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  • 特開-電気化学素子用セパレータ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030996
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】電気化学素子用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/44 20210101AFI20240229BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20240229BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240229BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240229BHJP
   H01M 50/494 20210101ALI20240229BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240229BHJP
   H01M 50/454 20210101ALI20240229BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20240229BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20240229BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20240229BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20240229BHJP
【FI】
H01M50/44
H01M50/414
H01M50/443 M
H01M50/434
H01M50/494
H01M50/489
H01M50/454
H01M50/491
H01G11/06
H01G11/52
H01M50/446
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134269
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森下 正典
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 政尚
(72)【発明者】
【氏名】長 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】若元 佑太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 芳徳
【テーマコード(参考)】
5E078
5H021
【Fターム(参考)】
5E078AA03
5E078AA10
5E078AB06
5E078CA06
5E078CA08
5E078CA10
5E078CA17
5E078CA19
5H021BB11
5H021CC02
5H021CC04
5H021EE02
5H021EE08
5H021EE21
5H021EE32
5H021HH00
5H021HH01
5H021HH02
5H021HH03
5H021HH06
(57)【要約】
【課題】 充分な機械的強度を有するとともに、内部抵抗の低い電気化学素子を製造できる電気化学素子用セパレータを提供すること。
【解決手段】 本発明の電気化学素子用セパレータは、非水系電解液を含む電気化学素子のセパレータであり、セパレータは不織布構成繊維がポリアルキレンカーボネートによって接着固定されている。ポリアルキレンカーボネートは電気化学素子用セパレータ全体の10~65mass%を占めているのが好ましい。ポリアルキレンカーボネートが不織布構成繊維間の空隙を埋めるように存在しているのが好ましい。更に、無機粒子を含んでいるのが好ましい。本発明の電気化学素子は厚さ1μmあたりの引張り強さが1N/50mm幅以上の方向を有する、ガーレ通気度が10s/100mL以上、または少なくとも片面に不織布構成繊維を含まないポリアルキレンカーボネートの層を有するのが好ましい。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水系電解液を含む電気化学素子のセパレータであり、前記セパレータは不織布構成繊維がポリアルキレンカーボネートによって接着固定されていることを特徴とする、電気化学素子用セパレータ。
【請求項2】
ポリアルキレンカーボネートが電気化学素子用セパレータ全体の10~65mass%を占めることを特徴とする、請求項1記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項3】
ポリアルキレンカーボネートが不織布構成繊維間の空隙を埋めるように存在していることを特徴とする、請求項1記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項4】
無機粒子を含むことを特徴とする、請求項1記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項5】
厚さ1μmあたりの引張り強さが1N/50mm幅以上の方向を有することを特徴とする、請求項1記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項6】
ガーレ通気度が10s/100mL以上であることを特徴とする、請求項1記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項7】
少なくとも片面に、不織布構成繊維を含まないポリアルキレンカーボネートの層を有することを特徴とする、請求項1記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項8】
不織布の空隙率が50%以上であることを特徴とする、請求項1記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項9】
不織布の平均孔径が1~10μmであることを特徴とする、請求項1記載の電気化学素子用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水系電解液を含む電気化学素子のセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器の小型、軽量化に伴い、その電源である電池に対しても、小型、軽量、かつ、高エネルギー密度化の要望が強い。このような状況下、非水系電解液を含むリチウムイオン二次電池はエネルギー密度が高いため、このような要望を満足できる電池として使用されている。
【0003】
このようなリチウムイオン二次電池のセパレータとして、空隙率が高く、電解液の保持量を多くでき、結果としてリチウムイオン二次電池の内部抵抗を低くすることができる、不織布を含むセパレータ(以下、「不織布セパレータ」と表記することがある)が検討されている。このような不織布セパレータにおいても、リチウムイオン二次電池の内部抵抗をより低くできるように、より薄く、より空隙率の高いものが期待されている。しかし、単に厚さの薄い不織布セパレータとすると、機械的強度が不充分で、不織布セパレータを使用し、円筒形、角形、コイン形、ピン形等のリチウムイオン二次電池を製造する際に加わる張力や圧縮力などの外力によって、破断を生じたり、破断を生じないまでも貫通孔が形成されるなど、物理的短絡を生じやすい傾向があった。
【0004】
そのため、このような薄い不織布セパレータの機械的強度を向上させるために、バインダを付与することが考えられるが、バインダ量が多いと、不織布セパレータの利点である空隙を塞いでしまい、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が高くなる。他方で、バインダ量が少ないと、不織布セパレータの機械的強度を充分に向上させることができない。このように、充分な機械的強度を有するとともに、内部抵抗の低いリチウムイオン二次電池を製造できる不織布セパレータが存在しておらず、不織布セパレータを使用したリチウムイオン二次電池の普及には至っていない。
【0005】
このような問題はリチウムイオン二次電池に限った問題ではなく、例えば、ナトリウムイオン電池;マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、亜鉛などの多価イオン電池;リチウムイオウ電池;リチウム、亜鉛などの金属空気電池;リチウムイオンキャパシタ;などの非水系電解液を含む電気化学素子の場合にも同様に生じる問題であった。
【0006】
なお、本願出願人は電気化学素子用セパレータとして、「不織布基材の内部空隙において、無機粒子がバインダポリマーによって不織布基材構成繊維に接着しているとともに、不織布基材構成繊維と無機粒子とバインダポリマーとによって形成された空隙に、高分子電解質ポリマーを有する電気化学素子用セパレータ」(特許文献1)を提案したが、前述の不織布セパレータと同様に、機械的強度を向上させるために、バインダポリマー量を多くすると、空隙を塞いでしまい電気化学素子の内部抵抗が高くなり、充分な機械的強度と低い内部抵抗を両立するのが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-175827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような状況下においてなされたもので、充分な機械的強度を有するとともに、内部抵抗の低い電気化学素子を製造できる電気化学素子用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電気化学素子用セパレータは、[1]非水系電解液を含む電気化学素子のセパレータであり、前記セパレータは不織布構成繊維がポリアルキレンカーボネートによって接着固定されている。
【0010】
本発明の電気化学素子用セパレータは、[2]ポリアルキレンカーボネートが電気化学素子用セパレータ全体の10~65mass%を占めているのが好ましい。
【0011】
本発明の電気化学素子用セパレータは、[3]ポリアルキレンカーボネートが不織布構成繊維間の空隙を埋めるように存在しているのが好ましい。
【0012】
本発明の電気化学素子用セパレータは、[4]無機粒子を含むのが好ましい。
【0013】
本発明の電気化学素子用セパレータは、[5]厚さ1μmあたりの引張り強さが1N/50mm幅以上の方向を有するのが好ましい。
【0014】
本発明の電気化学素子用セパレータは、[6]ガーレ通気度が10s/100mL以上であるのが好ましい。
【0015】
本発明の電気化学素子用セパレータは、[7]少なくとも片面に、不織布構成繊維を含まないポリアルキレンカーボネートの層を有するのが好ましい。
【0016】
本発明の電気化学素子用セパレータは、[8]不織布の空隙率が50%以上であるのが好ましい。
【0017】
本発明の電気化学素子用セパレータは、[9]不織布の平均孔径が1~10μmであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
[1]本発明の電気化学素子用セパレータ(以下、単に「セパレータ」と表記することがある)は不織布構成繊維がポリアルキレンカーボネート(以下、「PAC」と略称することがある)によって接着固定されているため、充分な機械的強度を有することができる。その一方で、PACは非水系電解液(以下、単に「電解液」と表記することがある)と親和性が高いため、非水系電解液と接触した際には非水系電解液によって膨潤し、非水系電解液の保持性に優れているばかりでなく、一種の電解質として作用するためか、意外にもイオン伝導性に優れており、内部抵抗が高くならないことを見出した。
【0019】
