IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人東京工業大学の特許一覧

<>
  • 特開-酸化ガリウム系半導体の製造方法 図1
  • 特開-酸化ガリウム系半導体の製造方法 図2
  • 特開-酸化ガリウム系半導体の製造方法 図3
  • 特開-酸化ガリウム系半導体の製造方法 図4
  • 特開-酸化ガリウム系半導体の製造方法 図5
  • 特開-酸化ガリウム系半導体の製造方法 図6
  • 特開-酸化ガリウム系半導体の製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031100
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】酸化ガリウム系半導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/08 20060101AFI20240229BHJP
   H01L 21/363 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C23C14/08 J
C23C14/08 A
H01L21/363
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134426
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100186912
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 淳浩
(72)【発明者】
【氏名】加渡 幹尚
(72)【発明者】
【氏名】大友 明
(72)【発明者】
【氏名】相馬 拓人
(72)【発明者】
【氏名】是石 和樹
【テーマコード(参考)】
4K029
5F103
【Fターム(参考)】
4K029AA04
4K029BA43
4K029BA44
4K029BD01
4K029CA01
4K029CA03
4K029CA05
4K029DB05
4K029DB20
4K029DC37
4K029DC39
4K029EA01
4K029EA03
4K029EA08
5F103AA01
5F103AA02
5F103AA04
5F103AA06
5F103AA08
5F103DD30
5F103GG01
5F103HH03
5F103NN01
5F103NN04
5F103NN05
5F103RR05
(57)【要約】
【課題】従来よりも一層大きなバンドギャップを有している酸化ガリウム系半導体の製造方法を提供する。
【解決手段】本開示の製造方法は、β-Ga単結晶を含有する基材上に、物理蒸着法によって、1.5nm以上、13.0nm未満の厚さの、θ-Alを含有する薄膜を形成すること、及び、前記θ-Alを含有する薄膜上に、物理蒸着法によって、β-Gaを含有する薄膜を形成すること、を含む、酸化ガリウム系半導体の製造方法である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-Ga単結晶を含有する基材上に、物理蒸着法によって、1.5nm以上、13.0nm未満の厚さの、θ-Alを含有する薄膜を形成すること、及び、
前記θ-Alを含有する薄膜上に、物理蒸着法によって、β-Gaを含有する薄膜を形成すること、
を含む、
酸化ガリウム系半導体の製造方法。
【請求項2】
前記θ-Alを含有する薄膜の厚さが、1.5nm以上、3.0nm以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記θ-Alを含有する薄膜を、600℃以上、800℃以下で形成し、前記β-Gaを含有する薄膜を、400℃以上、600℃以下で形成する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記物理蒸着法が、真空蒸着法、分子線蒸着法、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法、コンベンショナル・スパッタリング法、マグネトロン・スパッタリング法、イオンビーム・スパッタリング法、又はECRスパッタリング法である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記分子線蒸着法が、パルスレーザー堆積法である、請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸化ガリウム系半導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、省電力技術の開発が求められており、パワーデバイスの低損失化が期待されている。パワーデバイスは、ハイブリッド車や電気自動車に搭載されるインバーターなど、あらゆる電力変換器に搭載されている。
【0003】
低損失なパワーデバイスの実現に向けて、現状のシリコン(Si)よりも更に高耐圧・低損失なパワーデバイスの実現が期待できるSiC、GaN等の新しいワイドギャップ半導体材料が注目され、活発に研究開発が進められている。その中でも、酸化ガリウムは、SiC、GaNと比較して、さらに大きなバンドギャップに代表される物性から、パワーデバイスに応用した場合、より一層の高耐圧及び低損失化等の優れたデバイス特性を得られることが期待されている。
【0004】
パワーデバイスに用いられる酸化ガリウム系半導体は、その製造が比較的難しいと考えられていたが、近年は幾つかの製造方法が提案されている。例えば、特許文献1には、β-Ga単結晶を含有する基材上に、物理蒸着法によって、400℃以下の温度で酸化ガリウム系薄膜を形成した後、基材上の薄膜を700℃以上の温度に加熱する、酸化ガリウム系半導体の製造方法が記載されている。
【0005】
また、酸化ガリウムの性状と特性との関係のついても調査が進んでいる。例えば、非特許文献1には、β-Gaに付与された歪みと、バンドギャップとの関係について、そのシミュレーション結果が記載されている。そして、歪みと密接な関係を有する結晶構造について、非特許文献2には、β-Gaの結晶構造が記載されており、非特許文献3には、θ-Alの結晶構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-50042号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Junyu Lai,a et. al., “Flexible crystalline b-Ga2O3 solar-blind photodetectors”, Journal of Materials Chemistry C, 2020, 8, 14732-14739, 6th August 2020.
