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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030711
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/176 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
B60T8/176 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133781
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】三浦 諒
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246BA02
3D246BA08
3D246DA01
3D246GB01
3D246HA72A
3D246JB02
(57)【要約】
【課題】電動駐車制動装置を作動させることによって車両の制動を補償する制動制御装置に関して、減速スリップを検出した際の制御を提案する。
【解決手段】制御装置10は、液圧制動装置80と電動駐車制動装置70とを有している車両90に適用される。液圧制動装置80によって生じさせる荷重に加えて電動駐車制動装置70によって生じさせる荷重であるEPB荷重によって車両90の制動中に制動力を発生させるように、回転体89に押し付けられる摩擦材88を電動駐車制動装置70によって助勢させる助勢制御を実行する助勢制御部15を備えている。助勢制御部15は、減速スリップを検出した際に、EPB荷重の発生が検出されている場合には、EPB荷重を減少させる方向に電気モータ71を駆動させるリリース処理を実行する一方で、EPB荷重の発生が検出されていない場合には、リリース処理を実行しないように構成している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と一体に回転する回転体に摩擦材が押し付けられる荷重をホイールシリンダ内の液圧を調整することによって生じさせることで、前記車輪に制動力を発生させる液圧制動装置と、前記回転体に前記摩擦材が押し付けられる荷重を電気モータの回転運動に応じて生じさせる電動駐車制動装置と、を有している車両に適用される制動制御装置であって、
前記車両を制動する際に前記液圧制動装置によって生じさせる荷重に加えて前記電動駐車制動装置によって生じさせる荷重によって制動力を発生させるように、前記回転体に押し付けられる前記摩擦材を前記電動駐車制動装置によって助勢させる助勢制御を実行する助勢制御部と、
前記電動駐車制動装置によって生じさせる荷重をEPB荷重として、該EPB荷重に応じた値を取得することで前記EPB荷重の発生を検出する荷重検出部と、
前記車輪の減速スリップを検出するスリップ検出部と、を備え、
前記車輪の減速スリップを検出した際に、前記助勢制御部は、前記EPB荷重の発生が検出されている場合には、前記EPB荷重を減少させる方向に前記電気モータを駆動させるリリース処理を実行する一方で、前記EPB荷重の発生が検出されていない場合には、前記リリース処理を実行しない制動制御装置。
【請求項2】
前記荷重検出部は、前記電気モータに流れる電流値を取得するものであり、該電流値が規定のしきい値よりも大きい場合に前記EPB荷重の発生を検出するように構成しており、
前記規定のしきい値は、前記EPB荷重が発生していない場合に前記電気モータに流れる電流値以上の値である
請求項1に記載の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車輪と一体に回転する回転体に対して、電気モータの駆動によって摩擦材を押し付けるように構成した電動駐車制動装置と、電動駐車制動装置の制御装置とが開示されている。摩擦材は、電気モータの回転運動を変換して直線運動される直動部材が移動することに応じて回転体に押し付けられる。
【0003】
特許文献1に開示されている制御装置は、直動部材の位置を推定することで、直動部材が過度に移動することを抑制するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-102413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電動駐車制動装置を備える車両では、車両の走行中に電動駐車制動装置を作動させることがある。たとえば、液圧制動装置による液圧によって摩擦材を回転体に押し付けることに加えて電動駐車制動装置による助勢によって摩擦材を回転体に押し付ける荷重を生じさせることがある。このような場合には、回転体に対する摩擦材の押し付けには電動駐車制動装置によって生じる荷重に加えて液圧に応じて生じる荷重が関与する。このため、直動部材の位置とEPB荷重の大きさとが必ずしも相関しないことがある。たとえば、液圧が発生していない状態でEPB荷重が生じ始める直動部材の位置は、液圧が発生している状態でEPB荷重が生じ始める直動部材の位置とは異なる。
【0006】
特許文献1に開示されている制動制御装置では、液圧制動装置および電動駐車制動装置の両方によって制動力を発生させる場合について考慮されていない。このため、液圧制動装置および電動駐車制動装置の両方によって制動力を発生させる際の制御に改良の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための制動制御装置は、車輪と一体に回転する回転体に摩擦材が押し付けられる荷重をホイールシリンダ内の液圧を調整することによって生じさせることで、前記車輪に制動力を発生させる液圧制動装置と、前記回転体に前記摩擦材が押し付けられる荷重を電気モータの回転運動に応じて生じさせる電動駐車制動装置と、を有している車両に適用される制動制御装置であって、前記車両を制動する際に前記液圧制動装置によって生じさせる荷重に加えて前記電動駐車制動装置によって生じさせる荷重によって制動力を発生させるように、前記回転体に押し付けられる前記摩擦材を前記電動駐車制動装置によって助勢させる助勢制御を実行する助勢制御部と、前記電動駐車制動装置によって生じさせる荷重をEPB荷重として、該EPB荷重に応じた値を取得することで前記EPB荷重の発生を検出する荷重検出部と、前記車輪の減速スリップを検出するスリップ検出部と、を備え、前記車輪の減速スリップを検出した際に、前記助勢制御部は、前記EPB荷重の発生が検出されている場合には、前記EPB荷重を減少させる方向に前記電気モータを駆動させるリリース処理を実行する一方で、前記EPB荷重の発生が検出されていない場合には、前記リリース処理を実行しないことをその要旨とする。
