(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030984
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】タイヤの管理方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20240229BHJP
B29D 30/06 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B60C19/00 J
B29D30/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134251
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】波多野 敦也
【テーマコード(参考)】
3D131
4F215
【Fターム(参考)】
3D131BB18
3D131BC55
3D131LA21
3D131LA24
3D131LA28
4F215AH20
4F215VA13
4F215VL22
4F215VL25
(57)【要約】
【課題】過大な作業工数を要することなく、演算装置に記憶されている多数のタイヤの中から対象タイヤに該当するタイヤを、より確実に精度よく特定できるタイヤの管理方法およびシステムを提供する。
【解決手段】主画像取得装置2Aにより取得した各タイヤTの内部透視画像データDを、そのタイヤTの固有情報と紐付けして演算装置5に記憶しておき、対象画像取得装置2Bにより対象タイヤTcの対象画像データDcを取得し、対象タイヤTcの表面のマークMから取得される対象タイヤTcの固有情報の一部と、各画像データDと紐付けされた各タイヤTの固有情報とに基づいて、各画像データDの中から照合候補を抽出し、照合候補の画像データDの中で対象画像データDcとの一致度が最も高い画像Dデータに該当するタイヤTを対象タイヤTcとして特定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの内部透視画像データを用いて対象タイヤを特定するタイヤの管理方法であって、
予めそれぞれのタイヤの前記内部透視画像データを取得して、それぞれの前記内部透視画像データをそのタイヤの固有情報と紐付けして演算装置に記憶しておき、
前記対象タイヤを特定する際に、前記対象タイヤの前記内部透視画像データを対象画像データとして取得するとともに前記対象タイヤの表面に付されているマークから前記対象タイヤの固有情報の一部を取得し、
取得した前記対象タイヤの前記固有情報の一部と、前記演算装置に記憶されているそれぞれの前記内部透視画像データと紐付けされているそれぞれの前記タイヤの前記固有情報とに基づいて、前記演算装置に記憶されているそれぞれの前記内部透視画像データの中から照合候補を抽出し、抽出した照合候補の前記内部透視画像データと前記対象画像データとの一致度を算出するマッチング処理を行うことにより、前記対象画像データと最も一致度が高い前記内部透視画像データを選択し、この選択した前記内部透視画像データに該当する前記タイヤを前記対象タイヤとして特定するタイヤの管理方法。
【請求項2】
前記マークから取得される前記対象タイヤの固有情報の一部として、タイヤメーカ情報、タイヤサイズ情報およびタイヤ製造時期情報を含む請求項1に記載のタイヤの管理方法。
【請求項3】
それぞれの前記内部透視画像データを、それぞれの前記タイヤの製造工程で取得する請求項1または2に記載のタイヤの管理方法。
【請求項4】
前記内部透視画像データおよび前記対象画像データを、エッジの集合体モデルに画像処理して前記マッチング処理を行う請求項1または2に記載のタイヤの管理方法。
【請求項5】
前記対象画像データとしてタイヤ周方向の一部の区間のデータを用いる請求項1または2に記載のタイヤの管理方法。
【請求項6】
前記対象タイヤがリトレッド用の台タイヤである請求項1または2に記載のタイヤの管理方法。
【請求項7】
タイヤの内部透視画像データを用いて対象タイヤを特定するタイヤの管理システムであって、
