(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031085
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】尿素の製造方法、肥料組成物の製造方法、再生カーボネート樹脂の製造方法およびリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
C07C 273/08 20060101AFI20240229BHJP
C07C 275/00 20060101ALI20240229BHJP
C07C 39/16 20060101ALI20240229BHJP
C07C 33/26 20060101ALI20240229BHJP
C07C 29/00 20060101ALI20240229BHJP
C07C 37/52 20060101ALI20240229BHJP
C07C 37/72 20060101ALI20240229BHJP
C07C 29/86 20060101ALI20240229BHJP
C07C 273/16 20060101ALI20240229BHJP
C05C 9/00 20060101ALI20240229BHJP
C08G 64/04 20060101ALI20240229BHJP
C08G 64/02 20060101ALI20240229BHJP
C08G 64/16 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C07C273/08
C07C275/00
C07C39/16
C07C33/26
C07C29/00
C07C37/52
C07C37/72
C07C29/86
C07C273/16
C05C9/00 A
C08G64/04
C08G64/02
C08G64/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134403
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】青木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大塚 英幸
(72)【発明者】
【氏名】阿部 拓海
【テーマコード(参考)】
4H006
4H061
4J029
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC41
4H006AC42
4H006AC57
4H006AD16
4H006BB11
4H006BB17
4H006BB31
4H006BC50
4H006BE14
4H006FC52
4H006FE11
4H006FE13
4H061AA02
4H061BB15
4H061EE02
4H061FF08
4H061GG26
4H061KK02
4J029AA09
4J029AE01
4J029BB06A
4J029BB06B
4J029BB06C
4J029BB13A
4J029BB13B
4J029BB13C
4J029BF16
4J029HA01
4J029HC04A
4J029HC04C
4J029HC05A
4J029HC05B
4J029JF181
(57)【要約】
【課題】尿素の新規な製造方法を提供する。
【解決手段】カーボネート樹脂とアンモニアとを接触させることにより、前記カーボネート樹脂をアンモノリシスにより解重合させる第一の工程と、前記第一の工程により生じた分解生成物から尿素を回収する第二の工程と、を含み、前記カーボネート樹脂は、1種以上の石油由来多価ヒドロキシモノマーを含む2種以上の多価ヒドロキシモノマーに基づく構造がカーボネート結合を介して連結された共重合体であり、前記分解生成物となる前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーおよび尿素の各々の化合物が有するn-オクタノール/水分配係数(Log Pow)および酸解離定数(pKa)のいずれか一方または両方に差異が存在し、前記各々の化合物は、前記第二の工程において、前記差異に基づき、水および有機溶媒を用いる液液抽出を複数回行うことにより分離可能である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボネート樹脂とアンモニアとを接触させることにより、前記カーボネート樹脂をアンモノリシスにより解重合させる第一の工程と、
前記第一の工程により生じた分解生成物から尿素を回収する第二の工程と、
を含み、
前記カーボネート樹脂は、1種以上の石油由来多価ヒドロキシモノマーを含む2種以上の多価ヒドロキシモノマーに基づく構造がカーボネート結合を介して連結された共重合体であり、
前記分解生成物となる前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーおよび尿素の各々の化合物が有するn-オクタノール/水分配係数(Log Pow)および酸解離定数(pKa)のいずれか一方または両方に差異が存在し、
前記各々の化合物は、前記第二の工程において、前記差異に基づき、水および有機溶媒を用いる液液抽出を複数回行うことにより分離可能であることを特徴とする、尿素の製造方法。
【請求項2】
前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーが弱酸性物質であり、
前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーが有する酸解離定数(pKa)が、尿素が有する酸解離定数(pKa)より大きい値である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーが有する水酸基の数が2個である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記1種以上の石油由来多価ヒドロキシモノマーが、下記式(1)で表される化合物からなる群から選ばれるモノマーである、請求項1に記載の製造方法。
【化1】
(式中、A
1およびA
2はそれぞれ独立に、炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、または単結合を示し、A
3は、フェニル基で置換されていてもよく、炭素原子間にフェニレン基が介在していてもよい炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、2価の環状炭化水素基、-O-、-S-、-CO-、-SO-、-SO
2-、または単結合を示し、X
1およびX
2はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、または炭素数1~6の炭化水素基を示し、aは0または1を示し、b及びcはそれぞれ独立に、0~4の整数を示す。)
【請求項5】
前記1種以上の石油由来多価ヒドロキシモノマーが、ビスフェノールAおよび1,4-ベンゼンジメタノールからなる群から選ばれるモノマーである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーが、ヘテロ縮合脂肪族環式多価アルコール化合物および脂肪族多価アルコール化合物からなる群から選ばれる1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーをさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記分解生成物中の前記1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーと前記尿素とのモル比が1:1~1:0.5である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ヘテロ縮合脂肪族環式多価アルコール化合物がイソソルビドである、請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記脂肪族多価アルコール化合物がソルビトールである、請求項6に記載の製造方法。
【請求項10】
尿素を有効成分として含む肥料組成物の製造方法であって、
尿素成分を含む粉状または液状の原料を、単独または他の成分と共に、造粒または水と配合する工程を含み、かつ、前記尿素成分が、請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された尿素であることを特徴とする、肥料組成物の製造方法。
【請求項11】
