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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030677
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】総合注意力を改善させる方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/13 20160101AFI20240229BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 31/7072 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
A23L33/13
A61P25/28
A61K31/7072
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133720
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006770
【氏名又は名称】ヤマサ醤油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石毛 和也
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD44
4B018ME14
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA22
4C086MA23
4C086MA28
4C086MA32
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本願発明は、食品、医薬品、医薬部外品等としての使用に供した場合に、健常者の総合注意力改善効果を発揮する、新規かつ安全性の高い総合注意力改善剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本願発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、ウリジル酸が、健常者に対して総合注意力改善効果を奏することを初めて見出し、本願発明をなすに至った。すなわち、本願発明は、ウリジル酸を有効成分として含有する総合注意力改善剤である。また、本願発明は、ウリジル酸を投与することにより、健常者の総合注意力を改善させる方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
UMPを有効成分として含有し、UMPの含有量が、1日あたりのUMP投与量に換算して200mg以上400mg未満である、総合記憶力標準化スコアが83.5点未満である健常者の総合注意力を改善させる用途に用いられることを特徴とする剤。
【請求項2】
UMPを有効成分として含有し、UMPの含有量が、1日あたりのUMP投与量に換算して200mg以上400mg未満である、60歳未満の健常者の総合注意力を改善させる用途に用いられることを特徴とする剤。
【請求項3】
UMPを有効成分として含有し、UMPの含有量が、1日あたりのUMP投与量に換算して200mg以上400mg未満である、総合記憶力標準化スコアが83.5点未満であり、かつ60歳未満である健常者の総合注意力を改善させる用途に用いられることを特徴とする剤。
【請求項4】
UMPを有効成分として含有し、UMPの含有量が、1日あたりのUMP投与量に換算して100mg以上900mg未満である、言語記憶力標準化スコアが90未満である健常者の総合注意力を改善させる用途に用いられることを特徴とする剤。
【請求項5】
12週間以上継続して摂取されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の剤。
【請求項6】
UMPを有効成分として含有する剤を投与することにより、健常者の総合注意力を改善させる方法。
【請求項7】
UMPを有効成分として含有する剤を、UMPの投与量が、1日あたりのUMP投与量に換算して200mg以上400mg未満となるよう投与することにより、総合記憶力標準化スコアが83.5点未満である健常者の総合注意力を改善させる方法。
【請求項8】
UMPを有効成分として含有する剤を、UMPの投与量が、1日あたりのUMP投与量に換算して200mg以上400mg未満となるよう投与することにより、60歳未満の健常者の総合注意力を改善させる方法。
【請求項9】
UMPを有効成分として含有する剤を、UMPの投与量が、1日あたりのUMP投与量に換算して200mg以上400mg未満となるよう投与することにより、総合記憶力標準化スコアが83.5点未満であり、かつ60歳未満である健常者の総合注意力を改善させる方法。
【請求項10】
UMPを有効成分として含有する剤を、UMPの投与量が、1日あたりのUMP投与量に換算して100mg以上900mg未満となるよう投与することにより、言語記憶力標準化スコアが90点未満である健常者の総合注意力を改善させる方法。
【請求項11】
UMPを有効成分として含有する剤を12週間以上継続して摂取させることを特徴とする、請求項6から10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、総合注意力を改善させる方法、特に健常者の総合注意力を改善させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
認知機能とは、理解・判断・論理などの知的機能全般であり、日常生活に直結する能力である。例えば、アメリカ精神医学会が出版している精神疾患の診断・統計マニュアルDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders V)で分類される神経認知障害(NCD:Neurocognitive Disorders)では、NCD(神経認知障害)患者で障害される認知機能領域が、「複雑性注意」、「実行機能」、「学習と記憶」、「言語」、「知覚-運動」、「社会的認知」の6領域に分類されている。認知機能の向上は、老若男女に共通の普遍的な欲求であると言える。
【0003】
