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特開2024-30965皮膚の脂肪細胞分化と脂肪産生の促進剤及び皮膚外用剤
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  • 特開-皮膚の脂肪細胞分化と脂肪産生の促進剤及び皮膚外用剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030965
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】皮膚の脂肪細胞分化と脂肪産生の促進剤及び皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/64 20060101AFI20240229BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20240229BHJP
   A61K 8/9728 20170101ALI20240229BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 36/48 20060101ALI20240229BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240229BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20240229BHJP
   A61K 35/742 20150101ALI20240229BHJP
【FI】
A61K8/64
A61K8/9789
A61K8/9728
A61Q19/00
A61K36/48
A61P17/00
A61P43/00 105
A61P43/00 121
A61K38/08
A61K35/742
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134229
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】592215011
【氏名又は名称】東洋ビューティ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505427632
【氏名又は名称】株式会社ランクアップ
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】中川 侑紀
(72)【発明者】
【氏名】東郷 智美
(72)【発明者】
【氏名】久間(松田) 紗苗
(72)【発明者】
【氏名】久間 將義
(72)【発明者】
【氏名】山口 剛史
(72)【発明者】
【氏名】小川(向井) 真理子
(72)【発明者】
【氏名】若井(日▲高▼) 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤(田村) 彩子
【テーマコード(参考)】
4C083
4C084
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA031
4C083AA032
4C083AA082
4C083AA111
4C083AA112
4C083AC022
4C083AC072
4C083AC122
4C083AC302
4C083AC432
4C083AC582
4C083AD092
4C083AD282
4C083AD352
4C083AD411
4C083AD412
4C083BB51
4C083CC04
4C083CC05
4C083DD23
4C083DD31
4C083EE06
4C083EE12
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA17
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4C087ZA89
4C087ZB21
4C087ZC75
4C088AB61
4C088AC04
4C088BA06
4C088MA02
4C088MA17
4C088MA22
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB21
4C088ZC75
(57)【要約】
【課題】効率よく皮膚脂肪細胞の分化及び脂肪産生を促進し、老化によって損なわれやすい皮膚の弾力性を維持または改善可能な皮膚脂肪細胞の分化及び脂肪産生促進剤並びに化粧料等の皮膚外用剤とすることである。
【解決手段】バチルス属細菌による大豆発酵生産物を1×10-7~1×10-2質量%含み、かつアセチルヘキサペプチド-8を1×10-7~1×10-2質量%必須成分として含む皮膚脂肪細胞の分化及び脂肪産生促進剤とし、これを皮膚弾力性の改善のための有効成分量含んだ化粧料等の皮膚外用剤とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス属細菌による大豆発酵生産物及びアセチルヘキサペプチド-8が含有される皮膚の脂肪細胞分化及び脂肪産生の促進剤。
【請求項2】
前記バチルス属細菌が、バチルス プミルス(Bacillus pumilus)である請求項1に記載の皮膚の脂肪細胞分化及び脂肪産生の促進剤。
【請求項3】
前記大豆発酵生産物が1×10-7~1×10-2質量%含有され、かつ前記アセチルヘキサペプチド-8が1×10-7~1×10-2質量%含有される請求項1または2に記載の皮膚の脂肪細胞分化及び脂肪産生の促進剤。
【請求項4】
請求項1または2に記載の皮膚の脂肪細胞分化及び脂肪産生の促進剤が含有される皮膚外用剤。
【請求項5】
請求項3に記載の皮膚の脂肪細胞分化及び脂肪産生の促進剤が含有される皮膚外用剤。
【請求項6】
前記皮膚の脂肪細胞分化及び脂肪産生の促進剤が、皮膚弾力性の改善のための有効成分量含有される請求項4に記載の皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、皮膚における前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化及び脂肪産生を促進し、皮膚の弾力性を維持または改善可能な皮膚の脂肪細胞分化と脂肪産生の促進剤及び化粧料等の皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