それぞれのタイヤの前記内部透視画像データを取得する主画像取得装置と、それぞれの前記内部透視画像データとそのタイヤの固有情報とが紐付けされて記憶される演算装置と、前記対象タイヤを特定する際に、前記対象タイヤの前記内部透視画像データを対象画像データとして取得する対象画像取得装置と、前記対象タイヤの表面に付されているマークから取得される前記対象タイヤの固有情報の一部を前記演算装置に入力する入力部とを備えて、
前記演算装置では、前記演算装置に入力された前記対象タイヤの前記固有情報の一部と、前記演算装置に記憶されているそれぞれの前記内部透視画像データと紐付けされているそれぞれの前記タイヤの前記固有情報とに基づいて、前記演算装置に記憶されているそれぞれの前記内部透視画像データの中から照合候補が抽出される抽出ステップと、
抽出された照合候補の前記内部透視画像データと前記対象画像データとの一致度を算出するマッチング処理を行うマッチングステップと、
前記対象画像データと最も一致度が高い前記内部透視画像データが選択されて、この選択された前記内部透視画像データに該当する前記タイヤが、前記対象タイヤとして特定される特定ステップと、が行われるタイヤの管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤの管理方法およびシステムに関し、さらに詳しくは、演算装置に記憶されている多数のタイヤの中から対象タイヤに該当するタイヤを、過大な作業工数を回避しつつ、より確実に精度よく特定できるタイヤの管理方法およびシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ製造工程では、トレーサビリティの向上のため、タイヤ1本毎に製造条件や使用した材料などを記録することが提案されている(特許文献1参照)。タイヤのユニフォミティやバランスなどの品質情報が記録されることもある。特許文献1で提案されている方法では、タイヤに付された識別ラベルとそのタイヤの固有情報とが紐付けして演算装置に記憶される。識別ラベルをラベルリーダによって読み取ることで、それぞれのタイヤの固有情報を取得できるのでトレーサビリティの向上には非常に有益である。
【0003】
識別ラベルとしてバーコードなどを使用した場合は、汚れや擦れなどに起因して読み取れなくなることも想定される。また、識別ラベルとしてICタグを使用した場合は、ICタグが故障(損傷)することも想定される。
【0004】
タイヤの表面には、タイヤメーカ、タイヤサイズ、タイヤの製造時期などの情報を示すマーク(刻印)が付されている。そこで、これらマークに基づいて、演算装置に記憶されているそれぞれのタイヤの製造条件や使用した材料などの概略を比較的簡便に把握することができる。しかし、これらのマークは、タイヤを1本毎に識別して特定するものではないので、対象タイヤの製造条件や使用した材料などを詳細に精度よく把握することはできない。それ故、過大な作業工数を要することなく、演算装置に記憶されている多数のタイヤの中から対象タイヤに該当するタイヤを、より確実に精度よく特定するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、過大な作業工数を要することなく、演算装置に記憶されている多数のタイヤの中から対象タイヤに該当するタイヤを、より確実に精度よく特定するタイヤの管理方法およびシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のタイヤの管理方法は、タイヤの内部透視画像データを用いて対象タイヤを特定するタイヤの管理方法であって、予めそれぞれのタイヤの前記内部透視画像データを取得して、それぞれの前記内部透視画像データをそのタイヤの固有情報と紐付けして演算装置に記憶しておき、前記対象タイヤを特定する際に、前記対象タイヤの前記内部透視画像データを対象画像データとして取得するとともに前記対象タイヤの表面に付されているマークから前記対象タイヤの固有情報の一部を取得し、取得した前記対象タイヤの前記固有情報の一部と、前記演算装置に記憶されているそれぞれの前記内部透視画像データと紐付けされているそれぞれの前記タイヤの前記固有情報とに基づいて、前記演算装置に記憶されているそれぞれの前記内部透視画像データの中から照合候補を抽出し、抽出した照合候補の前記内部透視画像データと前記対象画像データとの一致度を算出するマッチング処理を行うことにより、前記対象画像データと最も一致度が高い前記内部透視画像データを選択し、この選択した前記内部透視画像データに該当する前記タイヤを前記対象タイヤとして特定することを特徴とする。
