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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031147
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ガス供給装置、及び、ガス供給方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/00 20060101AFI20240229BHJP
   G01N 27/624 20210101ALI20240229BHJP
【FI】
G01N1/00 101R
G01N27/624
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134510
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】松原 聡
(72)【発明者】
【氏名】後藤 尚志
【テーマコード(参考)】
2G041
2G052
【Fターム(参考)】
2G041CA02
2G041EA03
2G041EA05
2G041GA17
2G041GA19
2G041GA25
2G052AA32
2G052AB11
2G052AD02
2G052AD22
2G052AD42
2G052CA04
2G052CA13
2G052EB11
2G052ED06
2G052ED10
2G052ED15
2G052FD01
2G052HC28
(57)【要約】
【課題】被分析成分を含むサンプルをFAIMS装置で分析する場合に、サンプルの量が十分でないと、サンプル中の被分析成分の正確な分析ができない問題がある。
【解決手段】ガス供給装置100は、被分析ガスをイオン化して分析する分析装置10に被分析ガスを供給する。ガス供給装置100は、貯留部40と、注入部50と、を備える。貯留部40は、分析装置10における分析に必要な量の被分析ガスを貯留する。注入部50は、貯留部40に貯留される被分析ガスを分析装置10に所定の流量で注入する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被分析ガスをイオン化して分析する分析装置(10)に前記被分析ガスを供給するガス供給装置であって、
前記分析装置における分析に必要な量の前記被分析ガスを貯留する貯留部(40)と、
前記貯留部に貯留される前記被分析ガスを前記分析装置に所定の流量で注入する注入部(50)と、
を備える、
ガス供給装置(100)。
【請求項2】
前記被分析ガスを吸着及び脱着する吸着材(71)を有する吸脱着部(70)をさらに備え、
前記吸脱着部は、前記吸着材に吸着された前記被分析ガスを前記吸着材から脱着させて前記貯留部に送出し、
前記貯留部は、前記吸脱着部から送出された前記被分析ガスを貯留する、
請求項1に記載のガス供給装置。
【請求項3】
前記吸脱着部は、
前記吸着材が収納される収納部(72)と、
前記被分析ガスが吸着された前記吸着材を加熱して、前記吸着材から前記被分析ガスを脱着させる加熱部(73)と、
フローガスを前記収納部に注入して、前記吸着材から脱着した前記被分析ガスを前記貯留部に送出する送出部(74)と、
を有する、
請求項2に記載のガス供給装置。
【請求項4】
前記吸脱着部と前記貯留部との間に設けられる開閉弁(76)と、
前記開閉弁を制御する制御部(90)と、
をさらに備え、
前記制御部は、
前記被分析ガスが前記吸着材に吸着されている間、前記開閉弁を閉じ、
前記吸着材から脱着した前記被分析ガスが前記貯留部に送出されている間、前記開閉弁を開ける、
請求項3に記載のガス供給装置。
【請求項5】
前記分析装置に前記所定の流量で注入される前記被検出ガスをモニタリングするセンサ(80)をさらに備える、
請求項1から4のいずれか1項に記載のガス供給装置。
【請求項6】
被分析ガスをイオン化して分析する分析装置(10)に前記被分析ガスを供給するガス供給方法であって、
前記分析装置における分析に必要な量の前記被分析ガスを貯留部(40)に貯留する、第1ステップと、
前記貯留部に貯留される前記被分析ガスを前記分析装置に所定の流量で注入する、第2ステップと、
を備える、
ガス供給方法。
【請求項7】
前記被分析ガスを吸着及び脱着する吸着材(71)に前記被分析ガスを吸着させる、第3ステップと、
前記吸着材から前記被分析ガスを脱着させる、第4ステップと、
前記吸着材から脱着した前記被分析ガスを送出する、第5ステップと、
をさらに備え、
前記第1ステップでは、前記第5ステップで送出された前記被分析ガスを前記貯留部に貯留する、
請求項6に記載のガス供給方法。
【請求項8】
前記第5ステップで送出された後、前記第1ステップで前記貯留部に貯留される前の前記被分析ガスが流れる流路を開閉する開閉弁(76)を制御する、第6ステップをさらに備え、
前記第6ステップでは、前記第3ステップの実行中に前記開閉弁を閉じ、前記第5ステップの実行中に前記開閉弁を開ける、
請求項7に記載のガス供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ガス供給装置、及び、ガス供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イオンの移動度が低電界中と高電界中とで異なることを利用してイオンを分離及び分析する技術であるFAIMS(Field Asymmetric Ion Mobility Spectrometry)を用いる装置が知られている。特許文献1(特開2019-148514号公報)に記載されるように、FAIMS装置は、例えば、被験者の呼気に含まれる微量なガス成分を分析するために用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
