IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-車両の前部車体構造 図1
  • 特開-車両の前部車体構造 図2
  • 特開-車両の前部車体構造 図3
  • 特開-車両の前部車体構造 図4
  • 特開-車両の前部車体構造 図5
  • 特開-車両の前部車体構造 図6
  • 特開-車両の前部車体構造 図7
  • 特開-車両の前部車体構造 図8
  • 特開-車両の前部車体構造 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031015
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】車両の前部車体構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
B62D25/08 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134291
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橘 健太
(72)【発明者】
【氏名】楢原 隆志
(72)【発明者】
【氏名】石川 靖
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203AA31
3D203AA33
3D203BB16
3D203BB35
3D203BB43
3D203BC14
3D203CA23
3D203CA29
3D203CA33
3D203CA34
3D203CA53
3D203CB04
3D203DB05
(57)【要約】
【課題】上方に位置するエプロンレインフォースメントを、衝突時のエネルギ吸収に寄与させる。
【解決手段】フロントサイドフレーム2は、車両に対して前方から衝突荷重が入力された際に、フロントサイドフレームを車幅方向内方へ屈曲変形させる第1変形促進部26を有し、車両の前部車体構造1は、サスペンションハウジング4の前側においてフロントサイドフレームとエプロンレインフォースメント3との間に位置しかつ、衝突荷重をサスペンションハウジングへ伝達すると共に、フロントサイドフレームとエプロンレインフォースメントとを連結して、フロントサイドフレームとエプロンレインフォースメントとの間で車幅方向の引っ張り荷重を伝達する荷重伝達部7をさらに備え、荷重伝達部は、第1変形促進部の近傍に位置しかつ、フロントサイドフレームの屈曲変形を促進する第2変形促進部710を有している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッシュパネルの前側において車両前後方向に延びるフロントサイドフレームと、
前記フロントサイドフレームよりも上方かつ車幅方向の外側に位置しかつ、車両前後方向に延びるエプロンレインフォースメントと、
前記フロントサイドフレームと前記エプロンレインフォースメントとの間に位置しかつ、前記フロントサイドフレーム及び前記エプロンレインフォースメントの両方に固定されるサスペンションハウジングと、を備え、
前記フロントサイドフレームは、車両に対して前方から衝突荷重が入力された際に、前記フロントサイドフレームを車幅方向内方へ屈曲変形させる第1変形促進部を有し、
前記サスペンションハウジングの前側において前記フロントサイドフレームと前記エプロンレインフォースメントとの間に位置しかつ、前記衝突荷重を前記サスペンションハウジングへ伝達すると共に、前記フロントサイドフレームと前記エプロンレインフォースメントとを連結して、前記フロントサイドフレームと前記エプロンレインフォースメントとの間で車幅方向の引っ張り荷重を伝達する荷重伝達部をさらに備え、
前記荷重伝達部は、前記第1変形促進部の近傍に位置する第2変形促進部であって、前記フロントサイドフレームの前記屈曲変形を促進する第2変形促進部を有している、車両の前部車体構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の前部車体構造において、
前記第2変形促進部は、前記第1変形促進部の前側において前記フロントサイドフレームに固定される第1固定部と、前記第1変形促進部の後側において前記フロントサイドフレームに固定される第2固定部と、前記第1固定部と前記第2固定部との間に位置しかつ、前記フロントサイドフレームに固定されない非固定部と、を含んでいる、車両の前部車体構造。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の前部車体構造において、
前記荷重伝達部は、前記フロントサイドフレームのフランジに接合される第1接合部を有し、
前記非固定部は、前記第1接合部に形成された第1ノッチである、車両の前部車体構造。
【請求項4】
請求項1に記載の車両の前部車体構造において、
前記荷重伝達部は、上側プレートと、前記上側プレートの下側に位置する下側プレートとを有している、車両の前部車体構造。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の前部車体構造において、
前記上側プレートと前記下側プレートとは接合され、
前記荷重伝達部は、前記上側プレートと前記下側プレートとの間に形成されかつ、車両前後方向に延びる閉断面構造を有している、車両の前部車体構造。
【請求項6】
請求項1に記載の車両の前部車体構造において、
前記エプロンレインフォースメントは、前記サスペンションハウジングの前側に、前記エプロンレインフォースメントを車幅方向内方へ屈曲変形させる第3変形促進部を有し、
前記荷重伝達部は、前記第3変形促進部の近傍に位置する第4変形促進部であって、前記エプロンレインフォースメントの前記屈曲変形を促進する第4変形促進部を有している、車両の前部車体構造。
【請求項7】
請求項3に記載の車両の前部車体構造において、
前記エプロンレインフォースメントは、車両に対して前方から衝突荷重が入力された際に、前記エプロンレインフォースメントを車幅方向内方へ屈曲変形させる第3変形促進部を有し、
前記荷重伝達部は、前記エプロンレインフォースメントに固定される接合部と、前記接合部における前記第3変形促進部に対応する位置に位置しかつ、前記エプロンレインフォースメントに固定されない第2ノッチと、を有し、
前記第1ノッチと前記第2ノッチとは、車両前後方向に重複する位置に位置している、車両の前部車体構造。
【請求項8】
請求項1に記載の車両の前部車体構造において、
前記荷重伝達部は、前記サスペンションハウジングと前記フロントサイドフレームと前記エプロンレインフォースメントとを相互に連結する板状本体を有している、車両の前部車体構造。
