(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031070
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】腹足類生物の発生検知装置及びその方法
(51)【国際特許分類】
A01M 1/00 20060101AFI20240229BHJP
A01M 1/02 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
A01M1/00 Q
A01M1/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134380
(22)【出願日】2022-08-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、生物系特定産業技術研究支援センターイノベーション創出強化研究推進事業「スクミリンゴガイの被害撲滅に向けた総合的管理技術の革新および防除支援システムの開発」委託事業、および、令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「稲作農事暦に合わせたジャンボタニシの工学的防除対策モデルの構築および効果検証」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】柳生 義人
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA06
2B121DA04
2B121DA62
2B121DA63
2B121EA26
2B121FA04
2B121FA14
(57)【要約】
【課題】腹足類生物の習性を利用して、腹足類生物の生息密度および発生の様相を事前に予想し推察できる腹足類生物の発生検知装置を提供する。
【解決手段】腹足類生物の発生検知装置は、腹足類生物が生息する水中に対向配設される一対の対向電極と、前記対向電極間に直流電圧を印加する電圧印加手段と、前記印加後の前記対向電極のうち低位側電極近傍に誘引される腹足類生物の個体数を収集する収集手段と、前記収集手段により収集された個体数に基づき前記腹足類生物の単位面積当たりの発生分布を演算する演算手段と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腹足類生物が生息する水中に対向配設される一対の対向電極と、
前記対向電極間に直流電圧を印加する電圧印加手段と、
前記印加後の前記対向電極のうち低位側電極近傍に誘引される腹足類生物の個体数を収集する収集手段と、
前記収集手段により収集された個体数に基づき前記腹足類生物の単位面積当たりの発生分布を演算する演算手段と、
を備えることを特徴とする
腹足類生物の発生検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の腹足類生物の発生検知装置において、
前記一対の対向電極が、一又は複数の高位側電極、及び、複数又は一の低位側電極、から構成されることを特徴とする
腹足類生物の発生検知装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の腹足類生物の発生検知装置において、
前記演算手段が、収集手段により収集された腹足類生物の個体数及び前記一対の対向電極の電極間距離に基づいて、前記腹足類生物の前記単位面積当たりの発生分布を演算することを特徴とする
腹足類生物の発生検知装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の腹足類生物の発生検知装置において、
前記電圧印加手段が、印加電圧を複数段階に変化させ、
前記演算手段が、各段階の印加電圧値における腹足類生物の各個体数に基づいて腹足類生物の発生を予察することを特徴とする
腹足類生物の発生検知装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の腹足類生物の発生検知装置において、
前記電圧印加手段により前記対向電極間に印加される電圧を間欠的に印加するように制御する制御手段を備えることを特徴とする
腹足類生物の発生検知装置。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の腹足類生物の発生検知装置において、
前記対向電極の電極間距離を動的に変化するように制御する制御手段を備えることを特徴とする
腹足類生物の発生検知装置。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の腹足類生物の発生検知装置において、
前記一対の対向電極の高位側が低位側よりも面積が小さいことを特徴とする
腹足類生物の発生検知装置。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載の腹足類生物の発生検知装置において、
前記演算手段が、前記収集手段により収集された当年の個体数に基づいて、前記演算手段により演算された単位面積当たりの発生分布と、当年の冬季の気候条件との相関関係から、翌年の腹足類生物の発生を予測することを特徴とする
腹足類生物の発生検知装置。
【請求項9】
請求項1又は請求項2に記載の腹足類生物の発生検知装置において、
前記収集手段が、生育植物の各生育段階の各々で腹足類生物の個体数を収集し、
前記演算手段が各生育段階毎に単位面積当たりの発生分布を演算し、
当該演算された前生育段階の発生分布のデータに基づいて次の生育段階の圃場管理を行うことを特徴とする
腹足類生物の発生検知装置。
【請求項10】
請求項9に記載の腹足類生物の発生検知装置において、
前記圃場管理が、浅水管理及び/又は農薬管理であることを特徴とする
腹足類生物の発生検知装置。
【請求項11】
請求項1又は請求項2に記載の腹足類生物の発生検知装置において、
メッセージアプリを備える外部端末に対して、前記演算手段による演算結果を当該メッセージアプリに表示させる表示手段を備えることを特徴とする
腹足類生物の発生検知装置。
【請求項12】
腹足類生物が生息する水中に対向配設される一対の対向電極を用いる腹足類生物の発生検知方法であって、
前記対向電極間に直流電圧を印加する電圧印加工程と、
前記印加後の前記対向電極のうち低位側電極近傍に誘引される腹足類生物の個体数を収集する収集工程と、
前記収集工程により収集された個体数に基づき前記腹足類生物の単位面積当たりの発生分布を演算する演算工程と、
を含むことを特徴とする
