(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030595
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】処理方法、細胞含有物の製造方法および細胞によって生成される物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20240229BHJP
C07D 307/62 20060101ALI20240229BHJP
C07D 311/62 20060101ALI20240229BHJP
C07D 213/67 20060101ALI20240229BHJP
C07C 59/52 20060101ALN20240229BHJP
C07C 65/03 20060101ALN20240229BHJP
【FI】
C12N1/00 K
C07D307/62
C07D311/62
C07D213/67
C07C59/52
C07C65/03 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133572
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】後藤 卓真
(72)【発明者】
【氏名】孫 明ゆえ
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 伸子
【テーマコード(参考)】
4B065
4C055
4H006
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA83X
4B065AA90X
4B065BB25
4B065BC48
4B065BD27
4B065BD32
4B065BD34
4B065CA60
4C055AA01
4C055BA02
4C055BA06
4C055BB02
4C055CA03
4C055CA06
4C055CA16
4C055CA42
4C055DA06
4C055DA16
4C055DA18
4C055DA27
4H006AA03
4H006AB80
4H006BJ50
4H006BN30
4H006BS10
4H006BS30
(57)【要約】
【課題】細胞を含む液体に含まれる汚染物質を除去する。
【解決手段】細胞を含む液体に対して380nm以上420nm以下のピーク波長を有する照射光を照射する光照射工程と、前記細胞を前記液体中で培養する培養工程と、を含み、前記液体は、少なくとも1つの環状骨格を有する分子であって、2以上の炭素原子にOH基を有する分子を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を含む液体に対して380nm以上420nm以下のピーク波長を有する照射光を照射する光照射工程と、
前記細胞を前記液体中で培養する培養工程と、を含み、
前記液体は、少なくとも1つの環状骨格を有する分子であって、2以上の炭素原子にOH基を有する分子を含む、処理方法。
【請求項2】
前記光照射工程において、前記照射光の放射照度が20.0W/m2/nm以下であり、かつ、前記照射光を照射する照射時間は60分以下である、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記光照射工程において、前記照射光の放射照度(W/m2/nm)と照射時間(秒)との積は、72000以下である、請求項1に記載の処理方法。
【請求項4】
前記光照射工程において、前記照射光の放射照度が4.5W/m2/nm以下であり、かつ、前記照射光を照射する照射時間は30分以下である、請求項1に記載の処理方法。
【請求項5】
前記環状骨格は環状炭素骨格、またはヘテロ環骨格である、請求項1に記載の処理方法。
【請求項6】
前記環状骨格は芳香環である、請求項1に記載の処理方法。
【請求項7】
前記分子は、ビタミンB6、ビタミンC、カフェー酸、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレータ、没食子酸のうちの少なくともいずれかである、請求項1に記載の処理方法。
【請求項8】
前記光照射工程において、前記照射光の放射照度が20.0W/m2/nmであり、かつ、前記照射光を照射する照射時間は60分である場合に、
前記光照射工程後における前記液体中の前記分子の濃度が前記光照射工程の前の濃度の50%以下となる、請求項1に記載の処理方法。
【請求項9】
前記細胞は、継代培養に用いられる培養細胞である、請求項1に記載の処理方法。
【請求項10】
前記細胞は、初代培養に用いられる細胞である、請求項1に記載の処理方法。
【請求項11】
