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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031141
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】炭素系耐熱パイプ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01K 1/08 20210101AFI20240229BHJP
【FI】
G01K1/08 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134500
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】310013299
【氏名又は名称】國友熱工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】坪田 輝一
(72)【発明者】
【氏名】上島 康嗣
【テーマコード(参考)】
2F056
【Fターム(参考)】
2F056BP01
2F056BP06
2F056BP09
(57)【要約】
【課題】耐熱性や耐蝕性、化学的安定性を向上させた炭素系耐熱パイプを提供する。
【解決手段】炭素系耐熱パイプ1は、耐熱性パイプ基材14と保護層15とを備えており、保護層15は、耐熱性パイプ基材14を覆う内側シール層17、その外側に位置したセラミック系の耐熱保護層22と、その外側に位置した外側シール層21とで構成されている。シール層17,21はガラス質であり、炉2の操業温度かそれ以上の温度で軟化する。耐熱性パイプ基材14や耐熱保護層22がボーラス構造であったり亀裂23が発生したりしても、耐熱性パイプ基材14及び耐熱保護層22をシール層17,21で封止して有害ガスの透過を阻止できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質の耐熱性パイプ基材と、前記耐熱性パイプ基材を外側から覆う保護層とを有し、
前記保護層は、セラミック系の耐熱保護層と、前記耐熱性パイプ基材と耐熱保護層との間に介在した内側シール層と、前記耐熱保護層を外側から覆う外側シール層とを備えており、
前記耐熱保護層は、使用温度に関係なく固化した状態に保持されている一方、前記両シール層は、ガラス質素材から成っていて使用温度又はそれより高い温度で軟化するように設定されている、
炭素系耐熱パイプ。
【請求項2】
前記耐熱保護層は、ムライト系補強層とシリカ系補強層との複層構造になっている、
請求項1に記載した炭素系耐熱パイプ。
【請求項3】
前記シリカ系補強層は、シリカ及びアルミナの混合物を主体にした層と、シリカ及びジルコニアの混合物を主体にした層との2層で構成されている、
請求項2に記載した炭素系耐熱パイプ。
【請求項4】
基端は開口して先端は炭素製の蓋部によって塞がれており、前記蓋部も前記保護層によって外側から覆われている、
請求項1~3のうちのいずれかに記載した炭素系耐熱パイプ。
【請求項5】
前記耐熱性パイプ基材は、流動性の不定形炭素材料を型に入れて成型されたものであるか、又は、糸状又は帯状の炭素繊維を素材として筒状に巻製されたものである、
請求項1~4のうちのいずれかに記載した炭素系耐熱パイプ。
【請求項6】
炭素材料を使用して炭素質の耐熱性パイプ基材を作る準備工程と、前記耐熱性パイプ基材を保護層で外側から被覆する積層化工程とを有し、
前記積層化工程は、前記耐熱性パイプ基材にガラス質不定形材料を塗布してから乾燥させて内側シール層を形成する工程と、前記内側シール層にセラミック系流不定形材料を塗布してから乾燥させて耐熱保護層を形成する工程と、前記耐熱保護層にガラス質不定形材料を塗布してから乾燥させて外側シール層を形成する工程と、使用される温度又はそれよりも高い温度で行われる焼成工程とを有しており、
前記焼成工程は、前記耐熱保護層の形成工程と外側シール層の形成工程との前に行われるか、又は、前記外側シール層の形成工程の後に行われる、
炭素系耐熱パイプの製造方法。
【請求項7】
炭素質の耐熱性パイプ基材と、前記耐熱性パイプ基材を外側から覆う保護層とを有し、
前記保護層は、セラミック系の耐熱保護層と、前記耐熱保護層を外側から覆う外側シール層とを備えており、
前記耐熱保護層は、使用温度に関係なく固化した状態に保持されている一方、前記外側シール層は、ガラス質素材から成っていて使用温度又はそれより高い温度で軟化するように設定されている構成であって、
前記耐熱保護層は、前記耐熱性パイプ基材に重なる内層と、前記外側シール層で覆われた外層とを有しており、
前記内層はシリカ系又はシリカ・アルミナ系である一方、前記外層はシリカ・ジルコニア系である、
炭素系耐熱パイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えば炉内温度検知装置の保護管として使用する炭素系耐熱パイプ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
焼却炉や真空浸炭炉、ガス浸炭炉、焼成炉、焼入れ用加熱炉、各種ボイラー、高炉、転炉、真空脱ガス炉、ロータリーキルンのように内部が高温になる炉類において、内部温度を管理するための温度センサが使用されている。炉用の温度センサには、保護管(シース管)内に絶縁体を介して測温素線が配置されたシース熱電対が多用されている。
【0003】
保護管の長さは炉の大きさや種類によってまちまちであり、長いものは2m以上になる。そこで、保護管には強度と高い耐熱性と耐蝕性とが要求されており、この要求に応えるため、ステンレスやインコネル系特殊鋼などが使用されているが、熱ショックによる破損や炉内のガスによる腐食、炉内のガスとの反応による破損などのトラブルが後を絶たず、耐久性は低いのが現状である。
【0004】
