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特開2024-30963二酸化炭素の地中貯留方法及び二酸化炭素の地中貯留装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030963
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】二酸化炭素の地中貯留方法及び二酸化炭素の地中貯留装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20240229BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20240229BHJP
【FI】
B01J19/00 A
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134227
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000217686
【氏名又は名称】電源開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池川 洋二郎
【テーマコード(参考)】
4G075
4G146
【Fターム(参考)】
4G075AA04
4G075BA10
4G075CA05
4G075CA65
4G075CA73
4G075CA74
4G075DA02
4G075EB50
4G075FB02
4G075FB12
4G146JA05
4G146JB04
4G146JC19
4G146JC39
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素遮蔽層の強度を確保することで下方に注入した二酸化炭素を確実に封じ込めることができ、大量の二酸化炭素を効率良く貯留することが可能な二酸化炭素の地中貯留方法及び地中貯留装置を提供する。
【解決手段】海底面F又は陸域の地面から所定の深さまで存在する、二酸化炭素ハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす地層からなる二酸化炭素シール領域Sよりも下方に二酸化炭素を圧入して二酸化炭素貯留層Gを形成し、二酸化炭素貯留層Gに圧入された二酸化炭素の少なくとも一部を二酸化炭素シール領域S側に二酸化炭素の浮力で自然に上昇させて二酸化炭素ハイドレートを生成させることにより、二酸化炭素シール領域S中に二酸化炭素遮蔽層Cを形成し、二酸化炭素を地層中に圧入するとき、海水W及び水の少なくとも一方を孔隙水として二酸化炭素シール領域Sに注入する人工水封により二酸化炭素シール領域Sの孔隙圧を増加させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を単独あるいは該二酸化炭素を主成分とする混合ガスが液化した状態で、音響基盤上の堆積物からなる海底下の地層又は陸域の地層中に貯留する方法であって、
海底面又は地面から所定の深さまで存在する、二酸化炭素ハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす地層からなる二酸化炭素シール領域よりも下方に、前記二酸化炭素を圧入して二酸化炭素貯留層を形成し、
前記二酸化炭素貯留層に圧入された前記二酸化炭素の少なくとも一部を前記二酸化炭素シール領域側に前記二酸化炭素の浮力で自然に上昇させて二酸化炭素ハイドレートを生成させることにより、前記二酸化炭素シール領域に二酸化炭素遮蔽層を形成し、
前記二酸化炭素を前記海底下の地層又は前記陸域の地層中に圧入するとき、海水及び水の少なくとも一方を孔隙水として前記二酸化炭素シール領域に注入する人工水封により、前記二酸化炭素シール領域の孔隙圧を増加させる、二酸化炭素の地中貯留方法。
【請求項2】
二酸化炭素を単独あるいは該二酸化炭素を主成分とする混合ガスが液化した状態で、音響基盤上の堆積物からなる海底下の地層又は陸域の地層中に貯留する地中貯留装置であって、
海底面又は地面から所定の深さまで存在する、二酸化炭素ハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす地層からなる二酸化炭素シール領域を貫通するとともに、前記二酸化炭素シール領域よりも下方の二酸化炭素貯留層まで延在された圧入井と、
前記混合ガスを前記圧入井に圧送する圧送設備と、
前記二酸化炭素シール領域の上面側に配置され、海水及び水の少なくとも一方を孔隙水として前記二酸化炭素シール領域に注入することにより、前記二酸化炭素シール領域の孔隙圧を増加させる人工水封設備と、を備える、二酸化炭素の地中貯留装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の地中貯留方法及び二酸化炭素の地中貯留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料を用いて発電しながら二酸化炭素(CO)排出量を抑制できる革新的技術として、二酸化炭素の回収・貯留(Carbon dioxide Capture and Storage:以下、単に「CCS」という)が注目されている。また、CCSの技術を用いて二酸化炭素を地中貯留する方法に関しては、実証試験及び貯留適地調査が積極的に進められている。
【0003】
一般的に、二酸化炭素は、圧力及び温度の条件に応じて、気(Gas)・液(Liquid)・固(Solid)・超臨界(Supercritical)の4相のいずれかの状態で存在する。また、二酸化炭素は、常圧で温度194K(-79.15℃)以下の条件で固体のドライアイスになるが、水と混合すると、上記と異なる温度と圧力の条件でハイドレート(固体)化することが知られている。なお、二酸化炭素ハイドレート(CO hydrate)は、液体の二酸化炭素が水と混合し、温度10℃以下で、且つ、圧力4.5MPa以上の条件で生成され、液体の二酸化炭素の領域(液相の領域)の一部と重なる。
【0004】
上記のような二酸化炭素ハイドレートは、メタンハイドレートと同様の結晶構造を有する固体であり、水分子が構成する立体格子内にガス分子がトラップされた構造とされている。このような二酸化炭素ハイドレートは、一般にガスハイドレートとも呼ばれ、下記非特許文献1には、天然ガスの移送ラインにおいて二酸化炭素がハイドレート化して目詰まりを起こすことが、最初の研究報告として確認されている。また、二酸化炭素ハイドレートは、油ガス処理を行うプラント配管における閉塞物質としても確認されているとともに、地球惑星に係る科学分野でも研究が進んでいる。
【0005】
また、下記非特許文献2には、1990年に、海底から柱状に立ち上がる天然の二酸化炭素ハイドレートが発見されたことが報告されている。
【0006】
二酸化炭素の密度は、圧力が上昇すると気液相変化によって変化するが、温度31℃以上で、且つ、圧力7.4MPa以上で超臨界状態となるため、それ以上の圧力上昇による密度変化は比較的緩慢である。そして、液体若しくは超臨界状態における二酸化炭素の密度は海水に比べて小さいため、例えば、海底下の地層に二酸化炭素を貯留しようとする場合には、密度差によって浮力が生じ、浮上する二酸化炭素を封じ込めるために何らかのシール機能が必要となる。
【0007】
一方、日本国内においては、二酸化炭素の地中貯留方法として、帯水層貯留(DSA;Deep Saline Aquifer)が、政府・行政機関の主導で1990年代から適地検討が進められているが、この方法は、商用の貯留地点や貯留容量が未定である。これは、日本が石油や天然ガスの産出量に乏しいことが示唆するように、日本の地層中には、中東や欧米、アジア等で一般的に見られる天然のキャップロック(泥岩などの遮蔽層(キャップロック))の存在量が乏しいことが要因として考えられる。
【0008】
このため、二酸化炭素を地中貯留する他の方法として、上記のような、二酸化炭素がハイドレート化して固体となる特性を利用し、ハイドレート化した二酸化炭素を遮蔽層に用いることで、浮上する二酸化炭素を封じ込めるシール機能を持たせた、二酸化炭素ハイドレート貯留の実用化が期待され、積極的な研究が進められている。
【0009】
上記のようなハイドレート化した二酸化炭素遮蔽層は、泥岩等のキャップロックを必要としないというメリットがある。また、二酸化炭素ハイドレート貯留における地中の貯留対象層は、例えば、陸域の河川から運搬された土砂が、音響基盤上に約400mの層厚で堆積した第四紀堆積層(地質年代は現在~約258万年前)であり、日本の周辺海域に広く分布している。
【0010】
また、メタンハイドレートは日本の周辺海域に存在することから、その地下深部にメタンガスが存在することが明らかになっている。一方、このメタンガスは、上記のようなキャップロックにトラップされることなく、海底下数百m程の浅部地層において、メタンハイドレートとしてトラップされていることで、日本の周辺海域に多く存在していると考えることができる。
【0011】
上記のような二酸化炭素ハイドレート貯留の基本的な概念は、例えば、下記非特許文献3,4に示されているが、具体的なメカニズム等の研究は進んでいないのが実情である。一方、英国(スコットランド)においては、下記非特許文献4に示すような、国が主導するプロジェクトとして室内実験による研究結果が報告されている。
【0012】
ここで、特許文献1には、メタンハイドレート層に依存することなく、二酸化炭素の固定化とメタンガスの生産とを両立して行う方法が提案されている。下記特許文献1には、メタン生成細菌がメタンガスを生成する温度・圧力条件下の地層の間隙に、メタン生成細菌を少なくとも含む微生物群を添加してメタンガス生産層4を形成する工程と、メタンガス生産層よりも浅部で、且つ二酸化炭素がハイドレートとなる温度・圧力条件下の地層の間隙に、この間隙よりも小さな液体二酸化炭素の微粒子を水に分散させたエマルジョンを注入して二酸化炭素ハイドレートのシール層を形成する工程と、メタンガス生産層とシール層との間の地層の間隙に、メタンガス生成原料としての液体二酸化炭素を注入する工程と、メタンガス生産層で生成されたメタンガス5を地上に回収する工程と、を含む方法が記載されている。
【0013】
また、二酸化炭素ハイドレート貯留を推進するうえでの懸念事項として、非特許文献1に示されたような二酸化炭素のハイドレート化により、地層孔隙が閉塞して目詰まりを生じ、下方の地層に二酸化炭素を注入することが困難になる可能性が指摘されている。このような問題点を解決するため、下記特許文献2には、海底面から所定の深さまで存在する、二酸化炭素ハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす二酸化炭素遮蔽層よりも下方に二酸化炭素を圧入して二酸化炭素貯留層を形成する方法並びに装置が提案されている。特許文献2に記載の技術によれば、二酸化炭素を地中に貯留する際の目詰まりを防止し、効率良く大量の二酸化炭素を貯留できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2010-239962号公報