人体最大の臓器として、体内と外界を隔てて生命維持に重要な機能を担う皮膚は、表皮、真皮、皮下組織の3層で構成されている。
【0003】
最下層の皮下組織は、その大部分を占める皮下脂肪が層を成すことで、外部からの物理的刺激や衝撃を軽減させ、断熱・保温作用により恒常性を維持し、またエネルギー貯蔵としての役割も果たしている。
【0004】
このような皮膚の弾力性を向上させ、または維持するためには、上記した3層構造における真皮層のコラーゲン線維やエラスチン線維の量や質だけでなく、筋肉や骨などの複数の組織構造の関与も考慮し、特に皮下組織の関与を考慮する必要がある。
【0005】
皮下組織を形成する皮下脂肪は、脂肪細胞によって産生されるが、脂肪細胞の脂肪産生能や蓄積量は加齢などによって減少する。そのような加齢による皮下脂肪の質的・量的低下は、皮下組織の形状や皮膚弾力性にも影響を及ぼし、シワやたるみなどの形態的な変化も伴って皮膚に老化現象が起こる。
【0006】
皮膚の老化現象を抑制する一つの方法として、脂肪細胞の脂肪産生を促進して皮下脂肪を蓄積し、かつ維持することによって皮膚弾力性を改善する方法が有効と考えられる。
【0007】
皮膚の脂肪細胞が皮下脂肪を産生・蓄積する機序としては、先ず、中胚葉系幹細胞が前駆脂肪細胞になることが決定づけられ、次に前駆脂肪細胞が増殖し、未成熟な小型脂肪細胞へと分化する。未成熟小型脂肪細胞内で確認される脂肪滴は、その後、成熟大型脂肪細胞へ終末分化して大きな脂肪滴となり、より多くの脂肪を蓄積できるようになる。
【0008】
脂肪細胞は、分化の際に特異的な遺伝子を発現し、さらに特有の形態へ変化することで機能を獲得することが知られており、脂肪細胞への分化を決定づける重要な転写因子(主要制御因子)として、C/EBP(CCAAT/エンハンサー結合タンパク質)ファミリーとPPARγ(ペルオキシソーム増殖剤活性化レセプター)が挙げられ、特に培養系での脂肪細胞分化過程においては、まず初期分化マーカーであるC/EBPβが発現することで、中期分化マーカーであるPPARγやC/EBPαの発現を誘導し、脂肪細胞への分化や脂肪蓄積を促すことが知られている(非特許文献1、2)。
また分化に伴うPPARγの活性化により、アディポネクチン遺伝子発現が増強されることやアディポネクチンによる真皮構成成分の促進が知られている。
【0009】
このような皮下脂肪を産生・蓄積する機序から、前駆脂肪細胞の培養系におけるC/EBPβ遺伝子発現定量および脂肪滴定量によって脂肪細胞への分化能や脂肪産生能を評価できる。
【0010】
アセチルヘキサペプチド-8は、ニューロンエキソサイトーシス(神経分泌)抑制剤として有用なタンパク質SNAP-25のアミノ末端(N-末端ドメイン)に由来する3~30の隣接アミノ酸からなる配列を有する周知なペプチドであり、アルギニン、グルタミン酸、グルタミン及びメチオニンを含むヘキサペプチド-8のアセチル化によって得られ、ボツリヌス毒素の代替物として筋肉の緊張の弛緩に起因するシワへの美容作用があることが知られている(特許文献1、2)。
ちなみに、上記アセチルヘキサペプチド-8は、当該分野における技術用語として化粧品原料国際命名法(INCI)によって定義されている。
【0011】
また、テンチャ(Rubus suavissimus S.Lee)の抽出物を含む脂肪前駆細胞分化促進剤が知られており(特許文献3)、豆乳醗酵液、クロレラ抽出物を有効成分とする前駆脂肪細胞分化促進剤が知られている(特許文献4)。
【0012】
また、Bacillus pumilus種の株を用いた発酵エキスであるバチルス/ダイズ発酵エキスは、脂肪細胞におけるアディポネクチンレベルの増加、筋組織のミトコンドリア活性やATPレベルの増加などの作用が知られている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2002-542777号公報
【特許文献2】特許第6712640号公報
【特許文献3】特開2011-153093号公報
【特許文献4】特開2018-70452号公報
【特許文献5】特表2017-509660号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】末長将志ら、「アスコルビン酸リン酸による3T3-L1脂肪前駆細胞の分化促進作用のメカニズムの検討」、2008年、Trace Nutrients Research、第25巻、p.61-64
【非特許文献2】今川正良、「核内受容体PPARγを介した脂肪細胞分化の分子機構」、脂肪栄養学、2003年、第12巻、p54-64
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、上記の特許文献3~5に記載された植物抽出物や合成化合物は、それぞれ単独で用いられた場合の作用は知られているが、他の成分との組み合わせによる格別な作用効果は知られていない。
【0016】
また、特許文献1、2に示されているアセチルヘキサペプチド-8は、筋肉の緊張の弛緩に起因するシワへの美容作用については知られているが、その他の作用については明らかでなく、特に皮膚脂肪細胞の分化及び脂肪産生を効率よく促進する特定の成分の組み合わせは公知ではなかった。
【0017】
そこで、この発明の課題は、上記した未解決の問題を解決して、前駆脂肪細胞の分化および脂肪産生作用を促進する成分の新規な組合せを見いだすことにより、効率よく皮膚脂肪細胞の分化と脂肪産生を促進し、老化によって損なわれる皮膚の弾力性を維持または改善することが可能な皮膚脂肪細胞の分化及び脂肪産生促進剤及び化粧料等の皮膚外用剤を創製することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願の発明者らは、前駆脂肪細胞の分化および脂肪産生の促進作用を持つ成分をスクリーニングした結果、バチルス属細菌による大豆発酵生産物と、アセチルヘキサペプチド-8を組み合わせて配合することで皮膚の脂肪産生作用が相乗的に促進されることを見いだし、皮膚のシワやたるみ等の予防または改善に極めて有効であることを確認した。
【0019】
すなわち、上記課題を解決するために、この発明はバチルス属細菌による大豆発酵生産物及びアセチルヘキサペプチド-8を必須成分として含有する皮膚脂肪細胞の分化及び脂肪産生促進剤とする手段を採用したのである。
