(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030647
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】架橋型ポリカーボネート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 64/02 20060101AFI20240229BHJP
C08G 64/32 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C08G64/02
C08G64/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133665
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】依馬 正
(72)【発明者】
【氏名】前田 千尋
(72)【発明者】
【氏名】沖原 巧
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA09
4J029AB01
4J029AB04
4J029AC05
4J029AD01
4J029AD07
4J029HC07
4J029JB252
4J029JB262
4J029JB272
4J029JB282
4J029JB292
4J029JB302
4J029JC281
4J029JE152
4J029JF221
4J029KD02
4J029KD06
4J029KE09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】引張強度や破断伸度等の力学的特性や熱安定性が制御された、環境に優しい架橋型ポリカーボネート及び架橋型ポリカーボネート製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される繰り返し単位を含むポリカーボネート鎖同士が下記式(2)で表される構造で架橋されてなる、架橋型ポリカーボネートである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位を含むポリカーボネート鎖同士が下記式(2)で表される構造で架橋されてなる、架橋型ポリカーボネート。
【化1】
[式(1)中、aは、0~2の整数であり、Aは、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はビニル基であり、bは、0又は1である。]
【化2】
[式(2)中、b及びAは、上記式(1)と同義であり、cは0又は1であり、R
1は、炭素数1~20の2価の有機基である。]
【請求項2】
上記式(1)で表される繰り返し単位が下記式(1’)で表されるものであり、上記式(2)で表される構造が下記式(2’)で表されるものである、請求項1に記載の架橋型ポリカーボネート。
【化3】
[式(1’)中、a及びAは、上記式(1)と同義である。]
【化4】
[式(2’)中、Aは、上記式(1)と同義であり、c及びR
1は、上記式(2)と同義である。]
【請求項3】
上記式(1’)で表される繰り返し単位が下記式(1’’)で表されるものであり、上記式(2’)で表される構造が下記式(2’’)で表されるものである、請求項2に記載の架橋型ポリカーボネート。
【化5】
【化6】
[式(2’’)中、R
1は、上記式(2)と同義である。]
【請求項4】
上記式(2’’)で表される構造が下記式(2’’’)で表されるものである、請求項3に記載の架橋型ポリカーボネート。
【化7】
【請求項5】
重量平均分子量Mwが10,000以上である、請求項1~4のいずれかに記載の架橋型ポリカーボネート。
【請求項6】
下記式(3)で表されるアルミニウムポルフィリン錯体触媒の存在下、モノエポキシド、ジエポキシド及び二酸化炭素を三元共重合させる、架橋型ポリカーボネートの製造方法。
【化8】
[式(3)中、R
2は、下記式(4)で表される基であり、Xは、アニオン性軸配位子である。]
【化9】
[式(4)中、R
3は、炭素数1~8のアルキル基であり、dは、2~8の整数であり、Y
-は、アニオンである。*は結合手である。]
【請求項7】
X及びYがBr又はClであり、dが4であり、かつR3がn-ブチル基である、請求項6に記載の架橋型ポリカーボネート製造方法。
【請求項8】
下記式(5)で表されるアルミニウムポルフィリン錯体触媒からなるポリカーボネート重合用触媒。
【化10】
[式(5)中、R
4は、下記式(6)で表される基であり、Xは、アニオン性軸配位子である。]
【化11】
[式(6)中、R
3は、炭素数1~8のアルキル基であり、eは、4又は5であり、Y
-は、アニオンである。*は結合手である。]
【請求項9】
下記式(7)
【化12】
[式(7)中、R
5は、下記式(8)で表される基である。]
【化13】
[式(8)中、dは、2~8の整数であり、Zは、ハロゲン原子、p-トルエンスルホニル基又はトリフルオロメタンスルホナート基である。*は結合手である。]
で表されるポルフィリン化合物と3級アミンを反応させて、下記式(9)
【化14】
[式(9)中、R
6は、下記式(10)で表される基である。]
【化15】
[式(10)中、R
3は、炭素数1~8のアルキル基であり、Z
-は、ハロゲン化物イオン、p-トルエンスルホナートイオン又はトリフルオロメタンスルホナートイオンであり、dは、上記式(8)と同義である。*は結合手である。]
で表される4級アンモニウム塩を得た後に、当該4級アンモニウム塩とジアルキルアルミニウムハライドとを反応させることにより、下記式(11)で表されるアルミニウムポルフィリン錯体
【化16】
[式(11)中、R
6は、上記式(9)と同義であり、Wは、ハロゲン化物イオンの軸配位子である。]
を得る、アルミニウムポルフィリン錯体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力学的特性や熱安定性を制御可能な架橋型ポリカーボネート及びその製造方法に関する。また、このような架橋型ポリカーボネート等の製造に用いられるアルミニウムポルフィリン錯体触媒及びアルミニウムポルフィリン錯体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガスである二酸化炭素を化学固定して実用的な有機材料を得るために世界中で研究が行われている。
【0003】
二酸化炭素とエポキシドを共重合させるポリカーボネートの製造方法は、二酸化炭素の排出量削減の観点に加えて、二酸化炭素が再生可能な炭素資源である点においても重要である。
【0004】
芳香族ポリカーボネートは充分な強度を有するため広く利用されているが、芳香族ポリカーボネートを二酸化炭素とエポキシドから合成することは、構造的に不可能である。
【0005】
これに対して、脂肪族ポリカーボネートは、二酸化炭素とエポキシドから1段階で触媒的に合成できる。しかしながら、得られるポリカーボネートは、力学的特性や熱安定性が不十分であるため有機材料としての用途開発が未成熟である。
【0006】
エポキシドと二酸化炭素の共重合に使用される触媒としては、トリエチルアルミニウム-水系触媒(非特許文献1)、ジエチルアルミニウムクロリドとカリックスアレーン誘導体から調製されるアルミニウム錯体(非特許文献2)、トリスピラゾリルボレートを配位子に持つアルミニウム錯体(非特許文献3)、二官能性アルミニウムポルフィリン錯体(非特許文献4)を始めとする多数の触媒が知られている。しかし、架橋型ポリカーボネートの合成についての記載はない。
【0007】
特許文献1には、二官能性の金属ポルフィリン錯体が記載されている。しかしながら、当該文献には、金属ポルフィリン錯体を環状カーボネートの合成に用いることが記載されているのみであり、ポリカーボネートを製造するための共重合反応に用いることについて何ら記載されていない。
【0008】
特許文献2には、二官能性のアルミニウムポルフィリン錯体が記載されている。当該文献には、アルミニウムポルフィリン錯体を鎖状ポリカーボネートの合成に用いることが記載されているのみであり、架橋型ポリカーボネートの合成に用いることについて何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2013/042695号
【特許文献2】特開2019-151770号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】H. Koinuma and H. Hirai, Makromol. Chem., 178, 1283-1294(1977)
【非特許文献2】W. Kuran, T. Listos, M. Abramczyk and A. Dawidek, J. Macromol. Sci., Pure Appl. Chem., A35, 427-437(1998)
【非特許文献3】D. J. Darensbourg, E. L. Maynard, M. W. Holtcamp, K. K. Klausmeyer and J. H. Reibenspies, Inorg. Chem., 35, 2682-2684(1996)