【請求項9】
ダッシュパネルの前側において車両前後方向に延びるフロントサイドフレームと、
前記フロントサイドフレームよりも上方かつ車幅方向の外側に位置しかつ、車両前後方向に延びるエプロンレインフォースメントと、
前記フロントサイドフレームと前記エプロンレインフォースメントとの間に位置しかつ、前記フロントサイドフレーム及び前記エプロンレインフォースメントの両方に固定されるサスペンションハウジングと、を備え、
前記フロントサイドフレームは、車両に対して前方から衝突荷重が入力された際に、前記フロントサイドフレームを車幅方向内方へ屈曲変形させる変形促進部を有し、
前記サスペンションハウジングの前側において前記フロントサイドフレームと前記エプロンレインフォースメントとの間に位置しかつ、前記衝突荷重を前記サスペンションハウジングへ伝達すると共に、前記フロントサイドフレームと前記エプロンレインフォースメントとを連結して、前記フロントサイドフレームと前記エプロンレインフォースメントとの間で車幅方向の引っ張り荷重を伝達する荷重伝達部をさらに備え、
前記荷重伝達部は、前記車両に対して前方から衝突荷重が入力された際に、前記屈曲変形するフロントサイドフレームから前記エプロンレインフォースメントへ引っ張り荷重を伝達することによって、前記エプロンレインフォースメントが車幅方向内方かつ下方へ移動するよう、前記エプロンレインフォースメントを変形させる、車両の前部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の前部車体構造が開示されている。前部車体構造は、フロントサイドフレームを備えている。フロントサイドフレームは、ダッシュパネルの前側において、車両前後方向に延びている。フロントサイドフレームは、屈曲変形促進部を有している。屈曲変形促進部は、フロントサイドフレームに対して前方から衝突荷重が入力された際に、フロントサイドフレームを屈曲変形させる。車両の前面衝突(以下、単に衝突という場合がある)時にフロントサイドフレームは、屈曲変形促進部において車幅方向に屈曲することにより、衝突エネルギを吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-18666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フロントサイドフレームに対し、上方かつ車幅方向の外側には、車両前後方向に延びるエプロンレインフォースメントが位置している。車両の衝突時にエプロンレインフォースメントが衝突物と干渉することによって、エプロンレインフォースメントは、フロントサイドフレームと共に、エネルギ吸収に寄与することができる。
【0005】
ここで、例えば電動車両では、走行用のバッテリが床下に配置される場合がある。電動車両のエプロンレインフォースメントは、バッテリ非搭載の車両のエプロンレインフォースメントよりも上方に位置する場合がある。尚、電動車両には、BEV(Battery Electric Vehicle)の他、PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)等も含まれる。また、ここで言うバッテリ非搭載の車両は、床下にバッテリが配置されていない車両である。
【0006】
エプロンレインフォースメントの位置が相対的に高い車両は、エプロンレインフォースメントが衝突物よりも上方に位置することになって、衝突時にエプロンレインフォースメントが衝突物と干渉しない恐れがある。エプロンレインフォースメントがエネルギ吸収に寄与できない恐れがある。そのため、エプロンレインフォースメントの位置が相対的に高い車両は、エプロンレインフォースメントに代わる別のエネルギ吸収構造を必要とする。しかし、別のエネルギ吸収構造を追加することは、車両の重量を増加させる。車両の重量を増加させないエネルギ吸収構造が求められる。尚、エプロンレインフォースメントの位置が相対的に高い車両は、電動車両に限定されない。バッテリ非搭載の車両であっても、エプロンレインフォースメントの位置が高い場合がある。
【0007】
ここに開示する技術は、上方に位置するエプロンレインフォースメントを、衝突時のエネルギ吸収に寄与させる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示する車両の前部車体構造は、ダッシュパネルの前側において車両前後方向に延びるフロントサイドフレームと、
前記フロントサイドフレームよりも上方かつ車幅方向の外側に位置しかつ、車両前後方向に延びるエプロンレインフォースメントと、
前記フロントサイドフレームと前記エプロンレインフォースメントとの間に位置しかつ、前記フロントサイドフレーム及び前記エプロンレインフォースメントの両方に固定されるサスペンションハウジングと、を備える。
【0009】
前記フロントサイドフレームは、車両に対して前方から衝突荷重が入力された際に、前記フロントサイドフレームを車幅方向内方へ屈曲変形させる第1変形促進部を有し、
前記車両の前部車体構造は、前記サスペンションハウジングの前側において前記フロントサイドフレームと前記エプロンレインフォースメントとの間に位置しかつ、前記衝突荷重を前記サスペンションハウジングへ伝達すると共に、前記フロントサイドフレームと前記エプロンレインフォースメントとを連結して、前記フロントサイドフレームと前記エプロンレインフォースメントとの間で車幅方向の引っ張り荷重を伝達する荷重伝達部をさらに備える。
【0010】
前記荷重伝達部は、前記第1変形促進部の近傍に位置する第2変形促進部であって、前記フロントサイドフレームの前記屈曲変形を促進する第2変形促進部を有している。
【0011】
この構成によると、フロントサイドフレームは、第1変形促進部を有している。第1変形促進部は、車両に対して前方から衝突荷重が入力された際に、フロントサイドフレームを車幅方向の内方へ変形させる。変形するフロントサイドフレームは、エネルギを吸収する。
【0012】
フロントサイドフレームに対して、上方かつ車幅方向の外側には、エプロンレインフォースメントが位置している。エプロンレインフォースメントは車両前後方向に延びる。フロントサイドフレームとエプロンレインフォースメントとの間には、サスペンションハウジングが位置している。サスペンションハウジングは、フロントサイドフレームとエプロンレインフォースメントとの両方に固定される。
【0013】