【0008】
本発明のタイヤの管理システムは、タイヤの内部透視画像データを用いて対象タイヤを特定するタイヤの管理システムであって、それぞれのタイヤの前記内部透視画像データを取得する主画像取得装置と、それぞれの前記内部透視画像データとそのタイヤの固有情報とが紐付けされて記憶される演算装置と、前記対象タイヤを特定する際に、前記対象タイヤの前記内部透視画像データを対象画像データとして取得する対象画像取得装置と、前記対象タイヤの表面に付されているマークから取得される前記対象タイヤの固有情報の一部を前記演算装置に入力する入力部とを備えて、前記演算装置では、前記演算装置に入力された前記対象タイヤの前記固有情報の一部と、前記演算装置に記憶されているそれぞれの前記内部透視画像データと紐付けされているそれぞれの前記タイヤの前記固有情報とに基づいて、前記演算装置に記憶されているそれぞれの前記内部透視画像データの中から照合候補が抽出される抽出ステップと、抽出された照合候補の前記内部透視画像データと前記対象画像データとの一致度を算出するマッチング処理を行うマッチングステップと、前記対象画像データと最も一致度が高い前記内部透視画像データが選択されて、この選択された前記内部透視画像データに該当する前記タイヤが、前記対象タイヤとして特定される特定ステップと、が行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前記演算装置に記憶されている前記内部透視画像データの数が膨大であっても、前記対象タイヤの表面に付されているマークから取得される前記対象タイヤの固有情報の一部と、前記演算装置に記憶されているそれぞれの前記内部透視画像データと紐付けされているそれぞれの前記タイヤの前記固有情報とを用いることで、対象タイヤを特定する際に照合候補となる内部透視画像データの数を大幅に削減できる。それ故、過大な作業工数が生じることを回避するには有利になる。そして、抽出された照合候補の前記内部透視画像データと前記対象画像データとの一致度を算出するマッチング処理を行って、算出されたその一致度の高さを指標にすることで、前記演算装置に記憶されているタイヤの中から、前記対象タイヤに該当するタイヤを、より確実に精度よく特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】タイヤの管理システムの実施形態を、タイヤを横断面にした状態で例示する説明図である。
【
図2】
図1の主画像取得装置(対象画像取得装置)を上面視で例示する説明図である。
【
図3】タイヤの右半分を横断面視で例示する説明図である。
【
図4】タイヤの内部透視画像データを模式的に例示する説明図である。
【
図5】マッチング処理の工程を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のタイヤの管理方法およびシステムを、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1、
図2に例示するタイヤの管理システム1(以下、管理システム1という)の実施形態を用いることで、ある特定のタイヤT(対象タイヤTc)が、記憶装置5に記憶されている多数のタイヤTの中のいずれに該当するのかを特定することができる。即ち、この管理システム1は、記憶装置5に記憶されている多数のタイヤTについて、それぞれの個体を識別できる機能を有している。図中の矢印W、R、Cはそれぞれ、タイヤTの幅方向、半径方向、周方向を示している。また、図中の一点鎖線CLはタイヤ幅方向中心を通る中心線を示している。
【0013】
図3に例示するように、タイヤTは多数種類のタイヤ部材E(E1~E7)で構成されている。尚、