【非特許文献4】J. Deng, M. Ratanasak, Y. Sako, H. Tokuda, C. Maeda, J. Hasegawa, K. Nozaki and T. Ema, Chem. Sci., 11, 5669-5675 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、引張強度や破断伸度等の力学的特性や熱安定性を制御可能な環境に優しい架橋型ポリカーボネート及びその製造方法を提供することを目的とする。また、このような架橋型ポリカーボネート等を効率よく製造できるアルミニウムポルフィリン錯体触媒及びアルミニウムポルフィリン錯体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の構造を有するジエポキシドを架橋剤として微量加えるだけでポリカーボネートの物性が変化することを発見した。特に、エステル基で架橋されたジエポキシドが架橋剤として優れていること、並びに、架橋型ポリカーボネートを効率よく製造できる触媒を見出すことにより、本発明を完成させた。
【0013】
上記課題は、下記式(1)で表される繰り返し単位を含むポリカーボネート鎖同士が下記式(2)で表される構造で架橋されてなる、架橋型ポリカーボネートを提供することによって解決される。
【0014】
【化1】
[式(1)中、aは、0~2の整数であり、Aは、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はビニル基であり、bは、0又は1である。]
【0015】
【化2】
[式(2)中、b及びAは、上記式(1)と同義であり、cは0又は1であり、R
1は、炭素数1~20の2価の有機基である。]
【0016】
このとき、上記式(1)で表される繰り返し単位が下記式(1’)で表されるものであり、上記式(2)で表される構造が下記式(2’)で表されるものであることが好ましい。
【0017】
【化3】
[式(1’)中、a及びAは、上記式(1)と同義である。]
【0018】
【化4】
[式(2’)中、Aは、上記式(1)と同義であり、c及びR
1は、上記式(2)と同義である。]
【0019】
上記式(1’)で表される繰り返し単位が下記式(1’’)で表されるものであり、上記式(2’)で表される構造が下記式(2’’)で表されるものであることがより好ましい。
【0020】
【0021】
【化6】
[式(2’’)中、R
1は、上記式(2)と同義である。]
【0022】
上記式(2’’)で表される構造が下記式(2’’’)で表されるものであることがさらに好ましい。
【0023】
【0024】
前記架橋型ポリカーボネートの重量平均分子量が10,000以上であることが好ましい。
【0025】
上記課題は、下記式(3)で表されるアルミニウムポルフィリン錯体触媒の存在下、モノエポキシド、ジエポキシド及び二酸化炭素を三元共重合させる、架橋型ポリカーボネートの製造方法を提供することによっても解決される。
【0026】
【化8】
[式(3)中、R
2は、下記式(4)で表される基であり、Xは、アニオン性軸配位子である。]
【0027】
【化9】
[式(4)中、R
3は、炭素数1~8のアルキル基であり、dは、2~8の整数であり、Y
-は、アニオンである。*は結合手である。]
【0028】
このとき、X及びYがBr又はClであり、dが4であり、かつR3がn-ブチル基であることが好ましい。
【0029】
上記課題は、下記式(5)で表されるアルミニウムポルフィリン錯体触媒からなるポリカーボネート重合用触媒を提供することによっても解決される。
【0030】
【化10】
[式(5)中、R
4は、下記式(6)で表される基であり、Xは、アニオン性軸配位子である。]
【0031】
【化11】
[式(6)中、R
3は、炭素数1~8のアルキル基であり、eは、4又は5であり、Y
-は、アニオンである。*は結合手である。]
【0032】
上記課題は、下記式(7)
【化12】
[式(7)中、R
5は、下記式(8)で表される基である。]
【0033】
【化13】
[式(8)中、dは、2~8の整数であり、Zは、ハロゲン原子、p-トルエンスルホニル基又はトリフルオロメタンスルホナート基である。*は結合手である。]
で表されるポルフィリン化合物と3級アミンを反応させて、下記式(9)
【0034】
【化14】
[式(9)中、R
6は、下記式(10)で表される基である。]
【0035】
【化15】
[式(10)中、R
3は、炭素数1~8のアルキル基であり、Z
-は、ハロゲン化物イオン、p-トルエンスルホナートイオン又はトリフルオロメタンスルホナートイオンであり、dは、上記式(8)と同義である。*は結合手である。]
で表される4級アンモニウム塩を得た後に、当該4級アンモニウム塩とジアルキルアルミニウムハライドとを反応させることにより、下記式(11)で表されるアルミニウムポルフィリン錯体
【0036】
【化16】
[式(11)中、R
6は、上記式(9)と同義であり、Wは、ハロゲン化物イオンの軸配位子である。]
を得る、アルミニウムポルフィリン錯体の製造方法を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0037】
本発明の架橋型ポリカーボネートは、モノエポキシド、ジエポキシド及び二酸化炭素を三元共重合させることで容易に製造でき、リンカーとなるジエポキシドの混合割合を変化させるだけで容易に引張強度や破断伸度等の力学的特性や熱安定性を調節できる。また、本発明の製造方法で用いる二官能性アルミニウムポルフィリン錯体は、エポキシドと二酸化炭素の交互共重合を選択的かつ高効率に促進するとともに、耐熱性にも優れており、本発明の架橋型ポリカーボネートの製造等に用いる触媒として理想的である。本発明の製造方法によれば、二酸化炭素を化学原料に用いて架橋型ポリカーボネートを効率的に製造できる。また、前記製造方法によれば、機械的特性や熱安定性の制御が可能であり、得られる架橋型ポリカーボネートは有機材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の架橋型ポリカーボネートの模式図(
図1下部)及び架橋部分の構造(
図1上部)の一例である。
【
図2】実施例6~9における、反応混合物のGPCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の架橋型ポリカーボネートは、下記式(1)で表される繰り返し単位を含むポリカーボネート鎖同士が下記式(2)で表される構造で架橋されてなるものである。
【0040】
【化17】
[式(1)中、aは、0~2の整数であり、Aは、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はビニル基であり、bは、0又は1である。]
【0041】
【化18】
[式(2)中、b及びAは、上記式(1)と同義であり、cは0又は1であり、R
1は、炭素数1~20の2価の有機基である。]
【0042】
脂肪族ポリカーボネートは、二酸化炭素を化学原料に用いて得られるため、二酸化炭素の排出量削減の観点に加えて、二酸化炭素が再生可能な炭素資源である点においても重要である。また、脂肪族ポリカーボネートは、二酸化炭素とエポキシドから1段階で触媒的に合成できる。しかしながら、従来、得られるポリカーボネートは、力学的特性や熱安定性が不十分であった。それに対して、特定の架橋構造を有する本発明の架橋型ポリカーボネートは、優れた力学的特性を有するとともに、架橋剤であるジエポキシドの添加量を調整すること等によって、引張強度や破断伸度の調整や熱安定性の調整も容易に行えるため、有機材料として様々な用途への利用が期待される。
【0043】
前記架橋型ポリカーボネートを構成するポリカーボネート鎖は、上記式(1)で表される繰り返し単位を含む。当該繰り返し単位は、後述するように、二酸化炭素と、所定のモノエポキシドとをそれぞれ1つずつ用いて形成される単位である。本発明では、シクロヘキサン環(bが1)又はシクロペンタン環(bが0)を有するモノエポキシドを用いることにより、重合時に逆反応が生じにくくなるため、前記架橋型ポリカーボネートの生産性が向上する。前記架橋型ポリカーボネート中の上記式(1)で表される繰り返し単位の含有量は、通常50質量%以上であり、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。
【0044】
式(1)中、bは、0又は1である。重合時に逆反応がさらに生じ難くなる点からは、bは1であること、すなわち、上記式(1)で表される繰り返し単位が下記式(1’)で表されるものであることが好ましい。
【0045】
【化19】
[式(1’)中、a及びAは、上記式(1)と同義である。]
【0046】
式(1)及び(1’)中、Aは、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はビニル基である。Aは、式(1)及び(1’)中の環が有してもよい置換基である。シクロヘキサン環(bが1)がAを有する場合、その結合位置は、3~6位であり、4又は5位が好ましい。シクロペンタン環(bが0)がAを有する場合、その結合位置は3~5位であり、4位が好ましい。式(1)及び(1’)中、aは、0~2の整数であり、0又は1が好ましい。そして、aが0であること、すなわち式(1)及び(1’)中の環が置換基Aを有していないことが特に好ましい。
【0047】
Aとして用いられるハロゲン原子としては、Cl、Br、F、I等が挙げられる。Aとして用いられるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられ、メチル基及びエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0048】
