(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030839
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】複合成形品の製造方法及び成形型
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20240229BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134020
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】牧野 耕治
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AD05
4F202AD08
4F202AD17
4F202AH16
4F202CA11
4F202CB01
4F202CP01
4F202CQ01
4F206AD05
4F206AD08
4F206AD17
4F206AH16
4F206JA07
4F206JB12
4F206JL02
(57)【要約】
【課題】成形性の向上を図ることができる複合成形品を製造できる複合成形品の製造方法及び成形型を提供する。
【解決手段】可撓性を有するシート体2と、シート体2の一方面20に接合された樹脂成形体3とを備える複合成形品1を製造する製造方法であって、シート体2の一方面20に、溶融樹脂の流動方向を規制する凹部20c及び凸部20bを形成する凹凸形成工程(S100)と、成形型1内にシート体2を配置し、シート体2の一方面20に形成された凹部20cに溶融樹脂を射出して樹脂成形体3とシート体2とを一体に成形する樹脂成形工程(S101)とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有するシート体と、シート体の一方面に接合された樹脂成形体とを備える複合成形品を製造する製造方法において、
前記シート体の一方面に、溶融樹脂の流動方向を規制する凹部及び凸部を形成する凹凸形成工程と、
成形型内に前記シート体を配置し、前記シート体の一方面に形成された前記凹部に前記溶融樹脂を射出して樹脂成形体とシート体とを一体に成形する樹脂成形工程とを備えたことを特徴とする複合成形品の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記凹凸形成工程では、前記凸部を前記シート体とは異なる材料で形成することを特徴とする複合成形品の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記凹凸形成工程では、前記凸部を前記シート体の前記一方面に溶融樹脂を射出成形して形成することを特徴とする複合成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記凹凸形成工程では、前記凸部を前記シート体の前記一方面に対して可撓性を有するシート体を積層して形成することを特徴とする複合成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記シート体は、多孔質体からなり、
前記凹凸形成工程は、前記シート体の一部を圧縮、または前記シート体の全体を圧縮し、前記凹部の部分のみさらに圧縮し異なる圧縮率にして前記凹部及び前記凸部を形成することを特徴とする複合成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記樹脂成形工程では、前記凸部が前記溶融樹脂の流動圧力によって圧縮され、前記凸部以外の部分と略均一な厚さに圧縮することを特徴とする複合成形品の製造方法。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1項において、
前記樹脂成形工程における前記シート体の前記圧縮によって、前記シート体から押し出される空気を前記成形型に設けられた通気部を通じて前記成形型のキャビティ外へ排出するガス抜き工程をさらに備えることを特徴とする複合成形品の製造方法。
【請求項8】
請求項1~請求項6のいずれか1項において、
前記複合成形品は、内燃機関のシリンダブロックに設けられた冷却水流路内に配置され、冷却水の流れを規制するスペーサであることを特徴とする複合成形品の製造方法。
【請求項9】
可撓性を有し多孔質体からなるシート体と、前記シート体の一方面に一体に成形される樹脂成形体とを備える複合成形品の製造に用いる成形型であって、
相対的に接離自在とされた第1型と第2型とを含み、
前記第2型は、前記シート体が配置される配置部と、前記シート体に含まれる空気を前記成形型のキャビティ外へ排出する通気部とを有しており、
前記通気部は、前記配置部に設けられ、前記シート体が前記溶融樹脂の流動圧力によって圧縮されることで前記シート体から押し出される空気を前記キャビティ外へ排出することを特徴とする成形型。
【請求項10】
請求項9において、
前記通気部は、前記成形型のキャビティから前記成形型外まで通じており、前記シート体が前記溶融樹脂の流動圧力によって圧縮されることで前記シート体から押し出される空気を前記成形型外へ排出することを特徴とする成形型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性を有するシート体と、シート体の一方面に一体成形された樹脂成形体とを備える複合成形品の製造方法及び成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上述のような複合成形品の製造方法としては、特許文献1及び特許文献2が挙げられる。
下記特許文献1には、成形型の多孔質体が載置される面とは反対側に、樹脂導入部と離間する方向に延在して設けられた凹条部を有した成型型を用い、複合成形品(スペーサ)を製造する方法が記載されている。これによれば、樹脂導入部から導入された樹脂材料は、成形型の凹条部が存在する箇所を優先的に流動するので、樹脂材料の流動状態、流れ方向をコントロールし複合成形品の品質向上を図ることができる。
【0003】
下記特許文献2には、シート体の一方面に取着される基部と、前記基部に設けられるとともに前記シート体側とは反対側に突出する突部とを有する一次部材を成形する一次成形工程と、成形型に設けられた凹部に前記突部を嵌合させ前記シート体を位置決めした後に、溶融樹脂を前記成形型のキャビティ内に射出し前記樹脂成形体を成形する二次成形工程と、を備えた複合成形品の製造方法が記載されている。これによれば、可撓性を有するシート体に位置ズレ防止のための孔を形成することなく成形時の位置ズレを防止でき、複合成形品の成形性の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-122479号公報