前記液体は血清添加培地、または、前記分子が添加された血清添加培地である、請求項1に記載の処理方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の処理方法を含む、細胞含有物の製造方法。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか1項に記載の処理方法を含む、前記細胞によって生成される物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞を含む液体を処理する処理方法、細胞含有物の製造方法および細胞によって生成される物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、可視光領域の波長帯の光に殺菌効果があることが報告されている。例えば、特許文献1には、400nm以上かつ410nm以下の波長領域にピーク波長を有するスペクトルで特定される光が高い殺菌効果を発揮できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、細胞製剤は、ドナーから採取した細胞を培養することにより製造される。細胞製剤に、汚染物質(例えば、細菌、ウィルスなど)が混入していると人体に重篤な感染症を引き起こしたり、発熱を倦起したりする。細胞を含む液体である培養液の無菌状態、および/又は無ウイルス状態を実現することが求められる。従来の、紫外線照射、放射線放射、高熱処理、高圧処理、エチレンオキサイドガス処理、ガスプラズマ処理などは、細胞へのダメージも無視できないため、細胞の培養を開始した後には適用できない。
【0005】
本開示の一態様は、細胞を含む液体に含まれる汚染物質を除去できる処理方法、上記処理方法を含む細胞含有物の製造方法および上記処理方法を含む細胞によって生成される物質の製造方法を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る処理方法は、細胞を含む液体に対して380nm以上420nm以下のピーク波長を有する照射光を照射する光照射工程と、前記細胞を前記液体中で培養する培養工程と、を含み、前記液体は、少なくとも1つの環状骨格を有する分子であって、2以上の炭素原子にOH基を有する分子を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、細胞を含む液体に含まれる汚染物質を除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1に係る液体の処理の一例を示す図である。
【
図2】本開示の一態様に係る処理方法を適用可能な血清培地が含む分子の一例を示す図である。
【
図3】実施形態1に係る処理装置の概略構成の一例を示す図である。
【
図4】実施形態2に係る細胞含有物の製造方法が含む処理の一例を示す図である。
【
図5】実施形態3に係る培養細胞によって生成される物質の製造方法が含む処理の一例を示す図である。
【
図6】実施形態4に係る処理装置の構成の一例を示す図である。
【
図8】実施例1に用いた光照射装置の概要を示す図である。
【
図10】実施例2における第2試験の測定結果を示す図である。
【
図11】実施例3における第3試験の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態1〕
発明者らは、汚染物質である細菌を添加した血清培地に380nm以上420nm以下のピーク波長を有する照射光を照射することによって、血清培地中の細菌は有意に減少する一方、培養細胞へのダメージは限定的であることを発見した。また、発明者らは、血清培地に380nm以上420nm以下のピーク波長を有する照射光を照射することにより、血清培地中の一成分であるピリドキシンの有意な減少を観測した。
【0010】
この発見および観測結果を契機として、発明者らは、以下のような仮説を立て、この仮説について様々な検証実験を行い、本開示の一態様に係る処理方法を発明するに至った。(仮説)380nm以上420nm以下のピーク波長を有する照射光を血清培地に照射することによって得られた殺菌効果は、少なくとも1つの環状骨格を有する分子であって、2以上の炭素原子にOH基を有する分子が血清培地中に存在することと関連する。
【0011】
(処理方法)
以下、本開示の一実施形態に係る処理方法ついて、詳細に説明する。本実施形態では、細胞を含む液体に対して殺菌処理する処理方法、およびこの処理方法を実施するための光照射装置について説明する。本実施形態において、上記「細胞を含む液体」として培養細胞を含む血清培地を例に挙げて説明する。ここで、「血清培地」とは、血清を含む細胞培養用の血清添加培地を意味する。また、本実施形態では、培養の対象となる細胞が接着細胞である例を説明するが、培養の対象となる細胞は浮遊細胞であってもよい。
【0012】
本開示の処理方法および光照射装置は、培養細胞を含む培養液を処理対象とすることに限定されず、例えば、検体から採取した組織および細胞などを含む液体を処理対象とすることができる。また、本開示の処理方法および光照射装置は、培養液を処理対象とすることに限定されず、例えば、細胞が懸濁された緩衝液などを処理対象とすることができる。
【0013】
まず、本実施形態における細胞を含む液体の処理方法について、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態における処理方法の処理の一例を示す図である。
図1に示すように、まず、細胞を液体中にて培養する(ステップS1:培養工程)。
【0014】
次に、細胞を含む液体に対して380nm以上420nm以下のピーク波長を有する照射光を照射する(ステップS2:光照射工程)。細胞へのダメージを低減しながら血清培地を殺菌するために、当該照射光を405nmのピーク波長を有する光としてもよい(後述する実施例参照)。例えば、ポリスチレン製の培養容器および蓋は、385nm以下の波長の光を吸収する。そのため、405nmのピーク波長を有する光を用いることによって、ポリスチレン製の培養容器の蓋をしたまま血清培地に光照射することができる。
【0015】
