(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031120
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ガスバリア積層体及び包装袋
(51)【国際特許分類】
B32B 27/10 20060101AFI20240229BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240229BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B32B27/10
B32B27/30 102
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134468
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100209048
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 元嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100212705
【弁理士】
【氏名又は名称】矢頭 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(72)【発明者】
【氏名】小島 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】神永 純一
(72)【発明者】
【氏名】越山 良樹
(72)【発明者】
【氏名】石井 里佳
(72)【発明者】
【氏名】若林 寛之
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AC07
3E086AD01
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3E086DA06
4F100AA01
4F100AA01D
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4F100JM01C
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】 紙基材を含み、折り曲げに対する耐性に優れ、折り曲げ後においてもバリア性の低下が抑制されたガスバリア積層体及びこれを含んだ包装体を提供する。
【解決手段】 ガスバリア積層体10は、紙基材1と、上記紙基材1上に第1樹脂層3とを備える。上記第1樹脂層3は、ポリビニルアルコール系樹脂と金属ラクテートとの架橋体を含んでいる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、前記紙基材上に第1樹脂層とを備え、前記第1樹脂層は、ポリビニルアルコール系樹脂と金属ラクテートとの架橋体を含んでいるガスバリア積層体。
【請求項2】
前記金属ラクテートの質量MMLと前記ポリビニルアルコール系樹脂の質量MPVAとの比MML:MPVAが、3:97乃至50:50の範囲内である請求項1に記載のガスバリア積層体。
【請求項3】
前記第1樹脂層の前記紙基材を備える主面とは反対側の主面上にヒートシール層を備え、前記ヒートシール層は、水溶性又は水分散性高分子を含有する水系コーティング液の乾燥塗膜である請求項1に記載のガスバリア積層体。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載のガスバリア積層体を含んだ包装袋。
【請求項5】
折り曲げ部を有する請求項4に記載の包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア積層体及び包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、飲料、医薬品及び化学品等の多くの分野では、内容物としての物品の包装には、その内容物に適した包装材が使用されている。これらの用途において、包装材には、内容物の変質の原因となる酸素及び水蒸気等の透過を防止するガスバリア性が求められる。
【0003】
近年、海洋プラスチックごみ問題等に端を発する環境意識の高まりから、脱プラスチックの機運が高まっている。包装材の分野においても、プラスチック製包装材を、紙を主体とする包装材で代替する要求が強くなっている。例えば、特許文献1及び2では、紙を主体とする包装材において、紙基材上に水蒸気バリア層及びガスバリア層を設けることにより、上述したガスバリア性を付与する技術を開示している。
【0004】
紙は、デッドホールド性とも称される折り目保持性を有している。従って、紙を主体とする包装材は、包装袋などの包装体への加工が容易であるという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6668576号公報
【特許文献2】特開2021-20398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特許文献1及び2に開示された技術を含め、紙基材上にバリア層を設けた包装材は、折り目を有する包装袋、特には、ピロー袋、三方シール袋及びガゼット袋のように、鋭角に折られた部分を含んだ包装袋に使用した場合、折り目の位置でバリア層にクラックを生じ、水蒸気バリア性が低下することを見出している。
【0007】
そこで、本発明は、紙基材を含み、折り曲げに対する耐性に優れ、折り曲げ後においてもバリア性の低下が抑制されたガスバリア積層体及びこれを含んだ包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によると、紙基材と、上記紙基材上に第1樹脂層とを備え、上記第1樹脂層は、ポリビニルアルコール系樹脂と金属ラクテートとの架橋体を含んでいるガスバリア積層体が提供される。
【0009】
本発明の他の側面によると、上記金属ラクテートの質量MMLと上記ポリビニルアルコール系樹脂の質量MPVAとの質量比MML:MPVAが、3:97乃至50:50の範囲内である上記側面に係るガスバリア積層体が提供される。
【0010】