【0008】
車輪の減速スリップを検出した場合には、車輪のロックを抑制するために、たとえばアンチロックブレーキ制御を実行することが知られている。助勢制御の実行中においても、車輪の減速スリップを検出した場合には、車輪のロックを抑制するために制動力を調整することが好ましい。ここで、仮に、助勢制御の実行中においてEPB荷重が発生していない状態からリリース処理を行ったとしても当該リリース処理は制動力の減少に寄与しない。それだけでなく、不要なリリース処理が行われることで、EPB荷重を減少させる方向に電動駐車制動装置が過度に作動するおそれがある。
【0009】
上記構成によれば、車輪の減速スリップを検出した際にEPB荷重の発生が検出されている場合にはリリース処理が実行される。一方で、車輪の減速スリップを検出した際であってもEPB荷重の発生が検出されていない場合にはリリース処理が実行されない。このため、適当な機会にリリース処理を実行することができる。これによって、過度なリリース処理が行われることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、制動制御装置の一実施形態と、同制動制御装置の制御対象である車両と、を示す模式図である。
図2図2は、電動駐車制動装置を用いた助勢制御の実行中に図1の制動制御装置が行う処理の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、電動駐車制動装置を用いた助勢制御の実行中に図1の制動制御装置が行う処理の流れを示すフローチャートである。
図4図4は、図1の制動制御装置が適用される車両に関して、助勢制御を実行している際に減速スリップが発生した場合における各種状態の推移を示すタイミングチャートである。
図5図5は、図1の制動制御装置が適用される車両に関して、助勢制御を実行している際に減速スリップが発生した場合における各種状態の推移を示すタイミングチャートである。
図6図6は、図1の制動制御装置が適用される車両に関して、助勢制御を実行している際に減速スリップが発生した場合における各種状態の推移を示すタイミングチャートである。
図7図7は、図1の制動制御装置が適用される車両に関して、助勢制御を実行している際に減速スリップが発生した場合における各種状態の推移を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、制動制御装置の一実施形態である制御装置10について、図1図7を参照して説明する。
図1は、制動制御装置としての制御装置10と、制御装置10が適用される車両90と、を示す。
【0012】
車両90は、たとえば、四輪の車両である。図1には、車両90が備える車輪のうち一つの車輪91を例示している。
車両90は、液圧制動装置80を備えている。液圧制動装置80は、常用ブレーキとして用いられる。車両90は、車両90の運転者によって操作が可能な制動操作部材92を備えている。たとえば、制動操作部材92は、ブレーキペダルである。運転者は、制動操作部材92を操作することによって、液圧制動装置80を介して制動力を発生させて車両90を制動することができる。制動操作部材92の操作は、運転者による制動要求に相当する。
【0013】
車両90は、電動駐車制動装置70を備えている。電動駐車制動装置70は、駐車ブレーキとして用いることができる。電動駐車制動装置70は、後述のように、車両90の走行中に作動させることもできる。
【0014】
<液圧制動装置>
液圧制動装置80は、液圧発生装置を備えている。液圧制動装置80は、液圧アクチュエータ84を備えている。液圧制動装置80は、各車輪に対応した制動機構を備えている。制動機構は、対応する車輪に制動力を付与することができる。
【0015】
制動機構は、車輪91と一体回転する回転体89と、ブレーキキャリパ85と、によって構成されている。ブレーキキャリパ85は、ホイールシリンダ86と、ホイールシリンダ86内に配置されているピストン87と、回転体89に対して押し付けることができる摩擦材88と、によって構成されている。ピストン87において回転体89に向かい合う面には、摩擦材88が取り付けられている。ホイールシリンダ86には、ホイールシリンダ86内にブレーキ液を供給する給排孔86aが形成されている。制動機構の一例は、ディスクブレーキである。
【0016】
制動機構は、ホイールシリンダ86内の液圧に応じて車輪91に摩擦制動力を発生させることができる。以下では、ホイールシリンダ86内の液圧のことをWC圧ということもある。制動機構は、WC圧が高いほど、回転体89に対して摩擦材88を押し付ける力が大きくなるように構成されている。すなわち、制動機構は、WC圧が高いほど大きな制動力を車輪91に付与することができる。以下では、WC圧に応じて回転体89に対して摩擦材88が押し付けられる力のことを、液圧荷重という。
【0017】
液圧制動装置80は、倍力装置81、マスタシリンダ82、およびブレーキ液が貯留されているリザーバタンク83を備えている。液圧発生装置は、倍力装置81、マスタシリンダ82、およびリザーバタンク83によって構成されている。
【0018】
倍力装置81は、制動操作部材92の操作を助勢して、助勢された操作力をマスタシリンダ82に伝達することができる。倍力装置81としては、公知の倍力装置を適宜採用することができる。たとえば、倍力装置としては、負圧ブースタ、ハイドロリックブースタ、電動ブースタ等が挙げられる。
【0019】
