(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003070
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク及び反射型マスク、並びに半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20231228BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
G03F1/24
C23C14/06 N
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023187512
(22)【出願日】2023-11-01
(62)【分割の表示】P 2019161217の分割
【原出願日】2019-09-04
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏太
(72)【発明者】
【氏名】茶園 佳代
(57)【要約】
【課題】 反射型マスクブランク等の薄膜付き基板の薄膜に不純物が含まれていても、反射型マスクの性能に対して、少なくとも悪影響を与えない反射型マスクを製造するための薄膜付き基板を提供する。
【解決手段】 基板と、該基板の主表面の上に設けられた少なくとも1つの薄膜とを有する薄膜付き基板であって、前記薄膜は、前記薄膜を構成する母材料と、前記母材料以外の微量材料とを含み、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によって、前記薄膜から放出される二次イオン強度を測定したときの前記母材料の二次イオン強度(I
1)に対する薄膜中の前記微量材料の少なくとも一つの二次イオン強度(I
2)の比率(I
2/I
1)が、0より大きく0.300以下であることを特徴とする薄膜付き基板である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板の主表面の上に設けられた少なくとも1つの薄膜とを有する薄膜付き基板であって、
前記薄膜は、前記薄膜を構成する母材料と、前記母材料以外の微量材料とを含み、
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によって、前記薄膜から放出される二次イオン強度を測定したときの前記母材料の二次イオン強度(I1)に対する薄膜中の前記微量材料の少なくとも一つの二次イオン強度(I2)の比率(I2/I1)が、0より大きく0.300以下であることを特徴とする薄膜付き基板。
【請求項2】
前記微量材料は、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)から選択される少なくとも1つの元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の薄膜付き基板。
【請求項3】
前記薄膜が、裏面導電膜、多層反射膜、保護膜、吸収体膜及びエッチングマスク膜から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜付き基板。
【請求項4】
前記薄膜は多層反射膜であり、前記母材料はモリブデン(Mo)であることを特徴とする請求項3に記載の薄膜付き基板。
【請求項5】
前記薄膜は保護膜であり、前記母材料はルテニウム(Ru)であることを特徴とする請求項3に記載の薄膜付き基板。
【請求項6】
前記薄膜は多層反射膜及び保護膜から選択される少なくとも1つであり、
請求項1乃至5の何れか1項に記載の薄膜付き基板の上に吸収体膜を有することを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項7】
請求項6に記載の反射型マスクブランクにおける前記吸収体膜がパターニングされた吸収体パターンを有することを特徴とする反射型マスク。
【請求項8】
EUV光を発する露光光源を有する露光装置に、請求項7に記載の反射型マスクをセットし、被転写基板上に形成されているレジスト膜に転写パターンを転写する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造などに使用される反射型マスク、並びに反射型マスクを製造するために用いられる多層反射膜付き基板及び反射型マスクブランクに関する。また、本発明は、上記反射型マスクを用いた半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業において、半導体装置の高集積化に伴い、従来の紫外光を用いたフォトリソグラフィ法の転写限界を上回る微細パターンが必要とされてきている。このような微細パターン形成を可能とするため、極紫外(Extreme Ultra Violet:以下、「EUV」と呼ぶ。)光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィが有望視されている。ここで、EUV光とは、軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2~100nm程度の光のことである。EUVリソグラフィにおいて用いられる転写用マスクとして反射型マスクが提案されている。反射型マスクは、基板の上に形成された露光光を反射するための多層反射膜と、多層反射膜の上に形成され、露光光を吸収するためのパターン状の吸収体膜である吸収体膜パターンとを有する。
【0003】
反射型マスクは、基板と、当該基板上に形成された多層反射膜と、多層反射膜上に形成された吸収体膜とを有する反射型マスクブランクから製造される。吸収体膜パターンは、フォトリソグラフィ法等により吸収体膜のパターンを形成することによって製造される。
【0004】
反射型マスクブランクを製造するための多層反射膜付き基板は、近年のパターンの微細化に伴う欠陥品質の向上や、転写用マスクに求められる光学特性の観点から、より高い平滑性を有することが要求されている。多層反射膜は、マスクブランク用基板の表面上に高屈折率層及び低屈折率層を交互に積層することで形成される。高屈折率層及び低屈折率層は、一般に、イオンビームスパッタリング等のスパッタリング法により形成されている。
【0005】
多層反射膜付き基板を製造する技術として、特許文献1には、基板上にEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの多層反射膜を成膜するに際し、基板をその中心軸を中心に回転させつつ、基板の法線と基板に入射するスパッタ粒子とがなす角度αの絶対値を35度≦α≦80度に保持してイオンビームスパッタリングを実施することが記載されている。
【0006】
特許文献2には、基板上に物質を堆積させるための堆積チャンバの堆積チャンバシールドをコーティングするための方法が記載されている。具体的には、特許文献2には、a)準備済み表面を有する堆積シールドを提供するステップと、b)略100ミクロンから略250ミクロンの厚さを有するステンレス鋼コーティングで準備済みのシールド表面をコーティングするステップと、c)コーティングされた表面をクリーニングして、ゆるい粒子を除去して、略300マイクロインチから略800マイクロインチの間の表面粗度と、略1ミクロンから略5ミクロンの間のサイズの粒子の略0.1個/mm2未満の表面粒子密度とを有し、略1ミクロン未満のサイズの粒子を有さないステンレス鋼でコーティングされたシールドを提供するステップとを備えた方法が記載されている。
【0007】
特許文献3には、EUVリソグラフィ(EUVL)用反射層付基板の製造方法が記載されている。具体的には、特許文献3に記載の製造方法は、基板上に、モリブデン(Mo)膜とケイ素(Si)膜とを交互に成膜させて、Mo/Si多層反射膜を形成する工程、および、該多層反射膜上に保護層としてルテニウム(Ru)膜またはRu化合物膜を成膜する工程を有することが記載されている。さらに特許文献3には、前記Si膜の成膜に使用したスパッタリングターゲット(Siターゲット)のエロージョン領域に基づいて、前記Ru膜またはRu化合物膜の成膜に使用するスパッタリングターゲット(RuターゲットまたはRu化合物ターゲット)のエロージョン領域および非エロージョン領域を予測し、前記RuターゲットまたはRu化合物ターゲットの前記予測される非エロージョン領域に粗面化処理を施してから、前記Ru膜またはRu化合物膜の成膜を実施することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2009-510711号公報
【特許文献2】特開2013-174012号公報
【特許文献3】特開2012-129520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
反射型マスクは、少なくとも、基板、露光光を反射するための多層反射膜、露光光を吸収するための吸収体パターンを有する。反射型マスクは、反射型マスクブランクの吸収体膜をパターニングして、吸収体パターンを形成することにより製造される。反射型マスクブランクは、基板、多層反射膜及び吸収体膜を有し、必要に応じて、更に裏面導電膜、保護膜及びエッチングマスク膜などの薄膜を有することができる。なお、基板の主表面の上に、多層反射膜、吸収体膜、裏面導電膜、保護膜及びエッチングマスク膜などから選択される少なくとも1つの薄膜を形成したものを、薄膜付き基板という。
【0010】
基板の主表面の上に、多層反射膜等の薄膜を成膜するために、一般的にスパッタリング法が用いられる。スパッタリング法による成膜装置は、真空成膜装置である。すなわち、スパッタリング法による成膜は、内部を真空にした真空チャンバー内で行われる。真空成膜装置では、真空チャンバー内の基板以外の部分に膜の付着が起こることは避けられない。基板以外の部分に付着した膜が剥がれて基板に付着すると、欠陥発生の原因となる。付着した膜の剥がれにより、成膜した薄膜に欠陥が発生することを防ぐために、真空チャンバー内にシールドを配置することができる。シールドの表面に付着した膜が剥がれることを防ぐため、シールドの表面をブラストしたり、シールドの表面に溶射皮膜を形成することなどが行われている。ブラスト用粒子の材料及び溶射皮膜の材料は、アルミナ、チタニア、及びイットリアなど材料が選択されることが多い。
【0011】
一方、上述のようにシールドの表面を処理したにも関わらず、基板に成膜した薄膜には、シールドなどのチャンバー内部の材料を由来とする材料(微量材料)が含まれることがある。その理由は、薄膜を成膜する際のプラズマ、イオンビームなどにシールドなどの構成部材も曝されるためであると考えられる。薄膜に含まれる微量材料の含有量は、理想的にはゼロにすることが好ましい。しかしながら、上述の理由により、真空成膜装置のチャンバー内部の材料を由来とする微量材料の、薄膜中の含有量をゼロにすることは、コスト面や生産効率を考えると非常に困難である。薄膜に含まれる不純物は、その物質の種類によって反射型マスクブランク及び反射型マスクの特性、多層反射膜などのEUV反射率、エッチング加工時の欠陥の発生、反射型マスクの耐久性などに影響を与える可能性がある。
【0012】
なお、スパッタリング法以外の成膜方法を用いて薄膜を成膜する際にも、上述のように、真空チャンバーを構成する材料に起因する微量の不純物が、反射型マスクブランク及び反射型マスクの薄膜に混入することが考えられる。
【0013】
そこで、本発明は、反射型マスクブランク及び反射型マスクの薄膜に不純物が含まれていても、反射型マスクの性能に対して、少なくとも悪影響を与えない反射型マスクを提供することを目的とする。また、本発明は、上記反射型マスクを製造するための反射型マスクブランク等の薄膜付き基板を提供することを目的とする。さらに本発明は、上記反射型マスクを用いた半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0015】
(構成1)
本発明の構成1は、基板と、該基板の主表面の上に設けられた少なくとも1つの薄膜とを有する薄膜付き基板であって、
前記薄膜は、前記薄膜を構成する母材料と、前記母材料以外の微量材料とを含み、
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によって、前記薄膜から放出される二次イオン強度を測定したときの前記母材料の二次イオン強度(I1)に対する薄膜中の前記微量材料の少なくとも一つの二次イオン強度(I2)の比率(I2/I1)が、0より大きく0.300以下であることを特徴とする薄膜付き基板である。
【0016】
(構成2)
本発明の構成2は、前記微量材料は、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)から選択される少なくとも1つの元素を含むことを特徴とする構成1の薄膜付き基板である。
【0017】
(構成3)
本発明の構成3は、前記薄膜が、裏面導電膜、多層反射膜、保護膜、吸収体膜及びエッチングマスク膜から選択される少なくとも1つであることを特徴とする構成1又は2の薄膜付き基板である。
【0018】
(構成4)
本発明の構成4は、前記薄膜は多層反射膜であり、前記母材料はモリブデン(Mo)であることを特徴とする構成3の薄膜付き基板である。
【0019】
(構成5)
本発明の構成5は、前記薄膜は保護膜であり、前記母材料はルテニウム(Ru)であることを特徴とする構成3の薄膜付き基板である。
