(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030919
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】監視装置および監視方法
(51)【国際特許分類】
G01M 13/045 20190101AFI20240229BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20240229BHJP
【FI】
G01M13/045
G01M99/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134157
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畠山 航
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AC01
2G024AC02
2G024AC05
2G024BA27
2G024CA13
2G024DA09
2G024EA11
2G024FA06
2G024FA14
2G024FA15
(57)【要約】
【課題】擦過音の影響を受けて軸受の診断精度が低下することを防止する。
【解決手段】監視装置80は、センサ70の計測値を取得する取得部81と、計測値に基づいて、軸受51の擦過音を検出する検出部82と、計測値に基づいて、軸受51の状態を診断する診断部83とを備え、診断部83は、検出部82により検出された擦過音が含まれない計測値を用いて、軸受51を診断する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受を備える機器の状態を監視する監視装置であって、
前記機器には、前記機器の振動に伴って変動する物理量を計測するセンサが取り付けられ、
前記監視装置は、
前記センサの計測値を取得する取得部と、
前記計測値に基づいて、前記軸受の擦過音を検出する検出部と、
前記計測値に基づいて、前記軸受の状態を診断する診断部とを備え、
前記診断部は、前記擦過音が含まれない前記計測値を用いて、前記軸受を診断する、監視装置。
【請求項2】
前記診断部は、前記検出部により前記擦過音が検出された前記計測値を判別することにより、前記検出部により検出された前記擦過音が含まれない前記計測値を特定する、請求項1に記載の監視装置。
【請求項3】
前記検出部は、前記センサの計測値の経時変化を示す計測データを時間軸方向で複数のセグメントデータに分割し、前記セグメントデータ毎に前記擦過音を検出し、
前記検出部は、前記計測データのうち前記擦過音が検出されたセグメントデータ部分を補正し、
前記診断部は、前記検出部により検出された前記擦過音が含まれない前記計測値として、補正後の前記計測データを用いて、前記軸受を診断する、請求項1に記載の監視装置。
【請求項4】
前記補正は、前記擦過音を含むセグメントデータ部分を前記計測データから削除することである、請求項3に記載の監視装置。
【請求項5】
前記補正は、前記擦過音を含むセグメントデータ部分の前記計測値を規定値に変更することである、請求項3に記載の監視装置。
【請求項6】
前記検出部は、前記センサの計測値の経時変化を示す計測データに対して、フーリエ変換処理、スムージング処理、セグメンテーション処理、および正規化処理の各処理を順に実行し、
前記検出部は、前記各処理を順に実行することで生成された正規化データを、前記擦過音を検出するための第1推定モデルに入力し、前記擦過音を検出する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の監視装置。
【請求項7】
前記検出部は、前記センサの計測値の経時変化を示す計測データを時間軸方向で複数のセグメントデータに分割し、前記セグメントデータに対して前記各処理を順に実行することで生成されたセグメント単位の正規化データを前記第1推定モデルに入力し、前記擦過音を検出する、請求項6に記載の監視装置。
【請求項8】
前記第1推定モデルは、前記擦過音を含む前記計測データを特徴量のデータとして、決定木、ランダムフォレスト、サポートベクタマシン、およびニューラルネットワークのいずれかのアルゴリズムに基づく機械学習によって生成されている、請求項6に記載の監視装置。
【請求項9】
前記検出部は、前記擦過音の有無または前記擦過音の発生確度を前記擦過音の検出結果として出力する、請求項6に記載の監視装置。
【請求項10】
前記センサは、振動センサ、音響センサ、およびAEセンサのいずれかである、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の監視装置。
【請求項11】
前記監視装置は、第1処理装置および第2処理装置を含み、
前記第1処理装置は、前記取得部を含み、
前記第2処理装置は、前記検出部および前記診断部のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の監視装置。
【請求項12】
前記第1処理装置と前記第2処理装置とは、ネットワークを介して通信可能に接続される、請求項11に記載の監視装置。
【請求項13】
アラートを出力する出力部をさらに備え、
前記出力部は、前記検出部により前記擦過音が検出された場合に、第1アラートを出力する、請求項1に記載の監視装置。
【請求項14】
前記出力部は、前記診断部により前記軸受の異常が診断された場合に、第2アラートを出力する、請求項13に記載の監視装置。
【請求項15】
前記出力部は、前記擦過音の検出頻度が閾値を超える場合に、第3アラートを出力する、請求項13または請求項14に記載の監視装置。
【請求項16】
前記アラートは、電気的信号、メッセージ、データファイルのいずれかひとつ以上の形態を含む、請求項13または請求項14に記載の監視装置。
【請求項17】
軸受を備える機器の状態を監視する監視装置であって、
前記機器には、前記機器の振動に伴って変動する物理量を計測するセンサが取り付けられ、 前記監視装置は、
前記センサの計測値を取得する取得部と、
前記計測値に基づいて、前記軸受の擦過音を検出する検出部と、
前記計測値に基づいて、前記軸受の状態を診断する診断部とを備え、
前記検出部は、前記計測値に基づいて生成されたデータを、前記擦過音を検出するための第1推定モデルに入力して前記擦過音を検出し、
前記診断部は、前記検出部の検出結果と、前記計測値に基づいて生成されたデータとを、前記軸受を診断するための第2推定モデルに入力して前記軸受を診断する、監視装置。
【請求項18】
前記第2推定モデルは、前記検出部の検出結果と前記計測値に基づいて生成されたデータとに基づいて前記軸受を診断するように機械学習によって生成されている、請求項17に記載の監視装置。
【請求項19】
軸受を備える機器の状態を監視する監視方法であって、
前記機器には、前記機器の振動に伴って変動する物理量を計測するセンサが取り付けられ、 前記監視方法は、
前記センサの計測値を取得するステップと、
前記計測値に基づいて、前記軸受の擦過音を検出するステップと、
前記計測値に基づいて、前記軸受の状態を診断するステップとを含み、
前記診断するステップは、前記擦過音が含まれない前記計測値を用いて、前記軸受を診断するステップを含む、監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、軸受を備える機器の状態を監視する監視装置および監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸受を備える機器の状態を監視する監視装置が知られている。
【0003】
特許第5917956号公報(特許文献1)には、種々の機器に設けたセンサの測定データから、統計的手法を用いて、実効値、ピーク値、平均値、クレストファクター、エンベロープ処理後の実効値、およびエンベロープ処理後のピーク値などを算出し、算出した値と対応する閾値とを比較することにより、軸受の損傷を判定する監視装置が記載されている。
【0004】
特許第5146008号公報(特許文献2)には、エンベロープ分析および周波数分析により得られた周波数スペクトルと閾値との比較を、軸受の部位別に行うことで、軸受の異常部位を特定する監視装置が記載されている。
【0005】