本発明の更に他の側面によると、上記第1樹脂層の上記紙基材を備える主面とは反対側の主面上にヒートシール層を備え、上記ヒートシール層は、水溶性又は水分散性高分子を含有する水系コーティング液の乾燥塗膜である上記側面の何れかに係るガスバリア積層体が提供される。
【0011】
本発明の更に他の側面によると、上記金属ラクテートがチタンラクテート又はチタンラクテートアンモニウム塩である上記側面の何れかに係るガスバリア積層体が提供される。
【0012】
本発明の更に他の側面によると、上記紙基材と上記第1樹脂層との間に第2樹脂層を備え、上記第2樹脂層は、層状無機化合物と水懸濁性高分子を含んでいる上記側面の何れかに係るガスバリア積層体が提供される。
【0013】
本発明の更に他の側面によると、上記ガスバリア積層体の全質量に占める上記紙基材の割合は50質量%以上である上記側面の何れかに係るガスバリア積層体が提供される。
【0014】
本発明の更に他の側面によると、上記側面の何れかに係るガスバリア積層体を含んだ包装袋が提供される。
【0015】
本発明の更に他の側面によると、折り曲げ部を有する上記側面に係る包装袋が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、紙基材を含み、折り曲げに対する耐性に優れ、折り曲げ後においてもバリア性の低下が抑制されたガスバリア積層体及びこれを含んだ包装袋を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るガスバリア積層体の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のガスバリア積層体から製造可能な包装袋の一例を概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。以下に記載する事項は、単独で又は複数を組み合わせて、上記側面の各々に組み入れることができる。
【0019】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、下記の構成部材の材質、形状、及び構造等によって限定されるものではない。本発明の技術的思想には、請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0020】
なお、同様又は類似した機能を有する要素については、以下で参照する図面において同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面は模式的なものであり、或る方向の寸法と別の方向の寸法との関係、及び、或る部材の寸法と他の部材の寸法との関係等は、現実のものとは異なり得る。
【0021】
<1>ガスバリア積層体
図1は、本発明の一実施形態に係るガスバリア積層体の断面図である。
図1に示すガスバリア積層体10は、紙基材1と、第2樹脂層2と、第1樹脂層3と、ヒートシール層4とをこの順序で備えている。このうち第2樹脂層2とヒートシール層4は任意の層であり、省略することが可能である。
<1.1 紙基材>
紙基材1としては、特に限定されるものではなく、ガスバリア積層体10が適用される包装袋の用途に応じて適宜選択すればよい。紙基材1は、例えば、植物由来のパルプを主成分としている紙とすることができる。紙基材1の具体例として、上質紙、特殊上質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、模造紙、クラフト紙、及びグラシン紙が挙げられる。
【0022】
紙基材1の坪量、即ち、面積当たりの質量は、例えば20乃至500g/m2の範囲内にあってよく、又は30乃至100g/m2の範囲内にあってよい。また、紙基材1の厚さは、ガスバリア積層体10の全体の厚みの70%以上であってよい。紙基材1の厚さがガスバリア積層体10の全体の厚さの70%以上であることは、環境適性の観点から好ましい。
【0023】
紙基材1には、後述する第2樹脂層2が形成される側の主面上に、図示しないコート層を設けてもよい。コート層は、第2樹脂層2を形成する際に、その原料が紙層へ染み込むことを防ぐことができる。また、コート層は、紙層の凹凸を埋める目止めの役割を果たすこともできる。これにより、第2樹脂層2を欠陥なく均一に製膜することができる。なお、コート層は、紙基材1の上述した主面とは反対側の主面上に設けられていてもよく、紙基材1の両面に設けられていてもよい。
【0024】
コート層には、例えば、バインダ樹脂として、スチレン-ブタジエン系、スチレン-アクリル系、エチレン-酢酸ビニル系などの各種共重合体、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂等を用いることができる。コート層には、填料として、クレーを添加することができる。クレーとしては、例えば、カオリン、炭酸カルシウム、タルク、マイカ等が挙げられる。コート層は、少なくとも填料としてクレーを含有するクレーコート層であることが好ましい。
【0025】
紙基材1がコート層を備える場合、コート層の面積当たりの質量は、例えば、1乃至50g/m2の範囲内にあってよい。
【0026】
紙基材1がガスバリア積層体10に占める割合は、ガスバリア積層体10の全質量を基準として、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。紙基材1のガスバリア積層体10に占める割合が50質量%以上であれば、プラスチック材料の使用量を十分に削減することができ、ガスバリア積層体全体として紙製であるということができるとともに、リサイクル性に優れる。
【0027】
ガスバリア積層体10は、離解後のパルプ回収率に優れている。ガスバリア積層体10によれば、離解後のパルプ回収率は、好ましくは70%以上を達成することができ、より好ましくは80%以上を達成することができ、更に好ましくは90%以上を達成することができる。離解後のパルプ回収率が70%以上であれば、リサイクル性に優れる。ここで離解後のパルプ回収率は、後掲の実施例に記載した方法により測定される。
【0028】
<1.2 第2樹脂層>
第2樹脂層2は、層状無機化合物と水懸濁性高分子を含んでいる。第2樹脂層2により、ガスバリア積層体10の水蒸気バリア性が更に向上する。