【0020】
(構成6)
本発明の構成6は、前記薄膜は多層反射膜及び保護膜から選択される少なくとも1つであり、構成1乃至5の何れかの薄膜付き基板の上に吸収体膜を有することを特徴とする反射型マスクブランクである。
【0021】
(構成7)
本発明の構成7は、構成6の反射型マスクブランクにおける前記吸収体膜がパターニングされた吸収体パターンを有することを特徴とする反射型マスクである。
【0022】
(構成8)
本発明の構成8は、EUV光を発する露光光源を有する露光装置に、構成7の反射型マスクをセットし、被転写基板上に形成されているレジスト膜に転写パターンを転写する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、反射型マスクの薄膜に不純物が含まれていても、反射型マスクの性能に対して、少なくとも悪影響を与えない反射型マスクを提供することができる。また、本発明により、上記反射型マスクを製造するための反射型マスクブランク等の薄膜付き基板を提供することができる。さらに本発明は、上記反射型マスクを用いた半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施形態の多層反射膜付き基板(薄膜付き基板)の一例の断面模式図である。
【
図2】本実施形態の多層反射膜付き基板(薄膜付き基板)の別の一例の断面模式図である。
【
図3】本実施形態の裏面導電膜付き基板(薄膜付き基板)の一例の断面模式図である。
【
図4】本実施形態の多層反射膜付き基板(薄膜付き基板)の更に別の一例の断面模式図である。
【
図5】本実施形態の反射型マスクブランク(薄膜付き基板)の一例の断面模式図である。
【
図6】本実施形態の反射型マスクブランク(薄膜付き基板)の別の一例の断面模式図である。
【
図7】本実施形態の反射型マスクの製造方法を断面模式図にて示した工程図である。
【
図8】イオンビームスパッタリング装置の内部構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体的に説明するための形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0026】
本実施形態は、マスクブランク用基板(単に、「基板」ともいう。)の二つの主表面のうち少なくとも一つの主表面の上に、薄膜を備えた薄膜付き基板である。本実施形態の薄膜付き基板に含まれる薄膜は、以下で説明するような所定の材料(母材料及び微量材料)を含む。本明細書では、本実施形態に用いられる、所定の材料を含む薄膜のことを、「所定の薄膜」という場合がある。
【0027】
図1は、本実施形態の薄膜付き基板120の一例である多層反射膜付き基板110の一例を示す模式図である。
図1に示す多層反射膜付き基板110は、多層反射膜5を備える。
図1に示す例では、多層反射膜付き基板110の多層反射膜5が、所定の薄膜である。
【0028】
図2は、本実施形態の薄膜付き基板120の別の一例である多層反射膜付き基板110の一例を示す模式図である。
図2に示す多層反射膜付き基板110は、多層反射膜5及び保護膜6を備える。
図1に示す例では、多層反射膜付き基板110の多層反射膜5及び/又は保護膜6が、所定の薄膜である。
【0029】
図3は、本実施形態の薄膜付き基板120(裏面導電膜付き基板)の一例を示す模式図である。
図3に示す薄膜付き基板120は、裏面導電膜2を備える。
図3に示す例では、薄膜付き基板120の裏面導電膜2が、所定の薄膜である。
【0030】
図4は、本実施形態の薄膜付き基板120の一例である多層反射膜付き基板110の更に別の一例を示す模式図である。
図4に示す多層反射膜付き基板110は、裏面導電膜2、多層反射膜5及び保護膜6を備える。
図4に示す例では、裏面導電膜2、多層反射膜5及び保護膜6の少なくとも1つが、所定の薄膜である。
【0031】
図5は、本実施形態の薄膜付き基板120の一例である反射型マスクブランク100の一例を示す模式図である。
図5に示す反射型マスクブランク100は、裏面導電膜2、多層反射膜5、保護膜6及び吸収体膜7を備える。
図5に示す例では、裏面導電膜2、多層反射膜5、保護膜6及び吸収体膜7の少なくとも1つが、所定の薄膜である。
【0032】
図6は、本実施形態の薄膜付き基板120の一例である反射型マスクブランク100の別の一例を示す模式図である。
図6に示す反射型マスクブランク100は、裏面導電膜2、多層反射膜5、保護膜6、吸収体膜7及びエッチングマスク膜9を備える。
図6に示す例では、裏面導電膜2、多層反射膜5、保護膜6、吸収体膜7及びエッチングマスク膜9の少なくとも1つが、所定の薄膜である。
【0033】
本明細書において、「多層反射膜付き基板110」とは、所定の基板1の上に多層反射膜5が形成されたものをいう。
図1及び
図2に、多層反射膜付き基板110の断面模式図の一例を示す。なお、「多層反射膜付き基板110」は、多層反射膜5以外の薄膜、例えば保護膜6及び/又は裏面導電膜2が形成されたものを含む。
【0034】
本明細書において、「反射型マスクブランク100」とは、多層反射膜付き基板110の多層反射膜5の上に吸収体膜7が形成されたものをいう。なお、「反射型マスクブランク100」は、エッチングマスク膜9及びレジスト膜8等の、さらなる薄膜が形成された構造を含む(
図6及び
図7(b)参照)。
【0035】
本明細書において、マスクブランク用基板1の主表面のうち、裏面導電膜2が形成される主表面のことを、「裏側主表面」又は「第2主表面」という場合がある。また、本明細書において、裏面導電膜付き基板の裏面導電膜2が形成されていない主表面のことを「表側主表面」(又は「第1主表面」)という場合がある。マスクブランク用基板1の表側主表面の上には、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜5が形成される。
【0036】
本明細書において、「マスクブランク用基板1の主表面の上に、所定の薄膜を備える(有する)」とは、所定の薄膜が、マスクブランク用基板1の主表面に接して配置されることを意味する場合の他、マスクブランク用基板1と、所定の薄膜との間に他の膜を有することを意味する場合も含む。所定の薄膜以外の膜についても同様である。例えば「膜Aの上に膜Bを有する」とは、膜Aと膜Bとが直接、接するように配置されていることを意味する他、膜Aと膜Bとの間に他の膜を有する場合も含む。また、本明細書において、例えば「膜Aが膜Bの表面に接して配置される」とは、膜Aと膜Bとの間に他の膜を介さずに、膜Aと膜Bとが直接、接するように配置されていることを意味する。
【0037】
次に、マスクブランク用基板1の表面形態、及び反射型マスクブランク100等を構成する薄膜の表面の表面形態を示すパラメーターである表面粗さ(Rms)について説明する。
【0038】
代表的な表面粗さの指標であるRms(Root means square)は、二乗平均平方根粗さであり、平均線から測定曲線までの偏差の二乗を平均した値の平方根である。Rmsは下式(1)で表される。
【0039】
【数1】
式(1)において、lは基準長さであり、Zは平均線から測定曲線までの高さである。
【0040】
Rmsは、従来からマスクブランク用基板1の表面粗さの管理に用いられており、表面粗さを数値で把握できる。
【0041】
[薄膜付き基板120]
次に、本実施形態の薄膜付き基板120、及び所定の薄膜について説明する。本実施形態の薄膜付き基板120は、基板1の二つの主表面のうち、少なくとも一つの主表面の上に、所定の薄膜を備える。
【0042】
図1から
図6に、本実施形態の薄膜付き基板120の例を示す。上述のように、
図1及び2に示す薄膜付き基板120のことを、多層反射膜付き基板110ともいう。また、
図3に示す薄膜付き基板120のことを、裏面導電膜付き基板ともいう。また、
図5及び
図6に示す薄膜付き基板120のことを、反射型マスクブランク100ともいう。
【0043】
本実施形態の薄膜付き基板120は、薄膜付き基板120に形成される任意の薄膜のうち、いずれか1つの薄膜が所定の薄膜である。所定の薄膜は、裏面導電膜2、多層反射膜5、保護膜6、吸収体膜7及びエッチングマスク膜9から選択される少なくとも1つであることが好ましい。また、所定の薄膜は、多層反射膜5及び/又は保護膜6であることがより好ましい。本実施形態では、所定の薄膜が、反射型マスクブランク100を構成する際に通常用いられる薄膜(多層反射膜5及び保護膜6等の薄膜)であることにより、反射型マスク200の性能に対して、悪影響を与えない反射型マスク200を製造することができる。
【0044】
[所定の薄膜]
次に、本実施形態の薄膜付き基板120の所定の薄膜について説明する。本実施形態の薄膜付き基板120に含まれる所定の薄膜は、薄膜を構成する母材料と、母材料以外の微量材料とを含む。
【0045】
本明細書において、「母材料(matrix material)」とは、薄膜を形成する材料のうち、主要な材料であって、薄膜を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS:Time-Of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)によって測定したときに、最も高い信号強度に対応する材料である。なお、TOF-SIMSの信号強度は、他の分析法によって測定した薄膜中の含有量に必ずしも比例するわけではない。例えば、Mo層とSi層とからなるMo/Si多層反射膜5の場合、Mo及びSiの原子比率はX線光電子分光法(XPS)による測定では40原子%及び60原子%程度であるが、Mo/Si多層反射膜5を後述の測定条件のTOF-SIMSにより測定すると、Moの信号強度の方が、Siの信号強度より高く検出される。したがって、本実施形態におけるMo/Si多層反射膜5の母材料は、Moである。なお、上記の説明のような母材料のことを、「薄膜を構成する母材料」という場合がある。
【0046】
本明細書において、「微量材料(small-amount material)」とは、薄膜中に含まれる母材料以外の材料である。より具体的には、母材料以外の材料であって、薄膜中の含有量が、XPSによる測定で3原子%以下の材料(元素)のことを意味することができる。例えば、Mo/Si多層反射膜5の場合、Siの原子比率は60原子%程度なので、Siは、母材料でも微量材料でもないことを意味することができる。
【0047】
従来、薄膜に含まれる不純物は、その薄膜の性能に対して悪影響を及ぼすと考えられていた。そのため、薄膜に含まれる不純物の濃度が、極力低くなるように(理想的にはゼロになるように)、努力されてきた。本発明者らは、薄膜付き基板120の薄膜に含まれる微量材料(不純物)の含有量が所定の範囲以下であれば、その薄膜付き基板120を用いて製造した反射型マスク200の性能に対して悪影響を与えないことを見出した。また、本発明者らは、薄膜付き基板120の薄膜に含まれる微量材料(不純物)が所定の材料であり、その含有量が所定の範囲以下である場合には、薄膜中に微量材料(不純物)が存在しても、反射型マスク200の性能に対して悪影響を与えないか、又は、薄膜中に微量材料(不純物)が存在することにより、反射型マスク200の性能を向上させることができることを見出した。本明細書では、薄膜中に存在しても悪影響を与えないか、又は、存在することにより反射型マスク200の性能を向上させることができる不純物のことを、微量材料ということができる。微量材料の含有量は、極めて少ない場合が多く、感度の高い測定方法により測定する必要がある。具体的には、微量材料の含有量は、次に説明する飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によって決定することができる。
【0048】
本実施形態では、薄膜付き基板120の所定の薄膜の母材料の含有量に対する微量材料の含有量を評価するために、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて測定することができる。具体的には、TOF-SIMSによって、薄膜から放出される二次イオン強度を測定することにより、母材料の二次イオン強度(I1)に対する薄膜中の微量材料の少なくとも一つの二次イオン強度(I2)の比率(I2/I1)を得ることができる。本実施形態では、所定の薄膜の二次イオン強度の比率(I2/I1)が、0より大きいことが好ましく、0.005以上がより好ましい。また、比率(I2/I1)が、0.300以下が好ましく、0.250以下がより好ましく、0.200以下が更に好ましい。
【0049】
所定の薄膜の母材料の二次イオン強度(I1)及び微量材料の少なくとも一つの二次イオン強度(I2)を測定するための、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)による測定条件は、以下に示すようにすることができる。
一次イオン種 :Bi3
++
一次加速電圧 :30kV
一次イオン電流 :3.0nA
一次イオン照射領域:一辺200μmの四角形の内側領域
二次イオン測定範囲:0.5~3000m/z
【0050】
ここで、測定対象の所定の薄膜を、TOF-SIMSにより測定する際には、所定の薄膜の表面を1~2nmイオンエッチングすることにより二次イオン強度を測定することができる。一方、測定対象の所定の薄膜の上に他の膜が積層されている場合は、他の膜をイオンエッチングで除去して所定の薄膜を露出させることによって、所定の薄膜の二次イオン強度を測定することができる。