被分析成分を含むサンプルをFAIMS装置で分析する場合、均一なサンプルを所定の時間FAIMS装置に供給しないと正確な分析ができないおそれがある。また、サンプルの量が十分でない場合、FAIMS装置に供給されるサンプル中の被分析成分の濃度が分析中に変動するおそれがある。また、液体のサンプルから揮発させた複数種類の被分析成分をFAIMS装置で分析する場合、被分析成分によって揮発性が異なることにより、FAIMS装置に供給されるサンプル中の各被分析成分の濃度が分析中に変動するおそれがある。そのため、被分析成分を含むサンプルをFAIMS装置で分析する場合に、サンプルの量が十分でないと、サンプル中の被分析成分の正確な分析ができない問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1観点のガス供給装置は、被分析ガスをイオン化して分析する分析装置に被分析ガスを供給する装置である。ガス供給装置は、貯留部と、注入部と、を備える。貯留部は、分析装置における分析に必要な量の被分析ガスを貯留する。注入部は、貯留部に貯留される被分析ガスを分析装置に所定の流量で注入する。
【0005】
第1観点のガス供給装置では、分析装置に供給される被分析ガスの量が十分でない場合でも、成分の濃度が一定の被分析ガスを一定の流量で分析装置に注入できるので、被分析成分の分析の精度を向上させることができる。
【0006】
第2観点のガス供給装置は、第1観点のガス供給装置であって、吸脱着部をさらに備える。吸脱着部は、被分析ガスを吸着及び脱着する吸着材を有する。吸脱着部は、吸着材に吸着された被分析ガスを吸着材から脱着させて貯留部に送出する。貯留部は、吸脱着部から送出された被分析ガスを貯留する。
【0007】
第2観点のガス供給装置では、分析装置に供給される被分析ガスの濃度が低い場合でも、吸着材に一旦吸着させた後に脱着させることにより濃縮された被分析ガスを、分析装置に供給することができる。
【0008】
第3観点のガス供給装置は、第2観点のガス供給装置であって、吸脱着部は、収納部と、加熱部と、送出部と、を有する。収納部は、吸着材が収納される。加熱部は、被分析ガスが吸着された吸着材を加熱して、吸着材から被分析ガスを脱着させる。送出部は、フローガスを収納部に注入して、吸着材から脱着した被分析ガスを貯留部に送出する。
【0009】
第3観点のガス供給装置では、吸着材によって濃縮された被分析ガスを分析装置に効率的に供給することができる。
【0010】
第4観点のガス供給装置は、第3観点のガス供給装置であって、開閉弁と、制御部と、をさらに備える。開閉弁は、吸脱着部と貯留部との間に設けられる。制御部は、開閉弁を制御する。制御部は、被分析ガスが吸着材に吸着されている間、開閉弁を閉じる。制御部は、吸着材から脱着した被分析ガスが貯留部に送出されている間、開閉弁を開ける。
【0011】
第4観点のガス供給装置では、吸着材によって濃縮される前の被分析ガスが分析装置に供給されることを抑制することができる。
【0012】
第5観点のガス供給装置は、第1乃至第4観点のいずれか1つのガス供給装置であって、分析装置に所定の流量で注入される被検出ガスをモニタリングするセンサをさらに備える。
【0013】
第5観点のガス供給装置では、分析装置に供給される被分析ガスの濃度を分析中に確認することができる。
【0014】
第6観点のガス供給方法は、被分析ガスをイオン化して分析する分析装置に被分析ガスを供給する方法である。ガス供給方法は、第1ステップと、第2ステップと、を備える。第1ステップでは、分析装置における分析に必要な量の被分析ガスを貯留部に貯留する。第2ステップでは、貯留部に貯留される被分析ガスを分析装置に所定の流量で注入する。
【0015】
第6観点のガス供給方法では、分析装置に供給される被分析ガスの量が十分でない場合でも、成分の濃度が一定の被分析ガスを一定の流量で分析装置に注入できるので、被分析成分の分析の精度を向上させることができる。
【0016】
第7観点のガス供給方法は、第6観点のガス供給方法であって、第3ステップと、第4ステップと、第5ステップと、をさらに備える。第3ステップでは、被分析ガスを吸着及び脱着する吸着材に被分析ガスを吸着させる。第4ステップでは、吸着材から被分析ガスを脱着させる。第5ステップでは、吸着材から脱着した被分析ガスを送出する。第1ステップでは、第5ステップで送出された被分析ガスを貯留部に貯留する。
【0017】
第7観点のガス供給方法では、分析装置に供給される被分析ガスの濃度が低い場合でも、吸着材に一旦吸着させた後に脱着させることにより濃縮された被分析ガスを、分析装置に供給することができる。
【0018】
第8観点のガス供給方法は、第7観点のガス供給方法であって、第6ステップをさらに備える。第6ステップでは、第5ステップで送出された後、第1ステップで貯留部に貯留される前の被分析ガスが流れる流路を開閉する開閉弁を制御する。第6ステップでは、第3ステップの実行中に開閉弁を閉じ、第5ステップの実行中に開閉弁を開ける。
【0019】
第8観点のガス供給方法では、吸着材によって濃縮される前の被分析ガスが分析装置に供給されることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態のガス供給装置100の概略構成図である。
図2】分析装置10の概略構成図である。
図3】イオンの電界強度依存性の一例を示すグラフである。
図4】電界空間16で発生する電界波形の一例を示すグラフである。
図5】ガス供給装置100の制御ブロック図である。
図6】ガス供給装置100を用いる分析方法のフローチャートである。
