(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003103
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】真皮繊維芽細胞の3種の亜集団の分子シグネチャー及びこれらの亜集団のうちの1種を含む真皮等価物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20231228BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALN20231228BHJP
【FI】
C12N5/071
C12Q1/6851 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023188579
(22)【出願日】2023-11-02
(62)【分割の表示】P 2021202527の分割
【原出願日】2018-09-27
(31)【優先権主張番号】1759026
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】391023932
【氏名又は名称】ロレアル
【氏名又は名称原語表記】L’OREAL
【住所又は居所原語表記】14 Rue Royale,75008 PARIS,France
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレリー・エイドン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・アセリノー
(57)【要約】
【課題】真皮繊維芽細胞の亜集団の同定をする。
【解決手段】本発明の目的は、乳頭状線維芽細胞、網状線維芽細胞又は真皮-皮下接合部線維芽細胞(FJDH)であると、真皮線維芽細胞をin vitroで同定する方法であって、UCP2及びFGF9、並びに任意選択でCOL11A1遺伝子及びACAN遺伝子で構成される群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現産物のレベル、並びにKLF9遺伝子の発現産物のレベルを測定する工程を含む方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真皮-皮下接合部線維芽細胞(FJDH)の亜集団を含むin vitro真皮等価物であって、
1)(i)UCP2遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルと比較して低下している、
(ii)ACAN遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルと比較して増加している、
(iii)FGF9遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルと比較して増加している、及び/又は
(iv)COL11A1遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルと比較して増加している、
並びに
2)KLF9遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルと比較して増加している、真皮等価物。
【請求項2】
乳頭状線維芽細胞の亜集団及び/又は網状線維芽細胞の亜集団を更に含む、請求項1に記載の真皮等価物。
【請求項3】
さらにコラーゲンを含む、請求項1又は2に記載の真皮等価物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の真皮等価物を含む、in vitro皮膚等価物。
【請求項5】
FJDH線維芽細胞であると真皮線維芽細胞を同定する初期の工程を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の真皮等価物の調製方法であって、
A)真皮線維芽細胞の均質な培養物を用意する工程と、
B)工程A)において用意された真皮線維芽細胞培養物の一部をサンプリングする工程と、
C)以下の工程
a)工程Bにおいてサンプリングされた真皮線維芽細胞培養物の一部を用意する工程、
b)UCP2遺伝子及びFGF9遺伝子から構成される群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現産物のレベル、並びに、KLF9遺伝子、及び、任意選択でCOL11A1遺伝子及びACAN遺伝子の発現産物のレベルを測定する工程、並びに、
c)工程b)において測定されたレベルに基づいて、真皮-皮下接合部線維芽細胞(FJDH)であると真皮線維芽細胞を同定する工程、
を含むin vitro同定方法を使用して、FJDH線維芽細胞の培養物であると、工程B)においてサンプリングされた真皮線維芽細胞培養物の一部を同定する工程と、
D)工程B)においてサンプリングされていない真皮線維芽細胞培養物の一部を使用して、真皮等価物を調製する工程と
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真皮繊維芽細胞の亜集団の同定に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、2つの関連するコンパートメント、すなわち表皮及び真皮で構成されている。
【0003】
表皮は3つの細胞種、すなわち、それ自体が表皮細胞の内の大部分であるケラチノサイト、メラノサイト及びランゲルハンス細胞で主に構成される。これらの細胞は、その上に角質層を形成する死細胞の層が存在する重ね合わせの層に分化する角質化表皮を形成する。
【0004】
真皮は表皮に固体支持体を提供する。真皮はまた表皮に栄養を供給する。真皮は線維芽細胞及び細胞外マトリクスで主に構成されている。
【0005】
真皮は、より正確には2種の全く別の層を含有する:乳頭状表層(300~400μm、表皮と接触している)及びその下にある網状層(皮下組織まで延びている)。真皮の結合性小柱も皮下組織に及ぶことができる。
【0006】
乳頭状真皮は、高密度の細胞と共に比較的薄い細胞外マトリクスにより特徴付けられるが、一方、網状真皮はマトリクス繊維の高密度のネットワーク及び低密度の細胞を有する。マトリクスの構成要素も2つの層で異なる。
【0007】
更に、それぞれ乳頭状線維芽細胞及び網状線維芽細胞と呼ばれる全く別のこれらの層の線維芽細胞を培養すると、それらは全く別の形態学的特徴を有する。例えば、網状線維芽細胞は拡張した且つより正方形の外観を有し、一方、乳頭状線維芽細胞は一般に薄い紡錘状形態を有する。更に、増殖、培養マトリクス産生、増殖因子への応答、及び増殖因子の産生の違いが、これら2種の細胞亜集団の間で観察される。
【0008】
したがって、正常な皮膚では、真皮は、線維芽細胞の少なくとも2種の亜集団で構成されており、このことは皮膚自体に本質的な結果を必然的に生み出す。
【0009】
皮膚等価物(又はin vitro再構成皮膚)の分野では、正常皮膚の反応をできる限り忠実に反映するために、正常皮膚のさまざまな構成要素の特徴及び特性をできる限り正確に再現することが必須である。
【0010】