【0051】
なお、所定の薄膜中の微量材料の含有量は、極めて少ない場合が多い。そのため、TOF-SIMSにより得られる二次イオン強度は、測定条件によってばらつきが生じやすい。TOF-SIMSにより得られる二次イオン強度の比率(I2/I1)を用いる場合には、測定条件によるばらつきを抑制することができる。そのため、TOF-SIMSにより得られる二次イオン強度の比率(I2/I1)を用いることにより、反射型マスク200の性能に対して悪影響を与えないか、又は反射型マスク200の性能を向上させることができる薄膜中の微量材料の存在量を、適切に規定することができる。
【0052】
なお、一般的に、所定の薄膜中の微量材料(不純物)の含有量の下限は、理想的にはゼロであることが好ましい。しかしながら、実際には、スパッタリング法などにより所定の薄膜を成膜する際に、プラズマ、及びイオンビームなどにシールドなどの成膜室内部の構成部材が曝される。そのため、チャンバー内部の材料を由来とする微量材料の、所定の薄膜中の含有量をゼロにすることは、コスト面や生産効率を考えると非常に困難である。そこで、本実施形態では、薄膜中に存在しても悪影響を与えないか、又は、存在することにより反射型マスク200の性能を向上させることができる程度の所定の微量材料を含むこととし、二次イオン強度の比率(I2/I1)の下限を、0より大きい値とした。
【0053】
また、二次イオン強度の比率(I2/I1)が0.300より大きい場合には、薄膜付き基板120の欠陥が増加し、薄膜付き基板120の性能に悪影響を及ぼす可能性がある。例えば、所定の薄膜が多層反射膜及び/又は保護膜であって、二次イオン強度の比率(I2/I1)が0.300より大きい場合には、EUV光の反射率が低下することがあるため、好ましくない。
【0054】
本実施形態の薄膜付き基板120の所定の薄膜の微量材料は、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)から選択される少なくとも1つの元素を含むことが好ましい。
【0055】
イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)及びニオブ(Nb)の波長13.5nmにおける消衰係数kは、比較的低い。したがって、これらの微量材料が、例えば多層反射膜5及び/又は保護膜6に含まれる場合には、多層反射膜5のEUV光に対する反射率への影響が少ない。また、これらの微量材料が所定の薄膜に含まれることにより、所定の薄膜の耐久性向上に寄与する可能性がある。特に、微量材料がイットリウム(Y)である場合には、所定の薄膜のエッチング耐性が高くなるため好ましい。なお、Y、Zr及びNbのような消衰係数kが低い材料を微量材料として用いる場合、微量材料の消衰係数kは0.01未満であることが好ましく、0.005以下であることがより好ましい。
【0056】
また、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)の波長13.5nmにおける消衰係数kは、比較的高い。しかしながら、所定の薄膜に含まれる微量材料の含有量が、上述のように微量(二次イオン強度の比率(I2/I1)が所定値以下)である場合には、反射型マスク200のEUV光に対する反射率への影響が少ない。また、これらの微量材料が含まれることにより、所定の薄膜と、他の薄膜等との界面での応力差が縮小する可能性がある。また、これらの微量材料が含まれる場合には、所定の薄膜の結晶化を阻害する傾向がある。そのため、所定の薄膜が、これらの微量材料を含むことにより、所定の薄膜の結晶構造をアモルファス化しやすくすることができるので、所定の薄膜の表面粗さを小さくすることができる。なお、Al、Ti、Cr、Fe、Ni及びCuのような消衰係数kが高い材料を微量材料として用いる場合、微量材料の消衰係数kは0.01以上であることが好ましい。
【0057】
本実施形態の薄膜付き基板120の所定の薄膜の形成には、イオンビームスパッタリング法、並びにDCスパッタリング法及びRFスパッタリング法などのマグネトロンスパッタリング法などを用いることができる。
図8に、イオンビームスパッタリング装置500の内部構造の模式図の例を示す。本実施形態の所定の薄膜の成膜に用いることのできるイオンビームスパッタリング装置500の一例について、
図8を用いて説明する。
【0058】
図8の模式図に示されるように、本実施形態に用いることのできるイオンビームスパッタリング装置500は、略矩形状の真空チャンバー502を備えている。真空チャンバー502の一方の短手面(
図8の下辺を一辺とする壁面。以下、説明の便宜上、適宜「下側短手面」という。)には、ホルダー取付ロッド504を介して基板ホルダー503が配設されている。基板ホルダー503は、詳細を後述する基板1を保持した状態で自転できるように構成されている。また、基板ホルダー503は、隅部に押えピン518が設けられたトップクランプ517を備えている。基板1は、基板ホルダー503上に配置されてから、基板1の主表面の隅を押えピン518で押える形でトップクランプ517によってクランプされる。トップクランプ517は、基板ホルダー503とともに基板1を保持する機能を有するとともに、基板1側面への膜付着を抑制する機能(後述するシールド519と同様の機能)を有する。トップクランプ517の材料は、基板1を押さえて発塵を抑制する観点から、絶縁性の材料、例えば、樹脂製のものであることが好ましい。さらに、樹脂の中でも、比較的硬度の高い材質が好ましく、例えば、ポリイミド系樹脂が特に好適である。
【0059】
また、真空チャンバー502の他方の短手面(
図8の上辺を一辺とする壁面。以下、適宜「上側短手面」という。)付近には、平面視略矩形状の基台506が、基板ホルダー503に対向するように配設されている。基台506の一方の長辺側(一方の長辺を含む面)には、第一スパッタリングターゲット507が配設され、基台506の他方の長辺側(他方の長辺を含む面)には、第二スパッタリングターゲット508が配設される。第一スパッタリングターゲット507及び第二スパッタリングターゲット508を構成する材料としては、マスクブランクにおける所定の薄膜を成膜するため、金属、合金、非金属又はこれらの化合物を使用することができる。なお、成膜する薄膜が1種類の場合には、第一スパッタリングターゲット507及び第二スパッタリングターゲット508のうち、いずれか一方のみを用いることができる。
【0060】
このイオンビームスパッタリング装置500を使用して、例えば、所定の薄膜として、高屈折率材料と低屈折率材料を交互に積層した多層反射膜5を形成することができる。この場合、第一スパッタリングターゲット507を構成する材料としては、ケイ素(Si)のような高屈折率材料を用いることができる。また、第二スパッタリングターゲット508を構成する材料としては、モリブデン(Mo)のような低屈折率材料を用いることができる。ここでは、第一スパッタリングターゲット507にSi材料を、第二スパッタリングターゲット508にMo材料を用いた場合を例にして、イオンビームスパッタリング装置500を説明する。また、基台506の中心部には回転軸509が配設され、基台506は回転軸509と一体的に回転可能に構成されている。
【0061】
真空チャンバー502の一方の長手面(
図8の左辺を一辺とする壁面。以下、適宜「左側長手面」という)には、真空ポンプ511が配設された排気通路510が接続されている。また、排気通路510には、バルブ(図示せず)が開閉自在に設けられている。
【0062】
真空チャンバー502の他方の長手面(
図8の右辺を一辺とする壁面。以下、適宜「右側長手面」という)には、真空チャンバー502内の圧力を測定するための圧力センサ512、イオン化された粒子を供給するためのイオン源505がそれぞれ配設されている。イオン源505は、プラズマガス供給手段(図示せず)に接続され、このプラズマガス供給手段からプラズマガスのイオン粒子が供給される。多層反射膜5がMo/Si周期多層膜である場合、イオン粒子として、アルゴンイオン、クリプトンイオン又はキセノンイオン等の不活性ガスのイオン粒子を用いることができる。また、イオン源505は、基台506に対向するように配設され、プラズマガス供給手段から供給されるイオン粒子を、基台506のスパッタリングターゲット507又は508のいずれかに供給するように構成されている。
【0063】
また、イオン源505からのイオン粒子を中性化するための電子を供給するために、ニュートラライザー513が配設されている。ニュートラライザー513には、所定のガスのプラズマから電子を引き出すことによる電子供給源(図示せず)が設けられ、イオン源505からスパッタリングターゲット507又は508へ向かうイオン粒子の経路に向けて、電子を照射するように構成されている。なお、ニュートラライザー513によりすべてのイオン粒子が必ずしも中性化されるわけではない。そのため、本明細書では、ニュートラライザー513により一部中性化されたイオン粒子にも、「イオン粒子」の用語を用いることとする。
【0064】
そして、ホルダー取付ロッド504、イオン源505、回転軸509、真空ポンプ511、及び圧力センサ512等の各機器は、制御装置(図示せず)に接続され、この制御装置によって動作が制御されるように構成されている。
【0065】
図8に模式的に示すように、真空チャンバー502には、シールド519が配置される。上述のトップクランプ517と共に、シールド519は、付着した膜の剥がれによる基板1に成膜した薄膜の欠陥発生を防ぐために配置される。所定の薄膜の成膜の際に、シールド519の表面は、イオン化した粒子のビームなどに曝されることになる。そのため、シールド519の表面にある物質はたたき出され、その一部は薄膜に含まれることになる。シールド519の表面に、所定の物質を配置することにより、所定の物質を所定の微量材料として、所定の薄膜の中に含ませることができる。シールド519は、イオン化した粒子のビームなどに曝される部分に配置することができる。そのため、シールド519の表面に所定の微量材料に対応する物質を配置することにより、所定の微量材料を所定の薄膜に含ませることができる。また、真空チャンバー502の中に配置されるシールド519以外の構成部材についても、シールド519と同様に、構成部材の表面にある物質がたたき出され、所定の薄膜に含まれる可能性がある。シールド519により、真空チャンバー502の成膜するための領域の大部分を覆うことにより、シールド519以外の構成部材の影響を避けることができる。そのため、シールド519の表面に配置される所定の微量材料を制御することにより、所定の薄膜に含まれる微量材料の種類及び含有量を制御することができる。
【0066】
シールド519の表面に所定の微量材料に対応する物質を配置するために、シールド519を、所定の微量材料に対応する物質を含む材料で形成することができる。また、シールド519の表面に、微量材料に対応する物質を溶射することにより、微量材料を含む被膜を形成することができる。例えば、イットリウム(Y)が含まれる材料のシールド519としては、SUS314又はSUS316のような真空容器に適したステンレス製材料のシールド519の表面に、イットリア(Y2O3)を溶射することにより、シールド519等の表面にイットリア(Y2O3)の被膜を形成したものを用いることができる。また、シールド519の表面を、微量材料を含む所定のブラスト材により、ブラスト処理することにより、シールド519の表面に所定の微量材料に対応する物質を配置することができる。例えば、SUS314又はSUS316のシールド519の表面を、イットリア(Y2O3)のブラスト材を用いてブラスト処理をすることにより、シールド519の表面にイットリア(Y2O3)を配置させることができる。
【0067】
所定の薄膜の中の微量材料の濃度は、イオン粒子の種類及びエネルギー、成膜の際の圧力、シールド519の表面の所定の微量材料の濃度、イオン化した粒子のビームなどに曝されるシールド519の面積及び形状、並びにシールド519と基板1との相対的位置関係などの成膜条件を変更することにより制御することができる。所定の薄膜の中の微量材料の濃度は、上述のように、TOF-SIMSによる測定によって、母材料の二次イオン強度(I1)に対する微量材料の二次イオン強度(I2)の比率(I2/I1)を用いて評価することができる。
【0068】
以上のような構成を備えたイオンビームスパッタリング装置500を用いた多層反射膜5の形成方法について説明する。
【0069】
まず、真空ポンプ511を作動させて、真空チャンバー502内からガスを、排気通路510を介して排出する。そして、圧力センサ512により計測した真空チャンバー502内の圧力が所定の真空度(形成する膜の特性に影響しない真空度、例えば、10-8Torr(1.33×10-6Pa))に達するまで待つ。
【0070】
次に、薄膜形成用基板である基板1を、ロボットアーム(図示せず)を介して真空チャンバー502内に導入し、基板1の主表面が露出するように基板ホルダー503の開口部に収容する。そして、基板ホルダー503に配置された基板1を、基板1の主表面の隅を押えピン518で押えた形でトップクランプ517によってクランプする。
【0071】
