(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030664
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】遮光フィルム、遮光膜、遮光部材、レンズユニットおよびカメラモジュール
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20240229BHJP
G02B 5/00 20060101ALI20240229BHJP
G02B 7/02 20210101ALI20240229BHJP
G03B 9/02 20210101ALI20240229BHJP
G03B 17/02 20210101ALI20240229BHJP
G03B 30/00 20210101ALI20240229BHJP
【FI】
G02B5/22
G02B5/00 A
G02B7/02 H
G03B9/02 A
G03B17/02
G03B30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133696
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000125978
【氏名又は名称】株式会社きもと
(74)【代理人】
【識別番号】100111419
【弁理士】
【氏名又は名称】大倉 宏一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100115314
【弁理士】
【氏名又は名称】大倉 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】中島 義人
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 加奈美
(72)【発明者】
【氏名】小川 和紀
(72)【発明者】
【氏名】岸 幸生
(72)【発明者】
【氏名】栗嶋 進
(72)【発明者】
【氏名】中山 真一
【テーマコード(参考)】
2H042
2H044
2H080
2H100
2H148
【Fターム(参考)】
2H042AA06
2H042AA08
2H042AA22
2H044AG00
2H080AA10
2H080AA30
2H080AA32
2H100AA02
2H148CA04
2H148CA05
2H148CA14
2H148CA20
2H148CA24
2H148CA29
(57)【要約】
【課題】 樹脂レンズの変色を防止することができる遮光膜を有する遮光フィルムから形成された遮光部材が組み込まれたレンズユニットを有するカメラモジュールを提供する。
【解決手段】 有機溶媒からなる溶媒成分を含む遮光塗料から形成され、残留する芳香族炭化水素系有機溶媒の合計量が500ppm以下の遮光層21,31を有する遮光フィルム100から形成された遮光部材100A,100B,100Cが、シクロオレフィン系ポリマーまたはポリカーボネートで構成される複数の樹脂レンズ42A,42B,42C,42D,42Eとともに組み込まれたレンズユニット41と、このレンズユニット41を通して被写体を撮像する撮像素子44とを有するカメラモジュール51。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィン系ポリマーまたはポリカーボネートで構成される複数の樹脂レンズが光軸方向に積み重ねられたレンズユニットに用いられる遮光部材を得るための遮光フィルムであって、
有機溶媒からなる溶媒成分を含む遮光塗料から形成された遮光膜を有し、
該遮光膜は、残留する芳香族炭化水素系有機溶媒の合計量が500ppm以下である遮光フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の遮光フィルムの遮光膜。
【請求項3】
シクロオレフィン系ポリマーまたはポリカーボネートで構成される複数の樹脂レンズが光軸方向に積み重ねられたレンズユニットに用いられる遮光部材であって、
請求項1に記載の遮光フィルムから形成された遮光部材。
【請求項4】
平面視でリング状かつ断面視で中空板状の外形を有する請求項3に記載の遮光部材。
【請求項5】
シクロオレフィン系ポリマーまたはポリカーボネートで構成される複数の樹脂レンズおよび少なくとも1つの遮光部材が、前記レンズの光軸方向に積み重ねられたレンズユニットであって、
前記遮光部材の少なくとも1つが、請求項3または4に記載の遮光部材からなるレンズユニット。
【請求項6】
請求項5に記載のレンズユニットと、該レンズユニットを通して被写体を撮像する撮像素子とを有するカメラモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮光フィルム、該遮光フィルムの遮光膜、前記遮光フィルムから形成された遮光部材、該遮光部材を構成部品として含むレンズユニット、および該レンズユニットを備えたカメラモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ等の光学機器、携帯情報端末装置やパーソナルコンピュータ等の電子機器、等に搭載されるカメラモジュールには、複数のレンズをホルダ(鏡筒)の内部に積み重ねた上で固体撮像素子(CCDやCMOS等)と組み合わせたレンズユニットが含まれる。このレンズユニットにおいて、レンズとレンズの間には、遮光やアパーチャー決め(絞りを規定する開口)のための遮光部材が組み込まれる。組み込まれた遮光部材は、カメラモジュールのレンズユニットに対し、迷光の進入や、フレアやゴーストの発生を防止する等、撮影に有害な光を遮断して撮像性能を向上させる。
【0003】
このような遮光部材として、カーボンブラック、滑剤、微粒子及びバインダー樹脂を含有する遮光膜を基材フィルムの両面に形成した遮光フィルムを中空状に打ち抜いたものが知られている(特許文献1、2)。