真皮線維芽細胞の亜集団間の特性の違いについて見てきたが、in vitro皮膚等価物が、バイオマーカーを使用して、真皮線維芽細胞に関して明確に同定された亜集団を含むことが重要である。
【0011】
本発明は、このニーズを満たす。
【0012】
Jansonら(2012) Journal of Investigative Dermatology 132:2565~2572頁では、トランスクリプトーム研究を実施して、乳頭状表現型及び網状表現型の分子シグネチャーを同定した。彼らは、網状真皮で排他的に発現するMGPタンパク質を同定したが、一方、PDPN遺伝子及びNTN1遺伝子は、乳頭状線維芽細胞で全体的により高い発現を提示する。
【0013】
Nauroyら(2017) Journal of Investigative Dermatologyでは、若いドナー由来の皮膚試料のみから、乳頭状線維芽細胞には存在しない、網状線維芽細胞において差次的に発現する一部のマーカーが同定された。例えば、網状線維芽細胞で過剰発現していると、COL11A1、MGP、FGF18、COMP、及びACAN遺伝子が同定された。
【0014】
しかし、これらの論文では、乳頭状線維芽細胞及び網状線維芽細胞についてのみ考慮されている。しかし、本発明者らは、真皮-皮下接合部線維芽細胞と呼ばれる線維芽細胞の別の亜集団を、真皮によって皮下組織に放出される結合性小柱で分離できることを実証した。
【0015】
本発明者らはまた、少数のバイオマーカーを含めて、分子シグネチャーを同定したが、その結果、真皮線維芽細胞の3種の亜集団:乳頭状線維芽細胞、網状線維芽細胞及び真皮-皮下接合部線維芽細胞を同定及び区別することができる。
【0016】
真皮-皮下接合部線維芽細胞の亜集団を初めて分離することとは別に、本発明者らは実際に、UCP2遺伝子及びFGF9遺伝子、並びに任意選択でCOL11A1遺伝子及びACAN遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現レベル、並びに任意選択でKLF9遺伝子の発現レベルを測定することにより、乳頭状、網状及び真皮-皮下接合部の各線維芽細胞を同定できることを実証した。
【0017】
実際、UCP2遺伝子の発現レベルは、網状線維芽細胞及び真皮-皮下接合部線維芽細胞におけるよりも乳頭状線維芽細胞において有意に高く、一方、COL11A1、ACAN及びFGF9遺伝子の発現レベルは、乳頭状線維芽細胞におけるよりも、網状線維芽細胞及び真皮-皮下接合部線維芽細胞において有意に高い。最終的に、KLF9遺伝子の発現レベルは、網状線維芽細胞おけるよりも真皮-皮下接合部線維芽細胞において有意に高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】EP789074
【特許文献2】EP285471
【特許文献3】EP285474
【特許文献4】EP502172
【特許文献5】EP418035
【特許文献6】WO91/16010
【特許文献7】EP197090
【特許文献8】EP20753
【特許文献9】FR2665175
【特許文献10】FR2689904
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Jansonら(2012) Journal of Investigative Dermatology 132:2565~2572頁
【非特許文献2】Nauroyら(2017) Journal of Investigative Dermatology
【非特許文献3】Pecqueurら(1999) Biochemical and Biophysical Research Communications 255:40~46頁
【非特許文献4】Doegeら(1991) J. Biol. Chem. 15:894~902頁
【非特許文献5】Miyamotoら(1993) Molecular and Cellular Biology 13:4251~4259頁
【非特許文献6】Yoshiokaら(1990) J. Biol. Chem. 15:6423~6426頁
【非特許文献7】Sporlら(2012) Proc. Natl. Acad. Science USA 109:10903~10908頁
【非特許文献8】Regnierら、Frontier of Matrix Biology、Vol. 9、4~35頁(Karger社、Basel、1981)
【非特許文献9】Olssonら(1994) Acta. Derm. Venereol. 74:226~268頁
【非特許文献10】Asselineauら(1985) Exp. Cell. Res. 159:536~539頁
【非特許文献11】Asselineauら(1987)、Models in dermato.、col III、Lowe&Mailbach編、1~7頁
【非特許文献12】Asselineauら(1984) Br J Dermatol. 111 Suppl 27:219~22頁
【非特許文献13】Rheinwald and Green (1975) Cell 6:317~330頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
したがって、本発明は、乳頭状線維芽細胞、網状線維芽細胞又は真皮-皮下接合部線維芽細胞(FJDH)であると真皮線維芽細胞を同定するin vitro方法であって、
a)少なくとも1種の真皮線維芽細胞を含む生物学的試料を用意する工程と、
b)UCP2遺伝子及びFGF9遺伝子並びに任意選択でCOL11A1遺伝子及びACAN遺伝子で構成される群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現産物のレベル、並びに任意選択でKLF9遺伝子の発現産物のレベルを測定する工程と、
c)工程b)において測定されたレベルに基づいて、乳頭状線維芽細胞、網状線維芽細胞又は真皮-皮下接合部線維芽細胞(FJDH)であると真皮線維芽細胞を同定する工程と
を含む方法に関する。
【0021】
本発明の別の目的は、乳頭状線維芽細胞、網状線維芽細胞又は真皮-皮下接合部線維芽細胞(FJDH)であると真皮線維芽細胞をin vitroで同定するためのマーカーとしての、任意選択でKLF9遺伝子の発現産物と組み合わせた、UCP2遺伝子及びFGF9遺伝子、並びに任意選択でCOL11A1遺伝子及びACAN遺伝子で構成される群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現産物の使用である。
【0022】
本発明の別の目的は、真皮-皮下接合部線維芽細胞(FJDH)の亜集団を含むin vitro真皮等価物に関する。
【0023】
本発明はまた、本発明による真皮等価物を含むin vitro皮膚等価物に関する。
【0024】
本発明はまた、乳頭状線維芽細胞、網状線維芽細胞又は真皮-皮下接合部線維芽細胞(FJDH)であると真皮線維芽細胞を同定するためのキットであって、
- UCP2遺伝子発現産物のレベルを測定する手段、FGF9遺伝子発現産物のレベルを測定する手段、COL11A1遺伝子発現産物のレベルを測定する手段及びACAN遺伝子発現産物のレベルを測定する手段で構成される群から選択される少なくとも1つの測定手段、
