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特開2024-30913中高齢の対象の認知的柔軟性を高めるための組成物および組合せ
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  • 特開-中高齢の対象の認知的柔軟性を高めるための組成物および組合せ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030913
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】中高齢の対象の認知的柔軟性を高めるための組成物および組合せ
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/135 20160101AFI20240229BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 35/745 20150101ALI20240229BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240229BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
A23L33/135
A61K31/198
A61K35/745
A61P25/28
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134149
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】305018395
【氏名又は名称】協同乳業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【弁理士】
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】生田 かよ
(72)【発明者】
【氏名】松本 光晴
(72)【発明者】
【氏名】掛山 正心
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C087
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018ME14
4B117LC04
4B117LK21
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC59
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA15
4C087ZC52
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA53
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA15
4C206ZC52
(57)【要約】
【課題】本発明は、中高齢の対象の認知的柔軟性を高めるための組成物および組合せに関する。
【解決手段】本発明の組成物および組合せは、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物およびアルギニンを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物およびアルギニンを含む、中高齢の対象の認知的柔軟性を高めるための組成物。
【請求項2】
ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物が、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記認知的柔軟性を高めることが、繰り返される環境変化に対し、変化への対応を通して、変化への理解を高めることである請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記認知的柔軟性を高めることが、繰り返される環境変化に対し、変化への対応を通して、変化への理解を高めることである請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
高齢を対象とする、請求項1-4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
飲食品である、請求項1-4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
医薬品である、請求項1-4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
中高齢の対象の認知的柔軟性を高めるための、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物とアルギニンとの組合せ。
【請求項9】
ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物が、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)である、請求項8に記載の組合せ。
【請求項10】
前記認知的柔軟性を高めることが、繰り返される環境変化に対し、変化への対応を通して、変化への理解が高めることである請求項8に記載の組合せ。
【請求項11】
