(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000312
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20231225BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099034
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】荻野 雅之
(72)【発明者】
【氏名】岩坂 美咲
(72)【発明者】
【氏名】牧野 洋一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】堀内 陽介
(57)【要約】
【課題】蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドの合成効率を向上させる技術を提供する。
【解決手段】蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドであって、自己ハイブリダイゼーションにより5’側がヘアピン構造を形成し、3’側に相補的な塩基配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドがハイブリダイズすると、5’末端部分に三重鎖構造が形成され、前記三重鎖構造を認識したフラップエンドヌクレアーゼにより切断されて、前記蛍光物質と前記消光物質とが遊離し、励起光の照射により蛍光を発するものであり、前記ヘアピン構造の内部に相補的でない塩基対を含み、前記消光物質が、ヌクレオチド残基の塩基に結合している、一本鎖オリゴヌクレオチド。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドであって、
自己ハイブリダイゼーションにより5’側がヘアピン構造を形成し、3’側に相補的な塩基配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドがハイブリダイズすると、5’末端部分に三重鎖構造が形成され、前記三重鎖構造を認識したフラップエンドヌクレアーゼにより切断されて、前記蛍光物質と前記消光物質とが遊離し、励起光の照射により蛍光を発するものであり、
前記ヘアピン構造の内部に相補的でない塩基対を含み、
前記消光物質が、ヌクレオチド残基の塩基に結合している、一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項2】
前記蛍光物質が、5’末端のヌクレオチド残基に標識されており、
前記消光物質が、前記相補的でない塩基対を構成するヌクレオチド残基のうち、より5’側に位置するヌクレオチド残基に標識されている、請求項1に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項3】
5’末端のヌクレオチド残基の塩基がピリミジン塩基である、請求項1又は2に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項4】
前記蛍光物質よりも3’側に前記消光物質が標識されており、フラップエンドヌクレアーゼにより切断された場合に、前記蛍光物質を含むオリゴヌクレオチド断片が遊離する、請求項1又は2に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項5】
蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドの合成効率を向上させる方法であって、
前記一本鎖オリゴヌクレオチドとして、
蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドであって、自己ハイブリダイゼーションにより5’側がヘアピン構造を形成し、3’側に相補的な塩基配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドがハイブリダイズすると、5’末端部分に三重鎖構造が形成され、前記三重鎖構造を認識したフラップエンドヌクレアーゼにより切断されて、前記蛍光物質と前記消光物質とが遊離し、励起光の照射により蛍光を発するものであり、
前記ヘアピン構造の内部に相補的でない塩基対を含む、一本鎖オリゴヌクレオチドを合成する、方法。
【請求項6】
前記一本鎖オリゴヌクレオチドとして、
前記消光物質が、ヌクレオチド残基の塩基に結合している、一本鎖オリゴヌクレオチドを合成する、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドに関する。
【背景技術】
【0002】
微量な解析対象分子の検出方法として、FRET(Fluorescence resonance energy transfer、蛍光共鳴エネルギー移動)を利用した方法が知られている。