[2]このように、PACはイオン伝導性を阻害しないため、電気化学素子用セパレータ全体の10~65mass%を占めていてもイオン伝導性に優れ、また、充分な量のPACによって不織布構成繊維が接着固定されているため機械的強度が優れており、電気化学素子製造時における外力によっても損傷しにくく、物理的短絡が生じにくい。更に、PAC量が不織布構成繊維全体を接着固定できる量であり、セパレータ全体にPACが存在しているため、このセパレータを用いた電気化学素子の放電容量が安定するなど、電気化学素子の品質安定性に優れている。
【0020】
[3]PACが不織布構成繊維間の空隙を埋めるように存在しているため、電極間の電気絶縁性に優れている。つまり、一般的に不織布セパレータは微多孔膜と比較して、孔径が大きい傾向があり、化学短絡を生じやすい傾向があるが、PACが不織布構成繊維間の空隙を埋めるように存在していることによって電気絶縁性にも優れ、化学短絡が生じにくい。更に、PACが不織布構成繊維間の空隙を埋めるように、つまり、セパレータ全体にPACが存在しているため、このセパレータを用いた電気化学素子の放電容量が安定するなど、電気化学素子の品質安定性に優れている。
【0021】
[4]無機粒子を含んでいることによって、セパレータは耐熱性に優れているため、本セパレータを使用した電気化学素子は高温環境下で使用することができ、また、電気化学素子内部が高温になったとしても、セパレータ形態を維持し、熱暴走を防止することができる。また、無機粒子を含んでいることによって、不織布構成繊維間の空隙を埋めやすく、PACとの相乗効果もあり、電気絶縁性により優れ、化学短絡が生じにくい。更に、無機粒子とPACとの界面でイオン伝導性に優れているためか、内部抵抗をより低くできるという効果も奏する。更に、PACと無機粒子の相互作用により、セパレータ全体にPACが存在することができ、このセパレータを用いた電気化学素子の放電容量が安定するなど、電気化学素子の品質安定性に優れている。
【0022】
[5]セパレータが厚さ1μmあたりの引張り強さが1N/50mm幅以上の方向を有すると、この方向に対して張力を掛けても、セパレータが破断したり伸びたりしにくいため、物理的短絡を生じにくい電気化学素子を製造しやすい。
【0023】
[6]セパレータのガーレ通気度が10s/100mL以上であると、不織布構成繊維間の空隙が埋まった状態にあるため、電極間の電気絶縁性に優れ、化学短絡が生じにくい。更に、PACによって不織布構成繊維間の空隙が埋まった状態、つまり、セパレータ全体にPACが存在しているため、このセパレータを用いた電気化学素子の放電容量が安定するなど、電気化学素子の品質安定性に優れている。
【0024】
[7]少なくとも片面に、不織布構成繊維を含まないPACの層を有していると、このPAC層によって電極間の電気絶縁性に優れ、化学短絡が生じにくい。更に、PACが不織布の少なくとも片面全体にPACが存在しているため、このセパレータを用いた電気化学素子の放電容量が安定するなど、電気化学素子の品質安定性に優れている。
【0025】
[8]不織布の空隙率が50%以上であると、PACが不織布内部にも存在しやすく、多量のPACで不織布構成繊維を接着固定できるため、機械的強度が優れているとともに、電気絶縁性に優れ、化学短絡が生じにくいセパレータである。また、PACが不織布内部にも存在しやすい結果として、PACがセパレータ全体の10~65mass%を占めやすく、PACが不織布構成繊維間の空隙を埋めるように存在しやすく、無機粒子を不織布内部にも保持しやすく、又はガーレ通気度が10s/100mL以上と不織布構成繊維間の空隙が埋まった状態であることが容易であるため、このセパレータを用いた電気化学素子の放電容量が安定するなど、電気化学素子の品質安定性に優れている。
【0026】
[9]不織布の平均孔径が1~10μmであると、PACが不織布内部にも存在しやすく、多量のPACで不織布構成繊維を接着固定できるため、機械的強度が優れているとともに、電気絶縁性に優れ、化学短絡が生じにくいセパレータである。また、PACが不織布内部にも存在しやすい結果として、PACがセパレータ全体の10~65mass%を占めやすく、PACが不織布構成繊維間の空隙を埋めるように存在しやすく、無機粒子を不織布内部にも保持しやすく、又はガーレ通気度が10s/100mL以上と不織布構成繊維間の空隙が埋まった状態であることが容易であるため、このセパレータを用いた電気化学素子の放電容量が安定するなど、電気化学素子の品質安定性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施例1で製造したセパレータのベース不織布側の電子顕微鏡写真
図2】本発明の実施例1で製造したセパレータの断面の電子顕微鏡写真
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の電気化学素子用セパレータは基本的に不織布とポリアルキレンカーボネート(PAC)からなり、好ましくは無機粒子を含んでいる。以下、これらについて順に説明する。
【0029】
[不織布]
本発明のセパレータは機械的強度が優れているように、また、高空隙で電解液の保持性に優れているように、不織布を含んでいる。
【0030】
本発明の不織布を構成する繊維の樹脂組成は特に限定するものではないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、エポキシ系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、ニトリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)などの有機樹脂を挙げることができる。これらの中でも、耐電解液性に優れる、繊維表面がポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、又はポリアミド系樹脂から構成された繊維(繊維両末端部を除く)であるのが好ましい。なお、耐熱性も考慮する場合には、繊維表面がポリエステル系樹脂又は芳香族ポリアミド樹脂から構成された繊維(繊維両末端部を除く)であるのが好ましい。
【0031】
なお、不織布構成繊維は前述のような有機樹脂1種類から構成されていても、2種類以上から構成されていても良い。例えば、2種類以上から構成されている場合、繊維の横断面における樹脂の配置状態が、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの繊維であることができる。本発明の不織布においては、繊維同士が結合した状態にあり、機械的強度が優れているように、不織布構成繊維として、2種類以上の有機樹脂から構成されており、繊維表面が低融点樹脂から構成されている複合繊維を含んでいることができる。特に、繊維の横断面における樹脂の配置状態が芯鞘型又は海島型の複合繊維は芯成分又は島成分によって繊維形態を維持しつつ、繊維表面全体(繊維両末端部を除く)を占める低融点樹脂によって充分に融着することができ、不織布の機械的強度を高めることができる。
【0032】
また、電気化学素子内部が高温となっても、セパレータが収縮又は溶融し、短絡又は発火が生じにくいように、また、セパレータ及び/又は電気化学素子製造時に充分に乾燥して水分を除去できるように、不織布構成繊維として、融点又は分解温度が180℃以上の耐熱性繊維を含んでいるのが好ましい。このような耐熱性繊維として、例えば、スチレン系繊維、ポリエーテル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリイミド系繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリアミド系繊維、エポキシ系繊維、ポリスルホン系繊維、フッ素系繊維、セルロース、ポリベンゾイミダゾール繊維を挙げることができる。特に、ポリアミド系繊維である全芳香族ポリアミド繊維またはポリエステル系繊維である全芳香族ポリエステル繊維は耐熱性に優れ、低水分率で耐電解液性に優れているため好適である。なお、これら耐熱性繊維はフィブリルを有するパルプ状繊維であることができ、パルプ状繊維であると、孔径が均一かつ緻密な構造の不織布であり、デンドライトによる短絡防止性や化学短絡防止性に優れているため好適である。このような耐熱性繊維は前記性能に優れているように、不織布構成繊維の5mass%以上を占めているのが好ましく、10mass%以上を占めているのがより好ましく、15mass%以上を占めているのが更に好ましく、20mass%以上を占めているのが更に好ましい。
【0033】
なお、本発明における「融点」はJIS K 7121-1987に規定されている示差熱分析により得られる示差熱分析曲線(DTA曲線)から得られる融解温度をいい、「分解温度」はJIS K 7120-1987に規定されている熱重量測定を行い、絶乾状態の試験片の質量が5%減量した時点での温度をいう。
【0034】
また、不織布構成繊維の横断面形状は円形であっても良いし、非円形であっても良い。非円形の例としては、例えば、略三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などを挙げることができる。
【0035】
本発明の不織布を構成する繊維の繊維径は特に限定するものではないが、電気絶縁性に優れているように、また、微細孔を形成して電解液の保持性に優れるように、0.1~20μmであるのが好ましく、0.5~16μmであるのがより好ましく、0.5~13μmであるのが更に好ましい。なお、繊維径の異なる2種類以上の繊維を含んでいると、緻密な構造の不織布であることができ、電気絶縁性に優れているため好適である。なお、「繊維径」は不織布又はセパレータの主面における電子顕微鏡写真を観察した時の、繊維の対向する外周を結ぶ線分の中で、最も長さの短い線分の長さを意味する。
【0036】
また、不織布構成繊維の繊維長は繊維が均一に分散しており、均一に電解液を保持できるのであれば、短繊維であっても、実質的に連続繊維であっても構わないが、短繊維の場合、0.1~110mmであるのが好ましく、0.5~60mmであるのがより好ましく、1~30mmであるのが更に好ましく、1~20mmであるのが更に好ましく、1~10mmであるのが更に好ましい。なお、「繊維長」は不織布又はセパレータの主面における電子顕微鏡写真を観察した時の、繊維の伸長する方向における繊維に沿った長さを意味する。
【0037】
なお、不織布構成繊維はフィブリルを有するパルプ状繊維であっても良いし、フィブリルを有しない繊維であっても良いが、パルプ状繊維を含んでいると、孔径が均一かつ緻密な構造の不織布であり、デンドライトによる短絡防止性や化学短絡防止性に優れているため好適である。
【0038】
更に、不織布の構成繊維は繊維同士が結合した状態にあっても良いし、結合していない状態にあっても良いが、繊維同士が結合していると、更に機械的強度の優れるセパレータであることができるため好適である。このような繊維同士の結合は、例えば、前述のような低融点樹脂が繊維表面を構成する複合繊維の低融点樹脂による融着、未延伸繊維(例えば、未延伸ポリエステル繊維)の加熱加圧による結晶配向に伴う変形による接着、繊維同士の絡合、及び/又はバインダによる接着であることができる。
【0039】
なお、不織布の構成繊維同士をバインダで接着する場合、このバインダが後述のポリアルキレンカーボネート(PAC)の作用を阻害し、内部抵抗が高くなる傾向があるため、バインダ量はセパレータ全体の3mass%以下であるのが好ましく、2mass%以下であるのがより好ましく、1mass%以下であるのが更に好ましく、0mass%であるのが最も好ましい。つまり、不織布構成繊維同士は複合繊維の低融点樹脂による融着、未延伸繊維の結晶配向に伴う変形による接着、及び/又は繊維同士の絡合によって結合しているのが好ましい。このバインダで接着する場合、バインダは耐電解液性のものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、ポリオレフィン、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体などのエチレン-アクリレート共重合体、各種ゴム又はその誘導体[スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)など]、セルロース誘導体[カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど]、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂を挙げることができ、高分子電解質であることもできる。