マスタシリンダ82は、制動操作部材92の操作に応じて液圧を発生させる。以下では、マスタシリンダ82が発生させる液圧のことをMC圧ということもある。マスタシリンダ82は、MC圧に応じた量のブレーキ液を液圧アクチュエータ84に圧送する。
【0020】
液圧アクチュエータ84は、マスタシリンダ82とホイールシリンダ86との間に配置されている。液圧アクチュエータ84を介してマスタシリンダ82からホイールシリンダ86にブレーキ液が供給される。液圧アクチュエータ84は、ブレーキ液の流路を備えている。ブレーキ液の流路は、各車輪に対応するホイールシリンダに接続されている。液圧アクチュエータ84は、たとえば、流路に配置されている複数の電磁弁、流路に配置されているポンプ、およびポンプを駆動するためのポンプ駆動モータ等によって構成されている。
【0021】
<電動駐車制動装置>
電動駐車制動装置70は、液圧制動装置80における制動機構と一部の構成を共用している。
【0022】
電動駐車制動装置70は、電気モータ71を備えている。電動駐車制動装置70は、電気モータ71の駆動に応じて回転する出力軸部材74を備えている。電動駐車制動装置70は、電気モータ71の駆動力を出力軸部材74に伝達する伝達機構72を備えている。伝達機構72には、入力軸として電気モータ71の回転軸部材71aが接続されている。伝達機構72は、たとえば、減速機構を備えている。
【0023】
電動駐車制動装置70は、変換機構73を備えている。変換機構73は、電気モータ71の回転運動を直線運動に変換する機構である。
変換機構73の一例は、ねじ軸とナットとによって構成されている送りねじである。電動駐車制動装置70は、たとえば、変換機構73を構成する直動部材75を備えている。変換機構73は、出力軸部材74と直動部材75とによって構成されている。出力軸部材74は、ねじ軸に対応する。すなわち、出力軸部材74の外周面には、おねじが形成されている。出力軸部材74には、直動部材75が取り付けられている。直動部材75は、ナットに対応する。すなわち、直動部材75は、めねじが内周面に形成されている筒状である。変換機構73では、出力軸部材74のおねじと直動部材75のめねじとが噛み合わされている。このため、出力軸部材74が回転すると、出力軸部材74の軸心に沿って延びる方向に直動部材75が移動する。直動部材75は、変換機構73によって直線運動されるものである。直動部材75が移動する方向は、出力軸部材74の回転方向に応じて、出力軸部材74の軸心に沿って延びる方向のうち一方または他方に定まる。
【0024】
変換機構73は、セルフロック機構を備えている。セルフロック機構は、出力軸部材74の回転が停止している状態では、直動部材75が直線運動する方向に直動部材75に対して力が作用しても直動部材75の位置が保持される機構である。セルフロック機構は、たとえば、出力軸部材74のおねじと直動部材75のめねじとの噛み合わせによる摩擦力によって実現されている。
【0025】
電動駐車制動装置70では、直動部材75は、ホイールシリンダ86内に配置されている。電動駐車制動装置70では、直動部材75がピストン87を介して回転体89に摩擦材88を押し付けることで、回転体89に摩擦材88が押し付けられる荷重を生じさせることができる。このように電動駐車制動装置70によって生じさせる荷重を、以下では、EPB荷重ということもある。
【0026】
なお、電動駐車制動装置70としては、EPB荷重が作用する際に直動部材75がピストン87に直接接触する構成に限らない。電動駐車制動装置70としては、直動部材75とピストン87との間に介在する押圧子が配置されている構成でもよい。たとえば、押圧子は、直動部材75およびピストン87と分離が可能である。押圧子の他の例は、直動部材75の先端に取り付けられている。
【0027】
電動駐車制動装置70は、電気モータ71の回転軸部材71aが第1方向に回転することによって直動部材75がピストン87に近づく方向に移動するように構成されている。一方で、電気モータ71の回転軸部材71aが第1方向とは反対の方向である第2方向に回転することによって、電動駐車制動装置70は、直動部材75がピストン87から離れる方向に移動するように構成されている。以下では、出力軸部材74の軸心に沿って延びる方向において直動部材75がピストン87に近づく方向のことを押圧方向という。
【0028】
電動駐車制動装置70は、たとえば、車両90が備える車輪のうち後輪に対応する各制動機構に設けられている。電動駐車制動装置70は、車両90が備える車輪のうち前輪に対応する各制動機構に設けられていてもよい。電動駐車制動装置70は、全ての制動機構に設けられていてもよいし、一つの制動機構に設けられていてもよい。
【0029】
電動駐車制動装置70は、制御ユニット30を備えている。制御ユニット30は、電動駐車制動装置70によって各車輪に生じさせる荷重を各別に調整することができる。制御ユニット30は、周辺回路を備えている。制御ユニット30は、制御装置10と周辺回路とによって構成されている。図1に示す駆動回路20は、制御ユニット30が備える周辺回路の一例である。
【0030】
駆動回路20は、電気モータ71に電力を供給する回路である。駆動回路20は、車両90に搭載されている車載バッテリに接続されている。駆動回路20は、制御装置10によって制御される。
【0031】
駆動回路20は、電気モータ71に流れる電流値Imを検出できる手段を備えている。一例として、駆動回路20は、電流検出回路を備えている。駆動回路20は、電流センサを備えていてもよい。
【0032】
駆動回路20は、電気モータ71に印加される電圧値を検出できる手段を備えていてもよい。たとえば、駆動回路20は、電圧センサを備えていてもよい。駆動回路20は、電圧検出回路を備えていてもよい。
【0033】
<各種センサ>
車両90は、各種センサを備えている。図1には、各種センサの一例として、車輪速センサSE1、圧力センサSE2、および操作量センサSE3を示している。各種センサからの検出信号は、制御装置10に入力される。
【0034】
車輪速センサSE1は、車輪速度を検出するセンサである。車輪速センサSE1は、各車輪に設けられている。
