(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030532
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ドアラッチ装置
(51)【国際特許分類】
E05B 81/16 20140101AFI20240229BHJP
E05B 77/24 20140101ALI20240229BHJP
E05B 81/90 20140101ALI20240229BHJP
E05B 81/56 20140101ALI20240229BHJP
E05B 81/64 20140101ALI20240229BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20240229BHJP
E05B 77/02 20140101ALN20240229BHJP
【FI】
E05B81/16
E05B77/24
E05B81/90
E05B81/56
E05B81/64
B60J5/00 N
E05B77/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133478
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】赤木 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】山崎 浩平
(72)【発明者】
【氏名】竹中 英人
【テーマコード(参考)】
2E250
【Fターム(参考)】
2E250AA21
2E250HH01
2E250KK02
2E250LL01
2E250MM01
2E250MM03
2E250RR11
(57)【要約】
【課題】ドアラッチ装置の防盗性を向上する。
【解決手段】ドアラッチ装置5は、ストライカを保持するラッチ状態とストライカが離脱された解放状態とを切り換えるラッチ機構11と、第1電気モータ21により発生された駆動力でラッチ状態から解放状態に切り換える電動リリース機構12と、ドア1に設けられた操作部材6に入力される操作力をラッチ機構11に伝達し、ラッチ機構11をラッチ状態から解放状態に切り換える手動リリース機構13と、手動リリース機構13による解放状態への切換を禁止するロック状態と、手動リリース機構13による解放状態への切換を許容するアンロック状態とを切り換えるロック機構14とを備える。ロック機構14は、第2電気モータ22を有し、第2電気モータ22により発生された駆動力のみに基づいて作動する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドアを開放および閉鎖するためのドアラッチ装置であって、
前記車両に取り付けられているストライカを保持するラッチ状態と、前記ストライカが離脱された解放状態とを切り換えるラッチ機構と、
第1電気モータを有し、前記第1電気モータにより発生された駆動力を前記ラッチ機構に伝達し、前記ラッチ機構を前記ラッチ状態から前記解放状態に切り換える電動リリース機構と、
前記ドアに設けられた操作部材に入力される操作力を前記ラッチ機構に伝達し、前記ラッチ機構を前記ラッチ状態から前記解放状態に切り換える手動リリース機構と、
第2電気モータを有し、前記第2モータにより発生された駆動力のみに基づき作動して、前記手動リリース機構による前記解放状態への切換を禁止するロック状態と、前記手動リリース機構による前記解放状態への切換を許容するアンロック状態とを切り換えるロック機構と、
を備える、ドアラッチ装置。
【請求項2】
前記第1電気モータおよび前記第2電気モータの動作を制御する制御器を更に備える、
請求項1に記載のドアラッチ装置。
【請求項3】
前記制御器が、
前記第1電気モータへの給電可否を示す給電可否情報を受信する通信部と、
前記給電可否情報に基づいて、前記第1電気モータへの給電が不能である状態およびその予兆がある状態を含む非常状態が生じているか否かを判定する非常判定部と、
前記非常状態が生じていると判定された場合に、前記ロック機構を前記ロック状態から前記アンロック状態に切り換えるべく前記第2電気モータを動作させるロック制御部と、を有する、
請求項2に記載のドアラッチ装置。
【請求項4】
前記第1電気モータおよび前記第2電気モータが、前記車両に搭載されているバッテリに蓄えられている電力に基づいて動作し、
前記給電可否情報が、前記バッテリの残容量を示す情報を含み、前記非常状態が、前記残容量が所定値未満であるとの状態を含む、
