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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030812
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】口腔用フィルム製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/38 20060101AFI20240229BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20240229BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 31/4172 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240229BHJP
【FI】
A61K47/38
A61K9/70 401
A61P1/02
A61K45/00
A61K31/4172
A61K47/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133963
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】591060289
【氏名又は名称】岐阜市
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田原 耕平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭夫
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA71
4C076AA72
4C076BB22
4C076CC16
4C076DD38
4C076EE31A
4C076EE32A
4C076FF02
4C084AA17
4C084AA27
4C084MA05
4C084MA32
4C084MA56
4C084MA57
4C084NA10
4C084NA14
4C084ZA671
4C084ZA672
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC38
4C086GA13
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA32
4C086MA56
4C086MA57
4C086NA10
4C086NA14
4C086ZA67
(57)【要約】
【課題】崩壊性、機械的特性、保存安定性、及び粘膜付着性に優れた口腔用フィルム製剤を提供すること。
【解決手段】セルロース誘導体及び有効成分を含有する、口腔用フィルム製剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース誘導体及び有効成分を含有する、口腔用フィルム製剤。
【請求項2】
前記セルロース誘導体がヒドロキシプロピルセルロースである、請求項1に記載の口腔用フィルム製剤。
【請求項3】
前記ヒドロキシプロピルセルロースの含有量がポリマー成分100質量%に対して90%以上である、請求項2に記載の口腔用フィルム製剤。
【請求項4】
前記ヒドロキシプロピルセルロースの含有量が前記口腔用フィルム製剤の固形分100質量%に対して50~90質量%である、請求項2に記載の口腔用フィルム製剤。
【請求項5】
前記有効成分が口内炎予防又は治療薬である、請求項1に記載の口腔用フィルム製剤。
【請求項6】
前記有効成分がポラプレジンクである、請求項1に記載の口腔用フィルム製剤。
【請求項7】
前記ポラプレジンクの含有量が前記口腔用フィルム製剤の固形分100質量%に対して10~30質量%である、請求項6に記載の口腔用フィルム製剤。
【請求項8】
可塑剤を含有する、請求項1に記載の口腔用フィルム製剤。
【請求項9】
前記可塑剤がグリセリンである、請求項8に記載の口腔用フィルム製剤。
【請求項10】
前記可塑剤の含有量が前記口腔用フィルム製剤の固形分100質量%に対して1~25質量%である、請求項8に記載の口腔用フィルム製剤。
【請求項11】
口腔内崩壊フィルムである、請求項1~10のいずれかに記載の口腔用フィルム製剤。
【請求項12】
口腔内粘膜に付着させて用いるための、請求項1~10のいずれかに記載の口腔用フィルム製剤。
【請求項13】
口内炎の予防用である、請求項1~10のいずれかに記載の口腔用フィルム製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔用フィルム製剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
