(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030848
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータ材料、これを用いた燃料電池用セパレータの製造方法、及び燃料電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0221 20160101AFI20240229BHJP
H01M 8/0226 20160101ALI20240229BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20240229BHJP
H01M 8/0213 20160101ALI20240229BHJP
【FI】
H01M8/0221
H01M8/0226
H01M8/0206
H01M8/0213
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134030
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000155698
【氏名又は名称】株式会社有沢製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】服部 拓也
(72)【発明者】
【氏名】野々山 順朗
(72)【発明者】
【氏名】田井 誠
(72)【発明者】
【氏名】吉田 陽
(72)【発明者】
【氏名】石川 優里奈
(72)【発明者】
【氏名】出口 英明
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA12
5H126DD03
5H126DD04
5H126EE03
5H126EE04
5H126HH01
5H126HH02
5H126HH03
5H126JJ00
5H126JJ03
(57)【要約】
【課題】簡易な工程で、導電性を確保しつつ、排水性を向上可能な燃料電池用セパレータを製造することができる燃料電池用セパレータ材料を提供する。
【解決手段】導電性粒子とバインダー樹脂とを含む複合材料と、複合材料の両面に配置された可溶性樹脂層と、を備える燃料電池用セパレータ材料である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粒子及びバインダー樹脂を含む複合材料と、
前記複合材料の両面に配置された可溶性樹脂層と、を備える、
燃料電池用セパレータ材料。
【請求項2】
前記可溶性樹脂層は極性溶媒に可溶な可溶性樹脂を含み、
前記可溶性樹脂はポリビニルアルコール、セルロール類、ポリアクリル酸、及びでんぷんから選択される少なくとも1種を含む、
請求項1に記載の燃料電池用セパレータ材料。
【請求項3】
前記可溶性樹脂層の厚さが0.5μm以上10μm以下である、
請求項1又は2に燃料電池用セパレータ材料。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の燃料電池用セパレータ材料を作製する作製工程と、
前記セパレータ材料の表面に流路となる凹凸形状を付与する加熱成形工程と、
前記加熱成形工程の後、前記セパレータ材料を極性溶媒に浸漬して前記可溶性樹脂層を除去する除去工程と、を備える、
燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項5】
表面に流路となる凹凸形状を有する燃料電池セパレータであって、
前記燃料電池セパレータは導電性粒子とバインダー樹脂とを含む複合材料から形成されており、
前記凹凸形状は凸部と、凹部と、前記凸部及び前記凹部を接続する縦壁と、を有し、
前記縦壁の表面の水接触角が80°以下である、
燃料電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は燃料電池用セパレータ材料、これを用いた燃料電池用セパレータの製造方法、及び燃料電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は燃料ガス及び酸化剤ガスとの電気化学反応によって電気エネルギーを取り出す発電装置であり、複数の単セルを積層して形成される。単セルは、電解質膜の両面に触媒層が配置されたMEA(膜電極接合体)又はMEGA(膜電極ガス拡散層接合体)と、この両面を挟むセパレータとから形成されている。
【0003】