請求項3に記載のドアラッチ装置。
【請求項5】
前記非常状態が生じていないと判定された場合に、前記ロック制御部は、前記ラッチ機構および前記電動リリース機構の動作に関わらず、前記ロック機構を前記ロック状態で維持させる、
請求項3に記載のドアラッチ装置。
【請求項6】
前記通信部は、前記車両の内部に人がいるか否かを示す車内在否情報を更に受信し、
前記車内在否情報に基づき前記車両の前記内部に人がいる場合に、前記ロック制御部が、前記ロック機構を前記ロック状態から前記アンロック状態に切り換えるべく前記第2電気モータを動作させる、
請求項3から5のいずれか1項に記載のドアラッチ装置。
【請求項7】
前記非常状態が生じており且つ前記車両の前記内部に人がいる場合に、前記ロック制御部は、前記ロック機構を前記ロック状態から前記アンロック状態に切り換えるべく前記第2電気モータを動作させる、
請求項6に記載のドアラッチ装置。
【請求項8】
前記通信部が、利用者の前記ドアを開放する意思を示す開指令を受信し、
前記制御器が、前記開指令を受信すると前記第1電気モータを作動させて前記ラッチ機構を解放状態に切り換える電子アンロック状態と、前記開指令を受信しても前記第1電気モータを作動させない電子ロック状態とで切り換わる解除制御部を更に有し、
前記非常状態が生じていないと判定された場合に、前記ロック制御部は、前記解除制御部の状態に関わらず、前記ロック機構を前記ロック状態で維持させる、
請求項3に記載のドアラッチ装置。
【請求項9】
前記操作部材が、前記ドアの内面側および外面側それぞれに設けられた内側操作部材および外側操作部材を含み、
前記手動リリース機構が、前記内側操作部材および前記外側操作部材それぞれに入力される操作力に基づいて作動する内側手動リリース機構および外側手動リリース機構を含み、
前記ロック機構が、前記内側手動リリース機構および前記外側手動リリース機構それぞれに対して前記ロック状態と前記アンロック状態とを切り換える内側ロック機構および外側ロック機構を含み、
前記制御器が、
前記車両の内部に人がいるか否かを示す車内在否情報を受信する通信部と、
前記車内在否情報に基づき前記車両の前記内部に人がいる場合に、前記外側ロック機構の状態を維持し且つ前記内側ロック機構を前記アンロック状態にすべく前記第2電気モータを動作させるロック制御部と、を有する、
請求項2に記載のドアラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドアラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ラッチ機構、電動リリース機構、手動リリース機構、およびロック機構を備える車両用ドアラッチ装置を開示する。ラッチ機構は、車体に取り付けられているストライカを離脱可能に保持し、これによりドアが閉鎖状態となる。電動リリース機構は、キーの所有者が車両の近くにいる等の所定条件を満たすと、動作可能になる。電動リリース機構は、ストライカがラッチ機構から離脱されるようにラッチ機構を電動で操作し、これによりドアが開放可能になる。
【0003】
手動リリース機構は、電気的不具合等に起因して電動リリース機構が動作不能な非常時に利用されることを意図されている。手動リリース機構は、ドアの外面および内面それぞれに設けられたハンドルに利用者により入力された操作力に基づいて、ストライカがラッチ機構から離脱されるようにラッチ機構を操作する。
【0004】
ロック機構は、ハンドルに操作力が入力されても手動リリース機構によるラッチ機構の操作が無効になるロック状態と、ハンドルに操作力が入力されたときに手動リリース機構によるラッチ機構の操作が許容されるアンロック状態とを切り換える。ロック状態とアンロック状態との切換は、ドアの外面側に設けられたキーシリンダやドアの内面側に設けられたロックノブを手動で操作することによって行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
キーシリンダやロックノブのようなロック機構を手動で操作するための部材は、ドアの外面上もしくは内面上に設けられている。そのため、かかる部材が、不正に操作されるおそれがある。その結果として、ロック機構はロック状態からアンロック状態へと切り換えられ、ドアがハンドルを用いて不正に開放可能になる。このように、防盗性の面から、ドアラッチ装置には改善の余地がある。
【0007】
本発明は、ドアラッチ装置の防盗性を向上することを課題とする。
【0008】
