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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030885
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】鋼管杭及びハイブリッドパイル
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/30 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
E02D5/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134090
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】591223404
【氏名又は名称】株式会社トラバース
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 克彦
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA03
2D041BA31
2D041BA44
2D041DB02
(57)【要約】
【課題】特に加工コストが安く薄肉でありながら高い曲げ耐力を発揮可能な鋼管杭と、複合構造としての一体性が強く高い支持力性能を発揮可能なハイブリッドパイルを提供する。
【解決手段】本発明の鋼管杭10は、肉厚2.0mm未満の鋼管本体11と、鋼管本体11の外周に設けた複数の定着溝12と、を備え、定着溝12が、鋼管本体11の長手方向に沿った長手方向と、鋼管本体11の周方向に沿った幅方向と、を有する長尺の溝であって、定着溝12の溝底において、幅方向に曲折した2つの面に挟まれ、長手方向に延在する谷線12aを形成したことを特徴とする。本発明のハイブリッドパイル1は、地盤面から地中にわたって形成した略円柱状の改良体20と、改良体20内の中心部に配置した鋼管杭10と、を備えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉厚2.0mm未満の鋼管本体と、
前記鋼管本体の外周に設けた複数の定着溝と、を備え、
前記定着溝が、前記鋼管本体の長手方向に沿った長手方向と、前記鋼管本体の周方向に沿った幅方向と、を有する長尺の溝であって、
前記定着溝の溝底において、前記幅方向に曲折した2つの面に挟まれ、前記長手方向に延在する谷線を形成したことを特徴とする、
鋼管杭。
【請求項2】
前記複数の定着溝を、前記鋼管本体の周方向に沿って等間隔に配置して1列の定着溝群を構成し、前記定着溝群を前記鋼管本体の長手方向に複数配列したことを特徴とする、請求項1に記載の鋼管杭。
【請求項3】
前記鋼管本体の長手方向に隣り合う複数の前記定着溝群において、一の前記定着溝群の前記複数の定着溝の前記鋼管本体の周方向における位置が、他の前記定着溝群の前記複数の定着溝の前記鋼管本体の周方向における位置と異なることを特徴とする、請求項2に記載の鋼管杭。
【請求項4】
前記鋼管本体の長手方向に隣り合う複数の前記定着溝群において、一の前記定着溝群の定着溝の一部が、他の前記定着溝群の定着溝の一部と、前記鋼管本体の周方向において隣り合うことを特徴とする、請求項3に記載の鋼管杭。
【請求項5】
前記鋼管本体の少なくとも一端において、前記定着溝の溝底が端面に表れることを特徴とする、請求項3に記載の鋼管杭。
【請求項6】
地盤面から地中にわたって形成した略円柱状の改良体と、
前記改良体内の中心部に配置した請求項1乃至5のいずれかに記載の鋼管杭と、を備えることを特徴とする、
ハイブリッドパイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管杭及びハイブリッドパイルに関し、特に加工コストが安く薄肉でありながら高い曲げ耐力を発揮可能な鋼管杭と、複合構造としての一体性が強く高い支持力性能を発揮可能なハイブリッドパイルに関する。
【背景技術】
【0002】
支持力が十分でない地盤上に建物を建築する場合、建物の下方の地盤を杭状に補強して支持する杭状地盤補強工法が用いられる。