これについて対策が考えられており、その例として特許文献1には、保護管を、金属製の内部管と黒鉛製の外部との2層方式に構成して、内部管に絶縁体を介して測温素線を配置することが開示されている。他方、特許文献2には、温度センサをアクチェータによって炉内に挿脱する構成が開示されている。更に本願出願人は、特許文献3において、炭素繊維を使用した耐熱性パイプ基材をセラミック系の保護層で被覆した炭素系耐熱パイプに関する独自の技術を開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-189616号公報
【特許文献2】特許第6010675号公報
【特許文献3】特願2021-28115号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
黒鉛は耐熱性及び化学的安定性に優れるため、特許文献1の構成を採用すると、熱ひずみによる破損や化学反応による破損、腐食を大幅に抑制できると云えるが、黒鉛は衝撃に弱いため、運搬等に際して外部からの衝撃によって破損しやすくなる問題が懸念される。また、黒鉛製の筒の製造も容易ではないと推測される。
【0007】
他方、特許文献2は、温度センサの露出時間を短くして過酷な環境からできるだけ保護しようとするものであるが、連続的な測温が必要な炉には適用できない問題や、シール性を確保しつつ温度センサをスライドさせる構造が複雑化してコストが嵩む問題、或いは、既存の炉にそのままは適用することができないという問題があり、汎用性に欠けると云える。
【0008】
これに対して特許文献3によると、耐熱性パイプ基材は炭素繊維製であるため強度と耐熱性・耐蝕性に優れており、しかも、セラミック系の耐熱性保護層で被覆されているため耐磨耗性にも優れており、耐久性を向上できる等の利点がある。
【0009】
本願発明は、先願である特許文献3を更に発展させたものであり、耐熱性パイプ基材の保護機能や耐久性等を更に向上させた炭素系耐熱パイプを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は様々な構成を含んでおり、その典型例を各請求項で特定している。このうち請求項1の発明は炭素系耐熱パイプの上位概念を成すもので、
「炭素質の耐熱性パイプ基材と、前記耐熱性パイプ基材を外側から覆う保護層とを有し、
前記保護層は、セラミック系の耐熱保護層と、前記耐熱性パイプ基材と耐熱保護層との間に介在した内側シール層と、前記耐熱保護層を外側から覆う外側シール層とを備えており、
前記耐熱保護層は、使用温度に関係なく固化した状態に保持されている一方、前記両シール層は、ガラス質素材から成っていて使用温度又はそれより高い温度で軟化するように設定されている」
という構成になっている。
【0011】
請求項2の発明は請求項1を具体化したもので、
「前記耐熱保護層は、ムライト系補強層とシリカ系補強層との複層構造になっている」
という構成になっている。
【0012】
請求項3の発明は請求項2の具体例であり、
「前記シリカ系補強層は、シリカ及びアルミナの混合物を主体にした層(アルミナセメント)と、シリカ及びジルコニアの混合物(ジルコニアセメント)を主体にした層との2層で構成されている」
という構成になっている。
【0013】
請求項4の発明は請求項1~3のうちのいずれかの具体例であり、
「基端は開口して先端は炭素製の蓋部によって塞がれており、前記蓋部も前記保護層によって外側から覆われている」
という構成になっている。
【0014】
請求項5の発明は耐熱性パイプ基材に関するもので、請求項1~4のうちのいずれかにおいて、
「流動性の不定形炭素材料を型に入れて成型されたものであるか、又は、糸状又は帯状の炭素繊維を素材として筒状に巻製されたものである」
という構成になっている。
【0015】
請求項6の発明は炭素系耐熱パイプの製法に係るもので、
「炭素材料を使用して炭素質の耐熱性パイプ基材を作る準備工程と、前記耐熱性パイプ基材を保護層で外側から被覆する積層化工程とを有し、
前記積層化工程は、前記耐熱性パイプ基材にガラス質不定形材料を塗布してから乾燥させて内側シール層を形成する工程と、前記内側シール層にセラミック系不定形材料を塗布してから乾燥させて耐熱保護層を形成する工程と、前記耐熱保護層にガラス質不定形材料を塗布してから乾燥させて外側シール層を形成する工程と、使用される温度又はそれよりも高い温度で行われる焼成工程とを有しており、
前記焼成工程は、前記耐熱保護層の形成工程と外側シール層の形成工程との前に行われるか、又は、前記外側シール層の形成工程の後に行われる」
という構成になっている。
【0016】
出荷段階で外側シール層の焼成を行っていない場合は、外側シール層の焼成(ガラス化)はユーザーの炉での操業によって行われるが、この場合の外側シール層の焼成温度は当然ながら炉の操業温度になる。従って、外側シール層は炉の操業状態で軟化している。
【0017】
請求項7の発明は炭素系耐熱パイプに関するもので、
「炭素質の耐熱性パイプ基材と、前記耐熱性パイプ基材を外側から覆う保護層とを有し、
前記保護層は、セラミック系の耐熱保護層と、前記耐熱保護層を外側から覆う外側シール層とを備えており、
前記耐熱保護層は、使用温度に関係なく固化した状態に保持されている一方、前記外側シール層は、ガラス質素材から成っていて使用温度又はそれより高い温度で軟化するように設定されている構成であって、
前記耐熱保護層は、前記耐熱性パイプ基材に重なる内層と、前記外側シール層で覆われた外層とを有しており、
前記内層はシリカ系又はシリカ・アルミナ系である一方、前記外層はシリカ・ジルコニア系である」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0018】
耐熱性パイプ基材はミクロにみると連続気孔が存在してガスバリア性が低いが、本願請求項1の発明では、焼成工程によって内側シール層を軟化させて連続気孔を埋めることにより、操業状態で酸素や水蒸気等の有害ガスが耐熱性パイプ基材の内部に透過することを防止できる。
【0019】
この場合、内側シール層が出荷前の焼成時にのみ軟化して耐熱性パイプ基材をカバリングして(耐熱性パイプ基材に内側シール層を含浸させて)、操業状態では硬質の状態を保持することが理想であるが、高融点のガラス素材が高価である等の理由によって操業状態において軟化する材質を使用せねばならない状態であっても、内側シール層は耐熱保護層で外から覆われているため、軟化しても垂れ落ちることは無くて、耐熱性パイプ基材のガスバリア性を確保できる。