前記他の成分が、請求項6~9のいずれか1項に記載の製造方法の前記第一の工程において生じた分解生成物から前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーのうち前記1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーを回収することにより得られた前記1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーの全部または一部である、請求項10に記載の肥料組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法の前記第一の工程において生じた分解生成物から前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーを回収し、回収された前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーの全部または一部を含む1種以上の多価ヒドロキシモノマーを原料モノマーの全部または一部として重合することにより再生カーボネート樹脂を得ることを特徴とする、再生カーボネート樹脂の製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載の製造方法の前記第二の工程において回収された尿素の全部または一部を、肥料成分として再利用する工程を含むことを特徴する、リサイクル方法。
【請求項14】
請求項1に記載の製造方法の前記第一の工程において生じた分解生成物から前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーを回収し、回収された前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーの全部または一部を、肥料成分および/またはカーボネート樹脂のモノマーとして再利用する工程を含むことを特徴する、リサイクル方法。
【請求項15】
請求項6~9のいずれか1項に記載の製造方法の前記第一の工程において生じた分解生成物から前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーのうち前記1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーを回収し、回収された前記尿素および/または前記1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーの全部または一部を、肥料成分として再利用する工程を含むことを特徴とする、リサイクル方法。
【請求項16】
請求項1に記載の製造方法の前記第一の工程において生じた分解生成物から前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーのうち肥料成分として利用するもの以外の前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーの全部または一部を、カーボネート樹脂のモノマーとして再利用する工程を含むことを特徴する、リサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素の製造方法、肥料組成物の製造方法、再生カーボネート樹脂の製造方法およびリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子材料は、自動車、土木、建築、情報通信、食品、医療など、様々な分野で広く用いられている。近年、環境問題に対する関心の高まりから、再生可能資源である植物由来の高分子材料や、高分子材料のリサイクルへの関心が高まっている。
【0003】
高分子材料のリサイクル方法としては、サーマルリサイクル、メカニカルリサイクル、ケミカルリサイクルが知られている。これらのうちケミカルリサイクルでは、高分子材料を熱分解または化学反応によってモノマーやオリゴマーへと解重合し、それらを再度重合することにより、元々の高分子材料を再生または新たな高分子材料へ還元する。ケミカルリサイクルは、高分子材料をモノマーから製造し直すため、物性の低下を伴わない利点がある。
【0004】
カーボネート樹脂は、汎用される高分子材料の一つである。カーボネート樹脂としては、透明性、耐衝撃性、引張強さ、クリープ特性、耐熱性、低温特性等の各種の物性に優れる点から、モノマーとして芳香族モノマー、特にビスフェノールAを用いたものが広く用いられている。石油由来である芳香族モノマーの代わりに植物由来のモノマーを用いることも検討されており、例えば植物由来のモノマーであるイソソルビドを用いたポリイソソルビドカーボネートが実用化されている。
【0005】
特許文献1には、ポリカーボネート樹脂を主成分とする廃プラスチックからの有用物回収方法が記載されている。また非特許文献1には、プラスチックを肥料に変換するリサイクルシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“プラスチックを肥料に変換するリサイクルシステムを開発”、[online]、2021年10月28日公開、国立大学法人東京工業大学、インターネット〈URL:https://www.titech.ac.jp/news/2021/062173〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況下において、本発明者は、リサイクルの代表的な対象として考えられるカーボネート樹脂のうち、特に石油由来のカーボネート樹脂(即ち、石油由来のモノマーを用いて製造されたカーボネート樹脂)に注目し、さらに、従来のカーボネート樹脂を改良して新たな石油由来のカーボネート樹脂を中心にして優れたリサイクルシステムの構築について鋭意検討した結果、2種以上のモノマーを共重合してなる石油由来のカーボネート樹脂から尿素、肥料組成物または再生カーボネート樹脂およびその原料となるモノマーを製造し、再利用することが可能であることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、尿素、肥料組成物および再生カーボネート樹脂の新規な製造方法、ならびに石油由来のカーボネート樹脂の新規なリサイクル方法等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]カーボネート樹脂とアンモニアとを接触させることにより、前記カーボネート樹脂をアンモノリシスにより解重合させる第一の工程と、
前記第一の工程により生じた分解生成物から尿素を回収する第二の工程と、
を含み、
前記カーボネート樹脂は、1種以上の石油由来多価ヒドロキシモノマーを含む2種以上の多価ヒドロキシモノマーに基づく構造がカーボネート結合を介して連結された共重合体であり、
前記分解生成物となる前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーおよび尿素の各々の化合物が有するn-オクタノール/水分配係数(Log P
ow)および酸解離定数(pK
a)のいずれか一方または両方に差異が存在し、
前記各々の化合物は、前記第二の工程において、前記差異に基づき、水および有機溶媒を用いる液液抽出を複数回行うことにより分離可能であることを特徴とする、尿素の製造方法。
[2]前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーが弱酸性物質であり、
前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーが有する酸解離定数(pK
a)が、尿素が有する酸解離定数(pK
a)より大きい値である、前記[1]に記載の製造方法。
[3]前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーが有する水酸基の数が2個である、前記[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記1種以上の石油由来多価ヒドロキシモノマーが、下記式(1)で表される化合物からなる群から選ばれるモノマーである、前記[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
【化1】
(式中、A
1およびA
2はそれぞれ独立に、炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、または単結合を示し、A
3は、フェニル基で置換されていてもよく、炭素原子間にフェニレン基が介在していてもよい炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、2価の環状炭化水素基、-O-、-S-、-CO-、-SO-、-SO
2-、または単結合を示し、X
1およびX
2はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、または炭素数1~6の炭化水素基を示し、aは0または1を示し、b及びcはそれぞれ独立に、0~4の整数を示す。)
