(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030809
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】軟磁性鋼板
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240229BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20240229BHJP
H01F 1/18 20060101ALI20240229BHJP
C21D 6/00 20060101ALN20240229BHJP
【FI】
C22C38/00 303S
H01F1/147
H01F1/18
C21D6/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133958
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】枝松 洸来
(72)【発明者】
【氏名】梶並 佳朋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誉将
(72)【発明者】
【氏名】河原 崇範
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AA03
5E041AA05
5E041BC01
5E041BD09
5E041CA04
5E041NN01
(57)【要約】
【課題】厚い絶縁被膜を形成することなく絶縁を達成することができる軟磁性鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、1.6%≦Al≦3.8%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、表面に、Alを主成分とし、厚さ0.15μm以上、0.50μm以下の酸化被膜2を有する、軟磁性鋼板1とする。軟磁性鋼板2はさらに、質量%で、0%<Co≦25%、および0%<Ni≦2.5%の少なくとも一方を含有してもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、1.6%≦Al≦3.8%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、
表面に、Alを主成分とし、厚さ0.15μm以上、0.50μm以下の酸化被膜を有する、軟磁性鋼板。
【請求項2】
さらに、質量%で、
0%<Co≦25%、および
0%<Ni≦2.5%
の少なくとも一方を含有する、請求項1に記載の軟磁性鋼板。
【請求項3】
酸化されていない合金の体積率が99.5%以上である、請求項1または請求項2に記載の軟磁性鋼板。
【請求項4】
前記軟磁性鋼板は、表裏両面に前記酸化被膜を有し、
表裏両面の前記酸化被膜の間の絶縁抵抗が、3×108Ω・cm2以上である、請求項1または請求項2に記載の軟磁性鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性鋼板に関し、さらに詳しくは、表面に酸化被膜を備えた軟磁性鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
モータや発電機の鉄心を構成するのに、軟磁性鋼板が用いられる場合がある。近年、ハイブリッド自動車や電気自動車の普及が加速度的に進んでおり、それらの車両に搭載されるモータの鉄心を構成する軟磁性鋼板に対する需要も高まっている。例えば、下記の特許文献1,2に、その種の軟磁性鋼板が開示されている。この種の軟磁性鋼板においては、所望の磁気特性や機械的特性が得られるように、軟磁性合金の成分組成が設定されている。モータの鉄心等、厚みのある部材を形成する場合には、軟磁性鋼板が複数層に積層されて用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-57456号公報