図7】ガス供給装置100を用いて、被分析ガスを3回連側測定した場合における、FAIMSプロファイルの断面曲線の一例である。
図8】比較例としての、被分析ガスを3回連側測定した場合における、FAIMSプロファイルの断面曲線の一例である。
図9】第2実施形態のガス供給装置200の概略構成図である。
図10】ガス供給装置200の制御ブロック図である。
図11】ガス供給装置200を用いる分析方法のフローチャートである。
図12】変形例Aのガス供給装置100の概略構成図である。
図13】変形例Bのイオンフィルタ112の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
(1)全体構成
図1に示されるように、ガス供給装置100は、主として、供給部20と、貯留部40と、注入部50と、MFC(Mass Flow Controller)60と、制御部90と、を備える。ガス供給装置100は、分析装置10に被分析ガスを供給する。
【0022】
(1-1)分析装置10
分析装置10は、FAIMS(Field Asymmetric Ion Mobility Spectrometry)を用いて被分析ガスをイオン化して、被分析ガスを分析する。FAIMSは、イオンの移動度が低電界中と高電界中とで異なることを利用してイオンを分離及び分析する技術である。被分析ガスは、VOC(Volatile Organic Compounds)を含むガスである。VOCは、例えば、人の呼気又は尿に含まれる物質である。
【0023】
分析装置10の基本的な構成及び動作原理について説明する。図2に示されるように、分析装置10は、主として、イオン化部11と、イオンフィルタ12と、イオン検出電極13と、を備える。イオンフィルタ12は、第1電極14と、第2電極15と、を有する。第1電極14及び第2電極15は、所定の間隔を空けて互いに平行になるように配置される一対の平板である。第1電極14及び第2電極15は、導電体から成形される。イオン化部11及びイオン検出電極13は、第1電極14と第2電極15との間の電界空間16を挟むように配置される。電界空間16は、第1電極14及び第2電極15によって電界が発生する空間である。電界空間16の電界強度は制御可能である。
【0024】
イオン化部11は、分析装置10に供給された被分析ガスの分子をイオン化する。イオン化部11は、例えば、直流コロナ放電によって被分析ガスの分子を電離して、被分析ガスの正イオン又は負イオンを生成する。イオン化部11でイオン化された被分析ガスは、キャリアガスを用いて、イオンフィルタ12の電界空間16に導入される。電界空間16において、イオン化された被分析ガスは、イオン化部11からイオン検出電極13に向かって流れる。イオン化された被分析ガスのうち電界空間16を通過した被分析ガスは、イオン検出電極13に衝突する。このとき、イオン検出電極13に衝突したイオン化された被分析ガスの量に応じて、電流(イオン電流)が発生する。イオン電流は、イオン電流検出回路(図示せず)によって検出される。
【0025】
電界空間16では、イオン化された被分析ガス(以下、単に「イオン」と呼ぶ。)は、次の式(1)で示される移動速度Vで移動する。
V=K×E ・・・(1)
【0026】
式(1)中、Eは、電界空間16の電界強度であり、Kは、イオンの移動度である。イオンの移動度には、イオンの種類によって異なる電界強度依存性がある。図3には、一例として、3種類のイオン(イオンA、イオンB及びイオンC)の電界強度依存性が示されている。図3では、イオンA、イオンB及びイオンCの移動度が電界強度ゼロで等しくなるように正規化されている。図2には、イオンA、イオンB及びイオンCの移動の軌跡が示されている。
【0027】
図3において、イオンA、イオンB及びイオンCの移動度は、電界強度が10kV/cm以下の低電界強度ではほぼ一定である。イオンAの移動度は、電界強度が10kV/cmから増加するに従って増加する。イオンBの移動度は、電界強度が10kV/cmから増加してもほぼ一定である。イオンCの移動度は、電界強度が10kV/cmから増加するに従って減少する。そのため、イオンA、イオンB及びイオンCの移動度は、電界強度が15kV/cm以上の高電界強度では互いに異なっている。図3には、低電界強度Vlow及び高電界強度Vhighの一例が示されている。
【0028】
分析装置10は、次に説明するように、低電界強度Vlowでの移動度と高電界強度Vhighでの移動度との差を利用してイオンの選別を行う。
【0029】
図4に示されるように、電界空間16で発生する電界波形は、正の高電界強度Vhighと、負の低電界強度Vlowとを交互に繰り返している。高電界強度Vhighの期間tは、低電界強度Vlowの期間tよりも短い。電界波形は、電界強度ゼロの軸に対して非対称である。電界波形は、電界の時間平均がゼロである。言い換えると、電界波形は、次の式(2)を満たすように設定される。
|Vhigh|×t=|Vlow|×t ・・・(2)
【0030】
式(2)は、図4において、領域R1の面積と領域R2の面積とが一致することを意味する。
【0031】
図4に示される電界波形が電界空間16で発生している場合、電界空間16を通過するイオンの移動経路は、図2に示される3種類のイオン(イオンA、イオンB及びイオンC)の移動経路に分類される。イオンAは、ジグザグ運動を繰り返しながら次第に第1電極14に向かう移動経路を取る。イオンBは、ジグザグ運動を繰り返しながら平均的には第1電極14及び第2電極15と平行に移動してイオン検出電極13に向かう移動経路を取る。イオンCは、ジグザグ運動を繰り返しながら次第に第2電極15に向かう移動経路を取る。イオンAは、電界空間16を通過する前に第1電極14に衝突する。イオンBは、電界空間16を通過してイオン検出電極13に衝突する。イオンCは、電界空間16を通過する前に第2電極15に衝突する。