前記認知的柔軟性を高めることが、繰り返される環境変化に対し、変化への対応を通して、変化への理解が高めることである請求項9に記載の組合せ。
【請求項12】
高齢を対象とする、請求項8-11のいずれか1項に記載の組合せ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中高齢の対象の認知的柔軟性を高めるための組成物および中高齢の対象の認知的柔軟性を高めるための組合せに関する。
【背景技術】
【0002】
認知症の初期段階では、例えば、家族のこと(発症前の経験)は忘れないが、発症後に出会った人を覚え難くなる。これは記銘力の低下ではなく、脳内の「人物リスト」(即ち、体系化された記憶構造)に新しい情報をアップデートし、「人物リスト」を効率良く利用することが困難になったためである。この体系化された記憶構造に情報をアップデートし、それを利用する能力が「認知的柔軟性」である。このような認知的柔軟性は、従来の「単純な記憶」とは異なり、認知症の直前から急激に変化することが知られている。
【0003】
腸内細菌叢-腸-脳相関と情動行動および認知機能の関係は注目されており、マウスにおける抗生物質投与や西洋食飼育による腸内細菌叢の乱れが学習記憶の低下を惹起することが報告されている。ポリアミンは全細胞に普遍的に存在し細胞健全化に必須で、加齢に伴い脳を含む多くの組織で濃度が低下する。腸内ポリアミン濃度を高めるシンバイオティクス(ビフィズス菌とアルギニンの併用投与)は見出され、マウスへの長期投与により(14~20ヶ月齢)、寿命伸長効果と水迷路試験による学習記憶力の向上が報告されている(Sientific Reports 4:4548,2014|DOI:10.1038/srep04548)。
【0004】
本発明者らは、腸内ポリアミン産生誘導が若齢マウスの学習記憶に与える影響を調べた。報酬を学習の正の強化因子とするタッチパネルオペラント装置を用いて、若齢マウス(2~5ヶ月齢)への上記シンバイオティクス投与による学習記憶力および海馬学習記憶関連遺伝子への影響を検討した。具体的には、タッチパネルには略台形型に4つのスポット(丸穴)を配置し、その内の1つを正解とし、正解スポットをマウスが選択(ノーズポーク)することで報酬を与えた。対角に位置するスポットを交互に選択することで報酬が得られるルールを習得する原学習を行い、次に正解対角を反転させる逆転学習を10日間毎に反復し、変化(新しい正解対角)への適応力(認知的柔軟性)を評価した。結果、シンバイオティクス投与群も投与しない対照群のいずれも共に反復逆転課題を習得し逆転場面での認知的柔軟性を示した。シンバイオティクス投与群は対照群と比較し、逆転学習において原学習と同じ正解スポットとなる場合の成績が高く、反復毎にルール(対角線の交互選択)の習得度が上昇する傾向もみられた(日本栄養食糧学会(2020年)要旨)。
【0005】
逆転学習において原学習と同じ正解スポットとなる場合の成績が高い、ということは、原学習の正解に固執していることを示し、十分な認知的柔軟性が得られたとは言い難い状態である。
【0006】
また、Cerebral Cortex, 31: 5263-5274、2021は、生涯にわたる認知柔軟性の基礎となるヒト脳部位のネットワーク動態について記載している。当該文献は考察において、若齢者と高齢者の認知的柔軟性が低いのは、若齢層では脳の未発達に起因するもので、高齢者のそれとは異なる、即ち、脳神経科学的には別物と解することができるという趣旨の記載をしている。上記実験で使用したのは、若齢マウスであり、中高齢の対象の認知的柔軟性を高めるのに有効な処置は見出されていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Sientific Reports 4:4548,2014|DOI:10.1038/srep04548
【非特許文献2】第74回 日本栄養食糧学会(2020年) 要旨 「腸内ポリアミン産生誘導が若齢マウスの学習記憶に与える影響」 生田かよ他
【非特許文献3】Cerebral Cortex, 31: 5263-5274,2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、高齢のマウスに、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物であるLKM512菌株とアルギニンを摂取させることにより、タッチスクリーンオペラント装置を用いた実験において、素早く柔軟に状況変化を理解し対応できること、すなわち認知的柔軟性を高めることを見出し、本発明を想到した。また、学習のための学びを積み重ね、その過去の蓄積から新しい課題を素早く解決する能力、ラーニングセットの形成が、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物とアルギニンとの組み合わせの摂取により誘導された。
【課題を解決するための手段】
【0009】
限定されるわけではないが、本発明は、以下の態様を含む。
[1]
ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物およびアルギニンを含む、中高齢の対象の認知的柔軟性を高めるための組成物。
[2]
ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物が、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)である、[1]に記載の組成物。