また、レンズユニットに組み込まれるレンズとして、近年、ガラス素材のもの(ガラスレンズ)から、軽量な樹脂素材のもの(樹脂レンズ)への代替が検討されている。樹脂レンズの素材としては、近時、光学特性に優れたシクロオレフィン系ポリマーや、耐衝撃性および加工性に優れたポリカーボネートが多く使用されている。環状構造を有するシクロオレフィン系ポリマーは、分子の末端基に官能基が少ないため吸湿しにくく、かつ屈折率や形状変化が少ない等の利点がある。ポリカーボネートは、一般的なガラスと比較して200倍以上もの高い耐衝撃性があり、かつプラスチックの基本的な成形方法である射出成形や押出成形、真空成形やブロー成形等、殆どの成形方法に対応した高い加工性を備えている等の利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-274218号公報
【特許文献2】WO2006/016555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
樹脂レンズを用いたレンズユニット中でレンズとレンズの間に組み込まれる遮光部材は、その遮光膜が対向する位置に存在するレンズの一部と接触して配置されることがある。この場合、遮光部材として、特許文献1、2による技術など、これまでの遮光膜を備えたものを用いると、樹脂レンズに変色(白化)を生じることがあった。樹脂レンズがレンズユニット中で変色した場合、樹脂レンズが濁った感じとなるため、撮影する被写体を正確に認識できなくなることに加え、鮮明な撮影画像が得られない(靄がかかったようなぼやけた画像となる)、等の不都合を生ずる。
【0006】
本発明の一側面では、樹脂レンズの変色を防止することができる遮光膜、該遮光膜を有する遮光フィルム、該遮光フィルムから形成された遮光部材、該遮光部材が組み込まれたレンズユニット、および該レンズユニットを有するカメラモジュールを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、樹脂レンズの変色の原因は遮光膜と接触する部分の溶解であり、その接触部分の溶解は遮光膜の特定成分が関係しているのではないかとの仮説を立て、鋭意検討を進めた。その結果、遮光部材の遮光膜に残留する特定溶媒が樹脂レンズの接触部分を溶解しているとの知見を得て、本発明を完成するに至った。樹脂レンズとともに使用される遮光部材、および該遮光部材を得るための遮光フィルムについて、その遮光膜における特定溶媒の合計量(濃度)を制御すると、樹脂レンズの、遮光膜との接触部分が溶解しない形態となるため、樹脂レンズの変色(白化)が防止される、とのメカニズムではないかと考えている。なお、樹脂レンズの変色は、その変色部分のヘイズが高くなったことが原因で起こるものとも考えている。
【0008】
すなわち、本発明は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
(1)シクロオレフィン系ポリマーまたはポリカーボネートで構成される複数の樹脂レンズが光軸方向に積み重ねられたレンズユニットに用いられる遮光部材を得るための遮光フィルムであって、
有機溶媒からなる溶媒成分を含む遮光塗料から形成された遮光膜を有し、
該遮光膜は、残留する芳香族炭化水素系有機溶媒の合計量(濃度)が500ppm以下である遮光フィルム。
【0009】
(2)上記(1)に記載の遮光フィルムの遮光膜。
(3)シクロオレフィン系ポリマーまたはポリカーボネートで構成される複数の樹脂レンズが光軸方向に積み重ねられたレンズユニットに用いられる遮光部材であって、上記(1)に記載の遮光フィルムから形成された遮光部材。
(4)平面視でリング状かつ断面視で中空板状の外形を有する上記(3)に記載の遮光部材。
【0010】
(5)シクロオレフィン系ポリマーまたはポリカーボネートで構成される複数の樹脂レンズおよび少なくとも1つの遮光部材が、前記レンズの光軸方向に積み重ねられたレンズユニットであって、前記遮光部材の少なくとも1つが、上記(3)または(4)に記載の遮光部材からなるレンズユニット。
(6)上記(5)に記載のレンズユニットと、該レンズユニットを通して被写体を撮像する撮像素子とを有するカメラモジュール。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂レンズの変色を防止することができる遮光膜、該遮光膜を有する遮光フィルム、該遮光フィルムから形成された遮光部材、該遮光部材が組み込まれたレンズユニット、該レンズユニットを有するカメラモジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】遮光フィルムの一例における構造を示す断面図である。
【
図2】遮光部材を備えるカメラモジュールの一例における構造を示す分解斜視図である。
【
図3】
図2で示すレンズユニットに組み込まれる遮光部材の一例における構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。但し、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において、例えば「1~100」との数値範囲の表記は、その上限値「100」及び下限値「1」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
【0014】
(第1実施形態)
図1に遮光フィルム100を示す。しかし、本発明の遮光フィルムは当該遮光フィルム100の構成に限定されない。
図1に示す例において、遮光フィルム100は、基材11と、この基材11の一方の主面11a側に設けられた第一遮光層21と、他方の主面11b側に設けられた第二遮光層31とを少なくとも備える。そして、第一遮光層21、基材11及び第二遮光層31が少なくともこの順に配列された積層構造(3層構造)を有するものとなっている。この積層構造において、第一遮光層21は表側の最表面に配置されるとともに、第二遮光層31は裏側の最表面に配置されており、
図1に示す通り、第一遮光層21及び第二遮光層31(以下「遮光層21,31」と略記する。)は表側及び裏側の最表面にそれぞれ露出した状態で配置されている。
図1に示す例において遮光層21,31はいずれも、最表面に設けられているが、性能を阻害しない範囲で、遮光層21,31の表面に別の機能層(例えば帯電防止処理もしくは帯電防止層など)を設けてもよい。
【0015】
ここで本明細書において、「基材の一方(他方)の主面側に設けられた」とは、