腹足類生物の発生検知方法。
【請求項13】
請求項12に記載の腹足類生物の発生検知方法において、
前記演算工程が、収集工程により収集された腹足類生物の個体数及び前記一対の対向電極の電極間距離に基づいて、前記腹足類生物の前記単位面積当たりの発生分布を演算することを特徴とする
腹足類生物の発生検知方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の腹足類生物の発生検知方法において、
前記電圧印加工程が、印加電圧を複数段階に変化させ、
前記演算工程が、各段階の印加電圧値における腹足類生物の各個体数に基づいて腹足類生物の発生を予察することを特徴とする
腹足類生物の発生検知方法。
【請求項15】
請求項12又は13に記載の腹足類生物の発生検知方法において、
前記電圧印加工程により前記対向電極間に印加される電圧を間欠的に印加するように制御する電圧制御工程を含むことを特徴とする
腹足類生物の発生検知方法。
【請求項16】
請求項12又は13に記載の腹足類生物の発生検知方法において、
前記対向電極の電極間距離を動的に変化するように制御する電極間距離制御工程を含むことを特徴とする
腹足類生物の発生検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹足類生物を検知する発生検知装置に関し、特に、腹足類生物の発生を事前に予想し高精度に検知できる腹足類生物の発生検知装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水田作物に被害を与える貝類が近年、問題化している。このような貝類として、腹足類生物が挙げられる。
【0003】
例えば、腹足類生物の1つであるジャンボタニシ(和名:スクミリンゴガイ)は、水稲やレンコン、イグサなど我が国の主要な水田作物を激しく食害する外来種であり、その被害は、1983年に初めて顕在化して以来、被害地域は温暖化の影響等で北上し、北関東にまで達している。
【0004】
移植栽培のケースでは、水田のジャンボタニシの密度が、1平方メートル当たり2.5頭、直播栽培のケースでは、僅か0.5頭いるだけで、食害が発生すると言われている。一旦、被害を受け欠株が生じた水田では、苗を植えなおす必要があるが、この時点で田植え機が使えないばかりか、苗を手作業で再移植したとしても再び食害にあうため、多くの場合で放置されているのが現状である。
【0005】
その被害を抑えるために、ジャンボタニシに対しては、水田内の水深を浅く保つ浅水管理、農薬の散布や、冬期の耕耘などの技術が開発されている。
【0006】
しかし、水田作物に甚大な食害を与えるジャンボタニシの駆除は、未だ人手に依るところが大きく、高齢化や労働力不足に悩む農業生産者の大きな負担となっている。特に次世代の米作りとして、低コスト・省力化が期待されている直播栽培の普及を妨げる要因となっている。また、タイ、フィリピン、台湾、中国などのアジア地域に留まらず、ハワイ諸島や原産地の南米でも被害が拡大しており、日本だけでなく国際的に解決すべき問題となっている。
【0007】
そのため、ジャンボタニシを捕獲する捕獲装置及びその方法が、活発に研究開発されている。
【0008】
例えば、ジャンボタニシを捕獲する捕獲装置としては、土中生物駆除用ロータリ作業機を用いてジャンボタニシの機械的な殺貝による駆除方法が知られている(特許文献1参照)。また、ブロック又はパネルの表面の少なくとも一部に、鋼又は鋼合金層を有する、ジャンボタニシの産卵防止用の網張り部材が知られている(特許文献2参照)。
【0009】
しかし、機械的にジャンボタニシを捕獲する捕獲装置では、ジャンボタニシの捕獲後に腐敗による局所的な水質汚染が問題となっており、さらに防衛本能として生じた体液に反応して捕獲装置に寄りつかなくなって捕集率が低下するという問題がある。
【0010】
この点から、近年、ジャンボタニシを誘引できる誘引剤としてミックス餌 (沈下性コイのミックス餌(沈下性コイのミックス餌、米ぬか、米こうじを同じ重量で混合したもの)を利用することも提案されている(非特許文献1)。しかし、餌を与えるのみでは、強力な誘引性が得られ難いことから、新たな技術として、水田に植えられた苗を食べるジャンボタニシに、電気的刺激を与えて誘引して植物の食害を防止する方法も模索されている(例えば、非特許文献2)。
【0011】
例えば、水面下に配置される電極部材である一対の金属線11A、11B間に、電界強度が0.5V/cm以上の電圧を、0.1秒以上の印加時間にて、かつ電解強度値の10倍以下の休止時間で、交互に印加することにより、ジャンボタニシの食性動作を起こさせないようにする方法が知られている(特許文献3参照)。
【0012】
また、ジャンボタニシに電気的刺激を与えるものとして、例えば、媒体物質を介して配設される一対の対向する電極と、前記電極間に直流電圧を出力する直流電源と、前記直流電源から出力される直流電圧の電圧値を制御して電極間に印加する電圧制御部とを備え、前記電極のうち低位側電極近傍に前記媒体物質中の腹足類生物を誘引させる腹足類生物の捕集装置も知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005-027594号公報
【特許文献2】特開平02-113840号公報
【特許文献3】特開2001-085187号公報
【特許文献4】特開2013-066425号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】「スクミリンゴガイ防除対策マニュアル(移植水稲)」、農林水産省消費・安全局植物防疫課、p.1-21、2021
【非特許文献2】「電気的手法によるスクミリンゴガイ防除の試み」柳生 義人、 大島 多美子、 猪原 武士、植物防疫、69(3)、169-174、2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、従来技術では、上記各文献のように、腹足類生物の捕集を目的とするものであり、腹足類生物の生態的行動に追従するにとどまっている。
【0016】
特に、近年の気温の上昇に伴う生息地の拡大や越冬率の上昇に伴う発生量の増加に加え、長雨やゲリラ豪雨などによる水位管理の困難な状況においては、従来技術の捕集方法では、効果が低下するため、決定的な防除技術にはなっていない。
【0017】
そのため、水田内に生息するジャンボタニシの頭数の把握や、発生の様相を事前に予想し推察する発生予察技術が求められている。
【0018】