なお、真空チャンバー502に隣接するロボットアーム収容室(図示せず)内も、所定の真空状態に保持されている。そのため、基板1を導入する際にも、真空チャンバー502を上述した真空状態に保持することができる。
【0072】
そして、プラズマガス供給手段からイオン源505を介して、プラズマガス(例えば、クリプトンのプラズマガス)を真空チャンバー502内に導入する。このとき、真空チャンバー502の真空度は、スパッタリングを行うのに好適な10-4~10-2Torr(1.33×10-2~1.33Pa)に保持されるように制御される。
【0073】
そして、イオン源505からイオン化した粒子(例えばKr+粒子)を、基台506に配置された第一スパッタリングターゲット507に供給する。この粒子を第一スパッタリングターゲット507に衝突させて、ターゲット507を構成するSi粒子をその表面から叩きだして(スパッタして)、このSi粒子を基板1の主表面に付着させる。この工程中、ニュートラライザー513を作動させ、イオン化した粒子(Kr+粒子)を中性化する。また、この工程中において、基板ホルダー503のロッド504が所定の回転速度で回転するように、そして、第一スパッタリングターゲット507の傾斜角度が一定範囲内で変動するように、基板ホルダー503のロッド504及び基台506の回転軸509が制御機器によって制御される。これにより、基板1の主表面上において、均一にSi膜を成膜することができる。なお、このときに、シールド519の表面の一部は、イオン化した粒子に曝されることになる。そのため、シールド519の表面にある物質はたたき出され、その一部は微量材料として、Si膜に含まれることになる。
【0074】
Si膜の成膜が完了した後、基台506の回転軸509を略180°回転させて、第二スパッタリングターゲット508を基板1の主表面に対向させる。そして、イオン源505からイオン化した粒子を、基台506に配置された第二スパッタリングターゲット508に供給する。イオン化した粒子により、ターゲット508を構成するMo粒子をその表面から叩きだして(スパッタして)、このMo粒子を基板1の主表面に成膜されたSi膜表面に付着させる。この工程中、ニュートラライザー513を作動させ、イオン化した粒子(例えばKr+粒子)を中性化する。また、上述したSi膜の成膜処理と同様に、基板ホルダー503のロッド504や回転軸509を制御することで、基板1上に成膜されたSi膜上において、均一な厚さでMo膜を成膜することができる。なお、このときも、上述のSi膜と同様に、シールド519の表面の一部は、イオン化した粒子に曝されることになる。そのため、シールド519の表面にある物質はたたき出され、その一部は微量材料として、Mo膜に含まれることになる。そして、これらのSi膜及びMo膜の成膜処理を、所定回数(例えば40から60回)繰り返して行うことにより、Si膜とMo膜とが交互に積層された、露光光であるEUV光に対して所定の反射率を有する多層反射膜5が得られる。
【0075】
上述のようにして、所定の薄膜(例えば多層反射膜5)が所定の微量材料を、所定の含有量の範囲で含むことにより、反射型マスク200の性能に対して、悪影響を与えない多層反射膜5を有する薄膜付き基板120(多層反射膜付き基板110)を得ることができる。
【0076】
上述のように、本実施形態の薄膜付き基板120の所定の薄膜は、裏面導電膜2、多層反射膜5、保護膜6、吸収体膜7及びエッチングマスク膜9から選択される少なくとも1つであることが好ましく、多層反射膜5及び/又は保護膜6であることがより好ましい。これらの薄膜のそれぞれに適した微量材料については、以下の説明の中で述べる。
【0077】
<多層反射膜付き基板110>
本実施形態の薄膜付き基板120の一種である多層反射膜付き基板110を構成する基板1及び各薄膜について説明をする。
【0078】
<<基板1>>
本実施形態の多層反射膜付き基板110における基板1は、EUV露光時の熱による吸収体パターン7a歪みの発生を防止することが必要である。そのため、基板1としては、0±5ppb/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えば、SiO2-TiO2系ガラス、多成分系ガラスセラミックス等を用いることができる。
【0079】
基板1の転写パターン(後述の吸収体膜7がこれを構成する)が形成される側の第1主表面は、少なくともパターン転写精度、及び位置精度を得る観点から、所定の平坦度となるように表面加工される。EUV露光の場合、基板1の転写パターンが形成される側の主表面の132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以下、さらに好ましくは0.03μm以下である。また、吸収体膜7が形成される側と反対側の第2主表面(裏側主表面)は、露光装置にセットするときに静電チャックされる表面である。第2主表面は、132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以下、さらに好ましくは0.03μm以下である。なお、反射型マスクブランク100の第2主表面の平坦度は、142mm×142mmの領域において、平坦度が1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.3μm以下である。
【0080】
また、基板1の表面平滑性の高さも極めて重要な項目である。転写用の吸収体パターン7aが形成される第1主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.15nm以下、より好ましくはRmsで0.10nm以下であることが好ましい。なお、表面平滑性は、原子間力顕微鏡で測定することができる。
【0081】
さらに、基板1は、基板1の上に形成される膜(多層反射膜5など)の膜応力による変形を防止するために、高い剛性を有しているものが好ましい。特に、基板1は、65GPa以上の高いヤング率を有しているものが好ましい。
【0082】
<<下地膜>>
本実施形態の多層反射膜付き基板110は、基板1の表面に接して下地膜を有することができる。下地膜は、基板1と多層反射膜5との間に形成される薄膜である。下地膜を有することにより、電子線によるマスクパターン欠陥検査時のチャージアップを防止するとともに、多層反射膜5の位相欠陥が少なく、高い表面平滑性を得ることができる。
【0083】
下地膜の材料として、ルテニウム又はタンタルを主成分として含む材料が好ましく用いられる。例えば、Ru金属単体、又はTa金属単体でも良いし、Ru又はTaにチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)、及び/若しくはレニウム(Re)等の金属を含有したRu合金又はTa合金であっても良い。下地膜の膜厚は、例えば1nm~10nmの範囲であることが好ましい。
【0084】
本実施形態において、下地膜が所定の薄膜であることができる。すなわち、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によって、下地膜を測定した場合、下地膜から放出される二次イオン強度を測定したときの母材料の二次イオン強度(I1)に対する薄膜中の微量材料の少なくとも一つの二次イオン強度(I2)の比率(I2/I1)が、上述の所定の範囲であることが好ましい。
【0085】
<<多層反射膜5>>
【0086】
本実施形態の多層反射膜付き基板110(薄膜付き基板120)は、多層反射膜5を含む。多層反射膜5は、反射型マスク200において、EUV光を反射する機能を付与するものである。多層反射膜5は、屈折率の異なる元素を主成分とする各層が周期的に積層された多層膜である。多層反射膜5を含む多層反射膜付き基板110は、本実施形態の薄膜付き基板120の1種である。本実施形態において、多層反射膜5が所定の薄膜であることが好ましい。
【0087】
一般的には、多層反射膜5として、高屈折率材料である軽元素又はその化合物の薄膜(高屈折率層)と、低屈折率材料である重元素又はその化合物の薄膜(低屈折率層)とが交互に40から60周期程度積層された多層膜が用いられる。
【0088】
多層反射膜5として用いられる多層膜は、基板1側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層しても良いし、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層しても良い。なお、多層反射膜5の最表面の層、すなわち、基板1側と反対側の多層反射膜5の表面層は、高屈折率層とすることが好ましい。上述の多層膜において、基板1側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は、最上層が低屈折率層となる。この場合、低屈折率層が多層反射膜5の最表面を構成すると容易に酸化されてしまい反射型マスク200の反射率が減少する。そのため、最上層の低屈折率層上に高屈折率層をさらに形成して多層反射膜5とすることが好ましい。一方、上述の多層膜において、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は、最上層が高屈折率層となる。したがって、この場合には、さらなる高屈折率層を形成する必要はない。
【0089】
高屈折率層としては、ケイ素(Si)を含む層を用いることができる。Siを含む材料としては、Si単体の他に、Siに、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)及び/又は水素(H)を含むSi化合物を用いることができる。Siを含む高屈折率層を用いることによって、EUV光の反射率に優れた反射型マスク200が得られる。また、低屈折率層としては、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、及び白金(Pt)から選ばれる金属単体、又はこれらの合金を用いることができる。また、これらの金属単体又は合金に、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)及び/又は水素(H)を添加してしてもよい。本実施形態の多層反射膜付き基板110においては、低屈折率層がモリブデン(Mo)層であり、高屈折率層がケイ素(Si)層であることが好ましい。例えば波長13nmから14nmのEUV光を反射するための多層反射膜5としては、Mo層とSi層とを交互に40から60周期程度積層したMo/Si周期積層膜が好ましく用いられる。なお、多層反射膜5の最上層である高屈折率層をケイ素(Si)で形成し、最上層(Si)と保護膜6との間に、ケイ素と酸素とを含むケイ素酸化物層を形成することができる。この構造の場合には、マスク洗浄耐性を向上させることができる。
【0090】
多層反射膜5の単独での反射率は通常65%以上であり、上限は通常73%である。なお、多層反射膜5の各構成層の膜厚及び周期は、露光波長により適宜選択することができる。具体的には、多層反射膜5の各構成層の膜厚及び周期は、ブラッグ反射の法則を満たすように選択することができる。多層反射膜5において、高屈折率層及び低屈折率層はそれぞれ複数存在するが、高屈折率層同士の膜厚、又は低屈折率層同士の膜厚は、必ずしも同じでなくても良い。また、多層反射膜5の最表面のSi層の膜厚は、反射率を低下させない範囲で調整することができる。最表面のSi(高屈折率層)の膜厚は、3nmから10nmとすることができる。
【0091】
本実施形態において、多層反射膜付き基板110の多層反射膜5が、所定の薄膜であることが好ましい。すなわち、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によって、多層反射膜5を測定した場合、多層反射膜5から放出される二次イオン強度を測定したときの母材料の二次イオン強度(I1)に対する薄膜中の微量材料の少なくとも一つの二次イオン強度(I2)の比率(I2/I1)が、上述の所定の範囲であることが好ましい。
【0092】
多層反射膜5が所定の薄膜である場合、母材料はモリブデン(Mo)であることができる。
【0093】
上述のように、本実施形態の多層反射膜付き基板110の多層反射膜5は、モリブデン(Mo)層の低屈折率層及びケイ素(Si)層の高屈折率層を有するMo/Si多層反射膜5であることが好ましい。このMo/Si多層反射膜5をTOF-SIMSにより測定すると、Moの信号強度の方が、Siの信号強度より高い。したがって、Moは、Mo/Si多層反射膜5を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によって測定したときに、最も高い信号強度に対応する材料である。したがって、母材料はモリブデン(Mo)であることができる。
【0094】
本実施形態の多層反射膜付き基板110(薄膜付き基板120)の多層反射膜5に含まれる微量材料は、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)から選択される少なくとも1つの元素を含むことが好ましい。
【0095】
イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)及びニオブ(Nb)の波長13.5nmにおける消衰係数kは、比較的低い。したがって、これらの微量材料が、多層反射膜5に含まれる場合には、多層反射膜5のEUV光に対する反射率への影響が少ない。また、これらの微量材料が多層反射膜5に含まれることにより、多層反射膜5の耐久性向上に寄与する可能性がある。特に、微量材料がイットリウム(Y)である場合には、多層反射膜5のエッチング耐性が高くなるため好ましい。なお、このような消衰係数kが低い材料を微量材料として用いる場合、微量材料の消衰係数kは0.01未満であることが好ましく、0.005以下であることがより好ましい。