【特許文献2】特開2019-126787号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Hammerschmidt, E.G., “Formation of Gas Hydrates in Natural Gas Transmission Lines”, Inddustrial Engineering Chemistry, 26(8), (米), 1934, p851-855
【非特許文献2】Sakai H, Gamo T, Kim ES, Tsutsumi M, Tanaka T,Ishibashi J, Wakita H, Yamano M, Oomori T. “Re-ports : Venting of Carbon Dioxide-Rich Fluid and Hydrate Formation in Mid-Okinawa Trough Backarc Basin”, Science, Vol.248, (米), 1 June, 1990, p1093-1096
【非特許文献3】Hitoshi Koide, Manabu Takahashi, Hitoshi Tsukamoto, Yuji Shindo, “Self-trapping mechanisms of carbon dioxide in the aquifer disposal”,Energy Conversion and Management, Vol.36, Issues 6-9, (米), June-September 1995, p505-508
【非特許文献4】財団法人地球環境産業技術研究機構,「平成15年度二酸化炭素固定化・有効利用技術等対策事業プログラム方式二酸化炭素固定化・有効利用技術開発(深地下・海底環境利用によるCO2地殻化学固定・ハイドレート固定のため基盤技術の開発)成果報告書」,2004年(平成16年)3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
一方、二酸化炭素ハイドレートを用いて二酸化炭素を地中貯留するにあたり、二酸化炭素を効率よく確実に地中に貯留するためには、二酸化炭素のハイドレート化によって形成される遮蔽層の破壊等によって注入した二酸化炭素が浮上して漏れ出さないよう、遮蔽層の強度をより高めることが求められる。しかしながら、従来は、遮蔽層の強度を確保するための条件等に関する知見が存在せず、貯留地における試行錯誤に頼らざるを得ないのが実情であった。
【0017】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、二酸化炭素がハイドレート化されてなる二酸化炭素遮蔽層の強度を確保することで下方に注入した二酸化炭素を確実に封じ込めることができ、大量の二酸化炭素を効率良く貯留することが可能な二酸化炭素の地中貯留方法及び二酸化炭素の地中貯留装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 二酸化炭素を単独あるいは該二酸化炭素を主成分とする混合ガスが液化した状態で、音響基盤上の堆積物からなる海底下の地層又は陸域の地層中に貯留する方法であって、海底面又は地面から所定の深さまで存在する、二酸化炭素ハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす地層からなる二酸化炭素シール領域よりも下方に、前記二酸化炭素を圧入して二酸化炭素貯留層を形成し、前記二酸化炭素貯留層に圧入された前記二酸化炭素の少なくとも一部を前記二酸化炭素シール領域側に前記二酸化炭素の浮力で自然に上昇させて二酸化炭素ハイドレートを生成させることにより、前記二酸化炭素シール領域に二酸化炭素遮蔽層を形成し、前記二酸化炭素を前記海底下の地層又は前記陸域の地層中に圧入するとき、海水及び水の少なくとも一方を孔隙水として前記二酸化炭素シール領域に注入する人工水封により、前記二酸化炭素シール領域の孔隙圧を増加させる、二酸化炭素の地中貯留方法。
[2] 二酸化炭素を単独あるいは該二酸化炭素を主成分とする混合ガスが液化した状態で、音響基盤上の堆積物からなる海底下の地層又は陸域の地層中に貯留する地中貯留装置であって、海底面又は地面から所定の深さまで存在する、二酸化炭素ハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす地層からなる二酸化炭素シール領域を貫通するとともに、前記二酸化炭素シール領域よりも下方の二酸化炭素貯留層まで延在された圧入井と、前記混合ガスを前記圧入井に圧送する圧送設備と、前記二酸化炭素シール領域の上面側に配置され、海水及び水の少なくとも一方を孔隙水として前記二酸化炭素シール領域に注入することにより、前記二酸化炭素シール領域の孔隙圧を増加させる人工水封設備と、を備える、二酸化炭素の地中貯留装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明の二酸化炭素の地中貯留方法によれば、上記構成を採用することにより、二酸化炭素シール領域全体の強度が増加することから、二酸化炭素がハイドレート化されてなる二酸化炭素遮蔽層の強度を確実に確保できる。これにより、二酸化炭素遮蔽層の下方に注入した二酸化炭素を確実に封じ込めることができるので、大量の二酸化炭素を効率良く貯留することが可能となる。
【0020】
また、本発明の二酸化炭素の地中貯留装置によれば、簡便な構成で上述の二酸化炭素の地中貯留方法に適用でき、且つ、大量の二酸化炭素を効率良く貯留することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1(a),(b)は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法及び酸化炭素の地中貯留装置について説明する図であり、海底下の地層中に二酸化炭素を貯留した場合の地中貯留装置の概略構造を示す模式断面図で、図1(a)は、各地層を広域で示すイメージ図であり、図1(b)は、図1(a)中の要部を拡大して示す図である。
図2図2は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法について説明する図であり、温度-圧力の関係における二酸化炭素密度の等値線と、二酸化炭素ハイドレートの安定領域を示すグラフである。
図3図3は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法について説明する図であり、二酸化炭素ハイドレートの温度-圧力相図を示すグラフである。
図4図4は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法について説明する図であり、海底下の地層中に注入した二酸化炭素の浮力によって生じる、二酸化炭素遮蔽層に作用する圧力を示すグラフである。
図5図5は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法及び酸化炭素の地中貯留装置について説明する図であり、本発明を実証するための室内実験で用いた圧力セルの概略構造を示す模式図である。
図6図6(a)~(c)は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法について説明する図であり、それぞれ、図5に示した圧力セルを用いた実験で得られた、二酸化炭素ハイドレートからなる膜の強度を示すグラフである。
図7図7は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法について説明する図であり、図5に示した圧力セルを用いた実験で得られた、地層中に二酸化炭素が浸透したときの二酸化炭素ハイドレートの生成熱による温度上昇を示すグラフである。
図8図8は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法について説明する図であり、図5に示した圧力セルを用いた実験で得られた、差圧が水頭で約2m以下である条件で17日間保持したときの、保持時間と差圧との関係を示すグラフである。
図9図9は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法について説明する図であり、図5に示した圧力セルを用いた実験で得られた、差圧が水頭で約2m以下である条件で17日間保持した後に、差圧を1MPaとして24時間維持したときの、二酸化炭素ハイドレートの膜からなる二酸化炭素遮蔽層の強度を示すグラフである。
図10図10は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法について説明する図であり、図5に示した圧力セルを用いた実験で得られた、差圧を段階的に増加させた場合の、二酸化炭素ハイドレートの膜からなる二酸化炭素遮蔽層の強度を示すグラフである。
図11図11は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法について説明する図であり、図5に示した圧力セルを用いた実験で得られた、逆方向の差圧が作用した場合の、二酸化炭素ハイドレートの膜からなる二酸化炭素遮蔽層の強度を示すグラフである。
図12図12は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法について説明する図であり、温度-圧力の関係における{二酸化炭素/水}の最適な体積比の等値線を示すグラフである。
図13図13は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法について説明する図であり、図5に示した圧力セルを用いた実験結果に基づき、二酸化炭素ハイドレートの膜による遮蔽メカニズムを考察した図である。
図14図14は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法について説明する図であり、海底下の地層において二酸化炭素の密度と海水の密度とが平衡する深度における温度条件と圧力条件との関係を示すグラフである。
図15図15は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法について説明する図であり、島しょ、海山及び海台を想定した貯留方法を模式的に示した図で、水平距離と水深との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法及び酸化炭素の地中貯留装置について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0023】
図1(a),(b)は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法及び二酸化炭素の地中貯留装置(以下、単に「貯留装置」又は「貯留装置」と略称することがある)について説明する図であり、海底面(海底)F下の地層U中に二酸化炭素を貯留した場合の貯留装置1の概略構造を示す模式断面図で、図1(a)は、各々の地層を含む地層Uを広域で示す図であり、図1(b)は、図1(a)中の要部を拡大して示す図である。