【0032】
分析装置10は、移動度の電界強度依存性が異なる種々のイオンを検出する方法として、図4に示される電界波形に低強度の補償電圧を印加する方法を用いる。補償電圧は、第1電極14と第2電極15との間に印加される直流電圧である。補償電圧は、図2において第1電極14と衝突するイオンA、及び、第2電極15と衝突するイオンCの移動経路を、第1電極14又は第2電極15に衝突せずイオン検出電極13に衝突する移動経路に修正するために印加される。分析装置10は、補償電圧を変化させることで、第1電極14又は第2電極15に衝突せずにイオン検出電極13に衝突することができるイオンを選択的に変えることができる。従って、分析装置10は、補償電圧を変化させることで、移動度が特定の電界強度依存性を有するイオンに起因するイオン電流を選択的に検出することができる。
【0033】
分析装置10は、高電界強度Vhighと低電界強度Vlowとの差である分散電圧、及び、補償電圧を様々な値で組み合わせた条件でイオン電流を検出することで、種々のイオンの存在及び量を分析することができる。キャリアガス中に複数種類のイオンが存在する場合、分析装置10は、分散電圧を一定にして、補償電圧を所定の範囲内で走査することで、移動度の電界強度依存性に応じて分離されたイオンに起因するイオン電流値を得ることができる。分析装置10は、さらに、分散電圧を所定の範囲内で走査することで、イオン電流値の二次元データであるFAIMSプロファイルを得ることができる。FAIMSプロファイルの縦軸は、分散電圧である。FAIMSプロファイルの横軸は、補償電圧である。
【0034】
(1-2)供給部20
供給部20は、被分析ガスを貯留部40に供給する。図1に示されるように、供給部20は、主として、バブリング装置21と、冷却器22と、第1弁23と、第2弁24と、第3弁25と、第1配管26と、第2配管27と、第3配管28と、を備える。第1弁23は、第1配管26に設けられる。第2弁24は、第2配管27に設けられる。第3弁25は、第3配管28に設けられる。第1弁23、第2弁24及び第3弁25は、電動弁である。
【0035】
供給部20は、液体サンプルから発生させた気体を被分析ガスとして供給するか、又は、気体サンプルをそのまま被分析ガスとして供給する。液体サンプルは、例えば、人の尿である。気体サンプルは、例えば、人の呼気である。
【0036】
バブリング装置21は、サンプル管に貯留されている液体サンプルを加熱し、加熱した液体サンプルにフローガスを吹き込んで、液体サンプルに溶け込んでいるVOCを液体サンプルから放出させる。フローガスは、例えば、加熱したドライエアである。バブリング装置21は、例えば、液体サンプルが貯留されるサンプル管を60℃の湯に浸すことで、液体サンプルを60℃に加熱する。バブリング装置21は、例えば、60℃の湯に浸されたステンレス管にドライエアを通すことで、ドライエアを60℃に加熱する。バブリング装置21は、液体サンプルから放出させたVOCを含む気体を、被分析ガスとして、第1配管26に供給する。冷却器22は、第1配管26を流れる被分析ガスを冷却して、被分析ガスに含まれる水分を除去する。冷却器22は、設置されていなくてもよい。第1配管26を通過した被分析ガスは、第3配管28を流れて、貯留部40に供給される。
【0037】
気体サンプルは、第2配管27に供給される。第2配管27を通過した被分析ガスは、第3配管28を流れて、貯留部40に供給される。
【0038】
供給部20が被分析ガスを貯留部40に供給している間、第3弁25は開状態にある。液体サンプルから発生させた気体を被分析ガスとして供給部20が供給する場合、第1弁23は開状態にあり、第2弁24は閉状態にある。気体サンプルを被分析ガスとして供給部20が供給する場合、第1弁23は閉状態にあり、第2弁24は開状態にある。
【0039】
供給部20は、液体サンプルから発生させた気体のみを被分析ガスとして供給する場合、第2弁24及び第2配管27を備えなくてもよい。供給部20は、気体サンプルのみを被分析ガスとして供給する場合、バブリング装置21、冷却器22、第1弁23及び第1配管26を備えなくてもよい。
【0040】
(1-3)貯留部40
貯留部40は、分析装置10における分析に必要な量の被分析ガスを貯留する。貯留部40は、主として、貯留容器41と、第4弁42と、第4配管43と、を備える。第4弁42は、第4配管43に設けられる。第4弁42は、電動弁である。
【0041】
貯留容器41は、供給部20から供給される被分析ガスを貯留するための貯留空間41aを内部に有する。貯留容器41には、貯留空間41aと接続するように、第3配管28及び第4配管43が取り付けられている。供給部20から供給される被分析ガスは、第3配管28を通過して、貯留部40の貯留空間41aに流入して、貯留空間41aに貯留される。貯留空間41aに貯留されている被分析ガスは、注入部50によって第4配管43に供給され、第4配管43を通過して、分析装置10に注入される。
【0042】
供給部20から貯留部40に被分析ガスが供給されている間、第3弁25は開状態にあり、第4弁42は閉状態にある。貯留部40から分析装置10に被分析ガスが注入されている間、第3弁25は閉状態にあり、第4弁42は開状態にある。
【0043】
(1-4)注入部50