【0096】
また、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)の波長13.5nmにおける消衰係数kは、比較的高い。しかしながら、多層反射膜5に含まれる微量材料の含有量が、上述のように微量(二次イオン強度の比率(I2/I1)が所定値以下)である場合には、反射型マスク200のEUV光に対する反射率への影響が少ない。また、これらの微量材料が含まれることにより、多層反射膜5と、他の薄膜等との界面での応力差が縮小する可能性がある。また、多層反射膜5にこれらの微量材料が含まれる場合には、多層反射膜5の結晶化を阻害する傾向がある。そのため、多層反射膜5が、これらの微量材料を含むことにより、多層反射膜5の結晶構造をアモルファス化しやすくすることができるので、多層反射膜5の表面粗さを小さくすることができる。
【0097】
多層反射膜5がMo/Si多層反射膜5であり、微量材料としてイットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)及びニオブ(Nb)から選択される少なくとも1つの元素が含まれる場合、多層反射膜5から放出される二次イオン強度を測定したときの母材料(Mo)の二次イオン強度(I1)に対する薄膜中の微量材料の少なくとも一つの二次イオン強度(I2)の比率(I2/I1)は、0より大きいことが好ましく、0.005以上であることがより好ましく、0.010以上であることが更に好ましい。また、比率(I2/I1)は、0.300以下が好ましく、0.250以下がより好ましい。
【0098】
多層反射膜5がMo/Si多層反射膜5であり、微量材料として、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)から選択される少なくとも1つの元素が含まれる場合、多層反射膜5から放出される二次イオン強度を測定したときの母材料(Mo)の二次イオン強度(I1)に対する薄膜中の微量材料の少なくとも一つの二次イオン強度(I2)の比率(I2/I1)は、0より大きいことが好ましく、0.005以上であることがより好ましい。また、比率(I2/I1)は、0.300以下が好ましく、0.250以下がより好ましい。
【0099】
本実施形態の多層反射膜付き基板110の製造の際には、イオンビームスパッタリング法により、基板1上に多層反射膜5を成膜することができる。上述した
図8に示すようなイオンビームスパッタリング装置500を使用して、高屈折率材料と低屈折率材料を交互に積層した多層反射膜5を形成することができる。この場合、第一スパッタリングターゲット507を構成する材料としては、Si又はSi化合物の高屈折率材料を用いることができる。また、第二スパッタリングターゲット508を構成する材料としては、Mo、Nb、Ru又はRhなどの低屈折率材料を用いることができる。
【0100】
ここでは、第一スパッタリングターゲット507にSi材料を、第二スパッタリングターゲット508にMo材料を用いた場合について説明する。まずSiターゲットを用いて膜厚4nm程度のSi層を基板1の上に成膜する。その後Moターゲットを用いて膜厚3nm程度のMo層を成膜する。このSi層及びMo層を1周期として、40から60周期積層して、多層反射膜5を形成する(最表面の層はSi層とする)。なお、60周期とした場合、40周期より工程数は増えるが、EUV光に対する反射率を高めることができる。
【0101】
図8に模式的に示すように、真空チャンバー502には、シールド519が配置される。例えばY
2O
3、ZrO
2及び/又はNb
2O
5などをシールド519等に用いることにより、多層反射膜5の中に取り込まれる微量材料を、Y、Zr及びNbなどの消衰係数kが比較的低い材料にすることができる。その結果、微量材料が多層反射膜5の中に含まれる場合でも、多層反射膜5のEUV光に対する反射率への影響を少なくすることができる。特に、シールド519等をイットリウム(Y)が含まれる材料、例えばY
2O
3を材料としたものにすることにより、多層反射膜5の中にYが含まれることになる。多層反射膜5の中に微量材料としてイットリウム(Y)が含まれることは、エッチング耐性が高くなるため好ましい。イットリウム(Y)が含まれる材料のシールド519等としては、例えば、SUS314又はSUS316のシールド519の表面に、イットリア(Y
2O
3)を溶射して、シールド519等の表面にイットリア(Y
2O
3)の被膜を形成したものを用いることができる。また、イットリア(Y
2O
3)の粒子を用いてシールド519等の表面をブラスト処理することにより、シールド519の表面に、イットリア(Y
2O
3)を配置することができる。
【0102】
なお、多層反射膜5がCr及びFeなどの消衰係数kが比較的高い微量材料を含む場合には、多層反射膜5の反射率が低下する可能性がある。ステンレス鋼には、Cr及びFeが含まれるので、シールド519がステンレス鋼である場合には、所定の薄膜に微量材料としてCr及びFeが含まれる可能性が高い。そのため、シールド519の表面処理(被膜形成又はブラスト処理)をすることにより、多層反射膜5がCr及びFeなどの微量材料の含有量が高くならないようにすることが好ましい。ただし、Cr及びFeのような消衰係数kが比較的高い微量材料が適量含まれる場合には、多層反射膜5をアモルファス化しやすくなるので、多層反射膜5の表面粗さを小さくすることができる。また、消衰係数kが比較的高い微量材料として、Al及び/又はTiを選択する場合には、Al2O3及び/又はTiO2などをシールド519等に用いることができる。
【0103】
以上のような構成を備えたイオンビームスパッタリング装置500を用いた多層反射膜5の形成方法については、所定の薄膜の形成方法として説明した通りである。
【0104】
上述のように、多層反射膜5のSi膜及びMo膜を成膜する際に、シールド519などの構成部材は、イオン化した粒子のビームなどに曝されることになる。そのため、成膜した多層反射膜5に、シールド519などのチャンバー内部の材料を由来とする材料(微量材料)が含まれないようにすることはコスト面や生産効率を考えると困難である。したがって、多層反射膜5が所定の微量材料を、所定の含有量の範囲で含むよう制御することにより、反射型マスク200の性能に対して、少なくとも悪影響を与えない多層反射膜5を有する多層反射膜付き基板110(薄膜付き基板120)を得ることができる。
【0105】
<<保護膜6>>
本実施形態の多層反射膜付き基板110(薄膜付き基板120)では、
図2及び
図4に示すように、多層反射膜5の上に保護膜6を形成することが好ましい。多層反射膜5の上に保護膜6が形成されていることにより、多層反射膜付き基板110を用いて反射型マスク200を製造する際の多層反射膜5の表面へのダメージを抑制することができる。そのため、得られる反射型マスク200のEUV光に対する反射率特性が良好となる。保護膜6を含む多層反射膜付き基板110は、本実施形態の薄膜付き基板120の1種である。本実施形態において、保護膜6が所定の薄膜であることが好ましい。
【0106】
保護膜6は、後述する反射型マスク200の製造工程におけるドライエッチング及び洗浄から、多層反射膜5を保護するために、多層反射膜5の上に形成される。また、保護膜6は、電子線(EB)を用いたマスクパターンの黒欠陥修正の際の多層反射膜5の保護という機能も兼ね備える。
【0107】
図2及び
図4では、保護膜6が1層の場合を示している。しかしながら、保護膜6を3層以上の積層構造とし、最下層及び最上層を、例えばルテニウム(Ru)を含有する物質からなる層とし、最下層と最上層との間に、Ru以外の金属、若しくは合金を介在させたものすることができる。保護膜6は、例えば、ルテニウム(Ru)を主成分として含む材料により形成される。ルテニウムを主成分として含む材料としては、Ru金属単体、Ruにチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)、レニウム(Re)及び/又はロジウム(Rh)などの金属を含有したRu合金、並びにそれらに窒素を含む材料が挙げられる。この中でも特にTiを含有したRu系材料からなる保護膜6を用いることが好ましい。この場合には、多層反射膜5の構成元素であるケイ素が、多層反射膜5の表面から保護膜6へと拡散するという現象を抑制できる。このため、マスク洗浄時の表面荒れが少なくなり、また、膜はがれも起こしにくくなる。表面荒れの低減は、EUV露光光に対する多層反射膜5の反射率低下防止に直結するので、EUV露光の露光効率改善、スループット向上のために重要である。
【0108】
保護膜6に用いるRu合金のRu含有比率は50原子%以上100原子%未満、好ましくは80原子%以上100原子%未満、より好ましくは95原子%以上100原子%未満である。特に、Ru合金のRu含有比率が95原子%以上100原子%未満の場合には、保護膜6に対する多層反射膜5の構成元素(ケイ素)の拡散を抑えることが可能になる。また、この場合の保護膜6は、EUV光の反射率を十分確保しながら、マスク洗浄耐性、吸収体膜7をエッチング加工した時のエッチングストッパ機能、及び多層反射膜5の経時変化防止の機能を兼ね備えることが可能となる。
【0109】
EUVリソグラフィでは、露光光に対して透明な物質が少ないので、マスクパターン面への異物付着を防止するEUVペリクルが技術的に簡単ではない。このことから、ペリクルを用いないペリクルレス運用が主流となっている。また、EUVリソグラフィでは、EUV露光によって反射型マスク200にカーボン膜が堆積したり酸化膜が成長するといった露光コンタミネーションが起こる。このため、反射型マスク200を半導体装置の製造に使用している段階で、度々洗浄を行って、反射型マスク200上の異物及びコンタミネーションを除去する必要がある。このことから、EUV露光用の反射型マスク200では、光リソグラフィ用の透過型マスクに比べて桁違いのマスク洗浄耐性が要求されている。Tiを含有したRu系材料からなる保護膜6を用いると、硫酸、硫酸過水(SPM)、アンモニア、アンモニア過水(APM)、OHラジカル洗浄水、及び濃度が10ppm以下のオゾン水などの洗浄液に対する洗浄耐性が特に高くなり、マスク洗浄耐性の要求を満たすことが可能となる。
【0110】
保護膜6の膜厚は、保護膜6としての機能を果たすことができる限り特に制限されない。EUV光の反射率の観点から、保護膜6の膜厚は、好ましくは、1.0nmから8.0nm、より好ましくは、1.5nmから6.0nmである。
【0111】
本実施形態において、多層反射膜付き基板110の保護膜6が、所定の薄膜であることが好ましい。すなわち、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によって、保護膜6を測定した場合、保護膜6から放出される二次イオン強度を測定したときの母材料の二次イオン強度(I1)に対する薄膜中の微量材料の少なくとも一つの二次イオン強度(I2)の比率(I2/I1)が、上述の所定の範囲であることが好ましい。
【0112】
保護膜6が、Ru金属単体、又はRuにチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)、レニウム(Re)及び/又はロジウム(Rh)などの金属を含有したRu合金であって、微量材料としてイットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)及びニオブ(Nb)から選択される少なくとも1つの元素が含まれる場合、保護膜6から放出される二次イオン強度を測定したときの母材料(Ru金属単体又はRu合金)の二次イオン強度(I1)に対する薄膜中の微量材料の少なくとも一つの二次イオン強度(I2)の比率(I2/I1)は、0より大きいことが好ましく、0.005以上であることがより好ましく、0.010以上であることが更に好ましい。また、比率(I2/I1)は、0.300以下が好ましく、0.250以下がより好ましい。
【0113】
保護膜6が、Ru金属単体、又はRuにチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)、レニウム(Re)及び/又はロジウム(Rh)などの金属を含有したRu合金であって、微量材料として、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)から選択される少なくとも1つの元素が含まれる場合、保護膜6から放出される二次イオン強度を測定したときの母材料(Ru金属単体又はRu合金)の二次イオン強度(I1)に対する薄膜中の微量材料の少なくとも一つの二次イオン強度(I2)の比率(I2/I1)は、0より大きいことが好ましく、0.005以上であることがより好ましい。また、比率(I2/I1)は、0.300以下が好ましく、0.250以下がより好ましい。
【0114】
上述のように、本実施形態の多層反射膜付き基板110の保護膜6は、ルテニウム(Ru)を主成分として含む材料により形成されることが好ましい。したがって、保護膜6が所定の薄膜である場合、母材料はルテニウム(Ru)であることができる。