特許第6791770号公報(特許文献3)には、設備の運転状況やノイズの影響を受ける回転機械の測定データを処理するときに、測定データ全体を複数のセグメントに分割し、各セグメントで算出した機械学習の診断結果を平均することで誤判定を低減させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5917956号公報
【特許文献2】特許第5146008号公報
【特許文献3】特許第6791770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
種々の機器に使われる軸受では、擦過音(キシリ音)と呼ばれる異常音が発生することがある。
【0008】
擦過音は、主に1kHz以上の周波数帯域で計測される。擦過音は、人間にとってはかなり耳障りな音であるが、軸受の損傷によって生じる異常音ではない。しかしながら、軸受が損傷した場合にも、主に1kHzより高い周波数帯域で振動の振幅値が増加する場合がある。
【0009】
したがって、特許文献1のように、擦過音を考慮することなく、実効値およびピーク値などに基づいて軸受を診断する方法では、擦過音で増加した振幅値と軸受損傷で増加した振幅値とを区別することができない。その結果、特許文献1に記載の方法では、誤診断が生じるおそれがある。
【0010】
擦過音は、軸受外輪に対する転動体の通過周期で発生することが多い。擦過音の発生周期は、軸受外輪等に圧痕やはく離などの損傷があるときの損傷振動の発生周期と一致する。したがって、特許文献2のようなエンベロープ分析によって軸受を診断する方法では、擦過音で発生したスペクトルピークと軸受外輪の損傷で発生したスペクトルピークとを区別することができない。その結果、特許文献2に記載の方法では、誤診断が生じるおそれがある。特許文献3に記載の方法に関しても同様に、測定データに擦過音が混入することによって、誤診断が生じるおそれがある。
【0011】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、擦過音の影響を受けて軸受の診断精度が低下することを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示のある局面に関わる監視装置は、軸受を備える機器を監視する監視装置であって、機器には、前記機器の振動に伴って変動する物理量を計測するセンサが取り付けられ、監視装置は、センサの計測値を取得する取得部と、計測値に基づいて、軸受の擦過音を検出する検出部と、計測値に基づいて、軸受の状態を診断する診断部とを備え、診断部は、擦過音が含まれない計測値を用いて、軸受を診断する。
【0013】
本開示の他の局面に関わる監視装置は、軸受を備える機器を監視する監視装置であって、機器には、前記機器の振動に伴って変動する物理量を計測するセンサが取り付けられ、監視装置は、センサの計測値を取得する取得部と、計測値に基づいて、軸受の擦過音を検出する検出部と、計測値に基づいて、軸受の状態を診断する診断部とを備え、検出部は、計測値に基づいて生成されたデータを、擦過音を検出するための第1推定モデルに入力して擦過音を検出し、診断部は、検出部の検出結果と、計測値に基づいて生成されたデータとを、軸受を診断するための第2推定モデルに入力して軸受を診断する。
【0014】
本開示のある局面に関わる監視方法は、軸受を備える機器の状態を監視する監視方法であって、機器には、機器の振動に伴って変動する物理量を計測するセンサが取り付けられ、監視方法は、センサの計測値を取得するステップと、計測値に基づいて、軸受の擦過音を検出するステップと、計測値に基づいて、軸受の状態を診断するステップとを含み、診断するステップは、擦過音が含まれない計測値を用いて、軸受を診断するステップを含む。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、擦過音の影響を受けて軸受の診断精度が低下することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】監視装置が適用される風力発電装置の構成を概略的に示した図である。
【
図2】監視装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】監視装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】擦過音検出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図6】計測データをフーリエ変換することにより得られる周波数スペクトルの一例を示す図である。
【
図7】周波数スペクトルにスムージング処理を施すことにより得られるスムージング化データの一例を示す図である。
【
図8】スムージング化データにセグメンテーション処理を施すことにより得られるセグメント化データの一例を示す図である。
【
図9】セグメント化データに正規化処理を施すことにより得られる正規化データの一例を示す図である。
【
図10】軸受診断処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図11】第1推定モデルおよび第2推定モデルを生成する手法を説明するための図である。
【
図12】第1推定モデル生成処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図13】変形例1に係る擦過音検出処理の手法を説明するための概念図である。
【
図14】変形例1に係る擦過音検出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図15】変形例2に係る軸受診断処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図16】変形例3に係る軸受診断処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図17】変形例4に係る第2推定モデルを学習装置が生成する手法を説明するための図である。
【
図18】変形例4に係る軸受診断処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図19】監視装置の構成のバリエーションの具体例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。また、以下で説明する変形例は、適宜選択的に組み合わされてもよい。
【0018】
<風力発電装置の構成>
図1は、本実施の形態に係る監視装置80が適用される風力発電装置10の構成を概略的に示した図である。
図1を参照して、風力発電装置10は、主軸20と、ハブ25と、ブレード30と、増速機40と、発電機50と、主軸用軸受60と、センサ70と、監視装置80とを備える。増速機40、発電機50、主軸用軸受60、センサ70および監視装置80は、ナセル90に格納される。ナセル90は、タワー100によって支持される。
【0019】
主軸20は、増速機40の入力軸に接続され、主軸用軸受60によって回転自在に支持される。主軸20は、風力を受けたブレード30により発生する回転トルクを増速機40の入力軸へ伝達する。ブレード30は、ハブ25に設けられ、風力を回転トルクに変換して主軸20に伝達する。主軸用軸受60は、ナセル90内に設けられ、主軸20を回転自在に支持する。
【0020】
増速機40は、主軸20と発電機50との間に設けられ、主軸20の回転速度を増速して発電機50へ出力する。一例として、増速機40は、遊星ギヤ、中間軸および高速軸等を含む歯車増速機構によって構成される。
【0021】
発電機50は、増速機40の出力軸に接続され、増速機40から受ける回転トルクによって発電する。発電機50は、たとえば、誘導発電機によって構成される。
【0022】
発電機50内には、ロータを回転自在に支持する複数の軸受51(
図3参照)が設けられている。発電機50は、軸受を備える機器の一例である。複数の軸受51は、たとえば転がり軸受によって構成され、外輪(固定輪)と、転動体と、内輪(回転輪)とを有する。転がり軸受は、たとえば、自動調芯ころ軸受、円すいころ軸受、円筒ころ軸受、および玉軸受などにより構成される。単列で転がり軸受を構成してもよく、複列で転がり軸受を構成してもよい。
【0023】
発電機50にはセンサ70が取り付けられている。センサ70は、発電機50の振動を計測し、計測値を監視装置80へ出力する。発電機50内には軸受51が設けられているため、センサ70の計測値には、軸受51の振動要素が含まれる。振動に伴って変動する物理量としては、たとえば、加速度、速度、変位、音、AE(Acoustic Emission)、および電力を挙げることができる。本実施の形態において、センサ70は、たとえば、圧電素子を用いた振動センサ(加速度ピックアップ)である。センサ70として、音響センサ、AEセンサなどを採用してもよい。