【0029】
水懸濁性高分子は、水に懸濁することが可能な高分子である。第2樹脂層2は、例えば、水を分散媒としたコーティング液の乾燥塗膜からなり、水懸濁性高分子はコーティング液を調製することを容易にする。水懸濁性高分子は、第2樹脂層2の形成においてバインダとして機能するため、層状無機化合物を含有する第2樹脂層2を紙基材1上に形成することができる。
【0030】
水懸濁性高分子は、オレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体、スチレン-ブタジエン系共重合体、及びスチレン-不飽和カルボン酸系共重合体よりなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0031】
(オレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体)
オレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体は、オレフィン単量体と不飽和カルボン酸系単量体とを乳化重合することにより得られる共重合体である。オレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体のオレフィン単量体としては、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα-オレフィンが挙げられる。オレフィン単量体としては、これらの中でも好ましくはエチレンである。
【0032】
オレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体の不飽和カルボン酸系単量体は、不飽和カルボン酸単量体、および加水分解によりカルボン酸を形成する不飽和カルボン酸のエステル単量体を含む。不飽和カルボン酸系単量体としては、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、ブテントリカルボン酸などの不飽和カルボン酸およびそのエステル;イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル、マレイン酸モノブチルエステルなどの、少なくとも1個のカルボキシ基を有する不飽和ポリカルボン酸アルキルエステルが挙げられる。
【0033】
オレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体を構成する不飽和カルボン酸系単量体は、単独で、または2種以上用いてもよい。オレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体は、オレフィンおよび不飽和カルボン酸系単量体と共重合可能なその他の単量体が少量共重合されていてもよい。
【0034】
これらの中でも、オレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体は、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸ブチル共重合体、およびエチレン-メタクリル酸ブチル共重合体よりなる群から選ばれる1種以上であることがより好ましく、エチレン-アクリル酸共重合体であることがさらに好ましい。
【0035】
オレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体は、不飽和カルボン酸系単量体単位の含有率が、例えば1mol%以上であり、又は10mol%以上である。また、不飽和カルボン酸系単量体単位の含有率は、例えば50mol%以下であり、又は30mol%以下である。不飽和カルボン酸系単量体の含有率が上記範囲内であると、層状無機化合物の分散性に優れる。
【0036】
オレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体として市販品を用いてもよく、例えば、ザイクセン(登録商標)AC(アンモニウム塩の水性分散液、融点:95℃、住友精化株式会社製)等が挙げられる。
【0037】
(スチレン-ブタジエン系共重合体)
スチレン-ブタジエン系共重合体としては、例えば、スチレン-ブタジエン系ゴム(SBR)、変性スチレン-ブタジエン系ゴム(変性SBR)等が挙げられる。変性スチレン-ブタジエン系ゴムとしては、酸変性スチレン-ブタジエン系ゴム(酸変性SBR)等が挙げられる。
【0038】
(スチレン-アクリル系共重合体)
スチレン-アクリル系共重合体は、スチレン系単量体と、アクリル系単量体と、必要に応じてこれらと共重合可能なその他の単量体とを乳化重合することによって得られる共重合体である。
【0039】
スチレン系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-t-ブチルスチレン、クロロスチレンなどの芳香族ビニル化合物が挙げられる。スチレン系単量体としてはスチレンが好適である。
【0040】
アクリル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸などの不飽和カルボン酸単量体、イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル、マレイン酸モノブチルエステルなどの少なくとも1個のカルボキシ基を有する不飽和ポリカルボン酸アルキルエステル、アクリルアミドプロパンスルホン酸、アクリル酸スルホエチルナトリウム塩、またはメタクリル酸スルホプロピルナトリウム塩などの(メタ)アクリル系スルホン酸単量体もしくはその塩が挙げられる。アクリル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、及びフマル酸が好適である。
【0041】
(層状無機化合物)
層状無機化合物は、アスペクト比が好ましくは50以上であり、より好ましくは80以上である。アスペクト比が大きいほど、水蒸気およびガスの移動距離が長くなる迷路効果により、水蒸気バリア性およびガスバリア性を向上させることができる。また、アスペクト比が大きいほど、層状無機化合物の添加量を低減させることができる。アスペクト比の上限は、特に限定されないが、入手容易性、折り曲げ時のバリア劣化、紙基材上に樹脂層を形成する際の粘度等の観点から、好ましくは1000以下である。
