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  • 特開-防湿化粧紙 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030972
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】防湿化粧紙
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/04 20060101AFI20240229BHJP
   B32B 29/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B32B27/04 A
B32B29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134237
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】古沢 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】大島 野乃花
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA17C
4F100AK03B
4F100AK03D
4F100AK21B
4F100AK25E
4F100AK25J
4F100AK51C
4F100AK51J
4F100AT00
4F100BA05
4F100DG10A
4F100EH462
4F100EH46B
4F100EH662
4F100EH66C
4F100EJ542
4F100EJ54E
4F100GB08
4F100HB31D
4F100JD02
4F100JD04
4F100JL04
(57)【要約】
【課題】プラスチック材料の使用量を削減可能な防湿化粧紙であって、防湿化粧紙を折り曲げた後であっても優れた水蒸気バリア性を備える防湿化粧紙を提供することを目的とする。
【解決手段】本実施形態に係る防湿化粧紙10は、紙基材1の一方の面上に、防湿層a1と、化粧層a2とをこの順で備え、防湿層a1は、紙基材1の一方の面上に、アンカーコート層2と、金属酸化物層4と、オーバーコート層5と、をこの順で備え、アンカーコート層2と金属酸化物層4との間に、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、及び、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む樹脂層3を備え、化粧層a2は、防湿層a1の上に、印刷柄層6と、保護樹脂層7とをこの順で備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材の一方の面上に、防湿層と、化粧層とをこの順で備え、
前記防湿層は、前記紙基材の一方の面上に、アンカーコート層と、金属酸化物層と、オーバーコート層と、をこの順で備え、
前記アンカーコート層と前記金属酸化物層との間に、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、及び、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む樹脂層を備え、
前記化粧層は、前記防湿層の上に、印刷層と、保護樹脂層とをこの順で備えることを特徴とする防湿化粧紙。
【請求項2】
前記アンカーコート層が、極性基を有するポリオレフィンを含むことを特徴とする請求項1に記載の防湿化粧紙。
【請求項3】
前記アンカーコート層が、ポリビニルアルコール系樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載の防湿化粧紙。
【請求項4】
前記オーバーコート層が、極性基を有するポリオレフィンを含むことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の防湿化粧紙。
【請求項5】
前記金属酸化物層の厚さが、10nm以上100nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項4に記載の防湿化粧紙。
【請求項6】
前記樹脂層の厚さが、0.01μm以上3μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項5に記載の防湿化粧紙。
【請求項7】
前記アンカーコート層の厚さが、1μm以上5μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項6に記載の防湿化粧紙。
【請求項8】
前記オーバーコート層の厚さが、2μm以上10μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項7に記載の防湿化粧紙。
【請求項9】
前記紙基材の質量が、前記防湿層全体の質量を基準として、50質量%以上であることを特徴とする請求項8に記載の防湿化粧紙。
【請求項10】
前記紙基材が紙間強化紙であることを特徴とする請求項9に記載の防湿化粧紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内扉、キッチン扉、収納扉、襖などの建具に用いられる防湿化粧紙に関し、詳しくは湿度変化、温度変化等によって発生する化粧板等の反りを防止する機能を有し、且つ、折り曲げても防湿性の低下が少ない防湿化粧紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、室内扉、キッチン扉、収納扉などの建具において、湿度、温度の関係で使用中に徐々に反りが発生することがあった。これは、主として、室内外に湿度差や温度差が生じることで、木質建具内部の含水率分布に偏りが生じるために発生する現象である。すなわち、湿度差が生じると、木質建具表裏面における吸放湿量に差が生じ、湿度の高い側では高含水率になるために膨張し、湿度の低い側では低含水率になるために収縮することにより反りが発生する。また、温度差が生じると、木質基材中では冷たい側に含有水分が移動するため、厚み方向に含水率の傾斜ができ、反りが発生する。通常、低温側が高湿度、高含水率になることが多く、この場合、前記2つの作用が同方向に働くことになるため、反りが最も顕者になると考えられる。
【0003】