【特許文献2】特開2021-30495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようにシート体と樹脂成形体とを有した複合成形品を成形する際には、射出成形時にシート体が溶融樹脂の流動による圧力を受けて位置ズレしたり、シート体の端部から溶融樹脂がシート体の表面に回り込む等の問題が生じやすい。しかしながら、複合成形品を構成するシート体及び樹脂成形体の素材や形状等は多様であるため、複合成形品の様々な構成に応えられる製造方法が求められる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、複合成形品の様々な構成に応えるとともに、複合成形品の成形性の向上を図ることができる複合成形品の製造方法及び成形型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る複合成形品の製造方法は、可撓性を有するシート体と、シート体の一方面に接合された樹脂成形体とを備える複合成形品を製造する製造方法において、前記シート体の一方面に、溶融樹脂の流動方向を規制する凹部及び凸部を形成する凹凸形成工程と、成形型内に前記シート体を配置し、前記シート体の一方面に形成された前記凹部に前記溶融樹脂を射出して樹脂成形体とシート体とを一体に成形する樹脂成形工程とを備えたことを特徴とする。
【0008】
上記構成において、前記凹凸形成工程では、前記凸部を前記シート体とは異なる材料で形成するようにしてもよい。
上記構成において、前記凹凸形成工程では、前記凸部を前記シート体の前記一方面に溶融樹脂を射出成形して形成するようにしてもよい。
上記構成において、前記凹凸形成工程では、前記凸部を前記シート体の前記一方面に対して可撓性を有するシート体を積層して形成するようにしてもよい。
上記構成において、前記シート体は、多孔質体からなり、前記凹凸形成工程は、前記シート体の一部を圧縮、または前記シート体の全体を圧縮し、前記凹部の部分のみさらに圧縮し異なる圧縮率にして前記凹部及び前記凸部を形成するようにしてもよい。
上記構成において、前記樹脂成形工程では、前記凸部が前記溶融樹脂の流動圧力によって圧縮され、前記凸部以外の部分と略均一な厚さに圧縮するようにしてもよい。
【0009】
上記構成において、前記樹脂成形工程における前記シート体の前記圧縮によって、前記シート体から押し出される空気を前記成形型に設けられた通気部を通じて前記成形型の外部へ排出するガス抜き工程をさらに備えるようにしてもよい。
上記構成において、前記複合成形品は、内燃機関のシリンダブロックに設けられた冷却水流路内に配置され、冷却水の流れを規制するスペーサであってもよい。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る複合成形品の成形型は、可撓性を有し多孔質体からなるシート体と、前記シート体の一方面に一体に成形される樹脂成形体とを備える複合成形品の製造に用いる成形型であって、相対的に接離自在とされた第1型と第2型とを含み、前記第2型は、前記シート体が配置される配置部と、前記シート体に含まれる空気を前記成形型のキャビティ外へ排出する通気部とを有しており、前記通気部は、前記配置部に設けられ、前記シート体が前記溶融樹脂の流動圧力によって圧縮されることで前記シート体から押し出される空気を前記キャビティ外へ排出することを特徴とする。
上記構成において、前記通気部は、前記成形型のキャビティから前記成形型外まで通じており、前記シート体が前記溶融樹脂の流動圧力によって圧縮されることで前記シート体から押し出される空気を前記成形型外へ排出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る複合成形品の製造方法及び成形型によれば、複合成形品の成形性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る複合成形品の製造方法を説明するための図であって、(a)及び(b)は凹凸形成工程を説明するための模式的斜視図、(c)及び(d)は同製造方法によって得た複合成形品を模式的に示す断面斜視図である。
【
図2】同複合成形品の製造方法の一工程例を示すフローチャートである。
【
図3】同複合成形品の製造方法を説明するための図であって、(a)~(c)は同複合成形品の製造方法に用いられる成形型を模式的に示した概略断面図である。(a)は成形型を型開きした状態、(b)は成形型内にシート体を設置した状態、(c)は成形型を型閉めし溶融樹脂を射出している状態をそれぞれ示している。
【
図4】同複合成形品の製造方法の他例を説明するための図であって、(a)~(c)は凹凸形成工程を説明するための模式的斜視図、(d)及び(e)は同製造方法によって得た複合成形品を模式的に示す断面斜視図である。
【
図5】(a)~(d)は同複合成形品を構成するシート体の一方面に形成される凹部及び凸部の一例と溶融樹脂の射出位置を説明するための模式的斜視図である。
【
図6】(a)~(c)は同複合成形品を構成するシート体の一方面に形成される凹部及び凸部の一例と溶融樹脂の射出位置を説明するための模式的斜視図であり、(d)は複合成形品の一例を示す模式的斜視図である。
【
図7】(a)、(b)は同複合成形品を構成するシート体の一方面に形成される凹部及び凸部の一例と溶融樹脂の射出位置を説明するための模式的斜視図であり、(c)は複合成形品の一例を示す模式的斜視図である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係る複合成形品の製造方法及び完成品であるスペーサを説明するための図であって、(a)及び(b)は同複合成形品の製造方法に用いられる成形型を模式的に示した概略断面図である。(a)は成形型内にシート体を設置した状態、(b)は成形型を型閉めし溶融樹脂を射出している状態をそれぞれ示している。(c)はスペーサの使用例を説明するための図であり、冷却水流路内に組付けシート体が膨大化した装着状態を示す模式的断面図である。
【
図9】第2実施形態に係る成形型の変形例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら説明する。なお、一部の図では、他図に付している詳細な符号の一部を省略している。