セパレータは、高いガスバリア性、高い導電性、及び適切な機械的強度を有する材料から形成される。材料としては、例えば黒鉛とバインダー樹脂とを混合した複合材料が挙げられる。また、セパレータは、このような複合材料を用いて、燃料ガス、酸化剤ガス、又は冷媒の流路となる凹凸形状が付与されるように加熱成形される。
【0004】
セパレータの材料に黒鉛とバインダー樹脂とが混合された複合材料を用いた技術を開示する文献として、次の特許文献1、2がある。
【0005】
特許文献1は、表面にリブ部及び溝部が設けられた黒鉛樹脂複合成形体からなる基材の主表面に親水性樹脂熱硬化被膜が設けられてなる燃料電池用セパレータであって、リブ部及び溝部の少なくとも一部において、表面粗さが0.15~1.5μmとなるように粗面処理がされていることを開示している。また、同文献には、粗面処理としてブラスト処理が記載されている。
【0006】
特許文献2は、黒鉛及び樹脂を含む成形材料を、離型性のあるフィルムで介在してなる燃料電池用セパレータ成形部材を開示している。また、同文献には当該燃料電池用セパレータ成形部材を熱圧縮成形した後、離型性のあるフィルムを除去する燃料電池用セパレータの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-38840号公報
【特許文献2】特開2006-128027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
セパレータに黒鉛とバインダー樹脂とを混合した複合材料を用いる場合、加圧成形においてバインダー樹脂が流動して表面側(金型と複合材料との界面側)に移動し、セパレータ表面が樹脂で覆われることとなる。そのため、導電性を向上するために、特許文献1に記載されているようにブラスト処理が実施される。ブラスト処理では、ブラスト投射剤をセパレータ表面に噴射することにより、セパレータ表面の樹脂が除去され、かつ、セパレータ表面の表面粗さが調整される。これにより導電性粒子が表面に露出するため、セパレータの導電性が確保される。
【0009】
しかしながら、ブラスト処理を行う場合、セパレータの凸部が主に削られ、凸部及び凹部を接続する縦壁はほとんど削られず、縦壁は樹脂で覆われることになる。そうすると、流路の排水性が低い状態となる。流路の排水性が低いと、フラッディングなどの問題が生じる。
【0010】
特許文献2に開示されているように、複合材料の両面に剥離フィルムが配置されたセパレータ材料を用いる場合、加熱成形後、剥離フィルムを除去してセパレータを製造する。この場合、加熱成形時において、黒鉛が複合材料の表面(複合材料と剥離フィルムの界面)まで移動するため、ブラスト処理等の表面処理が不要となる。しかしながら、剥離フィルムを除去する際、剥離フィルムがセパレータに残留する虞がある。剥離フィルムが残留すると、導電性の低下が懸念される。
【0011】
そこで、本開示の主な目的は、上記実情を鑑み、簡易な工程で、導電性を確保しつつ、排水性を向上可能な燃料電池用セパレータを製造することができる燃料電池用セパレータ材料、これを用いた燃料電池用セパレータの製造方法、及び燃料電池用セパレータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、上記課題を解決するための一つの態様として、導電性粒子及びバインダー樹脂を含む複合材料と、複合材料の両面に配置された可溶性樹脂層と、を備える、燃料電池用セパレータ材料を提供する。
【0013】
上記セパレータ材料において、可溶性樹脂層は極性溶媒に可溶な可溶性樹脂を含んでもよく、可溶性樹脂はポリビニルアルコール、セルロール類、ポリアクリル酸、及びでんぷんから選択される少なくとも1種を含んでもよい。また、可溶性樹脂層の厚さは0.5μm以上10μm以下としてもよい。
【0014】
本開示は、上記課題を解決するための一つの態様として、上記燃料電池用セパレータ材料を作製する作製工程と、セパレータ材料の表面に流路となる凹凸形状を付与する加熱成形工程と、加熱成形工程の後、セパレータ材料を極性溶媒に浸漬して可溶性樹脂層を除去する除去工程と、を備える、燃料電池用セパレータの製造方法を提供する。
【0015】
