(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031013
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】トリチウム汚染水の処理装置及び処理方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/06 20060101AFI20240229BHJP
B01D 59/02 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G21F9/06 591
B01D59/02
G21F9/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134287
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】505447629
【氏名又は名称】株式会社昭和冷凍プラント
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 典子
(72)【発明者】
【氏名】若山 敏次
(72)【発明者】
【氏名】若山 聖子
(57)【要約】
【課題】トリチウム水と軽水を含む汚染水からトリチウム水を分離する簡易な方法を提供する。
【解決手段】軽水中にトリチウム水を含む汚染水からトリチウム水を分離するための処理装置であって、汚染水を充填するための処理タンク11と、処理タンク内に設置され、低温流体又は高温流体を通過させるための内部の流路と鉛直面に沿って延在する表面とを具備する氷結管14と、処理タンクに汚染水を供給するための供給管12と、処理タンクから液体を排出するための排出管13と、氷結管の流路に低温流体を供給可能な冷熱源17と、氷結管の流路に高温流体を供給可能な温熱源18と、を有し、冷熱源から流路に低温流体を供給することにより処理タンク内の汚染水の一部を凍結させて氷結管の表面に氷の層Iを形成し、かつ、温熱源から流路に高温流体を供給することにより氷結管の表面に形成された氷の層Iを融解させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽水(H2O)中にトリチウム水(HTO)を含む汚染水からトリチウム水を分離するための処理装置であって、
汚染水を充填するための処理タンク(11)と、
前記処理タンク(11)内に設置され、低温流体又は高温流体を通過させるための内部の流路と鉛直面に沿って延在する表面とを具備する氷結管(14)と、
前記処理タンク(11)に汚染水を供給するための供給管(12)と、
前記処理タンク(11)から液体を排出するための排出管(13)と、
前記氷結管(14)の前記流路に低温流体を供給可能な冷熱源(17)と、
前記氷結管(14)の前記流路に高温流体を供給可能な温熱源(18)と、を有し、
前記冷熱源(17)から前記流路に低温流体を供給することにより前記処理タンク(11)内の汚染水の一部が凍結して前記氷結管(14)の表面に氷の層(I)が形成され、かつ、
前記温熱源(18)から前記流路に高温流体を供給することにより前記氷結管(14)の表面に形成された氷の層(I)が融解することを特徴とするトリチウム汚染水の処理装置。
【請求項2】
前記冷熱源(17)からの低温流体により前記氷結管(14)の表面の温度が0℃に維持されることを特徴とする請求項1に記載のトリチウム汚染水の処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載のトリチウム汚染水の処理装置を用いたトリチウム汚染水の処理方法であって、
前記供給管(12)を通して汚染水を前記処理タンク(11)に充填する第1の工程と、
前記冷熱源(17)から前記流路に低温流体を供給することにより前記処理タンク(11)内の汚染水の一部を凍結させて前記氷結管(14)の表面に氷の層(I)を形成し、その状態を10時間以上維持する第2の工程と、
前記氷の層(I)を維持したまま、前記排出管(13)を通して前記処理タンク(11)内の汚染水を回収する第3の工程と、
前記温熱源(18)から前記流路に高温流体を供給することにより前記氷結管(14)の表面に形成された氷の層(I)を融解させ、融解した液体を前記排出管(13)を通して回収する第4の工程と、を含むことを特徴とするトリチウム汚染水の処理方法。
【請求項4】
前記第3の工程で排出された汚染水を用いて、前記第1~第4の工程を繰り返すことを特徴とする請求項3に記載のトリチウム汚染水の処理方法。