図3にはタイヤTの右半分のみが記載されているが、左半分も実質的に同じ構造である。一般的なタイヤTは、最内周にインナーライナ層E1が配置されていて、その外周側にカーカス層E2が積層されている。カーカス層E2は多数の繊維コードを含んでいる。カーカス層E2は、左右一対のビード部E3の間に架装されている。カーカス層E2の左右両端部はそれぞれのビード部E3のビードコアの周りでタイヤ内側から外側に折り返されている。
【0014】
カーカス層E2のタイヤ幅方向中央部の外周側にはベルト層E4が埋設されていて、その外周側にトレッド部E7が積層されている。ベルト層E4は多数の金属コードを含んでいる。ベルト層E4の層数は適宜設定される。カーカス層E2のタイヤ幅方向両側の外側にはサイド部E5が積層されている。トレッド部E7とそれぞれのサイド部E5の間のカーカス層E2の外側には、ショルダ部E6が積層されている。
【0015】
タイヤTは、
図3に例示した構造に限定されることはなく種々の構造が採用される。例えば上述した部材の他に、ベルト層E4の外周側でベルト層7の両端部を覆って積層されるベルトカバー層などが備わることもある。タイヤTは、加硫ゴム、金属(金属コード)、樹脂(繊維コード)などの複数種類の材質からなる複合体である。
【0016】
図1、
図2に例示するように管理システム1は、主画像取得装置2A(以下、画像取得装置2Aという)と対象画像取得装置2B(以下、画像取得装置2Bという)と演算装置5と入力部6とを備えている。演算装置5にはモニタ7が有線または無線により接続されている。この実施形態では、管理システム1はさらに、タイヤTを保持するタイヤ保持機8を備えている。
【0017】
タイヤ保持機8は、タイヤTを保持する保持部8aと、保持部8aが固定されて保持部8aを回転駆動する回転軸8bとを有している。保持部8aはリムの相当物であり、タイヤTは予め設定されている所定の空気圧で保持部8aに保持される。回転軸8bが駆動モータなどによって回転駆動されることにより、保持部8aに保持されているタイヤTは回転軸8bを中心にして回転駆動される。
【0018】
画像取得装置2Aは、タイヤTの内部透視画像データD(以下、画像データDという)を取得する。画像取得装置2Bは、対象タイヤTcの画像データDを取得する。対象タイヤTcの画像データDは、対象画像データDcとして扱われる。画像取得装置2Aと画像取得装置2Bとは別々の装置でもよく、この実施形態のように画像取得装置2Aを画像取得装置2Bとして使用することもできる。以下、画像取得装置2Aおよび画像取得装置2Bを、まとめて画像取得装置2A、2Bと記載する。
【0019】
画像取得装置2A、2Bとしては、電磁波を使用した検査装置を例示でき、この実施形態ではX線検査装置が用いられている。公知の種々の仕様のX線検査装置を画像取得装置2A、2Bとして用いることができる。これら画像取得装置2A、2Bは、X線を照射する照射部3と、照射されたX線を受光する受光部4とを有しているこの実施形態では照射部3がタイヤTの内側に配置され、受光部4はタイヤTの外側に配置されている。受光部4は、トレッド部E7、ショルダ部E6およびサイド部E5を覆う形状に形成されている。
【0020】
受光部4は、タイヤTの所望の範囲の画像データD(Dc)を取得できる形態にすればよい。例えばサイド部E5の画像データD(Dc)を取得すればよいのであれば、サイド部E5のみを覆う形状にしてもよく、ショルダ部E6の画像データD(Dc)を取得すればよいのであればショルダ部E6のみを覆う形状にしてもよく、トレッド部E7の画像データD(Dc)を取得すればよいのであればトレッド部E7のみを覆う形状にしてもよい。したがって、画像取得装置2A、2Bは、
図1、
図2に例示した仕様に限定されず、タイヤTの所望の範囲の画像データD(Dc)を取得できる仕様を採用すればよい。
【0021】
それぞれの画像データD(Dc)は、それぞれのタイヤT(Tc)を同じ状態、条件に設定して取得される。また、それぞれの画像データD(Dc)は同じ大きさ、即ち、タイヤT(Tc)に対して同じ縮尺サイズに設定することが好ましい。
【0022】