【0042】
ここで、層状無機化合物のアスペクト比は、樹脂層を付与した方向に対して平行な厚さ方向の断面について、電子顕微鏡を用いて拡大写真を撮影し、少なくとも30個の層状無機化合物の長さおよび厚さを測定し、算術平均することにより平均長さおよび平均厚さを求める。そして、層状無機化合物の平均長さを平均厚さで除した値を層状無機化合物のアスペクト比とする。
【0043】
層状無機化合物は、上記のアスペクト比を有していれば、特に限定されないが、合成マイカ、ベントナイト、およびカオリンよりなる群から選ばれる1種以上であることが好ましく、より好ましくは合成マイカ、およびカオリンよりなる群から選ばれる1種以上である。
【0044】
第2樹脂層2に含有される層状無機化合物と水懸濁性高分子との質量比は、水蒸気バリア性およびガスバリア性向上の観点から、層状無機化合物の質量をMCOMP、水懸濁性高分子の質量をMPOLとしたとき、MCOMP:MPOLは、1:100乃至200:100の範囲内であることが好ましく、1:100乃至50:100の範囲内であることがより好ましい。
【0045】
第2樹脂層2の厚さは、例えば、1μm乃至30μmあってよく、又は3μm乃至20μmであってよい。第2樹脂層2の厚さが3μm以上であれば、上述した紙基材1の凹凸を効率的に埋めることができ、後述する第1樹脂層3を均一に積層させることができる。また、第2樹脂層2の厚さが20μm以下であれば、コストを抑えつつ第2樹脂層2を均一に積層させることができる。
【0046】
第2樹脂層2を設ける方法としては、例えば、上述した層状無機化合物と水懸濁性高分子とを含む水性媒体(例えば、水又は水とアルコールとの混合液等)からなるコーティング液を紙基材1上に塗布し、塗膜を乾燥させることで得ることができる。コーティング液の塗工方法は、例えば、バーコート、ナイフコート、ダイコート、グラビアコート、マイクログラビアコート、スプレーコート、ディップコート、スクリーン印刷など公知の方法を用いることができる。また、塗膜の乾燥方法は、例えば、熱風乾燥、熱ロール乾燥、高周波照射、赤外線照射など熱をかける方法を1種類あるいは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0047】
<1.3 第1樹脂層>
第1樹脂層3は、ポリビニルアルコール系樹脂と金属ラクテートとの架橋体を含む架橋体層である。第1樹脂層3は、ガスバリア積層体10の屈曲耐性(折り曲げに対する耐性)を向上させ、折り曲げによるクラックの発生を抑制することを可能とする。紙基材にバリア層を設けた積層体は、折り目の位置でバリア層にクラックを生じやすく、クラックが発生すると、水蒸気バリア性が低下する。ガスバリア層10は第1樹脂層3を備えることにより屈曲耐性に優れるため、折り曲げ後においてもバリア性が低下せず、内容物の劣化や変質が抑制される。
【0048】
第1樹脂層3が含んでいる、ポリビニルアルコール系樹脂(PVA)と金属ラクテートとの架橋体(以下において、「PVA-金属架橋体」又は単に「架橋体」という。)が有する架橋構造の一例について、以下に説明する。下記に示す反応式は、金属ラクテートとしてチタンラクテートを使用した場合の一例である。下記に示す反応式中、PVAはポリビニルアルコール系樹脂の部分構造であり、*はポリビニルアルコール系樹脂の残部との連結部位を示す。
【0049】
【0050】
従来、ポリビニルアルコール系樹脂は、それ自体が高い酸素バリア性を持っていることが知られており、酸素バリア性樹脂としては広く利用されてきた。一方、ポリビニルアルコール系樹脂は、高湿度下の水蒸気バリア性は乏しく、防湿性を発現するバリア性樹脂としては不向きとされてきた。このポリビニルアルコール系樹脂を金属ラクテートと架橋させることにより、上記反応式に示されるように、水蒸気との親和性が高い水酸基が減るため、水蒸気バリア性が向上する。このため第1樹脂層3を備えるガスバリア性積層体10は、優れた水蒸気バリア性を有する。本発明者らは、ポリビニルアルコール系樹脂に替えてPVA-金属架橋体を使用することによる効果が、この水蒸気バリア性の向上に留まらず、紙基材を含むガスバリア性積層体において屈曲耐性の改善をももたらすことを見出した。このためガスバリア積層体10は、折り曲げ後においても優れた水蒸気バリア性を維持することができ、水蒸気バリア性は低下しない。
【0051】
このようなガスバリア積層体10が奏する上記効果について、本発明者らは以下のように考えている。すなわち、第1樹脂層3は柔軟性に優れるため、ガスバリア積層体10の可撓性を向上させることができる。これにより、折り曲げにより積層体にクラックが生じることが抑制されると共に、第1樹脂層3とヒートシール層4との間の密着性が維持される。その結果、ガスバリア性積層体10は、折り曲げ後においても優れた水蒸気バリア性を維持することができる。
【0052】
これに対し、例えば特許文献1及び2には、紙基材、水蒸気バリア層及びガスバリア層をこの順序で備え、ガスバリア層はポリビニルアルコール系樹脂を含有しているが、これと架橋可能な化合物を含有せず、架橋体を形成していないガスバリア積層体が開示されている。このようなガスバリア積層体は、屈曲耐性が低いため、折り曲げによりクラックを発生し易く、折り曲げ後は水蒸気バリア性が低下しやすい。
【0053】
更に、例えば特許文献1及び2に開示された上記積層体の上記ポリビニルアルコール系樹脂からなるガスバリア層上に水系ヒートシール層を形成する場合、積層体にひび割れが生じることによる外観不良を生じやすい。ここで、「水系ヒートシール層」とは、水溶性又は水分散性高分子を含有する水系コーティング液の乾燥塗膜からなるヒートシール層を意味する。この外観不良の発生は、ポリビニルアルコール系樹脂層上に水系ヒートシール層を塗工した場合、ポリビニルアルコール系樹脂層が膨潤し、その後乾燥した際に当該層が収縮することで膜の割れが生じることに起因する。特許文献2では、この外観不良を抑制するために、水系ヒートシール層にエチレン変性ポリビニルアルコールを添加している。本発明者らは、この場合、添加された変性ポリビニルアルコールが不純物となりヒートシール強度が低下することを確認している(後掲の参考例1を参照)。