【0115】
本実施形態の多層反射膜付き基板110(薄膜付き基板120)の保護膜6に含まれる微量材料は、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)から選択される少なくとも1つの元素を含むことが好ましい。
【0116】
イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)及びニオブ(Nb)の波長13.5nmにおける消衰係数kは、比較的低い。したがって、これらの微量材料が、保護膜6に含まれる場合には、保護膜6の下に形成された多層反射膜5へのEUV光の透過についての影響が少ない。また、これらの微量材料が保護膜6に含まれることにより、保護膜6の耐久性向上に寄与する可能性がある。特に、微量材料がイットリウム(Y)である場合には、保護膜6のエッチング耐性が高くなるため好ましい。なお、このような消衰係数kが低い材料を微量材料として用いる場合、微量材料の消衰係数kは0.01未満であることが好ましく、0.005以下であることがより好ましい。
【0117】
また、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)の波長13.5nmにおける消衰係数kは、比較的高い。しかしながら、保護膜6に含まれる微量材料の含有量が、上述のように微量(二次イオン強度の比率(I2/I1)が所定値以下)である場合には、反射型マスク200のEUV光に対する反射率への影響が少ない。また、これらの微量材料が含まれることにより、保護膜6と、他の薄膜等との界面での応力差が縮小する可能性がある。また、保護膜6にこれらの微量材料が含まれる場合には、保護膜6の結晶化を阻害する傾向がある。そのため、保護膜6が、これらの微量材料を含むことにより、保護膜6の結晶構造をアモルファス化しやすくすることができるので、保護膜6の表面粗さを小さくすることができる。
【0118】
保護膜6の形成方法としては、公知の膜形成方法を特に制限なく採用することができる。具体例としては、保護膜6の形成方法として、スパッタリング法及びイオンビームスパッタリング法が挙げられる。
【0119】
上述の多層反射膜5の成膜と同様に、保護膜6を成膜する際に、成膜装置の中に配置されるシールド519などの構成部材は、イオン化した粒子のビーム又はプラズマなどに曝されることになる。そのため、成膜した保護膜6に、シールド519などのチャンバー内部の材料を由来とする材料(微量材料)が含まれないようにすることはコスト面や生産効率を考えると困難である。したがって、保護膜6が所定の微量材料を、所定の含有量の範囲で含むよう制御することにより、反射型マスク200の性能に対して、悪影響を与えない保護膜6を有する多層反射膜付き基板110(薄膜付き基板120)を得ることができる。そのためには、シールド519などのチャンバー内部に配置される構成部材の材料が、微量材料に相当する材料であることが好ましい。
【0120】
<反射型マスクブランク100>
本実施形態の反射型マスクブランク100について説明する。反射型マスクブランク100は、上述の多層反射膜付き基板110の上に、吸収体膜7を有する。吸収体膜7及び多層反射膜5、並びに場合により保護膜6を含む反射型マスクブランク100は、本実施形態の薄膜付き基板120の1種である。本実施形態の反射型マスクブランク100において、所定の薄膜は多層反射膜5及び保護膜6から選択される少なくとも1つであることが好ましい。また、吸収体膜7が所定の薄膜であることができる。
【0121】
<<吸収体膜7>>
本実施形態の反射型マスクブランク100の吸収体膜7は、多層反射膜5の上(保護膜6が形成されている場合には、保護膜6の上)に形成される。吸収体膜7の基本的な機能は、EUV光を吸収することである。吸収体膜7は、EUV光の吸収を目的とした吸収体膜7であっても良いし、EUV光の位相差も考慮した位相シフト機能を有する吸収体膜7であっても良い。位相シフト機能を有する吸収体膜7とは、EUV光を吸収するとともに一部を反射させて位相をシフトさせるものである。すなわち、位相シフト機能を有する吸収体膜7がパターニングされた反射型マスク200において、吸収体膜7が形成されている部分では、EUV光を吸収して減光しつつパターン転写に悪影響がないレベルで一部の光を反射させる。また、吸収体膜7が形成されていない領域(フィールド部)では、EUV光は、保護膜6を介して多層反射膜5から反射する。そのため、位相シフト機能を有する吸収体膜7からの反射光と、フィールド部からの反射光との間に所望の位相差を有することになる。位相シフト機能を有する吸収体膜7は、吸収体膜7からの反射光と、多層反射膜5からの反射光との位相差が170度から190度となるように形成される。180度近傍の反転した位相差の光同士がパターンエッジ部で干渉し合うことにより、投影光学像の像コントラストが向上する。その像コントラストの向上に伴って解像度が上がり、露光量裕度、及び焦点裕度等の露光に関する各種裕度を大きくすることができる。
【0122】
吸収体膜7は単層の膜であっても良いし、複数の膜(例えば、下層吸収体膜及び上層吸収体膜)からなる多層膜であっても良い。単層膜の場合は、マスクブランク製造時の工程数を削減できて生産効率が上がるという特徴がある。多層膜の場合には、上層吸収体膜が、光を用いたマスクパターン欠陥検査時の反射防止膜になるように、その光学定数と膜厚を適当に設定することができる。このことにより、光を用いたマスクパターン欠陥検査時の検査感度が向上する。また、上層吸収体膜に酸化耐性が向上する酸素(O)及び窒素(N)等が添加された膜を用いると、経時安定性が向上する。このように、吸収体膜7を多層膜にすることによって様々な機能を付加させることが可能となる。吸収体膜7が位相シフト機能を有する吸収体膜7の場合には、多層膜にすることによって光学面での調整の範囲を大きくすることができるので、所望の反射率を得ることが容易になる。
【0123】
吸収体膜7の材料としては、EUV光を吸収する機能を有し、エッチング等により加工が可能(好ましくは塩素(Cl)やフッ素(F)系ガスのドライエッチングでエッチング可能)である限り、特に限定されない。そのような機能を有するものとして、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、白金(Pt)、金(Au)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、ハフニウム(Hf)、鉄(Fe)、銅(Cu)、テルル(Te)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、アルミニウム(Al)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、及びケイ素(Si)から選ばれる少なくとも1つの金属、又はこれらの化合物(合金)を好ましく用いることができる。
【0124】
吸収体膜7は、DCスパッタリング法及びRFスパッタリング法などのマグネトロンスパッタリング法で形成することができる。例えば、タンタル化合物等の吸収体膜7は、タンタル及びホウ素を含むターゲットを用い、酸素又は窒素を添加したアルゴンガスを用いた反応性スパッタリング法により、成膜することができる。
【0125】
吸収体膜7を形成するためのタンタル化合物は、Taと上述の金属との合金を含む。吸収体膜7がTaの合金の場合、平滑性及び平坦性の点から、吸収体膜7の結晶状態は、アモルファス状又は微結晶の構造であることが好ましい。吸収体膜7の表面が平滑・平坦でないと、吸収体パターン7aのエッジラフネスが大きくなり、パターンの寸法精度が悪くなることがある。吸収体膜7の好ましい表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で、0.5nm以下であり、より好ましくは0.4nm以下、さらに好ましくは0.3nm以下である。
【0126】
吸収体膜7の形成のためのタンタル化合物としては、TaとBとを含む化合物、TaとNとを含む化合物、TaとOとNとを含む化合物、TaとBとを含み、さらにOとNの少なくともいずれかを含む化合物、TaとSiとを含む化合物、TaとSiとNとを含む化合物、TaとGeとを含む化合物、及びTaとGeとNとを含む化合物、等を用いることができる。
【0127】
Taは、EUV光の吸収係数が大きく、また、塩素系ガスやフッ素系ガスで容易にドライエッチングすることが可能な材料である。そのため、Taは、加工性に優れた吸収体膜7の材料であるといえる。さらにTaにB、Si及び/又はGe等を加えることにより、アモルファス状の材料を容易に得ることができる。この結果、吸収体膜7の平滑性を向上させることができる。また、TaにN及び/又はOを加えれば、吸収体膜7の酸化に対する耐性が向上するため、経時的な安定性を向上させることができるという効果が得られる。
【0128】
本実施形態の反射型マスクブランク100において、所定の薄膜は多層反射膜5及び保護膜6から選択される少なくとも1つであることが好ましい。本実施形態の反射型マスクブランク100では、所定の薄膜である多層反射膜5又は保護膜6の上に、更に吸収体膜7が形成されることが好ましい。所定の薄膜が多層反射膜5及び保護膜6の場合の母材料及び微量材料については、上述の説明の通りである。
【0129】
また、本実施形態の反射型マスクブランク100において、吸収体膜7が所定の薄膜であることができる。すなわち、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によって、吸収体膜7を測定した場合、吸収体膜7から放出される二次イオン強度を測定したときの母材料の二次イオン強度(I1)に対する薄膜中の微量材料の少なくとも一つの二次イオン強度(I2)の比率(I2/I1)が、上述の所定の範囲であることができる。
【0130】
吸収体膜7の材料がパラジウム(Pd)、銀(Ag)、白金(Pt)、金(Au)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、ハフニウム(Hf)、鉄(Fe)、銅(Cu)、テルル(Te)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、アルミニウム(Al)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)及びケイ素(Si)から選ばれる少なくとも1つの元素を主成分として含み、微量材料として、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)又は銅(Cu)が含まれる場合(但し、吸収体膜7の材料と微量材料とが同じ材料の組み合わせは除く)、吸収体膜7から放出される二次イオン強度を測定したときの母材料の二次イオン強度(I1)に対する薄膜中の微量材料の少なくとも一つの二次イオン強度(I2)の比率(I2/I1)は、0より大きいことが好ましく、0.005以上であることがより好ましい。また、比率(I2/I1)は、0.300以下が好ましく、0.250以下がより好ましく、0.200以下が更に好ましい。
【0131】
吸収体膜7が所定の薄膜である場合、母材料は上述の主成分となる金属であることができる。主成分となる金属の含有比率は、50原子%以上が好ましい。
【0132】
例えば、吸収体膜7の材料がTaを含む場合、微量材料としてアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)又は銅(Cu)が含まれることが好ましい。アルミニウム(Al)等の波長13.5nmにおける消衰係数kは、比較的高い。そのため、吸収体膜7の中に微量材料としてアルミニウム(Al)等が含まれることは、波長13.5nmにおける消衰係数kが比較的高くなる。また、微量材料としてアルミニウム(Al)等が含まれることにより、吸収体膜7と、吸収体膜7に接する薄膜(例えば、多層反射膜5又は保護膜6等)との界面での応力差が縮小する可能性がある。例えば、吸収体膜7を成膜するための真空チャンバー502に配置されるシールド519(例えば、ステンレス製シールド)の表面を、アルミナ(Al2O3)のブラスト材でブラストすることにより、アルミニウム(Al)が微量材料として含まれる吸収体膜7を得ることができる。
【0133】
本実施形態の反射型マスクブランク100の吸収体膜7に含まれる微量材料は、イットリウム(Y)及びジルコニウム(Zr)を含まないことが好ましい。したがって、吸収体膜7を成膜するためには、成膜装置の中に配置されるシールド519などの構成部材が、イットリウム(Y)及びジルコニウム(Zr)を含まない材料により形成されることが好ましい。
【0134】
<<裏面導電膜2>>