対象タイヤTcをより高い精度で特定するには、タイヤTのより広い範囲の画像データD(Dc)を取得できる画像取得装置2A、2Bを用いることが好ましい。この実施形態では、タイヤ保持機8によってタイヤTを周方向Cにずらして画像データD(Dc)を取得できるので、トレッド部E7、ショルダ部E6およびサイド部E5についてタイヤT1周分の連続した画像データD(Dc)を取得できる。
【0023】
演算装置5には、画像取得装置2A、2Bにより取得された画像データD(Dc)が入力される。また、演算装置5には、入力部6が通信可能に接続されている。
【0024】
演算装置5としては、公知の種々のコンピュータやコンピュータサーバなどが使用され、CPU、メモリなどが備わっている。演算装置5には様々なデータが入力、記憶されて、これらデータを用いて演算処理が行われる。この演算装置5には、後述する画像データD(Dc)のマッチング処理を行うソフトウェアがインストールされている。
【0025】
入力部6は、演算装置5に対して、所望のデータ(情報)を入力する機器である。入力部6としては、公知のキーボード、タブレット端末、マウスなどが使用される。この実施形態では、対象タイヤTcの表面に付されている刻印などのマークMから取得される対象タイヤTcの固有情報Fの一部(以下、マークM情報という)が入力部6を用いて演算装置5に入力される。マークM情報としては、その対象タイヤTcの製造メーカ情報、タイヤブランド名情報、タイヤサイズ情報、製造時期情報、製造場所情報、タイヤを加硫する際に使用されたモールド番号などを例示できる。
【0026】
モニタ7には、画像取得装置2A、2Bにより取得された画像データD(Dc)や演算装置5による様々な演算処理結果などが表示可能になっている。
【0027】
画像取得装置2A、2Bでは、タイヤ保持機8によって保持されるタイヤT(トレッド部E7、ショルダ部E6およびサイド部E5)は、照射部3と受光部4との間に配置される。したがって、照射部3から照射されてタイヤTを透過したX線は受光部4により受光される。それ故、そのタイヤTのX線透過度に基づく画像データD(Dc)が画像取得装置2A、2Bにより取得される。
【0028】
タイヤTは複数種類の部材(材質)で構成されていて、それぞれの部材の比重(密度)は同じではない。X線透過度は、部材の比重(密度)などによって異なるので、これ応じて画像データDでは濃淡が生じる。それ故、画像取得装置2A、2Bによって、
図4に例示する画像データD(Dc)を取得することができる。画像データD(Dc)では、カーカス層E2の繊維コードの状態(向きや間隔)やベルト層E4の金属コードの状態(向きや間隔)などを明確に把握することができる。画像取得装置2A、2BでのX線の照射強度(X線管の電圧および電流)は、事前テストなどを行って、鮮明な画像データD(Dc)を取得できる範囲に設定する。
【0029】
仕様が異なるタイヤTどうしでは、カーカス層E2の繊維コードの状態やベルト層E4の金属コードの状態が異なるのは当然であるが、同じ仕様のタイヤTであっても、カーカス層E2の繊維コードの状態やベルト層E4の金属コードの状態には若干差異が生じる。したがって、それぞれのタイヤTは互いに異なる画像データDを有していることになる。本発明は、この点に注目して創作されている。
【0030】
以下、この管理システム1を用いて、演算装置5に記憶されている多数のタイヤTの中から、対象タイヤTcに該当するタイヤを特定する手順の一例を説明する。
【0031】
まず、
図1、
図2に例示するように、画像取得装置2Aを用いて多数のタイヤTの画像データDを取得する。回転軸8bを中心にしてタイヤTを回転させながら、照射部3からX線を照射し、タイヤTを透過したX線は受光部4に逐次受光されて、
図4に例示する画像データDが取得される。タイヤTの製造工場では一般的に、製造工程での検査時にそれぞれのタイヤTの画像データDを取得されているので、製造工程で取得された画像データDを用いるとよい。即ち、未使用時のタイヤTの画像データDを取得するのが好ましい。
【0032】
取得されたそれぞれの画像データDは、そのタイヤTの固有情報Fと紐付けして演算装置5に記憶しておく。固有情報Fとしては、例えば、そのタイヤTに使用したそれぞれの材料とそのロット番号、製造条件(材料の混合条件、成形条件、加硫条件)などである。さらに、それぞれのタイヤTの固有情報Tの一部として、上述したマークM情報もそのタイヤTの画像データDと紐付けして演算装置5に記憶しておく。したがって、タイヤメーカでは、膨大な数のタイヤTの画像データDをその固有情報Fと紐付けして演算装置5に記憶することができる。