【0024】
監視装置80は、センサ70から計測値を取得する。監視装置80は、取得した計測値に基づいて発電機50の状態を監視する。特に、監視装置80は、取得した計測値に基づいて、軸受51の異常の有無を診断する機能を備える。一般に、軸受が損傷すると、軸受の種類やサイズにもよるが、主に1kHzより高い周波数帯域で振動の振幅値が増加する。監視装置80は、センサ70の計測値を利用して、軸受51の異常の有無を診断することが可能である。
【0025】
<軸受の損傷と擦過音との関係>
ここで、軸受の損傷と擦過音との関係を説明する。軸受は、軸受内部の隙間、すべり、振動、油膜変動などの複数の条件が揃ったとき、擦過音(キシリ音)と呼ばれる異常音が発生することがある。擦過音は、内外輪と転動体との摩擦または衝突によって生じるものと考えられる。
【0026】
特に、軸受が用いられる発電機および電動機などにおいて、擦過音の発生が顕著に認められる。擦過音は、主に1kHz以上の周波数帯域で計測され、強い振動(大きな甲高い音)を伴う音である。擦過音は、人間にとってはかなり耳障りな音である。しかし、擦過音は、軸受の損傷(たとえば、摩耗、はく離、割れ、欠け、など)によって生じる異常音ではない。実際、軸受に給脂するなどのメンテナンスを施すことで、擦過音が緩和されることがある。
【0027】
しかしながら、軸受が損傷した場合にも、上記のとおり、1kHzより高い周波数帯域で振動の振幅値が増加する場合がある。したがって、特許第5917956号公報などに記載されているように、擦過音を考慮することなく、実効値およびピーク値などに基づいて軸受を診断する方法では、擦過音で増加した振幅値と軸受損傷で増加した振幅値とを区別することができない。
【0028】
擦過音は、軸受外輪に対する転動体の通過周期で振動が発生することが多く、その発生周期は、軸受外輪等に圧痕やはく離などの損傷があるときの損傷振動の発生周期と一致する。そのため、特許第5146008号公報などに記載されているようなエンベロープ分析によって軸受を診断する方法では、擦過音で発生したスペクトルピークと軸受外輪の損傷で発生したスペクトルピークとの区別ができない。また、計測データに擦過音が少しでも混入してしまうと、そのデータを軸受診断に使うことができないという問題もある。
【0029】
そこで、本実施の形態に係る監視装置80においては、以下に説明するように、擦過音を考慮した軸受診断を実現し、擦過音の影響を受けて軸受の診断精度が低下することを防止している。
【0030】
なお、ここでは、監視装置80の監視対象の軸受として、発電機50内の軸受51を例示している。監視装置80の監視対象に増速機40内の軸受および主軸用軸受60を追加してもよい。また、監視装置80の監視対象は、風力発電装置10内の軸受に限定されるものではない。たとえば、監視装置80の監視対象として、工場および発電所などに設置された各種機器に含まれる軸受、並びに鉄道車両などに含まれる軸受を採用してもよい。要するに、回転軸を支持する軸受を備える機器であれば、どのような機器に対して監視装置80を適用してもよい。
【0031】
<監視装置のハードウェア構成>
図2は、監視装置80のハードウェア構成の一例を示す図である。監視装置80は、たとえば、センサ70の計測値を取得して演算処理する汎用のコンピュータ(処理装置)によって構成される。
【0032】
図2に示されるように、監視装置80は、CPU(Central Processing Unit)801と、RAM(Random Access Memory)802と、ストレージ803と、通信インターフェイス804とを備える。CPU801と、RAM802と、ストレージ803と、通信インターフェイス804とは、バス805を介して接続される。
【0033】
CPU801は、ストレージ803に格納された監視プログラム806を実行する。RAM802は、監視プログラム806の実行に必要なデータを格納するための作業領域を提供する。ストレージ803は、たとえばHDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Flash Solid State Drive)などで構成される。監視プログラム806には、以下において説明する種々のフローチャートをCPU801が実行するために必要とされるプログラムが含まれる。
【0034】
通信インターフェイス804は、各種信号を入出力するための入出力ポートを有する。たとえば、通信インターフェイス804は、センサ70から計測値を受信する。通信インターフェイス804は、監視プログラム806の実行によって生成される各種の信号を外部装置に出力してもよい。外部装置は、風力発電装置10の外部に設置される。通信インターフェイス804は、無線あるいは有線回線を介して外部装置と通信する。
【0035】
<監視装置の機能構成>
図3は、監視装置80の機能構成を示すブロック図である。
図3に示されるように、監視装置80は、取得部81と、擦過音検出部82と、軸受診断部83と、アラート出力部84と、記憶部85とを備える。記憶部85は、たとえば
図2に示すRAM802およびストレージ803によって実現される。
【0036】
取得部81、擦過音検出部82、軸受診断部83、およびアラート出力部84は、たとえば、
図2に示すCPU801が記憶部85に格納された監視プログラム806を実行することにより実現される。
【0037】
取得部81、擦過音検出部82、軸受診断部83、およびアラート出力部84などの各構成要素は、演算回路(Processing Circuitry)などのような専用のハードウェアによって実現されてもよい。上記構成要素は、複数のプロセッサおよび複数のメモリが連携して機能するように構成してもよい。取得部81、擦過音検出部82、軸受診断部83、およびアラート出力部84などの各構成要素は、独立した複数の処理装置によって実現されるように構成してもよい。すなわち、通信可能に接続された複数の処理装置によって、監視装置80を構成してもよい。この場合、「監視装置」は、通信可能に接続された複数の処理装置によって構成される監視システムを包含する概念として理解されるべきである。
【0038】
擦過音検出部82は、センサ70から取得した計測値を利用して、軸受51で発生した擦過音を検出する。擦過音検出部82は、擦過音を検出するために、学習済みの第1推定モデル821を記憶部85から読み込む。第1推定モデル821は、擦過音を含む計測データを特徴量のデータとして、機械学習によって生成されている。
【0039】
軸受診断部83は、センサ70からした計測値を利用して、軸受51の損傷を含む異常を診断する。軸受診断部83は、診断のために、学習済みの第2推定モデル831を記憶部85から読み込む。第2推定モデル831は、軸受異常発生時の振動を含む計測データを特徴量のデータとして、機械学習によって生成されている。
【0040】
アラート出力部84は、擦過音の発生、および軸受51の異常に関するアラートを出力する。アラート出力部84は、インターネットなどのネットワーク5を介して、外部の警報装置15と接続されている。警報装置15は、たとえば、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、またはタブレットなどである。警報装置15は、警報を表示する表示器または警報音を出力するスピーカシステムであってもよい。アラート出力部84自体が警報を表示または警報音を出力する機能を備えていてもよい。アラート出力部84は、クラウドなどの外部システムにアラートを出力してもよい。
【0041】
取得部81は、センサ70から計測値を取得する。取得部81は、センサ70から計測値を取得するたびに、計測値と計測値を取得した時刻とを対応付けたデータを記憶部85に書き込む。これにより、記憶部85には、センサ70の計測値の経時変化を示す計測データが生成および蓄積される。
【0042】
擦過音検出部82は、記憶部85から計測データを読み出す。擦過音検出部82は、読み出した計測データにフーリエ変換処理を含む各種の処理を施した後、得られたデータを第1推定モデル821に入力する。第1推定モデル821は、擦過音の有無に関する推定結果を出力する。擦過音検出部82は、第1推定モデル821の出力を検出結果として軸受診断部83へ出力する。
