(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030690
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】高強度高延性純Zn熱処理材の製造方法及びこの方法により製造した高強度高延性純Zn熱処理材
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240229BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20240229BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240229BHJP
【FI】
B22F1/00 R
B22F3/14 101B
B22F1/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133737
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(71)【出願人】
【識別番号】512292522
【氏名又は名称】カミテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167265
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 豊明
(72)【発明者】
【氏名】峯田 才寛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕之
(72)【発明者】
【氏名】上手 康弘
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018BB04
4K018BB05
4K018CA02
4K018EA21
4K018KA62
(57)【要約】
【課題】高強度高延性純Zn熱処理材の製造方法及び高強度純Zn焼結体を提供する。
【解決手段】アークプラズマ強制蒸発法により製造した平均粒子径100~1000nmの超微細純Zn粉末を放電プラズマにより焼結して焼結体を製造する第1工程と、前記焼結体を250~400℃に加熱する熱処理を施して、降伏強度が70MPa以上、引張伸びが20%以上である高強度高延性純Zn熱処理材を製造する第2工程とからなることを特徴とする高強度高延性純Zn熱処理材の製造方法、およびこの方法により製造した降伏強度が70MPa以上、引張伸びが20%以上である高強度高延性純Zn熱処理材。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アークプラズマ強制蒸発法により製造した平均粒子径100~1000nmの超微細純Zn粉末を、放電プラズマにより焼結して焼結体を製造する第1工程と、
前記焼結体を250~400℃に加熱する熱処理を施して、降伏強度が70MPa以上、引張伸びが20%以上である高強度高延性純Zn熱処理材を製造する第2工程とからなることを特徴とする高強度高延性純Zn熱処理材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により製造した高強度高延性純Zn熱処理材であって、降伏強度が70MPa以上、引張伸びが20%以上であることを特徴とする高強度高延性純Zn熱処理材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い降伏強度と高い引張伸びを有する高強度高延性純Zn熱処理材の製造方法及びこの方法により製造した高強度高延性純Zn熱処理材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Zn(亜鉛)は生体親和性に優れており、生体材料としての応用が記載されているが、降伏強度などの力学特性が劣るためにその需要が広まっていない。従来の技術では合金化によりZnの高強度化がなされてきたが(特許文献1)、生体材料としてのZnの応用を考えた際には生体に毒性を有する合金元素が含まれていないことが必要となる。そのためZnは合金化せず純金属として使用することが望ましく、純Znのまま力学特性を向上させる必要がある。
【0003】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6560192号公報
【特許文献2】特開2021-155838号公報
【0005】
【非特許文献1】Z. Liu, et al., Journal of Alloys and Compounds, 687 (2016) 885-892.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のような従来技術の問題点に鑑み、本発明は、高い降伏強度と高い引張伸びを有する高強度高延性純Zn熱処理材の製造方法及びこの方法により製造した高強度高延性純Zn熱処理材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明に係る高強度高延性純Zn熱処理材の製造方法は、アークプラズマ強制蒸発法により製造した平均粒子径100~1000nmの超微細純Zn粉末を放電プラズマにより焼結して焼結体を製造する第1工程と、
