレハ製、AST120
なお、上記活性炭は、微粉砕した後に、目開き38μmの篩により篩分けした、最大径が38μmのものを使用した。この活性炭の、JIS K 1474(2014年)に準じた方法で測定したD90は43mm、D50は20μmだった。
【0056】
以下のゼオライトを用意した。
・東ソー株式会製、HSZ-940HOA(平均粒子径:4μm)
【0057】
1-2.繊維集合体の作製
0.7gの上記エチレン-ビニルアルコール共重合体を10mLの1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)に投入し、室温で90分間の超音波処理を行って、エチレン-ビニルアルコール共重合体溶液を調製した。
【0058】
上記エチレン-ビニルアルコール共重合体溶液に上記活性炭またはゼオライトを投入し、室温で60分間の超音波処理を行って、上記エチレン-ビニルアルコール共重合体溶液中に上記活性炭またはゼオライトが分散した分散液を調製した。なお、上記活性炭またはゼオライトの投入量は、エチレン-ビニルアルコール共重合体に対する活性炭またはゼオライトの量が10質量%となるように調整した。
【0059】
エレクトロスピニング法により、上記分散液から繊維径が650±190nmのナノファイバーを紡糸した。このときの印加電圧は25kV、分散液の噴出速度は1.0mL/hとした。1.5mLの上記分散液を噴出した後、コレクター上に回収されたナノファイバーを洗浄し、乾燥させた後、60℃で一晩おいて、ナノファイバーの繊維集合体を得た。
【0060】
なお、比較のために、上記活性炭またはゼオライトを分散させなかったエチレン-ビニルアルコール溶液(エチレン比44mol%)からも、同様のエレクトロスピニング法によりナノファイバーの繊維集合体を得た。
【0061】
2.評価
2-1.回収効率
コレクターにコレクター上に回収されたナノファイバーの散らばりの度合いを目視で観察し、以下の基準により評価した。
○ コレクター上の同じ位置に回収されており、ひとまとまりの不織布を得ることができた
× コレクター上の異なる位置に分散されて回収されており、ひとまとまりの不織布を得ることができなかった
【0062】
2-2.クレアチニン吸着量
10mgのクレアチニンを1dLのウシ胎児血清(FBS)中に溶解させ、クレアチニン溶液を調製した。1mLの上記クレアチニン溶液に、20mgの各不織布、または2mgの活性炭またはゼオライトを投入し、37℃で4時間静置した。また、1mLの上記クレアチニン溶液を同様に37℃4時間で静置しControl血清とした。その後、ラボアッセイTM クレアチニン(富士フイルムワコーシバヤギ株式会社)により上済み中のクレアチニン濃度を測定した。
【0063】
Control血清のクレアチニン濃度から試験後の各クレアチニン溶液の濃度を除算し、クレアチニンの吸着量(mg)を求めた。この吸着量を、活性炭またはゼオライトの投入量(いずれも0.002g)で除算して、活性炭またはゼオライトあたりのクレアチニン吸着量(mg/g)を算出した。
【0064】
2-3.インドキシル硫酸吸着量(試験1)
5mgのインドキシル硫酸を1dLのウシ胎児血清(FBS)中に溶解させ、インドキシル硫酸溶液を調製した。1mLの上記インドキシル硫酸溶液に、20mgの各不織布を投入し、37℃で4時間静置した。また、1mLの上記インドキシル硫酸溶液を同様に37℃4時間で静置しControl血清とした。その後、インドキシル硫酸測定試薬「ニプロ」(ニプロ株式会社製)を用いてインドキシル硫酸濃度を測定した。
【0065】
Control血清のインドキシル硫酸濃度から試験後の各インドキシル硫酸溶液の濃度を除算し、インドキシル硫酸の吸着量(mg)を求めた。この吸着量を、活性炭またはゼオライトの投入量(いずれも0.002g)で除算して、活性炭またはゼオライトあたりのインドキシル硫酸吸着量(mg/g)を算出した。
【0066】
2-4.インドキシル硫酸吸着量(試験2)
5mgのインドキシル硫酸を1dLのウシ胎児血清(FBS)中に溶解させ、インドキシル硫酸溶液を調製した。1mLの上記インドキシル硫酸溶液に、20mgの不織布を投入し、37℃で24時間静置した。その後、インドキシル硫酸測定試薬「ニプロ」(ニプロ株式会社製) を用いてインドキシル硫酸濃度を測定した。この吸着量を、活性炭またはゼオライトの投入量(いずれも0.002g)で除算して、活性炭またはゼオライトあたりのインドキシル硫酸吸着量(mg/g)を算出した。なお、投入した不織布は、エチレン比が44mol%のエチレン-ビニルアルコール共重合体に活性炭を付与した不織布と、エチレン比が25mol%のエチレン-ビニルアルコール共重合体にゼオライトを付与した不織布と、の2種類である。
【0067】
2-5.引張強度
それぞれの不織布を横1cm×縦3cmに切り出して試験片とし、引張試験機を用いて、引張速度を10mm/minとして縦方向への引張試験を行った。このときの破断までの最大応力を求め、また応力-ひずみ曲線における線形領域(弾性領域)の傾きからヤング率を求めた。
【0068】
各不織布、活性炭およびゼオライトについての、回収効率、クレアチニン吸着量、インドキシル硫酸吸着量(試験1)、および引張強度の評価結果を、表1および表2に示す。また、インドキシル硫酸吸着量(試験2)の結果を、図2に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
表1、表2および図2に示されるように、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含む、繊維状の樹脂組成物と、活性炭と、を有する、血液浄化療法用の繊維集合体は、回収効率に優れ、クレアチニン吸着量およびインドキシル硫酸の吸着量が高く、かつ引張強度もさほど低下しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の血液浄化用の繊維集合体は、クレアチニンやインドキシル硫酸などの血液中の老廃物や血液浄化に再使用する透析廃液中の老廃物を、高効率で吸着除去することができる。本発明は、腎臓病患者の透析時間の短縮化や(透析装置小型化に寄与することによる)透析場所の自由度を増やし、腎臓病患者のQOL(Quality of Life)を高めると期待される。
【符号の説明】
【0073】
100 浄化器
110 容器
112 本体部
114a、114b、114c、114d 接続部
120 繊維集合体
図1
図2