中でも、上記式(1’)で表される繰り返し単位が下記式(1’’)で表されるものであることが特に好ましい。
【0049】
【0050】
前記架橋型ポリカーボネートは、上記式(2)で表される架橋構造を有する。上記式(1)で表される繰り返し単位を含む前記ポリカーボネート鎖が式(2)で表される構造で架橋される。
図1は、このような本発明の架橋型ポリカーボネートの模式図(
図1下部)及び架橋部分の構造(
図1上部)の一例である。式(2)中、上下の括弧内の単位は、前記ポリカーボネート鎖を構成する繰り返し単位であり、上下のポリカーボネート鎖がR
1によって連結されている。式(2)中の上下の括弧内の単位は、R
1で連結されていることを除いて、構造が式(1)で表される繰り返し単位と同じであっても異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0051】
脂肪族ポリカーボネートは、二酸化炭素を化学原料に用いて得られるため、二酸化炭素の排出量削減の観点に加えて、二酸化炭素が再生可能な炭素資源である点においても重要である。また、脂肪族ポリカーボネートは、二酸化炭素とエポキシドから1段階で触媒的に合成できる。しかしながら、得られるポリカーボネートは、引張強度や破断伸度等の力学的特性や熱安定性が不十分であった。それに対して、本発明者らは、脂肪族ポリカーボネートの力学的特性や熱安定性を改善すべく鋭意検討した結果、式(2)で表される架橋構造を導入することにより、脂肪族ポリカーボネートの物性が変化することを見出した。式(2)で表される架橋構造を有する本発明の架橋型ポリカーボネートは、引張強度、破断伸度等の力学的特性や熱安定性に優れ、驚くべきことに、適度な堅さ(ヤング率)と、高い引張強度及び破断伸度とが両立されている。また、架橋剤であるジエポキシドの添加量を調整すること等によって、引張強度や破断伸度の調整や熱安定性の調整も容易に行うことができる。
【0052】
前記架橋型ポリカーボネート中の式(1)で表される繰り返し単位及び式(2)で表される構造の合計含有量は、通常50質量%以上であり、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。
【0053】
式(2)中、bは上記式(1)と同義である。bは1であること、すなわち、上記式(2)で表される構造が下記式(2’)で表されるものであることが好ましい。
【0054】
【化21】
[式(2’)中、Aは、上記式(1)と同義であり、c及びR
1は、上記式(2)と同義である。]
【0055】
式(2)及び(2’)中、Aは、式(2)及び(2’)中の環が有していてもよい置換基であり、上記式(1)と同義である。式(2)及び(2’)中の環がAを有する場合、その結合位置は、式(1)と同じである。但し、R1が結合していない位置が好ましい。式(2)及び(2’)中、cは0又は1であり、0であること、すなわち式(2)及び(2’)中の環が置換基Aを有していないことが特に好ましい。
【0056】
中でも、上記式(2’)で表される構造が下記式(2’’)で表されるものであることが特に好ましい。
【0057】
【化22】
[式(2’’)中、R
1は、上記式(2)と同義である。]
【0058】
式(2)、(2’)及び(2’’)中、R1は、炭素数1~20の2価の有機基である。R1の結合位置は、その上下の繰り返し単位中の環が、シクロヘキサン環(bが1)の場合は3~6位であり、4又は5位が好ましく、シクロペンタン環の場合は3~5位であり、4位が好ましい。前記有機基の炭素数は2以上が好ましい。一方、前記炭素数は15以下が好ましく、10以下がより好ましく、5以下がさらに好ましい。R1は、下記式(12)で表される有機基であることが好ましい。
【0059】
【0060】
[式(12)中、Jは、酸素原子、-C(=O)-O-、硫黄原子、-O-C(=O)-NH-、-C(=O)-NH-、単結合又は-CH=CH-であり、fは0~20の整数であり、gは0~20の整数であり、*は結合手である。]
【0061】
上記式(12)中のJは、酸素原子、-C(=O)-O-、硫黄原子、-O-C(=O)-NH-、-C(=O)-NH-、単結合又は-CH=CH-であり、-C(=O)-O-が好ましい。fは0~20の整数である。fは10以下が好ましく、5以下がより好ましく、3以下がさらに好ましく、2以下がよりさらに好ましく、1以下が特に好ましい。gは0~20の整数である。gは1以上が好ましい。一方、gは10以下が好ましく、5以下がより好ましく、3以下がさらに好ましく、2以下が特に好ましい。中でも、fが0であり、Jが-C(=O)-O-であり、gが1であること、すなわち、上記式(12)で表される有機基が下記式(12’)で表される有機基であることが最も好ましい。
【0062】
【化24】
[式(12’)中、*は結合手である。]
【0063】
中でも、上記式(2’’)で表される構造が下記式(2’’’)で表されるものであることが最も好ましい。
【0064】
【0065】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により求められる前記架橋型ポリカーボネートのポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが10,000以上であることが好ましい。このような架橋型ポリカーボネートはさらに優れた機械的特性を有する。前記重量平均分子量Mwは、30,000以上がより好ましく、40,000以上がさらに好ましく、50,000以上がよりさらに好ましく、80,000以上が特に好ましく、100,000以上が最も好ましい。一方、前記重量平均分子量Mwが300,000を超えると溶解度が低くなってGPCでは分析できなくなる。
【0066】
前記架橋型ポリカーボネートをGPC(ポリスチレン換算)によって分析すると、いくつかのピークに分かれる。これは、ポリカーボネート鎖が架橋されて分子量が不連続に増加することを反映していると考えられる。特定のピークだけを選んで数平均分子量(Mn)を求めると100,000以上のものも存在している。
【0067】
力学的特性がさらに向上する観点から、GPC測定により求められる前記架橋型ポリカーボネートのポリスチレン換算の数平均分子量Mnに対する、重量平均分子量Mwの比である見かけの分散度(Mw/Mn)が1.5以上であることが好ましい。前記分散度(Mw/Mn)は、2以上がより好ましく、2.5以上がさらに好ましく、2.7以上が特に好ましい。前記架橋型ポリカーボネートの架橋割合が増加するにつれて、見かけの分散度(Mw/Mn)は大きくなり、通常2以上であり、高分子量になると4以上に達する。それ以上になると溶解度が低くなってGPCでは分析できなくなる。
【0068】
前記架橋型ポリカーボネートの固有粘度は20~70mL/gが好ましい。固有粘度がこのような範囲であることにより、前記架橋型ポリカーボネートの力学的特性がさらに向上する。前記固有粘度は25mL/g以上がより好ましく、28mL/g以上がさらに好ましく、32mL/g以上が特に好ましい。前記架橋型ポリカーボネートの固有粘度は実施例に記載された方法により測定される。
【0069】
前記架橋型ポリカーボネートのヤング率は1500~4000MPaが好ましい。ヤング率がこのような範囲である架橋型ポリカーボネートは有機材料として特に有用であり、様々な用途への応用が可能である。前記ヤング率は2000MPa以上がより好ましく、2500MPa以上がさらに好ましい。本発明において、ポリカーボネートのヤング率、引張強度、及び破断伸度は実施例に記載された方法により測定される。
【0070】
前記架橋型ポリカーボネートの引張強度は34MPa以上が好ましい。引張強度がこのような範囲である架橋型ポリカーボネートは有機材料として特に有用であり、様々な用途への応用が可能である。前記引張強度は35MPa以上がより好ましく、37MPa以上がさらに好ましく、39MPa以上が特に好ましい。前記架橋型ポリカーボネートの引張強度は、通常45MPa以下である。
【0071】
前記架橋型ポリカーボネートの破断伸度は1.3%以上が好ましく、1.5%以上がより好ましく、1.7%以上がさらに好ましく、1.8%以上が特に好ましい。破断伸度がこのような範囲である架橋型ポリカーボネートは有機材料として特に有用であり、様々な用途への応用が可能である。前記架橋型ポリカーボネートの破断伸度は、通常3%以下である。
【0072】
前記架橋型ポリカーボネートの50%熱分解温度は、313℃以上であることが好ましい。50%熱分解温度は、架橋剤であるジエポキシドの添加量を増やすことによって高めることができ、用途に応じて調整することが可能である。50%熱分解温度は実施例に記載された方法により測定される。
【0073】
前記架橋型ポリカーボネートの製造方法は特に限定されないが、下記式(3)で表されるアルミニウムポルフィリン錯体触媒の存在下、モノエポキシド、ジエポキシド及び二酸化炭素を三元共重合させる方法が前記架橋型ポリカーボネートを効率よく製造できるため好ましい。
【0074】
【化26】
[式(3)中、R
2は、下記式(4)で表される基であり、Xは、アニオン性軸配位子である。]
【0075】
【化27】
[式(4)中、R
3は、炭素数1~8のアルキル基であり、dは、2~8の整数であり、Y
-は、アニオンである。*は結合手である。]
【0076】