【0003】
例えば、遺伝子診断において、標的核酸を正確かつ迅速に検出、定量する手法が数多く存在する。その中でも、Invasive Cleavage Assay(ICA)は、操作性及び反応安定性が優れている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0004】
ここで、
図1を参照しながらICAについて説明する。
図1は、ICAの一例を説明する模式図である。
図1の例では、標的核酸100中のT(チミン)塩基101の存在を検出する。まず、標的核酸100に相補的なフラッププローブ110及び侵入プローブ120をハイブリダイズさせる。その結果、侵入プローブ120は、標的核酸100の、フラッププローブ110がハイブリダイズする位置に隣接する部位にハイブリダイズする。そして、侵入プローブ120の3’末端の少なくとも1塩基は、フラッププローブ110と標的核酸100がハイブリダイズしている領域141の5’末端の位置に侵入し、第1の三重鎖構造130が形成される。
【0005】
続いて、第1の三重鎖構造130にフラップエンドヌクレアーゼを反応させると、第1の三重鎖構造130のフラップ部位140が切断され、核酸断片140が生成される。続いて、核酸断片140は、核酸断片150にハイブリダイズして第2の三重鎖構造160を形成する。
【0006】
図1の例では、核酸断片150の5’末端には蛍光物質Fが結合されており、核酸断片150の5’末端から数塩基3’側に消光物質Qが結合されている。蛍光物質Fと消光物質Qは空間的近傍に位置する。このため、蛍光物質Fが発する蛍光は、消光物質Qにより消光される。
【0007】
続いて、第2の三重鎖構造160にフラップエンドヌクレアーゼを反応させると、第2の三重鎖構造160のフラップ部位170が切断され、核酸断片170が生成される。その結果、蛍光物質Fが消光物質Qから遊離し、励起光の照射により蛍光を発する。この蛍光を検出することにより、標的核酸100中のT(チミン)塩基101の存在を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Eis P. S. et al, An invasive cleavage assay for direct quantitation of specific RNAs, Nature Biotechnology, 19 (7), 673-676, 2001.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明者らは、蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドを合成する場合に、合成効率が低い場合があることを見出した。本発明は、蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドの合成効率を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の態様を含む。
[1]蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドであって、自己ハイブリダイゼーションにより5’側がヘアピン構造を形成し、3’側に相補的な塩基配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドがハイブリダイズすると、5’末端部分に三重鎖構造が形成され、前記三重鎖構造を認識したフラップエンドヌクレアーゼにより切断されて、前記蛍光物質と前記消光物質とが遊離し、励起光の照射により蛍光を発するものであり、前記ヘアピン構造の内部に相補的でない塩基対を含み、前記消光物質が、ヌクレオチド残基の塩基に結合している、一本鎖オリゴヌクレオチド。
[2]前記蛍光物質が、5’末端のヌクレオチド残基に標識されており、前記消光物質が、前記相補的でない塩基対を構成するヌクレオチド残基のうち、より5’側に位置するヌクレオチド残基に標識されている、請求項1に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
[3]5’末端のヌクレオチド残基の塩基がピリミジン塩基である、[1]又は[2]に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
[4]前記蛍光物質よりも3’側に前記消光物質が標識されており、フラップエンドヌクレアーゼにより切断された場合に、前記蛍光物質を含むオリゴヌクレオチド断片が遊離する、[1]~[3]のいずれかに記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