基板1の第2主表面(裏側主表面)の上(多層反射膜5の形成面の反対側であり、基板1に水素侵入抑制膜等の中間層が形成されている場合には中間層の上)には、静電チャック用の裏面導電膜2が形成される。静電チャック用として、裏面導電膜2に求められるシート抵抗は、通常100Ω/□(Ω/square)以下である。裏面導電膜2の形成方法は、例えば、クロム又はタンタル等の金属、又はそれらの合金のターゲットを使用したマグネトロンスパッタリング法又はイオンビームスパッタリング法である。裏面導電膜2のクロム(Cr)を含む材料は、Crにホウ素、窒素、酸素、及び炭素から選択した少なくとも一つを含有したCr化合物であることが好ましい。Cr化合物としては、例えば、CrN、CrON、CrCN、CrCON、CrBN、CrBON、CrBCN及びCrBOCNなどを挙げることができる。裏面導電膜2のタンタル(Ta)を含む材料としては、Ta(タンタル)、Taを含有する合金、又はこれらのいずれかにホウ素、窒素、酸素、及び炭素の少なくとも一つを含有したTa化合物を用いることが好ましい。Ta化合物としては、例えば、TaB、TaN、TaO、TaON、TaCON、TaBN、TaBO、TaBON、TaBCON、TaHf、TaHfO、TaHfN、TaHfON、TaHfCON、TaSi、TaSiO、TaSiN、TaSiON、及びTaSiCONなどを挙げることができる。裏面導電膜2の膜厚は、静電チャック用としての機能を満足する限り特に限定されないが、通常10nmから200nmである。また、この裏面導電膜2はマスクブランク100の第2主表面側の応力調整も兼ね備えている。すなわち、裏面導電膜2は、第1主表面側に形成された各種膜からの応力とバランスをとって、平坦な反射型マスクブランク100が得られるように調整される。
【0135】
なお、上述の吸収体膜7を形成する前に、多層反射膜付き基板110に対して裏面導電膜2を形成することができる。その場合には、
図3に示すような裏面導電膜2を備えた多層反射膜付き基板110を得ることができる。
【0136】
なお、裏面導電膜2は、所定の薄膜であることができる。したがって、
図3に示すような薄膜付き基板120(裏面導電膜付き基板)も、本実施形態の薄膜付き基板120の1種である。
【0137】
裏面導電膜2の材料がCr化合物又はTa化合物であり、微量材料としてアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)又は銅(Cu)が含まれる場合、裏面導電膜2から放出される二次イオン強度を測定したときの母材料(Ta又はCr)の二次イオン強度(I1)に対する薄膜中の微量材料の少なくとも一つの二次イオン強度(I2)の比率(I2/I1)は、0より大きいことが好ましく、0.005以上であることがより好ましい。また、比率(I2/I1)は、0.300以下が好ましく、0.250以下がより好ましい。
【0138】
裏面導電膜2が所定の薄膜である場合、母材料はTa又はCrであることができる。Ta又はCrの含有比率は、50原子%以上が好ましい。
【0139】
例えば裏面導電膜2の材料がTa化合物の場合、微量材料としてアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)又は銅(Cu)が含まれることが好ましい。アルミニウム(Al)等の電気伝導度は高いため、裏面導電膜2の中に微量材料としてアルミニウム(Al)等が含まれることにより、裏面導電膜2の導電性に寄与することができる。また、裏面導電膜2は、真空チャックを行うために機械的強度が求められる。微量材料としてアルミニウム(Al)等が含まれることにより、アモルファス化によって膜の緻密度が高められ、機械的特性を向上させることが可能となる。例えば、裏面導電膜2を成膜するための真空チャンバー502に配置されるシールド519(例えば、ステンレス製シールド)の表面を、アルミナ(Al2O3)のブラスト材でブラストすることにより、アルミニウム(Al)が微量材料として含まれる裏面導電膜2を得ることができる。
【0140】
<エッチングマスク膜9>
吸収体膜7の上にはエッチングマスク膜9を形成してもよい。エッチングマスク膜9の材料としては、エッチングマスク膜9に対する吸収体膜7のエッチング選択比が高い材料を用いる。ここで、「Aに対するBのエッチング選択比」とは、エッチングを行いたくない層(マスクとなる層)であるAとエッチングを行いたい層であるBとのエッチングレートの比をいう。具体的には「Aに対するBのエッチング選択比=Bのエッチング速度/Aのエッチング速度」の式によって特定される。また、「選択比が高い」とは、比較対象に対して、上記定義の選択比の値が大きいことをいう。エッチングマスク膜9に対する吸収体膜7のエッチング選択比は、1.5以上が好ましく、3以上が更に好ましい。
【0141】
エッチングマスク膜9に対する吸収体膜7のエッチング選択比が高い材料としては、クロム及びクロム化合物の材料が挙げられる。吸収体膜7をフッ素系ガスでエッチングする場合には、クロム及びクロム化合物の材料を使用することができる。クロム化合物としては、Crと、N、O、C及びHから選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料が挙げられる。また、吸収体膜7を、実質的に酸素を含まない塩素系ガスでエッチングする場合には、ケイ素及びケイ素化合物の材料を使用することができる。ケイ素化合物としては、Siと、N、O、C及びHから選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料、並びにケイ素及びケイ素化合物に金属を含む金属ケイ素(金属シリサイド)、及び金属ケイ素化合物(金属シリサイド化合物)などの材料が挙げられる。金属ケイ素化合物としては、金属と、Siと、N、O、C及びHから選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料が挙げられる。
【0142】
エッチングマスク膜9の膜厚は、転写パターンを精度よく吸収体膜7に形成するエッチングマスクとしての機能を得る観点から、3nm以上であることが望ましい。また、エッチングマスク膜9の膜厚は、レジスト膜8の膜厚を薄くする観点から、15nm以下であることが望ましい。
【0143】
なお、エッチングマスク膜9は、上述の所定の薄膜であることができる。
【0144】
<その他の薄膜>
【0145】
本実施形態の薄膜付き基板120は、それらの基板1であるガラス基板と、タンタル又はクロムを含有する裏面導電膜2との間に、基板1から裏面導電膜2へ水素が侵入することを抑制する水素侵入抑制膜を備えることが好ましい。水素侵入抑制膜の存在により、裏面導電膜2中に水素が取り込まれることを抑制でき、裏面導電膜2の圧縮応力の増大を抑制することができる。
【0146】
水素侵入抑制膜の材料は、水素が透過しにくく、基板1から裏面導電膜2への水素の侵入を抑制することができる材料であればどのような種類であってもよい。水素侵入抑制膜の材料としては、具体的には、例えば、Si、SiO2、SiON、SiCO、SiCON、SiBO、SiBON、Cr、CrN、CrON、CrC、CrCN、CrCO、CrCON、Mo、MoSi、MoSiN、MoSiO、MoSiCO、MoSiON、MoSiCON、TaO及びTaON等を挙げることができる。水素侵入抑制膜は、これらの材料の単層であることができ、また、複数層及び組成傾斜膜であってもよい。
【0147】
なお、水素侵入抑制膜は、上述の所定の薄膜であることができる。
【0148】
<反射型マスク200>
本実施形態は、上述の反射型マスクブランク100における吸収体膜7をパターニングして、多層反射膜5上に吸収体パターン7aを有する反射型マスク200である。本実施形態の反射型マスクブランク100を用いることにより、反射型マスク200の性能に対して悪影響がないか、又は、反射型マスク200の性能を向上させた反射型マスク200を得ることができる。
【0149】
本実施形態の反射型マスクブランク100を使用して、反射型マスク200を製造する。ここでは概要説明のみを行い、後に実施例において図面を参照しながら詳細に説明する。
【0150】
反射型マスクブランク100を準備して、その第1主表面の最表面(以下の実施例で説明するように、吸収体膜7上)に、レジスト膜8を形成し(反射型マスクブランク100としてレジスト膜8を備えている場合は不要)、このレジスト膜8に回路パターン等の所望のパターンを描画(露光)し、さらに現像、リンスすることによって所定のレジストパターン8aを形成する。
【0151】
このレジストパターン8aをマスクとして使用して、吸収体膜7をドライエッチングすることにより、吸収体パターン7aを形成する。なお、エッチングガスとしては、Cl2、SiCl4、及びCHCl3等の塩素系のガス、塩素系ガスとO2とを所定の割合で含む混合ガス、塩素系ガスとHeとを所定の割合で含む混合ガス、塩素系ガスとArとを所定の割合で含む混合ガス、CF4、CHF3、C2F6、C3F6、C4F6、C4F8、CH2F2、CH3F、C3F8、SF6、及びF2等のフッ素系のガス、並びにフッ素系ガスとO2とを所定の割合で含む混合ガス等から選択したものを用いることができる。ここで、エッチングの最終段階でエッチングガスに酸素が含まれていると、Ru系保護膜6に表面荒れが生じる。このため、Ru系保護膜6がエッチングに曝されるオーバーエッチング段階では、酸素が含まれていないエッチングガスを用いることが好ましい。
【0152】
その後、アッシングやレジスト剥離液によりレジストパターン8aを除去し、所望の回路パターンが形成された吸収体パターン7aを作製する。
【0153】
以上の工程により、本実施形態の反射型マスク200を得ることができる。
【0154】
<半導体装置の製造方法>
本実施形態は、上述の反射型マスク200を用いて、露光装置を使用したリソグラフィプロセスを行い、被転写体上に転写パターンを形成する工程を有する、半導体装置の製造方法である。具体的には、EUV光を発する露光光源を有する露光装置に、上述の反射型マスク200をセットし、被転写基板上に形成されているレジスト膜に転写パターンを転写することができる。本実施形態の半導体装置の製造方法によれば、反射型マスク200の薄膜に不純物(微量材料)が含まれても、反射型マスク200の性能に対して、悪影響を与えない反射型マスク200を用いることができるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができる。
【0155】
具体的には、上記本実施形態の反射型マスク200を使用してEUV露光を行うことにより、半導体基板上に所望の転写パターンを形成することができる。このリソグラフィプロセスに加え、被加工膜のエッチングや絶縁膜、導電膜の形成、ドーパントの導入、あるいはアニールなど種々の工程を経ることで、所望の電子回路が形成された半導体装置を高い歩留まりで製造することができる。
【実施例0156】
以下、各実施例について図面を参照しつつ説明する。
【0157】
(実施例1)
実施例1として、
図2に示すように、基板1の一方の主表面に多層反射膜5及び保護膜6を形成した多層反射膜付き基板110を作製した。実施例1の多層反射膜付き基板110の作製は、次のようにして行った。
【0158】
第1主表面及び第2主表面の両表面が研磨された6025サイズ(約152mm×152mm×6.35mm)の低熱膨張ガラス基板であるSiO2-TiO2系ガラス基板を準備し、基板1とした。平坦で平滑な主表面となるように、粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、局所加工工程、及びタッチ研磨加工工程よりなる研磨を行った。
【0159】
図8に示すようなイオンビームスパッタリング装置500を用いて、上述の基板1の第1主表面の上に、多層反射膜5及び保護膜6を、連続して形成した。
【0160】
なお、イオンビームスパッタリング装置500の真空チャンバー502内には、シールド519を配置した。シールド519としては、SUS314を材料としたシールド519の表面をブラスト処理したものを用いた。ブラスト材としては、イットリア(Y2O3)の粒子を用いた。ブラスト処理の後、超音波洗浄及び/又はプラズマ洗浄によりシールド519の洗浄処理を行った。このようなブラスト処理及び洗浄処理により、シールド519の表面に、イットリア(Y2O3)を配置することができた。
【0161】
実施例1の多層反射膜5は、波長13.5nmのEUV光に適した多層反射膜5とするために、SiとMoからなる周期多層反射膜5とした。具体的には、高屈折率材料のターゲット及び低屈折率材料のターゲット(第一及び第二スパッタリングターゲット507及び508)として、Siターゲット及びMoターゲットを使用した。これらのターゲット507及び508に対して、イオン源505からクリプトン(Kr)イオン粒子を供給して、イオンビームスパッタリングを行うことにより、基板1上にSi層及びMo層を交互に積層した。なお、このイオンビームスパッタリングの際に、シールド519に含まれる物質、具体的には、SUS314(クロム及び鉄)、及びブラスト材(イットリウム)が、多層反射膜5に微量材料として含まれることになった。
【0162】
ここで、Si及びMoのスパッタ粒子は、基板1の主表面の法線に対して30度の角度で入射させた。まず、Si層を4.2nmの膜厚で成膜し、続いて、Mo層を2.8nmの膜厚で成膜した。これを1周期とし、同様にして40周期積層し、最後にSi層を4.0nmの膜厚で成膜し、多層反射膜5を形成した。したがって、多層反射膜5の最下層、すなわち基板1に最も近い多層反射膜5の材料はSiであり、また多層反射膜5の最上層、すなわち保護膜6と接する多層反射膜5の材料もSiである。
【0163】