本開示は、表面に流路となる凹凸形状を有する燃料電池セパレータであって、燃料電池セパレータは導電性粒子とバインダー樹脂とを含む複合材料から形成されており、凹凸形状は凸部と、凹部と、凸部及び凹部を接続する縦壁と、を有し、縦壁の表面の水接触角が80°以下である、燃料電池用セパレータを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本開示の燃料電池用セパレータ材料によれば、簡易な工程で、導電性を確保しつつ、排水性が向上した燃料電池用セパレータを製造することができる。本開示の燃料電池用セパレータの製造方法によれば、簡易な工程で、導電性を確保しつつ、排水性が向上した燃料電池用セパレータを製造することができる。本開示の燃料電池用セパレータによれば、導電性を確保しつつ、排水性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】セパレータ材料50の製造方法の断面概略図である。
【
図2】一実施形態の製造方法のフローチャートである。
【
図4】従来のセパレータの製造方法の概略図である。
【
図6】セパレータ100の断面を拡大した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示の燃料電池用セパレータ材料、これを用いた燃料電池用セパレータの製造方法、及び燃料電池用セパレータについて、一実施形態を用いて以下に説明する。
【0019】
[燃料電池用セパレータ材料]
本開示の燃料電池用セパレータ材料について、一実施形態である燃料電池用セパレータ材料50を用いて説明する。
図1に燃料電池用セパレータ材料50の概略断面図を示した。
【0020】
図1に示した通り、セパレータ材料50は、導電性粒子10及びバインダー樹脂20を含む複合材料30と、複合材料30の両面に配置された可溶性樹脂層40と、を備えている。
【0021】
セパレータ材料50はシート状形状を有しており、所定の金型で凹凸形状を付与することができる。また、成形後、可溶性樹脂層40が除去されることで、燃料電池用セパレータを製造することができる。すなわち、セパレータ材料50において、複合材料はセパレータとして機能する部分であり、可溶性樹脂層40は成形時の保護層として機能する部分である。
【0022】
<導電性粒子10>
導電性粒子10は、複合材料30の導電性を確保するための材料である。導電性粒子10の種類は特に限定されないが、例えば黒鉛粒子、金属粉末、及び炭素繊維が挙げられる。黒鉛粒子としては、人造黒鉛粒子、天然黒鉛粒子、天然黒鉛粒子、膨張黒鉛粒子等が挙げられる。金属粉末としては、耐腐食性を有する金属化合物の粉末が挙げられる。例えば、窒化チタン等である。導電性粒子10は目的とする性能に応じて、複数の種類の材料を混合して用いてもよい。いくつかの実施形態では、導電性粒子10は黒鉛粒子及び炭素繊維の混合物であってもよい。黒鉛粒子及び炭素繊維の割合は特に限定されないが、例えば黒鉛粒子:炭素繊維=10:1~15:1としてよい。
【0023】
導電性粒子10の一次粒子径は特に限定されないが、例えば1μm以上としてもよく、100μm以下としてもよく、30μm以下としてもよい。導電性粒子10の一次粒子径はフェレ径を採用する。導電性粒子10の一次粒子径の測定方法は、例えばSEMを用いて、10個以上の導電性粒子10の一次粒子径を測定し、その平均値から算出することができる。測定する導電性粒子10は100個以上でもよい。
【0024】
複合材料30において、導電性粒子10の含有量は特に限定されないが、60重量%以上としてよく、75重量%以上としてよく、90重量%以下としてよく、85重量%以下としてよい。導電性粒子10の含有量が60重量%未満であると、セパレータ100の導電性が低下し、電気抵抗が高くなる虞がある。導電性粒子10の含有量が90重量%を超えると、複合材料30の強度が低下する虞がある。
【0025】
<バインダー樹脂20>
バインダー樹脂20は複合材料30の強度を確保するための材料である。バインダー樹脂20の種類は特に限定されないが、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びポリプロピレン樹脂等が挙げられる。
【0026】
複合材料30において、バインダー樹脂20の含有量は特に限定されないが、10重量%以上としてよく、15重量%以上としてよく、40重量%以下としてよく、30重量%以下としてよく、25重量%以下としてよい。バインダー樹脂20の含有量が10重量%未満であると、複合材料30の強度が低下する虞がある。バインダー樹脂20の含有量が40重量%を超えると、複合材料30の導電性が低下し、電気抵抗が高くなる虞がある。
【0027】
<複合材料30>
複合材料30は導電性粒子10及びバインダー樹脂20以外の材料が含まれていてもよいが、導電性粒子10及びバインダー樹脂20からなっていてもよい。複合材料30の厚みは特に限定されず、目的に応じて適宜設定してよい。例えば、100μm以上1000μm以下の範囲としてよい。
