(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030858
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】椎弓根スクリュー
(51)【国際特許分類】
A61B 17/70 20060101AFI20240229BHJP
A61B 17/86 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
A61B17/70
A61B17/86
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134050
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】522339352
【氏名又は名称】シンフォニーメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135781
【弁理士】
【氏名又は名称】西原 広徳
(74)【代理人】
【識別番号】100217227
【弁理士】
【氏名又は名称】野呂 亮仁
(72)【発明者】
【氏名】植田 朋和
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL24
4C160LL42
4C160LL56
4C160LL58
4C160LL63
4C160LL65
(57)【要約】
【課題】脊椎固定術において、椎弓根スクリューを骨に確実に固定することができる。
【解決手段】脊椎固定術に用いられる椎弓根スクリュー1であって、ねじ山が形成された棒状の軸部12と、軸部12の基端12aに接続された頭部11を有し、軸部12は、基端12a側に設けられねじ山13のピッチが所定の大きさである第1ねじ部14Aと、先端12b側に設けられ第1ねじ部14Aよりもねじ山のピッチが大きい第2ねじ部14Bを有し、軸部12の表面は、粗面化処理されていない低摩擦面16と、粗面化処理されて摩擦係数が大きい高摩擦面15とを有しており、第1ねじ部14Aの少なくとも一部の表面が低摩擦面16であり、第2ねじ部14Bの少なくとも一部の表面が高摩擦面15である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊椎固定術に用いられる椎弓根スクリューであって、
ねじ山が形成された棒状の軸部と、前記軸部の基端に接続された頭部を有し、
前記軸部は、基端側に設けられ前記ねじ山のピッチが所定の大きさである第1ねじ部と、先端側に設けられ前記第1ねじ部よりも前記ねじ山のピッチが大きい第2ねじ部を有し、
前記軸部の表面は、粗面化処理されていない低摩擦面と、前記粗面化処理されて摩擦係数が大きい高摩擦面とを有し、
前記第1ねじ部の少なくとも一部の表面が前記低摩擦面であり、
前記第2ねじ部の少なくとも一部の表面が前記高摩擦面である
椎弓根スクリュー。
【請求項2】
少なくとも前記第2ねじ部の全部の表面が前記高摩擦面である
請求項1記載の椎弓根スクリュー。
【請求項3】
前記軸部の長手方向において、前記第2ねじ部は前記軸部の先端を含み前記軸部の半分以上を構成し、当該半分以上を構成する前記第2ねじ部の全部の表面が前記高摩擦面である
請求項2記載の椎弓根スクリュー。
【請求項4】
前記第1ねじ部は、大部分が椎骨の表面の皮質骨に固定される部位となる長さであり、
前記第2ねじ部は、大部分が椎骨の内部の海綿骨に固定される部分となる長さであり、当該第2ねじ部の全部の表面が前記高摩擦面である
請求項3記載の椎弓根スクリュー。
【請求項5】
前記軸部の基端を含む前記第1ねじ部の少なくとも一部の表面が前記低摩擦面である
請求項4記載の椎弓根スクリュー。
【請求項6】
前記粗面化処理は、サンドブラスト処理により行われている
請求項1から5のいずれか1つに記載の椎弓根スクリュー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、脊椎固定術用のインプラントデバイスとしての椎弓根スクリューに関する。
【背景技術】
【0002】
脊椎疾患の治療の1つとして脊椎固定術がある。この脊椎固定術で骨の固定器具としての役割を担う脊椎固定術用のインプラントデバイスは、従来から様々なものが提案されている。
【0003】