【0043】
軸受診断部83は、擦過音検出部82から検出結果を取得する。軸受診断部83は、擦過音検出部82から取得した検出結果が擦過音有の場合、計測データを用いた軸受診断を行わない。その結果、擦過音が含まれる計測データによって、誤った軸受診断の結果が軸受診断部83から出力されることを防止できる。
【0044】
軸受診断部83は、擦過音検出部82から取得した検出結果が擦過音有の場合、擦過音のアラート(第1アラート)をセットする。アラート出力部84は、セットされた擦過音のアラートを警報装置15へ出力する。風力発電装置10をメンテナンスする作業員は、警報装置15が発する警報に基づいて擦過音の発生を特定することができる。
【0045】
軸受診断部83は、擦過音検出部82から取得した検出結果が擦過音無しの場合、計測データを用いた軸受診断を実行する。この場合、軸受診断部83は、記憶部85から計測データを読み出す。軸受診断部83は、読み出した計測データと第2推定モデル831とを用いて、軸受の状態を診断する。軸受診断部83は、計測データにフーリエ変換処理を含む各種の処理を施した後、得られたデータを第2推定モデル831に入力してもよい。
【0046】
軸受診断部83は、軸受に異常がある場合、軸受異常のアラート(第2アラート)をセットする。アラート出力部84は、セットされた軸受異常のアラートを警報装置15へ出力する。風力発電装置10をメンテナンスする作業員は、警報装置15が発する警報に基づいて軸受51に異常が発生したことを特定することができる。
【0047】
パーソナルコンピュータにより警報装置15が構成される場合、アラート出力部84は、アラートを通知するメッセージ(メール)あるいはレポートを警報装置15に配信する。警報装置15は、メッセージあるいはレポートをモニターに表示する。警報装置15は、擦過音に対応する警報音および軸受異常に対応する警報音をスピーカシステムから発生させてもよく、擦過音に対応するランプおよび軸受異常に対応するランプを点灯させてもよい。
【0048】
このように、監視装置80は、擦過音および軸受異常(軸受損傷)を精度よく検出してアラートを出力する。これにより、作業員は、軸受51を含む設備(風力発電装置10)を効率的にメンテナンスすることができる。その結果、設備の稼働率を向上させることができる。特に、擦過音をアラートとして出力した場合、作業員は、擦過音を緩和するためのメンテナンスを追加で実施することもできる。作業員による細やかなメンテナンスが行われることにより、軸受の診断に活用可能なデータの収集頻度を高めることもできる。
【0049】
<擦過音検出処理の処理手順>
図4は、擦過音検出処理の処理手順を示すフローチャートである。擦過音検出処理は、監視装置80(主には擦過音検出部82)により実行される。監視装置80は、計測データを記憶部85から読み出した後(ステップS101)、フーリエ変換処理(ステップS102)、スムージング処理(ステップS103)、セグメンテーション処理(ステップS104)、および正規化処理(ステップS105)を順次実行する。
【0050】
図5~
図9には、各処理(ステップS101~ステップS105)に関連する波形またはデータの一例が示されている。
【0051】
図5は、計測データの一例を示す図である。計測データは、センサ70の計測値の経時変化を示す波形データである。
図6は、計測データをフーリエ変換することにより得られる周波数スペクトルの一例を示す図である。
図7は、周波数スペクトルにスムージング処理を施すことにより得られるスムージング化データの一例を示す図である。
図8は、スムージング化データにセグメンテーション処理を施すことにより得られるセグメント化データの一例を示す図である。
図9は、セグメント化データに正規化処理を施すことにより得られる正規化データの一例を示す図である。
【0052】
擦過音が発生したとき、計測データをフーリエ変換することにより得られる周波数スペクトルの複数の周波数帯域の振幅値に、特徴的な変化が現れる。この変化は、軸受が損傷しているか否かに関わらない、擦過音に特有のものである。このような擦過音に特有の変化は、周波数スペクトルの振幅値のみならず、パワースペクトル密度(PSD)を観察したときにも同様に認められる。監視装置80は、擦過音検出処理において、フーリエ変換処理を含む各種の処理を計測データに施し、擦過音に特有の変化を適切に捉えて擦過音の有無を検出する。
【0053】
引き続き、必要に応じて、
図5~
図9を参照しつつ、
図4に示される擦過音検出処理を詳細に説明する。
【0054】
<フーリエ変換処理>
図5に示されるように、計測データは、センサ70の計測値の経時変化を示す時系列データである。監視装置80は、計測データを対象にしてフーリエ変換処理を実行する(ステップS102)。監視装置80は、フーリエ変換処理において、計測データを周波数解析することにより、周波数スペクトルを生成する。これにより、
図6に示されるような周波数スペクトル(フーリエ波形)が得られる。
図6のグラフにおいて、横軸は周波数(Hz)を示し、縦軸は振幅値を示す。縦軸として、パワースペクトル密度(PSD)を採用してもよい。フーリエ変換処理が実行されることにより、センサ70の波形データが、時間領域のデータから周波数領域のデータに変換される。
【0055】
<スムージング処理>
次に、監視装置80は、周波数スペクトルに対してスムージング処理を施す(ステップS103)。監視装置80は、スムージング処理において、周波数スペクトルを平滑化する。ここでは、擦過音に特有の周波数スペクトルの変化を打ち消すことなく、設備の運転条件、軸受品番、および設備の違い等に対する感度を落とすことが重要である。これにより、データ収集時の設備の運転条件(回転速度および負荷変化など)、軸受品番、および設備の違い等、外部環境の違いに対するロバスト性を向上させることができる。たとえば、設備の軸回転速度が変わると、周波数スペクトルの帯域の一部がシフトするような現象が見られる。このような微妙な変化に対する検出感度を鈍化させるために、スムージング処理は、有効的な手法である。
【0056】
図7には、
図6に示される周波数スペクトルにスムージング処理を施すことにより得られるスムージング化データの一例が示されている。特に、
図7のスムージング化データは、周波数スペクトルの振幅値に一定の周波数幅で移動中央値処理を施すことで得られたデータである。スムージング手法は、移動中央値処理に限られるものでない。たとえば、移動平均値処理、および局所回帰による平滑化処理など、データ本来の形状を大きく損なわない程度に平滑化できる手法であれば、どのようなスムージング手法を採用してもよい。
【0057】
<セグメンテーション処理>
次に、監視装置80は、スムージング処理により得られた波形にセグメンテーション処理を施す(ステップS104)。監視装置80は、セグメンテーション処理において、周波数スペクトルの周波数帯域を複数の区間に分割した後、各区間内の振幅値を1つの代表値に調整する。
【0058】
図8には、
図7に示されるスムージング化データにセグメンテーション処理を施すことにより得られるセグメント化データが示されている。このセグメント化データは、
図7に示されるスムージング化データを50個の区間に分割した後、各区間内の振幅値の平均値を、各区間のセグメントの振幅値とすることによって得られる。セグメントの振幅値として、そのセグメントの区間内の振幅値の平均値ではなく、そのセグメントの区間内の振幅値の総和あるいは中央値など、その区間内の振幅値を特徴付けるものであれば、いずれの値を採用してもよい。
【0059】
セグメンテーション処理の目的は、周波数スペクトル軸に対する分解能を落とすことである。セグメンテーション処理を実行することにより、スムージング処理と同様、擦過音に特有の周波数スペクトルの変化を打ち消すことなく、設備の運転条件、軸受品番、および設備の違い等に対する感度を落とすことが可能となる。
【0060】
したがって、セグメンテーション処理を実行することにより、外部環境の違いに対するロバスト性を向上させることができる。特に、スムージング処理およびセグメンテーション処理を実行することにより、データ量を削減できる。また、計測データを機械学習に用いる場合、機械学習処理への入力変数の数が少なくなるので、処理時間を向上させる効果もある。
【0061】
<正規化処理>
次に、監視装置80は、セグメンテーション処理により得られた波形に正規化処理を施す(ステップS105)。これにより正規化データが得られる。