【0024】
本実施形態の貯留方法及び貯留装置1は、二酸化炭素(CO)を単独あるいは該二酸化炭素を主成分とする混合ガスが液化した状態で、音響基盤B上の堆積物からなる海底面F下の地層U又は図示略の陸域の地層中に貯留する方法及び装置である。即ち、本実施形態の貯留方法においては、海底面F又は図示略の陸域の地面から所定の深さまで存在する、二酸化炭素ハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす地層からなる二酸化炭素シール領域Sよりも下方に、二酸化炭素を圧入して二酸化炭素貯留層Gを形成する。また、本実施形態の貯留方法及び貯留装置では、二酸化炭素貯留層Gに圧入された二酸化炭素の少なくとも一部を二酸化炭素シール領域S側に二酸化炭素の浮力で自然に上昇させて二酸化炭素ハイドレートを生成させることにより、二酸化炭素シール領域S中に二酸化炭素遮蔽層Cを形成する。
【0025】
なお、本発明に係る二酸化炭素の地中貯留方法及び二酸化炭素の地中貯留装置は、上述したように、海底面F下の地層U、及び、陸域の地面下の地層の何れかを貯留箇所とする方法であるが、本実施形態においては、海底面F下の地層Uに二酸化炭素を貯留する場合を一例として説明する。一方、本実施形態においては、所定の圧力条件や温度条件を満たせば、陸域の地面下の地層を貯留箇所とすることも可能である。
【0026】
また、本実施形態で説明する二酸化炭素とは、純粋な二酸化炭素(CO)単独のみならず、上記のような、二酸化炭素を主成分とする混合物の状態も含むものである。即ち、本実施形態の貯留対象である二酸化炭素は、既存の対策技術を併用することで水が含まれていてもよい。さらに、本実施形態の貯留対象である二酸化炭素は、この二酸化炭素自体に加え、二酸化炭素以外の他成分として、例えば、一酸化炭素(CO)、水素(H)、メタン(CH)、水(HO)、硫化水素(HS)等も含むものである。
【0027】
<二酸化炭素の地中貯留装置>
先ず、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留装置について説明する。
図1(a)中には、本実施形態の二酸化炭素の地中貯留装置(以下、単に「貯留装置」と略称することがある)1を示している(図1(b)の要部拡大図も参照)。
図示例の貯留装置1は、二酸化炭素を単独あるいは該二酸化炭素を主成分とする混合ガスが液化した状態で、音響基盤B上の堆積物からなる海底面F下の地層Uに注入、貯留するものである。貯留装置1は、海底(海底面)Fから所定の深さまで存在する、二酸化炭素ハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす地層からなる二酸化炭素シール領域Sを貫通して、該二酸化炭素シール領域Sよりも下方の二酸化炭素貯留層Gまで延在された圧入井2と、例えば海面M上における図示略の船舶等に積載される二酸化炭素供給源と、該二酸化炭素供給源と同様に船舶等に積載され、二酸化炭素供給源で生成された二酸化炭素を圧入井2に圧送する図示略の圧送設備と、を備える。
また、貯留装置1は、船舶上に設置された圧送設備から、海底面Fを起点に設けられた圧入井2に二酸化炭素を供給するための、図示略の供給ラインが設けられている。
そして、本実施形態の貯留装置1には、二酸化炭素を海底面F下の地層U中に圧入するとき、海水及び水の少なくとも一方を孔隙水として二酸化炭素シール領域Sに注入する人工水封により、二酸化炭素シール領域Sの孔隙圧を増加させるための人工水封設備6が設けられている。
【0028】
図1(a)の模式断面図において、海水Wの下方に位置する海底面F下の地層Uは、通常、海面Mから海底面Fまでの深さ、及び、海底面Fから地層Uの任意の深さによって圧力が変化する。図示例の貯留装置1は、海底面Fから所定の深さまで存在する、二酸化炭素ハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす二酸化炭素シール領域Sよりも下方の二酸化炭素貯留層Gに、二酸化炭素を圧入して貯留する。
【0029】
図示略の二酸化炭素供給源は、上記のように、地層U中の二酸化炭素貯留層Gに貯留する二酸化炭素を供給するものである。このような二酸化炭素供給源としては、特に限定されず、例えば、石油やガスを採掘する海上プラント等の各種施設において、化石燃料を用いた発電設備等から排出される石炭や石油等に由来の二酸化炭素を回収する装置や、これらの装置によって回収された二酸化炭素を輸送する船舶やパイプラインから一時的に受け入れて貯蔵しておく装置等が挙げられる。
【0030】
また、貯留装置1において、図示略の二酸化炭素供給源は、その装置特性にも依るが、海面Mよりも上に露出した供給源であることが、燃料や二酸化炭素等の材料の供給性やメンテナンス性、装置寿命等の観点から好ましい。このように、二酸化炭素供給源を海面Mよりも上に露出した構成としては、例えば、海底から石油やガス等の資源を採掘するために設置されるものと同様の海上プラットフォームを構築し、その上に二酸化炭素供給源を設置したもの等が挙げられる。
【0031】
上記の海上プラットフォームとしては、例えば、固定式又は浮遊式等のものが挙げられる。
固定式の海上プラットフォームとしては、例えば、高強度の鋼材等から組み立てられた構造物を、海底面Fに直接固定して構築されたもの等が挙げられる。
また、浮遊式の海上プラットフォームとしては、例えば、半潜水式の船舶等からなるものが挙げられる。
【0032】
なお、二酸化炭素供給源は、船舶等のような海上プラットフォーム上に設置された構成のものには限定されない。例えば、陸上に設置された二酸化炭素供給源で生成された二酸化炭素を、圧送設備及び配管(パイプライン)を介して圧入井2まで輸送する構成を採用してもよい。
【0033】
図示略の圧送設備は、二酸化炭素(CO)を圧入井2に圧送するものであり、上述したように、例えば、船舶等からなる海上プラットフォーム上に設置される。
また、貯留装置1は、船舶上に設置された圧送設備から、図示略の供給ラインを介して、海底面Fを起点に設けられた圧入井2に二酸化炭素が供給されるように構成することができる。
【0034】
圧送設備としては、この分野で従来から用いられている、液圧送用のポンプ等を何ら制限無く採用することができる。
また、圧送設備と圧入井2とを接続する図示略の供給ラインとしては、例えば、海水中で使用可能な金属又は樹脂材料からなる配管部材を何ら制限無く採用することができる。
なお、圧送設備としては、上記のような、船舶等の海上プラットフォーム上に設置されたものには限定されず、例えば、陸上や海底面Fに圧送設備を設置することも可能である。
【0035】
圧入井2は、上記のように、海底面Fから所定の深さまで存在する二酸化炭素シール領域Sを貫通するとともに、二酸化炭素シール領域Sよりも下方の二酸化炭素貯留層Gまで延在し、二酸化炭素貯留層Gに二酸化炭素を圧入する。
圧入井2は、例えば、ボーリング等によって掘削された孔井からなる、二酸化炭素の注入・圧入孔である。
【0036】
図示例の圧入井2は、垂直井として設けられているが、必要に応じて傾斜井とするか、あるいは、垂直井と水平井との組み合わせ(例:断面L字状)や、垂直井、水平井及び傾斜井を適宜組み合わせた構造とすることも可能である。また、陸上から直接、傾斜井として設置することも可能であり、この場合、図示略の二酸化炭素供給源及び圧送設備は陸上に設置されることになる。
【0037】
上述したように、本実施形態の貯留装置1においては、二酸化炭素シール領域Sの孔隙圧を増加させるための人工水封設備6が設けられており、図示例では、人工水封設備6が二酸化炭素シール領域Sの上面に一部が露出するように配置されている。
また、人工水封設備6は、図1(b)の拡大図に示すように、圧入井2の周囲を取り囲むように円環状に設けられた多重管から構成されている。また、図示例においては、人工水封設備6が、圧入井2側から外側に向かって断面段差形状とされた多重管から構成されている。
【0038】
人工水封設備6は、二酸化炭素を海底面F下の地層U中に圧入するときに、海水及び水の少なくとも一方を孔隙水として二酸化炭素シール領域Sに注入する。これにより、二酸化炭素シール領域Sの孔隙圧が増加するので、二酸化炭素遮蔽層Cを含む二酸化炭素シール領域S全体の強度が高められる作用が得られる。これにより、二酸化炭素がハイドレート化されてなる二酸化炭素遮蔽層Cの強度も確実に確保できるので、二酸化炭素遮蔽層Cの下方に注入した二酸化炭素を確実に封じ込めることができ、大量の二酸化炭素を効率良く貯留することが可能となる。
【0039】
なお、本実施形態で用いる貯留装置1は、上記各構成に加え、さらに、二酸化炭素貯留層Gに貯留された二酸化炭素の状態、あるいは、二酸化炭素ハイドレートが生成されてなる二酸化炭素遮蔽層Cを含む二酸化炭素シール領域Sの状態等を検出するための、各種のモニタリング装置が備えられていてもよい。
【0040】
<二酸化炭素の地中貯留方法>
以下、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法について、上記の図1(a),(b)に加え、図2~15も適宜参照しながら詳細に説明する。
本実施形態の貯留方法においては、図1(a),(b)に示した本実施形態の貯留装置1を用いた方法とすることができる。
【0041】
[二酸化炭素シール領域における人工水封]
本実施形態の貯留方法は、上述したように、二酸化炭素(CO)を単独あるいは該二酸化炭素を主成分とする混合ガスが液化した状態で、音響基盤B上の堆積物からなる海底面F下の地層U又は図示略の陸域の地層中に貯留する方法である。本実施形態では、海底(海底面)F又は図示略の陸域の地面から所定の深さまで存在する、二酸化炭素ハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす地層からなる二酸化炭素シール領域Sよりも下方に、二酸化炭素を圧入して二酸化炭素貯留層Gを形成する。また、二酸化炭素貯留層Gに圧入された二酸化炭素の少なくとも一部を二酸化炭素シール領域S側に二酸化炭素の浮力で自然に上昇させて二酸化炭素ハイドレートを生成させることにより、二酸化炭素シール領域S中に二酸化炭素遮蔽層Cを形成する。
そして、本実施形態の貯留方法においては、海水W及び水の少なくとも一方を孔隙水として二酸化炭素シール領域Sに注入する人工水封により、二酸化炭素シール領域Sの孔隙圧を増加させる方法を採用している。
【0042】
本実施形態の貯留方法においては、図1(a),(b)に示した貯留装置1を用いて、二酸化炭素を単独あるいは該二酸化炭素を主成分とする混合ガスが液化した状態で、音響基盤B上の堆積物からなる海底面F下の地層U中に貯留することができる。
【0043】