【0054】
ガスバリア積層体10は、PVA-金属架橋体を含有する第1樹脂層3を備えることにより、驚くべきことに、水系ヒートシール層をその上に形成した場合でもひび割れによる外観不良を生じない。これは、ポリビニルアルコールを架橋することで水酸基が消費され、水系ヒートシール層を塗工した際の膨潤が抑制されるためである。このため、ガスバリア積層体10は、特許文献2に開示されるように水系ヒートシール層に変性ポリビニルアルコールを添加する必要がなく、このためヒートシール強度にも優れている。
【0055】
ポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、完全けん化のポリビニルアルコール樹脂、部分けん化のポリビニルアルコール樹脂、変性ポリビニルアルコール樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂等である。ポリビニルアルコール系樹脂のけん化度は、例えば、70%以上100%以下であってよい。ここで、ポリビニルアルコール系樹脂のけん化度は、JIS(K 6726―1994)に準拠して測定したものである。また、ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、300以上1500以下の範囲内であることが好ましい。重合度がある程度高いことは、ガスバリア積層体10のバリア性や屈曲耐性の観点から好ましい。また、重合度がある程度低いことは、ポリビニルアルコール系樹脂のコーティング液の粘度が低くなり、塗布性が良好になるため好ましい。ここで、ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、JIS(K 6726―1994)に準拠して測定したものである。
【0056】
金属ラクテートは、ポリビニルアルコール系樹脂と架橋構造を形成することができるものであればよい。金属ラクテートとして、例えば、その分子中にチタン、ジルコニウム、又はアルミニウムを含む乳酸キレート化合物を使用することができる。具体的には、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩、ジルコニウムラクテート、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩、アルミニウムラクテート、アルミニウムラクテートアンモニウム塩などが挙げられる。
【0057】
これら金属ラクテートは市販されている化合物を使用することができる。市販されている金属ラクテートとして、例えば、チタン化合物として「オルガチックスTC-300」(マツモトファインケミカル(株))、「オルガチックスTC-310」(マツモトファインケミカル(株))などが挙げられ、ジルコニウム化合物として「オルガチックスZC-300」(マツモトファインケミカル(株))などが挙げられる。
【0058】
金属ラクテートは、上記の化合物あるいはその誘導体から任意に選択してよく、1種類あるいは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
第1樹脂層3に含有される金属ラクテートとポリビニルアルコール系樹脂との質量比は、金属ラクテートの質量をMML、ポリビニルアルコール系樹脂の質量をMPVAとしたとき、MML:MPVAは、3:97乃至50:50の範囲内であることが好ましく、10:90乃至40:60の範囲内であることがより好ましく、10:90乃至20:80の範囲内であることが更に好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂に対する金属ラクテートの質量比が小さいと、架橋が不十分となるため耐屈曲性の向上効果が得られにくくなり、また、水系ヒートシール層塗工後の外観不良が発生しやすくなる傾向がある。一方、ポリビニルアルコール系樹脂に対する金属ラクテートの質量比が大きいと、水酸基による水素結合が不足することにより酸素バリア性が低下する傾向がある。
【0060】
第1樹脂層3の厚さは、例えば、0.5μm以上20μm以下であってよく、又は1μm以上10μm以下であってよい。第1樹脂層3の厚さが0.5μm以上であれば、良好なバリア性を付与することができる。また、第1樹脂層3の厚さが20μm以下であれば、コストを抑えつつ、良好なバリア性を付与することができる。
【0061】
第1樹脂層3を設ける方法としては、例えば、上述したポリビニルアルコール系樹脂と金属ラクテートを含む水溶液からなるコーティング液を第2樹脂層2上に塗布し、塗膜を乾燥させることで得ることができる。コーティング液の塗工方法は、例えば、バーコート、ナイフコート、ダイコート、グラビアコート、マイクログラビアコート、スプレーコート、ディップコート、スクリーン印刷など公知の方法を用いることができる。また、塗膜の乾燥方法は、例えば、熱風乾燥、熱ロール乾燥、高周波照射、赤外線照射など熱をかける方法を1種類あるいは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0062】
<1.4> ヒートシール層
ヒートシール層4は、例えば、熱接着性ポリマーを含有する。熱接着性ポリマーとしては、例えば、オレフィン系ポリマー、酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体、ポリエステル、ポリアミド、ゴム系ポリマーなどが挙げられる。
【0063】
好ましいオレフィン系ポリマーとして、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、エチレン-メタクリル酸共重合樹脂(EMAA)、エチレン-アクリル酸共重合樹脂(EAA)、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、アイオノマー樹脂(IO)、エチレン-メチルアクリレート共重合樹脂(EMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合樹脂(EEA)、エチレン-ブチルアクリレート共重合樹脂(EBA)などが挙げられる。これらの熱接着性ポリマーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0064】