【0040】
高分子電解質としては、例えば、四級アンモニウム基、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基等の陰イオン交換基を有する炭化水素系樹脂(例えば、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレン、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリアリーレンエーテル、ポリエチレンオキサイド等)、フッ素系樹脂であることができる。後者のフッ素系樹脂として、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF);ポリフッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン(PVDF-HFP)共重合体、ポリフッ化ビニリデン-塩化3フッ化エチレン(PVDF-CTFE)共重合体、ポリフッ化ビニリデン-4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン(PVDF-TFE-HFP)共重合体、ポリフッ化ビニリデン-アクリル共重合体などのポリフッ化ビニリデン共重合体;ポリテトラフルオロエチレンよりなる主鎖とスルホン酸基を有する側鎖とからなるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を挙げることができる。
【0041】
これらバインダは単独で、又は2種以上であることができる。
【0042】
本発明の不織布を構成する繊維は、樹脂組成、樹脂組成の数、繊維の横断面における樹脂の配置状態、繊維径、繊維長、及び/又はフィブリルの有無などの点で相違する、2種類以上の繊維から構成されていても良い。
【0043】
本発明の不織布は一層構造であっても良いし、二層以上の多層構造であっても良い。特に、ベース不織布の空隙に短繊維及び/又はパルプ状繊維が入り込んだ一層構造又は二層構造の多層不織布であると、孔径が均一かつ緻密な構造の不織布であり、デンドライトによる短絡防止性や化学短絡防止性に優れるセパレータとなりやすいため好適である。なお、この一層構造不織布又は多層不織布において、ベース不織布の空隙に入り込んだ短繊維及び/又はパルプ状繊維は、ベース不織布構成繊維に絡合していることにより、バインダで接着していることにより、または、入り込んだ短繊維又はパルプ状繊維とベース不織布構成繊維の少なくとも一方が融着して、ベース不織布に短繊維及び/又はパルプ状繊維が固定されていることができる。なお、ベース不織布は機械的強度の優れるものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、前述のような不織布構成繊維を含む湿式不織布であることができる。また、前述の通り、不織布は耐熱性繊維を含んでいるのが好ましいため、ベース不織布構成繊維、入り込んだ短繊維、及び/又はパルプ状繊維として耐熱性繊維を含んでいるのが好ましい。
【0044】
本発明の不織布の目付は特に限定するものではないが、機械的強度が優れているように、1g/m以上であるのが好ましく、3g/m以上であるのがより好ましく、5g/m以上であるのが更に好ましい。なお、目付の上限は特に限定するものではないが、目付が高く、繊維量が多いと、厚さも厚くなり、内部抵抗が高くなる傾向があるため、20g/m以下であるのが好ましく、18g/m以下であるのがより好ましく、16g/m以下であるのが更に好ましい。
【0045】
本発明において「目付」はJIS P 8124(紙及び板紙-坪量測定法)に規定されている方法に基づいて得られる坪量を意味する。
【0046】
本発明の不織布の厚さは特に限定するものではないが、厚さが薄いことで内部抵抗の低い電気化学素子を作製しやすいため、50μm以下であるのが好ましく、40μm以下であるのがより好ましく、30μm以下であるのが更に好ましく、25μm以下であるのが更に好ましく、22μm以下であるのが更に好ましい。他方で、厚さが薄過ぎると機械的強度が不足し、電気化学素子製造時における外力によって損傷しやすく、物理的短絡が生じやすくなる傾向があるため、5μm以上であるのが好ましく、10μm以上であるのが更に好ましい。
【0047】
本発明における「厚さ」は、JIS B 7502:1994に規定されている外側マイクロメーター(0~25mm)を用いた5N荷重時の測定を、無作為に選んだ10点について行い、その算術平均した値をいう。
【0048】
本発明の不織布の空隙率は特に限定するものではないが、電解液の保持量を多くでき、結果として内部抵抗の低い電気化学素子を製造できるように、また、PACが不織布内部にも存在しやすく、多量のPACで不織布構成繊維を接着固定できるため、機械的強度が優れているとともに電気絶縁性に優れ、化学短絡が生じにくいセパレータであることができるように、空隙率は50%以上であるのが好ましく、55%以上であるのがより好ましく、60%以上であるのが更に好ましい。他方で、空隙率が高すぎると、機械的強度に劣り、電気化学素子製造時の張力や圧縮力などの外力によって、物理的短絡を生じやすい傾向があるため、99%以下であるのが好ましく、95%以下であるのがより好ましく、90%以下であるのが更に好ましく、85%以下であるのが更に好ましい。また、不織布の空隙率が前記範囲にあり、PACが不織布内部にも存在しやすい結果として、PACがセパレータ全体の10~65mass%を占めやすく、PACが不織布構成繊維間の空隙を埋めるように存在しやすく、無機粒子を不織布内部にも保持しやすく、また、ガーレ通気度が10s/100mL以上と不織布構成繊維間の空隙が埋まった状態であることが容易であるため、このセパレータを用いた電気化学素子の放電容量が安定するなど、電気化学素子の品質安定性に寄与するという効果も奏する。
【0049】
なお、本発明の空隙率(P)は次の数式から得られる値をいう。
【0050】
P=100-(Fr+Fr+・・・+Fr
ここで、Frは不織布又はセパレータを構成するn成分の充填率(単位:%)を示し、次の数式から得られる値をいう。
【0051】
Fr=[(M×Pr)/(T×SG)]×100
ここで、Mは不織布又はセパレータの目付(単位:g/cm)、Tは不織布又はセパレータの厚さ(単位:cm)、Prは不織布又はセパレータにおけるn成分の存在質量比率、SGはn成分の密度(単位:g/cm)をそれぞれ意味する。
【0052】
本発明の不織布の平均孔径は特に限定するものではないが、PACが不織布内部にも存在しやすく、多量のPACで不織布構成繊維を接着固定できるため、機械的強度が優れているとともに、電気絶縁性に優れ、化学短絡が生じにくいセパレータでありやすいように、平均孔径は1μm以上であるのが好ましく、2μm以上であるのがより好ましく、3μm以上であるのが更に好ましい。他方で、平均孔径が大きすぎると電気絶縁性に劣り、化学短絡しやすい傾向があるため、平均孔径は10μm以下であるのが好ましく、9μm以下であるのがより好ましく、8μm以下であるのが更に好ましい。
【0053】
また、不織布の平均孔径が前記範囲にあり、PACが不織布内部にも存在しやすい結果として、PACがセパレータ全体の10~65mass%を占めやすく、PACが不織布構成繊維間の空隙を埋めるように存在しやすく、無機粒子を不織布内部にも保持しやすく、また、ガーレ通気度が10s/100mL以上と不織布構成繊維間の空隙が埋まった状態であることが容易であるため、このセパレータを用いた電気化学素子の放電容量が安定するなど、電気化学素子の品質安定性に寄与するという効果も奏する。
【0054】
本発明の不織布の最大孔径は特に限定するものではないが、最大孔径が大きすぎると、PACにより不織布構成繊維が接着固定されていたとしても、電気絶縁性に劣り、化学短絡が生じやすい傾向があるため、最大孔径は50μm以下であるのが好ましく、40μm以下であるのがより好ましく、30μm以下であるのが更に好ましい。他方で、最大孔径が小さ過ぎると、結果として平均孔径が小さくなり、PACが不織布内部にも存在しにくくなるため、最大孔径は1μm以上であるのが好ましく、3μm以上であるのが更に好ましい。
【0055】
なお、本発明における「平均孔径」および「最大孔径」はポロメータ〔Polometer,コールター(Coulter)社製〕を用い、バブルポイント法により測定した値をいう。
【0056】
本発明の不織布の引張り強さは、セパレータは後述のPACで接着固定されているとはいえ、不織布自体の引張り強さが強いほど、セパレータの引張り強さも強いため、不織布の引張強さは1N/50mm幅以上である方向を有するのが好ましく、5N/50mm幅以上である方向を有するのがより好ましく、10N/50mm幅以上である方向を有するのが更に好ましく、15N/50mm幅以上である方向を有するのが更に好ましい。
【0057】
このような引張り強さを有する方向は、電気化学素子製造時に張力が掛かるのは一般的に不織布の長手方向であるため、不織布の長手方向が前記引張強さであるのが好ましい。
【0058】
本発明における「引張強さ」は、不織布又はセパレータを幅50mmの短冊状に切断した試料を、引張強さ試験機(オリエンテック製、テンシロンUTM-III-100)に固定(チャック間距離:100mm)し、速度300mm/min.で引張り、切断時の強さの測定を10回行い、その算術平均値をいう。
【0059】
本発明の不織布の伸び率は、セパレータが後述のPACで接着固定されているとはいえ、不織布自体が伸びにくいほど、セパレータも伸びにくく変形しにくい結果として、電気化学素子を製造する際に加わる張力によって、孔径が大きくなりにくく、物理的短絡を生じにくいため、不織布の伸び率が50%以下である方向を有するのが好ましく、40%以下である方向を有するのがより好ましく、30%以下である方向を有するのが更に好ましく、20%以下である方向を有するのが更に好ましい。理想的には伸び率が0%の方向を有する。このような伸び率を有する方向は、電気化学素子製造時に張力が掛かるのは一般的に不織布の長手方向であるため、不織布の長手方向が前記伸び率であるのが好ましい。
【0060】
本発明における「伸び率」は、前述の引張り強さ試験と同様に操作を行い、破断するまでの最大荷重時における伸び(Smax、単位:mm)[=(最大荷重時の長さ、単位:mm)-(つかみ間隔=100mm)]を測定する。この最大荷重時における伸びのつかみ間隔(100mm)に対する百分率を算出する(次の式参照)。
Sr=(Smax/100)×100=Smax
この最大荷重時における伸びのつかみ間隔に対する百分率の算出を10回行い、その算術平均値を本発明における「伸び率」とする。
【0061】
本発明の不織布は上述のような繊維が結合した、シート形態を維持できる状態にあるが、後述のような無機粒子を含んでいる場合、無機粒子を含む不織布が上述のような目付、厚さ、空隙率、平均孔径、最大孔径、引張強さ、及び/又は伸び率を満たしているのが好ましい。
【0062】
本発明の不織布は上述のような繊維から構成した、上述のような構造および物性を有するものであることができるが、例えば、次のような方法により製造することができる。
【0063】
まず、繊維を用意するが、前述の通り、繊維表面がポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、又はポリアミド系樹脂から構成された繊維(繊維両末端部を除く)、融点又は分解温度が180℃以上の耐熱性繊維(特に、全芳香族ポリアミド繊維又は全芳香族ポリエステル繊維)を用意するのが好ましい。また、機械的強度の優れる不織布を製造しやすいように、2種類以上の有機樹脂から構成されており、繊維表面が低融点樹脂から構成されており融着作用を発揮できる複合繊維(例えば、繊維の横断面における樹脂の配置状態が芯鞘型又は海島型の複合繊維)、又は加熱加圧による結晶配向に伴う変形によって接着作用を発揮する未延伸繊維(例えば、未延伸ポリエステル繊維)を用意するのが好ましい。なお、繊維としてフィブリルを有するパルプ状繊維は孔径が均一かつ緻密な構造の不織布を作製しやすいため用意するのが好ましい。