並びに
- KLF9遺伝子発現産物のレベルを測定する少なくとも1つの手段
を含むキットに関する。
【0025】
本発明の別の目的は、 乳頭状線維芽細胞、網状線維芽細胞又は真皮-皮下接合部線維芽細胞(FJDH)であると真皮線維芽細胞を同定するためのDNAマイクロアレイであって、
- UCP2遺伝子発現産物を検出するプローブ、FGF9遺伝子発現産物を検出するプローブ、COL11A1遺伝子発現産物を検出するプローブ、及びACAN遺伝子発現産物を検出するプローブで構成される群から選択される少なくとも1つのプローブ、
並びに
- KLF9遺伝子発現産物を検出する少なくとも1つのプローブ
を含むDNAマイクロアレイに関する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
繊維芽細胞
本明細書では、「真皮線維芽細胞」とは、真皮に由来する線維芽細胞を指す。
【0027】
本明細書では、「乳頭状線維芽細胞」とは、乳頭状真皮の線維芽細胞を指し、乳頭状真皮は、比較的薄い細胞外マトリクス及び高密度の細胞によって特徴付けられる。培養での乳頭状線維芽細胞は通常、薄い紡錘状の形態を有する。
【0028】
本明細書では、「網状線維芽細胞」とは、網状真皮の線維芽細胞を指し、網状真皮は、マトリクス繊維の比較的密な格子及び低密度の細胞によって特徴付けられる。培養での網状線維芽細胞は通常、拡張した且つより正方形の外観を有する。
【0029】
本明細書では、「真皮-皮下接合部線維芽細胞」又は「FJDH線維芽細胞」とは、真皮によって皮下組織に放出された結合性小柱と同じレベルに位置するゾーンからの線維芽細胞を意味する。培養でのFJDH線維芽細胞は通常、極めて不均一な形態を有する。したがって、極めて多様な形状が細胞のカーペット中に観察され、極めて小さな三尖細胞から、かなり目立つ細胞内小柱ネットワーク(光学顕微鏡で可視可能)を持つ極めて大きな多重極の細胞まで様々である。
【0030】
同定方法
本発明による同定方法における工程(a)は、上記の「線維芽細胞」の節に定義されている通り、少なくとも1種の真皮線維芽細胞を含む生物学的試料を用意する工程を含む。
【0031】
具体的には、生物学的試料は、真皮線維芽細胞のin vitro培養物又は真皮線維芽細胞の混合物、皮膚生検に由来する試料、又はin vitroの真皮等価物若しくは皮膚等価物に由来する試料であり得る。
【0032】
具体的には、試料は、15から40歳の間である、好ましくは17から31歳の間である対象などの若年対象で行われたヒト皮膚生検に由来することができる。
【0033】
本発明による同定方法における工程b)は、UCP2遺伝子及びFGF9遺伝子並びに任意選択でCOL11A1及びACAN遺伝子で構成される群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現産物のレベル、並びに任意選択でKLF9遺伝子の発現産物のレベルの測定を含む。
【0034】
本明細書では、「UCP2遺伝子」とは、「ミトコンドリア脱共役タンパク質2」のコード遺伝子を意味する。UCP2遺伝子はまたSLC25A8遺伝子とも呼ばれ、UCP2タンパク質はまたUCPH又は「ソリュートキャリアファミリー25メンバー8」とも呼ばれる。これは、ミトコンドリアの陰イオン性サポートタンパク質(MACP)のファミリーに属し、ミトコンドリアに由来する活性酸素種を制御する。これは典型的には、Pecqueurら(1999) Biochemical and Biophysical Research Communications 255:40~46頁に記載されている。ヒトUCP2タンパク質配列は典型的には、UniProt番号P55851として参照される。
【0035】
本明細書では、「ACAN遺伝子」とは、「アグリカンコアタンパク質」のコード遺伝子を意味する。ACAN遺伝子はまたAGC1遺伝子、CSPG1遺伝子及びMSK16遺伝子とも呼ばれ、ACANタンパク質はまた、「アグリカン」若しくは「軟骨特異的プロテオグリカンコアタンパク質」又はCSPCP又は「コンドロイチン硫酸プロテオグリカンコアタンパク質1」又は「コンドロイチン硫酸プロテオグリカン1」とも呼ばれる。これは軟骨組織の細胞外マトリクスの一部を形成する。これはプロテオグリカンである。これは典型的には、Doegeら(1991) J. Biol. Chem. 15:894~902頁に記載されている。ヒトACANタンパク質配列は典型的には、UniProt番号P16112として参照される。
【0036】
本明細書では、「FGF9遺伝子」とは、線維芽細胞増殖因子9をコードする遺伝子を意味する。FGF9タンパク質はまた、「グリア活性化因子」又はGAF又は「ヘパリン結合増殖因子9」又はHBGF-9とも呼ばれる。これは培養中のグリア細胞に対する成長刺激効果を有する。これは典型的には、Miyamotoら(1993) Molecular and Cellular Biology 13:4251~4259頁に記載されている。ヒトFGF9タンパク質配列は典型的には、UniProt番号P31371として参照される。
【0037】
本明細書では、「COL11A1遺伝子」とは、コラーゲンのα1(XI)鎖をコードする遺伝子を意味する。COL11A1遺伝子はまた、COLL6遺伝子とも呼ばれる。この鎖は、マイナーな線維性コラーゲンであるXI型コラーゲンの2種のアルファ鎖のうちの1つである。これは典型的には、Yoshiokaら(1990) J. Biol. Chem. 15:6423~6426頁に記載されている。ヒトCOL11A1タンパク質配列は典型的には、UniProt番号P12107として参照される。
【0038】
本明細書では、「KLF9遺伝子」とは、Krueppel様因子9をコードする遺伝子を指す。KLF9遺伝子はまた、BTEB遺伝子又はBTEB1遺伝子とも呼ばれ、KLF9タンパク質はまた、BTEB1転写因子又はGC-box-結合タンパク質1又は基本的な転写エレメント結合タンパク質1又はBTEタンパク質1(「BTE結合タンパク質1」)、とも呼ばれる。これは、タイプSp1 C2H2ジンクフィンガー転写因子のファミリーの一部を形成する。これは典型的には、Sporlら(2012) Proc. Natl. Acad. Science USA 109:10903~10908頁に記載されている。ヒトKLF9タンパク質配列は、典型的にはUniProt番号Q13886として参照される。
【0039】
本発明の文脈において、上記で引用のUniProtレファレンスは、2017年7月31日に入手可能であったものである。
【0040】
特定の一実施形態では、工程(b)は、UCP2遺伝子及びFGF9遺伝子で構成される群から選択される少なくとも2つの遺伝子の発現産物のレベル並びに任意選択でKLF9遺伝子の発現産物のレベルの測定、好ましくはUCP2遺伝子及びFGF9遺伝子で構成される群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現産物のレベル並びにACAN遺伝子及びCOL11A1遺伝子で構成される群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現産物のレベル並びに任意選択でKLF9遺伝子の発現産物のレベルの測定、好ましくは少なくともUCP2、ACAN、FGF9及びCOL11A1遺伝子で構成される群から選択される少なくとも3つの遺伝子の発現産物のレベル並びに任意選択でKLF9遺伝子の発現産物のレベルの測定、更により好ましくはUCP2、ACAN、FGF9及びCOL11A1遺伝子で構成される群から選択される少なくとも4つの遺伝子の発現産物のレベル並びに任意選択でKLF9遺伝子の発現産物のレベルの測定を含む。