【0020】
バチルス属細菌による大豆発酵生産物、またはアセチルヘキサペプチド-8のそれぞれを有効成分として単独配合による皮膚の前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化作用及び脂肪産生作用に比較すると、前記両成分を併用して配合した薬剤は、前駆脂肪細胞を刺激することで分化を促進し、さらにそのような作用効果は相乗的に奏され、皮膚の弾性は充分に改善され、シワやたるみ等の予防または改善に極めて有効である。
【0021】
上記作用効果は、バチルス属細菌が、バチルス プミルス(Bacillus pumilus)である場合において、より充分に安定して奏され、さらに前記大豆発酵生産物が1×10-7~1×10-2質量%含有され、かつアセチルヘキサペプチド-8が1×10-7~1×10-2質量%含有されている場合において、さらに充分に奏される。
【0022】
そのため、上記手段または上記手段に加えて、上記要件の1以上を備えた皮膚脂肪細胞の分化及び脂肪産生促進剤を必須成分として含有することが、上記作用効果を確実かつ充分に奏する皮膚外用剤を創製するために好ましい。
【0023】
また、上記皮膚外用剤には上記皮膚脂肪細胞の分化及び脂肪産生促進剤が、皮膚弾力性の改善のための有効成分量含まれていることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
この発明は、バチルス属細菌による大豆発酵生産物及びアセチルヘキサペプチド-8を必須成分として併用し、好ましくは所定量含有する皮膚脂肪細胞の分化及び脂肪産生促進剤としたので、効率よく皮膚脂肪細胞の分化と脂肪産生を促進し、老化によって損なわれやすい皮膚の弾力性を充分に維持または改善できる皮膚脂肪細胞の分化及び脂肪産生促進剤並びに化粧料等の皮膚外用剤となる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1及び比較例1-3を用いて培養した脂肪細胞群のC/EBP-β遺伝子発現比を示したグラフ
図2】実施例2及び比較例1、4-5を用いて培養した脂肪細胞群のC/EBP-β遺伝子発現比を示したグラフ
図3】比較例1を用いて培養した脂肪細胞群の脂肪滴を観察した光学顕微鏡写真
図4】比較例4を用いて培養した脂肪細胞群の脂肪滴を観察した光学顕微鏡写真
図5】比較例5を用いて培養した脂肪細胞群の脂肪滴を観察した光学顕微鏡写真
図6】実施例2を用いて培養した脂肪細胞群の脂肪滴を観察した光学顕微鏡写真
図7】実施例1及び比較例1-3を用いて培養した脂肪細胞群の脂肪滴産生量を示したグラフ
図8】実施例2及び比較例1、4-5を用いて培養した脂肪細胞群の脂肪滴産生量を示したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明の実施形態として、皮膚の脂肪細胞分化と脂肪産生の促進剤及び化粧料などの皮膚外用剤は、バチルス属細菌による大豆発酵生産物及びアセチルヘキサペプチド-8を必須成分とする組成物であり、必須成分及びその他の所要成分と、これらの好ましい配合割合などの具体例について、以下に詳細に説明する。
【0027】
<皮膚の脂肪細胞分化及び脂肪産生の促進剤>
皮膚の脂肪細胞分化及び脂肪産生の促進剤は、前駆脂肪細胞の分化促進及び脂肪産生促進のための薬剤であって、前駆脂肪細胞が成熟脂肪細胞に分化誘導され、かつ脂肪を活発に産生させるために、バチルス属細菌による大豆発酵生産物及びアセチルヘキサペプチド-8を必須の有効成分とするものである。
【0028】
<アセチルヘキサペプチド-8の例>
この発明に用いるアセチルヘキサペプチド-8は、合成されたペプチドであり、タンパク質SNAP-25のアミノ末端からの3~30の隣接アミノ酸の配列を有し、そのペプチド配列は、一般式:R-W-X-AA-AA-AA-AA-AA-AA-Y-Z-Rで示され、この式中のAA、AA、AA、AA、AA、AAはそれぞれ用途に応じたアミノ酸が選択され、W、X、Y、及びZは、コードされたアミノ酸及びコードされないアミノ酸からなる群より互いに独立して選択され、n、m、p及びsは、互いに独立して選択され、0ないしは1の値を有すものである。また、上記式中のRはアセチル基(CH-CO-)であり、Rは、-OH及び-NHから選択されるペプチドである。
【0029】
上記ペプチド、その立体異性体、これらの混合物および/またはその化粧品的にもしくは薬学的に許容される塩の合成は、固相ペプチド合成方法[Stewart J.M.およびYoung J.D.、「Solid Phase Peptide Synthesis、第2番」、(1984年)、Pierce Chemical Company、イリノイ州ロックフォード;Bodanzsky M.およびBodanzsky A.、「The practice of Peptide Synthesis」、(1994年)、Springer Verlag、、ベルリン;Lloyd-Williams P.ら、「Chemical Approaches to the Synthesis of Peptides and Proteins」、1997年、CRC、米国フロリダ州ボカラトン]、溶液における合成、固相合成と、溶液における合成または酵素合成の方法の組み合わせ[Kullmann W.「Proteases as catalysts for enzymic syntheses of opioid peptides」、1980年、J.Biol.Chem.、255巻(17号)、8234~8238頁]を用いる方法等、先行技術において公知の従来の方法に従って行うことができる。
【0030】
上記ペプチドは、修飾または未修飾の細菌株の発酵により、遺伝子操作して所望の配列を産生することにより、あるいは少なくとも所望の配列を含有するペプチド断片を放出する、動物または植物起源、好ましくは植物のタンパク質の制御された加水分解により、得ることもできる。
【0031】
上記ペプチドのC末端の端は、好ましくは固体担体と結合しており、この過程は、固相で行われるので、保護されたN末端の端および自由なC末端の端を有するアミノ酸を、自由なN末端の端およびポリマー担体と結合したC末端の端を有するアミノ酸とカップリングすることと、N末端の端の保護基を排除することと、この一連の流れを、所望の長さのペプチドを得るのに必要な回数反復し、続いて最後に、最初のポリマー担体の合成ペプチドを開裂させることも上記ペプチド合成の概念に含まれる。
