(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031050
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】筋力増強方法
(51)【国際特許分類】
A63B 24/00 20060101AFI20240229BHJP
A63B 23/035 20060101ALI20240229BHJP
A63B 23/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
A63B24/00
A63B23/035
A63B23/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134344
(22)【出願日】2022-08-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】518200145
【氏名又は名称】福田 健蔵
(71)【出願人】
【識別番号】504359994
【氏名又は名称】池上 信三
(74)【代理人】
【識別番号】100209129
【弁理士】
【氏名又は名称】山城 正機
(72)【発明者】
【氏名】福田 健蔵
(72)【発明者】
【氏名】池上 信三
(57)【要約】
【課題】高齢者や身体を動かすことが困難な者であっても、筋力ができるだけ高い状態から練習を行いたいスポーツ選手であっても、筋運動を行わずに筋力を即時に増強することが可能な筋力増強方法を提供する。
【解決手段】本発明の筋力増強方法は、対象部位において筋収縮を伴わないブラッドプール状態を生成するステップ、筋収縮を伴わないブラッドプール状態を所定時間にわたり保持するステップ、所定時間経過後にブラッドプール状態を解除するステップを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象部位において筋収縮を伴わないブラッドプール状態を生成するステップ、
前記筋収縮を伴わないブラッドプール状態を所定時間にわたり保持するステップ、
前記所定時間経過後にブラッドプール状態を解除するステップ、
を具備する筋力増強方法。
【請求項2】
対象部位において筋収縮を伴わないブラッドプール状態を生成するブラッドプールユニット、
前記筋収縮を伴わないブラッドプール状態を所定時間にわたり保持するとともに、前記所定時間経過後に前記ブラッドプール状態を解除する制御ユニット、
を具備する筋力増強システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋力増強方法に関し、特に、トレーニングつまり運動を全く伴わずに筋力を増強するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筋力を向上させるためには、筋肉を太くし筋肉量を増やす必要があるとの考えに基づき、筋肉に力を入れるいわゆる運動刺激が必須であった。
【0003】
ダンベル等の負荷を用いた筋力トレーニングはもちろんのこと、例えば、EMS(Electrical Muscle Stimulration)や、低周波治療器のような電気刺激であっても、自発的に筋肉に力を入れるという意思こそ介在しないものの、筋肉の収縮刺激を起こさせるものであり、血流制限下トレーニングである加圧トレーニングにおいても、筋収縮による疲労による筋肉量の増加を目的にしている。そのため、上記方法によって筋力を増強させるためには必ず筋収縮が必要となる(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
筋収縮させることで筋力アップを目指す従来の方法は、筋力は筋断面積に比例するという概念と、傷ついた筋肉は修復の際に以前より太くなって修復され筋肉が大きくなる(超回復)という概念の組み合わせによって、その後起きるであろう超回復を期待して、筋肉痛を伴うトレーニングなどすることで、筋断面積が増えて筋力が増えるという固定観念に基づいている。
【0005】
また、従来の方法による筋力トレーニングによって超回復を起こす対象は筋繊維の材料であるアミノ酸やタンパク質であるため、筋肉トレーニングとはタンパク質合成トレーニングであるという固定観念も生み出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-223508号公報
【特許文献2】特許第6341898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や特許文献2に開示された技術は、四肢を外方から加圧した状態で筋運動や筋収縮を行うことを前提としたものであり、例えば高齢者など動くことが困難、あるいは、加齢によって組織の耐性が低下している状況でこれらの技術を用いて筋肉を増強することは難しく、あるいは、スポーツ動作において競技とかけ離れた動作や感覚を強いる技術では動作感覚を鈍化させ競技に悪い影響を及ぼすこともある。