【0041】
特定の一実施形態では、工程(b)は、UCP2遺伝子及びFGF9遺伝子で構成される群から選択される少なくとも1つの遺伝子、特に少なくとも2つの遺伝子の発現産物のレベルの測定を含む。別の特定の実施形態では、工程(b)は、UCP2遺伝子及びFGF9遺伝子で構成される群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現産物のレベル、並びにCOL11A1遺伝子及びACAN遺伝子で構成される群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現産物のレベルの測定を含む。別の特定の実施形態では、工程(b)は、UCP2、ACAN、FGF9及びCOL11A1遺伝子で構成される群から選択される、少なくとも3つの遺伝子、特に少なくとも4つの遺伝子の発現産物のレベルの測定を含む。
【0042】
別の特定の実施形態では、工程(b)は、UCP2、ACAN、FGF9及びCOL11A1遺伝子で構成される群から選択される、少なくとも1つの遺伝子、特に少なくとも2つの遺伝子、3つの遺伝子又は4つの遺伝子の発現産物のレベルの測定、並びに
KLF9遺伝子の発現産物のレベルの測定を含む。
【0043】
本明細書では、「X遺伝子の発現産物」という用語は、前記X遺伝子によってコードされるmRNA又は前記X遺伝子によってコードされるタンパク質を意味する。したがって、X遺伝子の発現産物のレベルは、mRNA又は相応するタンパク質を定量化することによって測定することができる。特定の一実施形態では、X遺伝子の前記発現産物は、前記X遺伝子によってコードされるmRNAである。
【0044】
好ましくは、発現産物のレベルは、発現産物の濃度又は量に相応する。
【0045】
X遺伝子の発現産物のレベルは、工程(b)において、当業者に公知である任意の技法によって測定することができる。具体的には、発現産物がタンパク質である場合、発現産物のレベルは、ELISAアッセイ、免疫蛍光アッセイ(IFA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、競合結合テスト又はウエスタンブロットテストなどの免疫学的アッセイによって測定することができる。発現産物がmRNAである場合、発現産物のレベルは、RT-PCR、qRT-PCR、ddPCR(ドロップレットデジタルPCR)によって、シーケンシングによって、例えばNGS(次世代シーケンシング)タイプのシーケンシング又はddSEQ(登録商標)シングルセルアイソレータータイプのシーケンシングによって測定することができる。
【0046】
試験試料におけるX遺伝子の発現産物のレベルは、比[試験試料におけるX遺伝子の発現レベル/X遺伝子の対照レベル]が2以上である場合に増加していると言われている。
【0047】
試験試料におけるX遺伝子の発現産物のレベルは、比[X遺伝子の対照レベル/試験試料におけるX遺伝子の発現レベル]が2以上である場合に低下していると言われている。
【0048】
比[X遺伝子の対照レベル/試験試料のX遺伝子の発現レベル]が2以上の場合、得られた値の前に(-)記号が付されている。
【0049】
この比は、従来「倍率変化」と呼ばれている。
【0050】
本発明による同定方法における工程c)は、工程(b)において測定されたレベルに基づいて、乳頭状線維芽細胞、網状線維芽細胞又は真皮-皮下接合部線維芽細胞(FJDH)であると真皮線維芽細胞を同定する工程を含む。
【0051】
本発明の特定の一実施形態では、本発明による同定方法の工程(c)は、工程b)において測定されたレベルの1つ又は複数の対照レベルとの比較を含む。
【0052】
本明細書では、「対照レベル」とは、特に同じドナーに由来する、乳頭状、網状又はFJDHの各線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞における前記遺伝子の前記発現産物のレベルに好ましくは相応する基準値を意味する。
【0053】
本明細書では、「乳頭状、網状又はFJDHの各線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞」とは、タイプ(乳頭状、網状又はFJDH)がその形態、その給源又は検出されたバイオマーカーを考慮して先に決定されている状態の真皮線維芽細胞を意味する。
【0054】
乳頭状真皮線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞は、非脱脂ヒト皮膚から、とりわけ300μmで採皮された組織上で分離し、次いで、4℃で16時間ディスパーゼ作用(Roche社-2.4U/mL)後に脱表皮化することができる。
【0055】
網状真皮線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞は、その真皮-皮下組織接合部から除去された組織部分由来の非脱脂ヒト皮膚から分離することができる;次いで、組織を700μmで採皮する。組織の下部のみを維持する。
【0056】
FJDH真皮線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞は、真皮-皮下組織接合部に存在する結合性小柱から採取できる。これは、クランプとはさみを使用して採取できる。
【0057】
特定の一実施形態では、UCP2遺伝子及びFGF9遺伝子で構成される群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現産物のレベルは、工程b)において好ましくは測定され、
真皮線維芽細胞は、
(i)UCP2遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルよりも高い場合、及び/又は
(ii)FGF9遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルよりも低い場合
に乳頭状線維芽細胞であると同定され、
(i)及び(ii)の対照レベルとは、好ましくは、網状線維芽細胞又はFJDH線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞におけるそれぞれUCP2遺伝子及びFGF9遺伝子の発現産物のレベルである。
【0058】
別の特定の実施形態では、UCP2遺伝子及びFGF9遺伝子で構成される群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現産物のレベル、並びにCOL11A1遺伝子及びACAN遺伝子で構成される群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現産物のレベルは、工程b)において好ましくは測定され、