【0032】
固相合成は、ポリマー担体またはポリマー担体と予め結合したアミノ酸とペプチドをカップリングする収束的合成法を用いて行うことができる。収束的合成は、当業者に広く公知であり、Lloyd-Williams P.ら、「Convergent Solid-Phase Peptide Synthesis」、(1993年)、Tetrahedron、49巻(48号)、11065~11133頁に記載されている。
【0033】
ペプチド合成の手順は、先行技術において公知の標準過程および条件で無差別的な順序でN末端およびC末端の端を脱保護し、この場合、ポリマー担体のペプチドを開裂する追加的な段階を含むことができ、その後、前記端の官能基を修飾することができる。
【0034】
また、ペプチドは、立体異性体又は立体異性体の混合物として存在する。例えば、立体異性体を形成するアミノ酸は、L-、D-立体構造を有することができるし、互いに独立したラセミ化合物であってもよい。
【0035】
このようにして得られる異性体混合物、ラセミ混合物、ジアステレオマー混合物、純ジアステレオマーまたはエナンチオマーは、不斉炭素の数と、異性体や異性体混合物が存在するか、しないかによって決まる。より好ましい構造としては、例えばエナンチオマーまたはジアステレオマーである。
【0036】
この発明に使用するアセチルヘキサペプチド-8は、市販品を用いることができ、スペイン LIPOTEC S.A.U.社製の登録商標 ARGIRELINE(Amplified peptide olution C)を使用できるが、このような製造メーカーに限定されるものではない。
【0037】
この発明の皮膚の脂肪細胞分化及び脂肪産生の促進剤中に配合されるアセチルヘキサペプチド-8は、必須の有効成分として1×10-7~1×10-2質量%配合することが好ましい。
【0038】
後述する実験結果からも明らかなように、アセチルヘキサペプチド-8がバチルス属細菌による大豆発酵生産物と併用され、極微量でもアセチルヘキサペプチド-8が含まれていればこの発明の所期した効果が奏されるからであり、例えば1×10-7質量%以上、好ましくは5×10-4質量%以上、より好ましくは1×10-3質量%以上のアセチルヘキサペプチド-8が含まれていれば、前記効果は、より充分に奏される。
【0039】
アセチルヘキサペプチド-8の配合量の上限は、特に限定する必要性はないが、実効性と配合効率の観点から、1×10-2質量%以下であれば好ましい。
【0040】
<バチルス属細菌による大豆発酵生産物(バチルス/ダイズ発酵エキス)の例>
本願発明に用いるバチルス/ダイズ発酵エキスは、Bacillus pumilus種の株のダイズ(大豆)発酵エキスを用いることが好ましい。
バチルス プミルス(Bacillus pumilus)は、例えば寄託番号LMG P-28202のBacillus pumilusの株を用いることができ、この株は、1977年4月28日の微生物寄託の国際認識に関するブダペスト条約に従って、前記目的について法的に認められている機関のBelgian Coordinated Collection of Microorganisms(BCCM)/Laboratorium voor Microbiologie-Bacterieverzameling(LMG)(BCCM/LMG)(University Ghent、K.L.Ledeganckstraat 35、B-9000 Ghent、Belgium)において、2014年3月11日に寄託されたものである。
【0041】
Bacillus pumilus種の株の発酵エキスは、分子量が7000Da未満、または5000Da未満のペプチド性の糖質材料を含有する。
この発酵エキスは、Bacillus pumilus種の株を、慣習的に、前記生成物を合成し、培養培地に分泌するために撹拌し曝気した適切な培養培地中で発酵させた後、精製を行うことによって得られる。
【0042】
エキスを生成するための発酵は、温度10℃~40℃、または20℃~35℃で撹拌し曝気した培地中で行うことができ、この培地は、pH6.5~9または約7.0を有するが、pHは発酵中に必要に応じて調整される。発酵時間は、12~120時間、または24~72時間である。
【0043】
また、Bacillus pumilus種の株の発酵における培養培地は、外部からの糖、例えば、ガラクトース、グルコース、マンノース、アミグダリン、セロビオース、マルトース、デンプン、グリコーゲン、ラクトース、それらの混合物を含み、及び/またはこれらの糖の混合物を含有するエキスを、発酵培養培地における追加の炭素供給源として使用することができ、外部から0.5~40g/L、または5~25g/Lのグルコースが発酵培養培地に供給されてもよい。
【0044】
また海塩に加えて、追加のミネラル塩も、Bacillus pumilus種の株の発酵培養培地に添加されてもよい。これらの塩は、イオンであるNa、K、NH 、Ca2+、Mg2+、PO 3-、SO 2-、Cl、F、I、CO 2-、NO 、シトレート、または微量元素、例えばCu、Mn、Mo、Fe、Sr、B、Br、Si、Al、Li、およびZnを提供する塩の中から選択される。
【0045】
発酵エキスの単離および精製の方法は、遠心分離および濾過などの当業者に公知の方法によって行われる。遠心分離および濾過ステップは、発酵エキスが見出される上清から、Bacillus pumilus種の株を分離することを対象とする。
【0046】
この発明において使用するバチルス/ダイズ発酵エキスは、市販品を用いることができ、例えば、スペインLIPOTEC S.A.U.社製の商品名 ACTIGYM MARINE INGREDIENTを使用することができる。
【0047】
この発明の皮膚の脂肪細胞分化及び脂肪産生の促進剤中に配合されるバチルス属細菌による大豆発酵生産物(バチルス/ダイズ発酵エキス)は、上記の促進剤中に必須の有効成分として1×10-7~1×10-2質量%を含まれることが好ましい。
【0048】
バチルス属細菌による大豆発酵生産物が極微量でも含まれていれば、アセチルヘキサペプチド-8と併用することによって、所期した効果が奏されるからであり、例えば1×10-7質量%以上、好ましくは5×10-4質量%以上、より好ましくは1×10-3質量%以上の上記大豆発酵生産物が含まれていれば、所期した効果がより充分に奏される。