こうした木質建具の反りを抑制する方法として、透湿度が低い防湿シートを建具の部材に用いることで、部材の吸放湿量を小さくする方法が広く用いられている。また、特許文献1には、合板などの板基材の表面側に、表面側から保護樹脂層/印刷柄層/紙間強化紙/合成樹脂層/紙間強化紙の5層構造を有する防湿化粧シートを、接着剤を介して貼着すると共に、該板基材の裏面側には、紙間強化紙/合成樹脂/紙間強化紙の3層構造を有する防湿裏面シートを、接着剤を介して貼着して防湿化粧板とし、この防湿化粧板をフラッシュ扉の表裏にそれぞれ接着剤を介して貼着することが提案されている。この時の防湿シートの透湿度は、5(g/m・24h)以上30(g/m・24h)以下がよいとされている。
【0004】
また、これらの木質建具の部材については、用途やデザインにより、化粧シートを立体形状の基材の表面の角部に沿って折り曲げて貼付して使用したり、或いは、化粧シートを平面上の基材に貼付した後、該基材の裏面にV字状の切欠溝を切削形成して折り曲げて建築材料を成形(Vカット加工)したりして、化粧シートを使用することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3206408号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年において、扉のデザイン性の観点から、高さが2mを超えるような扉が採用される事が多くなっている。扉が高くなったことにより、わずかな反り量でも、扉全体としては反りが大きくなってしまう為に、扉等に用いられるシートにはより高い防湿性が求められている。高い防湿性を有するシートとして、合成樹脂基材に金属蒸着膜とコート層とを有する防湿シートが提案されている。透湿度としては、5(g/m・24h)未満で、反り防止効果も高いとされている。
【0007】
しかしながら、これらの防湿シートは、いずれもプラスチック材料を使用している為、環境面を考慮した場合、プラスチック使用量の削減が望まれる。また、これらの防湿シートを貼り合せた化粧板や扉などの建具等のリサイクルにおいては、木質基材とプラスチック部分(合成樹脂層や合成樹脂基材)を分離する必要があり、リサイクルには適していない場合が多い。
【0008】
また、資源有効利用促進法に基づく資源の有効利用の観点から、プラスチック材料の使用量を削減するために、紙基材に金属蒸着膜とコート層とを設けて、防湿性を付与する提案がされている。この場合、折り曲げ加工後の金属蒸着膜の亀裂や割れによる防湿性(バリア性)の低下については、未だ改善の余地があることが判明した。
【0009】
本発明は、従来の技術における上記した問題点を解決すべくなされたものであり、資源有効利用促進法に基づく資源の有効利用の観点から、プラスチック材料の使用量を削減可能な防湿化粧紙であって、初期の水蒸気バリア性(即ち、防湿化粧紙の折り曲げ前における水蒸気バリア性)だけでなく、防湿化粧紙を折り曲げても金属蒸着膜の破断や亀裂等に起因する水蒸気バリア性の低下が発生しにくい防湿化粧紙を提供することを目的とする。つまり、本発明は、プラスチック材料の使用量を削減可能な防湿化粧紙であって、防湿化粧紙を折り曲げた後であっても優れた水蒸気バリア性を備える防湿化粧紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するべく、本発明の一態様によれば、紙基材と防湿層と化粧層とを備えた防湿化粧紙であって、紙基材の一方の面上に、前記防湿層と、前記化粧層とをこの順で備え、前記防湿層は、前記紙基材の一方の面上に、アンカーコート層と、金属酸化物層と、オーバーコート層と、をこの順で備え、前記アンカーコート層と前記金属酸化物層との間に、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、及び、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む樹脂層を備え、前記化粧層は、前記防湿層の上に、印刷層と、保護樹脂層とをこの順で備えることを特徴とする防湿化粧紙が提供される。つまり、本発明の一態様に係る防湿化粧紙は、紙基材と防湿層と化粧層とを備えた防湿化粧紙であって、前記紙基材の一方の面上に、前記防湿層と、前記化粧層とをこの順で備え、前記防湿層は、紙基材の一方の面上に、アンカーコート層と、樹脂層と、金属酸化物層と、オーバーコート層と、をこの順で備え、前記化粧層は、前記防湿層の上に、印刷柄層と保護樹脂層とをこの順で備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、プラスチック材料の使用量の削減が可能であり、且つ防湿化粧紙を折り曲げた後であっても優れた水蒸気バリア性を維持することができる。そのため、本発明の一態様によれば、プラスチックの使用量を低減しつつ、化粧板等における反りの発生をより防止することができる。
より詳しくは、本発明の一態様によれば、紙を使用した防湿化粧紙であって、初期の水蒸気バリア性(即ち、防湿化粧紙の折り曲げ前における水蒸気バリア性)だけでなく、防湿化粧紙が折り曲げられた後であっても十分な水蒸気バリア性を有する防湿化粧紙を提供することができる。上記防湿化粧紙は、紙を使用しているため、プラスチック材料の使用量削減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る防湿化粧紙の構成の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各厚みの比率などは現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状などを下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0014】
<構成>
図1は、本実施形態に係る防湿化粧紙の構成を示す概略断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る防湿化粧紙10は、紙基材1と、アンカーコート層2と、樹脂層3と、金属酸化物層4と、オーバーコート層5と、印刷柄層6と、保護樹脂層7とが、この順に積層されて形成されている。アンカーコート層2と、樹脂層3と、金属酸化物層4と、オーバーコート層5とが防湿層a1を構成し、印刷柄層6と、保護樹脂層7とが化粧層a2を構成している。
【0015】