【0008】
上述した従来の手法を用いて筋力アップさせたい対象者には筋収縮を伴う筋運動が必須であり、筋力アップのためには筋肉が傷つく程度の過度な負担をかける必要がある。ところが、従来の筋運動による手法で筋力アップを図る場合、トレーニングの結果として、いつ、どれくらい筋力が向上するかが分からない。効果が出る時期や効果の程度が分からないまま、筋力が向上するだろうという希望的要素によって苦痛を伴うトレーニングをしなければならないうえ、結果が出るのは早くても数日後である。しかも、筋運動によって筋肉を鍛えるためには苦痛と疲労を伴うが、筋疲労があるため、また、超回復を待つ間には休息が必要となり、効果が得られるまでに時間がかかる。しかも、従来の筋運動による筋力アップの手法では、筋疲労と超回復を繰り返すことにより効果が得られるものであり、一回だけのトレーニングでは、筋肉が疲労し痛みを伴うだけである。
【0009】
ここで、例えば高齢者や身体を動かすことが困難な者にあっては、その場で立ち歩きたいという要望があるものの、そもそも筋収縮を伴う筋運動を行うことが容易ではなく、EMSなどの電気的に筋収縮を行わせる装置によっても、効果が出る時期や効果の程度がはっきりしないため、上記のような従来の筋運動によるトレーニング方法によってその場で即時に筋肉を増強することは難しい。
【0010】
また、特許文献1や特許文献2に開示された技術のように、充血状態で筋収縮を伴う運動を行うことは、静脈に負担をかける恐れがあるうえ、過度の血圧上昇が引き起こす障害を回避する観点から避けるべきである。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、高齢者や身体を動かすことが困難な者であっても、筋力ができるだけ高い状態から練習を行いたいスポーツ選手であっても、筋運動を行わずに筋力を即時に増強することが可能な筋力増強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明の発明者らは、鋭意研究の結果、体液つまり血液を局所的に滞留させたブラッドプール状態を生成することにより、毛細血管内圧を上昇させて筋繊維に入り込んでいる毛細血管からの筋肉への栄養成分を浸潤させること、及び、血管内圧による血管拡張に関連する神経刺激を行うことによって、即時に筋力をアップさせることができることを見い出し、本願発明に至った。
【0013】
本発明では、以下のような解決手段を提供する。
【0014】
第1の特徴に係る筋力増強方法は、対象部位において筋収縮を伴わないブラッドプール状態を生成するステップ、筋収縮を伴わないブラッドプール状態を所定時間にわたり保持するステップ、所定時間経過後にブラッドプール状態を解除するステップを備える。
【0015】
第1の特徴に係る発明によれば、筋収縮は行わせず、安静状態を保持しつつ血液を滞留させるブラッドプール状態を作ることにより、栄養成分が豊富な血液によって毛細血管の内圧が上昇する。毛細血管の内圧が上昇することで、筋繊維に入り組んでいる毛細血管から筋肉内に栄養成分が浸潤し、筋肉内が栄養で満たされた状態となり、その結果として筋力が向上する。
【0016】
また、毛細血管の内圧上昇に伴い血管が拡張することで、血管をとりまく神経を刺激して神経の活性化をも引き起こす。筋肉のパワーは、神経伝達物質を受け取った筋肉が神経伝達に応じて筋収縮に変換できた分だけ発揮される。神経の活性化はその第一段階を増やし、筋肉内への栄養豊富な体液の浸潤は、第二段階を増やすこととなる。
【0017】
このように、筋収縮を伴わないブラッドプール状態を作り出しそれを所定時間保持することで、毛細血管の内圧が上昇し、それに伴う栄養豊富な血液の浸潤、及び、毛細血管周囲の神経の活性化が同時に引き起こされることにより、即時に筋力を増強することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高齢者や身体を動かすことが困難な者であっても、筋力ができるだけ高い状態から練習を行いたいスポーツ選手であっても、筋運動を行わずに筋力を即時に増強することが可能な筋力増強方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る筋力増強システムの全体構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施例1に係る筋力増強システム1の構成を示す模式図である。