サスペンションハウジングの前側には、荷重伝達部が位置している。荷重伝達部は、略平行なフロントサイドフレームとエプロンレインフォースメントとを連結する。荷重伝達部はまた、フロントサイドフレームとエプロンレインフォースメントとの間で車幅方向の引っ張り荷重を伝達する。前述したように、フロントサイドフレームが車幅方向の内方へ変形した際に、荷重伝達部は、エプロンレインフォースメントを車幅方向内方かつ下方へ引き込む。エプロンレインフォースメントは、車幅方向内方かつ下方へ移動するように変形する。もともとフロントサイドフレームよりも上方に位置しているエプロンレインフォースメントの高さ位置が低くなるため、エプロンレインフォースメントが衝突物と干渉する。エプロンレインフォースメントは、衝突時のエネルギ吸収に寄与できる。
【0014】
つまり、例えば電動車両であることに伴いエプロンレインフォースメントの高さ位置が高くても、車両の衝突時に、エプロンレインフォースメントがエネルギ吸収に寄与できる。この構成の前部車体構造では、フロントサイドフレームの変形を利用してエプロンレインフォースメントをエネルギ吸収に寄与させるから、エプロンレインフォースメントに代わるエネルギ吸収構造が不要である。この前部車体構造は、車両の軽量化に有利である。
【0015】
また、荷重伝達部はフロントサイドフレームに接続されているが、第2変形促進部がフロントサイドフレームの変形を促進する。荷重伝達部はフロントサイドフレームの変形を阻害しないから、エプロンレインフォースメントの移動も阻害されない。車両の衝突時にフロントサイドフレーム及びエプロンレインフォースメントの両方がエネルギ吸収に寄与できる。
【0016】
ここで、荷重伝達部は、フロントサイドフレームからエプロンレインフォースメントへ引っ張り荷重を伝達するだけでなく、車両に対して衝突荷重が入力された際に、その衝突荷重をサスペンションハウジングに伝達する。高剛性のサスペンションハウジングが、衝突荷重を受ける。荷重伝達部が衝突荷重を伝達することによって、荷重伝達部が、衝突荷重によって変形したり、破損したりすることが抑制される。変形及び/又は破損しない荷重伝達部は、衝突時に、フロントサイドフレームからエプロンレインフォースメントへ引っ張り荷重を伝達できる。
【0017】
前記第2変形促進部は、前記第1変形促進部の前側において前記フロントサイドフレームに固定される第1固定部と、前記第1変形促進部の後側において前記フロントサイドフレームに固定される第2固定部と、前記第1固定部と前記第2固定部との間に位置しかつ、前記フロントサイドフレームに固定されない非固定部と、を含んでいる、としてもよい。
【0018】
荷重伝達部は、フロントサイドフレームの第1変形促進部の前後それぞれにおいて、フロントサイドフレームに固定される一方、第1変形促進部に対応する位置において、フロントサイドフレームに固定されない。非固定部は、第1変形促進部の位置においてフロントサイドフレームを拘束しないため、フロントサイドフレームの屈曲変形が阻害されない。第1変形促進部及び第2変形促進部の組み合わせは、フロントサイドフレームの屈曲変形を促進できる。
【0019】
前記荷重伝達部は、前記フロントサイドフレームのフランジに接合される第1接合部を有し、
前記非固定部は、前記第1接合部に形成された第1ノッチである、としてもよい。
【0020】
第1ノッチは、フロントサイドフレームのフランジに接合されない。第1ノッチは、簡易な構造によって、フロントサイドフレームの屈曲変形を促進できる。
【0021】
尚、荷重伝達部の第2変形促進部は、前記の非固定部(又は第1ノッチ)に限らない。第2変形促進部は、荷重伝達部に形成された脆弱部としてもよい。脆弱部は、フロントサイドフレームの屈曲変形に伴って荷重伝達部を変形させる。脆弱部は、フロントサイドフレームの屈曲変形を阻害しない。
【0022】
前記荷重伝達部は、上側プレートと、前記上側プレートの下側に位置する下側プレートとを有している、としてもよい。
【0023】
上下に重なる2枚のプレートからなる荷重伝達部は、剛性が高い。高剛性な荷重伝達部は、フロントサイドフレームとエプロンレインフォースメントとの間で、車幅方向の引っ張り荷重を効率的に伝達できる。また、高剛性な荷重伝達部は、サスペンションハウジングへ衝突荷重を伝達できる。
【0024】
前記上側プレートと前記下側プレートとは接合され、
前記荷重伝達部は、前記上側プレートと前記下側プレートとの間に形成されかつ、車両前後方向に延びる閉断面構造を有している、としてもよい。
【0025】
荷重伝達部に衝突荷重が入力した初期に、荷重伝達部は、当該閉断面が潰れることによりエネルギを吸収できる。閉断面構造を有する荷重伝達部は、エネルギ吸収と、荷重伝達との両方に寄与できる。
【0026】
前記エプロンレインフォースメントは、前記サスペンションハウジングの前側に、前記エプロンレインフォースメントを車幅方向内方へ屈曲変形させる第3変形促進部を有し、
前記荷重伝達部は、前記第3変形促進部の近傍に位置する第4変形促進部であって、前記エプロンレインフォースメントの前記屈曲変形を促進する第4変形促進部を有している、としてもよい。
【0027】
荷重伝達部が、フロントサイドフレームからエプロンレインフォースメントへ引っ張り荷重を伝達すると、第3変形促進部は、エプロンレインフォースメントにおけるサスペンションハウジングよりも前側の部位を車幅方向内方へ屈曲変形させる。このときに、荷重伝達部の第4変形促進部は、エプロンレインフォースメントの変形を促進する。エプロンレインフォースメントは、車幅方向内方かつ下方へ移動することによって、エネルギ吸収に寄与できる。
【0028】
前記エプロンレインフォースメントは、車両に対して前方から衝突荷重が入力された際に、前記エプロンレインフォースメントを車幅方向内方へ屈曲変形させる第3変形促進部を有し、
前記荷重伝達部は、前記エプロンレインフォースメントに固定される接合部と、前記接合部における前記第3変形促進部に対応する位置に位置しかつ、前記エプロンレインフォースメントに固定されない第2ノッチと、を有し、
前記第1ノッチと前記第2ノッチとは、車両前後方向に重複する位置に位置している、としてもよい。
【0029】
第2ノッチは、エプロンレインフォースメントを拘束しない。第2ノッチは、エプロンレインフォースメントが第3変形促進部の位置において屈曲変形することを阻害しない。
【0030】
第1ノッチと第2ノッチとが車両前後方向に重複する位置に位置しているため、フロントサイドフレームの屈曲位置と、エプロンレインフォースメントの屈曲位置とが対応する。フロントサイドフレームの変形に伴い、荷重伝達部を介して、エプロンレインフォースメントが変形しやすい。
【0031】
前記荷重伝達部は、前記サスペンションハウジングと前記フロントサイドフレームと前記エプロンレインフォースメントとを相互に連結する板状本体を有している、としてもよい。
