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特開2024-30935固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ及び固体酸化物形電気化学セルスタック
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  • 特開-固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ及び固体酸化物形電気化学セルスタック 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030935
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ及び固体酸化物形電気化学セルスタック
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0228 20160101AFI20240229BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20240229BHJP
   H01M 8/021 20160101ALI20240229BHJP
   H01M 8/0247 20160101ALI20240229BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20240229BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240229BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240229BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20240229BHJP
   C25B 13/05 20210101ALI20240229BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/12 101
H01M8/021
H01M8/0247
C25B1/042
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B13/04 302
C25B13/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134184
(22)【出願日】2022-08-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2018年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/高温水蒸気電解技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌平
(72)【発明者】
【氏名】亀田 常治
(72)【発明者】
【氏名】浅山 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】長田 憲和
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 理子
【テーマコード(参考)】
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB49
4K021DB53
5H126AA14
5H126BB06
5H126GG01
5H126GG02
5H126GG08
5H126GG13
5H126JJ00
5H126JJ03
(57)【要約】
【課題】保護膜を緻密化して金属基材に対する密着性を高めると共に、複雑な形状に対する施工性を満足させることを可能にした固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタを提供する。
【解決手段】実施形態の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ1は、クロムを含有する鉄基合金からなる金属基材2と、金属基材2の表面上に設けられた保護膜3とを具備する。金属基材2と保護膜3との間には、応力を緩和することが可能な中間層4が介在されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロムを含有する鉄基合金からなる金属基材と、
前記金属基材の表面上に設けられた保護膜とを具備する固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタであって、
前記金属基材と前記保護膜との間に、応力を緩和することが可能な中間層が介在されている、固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ。
【請求項2】
前記中間層は、それを構成する元素の自己拡散係数が、前記金属基材中の鉄及びクロムの自己拡散係数より大きい材料を含む、請求項1に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ。
【請求項3】
前記中間層を構成する前記元素の自己拡散係数が、前記金属基材中の鉄及びクロムの自己拡散係数より1桁以上大きい、請求項2に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ。
【請求項4】
