(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030823
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】制振建物
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240229BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
E04H9/02 301
E04H9/02 321F
E04H9/02 351
F16F15/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133987
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】六本木 元太
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄一
(72)【発明者】
【氏名】安田 聡
(72)【発明者】
【氏名】山形 有紀
(72)【発明者】
【氏名】三澤 大輝
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA05
2E139AC19
2E139AC43
2E139BA08
2E139BA19
2E139BD02
2E139BD22
2E139BD36
2E139BD38
3J048AA06
3J048AC01
3J048DA04
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】境界梁が負担するせん断力を、連層耐震壁にスムーズに伝達させることができる構造を、簡易な構成で実現することを可能とする。
【解決手段】制振建物は、複数階に亘って連層耐震壁30が設けられ、同一面内に配置される第1壁柱31、及び第2壁柱32と、第1壁柱31と第2壁柱32を連結する鋼製の第1境界梁35と、を備え、第1境界梁35は、梁端部50の縦断面視がH形状であり、材軸方向Xの梁中央部には振動エネルギー吸収部37が設けられ、梁端部50の各々は、第1壁柱31と第2壁柱32に埋設され、梁端部50のいずれか一方または双方の埋設された部分に、梁側面に水平方向に延在するように水平リブ補強材56が設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数階に亘って連層耐震壁が設けられる制振建物であって、
同一面内に配置される第1壁柱、及び第2壁柱と、
前記第1壁柱と前記第2壁柱を連結する鋼製の第1境界梁と、を備え、
前記第1境界梁は、梁端部の縦断面視がH形状であり、材軸方向の梁中央部には振動エネルギー吸収部が設けられ、前記梁端部の各々は、前記第1壁柱と前記第2壁柱に埋設され、前記梁端部のいずれか一方または双方の埋設された部分に、梁側面に水平方向に延在するように水平リブ補強材が設けられていることを特徴とする制振建物。
【請求項2】
前記第1壁柱、及び前記第2壁柱内への前記第1境界梁の前記梁端部の埋設長さは、当該埋設長さの最小閾値以上であり、及び前記第1境界梁の梁せい以内であることを特徴とする請求項1に記載の制振建物。
【請求項3】
前記連層耐震壁は、更に、第3壁柱を備え、
前記第2壁柱と前記第3壁柱は、幅方向において前記第1壁柱を挟んで互いに離間して設けられ、前記第1壁柱と前記第3壁柱は鋼製の第2境界梁で連結され、
前記第1壁柱の横断面積は、前記第2壁柱及び前記第3壁柱の横断面積より大きく形成され、
前記第2境界梁は、梁端部の縦断面視がH形状であり、材軸方向の梁中央部には振動エネルギー吸収部が設けられ、前記梁端部の各々は、前記第1壁柱と前記第3壁柱に埋設され、前記梁端部のいずれか一方または双方の埋設された部分に、梁側面に水平方向に延在するように水平リブ補強材が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の制振建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数階に亘って連続して連層耐震壁が設けられる制振建物に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の耐振性能を高めるための手法の一つとして、連層耐震壁を用いたものがある。
例えば特許文献1には、間隔をあけて配設された連層耐震壁間に設けられた複数の境界梁と、境界梁に設けられた曲げ変形吸収ダンパーと、連層耐震壁に設けられた剪断変形吸収ダンパーと、を備える構成が開示されている。
また、特許文献2には、上部構造物の外周面における同一面内に離間して立設された複数の連層耐震壁と、複数の連層耐震壁同士を接合する複数の境界梁と、を備え、連層耐震壁の下端部は、下部構造物にピン支承されている構成が開示されている。
また、特許文献3には、同一面内に離間して立設された2つの連層耐震壁と、2つの連層耐震壁同士を接合する複数の境界梁と、を備え、各連層耐震壁は、その外側の下端部の一点において下部構造物に回動自在にピン支承され、各連層耐震壁の内側の下端部の他点と下部構造物との間には、エネルギー吸収部材が介設され、複数の境界梁のうちの少なくとも一つは、エネルギー吸収部材を備える構成が開示されている。
【0003】
例えば、上記のような連層耐震壁を鉄筋コンクリートで、及び境界梁をH形鋼で、それぞれ実現する場合において、境界梁に作用するせん断力は、H形鋼のウェブから、フランジを介して、連層耐震壁のコンクリートへと伝達される。ここで、例えば200~300mの高さを有する超々高層建物においては、境界梁の端部の梁せいは、例えば1200mm程度と、非常に大きなものとなる。このような場合においては、ウェブからフランジへと適切にせん断力が伝達されず、フランジの支圧応力が局所的に大きくなる可能性がある。
