(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030931
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】チタニウム微粒子、チタニウム微粒子の製造方法、および、チタニウム微粒子組成物
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240229BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240229BHJP
B22F 1/105 20220101ALI20240229BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20240229BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240229BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240229BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240229BHJP
B22F 10/14 20210101ALN20240229BHJP
B22F 10/16 20210101ALN20240229BHJP
【FI】
B22F1/00 R
B22F1/05
B22F1/105
B22F9/00 B
B33Y70/00
B82Y30/00
B82Y40/00
B22F10/14
B22F10/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134178
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】米澤 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】樋上 晃裕
(72)【発明者】
【氏名】小林 芳男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 詩織
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017AA06
4K017AA08
4K017BA10
4K017CA07
4K017CA08
4K017DA07
4K018BA03
4K018BB04
4K018BB05
4K018BC28
4K018BD04
4K018KA58
(57)【要約】
【課題】ナノサイズであっても反応性が低く取り扱い性が容易なチタニウム微粒子、このチタニウム微粒子を安定して製造することが可能なチタニウム微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】金属チタンからなるコア粒子と、このコア粒子の表面に形成された酸化チタン膜と、を有し、平均粒子径が5nm以上200nm以下の範囲内とされていることを特徴とする。また、チタニウムイオンを含有するイオン伝導性溶液中にアノードとカソードを配置し、これらアノードおよびカソード間に電圧を印加するとともに、前記イオン伝導性溶液に対して超音波を付与することにより、金属チタンからなるコア粒子と、このコア粒子の表面に形成された酸化チタン膜と、を有し、平均粒子径が5nm以上200nm以下の範囲内とされたチタニウム微粒子を製造することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属チタンからなるコア粒子と、このコア粒子の表面に形成された酸化チタン膜と、を有し、
平均粒子径が5nm以上200nm以下の範囲内とされていることを特徴とするチタニウム微粒子。
【請求項2】
前記酸化チタン膜の平均膜厚が1nm以上20nm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載のチタニウム微粒子。
【請求項3】
チタニウムイオンを含有するイオン伝導性溶液中にアノードとカソードを配置し、これらアノードおよびカソード間に電圧を印加するとともに、前記イオン伝導性溶液に対して超音波を付与することにより、
金属チタンからなるコア粒子と、このコア粒子の表面に形成された酸化チタン膜と、を有し、平均粒子径が5nm以上200nm以下の範囲内とされたチタニウム微粒子を製造することを特徴とするチタニウム微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記イオン伝導性溶液がイオン液体であることを特徴とする請求項3に記載のチタニウム微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記イオン伝導性溶液が深共晶溶媒であることを特徴とする請求項3に記載のチタニウム微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記アノードがチタニウムであることを特徴とする請求項3に記載のチタニウム微粒子の製造方法。