【請求項5】
前記第2の工程において、前記冷熱源(17)からの低温流体により前記氷結管(14)の表面の温度を0℃に維持することを特徴とする請求項3又は4に記載のトリチウム汚染水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽水中にトリチウム水を含む汚染水からトリチウム水を低減する処理装置及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の事故により、放射性物質を大量に含んだ汚染水が生じてその処理が大きな問題となっている。当初の汚染水については、多核種除去設備( ALPS: Advanced Liquid Processing System)により大部分の放射性物質が除去されたが、その後にトリチウムを含む汚染水が大量に残り、タンクに貯蔵されたままとなっている。
【0003】
トリチウム(T)は水素(H)の同位体であるが、T2O又はHTOのトリチウム水の形態で存在しかつH2Oである軽水中の含有量がごく微量であること、トリチウム水と軽水は化学的性質が同じであることから、軽水からのトリチウムの分離は困難である。これまでに幾つかの方法が提示されている。
【0004】
特許文献1は、トリチウム水を含む汚染水からトリチウム水を捕集する装置を開示している。当該装置では、トリチウム水を吸着する吸着剤に、トリチウム水の融点以下の温度に冷却した汚染水を通過させることによって、凝固したトリチウム水を吸着剤に吸収させている。
【0005】
特許文献2、3は、アルカリ水電解槽を用いて、トリチウム水を含有する原料水を電解することによって、トリチウムを濃縮する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-382号公報
【特許文献2】特開2015-29921号公報
【特許文献3】特開2015-188810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のトリチウム水の分離方法は、設備コスト及びランニングコストが大きいという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、軽水中にトリチウム水を含む汚染水からトリチウム水を簡易に分離し、汚染水に含まれるトリチウム水を低減する処理装置及び処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明は以下の構成を有する。
本発明の態様は、軽水(H2O)中にトリチウム水(HTO)を含む汚染水からトリチウム水を分離するための処理装置であって、
汚染水を充填するための処理タンク(11)と、
前記処理タンク(11)内に設置され、低温流体又は高温流体を通過させるための内部の流路と鉛直面に沿って延在する表面とを具備する氷結管(14)と、
前記処理タンク(11)に汚染水を供給するための供給管(12)と、
前記処理タンク(11)から液体を排出するための排出管(13)と、
前記氷結管(14)の前記流路に低温流体を供給可能な冷熱源(17)と、
前記氷結管(14)の前記流路に高温流体を供給可能な温熱源(18)と、を有し、
前記冷熱源(17)から前記流路に低温流体を供給することにより前記処理タンク(11)内の汚染水の一部が凍結して前記氷結管(14)の表面に氷の層(I)が形成され、かつ、
前記温熱源(18)から前記流路に高温流体を供給することにより前記氷結管(14)の表面に形成された氷の層(I)が融解することを特徴とする。
上記態様において、前記冷熱源(17)からの低温流体により前記氷結管(14)の表面の温度が0℃に維持されることを特徴とする。
本発明の別の態様は、上記態様のトリチウム汚染水の処理装置を用いたトリチウム汚染水の処理方法であって、
前記供給管(12)を通して汚染水を前記処理タンク(11)に充填する第1の工程と、
前記冷熱源(17)から前記流路に低温流体を供給することにより前記処理タンク(11)内の汚染水の一部を凍結させて前記氷結管(14)の表面に氷の層(I)を形成し、その状態を10時間以上維持する第2の工程と、
前記氷の層(I)を維持したまま、前記排出管(13)を通して前記処理タンク(11)内の汚染水を回収する第3の工程と、
前記温熱源(18)から前記流路に高温流体を供給することにより前記氷結管(14)の表面に形成された氷の層(I)を融解させ、融解した液体を前記排出管(13)を通して回収する第4の工程と、を含むことを特徴とする。