真皮線維芽細胞は、
1)(i)UCP2遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルよりも高い場合、及び/又は
(ii)FGF9遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルよりも低い場合、
並びに
2)(iii)COL11A1遺伝子の発現産物の発現レベルが対照レベルよりも低い場合、及び/又は
(iv)ACAN遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルよりも低い場合
に乳頭状線維芽細胞であると同定され、
(i)、(ii)、(iii)、及び(iv)の対照レベルとは、好ましくは、網状線維芽細胞又はFJDH線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞におけるUCP2、FGF9、COL11A1及びACAN遺伝子の発現産物のレベルである。
【0059】
別の特定の実施形態では、UCP2、ACAN、FGF9及びCOL11A1遺伝子で構成される群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現産物のレベル、並びにKLF9遺伝子の発現産物のレベルは、工程b)において好ましくは測定され、
真皮線維芽細胞は、
1)(i)UCP2遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルよりも低い場合、
(ii)ACAN遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルよりも高い場合、
(iii)FGF9遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルよりも高い場合、及び/又は
(iv)COL11A1遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルよりも高い場合、
並びに
2)KLF9遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルよりも低い場合
に網状線維芽細胞であると同定され、
1(i)、1(ii)、1(iii)、及び1(iv)の対照レベルとは、好ましくは、乳頭状線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞におけるそれぞれUCP2、ACAN、FGF9及びCOL11A1遺伝子の発現産物のレベルであり、2)の対照レベルとは、好ましくは、FJDH線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞におけるKLF9遺伝子の発現産物のレベルである。
【0060】
別の特定の実施形態では、UCP2、ACAN、FGF9及びCOL11A1遺伝子で構成される群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現産物のレベル、並びにKLF9遺伝子の発現産物のレベルは、工程b)において好ましくは測定され、
真皮線維芽細胞は、
1)(i)UCP2遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルよりも低い場合、
(ii)ACAN遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルよりも高い場合、
(iii)FGF9遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルよりも高い場合、及び/又は
(iv)COL11A1遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルよりも高い場合、
並びに
2)KLF9遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルよりも高い場合
場合に真皮-皮下接合部線維芽細胞であると同定され、
1(i)、1(ii)、1(iii)、及び1(iv)の対照レベルとは、好ましくは、乳頭状線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞におけるそれぞれUCP2、ACAN、FGF9及びCOL11A1遺伝子の発現産物のレベルであり、2)の対照レベルとは、好ましくは、網状線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞におけるKLF9遺伝子の発現産物のレベルである。
【0061】
本明細書で「より高いレベル」とは、対照レベルよりも統計学的に有意に高いレベルを意味する。好ましくは、より高いレベルは、上記に定義されている対照レベルよりも、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも2.06倍、少なくとも2.5倍、少なくとも3倍、少なくとも3.2倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4倍、少なくとも4.2倍、少なくとも4.28倍、少なくとも4.5倍、少なくとも5倍、少なくとも5.5倍、少なくとも5.8倍、少なくとも5.83倍、少なくとも10倍、少なくとも15倍、少なくとも20倍、少なくとも25倍、少なくとも28倍、少なくとも28.5倍、又は少なくとも28.6倍高い。
【0062】
本明細書では、「より低いレベル」とは、対照よりも統計学的に有意に低いレベルを意味する。好ましくは、低下したレベルは、上記に定義されている対照レベルの1.5分の1以下、2分の1以下、2.06分の1以下、2.5分の1以下、3分の1以下、3.2分の1以下、3.5分の1以下、4分の1以下、4.2分の1以下、4.28分の1以下、4.5分の1以下、5分の1以下、5.5分の1以下、5.8分の1以下、5.83分の1以下、10分の1以下、15分の1以下、20分の1以下、25分の1以下、28分の1以下、28.5分の1、又は28.6分の1以下である。
【0063】
好ましくは、真皮線維芽細胞は、
(i)UCP2遺伝子の発現産物のレベルが、特に網状線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞におけるUCP2遺伝子の発現産物のレベルを参照して、上記に定義されている対照レベルよりも少なくとも5倍高く、特に少なくとも5.5倍、少なくとも5.8倍、又は少なくとも5.83倍高い場合、及び/又は
(ii)FGF9遺伝子の発現産物のレベルが、特に網状線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞におけるFGF9遺伝子の発現産物のレベルを参照して、上記に定義されている対照レベルの4分の1以下であり、特に4.2分の1以下又は4.28分の1以下である場合
に乳頭状線維芽細胞であると同定される。
【0064】
また、好ましくは、真皮線維芽細胞は、