【0020】
さて、本願発明の炭素系耐熱パイプは、焼却炉等の各種炉に設けられる温度検出装置の保護管として使用される。この場合は、例えば焼却炉を例にとると、補修等のために操業を停止することがあり、操業停止に伴って炭素系耐熱パイプの温度は常温まで低下し、操業の再開によって昇温する。
【0021】
そして、操業停止に伴う温度低下による収縮により、炭素系耐熱パイプを構成する耐熱性パイプ基材やセラミック系保護層に亀裂が入ることがあり、すると、操業の再開によって亀裂から有害ガスや水蒸気、酸素が侵入して、温度検出装置のセンサ部分に悪影響を与えるおそれがある。
【0022】
この点、本願請求項1の発明では、耐熱性パイプ基材に亀裂が入っても、操業に伴う昇温によって内側シール層を軟化させて亀裂に入り込ませることにより、水蒸気や有害ガスが亀裂から耐熱性パイプ基材を透過することを防止できる。また、より基本的には、軟化して自身がガス不透過性になった内側シール層によって耐熱性パイプ基材の外面が満遍なく覆うことにより、耐熱性パイプ基材が多孔質であっても水蒸気等の有害ガスが透過することを阻止できる。
【0023】
また、セラミック系の耐熱保護層に亀裂が入っても、操業に伴う昇温によって軟化した外側シール層を亀裂に入り込ませることにより、水蒸気や有害ガスが耐熱保護層の内側に透過することを防止できる。また、軟化してガス不透過性になった外側シール層によって耐熱保護層の外面を満遍なく覆うことにより、耐熱保護層が多孔質であっても水蒸気等の有害ガスが透過することを阻止できる。
【0024】
このように、本願請求項1の発明では、耐熱性パイプ基材及び耐熱保護層が多孔質であっても、或いは亀裂が発生しても、耐熱性パイプ基材のガスバリア性は内側シール層で確保して、耐熱保護層のガスバリア性は外側シール層で確保できる。このため、炭素系耐熱パイプが持つ耐熱性・耐蝕性と、セラミック系の耐熱保護層が持つ補強機能・保形機能とを如何なく発揮して、温度検出装置等に対する高い保護機能を発揮できる。
【0025】
有害ガスについて補足すると、まず、耐熱性パイプ基材は炭素製であって酸素が侵入すると焼損するため、耐熱性パイプ基材に酸素が侵入することを阻止する必要があるが、請求項1では、この機能を主として内側シール層が担っている(請求項7では、その機能は耐熱保護層の内層が担っている。)。また、セラミック系の耐熱保護層は水溶性の材料を使用していることが多いことから、水蒸気が耐熱保護層に作用し続けると耐熱保護層がボロボロに脆化する現象が発生しやすいが、請求項1,7では、耐熱保護層に対する水蒸気の接触を外側シール層によって防護できる。
【0026】
このように、本願発明では、ガスバリア機能や耐熱機能を複数の層が分担して発揮することにより、耐熱性パイプ基材に保形機能と高い耐熱性とを維持させて、耐久性・信頼性に優れた炭素系耐熱パイプを提供できる。
【0027】
なお、炉の操業によってシール層が軟化する場合、炉が操業を停止するとシール層も軟化状態から固化するが、固体への変化が不均一であると、特に内側シール層に関して固化が不均一になる凝結現象が生じて、内側シール層と耐熱性パイプ基材との間、又は、内側シール層と耐熱保護層との間に隙間が発生して各層に不均一なストレスが発生し、結果として、耐熱性パイプ基材や耐熱保護層、或いは内側シール層自体に亀裂が発生しやすくなると懸念される。
【0028】
この点については、内側シール層の材質について、軟化状態において適度の粘度を有するように選択することによって対応できる。すなわち、内側シール層を構成するガラス質材料について、軟化状態でなるべく粘度が低いものを使用することにより、凝結を防止して全体を均等に固化させ、結果として、耐熱性パイプ基材や耐熱保護層に不均一なストレスが作用することを抑制できる。
【0029】
耐熱保護層は単層構造でもよいが、請求項2のようにムライト層とシリカ系層との複層構造を採用すると、ムライト層によって強度や靱性、耐衝撃性などの機能を確保できる一方、シリカ系補強層によって硬度や緻密性を確保できるため、保護機能を向上できる。
【0030】
この場合、請求項3の構成を採用すると、シリカ・アルミナ系の層によって硬度や、耐蝕性を向上させて、シリカ・ジルコニア系の層によって耐熱性や強度、靱性を向上できる。シリカ・アルミナ質は硬いがヒートショックに弱いので、請求項3では、シリカ・アルミナ系の層をシリカ・ジルコニア系の層の内側に配置するのが好適である。
【0031】
請求項4のように耐熱性パイプ基材の蓋部を炭素製として耐熱保護層で外側から覆うと、内部の封止機能を向上できて好適である。すなわち、蓋部は耐熱性パイプ基材の同じ炭素製であるため、筒部との熱収縮率の違いに起因した亀裂の発生などは皆無であり、かつ、耐熱保護層が蓋部の外面にも覆っているため、蓋部についても高いガスバリア性を確保できる。従って、炭素系耐熱パイプの品質を向上できる。
【0032】
耐熱性パイプ基材として請求項5のうち成型品を採用すると、蓋部を一体に設けることを容易に実現できる。他方、請求項5のうち糸状又は帯状の炭素繊維の巻製品を採用すると、強度向上に貢献できる。従って、500mmを越えるような細くて長い炭素系耐熱パイプに好適である。
【0033】
請求項1の発明は保護層の一部として内外のシール層を保持していたが、請求項7の発明では、耐熱保護層を構成する内層が焼成によって溶融又は軟化して耐熱性パイプ基材の気孔を塞ぐことにより、簡単な構造でありながら耐熱性パイプ基材に高いガスバリア性を付与できると共に、外層によって耐熱性や強度を確保できる。従って、ガラス質の内側シール層を不要にして、それだけコストを抑制できる。
【0034】
更に述べると、まず、耐熱保護層のうち内層が、焼成によってガラス質化してガス不透過性の緻密な構造になりつつ、耐熱性パイプ基材の内部に浸透してアンカー効果によって耐熱性パイプ基材と一体化し、これらの働きによって耐熱性パイプ基材に高いガスバリア性を付与できる。更に、シリカ・ジルコニア系の外層は耐熱性に優れているため、内層を保護してその機能を保持できる。更に、耐熱保護層の外層に部分的な亀裂や割れが生じても、外側シール層が軟化することによって亀裂や割れが塞がれて、有害ガスの侵入を阻止できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】(A)は第1実施形態の使用状態を示す概略断面図、(B)は炭素系耐熱パイプの先端部の拡大断面図、(C)は保護層の部分拡大図、(D)(E)はシール層の作用を示す断面図である。
