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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030709
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】プログラム及びエフェクタ
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/00 20060101AFI20240229BHJP
   H04R 3/04 20060101ALI20240229BHJP
   G10K 15/00 20060101ALN20240229BHJP
【FI】
G10H1/00 C
H04R3/04
G10K15/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133773
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】302022382
【氏名又は名称】株式会社ズーム
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 俊
【テーマコード(参考)】
5D220
5D478
【Fターム(参考)】
5D220AB01
5D478DE00
(57)【要約】
【課題】デジタル信号の入力レベルに応じて、このデジタル信号に付加される対象物の音響特性を動的に変化させることが可能なプログラム、及びこのプログラムがメモリにインストールされたエフェクタを提供する。
【解決手段】入力されるデジタル信号に対象物の音響特性を付加するためのプログラムであって、デジタル信号の入力レベルを検出する処理S1と、入力レベルを少なくとも1つの閾値と比較して、複数のIR(Impulse Response)データのそれぞれの混合割合を決定する処理S2、S3と、処理S3で決定された混合割合に従って、複数のIRデータのそれぞれをデジタル信号に畳み込む処理S4、S5と、を含む処理をプロセッサに実行させ、複数のIRデータのそれぞれは、対象物に入力されるインパルスのレベルを異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものである。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されるデジタル信号に少なくとも1つの対象物の音響特性を付加するためのプログラムであって、
前記デジタル信号の入力レベルを検出する第1処理と、
前記入力レベルを少なくとも1つの閾値と比較して、複数のIR(Impulse Response)データのそれぞれの混合割合を決定する第2処理と、
前記第2処理で決定された混合割合に従って、前記複数のIRデータのそれぞれを前記デジタル信号に畳み込む第3処理と、を含む処理をプロセッサに実行させ、
前記複数のIRデータのそれぞれは、前記対象物に入力されるインパルスのレベルを異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものである、プログラム。
【請求項2】
前記第3処理が、前記第2処理で決定された混合割合に従って、前記複数のIRデータのそれぞれを混合することによって得られるFIR(Finite Impulse Response)係数を算出し、前記FIR係数を前記デジタル信号に畳み込むことである、請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記複数のIRデータのそれぞれは、1つの前記対象物に入力されるインパルスのレベルを異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものである、請求項1又は2に記載のプログラム。
【請求項4】
前記複数のIRデータのそれぞれは、2つ以上の前記対象物のそれぞれに入力されるインパルスのレベルを異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものである、請求項1又は2に記載のプログラム。
【請求項5】
前記対象物が、1つのスピーカキャビネットであり、前記複数のIRデータのそれぞれが、前記スピーカキャビネットに入力されるインパルス信号のレベルを異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものである、請求項3に記載のプログラム。
【請求項6】
前記対象物が、1つの楽器であり、前記複数のIRデータのそれぞれが、前記楽器に入力されるインパルス信号のレベルを異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものである、請求項3に記載のプログラム。
【請求項7】
前記対象物が、1つの空間であり、前記複数のIRデータのそれぞれが、前記空間に設置されたスピーカから発せられる、インパルス信号を音源とする音の音量を異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものである、請求項3に記載のプログラム。
【請求項8】
前記対象物が、2つ以上のスピーカキャビネットであり、前記複数のIRデータのそれぞれが、前記スピーカキャビネットのそれぞれに入力されるインパルス信号のレベルを異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものである、請求項4に記載のプログラム。