認知機能の向上に関する研究には、大別して2つの方向性が存在する。一方は、「低下した認知機能の維持・回復」であり、他方は「健常者における認知機能の向上」である。
【0004】
認知機能の向上に関する研究として、これまで主流であったのは「低下した認知機能の維持・回復」であった。
【0005】
認知機能を低下させる要因として、近年最も注目されてきたのは、「認知症」である。「認知症」は、「一度獲得された知的機能が、後天的な脳の機能障害によって全般的に低下し、社会生活や日常生活に支障をきたすようになった状態で、それが意識障害のないときにみられる」と定義される(非特許文献1)。
【0006】
認知症と並ぶ認知機能の低下をきたす要因として、「加齢に伴う正常な認知機能低下(生理的健忘)」がある。「加齢に伴う正常な認知機能低下(生理的健忘)」については、通常、体験に対する部分的なもの忘れであり、進行しないか、進行がみられても穏やかであること、病識が保たれること、日時の見当識は保たれ、日常生活へ支障をきたすことが少ないこと、といった特徴から、認知症とは区別される(非特許文献2)。
【0007】
加齢に伴う認知機能の低下について、50代までは視空間認知、言語機能、言語性記憶には機能向上が認められるが、60代以降になると、数的処理、言語性記憶、知覚速度、視空間認知、推論、言語機能が加齢とともに急速に低下することが知られている(非特許文献3)。
【0008】
これまで認知機能の改善に関する数多くの研究がなされてきたが、そのほとんどが認知機能の低下からの回復や予防に関わるものであった。すなわち、全世界的な寿命の伸長や健康寿命という考え方の浸透に伴い、上述の「認知症」や「加齢に伴う正常な認知機能低下(生理的健忘)」によって低下した認知機能の回復や、「認知症」や「加齢に伴う正常な認知機能低下(生理的健忘)」の予防による認知機能の維持について需要が高まり、数多くの研究がされてきた。その一方で、健常な状態からさらに認知機能を高めることについては、さほど研究されてこなかった。
【0009】
しかし、最近になって、「健常者における認知機能の向上」について、注目が集まっている。これは、これまで研究されてきたような、低下した認知機能の回復や、認知機能の維持とは異なり、健常者が元来有する認知機能をさらに向上させることを目的とする研究である。
【0010】
健常者における認知機能の向上効果を継続して享受するためには、当該効果を奏する剤/素材を日常的に摂取する必要がある。そのため、日常的な摂取に好適である食品素材による認知機能の改善について、盛んに研究が行われている。
【0011】
上述の通り、認知機能はいくつかの領域からなる知的機能であるが、1つの剤によりその全てを改善することは極めて困難である。そのため、近年の食品素材による認知機能改善研究では、その食品素材によって改善できる認知機能領域を明確化し、所望とする機能領域を改善する食品を摂取することや、複数の食品素材を組み合わせることで所望の認知機能改善効果を達成することが期待されている。食品素材によって改善できる認知機能領域を明確化した例として、ビフィズス菌N61株の摂取によって視覚記憶力が向上することを明らかにした特許文献1、GABAによって空間認知力が向上することを明らかにした非特許文献4などがある。
【0012】
食品素材によっては、複数の認知機能領域にまたがって改善効果を奏するものも存在するが、所望する認知機能改善効果が異なる場合には、異なる用途として利用されている実態がある。例えば、機能性食品素材であるテアニン(L-テアニン)は、機能性表示食品の届出において、同一の事業者から「注意力(注意を持続させて、一つの行動を続ける力)や判断力(判断の正確さや速さ、変化する状況に応じて適切に処理する力)の精度を高める機能がある」(非特許文献5)、「認知機能の一部である言語情報を適切に素早く数多く思い出す力(言語流暢性)が低めの方の言語流暢性をサポートする」(非特許文献6)、「認知機能のうち作業記憶(問題解決で必要な、複数の情報を保持し正しく処理する能力)を一時的にサポートする」(非特許文献7)という3つの認知機能改善効果に関して申請がなされている。上記の例においては、所望の認知機能に対応した別個の作用効果が奏され、認知機能領域に対応して有効成分であるテアニンの含有量が調整され、当該食品素材を含む飲食品の訴求点、需要者や販売場所も異なってくることから、認知機能の改善という共通点はあるものの、用途としては完全に区別されている。
【0013】
ウリジル酸はヌクレオチドの一種であり、生体内及び食品に広く含まれ、あるいは添加されている物質であって、極めて安全性が高く、食品への添加に最適な素材である。
【0014】
特許文献2には、i)ウリジン類など、およびii)ドコサヘキサエン酸などを含む実行機能を向上させる組成物について記載されている。しかし、特許文献2には、ウリジン類などが単独で効果を発揮するか否かについては、一切の記載がない。加えて、特許文献2に記載された発明は、アルツハイマーまたは認知症患者を対象としたものであり、健常者を対象とした発明ではない。
【0015】
特許文献3には、ウリジル酸などを含有する学習・記憶能低下改善剤について記載されている。しかし、特許文献3に記載の発明は、老人性痴呆など老化及び/又は疾患に起因する急激に学習・記憶能が低下した者を対象としたものである。健常な非高齢者の認知機能改善については、一切の記載がない。加えて、特許文献3に記載されているのは学習・記憶能低下改善であり、本願の目的とする総合注意力領域については一切の記載がない。
【0016】
従って、ウリジル酸が、単独で、健常者の総合注意力改善効果を有するか否かについては、一切の知見が存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2021-54777号公報
【特許文献2】特表2014-534226号公報
【特許文献3】特開2001-233776号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】現場の疑問に答える もの忘れ診療Q&A
【非特許文献2】認知症診療ガイドライン2017
【非特許文献3】Neuropsychol Dev Cogn B Aging Neuropsychol Cogn. 2004 June ; 11(2-3): 304-324.