図2】亀裂を表示した正断面図である。
図3】保護層の別例を示す第2~4実施形態の断面図である。
図4】温度検出装置との関係の別例である第5実施形態を示す図である。
図5】耐熱性パイプ基材の製造工程の一例である第6実施形態を示す図である。
図6】底部をプラグで構成した実施形態を示す図であり、(A)~(C)は第7実施形態の断面図、(D)は第8実施形態の断面図、(E)は第9実施形態の断面図である。
図7】耐熱性パイプ基材の他の製造工程の例である第10実施形態を示す図である。
図8】第10実施形態において耐熱性パイプ基材に保護層を設ける工程を示す図である。
図9】請求項7を具体化した第11実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(1).第1実施形態の構造
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず、図1,2に示す実施形態を説明する。
【0037】
図1(A)において、炭素系耐熱パイプの概要と使用例とを示しており、本実施形態では、炭素系耐熱パイプ1は、焼却炉等の炉2の内部に配置された温度測定装置3の一部として使用されている。すなわち、温度測定装置3は、シース熱電対方式の温度センサ4と炭素系耐熱パイプ1とを有している。なお、図1(B)では炭素系耐熱パイプ1の断面表示(ハッチング)は省略しており、図2ではハッチングは部分的にしか表示していない。)。
【0038】
温度センサ4は、金属製の保護管5の内部に絶縁体6を介して2本の測定素線7が配置された構成であり、2本の測定素線7の先端が接合されて測温部(熱電対)8になっている。また、保護管5の基端は、コネクタ付きの蓋9で封止されている。保護管5には、炉2の外壁10に重なるフランジ11が固定されている。
【0039】
そして、保護管5は、その全体が炭素系耐熱パイプ1で覆われている。従って、炭素系耐熱パイプ1は、温度測定装置3のアウター保護管を構成している。炭素系耐熱パイプ1は、その基部がスペーサ12を介して保護管5に固定されており、炭素系耐熱パイプ1と保護管5との間には空間が空いている。従って、本例では、炉2の内部温度は、炭素系耐熱パイプ1と空気層とを介して保護管5に伝達される。
【0040】
なお、炭素系耐熱パイプ1と保護管5との間に複数のスペーサ(図示せず)を配置すると、保護管5と炭素系耐熱パイプ1とを同心状に確実に保持できて好適である。スペーサは金属製であってもよいが、耐熱性や保護管5の熱収縮吸収性等の点から炭素製を採用するのが好ましい。また、フランジ11を炭素系耐熱パイプ1に固定することも可能である。
【0041】
実施形態の炭素系耐熱パイプ1は、炭素繊維を主体にして作られた耐熱性パイプ基材14と、耐熱性パイプ基材14を外から覆う耐熱性保護層(耐熱性ガスバリア層)15とを備えている。炭素系耐熱パイプ1の先端には蓋部(或いは底部)16が一体に形成されている。耐熱性パイプ基材14は、粉状の炭素繊維とフェノール樹脂とを混練した不定形材料を型に入れて硬化させてから、フェノール樹脂が焼失しない温度で焼成して保形している。
【0042】
保護層15は、耐熱性パイプ基材14に近い順に、内側シール層17、ムライト質層18、シリカ・アルミナ質層19、シリカ・ジルコニア質層20、外側シール層21が配置されており、ムライト質層18とシリカ・アルミナ質層19とシリカ・ジルコニア質層20とによってセラミック系の耐熱保護層22が構成されている。
【0043】
内側シール層17と外側シール層21とはガラスフリットを主体にしている。すなわち、粉末状のガラスフリットにバインダー液を混ぜて混練して不定形物を作り、これを塗布して乾燥させている。バインダー液としては、水溶性のCMC(カルボキシルメチルセルロース)や、アクリル樹脂を使用できる。
【0044】
内側シール層17は、出荷前の状態で焼成している。外側シール層21は、出荷前の状態で焼成によって硬化させることは必ずしも必要はなく、不定形材料を耐熱保護層22に被覆してから乾燥させただけでもよい。いずれにしても、シール層17,21は、常温では固体の状態になっている。
【0045】
ムライト質層18はムライトを主体にしている。すなわち、ムライト粉末に液状バインダー液を混ぜて作られた粘土状や水飴状等の不定形物を作り、これを内側シール層17に被覆してから乾燥・焼成してムライト質層18と成している。
【0046】
シリカ・アルミナ質層19はシリカ及びアルミナを主体にしており、シリカ粉末とアルミナ粉末とを液体バインダー(水又は樹脂液)で混練して不定形物を作成し、これをムライト質層18にハケ塗りやスプレー等の適宜手段で被覆してから乾燥・焼成して形成している。焼成に伴うガス発生防止等の点から、シリカ・アルミナ質層19もシリカ・ジルコニア質層20も、材料は水溶性であるのが好ましい。
【0047】
シリカ・ジルコニア質層20は、シリカ及びジルコニアを主体にしており、シリカ粉末とジルコニア粉末とを液体バインダー(水又は樹脂液)で混練して不定形物を作成し、これをシリカ・アルミナ質層19に被覆し、乾燥・焼成して形成している。耐熱保護層22(18~20)は、固化状態は温度に関係なく維持されている。
【0048】
内側シール層17及び耐熱保護層22(18~20)の焼成は、電気炉を使用して無酸素雰囲気で同時に行っている。焼成温度は、使用する炉2の最高温度である930度に設定している。耐熱保護層22(18~20)の焼成工程と内側シール層17の焼成工程とを別工程にして、耐熱保護層22の焼成を内側シール層17の焼成温度よりも高温(例えば1200℃)で行うことも可能である。無酸素雰囲気で焼成するのは、耐熱性パイプ基材の焼損を防止するためである。
【0049】