【0028】
複合材料30の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。例えば、導電性粒子10とバインダー樹脂20とを溶媒中で混合し、得られた混合物を剥離シート上に塗布・乾燥することにより得られる。混合物を塗布する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜採用してよい。例えば、バーコーターを用いて、混合物を塗布してもよい。
【0029】
<可溶性樹脂層40>
可溶性樹脂層40は極性溶媒に可溶な可溶性樹脂を含む。可溶性樹脂層40において、可溶性樹脂は50重量%以上含まれていればよい。より可溶性を向上する観点から、可溶性樹脂は80重量%以上含まれていてもよく、90重量%以上含まれていてもよく、95重量%以上含まれていてもよく、100重量%(可溶性樹脂層40が可溶性樹脂からなる)でもよい。
【0030】
可溶性樹脂は極性溶媒に可溶な樹脂であれば特に限定されない。極性溶媒により容易に除去する観点から、可溶性樹脂はポリビニルアルコール、セルロース類、ポリアクリル酸、及びでんぷんから選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。セルロース類は可溶性を有するセルロール類であればよい。例えば、カルボキシメチルセルロールが挙げられる。可溶性を向上する観点から、可溶性樹脂はポリビニルアルコールからなっていてもよく、セルロース類からなっていてもよく、ポリアクリル酸からなっていてもよく、でんぷんからなっていてもよい。可溶性樹脂はポリビニルアルコール、セルロース類、ポリアクリル酸、及びでんぷんから選択される少なくとも1種からなっていてもよい。
【0031】
極性溶媒の種類は可溶性樹脂40を除去可能であれば特に限定されない。例えば、水、C1~3の低級アルコール(例えば、エタノール)、グリコール類、DMSO、フェノール等が挙げられる。溶媒除去の容易さを考慮し、揮発性の高い水やエタノールを用いてもよい。取り扱いの容易さ及び安全性の観点から、水を選択してよい。
【0032】
可溶性樹脂層40の厚さは特に限定されないが、金型による凹凸形状の転写を良好に実施し、かつ、凹凸形状の厚みのばらつきを抑制する観点から、0.5μm以上10μm以下としてよい。極性溶媒により容易に除去する観点から、可溶性樹脂層50の厚さは5mm以下としてよく、3mm以下としてよい。
【0033】
シート状の複合材料30に可溶性樹脂層40を配置する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、バーコーターやスプレー塗布が挙げられる。
【0034】
<効果>
セパレータ材料50は、シート状の複合材料30の両面全体に可溶性樹脂層40が配置されたものである。これにより、セパレータ材料50を成形後、極性溶媒に浸漬することにより、容易に可溶性樹脂層40を除去することができるので、簡易な工程で燃料電池用セパレータを製造することができる。また、このような方法で得られた燃料電池用セパレータは、導電性が確保され、かつ、高い排水性を有する。詳しくは後述する。
【0035】
以上、一実施形態を用いて、本開示の燃料電池用セパレータ材料を説明した。本開示の燃料電池用セパレータ材料によれば、簡易な工程で、導電性を確保しつつ、排水性が向上した燃料電池用セパレータを製造することができる。
【0036】
[燃料電池用セパレータの製造方法]
本開示の燃料電池用セパレータの製造方法について、一実施形態を用いて説明する。一実施形態は、上述した燃料電池用セパレータ材料50を用いた燃料電池セパレータ100の製造方法である。
図2に一実施形態の製造方法のフローチャートを示した。また、
図3に一実施形態の製造方法を説明する概略図を示した。
【0037】
図2、
図3に示した通り、一実施形態の製造方法は、上述したセパレータ材料50を作製するセパレータ材料作製工程S1と、セパレータ材料50の表面に流路となる凹凸形状60を付与する加熱成形工程S2と、加熱成形工程S2の後、セパレータ材料50を極性溶媒に浸漬し可溶性樹脂層40を除去する除去工程S3と、を備える。これにより、燃料電池用セパレータ100を製造することができる。
【0038】
<セパレータ材料作製工程S1>
セパレータ材料作製工程S1では、セパレータ材料50を作製する。セパレータ材料50の構成・作製方法については上述したため、ここでは説明を省略する。