上記のような人工水封を行うための設備としては、貯留装置1に備えられるような人工水封設備6が挙げられる。図示例の人工水封設備6は、二酸化炭素シール領域Sの上面側に配置され、上述したように、海水及び水の少なくとも一方を孔隙水として二酸化炭素シール領域Sに注入することにより、二酸化炭素シール領域Sの孔隙圧を増加させることが可能なものである。
このような人工水封設備6が備えられることで、二酸化炭素シール領域Sの孔隙圧が増加するので、二酸化炭素遮蔽層Cを含む二酸化炭素シール領域S全体の強度が高められる。
なお、人工水封設備6の詳細な構成については、既に述べた通りである。
【0044】
以下に、本実施形態の貯留方法において人工水封を行う場合の詳細について説明する。
先に説明した図1(a)の模式断面図において、二酸化炭素の注入点の鉛直上方に位置する(b)点の近傍は、二酸化炭素の浮力に基づく最大の圧力が作用する。このとき、貯留する二酸化炭素の圧力が、二酸化炭素遮蔽層Cの時間-強度関係を超える場合には、二酸化炭素が漏洩するリスクがある。二酸化炭素の圧力が二酸化炭素遮蔽層Cの強度を超えるのは、二酸化炭素遮蔽層Cとなる二酸化炭素ハイドレート膜の生成初期(例えば、2週間以内)である可能性が大きい。
【0045】
一方、二酸化炭素遮蔽層Cの上部には海水Wによる静水圧が作用するが、二酸化炭素遮蔽層Cの下部には、二酸化炭素の浮力で生じる圧力が作用する。このような、二酸化炭素遮蔽層Cの上下間に生じる差圧が二酸化炭素遮蔽層Cの強度以下であれば、二酸化炭素が二酸化炭素遮蔽層Cへの浸透を開始することは無い。
そこで、二酸化炭素遮蔽層Cの強度が弱めである二酸化炭素ハイドレート膜の生成初期(例えば、生成開始から2週間)は、二酸化炭素遮蔽層Cの上下間の差圧が水頭で2m以上にならないように、圧入井2の切削時に海底面Fに設置する多重管の隙間構造(ケーシングのアニュラス)等を利用した人工水封設備6を設けることが考えられる。このような人工水封設備6を設置することにより、二酸化炭素シール領域Sの上部から海水/水を注入することで、二酸化炭素遮蔽層Cを含む二酸化炭素シール領域Sの孔隙圧(間隙圧)を上昇させることが可能となる。
【0046】
二酸化炭素ハイドレート貯留は、上述したような、地質時代で最も新しく未固結の第四紀堆積層を対象層としている。地震等で生じる断層について考えた場合、第四紀堆積層は未固結なので変形が許容され、この変形に伴ってダイレイタンシー(Dilatancy;せん断変形で生じる体積変化)が生じると考えられる。第四紀堆積層は、上記のダイレタンシーで孔隙率が大きくなり、浸透率が大きくなることが考えられ、二酸化炭素の漏洩リスクにどの程度の影響があるのか検討が必要である。
【0047】
ここで、図5の模式図には、本発明を実証するための室内実験で用いた圧力セル100の概略構造を示している。この圧力セル100内における圧力は最大で70MPaであり、これは、海中における水深7000mの圧力に相当する。
本実証実験では、図5中に示す圧力セル100の中に7号硅砂(細砂)、あるいは、9 号硅砂(シルト)をセットし、海底下の地層における圧力及び温度を模擬した条件を再現した後、圧力セル100の下部から液体の二酸化炭素を浸透させる実験を行った。この際の計測項目は、下部側から100mmピッチで設置した温度計で測定される温度、並びに、圧力セル100の上端部及び下端部の圧力である。
【0048】
そして、本発明者等は、人工水封を想定した二酸化炭素遮蔽層Cの時間-強度関係について、図5に示した圧力セル100を用いた実証実験を行い、結果を図11のグラフに示した。
ここで、図11は、図5に示した圧力セル100を用いた実験で得られた、逆方向の差圧が作用した場合の、二酸化炭素ハイドレートの膜からなる二酸化炭素遮蔽層Cの強度を示すグラフである。
なお、本実験における「逆方向の差圧」とは、詳細を後述する二酸化炭素の密度(ρCO2)と孔隙水の密度(ρsw)との関係が、次式{ρCO2<ρsw}で表される関係である場合のことをいう。
【0049】
上記の実験の結果、圧力セル100において、二酸化炭素が浸透した砂の孔隙に水を浸透させる方向で人工水封を行った場合、二酸化炭素遮蔽層Cに作用する差圧力を低減させる効果が見られるとともに、人工水封による圧力上昇が過大になった場合には、二酸化炭素遮蔽層Cが短時間(本実験では1~2時間)で強度上昇する効果が見られた。
【0050】
なお、本実施形態で説明する、二酸化炭素ハイドレートからなる二酸化炭素遮蔽層Cの強度とは、所謂スレッショルド圧力(Threshold pressure)と呼ばれるものであり、二酸化炭素の浸透が開始する圧力である。即ち、上記の二酸化炭素遮蔽層Cの強度は、その圧力以下では二酸化炭素が浸透しない(遮蔽される)スレッショルド圧力以上とする必要がある。本実施形態で説明するスレッショルド圧力は、「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」(昭和45年法律第136号)に基づく、前記DSAの実証試験における「特定二酸化炭素ガスの海底下廃棄の許可の申請」(http://www.env.go.jp/press/102082.html)に記載された方法により、二酸化炭素遮蔽層Cに二酸化炭素COが浸透を開始する圧力として、水銀圧入法等で計測される。なお、二酸化炭素遮蔽層Cは、主に地層孔隙に二酸化炭素ハイドレートが充填することで形成されると考えられ、毛管圧に起因する上記のDSAにおけるスレッショルド圧力とは遮蔽のメカニズムが異なると考えられる。
【0051】
上述したように、二酸化炭素(CO)は、所定の温度及び圧力の範囲において、気体、液体、固体あるいは超臨界の4相の何れかの状態で存在する。また、二酸化炭素(CO)は、常圧下で温度194K(-79.15℃)以下の条件で固体(ドライアイス)になるが、水と混合した場合には、異なる温度と圧力の条件でハイドレート(固体)化する。
【0052】
また、二酸化炭素(CO)は、温度が31℃以上で、且つ、圧力が7.4MPa以上の場合に超臨界状態となり、密度変化は比較的緩慢になる。また、二酸化炭素(CO)は、温度が35℃以下、圧力が20MPa以下のときは、密度が海水よりも小さく、温度0℃付近で圧力が14MPa以上である場合を除き、水の密度より小さい。即ち、二酸化炭素(CO)は、液体又は超臨界状態においては、その密度は海水に比べて小さいことから、海底下地層U(図1参照)中に二酸化炭素(CO)を貯留するためには、上記の密度差によって浮上する二酸化炭素を封じ込めるためのシール機能が必要となる。
【0053】
ところで、天然ガスは、一般に、在来型天然ガス、シェール・ガス、又はメタンハイドレート等の状態で地層中に存在している。
在来型天然ガスは、気密性が高い泥岩等のキャップロックがシール層として機能することで、地層中に貯まっている。
シェール・ガスは、そのDNAの分析から、石油根源岩とされる頁岩(shale)から石油(shale oil)と同時に生産されることが明らかになっている。
メタンハイドレートは、大陸縁辺の海底下地層や、永久凍土層で固体として存在することが確認されており、上記のようなキャップロックは存在しないものの、ハイドレート化する温度と圧力との条件により、所謂シール機能を果たすシール層が形成される。
【0054】
上記のような、自然状態で天然ガスが存在することを、二酸化炭素貯留のナチュラルアナログ(自然類似現象)として捉えることができる。即ち、在来型天然ガス、及び、一般的な二酸化炭素の地中への貯留(帯水層貯留とも呼ばれる)は、上記のキャップロックがシール層として機能する。また、メタンハイドレート、及び、二酸化炭素ハイドレートは、ハイドレート化する温度と圧力の条件を設定することにより、シール層として利用可能である。
また、シェール・ガスは、頁岩あるいは石炭層にメタンが吸着することで存在し、二酸化炭素も吸着することが知られている。
上記のように、自然に存在する天然ガスは、それぞれ異なるシール機能で地層内に封じ込められている。このようなシール機能、即ち、自然の条件を利用することで、二酸化炭素についても地中貯留が可能となる。
【0055】
以下に、地層孔隙における二酸化炭素ハイドレートの挙動、並びに、地層中に貯留される二酸化炭素ハイドレートのイメージについて詳述する。
図1(a)の模式断面図において、海底面F下の二酸化炭素シール領域Sは、二酸化炭素ハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす地層、即ち、二酸化炭素ハイドレートが安定して存在する圧力・温度である領域である。
また、二酸化炭素シール領域Sの下に位置する二酸化炭素貯留層Gは、二酸化炭素が液体で貯留させる圧力条件及び温度条件の領域である(図3の二酸化炭素ハイドレートの温度-圧力相図も参照)。
また、二酸化炭素貯留層Gの下の音響基盤Bは、は海底地質図等の解釈に利用される反射法によって規定される基盤であり、例えば、マグマの組成に近い玄武岩等の存在が考えられる基盤である。
そして、音響基盤B上には数百m程度の堆積層(第四紀堆積層)が存在し、図3のグラフ中に示した二酸化炭素ハイドレートの安定領域に基づき、上述した二酸化炭素シール領域Sと二酸化炭素貯留層Gとに分かれる。
【0056】
図1(a)中に示す二酸化炭素貯留層Gにおいて、圧入井2の先端21の位置で二酸化炭素を圧入すると、二酸化炭素が浮力で上昇し、二酸化炭素シール領域Sの下部の位置まで浸透する。そして、二酸化炭素シール領域Sに浸透した二酸化炭素の温度が低下すると、二酸化炭素ハイドレートが生成され、二酸化炭素シール領域Sの下部の位置に二酸化炭素遮蔽層Cが形成される。この後、二酸化炭素貯留層Gに圧入された二酸化炭素は、二酸化炭素遮蔽層Cによって当該位置から上方向への浮上が阻止されることから、その貯留範囲は水平方向に広がってゆきながら、二酸化炭素貯留層Gの上部に二酸化炭素液体層G1が形成されてゆくと考えられる。
【0057】
[二酸化炭素ハイドレート生成後の時間と強度との関係]
本実施形態の二酸化炭素の地中貯留方法においては、上記のような人工水封によって二酸化炭素シール領域Sの孔隙圧を増加させることに加え、さらに、二酸化炭素ハイドレートの生成初期における強度が、二酸化炭素貯留層Gの上部に形成される二酸化炭素液体層G1の層厚が10m~40mのときに、二酸化炭素遮蔽層Cに作用する圧力に相当するように構成する方法を採用することも可能である。
【0058】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、上記のような二酸化炭素ハイドレートを生成させて二酸化炭素遮蔽層Cを形成させるのにあたり、二酸化炭素ハイドレートの生成初期における強度を、二酸化炭素貯留層Gの上部に形成される二酸化炭素液体層G1が所定の層厚のときに、二酸化炭素遮蔽層Cに作用する圧力に相当するよう最適化することを知見した。即ち、二酸化炭素遮蔽層Cにおける二酸化炭素ハイドレートの生成初期の強度を、二酸化炭素貯留層Gの上部に形成される二酸化炭素液体層G1の層厚が10m~40mのときに、二酸化炭素遮蔽層Cに作用する圧力に基づいて最適化することにより、二酸化炭素遮蔽層Cが十分な強度を有したシール層となることを見出した。