杭状地盤補強工法では、地中に構築した円柱状のソイルセメント改良体の中心に芯材を挿入してなるハイブリッドパイル(複合杭)が知られている。
ハイブリッドパイルの芯材として、特許文献1には、外周に所定の間隔で筒金具を付設した節付き鋼管杭が開示されている。特許文献2には、外周に複数の窪みを設けた鋼管杭が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-172850号公報
【特許文献2】特開2015-148246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術には以下のような問題点がある。
<1>特許文献1の鋼管杭は、鋼管杭の外周に筒金具を溶接する必要があるため、加工に手間がかかり製造コストが嵩む。また、ハイブリッドパイルが水平力を受けた場合、ソイルセメント改良体内における筒金具の角部に応力が集中して、ソイルセメント改良体内に亀裂が生じるおそれがある。
<2>特許文献2の鋼管杭は、製造工程において鋼管杭を鋼管整形ローラで挟み込んで押圧することで窪みを設ける。しかし、鋼管杭の肉厚が厚い上、筒状体をローラで挟み込む方法であるため、窪みは浅く緩やかで、ソイルセメント改良体との付着効果が小さい。
<3>いずれも鋼管杭のソイルセメント改良体に対する付着力が十分でないため、鋼管杭とソイルセメント改良体とが別個に機能し、複合構造として期待される支持力性能を十分に発揮することができない。
【0005】
本発明の目的は、以上のような問題点を解決できる、鋼管杭及びハイブリッドパイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の鋼管杭は、肉厚2.0mm未満の鋼管本体と、鋼管本体の外周に設けた複数の定着溝と、を備え、定着溝が、鋼管本体の長手方向に沿った長手方向と、鋼管本体の周方向に沿った幅方向と、を有する長尺の溝であって、定着溝の溝底において、幅方向に曲折した2つの面に挟まれ、長手方向に延在する谷線を形成したことを特徴とする。
【0007】
本発明の鋼管杭は、複数の定着溝を、鋼管本体の周方向に沿って等間隔に配置して1列の定着溝群を構成し、定着溝群を鋼管本体の長手方向に複数配列してもよい。
【0008】
本発明の鋼管杭は、鋼管本体の長手方向に隣り合う複数の定着溝群において、一の定着溝群の複数の定着溝の鋼管本体の周方向における位置が、他の定着溝群の複数の定着溝の鋼管本体の周方向における位置と異なっていてもよい。
【0009】
本発明の鋼管杭は、鋼管本体の長手方向に隣り合う複数の定着溝群において、一の定着溝群の定着溝の一部が、他の定着溝群の定着溝の一部と、鋼管本体の周方向において隣り合っていてもよい。
【0010】
本発明の鋼管杭は、鋼管本体の少なくとも一端において、定着溝の溝底が端面に表れていてもよい。
【0011】
本発明のハイブリッドパイルは、地盤面から地中にわたって形成した略円柱状の改良体と、改良体内の中心部に配置した鋼管杭と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のハイブリッドパイルは、以上の構成を備えるため、次の効果のうち少なくとも一つを備える。
<1>定着溝の溝底に設けた深い谷線によって、硬化した改良体が鋼管杭を外周から爪を立てたように把持するため、鋼管杭の改良体に対する付着力が非常に高い。このため、複合構造としての一体性が高く、高い支持力性能を発揮することができる。
<2>支持力が極めて高いため、例えばφ60.5mmをφ48.6mmにスケールダウンするなど、同一の支持力要求に対して従来技術より細径の鋼管杭を適用することができる。このため、従来に比べて施工コストを低減することができる。
【0013】
本発明の鋼管杭は、以上の構成を備えるため、次の効果のうち少なくとも一つを備える。
<1>長手方向に沿って深い谷線を有する複数の定着溝を成形してあるため、薄肉でありながら高い曲げ耐力を発揮することができる。
<2>肉厚が薄いため、鋼帯に定着溝をプレス加工し、これを管状に成形して鍛接して製造することができる(鍛接鋼管)。このため、成形済みの鋼管の表面にロール加工によって凹凸を設ける従来技術に比べて、加工コストが安い。
<3>鋼管杭の肉厚が薄いので、軽量で取り廻しやすい。