【0039】
<加熱成形工程S2>
加熱成形工程S2では、セパレータ材料50の表面に流路となる凹凸形状60を付与する。典型的には、凹凸形状60は加熱した金型をセパレータ材料50に押し付けることによって付与される。
【0040】
金型の加熱温度は特に限定されず、バインダー樹脂20のガラス転移温度+50℃程度に設定すればよい。例えば、180℃~200℃の範囲である。金型を押し付ける圧力は特に限定されず、凹凸形状60が適切に付与できる圧力であればよい。例えば、20MPa~50MPaの範囲である。金型を押し付ける時間は特に限定されず、凹凸形状60が適切に付与できる時間であればよい。例えば5~120秒である。加熱成形時間が長すぎると可溶性樹脂層40が除去できなくなる虞がある。
【0041】
一実施形態は、加熱成形工程S2において、離型剤をセパレータ材料50に塗布しなくてもよい。セパレータ材料50の両面に可溶性樹脂層40が配置されているためである。
【0042】
<除去工程S3>
除去工程S3は加熱成形工程S2の後に実施され、セパレータ材料50を極性溶媒に浸漬して可溶性樹脂層40を除去する(溶解する)。これにより、セパレータ材料50から可溶性樹脂層40が完全に除去され、セパレータ100が得られる。
【0043】
除去工程S3において用いられる極性溶媒の種類は可溶性樹脂50を除去可能であれば特に限定されない。例えば、水、C1~3の低級アルコール(例えば、エタノール)、グリコール類、DMSO、フェノール等が挙げられる。溶媒除去の容易さを考慮し、揮発性の高い水やエタノールを用いてもよい。取り扱いの容易さ、及び安全性の観点から、水を選択してよい。
【0044】
除去工程S3において、極性溶媒を加温してもよい。これにより、可溶性樹脂層50を容易に除去・溶解することができる。極性溶媒の加温温度は、例えば50℃以上としてもよく、85℃以上としてもよい。上限は特に限定されないが、極性溶媒の加温温度は95℃以下としてよい。また、除去工程S3において、セパレータ材料50に対し超音波を付与してもよい。これにより、可溶性樹脂層40を容易に除去・溶解することができる。除去工程S3において、セパレータ材料50を極性溶媒に浸漬する時間は特に限定されないが、例えば5分~30分としてよい。
【0045】
除去工程S3後、得られたセパレータ100を乾燥してもよい。乾燥方法は特に限定されず、自然乾燥でもよく、加熱乾燥でもよい。
【0046】
<表面処理が不要である理由>
図4に表面処理としてブラスト処理を用いた従来の燃料電池用セパレータの製造方法を説明する概略図を示した。
図4に示した通り、従来の製造方法では、まず、シート状の複合材料130を準備し(工程S11)、複合材料130を加熱成形し、その表面に凹凸形状160を付与する(工程S12)。そして、凹凸形状160が付与された複合材料130に対し、ブラスト処理を実施する(工程S13)。これにより、セパレータを製造している。
【0047】
このように、従来の製造方法で用いられるシート状の複合材料130は、その表面に可溶性樹脂層を有していない。そのため、加熱成形されると導電性粒子110が複合材料130の表面側に移動するが、バインダー樹脂120が表面に残り、導電性粒子110が表面に露出できない。従って、従来の製造方法では、導電性を確保するために、凸部161表面に対しブラスト処理を実施し、導電性粒子110を露出させている。しかしながら、このようなブラスト処理では、凸部161が主に削られ、凹部162及び縦壁163(特に縦壁143)はほとんど削られず、その表面はバインダー樹脂120で覆われることになる。そうすると、流路の排水性が低くなる。流路の排水性が低いと、フラッディングなどの問題が生じる。特許文献1では、このような排水性の問題を解決するために、凹部162及び縦壁163に対して親水性樹脂を塗布している。
【0048】
これに対し、一実施形態の製造方法では、工程S1において、シート状の複合材料30の両面に可溶性樹脂層40を配置したセパレータ材料50を準備している。そして、加熱成形し、凹凸形状60をセパレータ材料50に付与している。この際、導電性粒子10は複合材料30の表面(複合材料30と可溶性樹脂層40との界面)にめり込むように移動する。そして、セパレータ材料50を極性溶媒に浸漬させ、可溶性樹脂層40を除去することで、導電性粒子10が表面に露出したセパレータ100を得ることができる。
【0049】