前記焼結体を250~400℃に加熱する熱処理を施して、降伏強度が70MPa以上、引張伸びが20%以上である高強度高延性純Zn熱処理材を製造する第2工程とからなることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明に係る高強度高延性純Zn熱処理材は、上記した方法により製造された高強度高延性純Zn熱処理材であって、降伏強度が70MPa以上、引張伸びが20%以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る高強度高延性純Zn熱処理材の製造方法は、第1工程において、アークプラズマ強制蒸発法により製造した平均粒子径100~1000nmの超微細純Zn粉末を放電プラズマにより焼結して焼結体を製造するので、降伏強度の高い焼結体を製造することができる。そして、第2工程において、この焼結体を250~400℃に加熱する熱処理を施すので、強度と延性のバランスのとれた高強度高延性純Zn熱処理材を製造することができる。
【0010】
また、本発明に係る高強度高延性純Zn熱処理材は、上記した方法により製造された高強度高延性純Zn熱処理材であるので、降伏強度が70MPa以上、引張伸びが20%以上である高強度高延性純Zn熱処理材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】焼結原料である超微細Zn粉末のSEM写真である。
【
図2】鋳造材と、焼結後に各温度で熱処理した焼結体の応力―歪曲線である。
【
図3】
図1に示す鋳造材と各焼結材の降伏強度と引張伸びを示す図である。
【
図4】焼結材と焼結+熱処理材の電子後方散乱回折法による組織観察結果を示す図である。
【
図5】放電プラズマ装置の構造を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
図5には、本発明の実施に用いた放電プラズマ装置を示す。この装置ではアークプラズマ強制蒸発法より平均粒子径100~1000nmの超微細純Zn粉末を製造することができる。また、この装置を用いて、製造した超微細純Zn粉末を加圧しつつ加熱することにより、焼結体を製造することができる。さらにこの焼結体に250~400℃で熱処理を施すこともできる。
【0013】
以下に、本発明の限定理由について説明する。
アークプラズマ強制蒸発法により製造した超微細純Zn粉末の平均粒子径は、100~1000nm(0.1~1μm)とする。100nm未満のものは製造が困難であり、1000nm超では強度の高い焼結体を得るのが困難となるからである。
【0014】
焼結体の熱処理のおける加熱温度は、250~400℃とする。250℃未満では十分な延性の向上を図ることができないからであり、400℃超では降伏強度の低下が大きくなるからである。なお、焼結をする際の加熱温度(焼結温度)は200~400℃とするが望ましい。焼結温度が200℃未満では超微細Zn粒子を十分接合させるのが困難であるからであり、400℃超では焼結後の粒子径が粗大化して強度が低下するからである。
【0015】
焼結後に加熱した熱処理材の降伏強度(0.2%耐力)は70MPa以上、引張伸びは20%以上とする。降伏強度が70MPa未満では所望の強度を達成することができないからであり、また、引張伸びが20%未満では十分な延性を達成することができないからである。
【0016】
以下に、本発明の実施例について説明する。
超微細Zn粉末を製造する原料として工業用Zn(純度4N)を用いた。そして、放電プラズマ装置のチャンバー内をAr-50%H2雰囲気とし 放電電流を30~60Aとして超微細Zn粉末を製造した。製造した超微細Zn粉末のSEM写真の一例を示す。放電電流40Aのものの平均粒子径は約560nmであり。放電電流50Aのものの平均粒子径は約920nmであった。
【0017】
本発明においては平均粒子径約250nmの超微細Zn粉末を放電プラズマ焼結法により焼結した、焼結温度は377℃、焼結時間は10分とした。さらに、作製した焼結材に対し、277℃、327℃、377℃で1時間の熱処理を施した。得られた熱処理材の引張試験結果を
図2に示す。比較のため
図2にはZn鋳造材の引張試験結果も併せて示す。また、各材料の力学特性(強度―延性バランス)を
図3に示す。本発明に係る熱処理材はいずれのものも降伏強度が70MPa以上、引張伸びが20%以上であり、Zn鋳造材に比べて高い降伏強度と引張伸びを有していることが分かる。以上のように、Zn鋳造材に比べて非常に優れた力学特性を有する高強度高延性Zn熱処理材を製造することができた。
【0018】
図4には電子後方散乱回折(EBSD)法による焼結材と焼結+熱処理材の組織観察結果を示す。白黒写真ではわかりにくいが、元のカラー写真において熱処理により材料内部に蓄積されたひずみが緩和されているのを確認した。
【0019】
以上に述べたように、本発明方法により製造した高強度高延性純Zn熱処理材は、高い降伏強度と高い延性を有するものとして、工業的価値大なものである。