1)(i)UCP2遺伝子の発現産物のレベルが、特に、網状線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞におけるUCP2遺伝子の発現産物のレベルを参照して、上記に定義されている対照レベルよりも少なくとも5倍高く、特に少なくとも5.5倍、少なくとも5.8倍、又は少なくとも5.83倍高い場合、及び/又は
(ii)FGF9遺伝子の発現産物のレベルが、特に、網状線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞におけるFGF9遺伝子の発現産物のレベルを参照して、上記に定義されている対照レベルの4分の1以下であり、特に4.2分の1以下又は4.28分の1以下である場合、
並びに
2)(iii)COL11A1遺伝子の発現産物のレベルが、特に、網状線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞におけるCOL11A1遺伝子の発現産物のレベルを参照して、上記に定義されている対照レベルの25分の1以下であり、特に28分の1以下、28.5分の1以下、又は28.6分の1以下である場合、及び/又は
(iv)ACAN遺伝子の発現産物のレベルが、特に、網状線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞におけるACAN遺伝子の発現産物のレベルを参照して、上記に定義されている対照レベルの3分の1以下であり、特に3.2分の1以下である場合
に乳頭状線維芽細胞であると同定される。
【0065】
好ましくは、真皮線維芽細胞は、
1)(i)UCP2遺伝子の発現産物のレベルが、特に、乳頭状線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞におけるUCP2遺伝子の発現産物のレベルを参照して、上記に定義されている対照レベルの5分の1以下であり、特に5.5以下、5.8分の1以下、又は5.83分の1以下である場合、
(ii)ACAN遺伝子の発現産物のレベルが、特に、乳頭状線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞のACAN遺伝子の発現産物のレベルを参照して、上記に定義されている対照レベルよりも少なくとも3倍高く、特に少なくとも3.2倍高い場合、
(iii)FGF9遺伝子の発現産物のレベルが、特に、乳頭状線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞におけるFGF9遺伝子の発現産物のレベルを参照して、上記に定義されている対照レベルよりも少なくとも4倍高く、特に少なくとも4.2倍又は少なくとも4.28倍高い場合、及び/又は
(iv)COL11A1遺伝子の発現産物のレベルが、特に、乳頭状線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞におけるCOL11A1遺伝子の発現産物のレベルを参照して、上記に定義されている対照レベルよりも少なくとも25倍高く、特に少なくとも28倍、少なくとも28.5倍又は少なくとも28.6倍高い場合
に、網状線維芽細胞又はFJDH線維芽細胞であると同定される。
【0066】
好ましくは、真皮線維芽細胞は、加えて、
2)KLF9遺伝子の発現産物のレベルが、特に、網状線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞におけるKLF9遺伝子の発現産物のレベルを参照して、上記に定義されている対照レベルよりも少なくとも2倍高く、特に少なくとも2.06倍高い場合
にFJDH線維芽細胞であると同定される。
【0067】
好ましくは、真皮線維芽細胞は、加えて、
2)KLF9遺伝子の発現産物のレベルが、特に、FJDH線維芽細胞であると分かっている真皮線維芽細胞におけるKLF9遺伝子の発現産物のレベルを参照して、上記に定義されている対照レベルの2分の1以下であり、特に2.06分の1以下である場合
に網状線維芽細胞であると同定される。
【0068】
キット及びマイクロアレイ
本発明の別の目的は、乳頭状線維芽細胞、網状線維芽細胞又は真皮-皮下接合部線維芽細胞(FJDH)であると真皮線維芽細胞を同定するためのキットであって、
- UCP2遺伝子発現産物のレベルを測定する手段、FGF9遺伝子発現産物のレベルを測定する手段、COL11A1遺伝子発現産物のレベルを測定する手段及びACAN遺伝子発現産物のレベルを測定する手段で構成される群から選択される少なくとも1つの測定手段、
- KLF9遺伝子発現産物のレベルを測定する少なくとも1つの手段、並びに
-対照レベルを得ることができる1つの対照又は複数の対照
を含むキットである。
【0069】
具体的には、キットはまた、個別の成分として、上記に定義されている生物学的試料中の前記遺伝子によってコードされるタンパク質を認識する抗体を含んでもよい。キットは、個別の成分として、前記遺伝子によってコードされるmRNAに特異的にハイブリダイズするプライマー及び/又はプローブを含んでもよい。
【0070】
キットはまた、本発明による同定方法を実行するための更なる任意選択の成分を含んでもよい。そのような任意選択の成分には、例えば、容器、ミキサー、バッファ、方法を実行するための指示書、マーカー又は支持体が含まれる。
【0071】
本発明の別の目的は、 乳頭状線維芽細胞、網状線維芽細胞又は真皮-皮下接合部線維芽細胞(FJDH)であると真皮線維芽細胞を同定するためのDNAマイクロアレイであって、
- UCP2遺伝子発現産物を検出するプローブ、FGF9遺伝子発現産物を検出するプローブ、COL11A1遺伝子発現産物を検出するプローブ、及びACAN遺伝子発現産物を検出するプローブで構成される群から選択される少なくとも1つのプローブ
並びに
- KLF9遺伝子発現産物を検出する少なくとも1つのプローブ、
で構成されるDNAマイクロアレイである。
【0072】
本発明によるDNAマイクロアレイは、UCP2、FGF9、COL11A1、ACAN及びKLF9以外の遺伝子の発現産物を検出するどんなプローブも含まない。
【0073】
本明細書では、「DNAマイクロアレイ」とは、基板上の少なくとも2種のプローブの規則配置を指す。好ましくは、本発明によるDNAマイクロアレイは、対照プローブ又は標準プローブも含む。
【0074】
本明細書では、「プローブ」とは、制限酵素の精製消化産物として天然に存在する又は合成的に生産され、プローブの配列に相補的な配列を持つポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズすることができる、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、RNA又はDNAを意味する。プローブは一本鎖でも二本鎖でもよい。好ましくは、プローブは、10~100ヌクレオチド、好ましくは15~50ヌクレオチド又は15~25ヌクレオチドを含む又はそれらからなる。
【0075】
真皮等価物及び皮膚等価物
本発明者らは、初めて、真皮線維芽細胞の亜集団:真皮-皮下組織接合部の線維芽細胞を同定した。
【0076】
したがって、この新しい線維芽細胞を真皮等価物で使用すると、正常な真皮をより正確にまねることできる。
【0077】