このように、一実施形態の製造方法では、複合材料30の両面に可溶性樹脂層50が配置されているため、加熱成形の際に導電性粒子10を複合材料30の表面まで移動させることができる。すなわち、複合材料30の表面に導電性粒子10を選択的に露出させることができる。また、可溶性樹脂層50は極性溶媒で容易に除去できる。従って、一実施形態の製造方法で作製されたセパレータ100は、導電性粒子10が表面(凸部41、凹部42、及び立壁43を含むすべての表面)に平滑に露出して存在しているため、ブラスト処理のような表面処理が不要である。また、表面処理が不要であるため、例えばブラスト投射材のような研磨剤を洗浄する必要もない。
【0050】
<可溶性樹脂層50を用いることの利点>
加熱成形の際、通常、離型剤を塗布し、材料が金型から容易に取り出せるようにしている。従来の製造方法では、複合材料130の表面に可溶性樹脂層が配置されていないため、離型剤が複合材料130に直接塗布されることになる。そうすると、離型剤は複合材料130内に浸透する。浸透した離型剤は、燃料電池内で放出され、MEGA等の発電要素を汚染し、燃料電池性能を低下させる可能性がある。
【0051】
これに対し、一実施形態の製造方法では、セパレータ材料60の両面に可溶性樹脂層50を配置することにより、バインダー樹脂20と金型との接触が抑制されるため、離型剤の塗布が不要になる。従って、上記のような問題は生じない。
【0052】
また、特許文献2のように、シート状の複合材料の両面に剥離層を配置したセパレータ材料を加熱成形した後、剥離層を除去し、セパレータを製造する技術がある。このような技術は、確かに、導電性粒子を表面に露出可能である。しかしながら、加熱成形後、剥離層がセパレータに残留する可能性がある。剥離層がセパレータに残留すると、導電性の低下が懸念される。また、加熱成形後に剥離層を完全に除去するためには、剥離層に一定以上の厚さが必要であり、かつ、破れないように、材料において伸び率や耐熱性に関し制約がある。そのため、剥離層に高価な樹脂を用いる必要がある。さらに、剥離層を一定以上に厚くすると、凹凸形状の転写が適切に実施できない虞がある。
【0053】
これに対し、一実施形態の製造方法では、単にセパレータ材料60を極性溶媒に浸漬することにより可溶性樹脂層50を完全に除去できるため、この点で優位性がある。また、可溶性樹脂層50は極性溶媒に溶解可能であればよく、剥離層のように必要以上に厚くする必要がないため、凹凸形状30の転写も容易である。
【0054】
以上、一実施形態を用いて、本開示の燃料電池用セパレータの製造方法を説明した。本開示の燃料電池用セパレータの製造方法によれば、導電性を確保しつつ、排水性が向上した燃料電池用セパレータを製造することができる。また、ブラスト処理等の表面処理が不要であるため、簡易な工程で燃料電池用セパレータを製造することができる。
【0055】
[燃料電池用セパレータ]
本開示の燃料電池用セパレータについて、一実施形態である燃料電池用セパレータ100を用いて説明する。燃料電池セパレータ100は上述の製造方法により製造されたものである。
図5にセパレータ100の断面概略図を示した。また、
図6にセパレータ100の断面を拡大した概略図を示した。
【0056】
セパレータ100は導電性粒子10とバインダー樹脂20とを含む複合材料30から形成されており、その表面に流路となる凹凸形状60を有している。複合材料30については上述したため、ここでは説明を省略する。
【0057】
<凹凸形状60>
図5に示した通り、セパレータ100(複合材料30)はその表面に流路となる凹凸形状60を有する。凹凸形状60は凸部61と、凹部62と、凸部61及び凹部62を接続する縦壁63と、を有する。流路とは、燃料電池において燃料ガス、酸化剤ガス、又は冷媒を流通させるための流路である。典型的には、セパレータ100の一方の面に燃料ガス又は酸化剤ガスの流路が形成されており、他方の面に冷媒の流路が形成されている。
【0058】
(凸部61)
凸部61は、燃料電池において、MEAやMEGA等の発電要素と接触する部分であり、セパレータ100と発電要素との導電性を確保するための部分である。凸部61はその表面に導電性粒子10が露出して存在している。これにより、導電性が確保される。
【0059】
凸部61の表面粗さは特に限定されないが、例えば0.1μm以上としてよく、0.5μm以上としてよく、2μm以下としてよく、1.8μm以下としてよい。凸部61の表面粗さが上記の範囲にあることにより、表面に導電性粒子10が十分露出していることを示しており、導電性を向上することができる。
【0060】