腹足類生物の生息密度および発生の様相を事前に予想し推察できることができれば、捕集効率が高められると考えられるが、そのような優れた腹足類生物の発生検知装置及びその方法は未だ知られていない。
【0019】
本発明は、前記課題を解消するためになされたもので、腹足類生物の習性を利用して、腹足類生物の生息密度および発生の様相を事前に予想し推察できる腹足類生物の発生検知装置及びその方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、急拡大しているジャンボタニシの被害に対して、工学的見地から防除技術の研究開発に取り組み、その過程で、ジャンボタニシの特異な行動特性を利用することにより、ジャンボタニシの生息密度および発生についての予察技術の高度化を実現できることを見出し、本発明を導き出した。
【0021】
かくして、本発明に係る腹足類生物の発生検知装置は、腹足類生物が生息する水中に対向配設される一対の対向電極と、前記対向電極間に直流電圧を印加する電圧印加手段と、前記印加後の前記対向電極のうち低位側電極近傍に誘引される腹足類生物の個体数を収集する収集手段と、前記収集手段により収集された個体数に基づき前記腹足類生物の単位面積当たりの発生分布を演算する演算手段と、を備えるものである。
【0022】
このように、腹足類生物が生息する水中に対向配設される一対の対向電極と、前記対向電極間に直流電圧を印加する電圧印加手段と、前記印加後の前記対向電極のうち低位側電極近傍に誘引される腹足類生物の個体数を収集する収集手段と、前記収集手段により収集された個体数に基づき前記腹足類生物の単位面積当たりの発生分布を演算する演算手段と、を備えることから、腹足類生物が一定の電極に集まる現象(走電性)に基づいて、低位側電極近傍に誘引される腹足類生物の個体数から前記腹足類生物の単位面積当たりの発生分布が標本調査的に簡易かつ標本誤差が小さく演算されて、腹足類生物の全体の傾向を俯瞰して予測できることとなり、腹足類生物の発生を簡素且つ高精度に検知することができる。
【0023】
また、本発明に係る腹足類生物の発生検知装置は、必要に応じて、前記一対の対向電極が、一又は複数の高位側電極、及び、複数又は一の低位側電極、から構成されるものである。このように、前記一対の対向電極が、一又は複数の高位側電極、及び、複数又は一の低位側電極、から構成されることから、一又は複数の高位側電極、及び、複数又は一の低位側電極、から構成されることから、腹足類生物の生息領域に応じた柔軟な電極配置ができることとなり、腹足類生物の発生を生息状況に応じて高精度に検知することができる。
【0024】
また、本発明に係る腹足類生物の発生検知装置は、必要に応じて、前記演算手段が、収集手段により収集された腹足類生物の個体数及び前記一対の対向電極の電極間距離に基づいて、前記腹足類生物の前記単位面積当たりの発生分布を演算するものである。このように、前記演算手段が、前記収集手段により収集された腹足類生物の個体数及び前記一対の対向電極の電極間距離に基づいて、前記腹足類生物の前記単位面積当たりの発生分布を演算することから、低位側電極近傍に誘引される腹足類生物の個体数と電極間距離を同時に考慮して発生分布を予測演算することで、腹足類生物の全体の傾向が高精度に予測されやすくなり、腹足類生物の発生をさらに高精度に検知することができる。
【0025】
また、本発明に係る腹足類生物の発生検知装置は、必要に応じて、前記電圧印加手段が、印加電圧を複数段階に変化させ、前記演算手段が、各段階の印加電圧値における腹足類生物の各個体数に基づいて腹足類生物の発生を予察するものである。このように、前記電圧印加手段が、印加電圧を複数段階に変化させ、前記演算手段が、各段階の印加電圧値における腹足類生物の各個体数に基づいて腹足類生物の発生を予察することから、変動する印加電圧ごとに腹足類生物に与える挙動も考慮して発生分布を段階的に予測演算することで、腹足類生物の全体の傾向が多層的かつ動的に予測されやすくなり、腹足類生物の発生をさらに高精度に検知することができる。
【0026】
また、本発明に係る腹足類生物の発生検知装置は、必要に応じて、前記電圧印加手段により前記対向電極間に印加される電圧を間欠的に印加するように制御する制御手段を備えるものである。このように、前記電圧印加手段により前記対向電極間に印加される電圧を間欠的に印加するように制御する制御手段を備えることから、直流電圧を継続的かつ連続的に印加する場合と比べて、電極表面に電解質が経時的に蓄積し続けて付着してしまうことを抑制することとなり、消費電力が抑えられることのみならず、経時的に劣化が原因で電界が掛かり難くなることを抑制することができ、腹足類生物の発生をさらに高精度かつ低コストに検知することができる。
【0027】
また、本発明に係る腹足類生物の発生検知装置は、必要に応じて、前記対向電極の電極間距離を動的に変化するように制御する制御手段を備えるものである。このように、前記対向電極の電極間距離を動的に変化するように制御する制御手段を備えることから、経時的に変動する前記電極間距離ごとに腹足類生物に与える挙動も考慮して発生分布を経時的に予測演算することで、腹足類生物の全体の傾向が動的に予測されやすくなり、腹足類生物の発生をさらに高精度に検知することができる。
【0028】
また、本発明に係る腹足類生物の発生検知装置は、必要に応じて、前記一対の対向電極の高位側が低位側よりも面積が小さいものである。このように、前記一対の対向電極の高位側が低位側よりも面積が小さいことから、前記一対の対向電極のうち走電性により腹足類生物が集まりやすい低位側が大面積化されたうえで発生分布を経時的に予測演算することで、腹足類生物の全体の傾向がマクロ的に予測されやすくなり、腹足類生物の発生をさらに高精度に検知することができる。
【0029】
また、本発明に係る腹足類生物の発生検知装置は、必要に応じて、前記演算手段が、前記収集手段により収集された当年の個体数に基づいて、前記演算手段により演算された単位面積当たりの発生分布と、当年の冬季の気候条件との相関関係から、翌年の腹足類生物の発生を予測するものである。このように、前記演算手段が、前記収集手段により収集された当年の個体数に基づいて、前記演算手段により演算された単位面積当たりの発生分布と、当年の冬季の気候条件との相関関係から、翌年の腹足類生物の発生を予測することから、当年の春~秋までの収集された個体数と、腹足類生物が冬眠する冬季の気候条件とに基づいて、当年の腹足類生物の発生状況と、越冬・生育する腹足類生物の生息状況とが複合的に判断されて、翌年の腹足類生物の発生を予測できることとなり、さらに高精度に翌年の腹足類生物の発生状況を予測することができる。
