(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030627
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ユーロピウム12ホウ化物・25ホウ化物及びその複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 35/04 20060101AFI20240229BHJP
B01J 3/06 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C01B35/04 A
B01J3/06 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133623
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111707
【弁理士】
【氏名又は名称】相川 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 斉
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 文俊
(57)【要約】
【課題】これまで合成することができなかった多ホウ化ユーロピウムであって、硬質性の多ホウ化ユーロピウムを生成する。
【解決手段】一般式がEuB
12及び/又はEuB
25で表すことができる結晶を含むEuB
n化合物であって、9<n<28であることを特徴とするホウ化ユーロピウム化合物、及びこれを含む複合化合物を提供する。多ホウ化ユーロピウム化合物は、硬質材料として優れており、中性子線遮蔽材としても期待される。原子炉等における中性子遮蔽材、特に摺動材として用いられ得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EuB12結晶及び/又はEuB25結晶を含む化合物を含有する硬質材料。
【請求項2】
前記化合物のEuが3価であることを特徴とする請求項1に記載の硬質材料。
【請求項3】
前記EuB12結晶の結晶構造は、Fm-3mの空間群に属する立方晶構造であってもよく、空間群番号は225であってもよいことを特徴とする請求項1又は2に記載の硬質材料。
【請求項4】
前記EuB25結晶の結晶構造は、I2/mの空間群に属する単斜晶構造であってもよく、空間群番号は12であってもよいことを特徴とする請求項1又は2に記載の硬質材料。
【請求項5】
実質的にEuB12結晶のみからなる化合物を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の硬質材料。
【請求項6】
実質的にEuB25結晶のみからなる化合物を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の硬質材料。
【請求項7】
EuB12結晶及びEuB25結晶を含む化合物からなる硬質材料を含む複合材料。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の硬質材料を含む中性子線遮蔽材。
【請求項9】
1種以上のEuBm化合物(0<m≦6)及びホウ素を所定の比率で混合した原料を、超高圧下で、2000K以上の温度に加熱する、一般式がEuBn(9<n<15)で表され、EuB12結晶及び/又はEuB25結晶を含む化合物を含有することを特徴とする硬質材料の製造方法。
【請求項10】
超高圧が、15GPa以上の圧力であってもよいことを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
ダイヤモンドアンビルセルを用いレーザー加熱することを特徴とする請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項9又は10の製造方法において、1種以上のEuBm化合物(0<m≦6)及びホウ素の混合比率を調整して、EuB12結晶及びEuB25結晶の含有割合を調整することを特徴とする硬質材料における含有割合の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーロピウム12ホウ化物・25ホウ化物及びその複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類多ホウ化物については、磁性体や電界放射電子源等の研究から古くから合成研究がおこなわれてきた。これらは、高温でも比較的安定で、難溶性であり、半導体、超伝導体、反磁性、常磁性、強磁性、反強磁性の材料として注目されることもある。例えば、6ホウ化ランタンは、耐熱性があり、不活性及び難溶性化合物で、電極の放出のための低い仕事関数のために熱カソードに適しており、また、光吸収材として優れることが知られている(例えば、特許文献1)。また、ホウ化イットリウム(YB6、YB12、YB25、YB50、YB66)は、硬質の固体で高い融点を有することが知られており、特に、YB6は、比較的高い温度(8.4 K)で超電導を示し、LaB6と同じく陰極線管に適しているが、LaB6などの他の六ホウ化物と同じ構造を持つ。また、YB12の構造は立方晶で、その密度は3.44 g・cm-3であり、ピアソン記号はcF52、空間群はFm-3m(No.225)、格子定数はa=0.7468 nmであり、優れた熱電材料とされている。他の希土類ホウ化物も、その特性から、半導体、超伝導体、反磁性、常磁性、強磁性、反強磁性の材料並び光吸収材及び熱電材料(例えば、特許文献2)、更には、硬質材料(又は硬質物質)として用いられている(例えば、特許文献3)。
【0003】
このようなホウ化物において、ホウ素の融点が高いため高温の発生が可能なFZ(フロートゾーニング)法等により、一気圧下で合成されてきた。一方、ホウ化プラセオジム化合物やホウ化セリウム化合物については、高温及び高圧条件下で、合成されることも試みられてきた(例えば、特許文献4及び5並びに非特許文献1)。しかしながら、希土類十二ホウ化物に関して、ユーロピウム12ホウ化物(EuB
12)等の希土類化合物の合成はできなかった。これは、ユーロピウム(Eu)の原子・イオン半径が、重希土類元素と呼ばれるガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホロニウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)に比べ、大きいことにあると考えられた(
図8)。GdB
12やSmB
12については、高圧での製造が報告されている(例えば、非特許文献2又は3)。RB
12(Rは希土類元素)といったホウ素濃度の大きな多ホウ化物は、切頂八面体のホウ素ケージ構造をとり、その中心に希土類元素が位置する構造となるため、軽希土類元素と呼ばれるような大きな元素は取り入れにくいと言われている(例えば、非特許文献4)。
【0004】
ところで、ホウ化ユーロピウムは、上述の特性以外に高い中性子線吸収能において、原子炉などの遮蔽材として期待されている(例えば、非特許文献5)。また、硬質材料としても期待されている。そして、硬質材料は、一般に、工具用の材料として、また、摺動部品のコーティング材としても活用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-84385号公報
【特許文献2】特開2012-44201号公報
【特許文献3】特開2002-294384号公報
【特許文献4】特開2022-39675号公報
【特許文献5】特開2022-82013号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H. Yusa, F. Iga and H. Fujihisa,「High-Pressure Synthesis of Light Lanthanide Dodecaborides (PrB12 and CeB12): Effects of Valence Fluctuation on Volume and Formation Pressure」, Inorg.Chem., 2022,61,2568-2575
【非特許文献2】Cannon, J. F.; Cannon, D. M.; Tracy Hall, H., 「High pressure syntheses of SmB2 and GdB12. Journal of the Less Common Metals」 1977,56(1),83-90.