[5]蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドの合成効率を向上させる方法であって、前記一本鎖オリゴヌクレオチドとして、蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドであって、自己ハイブリダイゼーションにより5’側がヘアピン構造を形成し、3’側に相補的な塩基配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドがハイブリダイズすると、5’末端部分に三重鎖構造が形成され、前記三重鎖構造を認識したフラップエンドヌクレアーゼにより切断されて、前記蛍光物質と前記消光物質とが遊離し、励起光の照射により蛍光を発するものであり、前記ヘアピン構造の内部に相補的でない塩基対を含む、一本鎖オリゴヌクレオチドを合成する、方法。
[6]前記一本鎖オリゴヌクレオチドとして、前記消光物質が、ヌクレオチド残基の塩基に結合している、一本鎖オリゴヌクレオチドを合成する、[5]に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドの合成効率を向上させる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、Invasive Cleavage Assay(ICA)の一例を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[一本鎖オリゴヌクレオチド]
一実施形態において、本発明は、蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドであって、自己ハイブリダイゼーションにより5’側がヘアピン構造を形成し、3’側に相補的な塩基配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドがハイブリダイズすると、5’末端部分に三重鎖構造が形成され、前記三重鎖構造を認識したフラップエンドヌクレアーゼにより切断されて、前記蛍光物質と前記消光物質とが遊離し、励起光の照射により蛍光を発するものであり、前記ヘアピン構造の内部に相補的でない塩基対を含み、前記消光物質が、ヌクレオチド残基の塩基に結合している、一本鎖オリゴヌクレオチドを提供する。
【0015】
本実施形態の一本鎖オリゴヌクレオチドは、ICA用の蛍光基質であり、フラップエンドヌクレアーゼの基質であるということもできる。フラップエンドヌクレアーゼとしては、フラップエンドヌクレアーゼ1(NCBIアクセッション番号:WP_011012561.1、Holliday junction 5’ flap endonuclease(GEN1)(NCBIアクセッション番号:NP_001123481.3)、excision repair protein(NCBIアクセッション番号:AAC37533.1等が挙げられる。
【0016】
ここで、自己ハイブリダイゼーションにより5’側がヘアピン構造を形成し、3’側に相補的な塩基配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドがハイブリダイズすると、5’末端部分に形成される三重鎖構造は、
図1に示す第2の三重鎖構造160に対応する。すなわち、3’側に相補的な塩基配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドは、フラップ部位140に由来する核酸断片140に対応する。
【0017】
実施例において後述するように、ヘアピン構造の内部に相補的でない塩基対を含むことにより、ヘアピン構造の内部に相補的でない塩基対を含まない場合と比較して、蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドの合成効率を格段に向上させることができる。
【0018】
本実施形態の一本鎖オリゴヌクレオチドは、自己相補的な配列を有しているため、合成が進むとループ構造を形成してしまう。そのため、化学合成の伸長の反応点が嵩高くなり、立体的な障害によりヌクレオチドの伸長が阻害されると考えられる。そこで、自己相補的な配列部分(ヘアピン構造の内部)に1~数個のミスマッチ塩基を導入することにより、立体的な障害を緩和し、化学合成の伸長の阻害を抑制できるものと考えられる。その結果、オリゴヌクレオチドの合成効率を向上させることができるものと考えられる。
【0019】
本実施形態の一本鎖オリゴヌクレオチドにおいて、相補的でない塩基対の数は、1~3であってもよく、1又は2であってもよく、1であってもよい。
【0020】
本実施形態の一本鎖オリゴヌクレオチドにおいて、消光物質は、ヌクレオチド残基の塩基に結合している。実施例において後述するように、消光物質がヌクレオチド残基の塩基に結合していることにより、消光物質がヌクレオチド残基の塩基以外の部分に結合している場合と比較して、蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドの合成効率を格段に向上させることができる。発明者らは、消光物質が塩基部分に結合していることにより、立体障害が緩和され、合成効率が向上したものと推測している。