【非特許文献4】薬理と治療 Volume 48, Issue 3, 475 - 486 (2020)
【非特許文献5】様式I:届出食品の科学的根拠等に関する基本情報(一般消費者向け) 申請番号F568
【非特許文献6】様式I:届出食品の科学的根拠等に関する基本情報(一般消費者向け) 申請番号G600
【非特許文献7】様式I:届出食品の科学的根拠等に関する基本情報(一般消費者向け) 申請番号G1323
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本願発明は、食品、医薬品、医薬部外品等としての使用に供した場合に、健常者の総合注意力改善効果を発揮する、新規かつ安全性の高い総合注意力改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本願発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、ウリジル酸が、健常者に対して総合注意力改善効果を奏することを初めて見出し、本願発明をなすに至った。
【0021】
すなわち、本願発明は、ウリジル酸を有効成分として含有する総合注意力改善剤である。
【0022】
また、本願発明は、ウリジル酸を投与することにより、健常者の総合注意力を改善させる方法である。
【発明の効果】
【0023】
本願発明の、ウリジル酸を有効成分として含有する総合注意力改善剤は、総合注意力の改善を通じてQOL改善や知的活動の生産性向上に資する新たな手段を提供することにつながる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、参考例1に記載の、被験者全体の試験前後における総合注意力標準化スコアの変化量を表す。縦軸は、各試験群の試験前後における総合注意力標準化スコアの変化量を表す。図中、被験食品群1、被験食品群2、プラセボ群とあるのは、実施例1に記載された、対応する各群であることを意味する。
図2図2は、実施例2に記載の、総合記憶力標準化スコアが83.5点未満の被験者(全年齢)の試験前後における総合注意力標準化スコアの変化量を表す。縦軸は、各試験群の試験前後における総合注意力標準化スコアの変化量を表す。図中、被験食品群1、被験食品群2、プラセボ群とあるのは、実施例1に記載された、対応する各群であることを意味する。図中「*」の記号はp値<0.10であり、プラセボ群に対して有意傾向があることを示す。
図3図3は、実施例3に記載の、60歳未満の被験者の試験前後における総合注意力標準化スコアの変化量を表す。縦軸は、各試験群の試験前後における総合注意力標準化スコアの変化量を表す。図中、被験食品群1、被験食品群2、プラセボ群とあるのは、実施例1に記載された、対応する各群であることを意味する。
図4図4は、実施例4に記載の、総合記憶力標準化スコアが83.5点未満かつ60歳未満の被験者の試験前後における総合注意力標準化スコアの変化量を表す。縦軸は、各試験群の試験前後における総合注意力標準化スコアの変化量を表す。図中、被験食品群1、被験食品群2、プラセボ群とあるのは、実施例1に記載された、対応する各群であることを意味する。図中「**」の記号はp値<0.05であり、プラセボ群に対して有意差があることを示す。
図5図5は、実施例5に記載の、言語記憶力標準化スコアが90点未満の被験者(全年齢)の試験前後における総合注意力標準化スコアの変化量を表す。縦軸は、各試験群の試験前後における総合注意力標準化スコアの変化量を表す。図中、被験食品群1、被験食品群2、プラセボ群とあるのは、実施例1に記載された、対応する各群であることを意味する。図中「**」の記号はp値<0.05であり、プラセボ群に対して有意差があることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本願発明は、ウリジル酸を有効成分として含有する総合注意力改善剤に関する。
【0026】
本願発明における総合注意力とは、注意を維持し正確に対処する力をいう。
【0027】
また、本願発明における総合注意力は、Cognitrax検査における実行機能等を測定するためのストループテスト(ST)、指示に対しすばやく正確に対応する力を測定するための注意シフトテスト(SAT)、及び注意力の持続性を測定するための持続処理テスト(CPT)、からなる3指標から測定される総合的な注意力を意味する。総合注意力スコアとは、具体的にはCognitrax検査における以下の計算式によって測定されるものと定義する。
総合注意力スコア=STのストループ誤反応+SATの誤答+CPTの誤反応+CPTの正解見過ごし数
なお、本指標においては、値が低いほど総合注意力が高いことを意味し、値が高いほど総合注意力が低いことを意味する。
【0028】
本願発明におけるCognitraxとは、CNS Vital Signs社が開発した認知機能検査技術を基盤とし、日本向けにデザインした認知機能検査サービスを意味する。Cognitraxの内容については、以下の文献に記載された内容も参酌するものとする。
CNS Vital Signs LLC. CNS Vital Signs Interpretation Guide. 2019.(https://www.cnsvs.com/WhitePapers/CNSVS-BriefInterpretationGuide.pdf)
本願明細書中、Cognitrax検査と記載する場合も、Cognitraxと同じ意味である。
【0029】
本願発明におけるストループテスト(ST)とは、以下の方法によって実施されるテストである。STは3つのパートからなるテストである。第一パートでは、文字が画面に表れたらできるだけ早くスペースキーを押す。第二パートでは、赤、黄、青及び緑の文字が色文字で表示され、文字の色と文字の意味が一致したらスペースキーを押す。第三パートでは、文字の色が文字の意味と一致しないときだけスペースキーを押す。
【0030】
本願発明における注意シフトテスト(SAT)とは、以下の方法によって実施されるテストである。画面に3つの図形が、上に1つ、下に2つ表示される。図は四角か円で、色は赤か青になっている。上部の図と適合する図を下部から選択するが、ルールは「形」が合っているもの、または「色」が同じものという具合に変化する。