図1で示すように基材11の表面(例えば遮光層21側の主面や遮光層31側の主面)に遮光層21,31がそれぞれ直接載置された態様のみならず、基材11の表面と遮光層21,31との間に任意の層(例えばプライマー層、接着層等)が介在した態様を包含する意味である。そのため、遮光層21,31を少なくとも備える積層構造とは、遮光層21,31のみが直接積層した構造のみならず、上述した3層構造、及び、3層構造に任意の層をさらに設けた構造を包含する意味である。
【0016】
基材11は、遮光層21,31を支持可能なものである限り、その種類は特に限定されない。寸法安定性、機械的強度及び軽量化等の観点から、合成樹脂フィルムが好ましく用いられる。合成樹脂フィルムの具体例としては、ポリエステルフィルム、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)フィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム等が挙げられる。また、アクリル系、ポリオレフィン系、セルロース系、ポリスルホン系、ポリフェニレンスルフィド系、ポリエーテルスルホン系、ポリエーテルエーテルケトン系のフィルムを用いることもできる。これらの中でも、基材フィルム11としては、ポリエステルフィルムやポリイミドフィルムが好適に用いられる。とりわけ、一軸又は二軸延伸フィルム、特に二軸延伸ポリエステルフィルムは、機械的強度及び寸法安定性に優れるため、特に好ましい。また、耐熱用途には、一軸又は二軸延伸の、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリアミドフィルムが特に好ましく、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルムが最も好ましい。これらは1種を単独で用いることができ、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0017】
基材11の厚みは、要求性能及び用途に応じて適宜設定でき、特に限定されない。軽量化及び薄膜化の観点からは、基材11の厚みは、0.5~100μmが好ましく、より好ましくは1~50μm、さらに好ましくは5~40μm、特に好ましくは10~30μmである。なお、遮光層21,31との接着性を向上させる観点から、必要に応じて、基材11表面にアンカー処理やコロナ処理等の各種公知の表面処理を行うこともできる。
基材11の外観は、透明、半透明、不透明のいずれであってもよく、特に限定されない。例えば発泡ポリエステルフィルム等の発泡した合成樹脂フィルムや、各種顔料を含有させた合成樹脂フィルムを用いることもできる。
【0018】
遮光層21,31は、それぞれが本発明の遮光膜の一例であり、本実施形態ではそれぞれが1.0以上の光学濃度(OD)を有する遮光膜である。なお、本明細書において、光学濃度(OD)は、JIS-K7651:1988に準拠し、光学濃度計(X-Rite361T:エックスライト社)及びorthoフィルターを用いて測定して得られた値とする。より高い遮光性を具備させる観点から、遮光層21,31、それぞれ単層で1.5以上の光学濃度(OD)を有することが好ましく、より好ましくはそれぞれ単層で1.7以上の光学濃度(OD)を有する。また、遮光層21,31を積層させた場合、その積層体の光学濃度(OD)は、2.5~6.0が好ましく、より好ましくは4.5~6.0、さらに好ましくは5.0~6.0である。
【0019】
遮光層21,31の素材としては、当業界で公知のものを用いることができ、その種類は特に限定されない。なお、光学濃度の高い遮光膜として、黒色、灰色、紫色、青色、茶色、赤色、緑色等の暗色系の顔料又は染料を1種以上施した暗色系の遮光膜が好ましく用いられる。例えば黒色系の遮光膜としては、バインダー樹脂並びに黒色顔料、及び必要に応じて配合される暗色系の顔料又は染料を少なくとも含有する黒色遮光膜(換言すれば、黒色遮光層21,31)が好ましく用いられる。
【0020】
遮光層21,31の厚みは、要求性能及び用途に応じて適宜設定でき、特に限定されない。高い光学濃度、軽量化及び薄膜化の観点からは、それぞれ0.1μm以上が好ましく、より好ましくは0.2μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上、特に好ましくは1μm以上であり、上限側は15μm以下が好ましく、より好ましくは12μm以下、さらに好ましくは9μm以下、特に好ましくは6μm以下である。
【0021】
遮光フィルム100の総厚みは、軽量化及び薄膜化の観点から、0.5μm以上50μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは5μm以上であり、より好ましくは40μm以下、さらに好ましくは25μm以下である。
【0022】
遮光層21,31は、380~780nmの全波長域に亘る反射率(可視光反射率)が10.0%以下であることが好ましい。ここで可視光反射率とは、分光光度計(島津製作所社製、分光光度計SolidSpec-3700等)及び標準板として硫酸バリウムとを用い、遮光層21,31に対して入射角8°で光を入射したときの、相対全光線反射率を意味する。より高い遮光性を具備させる等の観点から、遮光層21,31の可視光反射率は、8%以下がより好ましく、さらに好ましくは6%以下、特に好ましくは4%以下である。
遮光フィルム100としては、可視光以外の赤外(800~1000nm)範囲の拡散反射率が、10%以下であることが好ましく、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下、特に好ましくは4%以下である。
【0023】
遮光層21,31は、十分な帯電防止性能を具備させる観点から、1.0×108Ω未満の表面抵抗率を有することが好ましく、より好ましくは1.0×105Ω未満、さらに好ましくは5.0×104Ω未満である。なお、本明細書において、表面抵抗率は、JIS-K6911:1995に準拠して測定される値とする。このような遮光層21,31は、例えば顔料として導電性カーボンブラックを使用したり、遮光層21,31表面に導電性カーボンブラックを付与する帯電防止処理を行うことにより得ることができる。