【特許文献2】特開2022-22832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、軟磁性鋼板がモータの鉄心等として用いられる場合には、軟磁性鋼板が複数層に積層されて、所定の厚みを有する形状を構成する。この場合に、渦電流損失を低減する観点から、各層の軟磁性鋼板の間で絶縁を図るために、軟磁性鋼板の表面に絶縁被膜が設けられることが多い。絶縁被膜の形成は、従来一般には、リン酸塩処理などの化学処理や、絶縁性の被膜を形成する物質を表面に塗布する方法にて行われてきた。しかし、それらの方法で形成した絶縁被膜は、厚くなりやすい。すると、軟磁性鋼板において、絶縁被膜を構成しない合金部分の体積率が小さくなってしまい、磁気特性をはじめとして、成分組成等の効果として軟磁性鋼板が本来有する特性が、十分に発揮されにくくなる。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、厚い絶縁被膜を形成することなく絶縁を達成することができる軟磁性鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明にかかる軟磁性鋼板は、以下の構成を有している。
[1]本発明にかかる軟磁性鋼板は、質量%で、1.6%≦Al≦3.8%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、表面に、Alを主成分とし、厚さ0.15μm以上、0.50μm以下の酸化被膜を有する。
【0007】
[2]上記[1]の態様において、前記軟磁性鋼板はさらに、質量%で、0%<Co≦25%、および0%<Ni≦2.5%の少なくとも一方を含有するとよい。
【0008】
[3]上記[1]または[2]の態様において、酸化されていない合金の体積率が99.5%以上であるとよい。
【0009】
[4]上記[1]から[3]のいずれか1つの態様において、前記軟磁性鋼板は、表裏両面に前記酸化被膜を有し、表裏両面の前記酸化被膜の間の絶縁抵抗が、3×108Ω・cm2以上であるとよい。
【発明の効果】
【0010】
上記[1]の構成を有する本発明にかかる軟磁性鋼板は、上記所定量のAlを含有することで、表面に、薄く、かつ絶縁性の高い酸化被膜が形成されやすい。実際に、本発明にかかる軟磁性鋼板は、厚さ0.15μm以上、0.50μm以下の酸化被膜を有している。酸化被膜の厚さが0.15μm以上であることで、十分に絶縁性の高い被膜となる。一方で、酸化被膜の厚さが0.50μm以下に抑えられていることで、軟磁性鋼板において、酸化されていない合金の体積率が大きくなり、軟磁性合金が有する特性を効率的に利用することができる。
【0011】
上記[2]の態様においては、軟磁性鋼板が、所定量のCoおよびNiの少なくとも一方を含有していることで、軟磁性鋼板の特性を高めることができる。具体的には、Coを含有することで、軟磁性鋼板の飽和磁束密度が高くなり、Niを含有することで、軟磁性鋼板の電気抵抗が向上する。CoおよびNiは、酸化被膜の形成には実質的に寄与せず、CoやNiを添加しても、所定量のAlを含有することにより、薄く、絶縁性の高い酸化被膜が得られるという効果は保持される。
【0012】
上記[3]の態様においては、酸化されていない合金の体積率が99.5%以上となっている。そのため、軟磁性鋼板において、軟磁性合金によって発揮される優れた磁気特性を、効率的に利用することができる。
【0013】
上記[4]の態様においては、軟磁性鋼板の表裏両面の酸化被膜の間の絶縁抵抗が、3×108Ω・cm2以上となっている。そのため、軟磁性鋼板を積層して使用した際に、層間の絶縁が十分に保たれ、渦電流損失を小さく抑えながら、軟磁性鋼板が有する磁気特性を利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる軟磁性鋼板を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態にかかる軟磁性鋼板について、詳細に説明する。本実施形態にかかる軟磁性鋼板は、下記の成分組成を有し、表面に所定の厚さの酸化被膜を有する。本明細書において、各元素の含有量は、質量%を単位として示す。また、合金組成は、表面の酸化被膜に含有される酸素を除いた成分組成を指し、酸化被膜に覆われた内側の、酸化を受けていない領域の合金組成に対応する。本明細書において、特記しないかぎり、各特性値は、室温(おおむね25℃)にて評価される値とする。