本発明の一態様は、車両のドアを開放および閉鎖するためのドアラッチ装置であって、前記車両に取り付けられているストライカを保持するラッチ状態と、前記ストライカが離脱された解放状態とを切り換えるラッチ機構と、第1電気モータを有し、前記第1電気モータにより発生された駆動力を前記ラッチ機構に伝達し、前記ラッチ機構を前記ラッチ状態から前記解放状態に切り換える電動リリース機構と、前記ドアに設けられた操作部材に入力される操作力を前記ラッチ機構に伝達し、前記ラッチ機構を前記ラッチ状態から前記解放状態に切り換える手動リリース機構と、第2電気モータを有し、前記第2電気モータにより発生された駆動力にのみ基づいて作動して、前記手動リリース機構による前記解放状態への切換を禁止するロック状態と、前記手動リリース機構による前記解放状態への切換を許容するアンロック状態とを切り換えるロック機構と、を備える、ドアラッチ装置を提供する。
【0009】
上記の構成によると、ロック状態とアンロック状態とが電動で切り換えられる。この切換を機械的に手動で操作するための従来部品(キーシリンダやロックノブなど)をドアの内面または外面から省略できる。よって、ロック機構の不正操作が抑止される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ドアラッチ装置の防盗性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係るドアラッチ装置を示す模式図。
【
図2】第1実施形態に係るドアラッチ装置の制御器により実行される処理を示すフローチャート。
【
図3】第1実施形態の変形例に係る処理を示すフローチャート。
【
図4】第2実施形態に係るドアラッチ装置を示す模式図。
【
図5】第2実施形態に係るドアラッチ装置の制御器により実行される処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。なお、同一のまたは対応する要素には同一の符号を付し、詳細説明の重複を省略する。
【0013】
(第1実施形態)
図1を参照して、第1実施形態に係るドアラッチ装置5は、車両のドア1を開放および閉鎖するためにドア1に設けられている。ドア1は、車室を形成する車体に設けられた開口を開閉する。車両の利用者は、ドア1を開けて開口を開放することにより、車室に対して乗降できる。ドア1の配置も動作方向も、特に限定されない。ドア1は、車両の側部に設けられてもよく、車両の後部に設けられてもよい。ドア1は、鉛直軸周りに揺動可能でもよく、水平軸周りに揺動可能でもよく、車両の外面に沿ってスライド可能でもよい。
【0014】
ドアラッチ装置5は、ラッチ機構11、電動リリース機構12、手動リリース機構13、ロック機構14、および制御器30を備える。ラッチ機構11は、車体に設けられたストライカ2を保持するラッチ状態と、ストライカ2が離脱された解放状態とを切り換える。ストライカ2は、ドア1で開閉される開口の周縁部に取り付けられたU字型金具である。
【0015】
ラッチ機構11は、フォーク11aおよびクロー11bを有する。ドア1が開いていると、フォーク11aの溝がストライカ2に向くようにフォーク11aが付勢され、クロー11bはフォーク11aから離隔される。ドア1が開状態から閉方向へ動作すると、ストライカ2がフォーク11aに嵌まり込んでフォーク11aが付勢力に抗して回動し、クロー11bがフォーク11aに係止する。これにより、ラッチ機構11が、解放状態からラッチ状態に切り換わる。ラッチ状態においては、ストライカ2が、フォーク11aから離脱不能になり、ドア1が、開口を閉鎖した閉鎖位置で保持される。
【0016】
電動リリース機構12および手動リリース機構13は、ラッチ機構11がラッチ状態であるときに、ラッチ機構11のクロー11bを操作する。これにより、クロー11bがフォーク11aから離隔され、フォーク11aが付勢力で回動する。ラッチ機構11が、ラッチ状態から解放状態へと切り換わり、ドア1が閉鎖位置から開方向へ動作可能になる。
【0017】
電動リリース機構12は、第1電気モータ21と、動力伝達経路12aとを有する。第1電気モータ21は、バッテリ3に蓄えられている電力で動作し、回転駆動力を発生する。バッテリ3は、低圧(例えば、12V)の鉛蓄電池であり、車載の補機(例えば、空調機器や灯火器)の電源として車両に本来的に搭載されている。動力伝達経路12aは、第1電気モータ21により発生された駆動力をラッチ機構11のクロー11bに伝達し、それによりラッチ機構11が解放状態に切り換えられる。
【0018】