さらに、上記第3の工程で排出された汚染水を用いて、前記第1~第4の工程を繰り返すことが、好適である。
さらに、上記第2の工程において、前記冷熱源(17)からの低温流体により前記氷結管(14)の表面の温度を0℃に維持することが、好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、トリチウム水と軽水を含む汚染水からトリチウム水を効果的に分離する簡易な装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明によるトリチウム汚染水の処理装置を概略的かつ模式的に示した構成図である。
【
図2】
図2(a)~(d)は、
図1に示した装置の使用方法の一例を概略的に示す図である。
【
図3】
図3(a)~(c)は、トリチウム汚染水の処理装置の効果を立証する試験方法を示す図である。
【
図4】
図4は、18時間、21時間、及び24時間の各接触時間における結果のグラフである。
【
図5】
図5は、試験結果に基づいて、水と氷の界面近傍におけるトリチウム濃度の変化を模式的に示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施例を示した図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
本発明の適用対象である汚染水は、原子力発電所の事故で大量に生じた放射性物質汚染水からALPSを用いて大部分の放射性物質を除去した後の水である。この汚染水には、その大部分を占める軽水(H2O)と、軽水の量に比べて微量なトリチウム水とが含まれている。汚染水のトリチウム濃度は数十万~数百万Bq/リットルと言われている。それに対し、海への排水中におけるトリチウム濃度の基準値は6万Bq/リットルであり、さらに目標値は例えば1500Bq/リットルである。トリチウム水には、主にT2OとHTOがあるが、汚染水中ではほとんどHTOとして存在する。軽水とトリチウム水はいずれも水分子であるので、液体状態では両者を容易に分離することはできない。
【0013】
図1は、本発明によるトリチウム汚染水の処理装置を概略的かつ模式的に示した構成図である。図示しない別の場所に貯蔵されている汚染水を処理するために、処理タンク11が設けられる。処理タンク11は例えばステンレス鋼製である。処理タンク11には、汚染水を供給するための供給管12と、処理後の水を回収するための排出管13が接続される。好ましくは、供給管12は処理タンク11の上部に設けられ、排出管13は処理タンク11の下部に設けられる。但し、供給管12と排出管13の各々の接続位置は、図示の例に限られない。供給管12はバルブV1の開閉に供給遮断を制御され、排出管13はバルブV2の開閉により排出及び遮断を制御される。
【0014】
図示の例では、処理タンク11の内部に2つの氷結管14が所定の間隔を空けて設置されている。氷結管14の数は2つに限られない。氷結管14は例えばステンレス鋼製である。氷結管14の内部は、熱媒体の流路とするために空洞となっている。熱媒体として、低温流体と高温流体が選択的に用いられる。一例として、氷結管14内の流路の上端には熱媒体供給管15が接続され、下端には熱媒体排出管16が接続されている。これらの管15、16は、処理タンク11の壁を通って外部の温度制御システムと接続されている。氷結管14内の流路に熱媒体を通過させることによって、氷結管14の表面の温度及び氷結管14の周囲に存在する汚染水の温度が制御される。
【0015】
図示の例では、処理タンク11が略直方体である。その場合、氷結管14は、処理タンク11の内部空間のほぼ全高に亘る高さhと、図の左右方向に延びる所定の幅wと、図の紙面に垂直な奥行き方向に延びる所定の長さとを有する略直方体の外形を有することができる。奥行き方向の長さも、処理タンク11の当該方向におけるほぼ全長に亘る長さとすることが好ましい。さらに、氷結管14の形状は、その幅wに比べて高さh及び奥行き長さの方が長い平板状とすることが好ましい。したがって、氷結管14は、鉛直面に沿った2つの大きな表面を有する。例えば高さhと奥行き長さが、幅wの10倍~20倍であってもよい。氷結管14の表面は、全体を平均的に見た場合に平面であればよく、表面上に小さな凹凸や波形を有していてもよい。このような形状によって氷結管14の表面積をできるだけ大きくすることが好ましい。
【0016】