[3]
前記認知的柔軟性を高めることが、繰り返される環境変化に対し、変化への対応を通して、変化への理解を高めることである[1]に記載の組成物。
[4]
前記認知的柔軟性を高めることが、繰り返される環境変化に対し、変化への対応を通して、変化への理解を高めることである[2]に記載の組成物。
[5]
高齢を対象とする、[1]-[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[6]
飲食品である、[1]-[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[7]
医薬品である、[1]-[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[8]
中高齢の対象の認知的柔軟性を高めるための、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物とアルギニンとの組合せ。
[9]
ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物が、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)である、[8]に記載の組合せ。
[10]
前記認知的柔軟性を高めることが、繰り返される環境変化に対し、変化への対応を通して、変化への理解が高めることである[8]に記載の組合せ。
[11]
前記認知的柔軟性を高めることが、繰り返される環境変化に対し、変化への対応を通して、変化への理解が高めることである[9]に記載の組合せ。
[12]
高齢を対象とする、[8]-[11]のいずれか1項に記載の組合せ。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物により、中高齢の認知的柔軟性が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、逆転1から逆転5の逆転初日の最初の200選択の行動変容を解析した結果を示す。逆転前の正解対角移動(すなわち不正解行動)を灰色で、逆転後の正解対角移動(すなわち正解行動)を黒色で示す。データは平均値±標準誤差で示す。LKM512+Arg群では、コントロール群と比較して、逆転後の正解対角移動の立ち上がりが早く、逆転へ素早く対応していることが分かった。
図2図2は、逆転1から逆転5の逆転初日の最初の100選択の正解対角選択率を解析した結果を示す。最初の100選択を25選択ずつ4ブロックに分けた。「選択」とは、タッチスクリーン上のスポットをマウスが直接鼻でタッチする行動を示す。正解スポットでも不正解スポットでも1回タッチすれば1選択したことになる。データは平均値±標準誤差で示す。LKM512+Arg群では、コントロール群と比較して、逆転2以降より正解対角選択率が増加しており、より早期に正解対角を認識し、適応していることが分かった。
図3図3は、各逆転における逆転初日の最初の100選択の正解率を示す。LKM512+Arg群ではコントロール群と比較して、逆転2以降での正解率が常に高かった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本明細書において他に断りがない限り、本明細書で使用される技術および科学用語は、当業者が通常理解している意味と同じ意味を有する。本明細書に開示された物質、材料および例は単なる例示であり、制限することを意図していない。本明細書において「一態様において」と言及する場合は、その態様に限定されない、即ち、非限定的であることを意味する。
【0013】
1.組成物
一態様において、本発明は、中高齢の対象の認知的柔軟性を高めるための組成物に関する。非限定的に、当該組成物は、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物およびアルギニンを含む。
【0014】
「ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス」は、ビフィドバクテリウム・アニマリス種の亜種で、複数の菌株が知られている。非限定的に、LKM512株(登録商標)、GCL2505株(商標)、BE80株(登録商標)(DN-173 010)、HN019(登録商標)、BB-12株(登録商標)等が含まれる。
【0015】
一態様において、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物は、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)である。ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスLKM512株は、寄託番号FERM P-21998として2010年8月10日に独立行政法人 製品評価技術基盤機構 NITE特許微生物寄託センター(NITE-IPOD:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8;独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターより2012年4月に業務承継)に寄託されている。
【0016】
前記組成物は、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物に加えて、アルギニンを含む。
【0017】
