(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030689
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】生分解性樹脂の海洋生分解性促進剤
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20240229BHJP
C08L 5/00 20060101ALI20240229BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20240229BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20240229BHJP
【FI】
C08L67/00 ZBP
C08L5/00
C08K3/28
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133736
(22)【出願日】2022-08-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、ムーンショット型研究開発事業、「生分解開始スイッチ機能を有する海洋分解性プラスチックの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 健一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 美和
(72)【発明者】
【氏名】横山 歩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 優花
(72)【発明者】
【氏名】橘 熊野
【テーマコード(参考)】
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4J002AB052
4J002CF031
4J002CF181
4J002DF006
4J200AA04
4J200AA05
4J200AA06
4J200AA08
4J200BA05
4J200BA11
4J200BA14
4J200CA01
4J200EA11
(57)【要約】
【課題】本発明は、生分解性樹脂の海洋生分解性を向上させる技術を開発することを課題とする。
【解決手段】本発明は、カラギーナン、および窒素含有化合物を含む、生分解性樹脂の海洋生分解性促進剤を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラギーナン、および窒素含有化合物を含む、生分解性樹脂の海洋生分解性促進剤。
【請求項2】
生分解性樹脂が、ポリエステル樹脂である、請求項1に記載の海洋生分解性促進剤。
【請求項3】
ポリエステル樹脂が、ポリブチレンサクシネートアジペートである、請求項2に記載の海洋生分解性促進剤。
【請求項4】
窒素含有化合物が、アンモニウム塩である、請求項1に記載の海洋生分解性促進剤。
【請求項5】
アンモニウム塩が、塩化アンモニウムである、請求項4に記載の海洋生分解性促進剤。
【請求項6】
生分解性樹脂、および請求項1~5のいずれか1項に記載の海洋生分解性促進剤を含む、海洋生分解性樹脂組成物。
【請求項7】
生分解性樹脂の表面にカラギーナンが積層されている、請求項6に記載の海洋生分解性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項6に記載の海洋生分解性樹脂組成物で形成された成形品。
【請求項9】
生分解性樹脂に、請求項1~5のいずれか1項に記載の海洋生分解性促進剤を接触させ、海洋における生分解性樹脂の生分解を促進する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂の海洋生分解性促進剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)等、多くの化学合成脂肪族ポリエステルは、優れた物性と加工性を有する生分解性材料である。一方、その生分解性は、環境によって大きく異なり、特に海洋環境中での生分解速度は低い。
【0003】
このような背景から、化学合成脂肪族ポリエステルの生分解性を向上させる方法が提案されている。例えば、特許文献1によれば、化学合成脂肪族ポリエステルに重質炭酸カルシウムを含有させることで炭酸カルシウムが海洋中に溶け出し、残存した樹脂の比表面積を増大させることによって、生分解速度が上昇する。また、特許文献2には、有機分解菌を混練した化学合成脂肪族ポリエステル材料が土壌や水に接触すると、分解菌が放出され生分解が始まる生分解性フィルム材料が開示されている。特許文献3および4には生分解性樹脂にセルロースやキシロースを添加することによる生分解の促進方法が開示されている。特許文献5にはアニオンとカチオンとがイオン結合により結合している化合物からなる海洋生分解促進剤が開示されている。特許文献6には窒素化合物およびリン化合物を添加して行う生分解性樹脂組成物の分解処理方法が開示されている。特許文献7には化学合成生分解性樹脂にポリヒドロキシアルカノエート等と植物性フィラーを添加させることによる海洋生分解性が向上した樹脂組成物が開示されている。特許文献8には生分解性樹脂を積層させて得られる使用中は劣化しにくく、使用後には自然環境下で速やかに分解される生分解性積層体が開示されている。