【0059】
さらに、本発明者は、二酸化炭素遮蔽層Cにおける二酸化炭素ハイドレートの生成後の時間と強度との関係を最適化することにより、二酸化炭素遮蔽層Cが、より十分な強度を有したシール層となり、大量の二酸化炭素をより効率的に貯留することが可能になることを見出した。
【0060】
即ち、本発明者は、上記のように、二酸化炭素遮蔽層Cにおける二酸化炭素ハイドレートの生成からの時間と強度との関係を最適化することにより、十分な強度で二酸化炭素遮蔽層Cを形成させることで、二酸化炭素貯留層Gに圧入した二酸化炭素が漏洩するのを防止でき、キャップロックを必要とすることなく、大量の二酸化炭素を効率的に貯留することが可能になることを見出した。
【0061】
なお、本発明で規定する、二酸化炭素遮蔽層における二酸化炭素ハイドレートの生成初期の強度とは、例えば、二酸化炭素ハイドレートの生成開始から0~40hrの時点における強度である。
【0062】
以下に、二酸化炭素液体層G1の上昇圧力によって二酸化炭素遮蔽層Cに作用する圧力の試算について詳述する。
本発明者は、詳細を後述する室内実験と平行して、図1(a)中に示した二酸化炭素ハイドレートからなる二酸化炭素遮蔽層Cに作用する圧力を試算した。この圧力は、水中(海水中)における液体二酸化炭素の浮力に基づくもので、水又は海水の密度と、二酸化炭素の密度との差分を積分することで、図4のグラフに示すような結果で計算される。
【0063】
ここで、二酸化炭素遮蔽層Cに作用する圧力の試算に用いた二酸化炭素の密度の等値線を、図2の二酸化炭素ハイドレートの温度-圧力相図のグラフ中に示す。図2のグラフ中においてR1で示した領域は、二酸化炭素ハイドレートが安定して存在する圧力条件・温度条件を示す領域である。
【0064】
また、図3の二酸化炭素ハイドレートの温度-圧力相図のグラフ中に、二酸化炭素ハイドレートの安定領域を、温度軸を拡大して示す。図3中には、上述した二酸化炭素の密度の等値線、海水密度の等値線、並びに密度差の等値線も重ね合わせて示し、二酸化炭素の浮力の読み取りが可能なグラフとしている。なお、図3中には、太平洋及び日本海の海水温-圧力(水深)の関係をプロットした曲線を示している。また、図3中には、Span&Wagner の状態方程式(参考文献1:Span, R. and Wagner, W.“A New Equation of State for Carbon Dioxide Covering the Fluid Region from the Triple-Point Temperature to 1100 K at Pressures up to 800 MPa”, Journal of Physical and Chemical Reference Data, 25, 1996, p1509-1596)を用いて計算した二酸化炭素の等密度線も示している。また、図3中には、EOS80(参考文献2:Millero, F.J., Poisson, A. “International one-atmosphere equation of state of seawater, Deep Sea Research Part A. Oceanographic Research Papers”, Vol.28, Issue 6, 1981, p625-629; 参考文献3:Millero, F.J., Poisson, A. “Density of seawater and the new International Equation of State of Seawater 1980”, IMS Newsletter, Number 30, Wright (Ed), Spe-cial Issue 1981-1982, UNESCO, Paris, France, 1981, p.3)を用いて計算した35‰海水の当密度線も示している。また、図3中には、密度の差分Δ(二酸化炭素密度-海水密度)の等値線も示している。さらに、図3中には、図1(a)の模式断面図中に示した地層の温度・圧力{二酸化炭素シール領域S(1)-二酸化炭素貯留層G(2)-音響基盤B(3)}も示している。
【0065】
ここで、図3のグラフ中においてR2で示した領域は、上述した、二酸化炭素貯留層Gの上部に形成される二酸化炭素液体層G1の層厚が10m~40mのときに、二酸化炭素遮蔽層Cに作用する圧力を読み取り可能な領域である。図3中に示す領域R2は、二酸化炭素貯留層Gに貯留される二酸化炭素の圧力・温度を示す領域である。ここで、図3中に示す二酸化炭素の当密度線L1の値を読み取ると、二酸化炭素の密度は850~970kg/mであり、海水の当密度線L2の値を読み取ると、海水の密度は1029~1035kg/mである。これらの密度は、二酸化炭素の浮力の計算に必要であり、上記の二酸化炭素貯留層Gの上部に形成される二酸化炭素液体層G1の層厚が10m~40mのときに、二酸化炭素遮蔽層Cに作用する圧力は、上記の各密度の値に基づいて求めることができる。
【0066】
図3のグラフ中においてR3で示した領域は、二酸化炭素ハイドレート貯留によって貯留される二酸化炭素の密度の範囲(二酸化炭素液体層G1の層厚が50mである場合)を示している。この領域R3を見ると、貯留される二酸化炭素の密度は900から950kg/m程であり、海水の密度の90~95%に相当する密度である。これにより、二酸化炭素貯留層G(二酸化炭素液体層G1)に貯留される二酸化炭素の密度が海水の密度に近づくと、二酸化炭素遮蔽層Cに作用する浮力によって生じる圧力が小さくなることがわかる。
【0067】
図3のグラフ中に示した線分(a)-(b)-(c)は、それぞれ、海底面Fの温度・圧力(a)、二酸化炭素遮蔽層Cの下端の温度・圧力(b)、及び、二酸化炭素の注入点の温度・圧力(c)を示すプロット位置を各々繋ぐ線分であり、海底面Fの温度が5℃・1000m(約1,000decibar)、海底下の地層Uの地温勾配が30℃/km、二酸化炭素の注入点の温度が15℃である場合を示す。この温度・圧力は、貯留地点の水深や地温勾配によって変化するため、線分(a)-(b)-(c)は地点毎に異なる。
【0068】
一方、海底面Fの温度・圧力については、太平洋と日本海における海水温-圧力(水深)の関係が確認・報告されている(参考文献4:池川 洋二郎,「COハイドレート貯留に関する日本周辺の深海における海水温の定式化」土木学会論文集,2022.01.14)。参考文献4で報告されているような、太平洋と日本海における海水温-圧力(水深)の関係は、図3においては、グラフ中のX軸方向で左側に、鉛直に近い2本の曲線でプロットされており、温度が低い側に位置するものが日本海における関係で、他方が太平洋の関係を示す。これら2本の曲線は、ともに、標準偏差が0.5℃以下である水深に曲線としてプロットされたものであり、日本海は水深が500~2000mの範囲、太平洋は水深が1000~4000mの範囲にプロットされている。ここで、太平洋は、黒潮の影響と考えられる温度変化が大きいことから、図3のグラフ中においては、最大・最小値の包絡線を破線で示している。また、図3中に示した上記2本の曲線は、参考文献4において対象とされているデータベース内で確認された水深の範囲に関する結果である。また、地温勾配(GG)については、陸域における平均値30℃/kmの地温勾配を、海域でも同様であると想定しているが、地温勾配は、地点毎に0~200℃/km程度の範囲で変化する。
【0069】
上記のような、海水温-水深の関係と、参考文献4で示されているCOハイドレートの安定領域の境界(三相線)の定式に基づき、二酸化炭素遮蔽層Cの下端の温度・圧力(T,P)は、Tsf、Psf、GGを既知入力とする下記一般式(1)で計算できる。
【0070】
【数1】
【0071】
他方、二酸化炭素遮蔽層Cの上端は、COハイドレートの過冷却の現象があること、COハイドレートの生成が可能なCOと水のモル比率(1:5.5~6)の条件があること、海底下の地層U中の孔隙水が海水と同様に塩分を含む場合に凝固点降下が生じること、等の留意点があることから、精度よく計算で求めるにためにはデータ不足となる可能性もある。ここで、上述した過冷却(SUPER-COOL)とは、固体に相変化する温度・圧力においても液体に留まっている現象であり、振動等のきっかけで微小な一部が固体に変化を開始すると、全体が一挙に固体に変化する現象として知られている。また、凝固点降下は、濃度3%程の食塩水に氷を浮かべると、この氷の融点が-5℃程まで低下することで知られ、塩分の濃度がより高くなると、融点がさらに低下することも知られている。
【0072】
上記のように、海底下の地層Uに含まれる孔隙水は、海水と同様に塩分を含むと考えられることから、以下に、COハイドレートの生成における凝固点降下についで説明する。
COハイドレートが生成するときは、氷の生成と同様に、塩分を排出するように生成する。このため、残された水の塩分が高くなるという現象が生じる。また、凝固点降下は局所的な塩分で変化することから均一にはならず、±2℃程のバラツキが生じる。また、純度が高い水の凝固点付近で熱量変化を計測すると、0℃に明瞭な発熱ピークが生じることで凝固点を決めることができる。しかしながら、塩分を含む水の凝固点付近で熱量変化を計測すると、明瞭なピークが現れず、凝固点に1~2℃の幅が生じ、明瞭な決定が難しい。
【0073】
上述したように、二酸化炭素遮蔽層Cの上端における温度・圧力を求めるためには、過冷却、凝固点降下、並びにCOと水のモル比率の条件の観点から不確実性が存在するが、その範囲は一定程度の幅に収まる。例えば、平均的な35‰の海水の場合の凝固点降下は平均値で2℃であり、さらに±2℃程度の幅がある。図3のグラフ中には、この凝固点降下について、温度軸(X軸)に並行な複数の線分L3~L8で示している。図3のグラフにおいては、線分L9で示したCOハイドレートの安定領域の境界(三相線)に対して、上記の線分L3~L8が低温側に位置していることで凝固点降下が現れている。このデータは、本出願人が実施した室内実験の結果を示しており、線分L3~L8は、最大値と最小値を結ぶように表記している。
【0074】
以上の知見から、二酸化炭素遮蔽層Cにおける上端の温度は、下端の温度よりも平均値で2℃低く、且つ、±2℃程度の幅を有する。また、地温勾配が30℃/kmである場合、2℃の温度変化は、層厚にすると66.7mであり、±66.7mの幅を有するが、この層厚及び±範囲は平均値付近である確率が高い。従って、二酸化炭素遮蔽層Cは、二酸化炭素シール領域Sの下端側、即ち、二酸化炭素貯留層Gとの境界から0~133mの間に生じると考えられる。なお、この知見は、地温勾配が30℃/km、塩分が35‰の場合の知見であるため、これらが変化した場合には、上記の層厚も変化する。
【0075】
