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特開2024-30820ポリエステル分解菌及びポリエステルの分解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030820
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ポリエステル分解菌及びポリエステルの分解方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240229BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240229BHJP
   C08J 11/18 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N15/11 Z ZNA
C12N1/20 F
C08J11/18 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133979
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 信弘
(72)【発明者】
【氏名】平吹 諒
(72)【発明者】
【氏名】森 幸治
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正人
【テーマコード(参考)】
4B065
4F401
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AC14
4B065AC20
4B065BD40
4B065CA55
4F401AA22
4F401CA77
4F401EA46
4F401FA07Z
4F401FA10Z
(57)【要約】
【課題】ポリエステルを分解する菌の提供及びこの菌によるポリエステルの分解方法の提供。
【解決手段】ポリエステルを扱う施設の処理廃水から採取されたパラコッカス属細菌であるポリエステル分解菌。ポリエステル分解菌は、炭素源としてポリエステルのみを含む培地中で増殖することが可能である。ポリエステル分解菌は、配列番号1に記載の塩基配列と98.86%以上の相同性を有する塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有するパラコッカス属細菌である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを扱う施設の処理廃水から採取されたパラコッカス属細菌であるポリエステル分解菌。
【請求項2】
炭素源としてポリエステルのみを含む培地中で増殖する、請求項1に記載のポリエステル分解菌。
【請求項3】
配列番号1に記載の塩基配列と98.86%以上の相同性を有する塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有するパラコッカス属細菌である、請求項1に記載のポリエステル分解菌。
【請求項4】
独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、受託番号NITE P-03695として寄託されたパラコッカス属細菌KM株である、請求項1に記載のポリエステル分解菌。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリエステル分解菌にポリエステルを接触させて前記ポリエステルを分解する工程を含む、ポリエステルの分解方法。
【請求項6】
前記分解する工程が前記ポリエステル分解菌を前記ポリエステルを含む液体培地中で培養することである、請求項5に記載のポリエステルの分解方法。
【請求項7】
前記ポリエステルが前記液体培地の水の重量に対し1~5重量%である、請求項6に記載のポリエステルの分解方法。
【請求項8】
前記ポリエステルの重量平均分子量が85000以下である、請求項5に記載のポリエステルの分解方法。
【請求項9】
前記ポリエステルの重量平均分子量を40000以下とする前処理工程をさらに含む、請求項5に記載のポリエステルの分解方法。
【請求項10】
前記ポリエステルに対し、親水化処理を行う工程をさらに含む、請求項5に記載のポリエステルの分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル分解菌及びポリエステルの分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、持続可能な開発目標、つまりSDGsが国際目標として掲げられている。この目標を達成するためには、資源循環システムの構築が必要とされており、その一つとしてプラスチック廃棄物のリサイクルが挙げられる。
【0003】