【0064】
不織布が一層構造からなる場合、乾式法、湿式法(例えば、水平長網方式、傾斜ワイヤー型短網方式、円網方式、長網・円網コンビネーション方式など)により繊維ウエブを形成した後、繊維同士を結合して不織布を製造することができる。特に、湿式法によれば、繊維が均一に分散した緻密な繊維ウエブを形成しやすく、電気絶縁性の優れるセパレータを製造しやすいため好適である。なお、結合方法としては、前述の通り、低融点樹脂が繊維表面を構成する複合繊維の低融点樹脂による融着、未延伸繊維(例えば、未延伸ポリエステル繊維)の加熱加圧による結晶配向に伴う変形による接着、繊維同士の絡合、及び/又はバインダによる接着であることができるが、バインダによる接着はポリアルキレンカーボネート(PAC)の作用を阻害し、内部抵抗が高くなる傾向があるため、多くてもセパレータ全体の3mass%以下(より好ましくは2mass%以下、更に好ましくは1mass%以下)とし、バインダを使用せず、複合繊維の低融点樹脂による融着、未延伸繊維の結晶配向に伴う変形による接着、及び/又は繊維同士の絡合により不織布構成繊維同士を結合するのが好ましい。
【0065】
なお、複合繊維の低融点樹脂を融着させる場合、無圧下で行なっても良いし、加圧下で行なっても良いし、無圧下で溶融させた後に加圧しても良い。このような融着を実施できる装置として、例えば、熱カレンダー、熱風貫通式熱処理器、シリンダ接触型熱処理器などがある。また、未延伸繊維の結晶配向に伴う変形により接着させる場合、繊維ウエブを加熱加圧することにより実施でき、例えば、熱カレンダーを使用することにより実施できる。更に、繊維同士を絡合する場合、例えば、水流などの流体流、ニードルを繊維ウエブに対して作用させることによって実施できる。
【0066】
なお、スパンボンド法、メルトブロー法、静電紡糸法などのように紡糸した繊維を直接集積して繊維ウエブを形成した後、繊維同士を結合させる工程を経るか、経ることなく、一層構造の不織布とすることもできる。この繊維同士を結合させる工程としては、例えば、軟化状態にあるなど変形可能な繊維ウエブに対してカレンダロールを作用させて加圧する工程、軟化状態にあるなど変形可能な繊維ウエブに対してエンボスロールを作用させて加圧する工程、軟化状態にない繊維ウエブに対して熱カレンダロールを作用させて加熱加圧する工程、軟化状態にない繊維ウエブに対して熱エンボスロールを作用させて加熱加圧する工程、などを挙げることができる。
【0067】
また、不織布が二層以上の多層構造からなる場合、一層構造の場合と同様に、乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法、静電紡糸法などの直接法により繊維ウエブを形成した後、繊維ウエブを二層以上積層し、繊維同士及び繊維ウエブ間を結合して、多層不織布を製造することができる。
【0068】
また、一層構造の場合と同様に、乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法、静電紡糸法などの直接法により繊維ウエブを複数形成した後、各繊維ウエブ構成繊維同士を一層構造の場合と同様に結合してそれぞれ不織布を形成した後に、不織布を二層以上積層し、不織布間を結合して、多層不織布を製造することができる。この場合の不織布間の結合は、不織布を構成する複合繊維の低融点樹脂による融着、未延伸繊維(例えば、未延伸ポリエステル繊維)の加熱加圧による結晶配向に伴う変形による接着、繊維同士の絡合、及び/又はバインダによる接着であることができるが、前述の通り、バインダを使用せず、複合繊維の低融点樹脂による融着、未延伸繊維の結晶配向に伴う変形による接着、及び/又は繊維同士の絡合により不織布間を結合するのが好ましい。
【0069】
更には、一層構造の場合と同様に、乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法、静電紡糸法などの直接法により繊維ウエブを複数形成した後、少なくとも1つの繊維ウエブ構成繊維同士を一層構造の場合と同様に結合して不織布を形成した後に、不織布上に他の繊維ウエブを積層し、不織布と繊維ウエブ間および繊維ウエブ構成繊維同士間を結合して、多層不織布を製造することができる。この場合の不織布と繊維ウエブ間および繊維ウエブ構成繊維同士間の結合は、不織布又は繊維ウエブを構成する複合繊維の低融点樹脂による融着、不織布又は繊維ウエブを構成する未延伸繊維(例えば、未延伸ポリエステル繊維)の加熱加圧による結晶配向に伴う変形による接着、不織布又は繊維ウエブを構成する繊維同士の絡合、及び/又はバインダによる接着であることができるが、前述の通り、バインダを使用せず、不織布又は繊維ウエブを構成する複合繊維の低融点樹脂による融着、不織布又は繊維ウエブを構成する未延伸繊維の結晶配向に伴う変形による接着、及び/又は不織布又は繊維ウエブを構成する繊維同士の絡合により、不織布と繊維ウエブ間および繊維ウエブ構成繊維同士間を結合するのが好ましい。
【0070】
更に、一層構造の場合と同様に、乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法、静電紡糸法などの直接法により繊維ウエブを形成した後、一層構造の場合と同様に繊維ウエブ構成繊維同士を結合して不織布を形成した後に、不織布上にスラリー中の繊維を抄き上げて不織布上に繊維ウエブ層を形成した後に、不織布と繊維ウエブ層間および繊維ウエブ構成繊維同士間を結合して、多層不織布を製造することができる。この場合の不織布と繊維ウエブ層間および繊維ウエブ構成繊維同士間の結合は、不織布又は繊維ウエブ層を構成する複合繊維の低融点樹脂による融着、不織布又は繊維ウエブ層を構成する未延伸繊維(例えば、未延伸ポリエステル繊維)の加熱加圧による結晶配向に伴う変形による接着、不織布又は繊維ウエブ層を構成する繊維同士の絡合、及び/又はバインダによる接着であることができるが、前述の通り、バインダを使用せず、不織布又は繊維ウエブ層を構成する複合繊維の低融点樹脂による融着、不織布又は繊維ウエブ層を構成する未延伸繊維の結晶配向に伴う変形による接着、及び/又は不織布又は繊維ウエブ層を構成する繊維同士の絡合により、不織布と繊維ウエブ層間および繊維ウエブ構成繊維同士間を結合するのが好ましい。
【0071】
また、前記と同様に不織布を形成した後に、直接法により形成した繊維を直接不織布上に集積して不織布上に繊維ウエブ層を形成した後に、必要であれば、不織布と繊維ウエブ層間および繊維ウエブ構成繊維同士間を結合して、多層不織布を製造することもできる。この場合の不織布と繊維ウエブ層間および繊維ウエブ層構成繊維同士間の結合は、不織布又は繊維ウエブ層を構成する複合繊維の低融点樹脂による融着、不織布又は繊維ウエブ層を構成する未延伸繊維(例えば、未延伸ポリエステル繊維)の加熱加圧による結晶配向に伴う変形による接着、不織布又は繊維ウエブ層を構成する繊維同士の絡合、及び/又はバインダによる接着であることができるが、前述の通り、バインダを使用せず、不織布又は繊維ウエブ層を構成する複合繊維の低融点樹脂による融着、不織布又は繊維ウエブ層を構成する未延伸繊維の結晶配向に伴う変形による接着、及び/又は不織布又は繊維ウエブ層を構成する繊維同士の絡合により、不織布と繊維ウエブ層間および繊維ウエブ層構成繊維同士間を結合するのが好ましい。
【0072】
前述の特に好ましいベース不織布の空隙に短繊維及び/又はパルプ状繊維が入り込んだ一層構造又は二層構造の多層不織布は、例えば、乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法、静電紡糸法などの直接法により繊維ウエブを形成した後、繊維ウエブ構成繊維同士を一層構造の場合と同様に結合してベース不織布を形成した後に、ベース不織布上にスラリー中の繊維を抄き上げ、吸引力を作用させるなどして、ベース不織布の空隙に短繊維及び/又はパルプ状繊維の一部を進入させるとともにベース不織布上に短繊維及び/又はパルプ状繊維からなる繊維ウエブ層を形成するか、ベース不織布の空隙に短繊維及び/又はパルプ状繊維の全部を進入させてベース不織布と短繊維及び/又はパルプ状繊維とが混在する一層構造の複合不織布を形成した後に、ベース不織布と繊維ウエブ層間、繊維ウエブ構成繊維同士間、及び/又はベース不織布構成繊維と空隙中の短繊維及び/又はパルプ状繊維とを結合して、多層構造不織布又は一層構造不織布を製造することができる。この場合の結合方法もバインダを使用せず、ベース不織布構成繊維である複合繊維又は短繊維である複合繊維の低融点樹脂による融着、ベース不織布構成繊維である未延伸繊維又は短繊維である未延伸繊維の結晶配向に伴う変形による接着、及び/又はベース不織布構成繊維、短繊維、及び/又はパルプ状繊維の絡合により、結合するのが好ましい。
【0073】
なお、不織布が後述のような無機粒子を含んでいる場合、繊維ウエブをバインダで接着して不織布を製造する際に、バインダとして無機粒子を分散させたバインダを使用して製造することができる。また、既に繊維が結合した不織布に対して、無機粒子を分散させたバインダを付与して、無機粒子を含む不織布を製造することもできる。
【0074】
[ポリアルキレンカーボネート]
本発明のポリアルキレンカーボネート(PAC)は不織布構成繊維を接着固定していることによって、セパレータに充分な機械的強度を付与している。その一方で、PACは非水系電解液と親和性が高いため、電気化学素子製造時に非水系電解液と接触した際には非水系電解液によって膨潤し、電解液の保持性に優れているばかりでなく、一種の電解質として作用するためか、意外にもイオン伝導性に優れており、電気化学素子の内部抵抗が高くならない。
【0075】
本発明のPACは、例えば、次の一般式で表される。
【0076】
【化1】
【0077】
前記化学式1中、R~Rはそれぞれ独立して水素、炭素数1~20の線状または分枝状のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数2~20のアルケニル基、または炭素数3~20のシクロアルキル基を意味する。mは10~10,000の整数である。
【0078】
このような本発明のPACは前記化学式1で表される繰り返し単位を含む単一重合体であっても、前記化学式1の範疇に属する2種以上の繰り返し単位を含む共重合体であっても、前記化学式1で表される繰り返し単位と共にアルキレンオキシド系繰り返し単位などを含む共重合体であってもよい。
【0079】
より具体的にPACとして、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリブチレンカーボネート、ポリペンテンカーボネート、ポリヘキセンカーボネート、ポリオクテンカーボネート、ポリシクロヘキセンカーボネート、またはこれらの共重合体を例示できる。これらの中でも電解液との親和性、機械的特性、耐熱性などの点から、ポリプロピレンカーボネート、ポリブチレンカーボネート、ポリシクロヘキセンカーボネートが好適である。
【0080】
本発明のPACは非水系電解液に膨潤しやすいものの、非水系電解液によって溶解しにくいように、また、セパレータの機械的強度を高めることができるように、重合度は10~10,000であるのが好ましく、より好ましくは50~5,000である。
【0081】
また、本発明のPACの融点はセパレータの耐熱性を高くできるように、100℃以上であるのが好ましく、150℃以上であるのがより好ましく、200℃以上であるのが更に好ましい。なお、PACの融点が高ければ高いほどセパレータは耐熱性に優れているため、PACの融点の上限は限定するものではない。
【0082】
本発明においては、1種類のPACのみが不織布構成繊維を接着固定していても良いし、組成、重合度、融点等の点で異なる2種類以上のPACが不織布構成繊維を接着固定していても良い。例えば、組成や重合度の異なる2種類以上のPACを併用することにより、電解液との親和性や内部抵抗を調節することができる。