連層耐震壁のコンクリートに埋設される、境界梁の端部の長さを長くすることで、フランジの支圧応力を分散させてコンクリートに伝達させることも考えられるが、この場合には、境界梁の端部と、連層耐震壁の鉄筋との取り合いが複雑なものとなる。
境界梁が負担するせん断力を、連層耐震壁にスムーズに伝達させることができる構造を、簡易な構成で実現することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-328810号公報
【特許文献2】特許第4124777号公報
【特許文献3】特許第4167624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、境界梁が負担するせん断力を、連層耐震壁にスムーズに伝達させることができる構造を、簡易な構成で実現することが可能な、制振建物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、連層耐震壁が設けられる制振建物として、同一面内に第1壁柱、及び第2壁柱を配置し、双方の壁柱同士を梁中央部に振動エネルギー吸収部を有し、梁端部の梁側面に水平リブ補強材を設けた鋼製の第1境界梁で連結させることで、第1境界梁と壁柱とを複雑な接合構造とすることなく、第1境界梁に生じるせん断力を、第1境界梁の上下フランジ、及び水平リブ補強材を介して、連層耐震壁にスムーズに伝達可能な点に着目して、本発明に至った。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の制振建物は、複数階に亘って連層耐震壁が設けられる制振建物であって、同一面内に配置される第1壁柱、及び第2壁柱と、前記第1壁柱と前記第2壁柱を連結する鋼製の第1境界梁と、を備え、前記第1境界梁は、梁端部の縦断面視がH形状であり、材軸方向の梁中央部には振動エネルギー吸収部が設けられ、前記梁端部の各々は、前記第1壁柱と前記第2壁柱に埋設され、前記梁端部のいずれか一方または双方の埋設された部分に、梁側面に水平方向に延在するように水平リブ補強材が設けられていることを特徴とする。
このような構成によれば、地震や風などによって作用する水平荷重によって、第1壁柱と第2壁柱の、一方の側の壁柱が、他方側の壁柱側へと、傾くように変位しようとすると、他方側の壁柱からの反力が、第1境界梁を介して一方の側の壁柱の側端部に伝達される。このようにして、一方の壁柱に生じる変形が、他方の壁柱によって低減される。ここで、第1壁柱と第2壁柱との相対変位によって、第1境界梁には、一方の梁端部が上方向へ、他方の梁端部が下方向へと、互いに異なる方向への力が作用する。この第1境界梁が振動エネルギー吸収部を有していることで、変形のエネルギーが吸収され、第1壁柱と第2壁柱との間に生じる相対変位で減衰効果が高められる。
上記のような作用の際に、第1境界梁には、せん断力が作用する。このせん断力は、第1境界梁のウェブから、フランジを介して、第1壁柱、第2壁柱へと伝達されるとともに、水平リブ補強材を介しても、第1壁柱、第2壁柱へと伝達される。このため、例えば梁せいが大きい場合であっても、ウェブに作用するせん断力がフランジと水平リブ補強材に分散されて、フランジの支圧応力が局所的に大きくなるのが抑制される。したがって、第1境界梁が負担するせん断力を、第1壁柱、第2壁柱にスムーズに伝達させることができる。
また、上記のような構造を実現するに際し、第1境界梁の梁端部の、壁柱に埋設される部分に、水平リブ補強材を設けるだけで済む。なおかつ、第1境界梁の梁端部の、壁柱に埋設される部分に、水平リブ補強材を設けることで、せん断力の伝達がスムーズに行われるため、梁端部の埋設長さを特段に長くする必要がない。このため、梁端部の埋設された部分と、第1壁柱、第2壁柱の内部の構造との干渉が抑えられ、第1壁柱、第2壁柱の構造が複雑になるのが抑制される。これにより、簡易な構成を実現できる。
このようにして、境界梁が負担するせん断力を、連層耐震壁にスムーズに伝達させることができる構造を、簡易な構成で実現することが可能な、制振建物を提供することができる。
【0007】
本発明の一態様においては、前記第1壁柱、及び前記第2壁柱内への前記第1境界梁の前記梁端部の埋設長さは、当該埋設長さの最小閾値以上であり、及び前記第1境界梁の梁せい以内であることを特徴とする。
このような構成によれば、第1壁柱、及び第2壁柱内への第1境界梁の梁端部の埋設長さが、埋設長さの最小閾値以上となっているため、第1境界梁と第1壁柱、第2壁柱との接合面積が一定以上の値となる。このため、第1境界梁の梁端部と、第1壁柱、第2壁柱との定着抵抗力が高くなり、第1壁柱、第2壁柱と、第1境界梁との、一体性を高めることができる。
また、埋設長さは、第1境界梁の梁せい以内となり、特段に長くならないため、梁端部の埋設された部分と、第1壁柱、第2壁柱の内部の構造との干渉が抑えられ、第1壁柱、第2壁柱の構造が複雑になるのが抑制される。これにより、簡易な構成を実現できる。
【0008】
本発明の別の態様においては、前記連層耐震壁は、更に、第3壁柱を備え、前記第2壁柱と前記第3壁柱は、幅方向において前記第1壁柱を挟んで互いに離間して設けられ、前記第1壁柱と前記第3壁柱は鋼製の第2境界梁で連結され、前記第1壁柱の横断面積は、前記第2壁柱及び前記第3壁柱の横断面積より大きく形成され、前記第2境界梁は、梁端部の縦断面視がH形状であり、材軸方向の梁中央部には振動エネルギー吸収部が設けられ、前記梁端部の各々は、前記第1壁柱と前記第3壁柱に埋設され、前記梁端部のいずれか一方または双方の埋設された部分に、梁側面に水平方向に延在するように水平リブ補強材が設けられている。