手動リリース機構13は、ドア1に設けられた操作部材6に利用者から入力された操作力をラッチ機構11のクロー11bに伝達し、それによりラッチ機構11が解放状態に切り換えられる。
【0019】
操作部材6には、ドア1の内面側に設けられた内側操作部材6aと、ドア1の外面側に設けられた外側操作部材6bとが含まれる。ドア1が閉鎖位置で保持されている状態において、内側操作部材6aは、車室内に位置付けられ、車室内の利用者によって手動操作され得る。外側操作部材6bは、車室外に位置付けられ、車外の利用者によって手動操作され得る。操作部材6の形式は、特に限定されないが、典型的には揺動可能なハンドルレバー型である。手動リリース機構13には、内側手動リリース機構13Aおよび外側手動リリース機構13Bが含まれる。内側手動リリース機構13Aは、内側操作部材6aに入力された操作力をラッチ機構11に伝達する。外側手動リリース機構13Bは、外側操作部材6bに入力された操作力をラッチ機構11に伝達する。
【0020】
手動リリース機構13は、内側操作部材6aまたは外側操作部材6bに入力された操作力をクロー11bに伝達する動力伝達経路15を形成する。本実施形態では、動力伝達経路15が、内側操作部材6aと連結された第1上流部15aと、外側操作部材6bと連結された第2上流部15bと、第1上流部15aおよび第2上流部15bから出力された操作力をクロー11bに伝達する下流部15cとを含む。内側手動リリース機構13Aは、第1上流部15aおよび下流部15cにより構成され、外側手動リリース機構13Bは、第2上流部15bおよび下流部15cにより構成される。
【0021】
電動リリース機構12の動力伝達経路12aと、手動リリース機構13の動力伝達経路15とは、互いに独立している。動力伝達経路12aは、駆動力を伝達可能であればどのように構成されていてもよく、例えば、ギヤ列、ボールねじ、レバー、あるいはこれらの組合せによって構成される。動力伝達経路15も、駆動力を伝達可能であればどのように構成されていてもよく、例えば、レバー、リンク、カム、あるいはこれらの組合せによって構成される。
【0022】
ロック機構14は、手動リリース機構13による解放状態への切換を禁止するロック状態(施錠状態)と、手動リリース機構13による解放状態への切換を許容するアンロック状態(解錠状態)とを切り換える。そのために、ロック機構14は、動力伝達経路15を繋断する繋断部14aを有する。繋断部14aは、動力伝達経路15を機械的に繋断可能であればどのように構成されていてもよい。
【0023】
ロック状態は、動力伝達経路15が繋断部14aにて切断された状態と言い換えることができる。このとき、操作力が操作部材6に入力されても、その操作力はクロー11bまで伝達され得ず、ドア1は閉鎖位置で保持され続ける。アンロック状態は、動力伝達経路15が繋断部14aにて接続された状態と言い換えることができる。このとき、操作力が操作部材6に入力されると、その操作力がクロー11bまで伝達され、ドア1は閉鎖位置から開方向へ動作可能になる。
【0024】
繋断部14aは、動力伝達経路15のうち下流部15cに介在する。内側リリース機構13Aに対するロック/アンロック状態と、外側リリース機構13Bに対するロック/アンロック状態とが、繋断部14aの動作に応じて、互いに同期して切り換えられる。
【0025】
ロック機構14は、第2電気モータ22を有する。第2電気モータ22も、第1電気モータ21と同様に、バッテリ3に蓄えられている電力で動作し、回転駆動力を発生する。ロック機構14は、第2電気モータ22により発生された駆動力のみに基づいて作動してロック状態とアンロック状態とを切り換える。すなわち、繋断部14aの駆動源は、第2電気モータ22のみであり、ロック状態とアンロック状態とが電動のみによって切り換えられる。キーシリンダやロックノブのように、ロック状態とアンロック状態とを手動で切り換えるための部品は、ドア1の外面からも内面からも省略されている。各機構12~14(操作部材6を除く)は、ドア1に内蔵されており、利用者は、これら機構12~14(操作部材6を除く)に対して車外からも車室内からもアクセス困難である。
【0026】
制御器30は、ECU(Electric Control Unit)とも称される。制御器30は、必ずしもドア1に取り付けられていなくてもよく、車体に取り付けられていてもよい。制御器30は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)を含むメモリ31、および入出力インタフェースを有するハードウェアと、それに実装されたソフトウェアとにより構築される。CPUは、メモリ31に予め記憶されたプログラムを読み出し、プログラムにより指示されるステップに従って情報処理を実行する。これにより、制御器30は、第1電気モータ21および第2電気モータ22の動作を制御し、電動リリース機構12による解放状態への切換や、ロック状態とアンロック状態との切換を制御する。