特許文献9にはセルロースナノファイバーを含み生分解が促進された生分解性複合材料が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている方法では、海水中で使用する際にすぐに溶解する樹脂構造を構成する化合物が溶け出し、物性が低下する問題や、比表面積が大きくなっても海洋中では樹脂表面に微生物が蓄積しにくく、生分解が進みにくいという課題があった。また、特許文献2に記載されている方法では、海洋環境中では分解菌が海洋に放出されてフィルムに留まらず、生分解を促す効果が低いという課題があった。特許文献3~9に記載されている方法についても、生分解性のさらなる向上という課題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-066721号
【特許文献2】特許6310843号
【特許文献3】特開2022-021326号
【特許文献4】特開2021-191845号
【特許文献5】特開2021-191810号
【特許文献6】特許6976540号
【特許文献7】特開2021-161435号
【特許文献8】特開2021-154559号
【特許文献9】特開2021-021041号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の状況を鑑み、ポリエステル樹脂等の生分解性樹脂の海洋生分解性を向上させる技術を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、海洋生分解速度が低い生分解性樹脂と、海洋由来多糖類と窒素含有化合物とを接触させることで、生分解性樹脂の海洋生分解性を向上させることができることを知見した。より具体的には、生分解性樹脂と、海洋由来多糖類とを接触させることで、生分解性樹脂分解微生物が樹脂表面に集積し、生分解性樹脂の海洋生分解性が向上することを知見した。窒素含有化合物は、生分解性樹脂分解微生物が増殖するために必要な栄養源を提供する。このような知見に基づき、本発明は完成されたものである。
すなわち、本発明の要旨は以下に関する。
【0008】
[1] カラギーナン、および窒素含有化合物を含む、生分解性樹脂の海洋生分解性促進剤。
[2] 生分解性樹脂が、ポリエステル樹脂である、[1]に記載の海洋生分解性促進剤。
[3] ポリエステル樹脂が、ポリブチレンサクシネートアジペートである、[2]に記載の海洋生分解性促進剤。
[4] 窒素含有化合物が、アンモニウム塩である、[1]~[3]のいずれかに記載の海洋生分解性促進剤。
[5] アンモニウム塩が、塩化アンモニウムである、[4]に記載の海洋生分解性促進剤。
[6] 生分解性樹脂、および[1]~[5]のいずれかに記載の海洋生分解性促進剤を含む、海洋生分解性樹脂組成物。
[7] 生分解性樹脂の表面にカラギーナンが積層されている、[6]に記載の海洋生分解性樹脂組成物。
[8] [6]または[7]に記載の海洋生分解性樹脂組成物で形成された成形品。
[9] 生分解性樹脂に、[1]~[5]のいずれかに記載の海洋生分解性促進剤を接触させ、海洋における生分解性樹脂の生分解を促進する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の海洋生分解性促進剤によれば、海洋生分解速度が低い生分解性樹脂の海洋生分解性を効果的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、各試験区でのPBSAフィルム重量減少速度を示すグラフである。
【
図2】
図2は、各試験区でのPBSAフィルム表面形態を示す図(図面代用写真)である。
【
図3】
図3は、各試験区でのPBSAフィルム表面のバイオフィルム量を示すグラフである。
【
図4】
図4は、各試験区でのPBSAフィルム表面の微生物叢を示すグラフである。(A)は千葉市から採取した海水、(B)は横須賀市から採取した海水の結果を示す。
【
図5】
図5は、各試験区でのPBSAフィルム重量減少速度を示すグラフ(1ヶ月後)である。
【
図6】
図6は、各試験区でのPBSAフィルム重量減少速度を示すグラフ(2ヶ月後)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について説明する。
<海洋生分解性促進剤>
本発明の一態様は、カラギーナン、および窒素含有化合物を含む、生分解性樹脂の海洋
生分解性促進剤(以下、「本発明の海洋生分解性促進剤」ということがある。)に関する。
生分解性樹脂に、本発明の海洋生分解性促進剤を接触させることにより、海洋における生分解性樹脂の生分解を促進することができる。より具体的には、例えば、生分解性樹脂に、本発明の海洋生分解性促進剤を添加することにより、海洋における生分解性樹脂の生分解を促進することができる。
【0012】
本発明の海洋生分解性促進剤の、海洋における生分解性促進の対象物質となる「生分解性樹脂」は、生分解性高分子分解菌により生分解可能な高分子であれば、特に限定されない。生分解性樹脂としては、生物由来のものと化学合成によるものがあるが、いずれも用いることができる。生分解性樹脂としては、限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂が挙げられ、ポリエステル樹脂は、例えば、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)等から選択可能である。