なお、図4のグラフ中において、Case1-3の線分の右端には、貯留層厚=0m(貯槽の上端)の場合の水深(m)を示し、貯留層厚が200mの場合の圧力値を下向き正として示している。また、図4中において、貯留層厚が20mの場合の圧力は、貯留層厚200mの場合の1/10程度である。また、図4中において、Case1,2は二酸化炭素ハイドレート貯留、Case3は帯水層貯留であり、帯水層貯留では二酸化炭素は超臨界となって二酸化炭素密度が小さく、浮力が大きくなるために圧力が高くなることがわかる。
【0076】
図6(a)~(c)の各グラフには、それぞれ、図5に示した圧力セル100を用いた実験で得られた、二酸化炭素ハイドレートからなる膜の強度を示している。
図6(a)~(c)の各グラフにおいては、それぞれの下段側のグラフに実線で示した二酸化炭素の流速を、図6(a):0.006mL/min、図6(b):0.003mL/min、図6(c):0.0015mL/minの順で遅くすることで、二酸化炭素ハイドレートの膜が破れる時間間隔が長くなるように設定している。この時間間隔が短いと、二酸化炭素ハイドレート膜の強度が十分に得られる前に破れていると考えることができる。図6(a)~(c)においては、上記の時間間隔が長くなることで、115時間経過後には0.2MPa程の差圧(=強度)が計測され、二酸化炭素ハイドレート膜の強度が増加する傾向が現れている。
【0077】
上記の差圧は、二酸化炭素ハイドレート膜に作用している圧力である。この差圧が二酸化炭素ハイドレート膜の強度よりも高くなると、膜の一部が破れて二酸化炭素が浸透して圧力差が「0」に低下し、その後、二酸化炭素の浸透が停止することで、二酸化炭素ハイドレート膜が繰り返し生成される。
【0078】
図6(a)~(c)の各グラフに示した結果から、二酸化炭素ハイドレート膜の初期強度を0.02MPaと仮定し、以下の実験においては、二酸化炭素ハイドレート膜の初期強度に作用する差圧が0.02MPaとなるように、図示略のポンプを制御している。
【0079】
図7のグラフには、図5に示した圧力セル100を用いた実験で得られた、地層中に二酸化炭素が浸透したときの二酸化炭素ハイドレートの生成熱による温度上昇を示している。この実験においては、海水で飽和させた試料(7号硅砂)への液体二酸化炭素の浸透先端位置を温度変化で確認している。
【0080】
図8のグラフには、図5に示した圧力セル100を用いた実験で得られた、差圧が水頭で約2m以下である条件で17日間保持したときの、保持時間と差圧との関係を示している。また、本実験においては、40‰海水で飽和させた試料(9号硅砂)を用いている。
図8のグラフに結果を示した実験における初期条件は、海水で飽和させた砂の孔隙に、下方から400~500mmに設置した温度計の位置まで二酸化炭素を浸透させた条件とした。
図8において上から3つ目(下から3つ目)のグラフに実線で示した時間-差圧の関係は、二酸化炭素が浸透した先端位置に生成していると仮定した初期の二酸化炭素ハイドレート膜に関し、差圧が0.02MPaとなるように400時間(約17日間)維持したものである。
【0081】
図9のグラフには、図5に示した圧力セル100を用いた実験で得られた、差圧が水頭で約2m以下である条件で17日間保持した後に、差圧を1MPaとして24時間維持したときの、二酸化炭素ハイドレートの膜からなる二酸化炭素遮蔽層Cの強度を示している。
【0082】
本実験においては、上記の実験で410時間後に強度が上がったと考えられた二酸化炭素ハイドレートからなる二酸化炭素遮蔽層Cに差圧0.08MPaを強制的に作用させ、この状態で24時間維持した。この維持状態で24時間が経過した後、差圧を1MPaに上げて4時間維持した。この結果、二酸化炭素遮蔽層Cの強度が、二酸化炭素ハイドレート膜の初期強度である0.02MPaから1MPaに増加していることが確認できた。
【0083】
ここで、上記の0.02MPaという差圧は、二酸化炭素ハイドレート貯留において、二酸化炭素貯留層Gの層厚が20m程になるように二酸化炭素を貯留した場合に生じる差圧である。実際の二酸化炭素の貯留においては、年間500万トンの二酸化炭素を、20~30年にわたって連続して注入することが想定されることから、二酸化炭素貯留層Gの層厚は徐々に増加すると考えられる。例えば、二酸化炭素貯留層Gの層厚が0~20mに達するのに要する時間が2週間以上であれば、強度が1MPa以上である二酸化炭素遮蔽層Cによる効果的な遮蔽機能を用いた貯留量が期待できる。
【0084】
なお、本実験においては、まず、図8のグラフを参照して説明したような、温度2℃、圧力7MPa、差圧を水頭で2m以下に維持した条件で17日間保持した実験の後に、二酸化炭素の圧力を上げて差圧1MPaとして24時間程度で維持する実験を行った。これにより、上記のように、二酸化炭素遮蔽層Cにおける強度(二酸化炭素の浸透が開始する圧力)が1MPa以上であることを確認した。
【0085】
図10のグラフには、図5に示した圧力セル100を用いた実験で得られた、差圧を段階的に増加させた場合の、二酸化炭素ハイドレートの膜からなる二酸化炭素遮蔽層の強度を示している。ここで、図10のグラフ中に示した強度は、二酸化炭素ハイドレート膜の強度(二酸化炭素の浸透が開始する圧力)である。
【0086】
図10中に示したデータは、約2週間の期間で、1MPa以上の強度を有する二酸化炭素遮蔽層Cのデータを3回連続で取得した後の結果である。
この実験を実施した理由としては、これまでの知見に基づき、約2週間の期間で、二酸化炭素遮蔽層Cの強度が徐々に増加することが予測されたことから、このことを確認する必要があったことが上げられる。
本実験では、まず、初期条件として、水深800m相当の水圧(8MPa)において、海水で飽和した砂を4℃程度の温度に維持した。
そして、以下の(1)~(6)に示す各々の時間のタイミングで、各種処理を実施するとともに、経過観察を行った。
【0087】
(1)0~7時間
上記の差圧が約0.02MPaになるように流量を調整しながら、二酸化炭素を浸透させた(図10のグラフ中における下から2つ目のグラフを参照)。
この間、二酸化炭素は、最大0.04mL/minで浸透し、圧力セル100の上部側からは二酸化炭素が浸透した量の海水が排出された(図10のグラフ中における下から2つ目のグラフを参照)。
【0088】
また、この際の差圧として、圧力のスケールが0~3MPaのグラフを図10中における上から3つ目のグラフに示すとともに、圧力のスケールが0~0.25MPaのグラフを図10中における上から4つ目のグラフに示した。即ち、図10においては、差圧が0.2MPa以下と小さいケースについては、上から4つ目のグラフで圧力を読み取ることが可能となるように示している。
【0089】
(2)7~18時間
7時間が経過した時点で、二酸化炭素の浸透量が低下したことから、上記の差圧を0.025MPaに増加させた。この際、圧力セル100の上部側からは二酸化炭素が浸透した量の海水が排出され、遮蔽されていないことが確認された。
【0090】
(3)18~42時間
上記の差圧を0.05MPaまで強制的に増加させたところ、二酸化炭素ハイドレート膜の一部が破れたと見られ、二酸化炭素の浸透量が0.05mL/min以上に急増した。しかしながら、さらに4時間が経過した22時間後には、二酸化炭素の浸透量が低下し、圧力セル100の上部側から排出されていた海水(排水はマイナスの流量)が、徐々に排出から注入(注入は正の流量)に変化し、二酸化炭素遮蔽層Cが徐々に出来上がりつつあることが示されている。
この理由としては、二酸化炭素ハイドレートの生成によって10%程度の体積収縮が生じるため、この生成過程においては、二酸化炭素及び海水の両方が流入するためと考えられる。
【0091】
(4)42~50時間
段階的に差圧を0.2MPaまで増加させたところ、二酸化炭素遮蔽層Cを通過するような浸透は見られないことから、二酸化炭素遮蔽層Cの強度が0.2MPa以上になっていることが確認できる。
【0092】
(5)50~67時間
上記の差圧を0.5MPaで17時間維持したところ、二酸化炭素遮蔽層Cの強度が0.5MPa以上になっていることが確認できた。
【0093】
(6)67~72時間
段階的に差圧を増加させ、二酸化炭素遮蔽層Cの強度が3MPa以上になっていることを確認して本実験を終了した。
【0094】
上記の結果より、本実験では、50時間、並びに、65~72時間における二酸化炭素の流量(図10中における下から3つ目のグラフ)には、急激な増加が見られるものの、これは、二酸化炭素が圧縮されるために生じる見かけ上の流量である。即ち、同時間帯においては、圧力セル100の上部からは海水は排出されず、何れも注入状態であることから、二酸化炭素遮蔽層Cを透過するような二酸化炭素の浸透は生じていないことが確認できた。
【0095】
上記の結果は、二酸化炭素遮蔽層Cの時間-強度の関係を示していると考えられ、時間の経過とともに強度が上がることが分かる。また、18~22時間の時間帯に二酸化炭素ハイドレート膜が破れたと考えられるが、この程度の差圧によって生じる破れに対しては、二酸化炭素遮蔽層C自体の修復機能が作用し、1MPa以上の強度になるまでの時間が約67時間(3日間弱)に短縮されていると考えられる。
【0096】
先に説明した図11のグラフには、図5に示した圧力セル100を用いた実験で得られた、逆方向の差圧が作用した場合の、二酸化炭素ハイドレートの膜からなる二酸化炭素遮蔽層Cの強度を示している。
【0097】
本実験においては、まず、初期条件として、海水で飽和した砂に、圧力セル100の下側から400~500mmの範囲において二酸化炭素の浸透の先端が位置するように、二酸化炭素を浸透させた後、差圧が0~0.02MPaの範囲で15時間程度維持した。
この初期段階における二酸化炭素の浸透の先端の位置では、二酸化炭素ハイドレートの生成熱による温度上昇が見られる。この温度上昇は、圧力セル100の下側から100mm、200mm、300mmの各位置の順に、等しい時間間隔で温度上昇が見られることで、二酸化炭素の浸透の先端の位置が確認できる。
【0098】
図11のグラフ中には、15時間後に二酸化炭素の圧力を急減させたときの結果を示している。
この二酸化炭素の圧力の急減により、圧力セル100の下側から400mmの箇所で二酸化炭素ハイドレートの生成熱による温度上昇が顕著に見られることから、この位置に二酸化炭素遮蔽層Cが形成されたと考えられる。
また、このタイミングは、二酸化炭素の圧力が20MPaから17.5MPa程度に低下した後、20MPaに再上昇するタイミングと一致している。
【0099】
また、二酸化炭素の圧力が20MPaから17.5MPaまで低下する間は、二酸化炭素遮蔽層Cは十分な強度が確保されていて破れていないので、差圧が生じている。しかしながら、二酸化炭素の圧力が17.5MPaに低下したとき、二酸化炭素遮蔽層Cが一度破れている。
この、二酸化炭素遮蔽層Cが一度破れたタイミングで、二酸化炭素遮蔽層Cの近傍に向けて水が浸透を開始し、この浸透によって二酸化炭素側の圧力が20MPaに上昇する。また、二酸化炭素ハイドレートの生成熱が発生することに伴う温度上昇が、圧力セル100の下側から400mmの位置で顕著なので、この位置に、さらに強固な二酸化炭素ハイドレート膜からなる二酸化炭素遮蔽層Cが再生成したと考えられる。