【0031】
本願発明における持続処理テスト(CPT)とは、以下の方法によって実施されるテストである。5分間画面にランダムに表示される文字の中で、「B」が表示された場合だけ応答する。
【0032】
また、本願発明における総合注意力標準化スコアとは、総合注意力スコアの平均値を100、標準偏差値を15とする正規分布での正規化スコアを実測値より算出したものを意味する。なお、算出にあたっては、5歳刻みでの年代補正を行った。例えば、実測値が同年代の平均と同じであれば標準化スコアは100、平均より1σ分良ければ115、平均より2σ分良ければ130となる。ここで、総合注意力スコアは値が低いほど総合注意力が高いことを意味し、値が高いほど総合注意力が低いことを意味するため、ある被験者の総合注意力スコアが平均より1σ分低いとき、総合注意力標準化スコアが115となる。総合注意力性標準化スコアは、高値であるほど総合注意力が良好であることを意味する。総合注意力標準化スコアは、100点を基準として、10点の範囲ごとに分類されており、109点以上は「Above」、90-109点が「Average」、80-89点が「Low Average」、70-79点が「Low」、70点以下が「Very Low」となる。
【0033】
本願発明における総合注意力の改善とは、注意を維持し正確に対処する力が向上することを意味し、具体的にはCognitrax検査における総合注意力標準化スコアが増加することを意味する。
【0034】
本願発明における総合記憶力は、Cognitrax検査における言語記憶力等を測定するための言語記憶テスト(VBM)、視覚記憶力等を測定するための視覚記憶テスト(VIM)からなる2指標から測定される認知機能領域を意味する。総合記憶力スコアとは、具体的にはCognitrax検査における以下の計算式によって測定されるものと定義する。
総合記憶力スコア=VBMの正解ヒット数(即時)+VBMの正解パス数(即時)+VBMの正解ヒット数(遅延)+VBMの正解パス数(遅延)+VIMの正解ヒット数(即時)+VIMの正解パス数(即時)+VIMの正解ヒット数(遅延)+VIMの正解パス数(遅延)
【0035】
本願発明における言語記憶テスト(VBM)とは、以下の方法によって実施されるテストである。最初に15の単語が表示されるので記憶し、その後、新たな単語も含む30の単語から、記憶した単語を見つける。
【0036】
本願発明における視覚記憶テスト(VIM)とは、以下の方法によって実施されるテストである。最初に15種類の図形が表示されるので記憶し、その後、新たな図形も含む30の図形から、記憶した図形を見つける。
【0037】
本願発明における総合記憶力標準化スコアが83.5点未満の者とは、5歳刻みで被験者をグループ分けしCognitrax検査によって標準化された総合記憶力標準化スコアを算出したとき、総合記憶力標準化スコアが83.5点未満である者をいう。被験者の総合記憶力標準化スコアが83.5点未満であることは、当該被験者の記憶に関する認知機能が低いことを意味する。
【0038】
本願発明における言語記憶力は、Cognitrax検査における言語記憶テスト(VBM)により測定される認知機能領域を意味する。言語記憶力スコアとは、具体的にはCognitrax検査における以下の計算式によって測定されるものと定義する。
言語記憶力スコア=VBMの正解ヒット数(即時)+VBMの正解パス数(即時)+VBMの正解ヒット数(遅延)+VBMの正解パス数(遅延)
【0039】
本願発明における言語記憶力標準化スコアが90点未満の者とは、5歳刻みで被験者をグループ分けしCognitrax検査によって標準化された言語記憶力標準化スコアを算出したとき、言語記憶力標準化スコアが90点未満である者をいう。被験者の言語記憶力標準化スコアが90点未満であることは、言語情報を適切に思い出す力が低下しているなど、当該被験者の言語記憶に関する認知機能が低いことを意味する。
【0040】
本願発明における健常者とは、認知機能に障害を生じる疾患に罹患していない者を意味する。本願明細書において、認知機能に障害を生じる疾患とは、以下の疾患を意味する;中枢神経変性疾患であるAlzheimer 型認知症、前頭側頭型認知症、Lewy 小体型認知症/Parkinson 病、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、Huntington 病、嗜銀顆粒性認知症、神経原線維変化型老年期認知症。血管性認知症である多発梗塞性認知症、戦略的な部位の単一病変による血管性認知症、小血管病変性認知症、低灌流性血管性認知症、脳出血性血管性認知症、慢性硬膜下血腫。脳腫瘍である原発性脳腫瘍、転移性脳腫瘍、癌性髄膜症。正常圧水頭症。頭部外傷。無酸素性あるいは低酸素性脳症。神経感染症である急性ウイルス性脳炎(単純ヘルペス脳炎,日本脳炎など)、HIV 感染症(AIDS)、Creutzfeldt-Jakob 病、亜急性硬化性全脳炎・亜急性風疹全脳炎、進行麻痺(神経梅毒)、急性化膿性髄膜炎、亜急性・慢性髄膜炎(結核,真菌性)、脳膿瘍、脳寄生虫。臓器不全および関連疾患である腎不全、透析脳症、肝不全、門脈肝静脈シャント、慢性心不全、慢性呼吸不全。内分泌機能異常症および関連疾患である 甲状腺機能低下症、下垂体機能低下症、副腎皮質機能低下症、副甲状腺機能亢進または低下症、Cushing 症候群、反復性低血糖。欠乏性疾患/中毒性疾患/代謝性疾患であるアルコール依存症、Marchiafava-Bignami 病、一酸化炭素中毒、ビタミンB1欠乏症(Wernicke-Korsakoff 症候群)、ビタミンB12欠乏症、ビタミンD欠乏症、葉酸欠乏症、ナイアシン欠乏症(ペラグラ)、薬物中毒、金属中毒(水銀、マンガン、鉛など)、Wilson 病、遅発性尿素サイクル酵素欠損症。脱髄疾患などの自己免疫性疾患である多発性硬化症、急性散在性脳脊髄炎、Behcet 病、Sjogren 症候群。蓄積病である遅発性スフィンゴリピド症、副腎白質ジストロフィー、脳腱黄色腫症、神経細胞内セロイドリポフスチン[沈着]症、糖尿病。その他の疾患であるミトコンドリア脳筋症、進行性筋ジストロフィー、Fahr 病。