【非特許文献3】希土類ホウ化物の高圧合成, 高圧力の科学と技術 2016, 26(3),216-224.
【非特許文献4】Mori, T., Higher Borides. In Handbook on the Physics and Chemistry of Rare Earths, Gschneidner, K. A.; Buenzli, J.-C. G.; Pecharsky, V. K., Eds. Elsevier: 2008; Vol.38, pp105-173.
【非特許文献5】Sanjay Kumar, Nagaiyar Krishnamurthy;「Synthesis and characterization of EuB6 by borothermic reduction of Eu2O3」 Processing and Application of Ceramics 5 [3] (2011)149-154
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、希土類元素のホウ化物は、磁性材料、半導体、トポロジカル絶縁体、超伝導体材料のような電子材料、その他の電磁気材料等、遮蔽材、硬質材料としても期待されており、特に、EuB12は、光学的材料としても優れていると考えられる。しかるに、各希土類元素の融点の高さ及びサイズから、製造が容易ではなく、未だ作成したとの報告を聞いていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、EuB
12を合成するためには、その点を考慮した合成法が必要となると考えられ、このような困難な条件を克服して、種々期待されるEuB
12を提供する。本発明の実施例に係る多ホウ化物は、EuB
12を含んでよい。
図8にあるように、希土類元素のイオン(Ln
3+)のサイズは、配位数6又は9において、Ho、Dy、Tb、Gd、Eu、Sm、Pm、Nd、Prの順に大きくなる。サイズが小さいものは、その12ホウ化物は一気圧下でもフローティングゾーン法でも可能であるが、EuB
12ではより高い圧力をかけて製造を行うことが考えられた。
【0009】
原子サイズを縮めた状態で希土類元素をホウ素ケージ構造に取り込むためには、高圧法により合成することが適していると考えられる。また、一気圧での合成法と同様に、ホウ化物合成はホウ素の融点が高いこともあるため、高圧下での合成においても、より高い温度が求められる。そのため、高圧下でレーザー加熱を組み合わせることにより、高圧高温状態を発生させることでEuB12並びにEuB25の合成に取り組んだ。例えば、高圧下で高温の発生が可能な、レーザー加熱ダイヤモンドアンビルセルを用いてユーロピウム6ホウ化物(EuB6)とホウ素(B)の混合物を高圧下でレーザー加熱することにより、ユーロピウム12ホウ化物の合成、並びにユーロピウム12ホウ化物とユーロピウム25ホウ化物の複合体の合成を試みた。
【0010】
より具体的には、以下のものを提供することができる。
EuB12結晶及び/又はEuB25結晶を含む化合物を含有する硬質材料。
上記化合物のEuが3価であることを特徴とする上述のいずれかに記載の硬質材料。
上記EuB12結晶の結晶構造は、Fm-3mの空間群に属する立方晶構造であってもよく、空間群番号は225であってもよいことを特徴とする上述のいずれかに記載の硬質材料。
上記EuB25結晶の結晶構造は、I2/mの空間群に属する単斜晶構造であってもよく、空間群番号は12であってもよいことを特徴とする上述のいずれかに記載の硬質材料。
実質的にEuB12結晶のみからなる化合物を含有することを特徴とする上述のいずれかに記載の硬質材料。
実質的にEuB25結晶のみからなる化合物を含有することを特徴とする上述のいずれかに記載の硬質材料。
EuB12結晶及びEuB25結晶を含む化合物からなる硬質材料を含む複合材料。
上述のいずれかに記載の硬質材料を含む中性子線遮蔽材。
1種以上のEuBm化合物(0<m≦6)及びホウ素を所定の比率で混合した原料を、超高圧下で、2000K以上の温度に加熱する、一般式がEuBn(9<n<15)で表され、EuB12結晶及び/又はEuB25結晶を含む化合物を含有することを特徴とする硬質材料の製造方法。
超高圧が、15GPa以上の圧力であってもよいことを特徴とする上述する何れかに記載の製造方法。
ダイヤモンドアンビルセルを用いレーザー加熱することを特徴とする上述のいずれかに記載の製造方法。
上述するいずれかの製造方法において、1種以上のEuBm化合物(0<m≦6)及びホウ素の混合比率を調整して、EuB12結晶及びEuB25結晶の含有割合を調整することを特徴とする硬質材料における含有割合の調整方法。
【0011】