【請求項7】
揮発性溶媒に請求項1または請求項2に記載のチタニウム微粒子が分散されていることを特徴とするチタニウム微粒子組成物。
【請求項8】
分散剤を含有することを特徴とする請求項7に記載のチタニウム微粒子組成物。
【請求項9】
バインダーを含有することを特徴とする請求項7に記載のチタニウム微粒子組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ナノサイズのチタニウム微粒子、チタニウム微粒子の製造方法、および、チタニウム微粒子組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタニウムおよびチタニウム基合金は、軽量で強度が高く、軽量化・高強度化が求められる部材の素材として使用されている。また、チタニウムおよびチタニウム基合金は、生体親和性が高いことから、医療用部材としても広く使用されている。さらに、酸化チタン膜は、光触媒としても利用されている。
【0003】
ところで、近年では、金属粉末を用いた積層造形技術によって、複雑な形状の金属部材が製造されている。積層造形に用いられる金属粉末としては、焼結性の向上の観点からナノサイズの金属微粒子が用いられている。
【0004】
ここで、チタニウムにおいても、熱プラズマ法や電気爆発法などの気相法を用いることにより、ナノサイズの微粒子を製造することは可能である。
しかしながら、チタニウムは非常に活性が高いために、ナノサイズのチタニウム微粒子においては、比表面積が大きく、大気中において激しく酸化反応して発熱するおそれがあり、取り扱いが非常に困難であった。
そこで、非特許文献1には、プラズマガス中にメタンやアセチレン等を添加し、表面に炭素成分をコーティングすることにより、急激な酸化反応を抑制する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】中村圭太郎;「プラズマプロセスによるナノ粒子合成と応用」,エアロゾル研究、29(2),98-103(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に開示されたチタニウム微粒子においては、表面に炭素成分がコーティングされていることから、積層造形時に炭素成分が十分に分解されず、活性な金属面が露出せず、焼結性が低下するおそれがあった。
また、チタニウム微粒子を製造するのに、大掛かりな装置が必要であり、製造コストが高くなるといった問題があった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、ナノサイズであっても反応性が低く取り扱い性が容易なチタニウム微粒子、このチタニウム微粒子を安定して製造することが可能なチタニウム微粒子の製造方法、および、このチタニウム微粒子を含有するチタニウム微粒子組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の態様1のチタニウム微粒子は、金属チタンからなるコア粒子と、このコア粒子の表面に形成された酸化チタン膜と、を有し、平均粒子径が5nm以上200nm以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0009】
本発明の態様1のチタニウム微粒子によれば、金属チタンからなるコア粒子と、このコア粒子の表面に形成された酸化チタン膜と、を有しているので、平均粒子径が5nm以上200nm以下の範囲内であって比表面積が大きくても、酸化チタン膜によって金属チタンの急激な反応を抑制することができ、取り扱い性に優れている。また、酸化チタン膜は還元ガスや有機物による還元によって比較的容易に除去することができることから、積層造形時に酸化チタン膜を除去することで金属チタンが露出し、焼結性が向上する。よって、積層造形用の金属粉末として特に適している。
また、本発明の態様1のチタニウム微粒子に対して大気雰囲気での熱処理を行うことで、酸化チタン膜の膜厚を増加させることにより、代表的な光触媒である酸化チタンシェルと金属チタンコアの構造となり、金属チタンの表面局在プラズモンの近接場効果によって高い触媒活性が期待できる。
【0010】
本発明の態様2のチタニウム微粒子は、態様1のチタニウム微粒子において、前記酸化チタン膜の平均膜厚が1nm以上20nm以下の範囲内とされていることを特徴としている。
本発明の態様2のチタニウム微粒子によれば、前記酸化チタン膜の平均膜厚が1nm以上とされているので、反応性を十分に低くすることができる。一方、前記酸化チタン膜の平均膜厚が20nm以下とされているので、比較的容易に酸化チタン皮膜を除去することができ、焼結性に特に優れている。
【0011】