このような構成によれば、連層耐震壁を構成する第1壁柱、第2壁柱、第3壁柱のうち、中央に配置される第1壁柱の横断面積が、その両側に配置された第2壁柱及び第3壁柱の横断面積よりも大きい。これにより、第1壁柱が、連層耐震壁の心柱のように機能し、地震や風などによって作用する水平荷重によって連層耐震壁に生じる変形を抑えることができる。
また、地震や風などによって作用する水平荷重によって、例えば第1壁柱が、第2壁柱側へと傾くように、あるいは第2壁柱とは反対側に傾くように、変位しようとすると、第2壁柱からの反力が、第1境界梁を介して、第1壁柱の、第2壁柱側の側端部に伝達されるとともに、第3壁柱からの反力が、第2境界梁を介して、第1壁柱の、第3壁柱側の側端部に伝達される。このようにして、第1壁柱に生じる変形が、第2壁柱と第3壁柱の双方によって低減される。ここで、第1壁柱と、第2壁柱及び第3壁柱と、の相対変位によって、第1境界梁及び第2境界梁には、一方の梁端部が上方向へ、他方の梁端部が下方向へと、互いに異なる方向への力が作用する。この第1境界梁及び第2境界梁が振動エネルギー吸収部を有していることで、変形のエネルギーが吸収され、第1壁柱と、第2壁柱及び第3壁柱との間に生じる相対変位で減衰効果が高められる。
このようにして、第1壁柱、第2壁柱及び第3壁柱に生じる変形を、効率的に、減衰することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、境界梁が負担するせん断力を、連層耐震壁にスムーズに伝達させることができる構造を、簡易な構成で実現することが可能な、制振建物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る制振建物に設けられた連層耐震壁の側面図である。
【
図2】
図1の連層耐震壁の、第1境界梁及び第2境界梁が設けられた部分の拡大図である。
【
図3】
図2の連層耐震壁の、第1境界梁及び第2境界梁が設けられた部分における横断面図である。
【
図6】本発明の制振建物を構成する3枚の壁柱と、各壁柱間の境界梁による水平荷重に対するせん断抵抗機能を示す図である。
【
図8】上記実施形態の第1変形例に係る制振建物に設けられた連層耐震壁の要部拡大図である。
【
図9】上記第1変形例の構成に時刻歴応答解析を行った結果の、層間変形角を示す図である。
【
図10】上記第1変形例の構成に時刻歴応答解析を行った結果の、最大応答変位を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、連層耐震壁が設けられる制振建物として、同一面内に配置される第1壁柱、及び第2壁柱と、前記第1壁柱と前記第2壁柱を連結する鋼製の第1境界梁とを備え、前記第1境界梁には、梁中央部に振動エネルギー吸収部が設けられ、梁端部の梁側面に水平リブ補強材が設けられている。
以下、添付図面を参照して、本発明による制振建物を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係る制振建物に設けられた連層耐震壁の側面図を
図1に示す。
図1に示されるように、制振建物1は、基礎構造たる下部構造10と、上部構造20と、を備えている。
この制振建物1は、例えば、地表面Gfからの高さが、例えば200m程度の超々高層建物とされている。
【0012】
下部構造10は、地表面Gfよりも下方の地盤G中に構築されている。下部構造10は、直接基礎、杭基礎等、適宜の形式の基礎構造によって、地盤G中に強固に支持されている。本実施形態において、下部構造10は、複数本の基礎杭を有した杭基礎構造とされている。
上部構造20は、下部構造10の上方に設けられている。上部構造20は、上部構造20の外周部に形成された柱梁架構22と、上部構造20の内周部に形成された連層耐震壁30と、を備えている。
柱梁架構22は、複数本の柱部材24と、複数本の梁部材25と、を有している。複数本の柱部材24は、水平面内に延在する第1方向Xにそれぞれ間隔をあけて配置されている。各柱部材24は、例えば鉄筋コンクリート造で、上下方向Zに延びている。複数本の梁部材25は、上下方向Zに間隔をあけて、上部構造20の各階に配置されている。各梁部材25は、例えば、鉄骨造とされている。各階において、複数本の梁部材25は、第1方向Xで互いに隣り合う柱部材24同士の間や、柱部材24と連層耐震壁30との間に架設されている。
【0013】
本実施形態において、連層耐震壁30は、上部構造20の内周部に備えられている。連層耐震壁30は、第1方向Xにおいて、上部構造20の中央部に配置されている。連層耐震壁30は、上部構造20の複数階に亘って連続して設けられている。
図2は、
図1の連層耐震壁の、第1境界梁及び第2境界梁が設けられた部分の拡大図である。
図3は、連層耐震壁の、第1境界梁及び第2境界梁が設けられた部分における横断面図であり、
図2のA-A部分における断面図である。
図4は、連層耐震壁の縦断面図であり、
図2のC-C、D-D、E-E部分における断面図である。
連層耐震壁30は、第1壁柱31、第2壁柱32、第3壁柱33、第1境界梁35、及び第2境界梁36を備えている。