口内炎は、がん化学療法や放射線治療においてがん患者が最も苦痛と感じる有害事象の1つであり、重篤化すると治療継続が困難となる。さらに、小児患者では成人患者に比べ口内炎の発現率が高いことが報告されている。一方、国内において、口内炎に対して有効性が認められた薬剤は承認されていない。非特許文献1には、放射線治療による口内炎に対して、ポラプレジンクの懸濁製剤やトローチ剤が優れた口内炎予防効果を示すことが報告されている。しかし、本製剤は味や服用感の問題から、小児患者への適応は困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Funato, et al. Prophylactic Effect of Polaprezinc, a Zinc-L-carnosine, Against Chemotherapy-induced Oral Mucositis in Pediatric Patients Undergoing Autologous Stem Cell Transplantation. Anticancer Res. 2018;38(8):4691-4697. doi: 10.21873/anticanres.12775.PMID: 30061237.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、小児でも簡単に服用できるフィルム製剤に着目した。フィルム製剤は成人に対しても適用できるため、特に高齢者など口腔機能が低下したトローチなどの服用が重荷となる患者に対しても有効であると考えられる。
【0005】
本発明は、崩壊性、機械的特性、保存安定性、及び粘膜付着性に優れた口腔用フィルム製剤を提供することを課題とする。本発明は、好ましくは、有効成分(特にポラプレジンク)が高含量でありながらも、上記特性に優れた口腔用フィルム製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、セルロース誘導体及び有効成分を含有する、口腔用フィルム製剤、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0007】
項1. セルロース誘導体及び有効成分を含有する、口腔用フィルム製剤。
【0008】
項2. 前記セルロース誘導体がヒドロキシプロピルセルロースである、項1に記載の口腔用フィルム製剤。
【0009】
項3. 前記ヒドロキシプロピルセルロースの含有量がポリマー成分100質量%に対して90%以上である、項2に記載の口腔用フィルム製剤。
【0010】
項4. 前記ヒドロキシプロピルセルロースの含有量が前記口腔用フィルム製剤の固形分100質量%に対して50~90質量%である、項2に記載の口腔用フィルム製剤。
【0011】
項5. 前記有効成分が口内炎予防又は治療薬である、項1に記載の口腔用フィルム製剤。
【0012】
項6. 前記有効成分がポラプレジンクである、項1に記載の口腔用フィルム製剤。
【0013】
項7. 前記ポラプレジンクの含有量が前記口腔用フィルム製剤の固形分100質量%に対して10~30質量%である、項6に記載の口腔用フィルム製剤。
【0014】
項8. 可塑剤を含有する、項1に記載の口腔用フィルム製剤。
【0015】
項9. 前記可塑剤がグリセリンである、項8に記載の口腔用フィルム製剤。
【0016】
項10. 前記可塑剤の含有量が前記口腔用フィルム製剤の固形分100質量%に対して1~25質量%である、項8に記載の口腔用フィルム製剤。
【0017】
項11. 口腔内崩壊フィルムである、項1~10のいずれかに記載の口腔用フィルム製剤。
【0018】
項12. 口腔内粘膜に付着させて用いるための、項1~10のいずれかに記載の口腔用フィルム製剤。
【0019】
項13. 口内炎の予防用である、項1~10のいずれかに記載の口腔用フィルム製剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、崩壊性、機械的特性、保存安定性、及び粘膜付着性に優れた口腔用フィルム製剤を提供することができる。本発明の好ましい態様においては、有効成分(特にポラプレジンク)が高含量でありながらも、上記特性に優れた口腔用フィルム製剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】試験例1-1のシャーレ法における崩壊の様子を表す写真像を示す。写真左上に、フィルムをシャーレに浮かべてからの経過時間を示す。
図2】試験例1-2の崩壊時間及び接触角の測定結果を示す。横軸に、フィルムに添加した可塑剤の割合を示す。