図2(a)は筋力増強システム1の全体像を示す概略図、
図2(b)は締結具11及びチューブ12を概略的に表す正面図、
図2(c)は締結具11及びチューブ12を概略的に表す側面図、
図2(d)はチューブ12を膨張させた状態の一例を示す締結具11及びチューブ12の側面図、
図2(e)は対象者の四肢を締結具11で締め付けた状態の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る筋力増強方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図を参照しながら説明する。なお、これはあくまでも一例であって、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。
【0021】
[筋力増強システム1の全体構成]
図1を用いて、本実施形態に係る筋力増強システム1の全体構成を説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る筋力増強システム1は、毛細血管にブラッドプール状態を生成するためのブラッドプールユニット10と、対象部位のブラッドプール状態を計測するための計測ユニット20と、ブラッドプールユニット10を制御するための制御ユニット30とによって構成される。
【0023】
ブラッドプールユニット10は、人体の所望の部位について、動脈血は流入するものの静脈血が流出しない状態を作ることで血液を滞留させるユニットである。しかも、本願発明のブラッドプールユニット10は、従来の圧力を印加しながら行うトレーニング手法とは異なり、筋収縮を伴わずにブラッドプール状態を作り出す。ブラッドプールユニット10が血液を滞留させるブラッドプール状態を作ることにより、栄養成分が豊富な血液によって毛細血管の内圧が上昇する。毛細血管の内圧が上昇することで、筋繊維に入り組んでいる毛細血管から筋肉内に栄養成分が浸潤し、筋肉内が栄養で満たされた状態となり、その結果として筋力が向上する。
【0024】
計測ユニット20は、ブラッドプールユニット10によって作り出される対象部位のブラッドプール状態を計測するためのユニットであり、ブラッドプールの程度を計測するために所定の物理量を計測する計測機器や、ブラッドプール状態の生成開始からの時間を計測するタイマなどによって構成される。
【0025】
制御ユニット30は、ブラッドプールユニット10を制御するものであり、例えばブラッドプールユニット10で作り出すブラッドプール状態を制御するためのコントローラや、タイマで自動的にブラッドプール状態と解放状態とを繰り返すためのコントローラなどによって構成される。
【0026】
[実施例1]
図2を用いて、実施例1に係る筋力増強システムについて説明する。
図2(a)は筋力増強システムの全体像を示す概略図、
図2(b)は締結具11及びチューブ12を概略的に表す正面図、
図2(c)は締結具11及びチューブ12を概略的に表す側面図、
図2(d)はチューブ12を膨張させた状態の一例を示す締結具11及びチューブ12の側面図、
図2(e)は対象者の四肢を締結具11で締め付けた状態の一例を示す断面図である。
【0027】
図2(a)に示すように、実施例1に係る筋力増強システム1は、ブラッドプールユニット10として、空気圧によって外方から対象部位を締め付ける締結具11及びチューブ12、及び、チューブ12内に空気を注入するポンプ13によって構成される。
【0028】
締結具11は、対象者の四肢(図では一例として上腕)に巻き付けられる帯状のバンドである。対象者の体格(例えば成人か小児か)や巻き付け箇所(上腕か大腿か)に応じて、幅や長さが異なる締結具11を使用してもよい。
【0029】
締結具11は内側に、例えば袋状に形成したチューブ12を収納することができる。また、締結具11は、例えば布製又は合成繊維製の、伸縮性に乏しい素材で作製されている。したがって、四肢に巻かれていない状態の締結具11は、
図2(d)に示すように、チューブ12の膨張に伴って膨らむことができる。ただし、四肢に巻かれた状態の締結具11は、外側に膨らむことができないために、
図2(e)に例示するように、チューブ12の膨張に伴って内側に膨らみ、その結果、四肢を締め付けることになる。
【0030】
更に、締結具11は、四肢に巻き付けられた状態を保持する保持手段を有する。本実施形態では、保持手段は、締結具11の一つの面に締結具11の長さ方向に亘って取り付けられた面ファスナ11a、及び、締結具11の一端に設けられたリング11bを含む。このような保持手段においては、面ファスナ11aが外側(対象者の皮膚とは反対側)を向いた状態で締結具11を四肢に巻く。そして、締結具11の他端をリング11bに挿通したうえで締結具11の他端を折り返し、面ファスナ11a同士を接触させることで、締結具11を四肢上に保持することができる。