第1壁柱31、第2壁柱32、及び第3壁柱33は、同一鉛直面内に配置されている。第1壁柱31は、連層耐震壁30において、第1方向Xの中央部に配置されている。第2壁柱32、第3壁柱33は、連層耐震壁30の第1方向Xに沿った幅方向の両端部に配置されている。第2壁柱32、第3壁柱33は、連層耐震壁30の幅方向において第1壁柱31を挟んで互いに反対側に配置されている。第2壁柱32、第3壁柱33は、それぞれ第1壁柱31から第1方向Xに離間して設けられている。
本実施形態において、第1壁柱31の第1方向Xにおける幅寸法W1は、第2壁柱32、第3壁柱33の第1方向Xにおける幅寸法W2、W3よりも大きく設定されている。本実施形態において、第1壁柱31、第2壁柱32、第3壁柱33の、第1方向Xに水平面内で直交する第2方向Yにおける厚み寸法は、同一に設定されている。このようにして、第1壁柱31の横断面積(水平断面積)は、第2壁柱32及び第3壁柱33の横断面積より大きくなるように設定されている。
【0014】
第1壁柱31、第2壁柱32、及び第3壁柱33は、鉄筋コンクリート造により形成されている。第1壁柱31、第2壁柱32、及び第3壁柱33の各々は、縦主筋40、横筋41、せん断補強筋42、及びコンクリート部44を備えている。
縦主筋40は、上下方向Zに延在するように設けられている。縦主筋40は、第1方向Xと第2方向Yの各々に、間隔を置いて、複数本が設けられている。
横筋41は、水平方向Xに延在するように設けられている。横筋41は、上下方向Zに間隔を置いて、複数本が設けられている。
せん断補強筋42は、縦主筋40を外方から囲うように設けられている。せん断補強筋42は、上下方向Zに間隔を置いて、複数本が設けられている。せん断補強筋42は、第1せん断補強筋42Aと第2せん断補強筋42Bを備えている。後に説明するように、第1境界梁35と第2境界梁36においては、梁端部50が、第1壁柱31、第2壁柱32、第3壁柱33のコンクリート部44に埋設されている。
図3に示されるように、第1せん断補強筋42Aは、この梁端部50の埋設された部分と干渉しない部分に設けられている。第1せん断補強筋42Aは、略矩形形状に形成されて、複数の縦主筋40を外方から束ねるように設けられている。第2せん断補強筋42Bは、梁端部50の埋設された部分の近傍に設けられている。第2せん断補強筋42Bは、C形形状をなすように形成されている。より詳細には、第2せん断補強筋42Bは、第1せん断補強筋42Aの一部が切断されて2つの端部43を有し、これら2つの端部43が互いに離間することで、端部43どうしが互いに、第2方向Yに離間するように形成されている。第2せん断補強筋42Bは、この離間した端部43どうしの間に、梁端部50の埋設された部分が収容されるように配置されている。
【0015】
第1境界梁35は、第1壁柱31と第2壁柱32を連結する。第2境界梁36は、第1壁柱31と第3壁柱33を連結する。第1境界梁35と第2境界梁36の各々は、上下方向Zに間隔をあけて、例えば、上部構造20の各階に配置されている。
第1境界梁35は、第1壁柱31と第2壁柱32との間に配置されている。第1境界梁35は、第1方向Xに延び、材軸方向すなわち第1方向Xの両方の梁端部50が第1壁柱31と第2壁柱32に埋設され、接合されている。第1境界梁35の梁端部50の、第1壁柱31内への埋設長さM1(
図3参照)は、第1境界梁35の高さ(梁せい)T1(
図4参照)以内である。また、第1境界梁35の梁端部50の、第2壁柱32内への埋設長さM2は、第1境界梁35の高さT1以内である。また、第1境界梁35の梁端部50の、第1壁柱31内への埋設長さM1、及び第2壁柱32内への埋設長さM2は、埋設長さの最小閾値以上である。埋設長さの最小閾値は、例えば80cmとするのが適切である。
第2境界梁36は、第1壁柱31と第3壁柱33との間に配置されている。第2境界梁36は、第1方向Xに延び、材軸方向すなわち第1方向Xの両方の梁端部50が第1壁柱31と第3壁柱33に埋設され、接合されている。本実施形態においては、第2境界梁36は、第1境界梁35と同じ高さT1を有する。第2境界梁36の梁端部50の、第1壁柱31内への埋設長さM3は、第2境界梁36の高さT1以内である。また、第2境界梁36の梁端部50の、第3壁柱33内への埋設長さM4は、第2境界梁36の高さT1以内である。また、第2境界梁36の梁端部50の、第1壁柱31内への埋設長さM3、及び第3壁柱33内への埋設長さM4は、第1境界梁35において説明した、埋設長さの最小閾値以上である。
第1境界梁35と第2境界梁36の各々と、上部構造20の図示されない床スラブとの間は、クリアランスを十分に確保し、第1境界梁35、第2境界梁36の変形が床スラブによって拘束されないように配置されている。
【0016】
第1境界梁35と第2境界梁36の各々は、鋼製で、梁端部50の縦断面視がH形状となるように形成されている。すなわち、第1境界梁35と第2境界梁36の、梁端部50の各々は、水平面内に設けられた上部フランジ51と、上部フランジ51の下方に上部フランジ51と平行に設けられた下部フランジ52と、鉛直面内に位置して上部フランジ51と下部フランジ52とを連結するように設けられたウェブ53と、を一体に有している。
第1境界梁35と第2境界梁36の梁端部50の各々には、上部フランジ51、下部フランジ52、及びウェブ53の各々と直交して鉛直面内に延在するように、第1支圧板54と第2支圧板55が設けられて、上部フランジ51、下部フランジ52、及びウェブ53の各々に接合されている。第1支圧板54は、コンクリート部44の表面44fと同一の平面上に位置するように設けられている。第2支圧板55は、第1境界梁35と第2境界梁36の梁端部50の各々の、先端の位置に、設けられている。各梁端部50において、第1支圧板54と第2支圧板55は、ウェブ53を挟んだ2つの梁側面の各々に設けられている。すなわち、第1支圧板54と第2支圧板55は、ウェブ53の一方の表面側と他方の表面側の各々に設けられている。