[5]前記1種以上の石油由来多価ヒドロキシモノマーが、ビスフェノールAおよび1,4-ベンゼンジメタノールからなる群から選ばれるモノマーである、前記[4]に記載の製造方法。
[6]前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーが、ヘテロ縮合脂肪族環式多価アルコール化合物および脂肪族多価アルコール化合物からなる群から選ばれる1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーをさらに含む、前記[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]前記分解生成物中の前記1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーと前記尿素とのモル比が1:1~1:0.5である、前記[6]に記載の製造方法。
[8]前記ヘテロ縮合脂肪族環式多価アルコール化合物がイソソルビドである、前記[6]又は[7]に記載の製造方法。
[9]前記脂肪族多価アルコール化合物がソルビトールである、前記[6]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]尿素を有効成分として含む肥料組成物の製造方法であって、
尿素成分を含む粉状または液状の原料を、単独または他の成分と共に、造粒または水と配合する工程を含み、かつ、前記尿素成分が、前記[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法によって製造された尿素であることを特徴とする、肥料組成物の製造方法。
[11]前記他の成分が、前記[6]~[9]のいずれかに記載の製造方法の前記第一の工程において生じた分解生成物から前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーのうち前記1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーを回収することにより得られた前記1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーの全部または一部である、前記[10]に記載の肥料組成物の製造方法。
[12]前記[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法の前記第一の工程において生じた分解生成物から前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーを回収し、回収された前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーの全部または一部を含む1種以上の多価ヒドロキシモノマーを原料モノマーの全部または一部として重合することにより再生カーボネート樹脂を得ることを特徴とする、再生カーボネート樹脂の製造方法。
[13]前記[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法の前記第二の工程において回収された尿素の全部または一部を、肥料成分として再利用する工程を含むことを特徴する、リサイクル方法。
[14]前記[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法の前記第一の工程において生じた分解生成物から前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーを回収し、回収された前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーの全部または一部を、肥料成分および/またはカーボネート樹脂のモノマーとして再利用する工程を含むことを特徴する、リサイクル方法。
[15]前記[6]~[9]のいずれかに記載の製造方法の前記第一の工程において生じた分解生成物から前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーのうち前記1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーを回収し、回収された前記尿素および/または前記1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーの全部または一部を、肥料成分として再利用する工程を含むことを特徴とする、リサイクル方法。
[16]前記[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法の前記第一の工程において生じた分解生成物から前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーのうち肥料成分として利用するもの以外の前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーの全部または一部を、カーボネート樹脂のモノマーとして再利用する工程を含むことを特徴する、リサイクル方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、石油由来のカーボネート樹脂から尿素、肥料組成物または再生カーボネート樹脂を製造する新規な製造方法、および石油由来のモカーボネート樹脂の新規なリサイクル方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】合成例1で得られたP(BPAC-co-BDMC)の
1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図2】合成例1で得られたP(BPAC-co-BDMC)のGPC溶出曲線を示す図である。
【
図3】試験例1で回収された水層、有機層それぞれの分解生成物の
1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図4】
図3に示す有機層の分解生成物の
1H NMRスペクトルの一部を拡大したものを示す図である。
【
図5】試験例2で回収された水層、有機層それぞれの分解生成物の
1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図6】参考例の結果(試料1~3が有する植物成長促進効果)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔尿素の製造方法〕
本発明の尿素の製造方法は、カーボネート樹脂とアンモニアとを接触させることにより、前記カーボネート樹脂をアンモノリシス(因みに、加アンモニア分解、加安分解とも言われる。)により解重合させる第一の工程と、前記第一の工程により生じた分解生成物から尿素を回収する第二の工程と、を含む。
【0013】
(カーボネート樹脂)
第一の工程で用いられるカーボネート樹脂は、2種以上の多価ヒドロキシモノマーに基づく構造がカーボネート結合を介して連結された共重合体(コポリカーボネート)である。また、2種以上の多価ヒドロキシモノマーは、1種以上の石油由来多価ヒドロキシモノマーを含む。2種以上の多価ヒドロキシモノマーは、石油由来多価ヒドロキシモノマー以外の他の多価ヒドロキシモノマーをさらに含んでいてもよい。
【0014】
「多価ヒドロキシモノマー」とは、2個以上の水酸基を有する重合性化合物であり、当該化合物と炭酸との縮合重合によってつくられるポリエステル化合物が有する繰り返し単位を構成する。
「多価ヒドロキシモノマーに基づく構造」とは、多価ヒドロキシモノマーから2個の水酸基を除いた構造である。
多価ヒドロキシモノマーが有する水酸基の数は、2~6個が好ましく、2個が特に好ましい。
【0015】
カーボネート樹脂をアンモノリシスにより解重合させると、分解生成物としてカーボネート樹脂の多価ヒドロキシモノマーおよび尿素が生成する。したがって、第一の工程により生じる分解生成物は、2種以上の多価ヒドロキシモノマーおよび尿素を含む。また、分解生成物中の2種以上の多価ヒドロキシモノマーは、1種以上の石油由来多価ヒドロキシモノマーを含む。分解生成物中の2種以上の多価ヒドロキシモノマーは、石油由来多価ヒドロキシモノマー以外の他の多価ヒドロキシモノマーをさらに含んでいてもよい。
【0016】
カーボネート樹脂は、具体的には、下記式(A)で表される構造を含む。
【0017】
【化2】
(式中、Rは、多価ヒドロキシモノマーに基づく構造であり、nは2以上の整数であり、n個のRの少なくとも一部は互いに異なり、n個のRの少なくとも一部は石油由来多価ヒドロキシモノマーに基づく構造である。)
【0018】
石油由来多価ヒドロキシモノマーである典型的な化合物は、例えば、石油のもとである原油を加熱分解して生じるナフサ等を原料にして石油化学から生まれたプラスチックの繰り返し単位を構成する重合性化合物であり、具体的には、芳香族系炭化水素(即ち、1分子中に少なくとも1個の芳香族環を含む炭化水素)が有する2個以上の水素原子が水酸基に置換されてなるモノマー等を挙げることができる。