本実施形態に係る製造方法は、可撓性を有するシート体2と、シート体2の一方面20に接合された樹脂成形体3とを備える複合成形品1を製造する製造方法である。本実施形態に係る製造方法は、シート体2の一方面20に、溶融樹脂の流動方向を規制する凹部20c及び凸部20bを形成する凹凸形成工程(S100)と、成形型10内にシート体2を配置し、シート体2の一方面20に形成された凹部20cに溶融樹脂を射出して樹脂成形体3とシート体2とを一体に成形する樹脂成形工程(S101)とを備える。また本実施形態に係る成形型10は、可撓性を有し多孔質体からなるシート体2と、シート体2の一方面20に一体に成形される樹脂成形体3とを備える複合成形品1の製造に用いる成形型10であり、相対的に接離自在とされた第1型100と第2型200とを含む。第2型200は、シート体2が配置される配置部201と、シート体2に含まれる空気を成形型10のキャビティC外へ排出する通気部202とを有している。通気部202は、配置部201に設けられ、シート体2が溶融樹脂の流動圧力によって圧縮されることで前記シート体2から押し出される空気を成形型10のキャビティC外へ排出する。以下、詳細に説明する。
【0014】
<第1実施形態>
図1~
図3を参照しながら、第1実施形態に係る複合成形品の製造方法及び成形型について説明する。
本実施形態に係る製造方法は、シート体2と、シート体2の一方面20に接合された樹脂成形体3とを備える略長方体形状の複合成形品1の製造方法であって、シート体2の他方面21がおもて面1a、すなわち意匠面(装飾面)として使用される。よって、
図1(a)~
図1(c)は意匠面となるおもて面1aを下面にした状態を示しており、
図1(d)はおもて面1aを上面にした状態を示している。
【0015】
まず、シート体2を準備し、シート体2の一方面20に凹部20c及び凸部20bを形成する凹凸形成工程(S100)を行う。
図1(b)に示すとおり、図例のシート体2は、略長方形状で薄状のシート基材20aと、シート基材20aの長手方向に沿って対向して一対に設けられた凸部20b,20bと、一対の凸部20b,20bの間に形成される凹部20cとを有している。一対の凸部20b,20bはシート基材20aの一方面20に設けられ、シート基材20aの一方(ここでは短手方向)の縁部20aaに沿って設けられる。凸部20bは、断面略台形状に形成され、シート基材20aの一方面20から斜め方向に傾斜する傾斜部20baを有する。傾斜部20baは、シート基材20aの一方面20から離れるに従い、凹部20cの領域(面積)が次第に拡大する方向に傾斜している。一対の凸部20b,20bをシート基材20aの一方面20に設けることで凸部20bと凸部20bの間に凹部20cが形成される。成形型10に配置された際には、
図3(b)に示すように樹脂成形体3となる溶融樹脂が射出される射出口であるゲート部gが凹部20cに対向して配置される。
【0016】
シート体2を構成するシート基材20aと凸部20bの構成は特に限定されないが、シート基材20aと凸部20bとが異なる材料で形成されていてもよいし、同一の材料で形成されていてもよい。
図1(a)~
図1(d)はシート基材20aと凸部20bとが、異なる材料で形成された例を示している。例えばシート基材20aは、多孔質体からなり、凸部20bは、樹脂材からなるものとしてもよい。シート基材20aとして用いられる多孔質体は、気泡の大きさが非常に小さい微粒品、気泡の大きさが小程度の小粒品、気泡の大きさが中程度の中粒品のいずれを用いてもよい。具体的には、例えば気泡の大きさ(径)が0.1~5mm程度のセルロース系スポンジを圧縮してシート状にしたものを用いてもよい。シート基材20aを多数の連通した気泡を備えた多孔質体とした場合は、後記する樹脂成形工程(S101)におけるガス抜き工程で通気孔として好適に作用する。セルロース系スポンジは、セルロース製の補強繊維を含んだものが好ましいが、これに限らず、セルロース製以外の補強繊維を含んでもよく、補強繊維を含まず、スポンジのみ単独で構成されるものであってもよい。
【0017】
凸部20bは、
図1(a)に示すように事前に凸部20bを樹脂の射出成型により形成しシート基材20aの縁部20aaに沿って接着してもよい。また
図1(b)に示すように凸部20bをシート基材20aの一方面20に溶融樹脂を射出成形して形成(一次成形)してもよい。この場合、凸部20bはインサート成形により形成することができる。凸部20bが樹脂材からなるものとする場合は、凸部20bの材料を樹脂成形体3にあわせて適宜選択することができる。例えば、凸部20bと樹脂成形体3とは、ポリアミド66同士や、ポリプロピレン同士等同一種類の組み合わせでもよい。また、凸部20b及び樹脂成形体3に用いられる合成樹脂として、同一種類の樹脂の組み合わせで、かつ凸部20bの樹脂材料の融点が樹脂成形体3を成形する樹脂成形工程(S101)で射出される樹脂の融点以下である樹脂を用いてもよい。このときの融点は、同一種類の樹脂であっても分子量や配合剤等を調整することで変化させてもよい。また、凸部20bと樹脂成形体3とに用いられる樹脂の種類が異なるように、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン、ABS、アクリル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂からそれぞれ選んで用いてもよい。さらに合成樹脂としては、種々の添加剤が添加されたものでもよく、例えば、炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維を含む繊維強化樹脂でもよい。
【0018】
また凸部20bは、シート基材20aの一方面20に対して可撓性を有するシート体を積層して形成してもよい。このときシート基材20aを構成する材料と凸部20bを構成する材料は同一材料であってもよいし異なる材料であってもよい。この場合も
図1(a)に示すように事前に所定の大きさ、形状にカットしたシート体からなる凸部20bをシート基材20aの縁部20aaに沿って接着してもよい。あるいは、大きめのシート基材20aを折り曲げることで積層してもよく、積層後に周囲をカットして縁部20aaを形成してもよい。以上によれば、凸部20bはシート体を積層して形成することができる。
【0019】
次に樹脂成形工程(S101)を行う。
図3(a)~