ここで、含まれるEuは、Eu2+及びEu3+の混合であってもよい。硬質材料又は全体化合物として考えると、価数は、2より大きく、3以下であってもよい。実質的にEuB12結晶或いはEuB25結晶のみからなるとは、主成分がいずれかの結晶であることを意味してよい。所定の比率で混合するとは、化学反応式に合わせて、当量となるような比率で秤量することを含んでよい。上述するnについて、9<n<28であってもよい。また、11<nであってもよく、n<13であってもよく、11<n<13と、表現されてもよい。一般式がEuBnで表されるEuBn化合物又は複合体は、主に、EuB12結晶を含む場合は9<n<15であると考えられ、主に、EuB25結晶を含む場合は22<n<28であると考えられる。それ以外の場合は、9<n<28であり、配合比に応じてnの範囲は決定されるかもしれない。また、Eu3+だけでなくEu2+が混在してもよい。Eu3+の相対モル%が、10%以上が好ましく、20%以上が好ましく、40%以上が好ましく、又は50%以上が好ましい。100%以下若しくは100%未満が好ましい。価数は、具体的には、2.1以上、2.2以上、2.3以上、2.4以上、2.5以上、又は2.6以上であってもよい。また、3以下若しくは3未満であってもよい。上述するいずれかの加熱温度について、2000K以上であってよく、2100K以上であってよく、2200K以上であってよい。また、3200K以下であってよく、3100K以下であってよく、3000K以下であってよく、2900K以下であってもよい。また、上述する何れかの圧力は、15GPa以上であってもよく、16GPa以上であってもよく、17GPa以上であってもよく、18GPa以上であってもよく、19GPa以上であってもよく、20GPa以上であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
超高圧下(例えば、15GPa以上)でユーロピウム多ホウ化物の原料となり得る化合物を閉じ込め、更にレーザーにより高温に加熱することにより、高温(例えば、2000~3000K)の条件下で、ユーロピウム多ホウ化物を合成することができる。合成されるユーロピウム多ホウ化物は、常圧常温下で取り出しても安定である。そのユーロピウム多ホウ化物において、主にEuB12結晶が含まれ得る。これらのEuB12結晶はいずれもこれまでに報告がなされていない新規な結晶であり、化合物でもある。このようにユーロピウム多ホウ化物は、常圧常温下で安定であるので、種々の形態でその機能を活用する分野の素材として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例において、EuB
12の結晶構造を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施例において、EuB
25の結晶構造を示す模式図である。
【
図3】ダイヤモンドアンビルを備えたダイヤモンドアンビルセルの全体を示す模式図である。
【
図4】
図3のダイヤモンドアンビルセルの細部を示す模式図である。
【
図5】X線構造解析のための測定系を示す図である。
【
図6】本発明の実施例において、実験例2の試料のX線回折結果を示す図である。
【
図7】EuB
6及びEuB
12及びEuB
25の圧縮曲線を比較する図である。
【
図8】La系希土類元素の3価のイオン半径(配位数6及び配位数9の場合)をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0015】
これまで、希土類ホウ化物は、例えば、希土類酸化物粉末及びホウ素粉末を所定の割合で混合し、圧粉し、真空中又は不活性ガス中で加熱することにより、得られてきた。この時の化学反応は、次の式が期待される。ここで、Rは希土類元素である。
R2O3+(2n+3)B → 2RBn+3BO↑
このときnを変化させながら、希土類ホウ化物を製造することができる。しかしながら、nが大きいと、充分に反応しないこともある。そこで、ここでは、EuB6をまず製造する。反応式は以下の通りである。2価のEu酸化物も利用可能であるが、ここでは、3価のEu酸化物を用いる。
Eu2O3+15B → 2EuB6+3BO↑
【0016】
具体的には、Eu2O3粉末と、B粉末とを当量秤量し、自動乳鉢で30分間、攪拌・混合を行い、混合粉末をラバープレス等で圧粉し、真空や不活性ガス等の非酸化性雰囲気下で、1000℃以上の温度で所定時間焼成する。そして、反応後のEuB6を粉砕し、粉末化する。そして、以下の式に従って秤量し、B粉末と混合することでEuB12及び/又はEuB25合成のための混合粉末原料とする。
EuB6+6B → EuB12
又は
EuB6+19B → EuB25
【0017】
ここでは、EuB12又はEuB25に対して当量となるホウ素の量を示しているが、この量は適宜変更が可能である。この量及び生成条件の調整により、EuB12及びEuB25の任意の量(割合)のホウ化物(複合ホウ化物)を得ることができる。混合粉末原料は、ラバープレス等で圧粉し、非酸化性雰囲気下で、1000℃以上の温度で所定時間焼成する。この時の圧力等の条件は、後述する。得られた反応後のEuB12及び/又はEuB25は、X線回折解析でそれぞれの相単独又は複合であることを確認できる。