前記中間層は、ヤング率が前記金属基材のヤング率より小さい材料を含む、請求項2に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ。
【請求項5】
前記中間層は、Cu、Au、及びAgからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属元素を含む金属材料からなる、請求項2に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ。
【請求項6】
前記中間層は、ヤング率が前記金属基材のヤング率より小さい材料を含む、請求項1に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ。
【請求項7】
前記中間層は、Mg、Al、Cu、Pd、Au、Ag、Zn、及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属元素を含む金属材料からなる、請求項6に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ。
【請求項8】
前記インターコネクタの表面上にしわが存在する、請求項1に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ。
【請求項9】
前記保護膜は、Co、Ni、Mn、Cu、Fe、Cr、及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む酸化物からなる、請求項1に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ。
【請求項10】
前記保護膜は、Coを含むスピネル型酸化物、及びCoとLa及びSrからなる群より選ばれる少なくとも1つとを含むペロブスカイト型酸化物から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ。
【請求項11】
前記中間層は、0.3μm以上10μm以下の厚さを有する、請求項1に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ。
【請求項12】
前記保護膜は、0.3μm以上20μm以下の厚さを有する、請求項1に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ。
【請求項13】
水素原子を有する物質を含む雰囲気と接する第1電極と、酸素を含む雰囲気と接する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在された固体酸化物電解質層とを備える第1電気化学セルと、
水素原子を有する物質を含む雰囲気と接する第1電極と、酸素を含む雰囲気と接する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在された固体酸化物電解質層とを備える第2電気化学セルと、
前記第1電気化学セルの前記第2電極と前記第2電気化学セルの前記第1電極とを電気的に接続されるように、前記第1電極と前記第2電極との間に配置された、請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載されたインターコネクタとを具備する固体酸化物形電気化学セルスタックであって、
前記インターコネクタは、少なくとも前記保護膜が前記第1電気化学セルの前記第2電極側に位置するように配置されている、固体酸化物形電気化学セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ及び固体酸化物形電気化学セルスタックに関する。
【背景技術】
【0002】
脱炭素社会に向けた新エネルギーの1つとして、水素が挙げられる。水素の利用分野として、水素と酸素を電気化学的に反応させることにより、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池が注目されている。燃料電池は高いエネルギー利用効率を有し、大規模分散電源、家庭用電源、移動用電源として開発が進められている。燃料電池は、使用温度域、使用する材料や燃料に応じて分類される。使用する電解質材料により分類すると、固体高分子形、リン酸形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形に分類される。
【0003】
燃料電池のうち、効率等の観点から、固体酸化物電解質を使用した固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)が注目されている。一方で、水素は単独で自然界に存在しないため、燃料電池を備える水素システムへの水素の運搬が必要となる。電解セルは、燃料電池とは逆反応である水電解反応を起こすことが可能であり、これにより水素システム内で水素を製造することが可能となる。水素製造反応としては、アルカリ水電解形、固体高分子形、固体酸化物形に分類される。例えば、高温の水蒸気の状態で水を電気分解する高温水蒸気電解法を適用した固体酸化物形電解セル(Solid Oxide Electrolysis Cell:SOEC)は、最も水素製造効率が高いために注目されている。SOECの動作原理はSOFCの逆反応であり、SOFCと同様に、固体酸化物からなる電解質が使用されている。
【0004】