図3(c)に示すように、第1型100と、第2型200とを備え相対的に接離自在に構成された成形型10を用意する。成形型10は、第1型100と第2型200とがシート体2を介して型締めされるとキャビティC(
図3(c)参照)を形成する。第1型100は、溶融樹脂を射出するゲート部gと、樹脂成形体3を模る凹所101とを備えている。凹所101の深さ寸法、形状は、樹脂成形体3の形状・寸法等に合わせて形成され、図例のものは、凹所101内の略中央にシート体2が収まるように形成されている。溶融樹脂を射出するゲート部gの位置は、凹部20cに対向する位置に設けられる。よって、ゲート部gから溶融樹脂が射出された際には、溶融樹脂が一対の凸部20b,20b間に設けられた凹部20c内を流動する。したがって、凸部20bが障壁となって溶融樹脂の流動をコントロールし複合成形品の品質向上を図ることができる。
【0020】
第2型200は、シート体2が配置される配置部201と、シート体2が溶融樹脂の流動圧力によって圧縮されることで前記シート体2から押し出される空気を成形型10のキャビティC外へ排出する通気部202とを有している。通気部202は、シート体2が配置される領域の配置部201に開口して設けられ、外部へ通じるように貫通して形成されている。具体的には、
図3(b)に示すようにシート体2が配置部201に配置された際にゲート部gの位置を挟んでシート基材20aの他方(ここでは長手方向)の両側の縁部20abを跨ぐ位置にそれぞれ通気部202が設けられている。なお、通気部202の位置は図例に限定されず、例えば配置部201の中央にさらに設けられていてもよい。通気部202としては、溶融樹脂が流れず空気が流れる5~50μm程度の微細な隙間を持つものであればよく、微細な穴や極細のスリット、多孔質金属でもよく、可動する成形型同士の合わせ面であってもよい。また通気部202は、少なくとも前記シート体2が溶融樹脂の流動圧力によって圧縮されることでシート体2から押し出される空気をキャビティCを構成する空間以外の場所へ逃す構成、言い換えると、シート体2から押し出される空気の圧力を緩和できればよい。よって、通気部202自体が成形型10の外(外部空間)まで通じていない構造であってもよい。
【0021】
本実施形態における製造方法の一例の大まかな流れは以下のとおりである。
凹凸形成工程(S100)を経たシート体2と上述の成形型10を準備し、第2型200の配置部201に凹部20c及び凸部20bを備えたシート体2を配置する。シート体2は、通気部202の形成位置にシート基材20aの縁部20abが位置するように配置すればよく、不図示の固定手段により形成位置に固定する。そして第1型100と第2型200とを型締めする(
図3(b)参照)。この状態でゲート部gを通じて溶融樹脂を射出して、成形型10のキャビティCとなる凹所101に溶融樹脂を充填する。ゲート部gから射出された溶融樹脂は、凹部20cの中央部位からシート基材20aの縁部20aa,20abに向けて流動していく。このときシート基材20aが多孔質体からなる場合、溶融樹脂の流動圧力によって、シート基材20aに含み圧縮されることで押し出される空気も一緒に縁部20aa,20abに向けて移動する。そして、この空気は通気部202に至ると通気部202を通じてキャビティC外へ排出することができる(ガス抜き工程S101)。すなわち、本実施形態に係る製造方法及び成形型10によれば、通気部202を通じてガス抜きしながら、シート体2と樹脂成形体3とを一体成形できるので、充填不良やガス焼け不良を低減させることができるのである。
【0022】
こうして、キャビティC全域に樹脂を充填した後、保圧状態で冷却し樹脂を固化させる。型開きして脱型しシート体2と接合された樹脂成形体3を取り出し、ゲート残り部(不図示)を切断すると、
図1(c)及び
図1(d)に示す複合成形品1を得ることができる(樹脂成形工程S101)。
【0023】
以上の製造方法によれば、溶融樹脂が凹部20cに射出され、凹部20c及び凸部20bによって溶融樹脂の流動方向及び流動速度が規制されるので、シート体2の位置ズレやシート体2の他方面21側への樹脂の回り込み等の抑制を図ることができる。具体的には、凹部20c及び凸部20bによって溶融樹脂をゲート部gから離れている両側の縁部20abに優先的に流動させることができ、溶融樹脂がシート基材20aの四周の縁部20aa,20abに到達するタイミングが合う。そのため、溶融樹脂がシート体2の一方面20側を流動しシート基材20aのいずれかの縁部20aa、20abを超えて、シート基材20aが無く、流路幅が広いことで流動抵抗が低くなっているキャビティC部分を流動した後、溶融樹脂が未到達であるシート基材20aの縁部20aa、20abに向かって流動することを抑制できる。よって、シート体2が溶融樹脂の流動による圧力を受けて位置ズレすることを防ぐことができる。また、シート体2の他方面21がおもて面(意匠面)となる場合に、シート体2の端部から溶融樹脂が他方面21側へ回り込んだ跡等が残らず、外観品質がよい複合成形品1を得ることができる。さらに以上の製造方法によれば、樹脂成形体3が配され複合成形品1の外観に現れないシート体2の一方面20に、溶融樹脂の流動をコントロールする凹凸が設けられるので、樹脂成形体3のシート体2が設けられた側とは反対側の面(
図3(c)参照)に凹凸が形成されず、樹脂成形体3の設計自由度を向上させることができ、複合成形品1の様々な構成に応えることができる。また以上の製造方法によれば、成形型10側に溶融樹脂の流動をコントロールするための凹凸を設ける必要がない。
【0024】
また以上の製造方法において、凸部20bと樹脂成形体3とを同じ材料とした場合は、異なる材料とした場合に比べて、凸部20bと樹脂成形体3との接合強度を高めることができる。さらに上述の実施形態に係る製造方法において、凸部20bと樹脂成形体3とが異なる樹脂材であっても、その融点が凸部20bを形成するために使用された樹脂材の方が低い場合、樹脂成形工程(S101)で射出された溶融樹脂が、凸部20bに達すると凸部20bの表面を溶かし、凸部20bの樹脂と樹脂成形工程(S101)で射出された樹脂とが絡み合ったうえで固化すると凸部20bと樹脂成形体3との接合強度を高めることができる。
【0025】