【0018】
上述するように、高圧下でなければ、目的のホウ化物は得られないので、超高圧と高温を両立させる方法及び装置を用いる。即ち、所定の量のEuB6粉末及びB粉末の原料粉末を超高圧下で高温にすることにより、EuB12及び/又はEuB25を含む化合物を製造することに成功した。製造された12ホウ化ユーロピウム及び25ホウ化ユーロピウムは、これまで報告されていない化合物(結晶構造を含む)で、本願発明者らが新規に合成に成功した化合物であり、構成成分及びその結晶構造から、それぞれ新規結晶化合物であることが確認された。
【0019】
本発明の実施例において、
図1は、12ホウ化ユーロピウム(EuB
12)の結晶構造を図解する。本発明者らが合成したEuB
12結晶について行った単結晶構造解析によれば、EuB
12結晶は、立方晶系に属し、Fm-3m(ここで、“-”は、3のオーバーラインを示す)空間群(International Talbes for Crystallographyの225番の空間群)に属し、表1に示す結晶パラメータ及び原子座標位置を占める。この結晶構造は、切頂八面体となる14面体の24個の頂点にBが配置された14面体構造の中にEuが入っているような構造となっている。表1において、格子定数aは単位格子の軸の長さを示し、α、β、γは単位格子の軸間の角度を示す。原子座標は、単位格子中の各原子の位置を示す。格子定数は、a=7.5357Å(±5%)の範囲内であってもよい。単位格子の軸間の角度α、β、γは、それぞれ、90度±4度の範囲内あってもよい。
【0020】
【0021】
EuB12で示される結晶(EuB12結晶)は、構成成分であるEuとBとの比率が変わったり、他の元素で置き換わったりすることによって格子定数が変化し得るが、結晶構造と、原子が占めるサイト及びその座標によって与えられる原子位置とは、骨格原子間の化学結合が切れるほどには大きく変わることはない。ここで、EuとBとの比率が変わったり、他の元素で置き換わったりすることにより、その一般式が、EuB12±dEe(d及びeは0以上の実数、Eは置換する元素)であってもよい。本発明の実施例において、対象となる物質のX線回折等の結果をFm-3mの空間群でリートベルト解析して求めた格子定数と原子座標とから計算されたEu-Bの化学結合の長さが、表1に示すEuB12結晶の格子定数と原子座標とから計算されたそれと比べて±5%以内の場合は同一の結晶構造と判定できる。化学結合の長さが±5%を超えると、化学結合が切れて別の結晶となり得る。別の簡易的な判定方法として、EuB12結晶のX線回折の主要ピーク(例えば、回折強度の強い10本程度)と、対象となる物質のそれとを比較してもよい。本発明の実施例において、ホウ化ユーロピウム化合物は、EuB12結晶を含んでもよい。EuB12結晶が主成分であってもよい。
【0022】
このような観点から、本発明の実施例のホウ化ユーロピウム化合物において、EuB12で示される結晶は、EuB12それ自身、EuとBとのモル比がその当量からずれているもの(即ち、Euリッチ又はBリッチ)、又は、Eu及びBの一部が他の元素(例えば、C、N、O、H等)で置き換わったものも含むことができる。本発明の実施例において、EuB12で示される結晶は、表1に示すように、立方晶系の結晶であり、空間群Fm-3mの対称性を有するが、格子定数aは、a=7.5357Å(±5%)の範囲内であってもよい。この範囲内であれば、結晶が安定であると考えられる。
【0023】
本発明の実施例において、ホウ化ユーロピウム化合物に含まれる12ホウ化ユーロピウム(EuB12)化合物は、EuB12結晶を主成分としてよい。12ホウ化ユーロピウム(EuB12)化合物は、EuB12結晶を50重量%以上含有することが好ましい。より好ましくは、60重量%以上含有する。更に、好ましくは、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上含有する。
【0024】
本発明の実施例において、
図2は、25ホウ化ユーロピウム(EuB
25)の結晶構造を図解する。本発明者らが合成したEuB
25結晶について行った単結晶構造解析によれば、EuB
25結晶は、単斜晶系に属し、I2/m空間群(International Talbes for Crystallographyの12番の空間群)に属し、表2に示す結晶パラメータ及び原子座標位置を占める。この結晶構造は、二十面体からなるホウ化物としては最も単純なもので、1種類の二十面体と、それを橋渡しをしているホウ素原子からなる。「橋渡しホウ素」は、4つのホウ素と四面体方向に結合している。そのうち1つは別の橋渡しホウ素で、他の3つは二十面体ホウ素である。ユーロピウムは空間的に多くを占めていて、組成式EuB