【非特許文献2】Ahman et. al., Acta Cryst. C52, 1336(1996).
【非特許文献3】E. Husson and Y. Repelin, Eur. J. solid State Inorg. Chem. 33, 1223(1996).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、酸化ガリウム系半導体材料は、SiC、GaNと比較して、大きなバンドギャップを有している。そのため、酸化ガリウム系半導体は、次世代のパワーデバイス用材料として期待されているが、高耐圧化を一層向上するため、バンドギャップをさらに大きくすることが望まれている。
【0009】
本開示は、従来よりも一層大きなバンドギャップを有している酸化ガリウム系半導体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示者らは、以下の手段により、上記課題を達成することができることを見出した。
〈態様1〉
β-Ga単結晶を含有する基材上に、物理蒸着法によって、1.5nm以上、13.0nm未満の厚さの、θ-Alを含有する薄膜を形成すること、及び、
前記θ-Alを含有する薄膜上に、物理蒸着法によって、β-Gaを含有する薄膜を形成すること、
を含む、
酸化ガリウム系半導体の製造方法。
〈態様2〉
前記θ-Alを含有する薄膜の厚さが、1.5nm以上、3.0nm以下である、態様1に記載の製造方法。
〈態様3〉
前記θ-Alを含有する薄膜を、600℃以上、800℃以下で形成し、前記β-Gaを含有する薄膜を、400℃以上、600℃以下で形成する、態様1又は2に記載の製造方法。
〈態様4〉
前記物理蒸着法が、真空蒸着法、分子線蒸着法、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法、コンベンショナル・スパッタリング法、マグネトロン・スパッタリング法、イオンビーム・スパッタリング法、又はECRスパッタリング法である、態様1~3のいずれか一つに記載の製造方法。
〈態様5〉
前記分子線蒸着法が、パルスレーザー堆積法である、態様4に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、所定厚さのθ-Alを含有する薄膜によって、熱的に不安定なγ-Gaの生成を抑制しつつ、β-Gaを含有する薄膜に面内圧縮歪みを付与することができる。そして、その面内圧縮歪みが、β-Gaの電子構造を変調して、バンドギャップの拡大に寄与するため、従来よりも一層大きなバンドギャップを有している酸化ガリウム系半導体の製造方法を提供することができる。なお、面内圧縮歪みとは、β-Gaの結晶構造で、b軸及びc軸方向の圧縮歪みを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、β-Ga単結晶を含有する基材を準備した状態を模式的に示す説明図である。
図2図2は、β-Ga単結晶を含有する基材の表面に、θ-Alを含有する薄膜を形成した状態を模式的に示す説明図である。
図3図3は、θ-Alを含有する薄膜の表面に、β-Gaを含有する薄膜を形成した状態を模式的に示す説明図である。
図4図4は、エネルギーロスと発光強度との関係が、θ-Alを含有する薄膜の厚さで変化することを示すグラフである。
図5図5は、θ-Alを含有する薄膜の厚さとβ-Gaを含有する薄膜のバンドギャップとの関係を示すグラフである。
図6図6は、比較例4の試料(θ-Alを含有する薄膜20の厚さが13.0nm)についてのXRD分析結果を示すグラフである。
図7図7は、θ-Alを含有する薄膜の厚さが1.5以上、13.0nm未満のとき、β-Gaを含有する薄膜のεとεの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の酸化ガリウム系半導体の製造方法(以下、「本開示の製造方法」ということがある。)の実施形態について説明する。本開示の製造方法は、以下の実施形態に限定されず、本開示の主旨の範囲内で、種々変形して実施することができる。
【0014】
先ず、本開示の製造方法によって得られた酸化ガリウム系半導体のバンドギャップが、従来よりも一層大きくなる理由について説明する。
【0015】