上記大豆発酵生産物の配合量の上限は、特に限定する必要性はあまりないが、実効性と配合効率の観点から、1×10-2質量%以下であれば好ましい。
【0049】
<皮膚外用剤および化粧料の形態>
この発明における皮膚外用剤や化粧料は、その目的に応じて、選択的にクリーム状、乳液状、液状、ゲル状、軟膏状、パック状、スティック状、パウダー状等の形態を採用することができ、例えば、化粧水、乳液、クリーム、軟膏、ローション、オイル、パック等の基礎化粧料、固形石鹸、液体ソープ、ハンドウォッシュ等の洗顔料や皮膚洗浄料、マッサージ用剤、クレンジング用剤、除毛剤、脱毛剤、髭剃り処理料、アフターシェーブローション、プレショーブローション、シェービングクリーム、ファンデーション、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ等のメークアップ化粧料、シャンプー剤、リンス剤、ヘアートリートメント剤、プレヘアートリートメント剤、パーマネント液、染毛料、整髪料、ヘアートニック剤、育毛・養毛料、パップ剤、プラスター剤、テープ剤、シート剤、エアゾール剤等の頭皮・頭髪に適用する薬用または/および化粧用の製剤、浴用剤等が製品形態として挙げられる。
【0050】
<皮膚外用剤および化粧料の構成成分>
この発明では、バチルス属細菌による大豆発酵生産物及びアセチルヘキサペプチド-8が有効成分として処方に必須である他、必要に応じて、以下に挙げる成分や添加剤を任意に選択して単独または2以上組み合わせて用いることができ、これらの処方中への配合量は、本発明の効果を損ねない範囲であれば特に限定されない。
【0051】
(1)各種油脂類
アボカド油、アーモンド油、ウイキョウ油、エゴマ油、オリーブ油、オレンジ油、オレンジラファー油、ゴマ油、カカオ脂、カミツレ油、カロット油、キューカンバー油、牛脂脂肪酸、ククイナッツ油、サフラワー油、シア脂、液状シア脂、大豆油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、パーシック油、ヒマシ油、綿実油、落花生油、タートル油、ミンク油、卵黄油、パーム油、パーム核油、モクロウ、ヤシ油、牛脂、豚脂、スクワレン、スクワラン、プリスタン又はこれら油脂類の水素添加物(硬化油等)等。
【0052】
(2)ロウ類
ミツロウ、カルナバロウ、鯨ロウ、ラノリン、液状ラノリン、還元ラノリン、硬質ラノリン、カンデリラロウ、モンタンロウ、セラックロウ、ライスワックス等。
【0053】
(3)鉱物油
流動パラフィン、ワセリン、パラフィン、オゾケライド、セレシン、マイクロクリスタンワックス等。
【0054】
(4)脂肪酸類
ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ウンデシレン酸、トール油、ラノリン脂肪酸等の天然脂肪酸、イソノナン酸、カプロン酸、2-エチルブタン酸、イソペンタン酸、2-メチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、イソペンタン酸等の合成脂肪酸。
【0055】
(5)アルコール類
エタノール、イソプロパノール、ラウリルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラノリンアルコール、コレステロール、フィトステロール、フェノキシエタノール等の天然アルコール、2-ヘキシルデカノール、イソステアリルアルコール、2-オクチルドデカノール等の合成アルコール。
【0056】
(6)多価アルコール類
酸化エチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコール、酸化プロピレン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリトリトール、トレイトール、アラビトール、キシリトール、リビトール、ガラクチトール、ソルビトール、マンニトール、ラクチトール、マルチトール等。
【0057】
(7)エステル類
ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸ミリスチル、オレイン酸オレイル、オレイン酸デシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、酢酸ラノリン、モノステアリン酸エチレングリコール、モノステアリン酸プロピレングリコール、ジオレイン酸プロピレングリコール等。
【0058】
(8)金属セッケン類
ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、ミリスチン酸マグネシウム、ラウリン酸亜鉛、ウンデシレン酸亜鉛等。
【0059】
(9)ガム質、糖類又は水溶性高分子化合物
アラビアガム、ベンゾインガム、ダンマルガム、グアヤク脂、アイルランド苔、カラヤガム、トラガントガム、キャロブガム、クインシード、寒天、カゼイン、乳糖、果糖、ショ糖又はそのエステル、トレハロース又はその誘導体、デキストリン、ゼラチン、ペクチン、デンプン、カラギーナン、カルボキシメチルキチン又はキトサン、エチレンオキサイド等のアルキレン(C~C)オキサイドが付加されたヒドロキシアルキル(C~C)キチン又はキトサン、低分子キチン又はキトサン、キトサン塩、硫酸化キチン又はキトサン、リン酸化キチン又はキトサン、アルギン酸又はその塩、ヒアルロン酸又はその塩、コンドロイチン硫酸又はその塩、ヘパリン、エチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ニトロセルロース、結晶セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメタアクリレート、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド又はその架橋重合物、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレンイミン等。
【0060】
(10)界面活性剤