【0030】
また、本発明に係る腹足類生物の発生検知装置は、必要に応じて、前記収集手段が、生育植物の各生育段階の各々で腹足類生物の個体数を収集し、前記演算手段が各生育段階毎に単位面積当たりの発生分布を演算し、当該演算された前生育段階の発生分布のデータに基づいて次の生育段階の圃場管理を行うものである。このように、前記収集手段が、生育植物の各生育段階の各々で腹足類生物の個体数を収集し、前記演算手段が各生育段階毎に単位面積当たりの発生分布を演算し、当該演算された前生育段階の発生分布のデータに基づいて次の生育段階の圃場管理を行うことから、生育植物の各生育段階の各々で収集された腹足類生物の個体数から演算された単位面積当たりの発生分布のデータから、次の生育段階の圃場管理の進め方を正確に予測できることとなり、経験や勘に依存することなく正確かつ容易に次の生育段階の圃場管理を支援することができる。
【0031】
また、本発明に係る腹足類生物の発生検知装置は、必要に応じて、前記圃場管理が、浅水管理及び/又は農薬管理であるものである。このように、前記圃場管理が、浅水管理及び/又は農薬管理であることから、前生育段階の発生分布のデータに基づいて、次の生育段階に関して、年ごとに変動する最適な浅水管理及び/又は農薬管理の進め方を正確に予測できることとなり、経験や勘に依存することなく正確かつ容易に次の生育段階の浅水管理及び/又は農薬管理を最適に行えるように支援することができる。
【0032】
また、本発明に係る腹足類生物の発生検知装置は、必要に応じて、メッセージアプリを備える外部端末に対して、前記演算手段による演算結果を当該メッセージアプリに表示させる表示手段を備えるものである。このように、メッセージアプリを備える外部端末に対して、前記演算手段による演算結果を当該メッセージアプリに表示させる表示手段を備えることから、前記演算手段により演算された前記腹足類生物の単位面積当たりの発生分布が都度更新されてメッセージアプリに表示できることとなり、腹足類生物の全体の最新の傾向が随時知ることが可能となり、腹足類生物の発生予測の高精度化と使い勝手を向上させることができる。
【0033】
また、本発明に係る腹足類生物の発生検知方法は、腹足類生物が生息する水中に対向配設される一対の対向電極を用いる腹足類生物の発生検知方法であって、前記対向電極間に直流電圧を印加する電圧印加工程と、前記印加後の前記対向電極のうち低位側電極近傍に誘引される腹足類生物の個体数を収集する収集工程と、前記収集工程により収集された個体数に基づき前記腹足類生物の単位面積当たりの発生分布を演算する演算工程と、を含むものである。
【0034】
このように、前記対向電極間に直流電圧を印加する電圧印加工程と、前記印加後の前記対向電極のうち低位側電極近傍に誘引される腹足類生物の個体数を収集する収集工程と、前記収集工程により収集された個体数に基づき前記腹足類生物の単位面積当たりの発生分布を演算する演算工程と、を含むことから、腹足類生物が一定の電極に集まる現象(走電性)に基づいて、低位側電極近傍に誘引される腹足類生物の個体数から前記腹足類生物の単位面積当たりの発生分布が標本調査的に簡易かつ標本誤差が小さく演算されて、腹足類生物の全体の傾向を俯瞰して予測できることとなり、腹足類生物の発生を簡素且つ高精度に検知することができる。
【0035】
また、本発明に係る腹足類生物の発生検知方法は、必要に応じて、前記演算工程が、収集工程により収集された腹足類生物の個体数及び前記一対の対向電極の電極間距離に基づいて、前記腹足類生物の前記単位面積当たりの発生分布を演算するものである。このように、前記演算工程が、収集工程により収集された腹足類生物の個体数及び前記一対の対向電極の電極間距離に基づいて、前記腹足類生物の前記単位面積当たりの発生分布を演算することから、低位側電極近傍に誘引される腹足類生物の個体数と電極間距離を同時に考慮して発生分布を予測演算することで、腹足類生物の全体の傾向が三次元的に予測されやすくなり、腹足類生物の発生をさらに高精度に検知することができる。
【0036】
また、本発明に係る腹足類生物の発生検知方法は、必要に応じて、前記電圧印加工程が、印加電圧を複数段階に変化させ、前記演算工程が、各段階の印加電圧値における腹足類生物の各個体数に基づいて腹足類生物の発生を予察するものである。このように、前記電圧印加工程が、印加電圧を複数段階に変化させ、前記演算工程が、各段階の印加電圧値における腹足類生物の各個体数に基づいて腹足類生物の発生を予察することから、変動する印加電圧ごとに腹足類生物に与える挙動も考慮して発生分布を段階的に予測演算することで、腹足類生物の全体の傾向が多層的かつ動的に予測されやすくなり、腹足類生物の発生をさらに高精度に検知することができる。
【0037】
また、本発明に係る腹足類生物の発生検知方法は、必要に応じて、前記電圧印加工程により前記対向電極間に印加される電圧を間欠的に印加するように制御する電圧制御工程を含むものである。このように、前記電圧印加工程により前記対向電極間に印加される電圧を間欠的に印加するように制御する電圧制御工程を含むことから、直流電圧を継続的かつ連続的に印加する場合と比べて、電極表面に電解質が経時的に蓄積し続けて付着してしまうことを抑制することとなり、消費電力が抑えられることのみならず、経時的に劣化が原因で電界が掛かり難くなることを抑制することができ、腹足類生物の発生をさらに高精度かつ低コストに検知することができる。
【0038】
また、本発明に係る腹足類生物の発生検知方法は、必要に応じて、前記対向電極の電極間距離を動的に変化するように制御する電極間距離制御工程を含むものである。このように、前記対向電極の電極間距離を動的に変化するように制御する電極間距離制御工程を含むことから、経時的に変動する前記電極間距離ごとに腹足類生物に与える挙動も考慮して発生分布を経時的に予測演算することで、腹足類生物の全体の傾向が動的に予測されやすくなり、腹足類生物の発生をさらに高精度に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る腹足類生物の発生検知装置のブロック図を示す。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る腹足類生物の発生検知装置の収集手段の形状例を示す。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る腹足類生物の発生検知方法のフローチャート図を示す。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る腹足類生物の発生検知方法の電圧印加例を示す。