より具体的には、石油由来多価ヒドロキシモノマーとして、例えば、下記式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)とも記す。)が挙げられる。
【0019】
【化3】
(式中、A
1およびA
2はそれぞれ独立に、炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、または単結合を示し、A
3は、フェニル基で置換されていてもよく、炭素原子間にフェニレン基が介在していてもよい炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、2価の環状炭化水素基、-O-、-S-、-CO-、-SO-、-SO
2-、または単結合を示し、X
1およびX
2はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、または炭素数1~6の炭化水素基を示し、aは0または1を示し、b及びcはそれぞれ独立に、0~4の整数を示す。)
【0020】
化合物(1)に基づく構造は、下記式(i)で表される。
【0021】
【0022】
A1、A2およびA3における「炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基」としては、例えば、メチレン基、エチレン墓、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン墓、イソペンチレン基、ヘキシレン墓、へプタレン基、オクタレン基等を挙げることができる。
A3における「2価の環状炭化水素基」としては、例えば、1,4-シクロヘキシレン基、2-イソプロピル-1,4-シクロヘキシレン基等のシクロアルキレン基等を挙げることができる。
X1およびX2における「ハロゲン原子」としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等を挙げることができる。
X1およびX2における「炭素数1~6の炭化水素基」としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を挙げることができる。
【0023】
化合物(1)の具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、4,4’-ジヒドロキシジフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)エタン、1,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2-(4’-ヒドロキシフェニル)-2-(3’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)イソブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルプロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1-ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-フェニルエタン、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-s-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、1,1’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン等のビス(ヒドロキシアリール)ジアルキルベンゼン類;1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル等のビス(ヒドロキシアリール)エーテル類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド等のビス(ヒドロキシアリール)スルフィド類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン等のビス(ヒドロキシアリール)ケトン類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド等のビス(ヒドロキシアリール)スルホキシド類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等のビス(ヒドロキシアリール)スルホン類等が挙げられる。
【0024】
化合物(1)の中でも、ビスフェノールAおよび1,4-ベンゼンジメタノールからなる群から選ばれる1種以上の化合物が好ましく、ビスフェノールAが特に好ましい。
ビスフェノールAと1,4-ベンゼンジメタノールとを併用してもよい。ビスフェノールAと1,4-ベンゼンジメタノールとを共重合したカーボネート樹脂は、ビスフェノールAのみを重合したカーボネート樹脂が有する物性・特性において、疲労特性、耐摩耗性等を向上させることが期待される。
【0025】
石油由来多価ヒドロキシモノマー以外の他の多価ヒドロキシモノマーとしては、例えば、植物由来多価ヒドロキシモノマー等が挙げられる。目的に応じて、植物由来多価ヒドロキシモノマーを適宜用いてもよい。
植物由来多価ヒドロキシモノマーである典型的な化合物は、例えば、サトウキビやトウモロコシのようなバイオマス等の再生可能な原料に由来する材料である化合物であり、多くの場合、生化学的または生物学的に合成される化合物が有する2個以上の水素原子が水酸基に置換されてなるモノマー等を挙げることができる。
より具体的には、植物由来多価ヒドロキシモノマーとして、例えば、ヘテロ縮合脂肪族環式多価アルコール化合物、脂肪族多価アルコール化合物等が挙げられる。
ヘテロ縮合脂肪族環式多価アルコール化合物は、環骨格にヘテロ原子(例えば、酸素原子等)を含む縮合脂肪族環を有する多価アルコール化合物である。ヘテロ縮合脂肪族環式多価アルコール化合物としては、例えば、イソソルビド等が挙げられる。
脂肪族多価アルコール化合物としては、例えば、糖アルコールが挙げられる。糖アルコールとしては、例えば、ソルビトール等が挙げられる。
【0026】
前記の植物由来多価ヒドロキシモノマーのうち、植物成長促進活性を有する化合物は、肥料の製造に利用できる点から好ましい(以下、「植物成長促進活性含有モノマー」とも記す。)。
植物成長促進活性含有モノマーとしては、イソソルビドが好ましい。
イソソルビドは、下記式(2)で表される化合物である。
【0027】
【0028】
イソソルビドに基づく構造は、下記式(ii)で表される。
【0029】
【0030】
2種以上の多価ヒドロキシモノマーは、2種以上の石油由来多価ヒドロキシモノマーからなるものであってもよく、1種以上の石油由来多価ヒドロキシモノマーおよび1種以上の他の多価ヒドロキシモノマーからなるものであってもよい。
2種以上の多価ヒドロキシモノマーの合計100モル%に対する石油由来多価ヒドロキシモノマーの割合(前記式(A)中のn個のRのうち石油由来多価ヒドロキシモノマーに基づく構造であるRの割合)としては、カーボネート樹脂が使用目的に応じて必要となる物性・特性に応じて適宜設定可能であり、例えば、1モル%以上100モル%以下の範囲に含まれる値を挙げることができる。好ましくは、例えば、10モル%以上100モル%以下の範囲に含まれる値が挙げられる。より好ましくは、例えば、50モル%以上100モル%以下の範囲に含まれる値を挙げることができる。また、カーボネート樹脂がポリ(ビスフェノールAカーボネート)(以下、PBPACと記すこともある。)が有する物性・特性に近いものである場合には、例えば、80モル%以上100モル%以下の範囲に含まれる値を好ましく挙げることができる。より好ましくは、90モル%以上100モル%以下の範囲に含まれる値が挙げられる。特に好ましくは100モル%を挙げることができる。
2種以上の多価ヒドロキシモノマーが1種以上の他の多価ヒドロキシモノマーを含む場合、2種以上の多価ヒドロキシモノマーの合計100モル%に対する石油由来多価ヒドロキシモノマーの割合としては、カーボネート樹脂が使用目的に応じて必要となる物性・特性に応じて適宜設定可能であり、例えば、1モル%以上100モル%以下の範囲に含まれる値を挙げることができる。また、カーボネート樹脂が前記1種以上の他の多価ヒドロキシモノマー由来の物性・特性を期待する場合には、例えば、2種以上の多価ヒドロキシモノマーの合計100モル%に対する前記1種以上の他の多価ヒドロキシモノマーの割合(前記式(A)中のn個のRのうち前記1種以上の他の多価ヒドロキシモノマーに基づく構造であるRの割合)としては、50モル%以上99モル%以下の範囲に含まれる値を挙げることができる。好ましくは、例えば、70モル%以上99モル%以下の範囲に含まれる値が挙げられる。より好ましくは、例えば、80モル%以上90モル%以下の範囲に含まれる値を挙げることができる。