なお、耐熱性パイプ基材14の寸法(外径・内径・長さ)は、用途に応じて任意に設定できる。例えば、内径5~25mm、長さは数十~1500mm程度に設定できる。図示の例では、各層の厚さも、要求されるスペックに応じて任意に設定できる。焼却炉用の炭素系耐熱パイプ1の場合は、炭素系耐熱パイプ1の内径は16mm程度で外径は25mm程度が多いようである。
【0050】
実施形態では、耐熱保護層22(18~20)を三層に構成して、シリカ・ジルコニア質層20を他の層よりも厚く設定しているが、耐熱保護層22を構成する各層18~20の厚さは任意に設定できる。
【0051】
(2).第1実施形態のまとめ
焼却炉2の操業時の内部温度は900~930℃程度であるが、内側シール層の焼成温度を930℃で焼成しており、900~930℃では、内側シール層17はガラス質が軟化して流動性を有している。外側シール層21も操業状態では軟化しており、表面張力によって筒状の状態が保持されている。
【0052】
炉が操業によって内部温度が900~930℃に昇温すると、耐熱性パイプ基材14のバインダーとして使用していた樹脂は消失するので、耐熱性パイプ基材14は多孔質の状態になっているが、この温度では内側シール層17は軟化して流動性を持っているため、耐熱性パイプ基材14の外面に露出した空洞に内側シール層17の一部が入り込むことにより、耐熱性パイプ基材14の孔が塞がれてガスバリア性は確保されている。特に、酸素の透過が阻止されて、耐熱性パイプ基材14の焼損防止が図られている。
【0053】
或いは、耐熱性パイプ基材14の空洞が微細であるため内側シール層17が耐熱性パイプ基材14の空洞に侵入しないことも有り得るが、耐熱性パイプ基材14は軟化した内側シール層17で全体が覆われているため、有害ガス(特に酸素)が内側シール層17を透過して耐熱性パイプ基材14に侵入することはない。すなわち、内側シール層17は軟化して自身がガスバリア性を保持しているため、有害ガスが内側シール層17を透過することはない。従って、炉2の操業状態でおいて、耐熱性パイプ基材14及び温度センサ4は有害ガスから守られている。
【0054】
焼成しただけの耐熱保護層22(18~20)は素焼きの陶器のような多孔質構造になることが有り得るが、ガラス質の外側シール層21が炉2の操業状態で軟化して自身が高いガスバリア性を保持しているため、耐熱保護層22(18~20)が多孔質構造(ポーラス構造)になっていても、有害ガス(特に水蒸気)が耐熱保護層22(18~20)を透過することを阻止できる。
【0055】
このように、有害ガスが耐熱保護層22(18~20)を透過することが外側シール層21によって阻止されると共に、仮に有害ガスが耐熱保護層22(18~20)を透過しても、有害ガスが耐熱性パイプ基材14を透過することは内側シール層17によって阻止されるため、有害ガスが温度センサ4に至ることはなくて、温度センサ4は高い耐久性を確保できる。すなわち、外側シール層21と内側シール層17との2つの軟化層によるダブル効果により、炭素系耐熱パイプ1の内部への有害ガスの透過を的確に阻止できる。
【0056】
更に述べると、ムライト質層18とシリカ・アルミナ質層19とシリカ・ジルコニア質層20の不定形材料はそれぞれ水溶性であるため、高温の水蒸気が接触すると脆化して強度と密度とが低下するおそれがあるが、シリカ・ジルコニア質層20はガラス質の外側シール層21でカバーされているため、水蒸気がシリカ・ジルコニア質層20(及びシリカ・アルミナ質層19、ムライト質層18)に接触することはなくて、耐熱保護層22の劣化を防止できる。
【0057】
また、酸素分子は水蒸気に比べて小さいため、酸素が耐熱保護層22を透過することが想定れるが、この場合は、既述のとおり、酸素が耐熱性パイプ基材14に侵入することが内側シール層17によって阻止される。
【0058】
そして、ムライト質層18は強度や靱性、耐衝撃性などの機能を確保できる一方、シリカ・アルミナ質層19は硬度や耐蝕性を向上させることができ、かつ、シリカ・ジルコニア質層20によって耐熱性、強度、靱性を向上できる。シリカ・アルミナ質層19はヒートショックに弱いが、実施形態のように、シリカ・アルミナ質層19をムライト質層18とシリカ・ジルコニア質層20との間に配置すると、操業停止後の降温の変化率を緩めて亀裂の発生を抑制できる。
【0059】
また、炉2が補修等のために操業を停止すると炭素系耐熱パイプ1は全体的に熱収縮する現象が発生し、その際に不均一な収縮があると、図1(D)(E)や図2に表示するように、耐熱性パイプ基材14や耐熱保護層22(18~20)に亀裂23が発生することが有り得る。しかるに、本実施形態では、内側シール層17と外側シール層21とは操業再開によって軟化するため、炉2の操業状態では、亀裂23は軟化したガラス質成分で埋められて、亀裂23から有害ガスが内部に透過することを防止できる。
【0060】
なお、シール層17,21によって亀裂23を埋める態様としては、ガラス質の粘度や亀裂23の大きさ(特に溝幅)により、図1(D)に示すようにガラス質が亀裂23の全体に入り込む態様と、図1(E)に示すように、ガラス質が亀裂23の中途部で止まる態様とがあると思料されるが、いずれにおいても効果に違いはない。
【0061】
実施形態の炭素系耐熱パイプ1は水平姿勢で炉2の内部に配置されているため、シール層17,21は重力によって下方に流れる作用を受けるが、内側シール層17は外側からムライト質層18(耐熱保護層22)で覆われているため、軟化状態で粘度が低くても外部に垂れ落ちることはない。従って、内側シール層17はできるだけ粘度が低いものを使用して、耐熱性パイプ基材14への浸透性(含浸性)を高めるのが好ましい。
【0062】
また、耐熱性パイプ基材14の下面に亀裂23があっても、内側シール層17の粘度が低いと、内側シール層17の圧力は下部において高くなっているため、耐熱性パイプ基材14の下面に発生している亀裂23にも容易に侵入できると云える。
【0063】
外側シール層21は外部に露出しているので、軟化しても垂れ落ちない強度(表面張力)が必要である。従って、内側シール層17に比べたら軟化状態での粘度は高いのが好ましい。外側シール層21の粘度が高いと、耐熱保護層22(18~20)の亀裂23や空洞に侵入しないことが有り得るが、外側シール層21は軟化状態でそれ自体として高いガスバリア性を保持しているので、亀裂23に侵入しなくてもシール効果は発揮できる。