【0041】
本願発明の総合注意力改善剤は、ウリジル酸を有効成分として含有する。ウリジル酸は、食品等としての安全性、及び体内への吸収されやすさという点から、本願発明の有効成分として好適である。
【0042】
ウリジル酸(ウリジン一リン酸、uridine 5'-phosphate、UMP)は、CAS登録番号58-97-9で示される化合物である。本明細書でウリジル酸と記載する場合、ウリジル酸の塩も包含する概念である。
【0043】
本明細書において、ウリジル酸の質量について記載する場合、ウリジル酸2ナトリウム塩(UMP,2Na)に換算した際の質量を表す。ウリジル酸の濃度(%)について記載する場合、特に記載がなければ質量体積パーセント濃度(w/v%)であることとし、ウリジル酸質量としてはUMP,2Na換算質量を用いる。2ナトリウム塩以外の塩を選択する場合、又は塩を形成しない遊離酸の場合には、ウリジル酸の物質量を基準として、UMP,2Naに換算した場合の質量とする。
【0044】
本願発明におけるウリジル酸の概念は、前述の通り塩を包含する。ウリジル酸の塩としては、ナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩及びバリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルギニン及びリジン等の塩基性アミノ酸塩;アンモニウム塩及びトリシクロヘキシルアンモニウム塩等のアンモニウム塩;モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、モノイソプロパノールアミン塩、ジイソプロパノールアミン塩及びトリイソプロパノールアミン等の各種のアルカノールアミン塩等を挙げることができる。好ましくはナトリウム塩等のアルカリ金属塩である。かかるアルカリ金属塩として、具体的にはウリジル酸1ナトリウム、及びウリジル酸2ナトリウムを例示することができ、取り扱い性の面から、中でもウリジル酸2ナトリウムが好ましい。
【0045】
本願発明に使用されるウリジル酸は、他の有効成分と組み合わせて使用することもでき、単独で使用することもできる。中でも、ウリジル酸単独で有意な総合注意力改善効果が奏されることから、単独で使用されることが好ましい。
【0046】
本願発明に使用されるウリジル酸の由来には格別の制限はなく、酵母、細菌、魚介類、動物、植物等の天然物由来のものが好適である。
【0047】
本願発明の総合注意力改善剤は、飲食品、サプリメント、調製粉乳、経腸栄養剤、健康飲食品(特定保健用食品、機能性表示食品を含む)、医薬品等の組成物として実用に供することができる。
【0048】
本願発明の剤を飲食品、健康飲食品又は調製粉乳等として供する場合は、前記有効成分を公知の飲食品に適宜添加することにより、総合注意力改善作用を有する飲食品とすることができる。対象の飲食品としては、乳・乳製品類、調味料類、飲料、菓子類、パン類、麺類、油脂類、畜肉加工品、水産加工品、農産加工品、冷凍食品、即席食品等を挙げることができる。
【0049】
また、飲食品の原料中に混合して総合注意力の向上効果を有する新たな飲食品を製造することもできる。対象とする飲食品の形状としては、錠剤状、顆粒状、カプセル状、粉末状、溶液状、シロップ状、乳状、ペースト状等、各種形状のものを選ぶことができる。これらの飲食品の製造においては、本願発明の有効成分のほかに、食品として使用可能な各種の賦形剤、調味成分等を適宜添加すれば良い。
【0050】
前記飲食品は、総合注意力改善用との保健用途が表示された飲食品として提供・販売されていてもよい。「表示」行為には、需要者に対して前記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、前記用途を想起・類推させうるような表現であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て本技術の「表示」行為に該当する。
【0051】
前記「表示」は、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、飲食品に係る商品又は商品の包装に前記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。
【0052】
表示内容としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示等)であることが好ましい。また、そのような表示内容を、包装、容器、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等へ付することが好ましい。
【0053】
また、本願発明の総合注意力改善剤を医薬品、サプリメント、経腸栄養剤等として実用に供する場合、前記有効成分を単独、又は製剤補助剤等と合わせて製剤化することができる。製剤の投与方法としては、経口であっても非経口であってもよいが、経口又は経腸であることが好ましい。
【0054】
前記製剤の形状としては、経口投与に供するのであれば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粒剤、散剤、溶液剤、シロップ剤、乳剤等とすることができ、非経口に供するのであれば、注射剤、噴霧剤、軟膏剤、貼付剤等とすることができる。
【0055】
前記製剤においては、本願発明の有効成分の他に、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤等の任意の製剤補助剤を、それぞれの供与形態に合わせて適宜組み合わせて用いれば良い。
【0056】
本願発明の総合注意力改善剤における前記有効成分の配合量は、使用目的、対象者の年令、投与又は摂取方法、剤型等に応じて、0.1~99%(W/W)の範囲から適宜選定すればよい。
【0057】