図3】試験例1-3の引張強度の測定結果を示す。横軸に、フィルムに添加した可塑剤の割合を示す。
図4】試験例1-4の弾性率及び破断歪み率の測定結果を示す。横軸に、フィルムに添加した可塑剤の割合を示す。
図5】試験例4の粘膜付着性評価試験の概要を示す。
図6】試験例4の粘膜付着力及び接触角の測定結果を示す。Blankはフィルムを使用しない場合を示す。HPC Filmが実施例1のフィルムを示す。
図7】試験例5の崩壊時間、引張強度、弾性率、及び破断歪み率の測定結果を示す。横軸中、「なし」は甘味料を添加していないフィルムを示し、「あり」は甘味料を添加したフィルムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0023】
本発明は、その一態様において、セルロース誘導体及び有効成分を含有する、口腔用フィルム製剤(本明細書において、「本発明のフィルム製剤」と示すこともある。)、に関する。以下に、これについて説明する。
【0024】
セルロース誘導体は、セルロースのヒドロキシ基に置換基が導入されたものであり、この限りにおいて特に制限されない。セルロース誘導体としては、例えばセルロースエーテル、セルロースエステル等が挙げられるが、特に好ましくはセルロースエーテルである。セルロースエーテルとしては、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等が挙げられる。これらの中でも、崩壊性、機械的特性、保存安定性、粘膜付着性等の観点、有効成分(特にポラプレジンク)高含量における前記特性の観点等から、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロースのヒドロキシ基にヒドロキシ基を含む置換基が導入されたセルロース誘導がが好ましく、ヒドロキシプロピルセルロースが特に好ましい。本発明においては、ヒドロキシプロピルセルロースを用いることにより、上記特性をより一層高めることができる。なお、ヒドロキシプロピルセルロースは、低置換度でないヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースのいずれも包含するが、上記特性の観点から、低置換度でないヒドロキシプロピルセルロースが特に好ましい。
【0025】
セルロース誘導体の重量平均分子量は、フィルムを形成させる基剤として使用可能な程度である限り、特に制限されるものではない。当該分子量は、崩壊性、機械的特性、保存安定性、粘膜付着性等の観点、有効成分(特にポラプレジンク)高含量における前記特性の観点等から、例えば40,000~2,500,000、好ましくは40,000~1,000,000、より好ましくは40,000~500,000、さらに好ましくは60,000~200,000である。重量平均分子量はGPC法で測定される値である。
【0026】
セルロース誘導体は、1種単独であることができ、2種以上の組合せであることもできる。
【0027】
本発明のフィルム製剤は、フィルム基剤となるポリマー成分として、セルロース誘導体以外のポリマー成分を含むことができるが、崩壊性、機械的特性、保存安定性、粘膜付着性等の観点、有効成分(特にポラプレジンク)高含量における前記特性の観点等から、当該ポリマー成分の含有量は低いことが好ましい。
【0028】
セルロース誘導体以外のポリマー成分としては、例えばポリアルキレングリコール、アクリル酸ポリマー、アクリル酸コポリマー、メタクリル酸ポリマー、メタクリル酸コポリマー、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、デンプン、キサンタンガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、グァーガム、アカシアガム、アラビアガム、カラギーナン、デキストリン、デキストラン、アミロース、アルギン酸、アルギン酸塩、カルボキシビニルポリマー、プルラン、キトサン、カルボキシメチルスターチナトリウム、プランタゴ種皮、ガラクトマンナン、オイドラギット、カゼイン、アルギン酸アルキルエステル、ゼラチン、シクロデキストリン、水溶性プルランエーテル(プルランメチルエーテル、プルランエチルエーテル、プルランプロピルエーテルなど)、水溶性プルランエステル(プルランアセテート、プルランブチレートなど)、寒天、デラカント、キチン、タラガム、タマリンドガム等が挙げられる。
【0029】