したがって、本発明の別の目的は、上記の「線維芽細胞」の節に定義されている、真皮-皮下接合部線維芽細胞(FJDH)の亜集団を含むin vitro真皮であって、
1)(i)UCP2遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルと比較して低下している、
(ii)ACAN遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルと比較して増加している、
(iii)FGF9遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルと比較して増加している、及び/又は
(iv)COL11A1遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルと比較して増加している、
並びに
2)KLF9遺伝子の発現産物のレベルが対照レベルと比較して増加している、真皮である。
【0078】
本発明による真皮等価物はまた、上記の「線維芽細胞」節に定義されている、乳頭状線維芽細胞の亜集団及び/又は網状線維芽細胞の亜集団も含む。
【0079】
本発明による真皮等価物はまた、好ましくはコラーゲンも含む。
【0080】
本発明による真皮等価物のコラーゲンは、任意の型のコラーゲン及び任意の起源であり得る。好ましくは、コラーゲンは、I型、III型又はV型の線維性コラーゲンのうちから選択される。好ましくは、コラーゲンはI型である。好ましくは、コラーゲンは動物起源、特にウシ起源である。特に好ましくは、コラーゲンはウシI型コラーゲンである。或いは、コラーゲンは、任意の比率及び/又は種々の起源の様々な型のコラーゲンの混合物であり得る。
【0081】
本発明による真皮等価物の線維芽細胞は、ヒト線維芽細胞であるのが好ましいが、任意の起源でもよい。
【0082】
本発明による真皮等価物に存在する線維芽細胞は、好ましくは、線維芽細胞の培養物に由来し、その一部を使用して本発明による同定方法を実行し、その結果、培養物が乳頭状、網状又はFJDHの各線維芽細胞の培養物であると、培養物全体を同定することが可能になった。
【0083】
本発明による真皮等価物はまた、内皮細胞、マクロファージ、単球、マクロファージ前駆体、樹状細胞前駆体又は神経細胞などの、皮膚に構成的に存在し得る他の任意の成分も含んでよい。
【0084】
本発明はまた、FJDH線維芽細胞であると真皮線維芽細胞を同定する初期の工程を含む、上記に定義されている真皮等価物の調製方法であって、
A)真皮線維芽細胞の均質な培養物を用意する工程と、
B)工程A)において用意された真皮線維芽細胞培養物の一部をサンプリングする工程と、
C)上記に定義されている「同定方法」の節で定義されている同定方法を使用して、FJDH線維芽細胞の培養物であると、工程B)においてサンプリングされた真皮線維芽細胞培養物の一部を同定する工程と、
D)工程B)においてサンプリングされていない真皮線維芽細胞培養物の一部を使用して、真皮等価物を調製する工程と
を含む方法にも関する。
【0085】
当業者に周知である任意の技法を使用して、工程D)において真皮等価物を調製することができる。
【0086】
したがって、工程D)における真皮等価物の調製は、コラーゲンを含有する格子及びFJDH線維芽細胞の細胞懸濁液、並びに場合によっては乳頭状線維芽細胞及び/又は網状線維芽細胞の細胞懸濁液を調製する工程を含み得る。
【0087】
先述の通り、使用されるコラーゲンは、単独又は混合された、任意の起源由来の任意の型のコラーゲンであり得る。
【0088】
好ましくは、格子は、11×105~5×106細胞/mlの濃度で、好ましくは2×105~2×106細胞/mlの濃度で、線維芽細胞を含む。
【0089】
格子は、当業者に周知である任意の技法によって調製することができる。
【0090】
具体的には、コラーゲン及び真皮線維芽細胞を含む溶液を調製し、支持体上に沈着させることができる。
【0091】
好ましくは、コラーゲンがゲル化できるように、溶液を、例えば10~30分間インキュベートし、次いで、インキュベーション中に保って、格子収縮を可能にする。
【0092】
したがって、好ましくは、格子は更に1~7日間、更により好ましくは3又は4日間、インキュベーション中に保たれる。
【0093】
真皮含有量は表皮コンパートメントに影響を与えるので、本発明による真皮等価物は、皮膚等価物の形成のための支持体として働くことができる。
【0094】
したがって、本発明はまた、上記に定義されている真皮等価物を含むin vitro皮膚等価物にも関する。
【0095】
本発明による皮膚等価物は、真皮等価物の上面に、少なくともケラチノサイトを含む表皮等価物を含む。
【0096】
ケラチノサイトは任意の給源から得ることができるが、ヒトケラチノサイトであることが好ましい。これは、当業者に周知である任意の方法によって調製することができる。したがって、ケラチノサイトは、正常な皮膚試料由来の分離表皮を培養することによって、又は毛包の鞘から得られたケラチノサイトを培養することによって調製することができる。
【0097】
好ましくは、ケラチノサイトは正常なヒト皮膚ケラチノサイトである。
【0098】
更により好ましくは、ケラチノサイトは、Regnierら、Frontier of Matrix Biology、Vol. 9、4~35頁(Karger社、Basel、1981)に記載の方法により採取された正常な皮膚試料から得られたヒト分離表皮から調製される。
【0099】
表皮等価物は、ランゲルハンス細胞及び/又はランゲルハンス細胞前駆体及び/又はメラノサイトなどの他の細胞種を含むことができる。
【0100】
更に、表皮等価物は、メラノサイト及び/又はランゲルハンス細胞及び/又はランゲルハンス細胞前駆体を有利には含み得る。
【0101】
メラノサイトは、正常な皮膚又は毛包などの、それを含有する任意の器官から分離することができる。優先的には、メラノサイトは正常な皮膚から分離される。Olssonら(1994) Acta. Derm. Venereol. 74:226~268頁に記載の方法などの、当業者に周知である任意の方法を使用することができる。
【0102】
ランゲルハンス細胞及び/又はランゲルハンス細胞前駆体は、欧州特許出願EP789074に記載の通りであり得る。
【0103】
本発明はまた、上記に定義されている真皮等価物の調製方法を使用する真皮等価物の調製工程を含めて、上記に定義されている皮膚等価物を調製する方法に関する。
【0104】
好ましくは、皮膚等価物の調製方法は、真皮等価物の調製工程の後に、真皮等価物上で少なくともケラチノサイトを含む表皮等価物の再構成を伴う工程を含む。
【0105】
この表皮再構成工程は、EP285471、EP285474、EP789074、EP502172、EP418035、WO91/16010、EP197090、EP20753、FR2665175及びFR2689904の各特許出願に記載の技法、又はAsselineauら(1985) Exp. Cell. Res. 159:536~539頁に、Asselineauら(1987)、Models in dermato.、col III、Lowe&Mailbach編、1~7頁に、又はAsselineauら(1984) Br J Dermatol. 111 Suppl 27:219~22頁に記載の技法などの、当業者に周知である任意の技法によって行うことができる。