【0033】
タイヤTの製造工程以外、例えば、タイヤTのストック倉庫などでそれぞれのタイヤDの画像データDを取得し、そのタイヤTの固有情報Fと紐付けして演算装置5に記憶することもできる。ただし、作業効率を考慮すると、これらの作業はタイヤの製造工場で行うことが好ましい。
【0034】
例えば、品質異常のおそれがある対象タイヤTcが市場で発見された場合に、その対象タイヤTcが演算装置5に記憶されているタイヤTのいずれに該当するのかを特定する。そこで、その対象タイヤTcを特定する際には、画像取得装置2Bを用いてその対象タイヤTcの対象画像データDcを、上述した画像データDと同様に取得する。また、対象タイヤTcの外観を参照して、対象タイヤTcの上述したマークM情報を取得して、入力部6を用いて演算装置5に入力する。尚、対象タイヤTcは未使用であっても使用されていてもよい。
【0035】
対象タイヤTcのマークM情報としては、タイヤメーカ情報、タイヤサイズ情報およびタイヤ製造時期情報を含むとよい。さらには、マークM情報としてタイヤ製造時期場所情報を演算装置5に入力することが好ましい。即ち、対象タイヤTcから取得できるマークM情報はできるだけ多数種類を、演算装置5に入力するとよい。対象タイヤTcが既に使用されていて、マークMの一部が擦れなどで消失している場合は、対象タイヤTcに残存しているマークM情報を演算装置5に入力する。
【0036】
次いで、演算装置5では抽出ステップが行われる。抽出ステップでは、演算装置5は、入力された対象タイヤTcのマークM情報と、演算装置5に記憶されているそれぞれの画像データDと紐付けされているそれぞれのタイヤTの固有情報Fとに基づいて、演算装置5に記憶されているそれぞれの画像データDの中から、マッチング処理を行う照合候補が抽出される。
【0037】
演算装置5に記憶されているそれぞれの画像データDに紐付けされているタイヤTの固有情報Fは、それぞれのタイヤTのマークM情報を含んでいる。そこで、入力された対象タイヤTcのマークM情報と一致する固有情報Fを有している画像データDを抽出して、マッチング処理を行う照合候補にする。
【0038】
このように対象タイヤTcのマークM情報を用いることで、演算装置5に記憶されている画像データD(タイヤT)の数が膨大であっても、対象タイヤTcを特定する際に照合候補となる画像データDの数を大幅に削減できる。それ故、対象タイヤTcを特定するために過大な作業工数が生じることを回避するには有利になる。より多数種類のマークM情報を用いることで、照合対象となる画像データDを少数に絞り込むには一段と有利になる。
【0039】
次いで、演算装置5ではマッチングステップが行われる。マッチングステップでは、演算装置5は、抽出された照合候補の画像データDと対象画像データDcとの一致度を算出するマッチング処理を行う。
図5に例示すように、このマッチング処理は、対象画像データDcをテンプレート画像として、対象画像データDcと照合候補のそれぞれの画像データDとを照合して互いの一致度を算出する、いわゆるパターンマッチングを行う。このマッチング処理は、パターンマッチングを行う公知の種々のソフトウェアを利用することができる。
【0040】
また、マッチング処理では、タイヤT(Tc)の1周分の画像データDと対象画像データDcとを照合することもできるが、演算処理の負荷を軽減するために、対象画像データDcは、タイヤ周方向Cの一部の区間のデータを用いるとよい。例えば、タイヤ全周の1/Aの区間(Aは例えば2以上8以下)の対象画像データDcを用いる。対象画像データDcの区間(面積)が小さくなると、演算処理に要する時間の短縮には有利になるが、この区間(面積)が過小であると、対象画像データDcの特徴の喪失が大きくなって、対象タイヤTの特定精度が低下する。そのため、対象画像データDcは上述したようにタイヤ全周の1/8~1/2の区間にするとよい。
【0041】