<4>施工機のチャック装置で定着溝の谷線を挟持することによって、確実に固定することができる。このため、薄肉でありながら地盤に直接回転貫入又は振動貫入することができる。
<5>継手部材を内面突起に係合させることで、2本の鋼管杭を管内から連結することができる。このため、継手部材が鋼管杭の外側に突出しないため、鋼管杭の取り回しが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のハイブリッドパイルの説明図
図2】鋼管杭の説明図
図3】定着溝の配置の説明図
図4】鋼管杭の継手構造の説明図
図5】実施例2の断面図
図6】実施例3の説明図
図7】実施例3の説明図
図8】実施例3の説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の鋼管杭及びハイブリッドパイルについて詳細に説明する。
【実施例0016】
[ハイブリッドパイル]
<1>全体の構成(図1
ハイブリッドパイル1は、建物の基礎下に設置する複合構造の杭である。
ハイブリッドパイル1は、地盤面から地中にわたって形成した円柱状の改良体20と、改良体20内の中心部に配置した鋼管杭10と、を少なくとも備える。
本発明のハイブリッドパイル1は、谷線12aを備える複数の定着溝12によって、鋼管杭10と改良体20を一体化し、複合構造としての高い支持力を発揮可能な点に一つの特徴を有する。
【0017】
<2>鋼管杭(図2
鋼管杭10は、主としてハイブリッドパイル1における、曲げ耐力、せん断耐力、及び引張耐力を発揮する部材である。
鋼管杭10は、肉厚2.0mm未満の鋼管本体11と、鋼管本体11の外周に設けた複数の定着溝12と、を少なくとも備える。
定着溝12は、鋼管本体11の鋼帯をプレス可能して形成するため、鋼管本体11における定着溝12の内側には、内面突起13が形成される。
本例では鋼管本体11として、外径φ48.6mm、長さ4,000mm、肉厚1.8mmの鍛接鋼管を採用する。鋼管本体11の外径や長さに制限はないが、外径は概ねφ318.5mm以下であることが望ましい。
【0018】
<2.1>定着溝(図2
定着溝12は、鋼管本体11と改良体20との付着力を高めるための溝である。
定着溝12は、鋼管本体11の長手方向に沿った長手方向と、鋼管本体11の周方向に沿った幅方向と、を有する長尺状を呈する。
定着溝12の溝底には、幅方向に曲折した2つの面に挟まれ、長手方向に延在する谷線12aを形成する。
従来技術の鋼管杭は、肉厚が厚い鋼管にロール加工によって窪みを形成していたため、窪みの底に明確な谷線を形成することができなかった。
これに対し本発明は、鋼管本体11の肉厚を2.0mm未満と極めて薄く設計することで、鋼管本体11の表面を内側に急角度に折り曲げて、定着溝12の溝底に深い線状の谷線12aを形成することができる。
これによって鋼管杭10と改良体20との付着力を強化し、複合構造として高い支持力を発揮可能なハイブリッドパイル1を構築することが可能となる。
【0019】
<2.1.1>定着溝の配置(図3
定着溝12は、鋼管本体11の外周に任意の配置で設けることができる。
本例では、鋼管本体11の外周面に複数の定着溝12を、いわゆる千鳥状に配置する。
詳細には、鋼管本体11の長手方向の同一高さにおいて、周方向に等間隔で複数の定着溝12を設けて定着溝群12’を構成する。本例では、各180°2つの定着溝12によって1つの定着溝群12’を構成する。
鋼管本体11の上下(長手方向)に隣り合う定着溝群12’において、片方の定着溝群12’定着溝12の位置が、他方の定着溝群12’の定着溝12の位置と90°ずれる。
定着溝12を鋼管本体11の外周に千鳥状に配置することで、鋼管本体11の周方向における定着溝12間の間隔が通常配列の1/2となるため、定着溝12内の改良体20が、鋼管杭10をより多くの方向から取り囲んで保持することが可能となる。これによって、鋼管杭10と改良体20との一体性がさらに向上する。
【0020】
<2.2>内面突起(図3
内面突起13は、鋼管本体11の内側に突起する凸部である。
内面突起13は、鋼管本体11の長手方向に沿って延在する稜線を有する。
鋼管杭10の長さを延長する際、継手部材Jを鋼管本体11の内部に設置して内面突起13に係合させることで、2本の鋼管杭10を容易かつ確実に連結することができる(図4)。