固体酸化物形電気化学セルは、燃料電池及び電解セルのいずれの電気化学反応も高効率で行うことが可能であるために注目されている。SOFCやSOEC等に用いられる固体酸化物形電気化学セルは、酸素極(空気極)と固体酸化物電解質層と水素極(燃料極)の積層体を有している。このような積層体を有する電気化学セルを、インターコネクタを介して複数積層してスタック化することによって、大容量化した電気化学セルスタックとして用いられている。固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタは耐熱性が要求されるため、一般的に耐熱材料として用いられるクロム(Cr)含有率が15質量%以上の高Cr鋼が使用されることが多い。高Cr鋼においては、高温で表面に酸化クロム(Cr)を主とする酸化被膜が形成される。
【0005】
固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタに高Cr鋼を使用する場合、固体酸化物形電気化学セルの動作環境下において、CrからCr元素が蒸発し、固体酸化物形電気化学セルの電極部に付着することで、固体酸化物形電気化学セルの特性を低下させる要因となる。これらの問題を解決するために、固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタへの適用材料が広く検討されている。Crの飛散に関しては、高Cr鋼を緻密な保護膜で覆うことによって、Crの飛散を抑制することが検討されている。保護膜に要求される特性としては、耐熱性や電気伝導性、密着性等が挙げられる。
【0006】
例えば、スピネル型酸化物やペロブスカイト型酸化物等が保護膜材料として検討されている。これらのうち、ペロブスカイト型酸化物は電気伝導性に優れる半面、基板との熱膨張差が大きいために、被膜の剥離が懸念される。一方、基板との熱膨張差が小さいスピネル型酸化物においても、工夫が必要になる。例えば、スピネル型酸化物の組成を調整することで、基板との熱膨張差を小さくして密着性を高めることが検討されている。しかし、スピネル型酸化物の組成を調整すると、インターコネクタの面内の組成バラツキやロットによる組成バラツキ等を制御する必要が生じ、さらに目的の組成を成膜できる成膜手法が限定される等の制約を受けることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5770659号公報
【特許文献2】特開2019-079628号公報
【特許文献3】特開2021-096964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、高Cr鋼上に設けられる保護膜の剥離等を抑制することを可能にした固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ、及びそのようなインターコネクタを用いた固体酸化物形電気化学セルスタックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタは、クロムを含有する鉄基合金からなる金属基材と、前記金属基材の表面上に設けられた保護膜とを具備し、金属基材と保護膜との間に応力を緩和することが可能な中間層が介在されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタを示す断面図である。
図2】実施形態の固体酸化物形電気化学セルスタックを示す断面図である。
図3】比較例1による固体酸化物形電気化学スタック用インターコネクタの高温曝露後の外観の拡大写真である。
図4】実施例1による固体酸化物形電気化学スタック用インターコネクタの高温曝露後の外観の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ及び固体酸化物形電気化学セルスタックについて、図面を参照して説明する。以下に示す各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。以下の説明に使用される“~”の記号は、それぞれの数値の上限値と下限値の間の範囲を示すものである。その場合、各数値範囲は上限値及び下限値を含むものである。
【0012】
図1は第1の実施形態による固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタの断面を示している。図1に示すインターコネクタ1は、第1面2aと第2面2bとを有する金属基材2を具備する。インターコネクタ1を固体酸化物形電気化学セルスタックに用いるにあたって、金属基材2の第1面2aは、酸素極(空気極)側に配置される面であり、酸素を含む雰囲気(空気等)に晒される面である。金属基材2の第2面2bは、水素極(燃料極)側に配置される面であり、水素を含む雰囲気に晒される面である。なお、第2面2b側には水素を流すことに限らず、例えばSOFCではメタノール(CHOH)等を流す場合もあるため、第2面2bは水素原子を有する物質を含む雰囲気に晒される面であればよい。第1面2a側には空気を流すことに限らず、例えばSOECでは何も流さない、もしくは酸素を流す場合もあるため、第1面2aは酸素を含む雰囲気に晒される面であればよい。金属基材2の第1面2aには、保護膜3が設けられている。なお、保護膜3は金属基材2の第1面2a及び第2面2bの両面に設けてもよい。
【0013】
図1に示すインターコネクタ1は、例えば図2に示す固体酸化物形電気化学セルスタック10に用いられる。図2に示す固体酸化物形電気化学セルスタック10は、第1電気化学セル11と第2電気化学セル12とを、インターコネクタ1を介して積層した構造を有している。なお、図2は第1電気化学セル11と第2電気化学セル12とを積層した構造を示しているが、電気化学セル12の積層数は特に限定されるものではなく、3個以上の電気化学セルを積層した構造を有していてもよい。3個以上の電気化学セルを積層する場合、隣接する2個の電気化学セル間にはそれぞれインターコネクタが配置され、各電気化学セル間はインターコネクタにより電気的に接続される。