前記アルミニウムポルフィリン錯体触媒は、モノエポキシド、ジエポキシド及び二酸化炭素の三元共重合を選択的かつ高効率に促進する。したがって、前記アルミニウムポルフィリン錯体触媒を用いた製造方法によれば、架橋型ポリカーボネートを効率よく製造できるとともに、二酸化炭素の固定化も行えるため環境にも優しい。
【0077】
式(3)中、Xはアニオン性軸配位子を示す。当該アニオン性軸配位子としては、F-、Cl-、Br-、I-等のハロゲン化物イオン;ヒドロキシド(OH-);アジド(N3
-);アセテート、トリフルオロアセテート、トリクロロアセテート、プロピオナートなどの脂肪族カルボキシラート;ベンゾエート、p-メチルベンゾエート、3,5-ジクロロベンゾエート、4-ジメチルアミノベンゾエート、ペンタフルオロベンゾエートなどの芳香族カルボキシラート;メトキシド、エトキシド、イソプロポキシド等のアルコキシド;フェノキシド、p-ニトロフェノキシド、2,4-ジクロロフェノキシド、ペンタフルオロフェノキシド、1-ナフトキシドなどのアリールオキシドなどが挙げられ、なかでも、ハロゲン化物イオンが好ましく、Br-及びCl-がより好ましく、Br-がさらに好ましい。
【0078】
式(4)中、dは2~8の整数である。dは、3~6の整数が好ましく、3~5の整数がより好ましく、4又は5がよりさらに好ましく、4であることが特に好ましい。
【0079】
式(4)中、R3は、炭素数1~8のアルキル基である。前記炭素数は2以上が好ましく、3以上がより好ましい。一方、前記炭素数は、7以下が好ましく、6以下がより好ましく、5以下がさらに好ましい。中でも、前記炭素数が4であることが特に好ましい。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基などが挙げられ、n-ブチル基がより好ましい。
【0080】
式(4)中、Y-は、アニオンであり、上記式(3)中のXで示されるアニオン性軸配位子として用いられるアニオンと同様のものが用いられ、通常、両者は同じものである。
【0081】
上記式(3)で表されるアルミニウムポルフィリン錯体触媒は、特開2019-151770号公報の[0082]~[0091]段落等に記載された、従来の方法により製造することもできるが、製造効率の点から、後述する本発明の製造方法により得ることが好ましい。
【0082】
前記製造方法で用いられるモノエポキシドとしては、下記式(13)で表されるもの等が用いられる。
【0083】
【化28】
[式(13)中、a、b及びAは、上記式(1)と同義である。]
【0084】
前記製造方法で用いられるジエポキシドとしては、下記式(14)で表されるもの等が用いられる。
【0085】
【化29】
[式(14)中、b及びAは、上記式(1)と同義であり、c及びR
1は、上記式(2)と同義である。]
【0086】
モノエポキシド、ジエポキシド及び二酸化炭素の共重合は、加圧可能な公知の重合反応装置、例えばステンレス製オートクレーブを用いて行うことができる。三元共重合の反応温度は、副生成物である環状カーボネートの生成反応を抑制する観点、および反応時間を短縮する観点から、20℃~160℃であることが好ましく、70℃~150℃であることがより好ましく、100℃~140℃であることが特に好ましい。反応時間は、反応条件により異なるが、通常、1分~100時間である。
【0087】
前記共重合において使用される、前記モノエポキシドに対する前記ジエポキシドのモル比(ジエポキシド/モノエポキシド)は、1/10,000~1/1が好ましい。前記モル比(ジエポキシド/モノエポキシド)が1/10,000以上である場合、得られる架橋型ポリカーボネート引張強度や破断伸度等の力学的特性や熱安定性がさらに向上する。前記モル比(ジエポキシド/モノエポキシド)は、1/5,000以上がより好ましく、1/2,000以上がさらに好ましく、1/1,000以上が特に好ましい。一方、前記モル比(ジエポキシド/モノエポキシド)が1/1以下である場合、適度な架橋密度を有する架橋型ポリカーボネートが得られ、取扱性が向上する。前記モル比(ジエポキシド/モノエポキシド)は、1/5以下がより好ましく、1/10以下がさらに好ましく、1/20以下がさらに好ましく、1/50以下がよりさらに好ましく、1/100以下が特に好ましい。
【0088】
共重合時の二酸化炭素の分圧は、通常、0.1MPa~10MPaである。当該分圧は5MPa以下であることが好ましい。一方、当該分圧は0.5MPa以上であることが好ましく、1.0MPa以上であることがより好ましい。三元共重合は、酸素などの影響を排除するために不活性雰囲気下で実施することが好ましい。
【0089】
前記モノエポキシド及び前記ジエポキシドの合計に対する前記アルミニウムポルフィリン錯体触媒のモル比(触媒/エポキシド)は、5/100以下であることが好ましく、1/100以下であることがより好ましい。また、反応時間が短縮される観点から、前記モル比(触媒/エポキシド)は1/1,000,000以上であることが好ましく、5/1,000,000以上であることがより好ましい。
【0090】
三元共重合は無溶媒で行ってもよく、必要に応じて溶媒を使用してもよい。用いられる溶媒としては、使用されるエポキシド、二酸化炭素、触媒と反応しないものであれば特に制限はなく、例えば、炭化水素類、エーテル類、エステル類、ケトン類、ハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。具体的には、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンなどが挙げられる。中でも、溶解性が高いことからエーテル類およびハロゲン化炭化水素類が好ましく、特に、1,2-ジメトキシエタンおよび塩化メチレンが好ましい。これら溶媒は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0091】
前記溶媒の使用量は、前記モノエポキシド及び前記ジエポキシドの合計100質量部に対して50~10,000質量部であることが好ましく、100~5,000質量部であることがより好ましい。
【0092】
こうして得られた架橋型ポリカーボネートは、前記反応終了後、例えば、クロロホルムを加えて溶解させた後、メタノールを加えることでポリカーボネートを析出させ、ろ過、洗浄して触媒等を除去後、乾燥することにより単離することができる。
【0093】
以上説明した、本発明の架橋型ポリカーボネートはリンカーとなるジエポキシドの混合割合を変化させるだけで容易に引張強度や破断伸度等の力学的特性や熱安定性を調節できるため様々な用途が期待できる。また、本発明の架橋型ポリカーボネートの製造方法では、前記モノエポキシド、前記ジエポキシド及び二酸化炭素による三元共重合が選択的かつ高効率に促進されるうえに、高い重量平均分子量を有する架橋型ポリカーボネートを製造することができる。さらに、使用されるアルミニウムポルフィリン錯体触媒は安価である。したがって、前記製造方法によれば、前記架橋型ポリカーボネートを生産性よく製造できるため、非常に有用である。
【0094】
上記課題は、下記式(3)で表されるアルミニウムポルフィリン錯体触媒の存在下、モノエポキシド、ジエポキシド及び二酸化炭素を三元共重合させる、架橋型ポリカーボネートの製造方法を提供することによっても解決される。このとき使用される前記モノエポキシド及びジエポキシドは二酸化炭素と共重合が可能なものであれば、特に限定されない。この点以外は、上述した式(1)で表される繰り返し単位と式(2)で表される架橋構造とを含む本発明の架橋型ポリカーボネートの製造方法と同じである。このようなモノエポキシド及びジエポキシドを用いた場合でも三元共重合が選択的かつ高効率に促進されるため、前記架橋型ポリカーボネートを生産性よく製造できる。
【0095】
【化30】
[式(3)中、R
2は、下記式(4)で表される基であり、Xは、アニオン性軸配位子である。]
【0096】
【化31】
[式(4)中、R
3は、炭素数1~8のアルキル基であり、dは、2~8の整数であり、Y
-は、アニオンである。*は結合手である。]
【0097】
前記モノエポキシドとしては、下記式(15)で表されるものが好ましい。
【化32】
[式(15)中、R
4~R
7は、それぞれ独立してアルキル基、アリール基又は水素原子である。R
1~R
4は、相互に連結して環を形成していてもよい。]
【0098】
上記式(15)中、R4~R7は、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基又は水素原子である。R4~R7は、相互に連結して環を形成していてもよい。重合効率の点からは、R4及びR5の一方がアルキル基、アリール基又は水素原子であり、他方が水素原子であり、かつR6及びR7の一方がアルキル基、アリール基又は水素原子であり、他方が水素原子であることが好ましい。
【0099】
前記アルキル基は直鎖であっても分岐であってもよい。前記アルキル基の炭素数は通常1~20である。当該炭素数は10以下が好ましく、5以下がより好ましい。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基などが挙げられる。前記アルキル基中の水素原子は、例えば、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、シリル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、アリール基、ハロゲン原子などから選択される1または複数の置換基で置換されていてもよい。
【0100】