【請求項9】
前記対象物が、2つ以上の楽器であり、前記複数のIRデータのそれぞれが、前記楽器のそれぞれに入力されるインパルス信号のレベルを異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものである、請求項4に記載のプログラム。
【請求項10】
前記対象物が、2つ以上の空間であり、前記複数のIRデータのそれぞれが、前記空間のそれぞれに設置されたスピーカから発せられる、インパルス信号を音源とする音の音量を異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものである、請求項4に記載のプログラム。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のプログラムがメモリにインストールされたエフェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力されるデジタル信号に対象物の音響特性を付加するためのプログラム、及びこのプログラムがメモリにインストールされたエフェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からギターなどの楽器の音に、特定のスピーカキャビネットの音響特性を付加するデジタルエフェクトが知られている。例えば、本出願人が製造販売するマルチエフェクタである製品名「ZOOM(登録商標) G3n Multi-Effects Processor」及び製品名「ZOOM(登録商標) G3Xn Multi-Effects Processor」は、下記の5種類のスピーカキャビネット製品の響きをリアルに再現する機能を備える。
【0003】
【表1】
【0004】
スピーカキャビネットの音響特性は、インパルス応答(IR)によって測定される。インパルス応答は、入力されるインパルスに対する対象物からの出力である。例えば、対象物がスピーカキャビネットである場合は、スピーカキャビネットにインパルス信号を入力する。すると、スピーカキャビネットは、インパルス信号に応じた音を出力する。この音をマイクロホンで収音することにより、音が電気信号に変換され、スピーカキャビネットの音響特性を示すIRデータが取得される。デジタル信号処理によって、入力される楽器の音にIRデータを畳み込むことにより、スピーカキャビネットの音響特性が、出力される楽器の音に付加される。つまり、楽器の音は、特定のスピーカキャビネットから出力したような音色になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6664460号明細書
【特許文献2】米国特許第7026539号明細書
【特許文献3】米国特許第9202450号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インパルス応答は、一定のレベルのインパルスを対象物に入力することによって測定される。このため、インパルス応答は、対象物の静的な音響特性を測定して再現するものといえる。しかし、実際の対象物には、音源の音量に応じて異なる音響特性を示すものがある。例えば、スピーカキャビネットは、楽器の音量が小さい場合と大きい場合で、異なる音響特性を示す。このため、従来のインパルス応答の測定によって得られるIRデータでは、楽器の音量に応じてスピーカキャビネットの音響特性を動的に変化させることできない。従来のインパルス応答の測定によって得られるIRデータでは、楽器の音量と無関係に、1つの音量に対応する1つの音響特性しか再現することができない。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、デジタル信号の入力レベルに応じて、このデジタル信号に付加される対象物の音響特性を動的に変化させることが可能なプログラム、及びこのプログラムがメモリにインストールされたエフェクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するために、本発明のプログラムは、入力されるデジタル信号に少なくとも1つの対象物の音響特性を付加するためのプログラムであって、前記デジタル信号の入力レベルを検出する第1処理と、前記入力レベルを少なくとも1つの閾値と比較して、複数のIR(Impulse Response)データのそれぞれの混合割合を決定する第2処理と、前記第2処理で決定された混合割合に従って、前記複数のIRデータのそれぞれを前記デジタル信号に畳み込む第3処理と、を含む処理をプロセッサに実行させ、前記複数のIRデータのそれぞれは、前記対象物に入力されるインパルスのレベルを異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものである。
【0009】
(2)好ましくは、上記(1)のプログラムにおいて、前記第3処理が、前記第2処理で決定された混合割合に従って、前記複数のIRデータのそれぞれを混合することによって得られるFIR(Finite Impulse Response)係数を算出し、前記FIR係数を前記デジタル信号に畳み込むことである。
【0010】