プラスチック廃棄物のリサイクル技術は、物理的方法と化学的方法の二つに大きく分類される。物理的方法の一つとして、廃棄プラスチックをそのまま原料としてリサイクルするマテリアルリサイクルが挙げられる。廃棄プラスチックは、包装運搬、土木建築、住宅、公園、道路、鉄道及び農林水産関係の用品等の原料として再利用されている。化学的方法では、廃棄プラスチックをモノマーやオリゴマーまで分解して回収し、これらを原料として新たにプラスチックを再合成している。
【0004】
しかしながら、実際にプラスチック廃棄物がリサイクルされている割合は、全体の10%弱程度である。残りの約10%が焼却処理され、約80%が埋め立て処理又は海洋等の環境中に投棄されている。
【0005】
投棄されたプラスチック廃棄物は、風雨、波及び紫外線等により劣化し、微細化してマイクロプラスチックとなる。マイクロプラスチックは、回収が困難であることに加え、自然界でほとんど分解されない。その結果、マイクロプラスチックは、生態系において様々な問題を引き起こしている。例えば、マイクロプラスチックの表面には細かな凹凸があり、有害な化学物質を吸着しやすい性質がある。そのため、マイクロプラスチックは、有害物質の運搬者となり海洋汚染の一因になっている。
【0006】
また、海洋生物がマイクロプラスチックを餌と間違えて摂取することにより、マイクロプラスチックが内臓に詰まったり、有害物質を蓄積させたりして死亡してしまうケースが報告されている。また、人間がこのような魚を摂取すると、マイクロプラスチックや有害物質が体内に取り込まれ、様々な疾病を引き起こす可能性があるといわれている。
【0007】
このような事情から、環境へのプラスチック廃棄物の投棄を抑制する動きがあるが、これまでに1億5千万トン以上のプラスチック廃棄物が既に海洋中に流出しているといわれている。
【0008】
また、埋め立て処理の際には、プラスチック廃棄物を圧縮しているが、体積縮小が十分とはいえない。また、プラスチック廃棄物は、殆ど自然分解されず数百年の長期に渡り存在し続ける。これらの原因により、埋め立て処理場が圧迫されている。埋め立て処理場を新設するには広大な面積が必要であり、有害物質の流出や臭気発生の懸念がある。
【0009】
焼却処理ではサーマルリサイクルによる熱回収を行っているものの、燃焼による二酸化炭素排出に伴う地球温暖化及びダイオキシンの排出や臭気による健康被害の原因となる可能性がある。
【0010】
そこで、有害物質の発生を抑制でき、エネルギー使用量が少ないことから、微生物によるプラスチックの分解が注目されている。特許文献1は、微生物によるポリエチレンテレフタレートの分解を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008-199957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
プラスチック廃棄物を分解できる新規な菌の探索は、環境保護の観点から有益である。
【0013】
本発明の目的は、ポリエステルを分解する菌の提供及びこの菌によるポリエステルの分解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1]ポリエステルを扱う施設の処理廃水から採取されたパラコッカス属細菌であるポリエステル分解菌。
[2]炭素源としてポリエステルのみを含む培地中で増殖する、[1]に記載のポリエステル分解菌。
[3]配列番号1に記載の塩基配列と98.86%以上の相同性を有する塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有するパラコッカス属細菌である、[1]又は[2]に記載のポリエステル分解菌。
[4]独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、受託番号NITE
P-03695として寄託されたパラコッカス属細菌KM株である、[1]~[3]の何れか一項に記載のポリエステル分解菌。
[5][1]~[4]のいずれか1項に記載のポリエステル分解菌にポリエステルを接触させて前記ポリエステルを分解する工程を含む、ポリエステルの分解方法。
[6]前記分解する工程が前記ポリエステル分解菌を前記ポリエステルを含む液体培地中で培養することである、[5]に記載のポリエステルの分解方法。
[7]前記ポリエステルが前記液体培地の水の重量に対し1~5重量%である、[6]に記載のポリエステルの分解方法。
[8]前記ポリエステルの重量平均分子量が85000以下である、[5]~[7]の何れか一項に記載のポリエステルの分解方法。
[9]前記ポリエステルの重量平均分子量を40000以下とする前処理工程をさらに含む、[5]~[8]の何れか一項に記載のポリエステルの分解方法。
[10]前記ポリエステルに対し、親水化処理を行う工程をさらに含む、[5]~[9]の何れか一項に記載のポリエステルの分解方法。
【発明の効果】