【
図5】本発明の第3の実施形態に係る腹足類生物の発生検知方法のブロック図を示す。
【
図6】本発明の第3の実施形態に係る腹足類生物の発生検知方法の電圧印加例を示す。
【
図7】本発明の第4の実施形態に係る腹足類生物の発生検知方法の制御手段の動作の説明図を示す。
【
図8】本発明のその他の実施形態に係る腹足類生物の発生検知方法について時期を考慮した発生検知の説明図を示す。
【
図9】本発明のその他の実施形態に係る腹足類生物の発生検知方法の制御手段の動作の説明図を示す。
【
図10】実施例1に係る腹足類生物の発生検知方法のジャンボタニシを対象に実施した発生検知装置の構成図を示す。
【
図11】実施例1に係る腹足類生物の発生検知方法のジャンボタニシを対象に実施した発生検知装置の実験結果を示す。
【
図12】実施例2に係る腹足類生物の発生検知方法のジャンボタニシを対象に実施した発生検知装置の構成図を示す。
【
図13】実施例2に係る腹足類生物の発生検知方法のジャンボタニシを対象に実施した発生検知装置の実験結果を示す。
【
図14】実施例3に係る腹足類生物の発生検知方法の電極近傍に進入したジャンボタニシの個体数をカウントした結果発生検知装置の実験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る腹足類生物の発生検知装置は、
図1(a)に示すように、腹足類生物が生息する水中に対向配設される一対の対向電極1と、この対向電極1間に直流電圧を印加する電圧印加手段2と、この印加後のこの対向電極1のうち低位側電極11近傍に誘引される腹足類生物の個体数を収集する収集手段3と、この収集手段3により収集された個体数に基づきこの腹足類生物の単位面積当たりの発生分布を演算する演算手段4と、を備える構成である。
【0041】
本発生検知装置の対象となる腹足類生物としては、とくに限定されず、ジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)、カワニナ、ナメクジ、ウスカワマイマイ、カタツムリなどの害虫が挙げられるが、特に、水棲腹足類であるジャンボタニシを対象とすることが好ましい。ジャンボタニシは、水田内で生息して水稲の幼苗を好んで食す習性があり、水稲の収穫に多大な害を与えているため、その効果的な駆除が望まれている。
【0042】
一対の対向電極1としては、棒状でも板状でもよく、一般に使用されている電極材料を広く使用することができるが、短期間の使用に限定するのであれば、腐食し水中に溶解する鉄やアルミニウムなどを適用することで回収の手間を省くことができる。長期間に渡って使用する場合には、プラチナや炭素などのように腐食しない電極材料が好ましい。電界勾配が出来ればどのような形の電極でも問題ないが、メッシュや細線など表面積の小さいものを使用することで消費電力の浪費を防ぐことができる。
【0043】
また、一対の対向電極1としては、少なくとも1つの高位側電極12と少なくとも1つの低位側電極11が対向していることを意味しており、その電極の個数や配置は特に限定されない。例えば、一対の対向電極1は、一又は複数の高位側電極12、及び、複数又は一の低位側電極11、から構成することができる。すなわち、一対の対向電極1は、1つの高位側電極12と1つの低位側電極11から構成されることや、複数の高位側電極12と複数の低位側電極11から構成される構成以外にも、1つの高位側電極12と複数の低位側電極11から構成されることや、複数の高位側電極12と1つの低位側電極11から構成されることも可能である(例えば、後述の実施例2参照)。このように、前記一対の対向電極1が、一又は複数の高位側電極12、及び、複数又は一の低位側電極11、から構成されることも可能なことから、腹足類生物の生息領域やその領域形状に応じて、低位側電極11及び高位側電極12について柔軟な電極配置ができることとなり、腹足類生物の発生を生息状況に応じて最適に検知することができる。
【0044】
この電圧印加手段2は、この対向電極1間に直流電圧を印加する。この印加電圧は接地電位に対して正もしくは負のいずれでもよく、低位側の対向電極1側を接地することで高位側電極12から接地電極側へ電界を発生しても、高位側電極12側を接地することで接地電極から低位側の対向電極1側へ電界を発生しても、高位側電極12もしくは低位側の対向電極1を接地することなく高位側電極12から低位側の対向電極1側へ電界を発生してもよい。
【0045】
この直流電圧を発生させる直流電源は、特に限定されないが、1V/mからの電界を使用することでき、この場合には太陽光発電でまかなうことも可能である。また、印加する電圧としては、例えば電極間隔1.2mとした場合には、腹足類生物が低い電圧に向かって動き出す範囲として3~10Vであることが好ましく、特に腹足類生物が低い電圧に向かって最も活発に動き出す観点から、5Vであることが好ましい。
【0046】
この収集手段3は、この印加後のこの対向電極1のうち低位側電極11近傍に誘引される腹足類生物の個体数を収集する。この収集手段3としては、例えば、
図2に示すように、この対向電極1のうち低位側の対向電極1を中心軸上に配設する捕集容器として構成することができる。この捕集容器は、上面が開放された開口部を有し、開口部から内部の内周側に沿って低位側の対向電極1の周囲を離隔して張り巡らす網31を備える。この網31の素材は、合成樹脂や金属などを用いることが可能である。この網31が腹足類生物の進入口となる開口部に配設されることで、腹足類生物の散逸を抑制することができる。また、上面の開放された開口部を維持しつつ上面を固定する蓋32を備える。この捕集容器は、土に埋め込んで使用することができ、場所を選ばずに設置できるという設置容易性が高い。
【0047】
この演算手段4は、この収集手段3により収集された個体数を演算する分布演算部41と、この腹足類生物の単位面積当たりの発生分布を予察する演算を行う予察演算部42と、を備える。
【0048】
分布演算部41は、低位側電極11近傍に誘引される腹足類生物の個体数からこの収集手段3内(例えば捕集容器内)の単位面積当たりの腹足類生物の個体数を演算することができる。この演算に基づいて、予察演算部42は、水田全体のこの腹足類生物の単位面積当たりのこの腹足類生物の発生分布を予察する演算を行う。この予察演算部42による予察は、低位側電極11近傍に誘引される腹足類生物の個体数の単位面積当たりの分布密度が、標本調査的に水田全体の分布密度を極めて高精度に顕しているという、本発明者の研究結果に基づくものである(後述の実施例参照)。