前記アリール基である場合、その炭素数は通常6~20である。当該炭素数は14以下が好ましい。前記アリール基としては、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基などが挙げられる。アリール基中の水素原子は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などのアルキル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基;アルコキシ基;アミノ基;カルボキシル基;エステル基;シリル基;スルファニル基;シアノ基;ニトロ基;スルホ基;ホルミル基;ハロゲン原子などから選択される1または複数の置換基で置換されていてもよい。
【0101】
R4~R7が相互に連結して環を形成していてもよい。R4又はR5と、R6又はR7とが脂肪族環を形成していることが好ましい。このとき、R4又はR5と、R6又はR7の合計の炭素数は3~20であることが好ましい。当該炭素数はより好適には4以上である。一方、当該炭素数はより好適には15以下であり、さらに好適には10以下である。例えば、R4又はR5と、R6又はR7とが「-(CH2)4-」を介して互いに結合した場合、シクロヘキサン環が形成されることになる。このように形成された環に含まれる水素原子は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などのアルキル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基;アルコキシ基;アミノ基;カルボキシル基;エステル基;シリル基;スルファニル基;シアノ基;ニトロ基;スルホ基;ホルミル基;ハロゲン原子などから選択される1または複数の置換基で置換されていてもよい。
【0102】
上記式(15)で表されるエポキシドとして、具体的には、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-エポキシブタン、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、メチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、スチレンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、リモネンオキシド、3-フェニルプロピレンオキシド、3,3,3-トリフルオロプロピレンオキシド、エピクロロヒドリンなどが挙げられ、エチレンオキシド、プロピレンオキシド及びシクロヘキセンオキシドが好ましい。
【0103】
前記ジエポキシドとしては、上記式(15)で表されるモノエポキシド2つが2価の有機基で連結されたものが挙げられる。2価の有機基としては、上記式(2)中のR1が挙げられる。
【0104】
前記製造方法によって得られる架橋型ポリカーボネートのポリスチレン換算の重量平均分子量Mwや、ポリスチレン換算の数平均分子量Mnに対する、重量平均分子量Mwの比である見かけの分散度(Mw/Mn)が、上述した式(1)で表される繰り返し単位と式(2)で表される架橋構造とを含む本発明の架橋型ポリカーボネートと同じ範囲であることが好ましい。
【0105】
本発明のポリカーボネート重合用触媒は、下記式(5)で表されるアルミニウムポルフィリン錯体触媒からなるものである。このような二官能性アルミニウムポルフィリン錯体からなる触媒は、エポキシドと二酸化炭素の交互共重合を極めて選択的かつ高効率に促進する。したがって、上述した式(1)で表される繰り返し単位を含むポリカーボネート鎖同士が式(2)で表される構造で架橋されてなる本発明の架橋型ポリカーボネートの製造や、モノエポキシド、ジエポキシド及び二酸化炭素を三元共重合させることにより架橋型ポリカーボネートを得る、本発明の架橋型ポリカーボネートの製造方法に用いる触媒として最も理想的である。
【0106】
【化33】
[式(5)中、R
4は、下記式(6)で表される基であり、Xは、アニオン性軸配位子である。]
【0107】
【化34】
[式(6)中、R
3は、炭素数1~8のアルキル基であり、eは、4又は5であり、Y
-は、アニオンである。*は結合手である。]
【0108】
エポキシド、二酸化炭素、必要に応じてジエポキシドを共重合させる際に、上記式(5)で表されるアルミニウムポルフィリン錯体触媒を用いることによって、モノマー変換率が高まるうえに、重量平均分子量が高いポリカーボネートを得ることができる。式(6)中のeは4が好ましい。ベンゼン環と第4級アンモニウム塩の間のアルキレン基(式(6)中のeと式(4)中のd)が異なること以外は、式(5)で表されるアルミニウムポルフィリン錯体触媒は、上述した、式(3)で表されるアルミニウムポルフィリン錯体触媒と同じである。
【0109】
本発明のアルミニウムポルフィリン錯体の製造方法は、下記式(7)
【化35】
[式(7)中、R
5は、下記式(8)で表される基である。]
【0110】
【化36】
[式(8)中、dは、2~8の整数であり、Zは、ハロゲン原子、p-トルエンスルホニル基又はトリフルオロメタンスルホナート基である。*は結合手である。]
で表されるポルフィリン化合物と「NR
3
3」(左式中R
3は、上記式(4)と同義である)等の3級アミンを反応させて、下記式(9)
【0111】
【化37】
[式(9)中、R
6は、下記式(10)で表される基である。]
【0112】
【化38】
[式(10)中、R
3は、炭素数1~8のアルキル基であり、Z
-は、ハロゲン化物イオン、p-トルエンスルホナートイオン又はトリフルオロメタンスルホナートイオンであり、dは、上記式(8)と同義である。*は結合手である。]
で表される4級アンモニウム塩を得た後に、当該4級アンモニウム塩とジアルキルアルミニウムハライドとを反応させることにより、下記式(11)で表されるアルミニウムポルフィリン錯体
【0113】
【化39】
[式(11)中、R
6は、上記式(9)と同義であり、Wは、ハロゲン化物イオンの軸配位子である。]
を得る方法である。
【0114】
従来、アルミニウムポルフィリン錯体の製造方法として、ポルフィリン化合物とジアルキルアルミニウムハライドとを反応させて得られた金属錯体をクロマト精製した後、当該金属錯体と3級アミンとを反応させて4級アンモニウム化させる方法が知られていた。得られる4級アンモニウム塩は溶媒に溶けにくくクロマト精製を行うのが困難であるため、上記のとおり、4級アンモニウム化させる工程は最後に行われていた。しかしながら、当該方法では、ルイス酸性を有するアルミニウムに起因するとみられる副反応によって不純物が生じ、その除去操作が煩雑であった。本発明者らは、製造効率を高めるべく鋭意検討したところ、先にポルフィリン化合物の4級アンモニウム化を行ってから、得られた4級アンモニウム塩にアルミニウムを導入することにより、驚くべきことに不純物の発生が抑制されることを見出し、製造効率が著しく向上した。
【0115】
上記式(7)で表されるポルフィリン化合物は、WO2013/042695号の[0111]、[0174]~[0177]段落に記載された方法等により製造することができる。上記式(8)中のdは、上記式(4)中のdと同義である。
【0116】
上記式(7)で表されるポルフィリン化合物と3級アミンを反応させる方法として、当該ポルフィリン化合物と3級アミンとを溶媒に溶かした後に撹拌する方法が挙げられる。このとき、金属錯体1モルに対して、3級アミンを5~100モル混合して反応させることが好適である。溶媒としては、クロロホルム、アセトニトリル等が用いられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。反応温度は通常、0~100℃の範囲で適宜選択される。反応生成物は、再結晶などにより容易に精製することができる。
【0117】
こうして得られた上記式(9)で表される4級アンモニウム塩とジアルキルアルミニウムハライドとを反応させる方法として、当該4級アンモニウム塩を溶媒に溶かした後、ジアルキルアルミニウムハライド溶液を加えてから撹拌する方法が挙げられる。このとき、前記4級アンモニウム塩1モルに対して、ジアルキルアルミニウムハライドを3~50モル混合して反応させることが好適である。ジアルキルアルミニウムハライドとしては、ジエチルアルミニウムクロライド、ジメチルアルミニウムクロライド等が挙げられる。溶媒としては、ジクロロメタン、トルエン等が用いられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。反応温度は通常、0~100℃の範囲で適宜選択される。必要に応じて、反応生成物を洗浄してもよい。反応生成物は、再結晶などにより容易に精製することができる。また、ジアルキルアルミニウムハライドに由来するハロゲン化物イオンの軸配位子Wや上記式(10)中のZ-を他のアニオンと交換してもよい。当該他のアニオンとしては、上式(3)中、Xで表されるアニオン性軸配位子として用いられるアニオンとして上述したものが挙げられる。アニオンを交換する方法としては、反応生成物を洗浄する際に同時に行う方法等が挙げられる。上記式(10)中のR3は、上記式(4)中のR3と同義である。
【0118】