【0031】
2種以上の多価ヒドロキシモノマーが1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーを含む場合、2種以上の多価ヒドロキシモノマーの合計100モル%に対する石油由来多価ヒドロキシモノマーの割合としては、カーボネート樹脂が使用目的に応じて必要となる物性・特性に応じて適宜設定可能であり、例えば、1モル%以上100モル%以下の範囲に含まれる値を挙げることができる。また、カーボネート樹脂が前記1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマー由来の物性・特性を期待する場合には、例えば、2種以上の多価ヒドロキシモノマーの合計100モル%に対する前記1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーの割合(前記式(A)中のn個のRのうち前記1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーに基づく構造であるRの割合)としては、50モル%以上99モル%以下の範囲に含まれる値を挙げることができる。好ましくは、例えば、70モル%以上99モル%以下の範囲に含まれる値が挙げられる。より好ましくは、例えば、80モル%以上90モル%以下の範囲に含まれる値を挙げることができる。
このような場合において、石油由来多価ヒドロキシモノマーの割合にもよるが、第一の工程で生じる分解生成物中の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーと尿素とのモル比(植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマー:尿素)が1:1~1:0.4、好ましくは1:0.9~1:0.5、より好ましくは1:0.8~0.6の範囲内になることがよい。このモル比が前記範囲内であれば、分離した尿素および植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーを混合して得られる肥料組成物が、特に優れた植物成長促進効果を示す。勿論、前記得られる肥料組成物に、別途、尿素や植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーを添加することにより、前記得られる肥料組成物に含まれる植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーと尿素とのモル比を調整してもよい。
【0032】
本発明においては、2種以上の多価ヒドロキシモノマーが1種以上の石油由来多価ヒドロキシモノマーを含むとともに、2種以上の多価ヒドロキシモノマーおよび尿素の各々の化合物が有するn-オクタノール/水分配係数(Log Pow)および酸解離定数(pKa)のいずれか一方または両方に差異が存在する。ここで、各々の化合物のLog PowおよびpKaは、液液抽出を行う温度における値である。
Log Powは、水へのなじみにくさ(疎水性)の指標であり、Log Powが大きいほど疎水性が高いことを示す。pKaは、酸の強さの指標であり、pKaが小さいほど強い酸であることを示す。各々の化合物が有するLog PowおよびpKaのいずれか一方または両方に差異が存在することにより、第二の工程において、各々の化合物を分離することができる。
【0033】
Log Powは、当該技術分野において通常用いられる公知の方法により求めてもよい。また、簡易な評価のために、文献値、試薬会社等が提供する公知な値等を参照してもよい。さらにまた、ケモインフォマティクス分野で知られる各種のLog Pow推定アプローチを利用して計算してもよく、具体的には例えば、Chem Draw Professional 16.0の「CLog P」プログラムを用いて対象化合物の構造式から算出することもできる。
Log Powの求め方としては、例えば、フラスコ振盪法およびHPLC法を挙げることができる。
1.フラスコ振盪法:
対象物質と2種類の溶媒を実際にフラスコに入れ、よく振り混ぜる方法であり、フラスコ振盪法によるオクタノール/水分配係数の測定法は、「OECD Test Guideline 107」や「JIS Z7260-107」によって、標準的な方法が詳しく定められている。特に、Log Powが-2~4(場合によっては5)までの試料に適用することが好ましい。
オクタノール中の濃度(Co)と水中の濃度(Cw)をそれぞれ求め、濃度比Co/Cw=Pow(分配係数)の常用対数Log Powとして算出すればよい。
因みに、フラスコ振盪法による分配係数の測定は、化学構造が未知の物質にも使用できるため適用範囲が広いが、平衡に達するまでの時間が長く(例えば、15分~1時間)、両方の溶媒に完全に溶解する物質(例えば、溶質の量は0.01mol/L以下を目処にするとよい。)にしか適用できないことに注意が必要である。尚、特にエマルジョンになってしまった場合には、2つの相を分けるのに遠心分離を用いることもできる。
2.HPLC法:
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いたLog Powの求め方は「OECD Test Guideline 117」に規定されており、Log Powが0~6までの試料に適用することが好ましい。
因みに、HPLC法による分配係数の測定は、既知物質のデータが揃っていれば、フラスコ振盪法よりも迅速に分配係数を決定でき、不純物等の影響も少ないが、水への溶解度が低いものやカラム担体と反応するもの、錯体など測定中に分解する可能性があるものには適用できないことに注意が必要である。また、分配係数は既知試料データからの回帰分析によって算出するため、分配係数がわかっている複数の物質が必要なこと、構造が大きく異なる化合物では相関係数が異なり、比較しにくいことにも注意が必要である。
【0034】
pKaは、当該技術分野において通常用いられる公知の方法により求めてもよい。また、簡易な評価のために、文献値、試薬会社等が提供する公知な値等を参照してもよい。
pKaの求め方としては、例えば、中和滴定法、吸光光度法およびキャピラリー電気泳動法を挙げることができる。その中でも精度の高い、中和滴定法を用いて対象物質のpKaを測定する方法を以下に記載する。
1.中和滴定法:
弱酸である対象物質の中和滴定曲線を作成する。作成された滴定曲線において、LiOH溶液、NaOH溶液、KOH溶液等のアルカリ溶液の滴下前は弱酸性を示し、滴下開始直後には弱酸によって1から2単位程度のpHの上昇が観測される。その後は、前記アルカリ溶液の滴下に伴い当量点まで緩やかにpHが上昇し、当該当量点において急激なpHの上昇が観測される。前記当量点以降は前記アルカリ溶液のpHに近づく変化が観測される。対象試料の弱酸性度の差異は、半当量点付近のpHの差異として観察される。因みに、これはHenderson式で説明され、当該半当量点ではlog (CA/CHA)(ここでCAはアルカリ溶液と反応した対象物質の分析濃度を示し、CHAはアルカリ溶液と未反応であった対象物質の分析濃度を示す。)は0となりpH=pKaの関係になる。そこで、作成された滴定曲線から、中和が完結する量を特定し、その半量を滴下した時点(即ち、緩衝領域中心点、電離平衡状態)のpHをpKaとして決定すればよい。また、所定量の前記アルカリ溶液を滴下したときの対象物質の溶液のpHをlog (CA/CHA)に対してプロットして、その線形回帰直線を求めることにより、当該線形回帰直線の切片としてpKaの値を算出することもできる。
【0035】
例えば、尿素の室温(20~25℃)におけるLog Powは-1.54~2.96であり、21℃におけるpKaは0.10である。
因みに、分配係数(Pow)に対する温度の影響は一般にてあまり大きいものではなく、例えば1℃当たり、Log Powにして、0.001~0.01程度の小さなものであると言われている。一方、pKaに対する温度の影響はpHに対する温度変化に基づき温度の上昇と共に値が少しだけ小さくなり、温度当たりのpKaの実際の変化率(ΔpKa/℃)はおおむね直線性を示すことが知られている。このため、2種以上のモノマー多価ヒドロキシモノマーそれぞれのLog PowおよびpKaのいずれか一方または両方における差異における温度の影響は、本発明の目的、実施および効果の観点からは大きなものではなかろう。
2種以上の多価ヒドロキシモノマーはそれぞれ、Log PowおよびpKaのいずれか一方または両方に差異が存在していればよい。
例えば、2種以上の多価ヒドロキシモノマーが弱酸性物質であり、尿素が有するpKaより大きいpKaを有することが好ましい。
また、例えば、2種以上の多価ヒドロキシモノマーはそれぞれ、以下の条件1および条件2のいずれか一方または両方を満たすことが好ましい。