【0049】
以下、この構成に基づく本実施形態の具体的な捕集動作について
図3のフローチャートを用いて説明する。
【0050】
まず、
図3に示すように、対向電極1を水田に浸漬させる。電圧印加手段2は、この対向電極1間に直流電圧を印加する(S1)。
【0051】
この印加後、腹足類生物が電位の低い方向に集まるという習性に従って、低位側電極11近傍に誘引される。この収集手段3が、この対向電極1のうち低位側電極11近傍に誘引される腹足類生物の個体数を収集する(S2)。この収集手段3は、上記の捕集容器として構成される場合には、この対向電極1から直流電圧が印加されることによって電位の低い方向に移動した腹足類生物を、低位側のこの対向電極1の周囲に張り巡らされた網31に捕捉して捕集することができる。これにより腹足類生物の逸脱を防止することとなり腹足類生物の個体数の集計についての正確性を向上させることができる。
【0052】
この収集後、この演算手段4が、収集工程により収集された個体数から腹足類生物の単位面積当たりの発生分布を演算する(S3)。具体的には、個体数演算部が、収集手段3により収集された個体数を演算する。次に、分布予察演算部42が、この個体数演算部の演算に基づいて、この腹足類生物の単位面積当たりの発生分布を予察する演算を行う。
【0053】
このように、腹足類生物が生息する水中に対向配設される一対の対向電極1と、この対向電極1間に直流電圧を印加する電圧印加手段2と、この印加後のこの対向電極1のうち低位側電極11近傍に誘引される腹足類生物の個体数を収集する収集手段3と、この収集手段3により収集された個体数に基づきこの腹足類生物の単位面積当たりの発生分布を演算する演算手段4と、を備えることから、腹足類生物が一定の電極に集まる現象(走電性)に基づいて、低位側電極11近傍に誘引される腹足類生物の個体数からこの腹足類生物の単位面積当たりの発生分布が標本調査的に簡易かつ標本誤差が小さく演算されて、腹足類生物の全体の傾向を俯瞰して予測できることとなり、腹足類生物の発生を簡素且つ高精度に検知することができる。
【0054】
また、この演算手段4は、収集手段3により収集された腹足類生物の個体数及びこの一対の対向電極1の電極間距離に基づいて、この腹足類生物の単位面積当たりの発生分布を演算することもできる。
【0055】
一対の対向電極1の電極間距離を考慮することで、例えば、この電極間距離が小さい場合には、この腹足類生物がこの収集手段3により収集されやすくなり、この演算手段4での演算結果は、水田全体よりも単位面積当たりの発生分布が高めに演算される傾向にあることから低値への補正を行う。また、例えば、この電極間距離が大きい場合には、この腹足類生物がこの収集手段3により収集されやすくなり、この演算手段4での演算結果は、水田全体と比して単位面積当たりの発生分布が低めに演算される傾向にあることから高値への補正を行う。
【0056】
このように、低位側電極11近傍に誘引される腹足類生物の個体数と電極間距離を同時に考慮して発生分布を予測演算することで、腹足類生物の全体の傾向が高精度に予測されることとなり、腹足類生物の発生をさらに高精度に検知してその将来的な動向を予察することができる。
【0057】
また、腹足類生物の動作特性を考慮すれば、対向電極1の電極間距離が、1m以上であり、この対向電極間に20~50Vの直流電圧が、10分以上を印加するという印加条件も、好適である。
【0058】
このように、本実施形態では、一対の対向する対向電極1間に直流電流が流れることで、
図1(b)に示すように、腹足類生物100が、電位の低い方向に集まるという習性に従って、低位側の対向電極1近傍に誘引されることとなり、標本調査的に、腹足類生物100の発生を効率的かつ高精度に予察することができる。
【0059】
なお、この一対の対向電極1のサイズについては、特に限定されないが、この一対の対向電極1の高位側が低位側よりも面積が小さいものとすることがより好適である。例えば、低位側電極11を大きな板状として、高位側電極12を棒状とすることができる。このように、この一対の対向電極1の高位側が低位側よりも面積が小さいことにより、この一対の対向電極1のうち走電性により腹足類生物が集まりやすい低位側が大面積化されたうえで発生分布を経時的に予測演算することで、腹足類生物の全体の傾向がマクロ的に予測されやすくなり、腹足類生物の発生をさらに高精度に検知することができる。
【0060】
(本発明の第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態に係る腹足類生物の発生検知装置は、上記の第1の実施形態と同様に、前記対向電極1と、前記電圧印加手段2と、前記収集手段3と、前記演算手段4と、を備え、さらに前記電圧印加手段2が、印加電圧を複数段階に変化させ、前記演算手段4が、各段階の印加電圧値における腹足類生物の各個体数に基づいて腹足類生物の発生を予察する構成である。
【0061】
図4に示すように、この電圧印加手段2が、印加電圧を電圧A、B、Cへと複数段階に変化させる。この演算手段4が、各段階の印加電圧値における腹足類生物の各個体数に基づいて腹足類生物の発生を予察することから、変動する印加電圧ごとに腹足類生物に与える挙動も考慮して発生分布を段階的に予測演算することで、腹足類生物の全体の傾向が多層的かつ動的に予測されやすくなり、腹足類生物の発生をさらに高精度に検知することができる。
【0062】
このように、この電圧印加手段2が、印加電圧を複数段階に変化させ、この演算手段4が、各段階の印加電圧値における腹足類生物の各個体数に基づいて腹足類生物の発生を予察することから、変動する印加電圧ごとに腹足類生物に与える挙動も考慮して発生分布を段階的に予測演算することで、腹足類生物の全体の傾向が多層的かつ動的に予測されやすくなり、腹足類生物の発生をさらに高精度に検知することができる。
【0063】
(本発明の第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る腹足類生物の発生検知装置は、上記の第1の実施形態と同様に、前記対向電極1と、前記電圧印加手段2と、前記収集手段3と、前記演算手段4と、を備え、さらに、
図5に示すように、前記電圧印加手段2により前記対向電極1間に印加される電圧を間欠的に印加するように制御する制御手段5を備える構成である。
【0064】
この制御手段5は、この直流電源が出力する直流電圧を間欠的となるように制御する。その矩形波は、