(3)好ましくは、上記(1)又は(2)のプログラムにおいて、前記複数のIRデータのそれぞれは、1つの前記対象物に入力されるインパルスのレベルを異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものである。
【0011】
(4)好ましくは、上記(1)又は(2)のプログラムにおいて、前記複数のIRデータのそれぞれは、2つ以上の前記対象物のそれぞれに入力されるインパルスのレベルを異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものである。
【0012】
(5)好ましくは、上記(3)のプログラムにおいて、前記対象物が、1つのスピーカキャビネットであり、前記複数のIRデータのそれぞれが、前記スピーカキャビネットに入力されるインパルス信号のレベルを異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものである。
【0013】
(6)好ましくは、上記(3)のプログラムにおいて、前記対象物が、1つの楽器であり、前記複数のIRデータのそれぞれが、前記楽器に入力されるインパルス信号のレベルを異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものである。
【0014】
(7)好ましくは、上記(3)のプログラムにおいて、前記対象物が、1つの空間であり、前記複数のIRデータのそれぞれが、前記空間に設置されたスピーカから発せられる、インパルス信号を音源とする音の音量を異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものである。
【0015】
(8)好ましくは、上記(4)のプログラムにおいて、前記対象物が、2つ以上のスピーカキャビネットであり、前記複数のIRデータのそれぞれが、前記スピーカキャビネットのそれぞれに入力されるインパルス信号のレベルを異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものである。
【0016】
(9)好ましくは、上記(4)のプログラムにおいて、前記対象物が、2つ以上の楽器であり、前記複数のIRデータのそれぞれが、前記楽器のそれぞれに入力されるインパルス信号のレベルを異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものである。
【0017】
(10)好ましくは、上記(4)のプログラムにおいて、前記対象物が、2つ以上の空間であり、前記複数のIRデータのそれぞれが、前記空間のそれぞれに設置されたスピーカから発せられる、インパルス信号を音源とする音の音量を異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものである。
【0018】
(11)上記の目的を達成するために、本発明のエフェクタは、上記(1)又は(2)に記載のプログラムがメモリにインストールされる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のプログラム及びエフェクタによれば、デジタル信号の入力レベルに応じて、このデジタル信号に付加される対象物の音響特性を動的に変化させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の実施形態に係るインパルス応答の測定装置を示すブロック図である。
図2図2は、インパルス応答の測定に使用されるTSP(Time Stretched Pulse)信号の波形を示すグラフである。
図3図3は、TSP信号の周波数特性を示すグラフである。
図4図4は、スピーカキャビネットから発せられる音を小音量にしたときのインパルス応答IR1の波形を示すグラフである。
図5図5は、スピーカキャビネットから発せられる音を中音量にしたときのインパルス応答IR2の波形を示すグラフである。
図6図6は、スピーカキャビネットから発せられる音を大音量にしたときのインパルス応答IR3の波形を示すグラフである。
図7図7は、インパルス応答IR1の周波数特性を示すグラフである。
図8図8は、インパルス応答IR2の周波数特性を示すグラフである。
図9図9は、インパルス応答IR3の周波数特性を示すグラフである。
図10図10は、本発明の実施形態に係るエフェクタを示すブロック図である。
図11図11は、エフェクタを構成するデジタルシグナルプロセッサの処理S1~S5を示すフローチャートである。
図12図12は、デジタルシグナルプロセッサの処理S1~S5を説明するための概念図である。
図13図13は、デジタルシグナルプロセッサの処理S5を実行するためにプログラムされたFIR(Finite Impulse Response)フィルタを示す回路構成図である。
図14図14は、デジタルシグナルプロセッサの処理S4で使用されるIRデータファイルの構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のプログラム、及びこのプログラムがメモリにインストールされたエフェクタの実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
1.用語の意義