【0015】
上記態様によれば、ポリエステルを分解する新規な菌の提供及びこの菌によるポリエステルの分解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】KM株の顕微鏡画像である。
図2】KM株の16S rRNAの5’末端側より701bpの塩基配列である。
図3】分解解析用サンプル、比較用サンプル及びプラスコートZ-565のみのサンプルの分子量分布曲線である。
図4】分解解析用サンプルの分子量分布曲線をピークフィッティングさせた結果である。
図5】比較用サンプルの分子量分布曲線をピークフィッティングさせた結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(ポリエステル分解菌)
本発明の一態様におけるポリエステル分解菌は、ポリエステルを扱う施設の処理廃水から採取されたパラコッカス属細菌である。
【0018】
本明細書において、ポリエステルとは、主鎖にエステル結合を持つ任意の高分子物質を意味する。ポリエステルを構成するモノマーユニットとしては、多価カルボン酸、多価アルコール、及び同一分子内にカルボン酸とヒドロキシル基とを有するヒドロキシアルカン酸が挙げられる。これらのモノマーユニットが脱水縮合又は前駆体となるラクトンが開環重合してエステル結合を形成し、ポリエステル分子を構成する。
【0019】
多価カルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、及び2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸及びデカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられ、これらの誘導体であってもよい。多価アルコールとしては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、ジエチレングリコール、及びグリセリンなどが挙げられる。ヒドロキシアルカン酸としては、ポリグリコール酸及びポリ乳酸などのα-ヒドロキシ酸;β-ヒドロキシ酪酸及びβ-ヒドロキシ吉草酸などのβ-ヒドロキシ酸;β-プロピオラクトン及びε-カプロラクトンなどのω-ヒドロキシ酸のラクトンなどが挙げられる。
【0020】
分解に供するポリエステルの形態に限定はなく、形態の例としては繊維状、フィルム状、塊状、ボトル状、粒状、フレーク状、ペレット状及びこれらの混合体等が挙げられる。また、分解に供するポリエステルは、水に溶解、懸濁又は分散されていてもよい。
【0021】
分解に供するポリエステルの重量平均分子量(以下、Mwと記載することがある)は、特に限定されないが、例えば85000以下が挙げられ、60000以下であってもよく、40000以下であってもよい。分解に供するポリエステルのMwが85000以下であると、本発明の一態様におけるポリエステル分解菌により効率よく分解することができる。ポリエステルのMwの下限値は特に限定されないが、例えば250が挙げられる。
【0022】
分解に供するポリエステルは、Mwが40000以下となるよう前処理工程がされていてもよい。前処理を行うことで、ポリエステル分解菌による分解効率を向上することができる。前処理工程後のポリエステルのMwは、20000以下であってもよく、10000以下であってもよい。前処理工程後のポリエステルのMwは、6000以上であってもよく、10000以上であってもよい。前処理工程後のポリエステルのMwの上限値と下限値は、任意に組み合わせることができる。前処理工程としては、具体的には、熱分解、接触分解、亜臨界や超臨界流体による処理、超音波照射、紫外線などの短波長電磁波の照射、電子線などの粒子線の照射、酸やアルカリを触媒とした加水分解及びアンモニアなどの低分子求核試薬による求核置換反応などが挙げられる。
【0023】
分解に供するポリエステルは、親水化処理がされていてもよい。親水化処理としては、例えばポリエステルと親水性基を有するポリマーとのグラフト重合、液体中又は気体中でのオゾンへの暴露、大気や適宜のガス雰囲気下におけるコロナ放電又はプラズマ放電などが挙げられる。ポリエステル分解菌を含む液体培地中でポリエステルの分解を行う場合、ポリエステルが親水化処理されていると液体培地中に分散しやすくなり、ポリエステル分解菌とポリエステルの接触効率が向上する。
【0024】
本発明の一態様におけるポリエステル分解菌は、ポリエステルを分解することができる。本発明の一態様におけるポリエステル分解菌は、炭素源がポリエステルのみである培地において増殖が可能であり、炭素源がポリエステルのみである培地においてポリエステルを分解することができる。また、本発明の一態様におけるポリエステル分解菌は、炭素源がポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記載することがある)のみである培地において増殖が可能であり、炭素源がPETのみである培地においてPETを分解することができる。