照射光の放射照度を20.0W/m2/nm以下とし、かつ、照射時間を60分以下としてもよい。照射条件は、照射光の放射照度(W/m2/nm)と照射光を照射する照射時間(秒)との積によって規定してもよい。例えば、照射条件を、照射光の放射照度(W/m2/nm)と照射光を照射する照射時間(秒)との積によって規定した場合、72000以下としてもよい。照射光の放射照度(W/m2/nm)と照射光を照射する照射時間(秒)との積として算出される数値の単位は(W/m2/nm・s)となる。
【0016】
あるいは、細胞へのダメージを低減しながら血清培地を殺菌するために、照射光の放射照度を4.5W/m2/nm以下とし、かつ、照射時間を30分以下としてもよい。照射条件を、照射光の放射照度(W/m2/nm)と照射光を照射する照射時間(秒)との積が8100(W/m2/nm・s)以下となるようにしてもよい。
【0017】
発明者は、放射照度が4.5W/m2/nm以下であり、かつ、照射時間が30分以下とした照射条件にて培養細胞を含む血清培地に照射光を照射した場合にも、培養細胞へのダメージを低減しつつ殺菌可能であることを確認した(実施例参照)。この照射条件は、照射光の放射照度(W/m2/nm)と照射光を照射する照射時間(秒)との積が8100以下である場合に相当する。上記照射条件は、培養容器の材質、容量、血清培地の透明度(懸濁状態)などの影響によって照射光が吸収されても、充分な効果を奏する照射条件である。よって、この照射条件を採用すれば、細胞へのダメージを低減しながら、血清培地を殺菌することができる。
【0018】
また、光照射の対象となる血清培地は、少なくとも1つの環状骨格を有する分子であって、2以上の炭素原子にOH基を有する分子を含む。
【0019】
後述する実施例の観測結果から、ピリドキシンの存在下において380nm以上420nm以下のピーク波長を有する照射光を照射することにより細胞へのダメージを低減しつつ殺菌可能であることが考えられた。また、ピリオドキシンと同様の構造である、少なくとも1つの環状骨格を有する分子であって、2以上の炭素原子にOH基を有する分子においてもピリオドキシンと同様の効果を得ることができる可能性が考えられた。
【0020】
よって、上記の構成によれば、細胞へのダメージを低減しつつ、血清培地中の細菌を殺菌することにより除去して細胞を培養することができる。
【0021】
また、後述する実施例の結果において、血清培地中のある成分が光照射によって分解された際に活性酸素種が生成され、ピリドキシンは保護剤として当該活性酸素種から培養細胞を保護するように作用する可能性が考えられた。例えば、光照射の対象となる血清培地に活性酸素種の発生源となり得る過酸化水素を添加してもよい。
【0022】
例えば、上記の環状骨格は環状炭素骨格、またはヘテロ環骨格であってもよい。また、上記の環状骨格は芳香環であってもよい。
【0023】
図2は、本開示の一態様に係る処理方法を適用可能な血清培地が含む分子の一例を示す図である。
図2に示すように、当該分子として、ビタミンB6、ビタミンC、カフェー酸、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレータ、没食子酸などを挙げることができる。また、ビタミンB6として、ピリドキシン、ピリドキサール、およびピリドキミンを例として挙げることができる。また、ビタミンCとして、アスコルビン酸を例として挙げることができる。
【0024】
また、光照射工程において、照射光の放射照度が20.0W/m2/nmであり、かつ、照射光を照射する照射時間は60分である場合に、光照射工程後における血清培地中の前記分子の濃度は、光照射工程の前の濃度の50%以下となる。
【0025】
すなわち、当該分子として、放射照度が20.0W/m2/nmであり、かつ、照射時間が60分である光照射工程を行うことにより、当該光照射工程の後の血清培地中の濃度が当該光照射工程の前の濃度の50%以下となる分子を用いてもよい。
【0026】
光照射の対象となる液体は血清培地、または、上記分子が添加された血清添加培地であってもよい。例えば、細胞培養に用いられる一般的な血清培地にはピリドキシンなどが含まれているため、本開示の一態様に係る処理方法を適用可能である。当該分子を含まないそのため、上述した分子を含んでいる血清培地であれば一般的に用いられている血清培地であっても、本実施形態における光照射の対象となる血清培地に含まれる。
【0027】
次に、培地交換工程を行う(ステップS3)。詳細には、細胞培養用容器から血清培地を吸引することによって除去する(ステップS31)。続いて、細胞培養用容器にPhosphate buffered saline(PBS)を注入し、注入したPBSを吸引することによって培養細胞を洗浄する(ステップS32)。続いて、細胞培養用容器に血清培地を注入する(ステップS33)。
【0028】
続いて、処理は、培養工程(ステップS1)に戻る。
【0029】
上記培養工程において培養される細胞は、哺乳類の細胞であってもよい。また、当該細胞培養は、初代培養であってもよいし、継代培養であってもよい。
【0030】
上記の構成によれば、継代培養または初代培養において汚染物質として含まれる細菌を殺菌することができる。
【0031】
また、上記の処理の一例では、光照射工程を行うタイミングとして、培地交換工程の直前を示したが光照射工程を行うタイミングは任意のタイミングとしてもよい。例えば、培地交換工程の直後に光照射工程を行い、その後、培養工程を行ってもよい。また、人体から組織を採取する工程の直後に採取した組織に対して光照射工程を行ってもよい。また、組織から細胞を分離する工程中に光照射工程を行ってもよい。