アニオン界面活性剤(アルキルカルボン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩)、カチオン界面活性剤(アルキルアミン塩、アルキル四級アンモニウム塩)、両性界面活性剤:カルボン酸型両性界面活性剤(アミノ型、ベタイン型)、硫酸エステル型両性界面活性剤、スルホン酸型両性界面活性剤、リン酸エステル型両性界面活性剤、非イオン界面活性剤(エーテル型非イオン界面活性剤、エーテルエステル型非イオン界面活性剤、エステル型非イオン界面活性剤、ブロックポリマー型非イオン界面活性剤、含窒素型非イオン界面活性剤)、その他の界面活性剤(天然界面活性剤、タンパク質加水分解物の誘導体、高分子界面活性剤、チタン・ケイ素を含む界面活性剤、フッ化炭素系界面活性剤)等。
【0061】
(11)各種ビタミン類
ビタミンA群:レチノール、レチナール(ビタミンA1)、デヒドロレチナール(ビタミンA2)、カロチン、リコピン(プロビタミンA)、ビタミンB群:チアミン塩酸塩、チアミン硫酸塩(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ピリドキシン(ビタミンB6)、シアノコバラミン(ビタミンB12)、葉酸類、ニコチン酸類、パントテン酸類、ビオチン類、コリン、イノシトール類、ビタミンC群:ビタミンC酸又はその誘導体、ビタミンD群:エルゴカルシフェロール(ビタミンD2)、コレカルシフェロール(ビタミンD3)、ジヒドロタキステロール、ビタミンE群:ビタミンE又はその誘導体、ユビキノン類、ビタミンK群:フィトナジオン(ビタミンK1)、メナキノン(ビタミンK2)、メナジオン(ビタミンK3)、メナジオール(ビタミンK4)、その他、必須脂肪酸(ビタミンF)、カルニチン、フェルラ酸、γ-オリザノール、オロット酸、ビタミンP類(ルチン、エリオシトリン、ヘスペリジン)、ビタミンU等。
【0062】
(12)各種アミノ酸類
バリン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、システイン、シスチン、チロシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒドロキシリジン、アルギニン、オルニチン、ヒスチジン等や、それらの硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、クエン酸塩、或いはピロリドンカルボン酸のごときアミノ酸誘導体等。
【0063】
(13)添加物
添加しようとする製品種別、形態に応じて常法的に行われる加工(例えば、粉砕、製粉、洗浄、加水分解、醗酵、精製、圧搾、抽出、分画、濾過、乾燥、粉末化、造粒、溶解、滅菌、pH調整、脱臭、脱色等を任意に選択、組み合わせた処理)を行い、各種の素材から任意に選択して供すれば良い。
さらにこの他にも、これまでに知られている各原料素材の様々な美容的、薬剤的効果を期待し、これらを組み合わせることによって、本発明の目的とする効果の増進を図り、多機能的な効果を期待した製品とすることも可能である。
【実施例0064】
[実施例1-2、比較例1-5]
この発明の実施例1の「皮膚の脂肪細胞分化と脂肪産生の促進剤」として、アセチルヘキサペプチド-8(スペイン LIPOTEC S.A.U.社製の登録商標GIRELINE(Amplified peptide olution C))と、大豆発酵生産物(バチルス/ダイズ発酵エキス)として寄託番号LMG P-28202のBacillus pumilusの株を用いて生産されたスペインIPOTEC S.A.U.社製の商品名 ACTIGYM MARINE INGREDIENTを混合して用いた。
【0065】
上記皮膚の脂肪細胞分化と脂肪産生の促進剤の使用例として、アセチルヘキサペプチド-8と大豆発酵生産物(バチルス/ダイズ発酵エキス)を単体配合するとともに、併用として配合比を1:1に混合した実施例1および実施例2の溶液を調製した。
【0066】
実施例1はアセチルヘキサペプチド-8と大豆発酵生産物(バチルス/ダイズ発酵エキス)を併用として配合比を1:1に混合し、合計で0.00025質量%配合したものとし、実施例2は実施例1と同様に混合し、合計で0.0005質量%配合したものとした。
【0067】
また、アセチルヘキサペプチド-8及びバチルス/ダイズ発酵エキスを培養液に全く加えない場合をコントロールの比較例1とし、アセチルヘキサペプチド-8のみを0.00025質量%配合した場合を比較例2の促進剤の使用例とし、バチルス/ダイズ発酵エキスのみを0.00025質量%配合した場合を比較例3の促進剤の使用例とした。
【0068】
また、アセチルヘキサペプチド-8のみを0.0005質量%配合した比較例4の促進剤の使用例とし、バチルス/ダイズ発酵エキスのみを0.0005質量%配合した場合を比較例5の促進剤の使用例とした。
得られた実施例1-2及び比較例1-5を用いて以下の実験を行ない、脂肪細胞分化と脂肪産生の促進作用を確認した。
【0069】
<実験1:前駆脂肪細胞の分化試験>
(細胞培養及び分化誘導)
ヒト間葉系脂肪前駆細胞(白色脂肪組織由来)HMSC(PA)(クラボウ社製)を前駆脂肪細胞として用いた。HMSC細胞を18,000個/cmの細胞密度で播種し、80~90%コンフルエントになるまで37℃、5%CO、飽和湿度のインキュベーター内で培養した。
【0070】
培養培地として、FibroLife S2 Comp kit(クラボウ社製)を用いた。24時間培養後、培地をAdipoLife Comp kit(クラボウ社製)のAdipoLife分化開始培地に交換し(この日を「誘導開始0日目」とした)、その2日後にAdipoLife Comp kitのAdipoLife分化維持培地に交換した。
【0071】
以後、1~3日ごとに培地を新しいAdipoLife分化維持培地に交換した。誘導開始6日目にリアルタイムPCRによる遺伝子発現量の測定を行い、誘導確認後にOil red Oによる脂肪滴量の評価を行なった。
【0072】
実施例1および実施例2の促進剤(アセチルヘキサペプチド-8及びバチルス/ダイズ発酵エキス)または比較例2および比較例4の促進剤(アセチルヘキサペプチド-8の単独配合)もしくは比較例3および比較例5の促進剤(バチルス/ダイズ発酵エキスの単独配合)を、誘導開始0日目およびAdipolife分化維持培地に、その交換時に添加した。
また、アセチルヘキサペプチド-8もしくはバチルス/ダイズ発酵エキスのいずれも全く添加しないで分化させた細胞を比較例1(コントロール)とした。
【0073】
