(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030747
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】樹脂成形体および樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/16 20060101AFI20240229BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20240229BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20240229BHJP
B05D 7/02 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B29C45/16
B05D5/00 A
B05D1/36 Z
B05D7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133837
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】近藤 光弘
【テーマコード(参考)】
4D075
4F206
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AA37
4D075AA76
4D075AC06
4D075AC09
4D075AC88
4D075AE03
4D075BB92Y
4D075CA07
4D075CA47
4D075CA48
4D075CB13
4D075CB15
4D075DA29
4D075DB31
4D075DB35
4D075DB36
4D075DB37
4D075DB43
4D075DB48
4D075DB53
4D075DB63
4D075DC13
4D075EA05
4D075EB43
4D075EC04
4D075EC07
4D075EC10
4D075EC23
4D075EC30
4D075EC51
4F206AA04
4F206AA11
4F206AA13
4F206AD05
4F206AD11
4F206AD20
4F206AG03
4F206AH24
4F206AH25
4F206AR12
4F206JA07
4F206JB22
4F206JB28
4F206JB30
4F206JF01
4F206JF23
4F206JL02
4F206JM11
4F206JN12
4F206JN41
4F206JQ54
4F206JQ81
4F206JW50
(57)【要約】
【課題】インモールドコーティング方法を用いながらも、見栄えの良い樹脂成形体および樹脂成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂成形体は、樹脂を含む基材と、前記基材の表面に形成される厚さ100マイクロメートルから1000マイクロメートルの第1塗膜層と、前記第1塗膜層の表面に形成される厚さ10マイクロメートルから50マイクロメートルの第2塗膜層と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含む基材と、
前記基材の表面に形成される厚さ100マイクロメートルから1000マイクロメートルの第1塗膜層と、
前記第1塗膜層の表面に形成される厚さ10マイクロメートルから50マイクロメートルの第2塗膜層と、
を備える樹脂成形体。
【請求項2】
前記第1塗膜層および/または前記第2塗膜層に離型剤成分を含む、
請求項1に記載の樹脂成形体。
【請求項3】
樹脂を含む基材の表面に離型剤を含む第1塗膜層を形成する工程と、
前記離型剤を溶解可能な溶剤を含む第2塗膜層形成用組成物を前記第1塗膜層の表面に塗布する工程と、
を含む樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記溶剤が、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、及びエチルベンゼンを含む、
請求項3に記載の樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂成形体およびこの樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂成形体を成形する金型内において樹脂成形体の塗膜層を形成する塗装方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような塗装方法は、インモールドコーティング方法と称され、揮発性有機化合物の使用を削減でき、環境によい塗装方法として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなインモールドコーティング方法による塗装方法では、塗料が流れた跡(以下明細書においてフローマークという)が発生しやすい。この結果、樹脂成形体の見栄えがよくない。
【0005】
本開示の課題は、インモールドコーティング方法を用いながらも、見栄えの良い樹脂成形体および樹脂成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る樹脂成形体は、樹脂を含む基材と、前記基材の表面に形成される厚さ100マイクロメートルから1000マイクロメートルの第1塗膜層と、前記第1塗膜層の表面に形成される厚さ10マイクロメートルから50マイクロメートルの第2塗膜層と、を備える。
【0007】
また、本開示に係る樹脂成形体の製造方法は、樹脂を含む基材の表面に離型剤を含む第1塗膜層を形成する工程と、前記離型剤を溶解可能な溶剤を含む第2塗膜層形成用組成物を前記第1塗膜層の表面に塗布する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