たとえば、脊椎固定術用のインプラントデバイスの一例としての椎弓根スクリューが特許文献1に開示されている。この椎弓根スクリューは、所定の締め付けトルクで椎骨(椎弓根)に固定される骨留め具(骨ねじ)と、骨ねじの基部に連結されるハウジングとを有している(特許文献1参照)。この椎弓根スクリューを複数の椎骨に固定し、複数の椎弓根スクリューをロッド(長尺部材)で固定することによって複数の椎骨の位置を矯正し、所望の椎弓を形成することができる。椎弓根スクリューを用いた脊椎固定術においては、骨ねじが椎弓根に確実に固定されることが重要である。
【0004】
しかしながら、骨ねじの先端部分は網目状で柔らかい海綿骨まで到達するが、特に骨粗鬆症やリウマチの患者等、骨密度が低下している患者に対し椎弓根スクリューを固定する際に、海綿骨の中で骨ねじに緩みが生じることがある。すなわち、従来技術では椎弓根スクリューを骨に確実に固定できないことがある。椎弓根スクリューを骨に確実に固定できないと、脊椎固定術の効果が得られないばかりか、場合によっては再手術が必要になるなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、上述の問題に鑑みて、脊椎固定術用のインプラントデバイスとしての椎弓根スクリューにおいて、椎骨に確実に固定することができる椎弓根スクリューを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、脊椎固定術に用いられる椎弓根スクリューであって、ねじ山が形成された棒状の軸部と、前記軸部の基端に接続された頭部を有し、前記軸部は、基端側に設けられ前記ねじ山のピッチが所定の大きさである第1ねじ部と、先端側に設けられ前記第1ねじ部よりも前記ねじ山のピッチが大きい第2ねじ部を有し、前記軸部の表面は、粗面化処理されていない低摩擦面と、前記粗面化処理されて摩擦係数が大きい高摩擦面とを有し、前記第1ねじ部の少なくとも一部の表面が低摩擦面であり、前記第2ねじ部の少なくとも一部の表面が高摩擦面である弓根スクリューであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明により、椎骨に確実に固定することができる椎弓根スクリューを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】脊椎固定術用インプラントデバイスの側面図。
【
図3】椎弓に固定された状態の椎弓根スクリューを示す説明図。
【
図4】変形例の椎弓根スクリューの構成を示す説明図。
【
図5】変形例の椎弓根スクリューの構成を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面と共に説明する。
【0011】
図1は、脊椎疾患の治療行為として行われる外科手術用(たとえば脊椎固定術用)インプラントデバイス1の正面図である。
図2は脊椎固定術用インプラントデバイス1に含まれる椎弓根スクリュー10の構成を示す説明図である。
【0012】
図1に示すように、脊椎固定術用インプラントデバイス1は、椎弓(腰椎または胸椎)を構成する椎骨に固定される椎弓根スクリュー10と、椎弓根スクリュー10の頭部11に連結されるハウジング2を有している。
【0013】
ハウジング2は、椎弓根スクリュー10との連結部分の反対側の端部(一方端)が開放されており、細長い棒状のロッド(長尺部材)3を受け入れ可能であって、かつ、ロッド3を挟み込むことができるような形状(たとえばU字状)に形成されている。また、ハウジング2は、一方端側から挿入または嵌入されるキャップ(固定部材)4を保持可能であり、ロッド3を挟み込んだ状態でキャップ4を保持することによって、ハウジング2とロッド3を機械的に連結(固定)することができる。このようにして、脊椎固定術用インプラントデバイス1をロッド3で連結し、複数の椎骨の位置を矯正するための脊椎固定具(脊椎固定器具)としての役割を担う椎弓根スクリューアッセンブリを形成することができる。
【0014】
脊椎固定術用インプラントデバイス1を構成する各部材である、椎弓根スクリュー10、ハウジング2、ロッド3およびキャップ4は、いずれもチタン合金Ti-6Al-4V ELI(以下、単に「チタン合金」という。)で形成されている。チタン合金は、錆や経年劣化に強く、人体における金属アレルギー性も低い、生体適合性の高い金属である。弓根スクリュー10、ハウジング2、ロッド3およびキャップ4をチタン合金とすることによって、これらの部材が患者の骨と一体化し強度および長期安全性を確保することができる。
【0015】
なお、椎弓根スクリュー10、ハウジング2、ロッド3およびキャップ4の素材は、上記チタン合金に限らず、人間の骨よりも硬度を有し、かつ、人体に適合できる適宜の素材とすることができる。
【0016】
図1および