【0013】
脂肪族ポリエステルは、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレンサクシネート(P
ESu)、ポリブチレンサクシネート(PBSu)、ポリエチレンサクシネートアジペー
ト(PESA)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネートカーボネイト(PEC)、ポリ乳酸/ポリカプロラクトン共重合体、ポリ乳酸/ポリエーテル共重合体等であってよい。
芳香族ポリエステルは、例えば、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリテトラメチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート(CPE)等であってよい。
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は、例えば、ポリ-3-ヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート/3-ヒドロキシバレレート)(PHBV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート/3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート/4-ヒドロキシブチレート)等であってよい。
これらのうち、好ましくは脂肪族ポリエステル、より好ましくはポリブチレンサクシネートアジペートが挙げられる。
生分解性樹脂は、1種類または2種類以上を含むものであってよい。
生分解性樹脂は、例えば、高分子の通常の調製方法により調製できる。また、市販品を用いることも可能である。
【0014】
本発明に用いられる生分解性樹脂の分子量としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限されない。例えば、数平均分子量(Mn)であれば、20,000~10,000,000であってよい。重量平均分子量(Mw)であれば、20,000~10,000,000であってよい。分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)等により、測定することができる。
【0015】
ここで、生分解性樹脂の生分解性とは、生分解性高分子分解菌の加水分解酵素等の働きによって、生分解性樹脂が切断、低分子に断片化される性質を意味する。また、好ましくは、生分解性樹脂の生分解性とは、生分解性樹脂が切断、低分子に断片化され、無機化される性質であり得る。
海洋における生分解性樹脂の生分解性は、例えば、試料を海水に浸漬し、海水浸漬試験後の重量が初期重量から減少することで確認することができる。
【0016】
本発明の海洋生分解性促進剤は、カラギーナン、および窒素含有化合物を含むことを特徴とする。
≪カラギーナン≫
カラギーナンは、D-ガラクトースがα-1,3結合またはβ-1,4結合を交互に繰繰り返した構造をした多糖類である。カラギーナンとしては、κ-カラギーナン、ι-カ
ラギーナン、λ-カラギーナン等が挙げられる。本発明に用いられるカラギーナンとしては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限されない。カラギーナンは、1種類または2種類以上を含むものであってよい。カラギーナンは、海藻由来多糖類であり、海藻等より常法により抽出、必要に応じて精製したものを用いてもよいが、富士フィルム和光純薬製κ-カラギーナン等の市販品を用いてもよい。
【0017】
本発明に用いられるカラギーナンの分子量としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限されない。例えば、数平均分子量(Mn)であれば、10,000~10,000,000、または100,000~1,000,000であってよい。重量平均分子量(Mw)であれば、10,000~10,000,000、または100,000~1,000,000であってよい。分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)等により、測定することができる。
【0018】
海洋生分解性促進剤におけるカラギーナンの配合割合は、限定されないが、例えば、海洋生分解性促進剤全量に対して0.001~99.999重量%、0.01~90重量%、0.1~80重量%、1~70重量%、10~60重量%、または20~50重量%程度とすることができる。
【0019】
≪窒素含有化合物≫
本発明に用いられる窒素含有化合物としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限されない。窒素含有化合物としては、窒素を含有する化合物であればよく、無機系および有機系の窒素含有化合物が挙げられる。例えば、無機系の窒素含有化合物としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等の各種アンモニウム塩、有機系の窒素含有化合物としては、各種アミノ酸およびそれらの誘導体、各種アミノ酸の重合体、ペプチド類、タンパク質、尿素等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、窒素含有化合物として、窒素とリンの両方を含む化合物を用いてもよく、例えば、リン酸二水素アンモニウムやリン酸水素二アンモニウム等の無機系化合物の他に、リボ核酸、デオキシリボ核酸等の核酸類等の有機系化合物が挙げられる。窒素含有化合物として、好ましくはアンモニウム塩、より好ましくは塩化アンモニウムが挙げられる。窒素含有化合物は、1種類または2種類以上を含むものであってよい。