上述の実施形態に係る製造方法において、凸部20bを成形する際に射出する樹脂の量と、樹脂成形体3を成形する際に射出する樹脂の量とが同量となるように成形してもよい。この場合、同じサイズの成形機(不図示)を用いて、凸部20bを成形する時に用いられる成形機のシリンダ内で滞留する樹脂と、樹脂成形体3を成形する時に用いられる成形機のシリンダ内で滞留する樹脂とをほぼ同量にすることができる。したがって、それぞれの成形機のシリンダ内で樹脂が滞留する時間を平準化できるため、樹脂成形体3で使われる樹脂の劣化を抑制することができる。
【0026】
<シート体の変形例>
次に
図4を参照しながら、シート体2の変形例として複合成形品1Aについて説明する。上述の実施形態と共通する部位には共通の符号を付し、共通の効果を奏する点の説明は省略し、異なる点を主に説明する。
【0027】
図4(a)~(e)に示す例は、凹凸形成工程(S100)において、凸部20bをシート基材20aの一方面20を圧縮することで形成した例であり、
図4(d)における2点鎖線は圧縮前の形状である。凸部20bを構成する材料は特に限定されないが、本実施形態では、シート基材20aの一部を圧縮して凸部20bが形成され、その凸部20bが溶融樹脂の流動圧力の圧縮により薄状になる多孔質体を用いた例を説明する。まず、凹凸形成工程(S100)では、
図4(a)に示す一枚の平板なシート基材20aを準備する。ここに示すシート基材20aは
図1(a)に示すシート基材20aより凸部20bの突出量分、厚みのあるものがよい。そして、押圧手段300によってシート基材20aの一部を圧縮し、窪んだ凹部20cを形成することで、凹部20cを挟んで両側に一対の凸部20b,20bが形成される。凸部20b及び凹部20cの形成方法としては、シート基材20aの全体を圧縮し、異なる圧縮率にして凹部20c及び凸部20bを形成してもよい。具体的には、凹部20cを圧縮する寸法が凸部20bを形成(圧縮)する寸法より大きければよい。上記製造方法によれば、凹部20c及び凸部20bは、シート体2(シート基材20a)を圧縮することで形成することができる。なお、凹凸形成工程(S100)における凸部20b及び凹部20cの形成方法は、上述に限定されず、凸部20bを構成するシート体を予め裁断しておき、シート基材20aの縁部20aaに沿って凸部20bを貼り付けてもよい。
【0028】
次に樹脂成形工程(S101)では、凸部20bが溶融樹脂の流動圧力によって圧縮され、
図4(d)及び
図4(e)に示すように凸部20b以外の部分と略均一な厚さに圧縮される。上記製造方法によれば、凸部20bが成形時に圧縮されるため、成形後はシート体2の厚みがほぼ均一な複合成形品1Aとすることができる。
【0029】
次に
図5を参照しながら、本実施形態に係る製造方法で製造される複合成形品1の種々変形例としてシート体2A~2Dについて、さらに説明する。上述の実施形態と共通する部位には共通の符号を付し、共通の効果を奏する点の説明は省略し、異なる点を主に説明する。凹部20c及び凸部20bの構成は、意匠面としてあらわれる側のシート体2の構成や樹脂成形体3の構成に応じて溶融樹脂の流動方向を制御するため、種々態様とすることができる。また凸部20bを樹脂材で形成する場合は、複合成形品1となったときに、芯材的役割を担うこともできるため、この観点からも種々態様とすることができる。
図5に示す例は、薄状の略長方形のシート基材20aの一方面20に、シート基材20a短手方向の両側の縁部20aa,20aaに沿って、一対の凸部20b,20bが配されている点は上述の例と共通するが、一対の凸部20b,20bの形状が、
図1(a)等に示す例と異なる。
図5(a)~
図5(d)において、「g」で示す位置は、ゲート部gが設けられる位置を示しており、いずれも凹部20cの略中央位置に対応する位置にゲート部gが設けられ、このゲート部gから溶融樹脂が射出される。
【0030】
図5(a)の示すシート体2Aは、一対の凸部20b,20bによってシート基材20aの一方面20のほとんどが覆われ、一対の凸部20b,20bの間の長細い領域に凹部20cが設けられている。一対の凸部20b,20bは平たい長方体からなり、シート基材20aの縁部20aaに沿って設けられている。この場合、シート基材20aが薄状でも一対の凸部20b,20bによってシート基材20aのほとんどが覆われているので、剛性が高く、溶融樹脂の流動をコントロールする効果に加えて、さらに配置部201に配置する際にズレにくく、他方面21側に溶融樹脂が回り込みにくいものとすることができる。
【0031】
図5(b)に示すシート体2Bは、凹部20cの幅寸法と一対の凸部20b,20bのそれぞれの幅寸法とが略同一の例である。一対の凸部20b,20bは、細長の長方体からなり、シート基材20aの縁部20aaから間隔を空けて設けられている。この場合においても、凹部20cの両側に設けられた一対の凸部20b,20bが障壁となって溶融樹脂の流動をコントロールできる。
【0032】
図5(c)に示すシート体2Cは、一対の凸部20b,20bの形状が異なる例である。一対の凸部20b,20bの形状は同大同形に限定されず、
図5(c)に示すように異形状であってもよく、この例は一方の凸部20bにのみ傾斜部20baを備えている。傾斜部20baは、シート基材20aの一方面20から斜め方向に凹部20cの領域(面積)が次第に拡大する方向に傾斜している。他方の凸部20bの凹部20cの側面20bbは、直線状に形成されている。この場合においても、凹部20cの両側に設けられた一対の凸部20b,20bが障壁となって溶融樹脂の流動をコントロールできる。
【0033】
図5(d)に示すシート体2Dは、凸部20b,凸部20bと凹部20cとを有した樹脂材からなる一次成形品20dとシート基材20aとをインサート成形して一体化しシート体2Dとした例である。ここに示す一次成形品20dは、中央部分で傾斜した湾曲部20daを有して形成されており、シート基材20aは一次成形品20dの形状に沿って、湾曲形状に変形した状態で一体となっている。本実施形態に係る製造方法及び成形型10は、このような構成であっても、適用できる。この場合も凹部20cの両側に設けられた一対の凸部20b,20bが障壁となって溶融樹脂の流動をコントロールでき、シート基材20aの製造時の捲れ、位置ズレ、シート体2Dの他方面側への樹脂の回り込みを抑制できる。
【0034】
次に
図6及び
図7を参照しながら、本実施形態に係る製造方法で製造される複合成形品1B,1Cの種々変形例としてシート体2E~2Iについて、さらに説明する。上述の実施形態と共通する部位には共通の符号を付し、共通の効果を奏する点の説明は省略し、異なる点を主に説明する。凹部20c及び凸部20bの構成は、意匠面としてあらわれる側のシート体2の構成や樹脂成形体3の構成に応じて溶融樹脂の流動方向を制御するため、種々態様とすることができる点は上記と同様である。また凸部20bを樹脂材で形成する場合は、複合成形品1となったときに、芯材的役割を担うこともできるため、この観点からも種々態様とすることができる。