【0017】
第1境界梁35と第2境界梁36の梁端部50の各々には、水平リブ補強材56が設けられている。水平リブ補強材56は、第1境界梁35と第2境界梁36の梁側面の両側に、水平面内に延在するように設けられている。水平リブ補強材56は、各梁端部50において、ウェブ53と第1支圧板54の双方に直交するように、第1支圧板54のコンクリート部44側に位置づけられて、ウェブ53と第1支圧板54の双方に接合されている。水平リブ補強材56は、第1壁柱31、第2壁柱32、第3壁柱33の各々のコンクリート部44内に埋設されている。
各梁端部50において、水平リブ補強材56は、複数が、上下方向に互いに離間するように設けられている。本実施形態においては、各梁端部50において、3枚が設けられている。水平リブ補強材56と上部フランジ51の間の間隔、水平リブ補強材56と下部フランジ52の間の間隔、及び水平リブ補強材56どうしの間の間隔は、本実施形態においては、同じ大きさとなるように、各水平リブ補強材56は位置づけられている。
梁端部50の各々において、水平リブ補強材56は、ウェブ53を挟んだ2つの梁側面の各々に設けられている。すなわち、水平リブ補強材56は、ウェブ53の一方の表面側と他方の表面側の各々に設けられている。
本実施形態においては、第1境界梁35の梁端部50の双方に、水平リブ補強材56が設けられているが、一方の梁端部50のみに水平リブ補強材56が設けられても構わない。同様に、本実施形態においては、第2境界梁36の梁端部50の双方に、水平リブ補強材56が設けられているが、一方の梁端部50のみに水平リブ補強材56が設けられても構わない。
【0018】
第1境界梁35と第2境界梁36の各々においては、両端部50間、すなわち第1境界梁35と第2境界梁36の材軸方向Xにおける梁中央部には、振動エネルギー吸収部37が設けられている。第1境界梁35と第2境界梁36の中間部に介装されるように、振動エネルギー吸収部37は設けられている。本実施形態においては、振動エネルギー吸収部37は摩擦ダンパーである。
図5は、
図3の振動エネルギー吸収部37部分の拡大図である。摩擦ダンパーとしての振動エネルギー吸収部37は、第1鋼板70、第2鋼板71、及び滑り機構72を備えている。
第1鋼板70は、2枚設けられている。2枚の第1鋼板70は、第2方向Yに互いに間隔をあけて、鉛直面内に延在するように設けられている。2枚の第1鋼板70は、第1境界梁35、第2境界梁36の一方の側のウェブ53に、複数の鋼板75、ボルト・ナット76を介して接合されている。
第2鋼板71は、1枚が設けられている。第2鋼板71は、第2方向Yに互いに間隔をあけて設けられた、2枚の第1鋼板70の間に挟まれて、鉛直面内に延在するように設けられている。第2鋼板71は、その両側の表面が、2枚の第1鋼板70の各々と、互いに対向するように設けられている。第2鋼板71は、第1境界梁35、第2境界梁36の、第1鋼板70が設けられた側とは反対側のウェブ53に、複数の鋼板77、ボルト・ナット78を介して接合されている。
【0019】
滑り機構72は、第1鋼板70と第2鋼板71の間に設けられている。具体的には、滑り機構72は、第1鋼板70と第2鋼板71の一方に接合された滑り板と、他方に接合された滑り材を備えている。第1鋼板70の外方には、複数の鋼材79が設けられたうえで、第1鋼板70に形成された孔70hと、第2鋼板71に形成された孔71hの各々を挿通するように、一方の第1鋼板70の側からボルト80が設けられている。このボルト80には、他方の第1鋼板70の側からナット81が螺着されて、緊締されている。このようにして、第1鋼板70と第2鋼板71は、滑り機構72を介して、互いに圧着して設けられている。
第1鋼板70に形成された孔70hと、第2鋼板71に形成された孔71hの、少なくとも一方の孔70h、71hは、上下方向Zに延在して設けられる長孔となっている。
上記のような構成により、第1境界梁35と第2境界梁36の、振動エネルギー吸収部37を挟んだ一方の側が他方の側に対して上下方向Zに相対移動するような力が作用した場合において、この力が、滑り材と滑り板の間に設定された摩擦力よりも大きいと、第1鋼板70と第2鋼板71とが上下方向Zに相対移動することで、振動エネルギーを吸収する。
このように、第1境界梁35と第2境界梁36は、第2壁柱32、第3壁柱33と、第1壁柱31とを接合する構造体であるとともに、振動エネルギー吸収部材としての機能を有している。
【0020】
図6に、連層耐震壁30による水平荷重に対するせん断抵抗機能を示す。概念的には、水平荷重Fが作用すると、中央に位置する第1壁柱31には、
図6に示すように壁柱の柱脚部に向かって大きな曲げモーメントが発生しようとするが、第1壁柱31と、左側に位置する第2壁柱32、及び第1壁柱31と、右側に位置する第3壁柱33が、それぞれ第1境界梁35、第2境界梁36で連結されているために、中央部の第1壁柱31に作用する曲げモーメントは、両側に配置された第1境界梁35と、第2境界梁36の曲げ戻し効果によりその応力が低減させる。また、第1境界梁35と第2境界梁36は、梁中央部に振動エネルギー吸収部を設け、負担可能なせん断力を頭打ち(上限値を設定する)とすることで、第1壁柱31に作用する軸力を低減することになる。
【0021】
図7は、連層耐震壁が第1方向に変形した状態を示す図である。