本願発明の総合注意力改善剤の投与又は摂取量は、対象者の年令、体重、総合注意力の程度、投与又は摂取方法等に応じて変動するため、適宜選択可能である。好適な投与量の例示としては、1日あたり10mg~1000mgである。実施例によって実証された、対象者の属性と好適な投与量の例示については、後述する。
【0058】
本願発明の総合注意力改善剤の投与又は摂取期間について、特に制限はないが、有効成分として含有するウリジル酸は食品等としての高い安全性を有していることから、継続的に投与又は摂取することが好ましい。好適な投与又は摂取期間としては、1週間以上が好ましく、2週間以上が好ましく、4週間以上が好ましく、8週間以上が好ましく、後述する実施例にて効果が実証されている点から、12週間以上が好ましい。
【0059】
本願発明の剤によって総合注意力機能を改善する対象者について、特に制限はないが、本願発明が認知機能の低下が見られない者に対しても総合注意力機能の改善効果を奏するという観点から、認知症など認知機能の低下を引き起こす疾患に罹患していない者が好ましく、本願発明に定義する健常者であることがより好ましい。
【0060】
本願発明の剤によって総合注意力機能を改善する対象者について、後述する実施例に記載されたように、顕著かつ明確な効果が奏されることから、記憶に関する認知機能が低い者、具体的にはウリジル酸摂取前の総合記憶力標準化スコアが83.5点未満の者が好ましい。
【0061】
本願発明の剤によって、ウリジル酸摂取前の総合記憶力標準化スコアが83.5点未満の者の総合注意力機能を改善する場合、後述の実施例にて総合注意力機能の改善傾向が見られている点から、好適な投与量は1日あたり600mg以下であり、後述の実施例にて総合注意力機能の顕著な改善が実証されている点から、好適な投与量は1日あたり200mg~400mgであり、中でも250mg~350mgであることがより好ましい。
【0062】
同様に、本願発明の剤によって総合注意力機能を改善する対象者について、後述する実施例に記載されたように、顕著かつ明確な効果が奏されることから、言語記憶に関する認知機能が低い者、具体的にはウリジル酸摂取前の言語記憶力標準化スコアが90点未満の者が好ましい。
【0063】
本願発明の剤によって、ウリジル酸摂取前の言語記憶力標準化スコアが90点未満の者の総合注意力機能を改善する場合、後述の実施例の結果から総合注意力機能の改善効果が強く期待される点から、好適な投与量は1日あたり100mg~1000mgであり、100mg~900mgがより好ましく、後述の実施例の結果から総合注意力機能の改善効果が確かであると考えられる点から、150mg~700mgがより好ましく、200mg~600mgがより好ましく、後述の実施例の結果から総合注意力機能の顕著な改善効果が奏されると考えられる点から、200mg~500mgであることがより好ましく、250mg~400mgであることがより好ましく、後述の実施例の結果から総合注意力機能の顕著な改善効果が実証されている点から、250mg~350mgであることがより好ましい。また、統計学的な観点から、有意な総合注意力機能の改善効果が実証されているという点においては、300mg~600mgが好ましい。
【0064】
同様に、本願発明が加齢による認知機能の低下が見られない者に対しても総合注意力機能の改善効果を奏するという観点から、加齢に伴う正常な認知機能低下(生理的健忘)の症状が出ていない者が好ましく、加齢に伴う正常な認知機能低下(生理的健忘)が生じていない蓋然性の高い60歳未満の者が好ましく、後述する実施例において明らかなように、顕著かつ明確な総合注意力改善効果が見られるという観点から、40代及び50代の者が好ましい。
【0065】
本願発明の剤によって、60歳未満の者の総合注意力機能を改善する場合、後述の実施例にて総合注意力機能の改善傾向が見られている点から、好適な投与量は1日あたり600mg以下であり、後述の実施例にて総合注意力機能の顕著な改善が実証されている点から、好適な投与量は1日あたり200mg~400mgであり、250mg~350mgであることがより好ましい。
【0066】
本願発明の一態様は、対象者の総合注意力を改善する方法である。本願発明は、後述の実施例にて実証されているように、対象者の実行機能、指示に対しすばやく正確に対応する力、及び注意力の持続性を改善することを通じて、対象者の総合注意力を改善することができる。
【0067】
本願発明の一態様は、本願発明の剤を摂取する前の総合記憶力標準化スコアが83.5点未満の者を対象とした、対象者の総合注意力を改善する方法である。本願発明は、後述の実施例にて実証されているように、本願発明の剤を摂取する前の総合記憶力標準化スコアが83.5点未満の対象者の総合注意力を顕著に改善することができる。
【0068】
本願発明の一態様は、本願発明の剤を摂取する前の言語記憶力標準化スコアが90点未満の者を対象とした、対象者の総合注意力を改善する方法である。本願発明は、後述の実施例にて実証されているように、摂取前の言語記憶力標準化スコアが90点未満の対象者の総合注意力を顕著かつ有意に改善することができる。
【0069】
本願発明の一態様は、60歳未満の者を対象とした、対象者の総合注意力を改善する方法である。本願発明は、後述の実施例にて実証されているように、60歳未満の対象者の総合注意力を顕著に改善することができる。
【0070】
本願発明の一態様は、本願発明の剤を摂取する前の総合記憶力標準化スコアが83.5点未満かつ60歳未満の者を対象とした、対象者の総合注意力を改善する方法である。本願発明は、後述の実施例にて実証されているように、摂取前の総合記憶力標準化スコアが83.5点未満かつ60歳未満の者の総合注意力を顕著かつ有意に改善することができる。
【実施例0071】
以下、本願発明を実施例等により説明するが、本願発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
(実施例1) 試験対象者のスクリーニング及びサブグループへの割り振り
ウリジル酸の総合注意力改善効果を試験するため、以下の手順で試験対象者のスクリーニング及びサブグループへの割り振りを行った。
【0072】
[試験対象者のスクリーニング]
