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  • 特開-字消し及び筆記具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030729
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】字消し及び筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43L 19/00 20060101AFI20240229BHJP
   B43K 29/02 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B43L19/00 A
B43L19/00 B
B43K29/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133808
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】522338872
【氏名又は名称】未来創造開発センター合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002022
【氏名又は名称】弁理士法人コスモ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 友紀
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 孝
(72)【発明者】
【氏名】清水 爽香
(72)【発明者】
【氏名】山内 隆司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直樹
(57)【要約】
【課題】継続して使用された場合であっても紙面等を汚染することなくインクによる筆跡を消去することができる字消し及びそのような字消しを備える筆記具を提供する。
【解決手段】着色樹脂粒子を含むとともにバインダー樹脂が配合された対象インク30による筆跡を消去する字消し20であって、バインダー樹脂と字消し20の材質とのSP値の差が0.1以上であり、紙面上に吐出された対象インク30による皮膜からなる筆跡を擦り?して消去する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色樹脂粒子を含むとともにバインダー樹脂が配合されたインクによる筆跡を消去する字消しであって、
前記バインダー樹脂と前記字消しの材質とのSP値の差が0.1以上であり、
紙面上に吐出された前記インクによる皮膜からなる筆跡を擦り?して消去する、
字消し。
【請求項2】
前記着色樹脂粒子の平均粒子径が5μm以上かつ15μm以下である前記インクによる筆跡を消去する、請求項1に記載の字消し。
【請求項3】
前記字消しの表面に対して前記インクを滴下したときの接触角が60°未満である、請求項1に記載の字消し。
【請求項4】
前記バインダー樹脂がアクリロニトリルブタジエンゴムである前記インクによる筆跡を消去する、請求項1に記載の字消し。
【請求項5】
天然ゴム、合成ゴム、又は合成樹脂のいずれかを材質とする、請求項1に記載の字消し。
【請求項6】
材質がウレタンゴムである、請求項5に記載の字消し。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の字消しが外装部材に固定、装着、又は被覆されている、筆記具。
【請求項8】
前記インクが充填される、請求項7に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、字消し及び筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙面等に記載されたインクによる筆跡等を消去するための字消しが提案されている。例えば特許文献1には、熱変色性インク中に金属光沢顔料の粒子が添加されたインクによる筆跡を擦過することで摩擦熱によって筆跡を消色、変色させる摩擦体(字消し)が開示されている。この摩擦体は、粘弾性体を含み、弾性体として作用することで摩擦熱を発し、化学的に筆跡を消去、変色させるとともに粘性体として作用することで金属光沢顔料の粒子が添加されたインクを吸着剥離することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/116767号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示される摩擦体は、紙面等から吸着剥離された金属光沢顔料の粒子が添加されたインクが付着した状態のまま継続して使用されることにより、再び紙面等をインクで汚染してしまう虞があった。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みて創作されたものであり、継続して使用された場合であっても紙面等を汚染することなくインクによる筆跡を消去することができる字消し及び前記字消しを備える筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意研究を行った結果、インクにより紙面に形成された皮膜からなる筆跡を擦り?して消去する従来とは異なる原理の消去方法を用いることによりインクによる紙面等の汚染を抑制できること、及びこのように筆跡を擦り?して消去する字消しを実現するためのインクと字消しとの間の関係性を見出した。