【0062】
正規化処理の目的は、セグメント化データの振幅値の大きさ(絶対値)の影響を打ち消すことである。たとえば、発電機50において、軸受51の負荷量が増加するに伴って計測データの振幅値が増加する。この場合、計測データから得られる周波数スペクトルの振幅値も増大するため、セグメント化データから抽出される特徴量も増加する。
【0063】
軸受51の負荷量が小さいときに得られた周波数スペクトルと、軸受51の負荷量が大きいときに得られた周波数スペクトルとを比較したとき、両者の全体の形状の特徴は同じであるものの、振幅値の縮尺が変わってしまう。この場合、特徴量を適切に評価できなくなるおそれがある。このことは、擦過音の検出精度に悪影響を与える。正規化処理を行うことによって、周波数スペクトルの形状の特徴を残したまま、振幅値の縮尺の差を打ち消すことができる。そこで、監視装置80は、正規化処理を実行することにより、各セグメントの振幅値を無次元化する。
【0064】
図9には、
図8に示されるセグメント化データに正規化処理を施すことにより得られた正規化データの一例が示されている。振幅値が最小値0から最大値1の範囲に収まるよう、
図8に示されるセグメント化データに正規化処理(スケーリング)を施すことによって、
図9に示される正規化データが得られる。正規化処理として、振幅値の平均値または中央値が1となるような処理を採用してもよい。
【0065】
以上のように、監視装置80は、周波数スペクトルにスムージング処理およびセグメンテーション処理などの各処理を施す。擦過音特有の変化を単一の周波数帯域の増減のみで評価しようとすると、設備の運転条件や軸受品番の違い、外乱ノイズ、および軸受損傷の発生などによる周波数帯域の増減と、擦過音とを精度よく区別することが難しくなるおそれがある。
【0066】
そこで、監視装置80は、周波数スペクトルを平滑化およびセグメント化することでノイズを除去し、より精度良く擦過音を検出できるようにするためのデータを生成する。
【0067】
次に、監視装置80は、第1推定モデル821を記憶部85から読み込む(ステップS106)。
【0068】
次に、監視装置80は、第1推定モデル821へ正規化データを入力する(ステップS107)。第1推定モデル821は、正規化データから擦過音を検出する。第1推定モデル821からは擦過音の有無を示す結果が出力される。監視装置80は、第1推定モデル821の出力を検出結果として保存する(ステップS108)。保存された検出結果は、次に説明する軸受診断処理において用いられる。
【0069】
<軸受診断処理の処理手順>
図10は、軸受診断処理の処理手順を示すフローチャートである。はじめに、監視装置80は、第1推定モデル821の検出結果を参照する(ステップS201)。次に、監視装置80は、擦過音が検出されたか否かを判定する(ステップS202)。
【0070】
監視装置80は、擦過音が検出された場合、擦過音のアラート(第1アラート)をセットする(ステップS208)。セットされた擦過音のアラートは、アラート出力部84によって警報装置15へ出力される。監視装置80は、擦過音が検出された場合、軸受の異常を診断する処理を実行することなく、軸診断処理を終える。
【0071】
監視装置80は、擦過音が検出されない場合、第2推定モデル831を記憶部85から読み込む(ステップS203)。
【0072】
次に、監視装置80は、第2推定モデル831へ計測データを入力する(ステップS204)。第2推定モデル831は、計測データに基づいて軸受の状態を診断する。第2推定モデル831からは軸受の診断結果が出力される。監視装置80は、第2推定モデル831の出力(軸受診断結果)を参照し(ステップS205)、軸受に異常があるか否かを判定する(ステップS206)。
【0073】
監視装置80は、軸受に異常がある場合、軸受異常のアラート(第2アラート)をセットする(ステップS207)。セットされた擦過音のアラートは、アラート出力部84によって警報装置15へ出力される。監視装置80は、軸受に異常がない場合、軸受診断処理を終える。
【0074】
以上、説明したように、監視装置80は、軸受診断処理において、擦過音が検出された場合には軸受診断を行わず、擦過音が検出されなかった場合にのみ軸受診断を行う。このように、計測データに擦過音が含まれるデータを除外して軸受診断を行うことで、擦過音に起因する誤診断が生じることを防止できる。その結果、軸受の診断精度を向上させることができる。
【0075】
<推定モデルの生成>
図11は、第1推定モデル821および第2推定モデル831を生成する手法を説明するための図である。学習装置8は、たとえば、
図2に示される監視装置80と同様のハードウェア構成を備える処理装置である。監視装置80により学習装置8を構成してもよい。
【0076】
学習装置8は、第1推定モデル821と第2推定モデル831とを個別に生成する。第1推定モデル821および第2推定モデル831は、たとえば、決定木、ランダムフォレスト、サポートベクタマシン、およびニューラルネットワークのいずれかのアルゴリズムに基づく教師ありの機械学習によって生成される。第1推定モデル821を生成する学習装置と、第2推定モデル831を生成する学習装置とを異ならせてもよい。
【0077】
第1推定モデル821は、計測データ中の擦過音の有無を推定することを目的として生成される。第1推定モデル821の学習用データは、計測データと正解データとから構成される。学習装置8は、多数の学習用データを用いて機械学習を繰り返すことにより、学習済みの第1推定モデル821を生成する。学習用データには、擦過音特有の特徴がよく現れた多数の計測データが含まれるようにすることが望ましい。学習装置8は、生成した第1推定モデル821を監視装置80に出力する。監視装置80は、第1推定モデル821を記憶部85に格納する。
【0078】
第2推定モデル831は、計測データから軸受の異常の有無を推定することを目的として生成される。第2推定モデル831の学習用データは、計測データと正解データとから構成される。学習装置8は、多数の学習用データを用いて機械学習を繰り返すことにより、学習済みの第2推定モデル831を生成する。学習用データには、軸受異常に特有の特徴がよく現れた多数の計測データが含まれるようにすることが望ましい。学習装置8は、生成した第2推定モデル831を監視装置80に出力する。監視装置80は、第2推定モデル831を記憶部85に格納する。
【0079】
<第1推定モデルを生成する処理の処理手順>
図12は、第1推定モデル生成処理の処理手順を示すフローチャートである。学習装置8は、
図12に示される処理手順に従って、擦過音を検出するための第1推定モデル821を生成する。
【0080】
第1推定モデル821を生成する処理は、
図11に示される学習用データを読み込む処理(ステップS331)、フーリエ変換処理(ステップS332)、スムージング処理(ステップS333)、セグメンテーション処理(ステップS334)、および正規化処理(ステップS335)を含む。
【0081】
フーリエ変換処理、スムージング処理、セグメンテーション処理、および正規化処理の各々の詳細は、
図4を用いて既に説明したので、ここではその説明を繰り返さない。学習装置8は、学習用データを読み込んで、計測データに各処理(ステップS332~S335)を施した後、学習用データで第1推定モデル821を学習させること(ステップS336)を繰り返す。学習装置8は、学習済みの第1推定モデル821を監視装置80に出力する(ステップS337)。監視装置80は、第1推定モデル821を記憶部85に格納する。
【0082】
ここでは、第1推定モデル821を生成する処理手順を説明したが、学習装置8は、同様の手順で第2推定モデル831を生成してもよい。学習装置8は、第2推定モデル831を生成する場合、各処理(ステップS332~ステップS335)を実行することなく、
図5に示される計測データ自体を用いて、第2推定モデル831を生成してもよい。
【0083】
以上に説明したとおり、本実施の形態によれば、軸受診断前に擦過音を高い精度で検出することができるので、軸受損傷と擦過音とを誤診断する頻度を低減させることができる。その結果、軸受の診断性能を向上させることができる。
【0084】
ここでは、第1推定モデル821を利用して擦過音を検出する手法を例示した。しかしながら、擦過音検出部82は、第1推定モデル821を利用する手法とは異なる手法によって擦過音を検出してもよい。既に説明したとおり、擦過音が発生したとき、計測データをフーリエ変換することにより得られる周波数スペクトルの複数の周波数帯域の振幅値に、特徴的な変化が現れる。この変化は、軸受が損傷しているか否かに関わらない、擦過音に特有のものである。