まず、本発明について使用される用語の意義について説明する。「対象物」の用語は、入力されるインパルスに対して音響特性を示す動産及び不動産を含む。「対象物」となる動産には、例えば、スピーカキャビネット、アンプ、楽器、ピックアップ及びマイクロホンなどの物が含まれる。「対象物」となる不動産には、例えば、コンサートホール、レコーディングスタジオ、スタジアム及び野外ステージなどの空間が含まれる。「インパルス」の用語には、対象物に入力される音源が広く含まれ、例えば、パルス信号、M系列(Maximum-length linear shift register sequence)信号、TSP(Time Stretched Pulse)信号などのインパルス信号、及びインパルス信号を音源とする音が含まれる。インパルスについての「入力」の用語には、インパルス信号を電気的に入力すること、及びインパルス信号を音源とする音をスピーカから発することが含まれる。例えば、対象物が電気機器である場合の「入力」は、インパルス信号を対象物に電気的に入力することを意味する。一方、対象物が空間である場合の「入力」は、インパルス信号を音源とする音をスピーカから対象物に発すること意味する。インパルスについての「レベル」の用語には、インパルス信号の信号レベル、及びインパルス信号を音源とする音の音量が含まれる。
【0023】
2.インパルス応答の測定
本実施形態のプログラムは、エフェクタに入力されたデジタル信号のレベルに応じて、複数のIRデータのそれぞれの混合割合を決定する処理と、この混合割合に従って、デジタル信号に複数のIRデータのそれぞれを畳み込む処理とを、デジタルシグナルプロセッサに実行させることを特徴とする。
【0024】
複数のIRデータのそれぞれは、対象物に入力されるインパルスのレベルを異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成される。図1は、対象物である特定のスピーカキャビネット4のインパルス応答を測定するための装置を示す。この装置は、パーソナルコンピュータ1、オーディオインターフェース2、パワーアンプ3、マイクロホン5及び騒音計6で構成される。
【0025】
パーソナルコンピュータ1は、オーディオインターフェース2を介して、パワーアンプ3及びマイクロホン5に電気的に接続される。パワーアンプ3は、対象物であるスピーカキャビネット4に電気的に接続される。マイクロホン5は、スピーカキャビネット4から発せられる音を収音するように配置される。騒音計6は、スピーカキャビネット4から発せられる音の音量を測定する。
【0026】
パーソナルコンピュータ1には、インパルス応答測定プログラムがインストールされている。インパルス応答測定プログラムは、インパルスの生成と出力、及びインパルス応答の取り込み、保存、解析などの処理をパーソナルコンピュータ1に実行させる。インパルス応答測定プログラムに従い、パーソナルコンピュータ1は、複数種類のインパルス信号を生成することが可能である。パーソナルコンピュータ1によって生成されるインパルス信号は、例えば、M系列信号及びTSP信号である。本実施形態では、図2に示されるTSP信号を用いてスピーカキャビネット4のインパルス応答を測定する。TSP信号は、正弦波の周波数を短時間に低い値から高い値まで連続的にスイープした信号である。図3は、図2のTSP信号の周波数特性を示す。
【0027】
パーソナルコンピュータ1から出力されたTSP信号は、オーディオインターフェース2を介して、パワーアンプ3に入力される。パワーアンプ3は、増幅率を設定することが可能な構成となっている。パワーアンプ3は、あらかじめ設定された増幅率に基づいて、入力されたTSP信号を増幅する。これにより、TSP信号の信号レベルに応じた音量の音が、スピーカキャビネット4から発せられる。この音が、スピーカキャビネット4のインパルス応答である。スピーカキャビネット4から発せられた音、すなわち、スピーカキャビネット4のインパルス応答は、マイクロホン5によって収音され、電気信号に変換される。電気信号に変換されたインパルス応答は、オーディオインターフェース2を介して、パーソナルコンピュータ1に取り込まれる。
【0028】
本実施形態では、スピーカキャビネット4から発せられる音の音量を小、中、大の3段階に変化させて、3回のインパルス応答IR1、IR2、IR3の測定を行う。スピーカキャビネット4から発せられる音の音量は、騒音計6によって測定する。騒音計6は、スピーカキャビネット4から1m離れた位置に設置される。3回のインパルス応答IR1、IR2、IR3の測定において、スピーカキャビネット4から発せられる音の音量の最大値が、下記の表2に示される値となるようにする。
【0029】
【表2】
【0030】
図4は、スピーカキャビネット4から発せられる音を小音量にしたときのインパルス応答IR1の波形を示す。図5は、スピーカキャビネット4から発せられる音を中音量にしたときのインパルス応答IR2の波形を示す。図6は、スピーカキャビネット4から発せられる音を大音量にしたときのインパルス応答IR3の波形を示す。インパルス応答IR1、IR2、IR3のそれぞれの周波数特性は、図7図8図9に示される。図4図6に示されるインパルス応答IR1、IR2、IR3のそれぞれのデータ(IRデータ)は、1つのIRデータファイルに結合される。このIRデータファイルは、本実施形態のプロクラムに従ったプロセッサの処理に用いられる。
【0031】
3.エフェクタ
図10は、本実施形態に係るエフェクタ10の主要な構成を示す。エフェクタ10は、主として、入力ジャック11、A/D変換器12、デジタルシグナルプロセッサ13、メモリ14、D/A変換器15、出力ジャック16を備える。メモリ14には、本実施形態に係るプログラムがインストールされる。