ヒートシール層4は、これら熱接着性ポリマーを含有するフィルムを使用し、ラミネートによって第1樹脂層3上に設けることができる。ヒートシール層1をラミネート等により貼り合わせる手段としては、溶剤系接着剤を用いるドライラミネート法、無溶剤系接着剤を用いるノンソルラミネート法、及び溶融樹脂を接着剤として用いるサンドラミネート法などがある。ヒートシール層4として、イージーピール機能(簡易剥離機能)をもったシーラント層も使用することができる。また、ヒートシール層を溶融樹脂で押出し成形する場合には、押出しラミネート法を用いることもできる。
【0065】
ヒートシール層4は、ヒートシールニス等のコーティング液を塗工し乾燥することにより形成してもよい。ガスバリア積層体10に含まれるプラスチック比率低減の観点からは、ヒートシール層4は、コーティングタイプであることが好ましい。
【0066】
コーティング液の塗工手段としては、グラビアコート法、ダイコート法、ブレードコート法、ナイフコート法、バーコート法などの公知のコート法を用いることができる。
【0067】
コーティング液に含まれる溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ヒートシール層4が熱接着性ポリマーとして後述するカルボン酸変性ポリオレフィンを含有する場合、コーティング液に含まれる溶媒としては、これらの中でも、特性の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、及び水が好ましい。また環境の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、及び水が好ましい。
【0068】
ヒートシール層4は、水溶性又は水分散性高分子が水性媒体(例えば、水又は水とアルコールとの混合液等)に溶解又は分散した水系コーティング液を塗工し、乾燥することにより形成される膜、すなわち水系ヒートシール層であることが好ましい。この場合、回収したガスバリア積層体を再離解した際に、ヒートシール層の成分が水に再分散し、パルプを高い回収率で回収することができる。このためリサイクル性に優れたガスバリア積層体となる。したがって、ヒートシール層4は、水溶性又は水分散性高分子を含むことが好ましい。
【0069】
ヒートシール層4が含有する水溶性又は水分散性高分子は、例えば、所定の酸で変性された酸変性ポリオレフィンであってよい。この酸変性ポリオレフィンは、カルボキシル基、カルボキシル基の塩、カルボン酸無水物基及びカルボン酸エステルより選ばれる少なくとも1種を有するカルボン酸変性ポリオレフィンであることが好ましい。ヒートシール層4がこのようなカルボン酸変性ポリオレフィンを含む場合、柔軟性が向上し、屈曲後(折り曲げ後)に蒸着層3の割れを抑制することができる。また、ヒートシール層4が上記酸変性ポリオレフィンを含む場合、ヒートシール強度の向上が期待できる。
【0070】
ヒートシール層4に含有されるカルボン酸変性ポリオレフィンは、例えば、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体等のオレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体であってよい。オレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体は、オレフィン単量体と不飽和カルボン酸系単量体とを乳化重合することにより得られる共重合体である。ここで、オレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体には、不飽和カルボン酸系単量体由来のカルボキシル基が、アルカリ金属水酸化物、アンモニア、アルキルアミン、アルカノールアミン等で一部あるいは全部中和されている塩が含まれる。
【0071】
オレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体のオレフィン系単量体としては、エチレン、プロピレン、ブタジエン等が挙げられる。これらは、1種単独であってもよいし、2種以上であってもよい。オレフィン系単量体として、中でもエチレンが好ましい。
【0072】
オレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体の不飽和カルボン酸系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、ブテントリカルボン酸等の不飽和カルボン酸又はそれらの塩などが挙げられる。不飽和カルボン酸系単量体として、中でもアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、又はそれらの塩が好ましい。
【0073】
したがって、ヒートシール層4は、カルボン酸変性ポリオレフィンとしてオレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体を含有することが好ましく、エチレン-アクリル酸共重合体およびエチレン-メタクリル酸共重合体の少なくとも一方を含有することがより好ましい。
【0074】
オレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体の市販品としては、例えば、ザイクセン(登録商標)AC(アンモニウム塩の水性分散液、融点:95℃、住友精化株式会社製)などが入手可能である。
【0075】
なお、第2樹脂層2とヒートシール層4は、オレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体として、互いに同じ化合物を含有してもよいし、互いに異なる化合物を含有してもよい。
【0076】
ヒートシール層4がカルボン酸変性ポリオレフィンを含有する場合、ヒートシール層4は他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、シランカップリング剤、有機チタネート、ポリアクリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリウレア、ポリアミド、ポリオレフィン系エマルジョン、ポリイミド、メラミン、フェノール等が挙げられる。