【0083】
本発明のPACの量は特に限定するものではないが、セパレータ全体の10mass%以上であると、充分な量のPACであることによって、不織布構成繊維を強固に接着固定しているため機械的強度が優れており、電気化学素子製造時における外力によっても損傷しにくく、物理的短絡が生じにくいセパレータであることができるため、好適なPAC量である。また、前記PAC量は不織布構成繊維全体を接着固定するのに充分な量であり、セパレータ全体にPACが存在することができるため、このセパレータを用いた電気化学素子の放電容量が安定するなど、電気化学素子の品質安定性に優れるという効果を奏しやすい。このように、多量のPACで不織布構成繊維を接着固定していたとしても、前述の通り、イオン伝導性に優れており、内部抵抗が上昇しにくい。なお、このように多量のPACであることによって、電気化学素子中において非水系電解液と接触した際に、親和性の高い非水系電解液によっても溶出しにくく、不織布構成繊維の接着固定を維持し、電気絶縁性を発揮しやすい。より好ましいPAC量はセパレータ全体の20mass%以上であり、更に好ましくはセパレータ全体の25mass%以上であり、更に好ましくはセパレータ全体の30mass%以上であり、更に好ましくはセパレータ全体の35mass%以上である。他方で、PACの量が多すぎると、セパレータにおける非水系電解液を保持できる空隙が少なくなり過ぎ、非水系電解液量が少なくなる結果として、内部抵抗が高くなる傾向があるため、PAC量はセパレータ全体の65mass%以下であるのが好ましく、より好ましくは60mass%以下であり、更に好ましくは55mass以下である。
【0084】
本発明のPACは不織布構成繊維を接着固定しているが、その接着固定状態は不織布構成繊維同士の交差点に留まらず、不織布構成繊維間の空隙を埋めるように存在しているのが好ましい。このように存在していることによって、一般的に孔径が大きく化学短絡を生じやすい不織布セパレータの問題点を解決し、電気絶縁性に優れ、化学短絡を効果的に防止しやすいためである。また、PACが不織布構成繊維間の空隙を埋めるように、つまり、セパレータ全体にPACが存在しているため、このセパレータを用いた電気化学素子の放電容量が安定するなど、電気化学素子の品質安定性に優れるという効果を発揮しやすい。この空隙を埋めるように存在している状態としては、例えば、皮膜を張ったような状態であることができる。この皮膜はフィルム状であることもできるし、粒子が凝集した状態であることもでき、前者のフィルム状の皮膜は、例えば、PACを溶剤に溶解させた溶解液を不織布に付与することによって形成されやすく、後者の粒子が凝集した状態の皮膜は、例えば、PAC粒子が分散した分散液を不織布に付与することによって形成されやすい。
【0085】
[無機粒子]
本発明のセパレータが無機粒子を含んでいると耐熱性に優れているため、本発明のセパレータを使用した電気化学素子は高温環境下で使用することができ、また、電気化学素子内部が高温になったとしても、セパレータ形態を維持し、熱暴走を防止しやすい。また、無機粒子を含んでいることによって、不織布構成繊維間の空隙を埋めやすく、PACとの相乗効果もあり、電気絶縁性により優れ、化学短絡がより生じにくいという効果を発揮しやすい。更に、無機粒子とPACとの界面でイオン伝導性に優れているためか、PACとの相乗効果により内部抵抗をより低くしやすいという効果を発揮しやすい。更に、PACと無機粒子の相互作用により、セパレータ全体にPACが存在することができ、このセパレータを用いた電気化学素子の放電容量が安定するなど、電気化学素子の品質安定性に寄与しやすいという効果を発揮しやすい。したがって、本発明のセパレータは無機粒子を含んでいるのが好ましい。
【0086】
この無機粒子の粒子径は不織布の空隙に存在しやすいように、不織布の平均孔径よりも小さいのが好ましく、前述の通り、不織布の平均孔径は1~10μmであるのが好ましいため、無機粒子の粒子径は3μm以下であるのが好ましく、1μm以下であるのがより好ましく、0.8μm以下であるのが更に好ましい。なお、無機粒子の粒子径の下限値は特に限定するものではないが、0.01μm以上であるのが好ましい。
【0087】
本発明における「粒子径」とは、大塚電子(株)製FPRA1000(測定範囲3nm~5000nm)により、動的光散乱法で3分間の連続測定を行い、散乱強度から得られた粒子径測定データから求めた値をいう。より具体的には、粒子径測定を5回行い、その測定して得られた粒子径測定データを粒子径分布幅が狭い順番に並べ、3番目に粒子径分布幅が狭い値を示した粒子径測定データにおける、粒子の累積値50%点の粒子径D50(以降、D50と略して称する)を粒子径とする。なお、測定に使用する測定液は温度25℃に調整し、25℃の純水を散乱強度のブランクとして用いる。
【0088】
なお、無機粒子の粒子径分布は特に限定するものではないが、無機粒子の粒子径分布が広過ぎると、無機粒子が不均一に存在し、セパレータの孔径にバラツキが生じ、電気絶縁性が低下する傾向があるため、無機粒子の粒子径分布は(D50/2)以上、かつ(D50×2)以下の範囲内にあるのが好ましい。なお、本発明における「粒子径分布」は、前述した動的光散乱法で測定し、測定強度から得られた粒子径測定データから求める。
【0089】
本発明で使用できる無機粒子の組成は特に限定するものではないが、例えば、SiO(シリカ)、Al(アルミナ)、アルミナ-シリカ複合酸化物、TiO、BaTiO、ZrOなどの酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化ジルコニウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化スズ、水酸化亜鉛及び希土類元素の水酸化物等の金属水酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイトなどの粘土;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカなどの鉱物資源由来物質またはそれらの人造物などを挙げることができる。これらの中でも、PACとの親和性による内部抵抗の低減効果が高く、また、デンドライトの抑制作用に優れるなどの点から、シリカ、アルミナが好適である。
【0090】
なお、無機粒子の形状は特に限定するものではないが、例えば、球状(略球状や真球状)、繊維状、針状(例えば、テトラポット状など)、平板状、多面体形状、羽毛状、不定形形状などを挙げることができる。特に、真球状であると、不織布の空隙に最密充填しやすく、セパレータの孔径を小さくして電気絶縁性を高めやすいため好適である。
【0091】
特に、無機粒子として、無機粒子を調製可能な原料の粉塵雲を、例えば、空気、酸素、塩素、窒素などの反応ガス雰囲気下で爆燃させ、無機粒子を製造する方法(例えば、特開昭60-255602号公報に開示の方法など)により得た無機粒子(以下、「爆燃無機粒子」と表記することがある)であるのが好ましい。爆燃無機粒子は真球状形状を有し、また、水分量が少なく、電気化学素子の性能を低下させにくい。
【0092】
なお、上述のような組成、形状等の点で異なる2種類以上の無機粒子がセパレータに含まれていても良い。例えば、シリカ粒子及びアルミナ粒子が含まれていても良い。また、上述のような2種類以上の組成からなる無機粒子、例えば、シリカ-アルミナ粒子が含まれていても良い。あるいは真球状形状の無機粒子と平板状形状の無機粒子とが含まれていても良い。
【0093】
このような無機粒子は不織布構成繊維間に存在することができるし、後述のような不織布の片面に存在する、不織布構成繊維を含まないPACの層に存在することができるし、その両方に存在することができる。いずれの場合であっても、無機粒子を含んでいることによる耐熱性(高温環境下での使用、熱暴走防止性)、電気絶縁性(化学短絡防止性)、内部抵抗低減、および電気化学素子の品質安定性に寄与しやすい。
【0094】
なお、前者のように無機粒子が不織布構成繊維間に存在する場合には、繊維ウエブを結合して不織布とする際のバインダによって無機粒子が主に接着固定された状態にあっても良いし、不織布に対して無機粒子を含むバインダを付与して無機粒子が不織布に接着固定された状態にあっても良いし、PACによって無機粒子が不織布に接着固定された状態にあっても良い。前述の通り、バインダが少ないのが好ましいため、無機粒子が不織布構成繊維間に存在する場合には、PACによって無機粒子が不織布に接着固定された状態にあるのが好ましい。また、後者のように無機粒子がPAC層に存在する場合には、PACによって無機粒子が不織布表面に接着固定された状態にある。
【0095】
このようなセパレータ中に含まれる無機粒子の量は、セパレータの耐熱性、電気絶縁性、イオン伝導性、及び放電容量が安定しやすいように、体積割合でセパレータの0.1%以上であるのが好ましく、0.25%以上であるのがより好ましい。他方で、無機粒子の体積割合が高いと、セパレータの内部抵抗や機械的強度が低くなる傾向があるため、体積割合でセパレータの30%以下であるのが好ましく、25%以下であるのがより好ましい。
【0096】
なお、セパレータ中に含まれる無機粒子の体積割合は(Sv)は次の数式から得られる値をいう。
【0097】
Sv=[(Mi/Si)/(Ms/Ss)]×100
ここで、Miは無機粒子の目付(単位:g/cm)、Siは無機粒子の密度(単位:g/cm)、Msはセパレータの目付(単位:g/cm)、Ssはセパレータの見掛密度(単位:g/cm)をそれぞれ意味する。なお、セパレータの見掛密度(Ss)は次の式から求めることができる。
【0098】
Ss=Ms/Ts
ここで、Msはセパレータの目付(単位:g/cm)、Tsはセパレータの厚さ(単位:cm)をそれぞれ意味する。
【0099】
また、PACと無機粒子の総体積に対する無機粒子の体積割合は、PACとの相互作用によりセパレータの内部抵抗が低くなりやすいように、0.1%以上であるのが好ましく、0.5%以上であるのがより好ましく、1%以上であるのが更に好ましい。他方で、無機粒子量が多すぎると、PACの接着固定作用によるセパレータの機械的強度の向上作用が低下する可能性があるため、PACと無機粒子の総体積に対する無機粒子の体積割合は、70%以下であるのが好ましく、60%以下であるのがより好ましく、50%以下であるのが更に好ましい。
【0100】
なお、本発明のPACと無機粒子の総体積に対する無機粒子の体積割合(Vt)は次の数式から得られる値をいう。
【0101】
Vt=[(Mi/Si)/{(Mi/Si)+(Mp/Sp)}]×100
ここで、Miは無機粒子の目付(単位:g/cm)、Siは無機粒子の密度(単位:g/cm)、MpはPACの目付(単位:g/cm)、SpはPACの密度(単位:g/cm)をそれぞれ意味する。
【0102】
[セパレータ]
本発明のセパレータは前述のような不織布の構成繊維がPACによって接着固定されており、充分な機械的強度を有するため、電気化学素子を製造する際に加わる張力や圧縮力などの外力によって、破断を生じたり、変形しにくいため、物理的短絡を生じにくい。その一方で、PACは非水系電解液と親和性が高いため、非水系電解液と接触した際には非水系電解液によって膨潤し、電解液の保持性に優れているばかりでなく、一種の電解質として作用するためか、意外にもイオン伝導性に優れており、内部抵抗の低い電気化学素子を製造できる。
【0103】
本発明のセパレータは充分な機械的強度を有するものであるが、具体的に、厚さ1μmあたりの引張り強さが1N/50mm幅以上の方向を有すると、この方向に対して張力を掛けても、セパレータが破断したり、変形しにくいため、物理的短絡を生じにくい電気化学素子を製造しやすい。厚さ1μmあたりの引張り強さが強い方がより破断したり、変形しにくく、物理的短絡を生じにくいため、厚さ1μmあたりの引張り強さが1.2N/50mm幅以上の方向を有するのがより好ましく、1.4N/50mm幅以上の方向を有するのが更に好ましい。他方で、セパレータの引張り強さが強すぎるとセパレータの剛性が高くなり過ぎる傾向があり、電気化学素子製造時に破損したり、加工性に劣る場合があるため、セパレータの厚さ1μmあたり10N/50mm幅以下の方向を有するのが好ましい。