【0032】
板状本体は、面内方向の荷重に対して高い剛性を有する。板状本体を有する荷重伝達部は、フロントサイドフレームとエプロンレインフォースメントとの間において、引っ張り荷重を効率的に伝達できる。また、板状本体は、サスペンションハウジングに接続されているため、荷重伝達部は、衝突荷重をサスペンションハウジングへ効率的に伝達できる。
【0033】
ここに開示する別の車両の前部車体構造は、ダッシュパネルの前側において車両前後方向に延びるフロントサイドフレームと、
前記フロントサイドフレームよりも上方かつ車幅方向の外側に位置しかつ、車両前後方向に延びるエプロンレインフォースメントと、
前記フロントサイドフレームと前記エプロンレインフォースメントとの間に位置しかつ、前記フロントサイドフレーム及び前記エプロンレインフォースメントの両方に固定されるサスペンションハウジングと、を備える。
【0034】
前記フロントサイドフレームは、車両に対して前方から衝突荷重が入力された際に、前記フロントサイドフレームを車幅方向内方へ屈曲変形させる変形促進部を有し、
前記車両の前部車体構造は、前記サスペンションハウジングの前側において前記フロントサイドフレームと前記エプロンレインフォースメントとの間に位置しかつ、前記衝突荷重を前記サスペンションハウジングへ伝達すると共に、前記フロントサイドフレームと前記エプロンレインフォースメントとを連結して、前記フロントサイドフレームと前記エプロンレインフォースメントとの間で車幅方向の引っ張り荷重を伝達する荷重伝達部をさらに備える。
【0035】
前記荷重伝達部は、前記車両に対して前方から衝突荷重が入力された際に、前記屈曲変形するフロントサイドフレームから前記エプロンレインフォースメントへ引っ張り荷重を伝達することによって、前記エプロンレインフォースメントが車幅方向内方かつ下方へ移動するよう、前記エプロンレインフォースメントを変形させる。
【0036】
前記と同様に、車両に対して前方から衝突荷重が入力されて、フロントサイドフレームが車幅方向の内方へ変形した際に、荷重伝達部は、エプロンレインフォースメントを車幅方向内方かつ下方へ移動するように変形させる。エプロンレインフォースメントは、衝突物を干渉することができ、エネルギ吸収に寄与する。
【発明の効果】
【0037】
前記の車両の前部車体構造は、上方に位置するエプロンレインフォースメントを、衝突時のエネルギ吸収に寄与させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1図1は、車両の前部車体構造を示している。
図2図2は、前部車体構造におけるフロントサイドフレームとエプロンレインフォースメントとサスペンションハウジングと荷重伝達部とを示している。
図3図3は、荷重伝達部の上側プレートを取り外した図2対応図である。
図4図4は、図2のIV-IV端面図である。
図5図5の上図は、荷重伝達部の箇所を車幅方向内方から見た側面図であり、下図は、荷重伝達部の箇所を車幅方向外方から見た側面図である。
図6図6は、側方から見た、衝突時の前部車体構造を示している。
図7図7は、側方から見た、衝突時の前部車体構造を示している。
図8図8は、上方から見た、衝突時の前部車体構造を示している。
図9図9は、上方から見た、衝突時の前部車体構造を示している。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、車両の前部車体構造の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明する前部車体構造は例示である。
【0040】
(全体構成)
図1は、車両の前部を左側方から見た図である。尚、各図において矢印FRは車両前方を示し、矢印RRは車両後方を示し、矢印OUTは車幅方向外側を示し、矢印INは車幅方向内側を示し、矢印UPは車両上方を示し、矢印LWは車両下方を示す。尚、図2~5、8~9は、前部車体における車幅方向の左側の部位を示しているため、矢印OUTは車幅方向の左側に対応し、矢印INは車幅方向の右側に対応する。
【0041】
前部車体構造1は、車幅方向について、左右略対称形状である。以下においては、前部車体における車幅方向の左側の部位の構成を説明する。前部車体における車幅方向の右側の部位の構成は、左側の部位の構成に対し対称である。
【0042】
図1~3に示すように、前部車体構造1は、フロントサイドフレーム2と、エプロンレインフォースメント3と、サスペンションハウジング4と、を備えている。
【0043】
フロントサイドフレーム2は、ダッシュパネル51の前側において車両前後方向に延びている。フロントサイドフレーム2は、車両の前部において車幅方向の左と右とのそれぞれに位置している。フロントサイドフレーム2の前端は、クラッシュカン52を介して、バンパービーム53に接続されている。バンパービーム53は、車両の前端部において車幅方向に延びている。
【0044】
フロントサイドフレーム2は、図4に例示するように、アウタパネル21と、インナパネル22とからなる。アウタパネル21は、平板状の鋼板であり、フロントサイドフレーム2の、車幅方向の外壁を形成する。インナパネル22は、アウタパネル21に対して車幅方向の内方に位置している。インナパネル22は、横断面ハット状の鋼板であり、フロントサイドフレーム2の、車幅方向の内壁を形成する。インナパネル22とアウタパネル21とは、それぞれの上端部及び下端部同士が接合されることによって、一体化されている。インナパネル22とアウタパネル21とは、例えば、車両前後方向の複数箇所がスポット溶接によって接合されている。フロントサイドフレーム2は、閉断面を有するフレーム本体23と、フレーム本体23の上側に位置する上部フランジ24と、フレーム本体23の下側に位置する下部フランジ25とを有している。
【0045】
尚、クラッシュカン52は、車両前後方向に延びる金属製筒状体である。クラッシュカン52の車両前後方向に直交する断面は、略十字形状を有している。略十字形状の横断面を有するクラッシュカン52は、車両の衝突時に衝突荷重が入力されると、その軸方向に蛇腹状に圧縮変形して衝突荷重を効果的に吸収することができる。
【0046】
ダッシュパネル51は、車室とパワーユニットルーム54とを隔てている。パワーユニットルーム54における左のフロントサイドフレーム2と右のフロントサイドフレームとの間には、エンジン及び電気モータが設置されている。フロントサイドフレーム2は、エンジン及び電気モータを支持している。車両は電動車両であり、より詳細には、PHEVである。車両に搭載された走行用のバッテリは、車室の床下に設置されている。
