(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031196
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240229BHJP
B41J 29/377 20060101ALI20240229BHJP
B41J 29/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B41J2/01 125
B41J2/01 301
B41J29/377 103
B41J29/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134607
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】筒井 雄基
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】清水 潤一
(72)【発明者】
【氏名】松川 大輝
【テーマコード(参考)】
2C056
2C061
【Fターム(参考)】
2C056FA03
2C056FA04
2C056HA46
2C056HA58
2C061AQ05
2C061AS06
2C061BB02
2C061BB35
2C061CD13
2C061CN02
2C061CN08
(57)【要約】
【課題】基材に付着させたインクを加熱して乾燥させる印刷装置において、ユーザーが触れる可能性のある筐体表面の温度上昇を効果的に抑制する。
【解決手段】本発明に係る印刷装置は、基材を搬送する搬送部と、搬送される基材にインクを付着させて印刷を行う印刷部と、基材に付着したインクを加熱して乾燥させる乾燥部と、これらの周囲を覆ってこれらを一体的に内部空間に収容する筐体とを備える。筐体の側面のうちの一部が、筐体の外面をなす外板と、外板よりも内部空間側に設けられた内板とが所定の間隙を隔てて対向配置された二重構造となっており、外板と内板との間の間隙空間は実質的に内部空間と隔離され、間隙空間の下端部が筐体の外側の外部空間と連通し、間隙空間の上端部が外部空間または内部空間と連通する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を搬送する搬送部と、
搬送される前記基材にインクを付着させて印刷を行う印刷部と、
前記基材に付着した前記インクを加熱して乾燥させる乾燥部と、
前記搬送部、前記印刷部および前記乾燥部の周囲を覆ってこれらを一体的に内部空間に収容する筐体と
を備え、
前記筐体の側面のうちの一部が、前記筐体の外面をなす外板と、前記外板よりも前記内部空間側に設けられた内板とが所定の間隙を隔てて対向配置された二重構造となっており、前記外板と前記内板との間の間隙空間は実質的に前記内部空間と隔離され、
前記間隙空間の下端部が前記筐体の外側の外部空間と連通し、前記間隙空間の上端部が前記外部空間または前記内部空間と連通する、印刷装置。
【請求項2】
前記間隙空間の上端部が前記乾燥部よりも高い位置で前記外部空間または前記内部空間と連通する、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記外板の下端部に設けられた開口を介して、前記間隙空間が前記外部空間と連通する、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記筐体に、前記内部空間に外気を取り入れる吸気部と、前記内部空間内の空気を外部へ排出する排気部とが設けられ、
前記間隙空間の上端部は前記内部空間と連通し、前記排気部による排気量が前記吸気部による吸気量よりも大きい、請求項1ないし3のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項5】
前記吸気部は、前記筐体の側面のうち前記二重構造となった面とは反対側の面に設けられた開口から外気を取り入れ、
前記排気部は、前記筐体の上面に設けられた開口から空気を排出する、請求項4に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記筐体内で前記乾燥部の周囲を取り囲む遮熱カバーと、前記遮熱カバー内の空気を前記筐体の外部へ強制排気する強制排気部とを備える、請求項1ないし3のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項7】
前記外板と前記内板とが、前記外板および前記内板よりも熱伝導率の低い材料で形成された部材を介して結合されている、請求項1ないし3のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項8】
前記外板および前記内板の少なくとも一方が、横方向における端部が他方側に向けて折り曲げられることで、前記間隙空間を前記内部空間から隔離する、請求項1ないし3のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項9】
前記外板側から前記乾燥部側に見た側面視において、前記内板が前記乾燥部の全体を遮蔽する、請求項1ないし3のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項10】
前記筐体の側面の一部が開閉自在の扉となっており、前記扉が前記二重構造となっている、請求項1ないし3のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項11】