【0032】
入力ジャック11は、シールドケーブルを介して、例えば、ギターやベースなどの楽器が電気的に接続される。楽器から出力されるアナログ信号は、入力ジャック11を介して、エフェクタ10に入力される。A/D変換器12は、入力ジャック11に入力されるアナログ信号をデジタル信号に変換する。デジタルシグナルプロセッサ13は、メモリ14にインストールされた本実施形態のプログラムに従って、入力されるデジタル信号にスピーカキャビネット4の音響特性を付加するための処理を実行する。本実施形態のプログラムに従ったデジタルシグナルプロセッサ13の処理については、後述する。D/A変換器15は、デジタルシグナルプロセッサ13によって処理されたデジタル信号をアナログ信号に変換する。出力ジャック16は、シールドケーブルを介して、例えば、他のエフェクタやパワーアンプなどの外部機器に電気的に接続される。D/A変換器15によって変換されたアナログ信号は、出力ジャック16を介して、外部機器に出力される。
【0033】
4.デジタルシグナルプロセッサの処理
図11は、本実施形態のプログラムに従って実行されるデジタルシグナルプロセッサ13の処理S1~S5の流れを示す。上述したように、A/D変換器12によって変換されたデジタル信号は、デジタルシグナルプロッサ13に入力される。図11の処理S1~S5は、遅延されたデジタル信号に対して、例えば、360μsの周期で繰り返される。
【0034】
図11の処理S1において、デジタルシグナルプロセッサ13は、デジタル信号の入力レベルを検出する。
【0035】
次いで、図11の処理S2に進み、デジタルシグナルプロセッサ13は、デジタル信号の入力レベルを、図12に示される4つの閾値THR1、THR2、THR3、THR4と順番に比較する。次いで、図11の処理S3に進み、デジタルシグナルプロセッサ13は、処理2の比較の結果に基づいて、上述したインパルス応答IR1、IR2、IR3のそれぞれのIRデータの混合割合Mix1、Mix2、Mix3を決定する。
【0036】
図12中の(A)に示されるように、デジタルシグナルプロセッサ13は、デジタル信号の入力レベルが第1の閾値THR1よりも小さいと判断した場合、インパルス応答IR1のIRデータの混合割合Mix1を「1.0」、インパルス応答IR2のIRデータの混合割合Mix2を「0.0」、インパルス応答IR3のIRデータの混合割合Mix3を「0.0」と決定する。この結果、入力されたデジタル信号には、小音量にしたときのインパルス応答IR1のIRデータだけが適用されることになる。
【0037】
図12中の(B)に示されるように、デジタルシグナルプロセッサ13は、デジタル信号の入力レベルが第1の閾値THR1以上であり、且つ第2の閾値THR2よりも小さいと判断した場合、インパルス応答IR1のIRデータの混合割合Mix1を「1.0-Ratio」、インパルス応答IR2のIRデータの混合割合Mix2を「Ratio」、インパルス応答IR3のIRデータの混合割合Mix3を「0.0」と決定する。この場合のRatioは、(入力レベル-THR1)/(THR2-THR1)によって算出される。この結果、入力されたデジタル信号には、入力レベルに応じた混合割合で、小音量にしたときのインパルス応答IR1のIRデータと、中音量にしたときのインパルス応答IR2のIRデータとが適用されることになる。
【0038】
図12中の(C)に示されるように、デジタルシグナルプロセッサ13は、デジタル信号の入力レベルが第2の閾値THR2以上であり、且つ第3の閾値THR3よりも小さいと判断した場合、インパルス応答IR1のIRデータの混合割合Mix1を「0.0」、インパルス応答IR2のIRデータの混合割合Mix2を「1.0」、インパルス応答IR3のIRデータの混合割合Mix3を「0.0」と決定する。この結果、入力されたデジタル信号には、中音量にしたときのインパルス応答IR2のIRデータだけが適用されることになる。
【0039】
図12中の(D)に示されるように、デジタルシグナルプロセッサ13は、デジタル信号の入力レベルが第3の閾値THR3以上であり、且つ第4の閾値THR4よりも小さいと判断した場合、インパルス応答IR1のIRデータの混合割合Mix1を「0.0」、インパルス応答IR2のIRデータの混合割合Mix2を「1.0-Ratio」、インパルス応答IR3のIRデータの混合割合Mix3を「Ratio」と決定する。この場合のRatioは、(入力レベル-THR3)/(THR4-THR3)によって算出される。この結果、入力されたデジタル信号には、入力レベルに応じた混合割合で、中音量のときのインパルス応答IR2のIRデータと、大音量のときのインパルス応答IR3のIRデータとが適用されることになる。
【0040】
図12中の(E)に示されるように、デジタルシグナルプロセッサ13は、デジタル信号の入力レベルが第4の閾値THR4以上であると判断した場合、インパルス応答IR1のIRデータの混合割合Mix1を「0.0」、インパルス応答IR2のIRデータの混合割合Mix2を「0.0」、インパルス応答IR3のIRデータの混合割合Mix3を「1.0」と決定する。この結果、入力されたデジタル信号には、インパルス応答IR3のIRデータだけが適用されることになる。
【0041】