そして、樹脂層3は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、及び、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む。
【0016】
次に、各層の構成について説明する。
<紙基材>
紙基材1としては、特に限定されるものではなく、適用される防湿化粧紙10の用途に応じて適宜選択すればよい。
紙基材1の具体例として、薄葉紙、上質紙、アート紙、キャストコート紙、クラフト紙、チタン紙、リンター紙、板紙、石膏ボード紙、上質紙、コート紙、硫酸紙、グラシン紙、パーチメント紙、パラフィン紙、和紙等が挙げられる。
好ましくは、紙成分(例えば、セルロース繊維)に合成樹脂を混抄させて、紙間強度を強化した薄葉紙(いわゆる紙間強化紙)や紙にラテックスや合成樹脂を含浸したものが使用される。
【0017】
紙基材1の坪量としては特に限定されないが、20g/m以下の場合は柔軟すぎるため、加工時に皺の発生が起こりやすく、200g/m以上の場合は紙層からの剥がれ(所謂、層間剥離)が発生しやすいため、20g/m以上200g/m以下の範囲内が好ましく、20g/m以上100g/m以下の範囲内がより好ましく、20g/m以上50g/m以下の範囲内が更に好ましい。
【0018】
さらに、これらの紙基材1については、必要に応じてコロナ処理やプラズマ処理、フレーム処理等の表面処理を行ってもよい。
【0019】
<コート層>
紙基材1には、少なくとも後述するアンカーコート層2と接する側の面にコート層(図示せず)を設けてあってもよい。コート層を設けることで、紙基材1にアンカーコート層2が染み込むことを防ぐことができるほか、紙基材1表面の凹凸を埋める目止めの役割を果たすこともできる。そのため、表面にコート層を備えた紙基材1であれば、アンカーコート層2を、塗工ムラ等の欠陥なく均一に製膜することができる。
【0020】
コート層には、バインダー樹脂として、例えば、スチレン・ブタジエン系、スチレン・アクリル系、エチレン・酢酸ビニル系などの各種共重合体、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂、パラフィン(WAX)等が含まれていてもよく、また、填料として、例えばクレー、カオリン、炭酸カルシウム、タルク、マイカ等が含まれていてもよい。
【0021】
コート層の厚みは、特に制限されるものではないが、例えば、1μm以上10μm以下の範囲内であれば好ましく、3μm以上8μm以下の範囲内であればさらに好ましい。
【0022】
紙基材1の質量は、防湿層a1全体の質量を基準として、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。紙基材1の質量が防湿層a1全体の質量を基準として、50質量%以上であれば、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂製シート(プラスチック材料90質量%以上)あるいは紙/ポリエチレン/紙からなる防湿シート(ポリエチレンの厚みにもよるが、防湿性能を有するためには、50質量%以上がポリエチレン)等といった従来の防湿用部材に比較して、使用するプラスチックの量が少ない為、防湿化粧紙に含まれるプラスチック材料の割合を十分に削減することができる。また、50質量%以上が紙材料であることから、本実施形態に係る防湿化粧紙10は、紙製であるということ(「紙製」である旨の表示をすること)ができ、リサイクル性にも優れる。
【0023】
なお、防湿層a1全体の質量に対する紙基材1の質量の割合については、その上限値は特に制限されないが、生産性の観点からは300質量%以下であればよく、200質量%以下であれば好ましく、150質量%以下であればより好ましく、120質量%以下であればさらに好ましい。
【0024】
<防湿層>
本実施形態に係る防湿層a1は、アンカーコート層2と、樹脂層3と、金属酸化物層4と、オーバーコート層5と、をこの順に備える。樹脂層3は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、及び、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(以下、便宜上「特定の樹脂」とも称する)を含む。
【0025】
防湿層a1は、上記特定の樹脂を含む樹脂層3をアンカーコート層2と金属酸化物層4との間に備えることで、初期の水蒸気バリア性(即ち、防湿化粧紙10の折り曲げ前における水蒸気バリア性)だけでなく、防湿化粧紙10が折り曲げられた後であっても十分な水蒸気バリア性を有することができる。つまり、防湿層a1は、上記特定の樹脂を含む樹脂層3をアンカーコート層2と金属酸化物層4との間に備えることで、防湿化粧紙10を折り曲げる前は勿論であるが、防湿化粧紙10を折り曲げた後であっても使用に耐え得る十分な水蒸気バリア性を維持することが可能となる。
【0026】
上記効果が奏される理由について、本発明者らは以下のように推察する。基材として紙を使用した防湿化粧紙の場合、紙基材とバリア層(構成物質として金属酸化物以外の物質を用いたバリア層)との間にポリオレフィン系樹脂やポリビニルアルコール系樹脂を用いたアンカーコート層を設けることで、防湿化粧紙の折り曲げ後の水蒸気バリア性を良好に維持できる傾向がある。しかし、アンカーコート層上に金属酸化物を用いたバリア層を形成した場合、防湿化粧紙を折り曲げた際に金属酸化物層に欠陥が生じやすく、水蒸気バリア性が安定しない場合があることを本発明者らは見出した。
【0027】
そして、この問題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本実施形態では、アンカーコート層2と金属酸化物層4との間に上述した特定の樹脂を含む樹脂層3を設けることで、防湿化粧紙10を折り曲げた際に金属酸化物層4に欠陥が生じることを抑制でき、初期(折り曲げ前)及び折り曲げ後のいずれの場合でも、バラツキがなく安定して良好な水蒸気バリア性が得られることを本発明者らは見出した。これは、金属酸化物層4を蒸着等により形成する際に、その下地となる層(本実施形態ではアンカーコート層2)に一定の熱が加わるところ、上記特定の樹脂を含む樹脂層3であれば優れた耐熱性を有するので、熱によって下地の層(本実施形態ではアンカーコート層2)が変形することを抑制できるためであると考えられる。その結果、樹脂層3上に形成された金属酸化物層4の初期(折り曲げ前)及び折り曲げ後に発生し得る割れが抑制され、良好な水蒸気バリア性を得ることができると考えられる。