条件1:当該多価ヒドロキシモノマーと他の多価ヒドロキシモノマーとの間のLog Powの差が2以上(好ましくは5以上)である。
条件2:当該多価ヒドロキシモノマーと他の多価ヒドロキシモノマーとの間のpKaの差が2以上(好ましくは3以上)である。
【0036】
具体的な多価ヒドロキシモノマーのLog PowおよびpKaを以下に示す。
ビスフェノールA:Log Pow=3.84、pKa=10.29±0.10
1,4-ベンゼンジメタノール:Log Pow=-0.15、pKa=14.2。
イソソルビド:Log Pow=1.31、pKa=13.17±0.40
ソルビトール:Log Pow=-2.20、pKa=13.6。
【0037】
カーボネート樹脂の好ましい態様(2種以上の多価ヒドロキシモノマーの好ましい組み合わせ)を以下に示す。ただし、カーボネート樹脂はこれらの態様に限定されるものではない。
態様1:ビスフェノールAと1,4-ベンゼンジメタノールとの共重合体。
態様2:ビスフェノールAとイソソルビドとの共重合体。
態様3:ビスフェノールAとソルビトールとの共重合体。
態様4:ビスフェノールAと1,4-ベンゼンジメタノールとイソソルビドとの共重合体。
態様5:ビスフェノールAと1,4-ベンゼンジメタノールとソルビトールとの共重合体。
態様6:ビスフェノールAとイソソルビドとソルビトールとの共重合体。
態様7:ビスフェノールAと1,4-ベンゼンジメタノールとイソソルビドとソルビトールとの共重合体。
【0038】
カーボネート樹脂の数平均分子量(Mn)は、特に制限はないが、例えば、2000以上100000以下である。
カーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)をMnで除した値である分子量分散度(PDI)は、特に制限はないが、例えば、1.5以上5.0以下である。
カーボネート樹脂のMnおよびMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0039】
(第一の工程)
第一の工程では、カーボネート樹脂とアンモニアとを接触させることにより、カーボネート樹脂をアンモノリシスにより解重合させる。
カーボネート樹脂とアンモニアとを接触させる方法は、公知の方法と同様であってよい。例えば、カーボネート樹脂とアンモニア水溶液とを接触させる方法が挙げられる。
カーボネート樹脂とアンモニアとを接触させる際の温度(反応温度)としては、例えば、10~100℃を挙げることができる。好ましくは、例えば、20~100℃が挙げられる、より好ましいは、例えば、40~100℃を挙げることができる、特に好ましくは、例えば、60~95℃を挙げることができる。尚、反応温度が前記下限値以上であれば、アンモノリシス反応が進行しやすく、温度が高いほど脱炭酸反応の進行を抑制でき、尿素の収率が向上する。因みに、より具体的には例えば、90℃の場合には尿素の収率は95%であった。
カーボネート樹脂とアンモニアとを接触させる時間(反応時間)としては、反応温度によっても異なるが、例えば、1~24時間を挙げることができる。好ましくは、例えば、4~12時間が挙げられる。因みに、より具体的には例えば、90℃の場合には4~8時間を挙げることができる。
このようにして、カーボネート樹脂のアンモノリシスによる分解生成物を含む反応物が得られる。反応後、必要に応じて、反応物中に残存するアンモニア、水等を除去するために、反応物を乾燥してもよい。
【0040】
分解生成物は、2種以上の多価ヒドロキシモノマーおよび尿素を含む。
分解生成物における2種以上の多価ヒドロキシモノマーのモル比は、前記カーボネート樹脂がアンモノリシスにより完全に解重合された場合、基本的には、カーボネート樹脂における2種以上の多価ヒドロキシモノマーそれぞれに基づく構造のモル比と同様である。
【0041】
2種以上の多価ヒドロキシモノマーが1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーを含む場合、分解生成物中の1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーと尿素とのモル比(植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマー:尿素)としては、例えば、1:1~1:0.4を挙げることができる。好ましくは1:0.9~1:0.5が挙げられる。より好ましくは1:0.8~0.6を挙げることができる。該モル比が前記範囲内であれば、これらを有効成分として含む肥料組成物が優れた植物成長促進を示す。
【0042】
(第二の工程)
第二の工程では、第一の工程により生じた分解生成物について、例えば、水および有機溶媒を用いる液液抽出を複数回行うことにより、分解生成物中の2種以上の多価ヒドロキシモノマーおよび尿素の各々の化合物を分離し、尿素を回収することができる。
【0043】
液液抽出は、分離対象の化合物(2種以上の多価ヒドロキシモノマーおよび尿素)それぞれのLog PowまたはpKaの差異に基づいて行う。
以下、分解生成物が尿素、ビスフェノールA、1,4-ベンゼンジメタノール、イソソルビド、ソルビトールを含む場合を例に挙げて説明する。
まず、常温(例えば20~25℃)におけるLog Powが2未満であり、かつ、水溶性である尿素、イソソルビド、ソルビトールは、前記常温における液液抽出において水層に抽出される。一方、前記常温におけるLog Powが2以上であり、かつ、水難溶性であるビスフェノールAは、前記常温における液液抽出において有機層に抽出される。したがって、水および有機溶剤を用いた液液抽出により、前者と後者を分離できる。尚、当該温度条件下では、前記常温におけるLog Powが2未満であり、水と有機溶媒との間において中性的な溶解性を示す1,4-ベンゼンジメタノールは、水層および有機層のいずれにも抽出され得る。
次に、水層中の尿素、イソソルビド、ソルビトール、1,4-ベンゼンジメタノールは、pKaに差異がある。そのため、以下の手順でこれらを分離することができる。
尿素、イソソルビド、ソルビトール、1,4-ベンゼンジメタノールを含む水層に対し、例えば、酢酸エチル、クロロホルム等の有機溶媒を用いて液液抽出する際に、アルカリ溶液を当該液液抽出の系内に滴下して、当該系内のpH値を、例えば、13未満、13.4、13.9にすることにより、それぞれの物質の液液抽出時における水と有機溶媒との間における分配濃度比を変えることで効果的かつ効率的に分離できる。より純度の高い物質を回収するには、当該分離のための操作を複数回行えばよい。
次に、有機層中のビスフェノールA、1,4-ベンゼンジメタノールは、温度が高い水(例えば50℃以上の水)に対する溶解度およびpKaに差異がある。そのため、以下の手順でこれらを分離することができる。
ビスフェノールA、1,4-ベンゼンジメタノールを含む有機層に対し、例えば、必要に応じてアルカリ溶液を予め添加してなる炭酸水素ナトリウム水溶液(好ましくは温度が高い前記炭酸水素ナトリウム水溶液)を用いて洗浄・抽出することで効果的かつ効率的に分離できる。
これら以外の多価ヒドロキシモノマーについても、Log PowまたはpKaの差異に基づき、上記と同様にして分離できる。
【0044】
第二の工程において、分離した2種以上の多価ヒドロキシモノマーをそれぞれ回収してもよい。
回収した多価ヒドロキシモノマーは、カーボネート樹脂、ポリエステル樹脂等、多価ヒドロキシモノマーを用いた高分子材料の原料として再利用することができる。また、2種以上の多価ヒドロキシモノマーが1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーを含む場合、植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーは、高分子材料の原料のほか、肥料成分としても再利用できる。
【0045】
〔リサイクル方法〕
本発明のリサイクル方法では、上述の製造方法の前記第二の工程において回収された尿素の全部または一部を、肥料成分として再利用することができる。
本発明のリサイクル方法では、上述の尿素の製造方法の第一の工程において生じた分解生成物から、尿素のほかに、前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーを回収してもよい。
前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーを回収する場合、回収された前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーの全部または一部を、肥料成分および/またはカーボネート樹脂のモノマーとして再利用することができる。