タイヤ周方向Cの一部の区間の対象画像データDcを用いる場合は、それぞれの画像データDcとのマッチング処理では、この対象画像データDcを適宜のピッチで移動させて画像データDと照合し、その画像データDにおいて最も対象画像データDcと一致度が高い位置(区間)を探す。例えば、1度のマッチング処理では複数回のサーチングを実施し、最初のサーチングでは対象画像データDcを照合する画像データD内で一定のピッチで移動させて類似性の高い箇所を初期スクリーニングする。2回目のサーチングでは、最初のサーチングで検出した類似性の高い箇所に対して集中的に再サーチングを行い、画像データの圧縮レベルを落として鮮明度を高くした画像で類似性の高い箇所を探す。これにより、対象タイヤTcの特定精度を高く維持しつつ、マッチング処理に要する時間を短縮することが可能になる。
【0042】
対象タイヤTcが既に使用されていて、一部分が損傷している場合、或いは、過度に変形している場合などは、その損傷、或いは、変形している部分を除いた区間の対象画像データDcをマッチング処理に用いる。これにより、対象タイヤTcの特定精度が低下することを回避できる。
【0043】
また、タイヤT(Tc)の内面に吸音材や電子モジュールなどの付属物が備わっている場合は、これら付属物が画像データD(Dc)に反映されることが多い。これら付属物は、タイヤT(Tc)毎に設置位置や向きに違いが生じ易い。そこで、このような付属物が備わっている場合は、その付属物が反映されている部分を含む区間の対象画像データDcをマッチング処理に用いるとよい。これにより、対象タイヤTの特定精度を向上させることも可能になる。
【0044】
また、マッチング処理は、画像データDおよび対象画像データDcを、エッジの集合体モデルに画像処理して行うとよい。即ち、画像データDおよび対象画像データDcの中のエッジ部分だけを残存させて簡略化したエッジの集合体モデルにすると、マッチング処理での演算処理の負荷を軽減することが可能になる。そして、対象画像データDcとして、タイヤ周方向Cの一部の区間のデータを用いると、エッジの集合体モデルを作成する工数を削減することができる。
【0045】
ただし、エッジの集合体モデルでは最小エッジ長さが過小であると、微細なエッヂまで画像データに含まれることになるので、演算処理の負荷を軽減する効果が小さくなる。そのため、最小エッジ長さは例えば2mm以上、より好ましくは5mm以上にする。一方、最小エッジ長さが過大であると、それぞれの画像データD、対象画像データDcの特徴の喪失が大きくなって、対象タイヤTcの特定精度が低下する。そのため、最小エッジ長さは例えば20mm以下、より好ましくは10mm以下にする。
【0046】
次いで、演算装置5では、特定ステップが行われる。特定ステップでは、照合候補のすべての画像データDに対してマッチング処理を行うことにより、対象画像データDcと最も一致度が高い画像データDが判明するので、その最も一致度が高い画像データDが選択される。そして、その選択された画像データDに該当するタイヤTが対象タイヤTcとして特定される。
【0047】
上述したように、それぞれのタイヤTは互いに異なる画像データDを有しているので、対象画像Dcとのマッチング処理を行って算出された一致度を用いることで、演算装置5に記憶されているタイヤTの中から対象タイヤTcに該当するタイヤTを、より確実に精度よく特定できる。これに伴い、対象タイヤTcに使用したそれぞれの材料とそのロット番号、製造条件(材料の混合条件、成形条件、加硫条件)などが詳細に把握できる。その結果、対象タイヤTcでの品質問題の原因を、より正確、かつ、早期に解明し、有効な対策を迅速に講じるにも有利になる。
【0048】
対象タイヤTcが、記憶装置5に記憶されているいずれかのタイヤTであれば、上述した同様の手順によってその個体を識別して特定することができる。本発明が適用されるタイヤTのタイプは特に限定されず、空気入りタイヤ以外の種々のタイプであってもよい。
【0049】
タイヤTがリトレッドタイヤの場合は、リトレッドする度にその際に使用したそれぞれの材料とそのロット番号、製造条件(材料の混合条件、成形条件、加硫条件)を追加して演算装置5に記憶しておく。これにより、対象タイヤTcがリトレッド用の台タイヤである場合は、演算装置5に記憶されているタイヤTの中から対象タイヤTcに該当するタイヤTを特定することで、リトレッドにおける製造履歴も詳細に把握できるので、リトレッドタイヤの品質管理の向上に大きく寄与する。