25は原子数の比を単純に反映させたにすぎない。Eu原子とB
12二十面体はx軸方向にジグザグに配置している。橋渡しホウ素は、3つの二十面体ホウ素と結合していて、これは互いに平行ないくつもの(101)結晶平面を成す。橋渡しホウ素と二十面体ホウ素の結合距離は、典型的なB-B共有結合のものと同じである。一方、橋渡しホウ素同士の結合距離は大きいので、平面同士の結合力は弱い。表2において、格子定数a、b、cは異なる長さを示す。原子座標は、単位格子中の各原子の位置を示す。格子定数は、それぞれ±5%の範囲内であってもよい。角度α、β、γは、それぞれ、90度±4度の範囲内あってもよい。
【0025】
【0026】
EuB25で示される結晶(EuB25結晶)は、構成成分であるEuとBとの比率が変わったり、他の元素で置き換わったりすることによって格子定数が変化し得るが、結晶構造と、原子が占めるサイト及びその座標によって与えられる原子位置とは、骨格原子間の化学結合が切れるほどには大きく変わることはない。ここで、EuとBとの比率が変わったり、他の元素で置き換わったりすることにより、その一般式が、EuB25±dEe(d及びeは0以上の実数、Eは置換する元素)であってもよい。本発明の実施例において、対象となる物質のX線回折等の結果をI2/mの空間群でリートベルト解析して求めた格子定数と原子座標とから計算されたEu-Bの化学結合の長さが、表2に示すEuB25結晶の格子定数と原子座標とから計算されたそれと比べて±5%以内の場合は同一の結晶構造と判定できる。化学結合の長さが±5%を超えると、化学結合が切れて別の結晶となり得る。別の簡易的な判定方法として、EuB25結晶のX線回折の主要ピーク(例えば、回折強度の強い10本程度)と、対象となる物質のそれとを比較してもよい。本発明の実施例において、ホウ化ユーロピウム化合物は、EuB25結晶を含んでもよい。EuB25結晶が主成分であってもよい。
【0027】
このような観点から、本発明の実施例のホウ化ユーロピウム化合物において、EuB25で示される結晶は、EuB25それ自身、EuとBとのモル比がその当量からずれているもの(即ち、Euリッチ又はBリッチ)、又は、Eu及びBの一部が他の元素(例えば、C、N、O、H等)で置き換わったものも含むことができる。本発明の実施例において、EuB25で示される結晶は、表2に示すように、立方晶系の結晶であり、空間群I2/mの対称性を有するが、格子定数aはそれぞれ±5%の範囲内であってもよい。この範囲内であれば、結晶が安定であると考えられる。
【0028】
本発明の実施例において、ホウ化ユーロピウム化合物に含まれる25ホウ化ユーロピウム(EuB25)化合物は、EuB25結晶を主成分としてよい。25ホウ化ユーロピウム(EuB25)化合物は、EuB25結晶を50重量%以上含有することが好ましい。より好ましくは、60重量%以上含有する。更に、好ましくは、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、95重量%以上含有する。
【0029】
本発明の実施例において、25ホウ化ユーロピウム化合物は、EuB25で示される結晶から構成されてよいが、EuB25で示される結晶以外に、EuBx(22<x<25又は25<x<28)で示されるホウ化ユーロピウム結晶若しくは化合物を含有してもよい。また、EuBxにおいて、22<x<25又は25<x<28であってもよい。このようなEuBxの含有量は、0重量%以上であってもよい。また、5重量%未満であってもよい。
【0030】
上述してきたように、EuB12及びEuB25は、それぞれ単独で単相として存在してもよく、或いは、両者を含む複合体(複合化合物)であってもよい。何れかが主成分(重量%において他方を超える量を含む)であってもよい。これらは、EuB6粉末及びB粉末を秤量する際に、適切な配合比率とすることで、それぞれの比率をコントロールすることができる。また、仮に生成物が、EuB12及びEuB25が混在する複合化合物であってもよい。複合化合物を、例えば、後述するX線回折分析により、同定、定性、定量が可能である。また、複合化合物として、そのまま硬質材料として、耐摩耗性が要求される部材等に適用されてもよい。また、何れの相も中性子吸収能に優れるので、遮蔽材としてそのまま利用可能である。複合化合物として、生成した場合に、それぞれの単相に分離することは、現時点では必ずしも容易ではない。しかしながら、X線回折分析等により区別可能であるので、物理的、化学的手法を用いれば、分離はできるものと考えられる。
【0031】
本発明の実施例において、EuBn化合物(又は複合体)を製造する例示的な方法を説明する。
【0032】