次に、多層反射膜5の成膜後、連続して、上述の多層反射膜付き基板110の表面に、保護膜6を形成した。Arガス雰囲気中で、Ruターゲットを使用したイオンビームスパッタリング法によりRuからなる保護膜6を2.5nmの膜厚で成膜した。ここで、Ruのスパッタ粒子は、基板1の主表面の法線に対して40度の角度で入射させた。なお、このイオンビームスパッタリングの際に、シールド519に含まれる物質、具体的には、SUS314(クロム及び鉄)、及びブラスト材(イットリウム)が、保護膜6に微量材料として含まれることになった。その後、大気中で130℃のアニールを行った。
【0164】
以上のようにして、実施例1の多層反射膜付き基板110を製造した。
【0165】
次に、実施例1の多層反射膜付き基板110の保護膜6及び多層反射膜5に相当する部分を、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS:Time-Of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定した。具体的には、保護膜6の表面を1nmイオンエッチングした後、保護膜6のTOF-SIMSにより、母材料及び微量材料の二次イオン強度を測定した。次に、保護膜6をイオンエッチングし、多層反射膜5が表面に露出してから更に1nmエッチングした後、多層反射膜5のTOF-SIMSにより、母材料及び微量材料の二次イオン強度を測定した。表1に、TOF-SIMSにより測定した母材料の及び微量材料の種類を示す。表1に、「*」として示された元素(Y、Fe及びCr)が測定対象の微量材料である。保護膜6の母材料はRuとし、多層反射膜5の母材料はMoとした。TOF-SIMSの測定条件を以下に示す。
一次イオン種 :Bi3
++
一次加速電圧 :30kV
一次イオン電流 :3.0nA
一次イオン照射領域:一辺200μmの四角形の内側領域
二次イオン測定範囲:0.5~3000m/z
【0166】
表2に、保護膜6のTOF-SIMSの測定による母材料(Ru)の二次イオン強度(I1)及び微量材料の二次イオン強度(I2)から算出した二次イオン強度の比率(I2/I1)を示す。また、表3に、多層反射膜5のTOF-SIMSの測定による母材料(Mo)の二次イオン強度(I1)及び微量材料の二次イオン強度(I2)から算出した二次イオン強度の比率(I2/I1)を示す。なお、例えば表2の「Y/Ru」は、母材料であるRuの二次イオン強度(I1)と、微量材料であるYの二次イオン強度(I2)との比率(I2/I1)を意味する。表3についても、母材料がMoである以外は、同様である。
【0167】
実施例1の条件で製造した多層反射膜付き基板110の波長13.5nmのEUV光に対する反射率を測定し、後述の参考例と比較して反射率の低下がないことを確認した。また、実施例1の条件で製造した多層反射膜付き基板110のMo膜の結晶性をX線回折装置(XRD)により測定し、参考例と比較してより微結晶であったことを確認した。
【0168】
(実施例2~5)
表1に、実施例2~5の多層反射膜付き基板110を製造するための材料を示す。実施例2~5では、実施例1と同様に、基板1の第1主表面に多層反射膜5及び保護膜6が形成された多層反射膜付き基板110を製造した。ただし、実施例2、3及び5では、表1に示す材料の粒子を用いてブラスト処理したシールド519を使用した。なお、実施例3及び5では、ブラスト処理の厚さを調整してシールド材料が多層反射膜5及び保護膜6に含まれる量を調整した。また、実施例4では、ブラスト処理を行っていないシールド519を使用した。したがって、実施例2~5の多層反射膜5及び保護膜6に含まれる微量材料は、実施例1とは異なる。
【0169】
実施例1と同様に、実施例2~5の多層反射膜付き基板110の保護膜6及び多層反射膜5に相当する部分を、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により測定した。表2及び表3に、それらの測定結果を示す。また、実施例1と同様に、実施例2~5の多層反射膜付き基板110の反射率及びMo膜の結晶性を測定した。その結果、実施例1と同様に、実施例2~5の多層反射膜付き基板110は、参考例と比較して反射率の低下がなく、参考例より微結晶であった。
【0170】
(実施例6及び7)
表1に、実施例6及び7の多層反射膜付き基板110を製造するための材料を示す。実施例6及び7では、実施例1と同様に、基板1の第1主表面に多層反射膜5及び保護膜6が形成された多層反射膜付き基板110を製造した。ただし、実施例6及び7では、DCマグネトロンスパッタリング法により保護膜6を成膜した。
【0171】
実施例6では、実施例1と同様に、イオンビームスパッタリング装置500を用いて、イオンビームスパッタリング法により多層反射膜5を成膜した。その後、マグネトロンスパッタリング装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法により保護膜6を成膜した。具体的には、Ruターゲットを用い、Arガス雰囲気中で、DCスパッタリング法によって、多層反射膜5上にRuからなる保護膜6を2.5nmの膜厚で成膜した。その際、イオンビームスパッタリング装置500及びマグネトロンスパッタリング装置におけるシールドを、表1に示す材料(アルミナ(Al2O3))の粒子を用いてブラスト処理したものを使用した。そのため、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)による測定元素として、アルミニウム(Al)を含めることとした。
【0172】
実施例7では、実施例6と同様に、イオンビームスパッタリング装置500を用いて、イオンビームスパッタリング法により多層反射膜5を成膜した。その後、実施例6と同様に、マグネトロンスパッタリング装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法により保護膜6を成膜した。また、実施例7では、イオンビームスパッタリング装置500及びマグネトロンスパッタリング装置において、ブラスト処理を行っていないシールドを使用した。また、実施例7では、銅(Cu)を材料とするパーティクルゲッターを、装置内壁の所定の部分、特にイオンビームスパッタリング装置500及びマグネトロンスパッタリング装置のシールドに取り付けて、Mo/Siの多層反射膜5及び保護膜6の成膜を行った。そのため、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)による測定元素として、銅(Cu)を含めることとした。
【0173】
実施例1と同様に、実施例6及び7の多層反射膜付き基板110の保護膜6及び多層反射膜5に相当する部分を、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により測定した。表2及び表3に、それらの測定結果を示す。また、実施例1と同様に、実施例6及び7の多層反射膜付き基板110の反射率及びMo膜の結晶性を測定した。その結果、実施例1同様に、実施6及び7の多層反射膜付き基板110は、参考例と比較して反射率の低下がなく、より微結晶であった。
【0174】
(参考例1)
実施例1と同様に、参考例1の多層反射膜付き基板110を製造した。ただし、参考例1では、多層反射膜5及び保護膜6の成膜の際に、イオンビームスパッタリング装置500の真空チャンバー502内に配置したシールド519の材料を、高純度のモリブデン(Mo)とした。また、このシールド519の表面をエッチングにより洗浄することにより、シールド519の表面に不純物が付着しないようにした。なお、高純度のモリブデン(Mo)は、SUS314を材料としたシールド519と比べて、非常に高価である。したがって、参考例1の多層反射膜付き基板110を製造するためのコストは、実施例1~7に比べて非常に高コストである。
【0175】
実施例1と同様に、参考例1の多層反射膜付き基板110の保護膜6及び多層反射膜5に相当する部分を、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により測定した。また、実施例1と同様に、参考例1の多層反射膜付き基板110の反射率及びMo膜の結晶性を測定した。参考例1の多層反射膜5には、微量材料に相当する元素は含まれておらず(検出限界以下)、また、保護膜6には、モリブデン(Mo)以外の微量材料は検出限界以下だった。参考例1の多層反射膜付き基板110は、所定の反射型マスク200を製造するための多層反射膜付き基板110として問題がなかったので、参考例1を、実施例1~7の比較対象とした。
【0176】
なお、実施例1~7及び参考例1の多層反射膜の組成(原子比率)は、XPSで測定したところ、Mo:Si=40:60であった。
【0177】
(実施例1~7及び参考例1の多層反射膜付き基板110の評価結果)
表2及び表3に示すように、実施例1~7及び参考例1の多層反射膜付き基板110の保護膜6及び多層反射膜5に相当する部分は、TOF-SIMSの測定による母材料の二次イオン強度(I1)及び微量材料の二次イオン強度(I2)から算出した二次イオン強度の比率(I2/I1)が、すべて0より大きく0.300以下だった。
【0178】
また、多層反射膜5の反射率は、参考例1と比較して低下していないことを確認した。また、Mo膜の結晶性は、参考例1と比較して、結晶粒がより微細な微結晶になっていることを確認した。したがって、実施例1~7において、反射型マスク200を製造するための多層反射膜付き基板110の所定の薄膜に、不純物(微量材料)が含まれていても、製造される反射型マスク200の性能に対して、少なくとも悪影響を与えないものであるということができる。
【0179】
(反射型マスクブランク100)
上述の実施例1~7及び参考例1の多層反射膜付き基板110を用いて、反射型マスクブランク100を製造することができる。以下、反射型マスクブランク100の製造方法について、説明する。
【0180】
DCマグネトロンスパッタリング法により、多層反射膜付き基板110の保護膜6の上に、吸収体膜7を形成した。吸収体膜7は、吸収層であるTaN膜及び低反射層であるTaO膜の二層からなる積層膜の吸収体膜7とした。上述した多層反射膜付き基板110の保護膜6表面に、DCマグネトロンスパッタリング法により、吸収層としてTaN膜を成膜した。このTaN膜は、Taターゲットに多層反射膜付き基板110を対向させ、Arガス及びN2ガスの混合ガス雰囲気中で、反応性スパッタリング法により成膜した。次に、TaN膜の上に更に、TaO膜(低反射層)を、DCマグネトロンスパッタリング法によって形成した。このTaO膜は、TaN膜と同様に、Taターゲットに多層反射膜付き基板110を対向させ、Ar及びO2の混合ガス雰囲気中で、反応性スパッタリング法により成膜した。
【0181】
TaN膜の組成(原子比率)は、Ta:N=70:30であり、膜厚は48nmであった。また、TaO膜の組成(原子比率)はTa:O=35:65であり、膜厚は11nmであった。
【0182】
次に、基板1の第2主表面(裏側主表面)にCrNからなる裏面導電膜2をマグネトロンスパッタリング法(反応性スパッタリング法)により下記の条件にて形成した。裏面導電膜2の形成条件:Crターゲット、ArとN2の混合ガス雰囲気(Ar:90原子%、N:10原子%)、膜厚20nm。
【0183】
以上のようにして、実施例1~7及び参考例1の多層反射膜付き基板110を用いて、反射型マスクブランク100を製造した。
【0184】
(反射型マスク200)
次に、実施例1~7及び参考例1の上記の反射型マスクブランク100を用いて、反射型マスク200を製造した。
図7を参照して反射型マスク200の製造を説明する。
【0185】
まず、
図7(b)に示されるように、反射型マスクブランク100の吸収体膜7の上に、レジスト膜8を形成した。そして、このレジスト膜8に回路パターン等の所望のパターンを描画(露光)し、さらに現像、リンスすることによって所定のレジストパターン8aを形成した(
図7(c))。次に、レジストパターン8aをマスクにしてTaO膜(上層吸収体膜)を、CF
4ガスを用いてドライエッチングし、引き続き、TaN膜(下層吸収体膜)を、Cl
2ガスを用いてドライエッチングすることで、吸収体パターン7aを形成した(
図7(d))。Ruからなる保護膜6はCl
2ガスに対するドライエッチング耐性が極めて高く、十分なエッチングストッパとなる。その後、レジストパターン8aをアッシングやレジスト剥離液などで除去した(
図7(e))。
【0186】
以上のようにして実施例1~7及び参考例1の反射型マスク200を製造した。
【0187】
(半導体装置の製造)
実施例1~7及び参考例1の多層反射膜付き基板110を用いて製造した反射型マスク200をEUVスキャナにセットし、半導体基板上に被加工膜とレジスト膜が形成されたウエハに対してEUV露光を行った。そして、この露光済レジスト膜を現像することによって、被加工膜が形成された半導体基板上にレジストパターンを形成した。
【0188】
実施例1~7の多層反射膜付き基板110を用いて製造した反射型マスク200は、反射型マスク200を構成する薄膜に不純物が含まれても、反射型マスク200の性能に対して、少なくとも悪影響を与えないので、参考例1と同様に、微細でかつ高精度の転写パターンを形成することができた。
【0189】
このレジストパターンをエッチングにより被加工膜に転写し、また、絶縁膜、導電膜の形成、ドーパントの導入、あるいはアニールなど種々の工程を経ることで、所望の特性を有する半導体装置を高い歩留まりで製造することができた。
【0190】
【0191】
【0192】