【0064】
製造工程での間違いを防止するため、内側シール層17と外側シール層21とを同じ材料を使用してもよい。本実施形態では、内側シール層17及び外側シール層ともガラスフリットとして日陶産業株式会社製の「M-204」を使用して、バインダーとして共栄社化学株式会社の「アクリル樹脂ビーズ、オリコックスKC-1300」を使用した。
【0065】
ガラス質としての屈伏点は(Ts)は590℃、線膨張係数は50-300×10-7(1/℃)、軟化点は660℃であった。ガラスフリットの成分としては、SiO2、Al23、Bi23、B23、PbO3:、ZnO,BaO、MgOなどが挙げられる。
【0066】
実施形態のように、炭素系耐熱パイプ1の先端に筒部と同じ断面構造の蓋部16を一体に設けると、金属製プラグで塞ぐ場合に比べて、プラグと炭素系耐熱パイプとの熱収縮率の違いに起因した亀裂の発生は皆無になるため、品質を向上できる。また、ガラスは接着性を有するため、内側シール層17が耐熱性パイプ基材14に対して強く接着してガスバリア製を向上できるのみならず、内側シール層17が耐熱性パイプ基材14とムライト質層18(耐熱保護層15)とを接着する接着剤としての役割を果たす。また、外側シール層21はシリカ・ジルコニア質層20に対して強く接着する。
【0067】
本願発明者たちは、製品を930℃まで昇温させて10時間維持し、次いで常温まで自然冷却させるという実験を行って炭素系耐熱パイプ1の質量変化を測定したが、全体としての質量の低下は5%弱、930℃までの昇温による質量低下は3%弱であった。質量低下の主因はバインダーに含まれている水分の消失であると推測されるが、質量低下率は僅かであるため、降温に際しての熱収縮によるひずみの発生も僅かであり、亀裂23の発生を著しく抑制できる。
【0068】
本実施形態の使用対象である焼却炉の操業温度は一般に900~930℃であり、内側シール層17及び外側シール層21は操業状態で炉2の内部で軟化しているが、操業温度で全く又は殆ど軟化しない高融点のガラスフリットを使用することも可能である。この場合は、出荷前に外側シール層21が塗布された全体を炉の操業温度より高い温度で焼成しておいて、出荷段階で外側シール層21もガラス質化させておいたらよい。
【0069】
(3).第2~5実施形態
図3では、保護層の別例を表示している。このうち(A)に示す第2実施形態では、耐熱保護層22をムライト質層18とシリカ・ジルコニア質層20とで構成し、アルミナセメント層は形成していない。
【0070】
他方、図3(B)に示す第3実施形態では、耐熱保護層22は単層で構成している。この場合は、耐熱保護層22は、ムライト質層18のみを採用することも可能であるし、シリカ・ジルコニア質層20のみを採用することも可能である。或いは、他の組成の層を採用することも可能である。
【0071】
図3(C)に示す第4実施形態では、耐熱保護層22はムライト系やシリカ・ジルコニア系の単層に構成して、外側シール層21を外側からセラミック系やセメント系の表層24で覆っている。表層24は外側シール層21の垂れ落ちを防止するためのものであり、ムライト系等のセラミック系が好ましい。表層24は外側シール層21を軟化状態で保形するものであるので、多少の亀裂が発生することは差し支えない。このように表層24を設けると、外側シール層21の軟化状態での粘度をできるだけ低下できるため、耐熱保護層22に対するシール機能を向上できる。
【0072】
表層24は炉2の内部に露出しているため、炉2の内部に水蒸気が発生するとこれに接触する。従って、表層24は、非水溶性の不定形材料で構成すると好適である。
【0073】
図4に示すのは温度測定装置3の別例である第5実施形態であり、炭素系耐熱パイプ1の内面に温度センサ4が密着又は密接している。この実施形態では、金属製の保護管は使用しないため、真空浸炭炉や焼成炉のように1500℃以上の温度になるような炉の温度測定装置3にも適用できる。また、炭素系耐熱パイプは2000℃以上の耐熱性があるため、溶鋼のような溶融金属に差し込んで温度を直接計測することも可能になる。図4の例においても、温度センサ4に保護管5を設けることは可能である。
【0074】
(4).第1実施形態の耐熱性パイプ基材の製造方法
実施形態で示した耐熱性パイプ基材14の製造方法の一例である第6実施形態を図5に示している。この例では、(A)に示すホッパー30に粉状炭素繊維31と液体フェノール樹脂(バインダー)32とを投入して混練し、得られた不定形中間物33を(B)(C)に示すように成形型34に投入して耐熱性パイプ基材14(の中間品)と成している。
【0075】
(C)に明示するように、成形型34は、上向きに開口した中空の受け筒35と、受け筒35の内部に昇降自在に配置した可動底部材36と、耐熱性パイプ基材14の内面を形成するコア(ロッド)37と、不定形中間物33を押し固める筒状の可動プッシャー38とを備えている可動プッシャー38及びコア37は、振れ止め材39によって横振れ不能に保持されている。受け筒35の上部は、不定形中間物33の投入を容易にするためジョウゴ状に拡径している。
【0076】
さて、耐熱性パイプ基材14は蓋部(底部)14aを備えているため、コア37の下端は自由端になるが、耐熱性パイプ基材14は直径に比べて長さが長いため、成形型34が受け筒35とコア37のみで構成されていると、コア37の振れ動きのためにコア37を受け筒35と同心に保持することが困難であり、このため耐熱性パイプ基材14の肉厚が周方向に不均一になるおそれがある。
【0077】
そこで、本例では、可動底部材36とコア37とをある程度の寸法ずつ下降させつつ受け筒35に不定形中間物33を投入して可動プッシャー38で押し固めるという工程を繰り返すことにより、コア37を受け筒35と同心に保持して耐熱性パイプ基材14の肉厚を均等化している。
【0078】