【0077】
ヒートシール層4がカルボン酸変性ポリオレフィンを含有する場合、カルボン酸変性ポリオレフィンの含有率は、例えば、50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、又は100質量%であってよい。
【0078】
ヒートシール層4の厚さは、ヒートシール層4の厚さは、例えば、2μm以上であってよく、3μm以上であってよい。また、ヒートシール層4の厚さは、例えば、10μm以下であってよく、8μm以下であってよく、5μm以下であってよい。ヒートシール層4の厚さが2μm以上であれば、上述したヒートシール層としての役割を十分に発揮することができる。また、ヒートシール層4の厚さが10μm以下であれば、コストを抑えつつ第1樹脂層3との密着性やバリア性を十分に発揮することができる。
【0079】
<1.5> 蒸着層
ガスバリア積層体10は、変形例として、第1樹脂層3とヒートシール層4との間に図示しない蒸着層を備えていてもよい。蒸着層は、金属又は無機化合物を蒸着してなる層である。蒸着層としては、アルミニウムを蒸着して得られたものであってもよく、酸化アルミニウム(AlOx)、酸化ケイ素(SiOx)等を含むものであってもよい。
【0080】
蒸着層の厚さは、ガスバリア積層体10の用途によって適宜設定すればよい。蒸着層の厚さは、例えば、30乃至100nmの範囲内であってよく、又は50乃至80nmの範囲内であってよい。蒸着層の厚さを30nm以上とすることで蒸着層の連続性を十分なものとし易く、100nm以下とすることでカールやクラックの発生を十分に抑制でき、十分なガスバリア性能及び可撓性を達成し易い。また、蒸着層の厚さを30nm以上100nm以下とすることで、蒸着層がより割れ難くなり、折り曲げ後であっても十分な水蒸気バリア性を得ることができる。
【0081】
蒸着層は、真空成膜手段によって成膜することが、水蒸気及び酸素ガスバリア性能や膜均一性の観点から好ましい。成膜手段には、真空蒸着法、スパッタリング法、化学的気相成長法(CVD法)などの公知の方法があるが、成膜速度が速く生産性が高いことから真空蒸着法が好ましい。また、真空蒸着法の中でも、特に電子ビーム加熱による成膜手段は、成膜速度を照射面積や電子ビーム電流などで制御し易いことや蒸着材料への昇温降温が短時間で行えることから有効である。
【0082】
<2>包装袋
図2は、
図1のガスバリア積層体から製造可能な包装袋の一例を概略的に示す斜視図である。
【0083】
図2に示す包装袋20は、ガゼット袋である。包装袋20は、
図1を参照しながら説明したガスバリア積層体10を含んでいる。ガスバリア積層体10は、ヒートシール層4が内側を向き、紙基材1が外側を向くように、包装袋20へと製袋されている。包装袋20は、これに内容物を入れ、任意に、上部の開口部をシールすることで、包装物品とすることができる。
【0084】
包装袋20は、折り目を有している。即ち、包装袋20は、ガスバリア積層体10が折り曲げられている箇所、ここでは、折り曲げ部B1及びB2を有している。折り曲げ部B1は、包装袋20の内側から見て、ガスバリア積層体10が谷折りされている箇所である。他方、折り曲げ部B2は、包装袋20の内側から見て、ガスバリア積層体10が山折りされている箇所である。
【0085】
包装袋20は、1枚のガスバリア積層体10を、ヒートシール層4が対向するように二つ折りにし、その後、所望の形状になるように適宜折り曲げ、更に、ヒートシールすることによって袋形状としたものであってもよい。或いは、包装袋20は、2枚のガスバリア積層体10を、それらのヒートシール層4が対向するように重ね、その後、ヒートシールすることによって袋形状としたものであってもよい。
【0086】
包装袋20において、ヒートシール強度は、2N以上であってよく、4N以上であってよい。なお、ヒートシール強度の上限値は特に制限されるものではないが、例えば10N以下であってよい。ここでヒートシール強度は、以下の方法で測定した値である。すなわち、2枚のガスバリア積層体10をヒートシール層4が対向するように重ね、120℃、0.2MPa、1秒間の条件でヒートシーラーを用いてヒートシールを行う。そこから15mm幅の短冊に切り出して、剥離速度300mm/分でT字剥離した時の最大荷重を測定したものである。
【0087】
包装袋20は、食品、医薬品等の内容物を収容することができる。特に、食品として、菓子等を収容するのに適している。
【0088】
包装袋20は、折り曲げ部B1及びB2を有しているにも拘わらず、高い水蒸気バリア性を維持することができる。
【0089】
なお、本実施形態においては、包装袋の一例としてガゼット袋を挙げたが、本実施形態に係るガスバリア積層体を使用して、例えば、ピロー袋、三方シール袋又はスタンディングパウチを作製してもよい。
【0090】
また、本実施形態に係るガスバリア積層体は、四方シール袋のように折り目がない包装袋の製造に使用してもよい。そのような包装袋であっても、例えば、これに内容物を収容させてなる包装物品の搬送時に、折り目を生じることがある。そのような場合であっても、このガスバリア積層体は、高い水蒸気バリア性を維持することができる。
【実施例0091】
以下に、本発明に関連して行った試験について記載する。
【0092】
<ガスバリア積層体の作製>
(例1)
水懸濁性高分子として、オレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体アンモニウム塩の水性分散液(ザイクセン(登録商標)AC、融点:95℃、住友精化株式会社製)と、層状無機化合物として、エンジニアードカオリン(バリサーフ(登録商標)HX、株式会社イメリスミネラルズ製、アスペクト比80~100)を準備した。これらを固形分質量比で各々30:50となるよう調整して混合し、蒸留水を添加して固形分濃度10質量%のコーティング液を得た。
【0093】
