(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030703
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】クレーンの衝突防止制御システム
(51)【国際特許分類】
B66C 13/48 20060101AFI20240229BHJP
B66C 13/23 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B66C13/48 A
B66C13/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133764
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】504005781
【氏名又は名称】株式会社日立プラントメカニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】岸本 至康
【テーマコード(参考)】
3F204
【Fターム(参考)】
3F204AA02
3F204BA06
3F204CA01
3F204DA03
3F204DB06
3F204DD01
(57)【要約】
【課題】巻上げ下げと水平移動の同時動作を行い、効率的な動作を可能とした自動クレーンにおいて、巻上げ下げと水平移動を行っている時にクレーンが停止しても、吊荷と床上障害物と衝突することを防止することができるクレーンの衝突防止制御システムを提供すること。
【解決手段】自動クレーンCRの巻上げと水平動作を同時に行う時、巻上げと水平動作で最短経路FRで斜めに巻上げる時、水平動作の発生速度に対する制動距離BD分だけ、最短経路FRから水平動作進行方向の後方に実際の移動経路を設定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上げと水平動作を同時に行う自動クレーンの運搬システムにおいて、巻上げと水平動作で最短経路で斜めに巻上げる時、水平動作の発生速度に対する制動距離分だけ、最短経路から水平動作進行方向の後方に実際の移動経路を設定するようにしたことを特徴とするクレーン衝突防止制御システム。
【請求項2】
前記自動クレーンの搬送エリアを平面に見た時、現在位置と目的位置を対角とする長方形の平面範囲内の床上障害物のうち、最も高い高さの床上障害物を乗り越えることができる高さを、水平移動を自由に行える安全高さに設定するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のクレーン衝突防止制御システム。
【請求項3】
前記自動クレーンを巻上げている時に、目的地方向に水平移動が可能な空間が確保された時、目的位置方向の走行方向に存在する衝突走行ラインからその時の走行速度に対する制動距離だけ手前に引いた走行可能ラインと、目的位置方向の横行方向に存在する衝突横行ラインからその時の横行速度に対する制動距離だけ手前の横行可能ラインとを設定し、走行可能ラインと横行可能ラインの交点と現在位置を対角とする長方形が囲む平面範囲を、巻上げ中の横行或いは走行動作を可能とするようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載のクレーン衝突防止制御システム。
【請求項4】
現在位置と目的位置を対角とする長方形の平面範囲の床上障害物の高さが、水平移動と共に低くなりだした時に、水平移動中に巻下げの同時動作を動作させ、その時の高さは、衝突を回避する余裕間隔寸法高さより巻下げの制動距離だけ高い位置を移動させるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載のクレーン衝突防止制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動クレーンが吊荷を吊って障害物を避けながら最短ルートで自動搬送している際に、自動クレーンが異常状態になり搬送ルートを逸脱した時にも、自動クレーンの吊荷と障害物との衝突を防止することができるようにしたクレーンの衝突防止制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動クレーンの自動運転を行う際に、従来は自動クレーンの吊荷とクレーン下に置かれた製品等の障害物とが衝突しないように、クレーンの稼働範囲内全域に亘り製品等と衝突することがない安全高さまで吊荷を巻上げ、その後に水平移動を行うことにより、安全確実な自動運転を行っていた。