【0007】
即ち、本発明の字消しは、着色樹脂粒子を含むとともにバインダー樹脂が配合されたインクによる筆跡を消去する字消しであって、前記バインダー樹脂と前記字消しの材質とのSP値の差が0.1以上であり、紙面上に吐出された前記インクによる皮膜からなる筆跡を擦り?して消去する。
【0008】
また、本発明の筆記具は、上記の字消しが外装部材に固定、装着、又は被覆されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、継続して使用された場合であっても再び紙面等を汚染することなくインクによる筆跡を消去することができる字消し及び前記字消しを備える筆記具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係るボールペンの外観を示す模式図であり、(a)はキャップを付けた状態を示し、(b)はキャップを外した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る字消しについて説明する。本実施形態に係る字消しは、消去対象となるインク、具体的には、着色樹脂粒子を含むとともにバインダー樹脂が配合されたインク(以下、「対象インク」という。)による筆跡を擦過して消去するために用いられる字消しである。紙面上に吐出された対象インクは、紙面に沈降することなく(換言すれば、紙の繊維の間に入り込むことなく)、対象インクによる筆跡が紙面上に皮膜を構成する。本実施形態に係る字消しは、このように対象インクにより紙面上に形成された皮膜からなる筆跡を擦り?し、消し屑を発生させつつ紙面上から筆跡を消去する。
【0012】
本実施形態に係る字消しは、例えばボールペン(筆記具)の外装部材に固定されて使用される。本明細書でいう外装部材とは、外部に露出されており、直接手で触れることができる部材をいう。筆記具における外装部材としては、例えばキャップ、先部材(先金)、筒軸(ケース)、尾栓、把持部材(グリップ部)、操作部材(ノック部)が挙げられる。図1(a)及び(b)は、実施形態に係る字消し20を備えるキャップ式のボールペン10の外観を示す模式図である。図1(a)、(b)に示すように、ボールペン10は、ケース(外装部材)12の内部に収納されるリフィール(不図示)のインクタンクに対象インク30が充填されている。対象インク30は、キャップ14に収容されるペン先10aから吐出されるようになっている。
【0013】
字消し20は、対象インク30に対してインク消去性を有する粘弾性体とされる。図1(a)及び(b)に示すように、字消し20は、ボールペン10のうちペン先10aとは反対側のペン端部10bにおいてケース12に固定されており、擦過操作の際にケース12から外れないようになっている。字消し20は、ケース12に固定されるだけでなく、ケース12に装着、又は被覆されていてもよい。また、ボールペン10において字消し20が取り付けられる部位はケース12に限定されず、ボールペン10の外部に露出する外装部材であればよい。
【0014】
対象インク30は、紙面上に吐出された際に、所定の厚みを有する皮膜を形成することが要求される。対象インク30に含まれる着色樹脂粒子は、内部にカーボンブラック等の顔料が内包されたアクリル系樹脂粒子又はウレタン系樹脂粒子であることが好ましい。また、着色樹脂粒子は対象インク30の溶媒との比重差が小さい(具体的には0.7以下)ことが好ましい。着色樹脂粒子は、例えばアクリルコポリマー微粒子である。
【0015】
対象インク30に含まれる着色樹脂粒子の平均粒子径は、5μm~15μmであることが好ましい。より好ましい着色樹脂粒子の平均粒子径は、6μmである。着色樹脂粒子の平均粒子径が5μmより小さければ、紙面上に吐出された対象インク30が紙面に沈降し易くなり、紙の繊維の間に入り込み易くなる。一方、着色樹脂粒子の平均粒子径が15μmより大きければ、筆跡濃度が低下する。着色樹脂粒子の平均粒子径が上記範囲内であることにより、対象インク30により紙面上に適度な筆跡濃度でインクが紙面に沈降しない皮膜からなる筆跡が形成される。
【0016】
対象インク30に含まれるバインダー樹脂は、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)であることが好ましい。バインダー樹脂がアクリロニトリルブタジエンゴムであると、紙面への密着性が優れているからである。アクリロニトリルブタジエンゴム以外に好ましいバインダー樹脂としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)等を挙げることができる。
【0017】