【0020】
海洋生分解性促進剤における窒素含有化合物の配合割合は、限定されないが、例えば、海洋生分解性促進剤全量に対して0.001~99.999重量%、0.01~90重量%、0.1~80重量%、1~70重量%、10~60重量%、または20~50重量%程度とすることができる。
【0021】
海洋生分解性促進剤におけるカラギーナンおよび窒素含有化合物(合計量)の配合割合は、限定されないが、例えば、海洋生分解性促進剤全量に対して70~100重量%、80~99重量%、または90~95重量%程度とすることができる。
【0022】
海洋生分解性促進剤は、前記カラギーナンおよび窒素含有化合物で構成すればよいが、任意で、製剤化のための添加剤等、例えば、溶媒、賦形剤、安定化剤等を含んでいてもよい。また、任意で、窒素含有化合物以外の生分解性樹脂分解微生物が増殖するために必要な栄養源を含んでもよい。栄養源として、例えば、無機系および有機系のリン含有化合物等が挙げられる。無機系のリン化合物としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム等の各種リン酸塩およびポリリン酸等各種重合体、有機系のリン化合物としては、各種のアルキルおよびアルケニルリン酸エステル、フィチン酸等の糖リン酸エステル、核酸等が挙げられるがこれらに限定するものではない。
【0023】
海洋生分解性促進剤の剤形は特に限定されず、粉末やペレット状、フィルム状の固体、親水性または親油性の液体・ゾル・ゲルに溶かした状態や分散させた状態であってよい。海洋生分解性促進剤の製剤化は、常法に基づき行うことができる。
【0024】
海洋生分解性促進剤は、カラギーナンおよび窒素含有化合物をそれぞれ別個に含んでいてもよいし、カラギーナンおよび窒素含有化合物を組み合わせてなる混合物として含んでいてもよい。
【0025】
<海洋生分解性樹脂組成物>
本発明の別の一態様は、生分解性樹脂、および本発明の海洋生分解性促進剤を含む、海洋生分解性樹脂組成物(以下、「本発明の海洋生分解性樹脂組成物」ということがある。)に関する。なお、上記<海洋生分解性促進剤>の項において説明された事項は、本発明の海洋生分解性樹脂組成物の説明に全て適用される。
【0026】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物は、上記生分解性樹脂と海洋生分解性促進剤とを含んでおり、上記生分解性樹脂に対して海洋生分解性促進剤を少量の割合で添加することにより、生分解性を大きく促進できる。そのため、生分解性樹脂の機械的特性等を大きく損なうことなく、生分解性樹脂の生分解性を向上または改善できる。また、海洋生分解性促進剤のうち、窒素含有化合物を環境中に、カラギーナンを生分解性樹脂に積層することにより接触させることも可能であり、このような態様において、さらに生分解性樹脂の機械的特性等を損なうことがない。このような態様も本発明の海洋生分解性樹脂組成物に包含される。また、海洋生分解性促進剤の使用量により生分解性樹脂の生分解性をコントロールすることもできる。
【0027】
海洋生分解性樹脂組成物における海洋生分解性促進剤の配合割合は、限定されないが、例えば、生分解性樹脂100重量部に対して、カラギーナンが1~500重量部、10~100重量部、または30~50重量部であってよい。
また、海洋生分解性樹脂組成物における海洋生分解性促進剤の配合割合は、限定されないが、例えば、生分解性樹脂100重量部に対して、窒素含有化合物(窒素換算)が0.1~10,000重量部、1~1,000重量部、または10~100重量部であってよい。海洋生分解性樹脂組成物における窒素含有化合物の配合割合は、例えば、窒素含有化合物の使用量が後記する所定の範囲となる量であってもよい。
【0028】
海洋生分解性樹脂組成物は、必要により、生分解性樹脂組成物に通常使用される種々の添加剤等、例えば、前記生分解性樹脂の可塑剤、安定剤(抗酸化剤、熱安定剤、耐光安定剤等)、界面活性剤、滑剤、着色剤、充填剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、分散剤、分散助剤、離型剤等を含んでいてもよい。添加剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0029】
海洋生分解性樹脂組成物は、生分解性樹脂と海洋生分解性促進剤との混合物の形態であってもよく、生分解性樹脂と海洋生分解性促進剤とが混練されて一体化した形態(例えば粉粒体またはペレット等)であってもよい。
生分解性樹脂と海洋生分解性促進剤との混合物の形態としては、海洋生分解性促進剤としてカラギーナンが生分解性樹脂にフィルム成形される、あるいはカラギーナンが生分解性樹脂表面に塗工されること等により積層され、窒素含有化合物を使用時に接触させる形態、カラギーナンおよび窒素含有化合物が生分解性樹脂に積層される形態等であってよい。