前記筐体の側面の一部にユーザーインターフェース部が設けられ、該ユーザーインターフェース部が設けられた面が前記二重構造となっている、請求項1ないし3のいずれかに記載の印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基材にインクを付着させ、それを加熱することでインクを乾燥させて印刷を行う印刷装置に関するものである。特に、筐体内で発生する熱への対策に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを用いて基材に印刷を行う印刷装置においては、インクを付着させた基材を加熱することでインクの乾燥を促進させるものがある。例えば特許文献1に記載の印刷装置は、長尺の印刷媒体を基材として印刷を行う装置であり、印刷媒体をその長手方向に搬送しながらインクジェット方式により表面にインクを付着させる。インク付着後の印刷媒体が加熱されたドラムに巻き付けられることで印刷媒体が加熱され、これによりインクの乾燥が促進される。また、特許文献2に記載の印刷装置では、インク付着後の印刷媒体表面に向けてカーボンヒーターから赤外線が照射されることでインクが加熱され、これにより乾燥が促進される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-152037号公報
【特許文献2】特開2022-037537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
印刷媒体となる基材の大型化への対応や印刷処理速度を向上させることを考えたとき、乾燥に要する時間を短縮するため、基材に与える熱エネルギーを増大させる必要がある。これにより、装置の筐体内で発生する熱量が増大するため、筐体内の温度上昇に対応する必要がある。また、装置の小型化を図る際においても同様に、筐体内の温度上昇への対応を考える必要がある。
【0005】
特に、ユーザー(オペレーター)が触れる可能性のある筐体の表面(外面)については、その表面温度を規定値以下に抑えることが必要である。このような観点に関しては引用文献1、2では言及されておらず、この意味において、上記従来技術には改善の余地が残されている。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、基材に付着させたインクを加熱して乾燥させる印刷装置において、ユーザーが触れる可能性のある筐体表面の温度上昇を効果的に抑制することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る印刷装置の一の態様は、基材を搬送する搬送部と、搬送される前記基材にインクを付着させて印刷を行う印刷部と、前記基材に付着した前記インクを加熱して乾燥させる乾燥部と、前記搬送部、前記印刷部および前記乾燥部の周囲を覆ってこれらを一体的に内部空間に収容する筐体とを備えている。ここで、前記筐体の側面のうちの一部が、前記筐体の外面をなす外板と、前記外板よりも前記内部空間側に設けられた内板とが所定の間隙を隔てて対向配置された二重構造となっており、前記外板と前記内板との間の間隙空間は実質的に前記内部空間と隔離され、前記間隙空間の下端部が前記筐体の外側の外部空間と連通し、前記間隙空間の上端部が前記外部空間または前記内部空間と連通する。
【0008】
このように構成された発明では、筐体側部の一面が外板と内板との二重構造となっており、しかも、それらの間の間隙空間が、筐体の内部空間と実質的に隔離されるとともに、下端部で外部空間と連通する一方で上端部が外部空間または筐体内の内部空間と連通している。このため、筐体内に発熱体である乾燥部が収容された状態では、その輻射熱によって内板が加熱され昇温する。その一方で、内板が昇温することによって間隙空間では上昇気流が発生し、これにより間隙空間の下端部からより低温の外気が取り込まれる。つまり、間隙空間には外気温に近い温度の空気による上向きの気流が形成され、結果として外板の温度上昇が抑制される。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明では、筐体の側面のうちの一部を外板と内板との二重構造とし、外板と内板との間の間隙空間に、上下方向に空気が流れる流路が形成される。筐体内に設けられた内板が熱せられることで間隙空間に上昇気流が発生し、しかも間隙空間の下端部から外気が取り込まれることで、外板については温度上昇を抑制することができる。その結果、筐体のうちユーザーが触れる可能性のある表面について、その表面温度を規定値以下に抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】この発明に係る印刷装置の一実施形態の概略構成を模式的に示す図である。
【
図3】印刷装置本体を上方から俯瞰した斜視図である。
【
図4】扉の内部構造の2つの事例を示す断面図である。
【
図6】スペーサーの取り付け構造を例示する図である。
【
図7】乾燥機構と内板との寸法関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1はこの発明に係る印刷装置の一実施形態の概略構成を模式的に示す図である。なお、この印刷装置1の主要構成およびその動作は、特許文献2に記載された印刷装置と基本的に同じである。そこで、装置各部の詳しい構造については特許文献2を参照することとして、ここではその構成を簡単に説明する。
【0012】
以下の各図において方向を統一的に示すために、
図1に示すようにXYZ直交座標軸を設定する。ここで、XY平面が水平面を表し、Z方向が鉛直方向を表す。より詳しくは、(-Z)方向が鉛直下向き方向を表す。
図1は印刷装置1の正面図であり、紙面手前側、すなわち(-Y)側が印刷装置1の正面に相当する。
【0013】
印刷装置1は、給紙部3、印刷装置本体5および排紙部7を備えている。給紙部3は、連続紙(連帳紙)WPのロールを水平軸周りに回転可能に保持する。給紙部3は、連続紙WPのロールから印刷装置本体5に連続紙WPを供給する。印刷装置本体5は、長尺の連続紙WPに対して印刷を行う。そして、排紙部7は、印刷装置本体5で印刷された連続紙WPを水平軸周りに巻き取る。排紙部7は、連続紙WPを巻き取るための電動モーターを備える。連続紙WPの供給側を上流とし、連続紙WPの排紙側を下流とすると、給紙部3は、印刷装置本体5の上流に配置される。