【0100】
また、二酸化炭素の流量を見ると、15時間の時点では0.04mL/mで、15時間の後に0mL/mに停止している。また、上記のように二酸化炭素遮蔽層Cが一度破れた後の再生成の後は、二酸化炭素側の圧力が徐々に低下し、二酸化炭素遮蔽層Cに作用する差圧が逆方向(マイナス)となる。この差圧が、二酸化炭素遮蔽層Cが10MPa(水頭で1000m)相当の強度を有していることを示している。
【0101】
ここで、図5に示した圧力セル100において、二酸化炭素が浸透した砂の孔隙に水を浸透させる方向で、詳細を後述する人工水封を行った場合(図1中の人工水封設備6を参照)、二酸化炭素遮蔽層Cに作用する差圧力を低減させる効果が期待される。これとともに、人工水封による圧力上昇が過大になった場合には、二酸化炭素遮蔽層Cが短時間(本実験では1~2時間)で強度上昇する効果が期待される結果となっている。
【0102】
図12のグラフには、温度-圧力の関係における{二酸化炭素/水}の最適な体積比の等値線を示している。
図12中に示すように、二酸化炭素ハイドレートの結晶の分子式(5.75HO・CO)を考慮した体積比を計算した結果、水の容積は二酸化炭素の容積の2.3倍必要となる。従って、二酸化炭素が浸透した孔隙が閉塞するためには、水/海水が足りない構成が高いと考えられる。つまり、水が利用尽くされてしまい(Dry up)、二酸化炭素が余剰となった状態であると考えられる。
【0103】
一方、図13には、図5に示した圧力セル100を用いた実験結果に基づき、二酸化炭素ハイドレートの膜による遮蔽メカニズムを考察した模式図を示している。即ち、図13は、図5に示した円筒状の圧力セル100の部分断面を示す図である。
図13の模式図に示すように、砂の孔隙における液体二酸化炭素と水/海水の界面付近は、水の飽和度が100%から徐々に低下しており、界面は決して平面ではないことがわかる。
また、図13に示すように、二酸化炭素の浸透の先端付近では、上述した分子式による容積比率に近い領域が存在する。
【0104】
なお、砂の表面には、水の濡れ性によって水膜が存在することが考えられ、砂の孔隙に複雑に入り込んだ界面に二酸化炭素ハイドレート膜が生成した構造となっていると考えられる。従って、二酸化炭素遮蔽層Cは、水平状の一面的な膜ではなく、一定以上の厚さを有した領域である可能性が高い。
【0105】
さらに、砂の孔隙において厚さが20μm程度(参考文献5:箭内健彦, 阿部豊, 金子暁子, 山根健次,「COハイドレート膜厚に及ぼす流れ場の影響」,日本機械学会論文集B編,Vol.78,No.787,2012)の二酸化炭素ハイドレートがストロー状に生成していると仮定し、さらに、平均的な孔隙径を60μmと仮定すると、ストロー形状の中心部に残される20μmの領域に液体二酸化炭素が存在すると考えられる。この液体二酸化炭素が残った部分が二酸化炭素ハイドレートになるのには2週間程の時間を要し、この部分が1MPa以上の強度を有するようになると考えられる。
なお、上記の液体二酸化炭素が残った部分には、濃度勾配に基づく拡散によって二酸化炭素分子や水分子が供給されると考えられ、この拡散による供給が、二酸化炭素遮蔽層Cの生成に時間がかかる要因と考えられる。
【0106】
上述した本発明の実証実験により、二酸化炭素遮蔽層Cは、この二酸化炭素遮蔽層Cの孔隙における、二酸化炭素ハイドレートの生成初期の強度が、0.01~0.04MPaであることが好ましく、平均値で概ね0.02MPa程度であることがより好ましい。二酸化炭素遮蔽層Cをなす二酸化炭素ハイドレートの生成初期の強度が上記範囲で確保されていることで、二酸化炭素遮蔽層Cの下方に注入した二酸化炭素をより確実に封じ込めることができ、大量の二酸化炭素をより高効率で貯留することが可能となる。
なお、0.02MPaという二酸化炭素ハイドレートの生成初期における強度は、上述した9号硅砂~7号硅砂の粒径における平均的な値である。
【0107】
本実施形態の貯留方法では、二酸化炭素遮蔽層Cにおける、二酸化炭素ハイドレートの生成初期の強度、及び、二酸化炭素貯留層Gの上部に形成される二酸化炭素液体層G1の層厚が10m~40mのときに、二酸化炭素遮蔽層Cに作用する圧力を計算し、各々の計算値に基づき、二酸化炭素の、海底面F下の地層Uへの圧入流量、圧入井2の使用数、及び、注入深度のうちの少なくとも何れかを制御する方法を採用できる。上記のような各計算については、例えば、コンピュータ、タブレット端末等の計算プログラムを用いて行うことができ、この計算結果に基づいて、二酸化炭素の圧入流量や、圧入井2の使用数や深さを制御すればよい。この場合、例えば、圧入井2を、内径や注入深度を変更して複数で設置することで、その流量や使用数を適宜変更することが容易になる。
【0108】
本実施形態の貯留方法によれば、上記のような制御方法を採用することにより、二酸化炭素貯留層Gにおける二酸化炭素の貯留状況や、二酸化炭素遮蔽層Cの強度等を逐一把握しながら、二酸化炭素の圧入流量や圧入位置等を調整できるので、二酸化炭素の貯留施設の効率的な運用が可能になる。また、上記同様、二酸化炭素遮蔽層Cの下方に注入した二酸化炭素を確実且つ効果的に封じ込めることが可能となるので、大量の二酸化炭素を高効率で貯留することが可能となる。
【0109】
また、二酸化炭素遮蔽層Cは、二酸化炭素ハイドレートの生成開始から10~20日が経過した後の強度が1MPa以上であることが好ましい。二酸化炭素遮蔽層Cをなす二酸化炭素ハイドレートの生成開始から10~20日が経過した後の強度が上記範囲であることにより、二酸化炭素遮蔽層Cの強度をさらに確実に確保できる。これにより、二酸化炭素遮蔽層Cの下方に注入した二酸化炭素をさらに確実に封じ込めることができるので、大量の二酸化炭素をさらに高効率で貯留することが可能となる。
【0110】
また、本実施形態の貯留方法では、二酸化炭素遮蔽層Cにおける、二酸化炭素ハイドレートの生成開始から10~20日が経過した後の強度を計算し、当該計算値に基づき、二酸化炭素の、海底面F下の地層Uへの圧入流量、圧入井2の使用数、及び、注入深度のうちの少なくとも何れかを制御する方法を採用できる。上記計算値は、コンピュータ、タブレット端末等の計算プログラムを用いて求めることが可能であり、上記同様、この計算結果に基づいて、二酸化炭素の圧入流量や、圧入井2の使用数や深さを制御することが可能である。
これにより、上記同様、二酸化炭素貯留層Gにおける二酸化炭素の貯留状況や、二酸化炭素遮蔽層Cの強度等を逐一把握しながら、二酸化炭素の圧入流量や圧入位置等を調整できるので、二酸化炭素の貯留施設のさらなる効率的な運用が可能になる。また、上記同様、二酸化炭素遮蔽層Cの下方に注入した二酸化炭素を確実且つ効果的に封じ込めることが可能となるので、大量の二酸化炭素をさらに高効率で貯留することが可能となる。
【0111】
なお、本実施形態においては、二酸化炭素シール領域S全体の地層厚については特に限定されない。しかしながら、二酸化炭素シール領域Sのシール性を向上させるため、即ち、二酸化炭素貯留層Gに貯留された二酸化炭素(CO)が海水W中に漏洩するのを確実に防止するため、二酸化炭素シール領域Sの地層厚を、少なくとも100m以上で確保することが好ましい。このように、二酸化炭素シール領域Sの地層厚を所望の厚さで確保する方法としては、例えば、事前調査により、海底面F下の地層Uの温度と圧力の状況を十分に把握した上で、圧入井2の深さを、二酸化炭素シール領域Sの地層厚が所定の寸法となるように設定し、二酸化炭素の圧入深さ(圧入深さ)を最適化することが好ましい。
【0112】
[二酸化炭素の密度と孔隙水の密度とが平衡する地層中の深度領域]
本実施形態の二酸化炭素の地中貯留方法においては、上記のような、人工水封によって二酸化炭素シール領域Sの孔隙圧を増加させることや、二酸化炭素遮蔽層Cをなす二酸化炭素ハイドレートの生成時の、時間と強度との関係の最適化に加え、さらに、海底面F下の地層U又は陸域の地層中における、二酸化炭素の密度(ρCO2)と孔隙水の密度(ρsw)とが平衡する圧力条件及び温度条件を満たす地層中の深度領域に二酸化炭素を貯留する方法を採用することも可能である。
【0113】
即ち、本実施形態においては、予め、実験や実地調査を実施することにより、例えば、海底面F下の地層U中において、二酸化炭素の密度(ρCO2)と孔隙水の密度(ρsw)とが平衡する圧力条件及び温度条件を満たす地層を特定したうえで、当該深度領域に二酸化炭素を貯留する方法とすることができる。
【0114】
また、本実施形態では、海底面F下の地層U又は陸域の地層中における、二酸化炭素の密度ρCO2と孔隙水の密度ρswとが平衡する圧力条件及び温度条件を満たす地層の深度を計算し、当該計算値に基づき、二酸化炭素の、海底面F下の地層U又は陸域の地層への圧入位置を制御する方法を採用することも可能である。
【0115】
海底面F下の地層Uにおける地温勾配を考慮すると、液体二酸化炭素の密度(ρCO2)と海水等の孔隙水の密度(ρsw)とが一致(ρCO2=ρsw)する深度が存在すると考えられる。即ち、当該深度の地層中においては、液体で圧入された二酸化炭素は、沈降も上昇もすることなく停留することを利用して二酸化炭素を貯留できると考えられる。
【0116】
図14のグラフには、海底面F下の地層Uにおいて二酸化炭素の密度(ρCO2)と海水の密度(ρsw)とが平衡する深度における温度条件と圧力条件との関係の計算結果を示している。
図14のグラフに示す結果の計算は、海水の塩分:35‰psu、地温勾配:30℃/kmの条件で行い、また、海水温は、太平洋におけるArgoデータの一例を用いた。
【0117】
図14のグラフ中における(1)は、二酸化炭素ハイドレートの生成(安定)領域で、二酸化炭素の密度(ρCO2)と海水の密度(ρsw)とが次式{ρCO2<ρsw}で表される関係となる領域であり、この位置よりも深部では二酸化炭素が液化する温度領域となる。
また、図14のグラフ中における(2)は、二酸化炭素の密度(ρCO2)と海水の密度(ρsw)とが次式{ρCO2=ρsw}で表される関係を満たす領域であり、これら二酸化炭素の密度(ρCO2)と海水の密度(ρsw)とが平衡する圧力条件及び温度条件を満たす水深/領域である。
また、図14のグラフ中における(3)は、二酸化炭素の密度(ρCO2)と海水の密度(ρsw)とが次式{ρCO2>ρsw}で表される関係となる領域であり、音響基盤:地質調査に利用される反射法で現れる領域である。
【0118】
そして、海底面F下の地層Uで次式{ρCO2>ρsw}で表される関係となる水深を計算した結果、水深=3964.645m、海底面F面の水深=3600.000m、海底面F面からの深度=364.645mbsfが算出された。
【0119】
なお、上記計算の適用条件は、海域における海水温-圧力(水深)の関係おいて、二酸化炭素の密度(ρCO2)と海水の密度(ρsw)とが次式{ρCO2>ρsw}で表される関係となる、水深2700m以深の海底面F下の地層Uである(日本海を除く太平洋)。
【0120】