【0027】
制御器30は、メモリ31、通信部32、解除制御部33、非常判定部34、およびロック制御部35を有する。メモリ31は、制御に必要とされる情報を格納する。一例として、メモリ31は、施解錠情報や、車両に固有の認証キーを格納する。なお、施解錠情報は、解除制御部33が電子リリース機構12によるラッチ機構12の切換を禁止する電子ロック状態であるのか、電子リリース機構12によるラッチ機構12の切換を許容する電子アンロック状態であるのかを示す情報である。
【0028】
通信部32は、利用者のドア1を開く意思を示す開指令、第1電気モータ21への給電可否を示す給電可否情報、車室内に人がいるか否かを示す車内在否情報、および利用者の適正性を示す認証情報などを受信する。また、通信部32は、電子キー46の認証処理を行うためのリクエスト信号を送信する。
【0029】
開指令は、開指令入力器41に利用者によって入力される。
図1では、開指令入力器41が、ドア1の外部要素として図示されるが、これは単なる図示の便宜のためである。開指令入力器41は、ドア1の外面あるいは内面上に設けられたボタンスイッチでもよい。利用者は、ボタンスイッチを押すことで開指令の入力操作を行える。開指令入力器41は、ドア1の外面あるいは内面上に設けられた人感センサでもよい。利用者は、人感センサの検出領域内に手または足をかざすことで開指令の入力操作を行うことができ、人感センサは、利用者を検知した旨を示す検出信号を開指令として制御器30に出力する。開指令入力器41は、利用者により携帯される電子キー46に設けられたアンラッチボタン46eでもよい。
【0030】
給電可否情報には、例えば、バッテリ3の状態を示すバッテリ状態情報、車両が衝突した旨を示す衝突情報、および車両が水没した旨を示す水没情報が含まれる。車両には、バッテリ状態情報を検出するバッテリ状態検知装置42、衝突情報を検出する衝突検知装置43、および水没情報を検出する水没検知装置44が設けられている。通信部32は、これら検知装置42~44と直接的に接続されていてもよく、車載のVCU(Vehicle Control Unit)が検知装置42~44と通信部32との間に介在していてもよい。別の言い方では、これら検知装置42~44は、車載のVCUを含む概念であってもよい。
【0031】
バッテリ状態検知装置42は、バッテリ3に搭載される。バッテリ状態検知装置42は、バッテリ3の充電電流、放電電流、電圧、および温度を検出し、これらのバッテリ状態情報に基づき充電率(SOC:State of Charge)、劣化状態(SOH:State of Health)、および放電能力(SOF:State of Function)を推定する。推定は、バッテリ状態検知装置42に内蔵されたコントローラにより実現されてもよく、車載のVCU(Vehicle Control Unit)により実現されてもよく、本実施形態に係るドアラッチ装置5の制御器30により実現されてもよい。ここでは、単なる一例として、バッテリ状態検知装置42またはVCUが推定機能を有し、通信部32は、バッテリ状態検知装置42またはVCUから、SOC、SOH、およびSOFを示す情報を含むバッテリ状態情報を受信するものとする。また、バッテリ3の残容量を示す情報としては、バッテリ3の充電電流、放電電流、電圧、温度、充電率、劣化状態、放電能力、及び、その組み合わせ、が挙げられる。
【0032】
衝突検知装置43および水没検知装置44は、車両に設けられる。水没検知装置44の検出原理は、特に限定されず、車両の空洞部(例えばバンパー内部)の圧力変動に基づいてもよいし、音波センサで検出される音波飛行時間に基づいてもよいし、車載部品(例えばVCUの筐体)に取り付けられた電極間の短絡有無に基づいていてもよい。
【0033】
車両には、車内在否情報を検出して出力する在室検出装置45が設けられている。在室検出装置45の検出原理は、特に限定されない。在室検出装置45は、カメラと、カメラによる撮像結果から人間の存在を診断する画像診断装置とにより構成されてもよい。在室検出装置45は、座席の質量センサあるいは温度センサによって構成されてもよい。在室検出装置45は、電波で人間の存在を検出するよう構成されてもよい。