図2に示すように、椎弓根スクリュー10は、全体として棒状ないし柱状をなしている。椎弓根スクリュー10は、ねじ山13が形成された棒状ないし柱状の軸部12と、軸部12の基端12a側に設けられた頭部11と、軸部12および頭部11を接続する接続部17を有している。軸部12は、中心軸線CLに沿って延び、基端12aから先端12bに向かってほぼ全体が外径一定の略円柱形状に形成されている。ただし、軸部12の先端12bを含む先端部分(軸部12の先端12b側の10~20%程度)は、先端12bに向かって徐々に縮径する略円錐形状(先細り形状)に形成されている。
【0017】
接続部17は、軸部12および頭部11よりも外径が小さく形成されている。すなわち、椎弓根スクリュー10は、軸部12および頭部11の間の接続部17において縮径するくびれ形状となっている。
【0018】
頭部11は、ハウジング2に着脱可能な形状に形成されている。本実施形態では、頭部11は、中心軸線CLを中心に略球状に形成されている。ハウジング2に装着した際に確実に固定(ハウジング2からの脱落防止)できるように、表面に粗面加工が施されているか、あるいは表面に中心軸線CLに直交する向きに延びる複数の細かい溝が形成されていてもよい。このように頭部11の外周面(少なくとも中心軸線CLに対して直交する最大径部分から所定範囲)が球状であることにより、ロッド3を固定するためのハウジング2が自由な向きに回転できる。これにより、棒状のロッド3の一部の外周を囲むように固定されるハウジング2は、方向や角度の微妙な調整作業を必要とせずにロッド3にストレスなく固定され、かつ、椎弓根スクリュー10に対しても向きや角度の調整作業を必要とせずにストレスなく連結することができる。
【0019】
椎弓根スクリュー10(軸部12)の長手方向(軸線方向)の長さの下限は、30mm以上とすることができ、40mm以上とすることが好ましく、50mm以上とすることがより好ましい。椎弓根スクリュー10(軸部12)の長手方向(軸線方向)の長さの上限は、70mm以下とすることができ、65mm以下とすることが好ましく、60mm以下とすることがより好ましい。
【0020】
ねじ山13は、中心軸線CLを中心として、螺旋状に軸部12の外表面に形成されている。ねじ山13は、基端12aから先端12bに至るまで軸部12の外表面の略全体に形成されている。
【0021】
また、ねじ山13は、中心軸線CLを中心として位相が異なる複数のねじ山13を有している。複数のねじ山13は、中心軸線CLと平行方向において互いに所定の間隔(ピッチ)を隔てて形成される。各ねじ山13の間にはねじ溝が形成されている。各ねじ山13の高さ(ねじ山13の頂点からねじ溝の底面までの径方向の距離)は略一定である。すなわち、ねじ山13が形成された軸部12の呼び径(外径)と谷径(内径)の差は略一定である。
【0022】
ねじ山13のピッチは、基端12aから先端12bに向かう途中で変化する可変ピッチ構造となっている。具体的には、椎弓根スクリュー10(軸部12)は、ねじ山13のピッチが比較的狭い(小さい)第1ねじ部14Aと、第1ねじ部14Aよりもねじ山13のピッチが広い(大きい)第2ねじ部14Bを有している。本実施形態では、第1ねじ部14Aおよび第2ねじ部14Bのそれぞれは多条ねじであり、第1ねじ部14Aは四条ねじとなっており、第2ねじ部14Bは二条ねじとなっている。
【0023】
第1ねじ部14Aは、基端12a側に設けられ、第2ねじ部14Bは、第1ねじ部14Aよりも先端12b側に設けられる。すなわち、ねじ山13のピッチは、基端12a側が小さく、先端12b側が大きくなっている。
【0024】
第1ねじ部14Aの長手方向(軸線方向)の長さは、軸部12の全体の長さに対して25~45%である。第2ねじ部14Bの長手方向(軸線方向)の長さは、軸部12の全体の長さに対して55~75%である。すなわち、第1ねじ部14Aは、基端12aから、基端12aおよび先端12bの中間点よりも基端12a側の所定の位置まで延びる。また、第2ねじ部14Bは基端12aおよび先端12bの中間点よりも基端12a側の所定の位置(第1ねじ部14Aの先端)から先端12bまで延びる。第2ねじ部14Bは先端12bを含み軸部12の半分以上を構成する。
【0025】
第2ねじ部14Bのねじ山13のピッチは、第1ねじ部14Aのねじ山13のピッチの1.5~2倍の大きさである。たとえば、第2ねじ部14Bのねじ山13のピッチは、3mmとすることができる。また、第1ねじ部14Aのねじ山13のピッチは、1.5mmとすることができる。
【0026】
また、