【0031】
チューブ12は、
図2(b)及び
図2(c)に示すように、締結具11内に収納される、伸縮性に富む管体ないし袋体であり、例えばゴムなどの樹脂素材で作製される。本実施形態のチューブ12は、長尺で偏平形状であり、四肢に巻き易く確実に圧迫できるため好適に使用できるが、管状であってもよい。チューブ12は、膨張することで、四肢に巻き付けられた締結具11に所望の締付力及び圧力を付与することができる(
図2(e)参照)。
【0032】
また、チューブ12は、施術箇所における締結具11の巻き付け箇所の全周(即ち、締結具11を巻き付ける上腕又は大腿の全周)の0.75倍から1.0倍までの長さLを有することが好ましい。概ね0.5倍以上であれば十分使用可能であるが、0.75倍から1.0倍にすることにより、巻き付け箇所のほぼ全周に亘ってほぼ均一に締付力及び圧力を付与することができる。
【0033】
つまり、チューブ12の長さLが巻き付け箇所の周囲の0.75倍以上であると、巻き付け箇所のほぼ全周に亘って締付力を付与することができる。また、チューブ12が巻き付け箇所の周囲において重なり合わなければ(つまり、長さLが巻き付け箇所の周囲の1.0倍以下であると)、締付力が必要以上に増大せず好ましい。
【0034】
図2(b)に示すように、チューブ12は、空気の注入口12aを有する。注入口12aは、巻き付け時にも使用できるように締結具11の長さ方向における端部から外側に突出しており、図示しない連結具(管)を介してポンプ13と着脱自在に連結される。
【0035】
ポンプ13は、注入口12aを介してチューブ12に接続されており、チューブ12内に空気を注入するために使用される。ポンプ13はまた、逆にチューブ12内の空気を排出することも可能である。したがって、ポンプ13は、チューブ12を所望のサイズに膨張させることができ、これにより締結具11の締付力は無段階に変化する。本実施例では、ポンプ13の動力としてモーターを想定しているが、例えば手動(人力)のような他の動力でも構わない。
【0036】
実施例1に係る計測ユニット20は、ポンプ13の圧力を計測するための圧力計21、及び、動脈の拍動音を検知するための聴診器22を含んで構成される。
【0037】
圧力計21は、ポンプ13の圧力、すなわちチューブ12の内圧を測定する。圧力計21の指示値は、適切な締付力(チューブ12の内圧;締付圧)の指標となる。ただし、対象者の体調及び施術の時間帯(朝、昼、晩や季節)によって対象者の血圧が変化するため、適切な締付力が変わることがある。また、締結具11の四肢への巻き付け具合によっても、適切な締付力は異なることがある。したがって、施術ごとに好適な締付力を設定することが好ましい。
【0038】
聴診器22は、締結具11の巻き付け箇所又はその末端側に位置する動脈の拍動音を聴音するために用いられる。かかる聴診器22は、集音部22a、導管22b及び耳管22cを含んで構成されている。具体的に、集音部22aは、対象者の皮膚に接触され、あるいは、集音可能な範囲で皮膚と集音部22aとの間に衣類等の介在物がある状態で、体内(動脈)で発生する音を集音する。導管22bは、集音部22aと耳管22cとを接続するゴム管であり、集音部22aで集音された音を耳管22cに導く。耳管22cは、施術者の左右の耳に当てる屈曲した金属管であり、先端にイヤーチップを有する。
【0039】
なお、本実施例では上記のような施術者の聴力に依存する従来型の聴診器22を用いた場合を例に説明しているが、例えばピエゾセンサのように、検出結果を数値化可能なセンサを用いたいわゆる電子聴診器であってもよい。電子聴診器を用いれば、下記の筋肉増強方法の電子化・自動化も可能である。
【0040】
[実施例2]
図示は省略するが、実施例2に係る筋力増強システム1について説明する。
【0041】
実施例2に係る筋力増強システム1は、ブラッドプールユニット10として遠心力によって対象部位に血液を滞留させる遠心装置を使用する。
【0042】
遠心装置が対象となる部位を高速に回転させ、当該部位に印加される遠心力によって血液が静脈から心臓側に戻るのを抑制する。一方で、動脈を通じての血液の流入は継続されるため、その結果、対象部位に栄養成分を豊富に含んだ血液が貯留され、栄養成分が豊富な血液によって毛細血管の内圧が上昇する。そして、内圧が上昇した毛細血管から栄養成分を豊富に含んだ血液が浸潤して筋肉内が栄養で満たされた状態となり、その結果として筋力が向上する点については、実施例1と同様である。
【0043】