本発明の態様3のチタニウム微粒子の製造方法は、チタニウムイオンを含有するイオン伝導性溶液中にアノードとカソードを配置し、これらアノードおよびカソード間に電圧を印加するとともに、前記イオン伝導性溶液に対して超音波を付与することにより、金属チタンからなるコア粒子と、このコア粒子の表面に形成された酸化チタン膜と、を有し、平均粒子径が5nm以上200nm以下の範囲内とされたチタニウム微粒子を製造することを特徴としている。
【0012】
本発明の態様3のチタニウム微粒子の製造方法によれば、チタニウムイオンを含有するイオン伝導性溶液中に配置したアノードとカソードとの間に電圧を印加することで、チタニウムを析出させることができる。
また、前記イオン伝導性溶液に対して超音波を付与することにより、チタニウムの粒子径が粗大化することを抑制できる。
さらに、イオン伝導性溶液中で金属チタンが穏やかに酸化するため、金属チタンからなるコア粒子と、このコア粒子の表面に形成された酸化チタン膜と、を有する構造のチタニウム微粒子を製造することができる。
【0013】
本発明の態様4のチタニウム微粒子の製造方法は、態様3のチタニウム微粒子の製造方法において、前記イオン伝導性溶液がイオン液体であることを特徴としている。
本発明の態様4のチタニウム微粒子の製造方法によれば、前記イオン伝導性溶液がイオン液体とされているので、上述のチタニウム微粒子を安定して製造することが可能となる。
【0014】
本発明の態様5のチタニウム微粒子の製造方法は、態様3のチタニウム微粒子の製造方法において、前記イオン伝導性溶液が深共晶溶であることを特徴としている。
本発明の態様5のチタニウム微粒子の製造方法によれば、前記イオン伝導性溶液が深共晶溶とされているので、上述のチタニウム微粒子を安定して製造することが可能となる。
【0015】
本発明の態様6のチタニウム微粒子の製造方法は、態様3から態様5のいずれかひとつのチタニウム微粒子の製造方法において、前記アノードがチタニウムであることを特徴としている。
本発明の態様6のチタニウム微粒子の製造方法によれば、チタニウムで構成されたアノードがイオン伝導性溶液中に溶解することで、イオン伝導性溶液中のチタニウムイオン量を十分に確保することができる。これにより、イオン伝導性溶液中に別途チタニウム原料を添加する必要がなく、長時間安定してチタニウム微粒子を製造することができる。
【0016】
本発明の態様7のチタニウム微粒子組成物は、揮発性溶媒に態様1または態様2のチタニウム微粒子が分散されていることを特徴としている。
本発明の態様7のチタニウム微粒子組成物によれば、チタニウム微粒子を容易に取り扱うことができる。
【0017】
本発明の態様8のチタニウム微粒子組成物は、態様7のチタニウム微粒子組成物において、分散剤を含有することを特徴としている。
本発明の態様8のチタニウム微粒子組成物によれば、分散剤を含有しているので、チタニウム微粒子が凝集することを確実に抑制することができる。
【0018】
本発明の態様9のチタニウム微粒子組成物は、態様7または態様8のチタニウム微粒子組成物において、バインダーを含有することを特徴としている。
本発明の態様9のチタニウム微粒子組成物によれば、バインダーを含有しているので、バインダージェット式の積層造形にも適用することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ナノサイズであっても反応性が低く取り扱い性が容易なチタニウム微粒子、このチタニウム微粒子を安定して製造することが可能なチタニウム微粒子の製造方法、および、このチタニウム微粒子を含有するチタニウム微粒子組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態であるチタニウム微粒子の概略説明図である。(a)が概略説明図、(b)が断面説明図である。
【
図2】本発明の実施形態であるチタニウム微粒子の製造方法を実施する電流印可装置の概略断面説明図である。
【
図3】本発明の実施形態であるチタニウム微粒子の製造方法におけるイオン伝導性溶液の観察写真である。(a)が電流印可処理前、(b)が電流印可処理後である。
【
図4】本発明の実施形態であるチタニウム微粒子の観察写真である。
【
図5】本発明の実施形態であるチタニウム微粒子のXRD分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0022】
まず、本実施形態であるチタニウム微粒子について、
図1を参照して説明する。
本実施形態であるチタニウム微粒子10は、
図1に示すように、金属チタンからなるコア粒子11と、このコア粒子11の表面に形成された酸化チタン膜12と、を有しており、いわゆるコアシェル構造とされている。
【0023】
そして、チタニウム微粒子10の平均粒子径Dが5nm以上200nm以下の範囲内とされている。