【0014】
第1電気化学セル11及び第2電気化学セル12は同一構成を有し、それぞれ水素極(燃料極)として機能する第1電極13と、酸素極(空気極)として機能する第2電極14と、これら電極13、14間に配置された固体酸化物電解質層15とを有している。第1及び第2電極13、14は、それぞれ多孔質な電気伝導体により形成されている。固体酸化物電解質層15は、緻密質な固体酸化物電解質からなり、酸素イオン(O2-)のようなイオンを通すものの、気体及び電気を通さないイオン伝導体により形成されている。第1電極13とインターコネクタ1との間には、必要に応じて、多孔質な第1集電部材16を配置してもよい。同様に、第2電極14とインターコネクタ1との間には、必要に応じて、多孔質な第2集電部材17を配置してもよい。第1及び第2集電部材16、17は、反応ガスを通過させつつ、第1及び第2電気化学セル11、12とインターコネクタ1との電気的な接続を向上させる部材である。
【0015】
図2では図示を省略したが、第1及び第2電気化学セル11、12の周囲には、ガス流路が設けられている。すなわち、第1及び第2電極13、14には、電気化学セルスタック10の使用用途に応じた供給ガスが、それぞれガス流路の一部を介して供給される。第1及び第2電極13、14で生成されて排出される排出ガスは、ガス流路の他の一部を介して第1及び第2電気化学セル11、12から排出される。第1及び第2電極13、14に供給されるガス及び電極13、14周囲の雰囲気は、緻密質な固体酸化物電解質15及びインターコネクタ1により分離されている。電気化学セルスタック10をSOFC等の燃料電池として使用する場合、水素極(燃料極)としての第1電極13には水素(H)やメタノール(CHOH)ガス等の還元性ガスが供給され、酸素極(空気極)としての第2電極14には空気や酸素(O)等の酸化性ガスが供給される。電気化学セルスタック10を高温水蒸気電解法を適用したSOEC等の電解セルとして使用する場合、水素極としての第1電極13には水蒸気(HO)が供給される。
【0016】
図1に示すインターコネクタ1は、図2に示す電気化学スタック10における第1及び第2電気化学セル11、12間に配置されるインターコネクタ1として用いられる。インターコネクタ1において、金属基材2の第1面2aは酸素極としての第2電極14側に配置され、金属基材2の第2面2bは水素極としての第1電極13側に配置される。図2において、金属基材2の第1面2aは第1電気化学セル11の第2電極14側に配置され、金属基材2の第2面2bは第2電気化学セル12の第1電極13側に配置されている。このため、金属基材2の第1面2aは、空気極としての第2電極14に供給される空気のような酸素を含む雰囲気に晒される。金属基材2の第2面2bは、水素極としての第1電極13に供給される水素、水素と水蒸気の混合ガスのような水素を含む雰囲気、もしくは第1電極13から排出される同様な水素を含む雰囲気に晒される。
【0017】
図2に示す電気化学セルスタック10に用いられるインターコネクタ1において、金属基材2にはクロム(Cr)を含有する鉄基合金、すなわちステンレス鋼(SUS)が用いられる。電気化学セルスタック10においては、例えばSUS430のような電気化学セル11、12と熱膨張率が近いフェライト系ステンレスからなる金属基材2が適用される。金属基材2にステンレス鋼を用いた場合、金属基材2に含まれるCrが、SOFCやSOECの運転温度である600~1000℃程度の高温域において、酸素や水蒸気と反応して蒸気化し、第2電極14等に付着して性能を低下させるおそれがある。そこで、クロムの蒸気化及びそれに伴う拡散を抑制するために、インターコネクタ1は金属基材2の少なくとも第1面2aを被覆する保護膜3を有している。
【0018】
保護膜3の構成材料としては、SOFCやSOEC等の作動温度域で電気伝導性を示すスピネル型酸化物及びペロブスカイト型酸化物から選ばれる少なくとも1つを含んでいることが好ましい。スピネル型酸化物は、AB(A及びBは同一又は相異なる金属元素等の陽イオン元素である。)で表される酸化物である。ペロブスカイト型酸化物はABO(A及びBは同一又は相異なる金属元素等の陽イオン元素である。)で表される酸化物である。スピネル型酸化物及びペロブスカイト型酸化物は、いずれもSOFCやSOEC等の作動温度域で電気伝導性を示すため、導電性が求められる保護膜3に好適である。
【0019】
スピネル型酸化物やペロブスカイト型酸化物に含まれる金属元素としては、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ランタン(La)、及びストロンチウム(Sr)からなる群より選ばれる少なくとも1つが挙げられる。Coを含むスピネル型酸化物は、保護膜3の構成材料として有効である。Coはスピネル型酸化物のAサイト元素及びBサイト元素のどちらとしても機能するため、Coで表されるスピネル型酸化物を形成し得るものである。さらに、このようなCo含有のスピネル型酸化物に、Ni、Mn、Cu、Fe、Cr、Zn、Al、及びTiから選ばれる少なくとも1つを添加した材料も有効であり、電気伝導性の向上や熱膨張率の不一致緩和等の効果を期待することができる。さらに、Coに代えてFe、Ni、Mn等を用いたスピネル型酸化物を保護膜3の構成材料として使用することができる。
【0020】