圧力センサSE2は、液圧制動装置80によって付与させる制動力に対応する液圧を検出するセンサである。圧力センサSE2の一例は、MC圧を検出するセンサである。圧力センサSE2の他の例は、WC圧を検出するセンサである。圧力センサSE2からの検出信号に基づいて、制御装置10は、液圧制動装置80によって付与させる制動力に対応する液圧を取得することができる。
【0035】
操作量センサSE3は、制動操作部材92の操作量を検出するセンサである。操作量センサSE3からの検出信号に基づいて、制御装置10は、制動操作部材92の操作量を取得することができる。操作量の一例は、運転者による操作によって変位する制動操作部材92の変位量である。操作量の他の例は、運転者によって制動操作部材92に加えられる操作力である。
【0036】
<他の制御ユニット>
車両90は、他の制御ユニットを備えていてもよい。たとえば、図1に示すように、車両90は、液圧制御ユニット40を備えていてもよい。車両90は、支援制御ユニット50を備えていてもよい。各制御ユニットは、車載ネットワーク99を介して相互に通信可能に接続されている。各制御ユニットは、各機能を実現するための処理回路を備えている。
【0037】
支援制御ユニット50は、車両90の走行速度を自動的に調整する運転支援制御を実行することができる。運転支援制御としては、たとえば、自動運転、自動駐車、アダプティブクルーズコントロール、レーンキープアシスト、ダウンヒルアシストおよび衝突回避ブレーキ等が挙げられる。
【0038】
液圧制御ユニット40は、液圧制動装置80を制御することができる。
液圧制御ユニット40は、一例として、液圧制動装置80に機能失陥が生じているか否かを判定する機能を備えている。たとえば、液圧制御ユニット40は、倍力装置81の失陥を検出することができる。判定する方法としては、たとえば、目標制動力BPTに対して液圧制動力BPPが小さく、目標制動力BPTと液圧制動力BPPとの差が判定値よりも大きくなった場合に、失陥が生じていると判定する方法がある。ここで、目標制動力BPTは、制動要求に対応する値である。目標制動力BPTは、車両90に付与する制動力の目標値である。たとえば、目標制動力BPTは、制動操作部材92の操作量に基づいて算出することができる。液圧制動力BPPは、液圧制動装置80によって付与される制動力の推定値である。たとえば、液圧制動力BPPは、圧力センサSE2からの検出信号に基づいて算出することができる。判定値は、予め実験等によって算出した値を用いることができる。
【0039】
液圧制御ユニット40は、液圧アクチュエータ84を制御する機能を備えていてもよい。たとえば、各ホイールシリンダ86に供給するブレーキ液を制御して各WC圧を各別に調整する機能が挙げられる。
【0040】
液圧制御ユニット40は、支援制御ユニット50が実行する運転支援制御に従ってWC圧を調整する機能を備えていてもよい。
液圧制御ユニット40は、車輪速センサSE1からの検出信号に基づいて、各車輪91の車輪速度を算出する機能を備えていてもよい。液圧制御ユニット40は、各車輪速度に基づいて車体速度を算出することもできる。車体速度は、車両90の走行速度を示す。
【0041】
液圧制御ユニット40は、各車輪91のスリップ量を算出する機能を備えていてもよい。車輪91のスリップ量は、車体速度および車輪速度に基づいて算出することができる。
液圧制御ユニット40は、各車輪91に減速スリップが発生しているか否かを判定する機能を備えていてもよい。たとえば、スリップ量が規定の判定量を超えている場合に、減速スリップが発生していると判定することができる。
【0042】
液圧制御ユニット40は、アンチロックブレーキ制御を実行することもできる。以下では、アンチロックブレーキ制御をABS制御という。ABS制御は、車両90を制動する際に制動力の調整を介して車輪91のスリップ量を小さくすることによって、車輪91のロックを抑制する制御である。液圧制御ユニット40は、たとえば、減速スリップを検出した場合にABS制御を開始することができる。液圧制御ユニット40は、ABS制御を開始すると、スリップ量に応じてWC圧を調整するように液圧制動装置80を作動させる。
【0043】
<制御装置>
制御装置10は、各種の制御を実行する複数の機能部によって構成されている処理回路である。図1には、機能部の一例として、スリップ検出部11、液圧検出部12、荷重検出部13、モータ制御部14、および助勢制御部15を示している。制御装置10が備える各機能部は、互いに情報の送受信が可能である。
【0044】
スリップ検出部11は、車輪91の減速スリップを検出する。たとえば、スリップ検出部11は、減速スリップが発生しているか否かを示す情報を取得することができる。他の例として、減速スリップが発生しているか否かをスリップ検出部11が判定することもできる。たとえば、スリップ検出部11は、スリップ量が規定の判定量を超えている場合に、減速スリップの発生を検出することができる。スリップ量は、液圧制御ユニット40が算出する値を取得することができる。スリップ検出部11は、スリップ量を算出してもよい。
【0045】
液圧検出部12は、液圧制動装置80の作動によって発生する液圧を検出する。たとえば、液圧検出部12は、MC圧を取得する。液圧検出部12は、MC圧が「0」よりも大きい場合に液圧の発生を検出する。液圧検出部12は、WC圧を取得して、WC圧が「0」よりも大きい場合に液圧の発生を検出するように構成してもよい。
【0046】
荷重検出部13は、EPB荷重に応じた値を取得することでEPB荷重の発生を検出する。
一例として荷重検出部13は、電気モータ71に流れる電流値Imを取得する。荷重検出部13は、電流値Imの絶対値が規定のしきい値である電流判定値Imthよりも大きい場合にEPB荷重の発生を検出するように構成している。この例では、電流値ImがEPB荷重に応じた値に対応する。電流判定値Imthは、たとえば、EPB荷重が発生していない場合に電気モータ71に流れる電流の大きさに等しい。すなわち、電流判定値Imthには、電気モータ71の無負荷電流値を採用できる。電流判定値Imthは、EPB荷重が発生していない場合に電気モータ71に流れる電流値よりも大きい値でもよい。
【0047】