まず、このような制振建物1においては、地震や風などにより水平荷重が作用すると、中央に位置し、第2壁柱32や第3壁柱33よりも大きな横断面積を有し、特に本実施形態においては第2壁柱32や第3壁柱33よりも大きな幅を有している第1壁柱31が、心柱としての効果を奏する。すなわち、制振建物1の層間変形を抑えつつ、層ごとの変形量が均一となるように作用する。
また、
図7に示すように、地震や風などによって作用する水平荷重によって、例えば、第1壁柱31が第3壁柱33側に傾くように変位しようとすると、第1壁柱31において第3壁柱33側の一方の側端部31sでは、第1壁柱31の一方の側端部31sを下向きに押し込むような圧縮力F1が作用する。第1壁柱31の一方の側端部31sは、複数の第2境界梁36を介して第3壁柱33に接合されている。このため、第3壁柱33には、側端部31sに作用する圧縮力F1が伝達され、下向きの押込み力F2が作用する。第3壁柱33は、下向きの押込み力F2に抵抗する上向きの反力F3を発揮し、この反力F3が第2境界梁36を介して第1壁柱31の側端部31sに伝達される。
また、第1壁柱31において第2壁柱32側の他方の側端部31tでは、側端部31tを上向きに延ばすような引張力F4が作用する。第1壁柱31の他方の側端部31tは、複数の第1境界梁35を介して第2壁柱32に接合されている。このため、第2壁柱32には、側端部31tに作用する引張力F4が伝達され、上向きの引張力F5が作用する。第2壁柱32は、上向きの引張力F5に抵抗する下向きの反力F6を発揮し、この反力F6が第1境界梁35を介して第1壁柱31の他方の側端部31tに伝達される。
【0022】
このようにして、第1壁柱31が回転変形しようとすると、第1壁柱31に生じる圧縮力F1、引張力F4の少なくとも一部が、その両側の第2壁柱32、第3壁柱33から伝達される反力F3、F6により相殺される。このように、第1壁柱31の両側に配置された第2壁柱32及び第3壁柱33により、第1壁柱31の回転変形が抑えられる。
第1壁柱31に対して、その両側で、第2壁柱32の幅寸法W2と、第3壁柱33の幅寸法W3とが同一で、第1境界梁35と、第2境界梁36との長さが同一であれば、第1壁柱31の両側で、上向きの反力F3と下向きの反力F6とが同一となる。これにより、第1壁柱31の一方の側端部31sと他方の側端部31tとにおける軸力変動が互いにキャンセルされる。
【0023】
また、第1壁柱31と、第2壁柱32、第3壁柱33との間に配置された第1境界梁35、第2境界梁36は、第1壁柱31と、第2壁柱32、第3壁柱33との相対変位によって、一方の端部が上方向へ、他方の端部が下方向へと、互いに異なる方向への力が作用する。例えば
図7の、第1壁柱31と第2壁柱32との間に配置された第1境界梁35においては、第1壁柱31側の端部には力F4によって上向きの力が作用し、第2壁柱32Y側の端部には反力F6によって下向きの力が作用する。ここで、第1境界梁35、第2境界梁36が振動エネルギー吸収部37を有しているため、これによって変形のエネルギーが吸収され、第1壁柱31と、第2壁柱32と第3壁柱33との間に生じる相対変位で減衰効果を高めることができる。
第1壁柱31と、第2壁柱32、第3壁柱33との間で伝達される力(応力)の上限を、第1境界梁35、第2境界梁36に設定された摩擦力によって決めることができる。設計段階において、第1境界梁35、第2境界梁36の摩擦力をボルト張力によって調整することによって、連層耐震壁30の制震性能を適切に設定することが可能となる。
【0024】
上記のように、中央に位置する第1壁柱31は、第2壁柱32や第3壁柱33よりも大きな横断面積を有している。特に本実施形態においては、第1壁柱31は、第2壁柱32や第3壁柱33よりも幅が大きくなっている。このため、第1壁柱31においては、平面視したときに、その中央から端部までの、水平方向の距離が長くなっており、第1壁柱31が傾くように変位した際の端部の変位量が大きくなる。したがって、この端部に接合されている第1境界梁35、第2境界梁36の変位量が大きくなる。
この変位は、振動エネルギー吸収部37により、効率的に吸収される。
【0025】
上記のような作用をするに際し、第1境界梁35、第2境界梁36の各々の梁端部50には、上向き、あるいは下向きの、大きなせん断力が作用する。このせん断力は、第1境界梁35、第2境界梁36のウェブ53から、上部フランジ51、下部フランジ52を介して、第1壁柱31、第2壁柱32、第3壁柱33へと伝達されるとともに、水平リブ補強材56を介しても、第1壁柱31、第2壁柱32、第3壁柱33へと伝達される。このため、超々高層建物において梁せいが大きい場合であっても、ウェブ53に作用するせん断力が上部フランジ51、下部フランジ52と水平リブ補強材56へと分散されて、上部フランジ51、下部フランジ52の支圧応力が局所的に大きくなるのが抑制されるため、第1境界梁35、第2境界梁36が負担するせん断力を、第1壁柱31、第2壁柱32、第3壁柱33にスムーズに伝達させることができる。
【0026】
上述したような制振建物1は、複数階に亘って連層耐震壁30が設けられる制振建物1であって、同一面内に配置される第1壁柱31、及び第2壁柱32と、第1壁柱31と第2壁柱32を連結する鋼製の第1境界梁35と、を備え、第1境界梁35は、梁端部50の縦断面視がH形状であり、材軸方向Xの梁中央部には振動エネルギー吸収部37が設けられ、梁端部50の各々は、第1壁柱31と第2壁柱32に埋設され、梁端部50のいずれか一方または双方の埋設された部分に、梁側面に水平方向に延在するように水平リブ補強材56が設けられている。