【0014】
印刷装置本体5は、2つの駆動ローラー9,11、複数の搬送ローラー13およびニップローラー15を備えている。駆動ローラー9は、印刷装置本体5の入口側、つまり印刷装置本体5内での連続紙WPの搬送経路における最上流側に配置される。駆動ローラー11は、印刷装置本体5の出口側、つまり印刷装置本体5内での連続紙WPの搬送経路における最下流側に配置される。2つの駆動ローラー9,11は各々、回転可能に支持され、電動モーターで駆動される。駆動ローラー9は、給紙部3からの連続紙WPを取り込む。駆動ローラー11は、排紙部7に連続紙WPを送り出す。2つの駆動ローラー9,11は各々、連続紙WPに搬送のための動力を与える。複数の搬送ローラー13は、回転可能に支持され、連続紙WPを案内する。複数の搬送ローラー13は、駆動ローラー11のように電動モーターを備えず、連続紙WPの搬送のための動力を与えない。
【0015】
また、印刷装置本体5は、上流側から順番に、印刷部19、乾燥機構21、冷却部23および検査部25を備えている。
【0016】
印刷部19は、搬送される連続紙WPの印刷面FFに対してインク(インク滴)を付着させる。印刷部19は、例えば4つのインクジェットヘッド19A~19Dを備えている。4つのインクジェットヘッド19A~19Dは、例えば、ピエゾ素子方式、サーマル(バブル)方式でインク滴を吐出する。例えばこれらのインクジェットヘッド19A~19Dが互いに異なる色のインクを吐出することで、カラー印刷が可能である。なお、この例では、印刷部19は、4つのインクジェットヘッド19A~19Dを備えているが、これに限定されない。例えば、印刷部19は、1つ、2つまたは6つ等のインクジェットヘッドを備えてもよい。
【0017】
乾燥機構21は、印刷部19から搬出(搬送)された連続紙WPを加熱してインクを乾燥させる。乾燥機構21の詳細な構成は、後述する。冷却部23は、乾燥機構21で加熱された連続紙WPを冷却する。冷却部23は、例えば、冷却水を通すための流路を内蔵した水冷式ローラーを備えている。検査部25は、例えばCCDセンサーまたはCISセンサ(コンタクトイメージセンサ)を備えている。検査部25は、連続紙WPに印刷された画像を検査する。
【0018】
印刷装置1は制御部27を備える。図示を省略するが、制御部27は、中央演算処理装置(CPU)と、記憶部(例えばメモリ)とを備えている。制御部27は、印刷装置1の各構成(例えば印刷部19および乾燥機構21)を制御する。記憶部には、印刷装置1の動作に必要なプログラムが記憶されている。
【0019】
乾燥機構21は、8つの搬送ローラーR1~R8、印刷面接触ローラー31、および複数の搬送ローラー33を備えている。なお、搬送ローラーおよび印刷面接触ローラーは適宜、「ローラー」と呼ぶ。連続紙WPにおいて、印刷面FFは、印刷部19によりインクが付着された面である。裏面BFは、印刷面FFの反対側の面であり、インクが付着していない面である。
【0020】
これらのローラーR1~R8,31,33は、上述の搬送ローラー13と同様に構成されている。具体的には、ローラーR1~R8,31,33は各々、回転可能に支持され、連続紙WPを案内する。搬送ローラーR1~R8,31,33は、駆動ローラー11のように電動モーターを備えず、連続紙WPの搬送のための動力を与えない。
【0021】
8つの搬送ローラーR1~R8は、印刷部19から搬出された連続紙WPの裏面BFに接触して連続紙WPの搬送方向を変える。印刷面接触ローラー31は、8つの搬送ローラーR1~R8の下流側に配置されて、連続紙WPの印刷面FFに接触して連続紙WPの搬送方向を変える。次に説明するように、連続紙WPは、8つの搬送ローラーR1~R8、印刷面接触ローラー31および搬送ローラー33によって渦を巻くように搬送される。
【0022】
まず、印刷部19から搬出された連続紙WPは、ローラー13A、ローラーR1、ローラーR2、ローラーR3の順番で搬送される。これらの搬送ローラー13A,R1~R3は、印刷部19の下流に配置され、また、側面視における印刷部19の(-X)側に配置される。
【0023】
搬送ローラー13Aは、印刷部19のインクジェットヘッド19Dの下流側でかつ、搬送ローラーR3の上流側に配置される。搬送ローラー13Aは、インクジェットヘッド19Dの近くに配置される。搬送ローラー13Aは、連続紙WPの裏面BFに接触する。3つの搬送ローラー13A,R1,R2は各々、連続紙WPの印刷面FFが上方向を向く姿勢になる斜め下方に連続紙WPを案内する。連続紙WPの傾斜角(絶対値)は、搬送ローラーR3に向かうほど大きくなる。
【0024】
連続紙WPが搬送ローラーR3に搬送された後、連続紙WPは、ローラーR4、ローラーR5、ローラーR6、ローラーR7、ローラーR8の順番で搬送される。搬送ローラーR4は、搬送ローラーR3によって方向転換された連続紙WPを、連続紙WPの印刷面FFが下方向を向く姿勢になる斜め下方に方向転換する。搬送ローラーR5は、搬送ローラーR4よりも低い位置に配置される。搬送ローラーR5は、連続紙WPの印刷面FFが下方向を向く姿勢になる斜め上方に連続紙WPを方向転換する。搬送ローラーR6は、搬送ローラーR5よりも高い位置に配置される。また、搬送ローラーR6は、搬送ローラーR4と略同じ高さ位置に配置される。
【0025】
搬送ローラーR6は、2つの搬送ローラーR4,R5によって方向転換された連続紙WPを鉛直上方に方向転換する。搬送ローラーR7は、搬送ローラーR6よりも高い位置に配置される。搬送ローラーR7は、搬送ローラーR3と略同じ高さ位置に配置される。また、搬送ローラーR7は、搬送ローラー13Aと搬送ローラーR3との間で搬送される連続紙WPと搬送ローラーR6との間に配置される。なお、4つの搬送ローラーR3,R4,R6,R7は、連続紙WPの搬送方向TDと直交する幅方向、つまりY方向に見たときに、これらが略長方形の各頂点の位置となるように配置される。
【0026】