上述した本発明のアルミニウムポルフィリン錯体の製造方法によれば、上記式(11)で表されるアルミニウムポルフィリン錯体を極めて効率よく製造することが可能である。当該方法によって得られるアルミニウムポルフィリン錯体を、上述した式(1)で表される繰り返し単位を含むポリカーボネート鎖同士が式(2)で表される構造で架橋されてなる本発明の架橋型ポリカーボネートの製造や、モノエポキシド、ジエポキシド及び二酸化炭素を三元共重合させることにより架橋型ポリカーボネートを得る、本発明の架橋型ポリカーボネートの製造方法に用いることによって、製造コストが低減される。
【実施例0119】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0120】
[化合物の分析]
得られた化合物の1H-NMRスペクトルの測定は、JEOL社製「JNM-ECS400」を用いて行った。ポリカーボネートの分子量測定には、株式会社島津製作所製高速液体クロマトグラフィーシステム「LC-20AT」と昭和電工株式会社製GPC用カラム「SHODEX KF-804L」2本を用い、溶出液としてテトラヒドロフラン(40℃、1.0mL/分)を用いた。ポリカーボネートとポリスチレン標準とをそれぞれ測定した後、解析ソフトウェア(LCサイエンス製 Chromato Logger)で処理してポリスチレン換算のポリカーボネートの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を決定した。
【0121】
[アルミニウム錯体の調製]
(製造例1)
二官能性アルミニウムポルフィリン錯体1aの合成
ポルフィリン4aの合成を行った。このときの反応式を以下に示す。
【0122】
【0123】
10mLの反応器に3a(115mg、98.9μmol)と撹拌子を入れアルゴン置換した。前記反応器に乾燥クロロホルム(1.0mL)と乾燥アセトニトリル(1.0mL)を加えて3aを溶かした後、トリブチルアミン(1.0mL、4.2mmol)を加えアルゴン雰囲気下、遮光して70℃で168時間攪拌した。溶媒留去後に残ったトリブチルアミンをピペットで取り除いた。再結晶(ジクロロメタン/ジエチルエーテル)により4aを紫色固体として得た(187mg、収率99%)。4aの分析結果を以下に示す。
【0124】
1H NMR (CD3OD, 400 MHz) δ 0.92 (t, J = 7.1 Hz, 36H), 1.27-1.42 (m, 24H), 1.58-1.73 (m, 24H), 2.10-2.27 (m, 8H), 3.18-3.31 (m, 24H), 3.52 (s, 8H), 4.28 (s, 8H), 7.38 (d, J = 7.8 Hz, 4H), 7.65 (s, 4H), 7.77 (s, 8H), 8.84 (s, 8H)
13C NMR (CD3OD, 100 MHz) δ 13.8, 20.7, 23.6, 24.9, 57.4, 60.0, 66.1, 115.6, 121.2, 122.5, 129.0, 129.2, 132.0, 144.7, 158.5
HR-MS (ESI): m/z = 871.5404. calcd for C104H158N8O4Br2: 871.5373 [M-2Br]2+
IR (KBr) 3318, 3059, 2959, 2874, 1597, 1574, 1470, 1431, 1381, 1350, 1315, 1288, 1265, 1204, 1180, 1165, 1092, 1057, 995, 976, 937, 914, 876, 802, 779, 737, 698 cm-1
【0125】
得られた4aを用いて二官能性アルミニウムポルフィリン錯体1aの合成を行った。このときの反応式を以下に示す。
【0126】
【0127】
50mLの反応器に4a(68.2mg、35.8μmol)と撹拌子を入れてヒートガンで予備乾燥してアルゴン置換した。前記反応器に乾燥ジクロロメタン(3.0mL)を入れて4aを溶かした後、0.87Mジエチルアルミニウムクロリドヘキサン溶液(0.92mL、0.54mmol)を加え室温で16時間攪拌した。溶媒留去後、得られた粗生成物をジクロロメタンに溶かし、3%臭化水素酸、1M臭化ナトリウム水溶液で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、濾過・濃縮して、二官能性アルミニウムポルフィリン錯体1aを紫色固体として得た(70.4mg、収率98%)。1aの分析結果を以下に示す。
【0128】
1H NMR (CD3OD, 400 MHz) δ 0.90-0.99 (m, 36H), 1.40 (dt, J = 7.1, 14.8 Hz, 24H), 1.67-1.75 (m, 24H), 2.28 (dt, J = 5.3, 10.7 Hz, 8H), 3.22-3.31 (m, 24H), 3.58 (t, J = 8.2 Hz, 8H), 4.34 (t, J = 5.5 Hz, 8H), 7.44 (d, J = 7.3 Hz, 4H), 7.71 (t, J = 8.2 Hz, 4H), 7.76-7.84 (m, 8H), 9.09 (s, 8H)
13C NMR (CD3OD, 100 MHz) δ 13.9, 20.7, 23.7, 25.0, 57.5, 60.1, 66.2, 115.8, 121.8, 122.6, 129.1, 129.2, 133.3, 144.2, 149.2, 158.7
HR-MS (ESI): m/z = 924.4771. calcd for C104H156N8O4AlBr3: 924.4785 [M-2Br]2+
IR (KBr) 2959, 2874, 1597, 1578, 1508, 1474, 1427, 1381, 1350, 1315, 1285, 1258, 1207, 1184, 1057, 1015, 976, 941, 880, 802, 741, 721, 702 cm-1
【0129】
(製造例2)
二官能性アルミニウムポルフィリン錯体1bの合成
ポルフィリン4bの合成を行った。このときの反応式を以下に示す。
【0130】
【0131】
10mLの反応器に3b(118mg、96.8μmol)と撹拌子を入れアルゴン置換した。前記反応器に乾燥クロロホルム(1.0mL)と乾燥アセトニトリル(1.0mL)を加えて3bを溶かした後、トリブチルアミン(1.0mL、4.2mmol)を加えアルゴン雰囲気下、遮光して70℃で168時間攪拌した。溶媒留去後に残ったトリブチルアミンをピペットで取り除いた。再結晶(ジクロロメタン/ジエチルエーテル)により4bを紫色固体として得た(189mg、収率99%)。4bの分析結果を以下に示す。
【0132】
1H NMR (CD3OD, 400 MHz) δ 0.93 (t, J = 6.7 Hz, 36H), 1.37-1.40 (m, 24H), 1.57-1.77 (m, 24H), 1.88-2.08 (m, 16H), 3.24-3.31 (m, 24H), 3.40 (s, 8H), 4.32 (s, 8H), 7.44 (dd, J = 2.1, 8.2 Hz, 4H), 7.71 (t, J = 7.9 Hz, 4H), 7.76-7.84 (m, 8H), 8.88 (s, 8H)
13C NMR (CD3OD, 100 MHz) δ 13.8, 20.0, 20.7, 24.9, 27.1, 59.6, 59.9, 68.4, 115.4, 121.2, 122.7, 129.0, 132.3, 144.7, 158.8
HR-MS (ESI): m/z = 899.5719. calcd for C108H166N8O4Br2: 899.5686 [M-2Br]2+
IR (KBr) 3319, 3059, 2959, 2874, 1601, 1576, 1470, 1435, 1381, 1348, 1315, 1285, 1263, 1204, 1182, 1165, 1055, 1032, 997, 974, 920, 880, 804, 777, 737, 700 cm-1
【0133】
得られた4bを用いて二官能性アルミニウムポルフィリン錯体1bの合成を行った。このときの反応式を以下に示す。
【0134】
【0135】
50mLの反応器に4b(109mg、55.6μmol)と撹拌子を入れてヒートガンで予備乾燥してアルゴン置換した。前記反応器に乾燥ジクロロメタン(3.0mL)を入れて4bを溶かした後、0.87Mジエチルアルミニウムクロリドヘキサン溶液(0.96mL、0.84mmol)を加え室温で16時間攪拌した。溶媒留去後、得られた粗生成物をジクロロメタンに溶かし、3%臭化水素酸、1M臭化ナトリウム水溶液で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、濾過・濃縮して、二官能性アルミニウムポルフィリン錯体1bを紫色固体として得た(109mg、収率95%)。1bの分析結果を以下に示す。
【0136】
1H NMR (CD3OD, 400 MHz) δ 0.98 (t, J = 7.3 Hz, 36H), 1.42 (dd, J = 7.3, 14.6 Hz, 24H), 1.65-1.77 (m, 24H), 1.94-2.07 (m, 16H), 3.20-3.31 (m, 24H), 3.39-3.44 (m, 8H), 4.33 (s, 8H), 7.47 (d, J = 8.5 Hz, 4H), 7.73 (t, J = 7.9 Hz, 4H), 7.78-7.84 (m, 8H), 9.13 (s, 8H)