しかしながら、この運転方法では、巻上げと水平動作の同時運転を行う手動操作クレーンより搬送時間がかかってしまうことから、自動クレーンの有効活用ができないという問題があった。
【0003】
これに対処するため、自動クレーンにおいても巻上げと水平動作を同時に行い、最短ルートで搬送する技術が紹介されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般的な天井クレーンにおいては巻上げの制動距離に対し水平動作の制動距離が長くなることから、吊荷が障害物を回避する最短ルートの軌跡での巻上げと水平動作を同時動作で吊荷を運搬している時に、停電や電源遮断による非常停止、或いは全ての動作を最短時間で減速停止させる異常停止が発生すると、最短ルートの軌跡を水平方向に逸脱し、吊荷と障害物との衝突が発生してしまうという問題があった。
【0006】
また、水平動作においても、天井クレーンにおいて横行と走行の同時動作を行っている時に、停電や電源遮断による非常停止、或いは全ての動作を最短時間で減速停止させる異常停止を行うと、その時に速い速度が出ていた方向にルートを逸脱し、吊荷と障害物との衝突が発生してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記自動クレーンが有する問題点に鑑み、巻上げ下げと水平移動の同時動作を行い、効率的な動作を可能とした自動クレーンにおいて、巻上げ下げと水平移動を行っている時にクレーンが停止しても、吊荷と床上障害物と衝突することを防止することができるクレーンの衝突防止制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のクレーン衝突防止制御システムは、巻上げと水平動作を同時に行う自動クレーンの運搬システムにおいて、巻上げと水平動作で最短経路で斜めに巻上げる時、水平動作の発生速度に対する制動距離分だけ、最短経路から水平動作進行方向の後方に実際の移動経路を設定するようにしたことを特徴とする。
これにより、停電や電源遮断による非常停止、或いは全ての動作を最短時間で減速停止させる異常停止が発生した場合にも吊荷と障害物の衝突を防止することを可能とした。
【0009】
この場合において、前記自動クレーンの搬送エリアを平面に見た時、現在位置と目的位置を対角とする長方形の平面範囲内の床上障害物のうち、最も高い高さの床上障害物を乗り越えることができる高さを、水平移動を自由に行える安全高さに設定するようにすることができる。
これにより、停電や電源遮断による非常停止、或いは全ての動作を最短時間で減速停止させる異常停止が発生した場合にも吊荷と障害物の衝突を防止することを可能とした。
【0010】
また、前記自動クレーンを巻上げている時に、目的地方向に水平移動が可能な空間が確保された時、目的位置方向の走行方向に存在する衝突走行ラインからその時の走行速度に対する制動距離だけ手前に引いた走行可能ラインと、目的位置方向の横行方向に存在する衝突横行ラインからその時の横行速度に対する制動距離だけ手前の横行可能ラインとを設定し、走行可能ラインと横行可能ラインの交点と現在位置を対角とする長方形が囲む平面範囲を、巻上げ中の横行或いは走行動作を可能とするようにすることができる。
【0011】
また、現在位置と目的位置を対角とする長方形の平面範囲の床上障害物の高さが、水平移動と共に低くなりだした時に、水平移動中に巻下げの同時動作を動作させ、その時の高さは、衝突を回避する余裕間隔寸法高さより巻下げの制動距離だけ高い位置を移動させるようにすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のクレーン衝突防止制御システムによれば、巻上げと水平移動、若しくは横行と走行を同時に動作をさせている際に、停電や非常停止等の不測の事態が発生した場合にも、吊荷と障害物が衝突することを防止することができる。