実施例2に係る計測ユニット20としては、動脈の圧力を計測するための圧力センサ、遠心装置で付与する回転の回転数を計測する回転数センサ、レーザ光を用いたレーザドップラー血流計、水溶性ヨード造影剤などの各種血管造影剤を血流中にトレーサとして混入させ血流のCT画像やMR画像の経時変化を計測する計測機器、動作開始からの時間を計測するタイマなどを使用する。
【0044】
このように、遠心装置を用いて筋力増強の対象となる部位を回転させることで、対象部位の筋収縮を伴わずにブラッドプール状態を作り出し、運動を全く行うことなく短期間で筋力を増強することができる。
【0045】
[筋力増強方法]
次に、
図3に示すフローチャートを用いて、本発明に係る筋力増強システムを用いた筋力増強方法について説明する。
【0046】
〔ステップS100:ブラッドプール状態の生成〕
まず、ブラッドプールユニット10を用いて、対象部位において、ブラッドプール状態を生成して毛細血管内圧を昇圧させる(ステップS100)。ここでは、筋収縮を伴わせず、動脈を通じての血液の流入は許容するものの静脈を通じての血液の流出を抑制する状態を生成してブラッドプール状態を生成し、毛細血管内圧を昇圧させる。
【0047】
具体的には、ブラッドプールユニット10として実施例1の締結具11やチューブ12及びポンプ13を使用する場合には、ポンプ13によりチューブ12内に流入させる空気量を調整することで静脈に印加する圧力を制御して徐々に締め付け状態を生成してブラッドプール状態を生成する。また、ブラッドプールユニット10として実施例2の遠心装置を使用する場合には、対象部位を回転させて遠心力を印加し、血液を静脈から還流させずに動脈から流入するのみの状態を生成してブラッドプール状態を生成する。このように、ブラッドプールユニット10を用いて筋収縮を伴う筋運動を行わせない状態でブラッドプール状態を生成することで、毛細血管内圧を昇圧させることができる。
【0048】
〔ステップS110:ブラッドプール状態の判定〕
次に、計測ユニット20を用いて、対象部位においてブラッドプール状態が十分に生成されたかどうか、つまり、毛細血管の内圧が十分に昇圧されたかについて判定を行う。
【0049】
計測ユニット20として実施例1の圧力計21や聴診器22を使用する場合には、圧力計21で計測されたポンプの圧力や聴診器22で計測された拍動音を用いて判定を行う。また、実施例2の場合には判定に圧力センサで計測された動脈の圧力を使用する。
【0050】
ステップS110における判定には、あらかじめ設定された拍動音や圧力の値を用いてよい。あるいは、ステップS100の前段階における下準備として、適切な拍動音や適切な圧力を設定するためのステップを設けてもよい。
【0051】
例えば、実施例1の場合、チューブ12による適切な締付力を設定するために、施術者は以下の作業を行う。この締付力の設定作業は、施術毎に実施されることが望ましい。ただし、締結具11が四肢に巻かれている限り、締付力の付与及び解除の後(つまり1回の施術に含まれる1セット毎)に締付力の設定を行う必要はない。また、上腕及び大腿に同時に施術を行う場合には、上腕及び大腿のそれぞれについて適切な締付力を設定してもよい。
【0052】
具体的には、施術者は、ポンプ13からチューブ12に空気を注入してチューブ12を膨張させ、締結具11の巻付け箇所を圧迫して締め付ける。その際、施術者は、聴診器22の集音部22aを対象者の皮膚に当てて、あるいは、集音可能な範囲で皮膚と集音部22aとの間に衣類等の介在物がある状態で、巻き付け箇所又はその末端側に位置する動脈の拍動音を聞く。締結具11の締付けを強めるにつれて、聴診器22から聞こえる拍動音が次第に大きくなりはじめ、更に締め付けを強めていくと、拍動音の強さが最大となり、やがて拍動音は次第に弱くなってやがて聞こえなくなる。ここで、拍動音が聴診器22から聞こえている状態は、対象者の体幹から末端部位への血液の流入量が末端部位から体幹への血液の流出量よりも多く、体液成分が末端部位に留まることを示している。そして、拍動音が最大の時点で体液成分が末端部位に最大限留まることを示している。そこで、締結具11により四肢の末端部位への血流の制限を確実に人工的に起こすべく、拍動音が聴診器22から聞こえるように締結具11の締付力を設定する。より確実には、聴診器22から聞こえる拍動音が最大となるように、締結具3 の締付力(圧力)を設定する。なお、拍動音の消失は、締付力が高すぎて動脈が締結具11によって閉塞され、血流がないこと、又は、締付力が低すぎて血流の制限状態が生じていないことを示している。より好ましくは、拍動音の変化に着目しながら締結具11の締付力(圧力)を設定する。具体的には、締結具11で巻き付け箇所を締め付けて圧迫して動脈を閉塞し(血流を止め)、続いてポンプ13を減圧して締結具11の締付けを緩和していく。そうすると、動脈が少し開いて血液が流れ出す。このとき、血管から「トントン」と、心拍に同期した音が聴こえ始める。