なお、荷重検出部13が電流値Imとして取得する値は、電気モータ71に流れる突入電流を考慮して、突入電流が収束してからの値である。たとえば、荷重検出部13は、電気モータ71に電圧が印加される度に電流値Imを取得する。たとえば、荷重検出部13は、電圧の印加が停止される直前の電流値Imを取得する。
【0048】
他の例として荷重検出部13は、摩擦材88が回転体89に押し付けられる総荷重と、液圧検出部12が検出する液圧と、に基づいてEPB荷重に応じた値を取得するようにしてもよい。たとえば、総荷重から液圧荷重を減算した値がEPB荷重に相当する。たとえば、総荷重は、荷重センサによって検出することができる。
【0049】
モータ制御部14は、PWM(Pulse Width Modulation)制御によって、電気モータ71を駆動させる。すなわち、モータ制御部14は、駆動信号を生成して、当該駆動信号を駆動回路20に出力する。駆動信号に応じて駆動回路20が切り換えられることで、電気モータ71が駆動される。モータ制御部14は、電気モータ71の電流値Imの目標値として目標電流値Imtを設定する。モータ制御部14は、目標電流値Imtに基づいて駆動信号におけるデューティ比を算出する。モータ制御部14は、デューティ比に基づいて駆動信号を生成する。
【0050】
電気モータ71を駆動させる処理として、アプライ処理およびリリース処理がある。アプライ処理は、電気モータ71の回転軸部材71aが第1方向に回転するように電気モータ71を駆動させる電圧を電気モータ71に印加する処理である。すなわち、アプライ処理は、直動部材75がピストン87に押し付けられる荷重を増加させる方向に電気モータ71を駆動させる電圧を電気モータ71に印加する処理である。言い換えれば、アプライ処理は、摩擦材88を回転体89に押し付ける荷重を増加させる方向に電気モータ71を駆動させる処理である。リリース処理は、電気モータ71の回転軸部材71aが第2方向に回転するように電気モータ71を駆動させる電圧を電気モータ71に印加する処理である。すなわち、リリース処理は、直動部材75がピストン87に押し付けられる荷重を減少させる方向に電気モータ71を駆動させる電圧を電気モータ71に印加する処理である。言い換えれば、リリース処理は、摩擦材88を回転体89に押し付ける荷重を減少させる方向に電気モータ71を駆動させる処理である。たとえば、アプライ処理では、電気モータ71に正電圧が印加される。この場合には、リリース処理では、電気モータ71に負電圧が印加される。
【0051】
助勢制御部15は、助勢制御を実行することができる。助勢制御は、車両90を制動する際に液圧制動装置80によって生じさせる荷重に加えて電動駐車制動装置70によって生じさせる荷重によって制動力を発生させることができる。助勢制御では、回転体89に押し付けられる摩擦材88を電動駐車制動装置70の直動部材75によって助勢させる。
【0052】
<助勢制御>
助勢制御について、より詳細に説明する。
助勢制御は、たとえば、開始条件が成立している場合に助勢制御部15によって開始される。助勢制御部15は、車両90の制動中に液圧制動装置80によって付与される制動力によって制動要求に対応する目標制動力を満たせない場合に、開始条件が成立していると判定する。なお、車両90の制動中とは、車両90の走行中に車両90に制動力が付与されている状態である。
【0053】
開始条件の一例を説明する。たとえば、助勢制御部15は、液圧制動装置80に機能失陥が生じている場合に開始条件が成立していると判定する。液圧制動装置80の失陥の一例は、倍力装置81の失陥である。液圧制動装置80に失陥が生じているか否かは、たとえば、液圧制御ユニット40が行う失陥判定の結果を取得することによって判定できる。
【0054】
たとえば、助勢制御部15は、制動中に目標制動力BPTおよび液圧制動力BPPの値を取得して、目標制動力BPTと液圧制動力BPPとの乖離が生じている場合に開始条件が成立していると判定することもできる。たとえば、目標制動力BPTと液圧制動力BPPとが乖離しているか否かは、その乖離幅が判定値よりも大きいか否かによって判定できる。ここで用いる判定値は、液圧制動装置80の失陥を判定する際に用いられる判定値と同じ値でもよいし異なる値を採用してもよい。
【0055】
また、助勢制御は、開始条件が成立しているか否かにかかわらず、車両90の走行中に電動駐車制動装置70を作動させることを許容されている場合に開始されてもよい。たとえば、EPBスイッチがONに操作されている場合に、電動駐車制動装置70を作動させることが許容されていると判定できる。EPBスイッチは、たとえば、車両90の運転者が操作できるスイッチである。
【0056】
助勢制御の一例では、助勢制御部15は、アプライ処理によって電気モータ71に流れる電流値Imの目標値として目標電流値Imtを算出する。助勢制御部15は、算出した目標電流値Imtに基づいて、モータ制御部14によって電気モータ71を駆動させる。
【0057】
たとえば、助勢制御部15は、次のように目標電流値Imtを算出する。助勢制御部15は、目標制動力BPTから液圧制動力BPPを減算した差分を算出する。助勢制御部15は、差分に相当する制動力をEPB荷重によって付与することができるように、EPB荷重の目標値を算出する。助勢制御部15は、EPB荷重の目標値を作用させることができる目標電流値Imtを算出する。
【0058】
助勢制御の一例では、助勢制御部15は、電流値Imが目標電流値Imt以下である場合にアプライ処理を実行する。助勢制御部15は、電流値Imが目標電流値Imtよりも大きい場合にリリース処理を実行することができる。
【0059】
助勢制御は、たとえば、終了条件が成立している場合に助勢制御部15によって終了される。
終了条件の一例について説明する。助勢制御部15は、たとえば、車両90が停止した場合に終了条件が成立したと判定することができる。ここでの車両90の停止とは、たとえば、車両90が走行している状態から車両90の車体速度が「0」の状態になることである。車両90の停止には、車速が「0」になる直前であり車体速度が「0」よりも僅かに大きい状態を含んでいてもよい。車体速度に限らず、車輪速度、車両90の前後加速度等に基づいて車両90が停止したか否かを判定することもできる。