【0032】
(光照射装置1)
次に、本実施形態における光照射装置1について説明する。
図3は、本実施形態における光照射装置1の概略構成を示す図である。
図3に示すように、光照射装置1は、光源11および温度調整部12を備えている。
【0033】
光源11は、380nm以上420nm以下のピーク波長を有する光を放射する。光源11は、LED(light emitting diode)によって構成されてもよい。また、後述する実施例の結果を参照し、光源11が放射する光を405nmのピーク波長を有する光としてもよい。
【0034】
例えば、後述する実施例の結果を参照し、細胞へのダメージを低減しながら殺菌するために、光源11から照射対象に照射される照射光の放射照度を4.5W/m2/nm以下に設定してもよい。また、当該放射照度の照射光の照射時間を30分以下としてもよい。
【0035】
また、細胞培養用容器の材質、容量、血清培地の透明度(懸濁状態)などの影響によって照射光が吸収されても、充分な照射光を当該液体に照射するために、照射光の放射照度を20.0W/m2/nm以下に設定してもよい。また、当該放射照度の照射光の照射時間を60分以下としてもよい。
【0036】
温度調整部12は光照射装置1による照射対象の温度を調整する。温度調整部12はペルチェ素子などによって構成されてもよい。
【0037】
また、
図3には示していないが、光照射装置1は、光照射装置1から生じる熱を放熱するためのファンを備えていてもよい。
【0038】
〔実施形態2〕
本開示の他の実施形態について、以下に説明する。また、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。本実施形態では、培養された細胞を含む液体に対して殺菌処理する処理方法を含む細胞含有物の製造方法について説明する。
【0039】
(細胞含有物の製造方法)
本実施形態における細胞含有物の製造方法について説明する。
図4は、本実施形態における製造方法の処理の一例を示す図である。
図4に示すように、まず、実施形態1にて説明した細胞を含む液体の処理である培養工程(ステップS1)、光照射工程(ステップS2)、培地交換工程(ステップS3)および、培養工程(ステップS1)を行う。これらの工程の詳細な説明はここでは繰り返さない。
【0040】
次に、細胞回収工程を行う(ステップS4)。詳細には、細胞培養用容器から血清培地を吸引して除去する(ステップS41)。続いて、細胞培養用容器にPBSを注入し、注入したPBSを吸引することによって培養細胞を洗浄する(ステップS42)。続いて、細胞培養用容器にトリプシンを注入する(ステップS43)。続いて、細胞培養用容器を、37℃、5% CO2のインキュベーター内に3から5分間静置して、細胞培養用容器から細胞を剥離させる(ステップS44)。続いて、細胞培養用容器に血清培地を注入して、血清培地に拡散させる(ステップS45)。続いて、培養細胞が拡散した血清培地を遠心分離する(ステップS46)。遠心分離後、上澄み液を吸引して除去する(ステップS47)。
【0041】
次に、細胞保存工程を行う(ステップS5)。詳細には、ステップS46の遠心分離によって生じる沈殿物にPBSおよび凍結保護剤を加える(S51)。続いて、PBSおよび凍結保護剤に拡散した培養細胞を凍結保存する(ステップS52)。
【0042】
上記の構成によれば、細胞へのダメージのおそれを低減しながら、血清培地に汚染物質として含まれる細菌を殺菌することができる方法を用いた血清培地によって培養された細胞含有物を製造することができる。
【0043】
また、光照射工程は、細胞培養の処理後の任意のタイミングで行われてもよい。
【0044】
〔実施形態3〕
本開示の他の実施形態について、以下に説明する。また、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。本実施形態では、培養細胞を含む液体に対して殺菌処理する処理方法を含む当該培養細胞によって生成される物資の製造方法について説明する。
【0045】
(細胞によって生成される物質の製造方法)
本実施形態における細胞によって生成される物資の製造方法について説明する。
図5は、本実施形態における製造方法の処理の一例を示す図である。
図5に示すように、まず、実施形態1にて説明した細胞を含む液体の処理である培養工程(ステップS1)、光照射工程(ステップS2)、培地交換工程(ステップS3)および、培養工程(ステップS1)を行う。これらの工程の詳細な説明はここでは繰り返さない。
【0046】
次に、培地回収工程を行う(ステップS6)。詳細には、細胞培養用容器から血清培地を吸引することによって血清培地を回収する(ステップS41)。
【0047】
本実施形態においては、培養細胞が細胞外の血清培地に分泌するタンパク質などの生成物の製造方法の一例を説明した。上述の培地回収工程(ステップS6)を、任意の細胞生成物に対する適切な回収工程に変更してもよい。例えば、当該細胞生成物を、ペプチド、核酸、低分子、細胞外に分泌されないタンパク質などとしてもよい。
【0048】
上記の構成によれば、細胞へのダメージのおそれを低減しながら、血清培地に汚染物質として含まれる細菌を殺菌した血清培地によって培養された細胞によって生成される物質を製造することができる。
【0049】
また、光照射工程は、細胞培養の処理後の任意のタイミングで行われてもよい。