図6に示すように、横軸の時間が進むにつれて、縦軸の電圧がAからB、またはBからAへと、規則的かつ瞬間的に変化する。この変化は、同図(a)及び(b)に示すように、接地電位に対して正もしくは負のいずれでもよく、接地電位に対して正もしくは負の範囲内とすることができるが、同図(c)に示すように、接地電位に対して正もしくは負の範囲を交互にまたがることもできる。また、低位側電極11を接地することで高位側電極12から低位側電極11へ電界を発生しても、高位側電極12を接地することで接地電極から低位側電極11へ電界を発生しても、高位側電極12もしくは低位側電極11を接地することなく高位側電極12から低位側電極11へ電界を発生してもよい。
【0065】
この電圧印加手段2によりこの対向電極1間に印加される電圧を間欠的に印加するように制御する制御手段5を備えることから、直流電圧を継続的かつ連続的に印加する場合と比べて、電極表面に電解質が経時的に蓄積し続けて付着してしまうことを抑制することとなり、消費電力が抑えられることのみならず、経時的に劣化が原因で電界が掛かり難くなることを抑制することができ、腹足類生物の発生をさらに高精度かつ低コストに検知することができる。
【0066】
(本発明の第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態に係る腹足類生物の発生検知装置は、
図5で示した上記の第3の実施形態と同様に、前記対向電極1と、前記電圧印加手段2と、前記収集手段3と、前記演算手段4と、前記制御手段5と、を備え、さらに、前記制御手段5が、前記対向電極1の電極間距離を動的に変化するように制御する構成である。
【0067】
この制御手段5は、
図7に示すように、この対向電極1の電極間距離をL
1からL
2へと、またはL
2からL
1へと、動的に変化するように、電極の位置を制御することができる。
【0068】
このように、この対向電極1の電極間距離を動的に変化するように制御する制御手段5を備えることから、経時的に変動するこの電極間距離ごとに腹足類生物に与える挙動も考慮して発生分布を経時的に予測演算することで、腹足類生物の全体の傾向が動的に予測されやすくなり、腹足類生物の発生をさらに高精度に検知することができる。
【0069】
(その他の実施形態)
その他の実施形態としては、より対象期間をスケールアップした構成として、上記各実施形態において、
図8(a)に示すように、この演算手段4が、この収集手段3により収集された当年の個体数に基づいて、この演算手段4により演算された単位面積当たりの発生分布Aと、当年の冬季の気候条件Bとの相関関係から、翌年の腹足類生物の発生Cを予測する構成とすることができる。
【0070】
冬季とは、特に限定されないが、例えば、11月~3月とすることができる。冬季の気候条件Bとは、例えば、冬季の月毎の平均気温、最低気温、最高気温、又は平均湿度の少なくともいずれかを用いることが可能である。
【0071】
このように、この演算手段4が、この収集手段3により収集された当年の個体数に基づいて、この演算手段4により演算された単位面積当たりの発生分布と、当年の冬季の気候条件との相関関係から、翌年の腹足類生物の発生を予測することから、当年の春~秋までの収集された個体数と、腹足類生物が冬眠する冬季の気候条件とに基づいて、当年の腹足類生物の発生状況と、越冬・生育する腹足類生物の生息状況とが複合的に判断されて、翌年の腹足類生物の発生を予測できることとなり、さらに高精度に翌年の腹足類生物の発生状況を予測することができる。
【0072】
この他にも、生育植物の各生育段階を考慮して、腹足類生物の発生を予測することも可能である。例えば、上記各実施形態において、
図8(b)に示すように、この収集手段3が、生育植物の各生育段階の各々で腹足類生物の個体数を収集し、この演算手段4が各生育段階毎に単位面積当たりの発生分布を演算し、この演算された前生育段階Dの発生分布のデータに基づいて次の生育段階Eの圃場管理を行う構成も可能である。
【0073】
この生育植物としては、特に限定されないが、その一例として、腹足類生物により食害される水稲や野菜類が挙げられる。腹足類生物の一例として、水稲を食害するジャンボタニシの場合には、
図8(c)に示すように、水稲の生育段階は、季節に応じて、4月下旬頃から始まる、播種期、育苗期、代掻き期、田植え期、分げつ期、幼穂形成期、穂ばらみ期、出穂期、登熟期、及び収穫期の各段階が挙げられる。例えば、前生育段階Dとして育苗期のデータに基づいて次の生育段階Eとして代掻き期の圃場管理を行うことが可能となる。
【0074】
このように、この収集手段3が、生育植物の各生育段階の各々で腹足類生物の個体数を収集し、この演算手段4が各生育段階毎に単位面積当たりの発生分布を演算し、この演算された前生育段階の発生分布のデータに基づいて次の生育段階の圃場管理を行うことから、生育植物の各生育段階の各々で収集された腹足類生物の個体数から演算された単位面積当たりの発生分布のデータから、次の生育段階の圃場管理の進め方を正確に予測できることとなり、経験や勘に依存することなく正確かつ容易に次の生育段階の圃場管理を支援することができる。
【0075】
この圃場管理としては、特に限定されないが、例えば、浅水管理及び/又は農薬管理が挙げられる。この浅水管理としては、例えば、腹足類生物の一例として上述の水稲を食害するジャンボタニシの場合には、水稲の前生育段階Dとして代掻き期のデータに基づいて、次の生育段階Eとして田植え期に必要とされる水量調整を行うことができる。例えば、ジャンボタニシが増加することが予測される場合には、田植え期に必要とされる水量を減らしてジャンボタニシの生育を最大限抑制することができる。また、例えば、ジャンボタニシが減少することが予測される場合には、田植え期に必要とされる水量を増やしてジャンボタニシの生育を最大限抑制すると共に、ジャンボタニシを気にすることなく豊富な水量で水稲の生育を促進させることが可能となる。
【0076】
また、この農薬管理としては、例えば、散布する農薬量の調整が挙げられる。例えば、腹足類生物の一例として上述の水稲を食害するジャンボタニシの場合には、水稲の前生育段階Dとして代掻き期のデータに基づいて、次の生育段階Eとして分げつ期に散布する農薬量の調整を行うことができる。例えば、ジャンボタニシが増加することが予測される場合には、田植え期に必要とされる農薬量を高めてジャンボタニシの生育を最大限抑制することができる。また、例えば、ジャンボタニシが減少することが予測される場合には、田植え期に必要とされる農薬量を減らしてジャンボタニシの生育を最大限抑制すると共に農薬コスト減と減農薬栽培が可能となる。