【0028】
つまり、アンカーコート層2上に直接金属酸化物層4を形成した場合、熱によってアンカーコート層2が変形し、その上に形成された金属酸化物層4に欠陥が生じると考えられる。また、上記特定の樹脂を含む樹脂層3は、アンカーコート層2や金属酸化物層4との密着性にも優れ、初期(折り曲げ前)及び折り曲げ後の両方において良好な水蒸気バリア性を安定して得ることができる。
【0029】
上記防湿層a1を用いることで、脱プラスチックや海洋ゴミ問題に対応した、紙成分比率の高い、安定して優れた水蒸気バリア性を有し、且つ折り曲げ加工後における水蒸気バリア性の劣化が少ない防湿化粧紙10を提供することができる。
【0030】
<アンカーコート層>
アンカーコート層2は、紙基材1の表面上に設けられ、紙基材1と後述する樹脂層3との間の密着性向上や、防湿化粧紙10のガスバリア性の向上のために設けられるものである。アンカーコート層2は、極性基を有するポリオレフィン及びポリビニルアルコール系樹脂のうち少なくとも一方を含んでいてよい。これにより、防湿化粧紙10は、ガスバリア性(特に、水蒸気バリア性)に優れる。
【0031】
より詳しくは、アンカーコート層2は、水蒸気バリア性及び酸素バリア性の両方に優れることから、ポリビニルアルコール系樹脂を含んでいてもよい。また、アンカーコート層2が極性基を有するポリオレフィンを含む場合、ポリオレフィンの結晶性による緻密な膜の形成が可能であり、水蒸気バリア性が発現する。つまり、アンカーコート層2に極性基を有するポリオレフィンを含めることで、ポリオレフィンの結晶性に起因して優れた水蒸気バリア性が発現し、ポリオレフィンが有する極性基に起因して樹脂層3との密着性が発現する。
【0032】
極性基を有するポリオレフィンは、カルボキシル基、カルボキシル基の塩、カルボン酸無水物基及びカルボン酸エステルより選ばれる少なくとも1種を有していてもよい。
【0033】
また、極性基を有するポリオレフィンとして、エチレンやプロピレンに、不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基を有する不飽和化合物)や、不飽和カルボン酸エステルを共重合したもの、及びカルボン酸を塩基性化合物で中和した塩などを用いてもよい。
また、極性基を有するポリオレフィンとして、その他、酢酸ビニル、エポキシ系化合物、塩素系化合物、ウレタン系化合物、ポリアミド系化合物等と共重合したものなどを用いてもよい。
【0034】
極性基を有するポリオレフィンとして、具体的には、アクリル酸エステルと無水マレイン酸との共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等が挙げられる。
【0035】
本実施形態におけるポリビニルアルコール系樹脂とは、例えば、完全けん化のポリビニルアルコール樹脂、部分けん化のポリビニルアルコール樹脂、変性ポリビニルアルコール樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂である。
【0036】
また、ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、300以上1700以下の範囲内が好ましく、500以上1200以下の範囲内がより好ましく、700以上1000以下の範囲内がさらに好ましい。重合度が300以上であれば、ガスバリア積層体(防湿層a1)のガスバリア性及び屈曲耐性が良好になり、重合度が1700以下であれば、後述するポリビニルアルコール系樹脂の塗液の粘度が低くなり、塗布性が良好になる。
【0037】
アンカーコート層2がポリビニルアルコール系樹脂を含む場合には、上述した水蒸気バリア性及び酸素バリア性の両方に優れるという効果以外に、柔軟性に優れ、屈曲後(折り曲げ後)であってもガスバリア性の劣化を抑えることができるとともに、アンカーコート層2と樹脂層3との密着性を向上させることができるという効果が得られる。
【0038】
アンカーコート層2は、上記極性基を有するポリオレフィン及びポリビニルアルコール系樹脂のほかに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、上記極性基を有するポリオレフィン以外のポリオレフィン、ポリアクリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリウレア、メラミン、フェノール、ポリエチレンイミン、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリイミド、でんぷん及びその誘導体、及びセルロース誘導体等の樹脂、並びにシランカップリング剤、有機チタネート、グリセリン、グリコール類、カゼイン及びワックス等の添加剤が挙げられる。
【0039】
アンカーコート層2における極性基を有するポリオレフィンの含有量は、例えば、50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
また、アンカーコート層2におけるポリビニルアルコール系樹脂の合計の含有量は、例えば、50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0040】
また、アンカーコート層2における極性基を有するポリオレフィン及びポリビニルアルコール系樹脂の合計の含有量は、例えば、50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0041】
また、アンカーコート層2に極性基を有するポリオレフィン及びポリビニルアルコール系樹脂の両方を添加する場合には、極性基を有するポリオレフィンの含有量をポリビニルアルコール系樹脂の含有量よりも多くしてもよい。極性基を有するポリオレフィンの含有量がポリビニルアルコール系樹脂の含有量よりも多ければ、高い水蒸気バリア性を維持しつつ、アンカーコート層2に優れた柔軟性を付与することができる。
【0042】
また、アンカーコート層2に極性基を有するポリオレフィン及びポリビニルアルコール系樹脂の両方を添加する場合には、ポリビニルアルコール系樹脂の含有量を、極性基を有するポリオレフィンの含有量よりも多くしてもよい。ポリビニルアルコール系樹脂の含有量が極性基を有するポリオレフィンの含有量よりも多ければ、優れた柔軟性を維持しつつ、アンカーコート層2に高い水蒸気バリア性を付与することができる。