ペロブスカイト型酸化物としては、CoとLa及びSrから選ばれる少なくとも1つとを含む酸化物、例えばLaCoO、SrCoO、(La,Sr)CoO等が挙げられる。そのようなペロブスカイト酸化物にNi、Mn、Cu、Fe、Cr、Zn、Al、及びTiから選ばれる少なくとも1つを添加した材料、例えばLa(Co,Fe)O、Sr(Co,Fe)O、(La,Sr)(Co,Fe)O等であってもよい。Feに代えてMnやNi等を添加したペロブスカイト型酸化物であってよい。さらに、Coに代えてMn、Fe、Ni等含むペロブスカイト型酸化物、例えばSrMnO、SrFeO、SrNiO等や、それらに上記したような金属元素を添加したペロブスカイト型酸化物を保護膜3の構成材料として使用することができる。
【0021】
上述したように、Cr元素は一般的に、固体酸化物形電気化学セル11、12の作動温度域において、酸素や水蒸気と反応して蒸気化し、このCr蒸気が固体酸化物形電気化学セル11、12の性能を低下させる要因となる。これを抑制するためには、Crを含有する金属基材2を保護膜3で被覆し、かつ保護膜3のクラックや剥離を抑制することが重要である。保護膜3のクラックや剥離の原因としては、金属基材2と保護膜3の熱膨張差により、運転温度への昇温時及び運転温度からの降温時に、又は保護膜3成膜後に酸化等の化学反応がある場合には化学反応による体積の収縮/膨張等により、保護膜3に応力が発生するすることが挙げられる。このような金属基材2と保護膜3の熱膨張差により発生する応力を緩和するために、金属基材2と保護膜3との間に中間層4を介在させている。中間層4は、上記した応力を緩和し、保護膜3のクラックや剥離を抑制する働きを示す。
【0022】
上記した中間層4による応力の緩和、さらに応力の緩和による保護膜3のクラックや剥離の抑制について検討する。ここでは、自己拡散係数とヤング率に着目する。自己拡散係数とは、母材を構成する元素が、母材中を拡散する拡散係数を指す。例えば、実施形態のインターコネクタ1で使用されるFe-Cr系の高Cr鋼においては、高Cr鋼中をFe元素やCr元素が拡散する。高Cr鋼におけるFe元素及びCr元素の自己拡散係数は、例えば700℃程度の温度域で2~3×10-17/s程度を示す。自己拡散係数が大きいほど、応力発生時に応力を緩和するように母材中を元素が拡散し、変形が生じることにより応力を緩和することができると考えられる。このようなことから、中間層4の構成元素の自己拡散係数が金属基材2の構成元素(FeやCr)の自己拡散係数より大きいと、中間層4が応力緩和効果を発揮する。
【0023】
上記した自己拡散係数に基づく応力緩和効果は、中間層4の構成元素の自己拡散係数が金属基材2の構成元素(FeやCr)の自己拡散係数より大きいことにより得ることができる。金属基材2の構成材料、保護膜3の構成材料や膜厚等により変わるものの、中間層4の構成元素の自己拡散係数は金属基材2の構成元素の自己拡散係数より1桁以上大きいことが好ましい。このような自己拡散係数を有する中間層4を適用することによって、中間層4による応力緩和効果をより再現性よく期待することができる。これらによって、保護膜3のクラックや剥離を抑制することが可能になる。
【0024】
金属基材2の構成元素(FeやCr)の自己拡散係数より大きい自己拡散係数を有する中間層4の構成材料としては、例えばCu、Au、Ag等が挙げられる。上記したように、Fe元素及びCr元素の自己拡散係数が例えば700℃程度の温度域で2~3×10-17/s程度であるのに対して、700℃程度の温度域において、Cuの自己拡散係数は10-16~10-15/s、Agの自己拡散係数は10-15~10-14/s、Auの自己拡散係数は10-15~10-14/sである。Cu、Au、及びAgは、単体金属材料として中間層4の構成材料に適用してもよいし、それらの少なくとも1つを含む合金として中間層4の構成材料に適用してもよい。また、金属基材2としてfcc構造を有する金属材料を用いる場合、fcc構造は最密充填構造であるため、最密充填構造ではないbcc構造により自己拡散係数は小さくなる傾向があり、中間層4の候補材料に成り得る。
【0025】
一方、ヤング率とは応力がかかった際の変形しやすさの程度を示し、ヤング率が小さい物質は小さな応力で大きく変形する。すなわち、ヤング率が小さい物質ほど、応力発生時に小さい応力で大きく変形させることができ、これにより応力を緩和することができると考えられる。このようなことから、金属基材2のヤング率より小さいヤング率を有する材料で構成した中間層4を適用することによって、中間層4を変形させて応力を低減することができる。従って、金属基材2と保護膜3との間に生じる応力を中間層4により小さくすることができるため、保護膜3のクラックや剥離を抑制することが可能になる。
【0026】
SUS430のような高Cr鋼のヤング率は、201GPaである。そのようなヤング率を有する高Cr鋼からなる金属基材2よりヤング率が小さい材料としては、Mg、Al、Cu、Pd、Au、Ag、Zn、及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属元素を含む金属材料が挙げられる。上記した金属元素は、単体金属材料として中間層4の構成材料に適用してもよいし、それらの少なくとも1つを含む合金として中間層4の構成材料に適用してもよい。例えば、Alのヤング率は70.3GPa、Cuのヤング率は129.8GPa、Pdのヤング率は16.1GPa、Auのヤング率は78GPa、Agのヤング率は82.7GPa、Znのヤング率は48GPa、Tiのヤング率は107GPaである。また、上記した金属元素の少なくとも1つを含む合金としては、ヤング率が45GPaのMg合金、ヤング率が69~76GPaのAl合金、ヤング率が103GPaの黄銅(Cu-Zn合金)等が挙げられる。