紙基材(坪量60g/m2)上に、このコーティング液を、乾燥後の面積当たりの質量が13g/m2となるようにバーコーターを用いて塗工した。次いで、これをオーブンで120℃、1分間の条件で乾燥させて第2樹脂層を形成した。
【0094】
金属ラクテートとしてオルガチックス(登録商標)TC-310(マツモトファインケミカル株式会社製、チタンラクテート)と、ポリビニルアルコール系樹脂としてクラレポバール(登録商標)5-98(株式会社クラレ製、ポリビニルアルコール、けん化度98-99%)を準備した。これらを固形分質量比で20:80(MML:MPVA)となるよう調整して混合し、蒸留水を添加して固形分濃度10質量%のコーティング液を得た。
【0095】
上掲で形成した第2樹脂層上に、このコーティング液を、乾燥後の膜厚が3μmとなるようにバーコーターを用いて塗工した。次いで、これをオーブンで120℃、1分間の条件で乾燥させて、第1樹脂層を形成した。
【0096】
カルボン酸変性ポリオレフィンとして、オレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体アンモニウム塩の水性分散液(ザイクセン(登録商標)AC、融点:95℃、住友精化株式会社製)を準備した。上掲で得た第1樹脂層上に、この水性分散液を、乾燥後の面積当たりの質量が3g/m2となるようにバーコーターを用いて塗工した。次いで、これをオーブンで120℃、1分間の条件で乾燥させてヒートシール層を形成した。
以上のようにしてガスバリア積層体を得た。なお、得られたガスバリア積層体におけるリサイクル率(離解後のパルプ回収率)は83%であった。
【0097】
ここで、ガスバリア積層体のリサイクル率(離解後のパルプ回収率)は、以下の方法により測定した。すなわち、2cm角に切った試料50gを、40℃度の水に固形分20質量%となるように添加し、回転数3000rpmにおいて20分間離解処理した。次いで、得られたパルプスラリーを0.7mmφのプレート上にセットし、fractionator(M.C.TEC社製)で5分間分離処理をした。下式によりパルプ回収率(%)を算出し、これをリサイクル率とした。
パルプ回収率(%)=[作成したガスバリア積層体の乾燥質量(g)-未離解物の乾燥質量(g)]/作成したガスバリア積層体の乾燥質量(g)×100
【0098】
(例2)
チタンラクテートとポリビニルアルコールとの質量比(MML:MPVA)を、20:80から10:90に変更したことを除き、例1と同様にガスバリア積層体を製造した。
【0099】
(例3)
チタンラクテートとポリビニルアルコールとの質量比(MML:MPVA)を、20:80から3:97に変更したことを除き、例1と同様にガスバリア積層体を製造した。
【0100】
(例4)
チタンラクテートとポリビニルアルコールとの質量比(MML:MPVA)を、20:80から50:50に変更したことを除き、例1と同様にガスバリア積層体を製造した。
【0101】
(例5)
ポリビニルアルコール系樹脂として、クラレポバール5-95を、エクセバール(登録商標)AQ-4104(株式会社クラレ製、エチレン変性ポリビニルアルコール、固形分100%、完全けん化度)に変更したことを除き、例1と同様にガスバリア積層体を製造した。
【0102】
(例6)
金属ラクテートとして、オルガチックスTC-310(チタンラクテート)をオルガチックスTC-300(マツモトファインケミカル株式会社製、チタンラクテートアンモニウム塩)に変更したことを除き、例1と同様にガスバリア積層体を製造した。
【0103】
(比較例1)
第1樹脂層として、ポリビニルアルコールとチタンラクテートを用いて形成した架橋体層に替えて、チタンラクテートを含有しないポリビニルアルコール層を形成したことを除き、例1と同様にガスバリア積層体を製造した。
【0104】
(参考例1)
ヒートシール層として、エチレン変性ポリビニルアルコール(エクセバールRS-1713(株式会社クラレ製、エチレン変性ポリビニルアルコール)を更に加え、エチレン-アクリル酸共重合体アンモニウム塩:エチレン変性ポリビニルアルコール=80:20(質量比)の混合物層を形成したことを除き、比較例1と同様にガスバリア積層体を製造した。
【0105】
<評価>
【0106】
(水蒸気透過度の測定)
例1乃至6及び比較例1に係るガスバリア積層体の各々について、初期の水蒸気透過度をMOCON法で測定した。測定は、MONOCO社製 PERAMATRAN 3/34Gを使用し、温度40℃、相対湿度90%の条件下で行った。
【0107】
次に、ガスバリア積層体の各々を二つ折りし、その上で600gのローラーを300mm/分の速さで転がすことにより、ガスバリア積層体に折り目を形成した。そして、開いた後のガスバリア積層体の水蒸気透過度も、上記と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0108】
(シートヒール強度の測定)
2枚のガスバリア性積層体を、ヒートシール層が対向するように重ね、120℃、0.2MPa、1秒間の条件でヒートシールテスターを用いてヒートシールを行った。そこから15mm幅の短冊状にサンプルを切り出し、引張試験機を用いて剥離速度300mm/分でシール部をT字剥離した時の最大荷重を測定した。表1に結果を単位[N/15mm]で示す。
【0109】
(外観不良の有無)
得られたガスバリア積層体を目視で観察し、塗工膜におけるひび割れや欠陥の有無を確認し、下記基準で評価した。結果を表1に示す。
A:塗工面にひび割れや欠陥がない。
B:塗工面にひび割れ又は欠陥がある。
【0110】
【0111】
表1に示す通り、例1乃至例6に係るガスバリア積層体は、初期だけでなく、折り曲げ後も水蒸気バリア性が良好であった。これから明らかなように、本発明のガスバリア積層体によれば、折り曲げ部を有する形状の包装袋を形成した場合であっても内容物の劣化や変質を抑えることができる。また、例1乃至例6に係るガスバリア積層体は、ヒートシール強度に優れ、且つ、塗工膜に外観不良もみられなかった。一方、第1樹脂層に金属ラクテートを含有せず、PVAが架橋構造を形成していない比較例1は、屈曲耐性が低く、折り曲げ後に水蒸気バリア性が低下した。また、比較例1は、外観不良も見られたのに対し、参考例1は、外観不良は見られなかったが、ヒートシール強度が低かった。