13C NMR (CD3OD, 100 MHz) δ 13.9, 20.0, 20.7, 25.0, 27.2, 59.7, 60.0, 68.4, 115.6, 121.9, 122.5, 128.8, 129.1, 133.2, 144.2, 149.2, 159.0
HR-MS (ESI): m/z = 952.5081. calcd for C108H164N8O4AlBr3: 952.5114 [M-2Br]2+
IR (KBr) 2959, 2874, 1597, 1578, 1508, 1474, 1431, 1385, 1350, 1315, 1285, 1261, 1211, 1184, 1069, 1011, 945, 883, 849, 802, 741, 721, 702 cm-1
【0137】
(製造例3)
二官能性アルミニウムポルフィリン錯体1cの合成
ポルフィリン4cの合成を行った。このときの反応式を以下に示す。
【0138】
【0139】
10mLの反応器に3c(113mg、88.6μmol)と撹拌子を入れアルゴン置換した。前記反応器に乾燥クロロホルム(1.0mL)と乾燥アセトニトリル(1.0mL)を加えて3cを溶かした後、トリブチルアミン(1.0mL、4.2mmol)を加えアルゴン雰囲気下、遮光して70℃で168時間攪拌した。溶媒留去後に残ったトリブチルアミンをピペットで取り除いた。再結晶(ジクロロメタン/ジエチルエーテル)により4cを紫色固体として得た(176mg、収率99%)。4cの分析結果を以下に示す。
【0140】
1H NMR (CD3OD, 400 MHz) δ 0.84-1.00 (m, 36H), 1.26-2.00 (m, 72H), 3.08-3.31 (m, 32H), 4.24 (t, J = 6.1 Hz, 8H), 7.39 (dd, J = 1.6, 8.0 Hz, 4H), 7.67 (t, J = 7.6 Hz, 4H), 7.73-7.82 (m, 8H), 8.87 (s, 8H)
13C NMR (CD3OD, 100 MHz) δ 13.8, 20.6, 22.7, 24.3, 24.9, 29.7, 59.9, 69.2, 115.4, 121.3, 122.7, 128.7, 128.9, 131.9, 144.5, 159.1
HR-MS (ESI): m/z = 927.5979. calcd for C112H174N8O4Br2: 927.5999 [M-2Br]2+
IR (KBr) 3325, 2959, 2874, 1597, 1574, 1470, 1431, 1381, 1350, 1315, 1285, 1265, 1204, 1180, 1165, 1069, 1034, 995, 976, 926, 883, 802, 779, 737, 702 cm-1
【0141】
得られた4cを用いて二官能性アルミニウムポルフィリン錯体1cの合成を行った。このときの反応式を以下に示す。
【0142】
【0143】
50mLの反応器に4c(60.5mg、30.0μmol)と撹拌子を入れてヒートガンで予備乾燥してアルゴン置換した。前記反応器に乾燥ジクロロメタン(2.5mL)を入れて4cを溶かした後、0.87Mジエチルアルミニウムクヘキサンロリド溶液(0.52mL、0.45mmol)を加え室温で15時間攪拌した。溶媒留去後、得られた粗生成物をジクロロメタンに溶かし、3%臭化水素酸、1M臭化ナトリウム水溶液で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、濾過・濃縮して、二官能性アルミニウムポルフィリン錯体1cを紫色固体として得た(59.3mg、収率93%)。1cの分析結果を以下に示す。
【0144】
1H NMR (CD3OD, 400 MHz) δ 1.00 (t, J = 7.3 Hz, 36H), 1.42 (dt, J = 7.3, 14.6 Hz, 24H), 1.65-2.04 (m, 48H), 3.18-3.31 (m, 32H), 4.28 (t, J = 6.1 Hz, 8H), 7.45 (dd, J = 1.2, 7.3 Hz, 4H), 7.71 (t, J = 7.9 Hz, 4H), 7.75-7.84 (m, 8H), 9.15 (s, 8H)
13C NMR (CD3OD, 100 MHz) δ 13.8, 20.7, 22.9, 24.3, 25.0, 29.9, 59.9, 60.0, 69.3, 115.5, 122.0, 122.5, 128.5, 129.1, 133.2, 144.0, 149.2, 159.1
HR-MS (ESI): m/z = 980.5388. calcd for C112H172N8O4AlBr3: 980.5411 [M-2Br]2+
IR (KBr) 2959, 2870, 1597, 1574, 1508, 1474, 1427, 1385, 1350, 1315, 1285, 1261, 1211, 1184, 1072, 1015, 945, 891, 802, 741, 721, 702 cm-1
【0145】
(製造例4)
二官能性アルミニウムポルフィリン錯体1dの合成
ポルフィリン4dの合成を行った。このときの反応式を以下に示す。
【0146】
【0147】
10mLの反応器に3d(130mg、97.7μmol)と撹拌子を入れアルゴン置換した。前記反応器に乾燥クロロホルム(1.0mL)と乾燥アセトニトリル(1.0mL)を加えて3dを溶かした後、トリブチルアミン(1.0mL、4.2mmol)を加えアルゴン雰囲気下、遮光して70℃で168時間攪拌した。溶媒留去後に残ったトリブチルアミンをピペットで取り除いた。再結晶(ジクロロメタン/ジエチルエーテル)により4dを紫色固体として得た(197mg、収率97%)。4dの分析結果を以下に示す。
【0148】
1H NMR (CD3OD, 400 MHz) δ 0.89-0.92 (m, 36H), 1.30-1.56 (m, 72H), 1.80-1.82 (m, 8H), 3.12 (s, 32H), 4.13 (t, J = 6.0 Hz, 8H), 7.31 (d, J = 7.6 Hz, 4H), 7.59 (t, J = 8.0 Hz, 4H), 7.72 (s, 8H), 8.86 (s, 8H)
13C NMR (CD3OD, 100 MHz) δ 13.8, 20.6, 22.8, 24.9, 24.9, 26.6, 27.1, 30.1, 59.8, 59.9, 69.3, 115.3, 121.3, 122.8, 128.6, 128.8, 144.4, 159.1
HR-MS (ESI): m/z = 610.7788. calcd for C116H182N8O4Br: 610.7813 [M-3Br]3+
IR (KBr) 3325, 2959, 2938, 2872, 1576, 1470, 1383, 1348, 1287, 1261, 1182, 1165, 1034, 997, 976, 878, 804, 737, 700 cm-1
【0149】
得られた4dを用いて二官能性アルミニウムポルフィリン錯体1dの合成を行った。このときの反応式を以下に示す。
【0150】
【0151】
50mLの反応器に4d(146mg、70.3μmol)と撹拌子を入れてヒートガンで予備乾燥してアルゴン置換した。前記反応器に乾燥ジクロロメタン(4.0mL)を入れて4dを溶かした後、0.87Mジエチルアルミニウムクヘキサンロリド溶液(1.2mL、1.1mmol)を加え室温で15時間攪拌した。溶媒留去後、得られた粗生成物をジクロロメタンに溶かし、3%臭化水素酸、1M臭化ナトリウム水溶液で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、濾過・濃縮して、二官能性アルミニウムポルフィリン錯体1dを紫色固体として得た(141mg、収率92%)。1dの分析結果を以下に示す。
【0152】
1H NMR (CD3OD, 400 MHz) δ 1.00 (t, J = 7.6 Hz, 36H), 1.38-1.79 (m, 72H), 1.93-1.96 (m, 8H), 3.23-3.27 (m, 32H), 4.26 (t, J = 6.0 Hz, 8H), 7.43 (d, J = 8.0 Hz, 4H), 7.71 (t, J = 8.4 Hz, 4H), 7.78 (s, 8H), 9.16 (s, 8H)
13C NMR (CD3OD, 100 MHz) δ 14.0, 20.7, 22.9, 24.9, 26.8, 27.2, 30.3, 59.5, 59.7, 69.1, 115.0, 121.7, 122.4, 128.5, 128.9, 132.9, 144.5, 149.1, 159.1
HR-MS (ESI): m/z = 1008.5728. calcd for C116H180N8O4AlBr3: 1008.5724 [M-2Br]2+
IR (KBr) 2959, 2936, 2874, 1595, 1576, 1472, 1423, 1383, 1350, 1285, 1260, 1184, 1167, 1069, 1011, 885, 800, 783, 721, 702 cm-1
【0153】
(製造例5)
二官能性アルミニウムポルフィリン錯体1eの合成
ポルフィリン4eの合成を行った。このときの反応式を以下に示す。
【0154】
【0155】