【0024】
本実施形態の遮光層21,31は、それぞれ単層で、芳香族炭化水素系有機溶媒(以下単に「特定溶媒」とも言う。)を極力含まない遮光膜からなること、好ましくは、残留する特定溶媒(以下「残留特定溶媒」と言う。)の合計量(濃度)が500ppm以下(好ましくは300ppm以下)の遮光膜からなることを特徴とする。「特定溶媒を極力含まない」と「残留特定溶媒の濃度が500ppm以下」とは同義の意味である。本発明者は、樹脂レンズとともに使用される遮光部材を得るための遮光フィルム100について、遮光層21,31を構成する遮光膜それぞれの残留特定溶媒の濃度を500ppm以下(すなわち特定溶媒を極力含まないよう)にした場合、樹脂レンズの、遮光層21,31との接触部分の溶解を抑制することができることを見出した。樹脂レンズの、遮光層21,31との接触部分の溶解が抑制されると、樹脂レンズの変色(白化)が効果的に防止される。残留特定溶媒の濃度が500ppm超となる遮光膜で遮光層21,31を構成した場合、樹脂レンズの、遮光層21,31との接触部分の溶解を抑制することはできず、その結果、接触部分のヘイズが上昇して樹脂レンズの変色が生じ得る。
【0025】
遮光層21,31への残留を嫌う特定溶媒(芳香族炭化水素系有機溶媒)は、例えばトルエン(沸点110.6℃)、キシレン(沸点137~144℃)、ベンゼン(沸点80.1℃)等であり、特にトルエンである。
【0026】
遮光層21,31の残留特定溶媒の濃度の下限は、特に限定されず、好ましくは0ppmであるが、例えば10ppm以上であってよい。遮光層21,31の残留特定溶媒濃度は、後述する実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0027】
本実施形態の遮光層21,31は、それぞれ、第2実施形態で説明する、有機溶媒からなる溶媒成分を含む遮光塗料から形成されてなる。そのため、遮光層21,31それぞれの残留特定溶媒濃度を500ppm以下とするには、例えば、特定溶媒を含まない溶媒成分を有する遮光塗料を用い、通常の乾燥(例えば60℃~100℃程度で0.3分~3分程度の条件)を経て塗膜を形成するか、あるいは、特定溶媒を含む溶媒成分を有する遮光塗料を用いて通常の乾燥(前出)を経て塗膜を形成した後、追加の熱処理(例えば120℃~150℃程度で0.3分~7分程度の条件)や減圧処理等を行い、塗膜に残留する特定溶媒を積極的に揮発させる等の方法が考えられる。得られる遮光フィルム100の平面性維持や生産性向上(追加設備不要、工程増加の削減)の観点から、前者(特定溶媒を含まない溶媒成分を有する遮光塗料を用いて塗膜を形成)が好ましい。
基材11の厚みが薄い(例えば10μm以下の)場合には、塗膜を形成した後、追加の熱処理で残留溶媒を揮発させることは、遮光フィルム100の平面性が悪くなる傾向があるため好ましくない。その場合には、熱処理に代えて減圧処理を行い、塗膜に残留する特定溶媒を揮発させることが好ましく、加温しながらであってもよく、加温しなくてもかまわない。
【0028】
基材11上への遮光層21,31の製膜(遮光フィルム100の製造)は、第2実施形態で説明する遮光塗料を用い、これを、基材11の主面上に公知の塗布方法(ドクターコート、ディップコート、ロールコート、バーコート、ダイコート、ブレードコート、エアナイフコート、キスコート、スプレーコート、スピンコート等)により塗布し、乾燥させた後、必要に応じて追加の熱処理や加圧処理等を行うことにより実現可能である。
なお、基材11と遮光層21,31との接着を向上させるため、必要に応じてアンカー処理やコロナ処理等を行うこともできる。さらに、必要に応じて、基材11と遮光層21,31との間にプライマー層や接着層等の中間層を設けることもできる。
【0029】
(作用)
本実施形態の遮光フィルム100は、有機溶媒からなる溶媒成分を含む遮光塗料から形成され、残留する芳香族炭化水素系有機溶媒の合計量が500ppm以下の遮光膜を、遮光層21,31のそれぞれで採用している。そのため、遮光フィルム100から形成された遮光部材(例えば
図2及び
図3に示す遮光部材100A,100B,100C)を、シクロオレフィン系ポリマーまたはポリカーボネートで構成される樹脂レンズが使用されたレンズユニット(例えば
図2に示すレンズユニット41)の構成部品に用いても、樹脂レンズにおける遮光部材の遮光層21,31との接触部分の溶解が抑制され、その結果、樹脂レンズの変色が防止されるため、撮影する被写体を正確に認識できることに加え、鮮明な撮影画像を得ることができる。
【0030】
(変形例)
本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で、任意に変更して実施することができる。例えば、遮光層21,31は、基材11の表裏に設けられることに限らず、基材11を設けることなく、遮光層21及び遮光層31の積層構造(2層構造)としてもよく、また遮光層21のみ(遮光層31のみ)の単層構造としてもよい。前者の場合、遮光フィルム100は、基材11のない、遮光層21と遮光層31の積層構造(2層構造)となる。後者の場合、遮光フィルム100は、基材11のない、遮光層21のみ(遮光層31のみ)の単層構造となる。
また、2以上の遮光膜により遮光層21,31を形成してもよい。例えばある特性の遮光膜及び他特性(例えば遮熱)遮光膜が積層された積層遮光層を遮光層21として適用することができる。遮光層31についても同様である。このとき、ある特性の遮光膜及び他特性遮光膜の積層体として、遮光層21に求められる上述した各種性能・物性を満たせばよい。遮光層31についても同様である。
【0031】
(第2実施形態)
図1に示す遮光フィルム100の、遮光層21,31の形成に用いる遮光塗料は、固形成分と、溶媒成分を有する。
遮光塗料に含める固形成分は、塗膜(遮光層21,31。以下同じ)となった際に被膜成分を構成するものである。黒色遮光膜を例に挙げると、固形成分は、バインダー樹脂並びに黒色顔料、及び必要に応じて配合される暗色系の顔料又は染料を少なくとも含有する。
【0032】