試験対象者として、日本人(男女両方)、40歳以上、健常者のいずれの条件も満たす200名から、本試験に不適格と思われる者(例:DHA・EPA、イチョウ葉エキス、トコトリエノール、アスタキサンチン、GABA、ホスファチジルセリン、プラズマローゲン等、認知機能に影響する可能性のある食品やサプリメントを摂取している者、認知機能に影響する可能性がある器具、機器、アプリ等を使用している者、医薬品 (漢方薬を含む) ・サプリメントを常用している者、妊娠中、授乳中、あるいは試験期間中に妊娠する意思のある者など)を除外し、99名の試験対象者を選抜した。
【0073】
[被験食品群及びプラセボ群の割り振り]
試験対象者を、各年齢層、男女などの属性ができるだけ均等になるように、各33名の3群へと割り振った。割付後の脱落やプロトコルの遵守違反により、各群3名ずつ除外され、最終的に各群30名が解析対象になった。被験食品群1に割り振られた対象者には、5’-UMP含有食品 (4粒/日)を摂取させた。被験食品群2に割り振られた対象者には、5’-UMP含有食品 (2粒/日)、プラセボ (2粒/日)を摂取させた。プラセボ群に割り振られた対象者には、プラセボ (4粒/日)を摂取させた。被験食品及びプラセボの組成表を、以下の表1に示す。被験者は割り当てられた食品を朝食時に水またはぬるま湯とともに摂取した。当該食品摂取を12週間継続して行った。なお、本試験は二重盲検試験となるよう実施した。
【0074】
【表1】
【0075】
なお、以下の明細書において、被験食品群1のことを1日あたりのUMP摂取量 600mgの群、被験食品群2のことを1日あたりのUMP摂取量 300mgの群と表記することがある。
【0076】
[認知機能検査の実施]
CNS Vital Signs社が開発した認知機能検査技術を基盤とし、日本向けにデザインした認知機能検査サービスであるCognitraxを用いて5種類のテスト (ストループテスト(ST)、注意シフトテスト(SAT)、持続処理テスト(CPT)、言語記憶テスト(VBM)、視覚記憶力等を測定するための視覚記憶テスト(VIM)) を実施した。本願の明細書において、Cognitraxの内容については、以下の文献に記載された内容も参酌するものとする。
CNS Vital Signs LLC. CNS Vital Signs Interpretation Guide. 2019.(https://www.cnsvs.com/WhitePapers/CNSVS-BriefInterpretationGuide.pdf)
【0077】
[総合注意力スコアの計算]
注意を維持し正確に対処する力の指標となる総合注意力スコアについて、以下の計算式によって算出した。
総合注意力スコア=STのストループ誤反応+SATの誤答+CPTの誤反応+CPTの正解見過ごし数
なお、本指標においては、値が低いほど総合注意力が高いことを意味し、値が高いほど総合注意力が低いことを意味する。
【0078】
ストループテスト(ST)の概要について以下に説明する。STは3つのパートからなるテストである。第一パートでは、文字が画面に表れたらできるだけ早くスペースキーを押す。第二パートでは、赤、黄、青及び緑の文字が色文字で表示され、文字の色と文字の意味が一致したらスペースキーを押す。第三パートでは、文字の色が文字の意味と一致しないときだけスペースキーを押す。
【0079】
注意シフトテスト(SAT)の概要について以下に説明する。画面に3つの図形が、上に1つ、下に2つ表示される。図は四角か円で、色は赤か青になっている。上部の図と適合する図を下部から選択するが、ルールは「形」が合っているもの、または「色」が同じものという具合に変化する。
【0080】
持続処理テスト(CPT)の概要について以下に説明する。5分間画面にランダムに表示される文字の中で、「B」が表示された場合だけ応答する。
【0081】
[総合記憶力スコアの算出]
言語記憶力と視覚記憶力を総合した記憶力全般の指標となる総合記憶力スコアについて、以下の計算式によって算出した。
総合記憶力スコア=VBMの正解ヒット数(即時)+VBMの正解パス数(即時)+VBMの正解ヒット数(遅延)+VBMの正解パス数(遅延)+VIMの正解ヒット数(即時)+VIMの正解パス数(即時)+VIMの正解ヒット数(遅延)+VIMの正解パス数(遅延)
【0082】
言語記憶テスト(VBM)の概要について以下に説明する。最初に15の単語が表示されるので記憶し、その後、新たな単語も含む30の単語から、記憶した単語を見つける。
【0083】
視覚記憶テスト(VIM)の概要について以下に説明する。最初に15種類の図形が表示されるので記憶し、その後、新たな図形も含む30の図形から、記憶した図形を見つける。
【0084】
[言語記憶力スコアの算出]
言語記憶力スコアについて、以下の計算式によって算出した。
総合記憶力スコア=VBMの正解ヒット数(即時)+VBMの正解パス数(即時)+VBMの正解ヒット数(遅延)+VBMの正解パス数(遅延)
【0085】
[標準化スコアの計算]
以下の方法によって、各スコアを各標準化スコアへと変換した。
標準化スコア:平均値を100、標準偏差値を15とする正規分布での正規化スコアを実測値より算出した。なお、算出にあたっては、5歳刻みでの年代補正を行った。例えば、実測値が同年代の平均と同じであれば標準化スコアは100、平均より1σ分良ければ115、平均より2σ分良ければ130となる。
【0086】
[統計処理]
上記の方法で得られた各試験群間のスコアについて、平均と標準偏差を計算し、スクリーニング兼摂取前検査時のスコア(ベースライン)を共変量としたANCOVAを用いてプラセボ群との群間比較を行った。すべての統計解析は両側検定で行い、p値が0.05未満なら有意、0.05以上0.1未満のとき、有意傾向とした。用いるソフトウェアは、SPSS Statisticsのバージョン23以上とし、必要に応じて検証された他の統計ソフトウェアが使用された。
【0087】
[サブグループの設定]