このような構成によれば、地震や風などによって作用する水平荷重によって、第1壁柱31と第2壁柱32の、一方の側の壁柱31、32が、他方側の壁柱31、32側へと、傾くように変位しようとすると、他方側の壁柱31、32からの反力が、第1境界梁35を介して一方の側の壁柱31、32の側端部に伝達される。このようにして、一方の壁柱31、32に生じる変形が、他方の壁柱31、32によって低減される。ここで、第1壁柱31と第2壁柱32との相対変位によって、第1境界梁35には、一方の梁端部50が上方向へ、他方の梁端部50が下方向へと、互いに異なる方向への力が作用する。この第1境界梁35が振動エネルギー吸収部37を有していることで、地震発生時に建物内の変形に伴う振動エネルギーが吸収されるために、壁柱31、32の軸力変動、及び曲げモーメントを低減できる。その結果、本発明の制振建物1では、第1壁柱31と第2壁柱32との間に生じる相対変位で減衰効果が高められる。
上記のような作用の際に、第1境界梁35には、せん断力が作用する。このせん断力は、第1境界梁35のウェブ53から、フランジ51、52を介して、第1壁柱31、第2壁柱32へと伝達されるとともに、水平リブ補強材56を介しても、第1壁柱31、第2壁柱32へと伝達される。このため、例えば梁せいが大きい場合であっても、ウェブ53に作用するせん断力がフランジ51、52と水平リブ補強材56に分散されて、フランジ51、52の支圧応力が局所的に大きくなるのが抑制される。したがって、第1境界梁35が負担するせん断力を、第1壁柱31、第2壁柱32にスムーズに伝達させることができる。
また、上記のような構造を実現するに際し、第1境界梁35の梁端部50の、壁柱31、32に埋設される部分に、水平リブ補強材56を設けるだけで済む。なおかつ、第1境界梁35の梁端部50の、壁柱31、32に埋設される部分に、水平リブ補強材56を設けることで、せん断力の伝達がスムーズに行われるため、梁端部50の埋設長さM1、M2を特段に長くする必要がない。このため、梁端部50の埋設された部分と、第1壁柱31、第2壁柱32の内部の構造との干渉が抑えられ、第1壁柱31、第2壁柱32の構造が複雑になるのが抑制される。これにより、簡易な構成を実現できる。
このようにして、境界梁35が負担するせん断力を、連層耐震壁30にスムーズに伝達させることができる構造を、簡易な構成で実現することが可能な、制振建物1を提供することができる。
【0027】
また、第1壁柱31、及び第2壁柱32内への第1境界梁35の梁端部50の埋設長さM1、M2は、当該埋設長さM1、M2の最小閾値以上であり、及び第1境界梁35の梁せいT1以内である。
このような構成によれば、第1壁柱31、及び第2壁柱32内への第1境界梁35の梁端部50の埋設長さM1、M2が、埋設長さM1、M2の最小閾値以上となっているため、第1境界梁35と第1壁柱31、第2壁柱32との接合面積が一定以上の値となる。このため、第1境界梁35の梁端部50と、第1壁柱31、第2壁柱32との定着抵抗力が高くなり、第1壁柱31、第2壁柱32と、第1境界梁35との、一体性を高めることができる。
また、埋設長さM1、M2は、第1境界梁35の梁せいT1以内となり、特段に長くならないため、梁端部50の埋設された部分と、第1壁柱31、第2壁柱32の内部の構造との干渉が抑えられ、第1壁柱31、第2壁柱32の構造が複雑になるのが抑制される。これにより、簡易な構成を実現できる。
【0028】
また、連層耐震壁30は、更に、第3壁柱33を備え、第2壁柱32と第3壁柱33は、幅方向Xにおいて第1壁柱31を挟んで互いに離間して設けられ、第1壁柱31と第3壁柱33は鋼製の第2境界梁36で連結され、第1壁柱31の横断面積は、第2壁柱32及び第3壁柱33の横断面積より大きく形成され、第2境界梁32は、梁端部50の縦断面視がH形状であり、材軸方向Xの梁中央部には振動エネルギー吸収部37が設けられ、梁端部50の各々は、第1壁柱31と第3壁柱33に埋設され、梁端部50のいずれか一方または双方の埋設された部分に、梁側面に水平方向に延在するように水平リブ補強材37が設けられている。
このような構成によれば、連層耐震壁30を構成する第1壁柱31、第2壁柱32、第3壁柱33のうち、中央に配置される第1壁柱31の横断面積が、その両側に配置された第2壁柱32及び第3壁柱33の横断面積よりも大きい。これにより、第1壁柱31が、連層耐震壁30の心柱のように機能し、地震や風などによって作用する水平荷重によって連層耐震壁30に生じる変形を抑えることができる。
また、地震や風などによって作用する水平荷重によって、例えば第1壁柱31が、第2壁柱32側へと傾くように、あるいは第2壁柱32とは反対側に傾くように、変位しようとすると、第2壁柱32からの反力が、第1境界梁35を介して、第1壁柱31の、第2壁柱側32の側端部31tに伝達されるとともに、第3壁柱33からの反力が、第2境界梁36を介して、第1壁柱31の、第3壁柱33側の側端部31sに伝達される。このようにして、第1壁柱31に生じる変形が、第2壁柱32と第3壁柱33の双方によって低減される。ここで、第1壁柱31と、第2壁柱32及び第3壁柱33と、の相対変位によって、第1境界梁35及び第2境界梁36には、一方の梁端部50が上方向へ、他方の梁端部50が下方向へと、互いに異なる方向への力が作用する。この第1境界梁35及び第2境界梁36が振動エネルギー吸収部37を有していることで、変形のエネルギーが吸収され、第1壁柱31と、第2壁柱32及び第3壁柱33との間に生じる相対変位で減衰効果が高められる。
このようにして、第1壁柱31、第2壁柱32及び第3壁柱33に生じる変形を、効率的に、減衰することが可能となる。