注入部50は、貯留部40に貯留されている被分析ガスを分析装置10に所定の流量で注入する。注入部50は、例えば、貯留部40と共に空圧式又は機械式のピストンを構成する部材である。この場合、図1に示されるように、貯留容器41は、シリンダチューブとして機能し、注入部50は、ピストンロッドとして機能する。所定の方向に注入部50を移動させることで、貯留空間41aの容積が変化する。供給部20から貯留部40に被分析ガスが供給されている間、貯留空間41aの容積が増加するように注入部50が移動する。貯留部40から分析装置10に被分析ガスが注入されている間、貯留空間41aの容積が減少するように注入部50が移動する。
【0044】
(1-5)MFC60
MFC60は、メイクアップガスを所定の流量で第4配管43に供給するための装置である。メイクアップガスは、第4弁42と分析装置10との間において、被分析ガスが流れている第4配管43に供給される。MFC60は、第4配管43に供給されるメイクアップガスの流量を制御する機能を有する。貯留部40から供給されて第4配管43を通過する被分析ガスは、メイクアップガスと混合されて、分析装置10に注入される。メイクアップガスは、例えば、ドライエアである。
【0045】
(1-6)制御部90
制御部90は、ガス供給装置100の動作を制御するためのコンピュータである。図5に示されるように、制御部90は、第1弁23、第2弁24、第3弁25、第4弁42、注入部50及びMFC60を制御する。制御部90は、第1弁23、第2弁24、第3弁25及び第4弁42の開閉状態を切り替える。制御部90は、注入部50の位置を制御して、貯留部40に貯留されている被分析ガスを分析装置10に注入する。制御部90は、MFC60を制御して、第4配管43に供給されるメイクアップガスの流量を調整する。
【0046】
(2)分析方法
図6に示されるフローチャートに沿って、ガス供給装置100を用いて、液体サンプルから発生させた被分析ガスを分析装置10に供給する方法について、具体例を挙げながら説明する。
【0047】
ステップS11では、液体サンプルから被分析ガスを発生させる。具体的には、供給部20のバブリング装置21の洗浄済みのサンプル管に、液体サンプル5ccを入れる。その後、100ml/分の流量でフローガスをサンプル管中の液体サンプルに60秒間吹き込んで、バブリングを行う。液体サンプルは、人の尿である。フローガスは、60℃のドライエアである。
【0048】
ステップS12では、被分析ガスを貯留部40に貯留する。具体的には、ステップS11の開始と同時に、制御部90は、第1弁23及び第3弁25を開状態にし、第2弁24及び第4弁42を閉状態にする。これにより、バブリング装置21で液体サンプルから放出された被分析ガスは、貯留部40の貯留空間41aに流入して蓄積される。貯留空間41aに被分析ガスが蓄積されるにつれて、貯留空間41aの容積が増加するように注入部50が移動する。貯留部40に所定の量の被分析ガスが蓄積された後、制御部90は、第3弁25を閉状態にする。所定の量は、少なくとも、分析装置10における分析に必要な量である。所定の量は、例えば、100mlである。
【0049】
ステップS13では、被分析ガスを分析装置10に注入する。具体的には、ステップS12で第3弁25が閉状態になった後、制御部90は、第4弁42を開状態にして、同時に、貯留空間41aの容積が減少するように注入部50を移動させる。このとき、制御部90は、貯留部40に蓄積されている被分析ガスが所定の流量で所定の期間、分析装置10に注入されるように、注入部50の位置を制御する。被分析ガスの流量は、例えば、10ml/分に設定される。所定の期間は、例えば、3分間に設定される。この場合、ステップS13で分析装置10に注入される被分析ガスの量は、30mlである。
【0050】
ステップS14では、メイクアップガスを被分析ガスに混合させる。具体的には、制御部90は、MFC60を制御して、メイクアップガスを所定の流量で第4配管43に供給して、分析装置10に注入される前の被分析ガスと、メイクアップガスとを混合する。メイクアップガスの流量は、被分析ガスとメイクアップガスとの混合ガスの流量が所定の値になるように設定される。例えば、被分析ガスの流量が10ml/分に設定され、混合ガスの流量が2500ml/分に設定されている場合、メイクアップガスの流量は、2490ml/分に設定される。被分析ガスが分析装置10に注入される期間が3分間である場合、使用されるメイクアップガスの量は、7470mlである。
【0051】
ステップS15では、分析装置10が被分析ガスを分析する。具体的には、分析装置10は、FAIMSを用いて、ステップS14でメイクアップガスと混合された被分析ガスをイオン化して、被分析ガスを分析する。分析装置10は、被分析ガスに含まれるイオン化されたVOCを、イオンの移動度の電界強度依存性によって分離したFAIMSプロファイルを出力する。分析装置10は、例えば、Owlstone社製Lonestarである。
【0052】
FAIMSプロファイルは、図4に示される電界波形の分散電圧、及び、補償電圧の両方を変化させた場合におけるイオン電流の検出値を含む二次元データである。分析装置10は、例えば、分散電圧を0V~250Vの範囲で5Vごとに変化させ、補償電圧を-6V~+6Vの範囲で約0.023Vごとに変化させて、51の分散電圧、及び、512の補償電圧のそれぞれの組み合わせにおけるイオン電流の検出値を取得する。この場合、FAIMSプロファイルは、51プロット×512プロットの二次元データである。分析装置10は、FAIMSプロファイルのデータを多変量解析等の手法を用いて分析して、イオン化された被分析ガスの種類を同定する。
【0053】
ガス供給装置100は、ステップS13~S15の一連の分析工程を所定の回数繰り返す。所定の回数は、例えば、3回である。この場合、ガス供給装置100は、一回の分析工程で、貯留部40に貯留されている100mlの被分析ガスの内の30mlを、10ml/分の流量で分析装置10に3分間注入する。
【0054】