【0025】
本発明の一態様におけるポリエステル分解菌として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に受託番号NITE P-03695として寄託されたパラコッカス属細菌KM株が挙げられる。パラコッカス属細菌KM株の顕微鏡画像を図1に示す。パラコッカス属細菌KM株は、ポリエステルを扱う施設の処理廃水から採取されたパラコッカス属細菌である。より具体的には、パラコッカス属細菌KM株は、ポリエステルを扱う施設である小松マテーレ株式会社美川工場の廃水処理場の活性汚泥(pH7.8)から単離されたパラコッカス属細菌である。
【0026】
後述する生化学的性質及び遺伝学的性質に基づいた分類によれば、パラコッカス属細菌KM株は、図2及び配列番号1に示す16S rRNA遺伝子の塩基配列を有する。この配列をDNA相同性検索(BLAST)に供するとParacoccus communisとの相同性が100%、Paracoccus denitrificansとの相同性が98.86%であったことから、KM株は、パラコッカス属細菌であるといえる。また、図2に示す16S rRNA遺伝子の塩基配列と98.86%を超える相同性を示す16S rRNA遺伝子の配列を有する細菌は、パラコッカス属細菌KM株と近縁であり、パラコッカス属細菌KM株と同等のポリエステル分解能を有する可能性が高い。従って、16S rRNA遺伝子の5’末端側より701bpの塩基配列と98.86%を超える相同性を示す16S rRNA遺伝子の配列を有し、かつポリエステル分解能を有する細菌は、本発明に包含される。
【0027】
細菌のポリエステル分解能は、以下の方法で確認することができる。上述のポリエステルのみを炭素源として液体培地200mLに細菌を植菌し、37℃、150rpmで48時間振とう培養を行う。振とう培養後、4℃、3000rpmで15分間遠心分離し集菌を行う。上清を遠沈管に20mL分注し-80℃で160時間、凍結乾燥を行い、分解解析用サンプルを作成する。同様に、植菌を行わなかった液体培地においても同じ手順で比較用サンプルを作成する。
【0028】
作成した各サンプル50mgを10mLのクロロホルムに溶解し、0.5μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)膜シリンジフィルターを用いて、非溶解物をろ過する。ゲル浸透クロマトグラフィー装置(例えば、東ソー社製、品番:HLC-8020)を用いてろ液のゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと記載することがある)測定を行い、培養前後におけるポリエステルの分子量変化を測定する。GPC測定において、溶離液にはクロロホルムを用いる。測定は、流量1mL/min、温度40℃、試料濃度約1mg/mLの条件で行う。分子量の値は、東ソー社製の標準ポリスチレン(以下、PSと記載することがある)を用いてPS換算分子量で算出する。
【0029】
本発明の一態様におけるポリエステル分解菌は、例えばポリエステルとして互応化学工業株式会社のプラスコート Z-565を用いた場合、Mwが約10000の成分が減少し、Mwが約5000の成分が増加することが観察される。つまり、本発明の一態様におけるポリエステル分解菌は、プラスコート Z-565のMwが約10000の成分を分解することができると考えられる。
【0030】
(ポリエステルの分解方法)
本発明の一態様におけるポリエステルの分解方法は、ポリエステル分解菌にポリエステルを接触させて前記ポリエステルを分解する工程を含む。
【0031】
ポリエステル分解菌としては、(ポリエステル分解菌)で説明したポリエステル分解菌を用いることができる。
【0032】
ポリエステル分解菌にポリエステルを接触させる方法としては、液体中でポリエステルとポリエステル分解菌とを接触させることが挙げられる。液体としては、一般的に使用される液体培地であってもよい。つまり、ポリエステル分解菌にポリエステルを接触させる方法は、ポリエステルを含む液体培地中でポリエステル分解菌を培養する工程であってもよい。液体培地は、ポリエステル以外の炭素源を含んでもよく、炭素源としてポリエステルのみを含んでもよい。炭素源がポリエステルのみであっても十分に増殖できるポリエステル分解菌である場合、ポリエステルの分解効率の観点から、炭素源としてポリエステルのみを含むことが好ましい。炭素源としてポリエステル以外の成分を含んでいる方が増殖しやすいポリエステル分解菌である場合、ポリエステル以外の炭素源を含んでいるとポリエステルの分解効率が高まるため好ましい。
【0033】