【0043】
アンカーコート層2の厚さは、例えば、1μm以上であってよく、2μm以上であってよい。また、アンカーコート層2の厚さは、例えば、20μm以下であってよく、10μm以下であってよく、5μm以下であってよい。アンカーコート層2の厚さが1μm以上であれば、上述した紙基材1の凹凸を効率的に埋めることができ、後述する樹脂層3及び金属酸化物層4を均一に積層させることができる。また、アンカーコート層2の厚さが20μm以下であれば、コストを抑えつつ上記の各層を均一に積層させることができる。
【0044】
アンカーコート層2を設ける方法としては、紙基材1上に上述したアンカーコート層2の構成材料及び溶媒を含む塗液を塗布し、乾燥させることで得ることができる。塗液に含まれる溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、特性の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、水が好ましい。また環境の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、水が好ましい。
【0045】
<樹脂層>
樹脂層3は、アンカーコート層2の表面上に設けられ、金属酸化物層4に欠陥が生じることの抑制、及び、アンカーコート層2と後述する金属酸化物層4との間の密着性向上などのために設けられるものである。
【0046】
樹脂層3は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、及び、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む。これらの中でも、初期(折り曲げ前)及び折り曲げ後のいずれの場合でも、より良好な水蒸気バリア性を安定して得る観点から、樹脂層3は、アクリルウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、及び、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましい。
【0047】
樹脂層3は、上述した特定の樹脂以外の樹脂を含んでいてもよいが、初期(折り曲げ前)及び折り曲げ後のいずれの場合でも、より良好な水蒸気バリア性を安定して得る観点から、樹脂層3中の上記特定の樹脂の含有量は、樹脂層3全量を基準として50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
なお、本実施形態では、樹脂層3は上記特定の樹脂のみで形成されていてもよい。つまり、樹脂層3中の上記特定の樹脂の含有量は、樹脂層3全量を基準として100質量%であってもよい。
【0048】
樹脂層3を設ける方法としては、アンカーコート層2上に上述した樹脂層3の構成材料及び溶媒を含む塗液を塗布し、乾燥させることで得ることができる。塗液に含まれる溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;メチルエチルケトン等のケトン類;及び、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられる。また、乾燥後の樹脂層3に対し、必要に応じて40℃以上60℃以下程度の温度範囲内でエージング処理を行ってもよい。
【0049】
このような樹脂層3は、耐熱性に優れ、初期(折り曲げ前)の金属酸化物層4の割れを抑制することができるとともに、金属酸化物層4と樹脂層3との密着性を向上させることができる。樹脂層3は、上記効果をより有効に得る観点から、金属酸化物層4と接していることが好ましい。また、樹脂層3は、上記効果をより有効に得る観点から、アンカーコート層2と接していることが好ましい。
【0050】
樹脂層3の厚さは、例えば、0.01μm以上であってよく、0.05μm以上であってよく、0.1μm以上であってよく、0.5μm以上であってよい。また、樹脂層3の厚さは、例えば、3μm以下であってよく、2μm以下であってよく、1.5μm以下であってよい。樹脂層3の厚さが0.01μm以上であれば、金属酸化物層4の割れを抑制することができ、初期(折り曲げ前)及び折り曲げ後においてより良好な水蒸気バリア性を安定して得ることができる。また、樹脂層3の厚さが3μm以下であれば、コストを抑えつつ金属酸化物層4を均一に積層させることができる。
【0051】
<金属酸化物層>
金属酸化物層4は、金属酸化物を含む層である。金属酸化物層4は、金属酸化物を蒸着することで形成することができる。金属酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム(AlOx)、酸化ケイ素(SiOx)が挙げられる。
【0052】
金属酸化物層4の厚さは、使用用途によって適宜設定すればよいが、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは30nm以上である。また、金属酸化物層4の厚さは、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下である。金属酸化物層4の厚さを10nm以上とすることで金属酸化物層4の連続性を十分なものとしやすく、100nm以下とすることで防湿化粧紙10におけるカールや金属酸化物層4におけるクラックの発生を十分に抑制でき、十分なガスバリア性能及び可撓性を達成しやすい。また、金属酸化物層4の厚さを10nm以上100nm以下の範囲内とすることで、より好ましくは20nm以上40nm以下の範囲内とすることで、金属酸化物層4がより割れにくくなり、折り曲げ後であっても十分な水蒸気バリア性を得ることができる。
【0053】
金属酸化物層4は、真空成膜手段によって成膜することが、水蒸気バリア性能や膜均一性の観点から好ましい。成膜手段には、真空蒸着法、スパッタリング法、化学的気相成長法(CVD法)などの公知の方法があるが、成膜速度が速く生産性が高いことから真空蒸着法が好ましい。また真空蒸着法の中でも、特に電子ビーム加熱による成膜手段は、成膜速度を照射面積や電子ビーム電流などで抑制しやすいことや蒸着材料への昇温降温が短時間で行えることから有効である。
【0054】
<オーバーコート層>
オーバーコート層5は、金属酸化物層4の表面上に、金属酸化物層4に接するように設けられる。オーバーコート層5は、極性基を有するポリオレフィンを含んでいてよい。
【0055】