(D)に示すように、受け筒35を2つ割り方式に構成すると、耐熱性パイプ基材14の抜き取りを容易化できる。コア37を2つ割り方式に構成して、2つのパーツを蟻溝などでスライド自在で横向き離反不能に構成しておくと、1つずつのパーツは耐熱性パイプ基材14から容易に抜き外しできるため、型抜きを容易化できる。
【0079】
このようにして耐熱性パイプ基材14の中間品を製造したら、乾燥させてのち、コア37に保持された状態のままで、又はコア37を抜き外した状態で加熱炉に投入して、焼成して保形する。焼成温度は、バインダーとして使用している樹脂が消失しない温度(120~130℃)で行ったらよい。
【0080】
次いで、耐熱性パイプ基材14への内側シール層17の塗布・乾燥、耐熱保護層22(18~20)の塗布・乾燥の工程を行ってから全体を焼成し、最後に外側シール層21を塗布し乾燥させて出荷する。外側シール層21も焼成可能であることは既述のとおりである。
【0081】
なお、耐熱性パイプ基材14が長尺である場合は、シール層17,21の塗布や耐熱保護層18~20の塗布工程は、耐熱性パイプ基材14をコア37に被せたままで、縦長姿勢(鉛直姿勢)で行うのが好ましいと云える。不定形材料の塗布は、ディスペンサを使用した塗布やスプレーを使用した吹きつけ、ハケ塗り、ヘラ塗りなどで行える。焼成も鉛直姿勢で行うのが好ましい。
【0082】
耐熱保護層22を構成する各層の材料は、単なる材料としてメーカーから提供されることもあるし、接着剤や塗料、コーティンク剤、シール剤などとしてメーカーから提供されているものを利用することも可能である。本実施形態では、シリカ・アルミナ質層19としては、例えば、日本油脂工業株式会社から黒鉛やレンガ等の用コーティング剤として販売されているベタック160CCを利用できる。
【0083】
また、シリカ・ジルコニア質層20としては、同じく日本油脂工業株式会社から炉材やセラミック系コート材として販売されているベタック1600Sを挙げることができる。シリカ・アルミナ質層19としては、同社からYTBシリーズ品として販売されているものを使用できる。
【0084】
(4).第7~9実施形態
図6では、耐熱性パイプ基材14の先端を蓋部材(プラグ、栓)40で塞いだ例を示している。すなわち、耐熱性パイプ基材14を両端開口の状態に製造してから、その一端(先端)を蓋部材40で塞いでいる。
【0085】
蓋部材40はグラファイト製(或いは黒鉛製)であり、耐熱性パイプ基材14の先端面に重なるフランジと、耐熱性パイプ基材14の内部に密嵌した中栓部40aとを備えている。蓋部材40はグラファイト棒を素材にして切削加工で作られており(成型品も使用できる)、フランジの外径は耐熱性パイプ基材の外径と同径に設定されている。
【0086】
蓋部材40は、フェノール樹脂を接着剤(バインダー)として耐熱性パイプ基材14の先端に嵌着しており、乾燥させて保形された耐熱性パイプ基材14の先端(一端)に蓋部材40を装着してから、フェノール樹脂が消失する温度で予備焼成することによって、樹脂成分を放散させつつ蓋部材40を耐熱性パイプ基材14に固定している。
【0087】
図6(D)に示す第8実施形態では、中栓部40aを内向きに開口した筒状に形成している。他方、図6(E)に示す第9実施形態では、フランジを内向きに凹ませている。いずれにしても、蓋部材40の外面は、筒部から連続した保護層15によって覆われている。
【0088】
蓋部材40は炭素質であるため、耐熱性に優れている。また、耐熱性パイプ基材14と同質であるため、熱膨張率の違いに起因した亀裂が筒部に発生する不具合はない。また、第1実施形態と同様に、に炭素系耐熱パイプ1の先端面も保護層15で覆われているため、炭素系耐熱パイプ1は全体として耐熱性等に優れている。
【0089】
(5).耐熱性パイプ基材の製造方法の別例
図7では、図6に示した両端開口タイプの耐熱性パイプ基材14の製造工程の例である第10実施形態を示している。この実施形態では、炭素繊維から成る糸状材42又は布状材43若しくはテープ材44を素材として耐熱性パイプ基材14を製造している。すなわち、これらの例では、耐熱性パイプ基材14は炭素繊維で両端開口の筒体に形成されており、肉厚部内に(繊維間の空隙に)フェノール樹脂を含浸させることによってパイプの形状に保形している。
【0090】
図7(A)では、炭素繊維から成る糸状材42を金属製の心材45に巻き付けて編み込み又は織り込んでいくフィラメントワイディング法を採用し、図7(B)では、炭素繊維から成る布状材43を心材45に巻き付けていくテープワイディング法を採用し、図7(C)(D)では、炭素繊維から成るテープ材44を心材45に巻き付けていくテープワイディング法を採用できる。
【0091】
いずれにしても、炭素繊維層が複層構造になっているのが好ましいが、どの程度の厚さを選択するかは、長さや外径などを考慮して設定したらよい。図7(A)のように多数本の糸状材42を編み込んでいくと、糸状材42が絡み合うため薄くても剛性は高くなると云える。テープワイディング法を採用する場合、(C)のように1本のテープ材44を斜め巻きしてもよいし、(D)に示すように、複数本のテープ材44をクロスさせながら巻き付けていってもよい。
【0092】
耐熱性パイプ基材14を製造するに当たって、パイプ形状を保持するため及び炭素繊維間の空隙を埋めるために、フェノール樹脂46を含浸させる。含浸の方法としては、a)図7(D)に例示するように、テープ材44等を心材45に巻き付けながら液状のフェノール樹脂46をスプレー等で噴霧・塗布する方法、b)糸状材42等の素材を心材45に向けて繰り出しつつ、心材45に巻き付ける前の段階で素材にフェノール樹脂46を塗布(含浸を含む)する方法、c)いったん耐熱性パイプ基材14を形成してから、これをフェノール樹脂が入れられたタンクに浸漬する方法、といった各種の方法を採用できる。
【0093】
フェノール樹脂46は熱硬化性であるが、耐熱性が高いと共に接着性にも優れるため、耐熱性パイプ基材14の保形機能に優れている。フェノール樹脂46としては、常温において液体である熱硬化性のレゾール型が好ましい。
【0094】
フェノール樹脂が含浸した耐熱性パイプ基材14を製造してから、次の工程として、加熱炉2によってフェノール樹脂を焼成して固化する第1焼成工程(予備焼成程)を行う。この第1焼成工程は、フェノール樹脂を固化して耐熱性パイプ基材14の形態を保持することが目的であるが、フェノール樹脂が焼失しない温度(例えば120~130℃)で行うことできる。