【0047】
エプロンレインフォースメント3は、フロントサイドフレーム2よりも上方かつ車幅方向の外側に位置している。バッテリが床下に配置されているため、この電動車両のエプロンレインフォースメント3は、比較的高い位置に位置している(図1のH参照)。
【0048】
エプロンレインフォースメント3は、電動車両の前部において車幅方向の左と右とのそれぞれに位置している。エプロンレインフォースメント3は、車両前後方向に延びている。エプロンレインフォースメント3の後端は、ヒンジピラー11の上端部に接合されている。エプロンレインフォースメント3の前端は、シュラウドアッパ12に接続されている。シュラウドアッパ12は、車幅方向に延びている。シュラウドアッパ12は、左右のエプロンレインフォースメント3の前端同士を連結している。図1に示すように、エプロンレインフォースメント3の前端は、前後方向について、フロントサイドフレーム2とクラッシュカン52との接合部とほぼ同じ位置か、又は、接合部よりも後方に位置している。
【0049】
エプロンレインフォースメント3は、図4に示すように、第1部材31と、第2部材32とからなる。第1部材31は、横断面L字状の鋼板であり、エプロンレインフォースメント3の上壁及び車幅方向の内壁を形成する。第2部材32も、横断面L字状の鋼板であり、エプロンレインフォースメント3の下壁及び車幅方向の外壁を形成する。第2部材32は、第1部材31の下側に位置している。第1部材31と第2部材32とは、それぞれの右端部及び左端部同士が接合されることによって、一体化されている。エプロンレインフォースメント3は、閉断面を有している。
【0050】
サスペンションハウジング4は、図2又は3に示すように、フロントサイドフレーム2とエプロンレインフォースメント3との間に位置している。サスペンションハウジング4は、フロントサイドフレーム2及びエプロンレインフォースメント3の両方に固定されている。サスペンションハウジング4は、筒軸が上下方向に延びる略円筒部を有していて、前輪13のサスペンションダンパ14の上端を支持する。サスペンションハウジング4は、高剛性である。
【0051】
エプロンレインフォースメント3は、サスペンションハウジング4の車幅方向の外側を通って車両前方へ延びている。図2に示すように、エプロンレインフォースメント3において、サスペンションハウジング4が接合されている部位と、サスペンションハウジング4よりも前方の部位との剛性を比較すると、サスペンションハウジング4が接合されている部位は相対的に高剛性でかつ、サスペンションハウジング4よりも前方の部位は相対的に低剛性である。エプロンレインフォースメント3は、その前後方向の所定箇所を境にして剛性差を有している(境界33参照)。
【0052】
(荷重伝達部に関する構造)
前部車体構造1は、荷重伝達部7を備えている。荷重伝達部7は、車両の衝突時にフロントサイドフレーム2が変形することに伴い、エプロンレインフォースメント3を移動させる機能を有している。前述したように、この電動車両のエプロンレインフォースメント3は比較的高い位置に位置しているため、衝突物と干渉しない可能性があるが、移動することによりエプロンレインフォースメント3は衝突物と干渉することができて、エネルギ吸収に寄与できる。この構成の前部車体構造1では、フロントサイドフレーム2の変形を利用してエプロンレインフォースメント3をエネルギ吸収に寄与させるから、エプロンレインフォースメント3に代わるエネルギ吸収構造が不要であるという利点がある。
【0053】
荷重伝達部7は、サスペンションハウジング4の前側においてフロントサイドフレーム2とエプロンレインフォースメント3との間に位置している。荷重伝達部7は、前後方向については、フロントサイドフレーム2及びエプロンレインフォースメント3の中間位置に位置している。
【0054】
荷重伝達部7は、サスペンションハウジング4に接合されている。荷重伝達部7は、衝突時の衝突荷重をサスペンションハウジング4へ伝達することができる。荷重伝達部7はまた、フロントサイドフレーム2とエプロンレインフォースメント3とを、車幅方向に連結している。荷重伝達部7は、フロントサイドフレーム2とエプロンレインフォースメント3との間で引っ張り荷重を伝達する。
【0055】
以下、図面を参照しながら、荷重伝達部7の構造を詳細に説明する。荷重伝達部7は、図2及び4に示すように、板状本体70と、第1接合部71と、第2接合部72と、第3接合部73と、を備えている。
【0056】
板状本体70は、サスペンションハウジング4とフロントサイドフレーム2とエプロンレインフォースメント3との間に位置している。板状本体70は、フロントサイドフレーム2とエプロンレインフォースメント3との間を架け渡すように、車幅方向に広がっている。板状本体70はまた、前後方向に広がって、その後縁部がサスペンションハウジング4に接している。フロントサイドフレーム2は、相対的に低い位置に位置し、エプロンレインフォースメント3は、相対的に高い位置に位置している。このため、板状本体70は、その車幅方向の内方側が低くかつ、車幅方向の外方側が高くなるよう斜めに傾いている。板状本体70はまた、前後方向の前方側が低くかつ、前後方向の後方側が高くなるよう斜めに傾いている。
【0057】
第1接合部71は、板状本体70をフロントサイドフレーム2へ接合する。第1接合部71は、フロントサイドフレーム2の前後方向の中間部に、板状本体70を接合する。第1接合部71は、荷重伝達部7の車幅方向内側の縁部が、下向きに折り曲げられることによって構成されている。第1接合部71とフロントサイドフレーム2とは、例えばスポット溶接によって接合される。より詳細に、第1接合部71は、フロントサイドフレーム2の上部フランジ24に対し車幅方向に重ね合わされた状態で、当該上部フランジ24に接合されている。尚、図2及び3の丸印は、スポット溶接の箇所を例示している。
【0058】
第2接合部72は、板状本体70をエプロンレインフォースメント3へ接合する。第2接合部72は、エプロンレインフォースメント3の前後方向の中間部に、板状本体70を接合する。第2接合部72は、荷重伝達部7の車幅方向外側の縁部が、上向きに折り曲げられることによって構成されている。第2接合部72とエプロンレインフォースメント3とは、例えばスポット溶接によって接合される。より詳細に、第2接合部72は、エプロンレインフォースメント3の車幅方向の内壁に対し車幅方向に重ね合わされた状態で、当該内壁に接合されている。
【0059】