凸部61表面の水接触角は特に限定されないが、例えば80°以下としてよい。凸部61表面の水接触角が80%以下であると、表面に導電性粒子10が十分露出していることを示しており、導電性を向上することができる。当該効果は、水接触角が小さいほど向上する。
【0061】
本開示において、表面粗さはマイクロスコープを用いて、ISO 25178に準拠して測定することができる。また、水接触角は接触角計を用いて、液適法(JIS E3257準拠)に基づいて測定することができる。
【0062】
(凹部62)
凹部62は流路の底面を形成する部分である。凹部62はその表面に導電性粒子10が露出して存在している。これにより、排水性が確保される。
【0063】
凹部62の表面粗さは特に限定されないが、例えば0.1μm以上としてよく、0.5μm以上としてよく、2μm以下としてよく、1.8μm以下としてよい。凹部62の表面粗さが上記の範囲にあることにより、表面に導電性粒子10が十分露出していることを示しており、排水性を向上することができる。
【0064】
凹部62表面の水接触角は特に限定されないが、例えば80°以下としてよい。凸部61の水接触角が80%以下であると、表面に導電性粒子10が十分露出していることを示しており、排水性を向上することができる。当該効果は、水接触角が小さいほど向上する。
【0065】
(縦壁63)
縦壁63は流路の側面を形成する部分である。縦壁63はその表面に導電性粒子10が露出して存在している。これにより、排水性が確保される。
【0066】
セパレータ100は縦壁63の構成に1つの特徴を有している。すなわち、縦壁63の表面粗さが0.1μm以上2μm以下であり、かつ、水接触角が80°以下である。これにより、表面に導電性粒子10が十分露出していることを示しており、排水性を向上することができる。
【0067】
縦壁63の表面粗さは0.5μm以上としてよく、1.8μm以下としてよい。縦壁63の水接触角は小さいほど、上記の効果が向上する。
【0068】
以上、一実施形態を用いて、本開示の燃料電池用セパレータを説明した。本開示の燃料電池用セパレータによれば、導電性を確保しつつ、排水性を向上することができる。
【実施例0069】
以下、実施例を用いて、本開示についてさらに説明する。
【0070】
[セパレータの作製]
以下の方法で、実施例及び比較例1~4のセパレータを作製した。
【0071】
<実施例1>
表1に示した主剤、硬化剤、強化剤を溶媒(メチルエチルケトン)で溶解し、撹拌混合後、メタノールで溶解した硬化促進剤を添加し、バインダー樹脂(エポキシ樹脂)を作製した。その後、導電性粒子(黒鉛粉末と炭素繊維の混合物、黒鉛粉末:炭素繊維=14:1(重量比))を添加し、撹拌した。得られた混合物を、バーコーターを用いて離型フィルム上に塗布・乾燥し、シート状の複合材料(厚さ600μm)を得た。複合材料において、導電性粒子とバインダー樹脂との割合は導電性粒子:バインダー樹脂=75:25(重量%)であった。また、純水に溶解したポリビニルアルコールを、バーコーターを用いて離型フィルム上に塗布・乾燥し、シート状の可溶性樹脂層(厚さ5μm)を得た。得られた可溶性樹脂層を複合材料の両面に貼り付け、セパレータ材料を得た。
【0072】
次に、セパレータ材料に対し、金型を用いて180℃、1分、30MPaの条件でプレス成型(加熱成形)を実施し、凹凸形状を付与した。続いて、プレスされたセパレータ材料を80℃の温水に10分間浸漬し、可溶性樹脂層を完全に除去した。この際、超音波を照射して温水を撹拌した。最後に、得られたセパレータを100℃に加温し、1時間乾燥させ、実施例1のセパレータを得た。
【0073】
<比較例1>
比較例1のセパレータは、表2に示した通り、シート状の複合材料(実施例1で作製)に離型剤を塗布し、実施例1と同様の条件で加熱成形して得られたものである。
【0074】
<比較例2>
比較例2のセパレータは、表2に示した通り、シート状の複合材料(実施例1で作製)に離型剤を塗布し、実施例1と同様の条件で加熱成形した後、ブラスト処理を実施して得られたものである。
【0075】
<比較例3>
比較例3のセパレータは、表2に示した通り、シート状の複合材料(実施例1で作製)に離型剤を塗布し、実施例1と同様の条件で加熱成形した後、レーザー処理を実施して得られたものである。
【0076】
<比較例4>
比較例4のセパレータは、表2に示した通り、シート状の複合材料(実施例1で作製)の両面に不溶性樹脂層(PETフィルム、厚さ12.5mm)を配置したセパレータ材料を作製し、実施例1と同様の条件で加熱成形した後、不溶性樹脂層を剥離して得られたものである。