なお、チタニウム微粒子10の平均粒子径Dは、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましい。また、チタニウム微粒子10の平均粒子径Dは、150nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0024】
ここで、本実施形態であるチタニウム微粒子10においては、酸化チタン膜12の平均膜厚tは1nm以上20nm以下の範囲内とされていることが好ましい。
なお、酸化チタン膜12の平均膜厚tは、2nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることがさらに好ましい。また、酸化チタン膜12の平均膜厚tは、15nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。
【0025】
また、本実施形態であるチタニウム微粒子10においては、コア粒子11の平均粒径dと酸化チタン膜12の平均膜厚tとの比t/dが0.005以上0.5以下の範囲内であることが好ましい。
なお、コア粒子11の平均粒径dと酸化チタン膜12の平均膜厚tとの比t/dは、0.007以上であることがより好ましく、0.01以上であることがさらに好ましい。また、コア粒子11の平均粒径dと酸化チタン膜12の平均膜厚tとの比t/dは、0.3以下であることがより好ましく、0.2以下であることがさらに好ましい。
【0026】
次に、本実施形態に係るチタニウム微粒子の製造方法を実施する際に用いられる電流印可装置30について
図2を参照して説明する。
この電流印可装置30は、チタニウムイオンを含有するイオン伝導性溶液20が貯留される電流印可槽31と、この電流印可槽31内に配置されたアノード板32およびカソード板33と、イオン伝導性溶液20に対して超音波を付与する超音波付与装置34と、を備えている。
【0027】
ここで、本実施形態においては、イオン伝導性溶液20として、イオン液体を用いることが好ましい。
イオン液体は、イオンのみで構成されている物質(塩)であるにもかかわらず、常温で液体である物質群の総称であり、蒸気圧は実質的にゼロであり、空気中で安定に存在し、様々な物質を溶解させ、イオン伝導度も大きい特徴を持つ。
構成するイオンは、イミダゾリウム塩、ピロリジニウム塩、ピリジ二ウム塩、ピペリジニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩に分類され、ハロゲンなどの単原子アニオンや、フッ素系無機アニオン、非フッ素系無機アニオン、フッ素系有機アニオン、非フッ素系有機アニオン 側鎖のアルキル基(R)やアニオン種を変えることで、融点や粘度、イオン電導度などの物性をデザインすることが可能である。
【0028】
あるいは、本実施形態においては、イオン伝導性溶液20として、深共晶溶媒を用いることが好ましい。
深共晶溶媒(DES:Deep Eutectic Solvent)は、「水素結合ドナー性の化合物」と「水素結合アクセプター性の化合物」(これらは両方もしくはどちらか一方が固体である)をある一定の割合で混ぜることで生成され、室温で液体になる化合物である。
水素結合ドナーとアクセプターはそれぞれが室温付近で固体でも、混ぜることで共晶融点降下が起こり、室温付近での液体状態が作り出せる。イオン液体と類似の蒸気圧が低く、難燃性であり、熱安定性および電気化学的安定性が高く(電位窓が広い)、任意の物質を溶かしやすいといった特徴を示す。
「水素結合ドナー性の化合物」と「水素結合アクセプター性の化合物」を混ざるだけという簡便さから、イオン液体に比べて低コストである。また、イオン液体に比べて環境親和性が高く、有毒なものが少ないのも特徴である。
【0029】
また、アノード板32としては、各種金属板を用いることができる。本実施形態では、アノード板32として、チタニウム板を用いている。不純物の混入や生成したチタニウム微粒子10の再溶解を防ぐ点で、アノードはチタニウムとすることが好ましい。
イオン伝導性溶液20として、アルミニウムを溶解する溶液を用いた場合には、アノード板32が溶解することで、イオン伝導性溶液20中のチタニウムイオン量が長時間にわたって確保されることになる。
【0030】
カソード板33としては、各種金属板を用いることができる。カソード板33は、イオン伝導性溶液20に溶解し難い金属で構成されていることが好ましい。なお、本実施形態では、カソード板33として、チタニウム板を用いている。
【0031】
本実施形態では、超音波付与装置34は、市販の超音波洗浄機を利用している。すなわち、超音波洗浄機の洗浄槽内に電流印可槽31を配置し、電流印可槽31に貯留されたイオン伝導性溶液20に対して超音波を付与する構成とされている。
【0032】
次に、上述の電流印可装置30を用いた本実施形態であるチタニウム微粒子の製造方法について説明する。
【0033】
電流印可槽31内に貯留されたイオン伝導性溶液20に、アノード板32およびカソード板33が配置され、これらアノード板32とカソード板33との間に電圧を印加して通電する。ここで、アノード板32とカソード板33との間に印加する電圧は5V以上30V以下の範囲内、電流密度を0.1A/cm2以上2A/cm2以下の範囲内とすることが好ましい。