これにより、安全性を確保したうえで、自動クレーンの動作を2動作以上の同時動作を安全に動かし、自動クレーンの搬送時間の短縮を行い、自動クレーンの有効活用を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のクレーン衝突防止制御システムで巻上げと水平移動を同時動作した時の衝突防止の側面からの説明図である。
【
図2】本発明のクレーン衝突防止制御システムで横行と走行の同時動作時の衝突防止の説明図である。
【
図3】本発明のクレーン衝突防止制御システムで巻上げと水平移動を同時動作させる時の平面からの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のクレーン衝突防止制御システムの実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0015】
本発明のクレーン衝突防止制御システムについて、鉄鋼コイル運搬用の自動クレーンCRを例に挙げて、
図1に基づいて説明する。
【0016】
従来、鉄鋼コイル運搬用の自動クレーンCRでは、コイル置場の床FLに並べられるコイルCOは、積み上げてはいけない制限高さが作業基準として規定され、自動クレーンCRの巻上げは水平動作を伴わない巻上げ単独動作で鉛直方向に上げ下げを行うようにしていた。
この時、前記制限高さを吊荷HWの下面が超える高さを安全高さとし、この安全高さを超えた高さで水平動作を行っていた。
しかしながら、この運転方法は安全確実であるが、自動クレーンCRの搬送時間がクレ
ーン運転士が操作する手動クレーンより長くなるという問題があり、特許文献1に開示されているような、巻上げ動作と水平動作を同時動作で斜めに動かすことで、自動クレーンCRの搬送時間を手動クレーン並みに短くする技術が望まれていた。
【0017】
自動クレーンCRは、巻上げと水平移動の同時動作を行うとともに、床FL上のコイルCOを乗り越える高さは、吊具の掴爪の上面高さに、吊荷コイルの外半径と穴半径を下方に加算することで吊荷コイルの下面高さを算出し、床FL上に配置されたコイルCOの上面高さと吊荷下面との間に既定の隙間寸法(通常、500mm程度。)を設けて最短経路FRで自動クレーンCRを動作させることで、手動クレーンより運行時間の短い自動クレーンCRを実現することができる。
【0018】
ところで、一般的な鉄鋼コイル運搬用の自動クレーンCRは、巻上げ速度HVが毎秒0.2m程度、走行速度LVが毎秒2m程度、横行速度が毎秒1m程度の速度になるように設定されている。
自動クレーンCRの用途により、この速度は異なるが、巻上げ速度HVが遅く、走行や横行等の水平動作が速い速度である傾向は同様である。
この自動クレーンCRの例では、巻上げ速度HVと走行速度LVの比率が10倍走行速度が速い速度になっているが、制動距離は速度の自乗に比例するので、単純計算では走行の制動距離は巻上げの制動距離の100倍ということになる。さらに、巻上げの移動体重量は吊荷のみであるのに対し、走行は吊荷の重量にクレーンの重量が加わった移動体重量が高速移動するので、走行は大きな慣性力になる。そして、巻上げは、吊荷が重力で下方向に引っ張っているので、吊荷の下方向への引っ張りが巻上げ時のブレーキ力として作用するので、巻上げ方向の制動距離はさらに短いものとなる。
本実施例の場合、速度制御装置による制動力で通常減速を行った場合の巻上げの制動距離は約0.1mで、走行の制動距離は約15mで、横行の制動距離は約3.8mである。
【0019】
床に配置されたコイルCOに隙間寸法を開けて最短経路FRで巻上げ速度HVと走行速度LVの比率を1:10の速度比率で斜め上に動作させている時に、巻上げと走行の通常の減速停止を行うと、巻上げは約0.1mで即座に停止し、走行は大きく約15m移動し、吊荷HWが上がりきらない状況で、ほぼ水平に高さを保ったまま走行方向に非常時経路ERで移動してしまい、床上に配置されたコイルCOに、吊荷HWのコイルが衝突してしまう。
【0020】
また、巻上げと水平動作の同時操作で最短経路FRで斜め上方に移動中に、電源遮断による非常停止や停電が発生した場合も、前記の通常の減速停止時と同様に非常時経路ERを辿ってほぼ水平に移動し衝突をしてしまう。
【0021】