【0077】
【0078】
【0079】
[評価]
実施例及び比較例1~4のセパレータの性能を評価した。
【0080】
<導電性評価>
図7に示したように、2枚のセパレータSを密着させ、その外側にガス拡散層G及び金メッキ電極Eをそれぞれ配置した。そして、平均面圧1.0MPaまで加圧した後、平均面圧0.8MPaまで減圧した状態で電極間の電位差を測定し、セパレータの抵抗を算出した。試験は各3回実施した。結果を表3に示した。
【0081】
【0082】
表3により、実施例の抵抗値は最も低かった。これは、比較例1~4に比べて、凸部表面に露出している導電性粒子の比率が最も高いためであると考えられる。なお、比較例4は抵抗値が最も高かったため、後述の評価を実施しなかった。
【0083】
<排水性評価>
セパレータの凸部、凹部、立壁のそれぞれの水接触角を測定した。測定は、接触角計(協和界面科学製、自動極小接触角計MCA-J2)を用いて、液適法(JIS E3257準拠)に基づいて実施して。結果を
図8に示した。
【0084】
図8より、凸部、凹部及び立壁の全ての部位において、実施例のセパレータの水接触角が比較例1~3の水接触よりも小さかった。このことから、実施例は比較例1~3に比べて、排水性が高いと考えられる。また、この結果から、全ての部位において、比較例1~3に比べて実施例1のセパレータの表面における導電性粒子の比率が高いことを示していると考えられる。
【0085】
<表面粗さ評価>
マイクロスコープ(キーエンス製、VHX-7000)を用いて、ISO 25178に準拠して、セパレータの凸部について、任意の3点を非接触で表面粗さを測定し、平均値を算出した。結果を表4に示した。
【0086】
【0087】
表4より、実施例1の表面粗さは最も小さかった。これは、露出した導電性粒子が平滑であることを示している。なお、実施例のセパレータにおいて、凸部、凹部、縦壁のいずれの表面粗さを測定した場合であっても、有意差がないことが分かっている。
セパレータ材料50はシート状形状を有しており、所定の金型で凹凸形状を付与することができる。また、成形後、可溶性樹脂層40が除去されることで、燃料電池用セパレータを製造することができる。すなわち、セパレータ材料50において、複合材料30はセパレータとして機能する部分であり、可溶性樹脂層40は成形時の保護層として機能する部分である。
可溶性樹脂は極性溶媒に可溶な樹脂であれば特に限定されない。極性溶媒により容易に除去する観点から、可溶性樹脂はポリビニルアルコール、セルロース類、ポリアクリル酸、及びでんぷんから選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。セルロース類は可溶性を有するセルロース類であればよい。例えば、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。可溶性を向上する観点から、可溶性樹脂はポリビニルアルコールからなっていてもよく、セルロース類からなっていてもよく、ポリアクリル酸からなっていてもよく、でんぷんからなっていてもよい。可溶性樹脂はポリビニルアルコール、セルロース類、ポリアクリル酸、及びでんぷんから選択される少なくとも1種からなっていてもよい。
可溶性樹脂層40の厚さは特に限定されないが、金型による凹凸形状の転写を良好に実施し、かつ、凹凸形状の厚みのばらつきを抑制する観点から、0.5μm以上10μm以下としてよい。極性溶媒により容易に除去する観点から、可溶性樹脂層40の厚さは5mm以下としてよく、3mm以下としてよい。
このように、従来の製造方法で用いられるシート状の複合材料130は、その表面に可溶性樹脂層を有していない。そのため、加熱成形されると導電性粒子110が複合材料130の表面側に移動するが、バインダー樹脂120が表面に残り、導電性粒子110が表面に露出できない。従って、従来の製造方法では、導電性を確保するために、凸部161表面に対しブラスト処理を実施し、導電性粒子110を露出させている。しかしながら、このようなブラスト処理では、凸部161が主に削られ、凹部162及び縦壁163(特に縦壁163)はほとんど削られず、その表面はバインダー樹脂120で覆われることになる。そうすると、流路の排水性が低くなる。流路の排水性が低いと、フラッディングなどの問題が生じる。特許文献1では、このような排水性の問題を解決するために、凹部162及び縦壁163に対して親水性樹脂を塗布している。