生分解性樹脂と海洋生分解性促進剤とが混練されて一体化した形態としては、海洋生分解性促進剤としてカラギーナンが生分解性樹脂と混練されて一体化され、窒素含有化合物を使用時に接触させる形態、海洋生分解性促進剤として窒素含有化合物が生分解性樹脂と
混練されて一体化され、カラギーナンを使用時に接触させる/カラギーナンが積層された形態、海洋生分解性促進剤としてカラギーナンおよび窒素含有化合物が生分解性樹脂と混練されて一体化された形態等のいずれであってもよい。
好ましくは、窒素含有化合物を使用時に接触させ、カラギーナンを使用時に接触させるかまたはカラギーナンが積層された形態が挙げられる。
海洋生分解性樹脂組成物は、生分解性樹脂とともに、海洋生分解性促進剤を含有すること以外は、通常の高分子組成物の製造方法と同様の方法で製造することができる。
【0030】
<成形品>
本発明の別の一態様は、本発明の海洋生分解性樹脂組成物で形成された成形品(以下、「本発明の成形品」ということがある。)に関する。なお、前記<海洋生分解性促進剤>、<海洋生分解性樹脂組成物>の項において説明された事項は、本発明の成形品の説明に全て適用される。
【0031】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物は、成形加工することによりフィルム、シート等用途に適した形状の器具、容器、不織布等の成形品にすることができる。
【0032】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物からなるフィルムまたはシートを得る方法としては特に制限がなく、公知の成形方法によりフィルム状またはシート状に成形される。例えば、T-ダイ成形法、インフレーション成形法、カレンダー成形法、熱プレス成型法等により、フィルム状またはシート状に成形する方法が挙げられる。また、これらのフィルムやシートは少なくとも一方向に延伸されていてもよい。延伸法として特に制限はないが、ロール延伸法、テンター法、インフレーション法等が挙げられる。
【0033】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物からなる、用途に適した形状の成形品を得る方法としては、特に制限がなく、公知の方法で製造可能であり、例えば金型に押出成形や射出成形等を行う方法等が挙げられる。
本発明の海洋生分解性樹脂組成物の成形品の厚さは、その水崩壊性や生分解性を高めるために薄く成形することが好ましいが、強度や可とう性等を満足させるように自由に調整可能である。フィルムの好ましい厚みは、5~300μmであり、10~100μmがより好ましい。シートや容器状の成形品の厚みとしては0.1~5mmが好ましく、より好ましくは0.2~2mmである。また、引張弾性率は、特にその値を限定するわけではないが、通常、1200MPa以下のものが好ましく、600MPa以下のものがさらに好ましい。引張強度は、特にその値を限定するわけではないが、10~100MPaの範囲
が好ましく、15~70MPaの範囲がより好ましく、20~50MPaの範囲がさらに好ましい。
【0034】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物の不織布を得る方法としては特に制限がなく、公知の方法、例えば、乾式法、スパンボンド法、メルトブロー法、湿式法等により製造される。すなわち、本発明の海洋生分解性樹脂組成物、または該海洋生分解性樹脂組成物と添加剤とを含む組成物を紡糸した後、ウェブを形成し、該ウェブを公知の方法により結合することにより得られる。
【0035】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物を含有してなる成形品は、その用途は特に限定されないが、例えば、衛生用品を構成する部材(部品)、農園芸資材、土木建築資材等として使用することができる。すなわち、本発明の海洋生分解性樹脂組成物を含有する素材を使用して衛生用品、農園芸資材、土木建築資材、漁業用資材等を製造することが可能である。
【0036】
衛生用品、農園芸資材、土木建築資材等の製造法としては、本発明の海洋生分解性樹脂組成物を含有してなる組成物を所望の形状に成形加工することによって製造できるし、さ
らにその成形品を公知のホットメルト接着あるいは熱接着等の方法により相互に接着、固定して製造することができる。
【0037】
前記衛生用品としては、例えば、使い捨て紙おむつ、失禁用パッド、生理用ナプキン等が挙げられる。
前記農園芸資材としては、例えば、マルチフィルム、育苗ポット、園芸テープ、果実栽培袋、杭、薫蒸シート、ビニールハウス用フィルム等が挙げられる。
前記土木建築資材としては、例えば、植生ネット、植生ポット、立体網状体、土木繊維、杭、断熱材等が挙げられる。
【0038】
<生分解促進方法>
本発明の別の一態様は、生分解性樹脂に、本発明の海洋生分解性促進剤を接触させ、海洋における生分解性樹脂の生分解を促進する方法(以下、「本発明の生分解促進方法」ということがある。)に関する。