【0053】
発明者らは、聴取される拍動音が、締付力の強から弱への変化、及び、弱から強への変化に伴って次のように変化することを実験により見出した。なお、以下において「小さい」とは拍動の強さに関してであり、「短い」「長い」「広い」は拍動の時間間隔の程度を表す。
(1)小さく短いトントン
(2)少し広がりを感じるトントン
(3)長さを感じるトーントーン
(4)濁りを感じるジュージュー
(5)強さと濁りの混じったドジュードジュー
(6)濁りを感じるジュージュー
(7)長さを感じるトーントーン
(8)少し広がりを感じるトントン
(9)小さく短いトントン
【0054】
上記のように変化する拍動音のうち、上記(3)~(8)が筋力の増強のために好適であり、上記(5)及び(6)が更に好適である。したがって、このような拍動音を聴取したときの圧力計21の指示圧を締付力として設定するとよい。
【0055】
図3に戻ると、ステップS110において十分に昇圧されていないと判定されれば(ステップS110においてN)、ステップS100による昇圧動作を引き続き継続させる。このとき、実施例1の場合には締め付け圧をさらに上昇させ、実施例2の場合には回転数を上げて遠心力をさらに上昇させる。
【0056】
ステップS110において十分に昇圧されたと判定されれば(ステップS110においてY)、対象部位の毛細血管において十分なブラッドプール状態が生成されたとして、次のステップであるステップS120に進む。
【0057】
〔ステップS120~S130:所定時間にわたるブラッドプール状態の保持〕
ステップS110において十分な毛細血管内圧であると判定されたら、つまり、十分なブラッドプール状態が生成されたと判定されたら、そのブラッドプール状態を所定時間にわたって保持する。この時、ステップS110でブラッドプール状態が生成されてからの経過時間の計測を開始し(ステップS120)、対象者及び対象部位に応じて予め定められた所定の時間に至ったかの判定を行う(ステップS130)。ステップS130において、所定時間に達していないと判定されると(ステップS130においてN)、所定時間に達すると判定されるまでステップS130を繰り返す。ステップS130において、所定時間に達したと判定されると(ステップS130においてY)、次のステップであるステップS140に進む。
【0058】
ステップS130において判定される所定時間は、対象部位を上腕とした場合には2分、大腿とした場合には3分を想定している。ただし、ブラッドプール状態が最大となる状態を超えると、動脈を通じての新鮮な血液の流入も止まることになるため、末端部分における血中酸素飽和度の低下を引き起こす。血中酸素飽和度の低下が進行すると、筋組織への栄養豊富な血液を浸潤させる効果が低下していくため、血中酸素飽和度の低下を抑制するため約3分を超えない時間が適正時間となる。
【0059】
また、対象者の馴れ具合、体調、体格等の状況に応じて、適宜時間を調整してよい。個人差は大きいものの、一般に、腕の筋肉量は脚の筋肉量よりも非常に少ないことから、「心拍数×拍出量」で計算される充填血量を考慮すると、脚を対象とした所定の時間は、腕を対象とした場合の3~4倍となる。ここに上記の血中酸素飽和度を考慮した効果の低下度合いを勘案すると、腕を対象とした場合にはおおよそ2分間、足を対象とした倍にはおおよそ3分間が適正な時間となる。この値は、腕に静脈注射をする際に安全かつ適切なサンプルを採取するための目安時間の2分間とも一致するため、安全かつ効果のある時間であるといえる。
【0060】
なお、このステップにおいても、筋収縮は行わせず、安静状態を保持しつつブラッドプール状態を保持する。このようにすることで、内圧が十分に昇圧された毛細血管から栄養成分を豊富に含有する体液を筋肉内へ浸潤させて筋力を向上させることができる。
【0061】
逆に、このようなブラッドプール状態で筋収縮を伴う運動を行うことは、静脈に負担をかける恐れがあるから避けるべきである。というのも、大きな静脈内部は逆止弁の構造(ポンプ構造)となっており、静脈血の逆流は許容されない。ここで、運動によって筋肉の緊張及び弛緩を繰り返すことは、静脈の圧迫及び解放を繰り返すこととなり、これが静脈内のポンプ作用によって、抗重力的に下部から上部に向かっての血流を促進し、立位や座位における足部などへの血液の対流を解消し、血流が確保できる構造となっている。
【0062】