バインダー樹脂としては、ポリ(メタ)アクリル酸系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、セルロース系樹脂、ポリスチレン/ポリブタジエン樹脂、ポリウレタン系樹脂、アルキド樹脂、アクリル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエーテルアクリレート系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂等の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が挙げられるが、これらに特に限定されない。また、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマー、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂等も用いることができる。これらは1種を単独で用いることができ、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。なお、バインダー樹脂は、要求性能及び用途に応じて、適宜選択して用いることができる。例えば、被膜に耐熱性が求められる用途においては、熱硬化性樹脂が好ましい。
【0033】
固形成分全体に占めるバインダー樹脂の含有量(総量)は、特に限定されないが、被膜になった際の、接着性、遮光性、耐傷付性、摺動性及び艶消し性等の観点から、40~90質量%が好ましく、より好ましくは50~85質量%、さらに好ましくは60~80質量%である。
【0034】
黒色顔料は、バインダー樹脂を黒色に着色して被膜に遮光性を付与するものである。黒色顔料の具体例としては、例えば、黒色樹脂粒子、マグネタイト系ブラック、銅・鉄・マンガン系ブラック、チタンブラック、カーボンブラック、アニリンブラック等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、被膜になった際の、隠蔽性に優れることから、黒色樹脂粒子、チタンブラック、カーボンブラック、アニリンブラックが好ましく、より好ましくはカーボンブラック、アニリンブラックである。これらは1種を単独で用いることができ、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。また同様に、必要に応じて配合される暗色系の顔料又は染料についても、公知のものの中から適宜選択して用いればよい。
【0035】
カーボンブラックとしては、オイルファーネスブラック、ランプブラック、チャンネルブラック、ガスファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック等、各種公知の製法で作製されたものが知られているが、その種類は特に制限されない。被膜に導電性を付与し静電気による帯電を防止する観点から、導電性カーボンブラックが特に好ましく用いられる。カーボンブラックの歴史は古く、例えば三菱化学株式会社、旭カーボン株式会社、御国色素株式会社、レジノカラー工業株式会社、Cabot社、DEGUSSA社等から、各種グレードのカーボンブラック単体及びカーボンブラック分散液が市販されており、要求性能や用途に応じて、これらの中から適宜選択すればよい。なお、カーボンブラックの粒子サイズは、要求性能等に応じて適宜設定でき、特に限定されない。カーボンブラックの平均粒子径D50は、0.01~2.0μmであることが好ましく、より好ましくは0.05~1.0μm、さらに好ましくは0.08~0.5μmである。なお、本明細書における平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、島津製作所社:SALD-7000等)で測定される、体積基準のメジアン径(D50)を意味する。
【0036】
固形成分全体に占める黒色顔料の含有量(総量)は、特に限定されないが、被膜の分散性、製膜性、取扱性や、被膜になった際の、接着性、滑り性、艶消し性、耐磨耗性等の観点から、固形成分全体に占める全樹脂成分に対する固形分換算(phr)で、10~60質量%であることが好ましく、より好ましくは15~50質量%、さらに好ましくは20~40質量%である。
【0037】
なお、本実施形態の固形成分は、当業界で公知の各種添加剤を含有していてもよい。その具体例としては、マット剤(艶消し剤)、滑剤、導電剤、難燃剤、抗菌剤、防カビ剤、酸化防止剤、可塑剤、レベリング剤、流動調整剤、消泡剤、分散剤等が挙げられるが、これらに特に限定されない。マット剤としては、架橋ポリメチルメタクリレート粒子、架橋ポリスチレン粒子等の有機系微粒子、シリカ、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化チタン等の無機系微粒子等が挙げられるが、これらに特に限定されない。滑剤としては、ポリエチレン、パラフィン、ワックス等の炭化水素系滑剤;ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等の脂肪酸系滑剤;ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等のアミド系滑剤;ステアリン酸ブチル、ステアリン酸モノグリセリド等のエステル系滑剤;アルコール系滑剤;金属石鹸、滑石、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤;シリコーン樹脂粒子、ポリテトラフッ化エチレンワックス、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂粒子等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、特に有機系滑剤が好ましく用いられる。また、バインダー樹脂として、紫外線硬化型樹脂や電子線硬化型樹脂を用いる場合には、例えばn-ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルホスフィン等の増感剤や紫外線吸収剤等を用いてもよい。これらは1種を単独で用いることができ、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの含有割合は、特に限定されないが、固形成分全体に占める全樹脂成分に対する固形分換算(phr)で、一般的にはそれぞれ0.01~5質量%であることが好ましい。