本発明の実施例において、原料粉末として、Eu単体及び/又はEuを含む酸化物、炭酸塩等の化合物及びB単体(例えば、結晶性ホウ素)及び/又はBの化合物を利用することができる。また、一旦、低ホウ化ユーロピウムを調製し、それを原料とする。原料粉末は、100nm以上500μm以下の粒径を有する粉末が好ましい。これにより、反応を更に促進させることができる。好ましくは、200nm以上200μm以下の粒径を有する粉末であってもよい。粒径は、マイクロトラックやレーザー散乱法によって測定される体積基準のメディアン径(d50)としてもよい。原料粉末は、12ホウ化ユーロピウム(EuB12)を合成する反応式に従う当量を秤量し、乳鉢等により撹拌混合してもよい。この混合原料粉末は、CIP等により圧粉してもよく、そのまま次の高温高圧処理を行ってもよい。
【0033】
本発明の実施例において、製造工程で、出発原料に低ホウ化ユーロピウム(EuBm(m≦6))及びホウ素を用いてもよい。例えば、EuB6(例えば、自作、或いは、市販のもの(XI’AN FUNCTION MATERIAL GROUP CO.,LTD(中国、陝西省)、12008-05-8、EuB6))を用いることができる。EuB6結晶は、立方晶系に属し、Pm-3m(ここで、“-”は、3のオーバーラインを示す)空間群(International Talbes for Crystallographyの221番の空間群)に属し、表3に示す結晶パラメータ及び原子座標位置を占める。
【0034】
【0035】
本願発明者らは、切頂八面体のホウ素ケージ構造は非常に強固であり、高温及び超高圧条件下では、ホウ素ケージ構造を構成するホウ素相互の結合長の変化が、少なくとも相対的に小さいことを見出した。そのため、同条件下で、ユーロピウム原子又はイオンが、相対的に小さくなり、ホウ素ケージ構造内に取り込まれるため、高ホウ化ユーロピウム化合物が生成することを見出した。
【0036】
高温高圧処理の時間は、原料の量や用いる装置によって異なるが、例示的には、5分以上24時間以下の時間であってもよい。このような処理工程は、例えば、ダイヤモンドアンビルセル、マルチアンビル装置、及びベルト型高圧装置からなる群から選択される少なくとも1種類の装置を用いた高温高圧処理法又は衝撃圧縮法によって行われてもよい。これらの方法は、例えば、2000K以上、2200K以上、又は2500K以上の温度の温度範囲を実現できるものであってよい。上限は特にないが、工業的観点から若しくは生産性から、3300K以下、3100K以下、又は3000K以下の温度範囲を実現できるものであってもよい。また、10GPa以上、20GPa以上、30GPa以上、又は40GPa以上の圧力範囲を実現できるものであってもよい。上限は特にないが、工業的観点から若しくは生産性から、100GPa以下、80GPa以下、又は60GPa以下の圧力範囲を実現できるものであってもよい。但し、所定の温度及び圧力が達成される限りは、上述する装置に限定される必要はない。
【0037】
ここで、原料粉末をダイヤモンドアンビルセルに充填し、処理する場合を説明する。
図3は、ダイヤモンドアンビルセル(Diamond Anvil Cell(DAC))の全体を示す模式図である。
図4は、
図3のダイヤモンドアンビルセルの細部を示す模式図である。ダイヤモンドアンビルセルは既存のものを使用でき、
図3に示すように、底面が平らになるよう研磨されたダイヤモンドアンビル10が、底面を対向した状態で設置されており、この底面に圧力が印加される。
図4に示すように、12ホウ化ユーロピウム(EuB
12)及び/又は25ホウ化ユーロピウム(EuB
25)の原料となる原料粉末を、ガスケット12とダイヤモンドアンビルとで保持する。高圧部には、塩化ナトリウム14が充填されており、内部にセットされる加熱部分16に温度及び圧力を伝達する媒体として機能する。特に、反応試料(原料)18が青/黒等の有色に対して、塩化ナトリウムは無色であるので、レーザービーム20からのエネルギーは、もっぱら反応試料又は反応試料を包含するキャプセル等による加熱部分に集中する。そのため高温を局所に達成し易い。
【0038】
次いで、ダイヤモンドアンビルセルに上述の圧力を印加し、ファイバーレーザー等のレーザービームを原料粉末に照射すればよい。加熱温度は、色温度から判断され、レーザーの照射時間は、温度が一定になってから数分~数十分等であってもよい。上述の処理を
図3や
図4に示すダイヤモンドアンビルセル又はマルチアンビル装置を用いた高温高圧処理法によって行う場合、好ましくは、圧力範囲は、処理前において、20GPa以上55GPa以下の範囲であり、処理後において、15GPa以上60GPa以下の範囲を満たしてもよい。本発明の実施例においては、加熱前(処理前)の圧力と加熱後(処理後)の圧力とが大きく異なり得ることが分かっており、これらの圧力がそれぞれ上述の範囲を満たすように調整することにより、上述の12ホウ化ユーロピウム(EuB
12)結晶及び/又は25ホウ化ユーロピウム(EuB