隣り合う2つの氷結管14の距離dは、氷結管14の幅wと同じかそれより小さくすることが好ましく、例えば氷結管14の幅wの10%~100%の範囲とする。但し、この範囲に限定しない。氷結管14と処理タンク11の内面との間の距離についても同様である。このような配置とすることによって、できるだけ多数の氷結管14を処理タンク11内に設けることが好ましい。これは、全ての氷結管14の表面に形成させる氷の層の全量を、処理タンク11内に充填した汚染水の全量に比べてできるだけ大きくするためである。
【0017】
次に、氷結管14の温度制御システムの一例を説明する。図示の例では、熱媒体として、冷熱源から供給される低温流体と、温熱源から供給される高温流体とが用いられる。熱媒体供給管15は、冷熱源又は温熱源のいずれかに選択的に接続可能である。低温流体は、例えば冷凍機17における冷媒であり、バルブV3の開閉により供給遮断を制御される。高温流体は、例えば冷凍機17において冷媒が圧縮されるときに生成される高温ガスからなるガス源18が用いられる。ガス源18からの高温ガスは、バルブV4の開閉により供給遮断を制御される。高温ガスに替えて、加熱装置により加熱された空気等のガスを利用してもよい。
【0018】
熱媒体排出管16は、低温流体又は高温流体の戻り管である。熱媒体排出管16は、それぞれ開閉制御されるバルブV5及びバルブV6を介して冷凍機17及びガス源18に接続されている。これにより冷凍機17からの冷媒又はガス源18からの高温ガスが氷結管14内の流路を通って循環することができる。なお、高温ガスは、氷結管14内の流路を通過する間に温度低下するが、熱交換器19を通ることで再び加熱されてガス源18に戻される。なお、熱媒体を循環させるためのポンプ及び/又はファンは、図示を省略している。
【0019】
図2は、
図1に示した装置を使用した汚染水の処理方法の一例を概略的に示す図である。
図2では、処理タンク11の周囲のみを図示し、他の部分の図示を省略している。
図2中のバルブV1~V4について、白色は開状態を、黒色は閉状態を示している。
【0020】
図2(a)に示すように、先ず、バルブV2、V3、V4を閉じた状態でバルブV1を開き、供給管12を通して空の処理タンク11に汚染水を供給する。氷結管14の全体が浸水するまで、処理タンク11が汚染水Wで充填される。処理タンク11に充填する汚染水の温度は常温でもよい。それに替えて、汚染水を例えば5℃程度に予冷した後に処理タンク11に充填してもよい。汚染水Wの充填が完了したならば、バルブV1を閉じる。なお、
図1に示したバルブV5及びV6は閉じている。
【0021】
次に、
図2(b)に示すように、バルブV3及び
図1に示すバルブV5を開いて冷凍機からの冷媒を氷結管14内の流路に通す。このとき、氷結管14の表面及び周囲の汚染水Wの温度が0℃になるように冷媒の温度が制御される。H
2Oが100wt%の水の融点は0℃であり、HTOが100wt%の水の融点は2.23℃である。汚染水中のHTOはH
2Oに比べて微量であるため、汚染水Wの融点はほぼ0℃に近く、0.1℃未満と考えられる。したがって、氷結管14の表面温度を0℃とすることにより、氷結管14の表面に汚染水Wが凍結した氷の層Iが形成される。この氷の層Iを例えば0.5mm~数mm程度の所定の厚さとなるまで成長させる。それ以後は、氷の層Iの厚さを一定に維持するように冷媒の温度及び/又は量を調整する。この氷の層Iの表面は、未凍結の汚染水Wと接触している。
【0022】
氷の層Iが一定の厚さに維持された状態においては、液体である汚染水と、その汚染水が凍結した固体である氷とが共存している。すなわち、トリチウム水(HTO)をそれぞれ含む液体と固体とが接触した状態となる。初期においては、液体中のHTOの濃度と固体中のHTOの濃度は同じである。その後、所定の時間、例えば10時間~20時間、その状態を維持する。後述する試験で示すように、この間に液体中のHTOが固体の方へ移動して取り込まれる。その結果、液体中のトリチウム濃度が減り、固体中のトリチウム濃度が増す。
【0023】
その後、
図2(c)に示すように、バルブV2を開いて汚染水を排出管13から回収する。回収した汚染水は、専用の第1のタンク(図示せず)に貯蔵する。これにより、当初の汚染水Wよりもトリチウム濃度の減じた液体を回収できる。このとき、氷結管14は冷却状態を維持しているので、氷結管14の表面の氷の層Iはそのまま保持されている。その後、一旦、バルブV2を閉じる。
【0024】
汚染水の回収が完了したならば、
図2(d)に示すようにバルブV3及び