従来から、酸化ガリウムのバンドギャップをさらに大きくすることが検討されてきた。例えば、非特許文献1には、β-Gaに歪みを付与すると、β-Gaのバンドギャップが拡大することを示唆するシミュレーション結果が記載されている。しかし、非特許文献1には、そのシミュレーション結果を実証することについては記載されておらず、また、歪みを付与する方法についても記載されていない。
【0016】
そこで、本開示者らは、従来よりも一層大きなバンドギャップを有している酸化ガリウム系半導体の製造方法を検討した結果、理論に拘束されないが、次の知見を得た。
【0017】
β-Ga単結晶を含有する基材上に、β-Gaを含有する薄膜を形成するに際し、β-Ga単結晶を含有する基材の表面に、予め、所定厚さの、θ-Alを含有する薄膜を形成しておくとよいことを知見した。これにより、熱的に不安定なγ-Gaの生成を抑制しつつ、β-Gaを含有する薄膜を形成し、かつ、そのβ-Gaを含有する薄膜に面内圧縮歪みを付与することができる。
【0018】
β-Gaとθ-Alは、いずれも斜方晶を有するが、表1に示すように、θ-Alの各格子定数は、β-Gaの各格子定数よりも、数%程度小さい。なお、表1に示した各数値に関しては、β-Gaについては、非特許文献2に記載されている数値に基づいており、θ-Alについては、非特許文献3に記載されている数値に基づいている。
【0019】
【表1】
【0020】
β-Gaとθ-Alとで、各格子定数が僅かに異なることによって、β-Gaを含有する薄膜の形成時に、β-Gaを含有する薄膜に面内圧縮歪みを付与することができる。θ-Alを含有する薄膜が厚いほど、θ-Alを含有する薄膜と、β-Gaを含有する薄膜との間で、結晶構造の不整合が大きくなり、その結果、面内圧縮歪みが大きくなると考えられる。そして、面内圧縮歪みが大きくなると、β-Gaの電子構造が変調して、β-Gaを含有する薄膜のバンドギャップが拡大する。しかし、面内圧縮歪みが過剰に大きくなると、β-Gaの結晶構造を維持することが困難になり、γ-Gaを生成する。γ-Gaは熱的に不安定であるため、パワーデバイス用材料として好ましくない。このことから、面内圧縮歪みを所定範囲の大きさにするため、θ-Alを含有する薄膜の厚さを所定の範囲にする。
【0021】
これまでの説明を、工程順に、図面を用いて説明する。図1は、β-Ga単結晶を含有する基材を準備した状態を模式的に示す説明図である。図2は、β-Ga単結晶を含有する基材の表面に、θ-Alを含有する薄膜を形成した状態を模式的に示す説明図である。図3は、θ-Alを含有する薄膜の表面に、β-Gaを含有する薄膜を形成した状態を模式的に示す説明図である。
【0022】
図1に示したβ-Ga単結晶を含有する基材10の表面に、図2に示したように、θ-Alを含有する薄膜20を形成する。このとき、θ-Alを含有する薄膜20を所定の厚さにする。そして、所定の厚さを有しているθ-Alを含有する薄膜20の表面に、β-Gaを含有する薄膜30を形成する。このようにして得られた酸化ガリウム系半導体100においては、β-Gaを含有する薄膜30に、面内圧縮歪みが付与されている。また、β-Gaを含有する薄膜30の形成時に、γ-Gaの生成を抑制されている。これらにより、従来よりも一層大きなバンドギャップを有している酸化ガリウム系半導体100を得ることができる。
【0023】
これまでに述べた知見等によって完成された、本開示の製造方法の構成要件を、次に説明する。
【0024】
《製造方法》
本開示の製造方法は、θ-Alを含有する薄膜形成工程と、β-Gaを含有する薄膜形成工程を含む。以下、それぞれの工程について説明する。
【0025】
〈θ-Alを含有する薄膜形成工程〉
本開示の製造方法は、先ず、β-Ga単結晶を含有する基材上に、物理蒸着法によって、1.5nm以上、13.0nm未満の厚さの、θ-Alを含有する薄膜を形成する。
【0026】
本開示の製造方法では、β-Ga単結晶を含有する基材を用いる。基材の面指数は(100)が好ましいが、これに限られない。基材中には、可能な限り多くのβ-Ga単結晶を含有することが好ましく、例えば、基材全体に対して、β-Ga単結晶の含有割合は、80体積%以上、85体積%以上、90体積%以上、又は95体積%以上であってよく、100体積%であってよい。β-Ga単結晶を含有する基材は、任意の方法で製造したものを用いることができる。β-Ga単結晶の含有割合(体積%)は、基材をXRF分析して、β-Ga単結晶のピーク強度から算出することができる。