【0016】
[軟磁性鋼板の成分組成]
本発明の実施形態にかかる軟磁性鋼板は、下記(1)の量のAlを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる。あるいは、任意に、下記(2)の量のCoおよび(3)の量のNiの少なくとも一方をさらに含有する。
【0017】
(1)1.6%≦Al≦3.8%
Alは、軟磁性鋼板の表面における酸化被膜の形成に寄与する。Alの含有量が少なすぎると、酸化被膜の形成が進行しにくくなるが、1.6%≦Alとなっていることで、十分な厚さおよび絶縁性を有する酸化被膜が表面に形成されやすい。好ましくは、2.0%≦Al、さらには2.5%≦Alであるとよい。
【0018】
一方、Alを過剰に添加すると、軟磁性鋼板の表面において、過剰に厚い酸化被膜が形成されやすくなる。また、軟磁性鋼板において、飽和磁化の低下や加工性の低下を招く。それらの現象を抑制する観点から、Alの含有量は、Al≦3.8%とされる。好ましくは、Al≦3.5%、さらにはAl≦3.0%であるとよい。
【0019】
(2)0%<Co≦25%
軟磁性鋼板にCoが含有されると、軟磁性鋼板の飽和磁束密度を向上させることができる。Coの添加が少量でも、そのような効果が得られるため、Coの含有量に特に下限は設けられず、0%<Coとされる。好ましくは、15%≦Coであるとよい。なお、Coは、軟磁性鋼板の表面における酸化被膜の形成には、ほぼ寄与しないため、Coの含有の有無にかかわらず、上記所定量のAlを含有することにより、薄く、絶縁性の高い酸化被膜が表面に形成される。
【0020】
一方、Coが軟磁性鋼板に過剰に含有されると、Fe-Co系の規則相を生成し、軟磁性鋼板を脆化させる。また、Coは高価な元素であり、多量に添加することで、コストの増大を招く。それらの現象を抑制する観点から、Co≦25%とされる。好ましくは、Co≦20%であるとよい。
【0021】
(3)0%<Ni≦2.5%
軟磁性鋼板にNiが含有されると、軟磁性鋼板の電気抵抗を高め、渦電流損失を低減することができる。Niの添加が少量でも、そのような効果が得られるため、Niの含有量に特に下限は設けられず、0%<Niとされる。好ましくは、0.5%≦Niであるとよい。なお、Niも、軟磁性鋼板の表面における酸化被膜の形成には、ほぼ寄与しないため、Niの含有の有無にかかわらず、上記所定量のAlを含有することにより、薄く、絶縁性の高い酸化被膜が表面に形成される。
【0022】
一方、Niが軟磁性鋼板に過剰に含有されると、オーステナイト相を生成し、粒成長が促進される。すると、磁気特性が悪化する可能性がある。それらの現象を抑制する観点から、Ni≦2.5%とされる。好ましくは、Ni≦2.0%であるとよい。
【0023】
(4)不可避的不純物
不可避的不純物は、軟磁性鋼板の特性を著しく損なわない範囲で含有が許容される。具体的な不可避的不純物の例としては、質量%を単位として、C≦0.04%、N≦0.06%、O≦0.06%、Mn≦0.3%、P≦0.06%、S≦0.06%、Si≦0.2%、Cu≦0.3%、Cr≦0.2%を挙げることができる。なお、上記のとおり、本明細書においては、表面の酸化被膜に含有される酸素を除いた成分組成を示しており、ここに挙げた不可避的不純物としての酸素原子も、酸化被膜を構成しているものを含まない。
【0024】
[軟磁性鋼板の状態と特性]
図1に示すとおり、本実施形態にかかる軟磁性鋼板1は、表面に、酸化被膜2を有している。好ましくは、軟磁性鋼板1の表裏両側の表面に、酸化被膜2を有している。
【0025】
軟磁性鋼板の表面の酸化被膜の厚さは、0.15μm以上、0.50μm以下となっている。酸化被膜は、Alを主成分とする(金属元素の中でAlの含有量が最も多い)酸化物の膜として形成される。そして、軟磁性鋼板が所定量のAlを含有する上記の成分組成を有することに主に対応して、0.15μm以上、0.50μm以下の範囲の厚さを有する酸化被膜が得られる。なお、軟磁性鋼板の表裏両面に酸化被膜が形成される場合には、それら酸化被膜のそれぞれが、上記範囲の厚さを有するものとする。
【0026】