【0060】
助勢制御部15は、たとえば、車体速度が判定速度以下になった場合に終了条件が成立したと判定することもできる。すなわち、車両90の停止に至っていない減速中に助勢制御を終了してもよい。
【0061】
助勢制御部15は、たとえば、制動要求が解消された場合に終了条件が成立したと判定することもできる。たとえば、制動操作部材92の操作が解消された場合に制動要求が解消されたと判定することができる。
【0062】
助勢制御部15は、助勢制御の実行中に減速スリップを検出した際に車輪91のロックを抑制するように電動駐車制動装置70を制御する機能を備えている。助勢制御の実行中に助勢制御部15が実行する処理の流れの一例を図2に示す。
【0063】
図2に示す処理ルーチンは、助勢制御の実行中に所定の周期毎に繰り返し実行される。
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS101では、助勢制御部15は、減速スリップが生じているか否かを判定する。スリップ検出部11によって減速スリップが検出されていない場合には(S101:NO)、助勢制御部15は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、スリップ検出部11によって減速スリップが検出されている場合には(S101:YES)、助勢制御部15は、処理をステップS102に移行する。なお、本処理ルーチンが開始されてから終了されるまでの間は、目標電流値Imtを用いた電気モータ71の制御が行われない。
【0064】
ステップS102では、助勢制御部15は、液圧が生じているか否かを判定する。液圧検出部12によって液圧が検出されている場合には(S102:YES)、助勢制御部15は、処理をステップS103に移行する。
【0065】
ステップS103では、助勢制御部15は、EPB荷重が生じているか否かを判定する。具体的には、荷重検出部13によって電流値Imの絶対値が電流判定値Imthよりも大きいと判定されている場合にEPB荷重が生じていると判定する。すなわち、電流値Imの絶対値が電流判定値Imthよりも大きい場合には(S103:YES)、助勢制御部15は、処理をステップS104に移行する。
【0066】
ステップS104では、助勢制御部15は、リリース処理を実施する。リリース処理として電気モータ71に電圧が印加されると、EPB荷重が減少する方向に直動部材75が移動する。リリース処理によって電圧の印加を開始してから規定期間が経過すると、助勢制御部15は、電圧の印加を終了させる。その後、助勢制御部15は、本処理ルーチンを終了する。
【0067】
一方で、ステップS103の処理において、電流値Imの絶対値が電流判定値Imth以下である場合、すなわちEPB荷重が生じていない場合には(S103:NO)、助勢制御部15は、処理をステップS105に移行する。
【0068】
ステップS105では、助勢制御部15は、電気モータ71に電圧を印加することなく電動駐車制動装置70を待機させる。その後、助勢制御部15は、本処理ルーチンを終了する。
【0069】
助勢制御部15は、ステップS102の処理において、液圧検出部12によって液圧が検出されていない場合には(S102:NO)、処理をステップS104に移行する。助勢制御部15は、リリース処理を実施すると、本処理ルーチンを終了する。
【0070】
図3に示すように、助勢制御部15は、助勢制御の実行中に減速スリップが継続する場合には、助勢制御を終了することもできる。
図3は、助勢制御の実行中に助勢制御部15が実行する処理の流れを示す。図3に示す処理ルーチンは、助勢制御の実行中に所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0071】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS201において、助勢制御部15は、減速スリップが継続しているか否かを判定する。
減速スリップが継続しているとは、たとえば、減速スリップが検出された場合に実行されるステップS104の処理としてリリース処理を実施しても、減速スリップが解消していない状態をいう。たとえば、助勢制御部15は、所定回数のリリース処理を繰り返し実施しても減速スリップが解消していない場合に減速スリップが継続していると判定することができる。所定回数は、特に制限されないが、たとえば、二回以上の回数である。または、助勢制御部15は、減速スリップが検出されてから減速スリップが解消することなく所定時間が経過した場合に減速スリップが継続していると判定することもできる。この場合には、助勢制御部15は、上記所定時間が経過するまでの間にステップS105の処理として電動駐車制動装置70を待機させていてもよい。すなわち、助勢制御部15は、減速スリップが検出されてから電動駐車制動装置70を待機させた状態で所定時間が経過しても減速スリップが解消していない場合に減速スリップが継続していると判定することもできる。
【0072】
減速スリップが継続していない場合には(S201:NO)、助勢制御部15は、本処理ルーチンを一旦終了する。
一方、ステップS201の処理において、減速スリップが継続している場合には(S201:YES)、助勢制御部15は、処理をステップS202に移行する。ステップS202では、助勢制御部15は、助勢制御を終了する。すなわち、制動中にEPB荷重を発生させることを終了する。このとき、助勢制御部15は、リリース処理によって直動部材75を押圧方向とは反対の方向に移動させる。助勢制御を終了する際のリリース処理によって、直動部材75は、たとえば初期位置に移動される。直動部材75の初期位置とは、たとえば、直動部材75をピストン87から離れる方向に移動させるように電気モータ71に電圧を所定の時間印加することで直動部材75を移動させた位置である。助勢制御部15は、助勢制御を終了すると、本処理ルーチンを終了する。
【0073】
<作用および効果>
本実施形態の作用および効果について説明する。
図4および図5は、助勢制御においてアプライ処理を実行している際に減速スリップが発生した場合における各種状態の推移を示す。