【0021】
本実施形態の一本鎖オリゴヌクレオチドは、20~150塩基程度の長さを有していることが好ましい。また、ヘアピン構造を形成する塩基対の数は5~50個程度であることが好ましい。
【0022】
(蛍光物質)
蛍光物質としては、特に限定されず、例えば、フルオレセイン、ATTO425、ATTO488、Alexa488、ATTO542、Yakima Y、Redmond R、ATTO643、Alexa647、Alexa680、Alexa568、FAM、ATTO633、Cy5、HiLyte Fluor 647、ATTO663等が挙げられる。
【0023】
本実施形態の一本鎖オリゴヌクレオチドは、蛍光物質が5’末端のヌクレオチド残基に標識されており、消光物質が、相補的でない塩基対を構成するヌクレオチド残基のうち、より5’側に位置するヌクレオチド残基に標識されていることが好ましい。
【0024】
実施例において後述するように、このような蛍光基質は、高い合成効率で合成することができる。本明細書において、合成効率が高いとは、収量が多いといいかえることもでき、例えば、1molカラムでホスホロアミダイト法による固相合成を行った場合に、目的の一本鎖オリゴヌクレオチドを90pmol以上合成できることを意味する。
【0025】
(消光物質)
消光物質としては、使用する蛍光物質の蛍光を消光することができるものであれば特に限定されず、例えば、Black Hole Quencher(BHQ)(登録商標)-1、BHQ(登録商標)-2、BHQ(登録商標)-3、Tide Quencher 1(TQ1)、Tide Quencher 2(TQ2)、Tide Quencher 2WS(TQ2WS)、Tide Quencher 3(TQ3)、Tide Quencher 3WS(TQ3WS)、Tide Quencher 4(TQ4)、Tide Quencher 4WS(TQ4WS)、Tide Quencher 5(TQ5)、Tide Quencher 5WS(TQ5WS)、Tide Quencher 6WS(TQ6WS)、Tide Quencher 7WS(TQ7WS)、QSY35、QSY7、QSY9、QSY21、Iowa Black FQ、Iowa Black RQ等が挙げられる。消光物質としては、使用する蛍光物質の蛍光を消光することができるものを選択する。
【0026】
蛍光物質が消光物質の空間的近傍にある場合、蛍光物質からの蛍光は消光物質により消光される。「蛍光を消光する」とは、次のような意味である。消光物質が存在しない場合において、励起光を蛍光物質に対して照射したときの、蛍光物質から発光する蛍光の強度をAとする。また、消光物質が蛍光物質の空間的近傍に存在する場合において、励起光を蛍光物質に対して照射したときの、蛍光物質から発光する蛍光の強度をBとする。ここで、「蛍光を消光する」とは、上記B/Aの値が、40%以下であることを意味する。
【0027】
蛍光物質が消光物質の空間的近傍にある状態における、蛍光物質と消光物質距離との距離は、蛍光物質からの蛍光発光が消光物質により抑制される限り特に限定されず、10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましく、2nm以下であることが更に好ましい。
【0028】
本実施形態の一本鎖オリゴヌクレオチドにおいて、消光物質はヌクレオチド残基の塩基に結合している。ヌクレオチド残基の塩基に結合している消光物質のより具体的な例としては、例えば、下記式(1)に示す消光物質が挙げられる。下記式(1)における消光物質は、BHQ(登録商標)-1である。
【0029】
【0030】
(オリゴヌクレオチド)
本実施形態の蛍光基質を形成する一本鎖オリゴヌクレオチドは、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、天然の核酸であってもよいし、合成された核酸であってもよい。
【0031】
天然の核酸としては、例えば、ゲノムDNA、mRNA、rRNA、hnRNA、miRNA、tRNA等が挙げられる。天然の核酸は、生体から回収されたものであってもよいし、生体と接触した水、有機物等から回収されたものであってもよい。天然の核酸の回収方法としては、フェノール/クロロホルム法等の公知の手法が挙げられる。
【0032】
合成された核酸としては、例えば、合成DNA、合成RNA、cDNA、Bridged Nucleic Acid(BNA)、Locked Nucleic Acid(LNA)等が挙げられる。
【0033】
核酸の合成方法は特に限定されず、固相合成等の公知の化学的合成法、公知の核酸増幅方法、逆転写反応等が挙げられる。核酸増幅方法としては、例えば、PCR法、LAMP法、SMAP法、NASBA法、RCA法等が挙げられる。なかでも、本実施形態の一本鎖オリゴヌクレオチドは、固相合成により合成することが好ましい。