これによって、鋼管杭10の連結構造において、継手部材Jが鋼管本体11の外側に突出しないため、鋼管杭10の取り扱いが容易になる。
【0021】
<3>改良体
改良体20は、主として地中における周面摩擦力と先端支持力を発揮する構造体である。
改良体20は、深層混合処理工法によって形成する。
本例では改良体20として、外径φ300mm、長さ4,700mmの略円柱形のソイルセメント改良体を採用する。
ソイルセメント改良体は、攪拌翼を備える施工機Aを用いて地盤面から地中にわたって構築する。詳細には、攪拌翼によって原地盤を回転掘削しつつ、地中にセメント系固化材を吐出し、これを掘削土と攪拌混合して構築する。
ソイルセメント改良体は、鋼管杭10と比較して外径が大きいため、周辺の土壌と広い表面積で接面して、高い周面摩擦力を発揮することができる。
【0022】
<4>鋼管杭と改良体の一体性
本発明のハイブリッドパイル1は、鋼管杭10と改良体20との高い一体性に一つの特徴を有する。
改良体20の中心に鋼管杭10を挿入すると、未硬化の改良体20が定着溝12の溝底に設けた深い谷線12aの中に侵入する。
挿入後、改良体20が硬化すると、定着溝12の谷線12aによって、改良体20の先端が鋼管杭10を外周から爪を立てたように把持する。
特に本例では、定着溝12を千鳥状に配置しているため、定着溝12内の改良体20が、多くの方向から取り囲んで把持する。このため、鋼管杭10と改良体20の付着力が非常に強く、ハイブリッドパイル1の一体性が高い。
本発明のハイブリッドパイル1は、以上の構造によって、鋼管杭10が曲げ、せん断、及び引張に対する高い水平耐力を、改良体20が高い周面摩擦力と先端支持力を、それぞれ分担しつつ、強固に一体化することで、複合構造として高い支持力性能を発揮することができる。
【実施例0023】
[ラップ部を設ける例]
本例では、鋼管本体11の上下に隣り合う定着溝群12’において、ラップ部Rを設ける(図5)。
本例では、鋼管本体11の長手方向の同一高さにおいて、各90°4つの定着溝12によって1つの定着溝群12’を構成し、これを千鳥配置している。
鋼管本体11の上下に隣り合う定着溝群12’において、下方(上方)の定着溝群12’の定着溝12の上部(下部)が、上方(下方)の定着溝群12’の定着溝12の下部(上部)と、鋼管本体11の周方向において一部ラップする。
本例では、定着溝群12’にラップ部Rを設けることで、鋼管本体11の長手方向に沿って定着溝12の延在しない部分がなくなる。これによって、鋼管本体11の構造強度を高め、薄肉でありながら高い曲げ耐力を発揮させることができる。
【実施例0024】
[鋼管杭単体で使用する例]
実施例1では、鋼管杭10を改良体20と組み合わせたハイブリッドパイル1として使用したが、これに限らず、鋼管杭10は単体で使用することもできる。
本例では、鋼管本体11の一端において、定着溝12の溝底が端面に表れた、係合端14を形成する。詳細には、係合端14は、鋼管本体11の一端を、定着溝12の延在する高さで切断することによって構成する。
施工機Aにおいて、ケーシングA1の内面に、係合端14の位置に対応した複数の係合突起A2を設ける。
鋼管杭10を、ケーシングA1内に挿入し、係合突起A2を係合端14の溝内に差し込むことで、鋼管杭10をケーシングA1内における周方向に拘束する(図6)。
これによって、施工機Aを使って、鋼管杭10を地中に回転貫入することができる(図7)。鋼管本体11の頭部に加え、鋼管本体11先端にも係合端14を設けた場合、係合端14が鋼管杭10のビット(歯)として機能することで、地中への貫入が容易になる。
本例の場合、例えば外径φ48.6mmの鋼管杭10を小口径鋼管杭工法に適用し、施工機Aを用い、設計上の建物基礎下方の地盤に複数の鋼管杭10を等間隔で貫入して、建物の荷重を地盤と鋼管杭10とで分散支持することができる(図8)。
【符号の説明】
【0025】
1 ハイブリッドパイル
10 鋼管杭
11 鋼管本体
12 定着溝
12’ 定着溝群
12a 谷線
13 内面突起
14 係合端
20 改良体
A 施工機
A1 ケーシング
A2 係合突起
J 継手部材
R ラップ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8