第3接合部73は、板状本体70の後縁部をサスペンションハウジング4へ接合する。第3接合部73は、略円筒形状のサスペンションハウジング4の周面に、板状本体70を接合する。より正確に第3接合部73は、図5の下図に示すように、サスペンションハウジング4の車幅方向の外側の周面に重ね合わされた状態で、当該周面に、例えばスポット溶接によって接合されている。
【0060】
荷重伝達部7は、上側プレート74と下側プレート75とからなる。下側プレート75は、上側プレート74の下側に位置している。上側プレート74と下側プレート75とは、それらの一部分同士が上下に重なっている。板状本体70は、上側プレート74と下側プレート75とが重なった箇所によって構成されている。
【0061】
上側プレート74は、板状本体70と、第1接合部71とを構成する。下側プレート75は、図3に示すように、板状本体70と、第1接合部71の一部と、第2接合部72と、第3接合部73とを構成する。上側プレート74と下側プレート75とは、例えばスポット溶接によって、互いに接合されている。
【0062】
ここで、下側プレート75の前端部には、複数のビード76が形成されている。複数のビード76は、車幅方向に並んでいる。各ビード76は、下側プレート75において、上向きに凸となるように形成されている。これらのビード76によって、荷重伝達部7の板状本体70は、図4に示すように、閉断面構造を有している。上側プレート74と下側プレート75との間の閉断面は、前後方向に延びる。
【0063】
第1接合部71は、第1ノッチ77を有している。第1ノッチ77は、図2、4、及び5に示すように、フロントサイドフレーム2の上部フランジ24に重ね合わされる第1接合部71において、より正確には、上側プレート74の縁部において、下向きに開口するように形成されている。第1ノッチ77は、上部フランジ24に重ならない。第1ノッチ77は、第1接合部71において、フロントサイドフレーム2に固定されない非固定部を形成する。
【0064】
第1接合部71はまた、第1固定部78及び第2固定部79を有している。第1固定部78は、第1ノッチ77の前側において上部フランジ24に固定される。第2固定部79は、第1ノッチ77の後側において上部フランジ24に固定される。第1ノッチ77は、第1固定部78と第2固定部79との間に位置している。
【0065】
ここでフロントサイドフレーム2は、第1変形促進部26を有している。第1変形促進部26は、図5の下図に示すように、フロントサイドフレーム2のアウタパネル21に設けられたビードである。ビードは、アウタパネル21から凹陥すると共に、上下方向に延びている。第1変形促進部26は、後述するように、衝突時にフロントサイドフレーム2を車幅方向の内方へ屈曲変形させる。
【0066】
図2に示すように、荷重伝達部7の第1ノッチ77の前後位置と、フロントサイドフレーム2の第1変形促進部26の前後位置とは対応している。第1ノッチ77は、フロントサイドフレーム2に非接合であるため、フロントサイドフレーム2において屈曲変形しようとする箇所を拘束しない。第1ノッチ77は、フロントサイドフレーム2の屈曲変形を阻害せず、その屈曲変形を促進する機能を有している。第1ノッチ77、第1固定部78及び第2固定部79によって、第1変形促進部26の近傍に位置しかつ、フロントサイドフレーム2の屈曲変形を促進する第2変形促進部710が構成される。
【0067】
第2接合部72は、第2ノッチ711を有している。第2ノッチ711は、図2、3、及び5に示すように、エプロンレインフォースメント3の内壁に重ね合わされる第2接合部72において、より正確には、下側プレート75の縁部において、上向きに開口するように形成されている。第2ノッチ711は、第2接合部72において、エプロンレインフォースメント3に接合されない非接合部を形成する。
【0068】
ここでエプロンレインフォースメント3は、第3変形促進部34を有している。第3変形促進部34は、エプロンレインフォースメント3の車幅方向内方における上側の稜線に設けられた凹部である。凹部は、稜線を分断する。第3変形促進部34は、サスペンションハウジング4の前側に位置している。より詳細に、第3変形促進部34は、前述したエプロンレインフォースメント3において剛性が変化する境界33の近傍に位置している。第3変形促進部34は、後述するように、エプロンレインフォースメント3が車幅方向の内方へ屈曲変形することを促進する。
【0069】
荷重伝達部7の第2ノッチ711の前後位置と、エプロンレインフォースメント3の第3変形促進部34の前後位置とは対応している。第2ノッチ711は、エプロンレインフォースメント3に非接合であるため、エプロンレインフォースメント3において屈曲変形しようとする箇所を拘束しない。第2ノッチ711は、エプロンレインフォースメント3の屈曲変形を阻害しない。第2ノッチ711は、エプロンレインフォースメント3の屈曲変形を促進する機能を有している。第2ノッチ711は、エプロンレインフォースメント3の屈曲変形を促進する第4変形促進部の一例である。
【0070】
ここで、図5を参照しながら、複数の変形促進部の位置関係について、さらに説明する。荷重伝達部7は、前から後に向かって、第1領域81、第2領域82、第3領域83、第4領域84、及び、第5領域85に分けることができる。
【0071】
第1領域81は、上側プレート74のみによって構成される荷重伝達部7の前端部分である。第2領域82、第3領域83及び第4領域84は、上側プレート74及び下側プレート75によって構成される部分であり、閉断面を有する板状本体70に対応する。板状本体70は、複数の平面が組み合わされて形成されている。第2領域82、第3領域83及び第4領域84はそれぞれ、板状本体70を形成する平面の傾斜角度が相違する。第2領域82の平面は、前から後へ向かう傾斜角度が相対的に小さく、第3領域83の平面は、前から後へ向かう傾斜角度が相対的に大きい。第4領域84の平面は、車幅方向の内から外へ向かう傾斜角度が相対的に大きい。
【0072】
第5領域85は、下側プレート75のみによって構成される荷重伝達部7の後端部分である。第5領域85は、サスペンションハウジング4に接合される第3接合部73に対応する。
【0073】
荷重伝達部7の第1接合部71は、第1領域81、第2領域82、第3領域83及び第4領域84に広がっている。第2接合部72は、第2領域82、第3領域83及び第4領域84に広がっている。
【0074】
第2変形促進部710は、第1領域81、第2領域82、及び第3領域83に広がっている。前述したように、第1変形促進部26と、第1ノッチ77とは、前後方向に対応する位置に位置している。第1変形促進部26は、フロントサイドフレーム2における前後方向の中間部であり、荷重伝達部7の第2領域82に対応する位置である。第1ノッチ77も、荷重伝達部7の第2領域82に位置している。