【0050】
〔実施形態4〕
本開示の他の実施形態について、以下に説明する。また、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰
り返さない。
【0051】
(処理装置100)
図6は、本実施形態における処理装置100の概略構成を示す図である。
図6に示すように、処理装置100は、貯留容器110と、光照射部101と、フィルタ130と、ポンプ140と、分注部150と、チューブ160とを備えている。処理装置100は、貯留容器110に貯留された、細胞を含む液体Lとしての細胞製剤を小容器90に分注するための分注装置である。
【0052】
貯留容器110は、培養された細胞を含む液体Lを貯留する容器である。本実施形態では、貯留容器110には、ワーキングセルバンクから拡大培養することにより量産された液体Lが貯留されている。液体Lは、培養された細胞が血清培地に懸濁された懸濁液であってよい。貯留容器110は、透光性を有する材料で構成されている。
【0053】
光照射部101は、貯留容器110に貯留された液体Lに対して、照射光を照射する。光照射部101は、例えば、LED(light emitting diode)によって構成されてもよい。光照射部101は、実施形態1にて説明した光照射装置1と同様に照射光を照射できる。よって、光照射部101は、照射光を照射することにより、細胞へのダメージのおそれを低減しながら、液体Lに汚染物質として含まれる細菌を殺菌することにより除去することができる。
【0054】
フィルタ130は、処理装置100における、貯留容器110から小容器90までの液体Lが移動する経路において、光照射部101の下流に設けられている。フィルタ130は、例えば樹脂によって構成されたチューブ160によって貯留容器110と接続されている。フィルタ130は、光照射部101によって照射光が照射された後の液体Lに含まれる除去対象物質を除去する。本実施形態における処理装置100では、培養された細胞を含む液体Lに含まれるエンドトキシンおよび/又は光照射部101にて不活性化された菌を除去対象物質としている。
【0055】
ポンプ140は、チューブ160を通して、液体Lを貯留容器110からフィルタ130に送液可能となっている。ポンプ140は、例えば、インペラが密閉されたケーシングの中で非接触に浮上し、モータの回転磁界によって駆動される磁気浮上ポンプであってもよい。
【0056】
分注部150は、フィルタ130によってエンドトキシンおよび細菌(不活化できなかった細菌、および不活化し死骸となった細菌)が除去された液体Lを複数の小容器90に無菌的に分注する。ここで、「無菌的に」とは、使用する器具、装置、および/又は使用部位について無菌状態が保たれている状態であることを意味する。分注部150の構成は、液体Lを無菌的に分注可能であれば特に限定されるものではなく、従来公知の装置を用いることができる。
【0057】
[実施例1]
本開示の一実施例について以下に説明する。
【0058】
本実施例では、血清培地中で光を照射することによる殺菌作用について調査する試験を行った。具体的には、後述の第1試験を行った。
【0059】
(実験方法)
図7は本実施例の実験方法を示す図である。
図7に示すように、実験対象となる細菌をPBSに拡散し、拡散液を作製した。
【0060】
はじめに、マクファーランド比濁(MF)法により、実験対象となる細菌のPBS拡散液のMF係数を測定した。当該測定にはMF係数測定装置(デシントメーター)を用いた。
【0061】
菌を拡散していないPBSをコントロールとして、以下に示すようにMF係数を算出した。
【0062】
拡散液のMF係数=コントロールPBSの実測値-細菌の拡散液の実測値
次に、MF係数に対して規定されている菌数を参照し、拡散液の菌数を算出した。
【0063】
MF係数と菌数とは、以下のように規定されている。
【0064】
MF係数1~1.9:300×106 CFU
MF係数2~2.9:600×106 CFU
MF係数3~3.9:800×106 CFU
その後、拡散液における菌濃度の桁数が×107 CFUとなるように、原液(×107)を調製した。
【0065】
この原液(×107)から、10倍希釈系列の希釈液(×106から×101)を調製した。ここで、希釈液は、×106から×101の順に菌体数が10倍ずつ希釈されている。これらの希釈液を実験に供した。
【0066】
原液(×10
7)および各希釈率(×10
6から×10
1)の希釈液を96ウェルプレートに分注した。96ウェルプレートに分注した希釈液に対して30分間光照射した。
図8は本実施例に用いた光照射装置1aの概要を示す図である。
図8に示すように、光照射装置1aは光源11a、調光器13aおよび支持部14aを備えている。光源11aとして、幅W1が11cmである紫LEDを用いた。支持部14aは光源11aを所定の位置に支持する。光源11aと照射対象との距離である照射距離が40mmとなるように支持部14aの高さを設定した。すなわち、
図8に示すように、96ウェルプレートの底部と光源11aとの距離D1が40mmとなる位置に光源11aを支持するように支持部14aの高さを設定した。支持部14aとして、ラボジャッキを用いた。調光器13aは、光源11aが放射する光を調整する。本実施例では、光源11aが放射する光が、405nmのピーク波長を有する光(405nmに鋭い強度ピークを有する光)となるように調整した。また、光源11aが放射する光の放射照度が4.5W/m