ステップS16では、実行した分析工程の回数が所定の回数以上であるか否かが判定される。制御部90は、実行した分析工程の回数が所定の回数以上である場合、ガス供給装置100の処理を終了し、所定の回数未満である場合、ステップS13に移行して分析工程を再度実行する。
【0055】
(3)特徴
ガス供給装置100は、供給部20から供給される被分析ガスを貯留部40に一時的に貯留し、貯留部40に貯留されている被分析ガスを所定の流量で分析装置10に注入する。貯留部40に一時的に貯留される被分析ガスは、被分析ガスに含まれる被分析成分(VOC)の濃度が一定の均一なガスである。ガス供給装置100は、注入部50の位置を制御することで、貯留部40に貯留されている被分析ガスを一定の流量で分析装置10に注入することができる。
【0056】
そのため、ガス供給装置100は、成分の濃度が一定の被分析ガスを一定の流量で分析装置10に注入できるので、分析装置10に供給される被分析ガスの量が十分でない場合でも、被分析成分の分析の精度を向上させることができる。
【0057】
また、ガス供給装置100は、貯留部40に貯留されている均一な被分析ガスを、所定の量ずつ複数回、分析装置10で分析することができる。そのため、貯留部40に貯留されている被分析ガスを分析装置10が複数回分析した場合、分析装置10が各分析の実行時に出力するFAIMSプロファイルは、図7に示されるように、ほぼ同一となる。図7には、貯留部40に貯留されている被分析ガスを分析装置10が3回分析した場合において、1~3回目の分析結果であるイオン電流の検出データが示されている。図7に示されるデータは、所定の分散電圧において、補償電圧を所定の範囲(-6V~+6V)内で変化させた場合における、FAIMSプロファイルの断面曲線の一例である。図7に示されている、1~3回目の分析時のFAIMSプロファイルの断面曲線は、イオン電流のピークの位置及び高さがほぼ同一であり、互いに重なっているように見える。そのため、ガス供給装置100を用いて被分析ガスを複数回分析した場合における、FAIMSプロファイルの再現性は高い。
【0058】
比較例として、図8には、貯留部40及び注入部50を用いない従来の構成における、図7と同様のFAIMSプロファイルの断面曲線の一例が示されている。図8の場合、供給部20から供給される被分析ガスは、直接、分析装置10に注入される。図8には、供給部20から供給される被分析ガスを分析装置10が3回分析した場合において、1~3回目の分析結果であるイオン電流の検出データが示されている。この場合、被分析ガスに含まれる複数種類の被分析成分(VOC)のうち、低温で揮発するVOCのほとんどは、1回目の分析時に分析装置10に注入される。そのため、2回目以降の分析時に分析装置10に注入される被分析ガスは、低温で揮発するVOCをほとんど含まない。その結果、図8に示されるように、1回目の分析時のFAIMSプロファイルの断面曲線は、2回目以降の分析時のFAIMSプロファイルの断面曲線とは、位置及び高さが異なるピークを有する。また、分析装置10に注入される被分析ガスは、被分析成分の濃度が均一でないおそれがある。従って、図8に示されるように、分析装置10が各分析工程の実行時に出力するFAIMSプロファイルが互いに異なる可能性がある。そのため、被分析ガスを複数回分析した場合における、FAIMSプロファイルの再現性が低くなる問題が生じやすい。
【0059】
以上より、ガス供給装置100は、成分の濃度が一定の被分析ガスを分析装置10に複数回注入できるので、分析装置10に供給される被分析ガスの量が十分でない場合でも、被分析成分の分析の再現性を向上させることができる。
【0060】
<第2実施形態>
本実施形態のガス供給装置200の基本的な構成及び動作は、第1実施形態のガス供給装置100と同じである。以下、本実施形態のガス供給装置200と、第1実施形態のガス供給装置100との相違点を中心に説明する。図9では、第1実施形態と同じ構成要素には同じ参照番号が付されている。
【0061】
(1)全体構成
図9に示されるように、ガス供給装置200は、吸脱着部70をさらに備える。吸脱着部70は、供給部20と貯留部40との間に設けられている。吸脱着部70は、被分析ガスを吸着及び脱着する吸着材71を有する。吸着材71は、例えば、活性炭、シリカゲル、又は、多孔質ポリマーである。多孔質ポリマーは、例えば、Tenax(登録商標)-TAである。この場合、多孔質ポリマーの使用量は、40mgである。
【0062】
吸脱着部70は、供給部20から供給された被分析ガスを吸着材71に吸着させ、吸着材71に吸着された被分析ガスを吸着材71から脱着させて貯留部40に送出する。貯留部40は、吸脱着部70から送出された被分析ガスを貯留する。
【0063】
吸脱着部70は、主として、収納部72と、加熱部73と、送出部74と、第5配管75と、第5弁76と、第6配管77と、第6弁78と、フローガス供給源79と、第7配管81と、第7弁82と、を有する。第5弁76は、第5配管75に設けられる。第6弁78は、第6配管77に設けられる。第7弁82は、第7配管81に設けられる。第5弁76は、吸脱着部70と貯留部40との間に設けられる。貯留部40には、貯留空間41aと接続するように、第5配管75が取り付けられている。
【0064】