【0075】
第4変形促進部である第2ノッチ711は、第2領域82、及び第3領域83に跨がっている。従って、第1ノッチ77と第2ノッチ711とは、前後方向に重複する位置に位置している。
【0076】
第3変形促進部34と、第2ノッチ711とは、前後方向に対応する位置に位置している。第3変形促進部34は、エプロンレインフォースメント3における前後方向の中間部であり、荷重伝達部7の第3領域83に対応する位置である。
【0077】
尚、荷重伝達部7は、前述した第1領域81、第2領域82、第3領域83、第4領域、及び第5領域85に分けられる構造に限定されない。また、板状本体70は、必ずしも、複数の平面の組み合わせによって形成されるものではない。
【0078】
(衝突時の挙動)
次に、図6~9を参照しながら、衝突時における前部車体構造1の挙動について説明する。図6~9は、電動車両の前部が、衝突試験に用いられるハニカムバリア6に衝突した場合のシミュレーション結果を例示している。この衝突試験は、オフセット衝突試験(ODB:Offset Deformable Barrier)である。但し、ここに開示する前部車体構造1によって得られる下記の作用効果は、オフセット衝突に限定されず、フルラップ前面衝突を含む電動車両の前部の衝突全般において得られる。
【0079】
図1は衝突前の電動車両の前部を示している。図6~7において、S61、S62、及び、S63の順に、時間の進行と共に衝突プロセスが進行する。同様に、図8~9において、S81、S82、S83、及び、S84の順に、時間の進行と共に衝突プロセスが進行する。尚、S61、S62、及び、S63と、S81、S82、S83、及び、S84とは、必ずしも対応する時間を示してはいない。
【0080】
前述したように、電動車両は、バッテリが床下に設置されているため、エプロンレインフォースメント3の位置が高い。図1又は図6のS61に示すように、衝突前においてエプロンレインフォースメント3は、ハニカムバリア6の上端と同じか、上端よりも上方に位置している。このままでは、エプロンレインフォースメント3は、ハニカムバリア6と干渉しない。
【0081】
図8のS81に示すように、電動車両の前部がハニカムバリア6に衝突すると、クラッシュカン52を介してフロントサイドフレーム2に衝突荷重が入力される。S82に黒い矢印で示すように、フロントサイドフレーム2は、第1変形促進部26において、車幅方向の内方へ屈曲変形を開始する。荷重伝達部7は、フロントサイドフレーム2の屈曲変形を阻害しない。尚、図8及び9において網かけを付した箇所は、車両の前部構造において高応力となった箇所を示している。
【0082】
図9のS83に示すように、フロントサイドフレーム2の第1変形促進部26が、車幅方向の内方へさらに屈曲変形をすると、荷重伝達部7が、フロントサイドフレーム2からエプロンレインフォースメント3へ引っ張り荷重を伝達する。エプロンレインフォースメント3は、車幅方向の内方へと引っ張られ、それによって、エプロンレインフォースメント3は、第3変形促進部34において屈曲変形をする。エプロンレインフォースメント3の前端部は、図9のS83及びS84に示すように、車幅方向の内方へ移動する(図9の黒い矢印参照)。
【0083】
荷重伝達部7はまた、フロントサイドフレーム2とエプロンレインフォースメント3との間で上下方向について斜めに傾斜している。フロントサイドフレーム2が車幅方向の内方へ屈曲変更することに伴い、荷重伝達部7は、エプロンレインフォースメント3を、下方へも引っ張る(図4の黒い矢印参照)。
【0084】
エプロンレインフォースメント3は、荷重伝達部7よりも後方の境界33において剛性差を有しているため、この境界33において上下方向に曲げが生じる。エプロンレインフォースメント3における、サスペンションハウジング4よりも前側の部位は、その自重も加わって、図6及び7に黒い矢印で示すように、下方へ移動する。
【0085】
こうして、エプロンレインフォースメント3が、車幅方向の内方かつ下方へ移動することにより、図7及び9に示すように、エプロンレインフォースメント3は、ハニカムバリア6と干渉する。エプロンレインフォースメント3は、衝突時のエネルギ吸収に寄与できる。
【0086】
(まとめ)
ここに開示する車両の前部車体構造1は、ダッシュパネル51の前側において車両前後方向に延びるフロントサイドフレーム2と、
前記フロントサイドフレーム2よりも上方かつ車幅方向の外側に位置しかつ、車両前後方向に延びるエプロンレインフォースメント3と、
前記フロントサイドフレーム2と前記エプロンレインフォースメント3との間に位置しかつ、前記フロントサイドフレーム2及び前記エプロンレインフォースメント3の両方に固定されるサスペンションハウジング4と、を備える。
【0087】
前記フロントサイドフレーム2は、車両に対して前方から衝突荷重が入力された際に、前記フロントサイドフレーム2を車幅方向内方へ屈曲変形させる第1変形促進部26を有し、
前記車両の前部車体構造1は、前記サスペンションハウジング4の前側において前記フロントサイドフレーム2と前記エプロンレインフォースメント3との間に位置しかつ、前記衝突荷重を前記サスペンションハウジング4へ伝達すると共に、前記フロントサイドフレーム2と前記エプロンレインフォースメント3とを連結して、前記フロントサイドフレーム2と前記エプロンレインフォースメント3との間で車幅方向の引っ張り荷重を伝達する荷重伝達部7をさらに備える。
【0088】
前記荷重伝達部7は、前記第1変形促進部26の近傍に位置する第2変形促進部710であって、前記フロントサイドフレーム2の前記屈曲変形を促進する第2変形促進部710を有している。
【0089】
この構成により、フロントサイドフレーム2が車幅方向の内方へ変形した際に、荷重伝達部7は、エプロンレインフォースメント3をフロントサイドフレーム2の方へ引き込む。エプロンレインフォースメント3は、車幅方向内方かつ下方へ移動するように変形する。エプロンレインフォースメント3の高さ位置が低くなるため、エプロンレインフォースメント3が衝突物、例えばハニカムバリア6と干渉する。エプロンレインフォースメント3は、衝突時のエネルギ吸収に寄与できる。
【0090】
この構成の前部車体構造1では、フロントサイドフレーム2の変形を利用してエプロンレインフォースメント3をエネルギ吸収に寄与させるから、エプロンレインフォースメント3に代わるエネルギ吸収構造が不要である。この前部車体構造1は、車両の軽量化に有利である。
【0091】