【0027】
θ-Alを含有する薄膜を、物理蒸着法によって形成する。物理蒸着法の種類に特に制限はないが、例えば、真空蒸着法、分子線蒸着法、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法、コンベンショナル・スパッタリング法、マグネトロン・スパッタリング法、イオンビーム・スパッタリング法、又はECRスパッタリング法を挙げることができる。分子線蒸着法は、パルスレーザー堆積(PLD)法であってよい。
【0028】
θ-Alを含有する薄膜の厚さが、1.5nm以上、1.6nm以上、1.7nm以上、又は1.8nm以上であれば、θ-Alを含有する薄膜上に、物理蒸着法によって、β-Gaを含有する薄膜を形成したときに、β-Gaを含有する薄膜に有利に面内圧縮歪みを付与することができ、その結果、バンドギャップが拡大する。一方、θ-Alを含有する薄膜の厚さが、13.0nm未満、12.0nm以下、10.0nm以下、5.0nm以下、又は3.0nm以下であれば、θ-Alを含有する薄膜上に、物理蒸着法によって、β-Gaを含有する薄膜を形成したときに、β-Gaを含有する薄膜に過剰に面内圧縮歪みを付与されることはなく、その結果、γ-Gaの生成を抑制することができる。θ-Alを含有する薄膜の厚さは、θ-Alを含有する薄膜の断面をSEM観察又はTEM観察することによって測定することができる。
【0029】
θ-Alを含有する薄膜中には、θ-Al以外の物質をできる限り含まないことが好ましく、θ-Alを含有する薄膜全体に対して、θ-Alの含有割合、80体積%以上、85体積%以上、90体積%以上、又は95体積%以上であってよく、100体積%であってよい。θ-Alの含有割合(体積%)は、θ-Alを含有する薄膜をXRF分析して、θ-Alのピーク強度から算出することができる。
【0030】
物理蒸着法としてパルスレーザー堆積法を採用する場合、ターゲットとしては、θ-Alの焼結体、及び(0001)面のα-Al単結晶等を用いることができる。安定して所望の薄膜を得る観点からは、(0001)面のα-Al単結晶が好ましい。ターゲットにこのような材料を用いる場合には、パルスレーザー堆積法は、Oを含有するガス雰囲気下で行ってよい。Oを含有するガス雰囲気としては、例えばO又はNO等を挙げることができるが、これらに限られない。これらの雰囲気でのO分圧は、例えば、1×10-3Pa以上、5×10-3Pa以上、又は10×10-3Pa以上であってよく、500×10-3Pa以下、100×10-3Pa以下、又は50×10-3Pa以下であってよい。
【0031】
ターゲットにθ-Alの焼結体を用いて、パルスレーザー堆積法を適用する場合、レーザーフルエンスは、例えば、0.01J/cm以上、0.05J/cm以上、又は0.10J/cm以上であってよく、5.0J/cm以下、1.0J/cm以下、又は0.50J/cm以下であってよい。
【0032】
また、ターゲットにθ-Alの焼結体を用いて、パルスレーザー堆積法を適用する場合、堆積時の温度は、例えば、600℃以上、630℃以上、又は650℃以上であってよく、800℃以下、750℃以下、又は700℃以下であってよい。
【0033】
パルスレーザー堆積法を適用する場合、θ-Alを含有する薄膜の厚さは、パルス数で調整することができる。
【0034】
〈β-Gaを含有する薄膜形成工程〉
上述のようにして得たθ-Alを含有する薄膜上に、物理蒸着法によって、β-Gaを含有する薄膜を形成する。物理蒸着法の種類に特に制限はないが、例えば、真空蒸着法、分子線蒸着法、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法、コンベンショナル・スパッタリング法、マグネトロン・スパッタリング法、イオンビーム・スパッタリング法、又はECRスパッタリング法を挙げることができる。分子線蒸着法は、パルスレーザー堆積(PLD)法であってよい。
【0035】
物理蒸着法としてパルスレーザー堆積法を採用する場合、ターゲットとしては、β-Gaの焼結体、及び(100)β-Gaの単結晶等を用いることができる。安定して所望の薄膜を得る観点からは、(100)β-Gaの単結晶が好ましい。ターゲットにこれらを用いる場合には、パルスレーザー堆積法は、Oを含有するガス雰囲気下で行ってよい。Oを含有するガス雰囲気としては、例えばO又はNO等を挙げることができるが、これらに限られない。これらの雰囲気でのO分圧は、例えば、1Pa以上、5Pa以上、又は10Pa以上であってよく、500Pa以下、100Pa以下、又は50Pa以下であってよい。