上述の通り、栄養豊富な動脈血を末梢血管において筋肉内に浸潤させるのが本発明の主眼であるものの、静脈のポンプ作用を働かせてしまうと、対象部位の静脈内における血液の流れが促進されて静脈から血液が流出する結果、末梢血管部の血管内圧が下がってしまうことで浸潤効果が低下してしまう恐れがある。
【0063】
また、実施例1のような締結具11及びチューブ12を用いて血管を圧迫する装置を使用した状態で運動させると、静脈のポンプ作用によって運ばれた血液が、締結具11を装着している部位でせき止められ、当該部位の静脈の過剰な血液により膨隆し静脈に過度な負担を強いることにもつながる。
【0064】
このように、本願発明においては、毛細血管内圧を十分に昇圧させそれを保持することで筋力向上を図るという観点から、ステップS120~S130においては、筋収縮を伴わせず所定時間にわたってブラッドプール状態を保持することが必要である。
【0065】
〔ステップS140:ブラッドプール状態の解除〕
ステップS130において、所定時間に達したと判定されると、ブラッドプール状態を解除する(ステップS140)。
【0066】
なお、ステップS140でブラッドプール状態を解除すれば施術を終了するが、ステップS140でブラッドプール状態を解除したのち、所定時間の安静状態を経て、再びステップS100に戻り、ステップS100~ステップS140のステップを複数回にわたって繰り返しても構わない。
【0067】
[筋力増強方法を使用した場合の効果]
次に、本実施形態における筋力増強方法を用いた場合の効果について説明する。
【0068】
一般に骨格筋は、血管に富み、毛細血管は筋繊維の走行に並行に密着して走り、また、筋繊維の間の狭い空間を走っている。また、毛細血管は、間隙による液体などの行き来や浸透によって栄養成分を血管内外とやりとりする構造となっているため、毛細血管内圧を栄養豊富な体液によって昇圧させることで、筋肉内へ栄養成分等が浸潤し、筋肉内が栄養で満たされる状態となる。
【0069】
実際の人体においても、筋肉の等尺性筋収縮下では、筋収縮強度の増加と共に筋内に圧力の上昇が生じ、筋繊維が静脈を圧迫することで静脈還流血が阻害され、その結果、静脈環流血に対して動脈の血流量が勝り、筋肉内に栄養豊富な体液を送り込む仕組みが働く。これは一般的にパンプアップと呼ばれる状態である。運動によるパンプアップは、運動に必要なエネルギや関連する物質が消費されて栄養成分が減少することで筋力低下してしまうのを補うために、栄養豊富な体液を筋肉内に浸潤させるために起きる。
【0070】
一方、本発明は、疲労していない筋肉内に栄養豊富な体液を追加で浸潤させることで筋力アップを図るものである。
【0071】
筋収縮(筋運動)に必要なエネルギ(ATP)を得るための代謝は、無酸素系及び有酸素系に大別されるが、無酸素系代謝の主なエネルギ源となるグルコースも、有酸素系代謝の主なエネルギ源となる脂肪酸も、その他の有効成分も全て血中を流れ筋肉に供給されている。極めて短時間の筋収縮のエネルギ供給源となるクレアチン酸系のクレアチン、短時間のエネルギ供給源となる解糖系(乳酸系)の糖質及び乳酸、長時間運動の筋運動のエネルギ供給源となる有酸素系の酸素及び脂肪酸、を主とする全てのエネルギ源が血液から筋肉内に運ばれれば、全ての運動様式における筋運動のエネルギが増加する。
【0072】
本発明のように動脈からの血流を阻害せず、静脈からの血流を堰き止めると、静脈を堰き止めた部位より遠位がブラッドプール状態(動脈血が溜まった状態)となり、それを所定時間保持することにより毛細血管内圧が高まることで、栄養豊富な体液の筋肉への湿潤が増えることになり、その結果、即時に筋力が向上する。本発明においては特に、筋収縮を伴わせずに動脈血が溜まるブラッドプール状態を生成するため、極めて短時間の筋収縮のエネルギ源となるクレアチンが消費されることなく筋肉に浸透し、即時に筋力向上の効果が得られる。
【0073】
また、毛細血管内圧の高まりは、血管を拡張させることで、血管をとりまく神経を刺激して神経の活性化をも引き起こす。特に、血管拡張による神経刺激によって交感神経系が活発になり、運動神経から神経伝達物質を経て筋肉を収縮させる化学物質放出までの機序が活発になるため、その結果として、即時に筋力が向上する。
【0074】
筋肉のパワーは、神経伝達物質を受け取った筋肉が神経伝達に応じて筋収縮に変換できた分だけ発揮される。神経の活性化はその第一段階を増やし、筋肉内への栄養豊富な体液の浸潤は、第二段階を増やすこととなる。
【0075】
このように、神経と筋肉の両方を筋力アップに向けて変化させることができるのも、本発明の特徴である。本発明は、従来の筋力トレーニングが持つ固定観念から脱却し、筋肉に収縮刺激を加えることなく、血液による毛細管内圧を所定時間維持することにより、筋肉内に栄養豊富な体液を浸潤させることにより筋力を発揮しやすい環境にすることで筋力を高める。また、毛細血管内圧を高めたときに起こる血管径の拡張による神経刺激によって、筋力発揮に必要な神経伝達が活性化されることで、筋力アップが可能となる。