ポリエステルを含む液体培地中でポリエステル分解菌を培養する工程として、静置培養及び振とう培養が挙げられるが、振とう培養であることが好ましい。振とう培養時の振とう速度は、例えば100~300rpmが挙げられる。
【0034】
液体中でポリエステルとポリエステル分解菌とを接触させる工程における温度は、20~45℃であることが好ましく、35~40℃であることがより好ましい。ポリエステル分解菌を培養する工程における温度が20~45℃であると、ポリエステル分解菌の増殖速度が向上し、ポリエステルの分解効率が向上する。
【0035】
液体中でポリエステルとポリエステル分解菌とを接触させる工程におけるpHは、6~8であることが好ましく、7~7.5であることがより好ましい。ポリエステル分解菌を培養する工程におけるpHが6~8であると、ポリエステル分解菌の増殖速度が向上し、ポリエステルの分解効率が向上する。pHを6~8に調整するために、液体に塩酸及び硫酸等の無機酸;水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等の無機塩基;無機酸又は無機塩の水溶液;及びリン酸緩衝液等の各種緩衝液の少なくとも一つを添加してもよい。
【0036】
液体中のポリエステルの割合は、液体中の水の重量に対し1~5重量%であることが好ましく、1~2重量%であることがより好ましい。ポリエステルの割合が液体中の水の重量に対し1~2重量%であると、ポリエステルの分解効率が向上する。
【0037】
液体が他の炭素源を含む場合の炭素源としては特に限定されないが、グルコース、スクロース及び酵母エキス等が挙げられる。他の炭素源の割合は、例えば液体中の水の重量に対し0.5~2重量%であることが好ましく、0.5~1.0重量%であることがより好ましい。
【0038】
液体中でポリエステルとポリエステル分解菌とを接触させる工程は、特に限定されないが、例えば1日以上、好ましくは2日以上、より好ましくは5日以上、さらに好ましくは10日以上、かつ例えば5ヶ月以下、好ましくは2ヶ月以下、より好ましくは1ヶ月以下である。必要に応じて液体中でポリエステルとポリエステル分解菌とを接触させる工程の途中に新規に培養を開始した菌体を添加してもよい。
【0039】
なお、ポリエステルとポリエステル分解菌とを接触させる工程の期間は、固体培地で行われてもよく、土壌中で行われてもよい。固体培地としては、上記の液体培地にAgarを添加したものが挙げられる。固体培地又は土壌中でポリエステルとポリエステル分解菌とを接触させる場合においても、上述の液体中での各条件、即ち、温度、pH、ポリエステル割合、他の炭素源及び接触期間の少なくとも一つを適用することができる。
【0040】
本発明の一態様におけるポリエステルの分解方法は、ポリエステルのMwを40000以下とする前処理工程をさらに含んでいてもよい。前処理を行うことで、ポリエステル分解菌による分解効率を向上することができる。前処理工程後のポリエステルのMwは、20000以下であってもよく、10000以下であってもよい。前処理工程後のポリエステルのMwは、6000以上であってもよく、10000以上であってもよい。前処理工程後のポリエステルのMwの上限値と下限値は、任意に組み合わせることができる。前処理工程としては、具体的には、熱分解、接触分解、亜臨界や超臨界流体による処理、超音波照射、紫外線などの短波長電磁波の照射、電子線などの粒子線の照射、酸やアルカリを触媒とした加水分解及びアンモニアなどの低分子求核試薬による求核置換反応などが挙げられる。
【0041】
本発明の一態様におけるポリエステルの分解方法は、親水化処理を行う工程をさらに含んでいてもよい。親水化処理としては、例えばポリエステルと親水性基を有するポリマーとのグラフト重合、液体中又は気体中でのオゾンへの暴露、大気や適宜のガス雰囲気下におけるコロナ放電又はプラズマ放電などが挙げられる。ポリエステル分解菌を含む液体培地中でポリエステルの分解を行う場合、ポリエステルが親水化処理されていると液体培地中に分散しやすくなり、ポリエステル分解菌とポリエステルの接触効率が向上する。
【実施例0042】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
<微生物のスクリーニング及び単離>
ポリエステル分解菌KM株は、以下の方法により単離された。小松マテーレ株式会社美川工場廃水処理場の活性汚泥をスクリーニング源とした。活性汚泥のpHは、7.8であった。スクリーニング源200μLを表1に示す液体培地200mLに植菌し、37℃、150rpmで3日間振とう培養を行い、プレ培養液を得た。プレ培養液200μLを採取し、表1に示す液体培地200mLに植菌し、37℃、150rpmで3日間振とう培養を行い、培養液を得た。
【0044】