【0104】
このような引張り強さを有する方向は、電気化学素子製造時に張力が掛かるのは一般的にセパレータの長手方向であるため、セパレータの長手方向が前記引張強さであるのが好ましい。なお、セパレータの引張強さはセパレータの目付、厚さ等によって大きく影響を受けるため、その要因を排除するために「厚さ1μmあたり」として評価している。つまり、「引張強さ(単位:N/50mm幅)」を「セパレータの厚さ(単位:μm)」で除した値で評価している。
【0105】
本発明のセパレータが伸びにくく変形しにくいと、電気化学素子を製造する際に加わる張力によって、孔径が大きくなりにくく、物理的短絡を生じにくいため、セパレータの伸び率は30%以下である方向を有するのが好ましく、20%以下である方向を有するのがより好ましく、10%以下である方向を有するのが更に好ましい。理想的には伸び率が0%の方向を有する。このような伸び率を有する方向は、電気化学素子製造時に張力が掛かるのは一般的にセパレータの長手方向であるため、セパレータの長手方向が前記伸び率であるのが好ましい。
【0106】
また、本発明のセパレータが電気化学素子を製造する際に加わる張力によって、孔径が大きくなりにくく、物理的短絡を生じにくいことの指標の1つとして、1%伸長時強度があり、この1%伸長時強度が強ければ強いほど、張力によって変形しにくい。より具体的には、1%伸長時強度が10N/50mm幅以上であるのが好ましく、15N/50mm幅以上であるのがより好ましく、20N/50mm幅以上であるのが更に好ましく、25N/50mm幅以上であるのが更に好ましい。他方で、セパレータの1%伸長時強度が強すぎるとセパレータの剛性が高くなり過ぎる傾向があり、電気化学素子製造時に破損したり、加工性に劣る場合があるため、セパレータの1%伸長時強度は50N/50mm幅以下であるのが好ましい。
【0107】
この1%伸長時強度はセパレータを幅50mmの短冊状に切断した試料を、引張強さ試験機(オリエンテック製、テンシロンUTM-III-100)の離間距離100mmに設定したチャック間に固定し、速度300mm/min.で引張り、1%伸長時(1mm伸長時)における応力の測定を10回行い、その算術平均値をいう。
【0108】
本発明のセパレータは不織布構成繊維がPACによって接着固定されたものであるが、ガーレ通気度が10s/100mL以上であるのが好ましい。このようなガーレ通気度であると、不織布構成繊維間の空隙が埋まった状態にあり、電極間の電気絶縁性に優れており、化学短絡が生じにくいためである。また、このようなガーレ通気度を有し、PACで不織布構成繊維間の空隙が埋まった状態にあり、セパレータ全体にPACが存在していると、このセパレータを用いた電気化学素子の放電容量が安定するなど、電気化学素子の品質安定性に寄与するという効果を奏しやすい。このガーレ通気度の値が大きい、つまり、より通気性が悪いということは不織布構成繊維間の空隙がより埋まった状態にあることを意味するため、ガーレ通気度は30s/100mL以上であるのがより好ましく、50s/100mL以上であるのが更に好ましく、70s/100mL以上であるのが更に好ましい。他方で、ガーレ通気度の値が大きすぎると、PAC量が多すぎて、セパレータにおける非水系電解液を保持できる空隙が少なくなり過ぎ、非水系電解液量が少なくなる結果として、内部抵抗が高くなる傾向があるため、ガーレ通気度は1500s/100mL以下であるのが好ましい。
【0109】
本発明におけるガーレ通気度は、JIS L 1913-2010(一般不織布試験方法)6.8.2に規定するガーレ形法に則って測定した値をいう。
【0110】
本発明のセパレータは不織布の少なくとも片面に、不織布構成繊維を含まないPACの層を有しているのが好ましい。このPAC層によって電極間の電気絶縁性に優れ、化学短絡が生じにくいためである。また、PACが不織布の片面全体にPACが存在していることによって、このセパレータを用いた電気化学素子の放電容量が安定するなど、電気化学素子の品質安定性に寄与しやすい。なお、前述の通り、PACは非水系電解液と親和性が高く、イオン伝導性に優れているため、このようなPAC層が存在していても、内部抵抗が高くなりにくい。
【0111】
このPAC層はPACのみから構成することができるし、PACに加えて無機粒子を含んでいることができる。後者のようにPACに加えて無機粒子を含んでいると、無機粒子を含んでいることの効果を発揮しやすい。特に、PACと無機粒子との界面でイオン伝導性に優れているためか、内部抵抗をより低くできるという効果を奏しやすい。
【0112】
なお、このPAC層は不織布の片面のみに備えていても、不織布の両面に備えていても良い。
【0113】
本発明のセパレータの目付は特に限定するものではないが、基本的に不織布とPACとから構成されており、好ましくは無機粒子を含むため、5~35g/mであるのが好ましく、10~30g/mであるのがより好ましく、15~25g/mであるのが更に好ましい。
【0114】
本発明のセパレータの厚さは特に限定するものではないが、厚さが薄いことで内部抵抗の低い電気化学素子を作製しやすいため、50μm以下であるのが好ましく、40μm以下であるのがより好ましく、30μm以下であるのが更に好ましく、20μm以下であるのが更に好ましい。他方で、厚さが薄過ぎると機械的強度が不足し、電気化学素子製造時における外力によって損傷しやすく、物理的短絡が生じやすくなる傾向があるため、5μm以上であるのが好ましく、10μm以上であるのがより好ましい。
【0115】
本発明のセパレータの空隙率は特に限定するものではないが、電解液の保持量が多く、結果として内部抵抗の低い電気化学素子を製造できるように、空隙率は20%以上であるのが好ましく、30%以上であるのがより好ましく、40%以上であるのが更に好ましく、50%以上であるのが更に好ましい。他方で、空隙率が高すぎると、機械的強度に劣り、電気化学素子製造時の張力や圧縮力などの外力によって、物理的短絡を生じやすい傾向があるため、90%以下であるのが好ましく、80%以下であるのがより好ましく、70%以下であるのが更に好ましい。
【0116】
このような本発明のセパレータは、例えば、次の方法により製造することができる。
【0117】
まず、前述のような不織布とPAC、好ましくは無機粒子を用意する。
【0118】
このPACは前述の通り、ポリプロピレンカーボネート、ポリブチレンカーボネート又はポリシクロヘキセンカーボネートが好適である。このPACは溶剤に溶解した溶液の状態であることができるし、PAC粒子が分散したエマルジョン、サスペンジョン、またはディスパージョンなどの分散状態であることができる。
【0119】
また、無機粒子は前述の通り、粒子径が0.01~3μmであるのが好ましい。また、無機粒子の粒子径分布は(D50/2)以上、かつ(D50×2)以下の範囲内にあり、粒子径が揃っているのが好ましい。なお、無機粒子はシリカ、アルミナであるのが好ましく、特に球状シリカであるのが好ましい。
【0120】
そして、不織布に対してPACを付与した後、乾燥等の方法により不織布構成繊維をPACで接着固定することによって本発明のセパレータを製造することができる。なお、不織布のPACへの付与方法は、PAC溶液又はPAC分散液に不織布を浸漬、不織布に対してPAC溶液又はPAC分散液を塗布、または不織布に対してPAC溶液又はPAC分散液を噴霧する方法を例示できる。特に、PAC溶液を不織布に対して噴霧する場合、静電噴霧する方法であると、PAC溶液を不織布全体に均一に付与することができ、結果として、機械的強度の優れるセパレータを製造することができ、好適である。なお、PAC溶液の場合、PACを溶解させる溶剤が有機溶剤であるため、PACで不織布構成繊維を接着固定する際に有機溶剤が揮発することになるが、静電噴霧であると、PAC溶液の噴霧量の制御を行いやすく、セパレータの製造環境も制御しやすいという利点もある。
【0121】
なお、PAC溶液又はPAC分散液を塗布または噴霧する方法により不織布にPACを付与する場合、不織布の片面のみに付与しても良いし、両面に対して付与しても良い。多層構造を有する不織布の片面のみにPAC溶液又はPAC分散液を付与する場合であっても、いずれの面に対して付与しても良い。
【0122】
また、不織布の緻密性の程度(平均孔径等)、PAC溶液又はPAC分散液の濃度、粘度などを調節することによって、PACによる不織布構成繊維の接着固定状態を調節することができる。例えば、PAC溶液又はPAC分散液として粘度の低いものを使用すれば、不織布の緻密性にも依るが、PAC溶液又はPAC分散液は不織布の内部空隙にまで進入し、不織布構成繊維全体を接着固定しやすい。他方で、PAC溶液又はPAC分散液として粘度の高いものを使用すれば、不織布の緻密性にも依るが、PAC溶液又はPAC分散液は不織布の内部空隙にまで進入しにくく、不織布の付与面に不織布構成繊維を含まないPAC層を形成しやすい。そのため、不織布の片面、両面から粘度、種類等の異なるPAC溶液又はPAC分散液を2回以上付与することが有効な場合がある。
【0123】
セパレータが無機粒子を含む場合には、無機粒子を分散させたPAC溶液又はPAC分散液を不織布に付与し、不織布構成繊維及び無機粒子をPACで接着固定することによって本発明のセパレータを製造することができる。
【0124】
なお、繊維ウエブをバインダで接着して不織布を製造する場合には、バインダとして無機粒子を分散させたバインダを使用して、無機粒子が接着した不織布とすることもできる。このように無機粒子が接着した不織布の場合、無機粒子を含まないPAC溶液又は分散液を不織布に付与しても良いし、不織布に接着した無機粒子と同じ又は異なる無機粒子を含むPAC溶液又は分散液を不織布に付与しても良い。
【0125】
また、既に繊維が結合した不織布に対して、無機粒子を分散させたバインダを付与して、無機粒子が接着した不織布とした後に、PAC溶液又はPAC分散液を不織布に付与し、不織布構成繊維及び無機粒子をPACで接着固定することによって本発明のセパレータを製造することもできる。このように既に無機粒子が不織布に接着している場合、無機粒子を含まないPAC溶液又は分散液を既に無機粒子が接着した不織布に付与しても良いし、不織布に接着している無機粒子と同じ又は異なる無機粒子を含むPAC溶液又は分散液を既に無機粒子が接着した不織布に付与しても良い。
【0126】
なお、バインダとして無機粒子を分散させたバインダを繊維ウエブに付与し、無機粒子が接着した不織布とする場合、既に繊維が結合した不織布に対して、無機粒子を分散させたバインダを付与して、無機粒子が接着した不織布とする場合のいずれの場合であっても、無機粒子を接着しているバインダがPACの作用を阻害し、内部抵抗が高くなる傾向があるため、セパレータ全体の3mass%以下であるのが好ましく、2mass%以下であるのがより好ましく、1mass%以下であるのが更に好ましい。
【0127】
セパレータにおける水分量が多いと、電気化学素子の充放電特性が悪くなる傾向があるため、水分量が少なくなるように乾燥するのが好ましい。特に、耐熱性繊維として全芳香族ポリアミド繊維を含む場合のように、不織布構成繊維として公定水分率が高く、吸湿しやすい繊維を含む場合には、例えば、120℃以上の温度で乾燥するのが好ましく、130℃以上の温度で乾燥するのがより好ましく、140℃以上の温度で乾燥するのが特に好ましい。一方、乾燥温度の上限はセパレータの耐熱性によって異なり、特に限定するものではないが、水分を除去するという観点から、180℃までであれば充分であり、170℃以下、或いは160℃以下であっても良い。
【0128】
[電気化学素子]
本発明のセパレータは充分な機械的強度を有するとともに、非水系電解液の存在下において内部抵抗の低い電気化学素子を製造できるため、非水系電解液を含む各種電気化学素子のセパレータとして使用できる。
【0129】