【0034】
固相合成は、固相に結合した、保護基を有するヌクレオチド誘導体又は保護基を有するオリゴヌクレオチド誘導体の保護基を脱離させ、ヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを生成する第1工程と、上記ヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドに保護基を有するヌクレオチド誘導体を結合させる第2工程と、を繰り返すことにより行うことができる。
【0035】
保護基としては、特に限定されず、例えば、ジメトキシトリチル基(DMT)、アセチル基(Ac);ベンゾイル基(Bz);トリチル基(Tr)、モノメトキシトリチル基(MMT)、トリメトキシトリチル基(TMT)等のエーテル系保護基;β-メトキシエトキシメチルエーテル(MEM)、メトキシメチルエーテル基(MOM)、テトラヒドロピラニル基(THP)等のアセタール系保護基;t-ブチルジメチルシリル基(TBS)等のシリルエーテル基等を挙げることができる。これらの保護基は、保護する官能基が水酸基である場合に用いられる。保護する官能基がアミノ基等である場合も、適宜好適な保護基を選択して用いることができる。
【0036】
保護基は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。例えば、ヌクレオチド誘導体を結合させる毎に、異なる化学構造を有する保護基を有するヌクレオチド誘導体を使用してもよい。
【0037】
保護基を有するヌクレオチド誘導体は、一般的な核酸合成法に使用されるものであってよい。核酸合成法としては、一例として、ホスホロアミダイト法を挙げることができ、ヌクレオチド誘導体として、ホスホロアミダイト化されたヌクレオチド誘導体を用いることができる。また、ヌクレオチド誘導体の保護基としては、上述したものを例示することができる。
【0038】
固相としては、例えば、ビーズを用いることができる。固相の材質としては、例えば、シリコン、ガラス、石英、ソーダ石灰ガラス、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0039】
保護基によって保護される官能基としては、リボース又はデオキシリボースの5位の炭素に結合する水酸基を挙げることができるが、これに限定されない。ヌクレオチド誘導体としては、例えば、DMT-dAホスホロアミダイト、DMT-dTホスホロアミダイト、DMT-dGホスホロアミダイト、DMT-dCホスホロアミダイト等を挙げることができるが、これらに限定されない。ヌクレオチド誘導体は、核酸合成用に市販されているものを用いてもよい。また、ヌクレオチド誘導体が由来するヌクレオチドは、RNAであってもよく、BNA(bridged nucleic acids)やPNA(peptide nucleic acid)等の人工核酸であってもよい。
【0040】
ヌクレオチド誘導体として、蛍光物質が結合したヌクレオチド誘導体、又は、消光物質が結合したヌクレオチド誘導体を用いることにより、蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドを合成することができる。
【0041】
上述したように、固相合成は、固相に結合した、保護基を有するヌクレオチド誘導体又は保護基を有するオリゴヌクレオチド誘導体の保護基を脱離させ、ヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを生成する第1工程と、上記ヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドに保護基を有するヌクレオチド誘導体を結合させる第2工程と、を繰り返すことにより行うことができる。
【0042】
保護基を有するヌクレオチド誘導体又は保護基を有するオリゴヌクレオチド誘導体とは、合成途中のオリゴヌクレオチドであって、末端に保護基を有するものをいう。保護基は上述したものと同様のものであり、例えば、酸の作用により脱保護される酸分解性保護基であってよい。
【0043】
第1工程においては、保護基を有するオリゴヌクレオチド誘導体に、例えば酸を作用させることにより保護基を脱離させ、オリゴヌクレオチドの5’末端に水酸基を生成する。例えば、保護基がDMT基である場合、脱離した保護基はDMTカチオンである。
【0044】
第2工程においては、脱保護されたオリゴヌクレオチドに保護基を有するヌクレオチド誘導体が結合され、ヌクレオチド鎖が伸長するとともに、末端に保護基を有するオリゴヌクレオチド誘導体が再度形成される。
【0045】