収納部72は、吸着材71が収納される容器である。収納部72は、供給部20から供給される被分析ガスが吸着材71に吸着及び脱着される第1吸脱着空間72a及び第2吸脱着空間72bを内部に有する。収納部72には、第1吸脱着空間72aと接続するように、第3配管28及び第6配管77が取り付けられている。収納部72には、第2吸脱着空間72bと接続するように、第5配管75及び第7配管81が取り付けられている。供給部20から供給される被分析ガスは、第3配管28を通過して、吸脱着部70の第1吸脱着空間72aに流入して、吸着材71に吸着して濃縮される。被分析ガスは、所定の流量で、かつ、吸着材71によって濃縮される比率に応じて設定された時間(例えば120秒)、第1吸脱着空間72aに流入する。被分析ガスが吸着材71に吸着されている間、吸着材71を通過して第2吸脱着空間72bに流入した被分析ガスは、第7配管81を通過して排出される。この時、第7弁82は、開状態にある。
【0065】
加熱部73は、被分析ガスが吸着された吸着材71を加熱して、吸着材71から被分析ガスを脱着させる。図9に示されるように、加熱部73は、例えば、収納部72の周囲に設置されるヒータである。この場合、ヒータは、吸着材71を所定の温度に加熱して、吸着材71から被分析ガスを脱着させる。
【0066】
送出部74は、フローガスを収納部72に注入して、吸着材71から脱着した被分析ガスを貯留部40に送出する。送出部74は、収納部72の第1吸脱着空間72aにフローガスを供給するための機構である。フローガスは、例えば、ドライエアである。
【0067】
送出部74は、加熱部73によって加熱されて吸着材71から脱着した被分析ガスをフローガスで第2吸脱着空間72bから第5配管75に供給する。図9に示されるように、送出部74は、第6配管77と、第6弁78と、フローガス供給源79と、第5配管75と、第5弁76と、から構成される。フローガス供給源79は、第6配管77に接続され、第6配管77を介してフローガスを第1吸脱着空間72aに供給する。これにより、吸着材71から脱着した被分析ガスは、第2吸脱着空間72bに押し出される。第2吸脱着空間72bから第5配管75に流入した被分析ガスは、第5配管75を通過して、貯留部40に供給される。第5配管75には、吸脱着部70から送出された後、貯留部40に貯留される前の被分析ガスが流れる。
【0068】
供給部20から吸脱着部70に被分析ガスが供給されている間、第3弁25及び第7弁82は開状態にあり、第5弁76及び第6弁78は閉状態にある。吸脱着部70から貯留部40に被分析ガスが供給されている間、第3弁25及び第7弁82は閉状態にあり、第5弁76及び第6弁78は開状態にある。
【0069】
第7配管81は、ガス供給装置200が被分析ガスを分析装置10に供給する前に、第1吸脱着空間72a及び第2吸脱着空間72bに存在する被分析ガスなどのコンタミネーションを収納部72から排出するために使用される。第7配管81は、例えば、収納部72の第1吸脱着空間72a及び第2吸脱着空間72bから気体を排出するための吸気ポンプに接続される。
【0070】
図10に示されるように、制御部90は、第5弁76、第6弁78、第7弁82及びフローガス供給源79をさらに制御する。制御部90は、第5弁76、第6弁78及び第7弁82の開閉状態を切り替える。制御部90は、フローガス供給源79を制御して、フローガス供給源79から第1吸脱着空間72aに供給されるフローガスの流量を調整する。
【0071】
(2)分析方法
図11に示されるフローチャートに沿って、ガス供給装置200を用いて、液体サンプルから発生させた被分析ガスを分析装置10に供給する方法について、図6のフローチャートとの相違点を中心に説明する。
【0072】
ステップS21は、図6のステップS11と同じである。
【0073】
ステップS22では、吸着材71に被分析ガスを吸着させる。具体的には、ステップS21の開始と同時に、制御部90は、第1弁23、第3弁25及び第7弁82を開状態にし、第2弁24、第5弁76及び第6弁78を閉状態にする。これにより、バブリング装置21で液体サンプルから放出された被分析ガスは、吸脱着部70の第1吸脱着空間72aに流入して、吸着材71に吸着される。この時、吸着材71に吸着済みの被分析ガスが、第7配管81から排出される。吸着材71に所定の量の被分析ガスが吸着された後、制御部90は、第1弁23、第3弁25及び第7弁82を閉状態にする。これにより、分析対象の被分析ガスの全量は、吸着材71に吸着される。
【0074】
ステップS23では、吸着材71から被分析ガスを脱着させる。具体的には、制御部90は、加熱部73を制御して、吸着材71を加熱する。吸着材71の温度が所定値に達すると、吸着材71に吸着された被分析ガスが吸着材71から脱着する。
【0075】
ステップS24では、吸着材71から脱着した被分析ガスを送出する。ステップS24は、ステップS23と同時に開始される。具体的には、加熱部73によって吸着材71の温度が所定値に達した時、制御部90は、第5弁76及び第6弁78を開状態にする。その後、制御部90は、加熱部73及び送出部74を制御して、吸着材71を加熱しながら、収納部72の第1吸脱着空間72aにフローガスを送出する。第1吸脱着空間72aにフローガスが送出されることで、フローガスと共に被分析ガスが第2吸脱着空間72bに押し出される。これにより、吸着材71から脱着した被分析ガスは、第2吸脱着空間72bから第5配管75に送出される。制御部90は、ステップS22の実行中に第5弁76を閉状態にし、ステップS23~S24の実行中に第5弁76を開状態にする。
【0076】
ステップS25では、吸脱着部70から送出された被分析ガスを貯留部40に貯留する。具体的には、ステップS23~S24の開始と同時に、制御部90は、第4弁42を閉状態にする。これにより、吸脱着部70から送出された被分析ガスは、貯留部40の貯留空間41aに流入して蓄積される。貯留空間41aに被分析ガスが蓄積されるにつれて、貯留空間41aの容積が増加するように注入部50が移動する。貯留部40に所定の量の被分析ガスが蓄積された後、制御部90は、第5弁76を閉状態にする。
【0077】