【0027】
上述したような金属基材2に中間層4を介して保護膜3を形成したインターコネクタ1においては、中間層4が変形した結果として、インターコネクタ1の表面にしわが生じる場合がある。しわは応力が加わることで発生すると推測され、しわの存在は中間層4による応力緩和機能が十分に発揮されたことに由来するものである。なお、ここでいうインターコネクタ1の表面のしわとは、表面の凹凸状の微細な変形を指すものであり、具体的には後述する実施例1の結果である図4の拡大写真に示すような状態を指すものである。
【0028】
中間層4の膜厚が小さすぎると、中間層4を均一に形成することが難しくなり、かつ十分に応力緩和層として機能させることができないおそれがあるため、中間層4の膜厚は0.3μm以上であることが好ましい。一方、中間層4の構成材料にもよるが、中間層4の膜厚が大きく、中間層4が変形しすぎると、保護膜3の健全性に悪影響を及ぼすおそれがあるため、中間層4の膜厚は10μm以下であることが好ましい。保護膜3はCr飛散を抑制するために均一に成膜することが好ましいことを踏まえると、膜厚は0.3μm以上が好ましい。また、中間層4による応力緩和能力にもよるが、保護膜3の膜厚が大きすぎると、保護膜3の剥離やクラックを招くおそれがあるため、保護膜3の膜厚は20μm以下であることが好ましい。
【0029】
保護膜3及び中間層4の形成方法は特に限定されるものではなく、例えば電解めっき法、無電解めっき法、電析法、スピンコーティング法、ディップコーテイング法、ゾル-ゲル法等を適用することができる。保護膜3に前述したような酸化物を適用する場合、金属膜の成膜後に酸化して保護膜3を形成してもよい。また、中間層4に関しては、金属膜を成膜してもよいし、酸化膜等の成膜後に還元してもよい。金属膜の成膜後に酸化したり、酸化膜の成膜後に還元する場合、保護膜付インターコネクタを単体で酸化又は還元してもよいし、セルスタックやモジュールに組み込んだ後に酸化又は還元してもよい。
【0030】
なお、上記した実施形態では、固体酸化物形電気化学セル及びそれを積層したセルスタック10をSOFCやSOECに適用する場合について主として説明したが、実施形態の固体酸化物形電気化学セル及びそれを積層したセルスタック10はCOの電解反応装置等にも適用することができる。
【実施例0031】
次に、実施形態のインターコネクタの具体例及びその評価結果について述べる。
【0032】
(比較例1)
金属基材としてSUS430のフェライト系ステンレス製基板を用意した。このようなSUS基板をCoめっき浴中に浸漬して電解めっきを実施し、厚さ4μmのCo膜を形成した。次いで、Coめっき膜を形成したSUS基板を700℃で大気暴露し、Coめっき膜を酸化した。酸化後のCo膜はCoで表されるCoスピネル型酸化物を主体とするCo酸化物膜であることが確認された。このようにして得たCo酸化物保護膜付SUS基板を外観観察にて評価した。Co酸化物保護膜付SUS基板の外観を示す拡大写真を図3に示す。図3に示されるように、中間層を形成していないCo酸化物保護膜付SUS基板の表面には、剥離等が生じていることが分かる。
【0033】
(実施例1)
金属基材としてSUS430のフェライト系ステンレス製基板を用意した。このようなSUS基板をAgめっき浴中に浸漬して電解めっきを行った後、Coめっき浴中に浸漬して電解めっきを行った。このようにして、SUS基板上に厚さ1μmのAg膜及び厚さ4μmのCo膜を順に形成した。次いで、Ag膜及びCo膜を有するSUS基板を700℃で大気暴露し、最表面のCoめっき膜を酸化した。酸化後のCo膜はCoで表されるCoスピネル型酸化物を主体とするCo酸化物膜であることが確認された。また、Ag膜は酸化されていないことが確認された。このようにして得たAg中間層及びCo酸化物保護膜付SUS基板を外観観察にて評価した。Ag中間層及びCo酸化物保護膜付SUS基板の外観を示す拡大写真を図4に示す。図4に示されるように、Ag中間層及びCo酸化物保護膜付SUS基板の表面においては、剥離箇所は確認されなかった。また、図4では保護膜にしわが生じていることが確認された。これはSUS基板と保護膜との間に生じた応力により発生したしわであると考えられ、このしわの形成により保護膜の剥離が妨げられていると考えられる。
【0034】
上述した比較例1及び実施例1に示したように、中間層を設けていない保護膜付SUS基板では、保護膜に剥離等が生じているのに対して、中間層及び保護膜付SUS基板では保護膜にしわが生じており、SUS基板と保護膜との間に生じた応力が緩和されていることが分かる。これによって、中間層及び保護膜付SUS基板では保護膜の剥離が抑制されており、保護膜の健全性を向上させることができる。このような中間層及び保護膜付SUS基板からなるインターコネクタを適用することによって、固体酸化物形電気化学セルスタックの耐久性を高めることが可能となる。
【0035】
なお、上述した各実施形態の構成は、それぞれ組合せて適用することができ、また一部置き換えることも可能である。ここでは、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図するものではない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0036】
1…インターコネクタ、2…金属基材、3…保護膜、4…中間層、10…電気化学セルスタック、11,12…電気化学セル、13…第1電極、14…第2電極、15…固体酸化物電解質層。
図1
図2
図3
図4