非限定的に、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物とアルギニンは、中高齢の対象の認知的柔軟性を高めるために有効な量で摂取(本明細書において「摂取」には「投与」の意味も含む)されることが好ましい。例えば、1回用量あたり、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物は、1×10~1×1011cfu、好ましくは1×10~1×1011cfu、1×10~1×1010cfu、1×10~1×1011cfu、1×10~1×1010cfuである。ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物とアルギニンを組み合わせる場合のアルギニンの量は、1回用量あたり、10mg~1000mg、好ましくは10mg~800mg、50mg~800mg、200mg~800mg、50mg~600mg、200mg~600mgである。
【0018】
前記組成物の摂取回数、摂取期間、摂取頻度は特に限定されない。認知的柔軟性が向上した効果が確認できる回数、期間、摂取することが望ましい。より好ましくは、認知的柔軟性が向上した効果が持続的に確認できるまでの回数、期間、継続的に摂取することが望ましい。組成物の成分であるビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物、アルギニンはいずれも人体への安全性が確認されているものである。非限定的に、摂取回数は1回以上、2回以上、3回以上、5回以上、8回以上、10回以上、12回以上、15回以上、20回以上、25回以上、30回以上である。摂取回数の上限は特にない。一態様において摂取期間は、1日以上、2日以上、3日以上、5日以上、7日以上、10日以上、14日以上、20日以上、25日以上、30日以上、40日以上、50日以上、60日以上、2か月以上、3か月以上、4か月以上、6か月以上である。摂取期間の上限は特にない。一態様において、摂取期間は、1日~12か月、1日~6か月、1日~3か月、1日~2か月、1日~50日、1日~30日、1日~20日である。摂取頻度も特に限定されない。一態様において、1日3回、1日2回、1日1回、2日1回、3日1回、4日1回、5日に1回、1週間に1回、10日に1回、2週間に1回、1か月に1回である。一態様において、1週間に1回程度、あるいはそれ以上の頻度で摂取する。
【0019】
一態様において、認知的柔軟性の低下が実際に確認される前から、予防的に摂取を開始してもよい。例えば、ヒトにおいて一般に認知的柔軟性の低下が確認される40歳代頃から週3回又はそれ以上のペースで、好ましくは継続的に摂取する。
【0020】
前記組成物の摂取方法も特に限定されない。好ましくは、経口摂取である。
【0021】
前記組成物の対象は、認知的柔軟性が関与する動物であれば、特に限定されない。例えば、(高い知能を有する)愛玩動物、産業用動物等が含まれる。一態様において対象は、ヒトである。一態様において、非ヒト哺乳動物または鳥類を対象としていてもよい。非ヒト哺乳動物の例は、ヒト以外の霊長類(サル、チンパンジー、ゴリラ等)、イルカ、アシカ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、モルモット、ウサギ等が含まれる。鳥類の例は、インコ、文鳥等が含まれる。
【0022】
一態様において、前記組成物は中高齢を対象とする。「中高齢」は、一般に、認知的柔軟性が衰え始める前後の年齢であって、認知機能が衰え始める年齢(例えば、他者あるいは自身で以前より忘れっぽくなったと認識が出始める年齢)よりは若い年齢から該当する。「高齢」は、一般に認知機能の衰えが進行する年齢より上の年齢である。「中高齢」とは、例えば、対象となる動物の平均寿命のおよそ後半半分以上の年齢をいう。一態様において、前記組成物は、高齢を対象とする。「高齢」とは例えば、対象となる動物の平均寿命の後半1/3以上の年齢をいう。例えば、ヒトの場合、非限定的に、40歳以上、45歳以上、50歳以上、55歳以上、60歳以上を「中高齢」という。例えば、ヒトの場合、非限定的に、60歳以上、65歳以上、70歳以上、75歳以上を「高齢」という。例えば、マウス場合、非限定的に、6月齢以上、9月齢以上、10月齢以上、11月齢以上、12月齢以上、13月齢以上を「中高齢」という。例えば、マウスの場合、非限定的に、14月齢以上、18月齢以上、20月齢以上、25月齢以上、30月齢以上を「高齢」という。
【0023】
「認知的柔軟性」とは、認知機能の1つであり、外部からの情報等の刺激(目、耳や鼻等から入った情報)に対して考え方を柔軟に変える能力である。認知的柔軟性は、環境から情報を把握し、直面している種々の状況に合わせて戦略を選択し、動作変更、状況の要件の調整など、柔軟な対応をするのに必要な能力である。「認知的柔軟性」は、課題ルールのシフト(shifting)、課題や心的セット間の切り替え(shifting between tasks or mental sets)、セット転換(set shifting)とも呼ばれ、2つの異なる概念について思考を切り替えたり、同時に複数の概念について考えたり、複数の戦略や状況の変化を伴った複数のタスクの中から選択する能力である。
【0024】