このPACと親和性が高く、PACを膨潤させやすい非水系電解液として、例えば、カーボネート系(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなど)、グリコール系(エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテルなど)、イオン液体(例えば、イミダゾリウム塩系、ピロリジニウム塩系、ピリジ二ウム塩系、ピペリジニウム塩系、アンモニウム塩系、ホスホニウム塩系など)、スルホラン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1、3-ジオキソラン等を挙げることができ、これら単独または混合物で電気化学素子の非水系電解液を構成することができる。
【0130】
このような非水系電解液を使用した電気化学素子として、例えば、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン電池;マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、亜鉛などの多価イオン電池;リチウムイオウ電池;リチウム、亜鉛などの金属空気電池;リチウムイオンキャパシタ;フッ化物イオン電池、カリウムイオン電池などを挙げることができ、特にリチウムイオン二次電池のセパレータとして好適である。
【0131】
なお、電気化学素子の形態は特に限定されず、例えば、円筒形、角形、コイン形、パウチ形、ピン形等であることができる。
【実施例0132】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0133】
(1)不織布の準備
(1)-1 二層不織布Aの準備;
ポリエチレンテレフタレート短繊維(繊度:0.1dtex、繊維径:3μm、繊維長:3mm、融点:260℃、横断面形状:円形、50mass%)を、未延伸ポリエチレンテレフタレート短繊維(繊度:0.2dtex、繊維径:4μm、繊維長:3mm、融点:250℃、50mass%)に由来する樹脂で接着固定したポリエステル湿式不織布(目付:5.5g/m、厚さ:10μm、空隙率:60%)をベース不織布として用意した。
【0134】
次いで、ポリエチレンテレフタレート未延伸短繊維(繊度:0.2dtex、繊維径:4μm、繊維長:3mm、融点:250℃、横断面形状:円形)とパルプ状全芳香族ポリアミド繊維(濾水度:50mlCSF、分解温度:約500℃)とを、20:80の質量比率で水中に分散させた分散液を調製した。
【0135】
そして、ベース不織布の一方の主面上に前記分散液を抄き上げた後、ベース不織布側から分散媒である水をサクションして除去し、ベース不織布の一方の主面上に、ポリエチレンテレフタレート未延伸短繊維とパルプ状全芳香族ポリアミド繊維が混在した繊維堆積層を有し、この繊維堆積層構成繊維の一部がベース不織布の空隙に入り込み、ベース不織布構成繊維に絡んで一体化した複合繊維ウエブを形成した。
【0136】
続いて、複合繊維ウエブをコンベアで支持したまま、温度145℃の雰囲気下で熱処理して複合繊維ウエブを乾燥した後、表面温度を180℃に調整した熱カレンダー間を通して加熱加圧し、ポリエチレンテレフタレート未延伸短繊維により、ポリエチレンテレフタレート未延伸短繊維自体及びパルプ状全芳香族ポリアミド繊維をベース不織布に接着して、二層不織布A(パルプ状全芳香族ポリアミド繊維比率:31mass%、目付:9g/m、厚さ:20μm、空隙率:68%)を調製した。この二層不織布Aの物性は表1に示す通りであった。
【0137】
(1)-2 シリカコート二層不織布Aの調製;
シリカ粒子分散液(形状:真球状、粒子径:450nm、溶媒:水、固形分濃度:45質量%)、およびポリフッ化ビニリデン-アクリル共重合体粒子(粒子径:250nm、融点:135℃)を用意した。
【0138】
次いで、前記ポリフッ化ビニリデン-アクリル共重合体粒子をシリカ粒子分散液中に分散させ、分散液A(シリカ粒子とポリフッ化ビニリデン-アクリル共重合体粒子の固形分質量比率は、97質量部:3質量部)を調製した。
【0139】
そして、グラビアロール塗工機を用い、前記二層不織布Aのベース不織布面上に分散液Aを塗工し、その後、加熱温度を100℃に調整したドライヤーで乾燥し、シリカコート二層不織布Aを作製した。このシリカコート二層不織布Aの物性は表1に示す通りであった。
【0140】
(1)-3 ポリエステル湿式不織布の準備;
ポリエチレンテレフタレート短繊維(繊度:0.1dtex、繊維径:3μm、繊維長:3mm、融点:260℃、横断面形状:円形、50mass%)を、未延伸ポリエチレンテレフタレート短繊維(繊度:0.2dtex、繊維径:4μm、繊維長:3mm、融点:250℃、50mass%)に由来する樹脂で接着固定したポリエステル湿式不織布(目付:5.5g/m、厚さ:10μm、空隙率:60%)を不織布として用意した。このポリエステル湿式不織布の物性は表1に示す通りであった。
【0141】
(1)-4 親水化ポリオレフィン湿式不織布の準備;
ポリプロピレンからなる極細繊維(繊度:0.03dtex、繊維径:2μm、繊維長:3mm、融点:168℃、横断面形状:円形、40mass%)を、高密度ポリエチレンを鞘成分とし、ポリプロピレンを芯成分とする芯鞘型高強度複合短繊維(繊度:0.8dtex、繊維径:10μm、繊維長:5mm、高密度ポリエチレンの融点:135℃、横断面形状:円形、60mass%)で接着固定したポリオレフィン湿式不織布をプラズマ処理により親水化した親水化ポリオレフィン湿式不織布(目付:7g/m、厚さ:21μm、空隙率:63%)を不織布として用意した。この親水化ポリオレフィン湿式不織布の物性は表1に示す通りであった。
【0142】
(1)-5 PVDFナノファイバー不織布の準備;
静電紡糸法によって作製したPVDF(ポリフッ化ビニリデン)ナノファイバー不織布(繊維径:400nm、目付:5g/m、厚さ18μm)を不織布として用意した。このPVDFナノファイバー不織布の物性は表1に示す通りであった。
【0143】
(1)-6 PPメルトブロー不織布の準備;
メルトブロー法によって作製したPP(ポリプロピレン)メルトブロー不織布(平均繊維径:2μm、目付:10g/m、厚さ40μm)を不織布として用意した。このPPメルトブロー不織布の物性は表1に示す通りであった。
【0144】
(1)-7 カレンダシリカコート二層不織布Aの調製;
前記(1)-1の二層不織布Aを温度40℃のカレンダロールで処理し、その後、(1)-2と同様の手順で分散液Aを塗工し、乾燥して、カレンダシリカコート二層不織布Aを作製した。このカレンダシリカコート二層不織布Aの物性は表1に示す通りであった。
【0145】
(1)-8 高目付二層不織布Aの調製;
ベース不織布のポリエステル湿式不織布の目付を15g/m、繊維堆積層の目付を7g/mとしたこと以外は、前記(1)-1の手順と同様にして、高目付二層不織布A(パルプ状全芳香族ポリアミド繊維比率:25.5mass%、目付:22g/m、厚さ:41μm、空隙率:61%)を調製した。この高目付二層不織布Aの物性は表1に示す通りであった。
【0146】
【表1】
【0147】
(2)PAC溶液の準備;
(2)-1 PPC溶液の準備
PACとして、ポリプロピレンカーボネート(以下、「PPC」と表記することがある、融点:235℃)を用意した。また、溶媒として炭酸ジメチル(以下、「DMC」と表記することがある)を用意した。
【0148】
そして、PPCをDMCに溶解させ、固形分濃度10mass%のPPC溶液を調製した。
【0149】
(2)-2 PEC溶液の準備
PACとして、ポリエチレンカーボネート(以下、「PEC」と表記することがある、融点:230℃)を用意した。また、溶媒としてDMCを用意した。
【0150】
そして、PECをDMCに溶解させ、固形分濃度10mass%のPEC溶液を調製した。
【0151】
(2)-3 PBC溶液の準備
PACとして、ポリブチレンカーボネート(以下、「PBC」と表記することがある、融点:247℃)を用意した。また、溶媒としてDMCを用意した。
【0152】
そして、PBCをDMCに溶解させ、固形分濃度10wt%のPBC溶液を調製した。
【0153】
(2)-4 PPC/PBC混合溶液の準備
PACとして、ポリプロピレンカーボネート(=PPC、融点235℃)と、ポリブチレンカーボネート(=PBC、融点:247℃)とを用意した。また、溶媒としてDMCを用意した。
【0154】
そして、PPCおよびPBCを1:1の質量割合でDMCに溶解させ、固形分濃度10mass%のPPC/PBC混合溶液を調製した。
【0155】
(2)-5 PCC溶液の準備
PACとして、ポリシクロヘキセンカーボネート(以下、「PCC」と表記することがある、融点292℃)を用意した。また、溶媒としてDMCを用意した。
【0156】
そして、PCCをDMCに溶解させ、固形分濃度10mass%のPCC溶液を調製した。
【0157】
(2)-6 シリカ粒子分散PPC分散液の準備
PACとして、ポリプロピレンカーボネート(=PPC、融点:235℃)の水分散液(濃度:25mass%)を用意した。また、溶媒として水を用意した。
【0158】
他方、無機粒子として、爆燃シリカ粒子分散液[形状:真球状、粒子径:450nm、粒子径分布:225~900nm、固形分濃度:45mass%]を用意した。
【0159】
次いで、次の配合でシリカ粒子分散PPC分散液を調製した。
(ア)PPC分散液 :10mass%
(イ)爆燃シリカ粒子分散液 :3.8mass%
(ウ)水 :86.2mass%
【0160】
(2)-7 アルミナ粒子分散PPC分散液の準備
PACとして、ポリプロピレンカーボネート(=PPC、融点:235℃)の水分散液(濃度:25mass%)を用意した。また、溶媒として水を用意した。
【0161】
他方、無機粒子として、アルミナ粒子水分散液[形状:破砕、粒子径:500nm、固形分濃度:50mass%]を用意した。
【0162】
次いで、次の配合でアルミナ粒子分散PPC分散液を調製した。
(ア)PPC分散液 :10mass%
(イ)アルミナ粒子分散液 :3.8mass%
(ウ)水 :86.2mass%
【0163】
(2)-8 PVDF-HFP溶液の準備
ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP、融点:135℃)を用意した。また、溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を用意した。
【0164】
そして、PVDF-HFPをDMFに溶解させ、固形分濃度10mass%のPVDF-HFP溶液を調製した。
【0165】
(実施例1~6、比較例1~3)
前記PPC溶液(実施例1)、PEC溶液(実施例2)、PBC溶液(実施例3)、PPC/PBC混合溶液(実施例4)、PCC溶液(実施例5)、シリカ粒子分散PPC分散液(実施例6)、またはPVDF-HFP溶液(比較例1)を、グラビアロール塗工機を用いてそれぞれシリカコート二層不織布A又は二層不織布Aのベース不織布側に塗布した後、ドライヤーを用い、温度110℃で乾燥して、シリカコート二層不織布A又は二層不織布Aの構成繊維をPACで接着固定したセパレータ、またはシリカコート二層不織布Aの構成繊維をPVDF-HFP樹脂で接着固定した比較のセパレータを調製した。これらセパレータの物性は表2に示す通りであった。なお、参考として、PAC等によって不織布構成繊維が接着固定されていないシリカコート二層不織布A自体、または二層不織布A自体をセパレータ(順に、比較例2、3)とした。
【0166】
これら実施例のセパレータにおいては、図1に実施例1のセパレータのベース不織布側電子顕微鏡写真を示すように、不織布構成繊維間の空隙を埋めるようにPACの皮膜が張った状態で存在していた。また、図2に実施例1のセパレータの断面電子顕微鏡写真を示すように、ベース不織布側の主面にPACのみからなるPAC層を備えていた。
【0167】
【表2】

【0168】
(実施例7~9、参考例1、2)