【0034】
通信部32は、当該車両の適正な利用者によって携帯される電子キー46と無線通信可能に構成されている。電子キー46は、通信部32からのリクエスト信号を受信可能且つ通信部32に認証信号を送信可能な通信部46aと、制御部30との間の通信を制御する制御部46bと、通信処理に係るプログラムおよび車両の固有の認証キーを格納するメモリ46cと、利用者により操作されるアンラッチボタン46eとを備える。電子キー46は、通信部32からのリクエスト信号を受信すると、認証キーが含まれた認証信号を通信部32に送信する。
【0035】
電子ロック・アンロック指令入力器47は、例えば、ドア1の内面上に設けられたシーソースイッチである。
図1では、電子ロック・アンロック指令入力器47が、ドア1の外部要素として図示されるが、これは単なる図示の便宜のためである。利用者は、シーソースイッチを一方側に操作することで電子ロック指令、他方側に操作することで電子アンロック指令の入力を行うことができ、各指令は受信部32に送信される。電子ロック・アンロック指令入力器47は、電子キー46に設けられていてもよい。
【0036】
解除制御部33は、通信部32が認証信号を受信すると、認証信号に含まれる認証キーをメモリ31に記憶されている認証キーと照合する。2つの認証キーが一致すれば、解除制御部33が、電動リリース機構12の作動を可能とする電子アンロック状態となる。一致しなければ、解除制御部33が、電動リリース機構12の作動を不能とする電子ロック状態となる。また、通信部32が電子ロック指令を受信すると、解除制御部33は電子ロック状態となる。通信部32が電子アンロック指令を受信すると、解除制御部33は電子アンロック状態となる。なお、メモリ31内の施解錠情報は、この状態の切換に応じて更新される。
【0037】
解除制御部33は、通信部32が開指令を受信すると、電子アンロック状態であれば第1電気モータ21を作動させ、電動リリース機構12に解除状態への切換を行わせる。一方、解除制御部33は、通信部32が開指令を受信しても、電子ロック状態であれば第1電気モータ21を作動させない。
【0038】
非常判定部34は、通信部32が給電可否情報を受信すると、非常状態が生じているか否かを判定する。非常状態には、バッテリ3から第1電気モータ21への給電が不能である状態と、給電不能の予兆がある状態とが含まれる。
【0039】
一例として、非常判定部34は、バッテリ3の充電率が所定値未満であると、非常状態が生じていると判定する。非常判定部34は、バッテリ3の電圧が所定値未満であると、非常状態が生じていると判定する。非常判定部34は、車両に衝突が生じると、非常状態が生じていると判定する。非常判定部34は、車両に水没が生じると、非常状態が生じていると判定する。なお、この判定に用いられる所定値は、メモリ31に予め記憶されている。
【0040】
ロック制御部35は、非常判定部34が非常状態を判定すると、第2電気モータ22を作動させ、ロック機構14をロック状態からアンロック状態に切り換える。また、ロック制御部35は、通信部32で受信された車内在否情報が車室内に人がいる旨を示す場合に、第2電気モータ22を作動させ、ロック機構14をロック状態からアンロック状態に切り換える。ロック制御部35は、非常状態が生じておらず且つ車室内に人がいない場合に、第2電気モータ22の動作を停止させ続け、電動リリース機構12および手動リリース機構13の動作に関わらず、ロック機構14をロック状態で維持する。
【0041】
また、ロック制御部35は、非常状態が生じていない通常状態においては、解除制御部33の電子ロック状態、電子アンロック状態と同期して第2電気モータ22を作動させることはない。すなわち、ロック制御部35は、解除制御部33が電子アンロック状態から電子ロック状態、又は、電子ロック状態から電子アンロック状態に切り換わっても、第2電気モータ22を動作させることはなく、ロック機構14は、現状のロック状態、又は、アンロック状態が維持される。
【0042】
以下、
図2を参照して制御器30により実行される処理について説明する。図示されるフローは、所定の制御周期(例えば5msec)で繰り返し実行される。説明の便宜上、ラッチ機構11がラッチ状態にあり、ドア1が閉鎖位置で保持されており、ロック機構14がロック状態にある状態で、処理が開始するものとする。
【0043】