【0095】
次いで、内側シール層17及び耐熱保護層22の各層の塗布・乾燥工程、焼成工程、外側シール層21の塗布・乾燥という保護層形成工程が行われる。いうまでもないが、保護層形成工程は図6に示した蓋部材40を装着した状態で行われる。従って、耐熱性パイプ基材14を心材で保持した状態で行われる。
【0096】
蓋部材40を装着している場合、接着剤として使用しているフェノール樹脂を消失させる必要があるが、このフェノール樹脂の消失は、内側シール層17及び耐熱保護層22の焼成と兼用して行ってもよいし、保護層15の形成前に予め行ってもよい。予め行う場合は、耐熱性パイプ基材14を予備焼成して保形するに際して、予備焼成をフェノール樹脂が消失する温度(130℃よりも高い温度)で行うことにより、耐熱性パイプ基材14の焼成(保形)と同時に行ってもよい。
【0097】
或いは、耐熱性パイプ基材14を予備焼成せずに、内側シール層17と耐熱保護層22との焼成によって、耐熱性パイプ基材14に含まれていたフェノール樹脂の消失と、蓋部材40の接着に使用されたフェノール樹脂の消失とを行うことも可能である。
【0098】
ワイディング法等で両端開口の耐熱性パイプ基材14を製造した場合、先端部を絞ることによって底部を形成し、底部にシール層17,21と耐熱保護層22とを形成することも可能である。
【0099】
或いは、耐熱性パイプ基材14を両端が開口した状態で外周面に保護層15を形成してから、先端を炭素製の蓋部材で塞ぐことも可能である。この場合、図8に示すように横長姿勢(水平姿勢)で行うのが好ましい。すなわち、水平に配置した心材45の両端を受け材47で支持して、耐熱性パイプ基材14を回転させながら耐熱保護層保護層15の形成工程を行える。
【0100】
(6).第11実施形態・その他
図9では、請求項7が具体化された第11実施形態を示している。この実施形態では、保護層15は耐熱保護層22とその外面に被覆した外側シール層21とで構成されており、耐熱保護層22は、内層48と外層49との2層で構成されている。外層49は第1実施形態のシリカ・ジルコニア質層20を使用している。外側シール層21は第1実施形態と同じものを使用できる。
【0101】
内層48は、シリカを主成分としたものが好適である。シリカを主成分として、アルミナ等の他の材料を副成分として混合することも可能である。具体的には、シリカ系又はシリカ・アルミナ系の耐熱塗料を使用できる。水ガラスが添加されていてもよい。
【0102】
この内層48の特徴として、焼成によってガラス質化する点と、耐熱性パイプ基材14に対する浸透性が高い点とが挙げられる。後者の特徴により、アンカー効果によって耐熱性パイプ基材14と高い一体性を保持している。
【0103】
さて、耐熱性パイプ基材14や蓋部材40はバインダーとしてフェノール樹脂を含んでいるが、パイプ1を出荷する段階でフェノール樹脂が残っていると、パイプ1の内部は密閉されているため、炉2の操業による昇温によって樹脂成分が蒸発してパイプ1の内圧が上昇、蓋部材40が吹き飛んでしまうことがある。従って、樹脂成分は、出荷前の段階で焼成して焼失させておくべきである。しかるに、フェノール等の樹脂成分を焼失させると、耐熱性パイプ基材14や蓋部材40に無数の連続気孔が発生して、そのままではシール性が低下してしまう。
【0104】
この点、実施形態のように、内層48としてシリカ系又はシリカ・アルミナ系の素材(耐熱塗料)を使用して、耐熱性パイプ基材14や蓋部材40の樹脂成分を焼失させてから内48を形成すると、出荷前の焼成又は出荷後における炉2の昇温によって内層48が軟化することにより、パイプ基材14や蓋部材40に発生している連続気孔に、内層48の成分が浸透して高いガスバリア性を確保できる。従って、水蒸気や有害ガスがパイプ基材14を透過して内部に侵入することを防止して、熱電対8をしっかりと保護できる。
【0105】
更に、シリカ系又はシリカ・アルミナ系の内層48の特徴として、外層49との一体性に優れている点もあり、炉2の運転停止によって温度が低下しても、内外層48,49とも亀裂が入ることはない。このように両層48,49に亀裂が現れないのは、両層48,49の熱膨張率があまり違わないためと推測される。
【0106】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、耐熱性パイプ基材は押し出し成形によって作ることも可能である。或いは、粉状の炭素繊維とフェノール樹脂とを混練してうどん生地やパン生地のような粘土状中間体を作り、これを心材に巻き付けて所定の厚さに延ばしていく、といったことも可能である。
【0107】
シール層を3層以上設けることも可能であるし(例えば内側シール層と中間シール層とは外側シール層との3層)、耐熱保護層を4層以上で構成することも可能である。また、本願発明における炭素系耐熱パイプの用途は温度測定装置には限らず、各種の耐熱性製品に広く適用できる。例えば、ケーブル類の保護管としても使用できる。シール材が軟化する温度は、使用する炉の操業温度に応じて設定したらよい。
【0108】
本願発明は、炭素系耐熱パイプに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0109】
1 炭素系耐熱パイプ
2 炉(焼却炉)
3 温度測定装置
4 シース熱電対方式の温度センサ
5 温度センサを構成する保護管
6 温度センサの絶縁体
8 温度センサの測温部(接点)
9 蓋
14 耐熱性パイプ基材
14a 耐熱性パイプ基材の一体式蓋部
15 保護層
16 一体方式の蓋部
17 内側シール層
18 耐熱保護層を構成するムライト質層
19 耐熱保護層を構成するシリカ・アルミナ質層
20 耐熱保護層を構成するシリカ・ジルコニア質層
21 外側シール層
22 耐熱保護層
40 別体方式の蓋部材
48 耐熱保護層を構成する内層
49 耐熱保護層を構成する外層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9