搬送ローラーR7は、搬送ローラーR6によって方向転換された連続紙WPを、印刷面FFが上方向を向く姿勢になる斜め下方に方向転換する。搬送ローラーR8は、搬送ローラーR7よりも低い位置に配置される。搬送ローラーR8および印刷面接触ローラー31は、4つの搬送ローラーR3,R4,R6,R7の間に配置される。言い換えると、搬送ローラーR8および印刷面接触ローラー31は、2つの搬送ローラーR3,R7の間で搬送される連続紙WPによって囲まれる位置に配置される。また、略長方形の対角線に連続紙WPを搬送するため、搬送ローラーR8および印刷面接触ローラー31は、搬送ローラーR4の近くに配置される。なお、搬送ローラーR8と印刷面接触ローラー31との間の搬送方向の傾斜角(絶対値)は、2つの搬送ローラーR7,R8の間の搬送方向の傾斜角(絶対値)よりも大きい。
【0027】
印刷面接触ローラー31は、インク付着後に連続紙WPの印刷面FFに最初に接触するローラーである。印刷面接触ローラー31は、インクが乾燥された連続紙WPを折り返すことにより連続紙WPを乾燥機構21の出口に向かう方向に案内する。乾燥機構21の出口への案内は、具体的には、印刷面接触ローラー31だけでなく複数の搬送ローラー33でも行われる。複数の搬送ローラー33は、印刷面接触ローラー31の下流側に配置される。各搬送ローラー33は、2つの搬送ローラー13A,R3の間で搬送される連続紙WPと、搬送ローラーR7と印刷面接触ローラー31との間で搬送される連続紙WPとの隙間CL1を通しながら、印刷面接触ローラー31で折り返された連続紙WPを乾燥機構21の出口に案内する。なお、ローラー13A,R1~R8,31,33の個数は、適宜設定される。
【0028】
また、乾燥機構21は、4つの加熱ユニットH1~H4を備えている。4つの加熱ユニットH1~H4は、搬送ローラー13A,R1~R8および印刷面接触ローラー31によって案内される連続紙WPを加熱する。第4加熱ユニットH4、第1加熱ユニットH1、第2加熱ユニットH2、第3加熱ユニットH3は、この順番で、連続紙WPの搬送経路に沿って配置される。4つの加熱ユニットH1~H4は、連続紙WPを非接触状態で加熱する。
【0029】
第4加熱ユニットH4は、2つの搬送ローラー13A,R3の間(具体的には、2つの搬送ローラーR1,R2の間)で、連続紙WPの印刷面FFに対向配置される。すなわち、第4加熱ユニットH4は、2つの搬送ローラー13A,R3の間で搬送される連続紙WPの印刷面FF側に配置される。第1加熱ユニットH1は、2つの搬送ローラーR3,R4の間で、連続紙WPの印刷面FFに対向配置される。第2加熱ユニットH2は、2つの搬送ローラーR6,R7の間で、連続紙WPの印刷面FFに対向配置される。第3加熱ユニットH3は、搬送ローラーR7と印刷面接触ローラー31との間(具体的には、2つの搬送ローラーR7,R8の間)で、連続紙WPの印刷面FFに対向配置される。
【0030】
また、2つの搬送ローラーR4,R6の間では、連続紙WPは、加熱ユニットによって加熱されることなく搬送される。この理由を説明する。2つの搬送ローラーR4,R6の間では、印刷面FFが下向きになる。そのため、加熱ユニットの前面(加熱側の面)を印刷面FFに向けると、加熱ユニットの前面が上向きになる。これにより、連続紙WPが弛んだ時に、連続紙WPが加熱ユニットの前面に接触して過熱されてしまう。このような連続紙WPの過熱を避けるために、2つの搬送ローラーR4,R6の間では、連続紙WPは、加熱ユニットによって加熱されることなく搬送される。
【0031】
また、例えば、第4加熱ユニットH4は、2つの搬送ローラー13A,R3の間で搬送される連続紙WPの印刷面FFを赤外線(電磁波)で加熱する。ここで、第4加熱ユニットH4による赤外線照射領域(加熱領域)に例えば2つの搬送ローラーR1,R2が入らないように構成される。2つの搬送ローラーR1,R2が加熱し過ぎることを防止する。他の加熱ユニットH1~H3も同様である。
【0032】
上記のように構成された印刷装置1では、給紙部3から繰り出された連続紙WPが印刷装置本体5に供給される。印刷装置本体5では、印刷部19から画像データに応じて連続紙WPの表面FFにインク滴が吐出されて画像が形成され、乾燥機構21によるインクの乾燥、冷却部23による連続紙WPの冷却を経ることで印刷処理が実行される。印刷後の連続紙WPは、最終的に排紙部7によりロール状に巻き取られる。
【0033】
図2は印刷装置本体の側面図であり、より具体的には印刷装置本体5を(+X)側から(-X)方向に見たときの内部構造を模式的に表す図である。また、
図3は印刷装置本体を上方から俯瞰した斜視図である。
図2に示すように、印刷装置1を横方向から見たとき、(-Y)側の面が正面、(+Y)側の面が背面となる。本明細書において、装置の正面または前面とは、装置の起動、停止など通常の操作のためにユーザー(オペレーター)が最も高い頻度で向き合う面を意味する。例えば、装置の設置場所におけるユーザー通路に面する面、ユーザーが装置にアクセスするための操作パネルが設けられた面、調整作業のための開閉扉が設けられた面等が、ここでいう正面に該当する。背面とはこれとは反対の面であり、通常の操作ではユーザーがアクセスする機会の少ない面である。
【0034】
図2および
図3に示すように、印刷装置本体5は、例えば金属製のパネルを箱型に組み合わせた筐体50を有し、印刷部19、乾燥機構21、冷却部23、検査部25等は筐体50の内部空間SPに収容されている。筐体50の正面、すなわち(-Y)側を構成するパネル(以下、「フロントパネル」という)の一部は、開閉自在の扉51,52となっている。通常の印刷動作は扉51,52が閉じられた状態で実行されるが、ユーザーが必要に応じて扉51,52を開くことにより、印刷装置1の主要部である印刷部19、乾燥機構21、冷却部23等が露出した状態となる。
【0035】