セルロース誘導体の含有量は、ポリマー成分100質量%に対して、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、よりさらに好ましくは98質量%以上、特に好ましくは99質量%以上、最も好ましくは100質量%である。ヒドロキシプロピルセルロースの含有量は、ポリマー成分100質量%に対して、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、よりさらに好ましくは98質量%以上、特に好ましくは99質量%以上、最も好ましくは100質量%である。上記含有量とすることにより、崩壊性、機械的特性、保存安定性、粘膜付着性等、有効成分(特にポラプレジンク)高含量における前記特性をより一層高めることができる。
【0030】
セルロース誘導体の含有量は、本発明のフィルム製剤の固形分100質量%に対して、好ましくは50~90質量%、より好ましくは55~80質量%、さらに好ましくは60~75質量%、よりさらに好ましくは62~70質量%、とりわけ好ましくは66~70質量%である。ヒドロキシプロピルセルロースの含有量は、本発明のフィルム製剤の固形分100質量%に対して、好ましくは50~90質量%、より好ましくは55~80質量%、さらに好ましくは60~75質量%、よりさらに好ましくは62~70質量%、とりわけ好ましくは66~70質量%である。上記含有量とすることにより、崩壊性、機械的特性、保存安定性、粘膜付着性等、有効成分(特にポラプレジンク)高含量における前記特性をより一層高めることができる。なお、本明細書において、固形分とは、溶媒(水、一価C1-4アルコール)を除いた成分である。
【0031】
有効成分は、口腔内粘膜に接触させること又は口腔内で分散して口腔内又は消化管内のン粘膜に接触若しくは吸収されることにより薬効を発現可能なものである限り、特に制限されない。有効成分は、例えば医薬品成分、食品成分、化粧品成分等であることができる。
【0032】
医薬品成分としては、経口投与薬物、非経口投与薬物のいずれでもよいが、本発明のフィルム製剤は口腔内投与が望ましいので、経口投与薬物、経皮吸収性薬物などの薬物が特に好ましい。
【0033】
医薬品成分としては、例えば、口内炎予防又は治療薬(例えば、ポラプレジンク、デキサメタゾン、トリアムシノロンアセトニド、グリチルリチン酸二カリウム、アズレンスルホン酸ナトリウム、酢酸ヒドロコルチゾンなど);
口腔局所麻酔薬(例えば、リドカイン、パラアミノ安息香酸エチル、オキシプロカイン、テトラカイン、プロカイン、パラブチルアミノ安息香酸、ジエチルアミノエチルなど);
唾液分泌亢進薬(例えば、唾液腺のムスカリン(M3)受容体アゴニストであるセビメリン(塩酸塩水和物)、ピロカルピン塩酸塩、アネトールトリチオンなど)などが挙げられる。
【0034】
食品成分としては、(口腔内)抗菌物質(例えば、ラクトフェリン、エピガロカテキンガレート、プロポリスなど);(口腔内)消臭物質(例えば、カテキン、パセリシードオイル、ローズマリーエキス、シャンピニオンエキス、緑茶エキスなど)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
化粧品成分としては、ビタミン類(例えば、ビタミンC、ビタミンE、マルチビタミンなど)、アルブチン、エラグ酸、CoQ10、コラーゲン、ヒアルロン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。なお、これらの化粧品成分は、経口投与薬物ではないが、携帯性に優れたフィルム化粧品とすることができ、非常に有益である。
【0036】
有効成分は、1種単独であることができ、2種以上の組合せであることもできる。
【0037】
有効成分は、特に好ましくはポラプレジンク(Polaprezinc)である。ポラプレジンクは、化学名catena-Poly{zinc-μ-[β-alanyl-L-histidinato(2-)-N,N N,O:N τ]}であり、分子式は(C9H12N4O3Zn)nである。ポラプレジンクは、水、メタノール、エタノールにほとんど解けない。
【0038】
本発明のフィルム製剤は、有効成分(特にポラプレジンク)高含量であっても、崩壊性、機械的特性、保存安定性、粘膜付着性等に優れたものとすることができる。特に、ポラプレジンクは、口内炎予防効果を発揮させるための従来の剤型(懸濁製剤、トローチ製剤)と同等の効果を期待できる程度のフィルム製剤とするためには、高含量とする必要があるところ、本発明のフィルム製剤への配合に適している。また、セルロース誘導体とポラプレジンク、特にヒドロキシプロピルセルロースとポラプレジンクを組み合わせることは、崩壊性、機械的特性、保存安定性、粘膜付着性等の特性(特に、ポラプレジンク高含量時のこれらの特性)等の観点から特に好ましい。
【0039】