酸化被膜の厚さが0.15μm以上であることで、軟磁性鋼板の表面の絶縁性を十分に高めることができる。クラックの形成等、酸化被膜の膜質の不安定化も起こりにくい。すると、軟磁性鋼板を積層してモータの鉄心等を形成した際に、渦電流損失を効果的に抑制することができる。好ましくは、酸化被膜の厚さは、0.20μm以上、さらには0.25μm以上であるとよい。
【0027】
一方、酸化被膜の厚さが0.50μm以下であることで、酸化被膜を構成しない合金部分の体積率(以下、単に体積率と称する場合がある)を大きく保つことができる。その結果として、軟磁性鋼板において、磁気特性等、軟磁性合金が本来有する特性が、効果的に発揮される。また、酸化被膜の厚さを小さく抑えておくことで、軟磁性鋼板の表面から酸化被膜が剥離しにくくなる。それらの効果をさらに高める観点から、酸化被膜の厚さは、好ましくは、0.40μm以下、さらには0.30μm以下であるとよい。
【0028】
軟磁性鋼板の厚さは特に限定されるものではない。しかし、上記範囲の厚さを有する酸化被膜が表面に形成されることによる、絶縁性の確保および体積率の向上の効果を十分に利用する観点から、軟磁性鋼板の好適な厚さとして、0.1mm以上、0.5mm以下の範囲を例示することができる。
【0029】
本実施形態にかかる軟磁性鋼板においては、酸化されていない合金の体積率が99.5%以上であるとよい。これは、積層して鉄心等の用途に用いる軟磁性鋼板の体積率として、十分に高いものである。体積率の上限は特に指定されないが、軟磁性鋼板の絶縁に寄与する酸化被膜の量を確保する観点から、体積率は、99.9%未満であるとよい。
図1に示すとおり、軟磁性鋼板において、酸化されていない合金部分の厚さをt0、酸化被膜の厚さをt1とすると、体積率Fは、下の式(1)によって表される。
F=t0/(t0+2・t1)×100% (1)
【0030】
さらに、本実施形態にかかる軟磁性鋼板においては、表裏両面の酸化被膜の間の絶縁抵抗が、3×108Ω・cm2以上であるとよい。すると、電磁鋼板を積層して用いた際に、層間の絶縁性が高くなり、渦電流損失低減の効果が大きく得られる。絶縁抵抗の上限は特に限定されるものではなく、厚さ0.50μm以下の酸化被膜によって得られる範囲内で、大きな絶縁抵抗を有するほど好ましい。
【0031】
[酸化被膜の形成方法]
本実施形態にかかる軟磁性鋼板は、所定の合金組成を有する軟磁性鋼板を原料とし、その原料鋼板に対して、所定の厚さの酸化被膜を形成する工程を経て、製造することができる。原料鋼板は、合金材量の溶製、鋳造、鍛造、さらに熱間圧延、冷間圧延、焼鈍等の工程を経て、得ることができる。
【0032】
所定の厚さを有する酸化被膜の形成は、還元的雰囲気、特に水素を含む雰囲気中での熱処理によって、好適に行うことができる。熱処理中の雰囲気においては、酸素分圧が、10-17Pa以下に抑えられていることが好ましい。酸素分圧が大きくなりすぎると、電磁鋼板の表面に、Alを主成分とする酸化物以外に、Feを主成分とする酸化物も生成しやすくなる。Feの酸化物が形成されると、酸化被膜の厚さが大きくなりやすいうえ、酸化被膜が剥離しやすくなる。しかし、熱処理時の酸素分圧を10-17Pa以下に抑えておけば、軟磁性鋼板の表面の酸化被膜の膜厚を小さく抑えて、酸化されていない合金の体積率を高めやすい。さらに好ましくは、酸素分圧は、10-20Pa以下であるとよい。酸素分圧の下限は特に指定されるものではないが、10-30Pa以上であれば、表面の絶縁に十分な酸化被膜を好適に形成することができる。雰囲気中の酸素分圧は、雰囲気の露点から見積もることができる。10-17Pa以下の酸素分圧を達成する観点から、雰囲気の露点は、0℃以下であるとよい。
【0033】
熱処理温度は、800℃以上であるとよい。すると、Alを主成分とする酸化被膜を、十分に形成しやすくなる。さらに好ましくは、熱処理温度は、850℃以上であるとよい。一方、熱処理温度は、950℃以下に抑えておくとよい。すると、熱処理時の過剰な粒成長を防止し、得られる軟磁性鋼板を高周波領域で使用した際の鉄損を小さく抑えることができる。さらに好ましくは、熱処理温度は、900℃以下であるとよい。