これにより、ユーザーはこれらの各部のメンテナンス作業を行うことができる。装置内部へのアクセスを容易にするために、比較的メンテナンス頻度の高い処理ブロックが扉51,52に近い位置に配置される。印刷部19、乾燥機構21、冷却部23等はそのような処理ブロックに該当する。なお、ここではフロントパネルに2枚の扉51,52が設けられているが、扉の枚数やその開き方向についてはこの例に限定されず任意である。
【0036】
また、筐体50のフロントパネルには、ユーザーが装置の状態を確認したり、操作入力を行ったりするための操作部271が取り付けられている。操作部271は、制御部27の構成要素であってその動作のうちユーザーインターフェース機能を担うものである。操作部271を介して操作を行うために、ユーザーは装置のフロントパネルに極めて接近し、あるいは触れることがある。
【0037】
一方、制御部27の主要部(CPU等)と、制御部27および装置各部に電力を供給する電源部とを含む電装ユニット28は、筐体50の内部に設けられている。電装ユニット28に対するメンテナンスの頻度は比較的低いことから、電装ユニット28は筐体50の内部空間SPのうち背面に近い側に設置されている。
【0038】
筐体50内では、乾燥機構21がその原理上、特に大きな熱を発生する。これによる筐体50内の温度上昇を抑制するために、内部空間SP内で乾燥機構21の周囲を覆うように、遮熱カバー20が設けられている。これにより、乾燥機構21の周囲で温められた高温の空気が直接内部空間SPに放出されることが防止される。
【0039】
一方、乾燥機構21の周囲温度はより高くなる。そこで、遮熱カバー20の高温空気を排出するために、メイン排気ユニット60が設けられる。メイン排気ユニット60は、筐体50の上面に取り付けられた排気フード61と、排気フード61に取り付けられたメイン排気ファン62と、筐体50の背面側の外部空間と遮熱カバー20内の空間とを連通させる給気ダクト63と、遮熱カバー20内の空間と排気フード61とを連通させる排気ダクト64とを備えている。
【0040】
制御部27からの制御指令に応じてメイン排気ファン62が作動することで、給気ダクト63から取り込まれた比較的低温の外気が遮熱カバー20内部に供給されるとともに、遮熱カバー20内の高温空気が排気ダクト64および排気フード61を介して筐体50の外部へ排出される。
図2において実線の太い矢印は、メイン排気ユニット60の作動に伴って生じる空気の流れを示している。
【0041】
このような排気は高温でしかもインクから放出される有機溶剤等を含み得るため、外部のダクトD等を介して適宜の浄化装置へ送出されることが望ましい。これにより、有機溶剤等の化学物質が室内や外部の大気中に放出されることが防止される。
【0042】
メイン排気ユニット60により、乾燥機構21で発生する熱の大部分を筐体50の外部へ排出される。ただし、内部が高温となる遮熱カバー20から内部空間SPへ輻射により放出される熱も少なくなく、また筐体50内の他の電装部品も発熱する。このような熱による温度上昇を抑制するために、筐体50の各部には吸気ファン53および排気ファン54が適宜配置される。
【0043】
吸気ファン53は、外部空間から筐体50の内部空間SPに空気を送り込む。一方、排気ファン54は、筐体50の内部空間SPの空気を外部空間へ排出する。冷却効率の観点から、吸気ファン53は比較的低い位置に、排気ファン54は比較的高い位置に設けられることが望ましい。さらに排気がユーザーに向かって吹き付けられることを防止するとの観点から、例えば吸気ファン53は筐体50の背面に、排気ファン54は筐体50の上面に配置される。
図2において破線矢印は、吸気ファン53および排気ファン54の作動に伴って生じる空気の流れを示している。
【0044】
筐体50の背面に設けられた給気ファン53が取り込んだ外気により内部空間SPを効率よく冷却するために、排気ファン54は、筐体50の上面のうち正面側、つまり(-Y)側に寄った位置に集中的に配置されることが望ましい。もちろん、局所的に発生する熱を速やかに排出するために、熱の発生源の近くに排気ファン54を配置することは合理的である。
【0045】
吸気ファン53の吸気量(複数設けられる場合にはそれらの吸気量の合計)に対し、排気ファン54の排気量(複数設けられる場合にはそれらの排気量の合計)の方が大きいことが好ましい。こうすることで、外部空間に対して内部空間SPが負圧となり、例えば筐体50の隙間等の開口から外気を取り込んで冷却効率を高めることができる。なお、
図2、
図3における吸気ファン53および排気ファン54の配設数および位置は単なる例示であり、これに限定されるものではない。
【0046】
前記したように、筐体50正面の扉51,52は、例えば筐体50内の各処理ブロックのメンテナンスを目的として開かれる。例えば印刷部19、乾燥機構21の調整や、搬送経路における紙詰まりの解消等の作業がこれに該当する。メンテナンス性向上のため、印刷部19、乾燥機構21等は扉51,52に近い位置に配置されることとなる。
【0047】
このため、乾燥機構21を覆う遮熱カバー20からの輻射熱により、扉51,52が加熱される。扉51,52はユーザーがアクセスする装置の正面に設けられているから、その表面温度はユーザーが触っても支障のない規定温度(例えば60℃)以下に保たれている必要がある。しかしながら、乾燥機構21からの発熱量がさらに大きくなったり、例えば装置の小型化により遮熱カバー20と扉51,52との距離が小さくなったりすることで、表面温度がこの規定温度を超える場合が生じ得る。
【0048】
この実施形態では、筐体50のフロントパネル、特に扉51,52の表面温度、つまり外部空間に面しユーザーが触れる可能性のある面の温度の上昇を抑制するため、次に説明するように、扉51,52を二重構造としている。なお、扉51と扉52との間では開き方向が異なるものの基本的な構造は同じであるため、ここでは扉51を例に取って説明する。
【0049】
図4は扉の内部構造の2つの事例を示す断面図である。まず