【0074】
図6および図7は、助勢制御においてリリース処理を実行している際に減速スリップが発生した場合における各種状態の推移を示す。図6および図7は、たとえば、目標制動力BPTに占める液圧制動力BPPの割合が増大している場合の例である。目標制動力BPTに占める液圧制動力BPPの割合が増大しているとは、たとえば、目標制動力BPTが一定である場合に液圧制動力BPPが増大している場合である。
【0075】
図4の(a)、図5の(a)、図6の(a)、および図7の(a)には、液圧制動装置80の状態を表示している。具体的には、液圧制動装置80による液圧が検出されている期間を液圧「あり」と表示している。液圧制動装置80による液圧が検出されていない期間を液圧「なし」と表示している。
【0076】
図4の(b)、図5の(b)、図6の(b)、および図7の(b)には、電動駐車制動装置70の制御態様を表示している。具体的には、アプライ処理を実行している期間を「アプライ」と表示している。リリース処理を実行している期間を「リリース」と表示している。アプライ処理およびリリース処理のいずれの処理も実行していない期間を「待機」と表示している。
【0077】
図4の(c)、図5の(c)、図6の(c)、および図7の(c)には、電気モータ71に流れる電流の大きさの推移を示している。
図4の(d)、図5の(d)、図6の(d)、および図7の(d)には、減速スリップが検出されているか否かを表示している。具体的には、減速スリップが検出されている期間を減速スリップ「あり」と表示している。減速スリップが検出されていない期間を減速スリップ「なし」と表示している。
【0078】
なお、図4図7に示す例では、減速スリップが検出されるとABS制御が開始される。すなわち、減速スリップが検出されると、スリップ量に応じてWC圧を調整するように液圧制動装置80が作動される。
【0079】
まず、図4に示す例では、図4の(b)に示すように、タイミングt11からタイミングt14までの期間にアプライ処理が行われている。このアプライ処理に関して、図4の(c)に示すように、突入電流が収束してからの電流値Imは、電流判定値Imthよりも小さい値を推移している。すなわち、この時点では、アプライ処理によって直動部材75が押圧方向に移動しているものの、直動部材75がピストン87を介して摩擦材88を回転体89に押し付けていない状態にあり電気モータ71の負荷が小さい状態である。
【0080】
タイミングt12において、図4の(a)に示すように液圧が検出されている。タイミングt13において、図4の(d)に示すように減速スリップが検出されている。すなわち、制動力の増大に伴ってスリップ量が大きくなっている。
【0081】
助勢制御の実行中においては、車輪91の減速スリップを検出した場合には、車輪91のロックを抑制するために制動力を調整することが好ましい。ここで、助勢制御の実行中においてEPB荷重が発生していない状態からリリース処理を行ったとしてもリリース処理による直動部材75の移動は制動力の減少に寄与しない。それだけでなく、不要なリリース処理が行われることで、EPB荷重を減少させる方向に直動部材75が過度に移動するおそれがある。直動部材75が過度に移動すると、直動部材75が他の部材に干渉するおそれがある。また、不要なリリース処理が行われることでEPB荷重を減少させる方向に直動部材75が移動していると、次にアプライ処理が行われる際にEPB荷重の発生が遅延することもある。すなわち、電動駐車制動装置70の応答性が低下するおそれがある。
【0082】
この点、制御装置10によれば、減速スリップが検出されており(S101:YES)、液圧が検出されており(S102:YES)、且つ、EPB荷重が検出されていない場合には(S103:NO)、リリース処理を実行しない(S105)。このため、タイミングt14以降ではリリース処理が実行されない。このようにリリース処理を実行することなく電動駐車制動装置70を待機させることによって、直動部材75が過度に移動することを抑制できる。また、電動駐車制動装置70の応答性が低下することを抑制できる。なお、上記の場合のように液圧が検出されており且つEPB荷重が検出されていない場合の減速スリップは、ABS制御によって解消できる。
【0083】
次に、図5に示す例では、図5の(b)に示すように、タイミングt21からタイミングt24までの期間にアプライ処理が行われている。このアプライ処理に関して、図5の(c)に示すように、突入電流が収束してからの電流値Imは、タイミングt22までは電流判定値Imthよりも小さい値を推移している。タイミングt22において、図5の(a)に示すように液圧が検出されている。図5の(c)に示すように、タイミングt22からタイミングt24までの期間では、電流値Imが徐々に増大している。すなわち、電気モータ71の負荷が増大している。電流値Imの大きさは、タイミングt23において電流判定値Imthに達している。すなわち、タイミングt23においてEPB荷重が検出されている。タイミングt23において、図5の(d)に示すように減速スリップが検出されている。すなわち、制動力の増大に伴ってスリップ量が大きくなっている。
【0084】
制御装置10では、減速スリップが検出されており(S101:YES)、液圧が検出されており(S102:YES)、且つ、EPB荷重が検出されている場合には(S103:YES)、リリース処理を実行する(S104)。このため、図5の(b)に示すように、タイミングt25からタイミングt26までの期間において、リリース処理が実行されている。この結果として、直動部材75がEPB荷重を減少させる方向に移動される。これによって、EPB荷重が減少される。図5の(c)に示す例では、タイミングt25からのリリース処理に伴う突入電流が収束してからの電流値Imの大きさは、電流判定値Imthよりも小さい値で推移している。この結果として、タイミングt26よりも後では、EPB荷重が検出されないことによって、リリース処理が実行されない。
【0085】