図6及び
図7においても、「g」で示す位置は、ゲート部gが設けられる位置を示している。
【0035】
以下では、
図6(a)~
図6(c)に示すシート体2E~2Gによって形成される複合成形品は、いずれも同じ形状の複合成形品1Bとする例を説明する。複合成形品1Bは、平面視において略正方形のシート体2と、シート体2の四周を囲むように設けられた額縁状の樹脂成形体3とを備える。複合成形品1Bのおもて面1aにはシート基材20aの他方面21があらわれる。
【0036】
図6(a)に示すシート体2Eは、複数の凸部20b,20b・・・を有し、凸部20bと凸部20bとの間に凹部20cが設けられている。凸部20bは、平面視において略L字状(略V字状ともいえる)に形成され、同形状の4つの凸部20bの角部20bc同士を突き合わせるように配置する。すると、凸部20bと凸部20bの間に対角線上に4方向に分かれた凹部20cを設けることができる。この場合、2本の対角線が交わる位置(シート基材20aの略中央部位)をゲート部gとすれば、スムーズに溶融樹脂をゲート部gから離れている角部20acの4方向に優先的に流動させることができ、溶融樹脂がシート基材20aの四周の縁部20aa,20abに到達するタイミングを合わせることができる。このため、溶融樹脂がシート基材20aのいずれかの縁部20aa、20abを超えシート基材20aが無く流路幅が広いことで流動抵抗が低くなっているキャビティC部分を流動した後、溶融樹脂が未到達であるシート基材20aの縁部20aa、20abに向かって流動することを防ぎつつ、キャビティC内に溶融樹脂を行き渡らせることができる。よって、シート体2の端部が溶融樹脂の流動による圧力を受けて位置ズレすることを防ぎ、また樹脂がシート体2の他方面21側に回り込んだ跡等が残らず、外観品質がよい複合成形品1Bを得ることができる。またこの場合、シート基材20aの捲れやすい角部20acが凸部20bによって押さえられるので、シート基材20aの捲れを防いで他方面21側に溶融樹脂が回り込みにくいものとすることができる。
【0037】
図6(b)に示すシート体2Fも、複数の凸部20b,20b・・・を有し、凸部20bと凸部20bとの間に凹部20cが設けられている例である。凸部20bは、平面視において、山型の三角形状に形成され、同形状の4つの凸部20bの角部20bc,20bc・・・同士を突き合わせるように配置している。凸部20bがこの形状であっても、
図6(a)と同様に凸部20bと凸部20bの間に対角線上に4方向に分かれた凹部20cを設けることができる。そしてこの場合も対角線同士が交わる位置(シート基材20aの略中央部位)をゲート部gとすれば、スムーズに溶融樹脂を4方向に優先的に流動させ、キャビティC内に行き渡らせることができる。よって、
図6(a)と同様に、シート体2の位置ズレを防ぎ、また樹脂が他方面21側に回り込んだ跡等が残らず、外観品質がよい複合成形品1Bを得ることができる。またこの場合も、シート基材20aの捲れやすい角部20acが凸部20bによって押さえられるので、シート基材20aの捲れを防いで他方面21側に溶融樹脂が回り込みにくいものとすることができる。
【0038】
図6(c)に示すシート体2Gは、複数の凸部20b,20b・・・がいずれも略長方体からなり、シート基材20aの四周の縁部20aa,20abから距離を空けて、縁部20aa,20abに沿って配置されている。この場合も、4つの凸部20bによって囲まれた領域の略中央部位にゲート部gを配置し溶融樹脂を射出すれば、シート基材20aの略中央位置から溶融樹脂が拡がって流動するがシート基材20aの縁部20aa,20abに至る前に凸部20bが障壁となるので、溶融樹脂がシート基材20aの四周の縁部20aa,20abに到達するタイミングが合い、
図6(a)の場合と同様に、シート体2の位置ズレを防ぎ、また樹脂が他方面21側に回り込んだ跡等が残らず、外観品質がよい複合成形品1Bを得ることができる。
【0039】
続いて示す
図7(a)、
図7(b)は、切欠部1Caを有した平板の複合成形品1Cにおけるシート体2H,2Iの例を示している。
図7(a)に示すシート体2Hは、切欠部1Caが形成される位置に対応して、シート基材20aにシート切欠部20adが形成されている。平面視において略U字形状に切り欠き形成されたシート切欠部20adに沿って、同じく平面視において略U字形状(略J字形状ともいえる)の凸部20bが設けられている。凸部20bは、シート切欠部20adに向けて次第に高くなるように傾斜した傾斜部20baを有している。そしてこの例の場合、凸部20b以外のシート基材20aの領域が凹部20cに相当し、ゲート部gは凸部20bから間隔を空けた凹部20cの広い領域の略中央位置に配置される。この場合、樹脂成形工程(S101)において、ゲート部gから射出される溶融樹脂は、凸部20bが障壁となり、切欠部1Caの周りのシート基材20aが無く、流路幅が広いことで流動抵抗が低くなっている部分を流動した後、溶融樹脂が未到達であるシート基材20aの端部であるシート切欠部20adに向かって流動することを抑制しつつ、キャビティC内に溶融樹脂を行き渡らせることができる。こうして、シート体2Hのシート切欠部20adの他方面21側に溶融樹脂が回り込みにくく、
図7(c)に示すようなおもて面1aの外観品質がよい複合成形品1Cを得ることができる。
【0040】
図7(b)に示すシート体2Iも、切欠部1Caが形成される位置に対応して、シート基材20aにシート切欠部20adが形成されている。この例では、凸部20bが、平面視において略U字形状に切り欠き形成されたシート切欠部20adに溶融樹脂が至りにくくするように細長の壁状に設けられている。この例の場合も、凸部20b以外のシート基材20aの領域が凹部20cに相当し、ゲート部gは凸部20bから間隔を空けた凹部20cの広い領域の中央位置に配置される。この場合においても、樹脂成形工程(S101)において、ゲート部gから射出される溶融樹脂は、凸部20bが障壁となり、
図7(a)と同様に、シート体2Iのシート切欠部20adの他方面21側に溶融樹脂が回り込みにくく、
図7(c)に示すようなおもて面1aの外観品質がよい複合成形品1Cを得ることができる。
【0041】
<第2実施形態>
次に
図8、