対象インク30は、上記の着色樹脂粒子及びバインダー樹脂以外に、着色樹脂粒子を分散させるためのノニオン系界面活性剤等の分散剤、対象インク30にいわゆるキャップオフ性を付与するための高沸点溶剤、着色樹脂粒子の紙面への沈降を抑えるための増粘剤、水等を含んでもよい。
【0018】
上記のような構成とされた対象インク30がボールペン10のペン先10aから紙面上に吐出されると、水等の溶媒成分が紙面に吸収されるとともに大気中に揮発し、紙面上に着色樹脂粒子及びバインダー樹脂からなる皮張り状の皮膜が、例えば1~100μmの厚みで形成される。以下に説明する字消し20は、このような皮膜により構成される筆跡を、紙面上から擦り?すことにより消去する。
【0019】
次に、本実施形態に係る字消し20について詳述する。字消し20は、対象インク30に含まれるバインダー樹脂とのSP(Solubility Parameter)値(溶解パラメータ)((cal/cm1/2)の差が0.1以上となるような材質で形成されている。本実施形態のSP値は、1cmの液体が蒸発するために必要な蒸発熱の平方根から算出される。
【0020】
上記SP値の差が0.1より小さければ、字消し20と対象インク30に配合されているバインダー樹脂との間の親和性が高くなり(溶解し易くなり)、擦過操作の際、筆跡の皮膜に含まれるバインダー樹脂が消し具20に粘着して伸び易くなる。このため、擦過操作の際に紙面が汚染され易い。上記SP値の差を0.1以上とすることにより、バインダー樹脂が紙面上に伸びることが抑制されるため、字消し20では、紙面を汚染することなく紙面上の筆跡を消去することができる。このようにSP値の差は、筆跡を消去する際の汚染のし難さに影響する。
【0021】
また、字消し20は、その表面に対して対象インク30を滴下したときの接触角が60°未満であるような材質で形成されていることが好ましい。本明細書でいう接触角は、静的接触角をいい、例えばθ/2法により測定される。上記接触角が60°以上である場合(ぬれ難い場合)、筆跡を消去する際、字消し20と対象インク30による筆跡を構成する皮膜との間が滑ってしまい(筆跡上を滑ってしまい)、消し具20に当該皮膜が付着し難い。このため、筆跡を構成する皮膜を擦り?し難くなり、筆跡を消去し難くなる。一方、上記接触角が60°未満であれば、筆跡を消去する際に字消し20に筆跡を構成する皮膜が付着し易くなり、筆跡を消去し易くなる。このように接触角は、筆跡を消去する際の消去の程度に影響する。
【0022】
字消し20の材質は、具体的には、一般的な消しゴムの材質として用いられるような天然ゴム、合成ゴム、合成樹脂のいずれかであることが好ましい。合成ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム、フッ素系ゴム等を挙げることができる。合成樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等を挙げることができる。対象インク30に配合されるバインダー樹脂とのSP値の差を比較することにより、上記の材質の中から適切な材質を選択することができる。
【0023】
また、字消し20の材質が合成ゴムである場合、ウレタンゴムであることが好ましい。例えば対象インク30について、配合される着色樹脂粒子の平均粒子径が5~15μmの範囲内であり、配合されるバインダー樹脂がアクリロニトリルブタジエンゴムである場合、アクリロニトリルブタジエンゴムとウレタンゴムとのSP値の差が0.1以上となり、かつ対象インク30をウレタンゴムに滴下したときの接触角が60°未満となるからである。さらに、ウレタンゴムは耐摩耗性に優れているため、筆跡を構成する皮膜を擦り?して消去する際にウレタンゴムが崩壊し難く、皮膜を効果的に擦り?すことができるからである。
【0024】
なお、字消し20は、耐摩耗性に優れた材質であることが好ましい。字消し20の耐摩耗性が低ければ、対象インク30により紙面上に記載された筆跡について、筆跡を構成する皮膜を擦り?して消去する際に字消し20自身が崩壊し易くなり、消し屑の量が多くなる。一方、字消し20が耐摩耗性に優れた材質であると、筆跡を消去する際に字消し20が崩壊し難い。このため、筆跡のみを十分に消去することができ、字消し20による消し屑を少なくすることができる。このように耐摩耗性は、筆跡を消去する際の消し屑の量に影響する。
【0025】
また、字消し20は、臨界表面張力が大きい(ぬれ易い)材質であることが好ましい。字消し20の臨界表面張力が小さければ(ぬれ難ければ)、上記接触角と同様に、筆跡を構成する皮膜を擦り?して消去する際に字消しの表面に皮膜が付着し難く、字消しが筆跡上を滑り易くなり、筆跡が消え難い。このように臨界表面張力は、筆跡を消去する際の消去の程度に影響する。
【0026】
以上のような構成とされた本実施形態に係る字消し20は、着色樹脂粒子を含むとともにバインダー樹脂が配合された対象インク30による筆跡を消去する用途に用いられ、対象インク30に配合されたバインダー樹脂と字消し20の材質とのSP値の差が0.1以上であり、対象インク30による皮膜からなる筆跡を擦り?して消去する。即ち、本実施形態の字消し20は、対象インク30との間で上記の関係性を満たすことにより、対象インク30による皮張り状の皮膜からなる筆跡を擦過することで、消し屑の量を極力抑えつつ当該筆跡のみを物理的に剥ぎ取って不可逆的に消去することができる。