【0036】
ターゲットにβ-Gaをの焼結体を用いて、パルスレーザー堆積法を適用する場合、レーザーフルエンスは、例えば、0.01J/cm以上、0.05J/cm以上、又は0.10J/cm以上であってよく、5.0J/cm以下、1.0J/cm以下、又は0.50J/cm以下であってよい。
【0037】
また、ターゲットにβ-Gaの焼結体を用いて、パルスレーザー堆積法を適用する場合、堆積時の温度は、例えば、400℃以上、430℃以上、又は450℃以上であってよく、600℃以下、550℃以下、又は500℃以下であってよい。
【0038】
パルスレーザー堆積法を適用する場合、β-Gaを含有する薄膜の厚さは、パルス数で調整することができる。
【0039】
このようにして得られたβ-Gaを含有する薄膜には、歪みが付与されている。面内の歪みは、圧縮方向に1~3%付与されており、面に垂直な歪みは、引張方向に0.5~3.5%付与されている。なお、面内の歪みとは、β-Gaの結晶構造で、b軸及びc軸方向の歪みを意味し、面に垂直な歪みは、β-Gaの結晶構造で、b軸及びc軸に垂直な方向の歪みを意味する。
【0040】
β-Gaを含有する薄膜の厚さに、特に制限はないが、酸化ガリウム系半導体に要求される高耐圧及び低損失化等の特性に適合するよう、適宜決定すればよい。β-Gaを含有する薄膜の厚さは、例えば、1.0nm以上、2.0nm以上、3.0nm以上、又は5.0nm以上であってよく、100μm以下、50μm以下、30μm以下、10μm以下、1μm以下、500.0nm以下、300.0nm以下、100.0nm以下、50.0nm以下、30.0nm以下、20.0nm以下、又は10.0nm以下であってよい。β-Gaを含有する薄膜の厚さは、β-Gaを含有する薄膜の断面をSEM観察又はTEM観察することによって測定することができる。
【0041】
β-Gaを含有する薄膜中には、β-Ga以外の物質をできる限り含まないことが好ましく、を含有β-Gaする薄膜全体に対して、β-Gaの含有割合は、80体積%以上、85体積%以上、90体積%以上、又は95体積%以上であってよく、100体積%であってよい。β-Gaの含有割合(体積%)は、β-Gaを含有する薄膜をXRF分析して、β-Gaのピーク強度から算出することができる。
【実施例0042】
以下、本開示の製造方法を、実施例及び比較例により、さらに具体的に説明する。なお、本開示の製造方法は、以下の実施例で用いた条件に限定されない。
【0043】
《試料の準備》
以下の要領で、実施例1~2及び比較例1~4の試料を準備した。
【0044】
〈実施例1〉
図1~3に示したように、β-Ga単結晶を含有する基材10の表面に、θ-Alを含有する薄膜20を形成し、さらに、β-Gaを含有する薄膜30を形成して、酸化ガリウム系半導体100を得た。
【0045】
β-Ga単結晶を含有する基材10は、株式会社ノベルクリスタルテクノロジー製のβ-Ga単結晶を用いた。この単結晶の面指数は(100)であった。
【0046】
θ-Alを含有する薄膜20及びβ-Gaを含有する薄膜30のいずれも、パルスレーザー堆積(PLD)法を用いて形成した。堆積時の雰囲気は酸素ラジカル雰囲気であり、Oの分圧は、9.3×10-3Pa(7×10-5torr)であった。また、レーザーフルエンスは、例えば、0.5J/cmであった。
【0047】
θ-Alを含有する薄膜20については、(0001)面のα-Alの単結晶のターゲットを用い、β-Gaを含有する薄膜30については、(100)β-Gaの単結晶のターゲットを用いた。θ-Alを含有する薄膜20については、700℃で堆積し、β-Gaを含有する薄膜30については、500℃で堆積した。
【0048】
パルス数を調整して、θ-Alを含有する薄膜20については、1.53nmの厚さまで堆積し、β-Gaを含有する薄膜30については、約10nmの厚さまで堆積した。
【0049】
〈実施例2〉
θ-Alを含有する薄膜20について、2.52nmの厚さまで堆積したことを除き、実施例1と同様に、実施例2の試料を準備した。
【0050】