2/nmとなるように調整した。
【0067】
図7に示すように、光照射された細菌の希釈液を標準寒天培地に播種し、インキュベーター内で37℃、72時間の培養を行った。培養後に、標準寒天培地に形成されたコロニーの数をカウントした。
【0068】
また、対照区として、光照射していない細菌の希釈液を標準寒天培地に播種し、標準寒天培地に形成されたコロニーの数をカウントした。
【0069】
<第1試験>
本試験では上記の対象細菌としてグラム陰性菌である緑膿菌に対する殺菌作用を調査した。
【0070】
血清培地により希釈され、かつ、光照射処理されていない対照区(cntrol:未処理区)の希釈液が播種された培養後の標準寒天培地においては、×103、×102および×101の希釈率の希釈液を播種した標準寒天培地にコロニーの形成が確認された。
【0071】
詳細には、×101の希釈率の希釈液を播種した標準寒天培地においては、20Colony Forming Unit(CFU)が確認された。また、×102の希釈率の希釈液を播種した標準寒天培地においては、100CFUよりも大きい値のCFUが確認された。また、×103の希釈率の希釈液を播種した標準寒天培地においては、1000CFUよりも大きい値のCFUが確認された。
【0072】
また、血清培地により希釈され、かつ、光照射処理された希釈液(処理区、サンプル数は3)が播種された培養後の標準寒天培地においては、対照区に比べて小さい値のCFUが確認された。
【0073】
詳細には、×101の希釈率の希釈液を播種した標準寒天培地においては、CFUの値は0であった。また、×102の希釈率の希釈液を播種した標準寒天培地においては、CFUの値は0であった。また、×103の希釈率の希釈液を播種した標準寒天培地においては、1CFU、1CFUおよび3CFUが確認された。
【0074】
これらの結果から、血清培地中における光照射処理はグラム陰性菌に対して殺菌作用を示すことが示唆された。
【0075】
[実施例2]
本開示の他の実施例について以下に説明する。
【0076】
本実施例では、血清培地中における光照射処理による培養細胞に対する毒性について調査した。具体的には、後述の第2試験を行った。
【0077】
(実験方法)
図9は本実施例の実験方法を示す図である。本実施例では、培養細胞として間葉系幹細胞(Lonza社のヒト脂肪由来幹細胞)を用いた。
【0078】
図9に示すように、25cm
2の増幅領域を備えている細胞培養用フラスコにおいて、血清培地を用いて初代培養細胞を培養した。顕微鏡を用いて当該培養細胞の形態を観察した。細胞が所定の密集度になることを確認し、アスピレーターを用いて血清培地を吸引した。続いて、5mlのLonza社のHEPES BUFFERED SALINEを細胞培養用フラスコに注入し、HEPES BUFFERED SALINEが均一となるようにフラスコを軽く動かした。その後、アスピレーターを用いてHEPES BUFFERED SALINEを吸引した。続いて、1mlのLonza社のTrypsin/EDTAを細胞培養用フラスコに注入した。その後、細胞培養用フラスコを、37℃、5% CO
2のインキュベーター内に3から5分間静置した。その後、顕微鏡を用いて細胞培養用フラスコの細胞が剥離したことを確認した。続いて、細胞培養用フラスコの底を軽く叩くことによって、細胞培養用フラスコから細胞が剥離するのを促した。その後、4mlのLonza社のTrypsin Neutralization Solution(TNS)を細胞培養用フラスコに加えて攪拌した。続いて、細胞懸濁液10μlとトリパンブルー10μlとをチューブの蓋上にて混ぜて、顕微鏡を用いて細胞数をカウントした。その後、1000rpm、5分間にて遠心分離を行った。遠心分離後、上澄み液を吸引した。続いて、遠心分離によって生じる沈殿物に5mlのLonza社の培地ADSC BulletKit(Lonza)を加えて、攪拌した。細胞濃度を1から1.3×10
5cells/mlとなるように調整した。続いて、
図9に示すように、96ウェルプレートの各ウェルに100μlの細胞懸濁液を播種した。その後、顕微鏡を用いて細胞の形態を確認した。播種した細胞を、37℃、5% CO
2のインキュベーター内にて24時間培養した。
【0079】
培養後の培養細胞の形態を撮影した。その後、96ウェルプレートから培地を吸引し、各ウェルに200μlのGIBCO社のPBS、PH7.4を加えた。96ウェルプレートを軽く動かすことによって培養細胞を洗浄し、アスピレーターを用いてPBSを吸引した。その後、各ウェル(n=8)に100μlの血清培地を加えた。その後、各ウェルに気泡がないことを目視にて確認した。続いて、クリーンベンチの中で、96ウェルプレート内の培養細胞に405nmのピーク波長を有する光を照射した。光源と照射対象との距離である照射距離を40mmとした。また、放射照度は、4.5W/m2/nm、8W/m2/nmまたは16W/m2/nmとした。また、照射時間は、30分、60分または120分とした。また、405nmのピーク波長を有する光を照射していない培養細胞(Control 非照射)およびultraviolet(UV)を照射した培養細胞(Control UV照射)を対象区とした。
【0080】