先に示した図3のグラフにおいて、X軸及びY軸の基点側にハッチングにて示した領域は、二酸化炭素の密度(ρCO2)が海水の密度(ρsw)よりも大きくなる温度条件・圧力条件を示している。
このような、次式{ρCO2>ρsw}で表される関係となる環境を利用し、海底における凹状地形の領域に二酸化炭素を貯留する方法も提案されていたが(上記の参考文献5を参照)、現実には、国際法に基づく「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」(海洋汚染防止法)により、実現不可能となっている。一方、海底面F下の地層Uは、上記の海洋汚染防止法の適用範囲ではない。そこで、水深3000m以深の海底面F下の地層Uに貯留する検討結果も報告されているが(参考文献6:Yihua Teng and Dongxiao Zhang., “Long-term viability of carbon sequestration in deep-sea sediments”, Science Advances, Vol.4, No.7, 04 Jul 2018)、これまで、地温勾配は考慮されていない。
【0121】
そこで、図14における温度-圧力の関係を示すグラフにおいて、海底面F下の地層Uの地温勾配を考慮した計算を実施した結果、二酸化炭素の密度(ρCO2)と海水の密度(ρsw)とが次式{ρCO2=ρsw}で表される関係を満たして一致(平衡)する水深/深度(Density-Matched Depth)が現れることを知見した。
図14のグラフ中の実線において、水深0~3500mは海水温を示しており、3500m以深では、海底面Fの下の地層Uの地温の影響で温度が上昇している。
また、図14のグラフ中の鎖線には、既存の海水の状態方程式を用いて計算した、温度(海水/地層)、圧力、塩分35‰を考慮した海水の密度(ρsw)を示している。
また、図14のグラフ中の一点鎖線には、既存の二酸化炭素の状態方程式を用い、温度(海水/地層)及び圧力を考慮して計算した二酸化炭素の密度(ρCO2)を示している。
【0122】
図14のグラフ中に示すように、水深2700m付近で二酸化炭素の密度(ρCO2)と海水の密度(ρsw)とが一致(平衡)している。一方、水深2700~3500m付近では、海水の密度(ρsw)よりも二酸化炭素の密度(ρCO2)が大きくなっている。また、水深3500m以深では、海底面F下の地層Uに入って温度が上昇することで、二酸化炭素の密度(ρCO2)が小さくなる一方、水深4000m付近で、再度、二酸化炭素の密度(ρCO2)と海水の密度(ρsw)とが一致している。さらに、水深4000m以深では、海水の密度(ρsw)が二酸化炭素の密度(ρCO2)よりも大きくなっている。
【0123】
上記のような、二酸化炭素の密度(ρCO2)及び海水の密度(ρsw)の変化から、上記計算条件の場合、水深4000m付近の海底面F下の地層Uに二酸化炭素を注入することで、この二酸化炭素は浮上も沈降もすることなく当該位置に停留し、水平方向に広がると考えられる。従って、海底面F下の地層U中における上記位置に、二酸化炭素の地中貯留が可能と考えられる。
【0124】
ここで、図14では、海底面F下の地層Uにおいて、2005年のIPCCレポート(15,p280,Fig.6,9/p286)に記載されている海水中の移行帯(transitional zone, 水深2500~3000m)の表記を踏襲している。また、図14においては、海水温の変化によって次式{ρCO2=ρsw}で表される関係となる水深が変化することから、移行帯として水深に幅を持たせている。同様に、海底面F下の地層Uでは、地点毎に地温勾配が異なることから、次式{ρCO2=ρsw}で表される関係となる海底面Fからの深度が変化する。
【0125】
上記のような、二酸化炭素の密度(ρCO2)及び海水の密度(ρsw)の変化からも、上記計算条件の場合、水深4000m付近の海底面F下の地層Uに二酸化炭素を注入することで、この二酸化炭素は浮上も沈降もすることなく当該位置に停留し、水平方向に広がると考えられる。従って、海底面F下の地層U中における上記位置に、二酸化炭素の地中貯留が可能と考えられる。
【0126】
上記のように、海底面F下の地層U中における二酸化炭素の密度(ρCO2)と海水の密度(ρsw)とが一致する深度に貯留した液体二酸化炭素は、浮上も沈降もすることなく当該位置に停留する。従来は、3000m以深に二酸化炭素を貯留した場合、二酸化炭素は沈降すると考えられていたが、地層中におけるどの深度まで沈降するのかは不明であったが、本発明者等の知見によれば、上記の深度に二酸化炭素を貯留すれば、二酸化炭素の沈降や浮上は生じない。
【0127】
なお、二酸化炭素が溶解した孔隙水の密度(二酸化炭素溶解水)は、孔隙水の密度よりも大きくなるために沈降し、下方の音響基盤Bに存在する玄武岩のような、カルシウム(Ca)等のアルカリ金属に富んだ岩盤に接触すると、炭酸カルシウム(CaCO)等の炭酸塩となり、最終的な二酸化炭素(CO)の隔離状態となる。
【0128】
密度が平衡する地層、即ち、次式{ρCO2=ρsw}で表される関係となる地層を利用すると、地震等によって高透水の断層等が発生した場合であっても、浮力に基づく二酸化炭素の漏洩リスクが低減される可能性が高まるとともに、上述したキャップロックは不要とある。
【0129】
ここで、地震等によって地層が変形した場合には、一般に孔隙容積が大きくなる(ダイレイタンシー)。このように、孔隙容積が大きくなった領域の圧力は低下するため、圧力勾配により、周辺から二酸化炭素が流れ込むが、慣性によって静水圧以上の圧力になる可能性がある。この場合、二酸化炭素の上昇流が生じて海洋に漏洩するリスクがあるが、この深度より浅い地層では二酸化炭素ハイドレート膜からなる二酸化炭素遮蔽層Cが生成するため、上記の漏洩リスクに対して二重の防御が機能する。この二重の防御とは、上述した次式{ρCO2=ρsw}で表される関係となる地層の利用と、二酸化炭素ハイドレート膜からなる二酸化炭素遮蔽層Cが生成することを指す。
【0130】
ここで、水深3000m以深では、海底面Fの温度は一般に2℃未満である。また、地中における地温勾配を考慮すると、海底面F面と並行するように等温線を引くことができる。
この等温線を、島しょ、海山、海台の周辺において考慮すると、図15中に示すように、次式{ρCO2=ρsw}で表される関係を満たす等密度線が、海底面F面に平衡するように傾斜していると考えられる。ここで、図15のグラフには、島しょ、海山及び海台を想定した貯留方法を示しており、水平距離と水深との関係を、縦横比で1:10として示している。
上記の等密度線よりも浅部では、図14中に示したように、次式{ρCO2>ρsw}で表される関係となり、逆に深部は、次式{ρCO2<ρsw}で表される関係となる領域なので、二酸化炭素は、次式{ρCO2=ρsw}で表される関係を満たす等密度線の近傍に水平状に広がり、上記の等密度線に沿って滞留する。
【0131】
上記のように、水深3000m以深の海底面F下の地層Uにおいて、次式{ρCO2=ρsw}で表される関係を満たす等密度線の分布を考慮して、この等密度線の深度近傍に二酸化炭素を貯留するためには、深さが3000mを超える深さとなるように、海底面F下に抗井を掘削する必要がある。このように、3000m以深の海底面F下に抗井を掘削するためには、最新の掘削技術を用いることが必須となり、工費の大幅な増大が想定される。そこで、図15中に示すように、海底面F面と並行するように分布すると考えられる等値線(ρCO2=ρsw)について考慮すると、水深3000m以浅の海底面F面から抗井を掘削できる場所が存在する可能性がある。このような場所に、より汎用的で低コストである掘削技術を用いて圧入井を設けることで、水深3000m以深にも広がる領域で二酸化炭素の貯留が可能となり、より大きな貯留容量が実現できる。
【0132】
特に、火山岩から構成される島しょ、海山、及び海台等は、海底面F面に噴出した溶岩から出される火山ガスの気道の形状が海水で急冷されることで残ったものである。また、富士山等の火山岩には、溶岩の通り道(火道)と連続する空洞(孔隙)や、微細な連続孔隙(火山ガスの気密)等が存在しており、これらの空洞に二酸化炭素が貯留される。
【0133】
なお、上記の「島しょ」とは、四方を海洋や湖等の水域に囲まれた陸地のことをいう。
また、上記の「海山(Sea mount)」とは、海底地形の一種であり、海底から1000m以上の比高を有する比較的孤立した高所部であって、頂上の径が大きくないもののことをいう。
また、上記の「海台」とは、大洋底にある、頂部が比較的平坦な台地状の地形であって、広さが100km以上であり、周囲の海底から200m以上隆起しているもののことをいう。
また、「火山ガス」は、水蒸気、CO、硫化水素、及び一酸化炭素等の混合ガスである。
【0134】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態の二酸化炭素の地中貯留方法によれば、上記構成を採用することにより、二酸化炭素シール領域全体の強度が増加することから、二酸化炭素がハイドレート化されてなる二酸化炭素遮蔽層Cの強度を確実に確保できる。これにより、二酸化炭素遮蔽層Cの下方に注入した二酸化炭素を確実に封じ込めることができるので、大量の二酸化炭素を効率良く貯留することが可能となる。
【0135】
また、本実施形態の二酸化炭素の地中貯留装置によれば、簡便な構成で上述した本実施形態の地中貯留方法に適用でき、且つ、大量の二酸化炭素を効率良く貯留することが可能となる。
【0136】
<その他の形態>
なお、本発明の技術的範囲は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記の実施形態においては、海底下の地層に二酸化炭素を貯留する例を挙げて説明したが、本発明に係る二酸化炭素の地中貯留方法及び地中貯留装置は、これには限定されず、上述したように、陸域の地層中への二酸化炭素の貯留にも適用可能なものである。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の二酸化炭素の地中貯留方法及び二酸化炭素の地中貯留装置は、二酸化炭素がハイドレート化されてなる二酸化炭素遮蔽層の強度を確保することで下方に注入した二酸化炭素を確実に封じ込めることができ、大量の二酸化炭素を効率良く貯留することが可能な方法及び装置である。従って、本発明は、例えば、各種プラントにおいて、化石燃料を用いて発電しながら二酸化炭素を回収し、この二酸化炭素を地中に貯留することで排出量を削減する用途等において非常に好適である。
【符号の説明】
【0138】
1…二酸化炭素の地中貯留装置(貯留装置)
2…圧入井
21…先端
6…人工水封設備
100…圧力セル
M…海面
W…海水
F…海底面(海底)
U…地層
S…二酸化炭素シール領域
C…二酸化炭素遮蔽層
G…二酸化炭素貯留層
G1…二酸化炭素液体層
B…音響基盤
図1
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