【0038】
遮光塗料に含める溶媒成分は、遮光塗料中で固形成分を溶解、分散させるためのものであり、有機溶媒からなる。ここでの「有機溶媒」には、およそ当業界で固形成分の被膜化に使用可能と考えるものすべて(すなわち第1実施形態において遮光層21,31中での残存を嫌う芳香族炭化水素系有機溶媒をも包含)が含まれる。例えば、アルコール系有機溶媒、ケトン系有機溶媒(メチルエチルケトン等)、エステル系有機溶媒(例えば酢酸ブチル等)、エーテル系有機溶媒、ハロゲン系有機溶媒、炭化水素系有機溶媒(例えばトルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系有機溶媒、等)が挙げられる。
本実施形態の溶媒成分には、得られる遮光フィルム100の平面性維持や生産性向上(追加設備不要、工程増加の削減)の観点から、炭化水素系有機溶媒、とりわけ芳香族炭化水素系有機溶媒を含まないことが好ましい。溶媒成分を構成する有機溶媒は、上記のうち1種を単独で用いることができ、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。好ましくは2種以上の組み合わせである。
【0039】
「有機溶媒」であるから、無機溶媒の水は溶媒成分に含まれない。有機溶媒の範疇にアルコール系有機溶媒も含まれるため、水溶性の、メタノール、エタノール、プロパノールも理論上、溶媒成分に含め得る。固形成分に含まれるバインダー樹脂として、OH基と反応する官能基(例えばNCO基等)を含むものを用いる場合には、溶媒成分として、アルコール系有機溶媒を含まないことが好ましい。
【0040】
遮光塗料に含める溶媒成分は、上記のとおり、有機溶媒であればよいが、乾燥勾配を生じさせて塗料の対流をコントロールし塗膜の平面性を維持するとの観点から、沸点の差が40℃以上ある複数の有機溶媒を含むことが好ましく、より好ましくは、沸点が110℃未満の低沸点有機溶媒と、沸点が110℃以上の高沸点有機溶媒を含む。ここでの「沸点」は大気圧での沸点を意味する。
上記低沸点有機溶媒としては、溶媒成分とともに遮光塗料に固形成分として含めるバインダー樹脂を可溶であれば特に限定されない。通常、先に挙げたアルコール系有機溶媒、ケトン系有機溶媒、エステル系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、ハロゲン系有機溶媒、および炭化水素系有機溶媒からなる群より選択される1種以上の有機溶媒である。
アルコール系有機溶媒としては、メタノール(沸点65℃)、エタノール(沸点78℃)、イソプロパノール(沸点82℃)等が挙げられる。ケトン系有機溶媒としては、アセトン(沸点56℃)、メチルエチルケトン(沸点79.6℃)等が挙げられる。エステル系有機溶媒としては、酢酸メチル(沸点57℃)、酢酸エチル(沸点77℃)等が挙げられる。エーテル系有機溶媒としては、テトラヒドロフラン(沸点66℃)、テトラヒドロピラン(沸点88℃)、1,3-ジオキソラン(沸点75℃)等が挙げられる。ハロゲン系有機溶媒としては、塩化メチレン(沸点40℃)、クロロホルム(沸点61℃)等が挙げられる。脂肪族炭化水素系有機溶媒としては、ノルマルヘキサン(沸点68℃)等が挙げられる。脂環族炭化水素系有機溶媒としては、シクロヘキサン(沸点81℃)等が挙げられる。芳香族炭化水素系有機溶媒としては、ベンゼン(沸点80.1℃)等が挙げられる。ただし、芳香族炭化水素系有機溶媒は、極力含まないことが好ましい。
好ましくはケトン系有機溶媒、エステル系有機溶媒、エーテル系有機溶媒およびハロゲン系有機溶媒からなる群より選択される1種以上の有機溶媒である。より好ましくはケトン系有機溶媒またはハロゲン系有機溶媒であり、さらに好ましくはケトン系有機溶媒である。
【0041】
上記低沸点有機溶媒における大気圧での沸点は、上記高沸点有機溶媒との沸点差を確保して塗料の乾燥勾配を生じさせるとの観点から、65~95℃が好ましく、より好ましくは70~90℃、さらに好ましくは75~85℃である。
【0042】
溶媒成分全体に占める上記低沸点溶媒の含有量(総量)は、塗料の乾燥勾配を生じさせるとの観点から、10~70質量%が好ましく、より好ましくは20~60質量%、さらに好ましくは30~50質量%である。
【0043】
上記高沸点有機溶媒としては、上記低沸点有機溶媒とともに遮光塗料中のバインダー樹脂を可溶であれば特に限定されない。上記低沸点有機溶媒と同様、先に挙げたケトン系有機溶媒、エステル系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、および炭化水素系有機溶媒からなる群より選択される1種以上の有機溶媒である。
ケトン系有機溶媒としては、アノン(沸点155.6℃)等が挙げられる。エステル系有機溶媒としては、酢酸ブチル(沸点125~126℃)等が挙げられる。エーテル系有機溶媒としては、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124.5℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135.6℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点118~119℃)等が挙げられる。芳香族炭化水素系有機溶媒としては、トルエン(沸点110.6℃)、キシレン(沸点137~144℃)等が挙げられる。ただし、芳香族炭化水素系有機溶媒は、極力含まないことが好ましい。
好ましくはケトン系有機溶媒、エステル系有機溶媒およびエーテル系有機溶媒からなる群より選択される1種以上の有機溶媒である。より好ましくはエステル系有機溶媒またはエーテル系有機溶媒であり、さらに好ましくはエステル系有機溶媒である。
【0044】
上記高沸点有機溶媒における大気圧での沸点は、上記低沸点有機溶媒との沸点差を確保して塗料の乾燥勾配を生じさせるとの観点から、105~170℃が好ましく、より好ましくは110~150℃、さらに好ましくは120~130℃である。