【0077】
このように、この圃場管理が、浅水管理及び/又は農薬管理であることから、前生育段階の発生分布のデータに基づいて、次の生育段階に関して、年ごとに変動する最適な浅水管理及び/又は農薬管理の進め方を正確に予測できることとなり、経験や勘に依存することなく正確かつ容易に次の生育段階の浅水管理及び/又は農薬管理を最適に行えるように支援することができる。
【0078】
この他にも、この収集手段33の構成の変形例として、
図9(a)および(b)に示すように、低位側電極11を中心軸として形成され、内部に幼貝が収容される幼貝エリアと、この幼貝エリアに離隔した成貝が収容される成貝エリアと、から構成されることが可能である。
【0079】
この高位側電極12については、水田投入または地面に設置する。
図9(c)に示すように、この収集手段33を上方向(L方向)に持ち上げることにより、腹足類生物100を幼貝エリアと成貝エリアとを分別して回収できる。この腹足類生物の誘引した頭数から貝密度計測や観測者によるカウント、さらにはAIカメラによる自動計測も可能となる。例えば、判断基準として、許容貝密度を、移植栽培の場合2.5匹/m
2以上、直播栽培の場合0.5匹/m
2以上とすることができる。
【0080】
このように、各実施形態に係る腹足類生物の発生検知装置の予察によって、腹足類生物の食害の発生について予測を含めたアラートを発することが可能となる。また、浅水管理の徹底を指示、適切な薬剤散布量の提案、冬眠前に貝密度を推定することで、翌シーズンの越冬貝の発生も予察できるという優れた腹足類生物の密度推定および予察技術が実現できる。
【0081】
この他にも、上記各実施形態に係る腹足類生物の発生検知装置は、メッセージアプリを備える外部端末に対して、この演算手段4による演算結果をメッセージアプリに表示させる表示手段を備えることも可能である。
【0082】
メッセージアプリを備える外部端末としては、例えば、スマートフォン、タブレット、ノートPC端末等が挙げられる。例えば、スマートフォンのアプリ上の画面で、上記各実施形態に係る腹足類生物の発生検知装置による腹足類生物の発生状況を時間場所に拠らず確認することが可能となる。この演算手段4による演算も、クラウドサーバー等のネットワーク上で行うことも可能であり、またスマートフォンのアプリ上で行うことも可能である。また、この演算手段4による演算を複数回(複数台)行うことも可能であり、これにより複数の演算結果に基づいて腹足類生物の発生検知に係る予測精度を高めることが可能となる。
【0083】
本発明の特徴を更に具体的に示すため以下実施例を記すが、本発明はこの実施例によって制限されるものではない。
【0084】
(実施例1)
腹足類生物の一種であるジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)を対象に、以下条件にて、
図10に示す発生検知装置を用いて、ジャンボタニシの密度推定および発生予察と、貝密度に対する電気誘引試験を行った。
【0085】
(条件1)
貝密度:2頭/m2、4頭/m2、10頭/m2
印加電圧:40V
マイナス極形状:棒状(φ1cm、30cm)、板状(20×20 cm×厚さ5mm)
実験用水田:2.5m×5m(佐世保高専敷地内)
観測時間:3時間
(条件2)
貝密度:4頭/m2
印加電圧: 20V、40V、60V
マイナス極形状:棒状(φ1cm、30cm)
実験用水田:2.5m×5m(佐世保高専敷地内)
観測時間:3時間
【0086】
得られた結果を
図11に示す。得られた結果から、ジャンボタニシは電位の高い方向から低い方向に移動しており、マイナス極形状が棒状の場合でも板状の場合でも、電極周辺に誘引されたジャンボタニシ頭数から貝密度(頭/m
2)を感度よく推定(予察)できることが確認された。
【0087】
(実施例2)
腹足類生物の一種であるジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)を対象に、
図12に示すように、内部に水を溜めてジャンボタニシを収容可能なバケツ形状の貯留槽で構成され、中心部に低位側電極11と、この低位側電極11の周囲に配設されるトラップと、内側面近傍に4つの高位側電極12と、が配設された発生検知装置を用いて、ジャンボタニシの密度推定および発生予察と、貝密度に対する電気誘引試験を以下条件にて行った。
【0088】
(条件)
電極:プラス電極(板)4枚、マイナス電極(棒)1本
電圧:20V
貝密度:10、20、50、100頭/m2
観測時間:3時間(3反復)
【0089】
この収集手段3としてのジャンボタニシを捕獲するトラップは、公知の電気トラップを基本モデルとして、3Dプリンタを用いて製造した。
【0090】
電圧を0Vと20Vの場合について得られた結果を
図13に示す。トラップから散逸したジャンボタニシの個体はおらず、トラップに捕集される頭数は、貝密度に依存する傾向があることが確認された。トラップに捕集されたスクミリンゴガイの頭数から貝密度を予測できることが確かに確認された。
【0091】
(実施例3)
腹足類生物の一種であるジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)を対象に、以下条件にて、ジャンボタニシを収容した水槽から構成される発生検知装置を用いて、ジャンボタニシの貝のサイズと誘引結果との関連性を以下条件にて調査した。
【0092】
(条件)
殻高
8-13mm(幼貝)
30-35mm(成貝)
電圧V(電界V/m)
0V (0V/m)、2V (2.7V/m)、5V (6.7V/m)、10V (13.3V/m)、20V (26.7V/m)、30V (40V/m)
供試数
10匹
実験時間
30分
【0093】
電極から3cm以内に進入した個体数をカウントした結果を
図14に示す。得られた結果から、幼貝に比べて成貝は、低い電圧で誘引されやすく、幼貝より反応が早いことが確認された。また、幼貝は成貝に比べて、低い電圧では誘引効果が低い反面、成貝が感電して動けない高い電圧下でも行動することができるため、不平等電界下では、電極近くにまで誘引されることが確認された。成貝と幼貝の密度を区分して計測できることが確認された。
【符号の説明】
【0094】
1 対向電極
11 低位側電極
12 高位側電極
2 電圧印加手段
3 収集手段
4 演算手段
41 分布演算部
42 予察演算部
5 制御手段
100 腹足類生物