図4(a)の事例について説明する。筐体50は乾燥機構21(遮熱カバー20)を内部に収容し、そのメンテナンスのために(-Y)側側面は大きく開口している。この開口を閉塞するように扉51が設けられる。扉51は、外部空間に面しフロントパネルの一部を構成する外板511と、内部空間SPに面して設けられ、外板511と対向配置された内板515と、外板511と内板515との間のギャップを規定するスペーサー514とを備えている。
【0050】
外板511と内板515との間の間隙空間GSは、内板515により、上端部を除いて内部空間SPとは実質的に隔離されている。ここで、「実質的に」隔離されるとは、2つの空間が完全に隔絶されている場合と、厳密な意味では2つの空間は連通しているものの連通部分を介した両空間の間での空気の動きが無視できる程度である場合との両方を含む概念である。
【0051】
内板515の下端部はほぼ外板511の下端部と同じ位置まで延びている。そして、外板511の下端部には貫通孔512が設けられている。したがって、間隙空間GSは、その下端部近傍において、内部空間SPとは実質的に隔離されるが外部空間とは貫通孔512を介して連通している。一方、内板515の上端部は外板511の上端部より下方位置に留まっており、内板515の上方には隙間520がある。この隙間520を介して、間隙空間GSは内部空間SPと連通している。内板515の上方に隙間520を設けることに代えて、例えば、外板511の上端部と同程度の位置まで上方に延びる内板の上端部に貫通孔が形成されてもよい。
【0052】
いずれの構造においても、間隙空間GSと内部空間SPとの連通は、乾燥機構21(より厳密には遮熱カバー20)よりも高い位置で行われることが望ましい。こうすることで、搬送機構21からの輻射熱を効率よく外部へ排出することができる。より低い位置で間隙空間GSと内部空間SPとが連通すると、それより上方では間隙空間GSの上昇気流が弱まり、排熱効果が低下するからである。
【0053】
点線矢印で模式的に示す遮熱カバー20からの輻射熱により内板511が加熱されると、間隙空間GS内の空気が温められて上昇気流が発生する。間隙空間GSの下端部は外部空間に連通しているため、上昇気流の発生は外部空間から間隙空間GSへの外気の流入を招来する。したがって、間隙空間GSの下端部から取り込まれた外気は間隙空間GS内で温められながら上昇し、内部空間SPと連通する間隙空間GSの上端部から内部空間SPへ流入する。最終的には、内部空間SP内で温められた空気とともに排気ファン54により外部へ排出される。このときの空気の流れが太線矢印で示されている。
【0054】
このように、外板511と内板515との間に、上昇気流の流路となる間隙空間GSが形成されている。間隙空間GSの下端部で比較的低温の外気が取り込まれ、温められた空気は間隙空間GSの上端部から外部へ排出される。これにより、内板515は輻射熱により高温となったとしても、外板511の温度については比較的低く保つことが可能となっている。つまり、扉51の表面温度を抑制する効果がある。
【0055】
排気ファン54により内部空間SPから排出される空気の量を吸気ファン53により外部から内部空間SPへ導入される空気の量よりも大きくしておくことは、このような間隙空間GSでの上昇気流の発生を促進するという意味でも有効である。また、排気ファン54の少なくとも一部を筐体上面のうち正面に近い側、つまり(-Y)側寄りに配置することで、間隙空間GSからの排気をさらに効率よく行うことができる。
【0056】
この例では外板511の(-Y)側表面に貫通孔512が設けられているが、破線で示すように、外板511または筐体50の下面側に貫通孔を設けて外気を取り込むようにしてもよい。ただし、取り込まれた外気が直接内部空間SPに流れ込まず、間隙空間GSを通過してその上端部から外部へ放出されるようにすることが必要である。すなわち、貫通孔が設けられる間隙空間GSの下端部では、間隙空間GSと内部空間SPとの間が十分に隔離されていることが好ましい。
【0057】
図4(a)の事例では間隙空間GSを上昇した空気が排気ファン54により外部へ排出される。しかしながら、上昇気流自体は内板515が温められることで生じるから、能動的に気流を形成する手段を必須とするものではない。例えば
図4(b)に示すように、外板511の上端部に貫通孔513を設け、間隙空間GSの上端部を外部空間と連通させるようにしてもよい。この場合、上昇気流が貫通孔513を介して外部空間へ放出されることで、外板511の温度上昇が抑制される。
【0058】
この場合には、間隙空間GSの上端部においても、内部空間SPとの実質的な隔離が実現されていることが望ましい。貫通孔513から外気が流入して内部空間SPに流れ込む流路が形成されると、間隙空間GSの下端部からの外気の取り込みがスムーズに行われず、温度抑制効果が減殺されてしまうからである。この事例においても、破線矢印で示すように、扉51の下面から外気が取り込まれてもよい。また、扉51の上面に貫通孔を設けて空気を排出するようにしてもよい。
【0059】
図5は扉の詳細構造を示す図である。
図5(a)は扉51の分解組立図である。上記のような機能を有する扉51は、例えば次に説明する構造により実現することができる。
図5(a)に示すように、外板511は、例えば金属板を折り曲げまたはプレス加工することにより形成される、薄い箱型形状を有している。一方、内板515は例えば金属製の平板であり、外板511の凹部に収まるように、箱型の外板511の開口より少し小さく形成される。特に、
図4(a)に示す構造とする場合には、上下方向における内板515のサイズは、同方向における外板511の開口のサイズより小さく形成される。
【0060】
外板511と内板515とが、スペーサー514を介しボルト等の適宜の結合部材516を用いて結合されることにより、外板511と内板515とが略平行に対向した状態で固定されて扉51が形成される。なお、図に点線で示すように、内板515が複数の板材に分割されてもよい。こうすることで、輻射熱により加熱された際の内板515の変形や歪みを分散させることができる。また、扉51の組み立て、分解作業における作業性も向上させることができる。