続いて、図6に示す例では、図6の(b)に示すように、タイミングt31からタイミングt32までの期間にリリース処理が行われている。このリリース処理に関して、図6の(c)に示すように、突入電流が収束してからの電流値Imは、電流判定値Imthよりも小さい値を推移している。液圧は、図6の(a)に示すようにタイミングt31以降において検出されている。減速スリップは、図6の(d)に示すようにタイミングt32以降において検出されている。
【0086】
制御装置10によれば、減速スリップが検出されており(S101:YES)、液圧が検出されており(S102:YES)、且つ、EPB荷重が検出されていない場合には(S103:NO)、リリース処理を実行しない(S105)。このため、タイミングt32以降ではリリース処理が実行されない。
【0087】
次に、図7に示す例では、図7の(b)に示すように、タイミングt41からタイミングt42までの期間にリリース処理が行われている。このリリース処理に関して、図7の(c)に示すように、突入電流が収束してからの電流値Imは、電流判定値Imthよりも大きい値を推移している。電流値Imは、徐々に小さくなっている。これは、タイミングt41からタイミングt42までの期間において、EPB荷重が徐々に減少して電気モータ71の負荷が徐々に減少していることを示す。また、電流値Imは、リリース処理が終了するタイミングt42においても電流判定値Imthよりも大きい。すなわち、タイミングt42においてもEPB荷重が発生している。液圧は、図7の(a)に示すようにタイミングt41以降において検出されている。減速スリップは、図7の(d)に示すようにタイミングt42以降において検出されている。
【0088】
制御装置10では、減速スリップが検出されており(S101:YES)、液圧が検出されており(S102:YES)、且つ、EPB荷重が検出されている場合には(S103:YES)、リリース処理を実行する(S104)。このため、図7の(b)に示すように、タイミングt43からタイミングt44までの期間において、リリース処理が実行されている。この結果として、直動部材75がEPB荷重を減少させる方向に移動される。これによって、EPB荷重が減少される。このため、図7の(c)に示すように、リリース処理に伴う電流値Imの大きさは、突入電流が収束してから一時的に電流判定値Imthよりも大きくなるが、その後に電流判定値Imthよりも小さい値まで減少している。この結果として、タイミングt44よりも後では、EPB荷重が検出されないことによって、リリース処理が実行されない。
【0089】
また、制御装置10では、助勢制御の実行中に減速スリップを検出した際に、液圧が検出されていない場合には(S102:NO)、リリース処理を実施する(S104)。助勢制御の実行中において液圧が検出されていないということは、EPB荷重のみによって制動力が付与されていると推定できる。このため、リリース処理を行うことで制動力を減少させることができる。これによって、スリップ量を小さくして車輪91のロックを抑制することができる。
【0090】
以上のように、制御装置10によれば、減速スリップが発生している際に、この減速スリップが電動駐車制動装置70によって生じているか否かを判定することによって、適当な機会にリリース処理を実行することができる。すなわち、EPB荷重によって減速スリップが発生している場合にはリリース処理を行うことによってスリップ量を小さくすることができる。一方で、液圧荷重によって減速スリップが発生している場合には、不要なリリース処理を抑制することができる。これによって、直動部材75が過度に移動することを抑制できる。また、電動駐車制動装置70の応答性が低下することを抑制できる。
【0091】
(変更例)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0092】
・上記実施形態では、制動機構としてディスクブレーキを例示した。これに限らず、制動機構は、ドラムブレーキでもよい。回転体に対して液圧に応じて押し付けられる摩擦材を助勢するように構成されている電動駐車制動装置が適用されるドラムブレーキであれば、上記実施形態のように制御装置10を適用することができる。
【0093】
・処理回路である制御装置10、液圧制御ユニット40が備える処理回路、および支援制御ユニット50が備える処理回路は、以下のように構成できる。処理回路は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備える回路として構成できる。処理回路は、各種処理を実行する一つ以上のハードウェア回路を備える回路として構成できる。処理回路は、各種処理のうち一部の処理を実行する一つ以上のプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行する一つ以上のハードウェア回路とを組み合わせた回路として構成できる。
【0094】
プロセッサは、CPU等の処理装置を備える。プロセッサは、RAMおよびROMなどのメモリを備える。メモリは、処理を処理装置に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ、すなわち記憶媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。ハードウェア回路としては、たとえば、特定用途向け集積回路であるASICを挙げることができる。
【0095】
・液圧制御ユニット40が備える処理回路、および支援制御ユニット50が備える処理回路が実現する機能の一部または全部は、制御装置10によって実現されてもよい。
・制御装置10が実現する機能の一部は、制御装置10と接続されている他の処理回路によって実現されてもよい。
【符号の説明】
【0096】
10…制御装置
11…スリップ検出部
13…荷重検出部
14…モータ制御部
15…助勢制御部
30…制御ユニット
40…液圧制御ユニット
70…電動駐車制動装置
71…電気モータ
73…変換機構
74…出力軸部材
75…直動部材
80…液圧制動装置
86…ホイールシリンダ
88…摩擦材
89…回転体
90…車両
91…車輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7