図9を参照しながら、第2実施形態に係る複合成形品の製造方法について説明する。上述の第1実施形態と共通する部位には共通の符号を付し、共通の効果を奏する点の説明は省略し、異なる点を主に説明する。 第2実施形態に係る製造方法も、第1実施形態に係る製造方法と同様に、可撓性を有するシート体2と、シート体2の一方面20に接合された樹脂成形体3とを備える複合成形品1の製造方法である。しかしこの実施形態では、エンジンのシリンダブロックに設けられた冷却水流路5に配置されるスペーサS(
図8(c)参照)に適用される複合成形品1を製造する例を説明する。
【0042】
スペーサSに用いられるシート体2としては、圧縮された状態から水分に晒されることによって復元する特性を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、上述した多孔質体としてもよく、その場合、セルロース系スポンジが好適に用いられる。セルロース系スポンジは、パルプ由来のセルロースと、補強繊維として加えられた天然繊維(例えば、綿等)とからなる天然素材からなり、連続気泡型で優れた吸水性を有する。またセルロースは、親水基(OH)を有しており、化学的に水分になじみ易い性質を有する。よって、セルロース系スポンジは、加圧した状態で乾燥させるとセルロース分子間が水素結合して圧縮状態に維持される一方、この状態から水分に晒されると水分子がセルロース分子間の水素結合を解離して圧縮状態から復元する特性を有するため、シート体2として、好適である。
【0043】
まずはシート体2に凹部20c及び凸部20bを設ける凹凸形成工程(S100)を行う。凹凸形成工程(S100)は第1実施形態と同様である。よって、事前に凸部20bを樹脂の射出成型により形成しシート基材20aの縁部20aaに沿って接着してもよいし(
図1(a)参照)、凸部20bをシート基材20aの一方面20に溶融樹脂を射出成形して形成(一次成形)してもよい(
図1(b)参照)。またシート基材20aにシート体を積層し凸部20bを形成してもよいし、
図4(a)及び
図4(b)に示すようにシート基材20aの一部を圧縮、シート基材20a全体を圧縮し、凹部20cの部分のみさらに圧縮し異なる圧縮率にして凹部20c及び凸部20bを形成するようにしてもよい。本実施形態では、シート基材20aの縁部20aaから間隔を空けて一対の凸部20b,凸部20bが設けられており、凸部20bと凸部20bの間に凹部20cが設けられている。
【0044】
次に樹脂成形工程(S101)を行う。
図8(a)及び
図8(b)に示すように、第1型100aと、第2型200aとを備え相対的に接離自在に構成された成形型10Aを用意する。成形型10Aは、第1型100aと第2型200aとがシート体2を介して型締めされるとキャビティCを形成する。第1型100aは、溶融樹脂を射出するゲート部gを備え、第2型200aは、シート体2が配置される配置部201と、シート体2に含まれる空気を外部へ排出する通気部202と、樹脂成形体3を模る凹所203を備えている。凹所203の深さ寸法、形状は、樹脂成形体3の形状・寸法等に合わせて形成され、図例のものは、凹所203内にシート体2が収まり、円弧状に湾曲した形状に構成されている。溶融樹脂を射出するゲート部gの位置は、凹部20cに対向する位置に設けられる。よって、ゲート部gから溶融樹脂が射出された際には、溶融樹脂が一対の凸部20b,20b間に設けられた凹部20c内を優先的に流動し、溶融樹脂はシート基材20aの縁部20aaを超えて、シート基材20aが無く、流路幅が広いことで流動抵抗が低くなっているキャビティC部分を流動した後、溶融樹脂が未到達であるシート基材20aの端部に向かって流動することを防ぎつつ、キャビティC内に溶融樹脂を行き渡らせることができる。こうして、シート体2が溶融樹脂の流動による圧力を受けて位置ズレすることを防ぎ、またシート体2の端部から溶融樹脂が他方面21側へ回り込んだ跡等が残らず、複合成形品の品質向上を図ることができる。
【0045】
通気部202は、シート体2が配置される領域の配置部201に溶融樹脂が流れず空気が流れる5~50μm程度の微細な隙間を持つものであればよく、微細な穴や極細のスリット、多孔質金属や、可動する成形型同士の合わせ面であってもよい。また、通気部202は、第1実施形態と同様に、少なくとも前記シート体2が溶融樹脂の流動圧力によって圧縮されることでシート体2から押し出される空気をキャビティCを構成する空間以外の場所へ逃す構成、言い換えると、シート体2から押し出される空気の圧力を緩和できればよい。よって、通気部202自体が成形型10Aの外(外部空間)まで通じていない構造であってもよい。
図8(a)に示すように通気部202は、シート体2が配置部201に配置された際にシート体2で覆われる位置に設けられているが、シート基材20aの縁部20aaを跨いだ位置に配置されていてもよい。
【0046】
本実施形態における製造方法の一例の大まかな流れは以下のとおりである。
凹凸形成工程(S100)を経たシート体2と上述の成形型10Aを準備し、第2型200aの配置部201に凹部20c及び凸部20bを備えたシート体2を配置する。シート体2は、円弧状に湾曲した配置部201の形状に沿って湾曲した状態で配置され、不図示の固定手段によりシート体2の略中央付近が第2型200aの配置部201に固定されるが、縁部20aaは浮いた状態となる。そして第1型100aと第2型200aとを型締めする(
図8(a)参照)。この状態でゲート部gを通じて溶融樹脂を射出して、キャビティCに溶融樹脂を充填する。ゲート部gから射出された溶融樹脂は、凹部20cの中央部位からシート基材20aの縁部20aaに向けて流動していく。このときシート基材20aの縁部20aaは溶融樹脂の流動圧力によって配置部201に沿うように変形する。そしてシート基材20aは多孔質体からなるので、溶融樹脂による流動圧力を受けると、シート基材20aの圧縮によって、シート基材20aから押し出される空気も一緒に縁部20aaに向けて移動する。そして、この空気が通気部202に至ると通気部202を通じて外部へ排出することができる(ガス抜き工程S101)。すなわち、本実施形態に係る製造方法及び成形型10Aによっても、通気部202を通じてガス抜きしながらシート体2と樹脂成形体3とを一体成形できるので、充填不良やガス焼け不良が低減することができる。
【0047】
こうして、キャビティC全域に樹脂を充填した後、保圧状態で冷却し樹脂を固化させる。型開きして脱型しシート体2と接合された樹脂成形体3を取り出し、ゲート残り部(不図示)を切断すると、複合成形品1(S)を得ることができる(樹脂成形工程S101)。