有効成分の含有量は、本発明のフィルム製剤の固形分100質量%に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは10~30質量%、よりさらに好ましくは15~25質量%、特に好ましくは17~23質量%である。ポラプレジンクの含有量は、本発明のフィルム製剤の固形分100質量%に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは10~30質量%、よりさらに好ましくは15~25質量%、特に好ましくは17~23質量%である。
【0040】
本発明のフィルム製剤は、崩壊性、機械的特性、保存安定性、粘膜付着性等の観点、有効成分(特にポラプレジンク)高含量における前記特性の観点等から、可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤により、有効成分(特にポラプレジンク)を含有させた場合の柔軟性の低下、乾燥時の収縮によるフィルムの反り返り、硬さの出現等を抑制することができる。
【0041】
可塑剤としては、例えばグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、クエン酸トリエチル、トリアセチン等が挙げられる。これらの中でも、崩壊性、機械的特性、保存安定性、粘膜付着性等の観点、有効成分(特にポラプレジンク)高含量における前記特性の観点等から、グリセリンが特に好ましい。
【0042】
可塑剤は、1種単独であることができ、2種以上の組合せであることもできる。
【0043】
可塑剤の含有量は、崩壊性、機械的特性、保存安定性、粘膜付着性等の観点、有効成分(特にポラプレジンク)高含量における前記特性の観点等から、本発明の口腔用フィルム製剤の固形分100質量%に対して、好ましくは1~25質量%、より好ましくは5~20質量%、さらに好ましくは10~18質量%、とりわけ好ましくは10~14質量%である。グリセリンの含有量は、崩壊性、機械的特性、保存安定性、粘膜付着性等の観点、有効成分(特にポラプレジンク)高含量における前記特性の観点等から、本発明の口腔用フィルム製剤の固形分100質量%に対して、好ましくは1~25質量%、より好ましくは5~20質量%、さらに好ましくは10~18質量%、とりわけ好ましくは10~14質量%である。
【0044】
本発明のフィルム製剤は、上記以外の他の成分を含有することができる。他の成分としては、例えば糖類、甘味料、矯味剤、着色剤、pH調整剤、界面活性剤、安定化剤、香料等が挙げられる。糖類としては、マルトース、還元麦芽糖水アメ、マルチトール、エリスリトール、キシリトール、ショ糖、ソルビトール、マンニトール、トレハロース等が挙げられる。甘味料としては、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、アセスムファムカリウム、スクラロース、グリチルリチン酸二カリウム等が挙げられる。矯味剤としては、l-メントール等が挙げられる。着色剤としては、酸化チタン、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、食用色素等が挙げられる。その他、pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等が挙げられる。界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。安定化剤としては、塩化カルシウム等が挙げられる。
【0045】
他の成分は、1種単独であることができ、2種以上の組合せであることもできる。
【0046】
他の成分の含有量は、崩壊性、機械的特性、保存安定性、粘膜付着性等の特性に著しく悪影響を与えない限り、特に制限されない。他の成分の含有量は、本発明の口腔用フィルム製剤の固形分100質量%に対して、例えば10質量%以下、5質量%以下、2質量%以下であることができる。
【0047】
本発明のフィルム製剤の厚みは、口腔内での使用に適した厚みである限り、特に制限されない。当該厚みは、例えば10μm~3mmであることができる。当該厚みの下限は、例えば20μm、50μm、80μm、又は100μmであることができる。当該厚みの上限は、例えば2mm、1mm、500μm、300μm、200μm、又は150μmであることができる。
【0048】
本発明のフィルム製剤は、単層であっても、複層であってもよい。複層である場合、上記成分(セルロース誘導体及び薬剤(好ましくはさらに可塑剤、任意にさらに他の成分))を含有する層と他の層とからなることが好ましい。
【0049】
本発明のフィルム製剤は、公知のフィルム製剤製造法に従って、例えば後述の実施例1を参考に、製造することができる。本発明のフィルム製剤は、例えば、セルロース誘導体及び薬剤(好ましくはさらに可塑剤、任意にさらに他の成分)を含有する基剤溶液(不溶成分が存在する場合は懸濁溶液)を基材(例えば樹脂製のフィルム)に塗布して乾燥させることにより、製造することができる。