【0061】
図5(b)は扉51の水平断面図である。端部を折り曲げて箱型に形成された外板511の開口を外板515が閉塞することで、両者の間に間隙空間GSが形成される。間隙空間GSの大きさ、つまり外板511と内板515との距離G1については、これが大きいほど内板515からの輻射熱による外板511の温度上昇は抑制される。その一方で、距離G1が大きすぎると、間隙空間GSの下端部から上方へ向かう気流が乱れやすく、流速も低下するため、いわゆる煙突効果を得にくくなる。この距離G1については実験的に定めることが可能であり、本願発明者の知見によれば、20ないし40ミリメートル程度が好適である。
【0062】
一方、内板515のX方向両端部における外板511との距離G2については、実質的な隔離状態を実現するために、距離G1より十分小さいことが望ましい。距離G1の設定値にもよるが、例えば1ないし5ミリメートル程度とすることができる。内板515の下端部についても同様である。
【0063】
内板515が高温となっても外板511の温度を低く保つためには、内板515から外板511への熱伝導についても抑える必要がある。
図5(a)に示す構造では、外板511と内板515との間に介在するスペーサー514および結合部材516が内板515の熱を外板511に伝導させる熱橋(ヒートブリッジ)となり得る。この問題を回避するためには、スペーサー514を外板511および内板515よりも熱伝導率の低い材料、例えば樹脂により形成することが考えられる。一方、機械的強度を確保しつつ、熱橋としての作用を抑えるためには、例えば次のような構造としてもよい。
【0064】
図6はスペーサーの取り付け構造を例示する図である。
図6(a)に示す例では、スペーサー514、内板515および固定部材516が、いずれも樹脂製のブッシュ517およびワッシャー518により熱的に相互に絶縁される。こうすることで、例えばスペーサー514、内板515および固定部材516の全てまたは一部については、より機械的強度に優れる金属材料を使用することが可能となる。
【0065】
また、
図6(b)に示すように、例えば溶接等により外板511に固定された金具519をスペーサーとして用いることも可能である。この場合においても、金具519、内板515および固定部材516(この例ではナット)を樹脂製のブッシュ517およびワッシャー518により熱的に相互に絶縁することで、金具519が熱橋として作用して外板511の温度が上昇するのを抑制することができる。
【0066】
図7は乾燥機構と内板との寸法関係を示す図である。この実施形態のように内板515を介在させることで外板511の温度上昇を効果的に抑えるためには、乾燥機構21(厳密には遮熱カバー20)からの輻射熱が直接外板511を昇温させることを防止する必要がある。このためには、
図7に示すように、外板511側、つまり正面側から(+Y)方向に見たときに、内板515が乾燥機構21を、より好ましくは遮熱カバー20の全体を遮蔽する状態となっていることが必要である。
【0067】
扉51,52を二重構造としたことにより、次のような効果が得られた。乾燥機構21と筐体50とのある組み合わせにおいて、扉51,52を単層構造とした、つまり内板515を設けない場合、外板511の表面温度は最大で72℃程度まで上昇した。一方、内板515を設けて扉51を
図4(a)、
図5(a)に示す構造としたとき、外板511の表面温度は50℃以下に抑えることができた。
【0068】
なお、このように表面温度は低くても筐体内は高温になることがあるから、扉を開く作業は、印刷動作を停止させ内部の温度が十分に低下してからでなければ許容されないような構造であることが望ましい。例えば筐体内に設けた温度センサーにより内部温度を検出し、所定温度以下である場合のみロックが解除されるようなロック機構が設けられることが望ましい。
【0069】
以上のように、この実施形態では、印刷装置1の主要構成を収容する筐体50の側面の一部、具体的にはフロントパネルに開閉自在に設けられた扉51が、外板511と内板512とを対向させた二重構造となっている。これにより、外板511と内板512との間に間隙空間GSが形成される。筐体内で発生する熱により加熱されることで、内板512の温度は上昇する。このため、間隙空間GSでは空気が温められて上昇気流が生じる。
【0070】
間隙空間GSは筐体50の内部空間SPとは実質的に隔離され、その下端部は外部空間に連通する一方、上端部で外部空間または内部空間SPと連通する。このため、間隙空間GSでは、下端部から取り込まれた低温の外気が温められつつ上昇し、温められた空気は筐体外へ排出される。これにより、外板511の温度上昇は効果的に抑制される。
【0071】
このように、フロントパネルの一部をなす扉51の外板511に対し内板515を装着することで温度上昇を抑制することが可能であり、例えば排気ファンのように強制的に気流を形成させるための手段を追加する必要はない。また、内板515に機械的強度および大きな熱容量は必要とされないため、比較的薄い板材を用いることが可能である。このため、装置の大型化やコスト上昇を招くことなく、また追加的な電力消費を伴わずに温度抑制効果を得ることができる。
【0072】
また、こうして効果的に温度上昇を抑えることができるため、熱源と筐体との距離を小さくすることも可能である。このことは、装置のフットプリントの小型化、軽量化等に資する。したがって、使用材料を従来よりも削減し環境負荷を軽減することが可能となる。
【0073】
以上説明したように、上記各実施形態においては、印刷媒体である連続紙WPが本発明の「基材」に相当している。また、給紙部3および排紙部7と、搬送経路上に設けられたローラーの各々とが、本発明の「搬送部」として機能している。また、乾燥機構21が本発明の「乾燥部」として機能している。