次いで、図11の処理S4に進み、デジタルシグナルプロセッサ13は、FIR(Finite Impulse Response)係数を算出する。FIR係数は、(Mix1×IR1)+(Mix2×IR2)+(Mix3×IR3)によって算出される。この数式から理解されるように、FIR係数は、処理S3で決定された混合割合Mix1、Mix2、Mix3に従って、3つのインパルス応答IR1、IR2、IR3のIRデータのそれぞれを混合したものである。
【0042】
次いで、図11の処理S5に進み、デジタルシグナルプロセッサ13は、処理4で算出されたFIR係数を入力されたデジタル信号に畳み込む。一般に、離散時間の時刻nにおける入力信号x及びインパルス応答hの畳み込みは、下記の数式(1)で表される。
【0043】
【数1】

但し、Mは、インパルス応答の長さ(サンプル数)である。
【0044】
図11の処理S5におけるFIR係数の畳み込みは、図13に示されるFIRフィルタ20によって行われる。FIRフィルタ20は、乗算器21、遅延器22及び加算器23で構成される。図13中のhは、フィルタ係数である。図13中のNは、フィルタ次数である。図11の処理S4で算出されたFIR係数は、図13中のフィルタ係数hとして使用される。このようなFIRフィルタ20によって、入力されたデジタル信号の入力レベルに応じたFIR係数が、デジタル信号に畳み込まれる。つまり、入力レベルに応じた混合比率に従って、3つのインパルス応答IR1、IR2、IR3のIRデータのそれぞれがデジタル信号に畳み込まれる。この結果、デジタル信号の入力レベルに応じて、このデジタル信号に付加されるスピーカキャビネット4の音響特性を動的に変化させることが可能となる。
【0045】
5.IRデータファイル
図11の処理S4において、デジタルシグナルプロセッサ13は、FIR係数を算出するために、図14に示されるIRデータファイル30を参照する。IRデータファイル30は、図4図6に示されるインパルス応答IR1、IR2、IR3のそれぞれのIRデータを1つに結合したデータ構造となっている。デジタルシグナルプロセッサ13は、IRデータファイル30からインパルス応答IR1、IR2、IR3のそれぞれのIRデータを読み出して、FIR係数を算出する。
【0046】
本実施形態のプログラムは、小音量、中音量、大音量のときの3つのインパルス応答IR1、IR2、IR3のIRデータを使用するが、IRデータの数は、特に限定されるものではない。例えば、スピーカキャビネット4から発せられる音の音量を4段階以上に細分化して、4つ以上のインパルス応答IR1~IRnのそれぞれのIRデータを取得する。これらのインパルス応答IR1~IRnのそれぞれのIRデータを結合させて、1つのIRデータファイル30にしてもよい。また、IRデータファイル30を構成するインパルス応答IR1~IRnのそれぞれのIRデータは、スピーカキャビネット4から発せられる音の音量が最も小さいインパルス応答IR1から最も大きいインパルス応答IRnまでの順番で結合されることが好ましい。
【0047】
6.その他
本発明のプログラム及びエフェクタは、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、インパルス応答を測定する対象物は、スピーカキャビネット4に限定されない。対象物には、入力されるインパルスに対して音響特性を示す動産及び不動産が含まれる。例えば、対象物が、コンサートホールのような空間である場合、図1に示されるスピーカキャビネット4の代わりに、モニタースピーカを使用する。図1に示されるスピーカキャビネット4は、表1に掲げられたスピーカキャビネット製品のような個性的な音響特性を有するものである。これに対し、モニタースピーカは、個性的な音響特性を有さず、原音を忠実に再現するものである。インパルス信号を音源とする音をモニタースピーカから対象物である空間に発することで、この空間のインパルス応答を測定することができる。空間のインパルス応答のデータは、例えば、特定のコンサートホールのリバーブを再現するために用いられる。
【0048】
また、インパルス応答を測定する対象物は、1つに限定されない。複数のIRデータは、2つ以上の対象物に入力されるインパルスのレベルを異ならせることによって測定されたインパルス応答に基づいて生成されたものであってもよい。2つ以上の対象物は、例えば、表1に掲げられた5種類のスピーカキャビネット製品である。5種類のスピーカキャビネット製品のそれぞれに入力されるインパルスのレベルを5段階に異ならせて、5回のインパルス応答IR1~IR5の測定を行う。インパルス応答IR1~IR5のデータは、5種類のスピーカキャビネット製品のそれぞれの音響特性を示す。デジタル信号の入力レベルに応じて、デジタル信号にインパルス応答IR1~IR5のIRデータが適用される。すなわち、デジタル信号の入力レベルに応じて、デジタル信号に異なるスピーカキャビネット製品の音響特性が付加される。
【符号の説明】
【0049】
1 パーソナルコンピュータ
2 オーディオインターフェース
3 パワーアンプ
4 スピーカキャビネット
5 マイクロホン
6 騒音計
10 エフェクタ
11 入力ジャック
12 A/D変換器
13 DSP(デジタルシグナルプロセッサ)
14 メモリ
15 D/A変換器
15 アウトプットジャック
20 FIRフィルタ
21 乗算器
22 遅延器
23 加算器
30 IRデータファイル
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