【0050】
基剤溶液の溶媒としては、特に制限されず、水、一価アルコール(例えばエタノール)を使用することができる。基剤溶液の調製の際に不溶成分を添加する場合は、必要に応じて撹拌、超音波処理を行うことにより、均一な基剤溶液を調製することができる。
【0051】
本発明のフィルム製剤は、口腔内粘膜に付着させて用いることができる。これにより、有効成分を粘膜に接触させることができる。また、本発明のフィルム製剤は、口腔内で崩壊することにより(すなわち、口腔内崩壊フィルムとして機能することにより)有効成分を放出させ、これにより有効成分を口腔内又は消化管の粘膜に接触させる又は当該粘膜から吸収させることができる。本発明のフィルム製剤は、このようにして、有効成分の種類に応じて各種効果を発揮することができる。
【0052】
本発明のフィルム製剤は(特に、ポラプレジンクを含有する場合)、特に、口内炎の予防用に用いることが好ましい。この場合、対象は、口内炎が発生又は悪化する可能性がある対象であれば特に制限されない。このような対象としては、がん化学療法及び/又は放射線治療を受けた又は受ける予定の対象が好適である。
【0053】
本発明のフィルム製剤による有効成分の適用(例えば投与、摂取)量は、有効成分の効果を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、有効成分の重量として、例えば、一日あたり0.001~1000 mg/kg体重である。上記適用量は、有効成分の種類、年齢、目的、病態、症状等により適宜増減することもできる。
【実施例0054】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0055】
実施例1.口腔用フィルム製剤
<使用材料>
フィルム基剤:ヒドロキシプロピルセルロース (HPC-SL、重量平均分子量(GPC法):100,000、日本曹達株式会社)
可塑剤:グリセリン (特級グリセリン、キシダ化学株式会社)
薬物:ポラプレジンク (Yantai Valiant Pharmaceutical Co. Ltd) 日本薬局方 製造専用
溶媒:蒸留水、エタノール (特級エタノール、キシダ化学株式会社)。
【0056】
<使用機器>
・ベーカーアプリケーター(登録商標)(YBA-6型、ヨシミツ精機)
・自動塗工機 (G-7型、折原製作所)
・通風乾燥機 (KCV-4D、ADVANTEC)
・ベースフィルム (パイレン(登録商標)、ポリプロピレンフィルム、東洋紡株式会社)
・卓上型超音波洗浄機 (BRANSON 2510)
・シートカットプレス (武藤設計)。
【0057】
<基剤溶液の調製>
表1の組成となるように、フィルム基剤、可塑剤及び甘味料を所定量はかりとり、水-エタノール混合溶媒 (3:1) に溶解させた。卓上型超音波洗浄機(BRANSON 2510) を用いて30分間超音波処理を行った。この溶液にポラプレジンクを加え、凝集塊が消失するまで攪拌した後、再び30分間超音波処理を行い、HPC溶液に薬物を分散させた。溶液中に含まれる気泡を真空ポンプにて除去し、基剤溶液(白濁した懸濁溶液)を調製した。
【0058】
【表1】
【0059】
<フィルム成形>
耐熱ガラス板上にベースフィルム (パイレン(登録商標)、ポリプロピレンフィルム、東洋紡株式会社) を固定した。ベーカーアプリケーター(登録商標) (YBA-6型、ヨシミツ精機) を用いて、自動塗工装置 (G-7型、折原製作所) によりベースフィルム上に調製した基剤溶液を展延した(展延速度 : 100 mm/sec)。これを通風乾燥機 (KCV-4D、ADVANTEC) 中にて40℃、3時間の条件で乾燥させた。フィルムが乾燥していることを確認した後、トムソン刃を取り付けたシートカットプレス (武藤設計) により20 mm×30 mmに切断した。厚みは約130μmであった。切断したフィルムはアルミパウチ袋に入れ、室温で24時間エイジング処理を行った。
【0060】
可塑剤0%のフィルムは、乾燥後に反り返りが見られたが、可塑剤を含有するフィルムは乾燥後の反り返りは無かった。
【0061】
試験例1.可塑剤添加によるポラプレジンク含有フィルムの柔軟性改善
<試験例1-1.崩壊特性評価(1)シャーレ法>
直径10cmのシャーレに50mLの蒸留水を入れ、水面に可塑剤12%のフィルム(実施例1)を浮かべ、完全に崩壊するまでの時間を測定した。
【0062】
崩壊の様子を表す写真像を図1に示す。約4分後にフィルム形状が判別できない程度にまで崩壊した。