図2に示すように、軸部12の表面は、粗面化処理されていない低摩擦面16と、粗面化処理されて摩擦係数が大きい高摩擦面15とを有している。たとえば、粗面化処理は、サンドブラスト処理により行われており、高摩擦面15の表面には微細な凹凸が形成されている。高摩擦面15は、微細な凹凸により表面積が大きくなっている。
【0027】
低摩擦面16は、少なくとも高摩擦面15よりも摩擦係数が小さい面であれば特に表面処理が施されていなくても良いし、粗面化処理以外の何らかの表面処理が施されていてもよい。
【0028】
たとえば、低摩擦面16を構成する部分には酸化被膜が形成されていてもよい。この場合、低摩擦面16は、酸化被膜の外表面で形成されていてもよい。低摩擦面16を構成する酸化被膜は陽極酸化処理によって形成することができ、任意の色に着色することもできる。したがって、軸部12の長さ違い、ねじ山13のピッチ違い、または高摩擦面15の摩擦係数(表面粗さ)違い等、椎弓根スクリュー10にバリエーションがある場合には、バリエーション毎に酸化被膜の色を変えることによって、管理を容易にすることができる。
【0029】
そして、本発明の椎弓根スクリュー10は、第1ねじ部14Aの少なくとも一部の表面が低摩擦面16となっており、第2ねじ部14Bの少なくとも一部の表面が高摩擦面15となっている。
【0030】
本実施形態では、第2ねじ部14Bの全部の表面が高摩擦面15であり、さらに、第1ねじ部14Aの先端12b側の一部(第2ねじ部14Bと接続する部分からねじ山13が1山程度の部分)も高摩擦面15となっている。第1ねじ部14Aの先端12b側の一部を除く部分、すなわち、第1ねじ部14Aの基端12a側の一部(少なくとも軸部12の基端12aを含む)は低摩擦面16となっている。
【0031】
本発明の椎弓根スクリュー10を製造する方法の一例を説明する。まず、チタン合金等で形成された柱状、線状ないし棒状の部材に対し切削加工により、頭部11、接続部17および軸部12(ねじ山13を含む)を形成する(切削工程)。なお、切削加工工程に代えて、ヘッダー(圧造)加工および転造(塑性工程)により頭部11、接続部17および軸部12(ねじ山13を含む)を形成してもよい。次に、陽極酸化処理により、椎弓根スクリュー10の外表面に任意の色の酸化被膜を形成する(酸化被膜形成工程)。続いて、椎弓根スクリュー10のうち、高摩擦面15となる部分以外の部分(頭部11、接続部17および軸部12のうち低摩擦面16となる部分)を所定の部材でマスキング(被覆)した状態で、露出した部分(高摩擦面15となる部分)にサンドブラスト処理を施すことによって、高摩擦面15となる部分の酸化被膜を除去し、高摩擦面15となる部分に微細な凹凸を形成する(粗面工程)。なお、上記の製造方法は一例であり、必要に応じて種々の処理を追加することもできる。また、酸化被膜形成工程は省略しても良い。
【0032】
図3は椎弓(椎骨)に固定された椎弓根スクリュー10の状態を示す説明図である。
図3に示すように、椎骨は、表面の皮質骨と、内部の海綿骨とで構成されている。皮質骨は、骨の表面を構成し、骨密度が高く、硬くて緻密な部分である。海綿骨は、骨の内部にある網目状の部分であり、骨密度が低く、皮質骨よりも柔らかい部分である。
【0033】
椎弓根スクリュー10は、椎弓(椎骨)に対しねじ山13に沿って回転しながら挿入される(ねじ込まれる)ことによって固定される。椎弓(椎骨)に固定された椎弓根スクリュー10の軸部12のうち、第1ねじ部14Aは主に皮質骨に固定され、第2ねじ部14Bは主に海綿骨に固定される。すなわち、椎弓根スクリュー10が椎弓に固定された状態では、基端12a側の第1ねじ部14Aは皮質骨がある部分に位置し、先端12b側に位置する第2ねじ部14Bは海綿骨がある部分に位置(到達)する。
【0034】
具体的には、第1ねじ部14Aの大部分(長手方向の全長のうち70~80%以上)は皮質骨がある部分に位置し、第2ねじ部14Bの大部分(長手方向の全長のうち70~80%以上)は海綿骨がある部分に位置する。
【0035】
ここで、海綿骨に固定される第2ねじ部14Bは、ねじ山13のピッチが大きいため、海綿骨の網目状の組織を破壊しにくく、かつ、海綿骨の組織に食い込みやすくなっている。また、皮質骨に固定される第1ねじ部14Aはねじ山13のピッチが小さいため、硬い皮質骨にしっかり固定することができる。
【0036】
また、軸部12のうち低摩擦面16の大部分(長手方向の70~80%以上)は皮質骨がある部分に位置し、軸部12のうち高摩擦面15の大部分(長手方向の70~80%以上)は海綿骨がある部分に位置する。
【0037】