【0045】
溶媒成分全体に占める上記高沸点溶媒の含有量(総量)は、塗料の乾燥勾配を生じさせるとの観点から、30~90質量%が好ましく、より好ましくは40~80質量%、さらに好ましくは50~70質量%である。
【0046】
遮光塗料の調製方法は、上述した構成のものが得られる限り、特に限定されない。例えば、固形成分(バインダー樹脂及び黒色顔料、並びに必要に応じて配合される任意成分(暗色系の顔料又は染料、各種添加剤))と溶媒成分をそれぞれ所定量、専用容器に入れ、混合・分散を行うことにより、遮光塗料を調製することができる。
【0047】
(第3実施形態)
図2にカメラモジュール51の一例を示す。しかし、本発明の遮光部材が適用可能なカメラモジュールは当該カメラモジュール51の構成に限定されない。また
図2には遮光部材100A,100B,100Cの一例も示されている。しかし、本発明の遮光部材は当該遮光部材100A,100B,100Cの形状、構成に限定されない。
【0048】
図2に示す例において、カメラモジュール51は、レンズユニット41と、撮像素子(CCDやCMOS等のイメージセンサ)44を備える。カメラモジュール51は、例えばスマートフォンや携帯電話等に内蔵される。レンズユニット41は、レンズ群42(レンズ42A,42B,42C,42D,42E)、レンズホルダ(鏡筒)43、および、遮光部材100A,100B,100Cを備える。レンズホルダ43には、その内周部に複数の段差部43a,43b,43cが設けられている。これらの段差部43a,43b,43cを利用して、レンズ群42及び遮光部材100A,100B,100Cは、同軸上(同一光軸上)に積み重ねられた状態でレンズホルダ43内に組み込まれる。
【0049】
レンズ42A,42B,42C,42D,42Eには、凸レンズや凹レンズ等、種々のレンズを用いることができ、その曲面は、球面であっても、非球面であってもよい。レンズ42A,42B,42C,42D,42Eの素材としては、当業界で公知のもの(ガラス、光学樹脂)を用いることができ、その種類は特に限定されない。軽量化の観点から、レンズ42A,42B,42C,42D,42Eの素材は、光学樹脂であることが好ましい。レンズ42A,42B,42C,42D,42Eの構成素材に好ましく用いられる光学樹脂としては、例えばシクロオレフィン系ポリマー、ポリカーボネート、ポリエステル系樹脂(PET等)、アクリル系樹脂(PMMA等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、OKP(特殊ポリエステル、大阪ガスケミカル社製)等が挙げられる。中でも、光学特性に優れたシクロオレフィン系ポリマーや、耐衝撃性および加工性に優れたポリカーボネートが好ましく用いられる。
【0050】
シクロオレフィン系ポリマーには、シクロオレフィンポリマー(COP)(例えば、日本ゼオン(株)製の「ゼオネックス」(登録商標)等)、シクロオレフィンコポリマー(COC)(例えば、三井化学(株)製の「アペル」(登録商標)、Topas Advanced Polymers社製の「TOPAS」(登録商標)等)が挙げられる。
【0051】
遮光部材100A,100B,100Cはそれぞれ、リング状に成型されたシートであり、本実施形態では、レンズ42Aとレンズ42Bの間、レンズ42Bとレンズ42Cの間、および、レンズ42Dとレンズ42Eの間に1つずつ配置される。レンズ42Aとレンズ42Bの間における遮光部材100Aは、その一部が、レンズ42Aとレンズ42Bの双方の一部と接触する状態で配置されている。レンズ42Bとレンズ42Cの間における遮光部材100B、および、レンズ42Dとレンズ42Eの間における遮光部材100Cについても同様である。
遮光部材100A,100B,100Cは、撮影と無関係な光を遮断する。遮光部材100A,100B,100Cはそれぞれ、各遮光部材100A,100B,100Cが隣接するレンズに応じた大きさおよび開口サイズを有している。開口サイズは、各遮光部材100A,100B,100Cが有する開口の孔径である。
【0052】
図3に遮光部材100Aの一例を示す。しかし、本発明の遮光部材は当該遮光部材100Aの構造に限定されない。
図3に示す例において、遮光部材100Aは、
図1に示す遮光フィルム100をリング状(中空筒状)に打ち抜き加工して得られたものである。そのため、遮光部材100Aは、
図1に示す遮光フィルム100と同様の積層構造を有する。
【0053】
遮光部材100Aは、平面視で略中央位置に円状の開口Sが設けられた、外形がリング状(中空筒状)の遮光板である。なお、遮光部材100B,100Cは、外径のサイズ及び開口Sの外径のサイズがそれぞれ相違すること以外は、遮光部材100Aと同様の構成を有するものであり、ここでの重複した説明は省略する。遮光部材100Aに形成される開口(アパーチャー)Sは、レンズユニット41を構成する各レンズの絞りを決定し、レンズユニット41の光学特性および撮像性能に直接的に影響を与えうる。
【0054】
(作用)
本実施形態の遮光部材100A,100B,100Cは、
図1に示す遮光フィルム100から形成されている。そのため、これをシクロオレフィン系ポリマーまたはポリカーボネートで構成される樹脂レンズ42A,42B,42C,42D,42Eが使用されたレンズユニット41やカメラモジュール51等の構成部品に用いても、上述したのと同様、樹脂レンズ42A,42B,42C,42D,42Eの変色が防止されるため、撮影する被写体を正確に認識できることに加え、鮮明な撮影画像を得ることができる。
【0055】
(変形例)
なお、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で、任意に変更して実施することができる。例えば、
図2に示す例では、レンズ群42が5枚のレンズで構成されているが、レンズ数は5に限らずレンズユニット41の設計に応じて適宜に増減される。遮光部材の数や配置についても同様に、レンズユニット41の設計に応じて適宜に変更されうる。