25)結晶を有する多ホウ化ユーロピウムを製造することができる。更に好ましくは、圧力範囲は、処理前において、25GPa以上50GPa以下の範囲であってよく、処理後において、20GPa以上55GPa以下の範囲を満たしてもよい。加熱前の圧力と加熱後の圧力とがそれぞれ上述の範囲を満たすように調整することができる。このようにして、上述の12ホウ化ユーロピウム(EuB
12)結晶及び/又は25ホウ化ユーロピウム(EuB
25)結晶を含む多ホウ化ユーロピウムを主成分とする化合物を製造することができる。尚、圧力範囲として、例えば、45GPa以下、40GPa以下、35GPa以下、又は30GPa以下としてもよい場合がある。工業的には、低圧の方がコスト的に又は生産効率的に好ましい。
【0039】
また、上述の処理を
図3や
図4に示すダイヤモンドアンビルセル又はマルチアンビル装置を用いた高温高圧処理法によって行う場合、好ましくは、温度範囲は、1000K(727℃)以上4000K(3727℃)以下の温度範囲であってもよい。この範囲内において、上述の12ホウ化ユーロピウム(EuB
12)結晶及び/又は25ホウ化ユーロピウム(EuB
25)結晶を含む多ホウ化ユーロピウムを製造することができる。更に好ましくは、温度範囲は、1500K(1227℃)以上3500K(3227℃)以下の温度範囲であってもよい。また、圧力範囲は、処理前において、20GPa以上55GPa以下の範囲であってもよい。また、処理後において、15GPa以上60GPa以下の範囲を満たしてもよい。このような条件を選択することができる。このようにして、上述の12ホウ化ユーロピウム(EuB
12)結晶及び/又は25ホウ化ユーロピウム(EuB
25)結晶を含む多ホウ化ユーロピウムを主成分とする化合物を高収率で製造することができる。
【0040】
本発明の実施例について、以下に示す例によって更に詳しく説明するが、これはあくまでも本発明の実施例において、容易に理解するための一助として開示したものであって、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
[使用した原料]
用いた原料粉末は、酸化ユーロピウム粉末(Eu2O3、純度:99.99%、平均粒径:8μm、株式会社レアメタリック)及びホウ素粉末(形態:crystalline、純度:99%、株式会社高純度化学研究所製)であった。
【0042】
[EuB6の調製]
EuB6は、次のような反応式により生成されてよい。後述するように、このような反応は、反応効率が高く、どちらかをより過剰に混合しなくてもよい。
Eu2O3+15B → 2EuB6+3BO↑
上記酸化ユーロピウム粉末及びホウ素粉末を、上記式の当量に合わせて秤量し、自動乳鉢で30分間、攪拌混合を行った。この混合粉末を、φ8mm、長さ2~5cmのイマムラのラテックススリーブに棒状に詰め、株式会社日機装製CIPにより、2500気圧で粉末試料の圧粉体を形成した。この圧粉体をラバーから取り出し、高周波誘導加熱炉(株式会社セレック製の真空炉、加熱用電源:トランジスタインバータ方式(200kHz、20kW、株式会社日新技研製))内に配置した石英管中に加熱用の原料棒+BN筒+カーボンるつぼ+カーボンフェルトを挿入した。真空雰囲気下で、約1700℃の温度で1時間誘導加熱を行った。その後、室温近くまで冷却し、大気圧下で原料棒を取り出した。この原料棒を粉砕して、以下のように調べると、多結晶試料が生成したことが、粉末のX線回折解析により分かった。本実験例では、未反応の酸化ユーロピウムは残っていなかったことをX線回折解析により確認した。
【0043】
[EuB12及び/又はEuB25の調製(実験例1~6)]
上述のEuB6粉末及びホウ素粉末(フルウチ化学株式会社製、純度:99%)を以下の反応式を考慮しつつ、表4の出発原料の割合に合わせて適宜秤量し、自動乳鉢で30分間、攪拌混合を行った。
EuB6+6B → EuB12
又は
EuB6+19B → EuB25
【0044】
【0045】
この混合粉末を、レニウムガスケット中に充填し、
図4に示すレーザー加熱ダイヤモンドアンビルセルの試料部(加熱部分)にセットした。ダイヤモンドアンビルセルの処理前(加熱前)の圧力を印加し、100Wのファイバーレーザーからレーザービームを原料粉末に照射した。なお、レーザービームは、20μmφに集光されており、原料粉末全体をスキャンし、表4に示す温度範囲内とした。なお、加熱温度は色温度から判断した。レーザーの照射時間は、温度が一定になってから数分(5分~10分)であった。また、処理後(加熱後)の圧力が表4に示す圧力となるよう制御した。なお、圧力値は、DAC高圧観察実験の場合はダイヤモンドアンビルのラマン散乱スペクトルと試料に混合した塩化ナトリウムのX線回折線を用いて測定した。
【0046】
[X線構造解析(実験例1~6)]
図5は、X線構造解析のための測定系を示す図である。処理後の試料について、