(リアルタイムPCRによる遺伝子発現量の測定)
脂肪細胞分化の主要制御因子であるCCAAT/enhancer binding protein-β(C/EBP-β)の遺伝子発現量をリアルタイムPCRにより調べた。
【0074】
誘導開始6日目の細胞の培地を除去し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS(-))で2回洗浄した。その後、細胞からタカラバイオ社製のNucleospin(登録商標) RNA Plusのプロトコールに従い、totalRNAを抽出した。このRNAからタカラバイオ社製のPrimeScript(商標) RT reagent Kit(Perfect Real Tim)を用いて、cDNAを合成した。
【0075】
このcDNAに、TB Green(登録商標) Premix Ex Taq(商標) II(Tli RNaseH Plus)(タカラバイオ社製)、C/EBP-βおよびglyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)遺伝子に特異的なプライマーを混和後、CFX Connect リアルタイム PCR 解析システム(バイオ・ラッド ラボラトリーズ社製)を用いてリアルタイム PCRを行なった。C/EBP-β遺伝子のmRNAレベルをGAPDH遺伝子のmRNAに対する比として定量し、AdipoLife分化維持培地のみで培養したコントロールの値を1として算出し、実施例1及び比較例1-3の結果を図1に示し、実施例2及び比較例1、4-5の結果を図2に示した。
【0076】
図1に示される結果からも明らかなように、アセチルヘキサペプチド-8のみを0.00025質量%配合した比較例2とバチルス/ダイズ発酵エキスのみを0.00025質量%配合した比較例3では、比較例1(コントロール)に対する統計学的な有意差が認められる程度までには、C/EBP-β発現量の増加作用が認められなかった。
【0077】
しかし、アセチルヘキサペプチド-8およびバチルス/ダイズ発酵エキスを配合比1:1になるように併用し、合計量で0.00025質量%となるように配合した実施例1では、比較例1との間に統計学的な有意差が認められ、C/EBP-β発現量を増加させる作用があると認められた。
【0078】
この結果から、アセチルヘキサペプチド-8またはバチルス/ダイズ発酵エキスの極微量ずつ配合し、単体では所期した作用が充分に示されない場合においても、前記両成分を併用することによって有効な脂肪細胞の分化促進作用が示されることが明らかになった。
【0079】
また、図2に示される結果からは、アセチルヘキサペプチド-8のみを0.0005質量%配合した比較例4と、同様の遺伝子発現増加作用がみられたバチルス/ダイズ発酵エキスのみを0.0005質量%配合した比較例5に対して、両者併用して配合比を1:1に混合した実施例2とを比較した。
なお、比較例4及び比較例5については、予備的な試験を行なってC/EBP-β発現量の増加があり、増加量は統計学的な有意差をもって認められることを確めた。
【0080】
図2に示される結果から明らかなように、アセチルヘキサペプチド-8及びバチルス/ダイズ発酵エキスを併用した実施例2の発現比は、前記いずれかの成分を単体で配合した場合の発現比を合わせた値よりも大きく、その差は統計学的に有意であった。
このことから、アセチルヘキサペプチド-8およびバチルス/ダイズ発酵エキスを併用することによるC/EBP-β発現量増加の相乗的な効果が明らかであった。
【0081】
<実験2:分化脂肪細胞の脂肪滴定量試験>
オイルレッドO染色液は、オイルレッドO原液(コスモ・バイオ社製)を精製水と6:4の比率で混合し、室温で15分間静置後、0.45μmフィルターで濾過することによって得た。誘導確認後の細胞の培地を除去し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS(-))で1回洗浄した。細胞を4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液により室温で一晩固定した後、精製水で洗浄した。
【0082】
次に、オイルレッドO染色液を添加し、室温で15分間静置した。15分後にオイルレッドO染色液を除去し、精製水で洗浄水が透明になるまで洗浄後、細胞を顕微鏡(CKX41:オリンパス)で観察し、結果をモノクロ写真として図3(比較例1)、図4(比較例4)、図5(比較例5)、図6(実施例2)に示した。脂肪細胞中の脂肪滴は、これらの図中に黒色の斑点として観察された。
【0083】
上記観察した後、脂肪滴の定量を行うために、乾燥させたウェル内に抽出液(コスモ・バイオ)を加えて色素を溶出させた。この溶出液を、分光光度計(Cytation 5:BioTek Instruments)で波長540nmにおける吸光度を測定した。その際にコントロールの吸光度を100とし、これに対する割合で規定した数値を各処理において、それぞれ算出し、得られた結果を図7および図8に示した。
【0084】
図7に示される結果からは、アセチルヘキサペプチド-8のみを0.00025質量%配合した比較例2とバチルス/ダイズ発酵エキスのみを0.00025質量%配合した比較例3において、比較例1(コントロール)との統計学的な有意差が認められず、脂肪滴産生量の増加作用は見られなかった。
【0085】
しかしながら、アセチルヘキサペプチド-8およびバチルス/ダイズ発酵エキスを配合比1:1で併用した実施例1は、比較例1との間に統計学的な有意差が認められる程度に、脂肪滴産生量を増加させる作用を示した。
この結果から、アセチルヘキサペプチド-8およびバチルス/ダイズ発酵エキスを併用することにより、単体では作用が示されない場合においても有効的な作用を示すことが明らかになった。
【0086】
また、図8に示される結果は、脂肪滴産生量の増加がみられたアセチルヘキサペプチド-8のみを0.0005質量%配合した比較例4と、バチルス/ダイズ発酵エキスのみを0.0005質量%配合した比較例5の脂肪滴産生量を併せた値に対し、前記両成分を併用してそれらの配合比を1:1に混合した実施例2と比較したものである。
【0087】
その結果、アセチルヘキサペプチド-8とバチルス/ダイズ発酵エキスの単体を配合した比較例4及び比較例5の産生量を合わせた場合よりも、両成分を併用した実施例2の産生量の方が統計学的に有意に高かったことから、アセチルヘキサペプチド-8およびバチルス/ダイズ発酵エキスを併用することによる脂肪滴産生量増加の相乗的な効果が明らかになった。