遮光部材100A,100B,100Cの外形は、平面視で円状に限らず、これが組み込まれるレンズユニット41の収納形状に応じて、例えば平面視で長方形状、正方形状、六角形状等の多角形状、楕円形状、不定形状等の任意の形状を採用することができる。遮光部材100A,100B,100Cの開口Sの形状も、平面視で円状に限らず、例えば平面視で長方形状、正方形状、六角形状等の多角形状、楕円形状、不定形状等の任意の形状を採用することができる。
【0056】
遮光部材100A,100B,100Cの形成に用いた遮光フィルム100の遮光層21,31は、基材11の表裏に設けられることに限らず、基材11を設けることなく、遮光層21及び遮光層31の積層構造(2層構造)としてもよく、また遮光層21のみ(遮光層31のみ)の単層構造としてもよい。前者の場合、遮光部材100A,100B,100Cの形成に用いる遮光フィルム100は、基材11のない、遮光層21と遮光層31の積層構造(2層構造)となる。後者の場合、その遮光フィルム100は、基材11のない、遮光層21のみ(遮光層31のみ)の単層構造となる。
また、2以上の遮光膜により遮光部材100A,100B,100Cの形成に用いた遮光フィルム100の遮光層21,31を形成してもよい。例えばある特性の遮光膜及び他特性(例えば遮熱)遮光膜が積層された積層遮光層を、遮光部材100A,100B,100Cの形成に用いる遮光フィルム100の遮光層21として適用することができる。遮光層31についても同様である。このとき、ある特性の遮光膜及び他特性遮光膜の積層体として、遮光層21に求められる上述した各種性能・物性を満たせばよい。遮光層31についても同様である。
【実施例0057】
以下、本発明の実施形態をより具体化した実験例を挙げ、さらに詳細に説明する。本実験例において「部」、「%」は、特に示さない限り重量基準である。なお、本例において、固形成分として、下記に示すバインダー樹脂(主剤、架橋剤)と黒色顔料を用いた。
【0058】
[主剤]アクリルポリオール(アクリディックA807、固形分50%、DIC社)
[架橋剤]イソシアネート(バーノックDN980、固形分75%、DIC社)
[黒色顔料]カーボンブラック(トーカブラック#5500、平均粒径25nm、東海カーボン社)
【0059】
1.遮光フィルムの製造
基材として、厚み50μmの黒色PETフィルム(カーボンブラック練り込みタイプ、光学濃度2.0)を使用し、その両面に、下記処方の塗布液を乾燥後の厚みが5μmとなるようにバーコート法によりそれぞれ塗布した後、通常の乾燥(80℃、2分)を行って第一遮光層及び第二遮光層を形成し、第一遮光層、基材、及び第二遮光層をこの順に備える3層積層構造の遮光フィルムA~I、A’、B’を作製した。なお、塗布液aを用いて遮光膜a2からなる第一遮光層及び第二遮光層を形成した遮光フィルムA’、 塗布液bを用いて遮光膜b2からなる第一遮光層及び第二遮光層を形成した遮光フィルムB’については、通常の乾燥を行った後、追加の熱処理(130℃、5分)を行った。
【0060】
<遮光膜用塗布液(固形分20%)a~iの組成>
・主剤 153.8部
・架橋剤 30.8部
・黒色顔料 24部
・溶媒(表1記載の種類と配合) 残部
【0061】
【0062】
2.残留溶媒濃度の測定
作製した遮光フィルムA~I、A’、B’に対し、ガス検知管(トルエンNo.122L、GASTEC社)を用い、以下の手順で、第一遮光膜(遮光膜a1~i1、a2、b2)に残留する特定溶媒(芳香族炭化水素系有機溶媒)の合計量(残留溶媒濃度)を測定した。結果を表2に示す。
まず、作製した各遮光フィルムA~I、A’、B’を任意の大きさを採取し、サンプリングバックに入れる。その際にサンプリングバック内の空気を、測定阻害しないように窒素へ置換する。これを120℃で15分加熱し、加熱後15分室温(20℃が最適)で放冷した後にサンプリングバック内の空気をガス検知管に採取器を用いて吸引し、検知管の値を読み取る。これを任意で採取したサンプルの重量より換算し、残留溶媒濃度が500ppm超であったものを「×」、500ppm以下(0ppmを除く)であったものを「〇」、0ppmであったものを「◎」とした。
【0063】
【0064】
3.評価(鏡筒のレンズ(白点)の有無)
作製した遮光フィルムA~I、A’、B’を用いて、
図2のレンズユニット41を作製した。なお、作製した各レンズユニットにおける遮光部材100A,100B,100Cはすべて、それぞれ同一の遮光フィルムを用い、各レンズユニットの最表面側のレンズ(レンズ42Aに相当)にシクロオレフィンポリマー製の樹脂レンズを用いた。
作製した各レンズユニットを120℃で30分加熱し、加温後20℃で1時間放冷した。その後、各レンズユニットの最表面側に配置された樹脂レンズの内側(遮光部材100A側)の白点発生状況を目視にて観察した。評価基準は以下のとおりである。評価結果を表3に示す。
〇:白点が認められない
×:白点が認められる
【0065】
【0066】
4.考察
表2~3に示すように、残留溶媒濃度が500ppm以下であったもの(遮光膜c1~i1、a2、b2を有する実験例3~11)を用いた場合、500ppmを超えたもの(遮光膜a1、b1を有する実験例1、2)を用いた場合と比較して、樹脂レンズ(COP)の変色(白点の発生)が認められないことが確認された。
【0067】
5.遮光部材、レンズユニットおよびカメラモジュールの製造と評価
残留溶媒濃度が500ppm以下の遮光膜を備えた遮光フィルムの1つ(実験例4の遮光膜d1を備えた遮光フィルムD)と、該濃度が500ppmを超える遮光膜を備えた遮光フィルムの1つ(実験例2の遮光膜b1を備えた遮光フィルムB)を、直径1mm及び内径3mmのリング状に打ち抜き加工して、遮光部材VおよびWを作製した。得られた遮光部材VおよびWをCOP製樹脂レンズとともにレンズユニットにそれぞれ組み込んでカメラモジュールXおよびYを作成し、被写体を撮影し、被写体の撮影画像の鮮明性を評価した。その結果、残留溶媒濃度が500ppm以下の遮光膜を備えた遮光フィルムDから形成された遮光部材Vをレンズユニットに組み込んで作成したカメラモジュールXを用いたものは、残留溶媒濃度が500ppmを超える遮光膜を備えた遮光フィルムBから形成された遮光部材Wをレンズユニットに組み込んだカメラモジュールYを用いたものと比較して、被写体を正確に認識することができ、かつ鮮明な撮影画像が得られることが確認できた。