図1に示すバルブV5を閉じて冷媒の供給を遮断し、バルブV4及び
図1に示すバルブV6を開いて高温ガスの供給を開始する。これにより、氷結管14の表面の氷が融解し、融解した液体が処理タンク11の下部に溜まる。その後、バルブV2を開いて、処理タンク11内の液体を回収する。回収した液体は、専用の第2のタンク(図示せず)に貯蔵する。これにより、当初の汚染水Wよりもトリチウム濃度の増した液体を回収できる。
【0025】
第1のタンクに回収された液体を用いて上記の処理を繰り返すことによって、当初の汚染水のトリチウム濃度をさらに低減することができる。
【0026】
上記のトリチウム汚染水の処理装置の効果を立証する試験結果を以下に示す。
図3を用いて、試験方法を説明する。HTOであるトリチウム水の融点(2.23℃)は、H
2Oである軽水の融点(0℃)より高いため、同じ濃度のHTOを含む液体(水)と固体(氷)が共存する場合、HTOは氷側に濃縮される。このとき、液体と固体のトリチウム濃度が平衡状態となったときのHTO分配係数Kは次のように表される。
K=氷中のHTO濃度/水中のHTO濃度
=氷中のトリチウム濃度/水中のトリチウム濃度
【0027】
HTO分配係数Kを求めるための試験は、希薄なトリチウム水を含む試料を用いて行った。空気中の水蒸気の影響を排除するため、操作は全てアルゴンガスで置換したグローブバッグ中で行った。
【0028】
先ず、軽水中に濃度60Bq/mlのトリチウムを含む試料水を調製した。
図3(a)に示すように、試料水の一部を凝固させてブロック状の氷31(113×130×9mm)とした。一方、試料水の残りを0℃において密閉できるプラスチック容器30の底に広げ、厚さ約0.1mmの液膜32とした。
図3(b)に示すように、氷31を液膜32の上に入れた。
図3(c)は(b)のA-A断面であり、符号tは液膜32の厚さを示している。氷31と液膜32を接触させた後、プラスチック容器30を密閉し、0℃の温度下に18~840時間保持した。所定の時間が経過した後、プラスチック容器30から氷31を取り出した。続いて、氷31の表面に付着した水をエアスプレーで除去した後、カンナを用いて氷31の表面層を約0.1mm削り取って氷片を採取した。
【0029】
採取した氷片を融解させた後、トリチウム濃度を液体シンチレーションカウンター(LSC)で計測し、氷31の表面層のトリチウム濃度CISを得た。表面層を除去された氷31も融解させた後、同様のLSCで計測し、氷31のバルク部分のトリチウム濃度CIBを得た。一方、試験後の液膜32すなわち水のトリチウム濃度も同様のLSCで計測し、水32のトリチウム濃度CWを得た。
【0030】
表1に試験結果を示す。
図4は、18時間、21時間、及び24時間の各接触時間についての結果をグラフにしたものである。各接触時間について、初期の水のトリチウム濃度C
0、試験後の水のトリチウム濃度C
W、水と氷の界面のトリチウム濃度C
IS、氷のバルク部分のトリチウム濃度C
IB、及び分配係数Kを示している。
【0031】
【0032】
試験後の水のトリチウム濃度CWは当初の濃度より低下する。試験後の氷の表面層のトリチウム濃度CISは当初の濃度より増加し、氷のバルク部分のトリチウム濃度CIBは当初の濃度と同じである。この結果から、水と氷の接触中に、HTOが水から氷へと移動したことが立証された。分配係数Kとして1.05が得られた。この数値は、氷の表面から約0.1mmの深さまでの平均値であるので、より浅い位置では、分配係数Kはさらに大きいと予想される。
【0033】
図5は、
図4の試験結果に基づいて、水と氷を一定時間接触させた後の水と氷の界面近傍におけるトリチウム濃度の変化を模式的に示したグラフである。横軸がトリチウム濃度(Bq/ml)であり、縦軸が水と氷の界面に垂直な方向の距離(任意の単位)を示す。縦軸のゼロの位置が水と氷の界面である。試験後の水のトリチウム濃度C
Wは、当初の濃度60Bq/mlより低下する。試験後の氷の表面層のトリチウム濃度C
ISは、界面において最も大きく界面から離れるにつれて低下し、界面から十分に離れた位置の氷のバルク部分のトリチウム濃度C
IBは、当初の濃度と同じである。
【0034】
以上、本発明の実施形態を一実施例を参照して説明したが、本発明は図示した実施例に限られず、多様な変形が可能である。
【符号の説明】
【0035】
11 処理タンク
12 汚染水供給管
13 回収管
14 氷結管
15 熱媒体供給管
16 熱媒体排出管
17 冷凍機
18 ガス源
19 熱交換器
I 氷の層
V1~V5 バルブ