【0085】
したがって、擦過音検出部82は、周波数スペクトルのいくつかの特定の周波数帯域の振幅値と、各周波数帯域に対応して予め定めた閾値とを比較することによって、擦過音を検出してもよい。ただし、検出精度をより高めるためには、第1推定モデル821を利用して擦過音を検出する手法を採用することが望ましい。
【0086】
ここでは、第2推定モデル831を利用して軸受診断をする手法を例示した。しかしながら、軸受診断部83は、第2推定モデル831を利用する手法とは異なる手法によって軸受診断をしてもよい。たとえば、軸受診断部83は、特許第5917956号公報に記載されているように、センサの測定データから、統計的手法を用いて、実効値、ピーク値、平均値、クレストファクター、エンベロープ処理後の実効値、およびエンベロープ処理後のピーク値などを算出し、算出値と閾値とを比較して、軸受異常を検出してもよい。
【0087】
あるいは、軸受診断部83は、特許第5146008号公報に記載されているように、センサから得られた信号に対して、エンベロープ分析および周波数分析を行うことで周波数スペクトルを算出し、周波数スペクトルと閾値とを軸受の部位毎に行うことで、異常が発生している軸受の部位を特定してもよい。
【0088】
<変形例1>
図4に示される擦過音検出処理においては、生成された計測データ(波形データ)の全体をひとまとめにして処理する例を説明した。ここでは、変形例1として、計測データを複数のセグメントに分割し、セグメント単位で処理する例を説明する。
【0089】
擦過音は、常に発生するわけではない。擦過音は、軸受内部の隙間、すべり、振動、および油膜変動などの複数の条件が揃ったときに発生する。経時的な計測値の変動を示す計測データの中で途切れなく擦過音が発生していることもあれば、擦過音が1、2秒間のみ発生している場合もある。したがって、1つの計測データのうち、擦過音が混入していない部分の波形データは、軸受診断に利用することができる。
【0090】
ここでは、1つの計測データを複数個のセグメントに分割し、擦過音が含まれないセグメントを特定した上で、計測データを用いて軸受診断する手法を提案する。具体的には、擦過音の含まれるセグメントを除去して、擦過音が含まれないセグメントのみを利用して軸受診断する構成としてもよい。あるいは、擦過音の含まれるセグメントの値を規定値(たとえば、ゼロ)に置き換える手法を採用してもよい。
【0091】
図13は、変形例1に係る擦過音検出処理の手法を説明するための概念図である。
図13を参照して、計測データは、センサ70の計測値に基づいて生成された時間長T1のデータである。計測データは、記憶部85に格納される。
【0092】
擦過音検出部82は、計測データにフーリエ変換処理を施す前に、計測データを時間長T1より短い時間長T2のセグメントに分割する。これにより、1つの計測データは、複数(変数i=1~N)のセグメントに分割される。たとえば、時間長T2を1秒または2秒としてもよい。ユーザによる時間長T2の設定入力が受け付けられよう、監視装置80を設計してもよい。擦過音検出部82は、各セグメントを対象にして、擦過音を検出する。
【0093】
図14は、変形例1に係る擦過音検出処理の処理手順を示すフローチャートである。擦過音検出部82は、計測データを記憶部85から読み出した後(ステップS411)、計測データを分割することによってセグメント化する(ステップS412)。これにより、計測データが複数(変数i=1~N)のセグメントに分割される(
図13参照)。
【0094】
次に、擦過音検出部82は、変数iに初期値(=1)をセットする(ステップS413)。次に、擦過音検出部82は、セグメント1,2,3,…Nのうち、セグメントiを対象にして、
図4のステップS102~ステップS105に示されるフーリエ変換処理、スムージング処理、セグメンテーション処理、および正規化処理を順次実行する(ステップS414)。
【0095】
これにより、セグメント単位の波形データから正規化データが生成される。次に、擦過音検出部82は、第1推定モデル821を記憶部85から読み込む(ステップS415)。次に、擦過音検出部82は、第1推定モデル821へセグメント単位の正規化データを入力する(ステップS416)。第1推定モデル821は、セグメント単位の正規化データから擦過音を検出する。第1推定モデル821からは擦過音の有無を示す結果が出力される。
【0096】
次に、擦過音検出部82は、第1推定モデル821の検出結果に基づいて、セグメント単位の正規化データに擦過音が検出されたか否かを判定する(ステップS417)。セグメント単位の正規化データに擦過音が検出された場合、そのセグメントiを補正対象として記憶部85に格納する(ステップS418)。セグメント単位の正規化データに擦過音が検出されない場合、ステップS418は実行されない。したがって、擦過音を含まないセグメントは補正対象とされない。
【0097】
次に、擦過音検出部82は、変数iを更新し(ステップS419)、更新後の変数iが最大値Nを超えるか否かを判定する(ステップS420)。擦過音検出部82は、更新後の変数iがNを超えない限り、ステップS414~ステップS419の処理を繰り返す。これにより、記憶部85には、擦過音の含まれるすべてのセグメントの指定値(i)が格納される。
【0098】
次に、擦過音検出部82は、計測データ補正処理を実行する(ステップS421)。これにより、計測データのうち、擦過音の含まれるセグメントに対応する部分の値が補正される。補正手法として、ここでは2つの手法を提案する。ひとつは、擦過音の含まれるセグメントを除去して、擦過音が含まれないセグメントのみのデータとする手法である。もうひとつは、擦過音の含まれるセグメントの値を規定値(たとえば、ゼロ)に置き換える手法である。
【0099】
次に、擦過音検出部82は、補正後の計測データを軸受診断部83へ出力し、軸受診断部83に軸受診断(
図10のステップS203~ステップS207)を実行させる(ステップS422)。以上により、擦過音検出部82は、変形例1に係る擦過音検出処理を終える。
【0100】
変形例1によれば、1つの計測データの中に部分的に擦過音が含まれる場合であっても、その計測データを軸受診断に活用することができる。そのため、より多くの計測データを診断に有効利用することができる。その結果、軸受診断する頻度を高めることができる。軸受診断する頻度が高まることで、軸受損傷を早期に発見することが可能となる。また、いわゆるトレンド分析を行う際には、データ点数が増加するので、診断の信頼性を向上させることも可能となる。
【0101】
<変形例2>
図15は、変形例2に係る軸受診断処理の処理手順を示すフローチャートである。監視装置80は、第1推定モデル821の出力に基づいて擦過音の有無を判定する際、擦過音の有無(二値分類)の出力を利用するのでなく、擦過音の発生確度(%)の出力を利用してもよい。
図15に示される軸受診断処理では、
図10に示される軸受診断処理と比較すると、ステップS202に代えてステップS202aの判定ステップが採用されている。監視装置80は、はじめに、第1推定モデル821から出力される擦過音の出力を参照する(ステップS201)。特に、変形例2において、監視装置80は、第1推定モデル821から出力される擦過音の発生確度を参照する。
【0102】
次に、監視装置80は、擦過音の発生確度と予め定めた閾値とを比較する(ステップS202a)。監視装置80は、擦過音の発生確度が閾値を超える場合、擦過音有と判定し、ステップS208の処理を実行する。監視装置80は、擦過音の発生確度が閾値を超えない場合、擦過音無と判定し、ステップS203~ステップS207の処理を実行する。閾値は、たとえば、70%など、適宜、設定することができる。ユーザによる閾値の設定入力が受け付けられよう、監視装置80を設計してもよい。なお、ステップS203~ステップS207の処理の詳細は、
図10を用いて説明済みのため、ここではそれらの説明を繰り返さない。
【0103】
変形例2によれば、第1推定モデル821から出力される発生確度を閾値で評価した上で、擦過音の有無を判定することができる。
【0104】
<変形例3>
図16は、変形例3に係る軸受診断処理の処理手順を示すフローチャートである。変形例3として、監視装置80が擦過音の発生頻度をアラートとして外部出力する例を提案する。