【0029】
(実施形態の第1変形例)
なお、本発明の制振建物は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
図8は、第1変形例に係る制振建物に設けられた連層耐震壁の要部拡大図である。
第1変形例の制振建物においては、第1境界梁35Aの振動エネルギー吸収部37Aは、梁端部50を構成する鋼材よりも降伏点が低い、極低降伏点鋼からなる履歴ダンパーである。
第1境界梁35Aは、第1壁柱31、第2壁柱32が回転変形し、第1境界梁35Aに設定された降伏点以上の応力が入力された場合に変形することで、振動エネルギーを吸収する。
このような場合においても、上記実施形態と同様な効果を奏することは、言うまでもない。
本第1変形例においては、第1境界梁35の振動エネルギー吸収部37を摩擦ダンパーでなく履歴ダンパーとしたが、第2境界梁36の振動エネルギー吸収部37を履歴ダンパーとしてもよいし、第1境界梁35と第2境界梁36の双方の振動エネルギー吸収部37を履歴ダンパーとしてもよい。
【0030】
(実施形態の第2変形例)
上記実施形態においては、連層耐震壁30は、第1壁柱31、第2壁柱32、第3壁柱33を備えていたが、これに替えて、連層耐震壁30は、第1壁柱31と第2壁柱32のみを備えて第3壁柱33を備えず、第1壁柱31と第2壁柱32とが第1境界梁35により連結された構成としてもよい。
この場合において、例えば、第1壁柱31と第2壁柱32は、いずれも同じ断面積を有するように構成してもよい。
すなわち、このような制振建物1は、複数階に亘って連層耐震壁30が設けられる制振建物1であって、同一面内に配置される第1壁柱31、及び第2壁柱32と、第1壁柱31と第2壁柱32を連結する鋼製の第1境界梁35と、を備え、第1境界梁35は、梁端部50の縦断面視がH形状であり、材軸方向Xの梁中央部には振動エネルギー吸収部37が設けられ、梁端部50の各々は、第1壁柱31と第2壁柱32に埋設され、梁端部50のいずれか一方または双方の埋設された部分に、梁側面に水平方向に延在するように水平リブ補強材56が設けられている。
このような構成においても、上記実施形態と同様に、境界梁35が負担するせん断力を、連層耐震壁30にスムーズに伝達させることができる構造を、簡易な構成で実現することが可能な、制振建物1を提供することができるという効果を奏するのは、言うまでもない。
【0031】
(実施形態の他の変形例)
例えば、上記実施形態では、第1壁柱31、第2壁柱32、第3壁柱33の第2方向Yにおける厚み寸法は同一となっていたが、これに限られない。第1壁柱31、第2壁柱32、第3壁柱33の第2方向Yにおける厚み寸法は、互いに異なっていてもよい。
また、第1境界梁35、第2境界梁36は、上部構造20の各階に配置するとは限らず、上下方向Zに適宜間隔をあけて配置してもよい。
また、上記の実施形態では、連層耐震壁30は建物の地上1階から最上階まで連続して設けられているが、地上階の下層階から特定の中間階まで設定されている場合であっても構わない。
また、上記の実施形態では、連層耐震壁30として、第1壁柱31、及び第2壁柱32が配置される場合、または第1壁柱31、第2壁柱32、及び第3壁柱33が配置される場合について記載しているが、壁柱は4枚以上が設けられても構わない。すなわち、壁柱は4枚、5枚の壁柱構造であってもよい。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【0032】
(検討例)
上記第1変形例として示した構成に関し、制振効果を確認した。
まず、実施例として、上記第1変形例のように、振動エネルギー吸収部37として履歴ダンパーを使用した構成を用いた。振動エネルギー吸収部37の降伏耐力は、1基あたり1000kNとした。
次に、比較例1、比較例2として、振動エネルギー吸収部としてそれぞれ、オイルダンパー、粘弾性ダンパーを使用した構成を用いた。この場合においては、配置上、一本の梁のうえにオイルダンパー、粘弾性ダンパーを実現することは容易ではないため、対向する壁柱の一方から他方へと向かうように片持ち梁を設けると同時に、上下に隣接する他の階において他方から一方へと向かうように、他の片持ち梁を設け、これら2つの片持ち梁の間にオイルダンパー、粘弾性ダンパーを設置する構成とした。この場合には、オイルダンパー、粘弾性ダンパーは、2階層で1基となる配置となるため、実施例との減衰力の合計が同等となるように、1基あたり2000kNの減衰力とした。
【0033】
このような実施例、比較例1、比較例2の構成に対し、告示ランダム波のレベル2を入力派として時刻歴応答解析を行った。
図9は、時刻歴応答解析を行った結果の、層間変形角を示す図である。
図10は、時刻歴応答解析を行った結果の、最大応答変位を示す図である。各図において、実施例はL1、比較例1はL2、比較例2はL3が、それぞれ付されて示されている。
層間変形角と応答変位は、実施例において最も小さくなっており、中間階において層間変形角の差が大きくなっている。これは、実施例において境界梁の剛性とエネルギー吸収が大きいことによるものと考えられる。
【符号の説明】
【0034】
1 制振建物 37、37A 振動エネルギー吸収部
30 連層耐震壁 50 梁端部
31 第1壁柱 56 水平リブ補強材
32 第2壁柱 X 第1方向(材軸方向、幅方向)
33 第3壁柱 M1 第1境界梁の梁端部の第1壁柱内への埋設長さ
35、35A 第1境界梁 M2 第1境界梁の梁端部の第2壁柱内への埋設長さ
36 第2境界梁 T1 第1境界梁の高さ