このように、網目状で柔らかい海綿骨に対し、摩擦係数が高く、かつ、表面積が大きい高摩擦面15が接触することによって、軸部12がより海綿骨の組織に食い込みやすくなっている。したがって、椎弓根スクリュー10(軸部12)を骨に確実に固定することができ、椎弓根スクリュー10(軸部12)が海綿骨の中で緩みが生じることを防止できる。脊椎固定術を必要とするような患者の場合、骨粗鬆症やリウマチの患者であることが多く、特に海綿骨の骨密度が低下していることが多い。本発明の椎弓根スクリュー10は、海綿骨に対する固定強度および緩みの防止に長けているため、海綿骨の骨密度が低下している患者に対して特に有効である。
【0038】
また、硬い皮質骨に対し低摩擦面16が接触することによって、椎弓根スクリュー10を椎骨に挿入する際のトルクが過大になることを防止できる。すなわち、脊椎固定術における作業性(施術容易性)の向上を図ることができる。
【0039】
以上の構成により、本発明によれば、脊椎固定術において、椎骨に確実に固定することができ、かつ、椎骨の中で緩みが生じることを防止できる椎弓根スクリュー10を提供することができる。また、椎弓根スクリュー10としての固定強度の確保と施術容易性の向上という相反する課題を解決することができる。
【0040】
そして、脊椎疾患の治療として、脊椎固定術を実施し、本発明の椎弓根スクリュー10を有する脊椎固定術用インプラントデバイス1を用いて脊椎固定具(脊椎固定器具)としての役割を担う椎弓根スクリューアッセンブリを形成することによって、複数の椎骨の位置を矯正し、椎骨と椎骨との間隔を良好に維持することができる。
【0041】
詳述すると、2つ以上の椎骨に椎弓根スクリュー10が固定され、各椎弓根スクリュー10の頭部11にそれぞれ連結されたハウジング2に1本のロッド3が連通して固定される。これにより、脊椎の2つ以上の椎骨を連結して固定でき、胸椎、腰椎、および胸椎から腰椎への移行部を矯正することができる。
【0042】
この発明の椎弓根スクリューは上記実施形態の椎弓根スクリュー10に対応し、以下同様に、ねじ山はねじ山13に対応し、軸部は軸部12に対応し、頭部は頭部11に対応し、第1ねじ部は第1ねじ部14Aに対応し、第2ねじ部は第2ねじ部14Bに対応し、低摩擦面は低摩擦面16に対応し、高摩擦面は高摩擦面15に対応するが、この発明は本実施形態に限られず他の様々な実施形態とすることができる。また、上述の実施形態で挙げた具体的な構成等は一例であり、実際の製品に応じて適宜変更することが可能である。
【0043】
たとえば、
図4に示すように、第1ねじ部14Aの全部が低摩擦面16となっており、第2ねじ部14Bの基端12a側の一部(第1ねじ部14Aと接続する部分からねじ山13が1~2山程度の部分)も低摩擦面16となっていてもよい。
図4に示す例では、第2ねじ部14Bの先端12b側の一部(上記基端12a側の一部を除いた部分)は、高摩擦面15となっている。この場合、第2ねじ部14Bにおいて高摩擦面15となっている部分の面積は、低摩擦面16となっている部分の面積よりも広く、少なくとも低摩擦面16となっている部分の面積の2倍以上の広さとなっている。このようにすれば、椎弓根スクリュー10としての固定強度の確保しつつ、椎弓根スクリュー10を椎骨に挿入する際(特に締め終わり間際)のトルクをより低減することができ、脊椎固定術における作業性の向上を図ることができる。
【0044】
また、
図5に示すように、さらに、第1ねじ部14Aの全部が低摩擦面16となっており、第2ねじ部14Bの基端12a側の一部(第1ねじ部14Aと接続する部分からねじ山13が1~2山程度の部分)および第2ねじ部14Bの先端12b側の一部(先端12bからねじ山13が1~4山程度の部分)も低摩擦面16となっていてもよい。
図4に示す例では、第2ねじ部14Bにおける中間部分のみが高摩擦面15となっている。この場合、第2ねじ部14Bにおいて高摩擦面15となっている部分の面積(範囲)は、ねじ山13が3山以上含まれる程度の広さとなっている。このようにすれば、椎弓根スクリュー10としての固定強度の確保しつつ、椎弓根スクリュー10を椎骨に挿入する際(挿入開始直後および締め終わり間際)のトルクをより低減することができ、脊椎固定術における作業性の向上を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
この発明は、脊椎固定術用のインプラントデバイスとしての椎弓根スクリューを製造する産業に利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1…インプラントデバイス
2…ハウジング
10…椎弓根スクリュー
11…頭部
12…軸部
13…ねじ山
14A…第1ねじ部
14B…第2ねじ部
15…高摩擦面
16…低摩擦面