【0048】
以上の製造方法においても、溶融樹脂が凹部20cに射出され、凹部20c及び凸部20bによって溶融樹脂の流動方向が規制されるので、溶融樹脂がシート基材20aの四周の縁部20aa,20ab(不図示)に到達するタイミングを合わせることができる。こうして、シート基材20aの縁部20aaあるいは縁部20abを超えて、シート基材20aが無く流路幅が広いことで流動抵抗が低くなっているキャビティC部分を流動した後、溶融樹脂が未到達であるシート基材20aの縁部20aa、20abに向かって流動することを防ぎつつ、キャビティC内に溶融樹脂を行き渡らせることができる。またシート体2の端部が溶融樹脂の流動による圧力を受けて位置ズレすることを防ぎ、シート体2の他方面21側への樹脂の回り込み等の抑制を図ることができる。よって、シート体2の位置ズレが無く、樹脂が他方面21(意匠面)側に回り込んだ跡等が残らず、外観品質がよい複合成形品1(S)を得ることができる。また以上の製造方法によれば、樹脂成形体3が配されることで複合成形品1の外観に現れないシート体2の一方面20に溶融樹脂の流動をコントロールする凹凸が設けられるので、樹脂成形体3のシート体2が設けられた側とは反対側の面に凹凸が形成されず、樹脂成形体3の設計自由度を向上させることができ、スペーサSの様々な構成に応えることができる。よって複合成形品1がスペーサSとして設置される冷却水流路5の形状や冷却水の流れを規制するため流路設計に応じたものを製造することができる。また以上の製造方法においても、成形型10A側に溶融樹脂の流動をコントロールするための凹凸を設ける必要がない。
【0049】
以上の製造方法によって得られた複合成形品1は、冷却水流路5内の適所に部分的に配置されるスペーサSとして使用することができる。スペーサSは、冷却水流路5の円弧状の内壁面50及び外壁面51に沿うような円弧形状に形成され、スペーサSを冷却水流路5内に配置し組付ける際には、シート体2は
図8(b)に示すように圧縮された状態であるので、スペーサS自体が薄板体でコンパクトな状態にある。よって、スペーサSが冷却水流路5内に組付けられる際に、スペーサSが冷却水流路5の内壁面50及び外壁面51に干渉することなく、スムーズに組付けられる。一方、冷却水流路5内に組付けた後は、
図8(c)に示すようにシート体2が膨大化し、冷却水流路5を流動する冷却水が堰き止められ、スペーサSが配された部位は冷却水が流れにくく、スペーサSが配されていない部位は冷却水が流れやすくなる。こうして冷却水流路5内に設置されるスペーサSによって過冷却を防止したい部位には冷却水を流れにくく、冷却性能を上げたい部位には冷却水を流れやすく、設計目的に合わせた水流れ制御を行うことができる。
【0050】
図9は成形型10Bの変形例を模式的に斜視図である。
図9は第1型100b及び第2型200bを備えた成形型10Bが型開きされている状態を示している。この変形例は、通気部202の別例を示しており、ここに示すように通気部202は、シート体2が載置される領域を5~50μmの複数の微細孔を有した多孔体金属で構成してもよい。これによれば第2型200bの通気部202で構成された部位のいずれの方向から広範囲にガス抜きを行いながら樹脂成形工程S101を行うことができる。また、通気部202は多孔体金属に限らず、全体に多数の細いスリットが入った金属ブロックとしてもよい。
【0051】
以上、第1実施形態及び第2実施形態として種々製造方法を説明したが、上述の例に限定されるものではない。第1実施形態及び第2実施形態に示すシート体2,2A~2I、シート基材20a、凸部20b、凹部20c、成形型10,10A,10B、第1型100,100a,100b、第2型200,200a,200b、樹脂成形体3、複合成形品1、スペーサSの構成、形状、構造は図例に限定されるものではない。シート体2としては、可撓性を有するシート状のものであればよく、例えば、皮革、布、織物、木皮、各種素材からなる多孔質体、塩化ビニル等の樹脂製シート等としてもよい。さらに本実施形態における多孔質体は、上述のセルロース系スポンジに限定されず、ガス抜き工程(S101)を効果的に行うため、皮革などに複数の貫通孔を形成したものも含む。
【0052】
また上述の実施形態に係る製造方法によって製造される複合成形品1は、自動車の内装ドアトリムやピラーガーニッシュ等の他、産業機械、電子機器、建築資材等において、断熱性、緩衝性及び防音性が求められる構成部材にも好ましく採用されるものに適している。またシート基材20aの一方面20は樹脂成形体3を形成する樹脂で被覆されていてもいいし、されていなくてもよい。またさらに、シート基材20aの一方面20にはリブを形成して樹脂成形体3の変形防止、強度アップを図った構成としてもよい。
【0053】
また第2実施形態に係る複合成形品1の適用例として示したスペーサSの構成、形状は、図に示すものに限定されるものではない。例えば、スペーサSを構成する樹脂成形体3に対してシート体2を固着させる位置や枚数は、冷却水流路5内に配置されるスペーサSの安定性、或いは、冷却水流路5内を流通する冷却水の冷却機能等、求められる仕様に応じて適宜変更してもよい。樹脂成形体3の形状は、第2実施形態で示すような部分スペーサでなく、半筒状(半割状)のものでもよいし、冷却水流路5の全周に及ぶ全筒状のものの製造方法にも適用可能である。さらに
図8(c)に示すスペーサSの場合は、冷却水流路5内の一か所に配置してもよいし、複数箇所に配置してもよく、配置する部分スペーサの数は、冷却水流路内のスペースや求められる仕様等に応じて適宜設定するものに適用してもよい。また、第2実施形態に係るシート体2も、セルロース系スポンジに限定されない。例えば、シート体2として水膨潤性シート、水可溶性のバインダー或いは所定温度以上の温度で溶解するバインダーによって圧縮状態に維持された多孔質体シート等を用いてもよい。さらにシート体2が膨大化する所定の外的要因としては、冷却水流路内を流通する冷却水に限定されず、エンジンの作動によって加熱されて所定の温度以上に至った冷却水であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 複合成形品
2,2A~2I シート体
20 一方面
21 他方面
20a シート基材
20b 凸部
20c 凹部
3 樹脂成形体
10 成形型
100 第1型
200 第2型
201 配置部
202 通気部
C キャビティ