【0074】
また、上記実施形態では、吸気ファン53および排気ファン54がそれぞれ本発明の「吸気部」および「排気部」として機能する一方、メイン排気ユニット60が本発明の「強制排気部」として機能している。また、上記実施形態の走査部271が、本発明の「ユーザーインターフェース部」に相当している。
【0075】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態では、フロントパネルのうち扉51,52が本発明にいう「二重構造」となっているが、このように開閉自在の扉以外についても二重構造としてもよい。例えばフロントパネルのうち操作部271が設けられた面も、ユーザーが触れる可能性があるため、二重構造として温度上昇を抑制することが望ましい。またその他の側面についても、必要に応じ二重構造とすることで、表面温度の上昇を抑えることが可能である。
【0076】
また、上記実施形態の扉51は、平坦な外板511と内板515とが互いに平行に対向する構造となっているが、これらが平行な平板ではなくてもよい。スムーズな上昇気流の形成を妨げない限りにおいて、例えば外板と内板との間隔が上下方向に次第に変化していてもよく、またこれらが曲面をなしていてもよい。
【0077】
また例えば、外板511の内側に、温度上昇をより抑えるための断熱材が貼り付けられてもよい。なお、内板515については、輻射熱による温度上昇を抑えるという意味では同様に断熱材を併用することも考えられるが、上昇気流を発生させるという目的においては必ずしも有効ではない。
【0078】
また例えば、上記実施形態では、外板511が箱型に形成される一方、内板515は平板である。しかしながら、これとは逆に、平板状の外板と適宜の形状に加工された内板との組み合わせによる二重構造が実現されてもよい。また、外板および内板以外に、複数の部材が組み合わされて間隙空間を形成する構成であってもよい。
【0079】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、この発明に係る印刷装置においては、例えば間隙空間の上端部が乾燥部よりも高い位置で外部空間または内部空間と連通する構成とされてもよい。このような構成によれば、乾燥部からの輻射熱を上昇気流により効率よく排出することができる。
【0080】
また例えば、外板の下端部に設けられた開口を介して、間隙空間が外部空間と連通するように構成されてもよい。このような構成によれば、開口を通して外部空間から取り込まれる低温の外気により、外板の温度上昇を効果的に抑制することができる。
【0081】
また、内部空間に外気を取り入れる吸気部と、内部空間内の空気を外部へ排出する排気部とが筐体に設けられ、間隙空間の上端部が内部空間と連通する構成において、排気部による排気量が吸気部による吸気量よりも大きくなるように構成されてもよい。このような構成によれば、間隙空間内で上昇気流を形成しその上端部から内部空間に放出される空気を効率よく外部へ排出することができる。
【0082】
この場合、例えば、吸気部は筐体の側面のうち二重構造となった面とは反対側の面に設けられた開口から外気を取り入れ、排気部は筐体の上面に設けられた開口から空気を排出するように構成されてもよい。このような構成によれば、筐体内に吸気部から排気部へ向かう空気の流れが形成されて、筐体内を効果的に冷却することが可能である。
【0083】
また例えば、筐体内で乾燥部の周囲を取り囲む遮熱カバーと、遮熱カバー内の空気を筐体の外部へ強制排気する強制排気部とがさらに設けられてもよい。このような構成によれば、大きな熱源である乾燥部の周囲の空気を内部空間を介さずに排気して、高温の空気が筐体内に流れ込むのを防止することができる。
【0084】
また例えば、外板と内板とが、外板および内板よりも熱伝導率の低い材料で形成された部材を介して結合されていてもよい。外板と内板とが熱伝導率の高い材料で接続されていると、その部分を介した熱伝導(熱橋)による外板の温度上昇が生じる。熱伝導率の低い材料を用いることで、その影響を低減することが可能である。
【0085】
また例えば、外板および内板の少なくとも一方が、横方向における端部が他方側に向けて折り曲げられることで間隙空間が内部空間から隔離される構成であってもよい。このような構成によれば、間隙空間から側方への気流の漏れ出しを抑えて、上昇気流による排熱効果を高めることができる。
【0086】
また例えば、外板側から乾燥部側に見た側面視において、内板が乾燥部の全体を遮蔽する構成であってもよい。このような構成によれば、乾燥部からの輻射熱が外板を直接加熱することが回避されるので、外板の温度上昇抑制効果を高めることができる。
【0087】
また、この発明においては、筐体の側面の一部が開閉自在の扉となっており当該扉が二重構造とされてもよい。また、筐体の側面の一部にユーザーインターフェース部が設けられ、該ユーザーインターフェース部が設けられた面が二重構造とされてもよい。このような扉や面は、装置の動作中にユーザーが触れる可能性が特に高い部位である。それらの部位において温度上昇を抑えることは、極めて有意義である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
この発明は、印刷媒体である基材にインクを付着させ、加熱によりインクを乾燥させる印刷装置に好適である。例えば連続紙を基材とする印刷装置おいて、特に有効である。
【符号の説明】
【0089】
1 印刷装置
3 給紙部
5 印刷装置本体
7 排紙部
9,13,15,31,33,R1~R8 搬送部
19 印刷部
20 遮熱カバー
21 乾燥機構(乾燥部)
50 筐体
51,52 扉
53 吸気部
54 排気部
60 メイン排気ユニット(強制排気部)
271 操作部(ユーザーインターフェース部)
511 外板
515 内板
516 固定部材
520 隙間
GS 間隙空間
SP 内部空間
WP 連続紙(基材)