シリカコート二層不織布Aのベース不織布側に対して、前記PPC溶液を、グラビアロール塗工機を用いて塗布量を調節することにより、固形分で1g/m(参考例1)、1.5g/m(実施例7)、3g/m(実施例8)、20g/m(実施例9)、30g/m(参考例2)の量で塗布した後、温度110℃に設定したドライヤーを用いて乾燥し、シリカコート二層不織布Aの構成繊維及びシリカ粒子を表3に示す量のPPCで接着固定したセパレータを調製した。これらセパレータの物性は表3に示す通りであった。なお、表3には実施例1のセパレータの物性も併せて表記した。
【0169】
これら実施例7~9、参考例2のセパレータにおいては、実施例1のセパレータと同様に、不織布構成繊維間の空隙を埋めるようにPPCの皮膜が張った状態で存在していた。また、実施例8,9、参考例2のセパレータにおいては、ベース不織布側の主面全体に、PPCのみからなるPPC層を備えており、実施例7のセパレータにおいては、ベース不織布側の主面に、部分的にPPCのみからなるPPC層を備えていた。なお、参考例1のセパレータにおいては、不織布構成繊維間の交差点でPPCが接着固定した状態にあり、PPCのみからなるPPC層は存在していなかった。
【0170】
【表3】

【0171】
(実施例10)
不織布として前記二層不織布Aを用い、この二層不織布Aのベース不織布側に対して、グラビアロール塗工機を用い、前記PPC溶液を固形分で7g/mの量で塗布した後、温度110℃に設定したドライヤーを用いて乾燥し、二層不織布Aの構成繊維をPPCで接着固定したセパレータを調製した。このセパレータの物性は表4に示す通りであった。
【0172】
(実施例11)
不織布として前記ポリエステル湿式不織布を用い、このポリエステル湿式不織布に対して、グラビアロール塗工機を用い、前記シリカ粒子分散PPC分散液を固形分で5.5g/mの量で塗布した後、温度110℃に設定したドライヤーを用いて乾燥し、ポリエステル湿式不織布構成繊維およびシリカ粒子をPPCで接着固定したセパレータを調製した。このセパレータの物性は表4に示す通りであった。
【0173】
(実施例12)
不織布として前記親水化ポリオレフィン湿式不織布を用い、この親水化ポリオレフィン湿式不織布に対して、グラビアロール塗工機を用い、PPC溶液を固形分で5g/mの量で塗布した後、温度110℃に設定したドライヤーを用いて乾燥し、親水化ポリオレフィン湿式不織布構成繊維をPPCで接着固定したセパレータを調製した。このセパレータの物性は表4に示す通りであった。
【0174】
(実施例13)
不織布として前記親水化ポリオレフィン湿式不織布を用い、この親水化ポリオレフィン湿式不織布に対して、グラビアロール塗工機を用い、前記シリカ粒子分散PPC分散液を固形分で6.9g/mの量で塗布した後、温度110℃に設定したドライヤーを用いて乾燥し、親水化ポリオレフィン湿式不織布構成繊維およびシリカ粒子をPPCで接着固定したセパレータを調製した。このセパレータの物性は表4に示す通りであった。
【0175】
(実施例14)
不織布として前記親水化ポリオレフィン湿式不織布を用い、この親水化ポリオレフィン湿式不織布に対して、グラビアロール塗工機を用い、前記アルミナ粒子分散PPC分散液を固形分で6.9g/mの量で塗布した後、温度110℃に設定したドライヤーを用いて乾燥し、親水化ポリオレフィン湿式不織布構成繊維およびアルミナ粒子をPPCで接着固定したセパレータを調製した。このセパレータの物性は表4に示す通りであった。
【0176】
(実施例15)
不織布として前記PVDFナノファイバー不織布を用い、このPVDFナノファイバー不織布に対して、グラビアロール塗工機を用い、PPC溶液を固形分で4g/mの量で塗布した後、温度110℃に設定したドライヤーを用いて乾燥し、PVDFナノファイバー不織布構成繊維をPPCで接着固定したセパレータを調製した。このセパレータの物性は表4に示す通りであった。
【0177】
(実施例16)
不織布として前記PPメルトブロー不織布を用い、このPPメルトブロー不織布に対して、グラビアロール塗工機を用い、PPC溶液を固形分で8g/mの量で塗布した後、温度110℃に設定したドライヤーを用いて乾燥し、PPメルトブロー不織布構成繊維をPPCで接着固定したセパレータを調製した。このセパレータの物性は表4に示す通りであった。
【0178】
(参考例3)
不織布として、カレンダシリカコート二層不織布Aを用い、このカレンダシリカコート二層不織布Aに対して、グラビアロール塗工機を用い、PPC溶液を固形分で8g/mの量で塗布した後、温度110℃に設定したドライヤーを用いて乾燥し、カレンダシリカコート二層不織布A構成繊維をPPCで接着固定したセパレータを調製した。このセパレータの物性は表4に示す通りであった。
【0179】
(参考例4)
不織布として、高目付二層不織布Aを用い、この高目付二層不織布Aに対して、グラビアロール塗工機を用い、PPC溶液を固形分で8g/mの量で塗布した後、温度110℃に設定したドライヤーを用いて乾燥し、高目付二層不織布A構成繊維をPPCで接着固定したセパレータを調製した。このセパレータの物性は表4に示す通りであった。
【0180】
【表4】

【0181】
(リチウムイオン二次電池の作製)
(1)正極の作製;
コバルト酸リチウム[Li(NiCoAl)O](=NCA)及びアセチレンブラック(=AB)を用意した。また、ポリフッ化ビニリデン(=PVDF)を用意し、PVDFをN-メチルピロリドン(=NMP)に溶解させることにより、PVDF溶液(固形分濃度:13mass%)を調製した。
【0182】
次いで、NCA、AB及びPVDFの固形分質量比率で、NCA:AB:PVDF=93:4:3となるように、NCA、AB及びPVDFを混合して正極材ペーストを調製した。
【0183】
続いて、この正極材ペーストを厚さ20μmのアルミ箔上に塗布し、乾燥した後にプレスして、正極(容量:2.43mAh/cm)を作製した。
【0184】
(2)負極の作製;
天然黒鉛粉末、ハードカーボン(=HC)、及びアクリル系バインダ(固形分濃度:13mass%)を用意した。
【0185】
次いで、天然黒鉛粉末、HC及びアクリル系バインダの固形分質量比率で、(天然黒鉛粉末):HC:(アクリル系バインダ)=87.3:9.7:3となるように、天然黒鉛粉末、HC及びアクリル系バインダを混合して負極材ペーストを調製した。
【0186】
続いて、この負極材ペーストを厚さ15μmの銅箔上に塗布し、乾燥した後にプレスして、負極(容量:2.51mAh/cm)を作製した。
【0187】
(3)非水系電解液の調製;
エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比率が(50:50)となるように混合した混合溶媒に、1モル/Lの濃度となるようにLiPFを溶解させて、非水系電解液を調製した。
【0188】
(4)リチウムイオン二次電池の作製;
コイン型セルに前記負極(直径:12mm)、各セパレータ(直径:16mm)、前記正極(直径:12mm)の順に積層(セパレータが無機粒子を含む場合には、塗工面が正極と対面するように積層)した後、前記非水系電解液を注液し、リチウムイオン二次電池をそれぞれ作製した。なお、正極と負極の質量比率は1:1.1とした。このようにセパレータを用いて、各リチウムイオン二次電池を各々5個ずつ作製した。
【0189】
(電池性能試験)
(内部抵抗の評価)
各リチウムイオン二次電池の1kHzの抵抗値を、LCRメーターを用いて評価した。抵抗値が10Ω未満の場合を「○」と評価し、10Ω以上の場合を「×」と評価した。この結果は表2~4に示す通りであった。
【0190】
(均一性の評価)
各リチウムイオン二次電池を0.2Cの充電速度で4.2Vまで充電した後、15分間放置し、その後、放電速度12Cにおいて電圧が3.0Vになるまで放電した。この時の、各電池の放電速度12Cにおける放電容量を測定した。この測定を、各5個の電池において行ない、放電容量のばらつきを求めた。その結果、ばらつきが±10%未満である場合を「〇」と評価し、ばらつきが±10以上±25%未満である場合を「△」と評価し、ばらつきが±25%以上である場合を「×」と評価した。この結果は表2~4に示す通りであった。
【0191】
(短絡防止性試験)
各セパレータから長方形状試験片(3.3cm×20cm)1枚を採取した。その後、ニッケルメッキ不織布(3cm×5cm)で長方形状試験片を挟んで積層した積層体を、巻回式電池作製装置を用いて巻圧0.4MPaで巻き取り、巻回体を作製した。この操作を繰り返し、各セパレータ毎に5つの巻回体を作製した。
【0192】
そして、抵抗測定機を用いて巻回体の抵抗を測定し、抵抗が1MΩを超える場合を「短絡なし」と判断し、抵抗が1MΩ以下の場合を「短絡あり」と判断する基準で、前記5つの巻回体について判断した。その結果、5つの巻回体のうち、「短絡なし」と判断された巻回体が5つの場合を「〇」と評価し、「短絡なし」と判断された巻回体が3つ又は4つの場合を「△」と評価し、「短絡なし」と判断された巻回体が2つ以下の場合を「×」と評価した。この結果は表2~4に示す通りであった。
【0193】
(考察)
これら表2~4の結果から、次のことが分かった。
(イ)実施例1~6と比較例1~3との対比(表2)から、PACの種類に関係なく、PACを含むことにより充分な機械的強度を有し、物理的短絡を発生させることのない電気化学素子の製造と、内部抵抗の低い電気化学素子の製造を両立できることが分かった。また、放電容量が安定し、電気化学素子の品質安定性に優れることも分かった。
【0194】
(ロ)実施例1、7、8、9と参考例1、2との対比(表3)から、PAC量がセパレータ全体の10~65%であると、長手方向における厚さ1μmあたりの引張り強さが1N/50mm幅以上の充分な機械的強度を有し、物理的短絡を発生させることのない電気化学素子の製造と、内部抵抗の低い電気化学素子の製造を両立しやすいことが分かった。また、放電容量が安定し、電気化学素子の品質安定性に優れることも分かった。特に、PAC量がセパレータ全体の30~65%であると、不織布構成繊維間の空隙を埋めるようにPPCの皮膜が張った状態にあり、また、主面全体にPPC層を備えているため、前記効果が顕著であることが分かった。
【0195】
(ハ)実施例10~16の結果(表4)から、不織布の構造や構成繊維などに関係なく、PACを含むことにより充分な機械的強度を有し、物理的短絡を発生させることのない電気化学素子の製造と、内部抵抗の低い電気化学素子の製造を両立できることが分かった。また、放電容量が安定し、電気化学素子の品質安定性に優れることも分かった。
【0196】
(ニ)実施例1と実施例6の結果(表2)から、PACを溶媒に溶解させたシリカ含有PAC溶液を用いて製造したセパレータでも、PAC粒子を分散させたシリカ不含分散溶液を用いて製造したセパレータであっても、物理的短絡を発生させることのない電気化学素子の製造と、内部抵抗の低い電気化学素子の製造を両立できたため、PACの態様、無機粒子の有無による影響はないことがわかった。
【0197】
(ホ)実施例1と参考例3の結果から、不織布の空隙率が50%以上であると、内部抵抗が低い電気化学素子を製造できることが分かった。また、放電容量がより安定し、電気化学素子の品質安定性により優れることも分かった。
【0198】
(ヘ)実施例6と参考例4の結果から、不織布の目付が低く、厚さも薄く、空隙率が高い方が、内部抵抗が低い電気化学素子を製造できることが分かった。また、放電容量がより安定し、電気化学素子の品質安定性により優れることも分かった。
【産業上の利用可能性】
【0199】
本発明のセパレータは充分な機械的強度を有するとともに、非水系電解液の存在下において内部抵抗の低い電気化学素子を製造できるため、非水系電解液を含む各種電気化学素子のセパレータとして使用できる。例えば、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン電池;マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、亜鉛などの多価イオン電池;リチウムイオウ電池;リチウム、亜鉛などの金属空気電池;リチウムイオンキャパシタ;フッ化物イオン電池、カリウムイオン電池などの電気化学素子のセパレータとして使用でき、特にリチウムイオン二次電池のセパレータとして好適である。
図1
図2