ステップS26~S29は、それぞれ、図6のステップS13~16と同じである。
【0078】
ステップS25が終了した後、収納部72の内部に存在するガスを収納部72から排出するパージ処理が実行されてもよい。具体的には、最初に、制御部90は、第7弁82を開状態にする。次に、制御部90は、加熱部73及び送出部74を制御して、吸着材71を270℃に加熱しながら、収納部72の第1吸脱着空間72aにフローガスを送出する。吸着材71の加熱により、吸着材71に吸着されている実質的に全ての物質が脱着される。フローガスの送出により、第1吸脱着空間72a及び第2吸脱着空間72bに存在するガス、及び、吸着材71から脱着したガスは、第7配管81を通して排出される。排出後、制御部90は、第7弁82を閉状態にする。その後、収納部72は、冷却ファンなどによって冷却されてもよい。
【0079】
(3)特徴
ガス供給装置200は、吸脱着部70において被分析ガスを吸着材71に吸着させた後、吸着材71から被分析ガスを脱着させて、貯留部40に送出する。これにより、ガス供給装置200は、供給部20から供給される被分析ガスの濃度が低い場合でも、吸着材71に一旦吸着させた後に脱着させることにより濃縮された被分析ガスを、分析装置10に供給することができる。
【0080】
また、ガス供給装置200では、制御部90は、被分析ガスが吸着材71に吸着されている間、第5弁76を閉じ、吸着材71から脱着した被分析ガスが貯留部40に送出されている間、第5弁76を開ける。これにより、ガス供給装置200は、吸着材71によって濃縮される前の被分析ガスが貯留部40に貯留されて分析装置10に注入されることを抑制することができる。
【0081】
<変形例>
(1)変形例A
第1実施形態のガス供給装置100、及び、第2実施形態のガス供給装置200は、分析装置10に所定の流量で注入される被検出ガスをモニタリングするセンサ80をさらに備えてもよい。図12には、センサ80を備えるガス供給装置200の構成が示されている。
【0082】
図12に示されるように、センサ80は、第4配管43において、第4弁42とMFC60との間に取り付けられる。センサ80は、第4配管43を流れる被分析ガスの濃度を検出する。センサ80は、分析装置10に注入される直前の被分析ガスの濃度を、分析装置10による分析中に確認するために用いられる。センサ80は、例えば、フィガロ技研株式会社製の半導体センサTGS2602である。
【0083】
ガス供給装置100及びガス供給装置200は、分析装置10が被分析ガスを分析している間に、分析対象の被分析ガスの濃度の変化を検出して、被分析ガスの濃度の安定性を確認することができる。従って、ガス供給装置100及びガス供給装置200の使用者は、供給部20、貯留部40及び吸脱着部70に異常が発生しても、異常に効率的に対応することができる。
【0084】
(2)変形例B
第1実施形態のガス供給装置100、及び、第2実施形態のガス供給装置200では、イオンフィルタ12の第1電極14及び第2電極15は、一対の平板である。しかし、第1電極14及び第2電極15は、2つの円筒形状の電極から構成されてもよい。
【0085】
図13(a)は、円筒形状の第1電極114及び第2電極115を備えるイオンフィルタ112の断面模式図である。図13(b)は、円筒形状の軸方向に沿って見た場合のイオンフィルタ112の模式図である。第1電極114は、中空の円筒形状の電極である。第2電極115は、第1電極114の内側に同軸に配置される、中実の円筒形状の電極である。この場合、第2電極115の外側、かつ、第1電極114の内側の空間は、第1電極114及び第2電極115によって電界が発生する電界空間116である。被分析ガスは、キャリアガスと共に電界空間116に導入される。
【0086】
イオンフィルタ112の第2電極115は、中空の円筒電極であってもよい。この場合、第2電極115は、第2電極115の内側の空間と、第2電極115の外側の電界空間116とを連通するスリットを有する。キャリアガスは、第2電極115の外側の電界空間116に導入される。被分析ガスは、第2電極115の内側の空間に導入され、第2電極115のスリットを通過して電界空間116に流入する。
【0087】
(3)変形例C
第2実施形態において、図11に示される一連の処理を開始する前に、収納部72の内部に存在するガスを収納部72から排出する前処理をさらに行ってもよい。前処理は、例えば、ステップS21の前に行われる。前処理は、ステップS25の終了後に実行されるパージ処理と同じ処理であってもよい。前処理は、複数回行われてもよい。
【0088】
(4)変形例D
第2実施形態のガス供給装置200は、吸着材71を加熱して吸着材71から被分析ガスを脱着させるための加熱部73を有する。しかし、ガス供給装置200は、加熱部73を有する代わりに、送出部74を用いて吸着材71を加熱して吸着材71から被分析ガスを脱着させてもよい。例えば、送出部74は、高温のフローガスを第1吸脱着空間72aに送出することで吸着材71を加熱して、吸着材71から被分析ガスを脱着させてもよい。
【0089】
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0090】
10 :分析装置
40 :貯留部
50 :注入部
70 :吸脱着部
71 :吸着材
72 :収納部
73 :加熱部
74 :送出部
76 :第5弁(開閉弁)
90 :制御部
80 :センサ
100 :ガス供給装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0091】
【特許文献1】特開2019-148514号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13