本試験の結果を詳細に解析するため、試験前の総合記憶力標準化スコアが83.5点未満の被験者、試験前の言語記憶力標準化スコアが90点未満の被験者、60歳未満の被験者(具体的には40代及び50代の被験者)について、それぞれ試験結果を抽出し、上記と同様の方法にて統計処理を行った。Cognitraxにおいては、試験前の総合記憶力標準化スコアが83.5点未満であることは、記憶に関する認知機能が低い者であることを意味する。試験前の言語記憶力標準化スコアが90点未満であることは、言語記憶に関する認知機能が低い者であることを意味する。60歳未満の被験者(具体的には40代及び50代の被験者)については、非特許文献3に記載の通り、加齢による認知機能の低下が見られない年代の被験者を意味する。
【0088】
(参考例1) 被験者全体における総合注意力標準化スコアの改善効果
注意を維持し正確に対処する力である総合注意力の改善効果が見られるか、検討を行った。
【0089】
試験前後における総合注意力標準化スコアの変化量について、結果を図1及び表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
被験者全体で解析したところ、被験食品群1(1日あたりのUMP摂取量 600mg)、被験食品群2(1日あたりのUMP摂取量 300mg)、いずれの群においても、プラセボ群と比較した場合に総合注意力標準化スコアの有意な向上は確認されなかった。
【0092】
(実施例2) 総合記憶力標準化スコア83.5点未満のサブグループにおける総合注意力の改善効果
記憶に関する認知機能が低い、総合記憶力標準化スコア83.5点未満のサブグループにおいて、注意を維持し正確に対処する力である総合注意力の改善効果が見られるか、検討を行った。
【0093】
総合記憶力標準化スコアが83.5点未満の被験者(全年齢)の結果について、図2及び表3に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
被験食品群2(1日あたりのUMP摂取量 300mgの群)において、顕著かつ有意傾向(p値:0.058)の総合注意力の改善効果が見られた。
【0096】
このことから、総合記憶力標準化スコアが83.5点以下の被験者に対して、UMPが総合注意力の改善効果を奏することが示された。
【0097】
(実施例3) 60歳未満のサブグループにおける総合注意力の改善効果
加齢に伴う正常な認知機能低下(生理的健忘)の影響を調べるため、60歳未満(具体的には40代、50代)のサブグループにおいて、総合注意力の改善効果が見られるか、検討を行った。
【0098】
被験者全体のうち、60歳未満の被験者における結果について、図3及び表4に示す。
【0099】
【表4】
【0100】
60歳未満の被験者においては、被験食品群1、2のどちらの群も、プラセボ群と比較したときに総合注意力標準化スコアの変化量が増大していた。
【0101】
中でも、被験食品群2(1日あたりのUMP摂取量 300mgの群)において、顕著な総合注意力の改善傾向が見られた。
【0102】
このことから、60歳未満の被験者に対して、UMPが総合注意力の改善効果を奏することが示された。
【0103】
(実施例4) 総合記憶力標準化スコア83.5点未満かつ60歳未満のサブグループにおける総合注意力の改善効果
実施例2では、記憶に関する認知機能が低い、総合記憶力標準化スコア83.5点未満のサブグループにて、総合注意力の改善効果が示された。実施例3では、60歳未満の被験者にて、総合注意力の改善効果が示された。そこで、総合記憶力標準化スコア83.5点未満かつ60歳未満のサブグループでは、より高い総合注意力の改善効果が見られるか、検証を行った。
【0104】
総合記憶力標準化スコア83.5点未満かつ60歳未満(40代、50代)のサブグループにおける結果について、図4及び表5に示す。
【0105】
【表5】
【0106】
総合記憶力標準化スコアが83.5点未満かつ60歳未満(40代、50代)の被験者において、プラセボ群では総合注意力標準化スコアが試験前後では低下していたのに対し、被験食品群1、2においては、どちらも総合注意力標準化スコアが向上していた。
【0107】
中でも、被験食品群2(1日あたりのUMP摂取量 300mgの群)において、顕著かつ有意(p値:0.041)な総合注意力の改善効果が見られた。
【0108】
このことから、総合記憶力標準スコア83.5点未満かつ60歳未満の被験者に対して、UMPが顕著かつ有意な総合注意力の改善効果を奏することが示された。
【0109】
さらに、本実施例における被験食品群2の結果を、実施例2及び実施例3の被験食品群2の結果と比較すると、本実施例が最も試験前後の総合注意力標準化スコアの変化量が大きく、本実施例のp値が最も小さい。このことから、総合記憶力標準スコア83.5点未満かつ60歳未満の被験者に対して、UMPが特に強い総合注意力の改善効果を奏することが示された。
【0110】
(実施例5) 言語記憶力標準化スコア90点未満のサブグループにおける総合注意力の改善効果
言語記憶に関する認知機能が比較的低い、言語記憶力標準化スコア90点未満のサブグループにおいて、注意を維持し正確に対処する力である総合注意力の改善効果が見られるか、検討を行った。
【0111】
言語記憶力標準化スコア90点未満の被験者(全年齢)の結果について、図5及び表6に示す。
【0112】
【表6】
【0113】
言語記憶力標準化スコアが90点未満の被験者について、被験食品群1(1日あたりのUMP摂取量 600mgの群)、被験食品群2(1日あたりのUMP摂取量 300mgの群)、いずれにおいても、プラセボ群と比較して総合注意力標準化スコアの顕著な増加が見られた。当該総合注意力標準化スコアの増加については、被験食品群1においてはp値:0.038、被験食品群2においてはp値:0.047と、統計学上も有意な差であった。
【0114】
被験食品群1と被験食品群2の結果を比較すると、被験食品群2(1日あたりのUMP摂取量 300mgの群)において、より変化量が大きいことが明らかとなった。
【0115】
このことから、言語記憶力標準化スコアが90点以下の被験者に対して、UMPが顕著かつ極めて有意な総合注意力の改善効果を奏することが示された。
図1
図2
図3
図4
図5