【実施例0034】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
【0035】
<試料の作製>
実施例1~5および比較例1~4の試料として、酸化被膜を有する軟磁性鋼板をそれぞれ作成した。まず、原料鋼板として、表1に示す成分組成を有する軟磁性鋼板をそれぞれ作製した。作製方法としては、各組成比を有する金属材料を真空誘導炉で溶製し、鋳造、熱間鍛造、熱間圧延、熱延板焼鈍および冷間圧延を行い、板厚0.2mmの板材を作成した。得られた板材に対して、磁気焼鈍を実施した。このようにして原料鋼板を得た。
【0036】
得られた原料鋼板に対して、水素雰囲気中での熱処理を実施した。熱処理には1気圧の水素ガスを用い、それぞれ表1に示した熱処理温度で、2時間の加熱を行った。表1には、各雰囲気ガスについて、露点と、その露点から計算される酸素分圧を示している。なお、比較例2については、水素ガスに意図的に水蒸気を添加した。
【0037】
<評価方法>
上記で得られた各試料の軟磁性鋼板に対して、以下のように、酸化被膜の膜厚、体積率、絶縁抵抗の評価を行った。
【0038】
(酸化被膜の膜厚および酸化されていない合金の体積率)
軟磁性鋼板の断面を、走査電子顕微鏡(SEM)によって観察し、表面の酸化被膜の厚さを計測した。表裏の酸化被膜の厚さが異なる場合には、それらの平均値を膜厚とした。さらに、得られた膜厚値を用いて、上記式(1)により、酸化されていない合金の体積率を見積もった。体積率が99.5%以上であれば、十分に高いとみなすことができる。
【0039】
(絶縁抵抗)
抵抗率計を用い、二端子法により、軟磁性鋼板の表裏の酸化被膜の間の抵抗値を計測し、絶縁抵抗とした。絶縁抵抗が3×108Ω・cm2以上であれば、十分に絶縁性が高いとみなすことができる。
【0040】
<結果>
表1に、実施例1~5および比較例1~4にかかる軟磁性鋼板について、成分組成および熱処理条件と、上記各評価試験の結果を示す。
【0041】
【0042】
表1によると、実施例1~5の成分組成はいずれも、(1)1.6%≦Al≦3.8%を含有し、任意に、(2)0%<Co≦25%および(3)0%<Ni≦2.5%の少なくとも一方を含有しており、残部がFeおよび不可避的不純物となっている。そして、酸素分圧の低い水素雰囲気中で熱処理を受けることにより、厚さ0.15μm以上かつ0.50μm以下の酸化被膜を有している。このように薄い酸化被膜を有することと対応して、それらいずれの試料においても、99.5%以上の体積率が得られている。また、酸化被膜が十分な厚さを有することに対応して、絶縁抵抗が3×108Ω・cm2以上となっている。なお、各実施例の酸化被膜に対して、SEMを用いた元素分析(SEM-EDX)を行っており、酸化被膜がAlを主成分とするものであることが確認されている。
【0043】
一方で、比較例1においては、軟磁性鋼板が上記範囲の成分組成を有してはいるものの、熱処理を750℃と低い温度で行っている。そのことと対応して、酸化被膜の形成が十分に進行せず、酸化被膜の膜厚が0.15μmに達していない。絶縁抵抗も3×108Ω・cm2を大きく下回っている。
【0044】
比較例2においては、軟磁性鋼板が上記範囲の成分組成を有してはいるものの、酸素を多く含む雰囲気中で熱処理を行っている。この比較例2においては、酸化被膜が剥離してしまい、各評価を実施することができなかった。これは、Feを多く含む厚い酸化被膜が形成されたためであると考えられる。
【0045】
比較例3においては、合金中のAl含有量が、1.6%を下回っている。そのことと対応して、実施例4等と同じ熱処理条件を採用しているにもかかわらず、酸化被膜の膜厚が0.15μmに達していない。絶縁抵抗も3×108Ω・cm2を大きく下回っている。比較例4においては、合金中のAl含有量が3.8%を超えている。そのことと対応して、酸化被膜の膜厚が0.50μmを超えており、体積率も99.5%に達していない。
【0046】
以上より、実施例1~5のように、所定の成分組成を有する合金を原料として用いれば、低酸素濃度の雰囲気での熱処理を経て、膜厚0.15μm以上、0.50μm以下の酸化被膜を有する軟磁性鋼板を得られることが分かる。そして、得られた軟磁性鋼板において、高い体積率と絶縁抵抗が得られる。