前記のとおり、生分解性樹脂に、本発明の海洋生分解性促進剤を接触させることにより、海洋における生分解性樹脂の生分解を促進することができる。本発明の生分解促進方法における生分解性樹脂に、本発明の海洋生分解性促進剤を接触させる工程は、前記本発明の<海洋生分解性促進剤>、<海洋生分解性樹脂組成物>において説明された条件および手法にて行うことができる。すなわち、例えば、生分解性樹脂に、本発明の海洋生分解性促進剤を添加、混合、または配合することにより、海洋における生分解性樹脂の生分解を促進することができる。
すなわち、本発明の生分解促進方法は、例えば、生分解性樹脂に、本発明の海洋生分解性促進剤を添加、混合、または配合する工程を含む、海洋における生分解性樹脂の生分解を促進する方法であってよい。
【0039】
生分解性樹脂に、本発明の海洋生分解性促進剤を添加、混合、または配合する形態としては、海洋生分解性促進剤としてカラギーナンが生分解性樹脂にフィルム成形される、あるいはカラギーナンが生分解性樹脂表面に塗工されること等により積層され、窒素含有化合物を使用時に接触させる(例えば、海洋等の生分解性樹脂を含む環境中に添加される)形態、カラギーナンおよび窒素含有化合物が生分解性樹脂にフィルム成形される、あるいはカラギーナンおよび窒素含有化合物が生分解性樹脂表面に塗工されること等により積層される形態等であってよい。
また、生分解性樹脂に、本発明の海洋生分解性促進剤を添加、混合、または配合する形態としては、海洋生分解性促進剤としてカラギーナンが生分解性樹脂と混練されて一体化され、窒素含有化合物を使用時に接触させる形態、海洋生分解性促進剤として窒素含有化合物が生分解性樹脂と混練されて一体化され、カラギーナンを使用時に接触させる/カラギーナンが積層される形態、海洋生分解性促進剤としてカラギーナンおよび窒素含有化合物が生分解性樹脂と混練されて一体化される形態等であってもよい。
また、生分解性樹脂に、本発明の海洋生分解性促進剤を添加、混合、または配合する形態としては、生分解性樹脂に、カラギーナンおよび窒素含有化合物を使用時に接触させる形態であってもよい。
好ましくは、窒素含有化合物を使用時に接触させ、カラギーナンを使用時に接触させるかまたはカラギーナンが積層される形態が挙げられる。
【0040】
本発明の生分解促進方法における海洋生分解性促進剤の使用量は、限定されないが、例えば、生分解性樹脂100重量部に対して、カラギーナンが1~500重量部、10~100重量部、または30~50重量部程度となるように適用することができる。
【0041】
また、本発明の生分解促進方法における海洋生分解性促進剤の使用量は、限定されないが、例えば、生分解性樹脂100重量部に対して、窒素含有化合物(窒素換算)が0.1
~10,000重量部、1~1,000重量部、または10~100重量部程度となるように適用することができる。
また、例えば、窒素含有化合物(窒素換算)が、生分解性樹脂を含む環境1L中の濃度として0.1~10g/L、0.5~5g/L、または0.65~1.5g/L程度となるように適用することができる。
【0042】
本発明の生分解促進方法は、例えば、生分解性樹脂に、本発明の海洋生分解性促進剤を添加、混合、または配合する工程を含む、本発明の海洋生分解性樹脂組成物を製造する方法であってよい。
【0043】
なお、前記<海洋生分解性促進剤>、<海洋生分解性樹脂組成物>、<成形品>の項において説明された事項は、本発明の生分解促進方法の説明に全て適用される。
【0044】
ここで、「海洋における生分解性樹脂の生分解を促進」とは、限定されないが、海洋における、本発明の海洋生分解性促進剤非添加の生分解性樹脂の生分解速度に比べて、本発明の海洋生分解性促進剤を添加した生分解性樹脂の生分解速度が増加していればよく、限定されないが、例えば、本発明の海洋生分解性促進剤を添加した生分解性樹脂の生分解速度が、本発明の海洋生分解性促進剤非添加の生分解性樹脂の生分解速度の1.25倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または2.5倍以上である。生分解性樹脂の生分解速度が増加したか否かは、後記の実施例に示されたような分解試験により確認することができる。例えば、試料の初期重量と海水浸漬試験後の重量の差から、重量減少量が算出され、重量減少量を試料の表面積および浸漬時間で除した分解速度を指標にして、本発明の海洋生分解性促進剤非添加の生分解性樹脂と比較して、本発明の海洋生分解性促進剤を添加した生分解性樹脂の生分解速度が速い場合には、生分解性樹脂の生分解速度が増加していると判断することができる。
【実施例0045】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の例示であり、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>
下記方法に基づき、高分子試料の海洋分解試験を実施した。
<材料および方法>
(試料の作製および試薬)
ポリ(ブチレンサクシネート-co-アジペート)(PBSA)は、三菱ケミカル株式会社から提供された。
高分子試料をクロロホルムにより溶解させた後、10 倍量のメタノールを加え再沈殿さ
せた。吸引ろ過により高分子試料を回収し、真空定温乾燥器SVD30P(三商)を用いて乾燥させた後、実験に使用した。
高分子フィルムは、以下の手順で作製された。再沈殿後の高分子試料を厚さ0.1 mm の