また、第2変形促進部710は、フロントサイドフレーム2の変形を促進する。第2変形促進部710はフロントサイドフレーム2の変形を阻害しないから、エプロンレインフォースメント3の移動も阻害されない。
【0092】
また、荷重伝達部7は、車両に対して前方から入力された衝突荷重を、サスペンションハウジング4に伝達する。荷重伝達部7そのものが、衝突荷重によって変形したり、破損したりすることが抑制される。荷重伝達部7は、衝突時に、フロントサイドフレーム2からエプロンレインフォースメント3へ引っ張り荷重を伝達できる。
【0093】
前記第2変形促進部710は、前記第1変形促進部26の前側において前記フロントサイドフレーム2に固定される第1固定部78と、前記第1変形促進部26の後側において前記フロントサイドフレーム2に固定される第2固定部79と、前記第1固定部78と前記第2固定部79との間に位置しかつ、前記フロントサイドフレーム2に固定されない非固定部と、を含んでいる。
【0094】
荷重伝達部7は、第1変形促進部26を拘束しないため、フロントサイドフレーム2の車幅方向内方への屈曲変形が阻害されない。第1変形促進部26は、フロントサイドフレーム2の屈曲変形を促進できる。
【0095】
前記荷重伝達部7は、前記フロントサイドフレーム2の上部フランジ24に接合される第1接合部71を有し、
前記非固定部は、前記第1接合部71に形成された第1ノッチ77である。
【0096】
第1ノッチ77は、簡易な構造によって、フロントサイドフレーム2の屈曲変形を促進できる。
【0097】
尚、第2変形促進部は、第1ノッチ77の代わりに、荷重伝達部7に形成されたビードによって構成してもよい。荷重伝達部7に形成されたビードは、フロントサイドフレーム2の屈曲変形に伴い荷重伝達部7を変形させる脆弱部を構成する。荷重伝達部7は、変形することによって、フロントサイドフレーム2の屈曲変形を阻害せずに、フロントサイドフレーム2の屈曲変形を促進する。
【0098】
前記荷重伝達部7は、上側プレート74と、前記上側プレート74の下側に位置する下側プレート75とを有している。2枚のプレートからなる高剛性な荷重伝達部7は、フロントサイドフレーム2とエプロンレインフォースメント3との間で、車幅方向の引っ張り荷重を伝達できる。また、高剛性な荷重伝達部7は、サスペンションハウジング4へ衝突荷重を伝達できる。
【0099】
前記上側プレート74と前記下側プレート75とは接合され、
前記荷重伝達部7は、前記上側プレート74と前記下側プレート75との間に形成されかつ、車両前後方向に延びる閉断面構造を有している。
【0100】
荷重伝達部7に衝突荷重が入力した初期に、荷重伝達部7は、その閉断面が潰れることによりエネルギを吸収できる。閉断面構造を有する荷重伝達部7は、エネルギ吸収と、荷重伝達との両方に寄与できる。
【0101】
前記エプロンレインフォースメント3は、前記サスペンションハウジング4の前側に、前記エプロンレインフォースメント3を車幅方向内方へ屈曲変形させる第3変形促進部34を有し、
前記荷重伝達部7は、前記第3変形促進部34の近傍に位置しかつ、前記エプロンレインフォースメント3の前記屈曲変形を促進する第4変形促進部としての第2ノッチ711を有している。
【0102】
荷重伝達部7が、フロントサイドフレーム2からエプロンレインフォースメント3へ引っ張り荷重を伝達すると、第3変形促進部34は、エプロンレインフォースメント3を車幅方向内方へ屈曲変形させる。このときに、荷重伝達部7の第2ノッチ711は、エプロンレインフォースメント3の変形を阻害しない。エプロンレインフォースメント3は、車幅方向内方かつ下方へ移動することによって、エネルギ吸収に寄与できる。
【0103】
前記エプロンレインフォースメント3は、車両に対して前方から衝突荷重が入力された際に、前記エプロンレインフォースメント3を車幅方向内方へ屈曲変形させる第3変形促進部34を有し、
前記荷重伝達部7は、前記第3変形促進部34の近傍に位置しかつ、前記エプロンレインフォースメント3に固定されない第2ノッチ711を有し、
前記第1ノッチ77と前記第2ノッチ711とは、車両前後方向に重複する位置に位置している。
【0104】
第1ノッチ77と第2ノッチ711とが車両前後方向に重複する位置に位置しているため、フロントサイドフレーム2の屈曲位置と、エプロンレインフォースメント3の屈曲位置とが対応する。フロントサイドフレーム2の変形に伴い、荷重伝達部7を介して、エプロンレインフォースメント3が効率的に変形する。
【0105】
前記荷重伝達部7は、前記サスペンションハウジング4と前記フロントサイドフレーム2と前記エプロンレインフォースメント3とを相互に連結する板状本体70を有している。
【0106】
板状本体70は、面内方向の荷重に対して高い剛性を有する。荷重伝達部7は、フロントサイドフレーム2とエプロンレインフォースメント3との間の引っ張り荷重、及び、サスペンションハウジング4への衝突荷重のそれぞれを、効果的に伝達できる。
【0107】
ここに開示する荷重伝達部7はまた、前記車両に対して前方から衝突荷重が入力された際に、前記屈曲変形するフロントサイドフレーム2から前記エプロンレインフォースメント3へ引っ張り荷重を伝達することによって、前記エプロンレインフォースメント3を車幅方向内方かつ下方へ変形させる。
【0108】
前記と同様に、車両に対して前方から衝突荷重が入力されて、フロントサイドフレーム2が車幅方向の内方へ変形した際に、荷重伝達部7は、エプロンレインフォースメント3を車幅方向内方かつ下方へ移動するように変形させる。エプロンレインフォースメント3は、エネルギ吸収に寄与できる。
【0109】
(他の実施形態)
ここに開示する車両の前部車体構造は、電動車両に適用されるだけでなく、バッテリが床下に配置されていない車両に適用してもよい。
【0110】
また、前述した荷重伝達部7の形状は一例であり、フロントサイドフレーム2からエプロンレインフォースメント3へ引っ張り荷重を伝達する機能を有するのであれば、荷重伝達部7は様々な形状を有することができる。
【符号の説明】
【0111】
1 前部車体構造
2 フロントサイドフレーム
24 上部フランジ
26 第1変形促進部
3 エプロンレインフォースメント
34 第3変形促進部
4 サスペンションハウジング
51 ダッシュパネル
7 荷重伝達部
70 板状本体
71 第1接合部
74 上側プレート
75 下側プレート
77 第1ノッチ(非固定部)
78 第1固定部
79 第2固定部
710 第2変形促進部
711 第2ノッチ(第4変形促進部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9