【0027】
さらに、本実施形態の字消し20は、皮張り状の皮膜を剥ぎ取ることにより、紙面等から吸着剥離された対象インク30に起因する消し屑が字消し20に付着することがないため、鉛筆による筆跡を消しゴムで消去したときに、消しゴムに黒鉛が付着して再び紙面を汚染するようなことがない。以上のことから、本実施形態の字消し20は、継続して使用された場合であっても紙面等を汚染することなく対象インク30による筆跡を消去することができる。
【0028】
さらに、本実施形態の字消し20は、従来の熱変色性インクによる筆跡を化学的に消去するための字消しとは異なり、消去した筆跡が環境温度の変化により復元することがない。このため、環境温度の変化に関わらず、紙面等を汚染することなく対象インク30による筆跡を物理的に消去することができる新規な字消し20を実現することができる。
【0029】
また、本実施形態に係るボールペン10は、上記の字消し20がケース12に固定されている。これにより、字消し20を使い易くすることができる。さらに、本実施形態に係るボールペン10は、ケース12の内部に対象インク30が充填される。これにより、対象インク30を用いる筆記具と字消し20をセットで提供することができる。
【0030】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば本実施形態では、字消しを備えるボールペンを例示したが、字消しを備える筆記具については限定されない。例えば、字消しを備える万年筆やマーカー、ノック式筆記具であってもよい。
【実施例0031】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。本実施例では、対象インクを消去するために最適な字消し具の材質を選定する試験を行った。具体的には、選定対象とする11種類の材質(エラストマー)の各々について、対象インクとのSP値の差、耐摩耗性、臨界表面張力、消去性、対象インクに対する接触角をそれぞれ検討した。
【0032】
選定対象となる各材質(以下、「選定材質」という。)のSP値、耐摩耗性、臨界表面張力については、文献値を調査した。調査対象とする文献として、1.「ゴム材料適用(ketech.in.coocan.jp/r-17.pdf)」、2.「日本ゴム協会誌 第51巻第8号(1978)ゴム技術者の入門講座 配合設計(1)原料ゴムの種類と性質 前田守一」を参照した。一方、選定材質の消去性については、対象インクによる筆跡の消去性について官能評価を行った。また、選定材質の接触角については、対象インクを選定材質に滴下したときの接触角を測定した。そして、これらの結果から、対象インクを消去するために最適な字消しの材質を選定した。
【0033】
(1)選定材質
選定対象として、以下の11種類の材質(エラストマー)を抽出した(カッコ内は記号を示す)。1.天然ゴム(NR)、2.スチレンブタジエンゴム(SBR)、3.クロロプレンゴム(CR)、4.ブチルゴム(IIR)、5.アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR:ニトリル含有量30%)、6.ニトリル含有量低アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR18:ニトリル含有量18%)(表2では「低ニトリル」と表記)、7.ニトリル含有量中高アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR30:ニトリル含有量30%)(表2では「中高ニトリル」と表記)、8.ウレタンゴム(U)、9.シリコンゴム(Q)、10.フッ素系ゴム(FKM)、11.塩ビ消しゴム(PVA)。
【0034】
(2)対象インクの組成
対象インクとしたインク組成物の組成を下記表1に示す。表1中に数字で示す配合単位は重量%であり、全量で100重量%である。表1に示すアクリル系分散液は、平均粒子径が6μmのアクリル系着色樹脂粒子をアクリル系分散剤及び水に分散させたものである(配合比:着色樹脂粒子60重量%、アクリル系分散剤10重量%、水30重量%)。表1に示すNBRエマルジョンは、バインダー樹脂としてアクリロニトリルブタジエンゴムが分散されたエマルジョンである(固形分48.5%)。着色樹脂粒子及びバインダー樹脂以外の組成については、高沸点溶剤としてエチレングリコール、増粘剤として3%のキサンタンガム水溶液、水を配合した。なお、対象インクとしたインク組成物における着色樹脂粒子と溶媒との比重差は0.11である。また、ここでいう平均粒子径とは、レーザー回折法において体積基準により算出されたD50の値である。
【0035】
【表1】
【0036】
(3)SP値に関する文献値の調査