ステンレス製金型に入れ、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社、カプトン)で挟んだ。さらに厚さ1 mmのステンレス板で挟んだ後、miniTESTPRESS-10(東洋精機製作所)を用いて、成形温度下で、15 MPaの圧力を1分間加えた。徐冷後、金型から外し、1 cm 四方の大きさに切断し、高分子フィルムとした。その他試薬は、市販の特級試薬を使用した。
κ-carrageenan(0.15 g)を水(100 mL)に加え、加熱溶解させた後、放冷し、κ-carrageenanゲルを作製した。これをFREEZE DRYER FRD-mini(AGCテクノグラス株式会社)を用いて凍結乾燥させた。
【0047】
(環境試料)
千葉県千葉市の千葉ポートパーク(N35°35’58.79”, E140°05’48.91”)および神奈
川県横須賀市(N35°28’13”, E139°67’22”)から、海水を採取した。
【0048】
(海水浸漬試験)
ステンレスメッシュ(メッシュサイズ90)で作製した袋に、高分子フィルム(15 mg)と乾
燥させたゲル(5 mg)の双方を入れた。また、高分子フィルム(15 mg)および乾燥させたゲ
ル(5 mg)をそれぞれ単独でステンレスメッシュの袋に入れた。リン酸二水素カリウム(0.03 g)および塩化アンモニウム(1.5 g) を添加した海水(300 mL)を入れた広口メジューム瓶の上部から、試料を吊るし浸漬させた。窒素源の添加による分解性の差異を評価するため、塩化アンモニウムを添加しない系を調製した。30 ℃で40 日間静置した後、フィルムおよびゲルを回収した。
【0049】
(フィルム分解試験)
メタノール、超純水の順で洗浄し、凍結乾燥させたフィルムの重量を測定した。各種フィルムの初期重量と海水浸漬試験後の重量の差から、重量減少量が算出された(n=5)。重
量減少量を、フィルムの表面積(2 cm2)および浸漬時間(40日間)で除することで、分解速
度を算出した。
【0050】
(表面形態観察)
海水浸漬後の各種フィルムをメタノール、超純水の順で洗浄し、凍結乾燥させた。それらのフィルムを2.5 %グルタルアルデヒド溶液に浸し、室温で1時間保持した。超純水で洗浄後、50、60、70、80、90および99.5%エタノールに順次、それぞれ20分間ずつ浸し、脱
水した。フィルムをターシャリブチルアルコールに1時間浸し、その後凍結乾燥させた。
Magnetron Sputter MSP-1S(真空デバイス株式会社)を用いてフィルム表面へAu-Pd を蒸着させた。走査型電子顕微鏡(SEM、株式会社島津製作所 SSX-550)を用いてフィルムの表
面形態が観察された。測定条件は、加速電圧は15 kV、プローブサイズは4であった。
【0051】
(バイオフィルム定量)
海水浸漬後の各種フィルムを、0.1%クリスタルバイオレット溶液(1 mL)中で10 分間染
色させた。染色後のフィルムを超純水で洗浄し、99.5%エタノール(1 mL)中に10分間浸し
、色素を遊離させた。遊離した色素量は、溶液の波長595 nmにおける吸光度を測定することで決定された。この遊離色素量はフィルム表面に付着した微生物数に比例するため、これをバイオフィルム量と定義した。
【0052】
(メタゲノム抽出)
海水(1.75 L)を、濾過ホルダー(ADVANTEC 東洋株式会社、ポリサルホンホルダー)およ
びメンブレンフィルター(ADVANTEC 東洋株式会社、A045A047A、0.45 μm)を用いて濃縮した。浸漬後の各種フィルム(各種30枚)および海水濃縮物から、PowerSoil DNA Isolation Kit(MO BIO Laboratorises、Inc.)を用いてメタゲノムを抽出した。抽出操作は、製品プ
ロトコールに従った。抽出したメタゲノムDNAは、-80℃で保存した。
【0053】
(ショットガンメタゲノム解析)
ショットガンメタゲノム解析は、株式会社生物技研により、以下の手順で行われた。最初に、Synergy LX(Bio Tek)とQuantiFlour dsDNA System(Promega)を用いて、メタゲノムDNA溶液の濃度を測定した。次に、Covarisを用いてDNA を500 bpに断片化後、せん断されたDNAとMGIEasy Universal DNA Library Prep Set を用いてライブラリーを作製した。また、MGIEasy DNA Adapters-96(Plate) Kitのアダプターを使用した。その後、Qubit 3.0 FluorometerとQubit dsDNA HSアッセイキットを用いて、作製されたライブラリーの濃度
を測定した。ライブラリー作製後、Fragment AnalyzerとdsDNA 915 Reagent Kit(Advanced Analytical Technologies)を用いて、作製されたライブラリーの品質を確認した。作製されたPCR ProductとMGIEasy Circularization Kitを用いて環状化DNAを作製後、DNBSEQ-
G400RS High-throughput Sequencing Kitを用いてDNA Nanoball(DNB)を作製した。作製したDNBについて、DNBSEQ-G400を用いて2x200 bpの条件でシーケンシングを行なった。シーケンシング解析されたDNA断片のデータ(リード)をKbase プラットフォーム(http://kbase.us)で解析した。最初にリードをFASTQ形式でKBase上にアップロードした。シーケンシング解析に用いられたアダプター配列をTrimmomaticアプリケーション(v.0.36)により除去