10mLの反応器に3e(81.7mg、56.6μmol)と撹拌子を入れアルゴン置換した。前記反応器に乾燥クロロホルム(1.0mL)と乾燥アセトニトリル(1.0mL)を加えて3eを溶かした後、トリブチルアミン(1.0mL、4.2mmol)を加えアルゴン雰囲気下、遮光して70℃で168時間攪拌した。溶媒留去後に残ったトリブチルアミンをピペットで取り除いた。再結晶(ジクロロメタン/ジエチルエーテル)により4eを紫色固体として得た(119mg、収率96%)。4eの分析結果を以下に示す。
【0156】
1H NMR (CD3OD, 400 MHz) δ 0.79-1.00 (m, 36H), 1.30-1.71 (m, 88H), 1.86-1.95 (m, 8H), 2.97-3.01 (m, 32H), 4.22 (t, J = 6.4 Hz, 8H), 7.29 (dd, J = 2.0, 8.4 Hz, 4H), 7.68 (t, J = 7.6 Hz, 4H), 7.74-7.79 (m, 8H), 8.89 (s, 8H)
13C NMR (CD3OD, 100 MHz) δ 12.4, 19.2, 21.4, 23.5, 25.7, 28.7, 58.5, 68.2, 114.0, 120.0, 121.5, 127.2, 127.5, 131.0, 143.1, 157.8
HR-MS (ESI): m/z = 1012.1911. calcd for C124H198N8O4Br2: 1012.1958 [M-2Br]2+
IR (KBr) 3419, 2958, 2933, 2872, 1595, 1575, 1469, 1431, 1381, 1348, 1315, 1286, 1263, 1203, 1182, 1165, 1037, 995, 975, 921, 879, 802, 777, 736, 700 cm-1
【0157】
得られた4eを用いて二官能性アルミニウムポルフィリン錯体1eの合成を行った。このときの反応式を以下に示す。
【0158】
【0159】
50mLの反応器に4e(21.0mg、9.64μmol)と撹拌子を入れてヒートガンで予備乾燥してアルゴン置換した。前記反応器に乾燥ジクロロメタン(1.0mL)を入れて4eを溶かした後、0.87Mジエチルアルミニウムクロリドヘキサン溶液(0.17mL、0.15mmol)を加え室温で18時間攪拌した。溶媒留去後、得られた粗生成物をジクロロメタンに溶かし、3%臭化水素酸、1M臭化ナトリウム水溶液で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、濾過・濃縮して、二官能性アルミニウムポルフィリン錯体1eを紫色固体として得た(21.2mg、収率96%)。1eの分析結果を以下に示す。
【0160】
1H NMR (CD3OD, 400 MHz) δ 1.00 (t, J = 7.3 Hz, 36H), 1.42 (dt, J = 7.3, 14.6 Hz, 24H), 1.65-2.04 (m, 48H), 3.18-3.31 (m, 32H), 4.28 (t, J = 6.1 Hz, 8H), 7.45 (dd, J = 1.2, 7.3 Hz, 4H), 7.71 (t, J = 7.9 Hz, 4H), 7.75-7.84 (m, 8H), 9.15 (s, 8H)
13C NMR (CD3OD, 100 MHz) δ 13.8, 20.7, 22.9, 24.9, 27.1, 27.3, 30.0, 30.2, 30.5, 59.9, 60.1, 69.6, 115.3, 121.6, 122.6, 128.6, 128.7, 132.6, 149.1, 159.2
HR-MS (ESI): m/z = 1064.6401. calcd for C124H196N8O4AlBr3: 1064.6370 [M-2Br]2+
IR (KBr) 3061, 2959, 2934, 2872, 1595, 1576, 1512, 1472, 1427, 1383, 1350, 1314, 1287, 1261, 1209, 1186, 1070, 1011, 941, 881, 800, 721, 702 cm-1
【0161】
実施例1
[架橋型ポリカーボネートの合成]
二官能性アルミニウムポルフィリン錯体1aを触媒として用いて、モノエポキシドであるシクロヘキセンオキシド(CHO)、ジエポキシド(架橋剤)である3',4'-エポキシシクロヘキサンカルボン酸3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(2a)及び二酸化炭素の三元共重合を行った。このときの反応式を以下に示す。
【0162】
【0163】
30mL金属製オートクレーブ(予め150℃で2時間加熱したもの)中に、二官能性アルミニウムポルフィリン錯体1a(0.3μmol)と、架橋剤として2a(120μmol)を加えガラス製漏斗をのせたガラス製の反応管を入れ、真空下放冷した。グローブボックス内で当該反応管にシクロヘキセンオキシド(CHO、30mmol)を入れたのち、オートクレーブに二酸化炭素(2.0MPa)を充填し、130℃に加熱した。24時間後に加熱を停止して放冷し、0.5Mメタノール性塩酸(0.2mL)を加えた後、NMR内部標準物質メシチレン(5mmol)を加え、反応混合物の1H-NMRによる分析を行い変換率を算出した。なお、ポリシクロヘキセンオキシドなどのエポキシドのみが連続で重合したものなどはほとんど含まれないことを確認した。未反応のCHOを減圧留去して反応混合物を得た。
【0164】
[架橋型ポリカーボネートの評価]
前記反応混合物のGPCによる分析を行い数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を求めた。結果を表1に示す。
【0165】
実施例2~5
触媒として二官能性アルミニウムポルフィリン錯体1b、1c、1d又は1eを用いたこと以外は実施例1と同様にして、CHO、架橋剤である2a及び二酸化炭素の三元共重合を行った後、得られた反応混合物の分析を行った。GPCの結果、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を求めた。結果を表1に示す。
【0166】
【0167】
実施例6~9
二官能性アルミニウムポルフィリン錯体1bを触媒として用いてCHO、架橋剤である2a及び二酸化炭素の三元共重合を行った。このときの反応式を以下に示す。2aを90μmol又は60μmol又は30μmol用いた又は全く用いなかったこと以外は実施例2と同様にしてCHO、2a及び二酸化炭素の三元共重合を行った後、得られた反応混合物の分析を行った。GPCの結果、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を求めた。結果を表2に示す。
【0168】
【0169】
前記反応混合物の一部をクロロホルムに溶かしオストワルド粘度計を用いて固有粘度を測定した。恒温水槽は柴田科学 VT-3型で温度調節精度プラスマイナス0.1℃、温度分布精度も同じくプラスマイナス0.1℃を用いた。また前記反応混合物の一部をジクロロメタンとメタノールから再沈殿し減圧乾燥した試料を150℃でホットプレスすることで平行部の長さ30mm、幅4mm、厚み0.3mmのドッグボーン型試験片を作成した。島津製作所製 autograph AG-X plusを用いて前記試験片の引張試験(温度24℃、チャック間隔40mm、引張速度5mm/min)を行い、ヤング率、引張強度及び破断伸度を算出した。また熱分解温度(T50)及びガラス転移温度(Tg)を、日立ハイテクサイエンス製 STA7200RV及びTA Instruments製 DSC Q200 V24.4 Build 116 analyzerを用いて決定した。結果を表2に示す。
【0170】
【0171】
表1に示されるように、ベンゼン環と第4級アンモニウム塩の間のアルキレン基がブチレン基[-(CH
2)
4-]である二官能性ポルフィリンアルミニウム錯体1bが最も優れた触媒活性を示した。1a~1eは第4級アンモニウム塩とポルフィリンを連結するメチレン鎖長が異なるのみであり、触媒活性に対する鎖長依存性が顕著であることがわかった。実施例6~9で得られた反応混合物のGPCチャートを
図2に示す。このように、GPC分析の結果、架橋剤である2aを添加して得られた実施例6~8の反応混合物には多峰性(multimodal)のピークが観測され大きな分散度(Mw/Mn)を示したことから架橋ポリカーボネートの生成が示唆された。特に1つ目のピークについて、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を求めたところ、556,000及び647,000となり非常に大きなポリマーが生成していることが分かった。
【0172】
一方、架橋剤である2aの使用量を変えた場合、表2に示されるように、重量平均分子量(Mw)、分散度(Mw/Mn)が顕著に変化した。2aを多く用いるほど分散度(Mw/Mn)が大きくなり、架橋部が増えたことにより重量平均分子量(Mw)が大きくなったことと一致している。また、わずかな架橋剤の使用量の違いにより、熱分解温度、固有粘度、引張特性、破断伸度等が変化し、ポリマー物性を制御できることがわかった。以上のように、所定のアルミニウムポルフィリン錯体触媒と架橋剤とを用いることにより、物性を制御しつつ、環境に優しい架橋型ポリカーボネートを効率よく製造できることを明らかにした。