【0088】
ここで、以上の結果をまとめて示すと、以下の通りである。
比較例2または比較例4では比較例1(コントロール)と同程度のC/EBP-β発現量であったが、実施例1では比較例1と比べ有意に高い発現量を示した。
【0089】
また、比較例3または比較例5では、比較例1に比べてC/EBP-β発現量の増加がみられたが、その増加量は合わせたとしても約1.3倍であった。一方、実施例2では約1.5倍の増加量がみられ、単純に単体の作用を合わせた以上の効果が示された。
この結果から、アセチルヘキサペプチド-8およびバチルス/ダイズ発酵エキスを併用することで、単純に合わせた以上に有効的なC/EBP-β発現量を相乗的に増加させる効果があることは明らかであった。
【0090】
比較例2または比較例4では、比較例1(コントロール)と同程度の脂肪滴産生量であったが、実施例1では比較例1と比べ有意に高い発現量を示した。
【0091】
また、比較例3または比較例5では、比較例1に比べて脂肪滴産生量の増加がみられたが、その増加量は合わせたとしても約22%であった。一方、実施例2では約32%の増加量がみられ、単純に単体の作用を合わせた以上の効果が示された。
これらの結果から、アセチルヘキサペプチド-8およびバチルス/ダイズ発酵エキスを併用することで、単純に合わせた以上に有効的な脂肪滴産生量を相乗的に増加させる効果があることは明らかであった。
【0092】
以上の結果から、アセチルヘキサペプチド-8とバチルス/ダイズ発酵エキスとを併用することにより前駆脂肪細胞の成熟脂肪細胞への分化促進作用および脂肪産生作用が示され、さらに相乗的な促進作用を有することが確認できた。
【0093】
[実施例3-5、比較例6-8]
以下の表1に示す配合割合(合計100質量%)でアセチルヘキサペプチド-8およびバチルス/ダイズ発酵エキスを配合した実施例3-5及び比較例6-8の化粧料(クリーム)を調製した。得られた化粧料について、以下の実験3を行なって、肌のハリや弾力を評価し、その結果を表2中に併記した。
【0094】
<実験3:ヒトによる化粧料の使用試験>
肌のハリや弾力、シワやたるみ等に悩みをもつ被験者を一群20名とし、実施例3-5及び比較例6-8の化粧料(クリーム)を毎日、朝と夜、3か月間塗布させた。3ヶ月後累積塗布効果を以下の判定基準により自己判定させ、その判定結果を以下の基準で評価した。
【0095】
(判定基準)
著効:肌のハリや弾力を明らかに感じた。
有効:肌のハリや弾力を感じた。
やや有効:やや肌のハリや弾力を感じた。
無効:感じない。
【0096】
(評価)
◎:被験者のうち著効、有効の示す割合が80%以上
○:被験者のうち著効、有効の示す割合が60%以上80%未満
△:被験者のうち著効、有効の示す割合が40%以上60%未満
×:被験者のうち著効、有効の示す割合が40%未満
【0097】
【表1】
【0098】
表1に示される結果からも明らかなように、所定量のアセチルヘキサペプチド-8(0.0005質量%以上)とバチルス/ダイズ発酵エキス(0.0005質量%以上)を併用して配合した実施例3-5では、少なくとも60%以上の被験者が著効または有効を実感しており、アセチルヘキサペプチド-8とバチルス/ダイズ発酵エキスを併用して配合することによる肌のハリや弾力を向上させる効果が確認できた。
【0099】
また、表1に示される結果から化粧品中には、アセチルヘキサペプチド-8を0.0005~0.0025質量%と、バチルス/ダイズ発酵エキスを0.0005~0.0025質量%を併用して含ませることが望ましいことがわかった。比較例7,8のように、0.0005質量%のアセチルヘキサペプチド-8または0.0005質量%のバチルス/ダイズ発酵エキスのそれぞれ単独を配合すると、十分な効果が得られない場合があった。
【0100】
以上の結果から、アセチルヘキサペプチド-8とバチルス/ダイズ発酵エキスを併用して配合した化粧料は、前駆脂肪細胞の分化および脂肪産生の促進作用を介した皮膚弾力性の維持や向上、皮膚老化現象の予防または改善、皮膚のシワやたるみ等の予防または改善として利用できることが確認された。
【0101】
以下に、所定のアセチルヘキサペプチド-8とバチルス/ダイズ発酵エキスを併用配合した上記以外の化粧品の処方例を示す。各行右端の数値は配合割合(質量%)である。
処方例1~3についても、実施例3-5と同様に、肌のハリや弾力を向上させる効果を有するものであった。
【0102】
〔処方例1〕(化粧水)
アセチルヘキサペプチド-8 0.0005
バチルス/ダイズ発酵エキス 0.0005
グリセリン 5.0
1,3-ブチレングリコール 10.0
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残余
【0103】
〔処方例2〕(乳液)
アセチルヘキサペプチド-8 0.001
バチルス/ダイズ発酵エキス 0.001
グリセリン 5.0
1,3-ブチレングリコール 7.0
カルボキシビニルポリマー 0.3
スクワラン 2.0
セタノール 0.8
L-アルギニン 0.3
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残余
【0104】
〔処方例3〕(美容液)
アセチルヘキサペプチド-8 0.0025
バチルス/ダイズ発酵エキス 0.0025
グリセリン 5.0
1,3-ブチレングリコール 5.0
キサンタンガム 0.5
ヒドロキシエチルセルロース 0.5
クエン酸ナトリウム 適量
クエン酸 適量
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残余
【産業上の利用可能性】
【0105】
この発明は、ヒトにおける脂肪組織の前駆脂肪細胞の分化促進および脂肪産生に効果を発揮する組成物(剤など)として利用され、これを有効成分として肌のハリや弾力を改善し、またシワやたるみ等の皮膚の老化現象を予防または改善するための老化防止剤や弾性改善剤など、皮膚を対象とする外用薬剤に利用できるものであり、医薬または化粧料などの皮膚外用剤として産業上の汎用性を有するものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8