極性基を有するポリオレフィンは、カルボキシル基、カルボキシル基の塩、カルボン酸無水物基及びカルボン酸エステルより選ばれる少なくとも1種を有していてもよい。
【0056】
また、極性基を有するポリオレフィンとして、エチレンやプロピレンに、不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基を有する不飽和化合物)や、不飽和カルボン酸エステルを共重合したもの、及びカルボン酸を塩基性化合物で中和した塩などを用いてもよい。
また、極性基を有するポリオレフィンとして、その他、酢酸ビニル、エポキシ系化合物、塩素系化合物、ウレタン系化合物、ポリアミド系化合物等と共重合したものなどを用いてもよい。
【0057】
極性基を有するポリオレフィンとして、具体的には、アクリル酸エステルと無水マレイン酸との共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等を用いてもよい。
【0058】
極性基を有するポリオレフィンを含むことで、オーバーコート層5は、柔軟性に優れ、屈曲後(折り曲げ後)に発生する金属酸化物層4の割れを抑制することができるとともに、金属酸化物層4との密着性に優れる。さらに、上述した極性基を有するポリオレフィンを含むことで、水蒸気バリア性に優れるガスバリア積層体(防湿層a1)を得ることができる。
【0059】
オーバーコート層5は、上記極性基を有するポリオレフィンのほかに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、シランカップリング剤、有機チタネート、ポリアクリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリウレア、ポリアミド、ポリオレフィン系エマルジョン、ポリイミド、メラミン、フェノール等が挙げられる。
【0060】
オーバーコート層5における極性基を有するポリオレフィンの含有量は、例えば、オーバーコート層5全体の質量に対して50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0061】
オーバーコート層5の厚さは、例えば、2μm以上であってよく、3μm以上であってよい。また、オーバーコート層5の厚さは、10μm以下であってよく、8μm以下であってよく、5μm以下であってよい。オーバーコート層5の厚さが2μm以上であれば、上述した金属酸化物層4の保護層としての役割を十分に発揮することができる。また、オーバーコート層5の厚さが10μm以下であれば、コストを抑えつつ金属酸化物層4との密着性やバリア性を十分に発揮することができる。
【0062】
オーバーコート層5を設ける方法としては、金属酸化物層4上に上述したポリオレフィン及び溶媒を含む塗液を塗布し、乾燥させることで得ることができる。塗液に含まれる溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、特性の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、水が好ましい。また環境の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、水が好ましい。
【0063】
アンカーコート層2及びオーバーコート層5にそれぞれ含まれる極性基を有するポリオレフィンは、それぞれ同種のものであっても異種のものであってもよいが、製造の容易性等を考慮すれば、それぞれ同種のものであることが好ましい。
【0064】
以上、本実施形態に係る防湿層a1の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。防湿層a1は、上述した層以外の層を含む防湿層であってもよい。
【0065】
<印刷柄層>
印刷柄層6は、意匠性を付与するためのものであり、絵柄としては任意の絵柄を用いることができる。印刷柄層6の絵柄としては、例えば木目柄、石目柄、布目柄、コルク柄、抽象柄等或いはこれらの2種類以上の組み合わせ等を用いることができる。
印刷柄層6とオーバーコート層5との間に、隠蔽性を確保するために、ベタインキ層を設けることができる。これらの印刷方法は、特に限定されるものでは無く、グラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、インクジェット印刷など、公知の印刷方法を用いることができる。
【0066】
印刷インキ等としては、特に制限は無く、油性、水性のいずれでも特に問題はない。印刷柄層6に用いる印刷インキ等は、従来の化粧紙において印刷柄層に使用されている印刷インキ等と同様のものを使用することができ、例えば、アクリルインキを用いることができる。アクリルインキとしては、例えば、アクリルポリオール系ビヒクルにイソシアネート硬化剤を配合してなる2液硬化型ウレタン樹脂系インキを使用することができる。
【0067】
<保護樹脂層>
表面保護層として機能する保護樹脂層7は、防湿化粧紙10の表面を保護するための層であり、防湿化粧紙10に要求される耐擦傷性、耐摩耗性、耐汚染性、耐水性、耐侯性等の表面物性を付与するために設けられるものである。保護樹脂層(表面保護層)7の形成は、特に限定されるものではなく、グラビアコート等の公知の塗工方法で形成することができる。
【0068】
保護樹脂層(表面保護層)7の材料としては、特に制限は無く、従来の化粧紙で表面保護層として使用されている材料と同様のものを使用することができる。保護樹脂層(表面保護層)7に使用可能な材料としては、例えば、アクリルウレタン系樹脂、電離放射線硬化型樹脂を用いることができる。アクリルウレタン系樹脂としては、例えば、アクリルポリオール化合物を主剤とし、イソシアネート化合物を硬化剤とした反応生成物を採用できる。また、電離放射線硬化型樹脂としては、例えば、電子線や紫外線等の電離放射線の照射により架橋反応する性質を有する(メタ)アクリロイル基等の重合性不飽和結合を有するプレポリマー、オリゴマー及びモノマーの少なくとも何れかを主成分とする組成物を採用することができる。
【0069】
保護樹脂層(表面保護層)7は、単層でもよく、2又は3層の複層でもよい。保護樹脂層7を複層とした場合、マット樹脂とグロス樹脂との塗り分けによって、グロスマット表現を付与することもできる。また、部分的に樹脂を盛り上げた凹凸表現を付与することもできる。更に抗菌剤や抗ウイルス剤等を添加することもできる。