光照射の後、アスピレーターを用いて各ウェルから血清培地を吸引した。続いて、各ウェルに100μlの血清培地を加えた。その後、顕微鏡を用いて細胞の形態を確認した。続いて、37℃、5%CO2のインキュベーター内にて光照射された細胞を、24時間培養した。培養後、培養細胞の形態を撮影した。その後、各ウェルから血清培地を吸引し、各ウェルに200μlのGIBCO社のPBS、PH7.4を加えて培養細胞を洗浄した。続いて、アスピレーターを用いてPBSを吸引した。Lonza社の培地ADSC BulletKitと同仁化学社のCell Counting Kit 8とを10:1の比率で混合した110μlの混合液を各ウェルに加えた。4つのウェルをBlankとした。その後、96ウェルプレートをインキュベーター内に1.5時間静置した。続いて、プレートリーダーで96ウェルプレートの各ウェルにおける波長450nmの吸光度を測定した。
【0081】
Control 非照射の培養細胞において測定された吸光度に対する、各条件にて光照射された培養細胞において測定された吸光度の百分率を算出した。当該百分率を各条件にて光照射された培養細胞の生存率とした。
【0082】
<第2試験>
図10は、第2試験の測定結果を示す図である。
図10の上段左には、光照射後に24時間培養した培養細胞の状態を示す表が示されている。当該表における「〇」は、培養細胞の多くがウェルに接着し進展している状態であることを示している。また、当該表における「×」は、培養細胞の多くがウェルから浮遊している状態であることを示している。
【0083】
当該表に示すように、4.5W/m2/nmの放射照度、かつ、30分の照射時間にて培養細胞に光照射を行った場合、培養細胞の多くがウェルに接着し進展していた。また、4.5W/m2/nmの放射照度、かつ、120分の照射時間にて培養細胞に光照射を行った場合、培養細胞の多くがウェルから浮遊していた。
【0084】
また、8W/m2/nmおよび16W/m2/nmの放射照度にて培養細胞に光照射を行った場合、いずれの照射時間においても培養細胞の多くがウェルから浮遊していた。特に、照射時間を30分としても培養細胞の多くがウェルから浮遊していた。
【0085】
図10の下段には、光照射前の培養細胞の撮影画像および30分間の光照射後に24時間培養した培養細胞の撮影画像が示されている。
図10の撮影画像が示すように、光照射前の培養細胞、「Control 非照射」の培養細胞および「4.5W/m
2/nmの放射照度」によって光照射された培養細胞では、培養細胞の多くがウェルに接着し進展していることが観測された。一方、「8.0W/m
2/nmの放射照度」によって光照射された培養細胞および「Control UV照射」の培養細胞では、培養細胞の多くがウェルから浮遊していることが観測された。
【0086】
図10の上段右には、30分間の光照射後に24時間培養した培養細胞の生存率を示すグラフが示されている。
図10のグラフが示すように、4.5W/m
2/nmの放射照度によって光照射された培養細胞の生存率は77.8%だった。また、8.0W/m
2/nmの放射照度によって光照射された培養細胞の生存率は33.3%だった。また、「Control UV照射」の培養細胞の生存率は2.3%だった。
【0087】
上記結果から、照射光の放射照度を4.5W/m2/nm以下とし、かつ、照射時間を30分以下とすることによって、光照射による細胞へのダメージを低減できることが示唆された。
【0088】
また、照射光の放射照度と前記照射光を照射する照射時間との積算値を、2.25W/m2/nm・h以下とすることによって、光照射による細胞へのダメージを低減できることが示唆された。
【0089】
[実施例3]
本開示の他の実施例について以下に説明する。
【0090】
本実施例では、血清培地に405nmのピーク波長を有する光を照射することによる血清培地が含む成分の変化について調査した。具体的には、後述の第3試験を行った。
【0091】
(実験方法)
血清培地に405nmのピーク波長を有する光を照射することによって生じる血清培地が含む成分の変化について、LC-MS測定を用いて調査した。
【0092】
〈血清培地〉
血清培地として、LONZA社の培地ADSC BulletKitを用いた。当該血清培地に対して、405nmのピーク波長を有する光を照射した。光源と照射対象との距離である照射距離を40mmとした。また、放射照度を16W/m2/nmとし、照射時間を120分とした。また、405nmのピーク波長を有する光を照射していない血清培地を対象区(非照射)とした。
【0093】
〈LC-MS測定の前処理〉
試料中のたんぱく質を除去するために、Merk社のAmicon(登録商標)ウルトラフィルターを用いて試料を遠心分離した。その後、0.2Nに濃度調整した塩酸に1:1(体積比)で混合し、試料溶液とした。
【0094】
〈LC-MS測定〉
5μlの試料溶液を液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)にて測定した。
【0095】
《液体クロマトグラフィー(LC)》
LCは島津社のLC-20 ACを用いた。LCは以下の条件によって行った。
【0096】
使用カラム:Intrada Amino Acid 3μm 50mm×2mm
溶離液:A=0.3%ギ酸入りアセトニトリル、B=100mM ギ酸アンモニウム
グラジエント:B% 3(3分)-20(8分)-100(15分)
流量:0.6ml/分
カラム温度:35℃
《質量分析(MS)》
MSは、ブルカー社のcompactを用いた。質量分析は以下の条件によって行った。
【0097】
イオン化法:ESI(エレクトロスプレーイオン化法)、POS
<第3試験>