【0063】
<試験例1-2.崩壊特性評価(1)トリコープテスタ法、及び濡れ性評価>
口腔内崩壊錠用崩壊試験器トリコープテスタ (岡田精工)に実施例1のフィルムをセットして、次の条件で崩壊時間を測定した。試験液:人工唾液、滴下速度:6 mL/min (128 drops/min, 46.9 μl/drop)、滴下量:フィルムに穴が開くまでの量、セルサイズ:10×10×0.05 (mm)。
【0064】
また、実施例1のフィルムの面上にDropMaster (協和界面化学)を用いて2.4μLの蒸留水を滴下し、フィルムと液滴が接触した時の液滴の作る角度を測定した。
【0065】
崩壊時間の測定結果及び接触角の測定結果を図2に示す。可塑剤の添加により、フィルムの濡れ性が改善し、崩壊時間が短縮した。
【0066】
<試験例1-3.機械的特性評価>
実施例1のフィルムについてクリープメーター(YAMADEN)を用いて引張試験を行った。条件は次のとおりである。グリップ間距離:17 mm、引張速度:0.5 mm/sec、サンプルサイズ:5 mm×30 mm。応力-ひずみ曲線に基づいて、引張強度(MPa)(=最大荷重(N)/断面積(mm2))、弾性率(MPa)(=Δ応力/Δひずみ)、破断歪み率(%)(破断するまでにフィルムが変形した割合(ひずみ))を算出した。
【0067】
引張強度の測定結果を図3に示す。可塑剤の添加により、引張強度は低下したものの、どの濃度においても目標値の2MPaを達成していた。
【0068】
弾性率及び破断歪み率の測定結果を図4に示す。
【0069】
試験例2.含量均一性試験法による含量均一性評価
可塑剤12%のフィルム(実施例1)の面上からランダムに10カ所を選び、各箇所からサンプルを採取し、各サンプル中のポラプレジンク含量を高速液体クロマトグラフィーにて測定した。測定結果に基づいて判定値を算出した。判定値の算出式は以下のとおりである。日本薬局方第十八改正においては、判定値が15%を超えないときに適合とする旨が記載されている。
【0070】
【数1】
【0071】
結果を表2に示す。実施例1のフィルムは、含量均一性試験に適合することが明らかになった。
【0072】
【表2】
【0073】
試験例3.保存安定性評価
可塑剤12%のフィルム(実施例1)について、製造直後からチャック付きアルミバッグ内に密閉し、バッグ内を25℃、湿度50~60%に保ち、4週間保存した。保存前後における、崩壊時間(トリコープテスタ法)、引張強度、薬物含有率、及びフィルム中の水分含有率を測定した。崩壊時間(トリコープテスタ法)、引張強度、及び薬物含有率については、上記試験例の方法で測定した。水分含有率は、フィルムを微量真空乾燥機 (SANSYO)で105℃、120分時間加熱し、加熱前後の質量差からフィルム中の水分量を測定し、得られた測定値に基づいて算出した。
【0074】
その結果、保存後の崩壊時間、保存後の引張強度、保存後の薬物含有率は、保存前を100%とした場合、順に99.2%、109.6%、102.9%、であった。また、水分含有率は、保存前が7.8%であり、保存後は9.4%であった。このように、4週間の保存期間中、これらのフィルム物性に大きな変化はなかった。
【0075】
試験例4.粘膜付着性評価
可塑剤12%のフィルム(実施例1)、市販品A(口腔用錠剤:オラビ錠口腔用50mg)、市販品B(口腔用貼付剤:アフタッチ口腔用貼付剤25μg)について、濡れ性評価、及び粘膜付着性評価試験に供した。濡れ性評価は、上記試験例の方法で評価した。粘膜付着性評価試験は、図5に示すようにして、試験液100μLをステージ上のブタ頬粘膜に滴下し、そこへフィルムを上から付着させて一定時間接触させた後、ステージを下方に移動させ、フィルムと粘膜が離れるまでのばねの伸びを測定することにより行った。条件は次のとおりである。装置:ジョリーばねばかり (JS-70A 島津理化)、試験液:人工唾液、分銅:5, 20 g (0.049 N, 0.196 N)、液量:100μL、接触時間:20 秒。
【0076】
結果を図6に示す。実施例1のフィルムは市販品に劣らない粘膜付着性を示した。また、市販品と比べて濡れ性に優れていた。
【0077】
試験例5.甘味料添加フィルムの調製・評価
可塑剤12%のフィルム(実施例1)と、フィルム基剤を1%減らし、代わりに甘味料としてスクラロースを1%加える以外は当該フィルムと同様にして作製したフィルムを準備した。これらのフィルムについて、崩壊時間、引張強度、弾性率、及び破断歪み率を上記試験例と方法で測定した。
【0078】
結果を図7に示す。甘味料添加はフィルム特性に影響を与えないことが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7