【0070】
<防湿化粧紙の用途等>
本実施形態の防湿化粧紙10は、前記の通り、例えばドア枠材、家具扉、ドア面材、壁面、フローリング材等の建築材料への応用に適しており、特にVカット加工を含むフラッシュパネル(フラッシュ扉)等の面材の用途に最も適している。
【0071】
フラッシュパネルは、角材等の枠材を縦横に組んでなる芯材の表裏に、合板又は中密度繊維板(MDF)等の板材を接着して構成される中空状の平板部材を備え、大面積で厚みのある平板部材に少量の安価な材料を使用することで、軽量且つ十分な強度を持たせて製造可能である点に利点があり、内装ドアや家具扉等の用途に広く採用されている。
【0072】
このようなフラッシュパネルにおいては、パネルの両側が温湿度の著しく異なる環境に曝されたり、或いは温湿度の変化の激しい環境に置かれたりすると、芯材の表裏の板材の内部の含水量が均一でなくなり、寸法が変化する結果、フラッシュパネル全体として反りを発生することがある。
これを防止するために、芯材の表裏の板材には、その表裏面に防湿シート(防湿紙)が貼付されることが多い。
【0073】
そして、芯材の表裏の板材には、パネルの側面部や框部の形成などの目的で、Vカット等を介した折り曲げ加工が施される例も多い。本実施形態の防湿化粧紙10は、十分な防湿性を具備することは勿論のこと、折り曲げ加工においても、水蒸気バリア性が殆ど低下することが無く、十分な防湿性を維持することができる。このような用途において、フラッシュパネルの表裏の板材の表面(芯材側とは反対側の面)に貼付して使用するに好適である。
【0074】
なお、フラッシュパネルの表裏の板材の裏面(芯材側の面)に貼付する防湿シート(防湿紙)については、本実施形態の防湿層a1を備えた防湿シート(即ち、本実施形態の防湿化粧紙10)であっても勿論よいが、通常は表面側からVカット加工が施されることは少ない(裏面の防湿シートが折り曲げられて使用されることは少ない)ことから、本実施形態の防湿化粧紙10によらない通常の防湿シート(防湿紙)を採用してもよい。
【0075】
具体的には、フラッシュパネルの表裏の板材の裏面(芯材側の面)に貼付する防湿シート(防湿紙)としては、例えば紙/ポリエチレン/紙からなる防湿シートや、合成樹脂フィルムに金属蒸着と保護層を設けた防湿フィルムなどを使用することができる。
【0076】
<効果>
本実施形態の防湿化粧紙10は、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂製シートあるいは紙/ポリエチレン/紙からなる防湿シートに比べて、透湿度(JIS Z 0208)をより小さくすることができる。そのため、優れた防湿性能を有する防湿化粧紙を得ることができるとともに、折り曲げ加工後においても水蒸気バリア性能が低下しにくい防湿化粧紙を提供することができる。
【0077】
また、防湿化粧紙10において、紙基材1の質量は、防湿層a1全体の質量を基準として50質量%以上としているため、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂製シート(プラスチック材料90質量%以上)あるいは紙/ポリエチレン/紙からなる防湿シート(プラスチック材料50質量%以上)等といった従来の防湿用部材と比較して、使用するプラスチックの質量(含有率)が少ない為、防湿化粧紙として使用するプラスチック材料を十分に削減することができる。
また、この防湿化粧紙10を用いた化粧板及び扉等の建具は、高い防湿性能を有すると共に、木質材料と紙成分とで構成されるため、リサイクル性にも優れる。
【0078】
[実施例]
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0079】
<防湿化粧紙の作製>
(実施例1)
紙基材1として坪量50g/mの紙間強化紙(天間特殊製紙株式会社製)表面上に、けん化度98モル%、重合度500のポリビニルアルコール樹脂を水/IPA=8/2(質量比)の溶媒に溶解した塗液を、バーコーターで塗工し、オーブンで乾燥させ、厚さ3μmのアンカーコート層2を形成した。
続いて、アンカーコート層2上に、アクリルポリオールとポリイソシアネートとの混合液を、乾燥後の厚さが1μmとなるように塗工し、加熱乾燥させ、アクリルウレタン系樹脂からなる樹脂層3を形成した。
【0080】
その後、樹脂層3上に、真空蒸着法にてSiOx蒸着を施し、厚さ30nmの金属酸化物層4を形成した。
その後、金属酸化物層4上に、極性基含有ポリオレフィンであるカルボキシル基の塩を含むポリオレフィンの水分散液をバーコーターで塗工し、オーブンで乾燥させ、厚さ3μmのオーバーコート層5を形成した。
こうして、実施例1に係る防湿層a1を得た。
【0081】
(実施例2)
アンカーコート層2を、極性基含有ポリオレフィンであるカルボキシル基の塩を含むポリオレフィンの水分散液をバーコーターで塗工し、オーブンで乾燥させて形成したこと以外は、実施例1と同様の操作によって実施例2に係る防湿層a1を得た。
【0082】
(実施例3)
金属酸化物層4の厚さを10nmとしたこと以外は、実施例1と同様の操作によって実施例3に係る防湿層a1を得た。
【0083】
(実施例4)
金属酸化物層4の厚さを100nmとしたこと以外は、実施例1と同様の操作によって実施例4に係る防湿層a1を得た。
【0084】
(実施例5)
樹脂層3の厚さを0.01μmとしたこと以外は、実施例1と同様の操作によって実施例5に係る防湿層a1を得た。
【0085】
(実施例6)
樹脂層3の厚さを3μmとしたこと以外は、実施例1と同様の操作によって実施例6に係る防湿層a1を得た。
【0086】
(実施例7)
アンカーコート層2の厚さを1μmとしたこと以外は、実施例1と同様の操作によって実施例7に係る防湿層a1を得た。
【0087】
(実施例8)
アンカーコート層2の厚さを5μmとしたこと以外は、実施例1と同様の操作によって実施例8に係る防湿層a1を得た。
【0088】
(実施例9)
オーバーコート層5の厚さを2μmとしたこと以外は、実施例1と同様の操作によって実施例9に係る防湿層a1を得た。
【0089】
(実施例10)
オーバーコート層5の厚さを10μmとしたこと以外は、実施例1と同様の操作によって実施例10に係る防湿層a1を得た。
【0090】
(実施例11)
金属酸化物層4の材料をAlOxとしたこと以外は、実施例1と同様の操作によって実施例11に係る防湿層a1を得た。
【0091】