ここで、自動クレーンCRのブレーキには、ブレーキに電流を流すことでブレーキが解放し、電流を切ることでブレーキの制動が掛かる方式の、所謂不作動型ブレーキが用いられている。
したがって、非常時の電源遮断による停止や停電時もブレーキにより安全に停止をするが、走行等の水平移動は慣性力が大きいことから、速度制御装置による通常の減速停止をした場合と同様に走行等の水平移動の制動距離が長くなる。
この時、非常時の電源遮断による停止や停電による停止が通常の減速停止より制動距離が長くならないように、ブレーキトルクを適切に選定する必要がある。
因みに、横行や走行の制動距離を極端に短くしようとブレーキトルクを過大にしても、ブレーキ作動時に車輪がロックしてしまい、レール上を車輪がスリップしてしまう。スリップ時の制動距離は、通常の減速停止による制動距離より長くなるので、ブレーキトルクを強くし過ぎても制動距離の短縮には限界がある。
さらに、非常時の電源遮断による停止や停電による停止では、振れ止め制御が利かない
ので、制動距離BDは、荷振れ量を加味して大きめの値にする必要がある。
【0022】
そこで、床FL上に配置されたコイルCO等の障害物をかわし、吊荷HWを最短時間で搬送するのに当たり、本発明のクレーン衝突防止制御システムは、先ず床FL上のコイルCO等の障害物と吊荷HWとの隙間を既定の限界寸法に近づけて移動する最短経路FRを導き出し、その最短経路FRに対し、自動クレーンの水平動作の進行方向後方に水平動作の制動距離BDだけ後方の部分に安全経路SRのラインを引き、そのライン上を吊荷HWが移動するように制御を行う。
これにより、巻上げと水平動作が同時動作中に、停電や非常停止や通常停止の状態になっても、吊荷が床FL上のコイルCOに衝突することを防止することができる。
【0023】
ところで、巻上げと水平動作の同時動作中の停止は、巻上げの制動距離に対し水平動作の制動距離が極めて大きいので、巻上げと水平動作の同時動作中の停止動作時、床FL上の障害物と衝突する方向に吊荷HWの移動経路が大きく逸脱する。巻下げと水平動作の同時動作中の停止動作時は、水平動作の制動距離に対し巻下げの制動距離が極めて小さいので、衝突を回避する方向に逸脱し、床FL上の障害物と吊荷が離れていくので、巻下げと水平動作の同時動作時は、巻下げの制動距離分だけの僅かな距離だけ上方を移動させるだけでよい。
【0024】
横行や走行が動作中に停電や電源遮断による非常停止が発生した場合、横行や走行が持っている慣性力を、車輪の転がり抵抗とブレーキの摩擦力でクレーンが停止するが、車輪は、車輪の鍔の接し方やレールの状態で抵抗が変わり、ブレーキも湿度や温度や摩擦材の接する具合で摩擦抵抗が変動し、その時の状況で制動距離が変動する。また、吊荷が振れている状況でも制動距離が変動する。
定格速度は、走行速度は横行速度の2~3倍であるので制動距離は4~9倍となり、横行と走行が同時動作中に停電や電源遮断による非常停止が発生すると走行側に流れるはずではあるが、その時に出ていた速度や前記のブレーキ等の状況によりその流れ方は変動する。
【0025】
これらの不確定要素を考慮し、横行と走行の同時動作を行う場合に安全を確保することが望ましい範囲は、
図2の平面図に示す現在位置CLと目的位置DLを対角とする長方形RAが囲む範囲で、この範囲にある床FL上障害物の最大高さを乗り越えられる高さで吊荷HWを移動させることで、吊荷HWと床FL上障害物との衝突を防止し、安全に横行と走行の同時動作させることができる。
この時、現在位置CLと目的位置DLの横行座標或いは走行座標が同一で、横行或いは走行の片方のみの動作となる場合は、前記の長方形RAは、短辺をコイルの移動幅とする長細い直線状の長方形RAとなる。
【0026】
次に、シーケンス制御的に動作させる制御方式で、具体的に掴んだコイルを現在位置CLからの目的位置DLにコイルを吊って移動する過程の衝突防止の方法を実施例に基づき説明する。
【0027】