【0076】
本発明によれば、運動に対する意欲をもつまでもなく、安静状態での数分間の施術直後に筋力アップされているため、施術直後すぐから今までよりも体が軽いことが実感でき、これにより、活動意欲が生まれることになる。つまり、トレーニングしなければならないというストレスから解放され、「体が軽いから動きたくなる」というプラスの意欲が生まれる。
【0077】
頑張ったご褒美としての筋力アップではなく、安静にしているだけで体が軽くなるという実感を得てから、余裕をもって好きなスポーツを楽しめるようになる。
【0078】
アスリートにとっては、従来のトレーニングでは必須だった筋トレ後の休息日が必要なくなる。また、本発明による筋力アップを練習の最初に加えることで、筋力が高い状態からの練習を始められる。疲労による筋力ダウンは、動作の正確性までも失う可能性を含むが、本発明による筋力アップをトレーニングの前に行うことで、選手が出せるはずの筋力を十分に発揮させることができ、動作の正確性を保ったトレーニングを行うことが可能となる。
【0079】
なお、大動脈弓などにある圧受容器によって動脈血が堰き止められているのを感知して心拍を下げて血圧を下げる機序が働くため、毛細血管内圧を上げる限界値がこの機序によって決まってしまう。対応策として、実施例1のチューブ12及びポンプ13により印加する圧力や、実施例2の遠心装置による遠心力を低下させ、血流循環を回復させることが有効な手段となる。このようにすることで、圧受容器の血圧を低下させ、心拍出が強くなり心拍数が上がる(回復する)ため、再度、血管内圧を上げるよう圧量や回転数を上げることで、毛細血管内圧をもう1段階高めることが可能となる
【0080】
また、本発明の別形態として、心臓の自動制御を視野に、血管内圧を意図的に上げ下げする自動制御パターンも含む。つまり、心拍出圧(量)の低下を感知した装置は、心拍出圧(量)が回復するまで血管内圧を上げる手立てを緩め、心拍出圧(量)が回復したら、効果が高い拍動音(脈圧)を維持することを繰り返す。このように血管内圧を制御することで、毛細血管内圧を適正に保ち、浸潤効果及び神経刺激効果を発揮することができる。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述したこれらの実施形態に限るものではない。また、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0082】
また、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
この発明の筋力増強方法は、デスクワークばかりのサラリーマン、トラックやタクシーの運転手、高齢者など、生理的な筋萎縮による筋力低下を感じている種々の人、または、少しでもパフォーマンスを高めたいスポーツ選手が筋肉を痛めることなく筋力を上げることなどに適用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 筋力増強システム
10 ブラッドプールユニット
20 計測ユニット
30 制御ユニット
【手続補正書】
【提出日】2022-12-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象部位において筋収縮を伴わず毛細血管内の内圧を昇圧させるブラッドプールユニットによってブラッドプール状態を生成するステップ、
前記毛細血管の内圧が十分に昇圧されたか検知する計測ユニットによって前記ブラッドプール状態が生成されたか否かを判定するステップ、
前記筋収縮を伴わないブラッドプール状態を所定時間にわたり保持する制御ユニットによって、前記筋収縮を伴わないブラッドプール状態を所定時間にわたり保持して内圧が十分に昇圧された毛細血管から栄養成分を含有する体液を筋肉内へ湿潤させるステップ、
前記制御ユニットによって、前記所定時間経過後に前記ブラッドプール状態を解除するステップ、
を具備する筋力増強方法。
【請求項2】
対象部位において筋収縮を伴わず毛細血管内の内圧が昇圧したブラッドプール状態を生成するブラッドプールユニット、
前記毛細血管の内圧が十分に昇圧されたか検知して前記ブラッドプール状態が生成されたか否かを判定する計測ユニット、
前記筋収縮を伴わないブラッドプール状態を所定時間にわたり保持することで、内圧が十分に昇圧された毛細血管から栄養成分を含有する体液を筋肉内へ湿潤させるとともに、前記所定時間経過後に前記ブラッドプール状態を解除する制御ユニット、
を具備する筋力増強システム。