【0105】
図16に示される軸受診断処理では、
図10に示される軸受診断処理と比較すると、ステップS208に代えてステップS217~ステップS219の処理が採用されている。「擦過音が検出されたか」のステップS202は、擦過音の検出結果を評価する分岐である。そこで、監視装置80は、擦過音が検出された場合、過去の検出結果の履歴を参照し、擦過音の検出頻度が予め定めた頻度を超えたとき、擦過音の発生頻度が高いことを示すアラートを出力してもよい。
【0106】
具体的には、監視装置80は、
図16に示されるステップS217~ステップS219の処理を実行する。監視装置80は、擦過音が検出された場合、擦過音の発生を検出日時と共に履歴データに記録する(ステップS217)。監視装置80は、履歴データを記憶部85に格納し、擦過音が検出される毎に履歴データを更新する。
【0107】
次に、監視装置80は、履歴データを参照し、擦過音の検出頻度(高/中/低)を判定する(ステップS218)。監視装置80は、検出頻度の「高」、「中」、および「低」を判定するため、第1閾値および第2閾値(第1閾値>第2閾値)を用いる。監視装置80は、検出頻度が第1閾値を超える場合、「検出頻度=高」であると判定し、検出頻度が第2閾値以下の場合、「検出頻度=低」であると判定し、検出頻度がそれら以外の場合、「検出頻度=中」であると判定する。第1閾値および第2閾値は、適宜、設定することができる。ユーザによる第1閾値および第2閾値の設定入力が受け付けられよう、監視装置80を設計してもよい。
【0108】
次に、監視装置80は、判定結果に応じた頻度を示すアラート(第3アラート)をセットする(ステップS219)。監視装置80は、判定結果に応じた頻度を示すアラートに加えて、擦過音のアラートをセット(
図10のステップS208参照)してもよい。セットされたアラートは、アラート出力部84によって警報装置15へ出力される。
【0109】
変形例3によれば、風力発電装置10をメンテナンスする作業員は、警報装置15が発する警報に基づいて擦過音の発生頻度を特定することができる。
【0110】
<変形例4>
図17は、変形例4に係る第2推定モデル832を学習装置8が生成する手法を説明するための図である。ここでは、計測データばかりでなく、学習済みの第1推定モデル821の出力も特徴量として、第2推定モデル832を生成する手法を提案する。
【0111】
図17に示されるように、擦過音検出部82は、学習済みの第1推定モデル821を読み込んでおり、学習装置8は、機械学習対象の第2推定モデル832を読み込んでいる。擦過音検出部82および学習装置8には、多数の計測データが同期して入力される。多数のデータには、擦過音の発生時に取得された計測データ、軸受異常の発生時に取得された計測データ、擦過音および軸受異常が並行して発生しているときに取得された計測データなどが含まれる。
【0112】
図17に示されるように、第2推定モデル832の学習用データは、学習済みの第1推定モデル821の出力と、計測データと、計測データに対する正解データ(軸受異常の有無)とから構成される。
【0113】
擦過音検出部82は、計測データを受け付けた場合、第1推定モデル821を利用して擦過音を検出する。第1推定モデル821は、第2推定モデル832の学習用データの1つとして、検出結果を学習装置8へ出力する。第1推定モデル821の検出結果は、擦過音の単なる有無(二値分類)を示す情報であってもよく、擦過音の発生確度(%)であってもよい。学習装置8へは、第1推定モデル821の検出結果に加えて、計測データおよび正解データが入力される。ここで入力される計測データは、第1推定モデル821が検出結果を演算するための対象とした計測データと同じである。
【0114】
学習装置8は、多数の学習用データを用いて機械学習を繰り返すことにより、学習済みの第2推定モデル832を生成する。このように、第2推定モデル832は、計測データと、学習済みの第1推定モデル821の出力値とに基づいた機械学習によって生成される。学習済みの第2推定モデル832は、監視装置80の記憶部85に格納される。
【0115】
図18は、変形例4に係る軸受診断処理の処理手順を示すフローチャートである。変形例4に係る軸受診断処理においては、
図17を用いて説明した学習済みの第2推定モデル832が利用される。
図18に示される軸受診断処理において、監視装置80は、第2推定モデル832を記憶部85から読み込む(ステップS231)。
【0116】
次に、監視装置80は、第1推定モデル821の出力(検出結果)と、計測データとを第2推定モデル832に入力する(ステップS232)。第2推定モデル832に入力される計測データは、擦過音検出部82を介して学習済みの第1推定モデル821に入力される計測データと同じである。
【0117】
第2推定モデル832は、計測データおよび第1推定モデル821の出力に基づいて軸受の状態を診断する。第2推定モデル832からは軸受の診断結果が出力される。ステップS233~ステップS235の処理は、
図10を用いて説明したステップS205~ステップS207の処理と同じである。したがって、ここではそれらの処理の説明を繰り返さない。
【0118】
変形例4に係る第2推定モデル832は、計測データのみならず、擦過音の有無に関する情報を含む学習用データを用いて生成される。このため、たとえば、擦過音と軸受損傷とが同時に発生しているときに取得された計測データに基づいて軸受診断をするときの監視装置80の診断精度を向上させることができる。
【0119】
<監視装置80の構成のバリエーション>
ここでは、監視装置80の構成のバリエーションを説明する。
図1に示されるように、監視装置80は監視対象の軸受51を含む風力発電装置10に配置されていてもよい。あるいは、監視装置80は、風力発電装置10とインターネットなどのネットワークを介して接続される構成であってもよい。この場合、風力発電装置10内のセンサ70の計測値がネットワークを介して監視装置80に送信されるように構成する。
【0120】
図2に示されるように、汎用のコンピュータ(処理装置)によって監視装置80を構成してもよい。この場合、単体の処理装置によって、監視装置80を実現するための取得部81、擦過音検出部82、軸受診断部83、およびアラート出力部84といった各構成要素が実現される。
【0121】
あるいは、各構成要素を複数の処理装置によって分散させることによって監視装置80を構成してもよい。この場合、複数の処理装置の集合体により、監視装置80が実現される。複数の処理装置の集合体により監視装置80を実現する場合、そのような監視装置80を監視システムと称してもよい。監視システムは、第1処理装置80Aおよび第2処理装置80Bを含む、センサ70を含めて監視システムと称してもよい。
【0122】
図19は、監視装置80の構成のバリエーションの具体例を説明するための図である。
図19には、監視装置80を第1処理装置80Aで構成する第1パターンと、監視装置80を第1処理装置80Aおよび第2処理装置80Bで構成する第2パターン~第4パターンとが示されている。第2処理装置80Bは、インターネットなどのネットワーク5を介して第1処理装置80Aと通信可能に接続される外部装置である。クラウドサーバにより第2処理装置80Bを構成してもよい。なお、監視装置80の構成のバリエーションは、
図19に示されるものに限られない。
【0123】
第1パターンは、第1処理装置80Aに取得部81、擦過音検出部82、軸受診断部83、およびアラート出力部84を設ける例である。第1パターンは、
図2および
図3に示される構成に該当する。
【0124】
第2パターンは、第1処理装置80Aに取得部81および擦過音検出部82を設け、第2処理装置80Bに軸受診断部83およびアラート出力部84を設ける例である。第2パターンにおいて、擦過音検出部82は、ネットワーク5を介して検出結果を軸受診断部83へ送信する。
【0125】
第3パターンは、第1処理装置80Aに取得部81を設け、第2処理装置80Bに擦過音検出部82、軸受診断部83、およびアラート出力部84を設ける例である。第3パターンにおいて、取得部81は、ネットワーク5を介して計測値を擦過音検出部82へ送信する。
【0126】
第4パターンは、第1処理装置80Aに取得部81およびアラート出力部84を設け、第2処理装置80Bに擦過音検出部82および軸受診断部83を設ける例である。第3パターンにおいて、取得部81は、ネットワーク5を介して計測値を擦過音検出部82へ送信し、軸受診断部83は、ネットワーク5を介して診断結果をアラート出力部84へ送信する。