図11は、第3試験の測定結果を示す図である。
図11の上段には、405nmのピーク波長を有する光を照射していない血清培地(非照射)のLC-MS測定から得られたマススペクトルが示されている。また、
図11の下段には、405nmのピーク波長を有する光を照射した血清培地(405nm 照射)のLC-MS測定から得られたマススペクトルが示されている。
【0098】
図11に示すように、光照射されていない血清培地におけるLC-MS測定から得られたマススペクトルにはピークAが観測された。一方で、光照射された血清培地におけるLC-MS測定から得られたマススペクトルには、当該ピークAに対応するピークが確認されなかった。また、ピークAはピリドキシンを示すピークであった。
【0099】
上記結果から、血清培地において405nmのピーク波長を有する光を照射することにより得られる細胞へのダメージのおそれを低減できる殺菌作用にピリドキシンが関与していることが考えられた。
【0100】
発明者は、ピリドキシンについて、以下の2つの何れかの作用を推測した。
【0101】
(1)ピリドキシンが光照射によって分解され活性酸素種を生成する。当該活性酸素種が、細菌に対して殺菌作用を示す。
【0102】
(2)血清培地中のある成分が光照射によって分解され活性酸素種を生成する。ピリドキシンは保護剤として当該活性酸素種から培養細胞を保護するように作用する。
【0103】
また、上記観測結果から、ピリドキシンと同様の以下の構造を有する分子の存在下において405nmのピーク波長を有する照射光を照射することにより細胞へのダメージを低減し、かつ殺菌可能であることが考えられた。上記ピリドキシンと同様の構造とは、少なくとも1つの環状骨格を有する分子であって、2以上の炭素原子にOH基を有する構造である。
【0104】
〔まとめ〕
本開示の態様1に係る処理方法は、細胞を含む液体に対して380nm以上420nm以下のピーク波長を有する照射光を照射する光照射工程(ステップS2)と、前記細胞を前記液体中で培養する培養工程(ステップS1)と、を含み、前記液体は、少なくとも1つの環状骨格を有する分子であって、2以上の炭素原子にOH基を有する分子を含む。
【0105】
本開示の態様2に係る処理方法は、前記態様1において、前記光照射工程において、前記照射光の放射照度が20.0W/m2/nm以下であり、かつ、前記照射光を照射する照射時間は60分以下であってもよい。
【0106】
本開示の態様3に係る処理方法は、前記態様1において、前記光照射工程において、前記照射光の放射照度が4.5W/m2/nm以下であり、かつ、前記照射光を照射する照射時間は30分以下であってもよい。
【0107】
本開示の態様4に係る処理方法は、前記態様1または2において、前記光照射工程において、前記照射光の放射照度(W/m2/nm)と照射時間(秒)との積は、72000以下であってもよい。
【0108】
本開示の態様5に係る処理方法は、前記態様1から4の何れかにおいて、前記環状骨格は環状炭素骨格、またはヘテロ環骨格であってもよい。
【0109】
本開示の態様6に係る処理方法は、前記態様1から4の何れかにおいて、前記環状骨格は芳香環であってもよい。
【0110】
本開示の態様7に係る処理方法は、前記態様1から4の何れかにおいて、前記分子は、ビタミンB6、ビタミンC、カフェー酸、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレータ、没食子酸のうちの少なくともいずれかであってもよい。
【0111】
本開示の態様8に係る処理方法は、前記態様1から4の何れかにおいて、前記光照射工程において、前記照射光の放射照度が20.0W/m2/nmであり、かつ、前記照射光を照射する照射時間は60分である場合に、前記光照射工程後における前記液体中の前記分子の濃度が前記光照射工程の前の濃度の50%以下となってもよい。
【0112】
本開示の態様9に係る処理方法は、前記態様1から8の何れかにおいて、前記細胞は、継代培養に用いられる培養細胞であってもよい。
【0113】
本開示の態様10に係る処理方法は、前記態様1から8の何れかにおいて、前記細胞は、初代培養に用いられる細胞であってもよい。
【0114】
本開示の態様11に係る処理方法は、前記態様1から10の何れかにおいて、前記液体は血清添加培地、または、前記分子が添加された血清添加培地であってもよい。
【0115】
本開示の態様12に係る細胞含有物の製造方法は、前記態様1から11のいずれかの処理方法を含んでもよい。
【0116】
本開示の態様13に係る細胞によって生成される物質の製造方法は、前記態様1から11のいずれかの処理方法を含んでもよい。
【0117】
以上、本開示に係る発明について、諸図面および実施例に基づいて説明してきた。しかし、本開示に係る発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。すなわち、本開示に係る発明は本開示で示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示に係る発明の技術的範囲に含まれる。つまり、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。また、これらの変形または修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。
【符号の説明】
【0118】
ステップS1 培養工程
ステップS2 光照射工程