第一のステップとして、コイルの掴み点を現在位置CLとし、コイルを移動させる先の置場を目的位置DLとし、この現在位置CLと目的位置DLを対角とする長方形RAが囲む範囲の中で最も高いコイルCOの高さを乗り越えられる高さを安全高さSHとして設置し、安全高さSHまで高速で巻上げ動作を行う。この時、前記の長方形RAが囲む範囲の中に搬送対象のコイルCOを除いてコイルCOが置かれていない状態であれば、安全高さSHはコイルCOの置台をかわす高さまで巻上げれば、横行と走行を行うことになる。また、前記長方形RAが囲む2段積みコイルCOが並ぶ範囲の中に3段積みの高く積まれたコイルCOが一か所でもあれば、安全高さSHはその3段積みのコイルCOをかわす高さ
に設定され、その安全高さSHを目標値に巻上げが行われる。
【0028】
第二のステップでは、第一のステップでの搬送対象のコイルCOを掴んで巻上げを行っている過程で、その巻上げ途中の高さで目的位置DLの方向の水平面上に障害物との一定距離が取れた時に、巻上げ中の水平移動の起動を行う。
具体的には、
図3に示すように、目的位置DLの方向の走行TL側の障害物が存在する走行衝突ラインLCと現在位置CLとの距離である走行衝突距離LPから走行TLの制動距離BDだけ手前に走行可能ラインLSを引き、横行TS側の障害物が存在する横行衝突ラインSCと現在位置CLとの距離である横行衝突距離SPから横行TSの制動距離BDだけ手前に横行可能ラインSSを引き、この走行可能ラインLSと横行可能ラインSSとの交点である水平移動可能対角位置DPの座標点を平面上に配置し、現在位置CLと水平移動可能対角位置DPを対角とする長方形RA2の囲む範囲内を横行TS及び走行TLを巻上げ中に起動を行い3動作運転を行うことができる。
この時に設定する走行速度指令値と横行速度指令値は、走行衝突距離LPと横行衝突距離SPの距離の大きさとの見合いで決定するが、その速度目標値を大きく設定すると、横行或いは走行の制動距離BDの値が、それぞれの速度の自乗に比例して大きくなってしまい、現在位置CLから水平移動可能対角位置DPまでの距離が短くなってしまい、長方形RA2の囲む範囲が小さくなってしまうので、加速と減速を繰り返す不効率な動作になってしまう。これを防ぐため、この時の横行速度、走行速度は控えめに設定することで、円滑かつ効率的に動作を行うことができる。
この時、巻上げ、走行、横行方向に移動し、かつ速度も変化しているので、現在位置CLと水平移動可能対角位置DPの座標点は逐次変化する。
ところで、障害物との距離が、横行又は走行の一方向のみ確保された場合は、現在位置CLと水平移動可能対角位置DPを対角とする長方形RA2は直線状のコイルの移動幅の長細い長方形になるが、この場合は横行或いは走行の長方形RA2の長辺方向の動作と巻上げの2動作同時動作になる。
そして、巻上げ位置が安全高さSHまで巻上がった時、巻上げを停止する。そして、水平方向には衝突障害物が目的位置DLまで完全に無くなっているので、目的位置DLへ向かって、横行速度、走行速度の制限なく全速で水平移動を行うことができる。
【0029】
第三のステップとして、目的位置DLに向かって横行移動、走行移動を行い現在位置CLが目的位置DLに水平方向に近づいていく過程で、当初安全高さSHに設定していた最も高いコイルCOの位置を通過した時、その時の現在位置CLと目的位置DLを対角とする長方形RAが囲む範囲の中の最も高いコイルCOの高さが低くなり、安全高さSHが下がっていく。
それに伴い、横行、走行移動中に巻下げを起動し、安全高さSHまで横行、走行移動中の巻下げ動作を行う。そして、安全高さSHが更新されるたびに横行、走行動作中の巻下げ動作を起動しながら目的位置DLへ向かっていく。
この時、目的位置DLの周辺にコイルCOがない状態であっても、コイルの置台をかわす高さが安全高さSHになるので、目的位置DLの位置で横行と走行の位置決めが完了した時に、置台分の高さを含めて高さ制限が解除され、目的の置台の上にコイルを置くことができる。
【0030】
第三ステップの巻下げと横行移動、走行移動の同時動作では、現在位置CLの高さには目的位置DLまでの水平部分には障害物が存在しないので、巻下げと横行移動、走行移動の同時動作中の停電などの停止により、水平方向への流れにより衝突をすることはない。
したがって、巻下げと横行移動、走行移動の同時動作では、巻下げの僅かな制動距離分だけ最短経路か上方に安全高さを設定し移動させることで、衝突なく安全に動作させることができる。
ところで、安全高さは、逐次更新される現在位置CLと目的位置DLの間の範囲の最大