前記組成物は、「中高齢の対象の認知的柔軟性を高めるため」ためのものである。認知的柔軟性は、一般に加齢とともに低下するものである。例えば、40歳代、50歳代、60歳代、70歳代の認知的柔軟性は、若齢(例えば20代、30代)の認知的柔軟性よりも低下しているといわれている。認知症を発症時には、認知的柔軟性が低下している。非特許文献3等にも記載されている通り、「中高齢」、「老齢」の認知的柔軟性の低さは、「若齢」の認知的柔軟性の低さとは脳神経科学的に要因が異なり、中高齢、老齢の認知的柔軟性を高める効果と、若齢の認知的柔軟性を高める効果は、生物学的または医学的に明確に区別されるものである。
【0025】
「認知的柔軟性を高める」とは、前記組成物を摂取しない場合と比較して、摂取した場合に認知的柔軟性が向上する、好ましくは2%以上向上する、5%以上向上する、10%以上向上する、15%以上向上する、20%以上向上する、30%以上向上する、50%以上向上することを意味する。
【0026】
一態様において、前記「認知的柔軟性を高めること」が、環境変化、特に繰り返される環境変化に対し、変化への対応を通して、変化への理解を高めることである。環境変化が繰り返される状況において、認知的柔軟性が高いほど、変化への理解が高く、環境変化に対しより柔軟に対応することが可能となる。「より柔軟に」とは、より適切に、および/または、より速く、という意味を含む。環境変化に対する柔軟性は、例えば、連続逆転課題における行動変容課題で評価することができる。例えば、連続逆転課題試験における不正解対角の選択数、正解対角の選択数、直前正解スポットの繰り返し選択数などを指標としてもよい。環境変化に対する柔軟性はまた、非限定的に、学習のための学びを積み重ね、その過去の蓄積から新しい課題を素早く解決する能力、ラーニングセットを形成する能力、である。
「認知的柔軟性」は、公知の方法によって調べることが可能である。例えば、ウィスコンシンソーティングテストが知られる。この課題は、あるルールに則り試験者より提示されるカードから被験者はルールを推測し、最適なカードを選択・提示する。その後、試験者より正否が伝えられ、被験者はそれを手がかりとしてルールを推測し、カード選択・提示を行う。被験者が任意の連続正答数に到達後、試験者が予告なくルールを変更し、ルール変更に対する応答を調べることで、被験者の認知的柔軟性を特徴づける、というものである。
【0027】
一態様として、「認知的柔軟性」の評価に、例えば、タッチスクリーンオペラント装置を用いることができる。タッチスクリーンオペラント装置とは、タッチパネルに複数のスポット(例えば、左右非対称に4つのスポット)を配置したものである。スポットの内1つの正解スポットを対象(例えば、マウス)が選択(例えば、鼻タッチ)する。正解スポットを選択した場合に、対象に報酬を与える。例えば、対角に位置するスポットを交互に選択することで報酬が得られるルールを習得する原学習を行い、次に正解対角を反転させる逆転学習を定められた回数のセッション毎に反復し、逆転への順応力(認知的柔軟性)を評価することができる。
【0028】
一態様において、前記組成物は、飲食品または医薬品であってもよい。前記組成物は、医薬品または食品(例えば、機能性食品、健康食品、サプリメントなど)として継続的な摂取が行いやすいように、例えば顆粒剤(ドライシロップを含む)、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、錠剤(チュアブル剤などを含む)、散剤(粉末剤)、丸剤などの各種の固形製剤、または内服用液剤(液剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)などの液状製剤などの形態で調製することができるが、特に限定されるものではない。ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物およびアルギニンは腸溶コーティングされていても、されていなくてもよい。
【0029】
腸溶コーティングは、当業者に公知のものを使用でき、特に限定されない。例えば、腸溶コーティングされた錠剤として、有用な成分を含む素錠の表面に、アンダーコート層と、大腸崩壊性基剤層と、第1の腸溶性基剤層と、第2の腸溶性基剤層とを、この順に被覆してなり、前記第1の腸溶性基剤層がゼインを含み、前記第2の腸溶性基剤層がシェラックを含む、大腸ドラッグデリバリーシステム錠剤を使用することができる。
【0030】
前記組成物は、必要に応じ、従来公知の着色剤、保存剤、香料、風味剤、コーティング剤などの成分を配合して調製することもできる。
【0031】
前記組成物が飲食品である場合、以下のような形態であってもよい。例えば、飲料、発酵食品、菓子類、パン類、スープ類等の各種食品若しくはその添加成分として;または、ドッグフード、キャットフードなどの各種ペットフード若しくはその添加成分として使用することができる。これらの食品の製造方法は、前記組成物の効果を損なわないものであれば特に限定されず、各用途で当業者に使用されている方法に従えばよい。前記組成物を適用できる食品は、例えば、対象が日常的に摂取する食品だけでなく、特定保健用食品、栄養機能食品、特別用途食品等の機能性食品にも適用できる。前記組成物が適用可能な飲食品の具体例としては、牛乳、ヨーグルト、発酵乳、乳酸菌飲料、チーズ、プリン、アイスクリーム、氷菓、清涼飲料水(フルーツジュース、緑茶、紅茶、烏龍茶、およびコーヒー等を含む)、サプリメント、および豆乳等が挙げられる。固形食品に前記組成物を加える場合には、例えば顆粒剤、および粉剤等の形態で加えることが好ましい。また、飲料、ペースト状食品に前記組成物を加える場合には、例えばマイクロカプセルの形態で加えることが好ましい。