(比較例1)
樹脂層3を形成せずに、アンカーコート層2上に金属酸化物層4を蒸着したこと以外は、実施例1と同様の操作によって比較例1に係る防湿層a1を得た。
【0092】
(比較例2)
樹脂層3を形成せずに、アンカーコート層2上に金属酸化物層4を蒸着したこと以外は、実施例2と同様の操作によって比較例2に係る防湿層a1を得た。
【0093】
(比較例3)
アンカーコート層2を形成せずに、紙基材1の表面上に樹脂層3を形成したこと以外は、実施例1と同様の操作によって比較例3に係る防湿層a1を得た。
【0094】
(比較例4)
アンカーコート層2を、実施例1の樹脂層3の材料、膜厚及び形成方法により形成し、樹脂層3を、実施例1のアンカーコート層2の材料、膜厚及び形成方法により形成したこと以外は、実施例1と同様の操作によって比較例4に係る防湿層a1を得た。
【0095】
(比較例5)
アンカーコート層2を、実施例2の樹脂層3の材料、膜厚及び形成方法により形成し、樹脂層3を、実施例2のアンカーコート層2の材料、膜厚及び形成方法により形成したこと以外は、実施例2と同様の操作によって比較例5に係る防湿層a1を得た。
【0096】
(比較例6)
樹脂層3を、実施例2のアンカーコート層の材料、膜厚及び形成方法により形成したこと以外は、実施例1と同様の操作によって比較例6に係る防湿層a1を得た。
【0097】
次に、実施例1~11、比較例1~6の各紙基材1上に積層された防湿層a1の上面に、硝化綿とアクリル樹脂とをバインダーとするインキを用いて、グラビア印刷にてベタインキ層を形成した。
その上に同じく、硝化綿とアクリル樹脂とをバインダーとするインキを用いて、グラビア印刷にて絵柄インキ層(印刷柄層6)を形成した。
【0098】
続いて、ウレタン系アクリルポリオールとイソシアネートとを用いて、グラビア印刷にて表面保護層(保護樹脂層)7を形成し、防湿層a1と化粧層a2とを備えた実施例1~11及び比較例1~6の各防湿化粧紙10を得た。
【0099】
<評価>
上記で作製した実施例1~11及び比較例1~6の各防湿化粧紙10について、JIS Z 0208に準拠して水蒸気透湿度を測定し、それぞれ水蒸気透湿度(折り曲げ前の水蒸気透湿度)の比較を行った。
【0100】
また、600gのローラーを300mm/分の速さで転がしながら、ガスバリア積層体(即ち防湿化粧紙10)に折り目を付け、その後、開いた状態(即ち平板形状に戻した状態)におけるガスバリア積層体(即ち防湿化粧紙10)の水蒸気透湿度も同様に測定した。
なお、折り目は印刷柄層6がある面を山折りとした。
その結果を表1~表5に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
【表4】
【0105】
【表5】
【0106】
表1~表5に示される通り、実施例1~11の防湿化粧紙10は、初期(折り曲げ前)だけでなく折り曲げ後も水蒸気透湿度が低く、水蒸気バリア性が良好であった。
なお、本実施例では、防湿化粧紙10の折り曲げ前と防湿化粧紙10の折り曲げ後の両方において水蒸気透湿度が10g/m・24h以下であれば、使用する上で何ら問題がないので「合格」と評価した。これに対し、防湿化粧紙10の折り曲げ前と防湿化粧紙10の折り曲げ後のいずれか一方の水蒸気透湿度が10g/m・24hを超える場合には、使用する上で支障をきたすおそれがあるため「不合格」と評価した。
【0107】
このように、本発明の実施形態に係る防湿化粧紙によれば、折り曲げ部を有する形状の木質部材に防湿化粧紙を貼り合わせて化粧板を形成した場合であっても、長期にわたり水蒸気バリア性の劣化を抑えることができるとともに、プラスチック材料の使用量を削減できる効果が期待できる。
【0108】
また、例えば、本発明は以下のような構成を取ることができる。
(1)
紙基材と防湿層と化粧層とを備えた防湿化粧紙であって、
前記紙基材の一方の面上に、前記防湿層と、前記化粧層とをこの順で備え、
前記防湿層は、前記紙基材の一方の面上に、アンカーコート層と、金属酸化物層と、オーバーコート層と、をこの順で備え、
前記アンカーコート層と前記金属酸化物層との間に、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、及び、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む樹脂層を備え、
前記化粧層は、前記防湿層の上に、印刷層と、保護樹脂層とをこの順で備えることを特徴とする防湿化粧紙。
【0109】
(2)
前記アンカーコート層が、極性基を有するポリオレフィンを含む、上記(1)に記載の防湿化粧紙。
【0110】
(3)
前記アンカーコート層が、ポリビニルアルコール系樹脂を含む、上記(1)又は(2)に記載の防湿化粧紙。
【0111】
(4)
前記オーバーコート層が、極性基を有するポリオレフィンを含む、上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の防湿化粧紙。
【0112】
(5)
前記金属酸化物層の厚さが、10nm以上100nm以下である、上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の防湿化粧紙。
【0113】
(6)
前記樹脂層の厚さが、0.01μm以上3μm以下である、上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の防湿化粧紙。
【0114】
(7)
前記アンカーコート層の厚さが、1μm以上5μm以下である、上記(1)~(6)のいずれか一項に記載の防湿化粧紙。
【0115】
(8)
前記オーバーコート層の厚さが、2μm以上10μm以下である、上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の防湿化粧紙。
【0116】
(9)
前記紙基材の質量が、前記防湿層全体の質量を基準として、50質量%以上である、上記(1)~(8)のいずれか一項に記載の防湿化粧紙。
【0117】
(10)
前記紙基材が紙間強化紙であることを特徴とする上記(1)~(9)のいずれか一項に記載の防湿化粧紙。
【符号の説明】
【0118】
1・・・紙基材
2・・・アンカーコート層
3・・・樹脂層
4・・・金属酸化物層
5・・・オーバーコート層
6・・・印刷柄層(印刷層)
7・・・保護樹脂層(表面保護層)
10・・防湿化粧紙
a1・・防湿層
a2・・化粧層
図1