この樹脂成形体は、第1塗膜層はインモールドコーティング方法によって形成された塗膜層の厚さであり、第2塗膜層は、霧化塗装による塗装方法よって形成された塗膜層の厚さとなる。これにより、インモールドコーティング方法によって第1塗膜層に発生したフローマークを、第2塗膜層によって被覆することができる。この結果、このような樹脂成形体は、フローマークが露出せず、見栄えが良い。
【0009】
また、このような樹脂成形体の製造方法によれば、インモールドコーティング方法によって第1塗膜層に含まれる離型剤を、第2塗膜層形成用組成物によって溶かしながら第2塗膜層を形成できる。これによって、第2塗膜層が第1塗膜層に付着しやすい。この結果、このような製造方法によって製造された樹脂成形体は、見栄えがよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態における樹脂成形体の側面図
【
図3】本開示の実施形態におけるインモールドコーティング方法に用いる金型装置の概略図。
【
図4】本開示の実施形態における樹脂成形体の製造方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1および
図2に示すように、樹脂成形体1は、基材2と、第1塗膜層4と、第2塗膜層6と、を備える。本実施形態では樹脂成形体1は、自動車の内装に用いる加飾パネルや、バンパーなどとして用いる樹脂部材である。樹脂成形体1は、表面1aと裏面1bとを有する。樹脂成形体1は、樹脂成形体1が自動車の内装部材である場合、表面1aが自動車のユーザに向けて組付けられる。また、樹脂成形体1は、樹脂成形体1が自動車の外装部材である場合、表面1aが自動車の外に向けて配置される。
【0013】
基材2は、第1塗膜層4を形成する土台となる樹脂部材である。基材2は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、PC樹脂(ポリカーボネート樹脂)、などの熱可塑性の樹脂材料によって形成される。
【0014】
第1塗膜層4は、基材2の表面1a側に形成される塗膜層である。より具体的には、第1塗膜層4は、第1塗膜層形成用組成物をインモールドコーティング方法によって基材2の表面に付着させて形成する塗膜層である。第1塗膜層形成用組成物は、例えば、特開平6-107750号公報、および特開平8-113761号公報等に記載されたインモールドコーティング方法に適した塗料を含んで形成されればよい。インモールドコーティング方法によって形成される第1塗膜層4は、スプレーガンなどを用いた霧化塗装によって塗膜を形成する方法よりも厚い塗膜層が形成される。本実施形態では、第1塗膜層4の厚さは、100マイクロメートルから1000マイクロメートルに形成される。
【0015】
また、第1塗膜層4は、離型剤を含む、および/又は離型剤が表面に付着した塗膜層である。すなわち、第1塗膜層4は、離型剤成分が第1塗膜層4用の塗料に内在する場合と、第1塗膜層4用の塗料には離型剤成分を含まず、金型に噴霧した離型剤が塗膜表面に積層している場合を、含む。離型剤は、後述する第1金型22に第1塗膜層4が付着することを抑制し、成形品が金型から離れることを容易にするための薬剤である。本実施形態では離型剤は、例えば、軽質ナフサやワックスを含む薬剤である。ワックスは例えば、パラフィンワックス、およびマイクロワックスなどである。このほか離型剤は、ポリジメチルシロキサンを含んでもよい。このため、インモールドコーティング方法によって形成された第1塗膜層4の表面に離型剤が付着した状態で、後述する金型装置20から樹脂成形体1が取り出される。
【0016】
第2塗膜層6は、第1塗膜層4の表面に形成される塗膜層である。第2塗膜層6は、第2塗膜層形成用組成物によって形成される。より好ましくは、第2塗膜層6は、光を反射、もしくは透過する石の雲母(うんも、マイカ)片、または、金属的な光沢(キラキラ感)を出す為に光を反射させる金属片または金属粉末を含む塗膜層である。
【0017】
従来、上記のとおりインモールドコーティング方法によって製造された樹脂成形体1の表面には離型剤が付着しているため、その表面に塗料を付着させることは困難であった。しかし、発明者らは実験を重ね、塗料に離型剤を溶解可能な溶剤を含有した第2塗膜層形成用組成物を用いることによって、第1塗膜層4に第2塗膜層6を付着させることができることを発見した。溶剤は、例えば軽質ナフサやワックスなどを含む離型剤を溶かすことができる、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、及びエチルベンゼンなどを含む有機溶剤である。また、発明者らは、より好ましくは、第2塗膜層形成用組成物は、このような塗料に雲母、または金属片もしくは金属粉末を含有させたものとすることによって、フローマークが目立たず見栄えのよい、マイカカラー、もしくはメタリックカラーの樹脂成形体1を製造できることを発見した。
【0018】
第2塗膜層6は、スプレーガンなどを用いた霧化塗装によって形成される。このため、第2塗膜層6の厚さは、インモールドコーティング方法によって形成される第1塗膜層4よりも薄い。本実施形態では第2塗膜層6の厚さは、10マイクロメートルから50マイクロメートルである。また、霧化塗装は塗料液が付着した箇所から移動せずに塗膜を形成するため、フローマークが発生しない塗装方法である。
【0019】
次に、
図3および
図4を用いて樹脂成形体1の製造方法について説明する。