【0127】
このように、本実施の形態においては、軸受の監視に必要な複数の演算処理を単一の第1処理装置80Aで行う構成(エッジコンピューティング)の他、それらの演算処理の一部の演算処理を第2処理装置80Bまたは複数の処理装置で分散して行う構成も想定されている。パーソナルコンピュータ、スマートフォン、およびタブレットなどの外部端末で第2処理装置80Bを構成してもよい。いわゆるクラウドで第2処理装置80Bを構成してもよい。
【0128】
<その他の変形例>
本実施の形態に係る監視装置80は、フーリエ変換処理、スムージング処理、セグメンテーション処理、および正規化処理を順に実行する。ただし、本実施の形態は、各処理の間に、必要に応じた他の処理が加えられることを排除するものではない。たとえば、これらの処理のうちのいずれかの前後において、より細やかにノイズを除去するための何らかの処理や、補足的な何らかの処理を加えてもよい。
【0129】
本実施の形態に係る監視装置80は、正規化処理によって得られた正規化データを用いて擦過音を検出する。これにより、擦過音をより精度よく検出することができる。しかし、本実施の形態は、正規化データに変えて、セグメント化データまたはスムージング化データを用いて擦過音を検出する態様を排除するものではない。
【0130】
さらに、本実施の形態は、正規化データに変えて、スムージング処理前の周波数スペクトルを用いて擦過音を検出する態様を排除するものではない。本実施の形態は、軸受診断をする前に、軸受診断の処理とは別に擦過音を検出する処理を実行し、擦過音の影響を除去したデータに基づいて軸受診断をする点に特徴の1つを有する。
【0131】
フーリエ変換処理をしていない計測データ自体を使って第2推定モデル831の機械学習を行ってもよく、フーリエ変換処理後の周波数スペクトルを用いて第2推定モデル831の機械学習を行ってもよい。第1推定モデル821の機械学習を行う場合と同様に、正規化データを用いて第2推定モデル831の機械学習を行ってもよい。学習済みの第2推定モデル831へは、機械学習の際に用いた形式のデータを入力する。
【0132】
監視装置80は、風力発電装置10内に設けられる複数の種類の軸受を対象にして、擦過音検出および軸受診断を実行してもよい。
【0133】
[態様]
以下、本開示の態様を列挙する。
【0134】
(第1項)第1項に記載の監視装置は、軸受を備える機器を監視する監視装置であって、機器には、前記機器の振動に伴って変動する物理量を計測するセンサが取り付けられ、監視装置は、センサの計測値を取得する取得部と、計測値に基づいて、軸受の擦過音を検出する検出部と、計測値に基づいて、軸受の状態を診断する診断部とを備え、診断部は、擦過音が含まれない計測値を用いて、軸受を診断する。
【0135】
(第2項)第1項に記載の監視装置において、診断部は、検出部により擦過音が検出された計測値を判別することにより、検出部により検出された擦過音が含まれない計測値を特定する。
【0136】
(第3項)第1項に記載の監視装置において、検出部は、センサの計測値の経時変化を示す計測データを時間軸方向で複数のセグメントデータに分割し、セグメントデータ毎に擦過音を検出し、検出部は、計測データのうち擦過音が検出されたセグメントデータ部分を補正し、診断部は、検出部により検出された擦過音が含まれない計測値として、補正後の計測データを用いて、軸受を診断する。
【0137】
(第4項)第3項に記載の監視装置において、補正は、擦過音を含むセグメントデータ部分を計測データから削除することである。
【0138】
(第5項)第3項に記載の監視装置において、補正は、擦過音を含むセグメントデータ部分の計測値を規定値に変更することである。
【0139】
(第6項)第1項~第3項のいずれか1項に記載の監視装置において、検出部は、センサの計測値の経時変化を示す計測データに対して、フーリエ変換処理、スムージング処理、セグメンテーション処理、および正規化処理の各処理を順に実行し、検出部は、各処理を順に実行することで生成された正規化データを、擦過音を検出するための第1推定モデルに入力し、擦過音を検出する。
【0140】
(第7項)第6項に記載の監視装置において、検出部は、センサの計測値の経時変化を示す計測データを時間軸方向で複数のセグメントデータに分割し、セグメントデータに対して各処理を順に実行することで生成されたセグメント単位の正規化データを第1推定モデルに入力し、擦過音を検出する。
【0141】
(第8項)第6項または第7項に記載の監視装置において、第1推定モデルは、擦過音を含む計測データを特徴量のデータとして、決定木、ランダムフォレスト、サポートベクタマシン、およびニューラルネットワークのいずれかのアルゴリズムに基づく機械学習によって生成されている。
【0142】
(第9項)第6項~第8項のいずれか1項に記載の監視装置において、検出部は、擦過音の有無または擦過音の発生確度を擦過音の検出結果として出力する。
【0143】
(第10項)第1項~第9項のいずれか1項に記載の監視装置において、センサは、振動センサ、音響センサ、およびAEセンサのいずれかである。
【0144】
(第11項)第1項~第10項のいずれか1項に記載の監視装置において、監視装置は、第1処理装置および第2処理装置を含み、第1処理装置は、取得部を含み、第2処理装置は、検出部および診断部のうちの少なくとも1つを含む。
【0145】
(第12項)第11項に記載の監視装置において、第1処理装置と第2処理装置とは、ネットワークを介して通信可能に接続される。
【0146】
(第13項)第1項~第12項のいずれか1項に記載の監視装置において、アラートを出力する出力部をさらに備え、出力部は、検出部により擦過音が検出された場合に、第1アラートを出力する。
【0147】
(第14項)第13項に記載の監視装置において、出力部は、診断部により軸受の異常が診断された場合に、第2アラートを出力する。
【0148】
(第15項)第13項または第14項に記載の監視装置において、出力部は、擦過音の検出頻度が閾値を超える場合に、第3アラートを出力する。
【0149】
(第16項)第13項~第15項のいずれか1項に第1項に記載の監視装置において、アラートは、電気的信号、メッセージ、データファイルのいずれかひとつ以上の形態を含む。
【0150】
(第17項)第17項に記載の監視装置は、軸受を備える機器を監視する監視装置であって、機器には、前記機器の振動に伴って変動する物理量を計測するセンサが取り付けられ、監視装置は、センサの計測値を取得する取得部と、計測値に基づいて、軸受の擦過音を検出する検出部と、計測値に基づいて、軸受の状態を診断する診断部とを備え、検出部は、計測値に基づいて生成されたデータを、擦過音を検出するための第1推定モデルに入力して擦過音を検出し、診断部は、検出部の検出結果と、計測値に基づいて生成されたデータとを、軸受を診断するための第2推定モデルに入力して軸受を診断する。
【0151】
(第18項)第17項に記載の監視装置において、第2推定モデルは、検出部の検出結果とデータとに基づいて軸受を診断するように機械学習によって生成されている。
【0152】
(第19項)第19項に記載の監視方法は、軸受を備える機器の状態を監視する監視方法であって、機器には、機器の振動に伴って変動する物理量を計測するセンサが取り付けられ、監視方法は、センサの計測値を取得するステップと、計測値に基づいて、軸受の擦過音を検出するステップと、計測値に基づいて、軸受の状態を診断するステップとを含み、診断するステップは、擦過音が含まれない計測値を用いて、軸受を診断するステップを含む。
【0153】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0154】
1 監視装置、5 ネットワーク、8 学習装置、 10 風力発電装置、15 警報装置、20 主軸、25 ハブ、30 ブレード、40 増速機、50 発電機、60 主軸用軸受、70 センサ、80 監視装置(処理装置)、80A 第1処理装置、80B 第2処理装置、81 取得部、82 擦過音検出部、83 軸受診断部、84 アラート出力部、85 記憶部、90 ナセル、100 タワー、401 軸受、801 CPU、802 RAM、803 ストレージ、804 通信インターフェイス、805 バス、806 監視プログラム、821 第1推定モデル、831,832 第2推定モデル。