前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーが前記1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーを含む場合には、回収された尿素および/または前記1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーの全部または一部を、肥料成分として再利用することができる。
また、前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーのうち肥料成分として再利用するもの以外の前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーの全部または一部を、カーボネート樹脂のモノマーとして再利用することができる。
【0046】
回収した植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーを肥料成分として再利用した肥料組成物の製造方法、回収した多価ヒドロキシモノマーをカーボネート樹脂のモノマーとして再利用した再生カーボネート樹脂の製造方法については後で詳しく説明する。
【0047】
〔肥料組成物の製造方法〕
本発明の肥料組成物の製造方法により製造される肥料組成物は、尿素を有効成分として含む。
肥料組成物は、尿素のみからなるものであってもよい。
肥料組成物は、有効成分として、1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーをさらに含んでいてもよい。
肥料組成物は、尿素および植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマー以外の他の有効成分(ミネラル等)、助剤、水等をさらに含んでいてもよい。
【0048】
肥料組成物において、1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーと尿素とのモル比(植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマー:尿素)としては、例えば、1:1~1:0.4を挙げることができる。好ましくは1:0.9~1:0.5が挙げられる。より好ましくは1:0.8~0.6を挙げることができる。該モル比が前記範囲内であれば、肥料組成物が優れた植物成長促進を示す。
【0049】
本発明の肥料組成物の製造方法は、尿素成分を含む粉状または液状の原料を、単独または他の成分と共に、造粒または水と配合する工程を含み、かつ、当該尿素成分が上述の尿素の製造方法によって製造された尿素である。
前記他の成分として、例えば、上述の尿素の製造方法の前記第一の工程において生じた分解生成物から前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーのうち前記1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーを回収することにより得られた前記1種以上の植物成長促進活性含有多価ヒドロキシモノマーの全部または一部、またはそれ以外の他の有効成分や助剤等を挙げることができる。
【0050】
〔再生カーボネート樹脂の製造方法〕
本発明の再生カーボネート樹脂の製造方法では、上述の尿素の製造方法の第一の工程において生じた分解生成物から、前記2種以上の多価ヒドロキシモノマーを回収し、回収された2種以上の多価ヒドロキシモノマーの全部または一部を含む1種以上の多価ヒドロキシモノマーを原料モノマーの全部または一部として重合することにより再生カーボネート樹脂を得ることができる。
【0051】
重合する多価ヒドロキシモノマーは1種でもよく2種以上でもよい。再生カーボネート樹脂の物性に優れる点から、1種以上の多価ヒドロキシモノマーの少なくとも一部は石油由来多価ヒドロキシモノマーであることが好ましい。
重合方法に特に制限は無く、エステル交換法、ホスゲン法等の公知の方法を用いることができる。
【0052】
再生カーボネート樹脂の数平均分子量(Mn)は、特に制限はないが、例えば、2000以上100000以下である。
再生カーボネート樹脂の分子量分散度(PDI)は、特に制限はないが、例えば、1.5以上5.0以下である。
【0053】
得られる再生カーボネート樹脂は、公知のカーボネート樹脂と同様の用途に用いることができる。再生カーボネート樹脂の用途例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
家電部品(テレビ部品、VTR部品、ヘアドライヤハウジング、アイロン部品、電子レンジ部品、各種光ディスク)、電子通信用(リレーケース、LEDランプ、コンピュータ構造部品)、照明器具(照明カバー、懐中電灯)、ヘッドランプレンズ、ドアハンドル、メータカバー、二輪車風防、ルーバー、カメラボディおよびその部品、複写機またはプリンタの構造部品、FDD部品、パソコン部品、ポンプ部品、電動工具ハウジング、玩具、ベビーカー部品、水道器具部品、水筒、くし、鉛筆削り、スキーゴーグル、剣道防具、ウィンドサーフィンのフィン、パチンコ部品、ヘルメット、人工腎臓ケース、目薬容器、工事用ヘルメット、保護眼鏡、消火器部品、高速道路防音壁、窓ガラス、包装用フィルム、コンデンサフィルム、FPD(フラットパネルディスプレイ)用光学フィルム等。
【実施例0054】
以下、実施例および比較例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
本実施例におけるGPCおよび1H NMRの測定方法を以下に示す。
<GPC>
屈折率(RI)検出器を備えたJASCO HSS-1500システムを用い、以下の条件で測定した。
カラム:GPCカラム
臭化リチウム(5mM)を含むテトラヒドロフラン(THF)を、0.6mL/minの流量で溶離液として使用した。GPCシステムのキャリブレーションには、ポリスチレン標準(数平均分子量(Mn):4,430~3,242,000gmol-1;多分散性指数(PDI):1.03~1.08)を使用した。
<1H NMR>
(装置)BrukerトップスピンAVANCEIIIHD500スペクトロメータを用い、以下の条件で測定した。
溶媒:DMSO-d6
内部標準:1,3,5-トリメトキシベンゼン
【0056】
(合成例1)
多価ヒドロキシモノマーとしてビスフェノールA(以下、BPAともいう。)および1,4-ベンゼンジメタノール(以下、BDMともいう。)を用いたコポリカーボネート(ポリ(BPAカーボネート-cо-BDMカーボネート))(以下、P(BPAC-cо-BDMC)ともいう。)を以下のスキームに従って合成した。
【0057】
【0058】
P(BPAC-cо-BDMC)の合成方法の詳細を以下に示す。
100mLの2口フラスコに、BPA(2.50g,11.0mmol)、BDM(1.51g,11.0mmol)、炭酸ジフェニル(4.69g,21.9mmol)および酢酸亜鉛(1.00mg,5.45μmol)を加えた後、当該フラスコの内部の気相を窒素で置換した。その後、前記フラスコ内に含まれる混合物からなる反応系を140℃で1時間、ついで200℃で30分加熱した。さらに続いて、前記反応系の反応温度を220℃としたのち、前記フラスコの内部を減圧(ca.13.5mmHg)した後、発生するフェノールを除きながら、前記反応系を30分加熱した。さらに、前記反応系を240℃、高真空化(<0.2mmHg)で1.5時間加熱した。反応終了後、前記フラスコ内に含まれる反応生成物を室温まで冷却した。ついで、前記フラスコ内にクロロホルムを加えることにより、前記反応生成物を溶解させた。
得られた、前記反応生成物を含むクロロホルム溶液を、過剰のメタノールに投じ、当該操作により生じた固体を濾別、乾燥させることにより、P(BPAC-co-BDMC)を白色固体として得た(4.27g,収率93.2%,Mn=11,600,PDI=3.39)。
【0059】
得られたP(BPAC-co-BDMC)の
1H NMRスペクトルおよびGPC溶出曲線をそれぞれ
図1および
図2に示した。
図1において、全てのシグナルが矛盾なく帰属できた。さらに、NMRスペクトルの積分比から算出した共重合比は、BPA骨格:BDM骨格=52.5:47.5で、理論値とほぼ一致した。以上の結果より、目的のP(BPAC-co-BDMC)の合成を確認することができた。
【0060】
(試験例1)
本試験例では、合成例1で得られたP(BPAC-co-BDMC)のアンモニアによる分解(アンモノリシス)、その分解生成物の液液抽出、抽出された分解生成物の解析を行った。
P(BPAC-co-BDMC)のアンモノリシス反応のスキームを以下に示す。
【0061】
【0062】
<P(BPAC-co-BDMC)のアンモノリシスおよび分解生成物の液液抽出>