【0034】
また、イオン伝導性溶液20の温度に特に制限はないが、イオン伝導性溶液20の温度が高すぎると、生成するチタニウム微粒子10が粗大化する傾向にあることから、80℃以下であることが好ましく、70℃以下であることがより好ましい。
なお、イオン伝導性溶液20として深共晶溶媒を用いる場合には、イオン伝導性溶液20の温度は、共晶温度以上とすることが好ましい。
【0035】
そして、超音波付与装置34を用いて、イオン伝導性溶液20に対して超音波を付与する。ここで、イオン伝導性溶液20に付与する超音波の周波数は20kHz以上3000kHz以下の範囲内、出力は電流印可槽31の大きさに依存するが100W以上1500W以下の範囲内とすることが好ましい。
【0036】
アノード板32とカソード板33との間に電圧を印加することにより、イオン伝導性溶液20中のチタニウムイオンが電流印可され、金属チタンからなるコア粒子11が生成する。そして、イオン伝導性溶液20中においてコア粒子11の表面が穏やかに酸化され、酸化チタン膜12が形成される。これにより、コアシェル構造のチタニウム微粒子10が生成される。
チタニウム微粒子10が生成したイオン伝導性溶液20を遠心分離することにより、本実施形態であるチタニウム微粒子10を回収する。
【0037】
ここで、
図3に、電流印可処理前のイオン伝導性溶液20(
図3(a))と電流印可処理後のイオン伝導性溶液20(
図3(b))を示す。
電流印可処理を実施することにより、チタニウム微粒子10が生成することで、イオン伝導性溶液20が変色していることが確認される。
図4に示すように、平均粒子径が5nm以上200nm以下の範囲内とされた複数のチタニウム微粒子10が確認される。なお、
図4に示すチタニウム微粒子10の平均粒子径は8nmである。
【0038】
図5に、生成したチタニウム微粒子10のXRD分析結果を示す。コア粒子11が金属チタニウムであることが確認されている。
【0039】
なお、得られたチタニウム微粒子10を揮発性溶媒に分散させ、本実施形態であるチタニウム微粒子組成物としてもよい。ここで、チタニウム微粒子10を分散させる揮発性溶媒としては、製造時に用いた溶媒とは別の溶媒とすることが好ましい。
また、本実施形態であるチタニウム微粒子組成物においては、さらに分散剤を含有していてもよいし、バインダーを含有していてもよい。
【0040】
以上のような構成とされた本実施形態であるチタニウム微粒子10によれば、金属チタンからなるコア粒子11と、このコア粒子11の表面に形成された酸化チタン膜12と、を有しているので、平均粒子径Dが5nm以上200nm以下の範囲内であって比表面積が大きくても、酸化チタン膜12によって金属チタンからなるコア粒子11の急激な反応を抑制することができ、取り扱い性に優れている。
【0041】
また、酸化チタン膜12は比較的容易に除去することができることから、焼結性に優れており、積層造形用の金属粉末として特に適している。
さらに、本実施形態のチタニウム微粒子10に対して大気雰囲気での熱処理を行うことで、酸化チタン膜12の膜厚を増加させることにより、代表的な光触媒である金属チタンからなるコア粒子11と酸化チタン膜12からなるシェルのコアシェル構造となり、金属チタンの表面局在プラズモンの近接場効果によって高い触媒活性が期待できる。
【0042】
また、本実施形態のチタニウム微粒子10において、酸化チタン膜12の平均膜厚tが1nm以上とされている場合には、チタニウム微粒子10の反応性を十分に低くすることができ、取り扱い性に特に優れている。一方、酸化チタン膜12の平均膜厚tが20nm以下とされている場合には、酸化チタン膜12を比較的容易に除去することができ、焼結性に特に優れている。
【0043】
本実施形態であるチタニウム微粒子の製造方法によれば、チタニウムイオンを含有するイオン伝導性溶液20中に配置したアノード32とカソード33との間に電圧を印加しているので、電流印可によって、金属チタンからなるコア粒子11を生成することが可能となる。
また、イオン伝導性溶液20に対して超音波を付与することにより、金属チタンからなるコア粒子11の粒子径が粗大化することを抑制できる。
そして、イオン伝導性溶液20中で金属チタンからなるコア粒子11が穏やかに酸化するため、金属チタンからなるコア粒子11と、このコア粒子11の表面に形成された酸化チタン膜12と、を有するコアシェル構造のチタニウム微粒子10を製造することができる。
【0044】
本実施形態であるチタニウム微粒子の製造方法において、イオン伝導性溶液20がイオン液体とされている場合には、上述のチタニウム微粒子10を安定して製造することが可能となる。
また、本実施形態であるチタニウム微粒子の製造方法において、イオン伝導性溶液20が深共晶溶とされているので、上述のチタニウム微粒子10を安定して製造することが可能となる。