【0032】
前記医薬品は、有効成分をそのまま用いてもよいし、薬学的に許容できる担体、賦形剤、添加剤等を加えて製剤化してもよい。剤形としては、例えば、液剤(例えば注射剤)、分散剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、粉末剤、坐剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤等が挙げられる。製剤化は、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解剤、溶解補助剤、着色剤、矯味矯臭剤、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤などを適宜使用し、常法により行うことができる。
【0033】
製剤化に用いられる成分の例としては、精製水、食塩水、リン酸緩衝液、デキストロース、グリセロール、エタノール等薬学的に許容される有機溶剤、動植物油、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ソルビトール、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、コーンスターチ、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ぺクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、トラガント、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、高級アルコール、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0034】
前記医薬品が丸剤または錠剤の場合、糖衣、胃溶性、腸溶性物質で被覆してもよい。
【0035】
例えば、液剤の形態にする場合は、ペクチン、キサンタンガム、グアガムなどの増粘剤を配合することができる。また、コーティング剤を用いてコーティング錠剤にすることも、ペースト状の膠剤とすることもできる。さらに、他の形態に調製する場合であっても、従来の方法に従えばよい。
【0036】
2.組合せ
一態様において、本発明は、中高齢の対象の認知的柔軟性を高めるための組合せ、に関する。非限定的に、当該組合せは、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物とアルギニンとの組合せである。
【0037】
一態様において、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物が、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)である。
【0038】
一態様において、前記認知的柔軟性を高めることが、繰り返される環境変化に対し、変化への対応を通して、変化への理解が高めることである。
【0039】
一態様において、前記組合せは、高齢を対象とする。
【0040】
前記組合せにおいて、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物とアルギニンとは、同時に摂取しても、逐次摂取してもよい。逐次摂取する場合に、摂取の順番は問わない。逐次摂取する場合には、非限定的に、双方を2時間以内、1時間以内、30分以内、20分以内、15分以内、10分以内、5分以内に摂取するのが好ましい。
【0041】
一態様において、前記組合せは、飲食品、または、医薬品である。1種類の飲食品または医薬品に、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物とアルギニンの双方が含まれていてもよいし、あるいは、2種類以上の飲食品または医薬品に、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物とアルギニンが別々に含まれていてもよい。
【0042】
上記各用語の説明は、「1.組成物」において説明した通りである。
【0043】
3.使用、方法等
本発明はまた、中高齢の対象の認知的柔軟性を高めるための方法であって、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物とアルギニンとを、対象に投与することを含む、方法に関する。
【0044】
本発明はまた、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物とアルギニンの、中高齢の対象の認知的柔軟性を高めるための方法への使用に関する。
【0045】
本発明はまた、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物とアルギニンの、中高齢の対象の認知的柔軟性を高めるための組成物の製造への使用に関する。
【0046】
本発明はまた、中高齢の対象の認知的柔軟性を高めるための方法へ使用される、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物とアルギニンの組合せに関する。
【0047】
上記各用語の説明は、「1.組成物」において説明した通りである。
【実施例0048】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0049】
実施例1 認知的柔軟性試験
本実施例において、認知的柔軟性試験を行った。