50mLナスフラスコにP(BPAC-co-BDMC)(250mg)を加えた後、当該フラスコ内部の気相を窒素で置換した。その後、前記フラスコ内に水(7.40mL)およびアンモニア水(2.50mL,14.8M)を加えた後、前記フラスコ内に含まれる混合物からなる反応系を90℃で1週間加熱した。反応終了後、前記フラスコ内に含まれる混合物から凍結乾燥により水およびアンモニアを取り除くことにより、白色粉末を得た。
得られた白色粉末を20mLの酢酸エチル、5mLのヘキサンおよび20mLの水と混合した。得られた混合物を静置した後、生じた有機層を回収した。一方、残った水層に、酢酸エチル20mLおよびヘキサン5mLの混合溶液を加えた後、前記と同様な操作により、生じた有機層を回収した。さらに、当該操作を再度繰り返した。
これら3回の液液抽出により得られた有機層それぞれについて、溶媒を減圧留去することにより、分解生成物を回収した。一方、3回の液液抽出後の水層については、凍結乾燥により水を除去することにより、分解生成物を回収した。
【0063】
<分解生成物の解析>
1.有機層の分解生成物の解析
有機層から回収した分解生成物にDMSO-d6(2.00mL)を加え、分解生成物を完全に溶解させた。ここに、内部標準として1,3,5-トリメトキシベンゼン(15.0mg)を加え、溶液のうち1mLを用いて1H NMRによる解析を行った。
【0064】
2.水層の分解生成物の解析
水層から回収した分解生成物にDMSO-d6(4.00mL)を加え、分解生成物を完全に溶解させた。ここに、内部標準として1,3,5-トリメトキシベンゼン(30.0mg)を加え、溶液のうち1mLを用いて1H NMRによる解析を行った。
【0065】
<結果・考察>
水層、有機層それぞれの分解生成物の
1H NMRスペクトルを
図3に、有機層の分解生成物の
1H NMRスペクトルの一部を拡大したものを
図4に、スペクトルの積分比から算出した各分解生成物の収率を表1に示した。
【0066】
【0067】
水層の分解生成物のNMRスペクトルに注目すると、BPAを含むことなく、多くの尿素が回収されたことが確認できた。ただし、尿素の他にBDMの少量の残存が確認され、純度100%である尿素の単離には至らなかった。これはBDMの親水性が比較的に高く、全てのBDMが効率的に有機層へ抽出されなかったためと考えられる。
尚、尿素とBDMとは、pKaが異なるため、液液抽出における水のpHを変更することにより分離可能である。例えば、水に塩酸、酢酸または水酸化ナトリウム等を加えてpHを各々のpKaに応じて、pKa差異幅の範囲に含まれる値であって2以上の差異を有する値(好ましくは、pKa差異幅の中間値付近に相当する値)に設定すると、尿素とBDMとを効果的に分離できる。また、液液抽出をより低温で行うことにより、BDMの親水性を低下させ、尿素とBDMとを効率的に分離することもできる。
【0068】
有機層のNMRスペクトルに注目すると、有機層中には多価ヒドロキシモノマーであるBPAとBDMのみが残存し、尿素は含まれなかった。この結果から、液液抽出によって多価ヒドロキシモノマー類の混合物中から尿素を完全に除去できることが確認された。
さらに、NMRスペクトルの積分比から算出した3回の液液抽出におけるBPAの収率の合計は91.5%であり、高収率であった。一方で、水層に含まれるものも含めたBDMの収率の合計は68.0%であった。そこで、再度NMRスペクトルに注目すると、
図4に示すように、BDMのシグナル付近に帰属不明のシグナルが多数観察された。BPAが高収率で得られていることを鑑みると、これらの帰属不明なシグナルはBDM由来のものである可能性が高く、これらの出現によってBDMの収率が見かけ上低下したものであると考えられる。
【0069】
因みに、上記の試験において尿素の収率が低下した要因としては、アルコール性水酸基を有しているBDMが併存していることで、脱炭酸反応が進行したものと考えられる(以下のスキーム参照)。
【0070】
【0071】
(試験例2)
本試験例は、液液抽出に用いる有機溶媒が収率に与える影響を評価する目的で実施した。
【0072】
<P(BPAC-co-BDMC)のアンモノリシスおよび分解生成物の液液抽出>
50mLナスフラスコにP(BPAC-co-BDMC)(250mg)を加えた後、当該フラスコ内部の気相を窒素で置換した。その後、前記フラスコ内に水(7.40mL)およびアンモニア水(2.50mL,14.8M)を加えた後、前記フラスコ内に含まれる混合物からなる反応系を90℃で1週間加熱した。反応終了後、前記フラスコ内に含まれる混合物から凍結乾燥により水およびアンモニアを取り除くことにより、白色粉末を得た。
得られた白色粉末を20mLのクロロホルム、5mLのアセトンおよび20mLの水と混合した。得られた混合物を静置した後、生じた有機層を回収した。一方、残った水層に、クロロホルム20mLを加えた後、前記と同様な操作により、生じた有機層を回収した。さらに、当該操作を再度繰り返した。
これら3回の液液抽出により得られた有機層それぞれについて、溶媒を減圧留去することにより、分解生成物を回収した。一方、3回の液液抽出後の水層については、凍結乾燥により水を除去することにより、分解生成物を回収した。
【0073】
<分解生成物の解析>
1.有機層の分解生成物の解析
有機層から回収した分解生成物にDMSO-d6(2.00mL)を加え、分解生成物を完全に溶解させた。ここに、内部標準として1,3,5-トリメトキシベンゼン(15.0mg)を加え、溶液のうち1mLを用いて1H NMRによる解析を行った。
【0074】
2.水層の分解生成物の解析
水層から回収した分解生成物にDMSO-d6(4.00mL)を加え、分解生成物を完全に溶解させた。ここに、内部標準として1,3,5-トリメトキシベンゼン(30.0mg)を加え、溶液のうち1mLを用いて1H NMRによる解析を行った。
【0075】
<結果・考察>
水層、有機層それぞれの分解生成物の
1H NMRスペクトルを
図5に、スペクトルの積分比から算出した各分解生成物の収率を表2に示した。
試験例1の結果と対比すると、試験例2の方が、BPAおよび尿素の収率が高かった。この理由としては、生じた分解生成物の前記有機溶媒に対する溶解性の差異の存在が考えられ、酢酸エチルよりもクロロホルムを用いて液液抽出したほうが、生じた分解生成物のそれぞれを効率よく回収できることが確認できた。
【0076】
【0077】
(参考例)
以下の4種の試料を用意した。
・試料1:尿素を300mMとなるように水に溶解した水溶液2.5mLと、他の栄養素(ミネラル)の水溶液247.5mLとの混合液250mL。尚、尿素を水に溶解した水溶液は、カーボネート樹脂のアンモノリシスによる分解生成物を含む反応物を水に溶解することにより調製した。
・試料2:尿素およびイソソルビドを1:1のモル比で、合計で300mMとなるように水に溶解した水溶液2.5mLと、他の栄養素(ミネラル)の水溶液247.5mLとの混合液250mL。尚、尿素およびイソソルビドを水に溶解した水溶液は、市販の尿素およびイソソルビドを水に溶解することにより調製した。
・試料3:尿素およびイソソルビドを0.7:1のモル比で、合計で300mMとなるように水に溶解した水溶液2.5mLと、他の栄養素(ミネラル)の水溶液247.5mLとの混合液250mL。尚、尿素およびイソソルビドを水に溶解した水溶液は、カーボネート樹脂のアンモノリシスによる分解生成物を含む反応物を水に溶解することにより調製した。
・対照試料:他の栄養素(ミネラル)の水溶液250mL。
尚、窒素源を除く各栄養素の濃度は、藤原らの文献(T. Fujiwara, M. Y. Hirai, M. Chino, Y. Komeda and S. Naito, Plant Physiol., 1992, 99, 263-268.)に記載される値と同様なものを用いた。
これらの試料を用い、以下の手順で、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の栽培を行った。
シロイヌナズナのエコタイプCol-0の種子を、漂白剤を用いて消毒した後、1質量%のスクロースが添加された1%ジェランガムで固化した培地に播種した。
ついで、播種後の種子を4℃で2日間インキュベートした後、当該種子を固定したプレートを垂直に置き、22℃で2週間、16時間明期/8時間暗期の光条件下で、上記の各試料を用いて栽培することにより、前記植物を成長させた。
対照として、試料1~3の代わりに、他の栄養素(ミネラル)の水溶液250mLを用いた以外は上記と同様にして、シロイヌナズナの栽培を行った。
【0078】
その結果、尿素およびイソソルビドのいずれも含まない対照試料を用いて場合に比べ、尿素を含む試料1~3を用いた方が、シロイヌナズナの成長が顕著であり、試料1~3が成長促進効果を有することが確認された。特に、
図6から明らかなように、尿素とともにイソソルビドを含む試料2および試料3では根張りが良好であり、さらに試料3では根の伸長も良く、試料2および試料3が優れた成長促進効果を有することがわかった。