【0045】
本実施形態であるチタニウム微粒子の製造方法において、アノード32がチタニウムである場合には、チタニウムで構成されたアノード32がイオン伝導性溶液20中に溶解することで、イオン伝導性溶液20中のチタニウムイオン量を十分に確保することができる。これにより、イオン伝導性溶液20中に別途チタニウム原料を添加する必要がなく、長時間安定してチタニウム微粒子10を製造することができる。
【0046】
本実施形態であるチタニウム微粒子組成物によれば、揮発性溶媒にチタニウム微粒子10が分散されているので、このチタニウム微粒子10を容易に取り扱うことができる。
また、本実施形態であるチタニウム微粒子組成物において、分散剤を含有している場合には、チタニウム微粒子10が凝集することを確実に抑制することができる。
さらに、本実施形態であるチタニウム微粒子組成物において、バインダーを含有している場合には、チタニウム微粒子10をバインダージェット式の積層造形にも適用することができる。
【0047】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、アノード、カソード板をチタニウム板で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の金属からなるアノードおよびカソードを用いてもよい。
【実施例0048】
本発明の有効性を確認するために行った確認実験について説明する。
【0049】
(本発明例1-4、比較例2-4)
表1に示す溶液500mLを電流印可槽に貯留し、アノード板、カソード板として幅50mmのチタニウム板を準備し、これらアノード板とカソード板を、距離20mmで対向して配置した。このときのイオン伝導性溶液の温度を表1に示す。
アノード板とカソード板との間に、表1に示す電流を2時間通電した。また、表1に示す条件で、溶液に対して、表1に示す条件で超音波を付与した。なお、比較例3では通電を実施せず、比較例4では超音波を付与しなかった。
そして、電流印可処理後に溶液を遠心分離し、生成したチタニウム微粒子を回収した。
【0050】
(比較例1)
比較例1においては、従来の気相法(熱プラズマ法)により、チタニウム微粒子を製造した。
【0051】
(チタニウム微粒子の生成状況)
チタニウム微粒子の生成状況として、1時間当たりのチタニウム微粒子の生成量が0.01g以上の場合を「〇」、1時間当たりのチタニウム微粒子の生成量が0.01g未満の場合を「×」と評価した。
【0052】
(チタニウム微粒子の平均粒子径、酸化チタン膜の膜厚)
得られたチタニウム微粒子を、透過型電子顕微鏡(日本電子社製JEM-2010F)を用い、20万倍、及び、150万倍で観察するとともにEDS分析を実施した。そして、チタニウム微粒子の平均粒子径、酸化チタン膜の平均膜厚を測定した。平均粒子径の測定は、20万倍で任意に撮影した5視野から任意に50個測定し、球状でない場合は、長軸方向を粒径とした。酸化チタン膜の平均膜厚は、粒径を測定した粒子のうち、10個を150万倍で撮影、長軸方向に対するSTEM-EDSによる線分析の結果から、原子%でO/Ti≧1となる領域を酸化チタンの膜厚とし、その平均値を算出した。
【0053】
【0054】
比較例1においては、気相法(熱プラズマ法)によって生成されたチタニウム微粒子であり、表面に酸化チタン膜が形成されていなかった。このため、大気中で激しく酸化反応し、取り扱いが困難であった。
比較例2においては、電流印可槽に溶液として水を貯留し、電流印可処理を実施したが、チタニウム微粒子が生成しなかった。
比較例3においては、電流印可槽に貯留した溶液に対して通電しなかったため、チタニウム微粒子が生成しなかった。
比較例4においては、電流印可槽に貯留した溶液に対して超音波を付与しなかったため、チタニウム微粒子が生成しなかった。
【0055】
これに対して、本発明例1,2においては、電流印可槽に溶液として深共晶溶媒を貯留し、超音波を付与しながら電流印可処理を行っており、金属チタンからなるコア粒子とこのコア粒子の表面に形成された酸化チタン膜を有するコアシェル構造のチタニウム微粒子を製造することができた。
また、本発明例3,4においては、電流印可槽に溶液としてイオン液体を貯留し、超音波を付与しながら電流印可処理を行っており、金属チタンからなるコア粒子とこのコア粒子の表面に形成された酸化チタン膜を有するコアシェル構造のチタニウム微粒子を製造することができた。
そして、本発明1-4においては、上述のように酸化チタン膜が形成されていることから、大気中での急激な酸化が抑制されており、取り扱い性に優れていた。
【0056】
以上のように、本発明によれば、ナノサイズであっても反応性が低く取り扱い性が容易なチタニウム微粒子、および、このチタニウム微粒子を安定して製造することが可能なチタニウム微粒子の製造方法を提供可能であることが確認された。