【実施例0050】
同仕様の20本の乗用車用の空気入りタイヤTを用いて、それぞれのタイヤTを対象タイヤTcにして、上述した方法にて20本の中から該当するタイヤTを特定した。マッチング処理では、画像データDおよび対象画像データDcを、エッジの集合体のモデル(最小エッジ長さは4mm)に画像処理した。また、対象画像データDcとしては、タイヤ周方向の1/4区間を使用した。すべての対象タイヤTcが未使用の場合も、ある程度使用した場合(走行距離100km程度)も、すべての対象タイヤTcについて正しいタイヤTを特定することができた。
【0051】
本開示は以下の発明を包含している。
[発明1]:タイヤの内部透視画像データを用いて対象タイヤを特定するタイヤの管理方法であって、
予めそれぞれのタイヤの前記内部透視画像データを取得して、それぞれの前記内部透視画像データをそのタイヤの固有情報と紐付けして演算装置に記憶しておき、
前記対象タイヤを特定する際に、前記対象タイヤの前記内部透視画像データを対象画像データとして取得するとともに前記対象タイヤの表面に付されているマークから前記対象タイヤの固有情報の一部を取得し、
取得した前記対象タイヤの前記固有情報の一部と、前記演算装置に記憶されているそれぞれの前記内部透視画像データと紐付けされているそれぞれの前記タイヤの前記固有情報とに基づいて、前記演算装置に記憶されているそれぞれの前記内部透視画像データの中から照合候補を抽出し、抽出した照合候補の前記内部透視画像データと前記対象画像データとの一致度を算出するマッチング処理を行うことにより、前記対象画像データと最も一致度が高い前記内部透視画像データを選択し、この選択した前記内部透視画像データに該当する前記タイヤを前記対象タイヤとして特定するタイヤの管理方法。
[発明2]:前記マークから取得される前記対象タイヤの固有情報の一部として、タイヤメーカ情報、タイヤサイズ情報およびタイヤ製造時期情報を含む[発明1]に記載のタイヤの管理方法。
[発明3]:それぞれの前記内部透視画像データを、それぞれの前記タイヤの製造工程で取得する[発明1]または[発明2]に記載のタイヤの管理方法。
[発明4]:前記内部透視画像データおよび前記対象画像データを、エッジの集合体モデルに画像処理して前記マッチング処理を行う[発明1]~[発明3]のいずれかに記載のタイヤの管理方法。
[発明5]:前記対象画像データとしてタイヤ周方向の一部の区間のデータを用いる[発明1]~[発明4]のいずれかに記載のタイヤの管理方法。
[発明6]:前記対象タイヤがリトレッド用の台タイヤである[発明1]~[発明5]のいずれかに記載のタイヤの管理方法。
[発明7]:タイヤの内部透視画像データを用いて対象タイヤを特定するタイヤの管理システムであって、
それぞれのタイヤの前記内部透視画像データを取得する主画像取得装置と、それぞれの前記内部透視画像データとそのタイヤの固有情報とが紐付けされて記憶される演算装置と、前記対象タイヤを特定する際に、前記対象タイヤの前記内部透視画像データを対象画像データとして取得する対象画像取得装置と、前記対象タイヤの表面に付されているマークから取得される前記対象タイヤの固有情報の一部を前記演算装置に入力する入力部とを備えて、
前記演算装置では、前記演算装置に入力された前記対象タイヤの前記固有情報の一部と、前記演算装置に記憶されているそれぞれの前記内部透視画像データと紐付けされているそれぞれの前記タイヤの前記固有情報とに基づいて、前記演算装置に記憶されているそれぞれの前記内部透視画像データの中から照合候補が抽出される抽出ステップと、
抽出された照合候補の前記内部透視画像データと前記対象画像データとの一致度を算出するマッチング処理を行うマッチングステップと、
前記対象画像データと最も一致度が高い前記内部透視画像データが選択されて、この選択された前記内部透視画像データに該当する前記タイヤが、前記対象タイヤとして特定される特定ステップと、が行われるタイヤの管理システム。