高さから算出されているので、現在位置CLと目的位置DLの間に窪地状の低い部分があっても、その窪地部分で下げ過ぎることなく、その先にある高い位置に合わせて、目的位置DLに向かって順次スムーズに横行移動、走行移動中の巻下げの同時動作を行うことができる。
【0031】
巻上げ巻下げ動作と、横行と走行の3次元動作を簡易的なシーケンス制御システムで行った場合の、吊荷HWと床FL上のコイルCO等の障害物との衝突を防止するシステムについて、実施例を元に説明をしたが、より最適な動作経路を導き出すために、シミュレータ用計算機を設置し、最短ルートを動作させる方法もある。
この場合においても、シミュレータで導き出された最短経路から、巻上げと水平動作の同時動作時は、水平動作の制動距離BDだけ、水平動作の進行方向後方に安全経路SRを引き、その経路上を移動させることにより、吊荷と床FL上のコイルCO等の障害物との衝突防止を行うことができる。
また、巻下げと水平動作の同時動作時は、シミュレータで導き出された最短経路から、巻下げの制動距離BDだけ上方に安全経路SRを引き、その経路上を移動させることにより、吊荷と床FL上のコイルCO等の障害物との衝突防止を行うことができる。
或いは、シミュレータの演算時に制動距離だけ進行方向後方にすることを加味して演算をすることもできる。
【0032】
制動距離とは、電磁ブレーキなどの摩擦制動ブレーキでの制動距離や荷振れや、通常減速での制動距離など、様々な条件の制動で、障害物と吊荷が干渉しないその速度での最大の距離を示している。
この時、摩擦制動ブレーキは、湿度や油、粉塵などのレールへの付着状態によるスリップや、レールの勾配やうねりの状態等による影響など様々な要因で変動し、速度制御装置による通常減速より摩擦制動ブレーキによる制動の方が長くなる場合もあり、これらの要素を加味し、制動距離は余裕のある長い目の距離に見ておくと安全である。
【0033】
ところで、コイルCOを掴んで搬送する場合の実施例について説明したが、コイルを掴みに向かう場合も同じで、コイルを掴む吊具と床FL上のコイルCOとの干渉を避ける形で第一のステップから第二のステップを経て第三のステップを動作させることになる。
【0034】
ここで、長方形RAや長方形RA2は、天井クレーンや橋形クレーンなどの横行や走行や、テルハクレーンの走行等、直線に水平動作する軸の組み合わせで、長方形RAや長方形RA2の各辺は、横行や走行と並行の辺である。旋回ジブクレーンやポーラ型旋回天井クレーン等は、長方形でなく円形部分形状になるが、形状が変わっても考え方は同じである。
ところで、横行と走行の距離が同じになる場合は正方形になるが、ここでいう長方形RAや長方形RA2は、正方形を含んでいる。
また、ここでいう水平移動とは、天井クレーン等の横行や走行のことであり、旋回クレーンについては、旋回や水平引き込み等が水平移動に該当する。
【0035】
自動クレーンの適用例として多いコイルの自動運搬での実施例について記載したが、搬送対象物を限定するものではなく、搬送対象物がスラブであったり、製紙ロールや、ごみや、セメント原料であったり、様々な自動搬送に適用可能で、搬送対象物を限定するものではない。
【0036】
以上、本発明のクレーン衝突防止制御システムについて、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のクレーン衝突防止制御システムによれば、巻上げと水平動作を行った時に生ずる吊荷と床上の障害物との衝突の危険性を回避し、安全に巻上げと水平動作を同時に動作させることが可能で、従来の安全高さまで巻上げてから水平動作を行っていた自動クレーンに対し、手動運転クレーンと同等以上の搬送能力を確保することが可能で、産業上有効に利用できる。
【符号の説明】
【0038】
CR 自動クレーン
HW 吊荷
CO 障害物
FL 床
SL 開始位置
FR 最短経路
ER 非常時経路
SR 安全経路
BD 制動距離
HV 巻上げ速度
LV 走行速度
SH 安全高さ
CL 現在位置
DL 目的位置
TL 走行
TS 横行
RA 長方形
LP 走行衝突距離
SP 横行衝突距離
LC 走行衝突ライン
SC 横行衝突ライン
LS 走行可能ライン
SS 横行可能ライン
DP 水平移動可能対角位置
RA2 長方形