まず、通信部32が、在室検出装置45から車内在否情報を受信する(ステップS1)。通信部32は、バッテリ状態検出装置42、衝突検出装置43、および水没検出装置44から給電可否情報を受信する(ステップS2)。非常判定部34が、受信された給電可否情報に基づいて非常状態の有無を判定する(ステップS3)。非常状態が生じていれば(S4:YES)、ロック制御部35が、受信された車内在否情報が車室内に人がいる旨を示すか否かを判断する(ステップS5)。
【0044】
非常状態が生じており且つ車室内に人がいれば(S4:YES AND S5:YES)、ロック制御部35は、第2電気モータ22を作動させ、ロック機構14をロック状態からアンロック状態に切り換える(ステップS11)。非常状態が生じておらず又は車室内に人がいなければ(S4:NO OR S5:NO)、ロック制御部35は、第2電気モータ22を作動させず、ロック機構14をロック状態で維持する(ステップS12)。
【0045】
解除制御部33は、通信部32に開指令が入力されたか否かを判断する(ステップ20)。開指令が入力されていれば(S20:YES)、解除制御部33が、電子アンロック状態か否かを判断する(ステップS21)。解除制御部33が、電子アンロック状態であれば(S21:YES)、解除制御部33は、第1電気モータ21を作動させ、ラッチ機構11をラッチ状態から解放状態に切り換える(ステップS22)。開指令が入力されておらず又は解除制御部33が電子ロック状態であれば(S20:NO OR S21:NO)、解除制御部33は、第1電気モータ21を作動させず、ラッチ機構11を現状(例えば、ラッチ状態)で維持する(ステップS23)。
【0046】
本実施形態に係るドアラッチ装置5によれば、第1電気モータ21への給電を正常に行える通常状態では、ロック機構14がロック状態を維持し続ける。このため、利用者が操作部材6を操作しても、ラッチ機構11をラッチ状態から解放状態へ切り換えることができない。利用者は、開指令入力器41で開指令を入力することによってのみ、ラッチ機構11をラッチ状態から解放状態へ切り換えることができる。制御器30は、適正な利用者の開指令の入力のみを有効とすることで、電動リリース機構12が不正に作動するのを防止できる。ロック機構14は、第2電気モータ12により発生される駆動力のみによって作動し、ドアラッチ装置5は、手動でロック機構14を操作するための部材を備えない。したがって、ロック機構14および手動リリース機構13が不正に手動操作されることを防止できる。このように、ドアラッチ装置5の防盗性を向上させることができる。
【0047】
ラッチ機構11の解放状態への切換を実質的に第1電気モータ21のみで行わせるという形態において、第1電気モータ21への給電が不能になると、ドア1が開かなくなる。そこで、ロック制御部35は、このような非常状態において、第2電気モータ22を作動させ、ロック機構14をロック機構からアンロック機構に切り換える。これにより、電動リリース機構12が正常に作動しないとき、あるいは正常に作動しなくなる予兆があるときに、手動リリース機構13でラッチ機構11をラッチ機構から解放状態へ切り換えることができる。利用者が、ドア1を開けられずに車室内に閉じ込められてしまう事態を回避できる。
【0048】
このように、第2電気モータ22は、通常状態においては作動しない。そのため、ドアラッチ装置5が、ロック機構14を作動させるための電気モータを、電動リリース機構12を作動させるための電気モータとは別に備えていても、電力消費量や騒音発生を抑制できる。
【0049】
車内在否情報に基づき車両の内部に人がいることを条件として、ロック制御部35が、ロック機構14をロック状態からアンロック状態に切り換えるように構成している。これは、例えば、車両の内部に人がいない状態で、故意に非常状態を発生させた場合に、ロック機構14がアンロック状態となってしまうと、ドアが開放可能となり、車両が盗難されてしまう恐れがあるため、それを防止することができる。
【0050】
また、電子ロック状態、電子アンロック状態は、電子ロック・アンロック指令入力器47への操作、或いは、認証キーの照合結果によって切換可能である。そして、ロック制御部35は、非常状態ではない通常状態においては、解除制御部33の電子ロック状態、及び、電子アンロック状態の切り換えに関わらず、ロック機構14をロック状態で維持させる。これにより、ロック機構14の不要な状態切換をなくすことができ、電力消費量や騒音発生を抑制できる。
【0051】
図3は、上記実施形態の変形例に係るフローチャートである。