【0106】
この再構成工程の前に、例えばMEM 1.76×培地、FCS、NaOH 0.1N及びMEM 25mM Hepes 10%FCSからなる接着溶液を使用して、調製された真皮等価物の、培養皿中で行われる接着工程が有利にはあってもよい。
【0107】
好ましくは、再構成工程は、好ましくは播種ループにおいて、真皮等価物上にケラチノサイトを播種することによって実行される。
【0108】
真皮等価物上にケラチノサイトを播種後、培養物については、栄養培地に、例えば、Rheinwald and Green (1975) Cell 6:317~330頁に記載の培地であってもよいが、ケラチノサイト増殖を可能にする培地に、入れて有利には保持することができる。
【0109】
好ましくは3~15日の、更により好ましくは7~9日のインキュベーション期間に続いて、皮膚等価物を、例えば金属メッシュ上へと沈着させることにより、気相/液相界面に維持することが好ましい。次いで、この液体は、先と同じ栄養培地からなることが好ましい。
【0110】
次いで、好ましくは、皮膚の特徴を提示する皮膚等価物が得られるまで、すなわち、4種の標準的なタイプの細胞層、すなわち基底層、基底細胞の上層、顆粒層及び角質層を提示する表皮等価物によってカバーされている皮膚等価物が得られるまで、インキュベーションを続ける。
【0111】
このようにして、インキュベーションは、5から30日の間、更により好ましくは7から10日の間の期間、継続されるのが好ましい。
【0112】
使用
本発明はまた、皮膚機能を研究するための、上記の「真皮等価物及び皮膚等価物」の節に定義されている真皮等価物の使用、又は上記の「真皮等価物及び皮膚等価物」の節に定義されている皮膚等価物の使用に関する。
【0113】
本発明はまた、特に、しわや線の治療などの抗老化の分野における及び/又は炎症の分野における及び/又は例えば色素沈着斑の治療などの色素沈着の分野における、皮膚への局所適用後に化粧活性を提示する化合物をスクリーニングする方法に関するものであり、前記スクリーニング方法は、本発明による真皮等価物への、又は本発明による皮膚等価物への候補化合物の適用を含む。
【0114】
本出願全体を通して、別途規定しない限り、「1つを含む(comprising a)」又は「1つを含む(including a)」という用語は、「少なくとも1つを含む」又は「少なくとも1つを含む」、言い換えれば「1つ又は複数を含む」又は「1つ又は複数を含む」ことを意味する。
【0115】
上記の本明細書全体を通して、別途規定しない限り、「xからyの間」又は「xからyまでの範囲」という用語は包括的な範囲を指す、すなわち、値x及び値yはその範囲内に含まれる。
【0116】
以下の実施例により、本発明をより詳細に例示する。
【実施例0117】
以下の実施例には、本発明者らによる真皮-皮下接合部線維芽細胞の新しい亜集団の分離、及び、真皮に存在する線維芽細胞の亜集団の分子シグネチャーの同定が示されている。
【0118】
材料及び方法
細胞の調製
乳頭状線維芽細胞(Fp)、網状線維芽細胞(Fr)及び真皮-皮下接合部線維芽細胞(FJDH)を、非脱脂ヒト皮膚から分離した。これらの試料は、審美的理由のための乳房縮小術後に採取されたものである。6人の女性が関与した。
【0119】
FJDHは、真皮-皮下組織接合部に存在する結合性小柱から分離されたものである。結合性小柱は、クランプとはさみを使用してサンプリングされる。
【0120】
Fr分離は、その真皮-皮下組織接合部がかのように除去された組織の一部で行われる。次いで、組織を700μmで採皮する。組織の下部のみを維持する。
【0121】
Fpの分離を、300μmで採皮した組織上で行い、次いで、4℃で16時間ディスパーゼ作用(Roche社-2.4U/mL)後に脱表皮化する。
【0122】
引き裂いた後、真皮の断片をII型コラゲナーゼの作用下、0.2%(Gibco)で、37℃で消化する。
【0123】
次いで、湿潤雰囲気で、37℃、5%CO2で、グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸、ペニシリン、ストレプトマイシン及びファンギゾンを補充した、MEM培地 - 10%ウシ胎児血清中で、細胞を増幅する。
【0124】
トランスクリプトーム解析及びRT-qPCR
細胞増殖後(集団は7倍から10倍の間に倍増)、サプライヤーの指示書に従ってmRNAをQIAgenカラムで抽出する。
【0125】
試料を2つに分けた:1部はトランスクリプトーム解析用に取っておき、もう1部はPCRによるバイオマーカーの検証に使用した。
【0126】
トランスクリプトーム解析は、Affymetrix GeneChip HG-U133 Plus 2.0タイプのマイクロアレイを使用して行った。差次的に発現していると思われるプローブセットは、未補正p値<0.05について、倍率変化>2を有した。
【0127】
RT-qPCRによる検証に使用されるプライマーはQiagen社(QIAgen-Quantitech Primer Assay)から市販されており、下のtable 1(表1)
【0128】
【0129】
にリストされている。
【0130】
再構成皮膚
再構成皮膚は、Asselineauら(1985) Exp. Cell. Res. 159:536~539頁に記載のプロトコルを使用して調製した。
【0131】
要するに、真皮-皮下組織接合部由来の106個の線維芽細胞(FJDH)を、I型ウシコラーゲン溶液(Symatese)に含めた。格子の組織化及び収縮の4日後、5×104個のケラチノサイトを、格子表面で播種する。培養物を、MEM培地、10%ウシ胎児血清、EGF(10ng/ml)、ヒドロコルチゾン(0.4μg/ml)及びコレラ毒素(0.1nM)に1週間浸漬して維持する。表皮の完全な層別化は、出現して1週間後に得られる。
【0132】
再構成のプロセス全体を通して、培養を、37℃で、5%CO2を含有する湿度で飽和したインキュベーター内で続ける。
【0133】
結果
したがって、線維芽細胞の3種の亜集団を分離し、真皮内で特徴付けた:乳頭状線維芽細胞(表皮に近い)、網状線維芽細胞(皮膚に更に深く埋入している)、及び真皮-皮下接合部線維芽細胞(真皮が皮下組織に放出する結合性小柱から分離された新しい細胞亜集団)。
【0134】
これらの3種の亜集団の細胞については、6個人で採取された乳房形成外科から分離され、培養された。
【0135】
これら3種の亜集団のトランスクリプトーム解析が行われ、RT-qPCR分析による検証で、これら3種の亜集団間で5つの特定の遺伝子の差次的発現が実証された。
【0136】
RT-qPCR分析の結果を以下のtable 2(表2)
【0137】
【0138】
にまとめる。
【0139】
したがって、本発明者らは、真皮において同定された3つの線維芽細胞亜集団についての以下の分子シグネチャーを実証することができた:
【0140】
【0141】
次いで、これらの3種の亜集団を含む再構成皮膚が上記の通りに得られた。