選定材質について、文献に示されているSP値((cal/cm1/2)を調査した。なお、対象インクに含まれるバインダー樹脂であるアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)の文献値に基づくSP値は9.4~9.9((cal/cm1/2)であった。選定材質について、文献にSP値の上限値及び下限値の両者が示されているものについては、その上限値及び下限値の間の数値範囲と上記アクリロニトリルブタジエンゴムのSP値である9.4~9.9((cal/cm1/2)の数値範囲との差を比較した。最適な字消しの材質としては、対象インクに含まれるアクリロニトリルブタジエンゴムとのSP値の差が0.1以上のものが求められる。
【0037】
(4)耐摩耗性及び表面張力に関する文献値の調査
選定材質の耐摩耗性について、JIS規格(JIS S6004-1994)に準拠して行われた摩耗量試験の文献値に基づき、耐摩耗性に優れているものを◎、耐摩耗性が良好なものを〇、耐摩耗性に優れないものを△と評価した。最適な字消しの材質としては、耐摩耗性に優れていること又は良好であることが求められる。また、選定材質について、水に対する臨界表面張力(dyne/cm)の文献値を調査した。最適な字消しの材質としては、臨界表面張力が大きい(ぬれ易い)ことが求められる。
【0038】
(5)消去性の官能評価
選定対象となる各材質について、上質紙の紙面上に記載した対象インクによる筆跡を手作業で複数回擦り、その消去性の評価を目視により行った。目視で消し残りが確認されなかったものを◎と評価し、擦ることにより紙面が汚染したもの(汚染が目立ったもの)及び目視で消し残りが確認されたものを△と評価し、消し残りが目立つもの及びほとんど消去できなかったものを×と評価した。
【0039】
(6)接触角の測定
選定対象となる各材質について、その平坦な表面上に対象インクを滴下し、接触角(°)をそれぞれ測定した。具体的には、静的接触角をθ/2法により測定した。接触角の測定は、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製:VHXシリーズ)を用い、温度25℃、湿度50%の環境下で行った。最適な字消しの材質としては、接触角が小さい(ぬれ易い)ことが求められる。
【0040】
(7)最適な材質の選定
選定材質について、各文献値の調査結果及び各試験の評価及び測定結果をまとめたものを下記表2に示す。なお、表2中の空欄は文献中に記載がなかったものを示す。
【0041】
【表2】
【0042】
SP値の調査結果と消去性官能評価結果を比較すると、選定材質のうち、対象インクのアクリロニトリルブタジエンゴムとのSP値の差が近似するもの、具体的にはSP値の差が0.1未満であるクロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、中高ニトリルについては、消去性官能評価が△評価又は×評価であり、紙面を汚染し易い、あるいは筆跡を消去できないことが確認できた。さらに、選定材質の中で対象インクのアクリロニトリルブタジエンゴムとのSP値の差が0.1以上のもののうち、ブチルゴムについては、消去性官能評価においても良好(◎評価)であることが確認できた。
【0043】
また、耐摩耗性の調査結果と消去性官能評価結果を比較すると、耐摩耗性が優れていたもの(◎評価のもの)のうち天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ウレタンゴムについては、消去性官能評価においても良好(◎評価)であることが確認できた。なお、フッ素系ゴムについては、耐摩耗性が優れているにも拘らず消去性官能評価が△評価であるのは、臨界表面張力が小さいため、消去する際に筆跡上を滑ってしまうためであると想定される。
【0044】
また、臨界表面張力の調査結果と消去性官能評価結果を比較すると、臨界表面張力が30(dyne/cm)以上であったもののうちスチレンブタジエンゴム、ウレタンゴムについては、消去性官能評価においても良好(◎評価)であることが確認できた。
【0045】
また、消去性官能評価については、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、低ニトリル、ウレタンゴムがそれぞれ良好(◎評価)であることが確認できた。
【0046】
また、接触角の測定結果と消去性官能評価結果を比較すると、接触角は60°以上であったシリコンゴム、フッ素系ゴム及び接触角が60°未満であった塩ビ消しゴムについては、消去性官能評価において△評価又は×評価であり、紙面を汚染し易い、あるいは筆跡を消去できないことが確認できた。さらに、選定材質のうち対象インクに対する接触角が最も小さい(13.0°)ウレタンゴムについては、消去性官能評価においても良好(◎評価)であることが確認できた。
【0047】
以上の検討結果から、選定材質の中で消去性官能評価において良好(◎評価)であったもののうち、SP値の差が0.1以上あり、接触角が最も小さく、耐摩耗性に優れ、かつ臨界表面張力が最も大きかったウレタンゴムが、対象インクによる筆跡を消去するために最適であることが確認できた。
【符号の説明】
【0048】
10 ボールペン 10a ペン先
10b ペン端部 12 ケース
14 キャップ 20 字消し
30 対象インク
図1