〈比較例1〉
θ-Alを含有する薄膜20を予め堆積しなかったことを除き、実施例1と同様に、比較例1の試料を準備した。
【0051】
〈比較例2〉
θ-Alを含有する薄膜20について、0.86nmの厚さまで堆積したことを除き、実施例1と同様に、比較例2の試料を準備した。
【0052】
〈比較例3〉
θ-Alを含有する薄膜20について、1.25nmの厚さまで堆積したことを除き、実施例1と同様に、比較例3の試料を準備した。
【0053】
〈比較例4〉
θ-Alを含有する薄膜20について、13.0nmの厚さまで堆積したことを除き、実施例1と同様に、比較例4の試料を準備した。
【0054】
《評価方法及び評価結果》
実施例1~2及び比較例1~4の各試料について、β-Gaを含有する薄膜30のバンドギャップを測定した。バンドギャップの測定は、反射型電子エネルギー損失分光法で行い、その結果の例を図4に示す。図4は、エネルギーロスと発光強度との関係が、θ-Alを含有する薄膜20の厚さで変化することを示すグラフである。図4において、x切片の値がバンドギャップを表す。このようにして求めたβ-Gaを含有する薄膜30のバンドギャップを、θ-Alを含有する薄膜20の厚さで整理したものが表2である。表2においては、実施例1~2及び比較例1~3について、β-Gaを含有する薄膜30のバンドギャップ等を示してある。そして、表2に基づいて、θ-Alを含有する薄膜20の厚さとβ-Gaを含有する薄膜30のバンドギャップとの関係を纏めたグラフを図5に示す。
【0055】
また、実施例1~2及び比較例1~4の各試料について、XRD分析を行った。図6は、比較例4の試料(θ-Alを含有する薄膜20の厚さが13.0nm)についてのXRD分析結果を示すグラフである。図6には、θ-Alを含有する薄膜20の厚さが0~3.0nmの試料のXRD分析結果を併記してある。なお、θ-Alを含有する薄膜20の厚さが0nmであるとは、θ-Alを含有する薄膜20を形成しなかったことを意味する。
【0056】
なお、図4図6並びに表2において、記載を簡略化するため、θ-Alを含有する薄膜及びβ-Gaを含有する薄膜を、それぞれ、単に、θ-Al及びβ-Gaと記載している。また、図6において、「β400」は「β-Gaの(400)面」、「γ400」は「γ-Gaの(400)面」、そして、「β600」は「β-Gaの(600)面」を意味する。
【0057】
さらに、参考のため、θ-Alを含有する薄膜20の厚さが1.5以上、13.0nm未満のときの、ε並びにεを調査した。図7は、その調査結果を示すグラフである。なお、εa*及びεは、β-Gaを含有する薄膜30に付与された歪みに関し、εa*は面に垂直な歪みであり、εは面内の歪みであり、正の値は引張歪みを示し、負の値は圧縮歪みを示すa軸は、逆空間ベクトルを表しており、その定義式は実空間のb軸とc軸の外積成分を含み、a軸の方向は、b軸とc軸に垂直な方向に対応する。面に垂直な方向の歪みは、薄膜30のXRD分析結果から算出した。εは、薄膜30の反射型高速電子線回折パターンの分析結果から算出した。
【0058】
【表2】
【0059】
図4から、θ-Alを含有する薄膜20の厚さが一定以上あると、β-Gaを含有する薄膜30のバンドギャップが拡大する傾向にあることを理解できる。具体的には、表2及び図5から、θ-Alを含有する薄膜20の厚さが1.5nm以上であれば、β-Gaを含有する薄膜30のバンドギャップが拡大することを理解できる。なお、図4の凡例は、θ-Alの厚さである。
【0060】
図6から、θ-Alを含有する薄膜20の厚さが13.0nmのときに、XRD分析で、γ-Gaのピークが僅かに認められる。このことから、θ-Alを含有する薄膜20の厚さを13.0nm未満にする必要があることを理解できる。
【0061】
さらに、図7から、β-Gaを含有する薄膜30のバンドギャップが拡大しているとき、εは0%超3%以下の引張歪みであり、εは0%超3%以下の圧縮歪みであることを確認できた。
【0062】
以上の結果から、本開示の製造方法の効果を確認できた。
【符号の説明】
【0063】
10 β-Ga単結晶を含有する基材
20 θ-Alを含有する薄膜
30 β-Gaを含有する薄膜
100 酸化ガリウム系半導体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7