【0050】
(1)方法
雌性C57BL/6Jマウス(42週齢)を日本チャールスリバー株式会社(現在はジャクソンラボラトリー)より購入した。数日間の馴化後、体重測定結果から、2グループに分けた。1グループを、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)とアルギニンとの併用摂取(「LKM512+Arg摂取」)群とし、生理食塩水を摂取する別の1グループをコントロール群とした。LKM512+Arg群は、Arg水溶液(pH7.0)にMRS寒天培地(Becton,Dickinson and Company,USA)で48時間培養したLKM512をシャーレ1枚分のコロニー懸濁し、Argが0.3mg/g体重となるように、胃ゾンデにて強制経口投与した。コントロール群は、生理食塩水を同様に強制経口投与した。摂取は試験開始2か月前より週3回行った。
【0051】
認知的柔軟性試験は、タッチスクリーンオペラント装置(小原医科産業株式会社)を使用して実施した。装置は、タッチスクリーン、モニター、ペレットディスペンサー、給水装置、スピーカー、室内灯、カメラ、チャンバーで構成されている。タッチスクリーンには略台形の各頂点に穴を開けたカバーをし、その穴(スポット)をマウスが直接鼻でタッチすることで、「選択」が認識される。
【0052】
装置への馴化および選択行動の形成後、マウスは学習1を行う。学習1では、マウスは4つのスポットのうち、一つの対角線上にある2つのスポットを交互に選択することで報酬が得られることを学習した。試験が開始すると、全4スポットが光って提示され、マウスが正解スポットを選択すれば、ベル音が鳴るとともに報酬が1つペレットディスペンサーより給餌される。不正解である他の3つのスポットを選択すれば、スポットと照明が消え、再度選択画面が提示される。
【0053】
正解を選択し、報酬が与えられるまでを1試行とし、1日に150試行もしくは60分経過のどちらかを満たした場合にその日の試験の終了とした。学習1を10日間行い、マウスは「指定された対角スポットを交互に選択することで報酬が得られる」というルールを習得する。次に、学習2を10日間行った。学習2では、報酬が得られる対角が逆転し、学習1とは異なる対角線上の2つのスポットを交互に選択することで報酬が与えられる。その後、再び報酬が得られる対角が学習1での対角スポットに逆転し、その後も逆転を繰り返した。その逆転に対する初日の行動変容過程(正解選択数の増加スピード)を認知的柔軟性の指標として評価した。
【0054】
(2)結果
正解対角が変化した初日の最初の200選択を解析した(図1)。逆転2において逆転後の正解対角移動(正解行動)累積数(黒線)を比較したところ、200選択でコントロール群では約3であるのに対して、LKM512+Arg群では10を超えており、逆転後の正解対角移動累積数の立ち上がりが早かった。また逆転を繰り返すに従い、逆転後の正解対角移動累積数の立ち上がりが徐々に早くなり、逆転5ではコントロール群では150選択付近から急激な上昇が認められ、最終回数は20程度であったのに対して、LKM512+Arg群では100選択付近から急激な上昇が認められ、最終回数は40程度にまで増加した。この結果は、LKM512+Arg摂取により、正解対角への適応が明らかに早くなったことを示す。
【0055】
次に、逆転初日の最初の100選択において、逆転後の正解対角選択率を、25選択ずつに区切り棒グラフで示した(図2)。LKM512+Arg群は、各逆転において、逆転直後の1-25選択より、26-50選択、51-75選択、76-100選択と選択経験を積むことで正解率が徐々に上昇するのに対し、コントロール群では逆転3と4を除いてその傾向が認められなかった。特に、逆転2では、LKM512+Arg群は51選択目からは正解選択率が上昇し、76選択目からは更に上昇し、逆転課題への対応法を学習したのに対し、コントロール群は100選択では全く対応できていなかった。
【0056】
次に、逆転初日の最初の100選択での正解率を算出した(図3)。その結果、LKM512+Arg群ではコントロール群と比較して、逆転2以降での正解率が常に高かった。これらから、LKM512+Arg摂取により、逆転後の正解対角への適応が早まり、その結果成績が上昇することが認められ、LKM512+Arg摂取は、中高齢期における認知的柔軟性の維持あるいはその形成に有用であることを示している。
【0057】
また、図2の76-100選択のデータにおいて顕著であるが、LKM512+Arg群は、逆転を積み重ねることで徐々に正解率が上昇するのに対し、コントロール群はその傾向が認められなかった。これは、LKM512+Arg群が逆転課題に対するラーニングセットの形成により、素早く逆転に気付き、且つ新しい正解への対応法を習得したことを示している。ラーニングセットの形成とは、頻繁に遭遇する環境変化(課題)に対して、試行錯誤による変化への対応を繰り返すうちに、過去の経験を通して変化(課題)への理解が進み、効率的な学習方法を学んだ状態となることを示すもので、認知的柔軟性の重要なファクターである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の組成物により、中高齢の対象の認知的柔軟性が高められることが明らかとなった。一般に認知的柔軟性が低下する中高齢において、認知的柔軟性を高める、認知的柔軟性の低下を抑制することができる、組成物(組合せ)が提供される。
図1
図2
図3