した。その後、SPAdesアプリケーション(v.3.13.0)を用いて、リードをアセンブルし、コンティグ配列(ドラフトゲノム配列)を得た。Classify Taxonomy of Metagenomic Reads with Kaiju(v.1.7.3)を用いて各微生物叢のkronaデータを得た。
【0054】
<結果>
(高分子試料の海洋分解試験)
表1に各試料および試験条件を示す。
図1に千葉県千葉市および神奈川県横須賀市から採水した海水に浸漬させたPBSAフィルムの重量減少速度を示す。カラギーナンフィルムを接触させたPBSAフィルム(PBSA/C/N)の重量減少速度は、PBSA単独(PBSA)のものの2.0-2.8倍
となった。
【0055】
【0056】
(走査型電子顕微鏡(SEM)による試料の表面形態観察)
海水浸漬前後のPBSAフィルム表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、PBSA/C/NおよびPBSA/Nではその表面が粗くなった。一方、PBSA/C、PBSAでは表面形態に変化は見られなかった(
図2)。
【0057】
(試料表面に形成されたバイオフィルム定量)
各PBSAフィルム表面に付着したバイオフィルム量をクリスタルバイオレット法(Lobelle
et al., Marine pollution bulletin 62.1 (2011): 197-200.)で定量した(
図3)。PBSA/C/NおよびPBSA/N表面のバイオフィルム量は、PBSAの3.71および3.64倍であった。海水への塩化アンモニウムの添加は、PBSAフィルム表面の微生物量を増加させる効果があることがわかった。
【0058】
(微生物叢の解析)
PBSA/C/N、PBSA/N、カラギーナンおよび海水の微生物叢を解析した(
図4)。千葉市から
採取した海水に浸漬させたPBSA/C/Nおよびカラギーナン表面には、Microbulbiferaceae科と近縁な微生物種(図中、矢印を付して表示した領域)が集積することがわかった。横須賀市から採取した海水に浸漬させたPBSA/C/N表面にはAlteromonasaceae科と近縁な微生物種(図中、矢印を付して表示した領域)が集積することがわかった。これらはGammaproteobacteria綱の細菌であり、PBSA分解酵素遺伝子とカラギーナン分解酵素遺伝子の双方を
保持していた。このことからカラギーナンにはPBSA分解微生物を集積させる効果があることがわかった。
【0059】
<実施例2>
実施例1に対して、窒素源濃度および使用するゲルを変更した条件で高分子試料の海洋
分解性を評価した。すなわち、下記方法に基づき、高分子試料の海洋分解試験を実施した。
【0060】
<材料および方法>
ポリ(ブチレンサクシネート-co-アジペート)(PBSA)は、三菱ケミカル株式会社から提供された。
四国の海水(N34°01’24.3” R133°34’15.1”)を用いてPBSAについて以下の手順でフィルム分解試験を行った。3 Lのシーラケースに海水(四国)ベースの培地(表2)を入れた。窒素源は、0.5 g/L、0.5×5 g/L、0.5×10 g/Lとした。ポリマーはPBSAを用い、1 cm
× 1 cmのフィルムを溶融プレス法によって作製した。フィルムは、メタノールで洗浄し
、再度超純水で洗浄した後凍結乾燥し、重量を測定後ステンレスメッシュに包んで培地へ入れた。
【0061】
用意したフィルムへの添加物質としてアルギン酸、κ-カラギーナンを用いた(n=5)。アルギン酸(表3)、κ-カラギーナン(表4)についてはゲルを作製し、凍結乾燥させた。サン
プル(高分子フィルム(15 mg)と乾燥させたゲル(5 mg))は、ステンレスメッシュで包み
、培地中にナイロン製のテグスで吊るした。30℃で2ヶ月間静置し、1ヶ月ごとに回収した。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
<結果>
四国の海水を用いて、窒素源を1倍、5倍、10倍に変えてそれぞれ海水に加えて行ったPBSAフィルム分解試験について、1ヶ月および2ヶ月後に回収したフィルム分解速度を
図5および6に示した。
【0066】
図5より、PBSAフィルムのみの結果と比較して、窒素源を10倍にした海水に入れたPBSAフィルムにカラギーナンを添加したサンプルにおいて、分解速度が最も大きくなることが
わかった。また、
図6では、PBSAフィルムのみの結果と比較して、窒素源を5倍にした海
水に入れたPBSAフィルムにカラギーナンを添加したサンプルにおいて、分解速度が最も大きくなることがわかった。今回の実験では、1ヶ月目では窒素源が10倍の海水に仕掛けたPBSAフィルムの分解において、カラギーナンの効果が示唆され、2ヶ月目では窒素源が5倍
の海水に仕掛けたPBSAフィルムの分解において、カラギーナンが分解の促進に関与している可能性が推測された。
本発明の方法によれば、海水中に窒素含有化合物を添加し、生分解性樹脂表面にカラギーナンフィルムを積層すること等により、生分解性樹脂と、カラギーナンおよび窒素含有化合物を接触させることで、生分解性樹脂分解微生物が生分解性樹脂表面に集積し、生分解性樹脂の海洋生分解性が向上する。