図3に示すように、非常状態が生じており又は車室内に人がいる場合に(S4:YES OR S5:YES)、ロック制御部35は、第2電気モータ22を作動させ、ロック機構14をロック状態からアンロック状態に切り換えてもよい(ステップS11)。非常状態が生じておらず且つ車室内に人がいない場合に(S4:NO AND S5:NO)、ロック制御部35は、第2電気モータ22の動作を停止させ、ロック機構14をロック状態で維持してもよい(ステップS12)。
【0052】
この変形例においても、電動リリース機構12が正常に作動しないとき、あるいは正常に作動しなくなる予兆があるときに、手動リリース機構13でラッチ機構11をラッチ機構から解放状態へ切り換えることができる。利用者が、ドア1を開けられずに車室内に閉じ込められてしまう事態を回避できる。第1電気モータ21への給電を正常に行える通常状態においても、利用者が車室内にいれば、ロック機構14がアンロック状態に切り換えられる。そのため、利用者の閉じ込めをより一層防止しやすくなる。
【0053】
(第2実施形態)
次に、上記実施形態との相違を中心に、第2実施形態に係るドアラッチ装置5について説明する。
【0054】
内側手動リリース機構13Aは、内側操作部材6aに入力された操作力をクロー11bに伝達する内側動力伝達経路15Aにより構成される。外側手動リリース機構13Bは、外側操作部材6bに入力された操作力をクロー11bに伝達する外側動力伝達経路15Bにより構成される。内側動力伝達経路15A、外側動力伝達経路15B、および電動リリース機構12の動力伝達経路12aは、互いに独立している。
【0055】
ロック機構14は、内側手動リリース機構13Aに対してロック状態とアンロック状態とを切り換える内側ロック機構14Aと、外側手動リリース機構13Bに対してロック状態とアンロック状態とを切り換える外側ロック機構14Bとを有する。
【0056】
内側ロック機構14Aは、内側第2電気モータ22Aと、内側動力伝達経路15Aを繋断する内側繋断器14Aaを有する。外側ロック機構14Bは、外側動力伝達経路15Bを繋断する外側繋断器14Baを有する。内側第2電気モータ22Aおよび外側第2電気モータ22Bは、別体であり、互いに独立して動作可能である。
【0057】
図5を参照して、本実施形態では、非常状態が生じていると(S4:YES)、ロック制御器35が、内側第2電気モータ22Aおよび外側電気モータ22Bを作動させ、内側ロック機構14Aおよび外側ロック機構14Bを両方ともロック状態からアンロック状態へ切り換える(ステップS11)。非常状態が生じておらず且つ車内に人がいなければ(S4:NO AND S5:NO)、ロック制御器25は、内側第2電気モータ22Aおよび外側電気モータ22Bを両方とも作動させず、内側ロック機構14Aおよび外側ロック機構14Bを両方ともロック状態で維持する(ステップS12)。
【0058】
非常状態が生じておらず且つ車内に人がいれば(S4:NO AND S5:YES)、ロック制御器25は、内側第2電気モータ22Aのみ作動させ、内側ロック機構14Aをロック状態からアンロック状態に切り換える一方、外側ロック機構14Bをロック状態で維持する(ステップS13)。
【0059】
本実施形態においても、第1実施形態と同様にして、防盗性が向上したドアラッチ装置5を提供できる。通常状態であって車内に人がいる場合、その車内の人が内側操作部材6aでラッチ機構11を解放状態に切り換えることを許容される一方、車外の人が外側操作部材6bでラッチ機構11を解放状態に切り換えることは禁止される。これにより、防盗性を一層向上させつつ、車内の閉じ込めを防止できる。
【0060】
これまで本発明の実施形態について説明したが、上記格子柄は、本発明の趣旨の範囲内で適宜追加、変更、および/または削除可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 ドア
2 ストライカ
3 バッテリ
5 ドアラッチ装置
6 操作部材
6a 内側操作部材
6b 外側操作部材
11 ラッチ機構
12 電動リリース機構
13 手動リリース機構
13A 内側手動リリース機構
13B 外側手動リリース機構
14 ロック機構
14A 内側ロック機構
14B 外側ロック機構
15 動力伝達経路
21 第1電気モータ
22 第2電気モータ
22A 内側第2電気モータ
22B 外側第2電気モータ
30 制御器
31 メモリ
32 通信部
33 解除制御部
34 非常判定部
35 ロック制御部
41 開指令入力器
42 バッテリ状態検知装置
43 衝突検知装置
44 水没検知装置
45 在室検知装置