第2工程は、未反応の官能基をアセチル化等によりキャッピングし、以降のサイクルに関与しないようにする工程や、オリゴヌクレオチドと末端のヌクレオチド誘導体との結合部分を酸化して、3価のリンから5価のリン酸エステルに変換する工程等を更に有していてもよい。第1工程と第2工程を繰り返すことにより、オリゴヌクレオチドを伸長させることができる。
【0046】
本実施形態の一本鎖オリゴヌクレオチドは、5’末端のヌクレオチド残基の近傍に蛍光物質が配置されており、5’末端のヌクレオチド残基の塩基がピリミジン塩基であることが好ましい。プリン塩基には蛍光物質の蛍光を消光する傾向がある。このため、5’末端のヌクレオチド残基の塩基がピリミジン塩基であれば、蛍光物質の蛍光の消光が抑制され、好ましい。
【0047】
[蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドの合成効率を向上させる方法]
一実施形態において、本発明は、蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドの合成効率を向上させる方法であって、前記一本鎖オリゴヌクレオチドとして、所定の構造を有する一本鎖オリゴヌクレオチドを合成する方法を提供する。
【0048】
本実施形態の方法において、一本鎖オリゴヌクレオチドは、自己ハイブリダイゼーションにより5’側がヘアピン構造を形成し、3’側に相補的な塩基配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドがハイブリダイズすると、5’末端部分に三重鎖構造が形成され、前記三重鎖構造を認識したフラップエンドヌクレアーゼにより切断されて、前記蛍光物質と前記消光物質とが遊離し、励起光の照射により蛍光を発するものであり、前記ヘアピン構造の内部に相補的でない塩基対を含み、前記消光物質が、ヌクレオチド残基の塩基に結合している。
【0049】
実施例において後述するように、発明者らは、一本鎖オリゴヌクレオチドとして、上記の構造を有するものを合成することにより、合成効率を向上させることができることを明らかにした。
【0050】
本実施形態の方法において、蛍光物質、消光物質、オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチドの合成方法等については上述したものと同様である。
【0051】
上記の一本鎖オリゴヌクレオチドは、蛍光物質が5’末端のヌクレオチド残基に標識されており、消光物質が、相補的でない塩基対を構成するヌクレオチド残基のうち、より5’側に位置するヌクレオチド残基に標識されていることが好ましい。
【0052】
上記の一本鎖オリゴヌクレオチドは、5’末端のヌクレオチド残基の近傍に蛍光物質が配置されており、5’末端のヌクレオチド残基の塩基がピリミジン塩基であることが好ましい。
【0053】
上記の一本鎖オリゴヌクレオチドは、蛍光物質よりも3’側に消光物質が標識されており、フラップエンドヌクレアーゼにより切断された場合に、蛍光物質を含むオリゴヌクレオチド断片が遊離するものであることが好ましい。
【実施例0054】
[実験例1]
(蛍光基質の検討)
下記表1に示す一本鎖オリゴヌクレオチドをホスホロアミダイト法による固相合成で合成し、その収量を比較した。
【0055】
【0056】
上記表1に示す蛍光基質1(配列番号1)は、ヘアピン構造の内部に相補的でない塩基対を含まない蛍光基質であり、具体的には下記式(2)のような構造を有する。蛍光基質1におけるFはATTO488を表し、QはBHQ(登録商標)-1を表す。下記式(2)に示すように、蛍光基質1は、ヘアピン構造の内部に相補的でない塩基対を含まない。また、蛍光基質1において、消光物質は、ヌクレオチド残基の塩基に結合していた。
【0057】
【0058】
上記表1に示す蛍光基質2(配列番号2)は、ヘアピン構造の内部に相補的でない塩基対を含む蛍光基質であり、具体的には下記式(3)のような構造を有する。蛍光基質2におけるFはATTO488を表し、QはBHQ(登録商標)-1を表す。下記式(3)に示すように、蛍光基質2は、ヘアピン構造の内部に相補的でない塩基対を含む。下記式(3)において、四角で囲んだT(チミン)残基及びG(グアニン)残基は互いに相補的でない。また、蛍光基質2において、消光物質は、ヌクレオチド残基の塩基に結合していた。
【0059】
【0060】
固相合成では1molカラムを使用した。下記表2に、各一本鎖オリゴヌクレオチドの収量を示す。
【0061】
【0062】
その結果、ヘアピン構造の内部に相補的でない塩基対を含み、消光物質が、ヌクレオチド残基の塩基に結合している蛍光基質2は、蛍光基質1と比較して、収量が格段に向上したことが明らかとなった。
100…標的核酸、101…塩基、110…フラッププローブ、120…侵入プローブ、130…第1の三重鎖構造、140,170…フラップ部位(核酸断片)、141…領域、150…核酸断片、151…ミスマッチ部位、160…第2の三重鎖構造、F…蛍光物質、Q…消光物質。