表1に示す液体培地に、水の重量に対し1.5重量%のAgarを加えた固体培地を調製した。培養液を200μL採取し、固体培地に植菌した。37℃で3日間静置培養後、コロニーを単離した。なお、液体培地及び固体培地におけるポリエステルとして互応化学工業株式会社のプラスコート Z-565を用いた。表1中、プラスコート Z-565の割合は、水の重量に対するプラスコート Z-565の重量割合を示す。また、液体培地は、調整後に塩酸と水酸化ナトリウムを添加してpH7.5となるよう調整した。
【0045】
【表1】
【0046】
単離したコロニー4個を滅菌コンラージ棒で掻き取り、表1の液体培地3mLにそれぞれ植菌し、37℃、150rpmで2日間培養した。培養後の各液体培地の600nmの波長で測定された光学密度(OD:600)を吸光光度計(Thermo Fisher社製、品番:NanoDrop OneC)によりを測定した。各液体培地の光学密度(OD:600)は、0.12~0.28であり、菌の増殖が観察された。
【0047】
(実施例2)
<微生物の同定>
実施例1において増殖が良好な菌株であるKM株を用いて、16S rRNA遺伝子配列解析を行った。遺伝子解析は、日本薬局方準拠の「遺伝子解析による微生物の迅速同定法」に基づいて行われた。具体的には、表2に示す配列のプライマーを用い、94℃で30秒間、55℃で60秒間、72℃で60秒間の反応を1サイクルとし、30サイクルの反応を行った。シークエンス解析の結果、16S rRNA遺伝子の5’末端側より701bpの塩基配列を決定した。KM株の16S rRNA遺伝子の5’末端側より701bpの塩基配列を図2に示す。
【0048】
この塩基配列をDNA相同性検索(BLAST)に供した結果を、表3に示す。KM株とParacoccus communisとの相同性が100%、Paracoccus denitrificansとの相同性が98.86%であった。KM株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、受託番号NITE P-03695として寄託された。
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
(実施例3)
<ポリエステルの分解>
表1に示すpHが7.5の液体培地200mLにKM株を植菌し、37℃、150rpmで48時間振とう培養を行った。振とう培養後、4℃、3000rpmで15分間遠心分離し集菌を行った。上清を遠沈管に20mL分注し、-80℃で160時間凍結乾燥を行い、分解解析用サンプルを作成した。同様に、植菌を行わなかった液体培地においても同じ手順で比較用サンプルを作成した。
【0052】
作成した各サンプル50mgを10mLのクロロホルムに溶解し、0.5μmのPTFE膜シリンジフィルターを用いて、非溶解物をろ過した。ゲル浸透クロマトグラフィー装置(東ソー社製、品番:HLC-8020)を用いてろ液のGPC測定を行い、培養前後におけるプラスコート Z-565の分子量変化を測定した。GPC測定において、溶離液にはクロロホルムを用いた。測定は、流量1mL/min、温度40℃、試料濃度約1mg/mLの条件で行った。分子量の値は、東ソー社製の標準ポリスチレン(PS)を用いてPS換算分子量で算出した。
【0053】
GPC測定の結果、比較用サンプルのMwが6600であったのに対し、分解解析用サンプルでは5900であった。また、プラスコート Z-565のみのサンプルのMwは、6500であった。分解解析用サンプル、比較用サンプル及びプラスコート Z-565のみのサンプルの分子量分布曲線を図3に示す。図3において、分解解析用サンプルを実線で、比較用サンプルを破線で、プラスコート Z-565のみのサンプルを一点鎖線でそれぞれ示す。プラスコート Z-565のみのサンプル及び比較用サンプルは、ほぼ同様の分子量分布曲線の形状であった。一方で、分解解析用サンプルの分子量分布曲線では、分子量約10000の成分が減少し、分子量約5000の成分が増加した。これらの結果より、KM株の存在による高分子量成分の分解が示された。
【0054】
図4は、分解解析用サンプルの分子量分布曲線をピークフィッティングさせた結果を示す。図5は、比較用サンプルの分子量分布曲線をピークフィッティングさせた結果を示す。また、表4にピークフィッティング後の各サンプルにおける数平均分子量Mn、重量平
均分子量Mw及びMw/Mnを示す。
【0055】
【表4】
【0056】
ピークフィッティングは、Igor Pro ver.8(開発元:Wave Metrics,Inc.)により行った。
【0057】
分解解析用サンプルでは、Mnが4200であり、Mwが5900であった。プラスコート Z-565のみのサンプル及び比較用サンプルと比較してMn及びMwの何れも減少していた。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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