図4に示すように、ダイヤモンドアンビルセルを減圧することなくそのまま測定系セルに使用し、X線構造解析を行った。例えば、放射光(KEK Photon Factory)からのX線をシリコンで単色化し(λ=0.418140Å)、X線回折パターンを得た。得られたX線回折パターンからX線構造解析を行い、格子定数等結晶構造パラメータを求めた。
【0047】
次いで、処理後の試料について、ダイヤモンドアンビルセルを1気圧に減圧し、セルから試料を取り出し、X線構造解析を行い、格子定数等の結晶構造パラメータを求めた。このようにして、表4の実験例1~6の試料を準備した。実験例1から6において、表4にまとめるように、所定の原料を21.3GPaから36.3GPaの圧力をかけ、高圧中でレーザー加熱により昇温(2000-3000K)させた。このとき、EuB
12及び/又はEuB
25が生成したことを高圧下のX線回折実験で確認した(
図6)。これらの物質は圧力を下げても構造は変わらず回収できた。表4で、「回収試料」とは、1気圧で取り出した試料のことを言い、この試料を使用して、X線回折分析により、格子軸aの長さ及び体積を計算した。実験例3及び6では、X線回折を記載の圧力(高圧)で行った。また、X線回折分析により、含まれるEuB
12及び/又はEuB
25の生成比率を求めた。実験例1から6では、EuB
12対EuB
25の比率が、それぞれ、80:20、60:40、0:100、70:30、5:95、15:85であった。このように、原料組成を調整し、且つ、圧力や温度を適宜調整することにより、EuB
12対EuB
25の比率を制御することができた。
【0048】
実験例2で得られた試料のXRDパターンを
図6に示す。特筆すべきピークには、帰属する結晶構造及び面指数が記載されている。NaClの強いピークは、混入した媒体である塩化ナトリウムに帰属する。特筆すべきピークは全てEuB
12及びEuB
25に帰属する。従って、他のユーロピウム多ホウ化物は検出されなかったことがわかる。
【0049】
[EuB25の格子定数の測定]
表4の実験例1から6について、存在するEuB25結晶の格子定数を表5にまとめる。
【0050】
【0051】
[高圧力X線回折による体積弾性率の測定]
今回合成したEuB
6結晶、EuB
12結晶、及びEuB
25結晶を用いて、圧力-体積関係からそれぞれの体積弾性率を求めた。即ち、アルコールを媒体として静水圧下圧縮実験による圧縮曲線から、体積弾性率B
0を得た。その結果を
図7に示す。バーチ・マーナハン状態方程式を利用すると、
図7に示すように、EuB
6結晶の体積弾性率B
0は、144(1)GPaであり、EuB
12結晶の体積弾性率B
0は、220(3)GPaであり、EuB
25結晶の体積弾性率B
0は、207(2)GPaであった。EuB
12の体積弾性率はEuB
6に比べて53%も増大した。また、EuB
25についても44%の増大がみられた。発明者らが測定した他の希土類元素のホウ化物に比べて、大きな値となっており、ホウ化ユーロピウム特有の性質であると考えられる。剛性の高い化合物は、硬度等の機械的性質に優れ、また、フォノンの伝達や熱の伝達にも優れることが期待される。そして、本発明の実施例にかかるEuB
12結晶及び/又はEuB
25結晶を含む化合物は、音響用材料、センサ材料、伝熱材料としても使用され得るかもしれない。
【0052】
以上より、原料粉末としてEuを含む化合物及びホウ素を用い、2000K以上の温度範囲で、21GPa以上の圧力範囲で処理することによって、少なくともEuB12結晶及び/又はEuB25結晶を含む多ホウ化ユーロピウム化合物が製造されたことが分かる。
【0053】
ユーロピウムは、通常2価又は3価の価数を取る。そして、蛍光体として、2価が注目される。カチオンの価数が大きいと、イオン半径は小さくなる。
図8に示すように、3価とすると、Gd及びSmの間の大きさであるが、注目が2価であったがために、困難性が予想されたと考えられる。そして、本願以前には、このような多ホウ化ユーロピウム化合物のことは顧みられなかったのであろう。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の実施例において、少なくともEuB12結晶及び/又はEuB25結晶を含む多ホウ化ユーロピウム化合物は、磁性材料として、電子材料として、他の希土類多ホウ化物と同様使用することができる。また、価数が異なることにより、特異な性質が予想され、そのイオン半径とも相まって、スイッチング材料としても利用できるかもしれない。また、少なくともEuB12結晶及び/又はEuB25結晶を含む多ホウ化ユーロピウム化合物は、中性子線吸収能のある遮蔽材や光吸収材としてガラス等を含む種々の材料に使用され得る。更に、熱電特質から、熱電材料や半導体としての応用が期待される。また、B元素により強固なケージ構造を取り、硬質物質として硬質材料に適用され得る。