図3に示すように、本実施形態のインモールドコーティング方法に用いる金型装置20は、第1金型22と、第2金型24と、樹脂インジェクタ26と、塗料インジェクタ28と、を含む樹脂射出成形用装置である。第1金型22と、第2金型24は、型閉じすることによってキャビティ30を形成する。しかし、金型装置20は、インモールドコーティング方法が可能であればどのような金型であってもよい。
【0020】
樹脂インジェクタ26は、基材2を形成する樹脂材料を射出するためのノズルである。本実施形態では樹脂インジェクタ26は、キャビティ30の第2金型24側に配置される。このほか樹脂インジェクタ26は、キャビティ30に接続される供給通路30aに向けて配置されてもよい。塗料インジェクタ28は、第1塗膜層形成用組成物を注入するためのノズルである。本実施形態では、塗料インジェクタ28はキャビティ30の第1金型22側に配置される。
【0021】
図4(a)に示すように、樹脂インジェクタ26から樹脂材料を射出し、基材2を形成する。その後、第2金型24を第1金型22から離し、第1金型22のキャビティ30に向けた面に離型剤を塗布し、離型剤の層を形成する。なお、第1塗膜層形成用組成物に離型剤を含む場合は、離型剤を塗布する工程を省略してもよい。また、第1塗膜層形成用組成物に離型剤を含まない場合、基材2を形成する前に、第1金型22および/又は第2金型24のキャビティ30に向けた面に離型剤を塗布してもよい。
【0022】
図4(b)に示すように、次に第2金型24を第1金型22から100マイクロメートルから1000マイクロメートル程度離し、第1金型22と基材2の間にできた隙間に塗料インジェクタから第1塗膜層形成用組成物を注入し、第1塗膜層4を形成する。このとき、第1金型22および/又は第2金型24を加熱するなどして、第1塗膜層形成用組成物が流れやすくしてもよい。さらに、その後第1金型22および/又は第2金型24を冷却し、第1塗膜層形成用組成物が基材2の表面に付着しやすくしてもよい。
【0023】
図4(c)に示すように、第1塗膜層4が形成されると、金型装置20から樹脂成形体1を取り出す。このとき、離型剤が第1塗膜層4の表面に付着した状態である。
【0024】
このような状態で、スプレーガン32などを用いて第2塗膜層形成用組成物を噴射し、第2塗膜層6を形成する。スプレーガン32はロボットアームなどに取りつけられてもよいし、作業者によって操作されてもよい。また、霧化塗装のための塗料霧化装置はスプレーガンに限定されず、霧化塗装ができる装置であればどのような装置であってもよい。第2塗膜層形成用組成物は、第1塗膜層4の表面に付着した離型剤を溶かしながら第2塗膜層6を形成する。このように、第2塗膜層形成用組成物が離型剤を溶かすことによって、第2塗膜層形成用組成物が第1塗膜層4の表面に付着する。これによって、第2塗膜層6が第1塗膜層4から剥がれにくくなる。なお、第2塗膜層形成用組成物に含まれる溶剤によって溶かしきれなかった離型剤の一部の成分(離型剤成分の一例)が、第1塗膜層4および第2塗膜層6の少なくともいずれか一方に残存してもよい。
【0025】
以上説明した通り、このような樹脂成形体1によれば、インモールドコーティング方法によって第1塗膜層4にフローマークが発生した場合であっても、第2塗膜層6が被覆することによってフローマークが見えにくい。特に、従来は、インモールドコーティング方法によって形成する塗膜層が雲母片、または金属片もしくは金属粉末を含む場合、フローマークが目立ちやすいという課題があった。しかし、本開示の樹脂成形体1は、第2塗膜層6に雲母片、または金属片もしくは金属粉末を含むため、第1塗膜層4のフローマークが目立ちにくいマイカカラーまたはメタリックカラーの樹脂成形体1を実現できる。これによって、樹脂成形体1の見栄えが良い。
【0026】
また、本開示の樹脂成形体1の製造方法によれば、インモールドコーティング方法によって第1塗膜層4に含まれる離型剤を、第2塗膜層形成用組成物によって溶かしながら第2塗膜層6を形成できる。これによって、第2塗膜層6が第1塗膜層4に付着しやすい。この結果、このような製造方法によって製造された樹脂成形体1は、塗膜の剥がれがなく、見栄えの良さを維持しやすい。
【0027】
さらに、本開示の樹脂成形体1の製造方法によれば、第1塗膜層4に有機溶剤を含まないため、全ての塗膜層を霧化塗装によって形成する塗装方法よりも、揮発性有機化合物の使用を低減することができる。また、スプレーガンなどを用いた霧化塗装による塗装方法が、第2塗膜層6の形成時のみに使用されるため、製造にかかるエネルギーが低減でき、ひいては樹脂成形体1を低コストで製造できる。
【0028】
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0029】
例えば、上記実施形態では、樹脂成形体1は、自動車に用いる部材を例に説明したが、本開示はこれに限定されない。樹脂成形体1は、自動車以外に用いる樹脂部材であってもよい。
【0030】
また、基材2を形成する樹脂材料として、ポリプロピレン、ポリエチレン、ABS樹脂、PC樹脂などの熱可塑性樹脂を例示したが、本開示はこれに限定されない。基材2は、例えば、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリフェニレンエーテルなどの熱可塑性樹脂、あるいはこれら熱可塑性樹脂のアロイ材、さらにはこれら熱可塑性樹脂に繊維状あるいは鱗片状のフィラーを配合した樹脂材料であってもよい。いずれにせよ、基材2は、熱可塑性樹脂で形成されれば、どのような樹脂であってもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 :樹脂成形体
1a :表面
1b :裏面
2 :基材
4 :第1塗膜層
6 :第2塗膜層
20 :金型装置
22 :第1金型
24 :第2金型
26 :樹脂インジェクタ
28 :塗料インジェクタ
30 :キャビティ
32 :スプレーガン